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特開2023-168260パラジウム担持活性炭の製造方法及びエチレン除去剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168260
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】パラジウム担持活性炭の製造方法及びエチレン除去剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/44 20060101AFI20231116BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20231116BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20231116BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20231116BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20231116BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20231116BHJP
   B01J 20/32 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
B01J23/44 A
B01J37/04 102
B01J37/02 101Z
B01J35/10 301F
B01J20/20 B
B01J20/28 Z
B01J20/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075649
(22)【出願日】2023-05-01
(31)【優先権主張番号】P 2022079648
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(74)【代理人】
【識別番号】100188086
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 五郎
(72)【発明者】
【氏名】並木 謙太
(72)【発明者】
【氏名】唐鎌 智也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊郎
【テーマコード(参考)】
4G066
4G169
【Fターム(参考)】
4G066AA02D
4G066AA05B
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA38
4G066CA51
4G066DA03
4G066FA12
4G066FA21
4G066FA38
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA08C
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB08C
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC72C
4G169BD01C
4G169BD12C
4G169CA02
4G169CA10
4G169CA15
4G169EC05X
4G169EC05Y
4G169EC06Y
4G169EC07Y
4G169EC08Y
4G169EC13Y
4G169EC14Y
4G169EC21Y
4G169ED10
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB05
4G169FB14
4G169FB16
4G169FB57
4G169FC02
4G169FC03
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】用いるパラジウムの量を少なくするとともに、常温下で良好な触媒性能を発揮可能なパラジウム担持活性炭を低コストかつ効率よく製造可能な製造方法を提供する
