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特開2023-168266偏光異方に基づく測定による解析方法及び解析装置
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  • 特開-偏光異方に基づく測定による解析方法及び解析装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168266
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】偏光異方に基づく測定による解析方法及び解析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20231116BHJP
   G01N 33/536 20060101ALI20231116BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01N21/64 A
G01N33/536 D
C09K11/06
C09K11/06 660
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076794
(22)【出願日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2022079524
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】掛川 法重
(72)【発明者】
【氏名】増村 考洋
(72)【発明者】
【氏名】山内 文生
(72)【発明者】
【氏名】金崎 健吾
(72)【発明者】
【氏名】中村 智広
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 生朗
(72)【発明者】
【氏名】榊原 悌互
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043BA17
2G043CA04
2G043DA02
2G043DA08
2G043EA01
2G043EA02
2G043FA03
2G043GA04
2G043GA08
2G043GB18
2G043GB21
2G043HA07
2G043HA09
2G043JA02
2G043JA03
2G043KA02
2G043KA03
2G043KA05
2G043KA07
2G043LA01
2G043NA01
(57)【要約】
【課題】偏光異方に基づいて広い濃度範囲でかつ高感度に標的物質の濃度の解析を可能とする、解析方法および解析装置を提供すること。
【解決手段】標的物質と結合する発光試薬を用いて、偏光異方に関する値(R)を測定することで、前記標的物質の濃度を算出する解析方法であって、前記標的物質を含む試料と、前記発光試薬を混合して、混合液とする混合工程、および前記混合のときから時間T経過後の混合液の前記Rを測定する測定工程、を有し、前記測定工程において、前記RがR1に達したときをT1とし、該T1に基づいて前記標的物質の濃度を算出することを特徴とする解析方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質と結合する発光試薬を用いて、偏光異方に関する値(R)を測定することで、
前記標的物質の濃度を算出する解析方法であって、
前記標的物質を含む試料と、前記発光試薬を混合して、混合液とする混合工程、および前記混合のときから時間T経過後の混合液の前記Rを測定する測定工程、
を有し、
前記測定工程において、前記RがR1に達したときをT1とし、該T1に基づいて前記標的物質の濃度を算出することを特徴とし、さらに
標的物質と混合していない前記発光試薬について測定される前記RをR0としたとき、
R1>R0を満たすことを特徴とする、
解析方法。
【請求項2】
R1-R0≧0.0001を満たすことを特徴とする請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
R0≧0.001であることを特徴とする請求項1に記載の解析方法。
【請求項4】
前記発光試薬が発光粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の解析方法。
【請求項5】
前記発光粒子がユウロピウム錯体を含むことを特徴とする請求項4に記載の解析方法。
【請求項6】
前記発光試薬が前記標的物質に結合するリガンドを含むことを特徴とする請求項1に記載の解析方法。
【請求項7】
前記Rが下記式(1)のrで定められることを特徴とする請求項1に記載の解析方法。
【数1】
(式(1)中、
VV・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
VH・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
HV・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
HH・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
G・・・補正値
である。)
【請求項8】
前記測定工程は、繰り返し行われることを特徴とする請求項1に記載の解析方法。
【請求項9】
前記繰り返し行われる前記測定工程において、第n回目の測定工程ではじめて前記Rが前記R1を超えた場合、第n-1回目の測定工程の終了時間から第n+1の測定工程の開始時間の間のいずれかの数値を前記T1とすることを特徴とする請求項8に記載の解析方法。
【請求項10】
前記繰り返し行われる測定工程は、(a+b)秒周期で繰り返されることを特徴とする請求項8に記載の解析方法、ただし、aは測定に要する時間、bは測定間隔である。
【請求項11】
前記繰り返し行われる前記測定工程において、はじめて前記Rが前記R1に達したときに、該R1があらかじめ定められた値であるR2を超えた場合、前記aとbの少なくともいずれか一方を短く設定することを特徴とする請求項8に記載の解析方法。
【請求項12】
標的物質と結合する発光試薬を用いて、偏光異方に関する値(R)を測定することで、
前記標的物質の濃度を算出する解析装置であって、
前記標的物質を含む試料と、前記発光試薬を混合して、混合液とする混合部、
前記混合のときから時間T経過後の混合液の前記Rを測定する測定部、および
制御部
を有し、
前記制御部は
前記測定部において、前記RがR1に達したときをT1とし、該T1に基づいて前記標的物質の濃度を算出することを特徴とする解析装置、
ただし、標的物質と混合していない前記発光試薬について測定される前記RをR0としたとき、
R1>R0を満たす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光異方に基づく解析方法、および解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医学、臨床検査の分野において、血液や採取された臓器の一部等から微量な生体成分を高感度で検出または定量することは、病気の原因、有無等を追究するために必要である。
生体成分の検査手法の中でも、免疫分析は広く利用されている。多くの免疫分析においては、B/F(Bound/Free)分離と呼ばれる洗浄工程が必要である。B/F分離を必要としない免疫分析の一つに、抗原抗体反応を利用したラテックス凝集法がある。ラテックス凝集法では、標的物質に特異的に結合する抗体等を担持させたラテックス粒子と、標的物質を含み得る液体とを混合して、ラテックス粒子の凝集の程度を測定する。
【0003】
ラテックス凝集法では、標的物質がラテックス粒子に結合した標的物質に特異的な抗体に捕捉され、捕捉した標的物質を介して複数のラテックス粒子が架橋し、その結果、ラテックス粒子の凝集が起きる。つまり、生体試料等の液体試料中の標的物質の量を、ラテックス粒子の凝集の程度を評価することで定量できる。この凝集の程度は、液体試料を透過、あるいは散乱する光の量の変化を測定し、評価することで定量できる。
【0004】
ラテックス凝集法は、簡便かつ迅速に、標的物質である抗原の検出・定量評価ができる一方、生体試料等の液体試料中における抗原の量が少ないと、検出できないという検出限度の課題があった。
【0005】
標的物質の検出感度を向上させるためには、凝集の程度をより高感度に測定することが求められる。すなわち、液体試料を透過、あるいは散乱する光の量の変化を測定するシステムをより感度の高い発光特性を利用して検出・定量する方法に置き換えることが考えられる。具体的には蛍光偏光解消法を利用した検体検査方法等が提案されている(特許文献1、2)。
