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特開2023-168277粒子加速システムの動作パラメータの計画値からの逸脱による照射治療セッションの中断リスクを低減する、コンピュータによって実施される方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168277
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】粒子加速システムの動作パラメータの計画値からの逸脱による照射治療セッションの中断リスクを低減する、コンピュータによって実施される方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023077662
(22)【出願日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】22172682.1
(32)【優先日】2022-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】318004198
【氏名又は名称】イオン ビーム アプリケーションズ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】Ion Beam Applications S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ラバーブ,ルディ
(72)【発明者】
【氏名】ホトイウ,ルシアン
(72)【発明者】
【氏名】ピン,アルノー
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC05
4C082AN02
4C082AN04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】粒子加速システムの動作パラメータの計画値からの逸脱による照射治療セッションの中断リスクを低減する方法を提供する。
【解決手段】照射軸に沿って加速された粒子の複数のビームレットが、治療計画に従ってペンシルビームスキャンによって患者の対象構造に線量を蓄積させることを可能にする、粒子加速システムの動作パラメータの許容値を最適化するためにコンピュータによって実施される方法は、動作パラメータの予め選択された暫定統計分布において定義された信頼性レベル内でランダムに選択された統計的に代表的な数Nの値に対する線量(率)ボリュームヒストグラムを計算し、ボリュームヒストグラムを標的の許容範囲BVと比較する。いったん暫定統計分布から、その全てが許容変動幅に収まるN個の計算されたボリュームヒストグラムが得られると、それが最終統計分布として設定され、粒子加速システムは最終統計分布を用いてプログラムされ得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射軸(Z)に沿って加速された粒子の複数のビームレットによって形成されたビームが、治療計画(=TP)に従って、ペンシルビームスキャン(=PBS)によって患者の対象構造に線量を蓄積させることを可能にする、粒子加速システムの動作パラメータの許容値を最適化するためにコンピュータによって実施される方法において、
(a)
〇計画パラメータによって特徴付けられる、ビームレット(bi)のアレイの定義を含む前記治療計画(=TP)であって、
・前記照射軸(Z)に対して垂直な平面(X、Y)上の各ビームレット(bi)の計画位置(Xpi)、
・各ビームレットの計画モニタユニット(MUpi)、
・前記計画位置にわたる計画ビームレットスキャンシーケンス(Xpi)、
を含む、前記治療計画(=TP)、
〇各ビームレットが提供される計画開始時間(t0pi)及び計画終了時間(t1pi)、
〇多数の前記ビームレット(bi)によって横断される1つ以上の組織を定義する、前記対象構造の定義、
〇前記計画パラメータを用いた治療で得られた前記対象構造に対する1つ以上の標的線量(率)分布ヒストグラム(=tD(R)DH)の値、
〇前記1つ以上のtD(R)DHが変動することが許可される許容変動幅(BV)、
を含む、入力を提供するステップと、
(b)前記粒子加速システムの性能を代表する対応する平均値(μj)を中心とする前記粒子加速システムの動作パラメータの暫定統計分布(Tj)を提供し、前記暫定統計分布(Tj)の信頼性レベル(CLj)を定義するステップであって、前記動作パラメータが、
〇各ビームレットの前記モニタユニット(MUj)、
〇各ビームレット(Xj)の前記位置、及び
〇各ビームレットの提供の前記開始時間(t0j)及び終了時間(t1j)、
を含む、ステップと、
(c)前記所定の信頼性レベル(CLj)内で前記対応する暫定統計分布(Tj)から、前記モニタユニットの値(MUij)、前記ビームレットの前記位置の値(Xij)、並びに前記開始時間(t0ij)及び終了時間(t1ij)の各々の値(t0ij、t1ij)をランダムに選択するステップと、
(d)このようにランダムに選択された前記値を用いて、1つ以上の計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)DHj-Run x)を計算するステップと、
(e)前記最後の2つのステップ(c)、(d)を統計的に代表的な回数(N)だけ繰り返して、前記動作パラメータのこのようにランダムに選択された全ての前記値に対して、このように計算された前記1つ以上のcD(R)DHj-Run xを特徴付ける計算分布(CDj)を得るステップと、
(f)前記1つ以上のcD(R)DHjの前記計算分布(CDj)を前記対応する許容変動幅(BV)と比較し、前記1つ以上のcD(R)DHjの前記計算分布(CDj)が前記所定の信頼性レベル(CLj)内の前記対応する許容変動幅に含まれているかどうかを判断するステップと、
を含む、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、最終信頼性レベル(CLf)を有する最終統計分布(Tf)を前記対応する動作パラメータに、
・前記1つ以上のcD(R)DHjの前記計算分布(CDj)が、全て前記所定の信頼性レベル(CLj)を有する前記対応する許容変動幅(BV)内に含まれる場合、所与の前記治療計画(TP)に対して、前記暫定統計分布(Tj)を前記最終統計分布(すなわちTf=Tj)に、且つ前記信頼性レベル(CLj)を前記対応する最終信頼性レベル(CLf=CLj)として設定して、前記対応する動作パラメータを定義し、
・前記動作パラメータの前記統計分布(Tj)の前記対応する信頼性レベル(CLj)内でランダムに選択された値の1つのセットで計算された前記1つ以上のcD(R)DHjのうちのいずれか1つが、前記対応する許容変動幅(BV)を超えて拡大する場合、請求項1のステップ(b)~(f)を繰り返し、
〇前記動作パラメータの新しい暫定統計分布(T(j+k))を用いて、及び/又は
〇新しい、より野心的でない信頼性レベル(CL(j+k))を選択し、
前記1つ以上のcD(R)DH(j+k)の前記計算分布(CD(j+k))が全て前記対応する許容変動幅(BV)内に含まれるまで、前記暫定統計分布(T(j+k))を前記最終統計分布(すなわち、Tf=T(j+k))として設定し、前記対応する信頼性レベル(CL(j+k))を前記最終信頼性レベル(CLf=CL(j+k))として設定して前記対応する動作パラメータを定義する、