【解決手段】比表面積が1200m/g以上、かつ、強熱残分が3%以下である基材活性炭にパラジウムが担持されたパラジウム担持活性炭を製造する方法であって、塩化パラジウムを塩酸溶液に溶解して金属パラジウム濃度が20g/L以上のパラジウム溶液を得るパラジウム溶液調製工程と、パラジウム溶液を基材活性炭に接触させて馴染ませることによりパラジウム添着活性炭を得るパラジウム添着工程と、パラジウム添着活性炭を乾燥してパラジウム担持活性炭を得る乾燥工程とを有することを特徴とするパラジウム担持活性炭の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が1200m/g以上、かつ、強熱残分が3%以下である基材活性炭にパラジウムが担持されたパラジウム担持活性炭を製造する方法であって、
塩化パラジウムを塩酸溶液に溶解して金属パラジウム濃度が20g/L以上のパラジウム溶液を得るパラジウム溶液調製工程と、
前記パラジウム溶液を前記基材活性炭に接触させて馴染ませることによりパラジウム添着活性炭を得るパラジウム添着工程と、
前記パラジウム添着活性炭を乾燥してパラジウム担持活性炭を得る乾燥工程とを有する
ことを特徴とするパラジウム担持活性炭の製造方法。
【請求項2】
前記塩酸溶液の塩酸濃度が0.5重量%以上である請求項1に記載のパラジウム担持活性炭の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により得たパラジウム担持活性炭と、パラジウムが担持されていない活性炭とが混合されてなるエチレン除去剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材となる活性炭の表面にパラジウムが担持されたパラジウム担持活性炭を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、活性炭表面にパラジウム化合物が担持されたパラジウム担持活性炭が、触媒として様々な分野で活用されている。例えば、野菜や果物等の青果物の鮮度維持に際して、青果物から発生して腐敗を促進するエチレンガスは一般的な吸着剤での除去が困難であるが、パラジウム担持活性炭を用いることにより効果的に分解、除去することができる。
【0003】
従来、活性炭表面にパラジウムを担持させる手段として、活性炭をパラジウム溶液に含浸させて活性炭にパラジウムを吸着させた後、還元剤を添加させ乾燥させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、製造に時間がかかるとともに、製造プロセスが複雑でコストが大きくなる問題がある。
【0004】
また、エチレン除去のためのパラジウム担持活性炭が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。このパラジウム担持活性炭では、エチレンの除去に際し、触媒を100~200℃に加熱しなければならず、触媒の使用条件が限定されるとともに、設備コストがかかってしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3194067号公報
【特許文献2】特開平1-83022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記状況に鑑み提案されたものであり、用いるパラジウムの量を少なくするとともに、常温下で良好な触媒性能を発揮可能なパラジウム担持活性炭を低コストかつ効率よく製造可能な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、第1の発明は、比表面積が1200m/g以上、かつ、強熱残分が3%以下である基材活性炭にパラジウムが担持されたパラジウム担持活性炭を製造する方法であって、塩化パラジウムを塩酸溶液に溶解して金属パラジウム濃度が20g/L以上のパラジウム溶液を得るパラジウム溶液調製工程と、前記パラジウム溶液を前記基材活性炭に接触させて馴染ませることによりパラジウム添着活性炭を得るパラジウム添着工程と、前記パラジウム添着活性炭を乾燥してパラジウム担持活性炭を得る乾燥工程とを有することを特徴とするパラジウム担持活性炭の製造方法に係る。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記塩酸溶液の塩酸濃度が0.5重量%以上であるパラジウム担持活性炭の製造方法に係る。
【0009】
第3の発明は、第1又は2の発明の製造方法により得たパラジウム担持活性炭と、パラジウムが担持されていない活性炭とが混合されてなるエチレン除去剤に係る。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明に係るパラジウム担持活性炭の製造方法によると、比表面積が1200m/g以上、かつ、強熱残分が3%以下である基材活性炭にパラジウムが担持されたパラジウム担持活性炭を製造する方法であって、塩化パラジウムを塩酸溶液に溶解して金属パラジウム濃度が20g/L以上のパラジウム溶液を得るパラジウム溶液調製工程と、前記パラジウム溶液を前記基材活性炭に接触させて馴染ませることによりパラジウム添着活性炭を得るパラジウム添着工程と、前記パラジウム添着活性炭を乾燥してパラジウム担持活性炭を得る乾燥工程とを有するため、用いるパラジウムの量を少なくするとともに、常温下で良好な触媒性能を発揮可能なパラジウム担持活性炭を低コストかつ効率よく製造することができる。