【0006】
特許文献1では、蛍光偏光解消法の装置を臨床に用いるために改良する提案がされている。
蛍光偏光解消法では、一般的な蛍光測定法で必要とされるB/F分離を必要としない。
したがって、蛍光偏光解消法を用いると、ラテックス凝集法と同様に簡便な検体検査が可能である。さらに、蛍光偏光解消法を用いると、測定プロセスが、標的物質と特異的に反応する発光物質を混合するだけで、ラテックス凝集法と同検査システムで測定することが可能であると考えられる。一方、特許文献1では、フルオレセイン等の単分子を発光材料に用いることを提案していて、原理的に薬物や低分子の抗原等にしか適用ができなかった。
【0007】
特許文献2は、特許文献1の課題であった、薬物や低分子の抗原等にしか蛍光偏光解消法が適用されないという点を解消した。すなわち、特許文献2では、タンパク質等の高分子に蛍光偏光解消法を適用することを目的とし、発光材料としてラテックス粒子に長寿命の発光特性を有する色素を吸着した材料を用いることを提案する。特許文献2では、蛍光偏光解消法の原理から、粒径が大きくなることに伴う液中の物質の回転ブラウン運動の低下と、発光寿命の長さのバランスをとることで、高分子の物質の定量を提案している。しかし、特許文献2では、蛍光物質をラテックス粒子合成後に粒子に担持させるため、粒子表面近傍に吸着した蛍光物質同士の相互作用等により、検査用粒子の偏光異方性を安定して決定することが難しい。さらに特許文献2では、非特異吸着を抑制するために、粒子は表面に生体分子であるウシ血清アルブミン(BSA)を担持するため、粒度分布が広いことや、タンパク質であるBSAによって、ロット間にばらつきが生じる可能性があった。
そのため、標的物質の濃度がμg/mLオーダーでの測定となり、測定感度の上でラテックス法と大きな差がない。
【0008】
さらに、特許文献2では、特定の反応時間前後における粒子間の凝集におる偏光異方性の差を計測する方法や、反応時間経過の終点の偏光異方性の値で評価する方法を提案している。
【0009】
特許文献2の測定方法だと、偏光異方性の上限値はプローブとする発光物質で決まっているので、広レンジで測定を行う時は、標的物質の濃度に応じで、試薬の量を調整する必要がある。言い換えると、一種類の試薬を用いて測定できる濃度範囲が限定的であった。
【0010】
したがって、特許文献2においても、標的物質の高感度かつ広い濃度範囲での検出は実現できているとは言い難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平3-52575号公報
【特許文献2】特許第2893772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、偏光異方に基いて広い濃度範囲でかつ高感度に標的物質の濃度の解析を可能とする、解析方法および解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は一実施形態として、標的物質と結合する発光試薬を用いて、偏光異方に関する値(R)を測定することで、前記標的物質の濃度を算出する解析方法であって、
前記標的物質を含む試料と、前記発光試薬を混合して、混合液とする混合工程、および前記混合のときから時間T経過後の混合液の前記Rを測定する測定工程、
を有し、
前記測定工程において、前記RがR1に達したときをT1とし、該T1に基づいて前記標的物質の濃度を算出することを特徴とし、さらに
標的物質と混合していない前記発光試薬について測定される前記RをR0としたとき、R1>R0を満たすことを特徴とする、
解析方法を提供する。
【0014】
また、本発明は一実施形態として、標的物質と結合する発光試薬を用いて、偏光異方に関する値(R)を測定することで、前記標的物質の濃度を算出する解析装置であって、
前記標的物質を含む試料と、前記発光試薬を混合して、混合液とする混合部、
前記混合のときから時間T経過後の混合液の前記Rを測定する測定部、および
制御部
を有し、
前記制御部は、前記測定部において、前記RがR1に達したときをT1とし、該T1に基づいて前記標的物質の濃度を算出することを特徴とする解析装置を提供する。
ただし、標的物質と混合していない前記発光試薬について測定される前記RをR0としたとき、
R1>R0を満たす。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態に係る解析方法によると、粒子の凝集・分散の挙動に対応し、偏光異方の変化を高感度に検出することができ、広い濃度範囲で計測が可能となる。本発明の実施形態に係る解析装置によれば、偏光異方に基づいて高感度かつ広い濃度範囲にわたる標的物質を検出・定量することができる。
本発明のさらなる特徴は以下の実施形態の説明及び図により明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る解析方法を説明する概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る解析方法を説明する概略図である。
図3】本発明の実施形態に係る装置を説明する概略図である。
図4】本発明の実施形態に用いられる発光試薬を説明する概略図である。
図5】評価結果を示し、すなわち、CRP抗原濃度を、本発明の実施形態に係る方法で定量した結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
本発明は実施形態の一として以下の解析方法を提供する。
標的物質と結合する発光試薬を用いて、偏光異方に関する値(R)を測定することで、前記標的物質の濃度を算出する解析方法であって、
前記標的物質を含む試料と、前記発光試薬を混合して、混合液とする混合工程、および前記混合のときから時間T経過後の混合液の前記Rを測定する測定工程、
を有し、
前記測定工程において、前記RがR1に達したときをT1とし、該T1に基づいて前記標的物質の濃度を算出することを特徴とし、さらに
標的物質と混合していない前記発光試薬について測定される前記RをR0としたとき、R1>R0を満たすことを特徴とする、
解析方法。
【0018】
(偏光異方に関する値)
本実施形態において、偏光異方に関する値(Rと示すことがある)は以下のように定められる。すなわち、発光物質に偏光を照射して励起して生じた発光について、照射した偏光に対して平行方向の偏光成分の発光強度と、垂直方向の偏光成分の発光強度の関係を示す値である。より具体的には、Rとは、発光物質を、ある偏光で励起したとき、その偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度、及びその偏光と振動方向が直交する(垂直な)発光成分の発光強度を求め、これに由来して算出される値である。さらには、第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度と、第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度の差と、これらの和との割合を示す値である。ただし、Rは第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度と第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度の割合、及びその他定数で補正されてもよい。偏光異方に関する値は、偏光異方性、偏光度等と称呼される値を含む。
【0019】
より具体的には、例えば、Rは、下記式(1)のrとすることができる。
【数1】
(式(1)中、
VV・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
VH・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
HV・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
HH・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
G・・・補正値
である。)
【0020】
また、Rは、下記式(2)のr’とすることができる。
【数2】
各記号については式(1)に同じである。
【0021】
Rの測定の条件は、例えば、温度0℃以上50℃以下の液中で、該液体の粘度は0.5Pa・s以上50mPa・s以下であることが好ましい。発光試薬がユーロピウム錯体を含む粒子である場合、発光試薬の濃度は0.001mg/ml以上0.1mg/ml以下で測定することが好ましく、また、励起波長が500nm以上700nm以下であることが好ましい。
【0022】