ように設定するステップを含む、ことを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記最終統計分布(Tf)を前記対応する動作パラメータに設定することが、人間のオペレータ又はプロセッサによって実行される、ことを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の方法において、前記1つ以上のcD(R)DHjのうちのいずれか1つが、前記所定の信頼性レベル(CLj)で前記対応する許容変動幅を越えて拡大する場合、請求項2に記載の前記新しい暫定統計分布(T(j+k))が、請求項1のステップ(b)で定義される前記対応する暫定統計分布(Tj)より低い標準偏差(σj)を有する、ことを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項の1~4のいずれか一項に記載の方法において、前記動作パラメータの各々の前記暫定統計分布(Tj)がガウス分布であり、前記信頼性レベル(CLj)の前記値が、前記暫定統計分布の68%~99.7%、好ましくは95.5~99%に含まれ、前記暫定統計分布の、68%の信頼性レベル(CLj)が、μj±σjに対応し、95%の信頼性レベル(CLj)が、μj±2σjに対応し、99.7%の信頼性レベルがμj±3σjに対応し、ここで、μjが平均値であり、σjが前記対応する暫定統計分布の前記標準偏差である、ことを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、各動作パラメータの前記平均値(μj)及び標準偏差(σj)が、ビームレット(bi)ごとに異なり得る、ことを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項の1~6のいずれか一項に記載の方法において、前記粒子加速システムが、前記モニタユニット(MUai)、前記位置(Xai)、並びに前記粒子加速システムによって放出される前記ビームレットの前記開始時間及び終了時間(t0ai、t1ai)を含む前記動作パラメータの実際値を異なる間隔で又は連続的に測定するように構成された巡回チェックモジュールを備える、ことを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記粒子加速システムが、前記動作パラメータの前記実際値を前記対応する信頼性レベル(CLj)と比較し、且つ動作パラメータの1つの実際値が前記対応する最終信頼性レベル(CLf)から外れた場合に治療セッションを停止する、ように構成されたプロセッサを備える、ことを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項の1~8のいずれか一項に記載の方法において、前記計画パラメータがまた、計画ビームレットサイズ(dj)を含み、その値(dij)が、前記1つ以上の計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)DH)の計算に使用され、前記ビームレットサイズ(dj)の対応する暫定統計分布(Tj)内でランダムに選択される、ことを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項の1~9のいずれか一項に記載の方法において、前記1つ以上のcD(R)DHの前記計算分布(CDj)が、一方で、最小計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)DHj0)と、他方で、最大計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)DHj1)との間に含まれる対応する領域によって定義され、
・cD(R)DHj0が、前記モニタユニット(Muij)、前記ビームレットの位置(Xij)、並びに開始時間及び終了時間(t0ij、t1ij)のN個のランダムに選択された値から前記所定の信頼性レベル(CLj)内で計算されたcD(R)DHjの最低値で定義され、
・cD(R)DHj1が、前記モニタユニット(Muij)、前記ビームレットの位置(X0i)、並びに開始時間及び終了時間(t0ij、t1ij)の前記N個のランダムに選択された値から前記所定の信頼性レベル(CLj)内で計算されたcD(R)DHjの最高値で定義される、
ことを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項の1~10のいずれか一項に記載の方法において、前記治療計画が、1Gy/秒以上の蓄積率として定義された超高蓄積率(UHDR)で、前記対象構造の少なくとも一部に線量を蓄積させるステップを含む、ことを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項の1~11のいずれか一項に記載の方法において、前記計画パラメータがまた、計画ビーム電流(Ij)を含み、その値(Iij)が、前記計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)DHj)の計算に使用され、前記ビーム電流(Ij)の対応する暫定統計分布(Tj)内でランダムに選択される、ことを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項の1~12のいずれか一項に記載の方法において、前記線量分布ヒストグラム(DDH)が、線量ボリュームヒストグラム(DVH)であり、前記線量率分布ヒストグラム(DRDH)が、線量率ボリュームヒストグラム(DRVH)又は差分線量率ヒストグラム(DDRH)である、ことを特徴とする、方法。
【請求項14】
請求項の1~13のいずれか一項に記載の方法を実施するように構成されたエラー予測モジュールにおいて、
・複数の対応する平均値(μj)を中心とする各動作パラメータの複数の暫定統計分布(Tj)を含むメモリと、
・ユーザインターフェースであって、
〇1つ以上の標的線量(率)分布ヒストグラム(=tD(R)DH)並びに前記対応する許容変動幅(BV)を含む前記治療計画(TP)を入力し、
〇各ビームレットが提供される計画開始時間(t0pi)及び終了時間(t1pi)を前記メモリから選択又は前記メモリに入力し、
〇各ビームレットに対して、前記モニタユニット(MUj)、前記ビームレットの前記位置(Xj)、並びに開始時間及び終了時間(t0i、t1i)を含む、各動作パラメータに対する第1の暫定統計分布(Tj)を前記メモリから選択又は前記メモリに入力し、
〇前記動作パラメータに関する信頼性レベル(CLj)を入力する、
ように構成された、ユーザインターフェースと、
・プロセッサであって、
(i)前記対応する暫定統計分布(Tj)の前記所定の信頼性レベル(CLj)に含まれる、前記モニタユニット(MUij)の値、前記ビームレットの前記位置(Xij)の値、前記開始時間及び終了時間の値(t0ij、t1ij)をランダムに選択し、
(ii)このようにランダムに選択された前記値を用いて、計算線量分布ヒストグラム(=cDDHj)及び計算線量率分布ヒストグラム(=cDRDHj)のうちの1つ以上を計算し、
(iii)最後の2つのステップを統計的に代表的な回数(N)だけ繰り返して、各ビームレット用の前記このように計算されたcDDHj及びcDRDHjの前記計算分布(CDj)を得る、
ように構成された、プロセッサと、
を備える、ことを特徴とする、エラー予測モジュール。
【請求項15】