【0011】
第2の発明に係るパラジウム担持活性炭の製造方法によると、第1の発明において、前記塩酸溶液の塩酸濃度が0.5重量%以上であるため、パラジウム溶液中のパラジウムの分散が良好となり、パラジウム添着活性炭を効率よく得ることができる。
【0012】
第3の発明に係るエチレン除去剤によると、第1又は2の発明の製造方法により得たパラジウム担持活性炭と、パラジウムが担持されていない活性炭とが混合されてなるため、エチレンの除去性能をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の金属担持活性炭の製法に係る概略工程図である。
図2】エネルギー分散X線分光により試作例1の活性炭断面のパラジウムをマッピングした画像である。
図3】エネルギー分散X線分光により試作例14の活性炭断面のパラジウムをマッピングした画像である。
図4図2のA-B部分に対してエネルギー分散型X線分光法によってPdの分布状態を測定したグラフである。
図5図3のA-B部分に対してエネルギー分散型X線分光法によってPdの分布状態を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のパラジウム担持活性炭は、基材となる基材活性炭にパラジウムが担持されてなる。パラジウム担持活性炭は、エチレンガスの除去性能、脱臭性能、抗菌性能等を備えた吸着剤として好適に利用される。このパラジウム担持活性炭は、図1に示すように、パラジウム溶液調製工程(S1)と、パラジウム添着工程(S2)と、乾燥工程(S3)を含む製法により製造される。以下、本発明のパラジウム担持活性炭の製法とともに、当該パラジウム担持活性炭について詳述する。
【0015】
基材活性炭は、パラジウム担持活性炭を構成する基材となる活性炭である。活性炭は、木材の製材、加工時に生じるオガコ(大鋸屑)や鉋屑等、廃材や間伐材、廃竹、伐採竹、ヤシ殻等のセルロース分に富む木質の植物原料の粉砕物を炭化、焼成、適宜の賦活を経て得た炭化物である。植物原料の他に、古タイヤ、フェノール樹脂等の各種樹脂製品の炭化物等も活性炭に加えることができる。そのため、活性炭は比較的安価かつ量的に調達可能である。
【0016】
触媒反応を生ぜしめるパラジウム担持活性炭において、基材となる活性炭では、その比表面積の大きさが対象物質との接触効率に影響を及ぼす。比表面積が大きい方がパラジウム担持活性炭とエチレンガス等の対象物質との接触効率が向上することになるため、結果的に触媒性能の向上に寄与すると考えられる。そのため、基材活性炭の比表面積は1200m/g以上と規定される。
【0017】
さらに、活性炭は金属などの灰分を含んでいることがある。活性炭に含まれる灰分の量を強熱残分という。灰分に含まれる成分がパラジウムと反応して意図しない化合物が生じてしまったり、金属化合物が析出する等して、パラジウム担持活性炭とエチレン等の対象物質との接触を妨げるおそれがある。パラジウム担持活性炭と対象物質との接触効率が低下してしまうと、パラジウム担持活性炭の触媒性能も低下することとなるため、基材活性炭に含有される強熱残分は少ない方が好ましい。この観点から、基材活性炭の強熱残分は3%以下と規定される。
【0018】
パラジウム溶液調製工程(S1)は、塩化パラジウムを塩酸溶液に溶解してパラジウム溶液を得る工程である。パラジウム溶液は、金属パラジウム濃度が20g/L以上に調製される。金属パラジウム濃度が高いパラジウム溶液を用いることによって、得られるパラジウム担持活性炭は、基材活性炭の表面に近い部分にパラジウムが担持された状態になると考えられる。このため、パラジウム担持活性炭の触媒性能を高めることができると考えられる。後述の実施例に示される通り、金属パラジウム濃度は、高いほど触媒性能が高まる傾向にあるため、特に上限は規定されない。しかし、パラジウムは高価であるため、コストと所望される触媒性能との兼ね合いでパラジウム溶液の金属パラジウム濃度が適宜決定されるのが良い。
【0019】
