(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016826
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】自律走行作業システム及び自律走行作業方法
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20230126BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20230126BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
G05D1/02 H
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180112
(22)【出願日】2022-11-10
(62)【分割の表示】P 2021020291の分割
【原出願日】2017-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 良平
(72)【発明者】
【氏名】平松 敏史
(72)【発明者】
【氏名】北野 恵大
(57)【要約】
【課題】作業機の作業状態と非作業状態とを良好に切換制御する自律走行作業システムを提供する。
【解決手段】この自律走行作業システムは、作業機3によって作業を行う作業車両(トラクタ1)を自律走行経路に沿って自律走行させる自律走行作業システムである。自律走行経路は、作業領域に配置され作業機3による作業が行われる複数の作業路と、作業路同士を繋ぐ接続路と、を含む。作業車両が作業路から接続路に移動するに際しては、自律走行作業システムは、作業車両の位置が作業路から接続路に切り換わった後に、作業機3を作業状態から非作業状態に切り換える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機によって作業を行う作業車両を自律走行経路に沿って自律走行させる自律走行作業システムであって、
前記自律走行経路は、作業領域に配置され前記作業機による作業が行われる複数の作業路と、前記作業路同士を繋ぐ接続路と、を含み、
前記作業車両が前記作業路から前記接続路に移動するに際しては、前記作業車両の位置が前記作業路から前記接続路に切り換わった後に、前記作業機を作業状態から非作業状態に切り換える、
自律走行作業システム。
【請求項2】
前記作業車両の位置が前記作業路から前記接続路に切り換わった後、前記作業車両が前記接続路を所定距離走行すると、前記作業機を前記作業状態から前記非作業状態に切り換える、
請求項1に記載の自律走行作業システム。
【請求項3】
作業機によって作業を行う作業車両を自律走行経路に沿って自律走行させる自律走行作業システムであって、
前記自律走行経路は、作業領域に配置され前記作業機による作業が行われる複数の作業路と、前記作業路同士を繋ぐ接続路と、を含み、
前記作業車両が前記接続路から前記作業路に移動するに際しては、前記作業車両の位置が前記接続路から前記作業路に切り換わる前に、前記作業機を非作業状態から作業状態に切り換える、
自律走行作業システム。
【請求項4】
前記作業車両の位置が、前記接続路のうちの前記作業路に切り換わる地点より所定距離手前の地点に到達すると、前記作業機を前記非作業状態から前記作業状態に切り換える、
請求項3に記載の自律走行作業システム。
【請求項5】
作業機によって作業を行う作業車両を自律走行経路に沿って自律走行させる自律走行作業方法であって、
前記自律走行経路は、作業領域に配置され前記作業機による作業が行われる複数の作業路と、前記作業路同士を繋ぐ接続路と、を含み、
前記作業車両が前記作業路から前記接続路に移動するに際しては、前記作業車両の位置が前記作業路から前記接続路に切り換わった後に、前記作業機を作業状態から非作業状態に切り換える、
自律走行作業方法。
【請求項6】
作業機によって作業を行う作業車両を自律走行経路に沿って自律走行させる自律走行作業方法であって、
前記自律走行経路は、作業領域に配置され前記作業機による作業が行われる複数の作業路と、前記作業路同士を繋ぐ接続路と、を含み、
前記作業車両が前記接続路から前記作業路に移動するに際しては、前記作業車両の位置が前記接続路から前記作業路に切り換わる前に、前記作業機を非作業状態から作業状態に切り換える、
自律走行作業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着された作業機を作業状態と非作業状態との間で切り換えながら走行し、作業を行うことが可能な作業車両を自律走行させる自律走行作業システム及び自律走行作業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の作業車両は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1の農業用作業車両は、方位センサとGPS受信装置とに基づいて車体を自律走行させ、車体に装備される作業機の下げ動作を記憶する作業機昇降位置センサを設け、作業機の目標耕耘開始位置と下げ動作の終了位置を一致させるように構成されている。特許文献1は、この構成により、残耕等の発生のない良好な耕耘作業を容易に可能とさせるとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の構成は、作業機の下げ動作については考慮されているが、作業機の上げ動作については十分に考慮されていない。
【0005】
従って、従来の構成では、ある領域を所定の方向で往復しながら作業機での作業を行う経路が設定されている場合において、作業車両をある方向に走行させる行程と、逆向きに走行させる行程と、の間で、所定の深さで耕耘作業が行われる区間の端部にズレが生じる場合があり、より見栄えの良い仕上がりを実現する観点から改善の余地が残されていた。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、作業車両において、作業機で作業体が実際に作業を行う位置を考慮して、作業体が作業を行う状態と、そうでない状態とを良好に切換制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一の態様に係る自律走行作業システムは、作業機によって作業を行う作業車両を自律走行経路に沿って自律走行させる自律走行作業システムであって、前記自律走行経路は、作業領域に配置され前記作業機による作業が行われる複数の作業路と、前記作業路同士を繋ぐ接続路と、を含み、前記作業車両が前記作業路から前記接続路に移動するに際しては、前記作業車両の位置が前記作業路から前記接続路に切り換わった後に、前記作業機を作業状態から非作業状態に切り換える。
【0008】
他の態様に係る自律走行作業システムは、作業機によって作業を行う作業車両を自律走行経路に沿って自律走行させる自律走行作業システムであって、前記自律走行経路は、作業領域に配置され前記作業機による作業が行われる複数の作業路と、前記作業路同士を繋ぐ接続路と、を含み、前記作業車両が前記接続路から前記作業路に移動するに際しては、前記作業車両の位置が前記接続路から前記作業路に切り換わる前に、前記作業機を非作業状態から作業状態に切り換える。
【0009】
一の態様に係る自律走行作業方法は、作業機によって作業を行う作業車両を自律走行経路に沿って自律走行させる自律走行作業方法であって、前記自律走行経路は、作業領域に配置され前記作業機による作業が行われる複数の作業路と、前記作業路同士を繋ぐ接続路と、を含み、前記作業車両が前記作業路から前記接続路に移動するに際しては、前記作業車両の位置が前記作業路から前記接続路に切り換わった後に、前記作業機を作業状態から非作業状態に切り換える。
【0010】
他の態様に係る自律走行作業方法は、作業機によって作業を行う作業車両を自律走行経路に沿って自律走行させる自律走行作業方法であって、前記自律走行経路は、作業領域に配置され前記作業機による作業が行われる複数の作業路と、前記作業路同士を繋ぐ接続路と、を含み、前記作業車両が前記接続路から前記作業路に移動するに際しては、前記作業車両の位置が前記接続路から前記作業路に切り換わる前に、前記作業機を非作業状態から作業状態に切り換える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るトラクタにおいて、装着された作業機が非作業状態である様子を示す側面図。
【
図3】座席の周囲に配置される各種の操作装置を示す平面図。
【
図4】トラクタの主要な電気的構成を示すブロック図。
【
図5】トラクタが自律走行・自律作業をする場合の自律走行経路の例を示す模式図。
【
図6】
図1の状態から作業機が下降し、作業状態となっている様子を示す側面図。
【
図7】自律走行・自律作業時に作業機を非作業状態から作業状態に切り換える場合の制御タイミングの関係を説明する図。
【
図8】自律走行・自律作業時に作業機を作業状態から非作業状態に切り換える場合の制御タイミングの関係を説明する図。
【
図9】作業機制御部で行われる処理を説明するフローチャート。
【
図10】ユーザがトラクタに搭乗しない状態で自律走行・自律作業を行う場合に使用される無線通信端末を示す図。
【
図11】無線通信端末のディスプレイにおける自律走行監視画面の表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下では、図面の各図において同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明を省略することがある。また、同一の符号に対応する部材等の名称が、簡略的に言い換えられたり、上位概念又は下位概念の名称で言い換えられたりすることがある。
【0013】
本発明は、予め定められた圃場内で1台又は複数台で走行して、圃場内における農作業の全部又は一部を行うことが可能な作業車両に関する。本実施形態では、作業車両としてトラクタを例に説明するが、作業車両としては、トラクタの他、田植機、コンバイン、土木・建設作業装置、除雪車等、乗用型作業機に加え、歩行型作業機も含まれる。本明細書において自律走行とは、トラクタが備える制御部(ECU)によりトラクタが備える走行に関する構成が制御されて、予め定められた経路に沿ってトラクタが走行することを意味し、自律作業とは、トラクタが備える制御部によりトラクタが備える作業に関する構成が制御されて、予め定められた経路に沿ってトラクタが作業を行うことを意味する。これに対して、手動走行・手動作業とは、トラクタが備える各構成がユーザにより操作され、走行・作業が行われることを意味する。
【0014】
以下の説明では、自律走行・自律作業が行われるトラクタを「自律走行トラクタ」と称することがあり、手動走行・手動作業が行われるトラクタを「手動走行トラクタ」と称することがある。自律走行・自律作業には、トラクタにユーザが搭乗して行われる場合と、搭乗しないで行われる場合と、が含まれる。一方、手動走行・手動作業を行う場合、トラクタにユーザが搭乗することになる。