前記請求項14に記載のエラー予測モジュールにおいて、前記プロセッサが、1つ以上の対応するcD(R)DHjの前記計算分布(CDj)のうちのいずれか1つが、前記所定の信頼性レベル(CLj)を有する前記対応する許容変動幅内に含まれていない場合、前記1つ以上のcD(R)DHjの前記計算分布(CDj)が、前記所定の信頼性レベル(CLj)を有する前記対応する許容変動幅内に全て含まれるまで、前記動作パラメータの新しい暫定統計分布(T(j+k))を用いて請求項14のステップ(i)~(iii)を繰り返すように更に構成されている、ことを特徴とする、エラー予測モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子などの加速粒子による照射による腫瘍細胞の治療の一般的な技術分野に関する。特に、許容変動幅(BV)内で構成される治療計画(TP)の要件を満たす加速粒子のビームレットを所定の信頼性レベル内で提供することを確実にする、所与の粒子加速システムの動作パラメータを設定する方法に関する。この方法は、所与の粒子加速システムが許容変動幅内でTPを満たす1つ以上のビームレットを提供し損なったために、患者の照射セッションを突然中断しなければならないリスクを、所定の信頼性レベル内に低減する点で有利である。
【背景技術】
【0002】
陽子線、電子線、重粒子線、X線、γ線などの粒子又は波動による放射線治療は、腫瘍患者の治療に不可欠な手段となっている。
【0003】
ペンシルビームスキャン(PBS)は、荷電粒子のビームレットを、対象構造を画定する腫瘍細胞を含む標的に向けて導くことからなる技術である。PBSは、治療している領域を腫瘍の形状に合わせて形成することにより、周囲の非がん細胞への不必要な放射線被ばくを低減する。ペンシルビームスキャンは、様々なビームレットで構成される単一ビーム、又は各々が様々なビームレットで構成される複数の異なる方向のビームで腫瘍を治療することができ、強度変調陽子線治療(IMPT)と呼ばれることもある。標的形状の他に、PBSにより、標的内の位置に応じてビームレットのパラメータを局所的に調整することが可能になる。このパラメータには、各ビームレットの開始時間及び終了時間とともに、各ビームレットの位置及びモニタユニット、並びにビームレットのスキャンシーケンスが含まれる。
【0004】
そのような放射線は腫瘍細胞及び健康な細胞の両方にダメージを与えるため、がん治療における主要な課題は、健康な細胞、特に腫瘍細胞に隣接する健康な細胞を可能な限り温存しながら、腫瘍細胞を効果的に破壊又は死滅させることを確実にする治療計画(TP)を画定することである。治療計画の最初のステップは、CTスキャンによる腫瘍領域の画像の補足である。この画像に基づいて、腫瘍医は正しい標的を特定し、腫瘍細胞を死滅させるために蓄積させるべき場所及び線量を判定する。そのような計画は、複数の、しばしば競合するパラメータを満たす必要があり、したがって非常に複雑である。そのため、治療計画は、一般的に、コンピュータを用いて行われる。
【0005】
治療計画(TP)は、一般的に、n個のビームレット(bi)のアレイの定義を含み、以下を含む計画パラメータの値を含む。
・特に対象構造内の腫瘍細胞の位置、サイズ、形状に依存する、各ビームレットが狙うスポットの位置を定義する、各ビームレットの計画位置、
・粒子加速システムのノズルを通過して進み、対象構造内の所与のスポットに到達しなければならない粒子の数に関連する、各ビームレットの計画モニタユニット(MUpi)、
・計画位置(Xpi)にわたる計画ビームレットスキャンシーケンス。ビームレットは対応するスポットに線量を蓄積させるが、隣接するスポットにはより低い線量を蓄積させることができるため、これは重要であり、各スポットに蓄積させる全体的な線量を計算する際に無視することはできず、これは、後述するフラッシュ治療に対して特にあてはまる。
【0006】
治療計画は、治療終了時において、腫瘍細胞を破壊/死滅させるために有効な標的を形成する腫瘍細胞に対して最小標的線量以上の総標的線量が照射されることを確実にしなければならない。これは、対象構造に対して、標的線量ボリュームヒストグラム(=tDVH)により定義することができる。tDVHの例は、図1(a)の曲線の横軸によって定義されるように、少なくとも標的線量を受けなければならない対象構造のボリューム(%)をプロットしたグラフを示す、図1(a)の実線で表されている。腫瘍医はまた、DVHが標的tDVHから逸脱することができる許容変動幅(BV)を定義し、これは図1(a)に破線で表されている。
【0007】
歴史的に、放射線療法による治療計画には、1Gy/秒未満の従来の線量蓄積率(CDR)で治療細胞に放射線量の照射を提供することが含まれていた。まれな例外を除いて、現在の放射線治療施設は、約0.1Gy/秒の線量率を提供しており、ほとんどの臨床プロトコルでは、累積される2~15Gyのいくつかの標的分割線量の毎日の照射を伴い、これは放射線場に位置する正常な組織の許容限界を超えるために腫瘍細胞と一緒にそれらを損傷することが多い総標的線量に到達する。最近、従来の線量蓄積率(CDR)又は超高線量蓄積率(HDR)で蓄積した場合、同じ線量が健康な細胞に異なる影響を与えるが、腫瘍細胞には影響しないことが観察され、HDRは、通常適用される従来の線量蓄積率(CDR)よりも1桁以上大きくなる可能性がある。超高線量蓄積率(HDR)での電荷の蓄積は、フラッシュ放射線療法(=FLASH-RT)とも呼ばれる。HDRでの超高速線量蓄積は、CDRでの同じ線量の従来の蓄積と比較して、健康な組織を大幅に温存できることが、動物及び様々な臓器で実験的に実証されており、同時に、腫瘍細胞は、CDR蓄積と同じかそれ以上にHDR蓄積に反応する。例えば、FLASH-RTは、マウスにおいて、抗腫瘍効果を維持したまま、肺線維症、脳照射後の記憶喪失、小腸の壊死の発生率を劇的に減少させることが報告されている。そのような特定の正常組織の温存は、大動物でも確認されており、皮膚リンパ腫の患者は既にFLASH-RTで治療されている。
【0008】
組織内の線量率分布は、対象構造に対して、標的線量率ボリュームヒストグラム(=tDRVH)によって定義することができる。tDRVHの一例は、図1(b)の曲線の横軸で定義されるtDRVHに対して、標的線量率以上を受ける必要がある対象構造のボリューム(%)をプロットしたグラフを示す実線で表されている。腫瘍医はまた、DRVHが標的tDRVHから逸脱することができる範囲内の許容変動幅(BV)を定義し、これは図1(b)に破線で表されている。
【0009】
DVH及びDRVHは、累積ヒストグラムである。しかしながら、線量又は線量率の分布を表す方法は他にも存在する。例えば、図1(c)は、横軸に示される対応する線量率で線量を受ける対象構造中のボクセルの数を示す差分線量率ヒストグラム(DDRH)を示している。許容変動幅(BV)は破線で表されており、長破線は治療セッション中に測定された実際値(=aDDRH)である。他の表現も可能である。治療計画が達成すべき対象構造における所望の線量及び線量率分布の全てのタイプの表現を、本明細書では、「線量分布ヒストグラム(DDH)」及び「線量率分布ヒストグラム(DRDH)」と総称している。本明細書ではまた、簡潔にするために、DDH及びDRDHの両方を含めて「線量(率)分布ヒストグラム(D(R)DH)」という表現を使用する。
【0010】
計画ビームレットスキャンシーケンスを満たすには、各ビームレット用の計画開始時間及び計画終了時間を定義することが必要である場合がある。これは、FLASH-RTでは特に重要である。
【0011】