(R1およびR0について)
R1は、解析者が測定の目的や標的物質の性質に応じて適宜定めることができる。
例えば高い感度で(低い濃度範囲で)標的物質の濃度を解析することを目的とする場合は、R1-R0≧0.0001とすることが好ましい。たとえば、測定試料中の標的物質を1pM以上10nM以下の測定範囲で解析するためには、R1-R0≧0.0001とすることが好ましい。なお、R1-R0の最大値は解析方法の構成から求まる理論値である0.4である。
【0023】
一方、低い感度で(高い濃度範囲で)標的物質の濃度を解析することを目的とする場合は、R1-R0を低くすることが好ましい。たとえば、測定試料中の標的物質を1nM以上1M以下の測定範囲で解析するためには、R1-R0<0.0001とすることができる。
【0024】
R1は、測定者が、あらかじめ、様々な濃度が既知の標準試料を用いて、偏光異方に関する値を測定し、検量線を作成し、決定することができる。
【0025】
また、標的物質と混合していない前記発光試薬について測定される前記RであるR0については、好ましくはR0≧0.001を満たす。
【0026】
(混合工程について)
各工程については、図1を参照することができる。混合工程において、標的物質を含む試料と、発光試薬を混合して、混合液とする。混合液は、発光試薬と標的物質を含んだ液であり、さらに、それ以外の添加剤などを含んでもよい。混合は、pH3.0以上pH11.0以下の範囲で行われることが好ましい。また、混合温度は20℃以上50℃以下の範囲である。標的物質、発光試薬については、後述する。
【0027】
(測定工程について)
測定工程において、混合のときから時間T経過後の混合液のRを測定する。ここで、混合のときとは、試料と発光試薬とが触れた時刻に限定されず、測定が適切に行われる範囲で、触れた時刻から一定時間が経過した後の時刻でもよい。例えば、試料と発光試薬とが触れた時刻から一定時間(例えば10秒)経過後の時刻、試料と発光試薬とが触れた後に行われる攪拌工程が完了した時刻、前記攪拌行程が完了した時刻から一定時間が経過した後の時刻のいずれかであってもよい。測定の条件は、例えば、温度0℃以上50℃以下の液中で、該液体の粘度は0.5mPa・s以上50mPa・s以下であることが好ましい。発光試薬の濃度は0.0001mg/ml以上0.1mg/ml以下で測定することが好ましく、また、励起波長が500nm以上700nm以下であることが好ましい。
【0028】
標的物質に一定の標的物質が存在する場合は混合液のRが反応時間と共に上昇する。
Rの数値の上昇速度は、標的物質中の標的物質の濃度に依存する。具体的には、標的物質が高濃度の時は、R値の上昇速度は速く、低濃度の時は上昇速度が低くなる。
【0029】
すなわち、偏光異方性Rの値がR1に達する反応時間は標的物質が高濃度の場合は短く、標的物質が低濃度の時は長くなる。
【0030】
ちょうどR1となるときが測定中とは限らないため、T1は、R1に近い値が測定されたときから、推測して決めることができる。
【0031】
T1は測定結果から算出して決定することも可能である。例えば一定の時間間隔で混合液を測定すると、反応時間に対して偏光異方性Rの上昇速度が計算可能となる。すなわち、反応時間に対するRの変化の傾きから、測定している混合液のR値がR1に達する時間を計算し決定することが可能である。
【0032】
R1値を予測できることで測定時間を短縮することが可能となる為、標的物質が低濃度の場合に好適に用いることができる解析方法である。
【0033】
また、偏光異方性R1の値は後から決定しても構わない。Tに対するRの変化をプロットしたデータを測定した後にR1の数値を決定し、同様に計測した標準物質の結果と比較する工程を用いて定量評価することも可能である。
【0034】
本実施形態の解析方法を用いると、標的物質の濃度に応じて多くの検査試薬を調整すること無く、広い範囲での濃度の決定が可能となる。一般に解析装置に同じ種類の標的物質の為に多数の試薬を準備しておくことは煩雑なだけではなく、設置スペースなどにも影響を与える為問題となることが多い。また、測定濃度範囲を超えてしまったため、定量に失敗した場合、検体の希釈や調整を再度行う必要があり、一測定に対するコストが増大する。そのため、少ない種類の試薬で広い測定範囲をカバーできることは、検体検査を行う上で重要な価値を持つ。
【0035】
測定工程は、繰り返し行われることが好ましい。図1に示す通り、RがR1に達しないときはさらに測定工程を行うことができる。
【0036】
繰り返し行われる測定工程は、周期的に繰り返すことができ、例えば(a+b)秒周期で繰り返すことができる。ただし、aは測定に要する時間、bは測定間隔である。すなわち、測定にa秒間かかり、その後b秒間の間隔を開けたあとに、次の測定を始めることができる。例えば、aは1ミリ秒以上10秒以下、bは1秒以上1分以下とすることができる。
例えば、a+bは、1秒以上10分以下、より好ましくは1秒以上1分以下、さらには、15秒以上30秒以下などとすることができる。
【0037】
繰り返し行われる測定工程において、第n回目の測定工程ではじめてRがR1を超えた場合、例えば、第n-1回目の測定工程の終了時間から第n+1の測定工程の開始時間の間のいずれかの数値をT1とすることができる。
【0038】
(R2について)
あらかじめRの上限値(R2)を定めることができる。すなわち、RがはじめてR1を超える周期において、R2をも超えてしまう場合は、aとbの少なくともいずれか一方を短くして、周期を調整することが好ましい(図2)。たとえば、混合液中の標的物質の濃度が高く、反応開始からわずかな時間で偏光異方性のR値がR2に達してしまう場合がこれに該当する。このような場合、aまたはbを短くして、新たにRを測定し、それに適合する検量線に基づいて、高濃度の液の定量を行う。
【0039】
R2は、たとえば、発光試薬が飽和する程度に標的物質を加えた場合に測定されるRとすることができる。
【0040】
なお、同様に、混合液中の標的物質の濃度が低く、R値の上昇が遅い場合は、aまたはbを長くして偏光異方に関する値を測定し、それに適合する検量線と測定結果を比較する工程を行うことで、低濃度の液の定量を行うことができる。
【0041】
このように、反応時間で検量線と比較して定量する工程の条件を分けることで、少ない種類の試薬で広い測定範囲をカバーすることが可能となる。
【0042】
また、本発明はさらなる実施形態として、以下の測定装置を提供する。
標的物質と結合する発光試薬を用いて、偏光異方に関する値(R)を測定することで、前記標的物質の濃度を測定する測定装置であって、
前記標的物質を含む試料と、前記発光試薬を混合して、混合液とする混合部、
前記混合のときから時間T経過後の混合液の前記Rを測定する測定部、および
制御部
を有し、
前記制御部は
前記測定部において、前記RがR1に達したときをT1とし、該T1に基づいて前記標的物質の濃度を算出することを特徴とする測定装置、
ただし、標的物質と混合していない前記発光試薬について測定される前記RをR0としたとき、
R1>R0を満たす。
【0043】
(標的物質)
標的物質の例として、抗原、抗体、低分子化合物、各種レセプター、酵素、基質、核酸、サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質、情報伝達物質、膜タンパク質等を挙げることができる。抗原として、アレルゲン、細菌、ウィルス、細胞、細胞膜構成成分、がんマーカー、各種疾病マーカー、抗体、血液由来物質、食品由来物質、天然物由来物質、あらゆる低分子化合物を挙げられる。核酸として、細菌、ウィルス、細胞等由来のDNA、RNA、cDNA、それらの一部または断片、合成核酸、プライマー、プローブ等を挙げられる。低分子化合物としては、サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質、情報伝達物質、膜タンパク質等とそれらのレセプター等を挙げられる。本実施形態に係る解析方法は、標的物質の濃度を所定の閾値と比較して標的物質の有無を決定することもできる。例えば、標的物質の濃度が所定の閾値以上である場合に標的物質がある、所定の閾値未満である場合に標的物質がない、のように決定することができる。
【0044】
(発光試薬)
本実施形態において、発光試薬は、発光を生じる試薬であり、特に、光を照射して励起され発光する試薬であり、ルミノールのように化学反応により生じる発光によるものは除く。発光は、燐光、蛍光を含むが、好ましくは燐光である。より好ましくは、本実施形態において発光試薬は、ユウロピウム錯体を含む。また、より好ましくは本実施形態において、発光試薬は粒子を含む。最も好ましくは、本実施形態において、発光試薬は、ユウロピウム錯体を含む粒子を含む。また、発光試薬は、標的物質に特異的なリガンドを有することが好ましい。リガンドを有することで、本実施形態の粒子は、偏光異方に基づく、標的物質の検出・定量が可能となる。本実施形態において、リガンドとは、特定の標的物質に特異的に結合する化合物のことである。