【0015】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るトラクタ1において、装着された作業機3が非作業状態である様子を示す側面図である。
図2は、トラクタ1の平面図である。
図3は、座席13の周囲に配置される各種の操作装置を示す平面図である。
図4は、トラクタ1の主要な電気的構成を示すブロック図である。
【0016】
本発明の一実施形態に係るトラクタ1は、手動走行トラクタとして使用することができるが、自律走行トラクタとしての機能を有しており、ユーザが搭乗した状態で、経路生成システムが生成した自律走行経路(経路)に従って自律走行・自律作業を行うように構成されている。ただし、このトラクタ1は、ユーザが搭乗しない状態で自律走行・自律作業を行うこともできる。初めに、このトラクタ1について、主として
図1及び
図2を参照して説明する。
【0017】
トラクタ1は、圃場内を自律走行する車体部としての走行機体2を備える。走行機体2には、例えば、耕耘機(管理機)、プラウ、施肥機、草刈機、播種機等の種々の作業機を選択して装着することができるが、本実施形態においては、作業機3としてロータリ耕耘機が装着されている。
【0018】
以下、トラクタ1の構成をより詳細に説明する。トラクタ1の走行機体2は、
図1に示すように、その前部が左右1対の前輪7,7で支持され、その後部が左右1対の後輪8,8で支持されている。
【0019】
走行機体2の前部にはボンネット9が配置されている。本実施形態では、このボンネット9内に、トラクタ1の駆動源であるエンジン10等が収容されている。このエンジン10は、例えばディーゼルエンジンにより構成することができるが、これに限るものではなく、例えばガソリンエンジンにより構成してもよい。また、駆動源としてエンジン10に加えて、又は代えて電気モータを採用してもよい。更に、前記燃料タンクはボンネット9の外部に配置されてもよい。
【0020】
ボンネット9の後方には、ユーザが搭乗するためのキャビン11が配置されている。このキャビン11の内部には、ユーザが操向操作するためのステアリングハンドル12と、ユーザが着座可能な座席13と、各種の操作を行うための様々な操作装置と、が主として設けられている。ただし、作業車両は、キャビン11付きのものに限られず、キャビン11を備えない構成であってもよい。
【0021】
上記の操作装置としては、
図3に示すモニタ装置70、スロットルレバー15、リバーサレバー26、主変速レバー(変速操作具)27、速度回転数選択切換スイッチ29、速度回転数設定変更ダイアル(車速設定部)14、ダイアル設定切換スイッチ16、副変速レバー19、PTOスイッチ17、PTO変速レバー18、作業機昇降スイッチ(操作部)28、及び作業機下降速度調整ノブ75等を例として挙げることができる。これらの操作装置は、座席13の近傍、又はステアリングハンドル12の近傍に配置されている。
【0022】
モニタ装置70は、トラクタ1の様々な情報を表示可能に構成されている。また、モニタ装置70にはボタン及びダイアル等の入力部材が備えられており、この入力部材をユーザが操作することにより、トラクタ1に各種の指示を入力することができる。
【0023】
スロットルレバー15は、エンジン10の出力回転数を設定するための操作具である。
【0024】
リバーサレバー26は、トラクタ1の前進、後進、及び停止を切り換えるための操作具である。主変速レバー27は、リバーサレバー26で指示した方向にトラクタ1が走行する速度を無段階で変更するための操作具である。
【0025】
速度回転数選択切換スイッチ29は、手動走行・手動作業を行うトラクタ1が、その車速とエンジン10の回転数の組合せを予め2種類設定している中から選択して走行するモード(以下、設定選択走行モードという。)となっている場合に、当該選択を交互に切り換えるための操作具である。速度回転数設定変更ダイアル14は、前記の設定選択走行モードで選択される2種類の設定のそれぞれに関して、トラクタ1の車速及びエンジン10の回転数の設定値を調整するための操作具である。ダイアル設定切換スイッチ16は、速度回転数設定変更ダイアル14が、トラクタ1の車速の設定値を変更するか、エンジン10の回転数の設定値を変更するか、を切り換えるための操作具である。
【0026】
ただし、速度回転数設定変更ダイアル14及びダイアル設定切換スイッチ16は、ユーザがトラクタ1に搭乗した状態で自律走行・自律作業を行う場合に、後述の作業時及び非作業時における車速及びエンジン数の設定を指示するためにも用いられる。
【0027】
副変速レバー19は、トランスミッション22内の走行副変速ギア機構の変速比を切り換えるための操作具である。
【0028】
PTOスイッチ17は、トランスミッション22の後端から突出した図略のPTO軸(動力伝達軸)への動力の伝達/遮断を切換操作するための操作具である。PTO変速レバー18は、PTO軸の回転速度の変速操作を行うための操作具である。
【0029】
作業機昇降スイッチ28は、走行機体2に装着された作業機3の高さを所定範囲内で昇降操作するための操作具である。作業機下降速度調整ノブ75は、作業機3が下降するときの速度を調整するための操作具である。
【0030】
図3に示すように、座席13には、ユーザが座席に座っていることを検知する着座センサ(検知部)13aが設けられている。この着座センサ13aは、例えば、メンブレンスイッチを利用した構成とすることができる。
【0031】
図1に示すように、走行機体2の下部には、トラクタ1のシャーシ20が設けられている。当該シャーシ20は、機体フレーム21、トランスミッション22、フロントアクスル23、及びリアアクスル24等から構成されている。
【0032】
機体フレーム21は、トラクタ1の前部における支持部材であって、直接、又は防振部材等を介してエンジン10を支持している。トランスミッション22は、エンジン10からの動力を変化させてフロントアクスル23及びリアアクスル24に伝達する。フロントアクスル23は、トランスミッション22から入力された動力を前輪7に伝達するように構成されている。リアアクスル24は、トランスミッション22から入力された動力を後輪8に伝達するように構成されている。
【0033】
図4に示すように、トラクタ1は、走行機体2の動作(前進、後進、停止及び旋回等)、及び作業機3の動作(昇降、駆動及び停止等)を制御するための制御部4を備える。制御部4は、図示しないCPU、ROM、RAM、I/O等を備えて構成されており、CPUは、各種プログラム等をROMから読み出して実行することができる。ROMには、オペレーションプログラムやアプリケーションプログラムや各種データが記憶されている。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、制御部4を、記憶部38、経路生成部(経路生成システム)39、及び自律走行制御部32等として動作させることができる。これと併せて測位アンテナ6等の各種の構成をトラクタに設けることにより、このトラクタに自律走行・自律作業を行わせることが可能となる。
【0034】
制御部4には、トラクタ1が備える各構成(例えば、エンジン10等)を制御するためのコントローラ等がそれぞれ電気的に接続されている。
【0035】
上記のコントローラとして、トラクタ1は少なくとも、図略のエンジンコントローラ、車速コントローラ、操向コントローラ、昇降コントローラ及びPTOコントローラを備える。それぞれのコントローラは、制御部4からの電気信号に応じて、トラクタ1の各構成を制御することができる。
【0036】
エンジンコントローラは、エンジン10の回転数等を制御するものである。エンジンコントローラは、エンジン10に設けられる燃料噴射装置としてのコモンレール装置41と電気的に接続されている。コモンレール装置41は、エンジン10の各気筒に燃料を噴射するものである。この場合、エンジン10の各気筒に対するインジェクタの燃料噴射バルブが開閉制御されることによって、燃料供給ポンプによって燃料タンクからコモンレール装置41に圧送された高圧の燃料が各インジェクタからエンジン10の各気筒に噴射され、各インジェクタから供給される燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)が高精度にコントロールされる。エンジンコントローラは、コモンレール装置41を制御することで、例えばエンジン10への燃料の供給を停止させ、エンジン10の駆動を停止させることができる。
【0037】
車速コントローラは、トラクタ1の車速を制御するものである。具体的には、トランスミッション22には、例えば可動斜板式の油圧式無段変速装置である変速装置42が設けられている。車速コントローラは、変速装置42の斜板の角度を図略のアクチュエータによって変更することで、トランスミッション22の変速比を変更し、所望の車速を実現することができる。
【0038】
操向コントローラは、ステアリングハンドル12の回動角度を制御するものである。具体的には、ステアリングハンドル12の回転軸(ステアリングシャフト)の中途部には、操向アクチュエータ43が設けられている。この構成で、予め定められた経路をトラクタ1が(自律走行トラクタとして)走行する場合、制御部4は、当該経路に沿ってトラクタ1が走行するようにステアリングハンドル12の適切な回動角度を計算し、得られた回動角度となるように操向コントローラに制御信号を送信する。操向コントローラは、制御部4から入力された制御信号に基づいて操向アクチュエータ43を駆動し、ステアリングハンドル12の回動角度を制御する。なお、操向コントローラはステアリングハンドル12の回動角度を調整するものではなくトラクタ1の前輪7の操舵角を調整するものであってもよい。その場合、旋回走行を行ったとしてもステアリングハンドル12は回動しない。
【0039】
昇降コントローラは、作業機3の昇降を制御するものである。具体的には、トラクタ1は、作業機3を走行機体2に連結している3点リンク機構の近傍に、公知の油圧式のリフトシリンダからなる昇降アクチュエータ44を備えている。この構成で、昇降コントローラは、制御部4から入力された制御信号に基づいて図略の電磁弁を開閉することによりリフトシリンダを駆動し、作業機3を適宜に昇降駆動させる。リフトシリンダは単動式とされており、シリンダに作動油を供給することで作業機3を上昇させ、シリンダから作動油を排出することで作業機3が自重で下降するように構成されている。図示しないが、シリンダからの作動油の排出経路には公知の下降速度調整弁が配置されており、この下降速度調整弁の開度をユーザが
図3の作業機下降速度調整ノブ75によって操作することで、作業機3が下降する場合の速度を調整することができる。
【0040】