治療計画システム(TPS)は、治療計画(TP)を達成するための位置(Xj)、モニタユニット(MUj)、及びスポットシーケンスを含む、ビームレットのパラメータを定義する。変換システム(=TS)は、粒子加速システムの限界を考慮して、ビームレットパラメータを実装するために必要な所与の粒子加速システムの動作パラメータを判定する。これは、例えば、(特許文献1)、(特許文献2)、及び(特許文献3)に記載されている。動作パラメータは、所与の粒子加速システムによって提供されるビームレットが、許容変動幅(BV)内の標的線量(率)分布ヒストグラム(D(R)DH)に従って対象構造への線量を蓄積させることを確実にするように判定される。TPを機械動作パラメータに変換することは、治療計画内で治療セッションを完了させ得て、ある時点で一部の動作パラメータのランダムな変動により粒子加速システムによって実際に提供されたビームレットが許容変動幅(BV)から外れたD(R)DHを得たために中断しないことを確実にするために非常に重要である。
【0012】
計画において定義された動作パラメータの公称値は、所与の粒子加速システムによって正確に満たされない場合がある。粒子加速システムが実際に動作することになる動作パラメータ値は、代わりに図2に示されるように、平均値(μj)(治療計画により定義された公称値)と治療装置のランダムな変動を表す分散(σj)によって特徴付けられる特定の統計分布(Tj)に従う。これは、たとえTSが治療計画(TP)を動作パラメータに正しく変換して、所与の粒子加速システムが平均値(μj)で特徴付けられるビームレットを提供することを確実にした場合でも、特定の治療セッションにおける動作パラメータの実際値が、統計分布曲線(Tj)にわたって平均値(μj)の周りに拡大することになることを意味する(図2を参照)。したがって、治療セッション中に、動作パラメータは、その分布に従って平均値(μi)から逸脱することになるのは明らかである。場合によっては、ビームレットの実際の動作パラメータの値が、対応する許容変動幅(BV)を超えて(外れて)D(R)DHをもたらす場合があり、TSによる正しいTP変換にもかかわらず、治療セッションを中断しなければならない。治療セッションが計画通りに進まないと、患者にとって危険な状態になる可能性がある。
【0013】
いくつかの粒子加速システムは、ビームレットがノズルを通過して提供される際に、ビームレットの実際の動作パラメータを測定するモニタ装置を備えている。(特許文献4)、(特許文献5)、(特許文献6)、(特許文献7)、(特許文献8)、及び(特許文献9)は、粒子加速システムによって提供されるビームレットの動作パラメータの選択を、その場でモニタ及び検証する装置の例を記載している。このようにモニタされた1つ以上のビームレットの動作パラメータが計画値とは異なる場合(これは起こりそうなことである)、対応するD(R)DHが許容変動幅(BV)を超えて拡大するリスクが存在する。このような場合、治療セッションを停止しなければならない。これは患者にとって非常に不快なことであり、粒子加速システムの通常タイトなスケジュールによっては、治療セッションを完了するために後日再来院する必要があり得る。したがって、全てのビームレットが治療計画に従ってD(R)DHをもたらして、治療セッションが所定の信頼性レベル(CLj)内で完了できること確実にするように、動作パラメータの分布を考慮することが重要である。
【0014】
更に、動作パラメータの実際値が対応する計画値とは異なることは、対応するD(R)DHが許容変動幅を超えていることを必ずしも意味しない。現在利用可能なプロセッサの計算能力では、1つの実際値が動作パラメータの計画値とは異なるため治療セッションを中断するか否かを判定するために、動作パラメータの実際値の測定ごとに、対応する計算D(R)DHを計算することは考えられない。
【0015】
(特許文献10)は、患者に治療を施す前に、ダミー(マネキン)を治療し、線量測定によってDVHを評価するシステム及び方法を記載している。この技術は、治療セッションを中断しなければならないリスクを明らかに低減するが、試験を行うために必要な時間、粒子加速システムを遮断する必要もあり、その間、患者の治療に使用することはできない。更に、線量許容値は、異なる場所又は異なるMUのスポットに対して異なる機械許容レベルに変換することができる(例えば、対象構造の端部にあるスポットは、構造の中心にあるスポットよりも位置精度の制約が高くなり得る)。また、線量率許容値をスポットマップの各スポットの許容値に変換する方法も明らかではない。場所によっては、照射がFLASH-RTモードであることを確認することが他の場所よりも重要である。線量率の許容範囲もまた、組織内の位置によって異なる場合がある。例えば、FLASH-RTは、腫瘍細胞が、温存されるべき健康な細胞の側面にある対象構造の端部で必要になる可能性がある。
【0016】
今日まで、動作パラメータが所望のD(R)DHを得ることを確実にするための大部分の方法は事後的であり、すなわち、粒子加速システムによって提供されたビームレットの治療特性を測定するか、又はせいぜい患者を治療する前に行われるダミー(マネキン)上の線量測定テストに基づいている。計算により、すなわち貴重な加速器の時間とエネルギーを使用する必要なく、使用される粒子加速システムの動作パラメータのセットを判定し、所定の信頼性レベル内で許容変動幅(BV)内の所望のD(R)DHを得るための方法が本技術分野において依然として必要とされている。
【0017】
本発明は、加速粒子の複数のビームレットによって形成されたビームが、治療計画(=TP)に従って患者に対してペンシルビームスキャン(=PBS)による線量を蓄積させることを可能にする、粒子加速システムの動作パラメータの許容値を最適化する、コンピュータによって実施される方法を提案する。本方法は、所与の粒子加速システムがTPを満たすビームレットを提供するための信頼性レベル(CLj)を、動作パラメータのセットの関数として判定することを可能にする。このようにして得られた信頼性レベルが低すぎる場合、動作パラメータの代替セットを評価する必要がある。本発明のこれら及び他の利点は、続けて提示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願公開第20200298020号明細書
【特許文献2】欧州特許第3932482号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第3932481A1号明細書
【特許文献4】欧州特許第2116277号明細書
【特許文献5】欧州特許第3375484号明細書
【特許文献6】米国特許第10456598号明細書
【特許文献7】欧州特許第3222322号明細書
【特許文献8】国際公開第2020249565号パンフレット
【特許文献9】欧州特許第2833970号明細書
【特許文献10】欧州特許第3498336号明細書
【発明の概要】
【0019】
本発明は、添付の独立請求項に定義されている。好ましい実施形態は、従属請求項に定義されている。特に、本発明は、照射軸(Z)に沿って加速された粒子の複数のビームレットによって形成されたビームが、治療計画(=TP)に従って、ペンシルビームスキャン(=PBS)によって患者の対象構造に線量を蓄積させることを可能にする、粒子加速システムの動作パラメータの許容値を最適化するためにコンピュータによって実施される方法に関し、方法は、
(a)
〇計画パラメータによって特徴付けられる、ビームレット(bi)のアレイの定義を含む治療計画(=TP)であって、
・照射軸(Z)に対して垂直な平面(X、Y)上の各ビームレット(bi)の計画位置(Xpi)、
・各ビームレットの計画モニタユニット(MUpi)、
・計画位置(Xpi)にわたる計画ビームレットスキャンシーケンス、
を含む、治療計画(=TP)、