【0045】
リガンドは特定の物質にアフィニティーを示すものであれば、あらゆるものを用いることができる。リガンドと標的物質あるいは標的物質とリガンドの組み合わせの例として以下を挙げることができる。すなわち、抗原と抗体、低分子化合物とそのレセプター、酵素と基質、相補的核酸同士を挙げることができる。さらに、抗体と、それに特異的な、アレルゲン、細菌、ウィルス、細胞、細胞膜構成成分、がんマーカー、各種疾病マーカー、抗体、血液由来物質、食品由来物質、天然物由来物質、あらゆる低分子化合物等を挙げることができる。さらには、レセプターと、それに特異的な、低分子化合物、サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質、情報伝達物質、膜タンパク質等を挙げることができる。さらには、細菌、ウィルス、細胞等由来のDNA、RNA、cDNA、それらの一部または断片、合成核酸、プライマー、プローブ等と、それらに相補性を有する核酸等を挙げることができる。上記以外においても、アフィニティーを有することが知られる組合せであれば、あらゆるものが、標的物質とリガンドの組合せとして用いられる。本実施形態におけるリガンドは典型的には、抗体、抗原、および核酸のいずれかを挙げられる。
【0046】
図4は本実施形態に用いられる発光試薬の一例を示す概略図である。本実施形態に用いられる発光試薬4は、好ましくはユウロピウム錯体3を含有する粒子基質1、さらに、その表面を被覆する親水層2から構成される。図4中の発光試薬の直径は25nm以上500nm以下である。
【0047】
粒子の直径は動的光散乱法により求めることができる。溶液中に分散している粒子にレーザー光を照射し、その散乱光を光子検出器で観測すると、粒子はブラウン運動によりその位置を絶えず移動しているため、散乱光の干渉による強度分布は絶えず揺らいでいる。
動的光散乱法は、このブラウン運動の様子を散乱光強度の揺らぎとして観測する測定法である。時間に対する散乱光の揺らぎを自己相関関数で表し、並進拡散係数を決定する。決定した拡散係数からストークス径を求めて、溶液中に分散している粒子サイズを導き出せる。
【0048】
発光試薬は、粒子の均一性と単分散性を保つという観点からは、粒子の表面に何も付与しないことが望ましい。しかし、本実施形態に係る解析方法に用いるためには、目的以外の物質が粒子に非特異吸着することを防ぐ必要があるため、発光試薬の表面を親水性に保つための親水層を有することが好ましい。
【0049】
親水性を保つ手法として、粒子の表面にBSAを担持する方法が汎用されるが、この方法はロットばらつきを生じる場合がある。そこで、発光試薬は、親水性のポリマーを含む親水層を含むことが好ましい。発光試薬の濃度は、混合液中、好ましくは0.000001質量%以上1質量%以下、より好ましくは0.00001質量%以上0.001質量%以下である。
【0050】
本実施形態に用いられる発光試薬は、ユウロピウム錯体を含むことで、長寿命のりん光を発光することができる。本実施形態に用いられる発光試薬は、好ましくは、粒子の直径の平均である平均粒子径が25nm以上500nm以下であり、より好ましくは、平均粒子径は50nm以上300nm以下である。平均粒子径が500nmを超えると、凝集前の偏光異方性が高くなり、凝集反応後の偏光異方性との差が小さくなってしまう。また、平均粒子径が25nm未満では、凝集前後の大きさの変化が小さくなり、りん光の発光偏光解消ではRの変化を捉えることが難しくなる。
【0051】
発光試薬の粒度分布を小さくすることと、発光分子としてユウロピウム錯体を導入することで、粒子の液中での分散状態にわずかな変化が起きたとしても、偏光発光特性の変化を捉えることができる。具体的には、溶液中の標的物質の濃度が1mL当たりナノグラム~ピコグラム程度、例えば1ピコグラム以上100ピコグラム以下であったとしても、標的物質を介して発光試薬が凝集したときに、発光試薬の回転ブラウン運動の変化を偏光異方の変化として捉えることができる。
【0052】
偏光発光とは、遷移モーメント(遷移双極子モーメント)に異方性がある発光材料において、その遷移モーメントに沿った偏光を励起光とすると、発光も同様に遷移モーメントに沿った偏光となることをいう。ユウロピウム錯体は、配位子から中心金属イオンへのエネルギー移動に基づいた蛍光発光を示すため、遷移モーメントは複雑になるが、最低励起状態5D0から7F2への電子遷移に由来する610nm付近における赤色発光は偏光発光する。
【0053】
偏光異方の原理は偏光発光が起きている時間内における発光材料の回転運動による遷移モーメントのズレを計測するものである。発光材料の回転運動は式(3)で表せる。
Q=3Vη/kT・・・(3)
ここで、
Q:材料の回転緩和時間
V:材料の体積
η:溶媒の粘度
k:ボルツマン定数
T:絶対温度
である。
【0054】
材料の回転緩和時間は、cosθ=1/eとなる角度θ(68.5°)を分子が回転するのに要する時間である。
【0055】
式(3)より、発光材料の回転緩和時間は材料の体積、つまり発光材料が粒子形状である場合、粒径の3乗に比例することがわかる。一方、発光材料の発光寿命と偏光異方に関する値である偏光度の関係は式(4)で表せる。
p0/p=1+A(τ/Q)・・・(4)
ここで、
p0:材料が停止しているとき(Q=∞)の偏光度
p:偏光度
A:定数
τ:材料の発光寿命
Q:回転緩和時間
である。
【0056】
式(3)および式(4)より、偏光度には発光材料の発光寿命と回転緩和時間、すなわち発光材料の体積(粒径)が影響し、すなわち、発光材料の粒径と発光寿命のバランスが影響することが分かる。
【0057】
式(4)で示した発光材料の偏光度を実験から求める場合、発光材料に偏光を入射し、励起光の進行方向および振動方向と90度方向に発光を検出すればよい。この時、検出光を入射光の偏光と平行と垂直方向の偏光成分に分けて検出し、例えば式(5に示す偏光異方性を偏光異方に関する値とすればよい。
R(t)=(I∥(t)―GI⊥(t))/(I∥(t)+2GI⊥(t))・・・(5)
ここで、
R(t):時間tにおける偏光異方性
I∥(t):時間tにおける励起光と平行な発光成分の発光強度
I⊥(t):時間tにおける励起光と垂直な発光成分の発光強度
G:補正値、サンプル測定に使用した励起光と振動方向が90度異なる励起光で計測したI⊥/I∥の比
である。
【0058】
つまり、適切な粒子サイズと発光寿命の範囲で有れば、標的物質との反応等による発光材料のサイズの変化を鋭敏に偏光異方性の変化として読み取ることが可能となる。すなわち、凝集していない発光材料のR(t)は低く、凝集した発光材料のR(t)は高く観察される。これが偏光異方の原理である。
【0059】
なお、偏光異方に関する値は、Gおよび2Gで補正をしてもよいし、あるいは、Gおよび2Gを外した値としてもよい。
【0060】
(粒子基質1)
図4は、球状の発光試薬4の例を示し、発光試薬4は粒子基質1を含む。図4では、発光試薬4、粒子基質1が共に球状の例を示すが、本実施形態に用いられる発光試薬4および粒子基質1の形状は限定されるものではない。粒子基質1は、ユウロピウム錯体を安定に取り込める材料であれば特に指定はないが、スチレンユニットと有機シランユニットとを含む重合体であることが好ましく、特にスチレンを主成分にラジカル重合性有機シランを含む組成物を重合した重合体等が好適に用いられる。組成物中、スチレンを主成分に含むことで、後述する乳化重合法で非常に粒度分布が揃った粒子を作製することが可能であり、また、有機シランユニットを含む重合体とすることで、水溶媒中で重合体にシラノール基(Si-OH)が生じ、粒子基質表面で互いにシロキサン結合(Si-O-Si)を形成し、これを介して後述する親水層やリガンドを付与することができる。本実施形態に係る粒子は、粒子基質の外側にリガンドを結合できるリガンド結合官能基を有していることが好ましい。
【0061】
(親水層2)