パラジウム溶液調製工程(S1)において、塩化パラジウムが溶解する塩酸溶液は、塩酸濃度が0.5重量%以上とされるのが良い。塩酸濃度が低すぎると塩化パラジウムが十分に溶解することができず、パラジウム濃度の高いパラジウム溶液を調製することが難しくなったり、塩化パラジウムが完全に溶解しない等の問題が生ずると考えられる。また、パラジウム溶液中のパラジウムの分散性も悪化するきらいがあるため、塩酸溶液の濃度は一定以上とされるのがよく、特には0.5重量%以上であることが好ましい。
【0020】
パラジウム添着工程(S2)は、パラジウム溶液調製工程(S1)で得たパラジウム溶液を基材活性炭に接触させて馴染ませることによりパラジウム添着活性炭を得る工程である。パラジウム溶液と基材活性炭との接触方法は、特に限られない。基材活性炭にパラジウム溶液を散布したり滴下したりする他、パラジウム溶液中に基材活性炭を浸漬させることも考えられる。工業的には、基材活性炭にパラジウム溶液を滴下や噴霧による散布が行われることで効率よくパラジウム添着活性炭を得ることができると考えられる。
【0021】
パラジウム溶液と基材活性炭との接触方法が滴下や散布の場合には、適宜混練されてパラジウム溶液と基材活性炭が馴染ませられることもある。浸漬による接触の場合は、一定時間静置された後に、必要に応じて攪拌され、濾過等で回収される。これらを経てパラジウム溶液と基材活性炭が馴染ませられてパラジウム添着活性炭が得られる。
【0022】
パラジウム添着活性炭は、公知の乾燥工程(S3)により乾燥され、パラジウム担持活性炭が得られる。なお、いうまでもなく、乾燥工程は、パラジウムや基材活性炭が変質しない程度の温度域で行われる。例えば、100~150℃温度条件下で、12~24時間乾燥される。
【0023】
本発明の製造方法により得られたパラジウム担持活性炭は、基材活性炭の表面付近に担持されていると考えられる。パラジウム溶液調製工程(S1)により金属パラジウム濃度が高いパラジウム溶液とされることから、パラジウム添着工程(S2)において、パラジウム溶液と基材活性炭が接触した際に、基材活性炭の細孔の奥深くにパラジウムが入り込みにくくなり、パラジウムが活性炭表面に添着し担持されると考えられる。
【0024】
このため、本発明の製造方法により得られたパラジウム担持活性炭は、良好な触媒性能を備えることから、常温下でも十分な触媒性能を発揮することができる。そして、本発明の製造方法により得られるパラジウム担持活性炭は、基材活性炭の表面付近に担持されたパラジウムが多いほど触媒性能がさらに良好となると考えられる。
【0025】
また、本発明の製造方法により得られたパラジウム担持活性炭は、パラジウムが担持されていない活性炭と混合され、エチレン除去性能が良好なエチレン除去剤として用いられることができる。パラジウム担持活性炭は触媒反応を促進してエチレンを分解し、除去する。パラジウムが担持されていない活性炭は、触媒反応に必要となる水分(湿度)や触媒反応で喪失する塩酸の揮散を抑制する働きをしていると考えられる。
【実施例0026】
基材活性炭の物性、パラジウム化合物の種類、パラジウム溶液の金属パラジウム濃度、塩酸溶液の塩酸濃度を変更して各例のパラジウム担持活性炭を作製した。
【0027】
[使用材料]
<活性炭>
基材活性炭に適した物性の特定のため、下記の活性炭を使用した。各活性炭のメチレンブルー吸着性能(mL/g)、ヨウ素吸着性能(mg/g)、充填密度(g/mL)、pH、ベンゼン吸着力(%)、強熱残分(%)、比表面積(m/g)、全細孔容積(cm/g)、平均細孔直径(nm)を表1,2に示した。
【0028】
・活性炭1:フタムラ化学株式会社製、「CW360SZ」(ヤシ殻活性炭)
・活性炭2:フタムラ化学株式会社製、「CW360BZ」(ヤシ殻活性炭)
・活性炭3:フタムラ化学株式会社製、「CW350B」(ヤシ殻活性炭)
・活性炭4:フタムラ化学株式会社製、「CW360BR」(ヤシ殻活性炭)
・活性炭5:フタムラ化学株式会社製、「SG280P」(木質活性炭)
・活性炭6:フタムラ化学株式会社製、「CW350AR」(ヤシ殻活性炭)
・活性炭7:フタムラ化学株式会社製、「CW350A」(ヤシ殻活性炭)
・活性炭8:フタムラ化学株式会社製、「CN360S」(ヤシ殻活性炭)
・活性炭9:フタムラ化学株式会社製、「GL240A」(石炭活性炭)
【0029】
メチレンブルー吸着性能(mL/g)、ヨウ素吸着力(mg/g)、pH、充填密度(g/mL)、ベンゼン吸着力(%)及び強熱残分(%)の測定は、JIS K 1474(2014)に準拠して測定した。
【0030】