〇各ビームレットが提供される計画開始時間(t0pi)及び計画終了時間(t1pi)、
〇多数のビームレット(bi)によって横断される1つ以上の組織を定義する、対象構造の定義、
〇計画パラメータを用いた治療で得られた対象構造に対する線量分布ヒストグラム(=tDDH)及び/又は標的線量率分布ヒストグラム(=tDRDH)を含む1つ以上の標的線量(率)分布ヒストグラム(=tD(R)DH)の値、ここで、線量分布ヒストグラム(DDH)は、好ましくは線量分布ボリュームヒストグラム(DDVH)であり、線量率分布ヒストグラム(DRDH)は、好ましくは線量率分布ボリュームヒストグラム(DRDVH)又は差分線量率ヒストグラム(DDRH)である、
〇1つ以上のtD(R)DHが変動することが許可される許容変動幅(BV)、
を含む、入力を提供するステップと、
(b)粒子加速システムの性能を代表する対応する平均値(μj)を中心とする粒子加速システムの動作パラメータの暫定統計分布(Tj)を提供し、暫定統計分布(Tj)の信頼性レベル(CLj)を定義するステップであって、動作パラメータが、
〇各ビームレットのモニタユニット(MUj)、
〇各ビームレット(Xj)の位置、及び
〇各ビームレットの提供の開始時間(t0j)及び終了時間(t1j)、
を含む、ステップと、
(c)所定の信頼性レベル(CLj)内で対応する暫定統計分布(Tj)から、モニタユニットの値(MUij)、ビームレットの位置の値(Xij)、開始時間(t0ij)及び終了時間(t1ij)の各々の値(t0ij、t1ij)をランダムに選択するステップと、
(d)このようにランダムに選択された値を用いて、1つ以上の計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)DHj-Run x)を計算するステップと、
(e)最後の2つのステップ(c)、(d)を統計的に代表的な回数(N)だけ繰り返して、動作パラメータのこのようにランダムに選択された全ての値に対して、このように計算された1つ以上のcD(R)DHj-Run xを特徴付ける計算分布(CDj)を得るステップと、
(f)1つ以上のcD(R)DHjの計算分布(CDj)を対応する許容変動幅(BV)と比較し、1つ以上のcD(R)DHjの計算分布(CDj)が所定の信頼性レベル(CLj)内の対応する許容変動幅に含まれているかどうかを判断するステップと、
を含む。
【0020】
最終統計分布(Tf)は、人間のオペレータ又はプロセッサによって、
・1つ以上のcD(R)DHjの計算分布(CDj)が、全て所定の信頼性レベル(CLj)を有する所定の対応する許容変動幅(BV)内に含まれる場合、所与の治療計画(TP)に対して、暫定統計分布(Tj)を最終統計分布(すなわちTf=Tj)に、信頼性レベル(CLj)を対応する最終信頼性レベル(CLf=CLj)として設定して、対応する動作パラメータを定義し、
・動作パラメータの統計分布(Tj)の対応する信頼性レベル(CLj)内でランダムに選択された値の1つのセットで計算された1つ以上のcD(R)DHjのうちのいずれか1つが、対応する許容変動幅(BV)を超えて拡大する場合、上記のステップ(b)~(f)を繰り返し、
〇動作パラメータの新しい暫定統計分布(T(j+k))を用いて、及び/又は
〇新しい、より野心的でない信頼性レベル(CL(j+k))を選択し、
1つ以上のcD(R)DH(j+k)の計算分布(CD(j+k))が全て対応する許容変動幅(BV)内に含まれるまで、暫定統計分布(T(j+k))を最終統計分布(すなわち、Tf=T(j+k))として設定し、対応する信頼性レベル(CL(j+k))を最終信頼性レベル(CLf=CL(j+k))として設定して対応する動作パラメータを定義する、
ように、最終信頼性レベル(CLf)を対応する動作パラメータに設定することができる。
【0021】
新しい暫定統計分布(T(j+k))は、上記で定義された対応する暫定統計分布(Tj)よりも低い標準偏差(σj)を有することができる。動作パラメータの各々の暫定統計分布(Tj)は、好ましくはガウス分布であり、信頼性レベル(CLj)の値は、暫定統計分布の68%~99.7%、好ましくは95.5~99%に含まれ得る。暫定統計分布の68%の信頼性レベル(CLj)はμj±σjに対応し、95%の信頼性レベル(CLj)はμj±2σjに対応し、99.7%の信頼性レベルはμj±3σjに対応し、ここで、μjは平均値であり、σjは、対応する暫定統計分布の標準偏差であることに留意されたい。各動作パラメータの平均値(μj)及び標準偏差(σj)は、ビームレット(bi)ごとに異なる場合がある。
【0022】
粒子加速システムは、モニタユニット(MUai)、位置(Xai)、並びに粒子加速システムによって放出されるビームレットの開始時間及び終了時間(t0ai、t1ai)を含む、動作パラメータの実際値を異なる間隔で又は連続して測定するように構成された巡回チェックモジュールを備えることができる。粒子加速システムはまた、動作パラメータの実際値を対応する信頼性レベル(CLj)と比較し、且つ動作パラメータの1つの実際値が対応する信頼性レベル(CLj)から外れた場合に治療セッションを停止する、ように構成されたプロセッサを備えることができる。
【0023】
計画パラメータはまた、計画ビームレットサイズ(dj)及び計画ビーム電流(Ij)を含み、そのそれぞれの値(dij、Iij)は、1つ以上の計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)DH)を計算するために使用され、ビームレットサイズ(dj)及び計画ビーム電流(Ij)の対応する暫定統計分布(Tj)内でランダムに選択される。
【0024】
1つ以上のcD(R)DHの計算分布(CDj)は、一方で、最小計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)DHj0)と、他方で、最大計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)DHj1)との間に画定される包絡線に含まれる対応する領域によって定義される。cD(R)DHj0は、モニタユニット(Muij)、ビームレットの位置(Xij)、開始時間及び終了時間(t0ij、t1ij)のN個のランダムに選択された値から、所定の信頼性レベル(CLj)で計算されたcD(R)DHjの最低値で定義され、cD(R)DHj1は、モニタユニット(Muij)、ビームレットの位置(X0i)、開始時間及び終了時間(t0ij、t1ij)のN個のランダムに選択された値から、所定の信頼性レベル(CLj)で計算されたcD(R)DHjの最高値で定義される。
【0025】
治療計画には、1Gy/秒以上の蓄積率として定義された超高蓄積率(UHDR)で、対象構造の少なくとも一部に線量を蓄積させることを含み得る。
【0026】
本発明はまた、上記で定義された方法を実施するように構成されたエラー予測モジュールに関し、エラー予測モジュールは、
・複数の対応する平均値(μj)を中心とする各動作パラメータの複数の暫定統計分布(Tj)を含むメモリと、
・ユーザインターフェースであって、
〇標的線量分布ヒストグラム(=tDDH)及び/又は標的線量率分布ヒストグラム(=tDRDH)並びに対応する許容変動幅(BV)を含む1つ以上の標的線量(率)分布ヒストグラム(=tD(R)DH)を含む、治療計画(TP)を入力し、
〇各ビームレットが提供される計画開始時間(t0pi)及び計画終了時間(t1pi)をメモリから選択又はメモリに入力し、