親水層2は、粒子基質1の外側に、親水性ポリマーまたは親水性分子を含み構成されることができる。親水性ポリマーまたは親水性分子とは、親水基を含むポリマーあるいは分子であり、親水基としては、具体的には水酸基、エーテル、ピロリドン、ベタイン構造等を有する分子、ポリマーを挙げられる。親水性ポリマーとして、具体的にはポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、スルホベタインのポリマー、ホスホベタインのポリマー、グリシジル基を開環し水酸基を分子の末端に修飾したポリグリシジルメタクリル酸等を挙げられ、これらを親水層2の主成分とすることができる。あるいは、親水基を有する単分子を粒子基質1の表面にシランカップリング剤等を用いて直接付与することで親水層2としてもよい。親水層2の厚さに限定はないが、親水性を発揮できる厚さ以上に厚くする必要はない。親水層2が厚すぎるとヒドロゲルの様になり、溶媒中のイオンの影響で水和して親水層の厚さが不安定となる可能性がある。親水層2の厚さは1nm以上15nm以下が好適である。
【0062】
(ユウロピウム錯体3)
本実施形態に用いられる発光試薬は発光色素としてユウロピウム錯体3を含むことができる。ユウロピウム錯体3は、発光の波長や強度が周囲の影響を受けにくく、発光が長寿命であるという特徴を有する。ユウロピウム錯体3はユウロピウム元素と配位子より構成される。発光寿命や可視の発光波長領域等を考慮し、発光色素は、ユウロピウム錯体が好ましい。ユウロピウムは一般的に0.1ms以上~1.0ms以下の発光寿命を有する。この発光寿命と、式(1)より得られる回転緩和時間を適度に調整する必要がある。水分散液中のユウロピウムの場合、発光試薬の直径が50nm以上から300nm以下だと、凝集前後においてRが大きく変化する。
【0063】
ユウロピウム錯体3を構成する配位子のうち、少なくとも一つは光集光機能を有した配位子である。光集光機能とは、特定の波長で励起し、エネルギー移動によって錯体の中心金属を励起する作用のことである。また、ユウロピウム錯体3を構成する配位子にβ-ジケトン等の配位子が存在し、水分子の配位を防いでいることが好ましい。ユウロピウムイオンに配位しているβ-ジケトン等の配位子が、溶媒分子等へのエネルギーの移動による失活過程を抑制し、強い発光が得られる。
【0064】
ユウロピウム錯体3は、多核錯体であっても構わない。
また、ユウロピウム錯体の具体例として、[トリス(2-テノイルトリフルオロアセトン)ビス(トリフェニルホスフィンオキシド)ユウロピウム(III)]([Tris(2-thenoyltrifluoroacetone)(Bis(triphenylphosphineoxide))europium(III)])、[トリス(2-テノイルトリフルオロアセトン)(トリフェニルホスフィンオキシド)(ジベンジルスルホオキシド)ユウロピウム(III)]([Tris(2-thenoyltrifluoroacetone)(triphenylphosphineoxide)(dibenzylsulfoxide)europium(III)])、[トリス(2-テノイルトリフルオロアセトン)フェナントロリンユウロピウム(III)]([Tris(2-thenoyltrifluoroacetone)phenanthroline)europium(III)])が挙げられる。
【0065】
媒体中でユウロピウム錯体3のブラウン回転運動が停止しているとみなせる状態の時、式(3)で表される偏光異方性が0.08以上あることが望ましい。ブラウン回転運動が停止しているとみなせる状態とは、粒子の回転緩和時間がユウロピウム錯体3の発光寿命よりも十分に長い状態のことを示す。
【0066】
ユウロピウム錯体3は粒子基質1に多く取り込まれた方が一粒子当たりの発光強度が強くなるので好ましい。一方で、粒子基質1中でユウロピウム錯体3が凝集すると、配位子同士の相互作用によりユウロピウム錯体3の励起効率等に影響を及し、再現性を保って偏光異方性の測定することが難しくなる。粒子基質1中で非凝集的な発光挙動をユウロピウム錯体3が示しているかどうかは、試料の励起スペクトルから判断することができる。
【0067】
強い発光を有する粒子は、単に高感度計測を可能にするだけではなく、粒子径を小さくしても発光を保つので、生化学的な反応速度を早くすることを可能にする。粒径が小さいほうが液中のブラウン運動の拡散係数が大きくなるため、より短時間で反応を検出することが可能となる。
【0068】
本実施形態に係る解析方法に、このような粒子を分散した液体を用いると、高感度に、粒子の凝集・分散の挙動に対応して偏光発光の異方性の変化を検出することができる。このような粒子を水溶媒に分散した分散液は、偏光異方を用いた高感度な検査試薬として利用することができる。水溶媒には、緩衝液を用いてもよい。また、粒子を分散した液体の安定性を増すために、水溶媒中に、界面活性剤、防腐剤や増感剤等を添加してもよい。
【0069】
(発光試薬の製造方法)
次に、本実施形態に用いられる発光試薬の製造方法の一例を説明する。
発光試薬の製造方法は、少なくともスチレンおよびラジカル重合性有機シランを含むラジカル重合性モノマー、ラジカル重合開始剤、偏光発光性ユウロピウム錯体、および、親水性ポリマーを水系媒体と混合して乳濁液を調製する工程(第一の工程)を有する。
【0070】
発光試薬の製造方法は、乳濁液を加熱し、ラジカル重合性モノマーを重合する工程(第二の工程)を有する。
【0071】
さらに、発光試薬の製造方法は、後述するリガンド結合官能基を発光試薬表面に付与する工程(第三の工程)を有することができる。ここで、リガンド結合官能基とは、リガンドを結合できる官能基であって、具体的には、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、エポキシ基、マレイミド基、スクシニミジル基、または、アルコキシシリル基(シリコンアルコキシド構造)のいずれかを用いることができる。
【0072】
(ラジカル重合性モノマー)
発光試薬の製造は、ラジカル重合性モノマーを重合して行い、ラジカル重合性モノマーは少なくとも、スチレンおよびラジカル重合性有機シランを含む。ラジカル重合性モノマーはさらに、アクリレート系モノマー、メタクリレート系モノマーからなる群より選択されるモノマーを含むことができる。モノマーとして、例えば、ブタジエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリロニトリル、アクリル酸メチル、これらの混合物等を挙げることができる。すなわち、これらのモノマーのうち、1種であるいは複数種を、スチレンおよびラジカル重合性有機シランに加えて使用できる。また一つの分子内に二重結合を2つ以上有するモノマー、例えばジビニルベンゼンを架橋剤として用いてもよい。
【0073】
ラジカル重合性モノマーが、ラジカル重合性有機シランを含むことで、粒子基質1には、シロキサン結合が付与される。ラジカル重合性有機シランの例として、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、あるいはこれらの組合せを挙げることができる。ラジカル重合性有機シランを用いることで、粒子基質1内に無機酸化物の骨格が形成され、発光試薬の物理、化学的安定性を向上する役割がある。さらに、ラジカル重合性有機シランを用いることで、粒子基質1と、親水層2やリガンド結合官能基の親和性が高まる。
【0074】
さらに、ラジカル重合性モノマーが、ラジカル重合性有機シランを含むことで、粒子基質1の表面にシラノール基が付与される。シラノール基と親水性ポリマー、例えばPVPは水素結合を形成する。これによって、PVP等の親水性ポリマーはより強固に粒子基質1の表面に吸着する。
【0075】
(ラジカル重合開始剤)
ラジカル重合開始剤としては、アゾ化合物、有機過酸化物等から広く使用することができる。具体的には、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、teRt-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム(NPS)、過硫酸カリウム(KPS)等を挙げることができる。
【0076】
(親水性ポリマー)
発光試薬は親水層として、親水性ポリマーを含むことができる。親水性ポリマーは、非特異吸着を抑制することが好ましい。親水性ポリマーの例として、エーテル、ベタイン、ピロリドン環等を有するユニットを含む親水性ポリマーを挙げられる。親水層は、合成した発光試薬に含まれ、主に粒子基質の外側の粒子表面に存在することが好ましい。本明細書中において、ピロリドン環を有するポリマーを、「PVP」と略す場合がある。発光試薬の合成時にPVPを投入することにより、発光試薬に非特異吸着抑制能と、リガンド結合能を一度に付与することが可能となる。合成時に投入されるPVPは、ラジカル重合性モノマーよりも親水性が高いので、合成時に溶媒と重合中の粒子基質との界面に存在する。粒子基質は、重合時にPVPを一部巻き込むことや、ピロリドン環とスチレン(ラジカル重合性モノマー)との相互作用等の物理・化学吸着によって、その外側にPVPを吸着する。
