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  • 特開-側突エネルギー吸収構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168241
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】側突エネルギー吸収構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/04 20060101AFI20231116BHJP
   B60R 13/02 20060101ALI20231116BHJP
   B60J 5/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
B60R21/04 320
B60R13/02 B
B60R21/04 330
B60J5/00 A
B60J5/00 501Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061864
(22)【出願日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2022078649
(32)【優先日】2022-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000100366
【氏名又は名称】しげる工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110003340
【氏名又は名称】弁理士法人湧泉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 賢治
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 峻也
【テーマコード(参考)】
3D023
【Fターム(参考)】
3D023BA07
3D023BB08
3D023BB22
3D023BC01
3D023BD03
3D023BE03
(57)【要約】
【課題】良好な側突エネルギー吸収性能を発揮しつつドアトリムの割れを回避できる側突エネルギー吸収構造を提供する。
【解決手段】
側突エネルギー吸収構造2は、ドアトリム1と別体をなす樹脂成形品からなるエネルギー吸収体10を備えている。エネルギー吸収体10は、車幅方向外側に突出する変形予定部110と、この変形予定部110の前記ドアトリム側の端部に形成された複数の取付鍔部121,122,123とを有している。これら取付鍔部121,122,123の穴121a,122a,125にドアトリム1のボス部6,7,8が挿入固定されている。取付鍔部123の穴125は長穴からなる。長穴125はボス部8から変形予定部110に近づくように延びている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアトリムと別体をなす樹脂成形品からなるエネルギー吸収体を備え、
前記エネルギー吸収体は、車幅方向外側に突出する変形予定部と、この変形予定部の前記ドアトリム側の端部に形成され前記ドアトリムに沿って延びる複数の取付鍔部とを有し、前記複数の取付鍔部を介して、前記エネルギー吸収体が前記ドアトリムに取り付けられ、
前記複数の取付鍔部のうちの少なくとも1つの取付鍔部には長穴が形成され、
前記ドアトリムから車幅方向外側に突出するボス部が、前記長穴に挿入されていることを特徴とする側突エネルギー吸収構造。
【請求項2】
前記長穴は、前記ボス部が挿入される部分から前記変形予定部に近づく方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載の側突エネルギー吸収構造。
【請求項3】
前記長穴における前記ボス部が挿入される部分と前記変形予定部の中心とを結ぶ直線に対して、前記長穴の延び方向が鋭角をなすことを特徴とする請求項1に記載の側突エネルギー吸収構造。
【請求項4】
前記少なくとも1つの取付鍔部が前記ボス部に固定され、自動車の側突の衝撃により前記変形予定部が変形する時に、前記少なくとも1つの鍔部と前記ボス部の固定が解除されることを特徴とする請求項1に記載の側突エネルギー吸収構造。
【請求項5】
前記長穴は、前記ボス部と同径の円形の第1穴部と、前記第1穴部から離れて形成され前記第1穴部以上の面積を有する第2穴部と、前記第1、第2穴部を連ね前記第1穴部の径より狭い幅を有する連通部と、を含み、
前記ボス部が前記第1穴部に挿入されていることを特徴とする請求項1に記載の側突エネルギー吸収構造。
【請求項6】
前記複数の取付鍔部のうちの他の取付鍔部には、円形の穴が形成され、前記円形の穴には、前記ドアトリムから車幅方向外側に突出し前記円形の穴と同径の他のボス部が挿入され、前記他のボス部が前記他の取付鍔部に固定されていることを特徴とする請求項1の側突エネルギー吸収構造。
【請求項7】