比表面積(m/g)は、マイクロトラック・ベル株式会社製、自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP-miniII」を使用して77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、BET法により求めた。
【0031】
全細孔容積(cm/g)は、マイクロトラック・ベル株式会社製、自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP-miniII」を使用して77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、DH法、MP法により細孔分布を解析し求めた。
【0032】
〔平均細孔直径〕
平均細孔直径(nm)は、細孔の形状を円筒形と仮定し、全細孔容積(cm/g)及び比表面積(m/g)の値を用いて数式(i)より求めた。
【0033】
【数1】
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
<パラジウム化合物>
次に、本発明の製造方法において用いられるパラジウム溶液に適したパラジウム化合物を特定するために、以下のパラジウム化合物を使用した。
・塩化パラジウム(PdCl
・テトラクロロパラジウム酸ナトリウム(NaPdCl
【0037】
上記活性炭1~9を用いてパラジウム担持活性炭1~9を作製し、それぞれの基材活性炭と混合して試作例1~9を作製した。パラジウム担持活性炭の基材活性炭としての適性を備えるための物性を特定するため、試作例1~9につき、エチレン除去試験を行った。結果を表3,4に示す。
【0038】
[パラジウム担持活性炭の作製(1)]
[試作例1]
塩酸濃度が17.5重量%の塩酸溶液10mLに塩化パラジウム(PdCl)を溶解しパラジウム濃度が25g/Lのパラジウム溶液を得た(パラジウム溶液調製工程(S1))。該パラジウム溶液を25gの活性炭1(基材活性炭)に滴下して混練し(パラジウム添着工程(S2))、120℃条件下で18時間乾燥してパラジウム担持活性炭1を得た(乾燥工程(S3))。1重量部のパラジウム担持活性炭1に対し、パラジウムが添着されていない基材活性炭を19重量部混合してパラジウムの担持量が活性炭の総重量に対して0.05重量%となるように調整し、試作例1とした。
【0039】
[試作例2]
基材活性炭を活性炭2に変更した以外は試作例1と同様とし、試作例2とした。
【0040】
[試作例3]
基材活性炭を活性炭3に変更した以外は試作例1と同様とし、試作例3とした。
【0041】
[試作例4]
基材活性炭を活性炭4に変更した以外は試作例1と同様とし、試作例4とした。
【0042】
[試作例5]
基材活性炭を活性炭5に変更した以外は試作例1と同様とし、試作例5とした。
【0043】
[試作例6]
基材活性炭を活性炭6に変更した以外は試作例1と同様とし、試作例6とした。
【0044】
[試作例7]
基材活性炭を活性炭7に変更した以外は試作例1と同様とし、試作例7とした。
【0045】
[試作例8]
基材活性炭を活性炭8に変更した以外は試作例1と同様とし、試作例8とした。
【0046】
[試作例9]
基材活性炭を活性炭9に変更した以外は試作例1と同様とし、試作例9とした。
【0047】
[エチレン除去試験]
各試作例から0.25gを取り出して不織布の袋に収容し、湿度50%、エチレン濃度30ppmのエチレンガスとともに容量5Lのテドラーバッグに封入した。初期のエチレン濃度(C)(30ppm)から24時間後のエチレン濃度(C)を測定し、エチレン残存割合(C/C)及びエチレン除去率(%)を算出した。なお、エチレン除去試験に際し、各試作例のパラジウムの担持量は、0.05重量%に統一されている。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
[結果と考察(1)]
表3,4に示されるエチレン除去試験の結果と、基材活性炭の物性を示す表1,2とを対比すると、比表面積が大きく、かつ強熱残分が少ない活性炭を使用した試作例1,5及び6のエチレン除去率が50%以上であった。このことから、具体的には、基材活性炭の比表面積が1200m/g以上であり、かつ、強熱残分が3%以下であることが、パラジウム担持活性炭に適した基材活性炭として要求される物性であることが理解される。
【0051】
基材活性炭の比表面積が1200m/g以上であることにより、エチレンガスと活性炭表面に担持されたパラジウムとの接触効率が向上したと考えられる。さらに、強熱残分が3%以下であることにより、パラジウム担持活性炭の表面に意図しない金属化合物等の析出が少ないと考えられるため、エチレンガスとパラジウムの接触が妨害されにくくなったと考えられる。