上記の構成の昇降コントローラにより、作業機3を、作業を行わない非作業高さ、及び、作業を行う作業高さ等の所望の高さで支持することができる。なお、本実施形態において走行機体2に装着されている作業機3はロータリ耕耘機として構成されているので、作業機3による作業は耕耘作業を意味する。
【0041】
PTOコントローラは、前記PTO軸の回転を制御するものである。具体的には、トラクタ1は、PTO軸(動力伝達軸)への動力の伝達/遮断を切り換えるためのPTOクラッチ45を備えている。この構成で、PTOコントローラは、制御部4から入力された制御信号に基づいてPTOクラッチ45を切り換えて、PTO軸を介して作業機3を回転駆動したり停止させたりすることができる。
【0042】
なお、上述した図略の複数のコントローラは、制御部4から入力される信号に基づいてエンジン10等の各部を制御していることから、制御部4が実質的に各部を制御していると把握することができる。
【0043】
上述のような制御部4を備えるトラクタ1は、手動走行トラクタとしての機能を有しており、ユーザがキャビン11内に搭乗して各種操作をすることにより、当該制御部4によりトラクタ1の各部(走行機体2、作業機3等)を制御して、圃場内を走行しながら農作業を行うことができるように構成されている。
【0044】
加えて、本実施形態1のトラクタは、
図4等に示すように、自律走行トラクタとして機能するための各種の構成を備えている。例えば、トラクタ1は、測位システムに基づいて自ら(走行機体2)の位置情報を取得するために必要な測位アンテナ6等を備えている。このような構成により、トラクタ1は、測位システムに基づいて自らの位置情報を取得して圃場上(特定領域内)を自律的に走行することが可能となっている。
【0045】
次に、自律走行・自律作業を可能とするためにトラクタ1が備える構成について説明する。具体的には、本実施形態のトラクタ1は、
図4に示すように、前述の制御部4のほか、測位アンテナ6を備える。
【0046】
測位アンテナ6は、衛星測位システム(GNSS)を構成する測位衛星からの信号を受信するものである。
図1に示すように、測位アンテナ6は、トラクタ1のキャビン11が備えるルーフ5の上面に取り付けられている。測位アンテナ6で受信された測位信号は、
図4に示す位置情報算出部(位置情報取得部)49に入力される。位置情報算出部49は、トラクタ1の走行機体2(厳密には、測位アンテナ6)の位置情報を、例えば緯度・経度情報として算出する。当該位置情報算出部49で取得された位置情報は、制御部4による自律走行に利用される。
【0047】
なお、本実施形態ではGNSS-RTK法を利用した高精度の衛星測位システムが用いられているが、これに限られるものではなく、他の測位システムを用いてもよい。例えば、相対測位方式(DGPS)、又は静止衛星型衛星航法補強システム(SBAS)を使用することが考えられる。
【0048】
更に、トラクタ1は、図示しない慣性計測装置を備える。この慣性計測装置は角速度センサ及び加速度センサを備える公知の構成であり、上記のGNSS測位が電波受信等の事情でできなくなった場合においてもトラクタ1の位置を取得することができるように構成されている。
【0049】
トラクタ1のキャビン11の外側の適宜の位置には、無線通信用アンテナ48が設けられている。この無線通信用アンテナ48は、トラクタ1が有する無線通信部40に対し、電気的に接続されている。無線通信用アンテナ48は、トラクタ1にユーザが搭乗しない状態で自律走行・自律作業を行う場合に、ユーザが有する遠隔操作装置と指示及び情報をやり取りするために用いられる。なお、この遠隔操作装置の詳細は後述する。
【0050】
次に、トラクタ1が自律走行・自律作業を行う場合に走行する経路である自律走行経路について説明する。
図5は、トラクタ1が自律走行・自律作業をする場合の自律走行経路Pの例を示す模式図である。
【0051】
ユーザは、トラクタ1に搭乗した状態でトラクタ1に自律走行・自律作業を行わせたい場合、
図3に示すモニタ装置70を操作し、各種設定を行うことにより、
図5に示すような自律走行経路Pを生成することができる。
【0052】
自律走行経路Pは、予め指定された作業開始位置Sと、作業終了位置Eと、を結ぶように生成される。この自律走行経路Pは、直線又は折れ線状の自律作業路(自律作業が行われる線状の経路)P1と、当該自律作業路P1の端同士を繋ぐU字状の接続路(旋回・切返し操作が行われる円弧状部分を含む旋回路)P2と、を交互に繋いだ構成となっている。
【0053】
図5に示すように、自律走行経路Pを生成するにあたっては、対象となる圃場に、作業機3による作業が行われない非作業領域62として枕地及び非耕作地(サイドマージン)が設定され、この非作業領域62を除いた領域が作業領域61となる。上記の自律作業路(経路)P1,P1,・・・は、この作業領域61に並んで複数配置され、接続路P2,P2,・・・は非作業領域62(枕地)に配置されるように生成される。なお、本実施形態では、非作業領域62と作業領域61とを合わせた領域を特定領域60と呼ぶ場合がある。
【0054】
図5の例では、自律作業路P1,P1,・・・は直線状に生成され、接続路P2,P2,・・・はU字状に生成される。また、それぞれの自律作業路P1,P1,・・・は作業領域61を通過するように配置され、接続路P2は、非作業領域62である枕地において、互いに隣接するP1,P1の端部同士を接続するように配置される。このように作成された自律走行経路Pにおいては、それぞれの接続路P2において180°の方向転換が行われるので、トラクタ1の走行方向は、ある自律作業路P1と、それに隣接する自律作業路P1との間で、互いに逆を向くことになる。
【0055】
上記の自律走行経路Pの情報は、経路生成部39によって生成される代わりに、外部のコンピュータ(後述の無線通信端末81であっても良い。)によって生成されたデータを、通信等の適宜の手段によって制御部4に取り込むこともできる。その後、ユーザがトラクタ1に対して所定の操作をすることにより、制御部4(自律走行制御部32)によりトラクタ1を制御して、当該トラクタ1を自律走行経路Pに沿って自律的に走行させながら、自律作業路P1に沿って作業機3により農作業を行わせることができる。
【0056】
次に、作業機3の昇降に関して
図1及び
図6等を参照して説明する。
図6は、
図1の状態から作業機3が下降し、作業状態となっている様子を示す側面図である。
【0057】
図1に示すように、トラクタ1の走行機体2の後部には作業機3が装着されている。前述したとおり、作業機3にはエンジン10の駆動力の一部が前記PTO軸を介して伝達され、作業機3を駆動して耕耘作業を行うことができる。作業機3の下部には、水平に配置された軸を中心に回転駆動される耕耘爪(作業体)25が複数設けられている。
【0058】
耕耘爪25の回転軸線25cが
図1及び
図2等に示されている。この作業機3を
図6に示す作業高さまで下降させることで、回転する耕耘爪25が土壌に接触し、当該作業高さに対応する所定深さでの圃場の耕耘作業を行うことができる。また、耕耘爪25の回転を停止したり、作業機3を
図1に示す非作業高さまで上昇させたりすることで、耕耘作業を停止させることができる。作業機3の昇降は、ユーザが前記作業機昇降スイッチ28を操作することにより行うことができ、また、作業機制御部34が自動制御することもできる。
【0059】
ここで、本実施形態では、作業機3の「作業状態」とは、作業機3が作業高さにまで下降し、かつ、耕耘爪25が回転している状態を意味する。また、「非作業状態」とは、上記の作業状態以外の状態を意味し、例えば、作業機3が非作業高さにまで上昇し、かつ、耕耘爪25が回転を停止している状態である。
【0060】
そして、本実施形態のトラクタ1は、自律走行・自律作業を行う場合に、作業機3の作業状態と非作業状態とのそれぞれについて、トラクタ1の車速とエンジン10の回転数とを予め設定することができる。この設定は、速度回転数設定変更ダイアル14及びダイアル設定切換スイッチ16により行われる。そして、トラクタ1が自律走行・自律作業を行っているときに作業機3が作業状態と非作業状態との間で切り換わると、それに連動して、トラクタ1の車速とエンジン10の回転数も、上記の設定の間で切り換わるように制御される。
【0061】
なお、作業状態及び非作業状態におけるトラクタ1の車速とエンジン10の回転数の設定は、トラクタ1の停止中だけでなく、トラクタ1が自律走行・自律作業を行っている途中においても、速度回転数設定変更ダイアル14等をユーザが操作することにより変更することができる。
【0062】
次に、
図4を参照して、制御部4について説明する。上述したとおり、制御部4は、記憶部38と、経路生成部39と、自律走行制御部32と、を備える。
【0063】
記憶部38は、トラクタ1を自律走行・自律作業させるために必要な様々な情報を記憶する。なお、この記憶部38が記憶する内容の詳細については後述する。
【0064】
経路生成部39は、記憶部38に記憶された各種の情報に基づいて、トラクタ1が自律走行・自律作業する自律走行経路Pを生成する。経路生成部39により生成された自律走行経路Pの情報は、記憶部38に記憶される。
【0065】
自律走行制御部32は、自律走行・自律作業に関する統括的な制御を行う。この自律走行制御部32は、ユーザが搭乗した状態で自律走行・自律作業を行う有人自律走行モード(第1モード)と、ユーザが搭乗しない状態で自律走行・自律作業を行う無人自律走行モード(第2モード)と、の間で切り換えて、トラクタ1を、記憶部38に記憶された自律走行経路Pに沿って自律走行させることが可能に構成されている。
【0066】
自律走行制御部32は、指令出力部33と、作業機制御部34と、車速制御部35と、操向制御部36と、残存距離取得部(距離取得部)37と、を備える。
【0067】
指令出力部33は、
図5に示す圃場(特定領域60)をトラクタ1が自律走行経路Pに沿って走行する過程で、作業領域61に相当する部分について作業機3による作業を行うために、作業機3を作業状態に制御する作業指令と、作業機3を非作業状態に制御する非作業指令と、を適宜のタイミングで出力する。
【0068】
図4に示す作業機制御部34は、指令出力部33が出力する作業指令又は非作業指令に応じて、作業機3を非作業状態から作業状態に切り換え、又は、作業状態から非作業状態に切り換えるように制御する。具体的には、作業機制御部34は、PTOクラッチ45に信号を送ってPTO軸への動力の伝達/遮断を切換制御し、また、昇降アクチュエータ44に信号を送って作業機3を昇降制御する。
【0069】
車速制御部35は、変速装置42等に制御信号を送ることにより、走行機体2の車速を制御する。車速制御部35は、指令出力部33が出力する作業指令又は非作業指令に応じて、走行機体2の車速を、非作業時の車速から作業時の車速に切り換え、又は、作業時の車速から非作業時の車速に切り換えるように制御する。なお、作業時の車速(第1車速)とは、作業機3が作業状態のときの車速であり、非作業時の車速(第2車速)とは、作業機3が非作業状態のときの車速である。作業時の車速及び非作業時の車速は、上述したとおり、速度回転数設定変更ダイアル14によって設定される。