前記変形予定部がカップ形状をなし、全周を囲う周壁と、この周壁の車幅方向外側の端を塞ぐ頂壁とを有し、前記複数の取付鍔部が前記周壁の前記ドアトリム側の端部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の側突エネルギー吸収構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のドアトリムに設けられ側突時のエネルギーを吸収して乗員の安全を担保する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のドアトリムには、車両側突時に乗員を守るため、座屈変形する側突エネルギー吸収構造が設けられている。一般的な側突エネルギー吸収構造は、特許文献1の図3に示すように、ドアトリムと一体に成形されたエネルギー吸収体を備えているか、または特許文献1の図4に示すように、ドアトリムと別体をなす樹脂成形品からなりドアトリムにビスや溶着等により固定されたエネルギー吸収体を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-11539号公報(図3図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の図3図4に示す側突エネルギー吸収構造では、側突時にエネルギー吸収体が座屈変形する過程で、ドアトリムに加わる車幅方向の荷重の急激な上昇を抑制できず、ドアトリムに割れ等の破損を招く可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、側突エネルギー吸収構造は、ドアトリムと別体をなす樹脂成形品からなるエネルギー吸収体を備え、前記エネルギー吸収体は、車幅方向外側に突出する変形予定部と、この変形予定部の前記ドアトリム側の端部に形成され前記ドアトリムに沿って延びる複数の取付鍔部とを有し、前記複数の取付鍔部を介して、前記エネルギー吸収体が前記ドアトリムに取り付けられ、前記複数の取付鍔部のうちの少なくとも1つの取付鍔部には長穴が形成され、前記ドアトリムから車幅方向外側に突出するボス部が、前記長穴に挿入されていることを特徴とする。
上述の構成によれば、側突時にエネルギー吸収体の変形予定部が座屈変形する過程のある段階で、長穴を有する取付鍔部が長穴の延び方向に移動し、変形予定部が車幅方向の荷重の一部をドアトリムに沿って逃がしながら変形するため、車幅方向の荷重の急激な上昇を抑制することができ、ドアトリムの破損を回避することができる。
【0006】
一態様では、前記長穴は、前記ボス部が挿入される部分から前記変形予定部に近づく方向に延びている。
一態様では、前記長穴における前記ボス部が挿入される部分と前記変形予定部の中心とを結ぶ直線に対して、前記長穴の延び方向が鋭角をなす。
一態様では、前記少なくとも1つの取付鍔部が前記ボス部に固定され、自動車の側突の衝撃により前記変形予定部が変形する時に、前記少なくとも1つの鍔部と前記ボス部の固定が解除される。
【0007】
好ましくは、前記長穴は、前記ボス部と同径の円形の第1穴部と、前記第1穴部から離れて形成され前記第1穴部以上の面積を有する第2穴部と、前記第1、第2穴部を連ね前記第1穴部の径より狭い幅を有する連通部と、を含み、前記ボス部が前記第1穴部に挿入されている。この構成によれば、ボス部を第1穴部に挿入することにより、長穴を有する取付鍔部を正確な位置に取り付けることができる。
【0008】
好ましくは、前記複数の取付鍔部のうちの他の取付鍔部には、円形の穴が形成され、前記円形の穴には、前記ドアトリムから車幅方向外側に突出し前記円形の穴と同径の他のボス部が挿入され、前記他のボス部が前記他の取付鍔部に固定されている。この構成によれば、長穴を有する取付鍔部と円形の穴を有する取付鍔部の数を調整することにより、側突エネルギー吸収効果と荷重抑制効果を最適化することができる。
【0009】
好ましくは、前記変形予定部がカップ形状をなし、全周を囲う周壁と、この周壁の車幅方向外側の端を塞ぐ頂壁とを有し、前記複数の取付鍔部が前記周壁の前記ドアトリム側の端部に形成されている。この構成によれば、変形予定部の形状を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の側突エネルギー吸収構造によれば、側突時に十分な側突エネルギー吸収機能を発揮しつつ、ドアトリムに加わる荷重の急激な上昇を抑制することによりドアトリムの破損を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る側突エネルギー吸収構造を備えた自動車用ドアトリムを、車幅方向外側から見た側面図である。
図2】同側突エネルギー吸収構造の拡大側面図である。
図3図2のIII方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る側突エネルギー吸収構造について図面を参照しながら説明する。図1に示すようにドアは、複数の樹脂成形品からなるドアトリム1と、その車幅方向外側のドアパネル(図示しない)と、乗員の腰部に対応する箇所においてドアトリム1とドアパネルとの間に配置された側突エネルギー吸収構造2と、を備えている。
【0013】
<側突エネルギー吸収構造の構成>
図2図3に示すように、側突エネルギー吸収構造2は、ドアトリム1とは別体の樹脂成形品からなるエネルギー吸収体10を備えている。エネルギー吸収体10は、変形予定部110と鍔120とを有している。変形予定部110は、例えばカップ形状をなして車幅方向外側に突出しており、全周を囲む周壁111と、この周壁111の車幅方向外側の端を塞ぐ頂壁112と、内部空間113を有している。鍔120は、周壁111の車幅方向内側の端縁に全周にわたって一体に形成されており、ドアトリム1に沿って変形予定部110の外側に張り出している。
【0014】
鍔120には、変形予定部110から離れる方向に延びる3つ(複数)の延出部を有している。これら延出部はそれぞれ第1取付鍔部121、第2取付鍔部122、第3取付鍔部123として提供される。第1取付鍔部121は変形予定部110の前方かつ上方に配置され、第2取付鍔部122は変形予定部110の下方に配置され、第3取付鍔部123は変形予定部110の後方かつ上方に配置されている。
【0015】