【0077】
PVPの分子量は10000以上100000以下が好ましく、40000以上70000以下がより好適である。分子量が10000未満だと、発光試薬表面の親水性が弱く、非特異吸着を起こし易くなる。分子量が100000より大きいと、親水層が厚くなりすぎて、ゲル化して扱いにくくなる。
【0078】
PVPに加えて、粒子基質合成時に保護コロイドとして親水性ポリマーを添加しても構わない。
【0079】
また、発光試薬は、好ましくはA2-A1≦0.1を満たす。
A1、A2は次のように定義される。すなわち、15倍希釈したヒト血清16μLを混合した60μLの緩衝液に、0.1重量%の発光試薬の分散液30μLを添加した混合物の、添加の直後の吸光度をA1とし、前記添加後37℃にて5分間放置した後の吸光度をA2とする。吸光度は光路10mm、波長572nmで測定される。
A2-A1が0.1以下となる粒子は、血清中の夾雑物の非特異吸着が小さいため、好ましい。
【0080】
(水系媒体)
上述の発光試薬の製造方法に用いられる水系媒体(水溶液)は、媒体中に含まれる水が80重量%以上100重量%以下であることが好ましい。水系溶媒は、水や、水に可溶な有機溶媒が好ましく、例としてメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンを水に混合した溶液を挙げられる。水以外の有機溶媒を20重量%より多く含有させると、粒子製造時に重合性モノマーの溶解が生じるおそれがある。
【0081】
また上記水系媒体は、pHが6以上9以下に予め調整されていることが好ましい。pHが6未満または9より大きい値であると、ラジカル重合性有機シランのアルコキシド基やシラノール基が重合体の形成前に縮重合や他の官能基と反応してしまい、得られる粒子が凝集するおそれがある。本実施形態においては、重合前にアルコキシドを意図的に縮重合することは行わない。
【0082】
上記pHの調整は、pH緩衝剤を用いて調整することが好ましいが、酸、塩基で調製しても構わない。
【0083】
そのほかに、界面活性剤、消泡剤、塩、増粘剤等を水系媒体に対して10%以下の割合で添加して用いても構わない。
【0084】
発光試薬の製造の際には、はじめにpHが6乃至9に調整された水系媒体にPVPを溶解することが好ましい。PVPの含有量は水系媒体に対して0.01重量%以上10重量%以下が好ましく、より好ましくは、0.03重量%以上5重量%以下である。0.01重量%未満だと、粒子基質への吸着量が少なくその効果が発現されない。また10重量%より多いと水系媒体の粘度が上昇し、撹拌が十分に行えない可能性がある。
【0085】
続いて、スチレン(A)およびラジカル重合性有機シラン(B)を含むラジカル重合性モノマーを上記水系媒体中に添加し乳濁液とする。スチレン(A)とラジカル重合性有機シラン(B)の重量比は、6:4から100:1である。さらに、調製した乳濁液にユウロピウム錯体を混合する。この時、ユウロピウム錯体の溶解度が低い場合は非水溶性の有機溶媒を加えてもよい。ユウロピウム錯体とラジカル重合性モノマーの重量比は1:1000から1:10である。
【0086】
スチレン(A)とラジカル重合性有機シラン(B)の重量比が6:4より小さいと、粒子全体の比重が上がり、粒子の沈降が顕著となるおそれがある。また、PVPと発光粒子の密着性を上げるためには、スチレン(A)とラジカル重合性有機シラン(B)の重量比を100:1以上とすることが望ましい。
【0087】
水系媒体の重量とラジカル重合性モノマーの合計量の重量比は、5:5から9.5:0.5が好ましい。水系媒体の重量とラジカル重合性モノマーの合計量の重量比が5:5より小さいと生成される粒子の凝集が顕著となるおそれがある。また、水系媒体の重量とラジカル重合性モノマーの合計量の重量比が9.5:0.5より大きいと、粒子の生成には問題ないが、生成量が少なくなるおそれがある。
【0088】
ラジカル重合開始剤は、水、緩衝剤等に溶解させて用いる。スチレン(A)、ラジカル重合性有機シラン(B)の合計の重量に対するラジカル重合開始剤は、乳濁液において0.5質量%以上10質量%以下の間で用いることができる。
【0089】
上記乳濁液を加熱する工程は、乳濁液全体が均一に加熱されればよい。加熱温度は、50℃以上80℃以下、加熱時間は2時間以上24時間以下の間で任意に設定できる。乳濁液を加熱することにより、ラジカル重合性モノマーが重合される。
【0090】
発光試薬は、リガンド結合官能基を表面に有することができる。リガンド結合官能基は、抗体、抗原、酵素等を結合できる官能基であれば特に限定はないが、例えば、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、エポキシ基、マレイミド基、スクシニミジル基、シリコンアルコキシド基等であること、あるいはこれらの官能基を含むことができる。例えば、リガンド結合官能基を有するシランカップリング剤と、合成した粒子を混合することで、官能基を粒子表面に付与することが可能である。具体的には、カルボキシ基を有するシランカップリング剤の水溶液を用意して、合成した粒子分散液に混合することで、粒子表面にカルボキシ基を付与することができる。この時、反応溶液にTween20等の分散剤を添加してもよい。反応温度は、0℃以上80℃以下、反応時間は1時間以上24時間以下の間で任意に設定できる。急激なシランカップリング剤の縮合反応を抑えるために、25℃程度の室温からそれ以下の温度で、3時間以上14時間以下の反応時間で設定することが好適である。リガンド結合官能基によっては酸、またはアルカリの触媒を添加して、粒子表面への反応を促進させることもできる。
【0091】
発光試薬に各種の抗体等のリガンドを結合させることで、検体検査用粒子として利用することができる。親水層2に存在する官能基を利用して目的の抗体等を結合させるための最適な手法を選択すればよい。
【0092】
(リガンドの導入)
リガンド結合官能基とリガンドとを化学結合する化学反応は、本発明の目的を達成可能な範囲において、従来公知の方法を適用することができる。また、リガンドをアミド結合させる場合は、1-[3-(ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド]等の触媒を適宜用いることができる。
【0093】
本実施形態に用いられる発光試薬は、臨床検査、生化学研究等の領域において広く活用されている免疫ラテックス凝集測定法に好ましく適用できる。
【0094】
(解析装置)
本発明は実施形態の一として以下の解析方法を提供する。
標的物質と結合する発光試薬を用いて、偏光異方に関する値(R)を測定することで、前記標的物質の濃度を算出する解析装置であって、
前記標的物質を含む試料と、前記発光試薬を混合して、混合液とする混合部、
前記混合のときから時間T経過後の混合液の前記Rを測定する測定部、および
制御部
を有し、
前記制御部は
前記測定部において、前記RがR1に達したときをT1とし、該T1に基づいて前記標的物質の濃度を算出することを特徴とする解析装置、
ただし、標的物質と混合していない前記発光試薬について測定される前記RをR0としたとき、
R1>R0を満たす。
【0095】
本実施形態に係る解析装置については図3に概略が示される。
混合部は、混合工程を行う部である。測定部は測定工程を行う部である。制御部は混合部、測定部を制御する。
混合部、測定部は、それぞれ、液体の吸入および排出が可能なノズル、各種試料を格納する容器、ウェルプレート、これらを移動するステージ等を含むことができる。さらに、測定部は、光源、偏光フィルタ、分光光度計、等を含む光学系を含むことができる。制御部は、コンピュータの機能を有する。例えば、制御部は、デスクトップPC(Personal Computer)、ラップトップPC、タブレットPC、スマートフォン等と一体に構成されていてもよい。制御部は、演算および記憶を行うコンピュータとしての機能を実現するため、CPU、RAM、ROMおよびHDDを備え、また、通信I/F(インターフェース)、表示装置、および入力装置を備えることができる。
【0096】
(試薬)
本実施形態に係る解析方法は、検体検査や、体外診断に用いることができる。これらに用いるための試薬は、本実施形態に用いられる発光試薬と、発光試薬を分散させる分散媒とを有することができる。試薬中に含有される発光試薬の量は、0.000001質量%以上20質量%以下が好ましく、0.0001質量%以上1質量%以下がより好ましい。試薬は、本発明の目的を達成可能な範囲において、発光試薬の他に、添加剤やブロッキング剤等の第三物質を含んでも良い。添加剤やブロッキング剤等の第三物質は2種類以上を組み合わせて含んでも良い。本実施形態において用いる分散媒の例としては、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、グッド緩衝液、トリス緩衝液、アンモニア緩衝液等の各種緩衝液が例示されるが、本実施形態における検査試薬に含まれる分散媒はこれらに限定されない。試薬を、検体中の抗原または抗体の検出に用いる場合は、リガンドは、抗体または抗原を用いることができる。