〇各ビームレットに対して、モニタユニット(MUj)、ビームレットの位置(Xj)、並びに開始時間及び終了時間(t0i、t1i)を含む、各動作パラメータに対する第1の暫定統計分布(Tj)をメモリから選択又はメモリに入力し、
〇動作パラメータに関する信頼性レベル(CLj)を入力する、
ように構成された、ユーザインターフェースと、
・プロセッサであって、
(i)対応する暫定統計分布(Tj)の所定の信頼性レベル(CLj)内に含まれる、モニタユニット(MUij)の値、ビームレットの位置(Xij)の値、開始時間及び終了時間の値(t0ij、t1ij)をランダムに選択し、
(ii)このようにランダムに選択された値を用いて、計算線量分布ヒストグラム(=cDDHj)及び計算線量率分布ヒストグラム(=cDRDHj)のうちの1つ以上を計算し、
(iii)最後の2つのステップを統計的に代表的な回数(N)だけ繰り返して、各ビームレット用のこのように計算されたcDDHj及びcDRDHjの計算分布(CDj)を得る、
ように構成された、プロセッサと、
を備える。
【0027】
プロセッサは、cDDHj及びcDRDHjの計算分布(CDj)の1つ以上のうちのいずれか1つが、所定の信頼性レベル(CLj)で対応する許容変動幅内に含まれていない場合、cDDHj及びcDRDHjの1つ以上の計算分布(CDj)が、両方とも所定の信頼性レベル(CLj)で対応する許容変動幅内に含まれるまで、動作パラメータの新しい暫定統計分布(T(j+k))で上記のステップ(i)~(iii)を繰り返すように更に構成され得る。
【0028】
本発明の本質をより完全に理解するために、以下の詳細な説明を、添付の図面とともに参照する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1(a)-(c)は、対応する許容変動幅(BV)とともに、tDVH曲線の例を示す図である。
図2図2は、所与の粒子加速システムの動作パラメータのガウス分布を示す図である。
図3図3(a)-(c)は、肯定的な結果を伴う、本発明の方法の様々なステップを示す図である。
図4図4(a)-(c)は、否定的な結果を伴う、本発明の方法の様々なステップを示す図である。
図5図5(a)-(d)は、図3(b)及び図3(c)に示されるように計算されたcD(R)DHjの計算分布(CDj)を得る計算のN回の実行を示す図である。
図6図6は、本発明の方法の様々なステップを伴うフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、機器の都合により対応する治療計画を尊重しなくなる、治療セッションを実施するリスクを大幅に低減するコンピュータによって実施される方法及びエラー予測モジュールに関する。
【0031】
動作パラメータの許容値を最適化する方法
本発明は、照射軸(Z)に沿って加速された粒子の複数のビームレットによって形成されたビームが、治療計画(=TP)に従って、ペンシルビームスキャン(=PBS)により患者に線量を蓄積させることを可能にする、粒子加速システムの動作パラメータの許容値を最適化するためにコンピュータによって実施される方法に関する。粒子は陽子であることが好ましいが、電子、重イオンビームであってもよく、又は、X線(又はγ線)などの変換材料と相互作用する加速粒子によって形成された波であってもよい。図6に示されるように、コンピュータによって実施される方法では、多数の計画パラメータの値を入力する必要がある。これらは、以下の計画パラメータを含む治療計画(TP)によって提供され得る。
・照射軸(Z)に対して垂直な平面(X、Y)上の各ビームレット(bi)の計画位置(Xpi)、
・各ビームレットの計画モニタユニット(MUpi)、
・計画位置にわたる計画ビームレットスキャンシーケンス(Xpi)。
【0032】
この方法はまた、各ビームレットが提供される計画開始時間(t0pi)及び計画終了時間(t1pi)を必要とする。これは、FLASH-RTの場合に特に重要である。開始時間及び終了時間は、TPの一部であってもなくてもよい。
【0033】
対象構造は、ビームレット(bi)によって横断されるか又はビームレット(bi)と相互作用する1つ以上の組織を特徴付けるように、定義されなければならない。対象構造には、死滅させるべき腫瘍細胞からなる標的だけでなく、1つ以上のビームレットによって横断され又は何らかの形で接触される健康な組織も含まれる。例えば、照射軸(Z)に沿って標的から上流に位置する組織、すなわち粒子加速システムのノズルと標的の間に位置する組織、又は標的に隣接し標的を取り囲む組織も含まれる。
【0034】
治療の目的は、1回のセッションの終了時に、tD(R)VHが変動することを許容される許容変動幅(BV)内で、対象構造の標的線量(率)分布ヒストグラム(tD(R)DH)の所与の値を得ることである。図1(a)~図1(c)に示されるように、tD(R)DHは、例えば、標的線量ボリュームヒストグラム(=tDVH)(図1(a)を参照)、標的線量率ボリュームヒストグラム(=tDRVH)(図1(b)を参照)又は標的差分線量率ヒストグラム(tDDRH)(図1(c)を参照)を含み得る。線量及び線量率分布の情報を表示するために、他のヒストグラム表現も可能であり、tD(R)DHという用語に含まれる。図1(a)~図1(c)は、実線で表されるtDVH、tDRVH、tDRDHの例、並びに破線の間に含まれた領域によって表される対応する許容変動幅(BV)の例を示している。D(R)DHヒストグラムの代替表現に対して、同様の許容変動幅を定義することができる。図3(b)及び図3(c)に示されるように、粒子加速システムによって提供されたビームレットが、許容変動幅内に構成されたDVH及びDRVHを達成した場合、セッションは成功する。図4(b)及び図4(c)に示されるように、DVH又はDRVHが許容変動幅(BV)から外れた場合、治療セッションを中断しなければならず、治療セッションを再開するために粒子加速システムのスケジュールの空きスロットを待たなければならない患者には、多大な不快感をもたらす。
【0035】
図1(c)は、治療セッション中にビームレットパラメータを測定して得られた線量率分布ヒストグラム(aDDRH)の実際値を含んでいる(長破線を参照)。図1(c)の曲線aDDRHは、許容変動幅(BV)内で完全に囲まれていることが分かり得る。それゆえ、治療セッションは成功した。しかしながら、曲線aDDRHが許容変動幅(BV)を超えて拡大していたら、治療セッションは中断されなければならなかったであろう。実際のD(R)DHが許容変動幅から外れたために治療セッションを中断しなければならないリスクを低減するために、本発明は、コンピュータを用いて以下のアクションを実施することを提案する。
【0036】
まず、図3(a)及び図4(a)に示されるように、粒子加速システムの性能を代表する対応する平均値(μj)を中心とした粒子加速システムの動作パラメータ(MUj、Xj、t0j、t1j)の暫定統計分布(Tj)が選択される。動作パラメータの各々の暫定統計分布(Tj)の信頼性レベル(CLj)が定義される。動作パラメータは以下の通りである。
〇各ビームレットのモニタユニット(MUj)、
〇各ビームレット(Xj)の位置、及び
〇各ビームレットの提供の開始時間(t0j)及び照射終了時間(t1j)。
【0037】