【0070】
操向制御部36は、操向アクチュエータ43に制御信号を送ることにより、自律走行経路Pに沿って走行機体2が走行するように自動操舵を行う。
【0071】
残存距離取得部37は、作業機3が有する耕耘爪25の回転軸線25cと、後述の切換目標位置との距離を取得し、指令出力部33に出力する。なお、残存距離取得部37についての詳細は後述する。
【0072】
次に、自律走行・自律作業時における作業機3の作業状態/非作業状態の切換タイミングについて説明する。
【0073】
トラクタ1を自律走行させて作業機3による作業を行う場合に作業機3を作業状態又は非作業状態から非作業状態又は作業状態に切り換えるタイミングについては、例えば
図5の自律走行経路Pに沿って走行するトラクタ1が非作業領域62から作業領域61に入るタイミングで、耕耘爪25を回転させるとともに作業機3を作業高さに下降させることが考えられる。また、トラクタ1が作業領域61から非作業領域62へ出るタイミングで、耕耘爪25の回転を停止させるとともに作業機3を作業高さから上昇させることが考えられる。
【0074】
ところで、上述したように、トラクタ1が自律走行する場合は、自機の位置情報を、衛星測位システムを用いて(
図4の位置情報算出部49から)取得する。しかしながら、例えば
図1に示すように、トラクタ1において作業機3の耕耘爪25の位置(回転軸線25cの位置)は、測位アンテナ6が取り付けられる位置より後方に配置されている。従って、測位アンテナ6が作業領域61に出入りするタイミングと、実際に土壌に作用して作業を行う耕耘爪25が作業領域61に出入りするタイミングとの間に、ズレが生じうる。しかも、上述したように、互いに隣接する2つの自律作業路P1,P1の間でトラクタ1が走行する向きが逆になっている。従って、仮に、単純に測位アンテナ6の位置が作業領域61に入ったタイミングで作業機3が耕耘作業を開始し、測位アンテナ6の位置が作業領域61から出たタイミングで耕耘作業を停止させる制御を行うと、作業機3により実際に耕耘作業が行われた領域の端部が、隣接する自律作業路P1,P1の間で揃わなくなる可能性がある。その場合、見栄えが悪く、後の仕上げ工程に手間が掛かってしまっていた。
【0075】
また、測位アンテナ6ではなく、作業機3の後端が作業領域61に出入りするタイミングを基準にして、耕耘作業の開始/停止のタイミングを制御することも考えられる。しかしながら、この場合も、前後長の大きい作業機(例えば、プラウ)を用いる場合は、実際に作業が行われる領域が、隣接する自律作業路P1,P1の間で大きくズレてしまう場合があった。
【0076】
そこで、本実施形態のトラクタ1に備えられる制御部4は、以下のようにして、耕耘作業が行われる耕耘爪25の回転軸線25cの位置を基準にして耕耘作業の開始/停止のタイミングを制御している。この爪軸位置は、耕耘爪25が土壌に実際に作用して耕耘作業を行う機体前後方向の領域を2等分するものであることから、作業機3における作業中心位置であるということができる。
【0077】
まず、記憶部38が記憶する情報について詳細に説明する。
図4に示すように、記憶部38は、作業機距離記憶部(作業機距離取得部)51と、領域記憶部52と、経路記憶部53と、作業マージン距離記憶部54と、車速設定記憶部55と、下降必要時間記憶部(所要時間記憶部)56と、を備える。
【0078】
作業機距離記憶部51は、
図1及び
図2等に示す作業機水平距離L(即ち、耕耘爪25の回転軸線25cの位置から測位アンテナ6の位置までの水平距離)を記憶する。なお、以下の説明では、耕耘爪25の回転軸線25cの位置を爪軸位置と呼び、測位アンテナ6の位置をアンテナ位置と呼ぶことがある。作業機水平距離Lは、トラクタ1の自律走行開始前にユーザによって入力される。具体的には、耕耘爪25の回転軸線25cと測位アンテナ6との距離をユーザが例えばモニタ装置70を用いて入力すると、作業機距離記憶部51が当該距離の値を作業機水平距離Lとして記憶する。
【0079】
ただし、走行機体2に装着可能な作業機と、当該作業機における作業中心位置と、を対応付けて制御部4等に記憶しておき、ユーザが例えばモニタ装置70において作業機の機種名等を選択するだけで作業機水平距離Lを自動的に設定するように構成すると、利便性を高めることができる。
【0080】
図4に示す領域記憶部52は、ユーザによって予め設定された作業領域61の情報(具体的には、作業領域61の位置及び形状等に関する情報)と、残りの領域である非作業領域62の情報と、を記憶する。作業領域61の情報は、例えば、自律走行・自律作業の開始前にユーザがモニタ装置70を適宜操作することで設定することができる。
【0081】
経路記憶部53は、トラクタ1が自律走行・自律作業する経路である自律走行経路Pの情報を記憶する。
【0082】
作業マージン距離記憶部54は、トラクタ1が自律走行・自律作業を行う場合に、作業機3の昇降等に誤差が発生しても作業領域61の端の部分(非作業領域62との境界の近傍)において作業漏れが生じないように、自律作業路P1での作業前及び作業後に接続路P2に沿って非作業領域62について余分に作業を行うマージン距離Mを記憶するものである。
図5に示すように、作業領域61に並べて配置される自律作業路P1のそれぞれについて、その上流側の端部及び下流側の端部(言い換えれば、作業領域61と非作業領域62との境界)から、接続路P2に沿って非作業領域62側にマージン距離Mだけ離れた点が、作業機3を作業状態と非作業状態との間で切り換えるべき点である切換目標位置(基準位置)として設定される。従って、作業マージン距離記憶部54は、切換目標位置を設定する設定部であるということができる。
【0083】
作業マージン距離記憶部54が記憶するマージン距離Mの設定値は、ユーザがトラクタ1の例えばモニタ装置70を操作することで変更することが可能であってよい。また、マージン距離Mは、例えば工場出荷時の設定値から変更不能に構成しても良い。
【0084】
マージン距離Mは、非作業領域62から作業領域61に入る手前で設定される切換目標位置と、作業領域61から非作業領域62に出た後で設定される切換目標位置とで、同一である。更に言えば、切換目標位置は自律走行経路Pに多数設定されるが、当該マージン距離Mは、自律走行経路Pの全体を通じて一定である。従って、例えば
図5のように作業領域61が矩形状に設定された場合において、トラクタ1をある方向に走行させる行程と、逆向きに走行させる行程と、の間で、実際に作業が行われる部分の端を揃えるように制御することができ、良好な見栄えを実現することができる。
【0085】
車速設定記憶部55は、前述の作業時の車速と、非作業時の車速と、について、速度回転数設定変更ダイアル14によって設定された値を記憶する。
【0086】
下降必要時間記憶部56は、非作業高さにある作業機3の下降を開始してから作業高さに到達するまでの時間を記憶する。
【0087】
この構成で、指令出力部33は、作業機制御部34に作業機3を適切なタイミングで昇降制御させるために、位置情報算出部49で算出された測位アンテナ6の位置と、作業機距離記憶部51で記憶されている作業機水平距離Lと、に基づいて爪軸位置を計算する。
【0088】
そして、指令出力部33は、トラクタ1が非作業領域62から作業領域61に入るときは、得られた爪軸位置が、作業領域61に入る前の前記切換目標位置に到達するタイミングで作業機3が作業高さにまで下降し、かつ、耕耘爪25が回転している状態となる(作業機3が前述の作業状態となる)ように、作業機制御部34を介して昇降アクチュエータ44等を制御する。また、指令出力部33は、トラクタ1が作業領域61から非作業領域62に出るときは、得られた爪軸位置が、非作業領域62に出た後の切換目標位置に到達するタイミングで、耕耘爪25の回転が停止し、作業機3が作業高さからの上昇を開始する(作業機3が前述の非作業状態となる)ように、作業機制御部34を介して昇降アクチュエータ44等を制御する。
【0089】
なお、切換目標位置は、領域記憶部52が記憶する作業領域61の情報と、経路記憶部53が記憶する自律走行経路Pの情報と、作業マージン距離記憶部54が記憶するマージン距離Mと、により計算で得ることができる。
【0090】
次に、走行機体2及び作業機3が非作業領域から作業領域へ移動する場合の、自律走行制御部32及び作業機制御部34が行う制御を説明する。
図7は、自律走行・自律作業時に作業機3を非作業状態から作業状態へ切り換える場合の制御タイミングの関係を説明する図である。
【0091】
上述したように、トラクタ1が自律走行・自律作業を行っており、走行機体2及び作業機3が非作業領域62(接続路P2)を走行するとき、
図1に示すように、作業機3は非作業高さ(具体的には、最上げ高さ)まで上昇し、かつ、PTOクラッチ45が切断されているために耕耘爪25が回転しない状態となっている(非作業状態)。また、このとき、作業機制御部34は、上記の非作業高さを維持するモード(リフトアップモード)となっている。従って、耕耘爪25は地面に接触しない状態で静止しており、耕耘作業は行われない。
【0092】
走行機体2が接続路P2に沿った走行をほぼ終え、作業機3が切換目標位置に近づいたタイミングで、
図7(a)に示すように、作業機3の作業状態への切換を指示する制御信号(作業指令)が指令出力部33から作業機制御部34及び車速制御部35に出力される。なお、指令出力部33が作業指令を出力するタイミングの詳細については後述する。
【0093】
作業機制御部34は、作業指令が入力されると、
図7(b)に示すように、PTOの停止を解除する旨を指示する信号をPTOクラッチ45に送信する。ただし、このとき作業機制御部34は、制御の準備時間を確保する等の理由で、作業指令が入力されてから一定時間だけ待機した後にPTO停止解除の指示を送信するように構成されている。この待機時間TW1は、例えば、50~500ミリ秒の間の所定時間とすることが考えられる。PTOクラッチ45は、PTO停止解除の指示を受信すると接続状態となり、これに伴って耕耘爪25が回転を開始する。
【0094】
作業機制御部34は、PTO停止解除の指示と同時に、作業機3を下降させるように制御する。具体的には、図示しない電磁弁を開くことにより昇降アクチュエータ44(リフトシリンダ)の圧油を排出させることで、
図7(d)に示すように作業機3が自重によって下降し始める。既に耕耘爪25は回転を開始しているので、作業機3が下降して作業高さに到達した時点で、作業機3が作業状態になる。非作業高さにあった作業機3が下降して作業高さに到達するには、相応の時間が必要である。作業機3の下降速度は、前述の下降速度調整弁の開度、及び作業機3の重量等によって変化するので、作業機3が下降して作業高さに到達するまでの時間(下降必要時間TR1)は状況に応じて様々である。