【0052】
続いて、パラジウム溶液に用いられるパラジウム化合物の特定のため、活性炭1を用いて、上記のパラジウム化合物を使用して試作例を作製し、上記したエチレン除去試験により比較検討した。結果を表5に示す。なお、試作例1の結果も表5に併記するとともに、用いたパラジウム化合物の種類を示した。
【0053】
[パラジウム担持活性炭の作製(2)]
[試作例10]
パラジウム溶液調製工程(S1)において、パラジウム化合物をテトラクロロパラジウム酸ナトリウム(NaPdCl)に変更した以外は試作例1と同様とし、試作例10とした。
【0054】
【表5】
【0055】
[結果と考察(2)]
表5に示されるエチレン除去試験の結果より、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム(NaPdCl)を用いると、塩化パラジウム(PdCl)を使用した時より著しく性能が低下した。エチレンとの反応には塩化パラジウム(PdCl)の形態が好ましく、パラジウム以外の金属が存在すると反応が阻害されるものと考えられる。よって、本発明の製造方法につき、パラジウム担持活性炭の触媒性能の向上のためには、パラジウム溶液調製工程(S1)において用いられるパラジウム化合物には塩化パラジウム(PdCl)が適していることが示された。
【0056】
そして、パラジウム溶液の金属パラジウム濃度の特定のため、金属パラジウム濃度の異なるパラジウム溶液を用いて下記の試作例を作製し、上記したエチレン除去試験により比較検討した。
【0057】
[パラジウム担持活性炭の作製(3)]
[試作例11]
パラジウム溶液調製工程(S1)において、金属パラジウム濃度を12.5g/Lとなるよう塩化パラジウム(PdCl)の量を調節した点、及び、パラジウムの担持量が活性炭の総重量に対して0.05重量%となるように1重量部のパラジウム担持活性炭11に対し、パラジウムが添着されていない基材活性炭を9重量部混合して調整した点以外は試作例1と同様とし、試作例11とした。
【0058】
[試作例12]
パラジウム溶液調製工程(S1)において、金属パラジウム濃度を50g/Lとなるよう塩化パラジウム(PdCl)の量を調節した点、及び、パラジウムの担持量が活性炭の総重量に対して0.05重量%となるように1重量部のパラジウム担持活性炭12に対し、パラジウムが添着されていない基材活性炭を39重量部混合して調整した点以外は試作例1と同様とし、試作例12とした。
【0059】
[試作例13]
パラジウム溶液調製工程(S1)において、金属パラジウム濃度を75g/Lとなるよう塩化パラジウム(PdCl)の量を調節した点、及び、パラジウムの担持量が活性炭の総重量に対して0.05重量%となるように1重量部のパラジウム担持活性炭13に対し、パラジウムが添着されていない基材活性炭を59重量部混合して調整した点以外は試作例1と同様とし、試作例13とした。
【0060】
[試作例14]
パラジウム溶液調製工程(S1)において、塩酸溶液の量を25mLとし、金属パラジウム濃度を10g/Lとなるよう塩化パラジウム(PdCl)の量を調節した以外は試作例1と同様とし、試作例14とした。
【0061】
[試作例15]
パラジウム溶液調製工程(S1)において、塩酸溶液の量を15mLとし、金属パラジウム濃度を16.7g/Lとなるよう塩化パラジウム(PdCl)の量を調節した以外は試作例1と同様とし、試作例15とした。
【0062】
[試作例16]
パラジウム溶液調製工程(S1)において、塩酸溶液の量を5mLとし、金属パラジウム濃度を50g/Lとなるよう塩化パラジウム(PdCl)の量を調節した以外は試作例1と同様とし、試作例16とした。
【0063】
エチレン除去試験の結果を表6,7に示す。なお、試作例1の試験結果も併記するとともに、各試作例において変更した金属パラジウム濃度(g/L)、塩酸溶液量(mL)、パラジウム担持活性炭と基材活性炭との混合比を示した。
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
[パラジウムの担持状態の分析]
活性炭に担持されたパラジウムは、エネルギー分散型X線分光法(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によって検証することができる。そこで、試作例1及び試作例14について、各試料を割断し、その断面に対して電子顕微鏡(日本電子株式会社製;電界放出形走査電子顕微鏡「JSM-7800F」)を使用し、A位置からB位置までのパラジウム量をEDSにて測定した。