暫定統計分布(Tj)の選択には、粒子加速システムの性能に基づき、ビームレットをスキャンシーケンスで提供し、且つ許容変動幅(BV)内に含まれる対象構造における計算線量ボリュームヒストグラム(=cDVHj)及び計算線量率ボリュームヒストグラム(=cDRVHj)を生成する、ビームを生成することが期待される。例えば、治療計画システム(TPS)は、所望のcDVH及びcDRVHをもたらすであろう、粒子加速システムによって達成可能な平均値(μi)を判定することができる。しかしながら、特定の日の治療装置の実際の動作パラメータは、対応する平均値(μi)に限定されず、一般的に、ガウス曲線上に分布し、日ごとに又は1日の間に変化する(図2を参照)。したがって、結果として得られるcD(R)DHヒストグラムは、治療の特定の時間における動作パラメータの実際値に応じて変化するため、分布を考慮して計算する必要がある。対応する分布曲線によって定義される各動作パラメータの全ての可能な値を考慮することは現実的ではないであろう。信頼性レベル(CLj)を定義できることにより、分布を許容可能と考えられる境界線に制限することができる。例えば、標準偏差(σj)に関して信頼性レベルを定義することができ、例えば、μj±nσj(n=1~3)である。
【0038】
図3(a)及び図4(a)のガウス分布曲線(Tj)の黒丸で示されるように、モニタユニットの値(MUij)、ビームレットの位置の値(Xij)、並びに開始時間(t0ij)及び終了時間(t1ij)の値(t0ij、t1ij)は、対応する信頼性レベル(CLj)内で、対応する暫定統計分布(Tj)からランダムに選択される。値は、以前に定義された信頼性レベル(CLj)の範囲内で選択される。
【0039】
図5(a)に示されるように、第1の実行(=Run 1)において、このようにしてランダムに選択された値を用いて、計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)DHj)を計算する。計算されたcD(R)DHjが対応する許容変動幅に収まる場合、図5(b)に示されるように、第2の実行(=Run 2)において、暫定統計分布(Tj)から新しい動作パラメータの値をランダムに選択し、対応するcD(R)DHjを計算する。これらの動作は、計算されたcD(R)DH-Run xが許容変動幅(BV)内に収まる限り、図5(c)に示されるように統計的な回数(N)、「Run N」だけ繰り返される。N回の実行後、x=1~NであるNの曲線「cD(R)DH-Run x」が、計算分布(CDj)を組み合わせて定義され、これは図3(b)及び図3(c)、図4(b)及び図4(c)、図5(d)に点線で区切られた影付き領域によって表されている。
【0040】
一方、このように計算されたcD(R)DHj-Run xのうちのいずれか1つが許容変動幅(BV)を超えて拡大する場合、暫定統計分布(Tj)に従って粒子加速システムの動作パラメータを用いた治療実行を中断しなければならないリスクが、所定の信頼性レベル(CLj)よりも高いと結論付けられ得る。次いで、動作パラメータの新しい暫定統計分布(T(j+1))が選択され、cD(R)DH(j+1)が、連続する各実行において、新しい暫定統計分布(T(j+1))のランダムに選択された値を用いて、新しい一連のN回の実行において計算される。この動作は、対応する計算分布(CD(j+k))が許容変動幅(BV)内で完全に構成されるまで、新しい暫定統計分布(T(j+k))を用いて繰り返される。
【0041】
計画位置(Xpi)、計画モニタユニット(MUpi)、計画位置(Xpi)にわたる計画ビームレットスキャンシーケンス、並びに計画開始時間(t0pi)及び終了時間(t1pi)の他に、計画パラメータはまた、計画ビームレットサイズ(dj)及びビーム電流(Ij)を含むことができ、その値(dij、Iij)は、計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)DHj)の計算に使用され、ビームレットサイズ(dj)及びビーム電流(Ij)の対応する暫定統計分布(Tj)内でランダムに選択される。
【0042】
cD(R)DHjの計算分布(CDj)は、一方で、
・最小計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)DHj0)、他方で、
・最大計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)DHj1)
の間に含まれる対応する領域によって、定義することができ、
ここで、
・cD(R)DHj0は、モニタユニット(Muij)、ビームレットの位置(Xij)、並びに開始時間及び終了時間(t0ij、t1ij)のN個のランダムに選択された値から所定の信頼性レベル(CLj)内で計算されたcD(R)DHjの最低値で定義され、
・cD(R)DHj1は、モニタユニット(Muij)、ビームレットの位置(X0i)、並びに開始時間及び終了時間(t0ij、t1ij)のN個のランダムに選択された値から所定の信頼性レベル(CLj)内で計算されたcD(R)DHjの最高値で定義される。
【0043】
計算されたcD(R)DHjの分布(CDj)を許容変動幅(BV)と比較することにより、計算されたcD(R)DHjの分布(CDj)が所定の信頼性レベル(CLj)に対して対応する許容変動幅に含まれるか否かを判定することができる。図3(b)及び図3(c)は、得られたcD(R)DHjの計算分布(CDj)が対応する許容変動幅(BV)内に含まれる、関連する信頼性レベル(CLj)を有する暫定統計分布(Tj)の一例を示している。対照的に、図4(b)及び図4(c)は、関連する信頼性レベル(CLj)を有する暫定統計分布(Tj)の例を示しており、影付き領域及び黒矢印によって示されるように、対応する許容変動幅(BV)を超えて拡大するcD(R)DHjの計算分布(CDj)がもたらされている。例えば、図4(b)では、cD(R)DHj-Run1が既に許容変動幅(BV)を超えて拡大していることが分かり得る。対応する暫定統計分布による計算を停止し、新しい暫定統計分布(T(j+1))を選択して、新しい暫定統計分布(T(j+1))からランダムに選択された動作パラメータの値を用いてN回の実行を繰り返すことができる。
【0044】
本発明の方法は、最終統計分布(Tf)を、最終信頼性レベル(CLf)を有する対応する動作パラメータに設定することによって終了することができる。cD(R)DHjの計算分布(CDj)のN回の実行が、所定の信頼性レベル(CLj)で対応する許容変動幅(BV)内に含まれている場合、所与の治療計画(TP)に対して、暫定統計分布(Tj)を最終信頼性レベル(CLf=CLj)で最終統計分布(すなわち、Tf=Tj)として設定し、対応する動作パラメータを定義することができる。動作パラメータの最終統計分布(Tf)を実施することにより、粒子加速システムは、例えば図1(c)に示されるように、許容変動幅(BV)内に含まれる対応する実際の線量(率)分布ヒストグラム(aD(R)DH)を有する治療計画(TP)を満たすビームレットの提供の最終信頼性レベル(CLf)に等しい確率を有することが結論され得る。
【0045】
一方、cD(R)DHjのN回の実行のうちのいずれか1つが、例えば図4(b)に示されるように、所定の信頼性レベル(CLj)を有する対応する許容変動幅(BV)の境界を超えて拡大する場合、新しい暫定統計分布(T(j+1))及び/又は新しい信頼性レベル(CL(j+1))が、動作パラメータのうちの1つ以上に対して定義され得、cD(R)DHjが、動作パラメータの各々のN個のランダムに選択された値を用いてN回計算され得る。これらの動作は、cD(R)DHj(j+k)の計算分布(CD(j+k))が、所定の信頼性レバル(CLj)又は(CL(j+k))の対応する許容変動幅(BV)内に含まれるまで、動作パラメータの新しい暫定統計分布(T(j+k))及び/又は代替信頼性レベル(CL(j+k))を用いて必要な回数だけ繰り返すことができる。したがって、最終統計分布(Tf)を暫定統計分布(T(j+k))であるものとして設定し(すなわち、Tf=T(j+k))、対応する信頼性レベル(CL(j+k))を最終信頼性レベル(CLf=CL(j+k))として設定して、対応する動作パラメータを定義することができる。