【0095】
作業機3の重量は土の付着等により変動するものであり、本実施形態のトラクタ1は作業機3の重量を直接検出するセンサを備えていないため、下降必要時間TR1の推定精度は必ずしも高くない。一方、図示しないが、トラクタ1は、作業機3の支持高さを検出する作業機高さセンサ(例えば、ポテンショメータ)を備えているので、図略のタイマ回路(計測部)を用いて、作業機3の下降を開始してから実際に作業高さに到達するまでの時間を計測することが可能である。そこで、指令出力部33は、作業機3を下降させたときの下降必要時間TR1を実際に測定して下降必要時間記憶部56に記憶しておき、次回に作業機3を下降させたときの下降必要時間TR1の推定に、下降必要時間記憶部56の記憶内容を用いることで、精度の向上を図っている。ただし、例えば新しい作業機3を走行機体2に装着した場合は、下降必要時間が不明であるので、その場合は所定の初期値(初期設定された時間)が下降必要時間記憶部56に記憶され、初回の推定に用いられる。この時間の初期設定は、平均的な下降必要時間を調べる等して適宜行えば良い。いったん下降必要時間TR1が測定されると、下降必要時間記憶部56の記憶内容が初期値から測定値に更新される。その後は、下降必要時間記憶部56の記憶内容は最新の測定値によって随時更新される。
【0096】
一方、車速制御部35は、
図7(f)に示すように、指令出力部33から作業指令が入力されると直ちに、トラクタ1の車速が現在の車速(通常、非作業時の車速の設定値にほぼ一致する。)から作業時の車速の設定値に近づけるように増速/減速を開始する。このように、指令出力部33が作業指令を出力するのとほぼ同時に車速の変更制御が開始されるので、作業機3が作業高さに到達する前の適宜の時点で、トラクタ1の車速は、作業時の車速の設定値と等しくなっている。なお、非作業時の車速から作業時の車速となるまでの過程において車速がどのように変化するかは適宜定めることができ、例えば直線的に変化しても良いし、折れ線的又は曲線的に変化しても良い。
【0097】
ところで、トラクタ1が接続路P2を走行しているときに、切換目標位置に作業機3の爪軸位置が到達するタイミングは、現在の爪軸位置から切換目標位置までの距離(以下、残存距離と呼ぶことがある。)と、走行機体2の車速と、に基づいて推定することができる。上記の残存距離は、残存距離取得部37が、走行機体2(厳密には、測位アンテナ6)の位置情報と、上述の作業機水平距離Lと、切換目標位置と、に基づいて計算することにより得ることができる。
【0098】
また、走行機体2(トラクタ1)の車速は、切換目標位置に作業機3の爪軸位置が到達するまでの間に、トラクタ1の非作業時の車速の設定値から作業時の車速の設定値まで変化する。従って、指令出力部33は、切換目標位置に作業機3の爪軸位置が到達したタイミングで作業機3が作業状態となるように、残存距離と、非作業時の車速の設定値と、非作業時の車速の設定値から作業時の車速の設定値に変化する速度変化率と、前記待機時間TW1と、下降必要時間TR1と、を考慮して、作業指令を出力するタイミングを計算により求める。これにより、仮に非作業時の車速が同じだったとしても、非作業時の車速よりも作業時の車速が大きい場合は作業指令の出力タイミングが早くなり、非作業時の車速よりも作業時の車速が小さい場合は作業指令の出力タイミングが遅くなる。また、例えば、非作業時の車速から作業時の車速まで一定の変化率で増減する場合と、非作業時の車速から初めは大きな変化率で増減し、作業時の車速に近づいてから小さな変化率で増減する場合とで、作業指令の出力タイミングが異なることになる。このようなタイミングで指令出力部33が作業指令を出力することにより、切換目標位置のところから作業機3(耕耘爪25)による作業を開始することができる。また、本実施形態では、作業機3の爪軸位置を基準に制御しているので、意図する深さで耕耘爪25が作用する領域の端と、切換目標位置と、を精度良く一致させることができる。従って、作業の見栄えが良好になる。
【0099】
また、切換目標位置は、接続路P2を走行するトラクタ1から見たときに、非作業領域62と作業領域61の間の境界から少し手前側に位置するように設定される。このマージンにより、作業機3の下降タイミング等が遅れた場合でも、作業領域61で未作業部分が発生するのを防止することができる。
【0100】
作業機3が作業高さにまで到達すると、
図7(c)に示すように作業機制御部34はリフトアップモードからオートロータリモードに切り換わって、当該作業高さを維持するための制御を行う。その後、作業機3の爪軸位置は作業領域61に入る。トラクタ1は、作業機3の耕耘爪25により作業を行わせながら、作業時の車速として設定された速度で、自律作業路P1に沿って作業領域61を走行する。
【0101】
次に、上記とは逆に、走行機体2及び作業機3が作業領域61から非作業領域62へ移動する場合の制御を説明する。
図8は、自律走行・自律作業時に作業機3を作業状態から非作業状態へ切り換える場合の制御タイミングの関係を説明する図である。
【0102】
トラクタ1が自律走行・自律作業を行っており、走行機体2及び作業機3が作業領域61(自律作業路P1)を走行するとき、作業機3は作業高さで作業を行っており、かつ、PTOクラッチが接続されているために耕耘爪25が回転する状態となっている(作業状態)。また、このとき、作業機制御部34は、上記の作業高さを維持する制御を行うモード(オートロータリモード)となっている。これにより、回転する耕耘爪25により、作業高さに対応する深さでの耕耘作業が行われる。
【0103】
走行機体2が自律作業路P1に沿った走行を終え、作業機3が切換目標位置に近づいた適宜のタイミングで、
図8(a)に示すように、作業機3の非作業状態への切換を指示する制御信号(非作業指令)が指令出力部33から作業機制御部34及び車速制御部35に出力される。なお、非作業指令が送信されるタイミングの詳細については後述する。
【0104】
作業機制御部34は、非作業指令が入力されると、
図8(b)に示すように、PTOを停止させる旨を指示する信号をPTOクラッチ45に送信する。ただし、前述の作業指令が入力された場合と同様に、作業機制御部34は、非作業指令が入力されてから所定時間だけ待機した後にPTO停止の指示を送信するように構成されている。この待機時間TW2は、例えば、50~500ミリ秒の間の一定時間とすることが考えられる。また、非作業指令の場合の待機時間TW2は、前記の作業指令の場合の待機時間TW1と同一であっても良いし、異なっても良いが、待機時間TW1が待機時間TW2よりも長い時間であることが望ましい。PTOクラッチ45は、PTO停止の指示を受信すると切断状態となり、少しして、耕耘爪25の回転が停止する。
【0105】
作業機制御部34は、PTO停止の指示をPTOクラッチ45に送信するのと同時に、
図8(c)に示すようにオートロータリモードからリフトアップモードに切り換わる。また、作業機制御部34は、PTO停止の指示から後述の遅延時間TDだけ待機した後、油圧シリンダに作動油を供給して作業機3を上昇させるように制御する。
【0106】
この遅延時間TDは、作業機3の上昇に伴う土の盛り上がりを防止するためのものである。即ち、仮に耕耘爪25の回転を停止させるのと同時に作業機3を上昇させ始めると、停止した耕耘爪25が土を持ち上げることにより、土壌の土が局所的に盛り上がってしまう。そこで、本実施形態では、耕耘爪25の回転を停止させた後も作業機3を直ちに上昇させないでおくことで、そのような土の盛り上がりが形成されないようにして、見栄えの向上を図っている。
【0107】
この遅延時間TDが経過した後、作業機3が上昇を開始する。従って、この時点で作業機3が非作業状態になる。作業機3が作業高さから上昇して非作業高さに到達するには相応の時間が必要であるが、油圧シリンダへの作動油の供給速度は一定であるため、作業機3の上昇速度は、下降する場合と異なり一定である。従って、作業機3が上昇して非作業高さに到達するまでの時間(上昇必要時間TR2)は、一定の値となる。
【0108】
一方、車速制御部35は、
図8(f)に示すように、指令出力部33から非作業指令が入力された時点では車速の切換は行わない。車速制御部35は、作業機制御部34がPTO停止の指示をPTOクラッチ45に送信してから所定時間TCだけ経過したタイミングで、トラクタ1の車速が現在の車速(通常、作業時の車速の設定値にほぼ一致する。)から非作業時の車速の設定値に近づけるように増速/減速を開始する。この所定時間TCは、遅延時間TDより長い時間となっている。なお、作業時の車速から非作業時の車速となるまでの過程において車速がどのように変化するかは適宜定めることができ、例えば直線的に変化しても良いし、折れ線的又は曲線的に変化しても良い。
【0109】
ところで、上述したとおり、切換目標位置に作業機3の爪軸位置が到達するタイミングは、現在の爪軸位置から切換目標位置までの距離(上述の残存距離)と、走行機体2の車速と、に基づいて推定することができる。
【0110】
また、走行機体2(トラクタ1)の車速は、切換目標位置に作業機3の爪軸位置が到達するまでの間、トラクタ1の作業時の車速の設定値と等しい値であり、ほぼ一定である。従って、指令出力部33は、切換目標位置に作業機3の爪軸位置が到達したタイミングで作業機3が作業状態から非作業状態になるように、残存距離と、作業時の車速の設定値と、前記待機時間TW2と、遅延時間TDと、を考慮して、非作業指令を出力するタイミングを計算により求める。こうして得られたタイミングで指令出力部33が非作業指令を出力することにより、切換目標位置で作業機3(耕耘爪25)による作業を終了することができ、作業の見栄えが良好になる。
【0111】
また、切換目標位置は、自律作業路P1を走行するトラクタ1から見たときに、作業領域61と非作業領域62の間の境界から少し向こう側に位置するように設定される。このマージンにより、作業機3の上昇タイミング等が早まった場合でも、作業領域61で未作業部分が発生するのを防止することができる。
【0112】
作業機制御部34はリフトアップモードになっているので、作業機3が非作業高さにまで到達すると、作業機制御部34は、当該非作業高さを維持するための制御を行う。また、作業機3が非作業高さに到達するのと前後して、トラクタ1の車速は、非作業時の車速の設定値とほぼ等しくなっている。トラクタ1は、作業機3により作業を行わせない状態で、非作業時の車速として設定された速度で、接続路P2に沿って非作業領域62を走行する。
【0113】
このように、本実施形態では、作業機制御部34が作業機3を昇降させるタイミングを爪軸位置に基づいて指令出力部33が制御することによって、それぞれの自律作業路P1において作業機3によって(所定の耕耘深さで)実際に耕耘される区間の端を、複数の自律作業路P1の間で揃えることができる。その結果、見栄えの良い仕上がりを実現することができる。