【実施例0097】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0098】
(1)発光粒子の作製
pH7のMES(2-モルホリノエタンスルホン酸)緩衝液(キシダ化学社製)にポリビニルピロリドン(PVP-K30:東京化成工業社製)を溶解して溶媒Aを調製した。
ユウロピウム錯体である[トリス(2-テノイルトリフルオロアセトン)ビス(トリフェニルホスフィンオキシド)ユウロピウム(III)]([Tris(2-thenoyltrifluoroacetone)(Bis(triphenylphosphineoxide))europium(III)])(セントラルテクノ株式会社製、以下「Eu(TTA)(TPPO)」と略)、スチレンモノマー(キシダ化学社製)、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業社製、以下「MPS」と略す。)を混合して反応液Bを調製した。溶媒Aを含む4つ口フラスコ中に、反応液Bを添加してメカニカルスターラーを300rpmに設定して攪拌を行った。窒素フロー条件下で15分攪拌後、用意していた油浴の温度を70℃に設定してさらに15分窒素フローを行った。混合液を加熱攪拌後、過硫酸カリウム(以下、「KPS」と略す。)(アルドリッチ社製)を溶解した水溶液を反応溶液内に加えて20時間乳化重合を行った。重合反応後、得られた懸濁液を分画分子量100Kの限外ろ過膜を用いて約4Lのイオン交換水で限外ろ過を行い生成物の洗浄を行い発光粒子の分散液を得た。
【0099】
乳化重合により得られた発光粒子の分散液を分取してTween20(キシダ化学社製)が1質量%溶解している水溶液に添加した。10分間攪拌後、シランカップリング剤、X12-1135(信越化学工業社製)を添加して一晩攪拌した。攪拌後、分散液を遠心分離し、上清を除去して沈殿物を純水で再分散した。遠心分離と再分散の作業を3回以上行い、生成物を洗浄した。洗浄後の沈殿物を純水に再分散させた。以上により粒子1~8にはリガンド結合官能基が導入された。仕込んだ粒子、純水、X12-1135の質量比は、1:300:2とした。
【0100】
(抗CRP抗体修飾発光試薬の作製)
合成した発光粒子に相当する1.2wt%の粒子分散液を0.25mL分取し、1.6mLのpH6.0のMES緩衝液で溶媒を置換した。粒子MES緩衝液に、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミドおよびN-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウムを0.5wt%添加し、25℃、で1時間反応させた。反応後、分散液をpH5.0のMES緩衝液で洗浄し、抗CRP抗体を100μg/mL添加し、25℃で2時間抗CRP抗体を粒子に結合させた。結合後、粒子をpH8のTris緩衝液で洗浄した。反応後、粒子をリン酸緩衝液で洗浄し、0.3wt%濃度の抗CRP抗体修飾発光試薬(アフィニティー粒子ともいう)を得た。
【0101】
粒子に抗体が結合していることは、抗体を加えた緩衝液中の抗体濃度の減少量をBCAアッセイで測定することで確認した。
【0102】
(発光試薬液の調製)
得られた発光試薬を、0.1mg/mLの濃度になる様にpH7.4のリン酸(PBS)緩衝液で希釈して発光試薬液を調製した。
【0103】
(希釈液の調製)
4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液とPBS緩衝液を体積比で1:1の割合で混合し、希釈液を調製した。
【0104】
標的物質とリガンドの反応(抗原抗体反応)
HEPES緩衝液にCRP抗原を混合した液を調製し、37℃の温度に加温した。調製した混合液に発光試薬液を添加し、素早く攪拌した後に偏光異方を観察した。発光試薬は0.01mg/mL、あるいは0.0025mg/mLに固定して、CRPの抗原濃度は0~1000pMで検討した。観察温度は37℃で行った。偏光異方については後述する。
【0105】
(実施例1)
特定の偏光異方性R1の値を0.062にセットしたのち、後述する装置1を用いて抗原抗体反応を行い偏光異方性Rの値を計測した。偏光異方性R1が0.062に達した時間を測定して時間とCRP抗原濃度のプロットを作成し、CRP抗原濃度の評価を行った。発光試薬の濃度は0.01mg/mLとした。
【0106】
(実施例2)
特定の偏光異方性R1の値を0.043に設定し、後述する装置2を使用すること以外は実施例1と同様の方法でCRP抗原濃度の評価を行った。
【0107】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で抗原抗体反応の測定を行った後、反応開始5分後の偏光異方性Rの数値と反応開始1分後のR値を差し引いた結果と、反応開始40分後の偏光異方性Rの数値と反応開始1分後のR値を差し引いた結果を合わせて評価した。
【0108】
(実施例4)
特定の偏光異方性R1の値を0.076にセットしたのち、後述する装置1を用いて抗原抗体反応を行い偏光異方性Rの値を計測した。偏光異方性R1が0.076に達した時間を測定して時間とCRP抗原濃度のプロットを作成し、CRP抗原濃度の評価を行った。希釈液にアルギン酸ナトリウムを添加し増粘させ、発光試薬の濃度は0.0025mg/mLとした。
【0109】
(比較例1)
実施例3と同様の方法で抗原抗体反応を測定し、反応開始5分後の偏光異方性Rの数値と反応開始1分後のR値を差し引いた結果のみ評価した。
【0110】
(比較例2)
実施例3と同様の方法で抗原抗体反応を測定し、反応開始40分後の偏光異方性Rの数値と反応開始1分後のR値を差し引いた結果のみ評価した。
【0111】
(生成物の評価)
実施例および比較例における生成物は、以下の様な評価を行った。
生成物の形状は、電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー製S5500)を用いて評価した。
【0112】
生成物の平均粒子径は、動的光散乱(マルバーン製ゼータサイザーナノS)を用いて評価した。
【0113】
生成物を分散した懸濁液の濃度は、重量分析装置(リガク製サーモプラスTG8120)を用いて評価した。
【0114】
Rの測定は装置1と装置2を用いた。装置1は以下の様な構成の装置である。
励起光340nmのLED光源を用意し、偏光フィルタ(シグマ光機社製、NSPFU-30C)およびショートパスフィルタ(エドモント・オプティクス社製、84-706)を光路に差し込み、1cmの石英角セルに照射できる光学系をセットした。入射光と90°の方向に偏光フィルタ(ソーラボ社製、PIVISC050)およびバンドパスフィルタ(ソーラボ社製、FB610-10)をセットした。発光はIVVとIVHの2方向を同時に測定する為、入射光と90°方向で偏光子の組み方を変えた2つのセットを用意した。偏光の検出には、オーシャンオプティクス社製のQEPRoを用いて分光測定を行った。サンプルホルダーには温調をセットして37℃で計測できるようにした。偏光異方性Rの測定は、LED光源を12mWの出力に固定し、積算時間を3秒として行った。測定間隔は15秒とした。得た偏光発光の発光スペクトルより、波長600nm以上630nm以下の範囲における発光強度を式(4)に当てはめて偏光異方性Rを求めた。
【0115】
生成物の偏光異方性Rおよび、CRP抗原抗体反応の評価に用いた装置2は以下の様な構成の装置である。
【0116】
励起光340nmのLED光源を用意し、偏光フィルタ(シグマ光機社製、NSPFU-30C)およびショートパスフィルタ(エドモンド・オプティクス社製、84-706)を光路に差し込み、光路長5mmの石英セルに照射できる光学系をセットした。サンプルより発生した偏光発光を、サンプルを挟んで励起光と直線状にある光路に励起光カットフィルタ(エドモント・オプティクス社製、33-910)、偏光ビームスプリッタ(エドモント・オプティクス社製、47-127および、偏光子シグマ光機社製、SPF―30C―32)、の順にセットして偏光を2方向に分光した。分光した偏光発光(2方向)を、アバランジェフォトダイオード(APD、浜松ホトニクス社製、C15522-3010SA)を用いて検出した。サンプルホルダーは温調をセットして37℃で計測できるようにした。偏光異方性Rの測定は、LED光源を60mWの出力に固定し、積算時間を8ミリ秒として行った。測定間隔は30秒とした。得た偏光発光の信号をオシロスコープで計測し、式(1)に当てはめて偏光異方性Rを求めた。