【0067】
図2は試作例1の活性炭断面のパラジウムをマッピングした画像、図3は試作例14の活性炭断面のパラジウムをマッピングした画像である。図4図2のA-B部分のパラジウムの分布状態をEDSにより測定したグラフ、図5図3のA-B部分のパラジウムの分布状態をEDSにより測定したグラフである。各グラフの横軸は各図のA位置からの距離、縦軸はパラジウム量の割合(%)を示す。
【0068】
[結果と考察(3)]
試作例1,11~13を比較すると、金属パラジウム濃度が12.5g/Lの試作例11を除く各試作例はエチレン除去率が高く、良好な触媒性能を備えたパラジウム担持活性炭であることが示された。また、塩酸溶液量を変更した試作例1,14~16を比較すると、金属パラジウム濃度が10g/Lの試作例14及び16.7g/Lの試作例15のエチレン除去率が低く、触媒性能に劣るパラジウム担持活性炭となった。金属パラジウム濃度が高いパラジウム溶液を用いることによって、基材活性炭の表面に近い部分にパラジウムが担持され良好な触媒性能が得られると考えられる。
【0069】
また、塩酸溶液量の量、つまりパラジウム溶液量はパラジウム担持活性炭の触媒性能には殊更影響を与えるものではなく、パラジウム溶液の金属パラジウム濃度が触媒性能に大きく影響することが理解される。よって、試作例1,11~15を検討すると、本発明の製造方法に用いられるパラジウム溶液の金属パラジウム濃度は、20g/L以上とされることにより、製造されたパラジウム担持活性炭によりエチレンガスは24時間経過後にはおおよそ半分程度にまで分解、除去され、良好な触媒性能を備えることができると考えられる。
【0070】
図4及び図5のグラフから試作例1と試作例14とを比較すると、試作例1では表面にあたるグラフの左右両側の位置にパラジウム量の割合が高いことを示すピークが見られることから、表面にパラジウムが多く担持されていることが確認できた。試作例14ではパラジウム量の割合が高いことを示すピークがなく、全体的に分布していることから、表面におけるパラジウムの担持量が少ないことが確認できた。
【0071】
以上から、パラジウム溶液の金属パラジウム濃度の高低が、本発明の製造方法により得られるパラジウム担持活性炭の触媒性能に大きく寄与することが示されるとともに、パラジウム担持活性炭の製造につき、基材活性炭に対するパラジウム溶液の液量はその触媒性能には影響しないことが示された。つまり、液量の大小により基材活性炭へのパラジウムの添着方法は任意となり、例えば、上記試作例のようなパラジウム溶液を基材活性炭に滴下する方法であっても、パラジウム溶液内に基材活性炭を浸漬する方法であっても、パラジウム担持活性炭の触媒性能には大きく変化がないということができる。
【0072】
ここで、基材活性炭へのパラジウム添着方法につき、浸漬による添着であってもパラジウム担持活性炭の触媒性能に大きく変化がないか確認するために試作例17を作製し、エチレン除去試験を行った。結果を表8に示す。なお、試作例1の試験結果も併記した。
【0073】
[パラジウム担持活性炭の作製(4)]
[試作例17]
試作例1と同様のパラジウム溶液を調製し、該パラジウム溶液に5gの活性炭1(基材活性炭)を浸漬して1時間静置した後、濾過してパラジウム添着活性炭17を得た(パラジウム添着工程(S2))点、及び、パラジウムの担持量が活性炭の総重量に対して0.05重量%となるように1重量部のパラジウム担持活性炭17に対し、パラジウムが添着されていない活性炭1を99重量部混合して調整した点以外は試作例1と同様とし、試作例17とした。
【0074】
【表8】
【0075】
[結果と考察(4)]
表8に示される通り、試作例1と試作例17のエチレン除去性能に差はなかった。このことから、パラジウム添着活性炭を得る際に、パラジウム溶液を活性炭に接触させる方法は滴下であっても浸漬であっても得られるパラジウム担持活性炭の触媒性能には影響がないことが示された。よって、上記した通り、基材活性炭へのパラジウム添着方法は、これらを接触させて馴染ませられればよく、特に限定されないことが示された。
【0076】
また、パラジウム溶液に用いられる塩酸溶液の塩酸濃度の特定のため、塩酸濃度を変更して試作例を作製し、上記したエチレン除去試験により比較検討した。結果を表9に示す。なお、試作例1の結果も表9に併記するとともに、各試作例に用いた塩酸溶液の塩酸濃度(重量%)を示した。
【0077】
[パラジウム担持活性炭の作製(5)]
[試作例18]
塩酸濃度が1.75重量%の塩酸溶液を用いた以外は試作例1と同様とし、試作例18とした。
【0078】
[試作例19]