【0114】
次に、非作業領域から作業領域に移動する過程で車速の設定値が変更される場合の作業機3の昇降制御について説明する。
【0115】
図7(a)には作業指令を出力するタイミングが示されているが、前述したとおり、当該タイミングは、それより前の適宜の時点(例えば符号Txで示す時点)で、その時点Txでの非作業時及び作業時の車速の設定値に基づいて、指令出力部33によって計算される。
【0116】
しかし、作業指令を出力するタイミングがTxの時点で計算された後、当該タイミングが訪れる前に、ユーザが速度回転数設定変更ダイアル14を操作して、非作業時の車速及び作業時の車速のうち少なくとも何れかの設定を変更する指示が行われたとする。ここで、トラクタ1が非作業領域から作業領域へ移動する場合、
図7(f)に示すように、トラクタ1は、切換目標位置に爪軸位置が到達する前から、非作業時の車速から作業時の車速に変化し始め、切換目標位置に爪軸位置が到達するまでにトラクタ1の車速が作業時の車速になっているように制御される。従って、ユーザの指示どおり仮に非作業時の車速又は作業時の車速を変更すると、
図7(e)に示す切換目標位置に爪軸位置が到達するタイミングが、Txの時点で推定していたタイミングから変化する。
【0117】
切換目標位置に爪軸位置が到達するタイミングが前倒しになるか、後ろ倒しになるかは、ユーザの車速変更の指示の内容に応じて異なる。非作業時の車速及び作業時の車速のうち少なくとも何れかが増加されれば、上記のタイミングは、前倒しになる可能性が高い。
【0118】
切換目標位置に爪軸位置が到達するタイミングが後ろ倒しに変化する場合、その分だけ作業指令を遅らせれば良い。上記のタイミングが前倒しに変化する場合も、時間的な余裕で吸収できるのであれば、その分だけ作業指令を早めれば良い。
【0119】
しかしながら、上記のタイミングが前倒しになって、かつ、時間的な余裕が不足する場合も考えられる。この場合、制御としては2通り考えられる。第1は、作業機3が作業状態になるタイミングの遅れを容認するが、遅れをできるだけ小さくするため、即座に作業指令を出力するというものである。この場合、車速変更操作の応答性を確保するとともに、見栄えの低下を抑制することができる。第2は、非作業時の車速又は作業時の車速の設定値の変更をユーザの操作にかかわらず保留し、今回行われる作業状態への切換については変更前の設定値で車速を制御して、作業指令はタイミングを変更することなく出力して、切換目標位置に爪軸位置が到達した後に車速の設定値を実際に変更するというものである。この場合、作業の見栄えを良好にすることができる。また、ユーザの指示とは異なる暫定的な車速となるように一時的に制御した上で、作業機3が作業状態になるタイミングが間に合うように、作業指令のタイミングを変更しても良い。
【0120】
次に、作業領域から非作業領域に移動する過程でユーザの操作により車速の設定値が変更される場合の制御について説明する。
【0121】
図8(a)には非作業指令を出力するタイミングが示されているが、前述したとおり、当該タイミングは、それより前の適宜の時点(例えば符号Txで示す時点)で、その時点Txでの作業時の車速の設定値に基づいて、指令出力部33によって計算される。
【0122】
しかし、非作業指令を出力するタイミングがTxの時点で計算された後、当該タイミングが訪れる前に、ユーザが速度回転数設定変更ダイアル14を操作して、作業時の車速及び非作業時の車速のうち少なくとも何れかの設定を変更する指示が行われたとする。ここで、トラクタ1が作業領域から非作業領域へ移動する場合、
図8(f)に示すように、トラクタ1は、切換目標位置に爪軸位置が到達する前は作業時の車速で走行し、切換目標位置に爪軸位置が到達した少し後のタイミングで、トラクタ1の車速が非作業時の車速になるように切り換えられる。従って、非作業時の車速の設定が変更された場合は、
図8(e)に示す切換目標位置に爪軸位置が到達するタイミングに変化はないが、作業時の車速の設定が変更された場合は、仮にユーザの指示どおり変更すると、切換目標位置に爪軸位置が到達するタイミングが、Txの時点で推定していたタイミングから変化する。
【0123】
切換目標位置に爪軸位置が到達するタイミングが前倒しになるか、後ろ倒しになるかは、ユーザの車速変更の指示の内容に応じて異なる。作業時の車速が増加されれば、上記のタイミングは前倒しになり、減少されれば、タイミングは後ろ倒しになる。
【0124】
切換目標位置に爪軸位置が到達するタイミングが後ろ倒しに変化する場合、その分だけ非作業指令を遅らせれば良い。上記のタイミングが前倒しに変化する場合も、時間的な余裕で吸収できるのであれば、その分だけ非作業指令を早めれば良い。
【0125】
しかしながら、上記のタイミングが前倒しになって、かつ、時間的な余裕が不足する場合も考えられる。この場合の制御としては、上述の作業指令の場合と同様に、2通り考えられる。第1は、作業機3が非作業状態になるタイミングの遅れを容認するが、遅れをできるだけ小さくするため、即座に非作業指令を出力するというものである。この場合、車速変更操作の応答性を確保するとともに、見栄えの低下を抑制することができる。第2は、作業時の車速の設定値の変更をユーザの操作にかかわらず保留し、今回行われる非作業状態への切換については変更前の設定値で車速を制御し、非作業指令はタイミングを変更することなく出力して、切換目標位置に爪軸位置が到達した後に車速の設定値を実際に変更するというものである。この場合、作業の見栄えを良好にすることができる。また、ユーザの指示とは異なる暫定的な車速となるように一時的に制御した上で、作業機3が非作業状態になるタイミングが間に合うように、非作業指令のタイミングを変更しても良い。
【0126】
なお、
図7及び
図8に示すような制御は、本実施形態で用いられたロータリ耕耘機のように、PTO軸を介した耕耘爪25の回転駆動が必要であるとともに、作業機3の昇降制御が必要な場合に適用されるものである。作業機の中には、作業体の駆動が不要であったり、昇降制御が不要な構成もあるので、本実施形態のトラクタ1においては、自律走行・自律作業を開始する前に作業機の種類をユーザに(例えばモニタ装置70又は後述の無線通信端末81に)入力させ、必要な場合にのみ、
図7及び
図8に示すようなPTO制御及び昇降制御を行うように構成されている。
【0127】
即ち、所定の作業機において、当該作業機が備える作業体により作業が行われない非作業状態から、作業体により作業が行われる作業状態に切り換えるタイミング(上述した作業指令を出力するタイミング)は、作業体の作業中心位置が切換目標位置に至るまでの時間が、当該作業指令が出力されてから現に作業状態への切換が開始されるまでの切換準備時間(上述した待機時間TW1に相当する時間)、及び、作業状態への切換が開始されてから切換が完了する(即ち作業状態となる)までの切換所要時間(上述した下降必要時間TR1)の合計時間と略等しくなるタイミングに制御される。一方、作業体により作業が行われる作業状態から作業体により作業が行われない非作業状態に切り換えるタイミング(上述した非作業指令を出力するタイミング)は、作業体の作業中心位置が切換目標位置に至るまでの時間が、当該作業指令が出力されてから現に非作業状態への切換が開始されるまでの切換準備時間(上述した待機時間TW2と遅延時間TDの合計に相当する時間)と略等しくなるタイミングに制御される。
【0128】
次に、ユーザがトラクタ1に搭乗した状態で自律走行・自律作業を行っている途中に、ユーザが
図3の作業機昇降スイッチ28を操作した場合の制御について説明する。
図9は、作業機制御部34で行われる処理を説明するフローチャートである。
【0129】
作業機制御部34は、前述の指令出力部33から作業指令又は非作業指令が入力されるのを監視するのと同時に、作業機昇降スイッチ28が操作されたことに伴って作業機制御部34に入力される制御信号(操作部指令としての昇降指令)についても監視している。そして、指令出力部33からの作業指令又は非作業指令と、作業機昇降スイッチ28の操作に基づく昇降指令と、が競合する場合、オペレータの意思に反した制御を防止するために、作業機制御部34は昇降指令を常に優先して昇降アクチュエータ44等を制御する。
【0130】
図9のフローチャートに従って説明すると、作業機制御部34は、最初に、指令出力部33が出力する作業指令又は非作業指令が入力されているか否かを判定する(ステップS101)。
【0131】
ステップS101の判断で、作業指令又は非作業指令が入力されている場合、作業機制御部34は更に、作業機昇降スイッチ28の操作に伴う昇降指令が入力されているか否かを判定する(ステップS102)。
【0132】
ステップS102の判断で、昇降指令が入力されていた場合は、作業機制御部34は、作業指令又は非作業指令ではなく、昇降指令に従って、作業機3を昇降させる制御を行う(ステップS103)。即ち、作業機制御部34は作業指令又は非作業指令よりも昇降指令を優先し、昇降指令に基づいて作業機3の昇降制御を行うことになる。その後、処理がステップS101に戻る。
【0133】
ステップS102の判断で、昇降指令が入力されていなかった場合は、作業機制御部34は、入力された作業指令又は非作業指令に従って、作業機3を昇降させる制御を行う(ステップS104)。その後、処理がステップS101に戻る。
【0134】
ステップS101の判断で、作業指令又は非作業指令が入力されていなかった場合、作業機制御部34は、作業機昇降スイッチ28の操作に基づく昇降指令が入力されているか否かを判定する(ステップS105)。
【0135】
ステップS105の判断で、昇降指令が入力されていた場合は、作業機制御部34は、当該昇降指令に従って作業機3を昇降させる制御を行う(ステップS103)。その後、処理がステップS101に戻る。昇降指令が入力されていなかった場合は、ステップS103の処理は行われず、処理がステップS101に戻る。
【0136】
以上の処理を行うことにより、例えば、指令出力部33から作業機制御部34に作業指令が入力された場合でも、その時点でユーザが作業機昇降スイッチ28を上昇側に操作していた場合は、
図7(d)のように作業機3を下降する制御は行われず、作業機3は非作業高さを維持することになる。
【0137】
また、例えば、指令出力部33から作業機制御部34に非作業指令が入力され、それに応じて
図8(d)のように作業機3の上昇を開始したものの、その上昇の途中でユーザが作業機昇降スイッチ28を下降側に操作した場合は、上昇制御は中止され、作業機制御部34は直ちに作業機3の下降制御を行う。
【0138】
このような構成により、本実施形態のトラクタ1は、原則的には自律走行・自律作業を行いつつ、ユーザの意思に沿った形で作業機3の作業状態及び非作業状態の切換を行うことができる。
【0139】