【0117】
生成物の非特異凝集抑制評価は以下の通りに行った。
発光試薬分散液(3mg/mL)に、緩衝液で15倍に希釈したヒト血清溶液60μlを添加し、37℃で5分保温した。保温の前後で527nmの吸光度を測定し、保温前後での吸光度の変化量を3回測定した。表2に3回の平均値を示す。吸光度×10000の値の変化量が1000未満を非特異凝集が抑制されているとし、1000以上を非特異凝集が起こっていると評価した。
【0118】
(性能評価)
合成した発光試薬の粒径は約100nmであり、340nmの励起光で強い赤色の発光を示した。
【0119】
非特異凝集抑制評価の結果、吸光度の変化が規定の数値以下であり(吸光度×10000の値の変化量が1000以下)、非特異吸着を抑制することができる粒子であることを確認した。
【0120】
図5は、実施例1の測定結果を示したものであり、横軸にR1の時間、縦軸に計測したCRP濃度をプロットしたものである。図より、R1を0.062に設定した場合、CRP濃度に応じてR値が0.062に達する時間が長くなっていることがわかる。図5より、CRP抗原の計測範囲が1000pM~5pMまでの領域を400秒の測定時間で計測することが可能であることが確認できる。
【0121】
実施例1~4の結果を表1に示す。装置1を用いて検討した実施例1、実施例3における、発光試薬のみで計測した初期の偏光異方性R0は0.0585であり、装置2を用いて検討した偏光異方性R0は0.0388であった。この差は装置の各偏光成分の受光感度の差を反映したものであり、測定の本質には影響しない。実施例4では装置1を用いて検討した結果、発光試薬のみで計測した初期の偏光異方性R0は0.0740であった。実施例4のR0が実施例1と比較して大きいのは、試薬の中に増粘効果のあるアルギン酸ナトリウムを添加したためである。一方、飽和した偏光異方性の値R2は、大過剰のCRP抗原(100000pM)を用いて一晩放置したサンプルより求めた。その結果、装置1を用いて検討した実施例1、実施例3、実施例4、比較例1及び比較例2における、発光試薬のみで計測した初期の偏光異方性R2は0.1150であり、装置2を用いて検討した偏光異方性R2は0.0900であった。すべての実施例において、設定した偏光異方性R1の数値がR0とR2の間にあることを確認した。
【0122】
実施例1ではR1を0.062に設定して計測した結果、CRP抗原検出濃度の範囲が5pM~1000pMであることを確認した。
【0123】
実施例2ではR2を0.043に設定して計測した結果、CRP抗原検出濃度の範囲が0.16pM~200pMであることを確認した。
【0124】
この実施例の違いは、測定機器の感度と、R1値の設定条件の差によるものであると考えられる。
【0125】
実施例3では、さらに、2つの測定時間で抗原抗体反応を切り分けて評価した。実施例3の結果より、測定時間が5分と短い時間の場合は低濃度領域(5pM程度)の測定感度が得られず(50pM~1000pMまで)、逆に40分と測定時間が長い場合は高濃度領域(1000pM程度)の抗原抗体反応が飽和してR2値以上には大きくならなかった(5pM~200pMまで)。つまり、比較例の様に一つの時間における定量評価結果では測定レンジが狭くなることが判明し、複数の測定時間でR値を計測し定量評価することで、広い測定レンジ(5pM~1000pM)を測定することが可能になることが判明した。
【0126】
実施例4では、使用する発光試薬の濃度を下げて、増粘剤のアルギン酸ナトリウムを添加した状態で評価した。R2値は0.0760に設定した。その結果、600秒までの測定において、CRP抗原検出濃度の範囲が0.05pM~100pMであることを確認した。発光試薬の濃度を下げることで、わずかな抗原抗体反応でも偏光異方性の変化量が大きく見える事および、増粘剤を添加して発光試薬中の粒子の凝集反応を促進させる効果で、広いレンジ測定に加えて高感度かつ短時間での計測が可能になる事が判明した。
【0127】
【表1】
【0128】
以上のことから、本実施形態に係る解析方法は、標的物質であるCRP抗原を、高感度かつ広い測定範囲を一つの試薬組成で測定できる方法であることが明らかとなった。
【0129】
よって、本実施例に係る解析方法を用いると、標的物質の濃度に応じて多くの検査試薬を調整すること無く広い測定範囲での計測が可能となる。一般に解析装置に同じ種類の標的物質の為に多数の試薬を準備しておくことは煩雑なだけではなく、設置スペースなどにも影響を与える為問題となることが多い。また、測定濃度範囲を超えてしまったため、定量に失敗した場合、検体の希釈や調整を再度行う必要があり、一測定に対するコストが増大する。そのため、少ない種類の試薬で広い測定範囲をカバーできる可能性が有る本実施例に係る解析方法は、検体検査の手法として有用である。
【0130】
本実施形態の開示は以下の方法および構成を含む。
(方法1)
標的物質と結合する発光試薬を用いて、偏光異方に関する値(R)を測定することで、前記標的物質の濃度を算出する解析方法であって、
前記標的物質を含む試料と、前記発光試薬を混合して、混合液とする混合工程、および 前記混合のときから時間T経過後の混合液の前記Rを測定する測定工程、
を有し、
前記測定工程において、前記RがR1に達したときをT1とし、該T1に基づいて前記標的物質の濃度を算出することを特徴とし、さらに
標的物質と混合していない前記発光試薬について測定される前記RをR0としたとき、R1>R0を満たすことを特徴とする、
解析方法。
(方法2)
R1-R0≧0.0001を満たすことを特徴とする方法1に記載の解析方法。
(方法3)
R0≧0.001であることを特徴とする方法1または方法2のいずれかに記載の解析方法。
(方法4)
前記発光試薬が発光粒子を含むことを特徴とする方法1から方法3のいずれかに記載の解析方法。
(方法5)
前記発光粒子がユウロピウム錯体を含むことを特徴とする方法1から方法4のいずれかに記載の解析方法。
(方法6)
前記発光試薬が前記標的物質に結合するリガンドを含むことを特徴とする方法1から方法5のいずれかに記載の解析方法。
(方法7)
前記Rが下記式(1)のrで定められることを特徴とする方法1から方法6のいずれかに記載の解析方法。
【数3】
(式(1)中、
VV・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
VH・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
HV・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
HH・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
G・・・補正値
である。)
(方法8)
前記測定工程は、繰り返し行われることを特徴とする方法1から方法7のいずれかに記載の解析方法。
(方法9)
前記繰り返し行われる前記測定工程において、第n回目の測定工程ではじめて前記Rが前記R1を超えた場合、第n-1回目の測定工程の終了時間から第n+1の測定工程の開始時間の間のいずれかの数値を前記T1とすることを特徴とする方法8に記載の解析方法。
(方法10)
前記繰り返し行われる測定工程は、(a+b)秒周期で繰り返されることを特徴とする方法8または方法9に記載の解析方法、ただし、aは測定に要する時間、bは測定間隔である。
(方法11)
前記繰り返し行われる前記測定工程において、はじめて前記Rが前記R1に達したときに、該R1があらかじめ定められた値であるR2を超えた場合、前記aとbの少なくともいずれか一方を短く設定することを特徴とする方法8から方法10のいずれかに記載の解析方法。
(構成1)
標的物質と結合する発光試薬を用いて、偏光異方に関する値(R)を測定することで、前記標的物質の濃度を算出する解析装置であって、
前記標的物質を含む試料と、前記発光試薬を混合して、混合液とする混合部、
前記混合のときから時間T経過後の混合液の前記Rを測定する測定部、および
制御部
を有し、
前記制御部は
前記測定部において、前記RがR1に達したときをT1とし、該T1に基づいて前記標的物質の濃度を算出することを特徴とする解析装置、
ただし、標的物質と混合していない前記発光試薬について測定される前記RをR0としたとき、
R1>R0を満たす。
【0131】
1粒子基質
2親水層
3ユウロピウム錯体
図1
図2
図3
図4
図5