塩酸濃度が0.70重量%の塩酸溶液を用いた以外は試作例1と同様とし、試作例19とした。
【0079】
[試作例20]
塩酸濃度が0.35重量%の塩酸溶液を用いた以外は試作例1と同様とし、試作例20とした。
【0080】
【表9】
【0081】
[結果と考察(5)]
塩酸濃度が0.70重量%以上の塩酸溶液を用いた試作例18,19及び1は、いずれもエチレン除去率が高く、触媒性能が良好であることが示された。塩酸濃度が0.35重量%の塩酸溶液を用いた試作例20については、パラジウム溶液調製工程において、塩化パラジウムが塩酸溶液にうまく溶解せず、均一な分散がされなかったため触媒性能が低くなってしまったと考えられる。このことから、パラジウム溶液調製工程(S1)において、塩酸溶液の濃度は、所望の金属パラジウム濃度とする際に、塩化パラジウムが十分に溶解可能な濃度とするのがよい。つまり、試作例18~20の試験結果を鑑みると、金属パラジウム濃度を20g/L以上とするには、塩酸濃度を0.5重量%以上とするのがよいと考えられる。
【0082】
次に、パラジウム担持活性炭と基材活性炭とを混合の有無につき、触媒性能に差が生ずるか否かを確認するため、下記の試作例21及び比較例としてパラジウムが担持されていない活性炭を用いてエチレン除去試験を行った。試験結果を表10に示す。なお、試作例1の結果も表10に併記とともに、パラジウム担持活性炭と基材活性炭の混合比を示した。
【0083】
[エチレン除去剤の作製]
[試作例21]
試作例1の作製過程で得たパラジウム担持活性炭1を用い、基材活性炭と混合しないで試作例21のエチレン除去剤とした。なお、エチレン除去試験に際し、試験例21は0.0125g取り出して不織布の袋に収容して試験を行った。
【0084】
[比較例1]
基材活性炭である活性炭1を比較例1のエチレン除去剤とした。なお、エチレン除去試験に際しては、比較例1である活性炭1を0.25g取り出して不織布の袋に収容して試験を行った。
【0085】
【表10】
【0086】
[結果と考察(6)]
表10に示されるように、パラジウムが担持されていない活性炭のみからなる比較例1は、エチレン除去性能が全くなかった。パラジウム担持活性炭のみからなる試作例21は24時間後のエチレンがおおよそ半分になったことから、一定の触媒性能が発揮されたことが理解される。試作例21と同一のパラジウム担持活性炭を同量備え、かつ比較例1と同一のパラジウムが担持されていない活性炭を1:19の割合で備える試作例1については、比較例1及び試作例21と比較してエチレン除去性能に優れることが示された。
【0087】
つまり、エチレン除去性能を備えない比較例1と同一の活性炭が、パラジウム担持活性炭に混合されることにより、パラジウム担持活性炭のエチレン除去性能が向上するということが示されたといえる。おそらく、パラジウムが担持されていない活性炭が、パラジウム担持活性炭とともに存在することによって、パラジウム担持活性炭による触媒反応に必要な水(湿度)が保持されているか、触媒反応により喪失する塩酸の揮散が抑制されることにより、エチレンの分解、除去が促進されたのではないかと考察される。
【0088】
以上のことから、エチレン除去剤として、本発明の製造方法により得られたパラジウム担持活性炭を用いる場合にあっては、パラジウムが担持されていない活性炭と混合されることにより、パラジウム担持活性炭が備える触媒性能をより発揮しやすくすることができ、パラジウムの使用量の削減を図ることができることがわかった。なお、パラジウム担持活性炭と混合されるパラジウムが担持されていない活性炭は、上記考察から基材活性炭と同一の活性炭である必要はないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のパラジウム担持活性炭の製造方法は、使用するパラジウム溶液の金属パラジウム濃度を高くすることによって、基材活性炭の表面付近にパラジウムを担持させ、良好な触媒性能を備えたパラジウム担持活性炭を得ることができる。これにより、用いるパラジウムの総量を減らしつつ、常温下で良好の触媒性能を発揮可能なパラジウム担持活性炭を、低コストかつ効率よく製造可能とするのである。また、本発明の製造方法により得られたパラジウム担持活性炭とパラジウムが担持されていない活性炭とを混合することによって、パラジウム担持活性炭の触媒性能をさらに高めることができ、優れたエチレン除去性能を備えたエチレン除去剤とすることができる。
【符号の説明】
【0090】
S1 パラジウム溶液調製工程
S2 パラジウム添着工程
S3 乾燥工程
図1
図2
図3
図4
図5