なお、ステップS103で説明したように、指令出力部33が出力した作業指令又は非作業指令ではなく、作業機昇降スイッチ28の操作に基づく昇降指令に基づいて作業機3を昇降制御した場合は、例えば、モニタ装置70が備えるディスプレイ(表示部)にその旨のメッセージを表示したり、ランプ又はブザーを用いる等して、ユーザにその旨を報知しても良い。
【0140】
次に、ユーザがトラクタ1に搭乗しない状態で自律走行・自律作業を行う場合について説明する。
図10は、ユーザがトラクタ1に搭乗しない状態で自律走行・自律作業を行う場合に使用される無線通信端末81を示す図である。
図11は、無線通信端末81のディスプレイ83における自律走行監視画面100の表示例を示す図である。
【0141】
上述したとおり、トラクタ1が備える自律走行制御部32は、ユーザが搭乗した状態で自律走行・自律作業を行う有人自律走行モードと、ユーザが搭乗しない状態で自律走行・自律作業を行う無人自律走行モードと、の間で切り換えて、自律走行を行うことができる。このモードの切換は、ユーザが例えばモニタ装置70を操作することで行うことができる。
【0142】
有人自律走行モードでのトラクタ1の自律走行・自律作業は、
図3に示す着座センサ13aがユーザの着座を検出しないと、開始することができない。一方、無人自律走行モードでのトラクタ1の自律走行・自律作業は、着座センサ13aがユーザの着座を検出した場合は、開始することができない。ただし、無人自律走行モードにおいて、着座センサ13aがユーザの着座を検出した状態でも自律走行・自律作業を開始できるように構成してもよい。
【0143】
なお、有人自律走行モードでトラクタ1が自律走行・自律作業を行っているときに、搭乗するユーザが
図3の主変速レバー27を操作した場合、自律走行制御部32による制御は終了するが、走行機体2は停止されず、そのまま手動走行・手動作業に移行することができる。
【0144】
一方、無人自律走行モードでトラクタ1が自律走行・自律作業を行っているときは、トラクタ1に備えられる上述の操作装置が使用されることは想定されていない。従って、無人自律走行モードでは、
図3に示す速度回転数設定変更ダイアル14等の操作は無効化される。また、無人自律走行モードでトラクタ1が自律走行・自律作業を行っているときに、主変速レバー27が操作された場合は、自律走行制御部32による制御が終了し、これに伴ってトラクタ1が直ちに停止される。ユーザは、走行機体2が停止した状態から手動走行・手動作業に移行することになる。
【0145】
また、無人自律走行モードでトラクタ1が自律走行・自律作業を行っているときに、ユーザによって作業機昇降スイッチ28が操作された場合も、自律走行制御部32による制御が終了し、これに伴ってトラクタ1が直ちに停止される。このとき、後述の無線通信端末81において、自律走行を停止した旨がメッセージの表示等により報知される。加えて、トラクタ1において、例えばモニタ装置70を用いて報知が行われても良い。その後、ユーザは、走行機体2が停止した状態から、所定の操作を行うことにより、手動走行・手動作業に移行する必要がある。
【0146】
無人自律走行モードでトラクタ1に自律走行・自律作業を行わせる場合、ユーザは、
図10に示す無線通信端末(無線通信装置)81を遠隔操作装置として用いて、トラクタ1に対して外部から指示を行う。
【0147】
無線通信端末81は、
図10に示すように、タッチパネル82を備えるタブレット型のコンピュータとして構成される。ユーザは、無線通信端末81のディスプレイ(表示部)83に表示された情報を参照して確認することができる。また、ユーザは、上記のタッチパネル82、又はディスプレイ83の近傍に配置されたハードウェアキー84等を操作して、トラクタ1の制御部4に、トラクタ1を制御するための制御信号を送信することができる。ここで、無線通信端末81が制御部4に出力する制御信号としては、自律走行・自律作業の経路に関する信号や自律走行・自律作業の開始信号、停止信号が考えられるが、これに限定されない。
【0148】
なお、無線通信端末81はタブレット型のコンピュータに限るものではなく、これに代えて、例えばノート型のコンピュータで構成することも可能である。また、自律走行経路Pの生成機能を、トラクタ1でなく無線通信端末81が有するように構成しても良い。
【0149】
次に、トラクタ1が自律走行・自律作業を行うにあたって無線通信端末81に表示される画面について、
図11を参照して説明する。
【0150】
自律走行制御部32が無人自律走行モードとなっている状態で、トラクタ1の自律走行・自律作業が開始されると、ディスプレイ83の表示画面が
図11に示す自律走行監視画面100に切り換わる。
【0151】
自律走行監視画面100の右側には、トラクタ1が走行している自律走行経路を含む画像データを表示する走行状態表示部103が配置されている。走行状態表示部103に表示される画像データは、例えば
図11に示すように、地図データに、圃場の形状と、作業領域の形状と、を重ね合わせて表示し、その上にトラクタ1の走行軌跡をハッチングで示したものとすることができる。
【0152】
自律走行監視画面100の上側の一番左には、自律走行を開始したり、一時停止したりするための開始/一時停止ボタン105が表示されている。ユーザがトラクタ1を自律走行の開始位置まで手動で移動させて開始/一時停止ボタン105に触れることにより、自律走行を開始する旨を指示する制御信号が無線通信端末81からトラクタ1の制御部4に送信されて、トラクタ1の自律走行を開始することができる。また、トラクタ1が自律走行を行っている状態で開始/一時停止ボタン105に触れることにより、トラクタ1の自律走行を一時停止したり、再開したりすることができる。
【0153】
自律走行監視画面100において、開始/一時停止ボタン105の右側には、車速表示部106と、エンジン回転数表示部107と、ヒッチ高さ調整部(操作部)108と、が上下に並べて配置されている。
【0154】
車速表示部106には、図略の車速センサから送信されてきたデータに基づいて取得された、トラクタ1の現在の車速が表示される。
【0155】
エンジン回転数表示部107には、図略のエンジン回転数センサから送られてきたデータに基づいて取得された、エンジン10の現在の回転数が表示される。
【0156】
ヒッチ高さ調整部108には、上述の作業機高さセンサから送られてきたデータに基づいて取得された、作業機3の高さが数値で表示されている。表示されている数値の右側には上下のボタンが配置されており、このボタンを操作することで、作業機3を昇降する指示を行うことができる。ヒッチ高さ調整部108に対する操作により、無線通信端末81は昇降指令をトラクタ1に対して出力する。
【0157】
車速表示部106及びエンジン回転数表示部107の右側には、上述の作業状態と非作業状態のそれぞれについて、トラクタ1の車速及びエンジン回転数の設定を調整可能な設定調整部が配置されている。
【0158】
具体的に説明すると、車速表示部106及びエンジン回転数表示部107の右側には、作業時車速調整部(車速設定部)111と、作業時エンジン回転数調整部112と、非作業時車速調整部(車速設定部)113と、非作業時エンジン回転数調整部114と、が配置されている。
【0159】
作業時車速調整部111には、作業機3が作業状態であるときのトラクタ1の車速(作業時の車速)の設定値が数字で表示されている。作業時エンジン回転数調整部112には、作業機3が作業状態であるときのエンジン10の回転数の設定値が数字で表示されている。作業時車速調整部111及び作業時エンジン回転数調整部112の何れにおいても、表示される設定値の右側には上下のボタンが配置されており、このボタンを操作することで、設定値を増減することができる。
【0160】
非作業時車速調整部113には、作業機3が非作業状態であるときのトラクタ1の車速(非作業時の車速)の設定値が数字で表示されている。非作業時エンジン回転数調整部114には、作業機3が非作業状態であるときのエンジン10の回転数の設定値が数字で表示されている。非作業時車速調整部113及び非作業時エンジン回転数調整部114においても、作業時車速調整部111及び作業時エンジン回転数調整部112と同様に、数値の横の上下のボタンを操作することで設定値を増減することができる。
【0161】
この無人自律走行モードにおいて、作業時車速調整部111及び非作業時車速調整部113は、トラクタ1に設けられる速度回転数設定変更ダイアル14と同様の機能を有し、ヒッチ高さ調整部108は、トラクタ1に設けられる作業機昇降スイッチ28と同様の機能を有する。
【0162】
無人自律走行モードにおいても、作業指令又は非作業指令の出力タイミングは、上述の有人自律走行モードと実質的に同様に制御される。また、無人自律走行モードにおいて、指令出力部33が出力する作業指令又は非作業指令と、ヒッチ高さ調整部108の操作に基づいて出力される昇降指令と、が競合した場合は、有人自律走行モードと同様に昇降指令が優先されることになる。ただし、ユーザはトラクタ1に搭乗していないので、上記で説明した各種のメッセージは、原則として、モニタ装置70ではなく無線通信端末81のディスプレイに表示される。
【0163】
以上に説明したように、本実施形態のトラクタ1は、走行機体2と、指令出力部33と、作業機制御部34と、車速制御部35と、作業マージン距離記憶部54と、残存距離取得部37と、を備える。走行機体2は、作業機3を装着可能である。指令出力部33は、作業機3を作業状態に制御する作業指令及び作業機3を非作業状態に制御する非作業指令を出力する。作業機制御部34は、作業指令又は前記非作業指令に応じて作業機3の作業状態を制御する。車速制御部35は、トラクタ1の車速を切換制御可能である。作業マージン距離記憶部54は、マージン距離Mを設定することにより、作業機制御部34による作業機3の作業状態の切換制御が実行される切換目標位置を設定する。残存距離取得部37は、作業機3の爪軸位置から切換目標位置までの距離である残存距離を取得する。車速制御部35は、非作業指令に応じてトラクタ1の車速を作業時の車速から非作業時の車速に切り換えるとともに、作業指令に応じてトラクタ1の車速を非作業時の車速から作業時の車速に切り換える。指令出力部33は、
図8に示すように非作業指令を出力する場合は、作業時の車速と残存距離とに基づいて当該非作業指令の出力タイミングを制御する。指令出力部33は、
図7に示すように作業指令を出力する場合は、非作業時の車速と、当該非作業時の車速から作業時の車速への速度変化率と、残存距離と、に基づいて、作業指令の出力タイミングを制御する。
【0164】
これにより、作業機3を作業状態から非作業状態に切り換える場合と、非作業状態から作業状態に切り換える場合とで、指令出力部33が適切なタイミングで非作業指令及び作業指令を出力することができる。これにより、作業機3によって作業がされる部分とされない部分との間の境界の誤差を小さくすることができる。
【0165】
また、本実施形態のトラクタ1において、車速制御部35は