第1取付鍔部121と第2取付鍔部122には、それぞれ円形の穴121a、122aが形成されている。第3取付鍔部123には、例えば車両長手方向に延びる長穴125が形成されている。この長穴125は、円形の後側穴部(第1穴部)125aと、前側穴部125b(第2穴部)と、これら穴部125a、125bを連ねる連通部125cと、を有している。前側穴部125bは後側穴部125a以上の面積を有している。連通部125cの幅は後側穴部125aの径より狭い。
【0016】
上述したように長穴125は、後側穴部125aからほぼ平行に前方に延びている。すなわち、長穴125は、図2において矢印Dで示すように、後側穴部125aから変形予定部110に近づくように延びている。本実施形態では、後側穴部125aから変形予定部110の中心Cに向かって延びる直線Lに対して、長穴125の延び方向Dが鋭角をなしている。
【0017】
側突エネルギー吸収構造2はさらに、ドアトリム1と一体に形成された3つ(複数)のボス部6,7,8を備えている。これらボス部6,7,8は、円筒形状をなし、ドアトリム1と略垂直をなして車幅方向外側に突出している。2つのボス部6,7は、それぞれエネルギー吸収体10の第1、第2取付鍔部121,122の円形の穴121a,122aと同径であり、これら穴121a,122aに挿入される。残りの1つのボス部8は第3取付鍔部123の長穴125の後側穴部125aと同径であり、この穴部125aに挿入される。このようにして、エネルギー吸収体10の3つの取付鍔部121,122,123が所定位置に正確に位置決めされる。
【0018】
エネルギー吸収体10は、取付鍔部121,122,123とボス部6,7,8を介してドアトリム1に取り付けられている。ボス部6,7,8は、第1、第2取付鍔部121,122の穴121a,122aおよび第3取付鍔部123の長穴125の後側穴部125aにそれぞれ挿入された状態で、先端部が溶融されて大径部となり、この大径部が取付鍔部121,122、123に溶着される。なお、図2図3では、ボス部6,7,8の先端部が溶融される前の状態を示している。
【0019】
エネルギー吸収体10がドアトリム1に取り付けられた状態で、鍔120はドアトリム1の車幅方向外側の面に接しており、エネルギー吸収体10の頂壁112は、ドアパネル(図示しない)に接近し対向している。
【0020】
<側突エネルギー吸収構造の作用>
車両側突時に、側突エネルギー吸収構造2は、ドアパネルとドアトリム1に挟まれるようにして車幅方向の衝撃荷重(図3において矢印Fで示す)を受け、主としてエネルギー吸収体10の変形予定部110の周壁111の座屈変形により、この側突エネルギーを吸収する。
【0021】
側突エネルギーの吸収過程で、車幅方向の衝突荷重Fが上昇する。このエネルギー吸収過程の後半の段階で、第3取付鍔部123とボス部8の溶着状態が解除される。変形予定部110の変形に伴って発生するドアトリム1に沿う横荷重に比べて、ボス部8と取付鍔部123の溶着強度がはるかに弱いからである。その結果、第3取付鍔部123が後方、すなわち長穴125の延び方向Dと反対の方向に移動する。換言すれば、ボス部8が、第3取付鍔部123に対して、前方すなわち長穴125の延び方向Dに相対移動し、後側穴部125aから連通部125cを通って図2の想像線で示すように前側穴部125bに至る。なお、第1取付鍔部121と第2取付鍔部122は、円形の穴121a,122aにボス部6,7がそれぞれ挿入されているので、移動を禁じられている。
【0022】
上述したように、側突エネルギー吸収過程の後半の段階で第3取付鍔部123がドアトリム1に沿って移動することにより、車幅方向の荷重の一部を逃がすことができるので、ドアトリム1に加わる荷重の急激な上昇を抑制することができ、ドアトリム1に割れ等の破損が生じるのを回避することができる。
【0023】
上述の実施形態では、3つの取付鍔部121~123のうち、2つの鍔部121,122をボス部6,7に対して移動不能とし、1つの鍔部123をボス部8に対して移動可能としたが、長穴125を有する鍔部の数を適宜選択し、これにより、側突エネルギー吸収効果と荷重の抑制効果を最適化することができる。全ての鍔部121,122,123に長穴を形成してもよい。
【0024】
変形予定部110はカップ形状をなし簡単な形状であるので、エネルギー吸収体10の成形コストを低減することができる。また、長穴125を有する鍔部123の移動に伴う変形予定部110の周壁111の変形により、ドアトリム1に加わる荷重を確実に逃がすことができる。
【0025】
本発明は上記実施形態に制約されず、さらに種々の態様が可能である。例えば、エネルギー吸収体の周壁の全周に形成された鍔部の一部が取付鍔部として提供されてもよい。取付鍔部は4つ以上でもよい。取付鍔部は、ドアトリムの外側面から離間した状態でボス部の中間部に固定されていてもよい。ボス部と取付鍔部を溶着する代わりに、ボス部にビスをねじ込み、ビスの頭部とドアトリムとの間で取付鍔部を挟持してもよい。
【0026】
取付鍔部の長穴の延び方向(ボス部が挿入される部分からの延び方向)は、ボス部が挿入される部分から変形予定部の中心に向かう直線と一致してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、自動車のドアトリムの側突エネルギー吸収構造に適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 ドアトリム
2 側突エネルギー吸収構造
6,7,8 ボス部
10 エネルギー吸収体
110 変形予定部
111 周壁
112 頂壁
121、122,123 取付鍔部
121a、122a 円形の穴
125 長穴
125a 後側穴部(第1穴部)
125b 前側穴部(第2穴部)
125c 連通部
図1
図2
図3