図8(f)に示すように、非作業指令に応じて作業機制御部34が作業機3を作業状態から非作業状態に切り換えた後に、作業時の車速から非作業時の車速への切換制御を開始する。また、車速制御部35は
図7(f)に示すように、作業指令に応じて作業機制御部34が作業機3を非作業状態から作業状態に切り換える前に、非作業時の車速から作業時の車速への切換制御を開始する。
【0166】
これにより、作業機3が作業状態になっている間において、作業時の車速を保持することができる。
【0167】
また、本実施形態のトラクタ1は、図略のタイマ回路と、下降必要時間記憶部56と、を備える。タイマ回路は、作業機3を非作業状態から作業状態に切り換えるのに要した所要時間(下降必要時間TR1)を計測する。下降必要時間記憶部56は、タイマ回路により計測された所要時間を記憶する。指令出力部33は、下降必要時間記憶部56の記憶内容に基づいて、作業指令の出力タイミングを制御する。タイマ回路により所要時間が計測されていない場合は、下降必要時間記憶部56は、初期設定された時間を記憶する。タイマ回路により所要時間が計測された場合は、下降必要時間記憶部56の記憶内容が計測値に更新される。
【0168】
これにより、作業機3を非作業状態から作業状態に切り換えるための所要時間を計測して記憶し、これに基づいて作業指令を出力するタイミングを制御することで、適切なタイミングで作業指令を出力することができる。また、例えば初回に非作業状態から作業状態に切り換えるときは、計測値が事前に得られないが、適切な時間を初期設定しておくことで、概ね良好なタイミングで指令出力部33が作業指令を出力することができる。
【0169】
また、本実施形態のトラクタ1において、作業時の車速及び非作業時の車速の設定は、速度回転数設定変更ダイアル14、又は、作業時車速調整部111及び非作業時車速調整部113に対する操作により変更することが可能である。指令出力部33は、作業時の車速及び/又は非作業時の車速の設定が変更された場合、変更後の作業時の車速/非作業時の車速に基づいて、作業指令又は非作業指令の出力タイミングを制御する。
【0170】
これにより、ユーザの要望に応じて車速を変更しつつ、指令出力部33が適切なタイミングで作業指令及び非作業指令を出力することができる。
【0171】
また、本実施形態のトラクタ1は、当該トラクタ1を有人自律走行モードと無人自律走行モードとの間で切り換えて自律走行させることが可能な自律走行制御部32を備える。有人自律走行モードは、主変速レバー27に対する操作に伴ってトラクタ1を停止させずに自律走行を終了させることが可能なモードである。無人自律走行モードは、主変速レバー27に対する操作に伴ってトラクタ1を停止させて自律走行を終了させるモードである。自律走行制御部32が有人自律走行モードであるときは、トラクタ1に設けられる速度回転数設定変更ダイアル14に対する操作に応じて、作業時の車速及び非作業時の車速の設定を変更可能である。自律走行制御部32が無人自律走行モードであるときは、トラクタ1と無線通信を行う無線通信端末81が備える作業時車速調整部111及び非作業時車速調整部113に対する操作に応じて、作業時の車速及び非作業時の車速の設定を変更可能である。
【0172】
これにより、有人自律走行モードでは、トラクタ1に搭乗したユーザが速度回転数設定変更ダイアル14を操作することで、無人自律走行モードでは、トラクタ1の外部のユーザが無線通信端末81の作業時車速調整部111及び非作業時車速調整部113を操作することで、車速を変更することができる。
【0173】
また、本実施形態のトラクタ1は、位置情報算出部49と、作業機昇降スイッチ28と、自律走行制御部32と、を備える。位置情報算出部49は、走行機体2の位置情報を取得する。作業機昇降スイッチ28は、走行機体2に配置される。自律走行制御部32は、予め定められた自律走行経路Pに沿って走行機体2を自律走行させる。作業機制御部34は、自律走行制御部32が走行機体2を自律走行させているときに、指令出力部33が出力する作業指令又は非作業指令、及び、作業機昇降スイッチ28の操作に伴って出力される昇降指令に基づいて、作業機3の作業状態を制御する。作業機制御部34は、作業指令又は非作業指令よりも昇降指令を優先して、作業機3の作業状態を制御する。
【0174】
これにより、作業機3の作業状態と非作業状態の切換に関して、ユーザの意図を優先した制御を行うことができる。
【0175】
また、本実施形態のトラクタ1において、作業機制御部34は、昇降指令に基づいて作業機3の作業状態を制御しているときに作業指令又は非作業指令が入力された場合は、当該作業指令又は非作業指令に基づいて作業機3の作業状態を制御しない。
【0176】
これにより、ユーザの意図に応じた制御が妨げられないようにすることができる。
【0177】
また、本実施形態のトラクタ1において、作業機制御部34は、作業指令又は非作業指令に基づいて作業機3の作業状態を制御しているときに昇降指令が入力された場合は、当該昇降指令に基づいて作業機3の作業状態を制御する。
【0178】
これにより、自律走行に基づく制御を先に行っていた場合は、当該制御を中止する形で、ユーザの意図に応じた制御を行うことができる。
【0179】
また、本実施形態のトラクタ1は、走行機体2にユーザが存在するか否かを検知する着座センサ13aを備える。自律走行制御部32は、有人自律走行モードと、無人自律走行モードと、を切り換えて、自律走行経路Pに沿って走行機体2を自律走行させることが可能である。有人自律走行モードでは、作業機制御部34は、指令出力部33が出力する作業指令又は非作業指令に基づいても、作業機昇降スイッチ28の操作に基づいて出力される昇降指令に基づいても、作業機3の作業状態を切り換える。無人自律走行モードでは、作業機制御部34は、指令出力部33が出力する作業指令又は非作業指令に基づいて作業機3の作業状態を切り換える一方、作業機昇降スイッチ28の操作に伴って出力される昇降指令に基づいて作業機3の作業状態を切り換えない。
【0180】
これにより、ユーザの搭乗が想定されていない無人自律走行モードにおいては、作業機昇降スイッチ28の操作を無視することにより、状況に即した制御を実現できる。
【0181】
また、本実施形態のトラクタ1において、自律走行制御部32は、有人自律走行モードにて走行機体2を自律走行させているときに作業機昇降スイッチ28が操作された場合は、走行機体2の自律走行を停止しない。一方、無人自律走行モードにて走行機体2を自律走行させているときに作業機昇降スイッチ28が操作された場合は、走行機体2の自律走行を停止する。
【0182】
これにより、ユーザの搭乗が想定されていない無人自律走行モードにおいては、作業機昇降スイッチ28の操作に応じて自律走行を停止することで、想定外の状況に適切に対応することができる。
【0183】
また、本実施形態のトラクタ1において、有人自律走行モードでは、作業機制御部34が、作業指令又は非作業指令よりも昇降指令を優先して作業機3の作業状態を制御する優先制御を行った場合に、その旨がモニタ装置70に表示される。無人自律走行モードでは、作業機制御部34が優先制御を行った場合に、その旨が無線通信端末81に表示される。更には、無人自律走行モードにおいて作業機昇降スイッチ28が操作されたことに基づいて走行機体2の自律走行が停止された場合に、その旨が無線通信端末81に表示される。
【0184】
これにより、有人自律走行モード及び無人自律走行モードの何れにおいても、ユーザに状況を適切に報知することができる。
【0185】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0186】
作業機水平距離Lの設定、及びマージン距離Mの設定等は、トラクタ1のモニタ装置70によって行うことに代えて、又はそれに加えて、無線通信端末81によって行うように構成しても良い。
【0187】
速度回転数設定変更ダイアル14を2つ備え、作業時の車速と非作業時の車速を同時に変更できるように構成しても良い。
【0188】
ディスプレイ83に表示される自律走行監視画面100は、
図11に示されるものに限定されず、画面の配置等は任意に変更することができる。
【0189】
作業時の車速及び非作業時の車速が満たすべき範囲を予め定め、この範囲から外れる作業時の車速又は非作業時の車速が設定された場合、特別な昇降制御が行われても良い。例えば、作業機3の上昇制御/下降制御を通常より前倒しで開始したり、後ろ倒しで開始したりすることが考えられる。あるいは、それに代えて、又はそれに加えて、特別な車速制御が行われても良い。例えば、非作業時の速度と作業時の速度との切換を、通常より前倒しで開始したり、後ろ倒しで開始したりすることが考えられる。
【0190】
作業機としてプラウ、ハロー、モア、テッダー、又はスタブルカルチ等を用いる場合は、上記の実施形態で説明したロータリ耕耘機と同様に、作業指令によって下降し、非作業指令によって上昇する制御が行われる。ただし、作業状態と非作業状態の切換に昇降が伴わなくてもよい。例えば、作業機としてブロードキャスタ又はスプレーヤ等を用いる場合は、作業機制御部34は、昇降制御の代わりに散布/散布停止制御を行う。また、この場合は、ユーザは、作業機昇降スイッチ28ではなく、キャビン11に設けた図示しない適宜の操作部によって、作業機の作業状態の切換を指示する。従って、操作部指令は、当該操作部の操作に伴って出力される。
【0191】
<発明の付記>
本発明の観点によれば、以下の構成の自律走行作業システムが提供される。即ち、この自律走行作業システムは、車体部と、位置情報取得部と、指令出力部と、作業機制御部と、設定部と、を備える。前記車体部は、作業機を装着可能である。位置情報取得部は、前記車体部の位置情報を取得する。前記指令出力部は、前記作業機を作業状態に制御する作業指令及び前記作業機を非作業状態に制御する非作業指令を出力する。前記作業機制御部は、前記作業指令又は前記非作業指令に応じて前記作業機の作業状態を制御する。前記設定部は、前記作業機制御部による制御によって前記作業機の作業状態が切り換えられる基準位置を設定する。基準位置は、作業領域と非作業領域との境界から所定距離離れた位置に設定される。また、前記車体部が、前記境界から前記基準位置までの間に位置する場合、前記指令出力部によって前記指令が出力される。
【0192】
これにより、作業機を作業状態から非作業状態に切り換える場合と、非作業状態から作業状態に切り換える場合とで、指令出力部が適切なタイミングで非作業指令及び作業指令を出力することができる。これにより、作業機によって作業がされる部分とされない部分との間の境界の誤差を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0193】
1 トラクタ(作業車両)
2 走行機体(車体部)
3 作業機
33 指令出力部
34 作業機制御部
35 車速制御部
37 残存距離取得部
54 作業マージン距離記憶部(設定部)