【0046】
j+(k-1)個の先行する暫定統計分布が、所定の信頼性レベル(CLj)に対してtD(R)DHを囲む変動幅(BV)内に含まれる計算分布を得られなかった場合に定義される新しい暫定統計分布(T(j+k))を、対応する先行暫定統計分布(Tj+(k-1))よりも標準偏差(σj)(又は分散(σj))がより小さい分布として選択することができる。
【0047】
対応する動作パラメータの最終統計分布(Tf)の設定は、人間のオペレータによって、又はプロセッサによって自動的に実行され得る。
【0048】
各動作パラメータの暫定統計分布(Tj)は、好ましくはガウス分布である。信頼性レベル(CL)の値は、好ましくは暫定統計分布の68%~99.7%、好ましくは95.5~99%に含まれる。図2に示されるように、68%の信頼性レベル(CLj)は、μj±σjに対応する。95%の信頼性レベル(CLj)は、μj±2σjに対応し、暫定統計分布の99.7%の信頼性レベルは、μj±3σjに対応し、ここで、σjは、対応する暫定統計分布の標準偏差である。例えば、絶対偏差に関して、スポットの位置(Xj)は、例えば、Xjの平均値μjから±1mmだけ変化する場合がある。モニタユニット(MUj)は、例えば、MUjの平均値(μj)を中心に約0.5%だけ変動し得る。各動作パラメータの平均値(μj)及び標準偏差(σj)は、ビームレット(bi)ごとに異なり得ることに留意されたい。
【0049】
粒子加速システムは、モニタユニット(MUai)、位置(Xai)、並びに粒子加速システムによって放出されるビームレットの開始時間及び終了時間(t0ai、t1ai)の実際値を異なる間隔で又は連続して測定するように構成された巡回チェックモジュールを備えることができる。プロセッサは、任意の実際の動作パラメータが対応する最終信頼性レベル(CLf)から外れているかどうかを判定するように構成できる((図3(a)及び4(a)を参照、統計分布(Tj)の一部のみに及ぶ信頼性レベル(CLj)を示している)。そのような場合、オペレータにこのイベントを知らせるアラームをトリガすることができる。安全対策として、プロセッサはまた、動作パラメータが信頼性レベル(CLj)から外れるとすぐに治療を停止するように構成され得る。
【0050】
実際の動作パラメータの1つ以上の値が対応する信頼性レベル(CLj)から外れているという事実は、結果のaD(R)DHが必ずしも許容変動幅(BV)から外れていることを意味するわけではない。したがって、許容変動幅(BV)内に含まれるD(R)DHを完全に得ることができるため、任意の動作パラメータの1つの実際値が対応する信頼性レベル(CLj)から外れているという理由だけで治療セッションを中断するのは、やり過ぎである可能性がある。プロセッサは、動作パラメータの測定された実際値が対応する信頼性レベル(CLj)から外れるとすぐにcD(R)DHを計算して、それらが対応する許容変動幅(BV)内に含まれているかどうかを判定するように構成され得る。cD(R)DHは、信頼性レベル(CLj)から外れたパラメータを含む、既に提供されたビームレット上で測定された動作パラメータの実際値、及び治療セッションを終了するための提供が残っているビームレットの最終統計分布(Tf)による動作パラメータの平均値(μj)に基づいて、計算することができる。こうして計算されたcD(R)DHが許容変動幅(BV)から外れた場合、治療セッションは停止される。一方、計算されたcD(R)VHが許容変動幅(BV)内にある場合、治療セッションは更に進めることができる。プロセッサのこの機能により、治療セッションを停止するリスクは更に低減される。
【0051】
この機能は、動作パラメータの実際値の100%-CLj%のみに関係するため、過剰な計算能力を必要としない。信頼性レベル(CLj)が95%、すなわちμj±2σjの場合、動作パラメータの値がD(R)DHを計算しなければならない信頼性レベル(CLj)から外れる確率は5%だけである。暫定統計分布の信頼性レベルが99.7%、すなわちμj±3σjの場合、そのような計算が必要となる確率は、わずか0.3%に過ぎない。
【0052】
好ましい実施形態では、治療計画は、1Gy/秒以上の蓄積率として定義された超高速蓄積率(UHDR)で対象構造の少なくとも一部に線量が蓄積される、FLASH-RTを含む。この実施形態では、計画パラメータはまた、ビーム電流(I)を含み、その値(Ij)は、計算線量分布ヒストグラム(=cDDHj)、特に計算線量率分布ヒストグラム(=cDRDHj)を計算するために使用され、ビーム電流(Ij)の対応する暫定統計分布(Tj)内でランダムに選択される。
【0053】
エラー予測モジュール
本発明はまた、上記で説明された方法を実施するように構成されたエラー予測モジュールに関する。エラー予測モジュールは、複数の対応する平均値(μj)を中心とする各動作パラメータの複数の暫定統計分布(Tj)を含むメモリを備える。エラー予測モジュールはまた、入力用に構成されたユーザインターフェースと、
・計画位置(Xpi)、計画モニタユニット(MUpi)、及び計画ビームレットスキャンシーケンス、計画開始時間(t0pi)及び終了時間(t1pi)を含む治療計画(TP)を含む、計画演算子と、
・標的線量(率)分布ヒストグラム(=tD(R)DH)及び対応する許容変動幅(BV)と、
・各ビームレットに対して、少なくともモニタユニット(MUj)、ビームレットの位置(Xj)、開始時間及び終了時間(t0i、t1i)を含む動作パラメータごとに、複数の暫定統計分布のうちの1つ以上から平均値(μj)及び標準偏差(σj)の値を入力することによってその中から選択又は定義される第1の暫定統計分布(Tj)と、
を備える。
【0054】
エラー予測モジュールは、
・対応する暫定統計分布(Tj)の所定の信頼性レベル(CLj)内に含まれる、モニタユニット(MUij)の値、ビームレットの位置(Xij)の値、開始時間及び終了時間の値(t0ij、t1ij)をランダムに選択し、
・このようにランダムに選択された値を用いて、計算線量(率)分布ヒストグラム(=cD(R)Dj)を計算し、
・最後の2つのステップを統計的に代表的な回数(N)だけ繰り返して、各ビームレット用のこのように計算されたcD(R)Djの計算分布(CDj)を得る、
ように構成された、プロセッサを備える。
【0055】
プロセッサは、cD(R)Djの計算分布(CDj)が、所定の信頼性レベル(CLj)で対応する許容変動幅内に含まれていない場合、cD(R)Djの計算分布(CDj)が、所定の信頼性レベル(CLj)で対応する許容変動幅内に含まれるまで、動作パラメータの新しい暫定統計分布(T(j+k))で前述の3つのステップを繰り返すように更に構成され得る。
【0056】
フローチャート(図6
図6は、本発明の方法の様々なステップを示すフローチャートである。治療計画(TP)の要件(図6(1)を参照)は、全てのビームレット用の計画パラメータに変換される(図6(2)を参照)。1つ以上の理論的な線量(率)分布ヒストグラム(tD(R)DH)は、対応する許容変動幅(BV)(図6(4)を参照)とともに定義される(図6(3)を参照)。上記で定義されたように、線量(率)分布ヒストグラム(D(R)DH)には、非網羅的に、線量ボリュームヒストグラム(DVDH)、線量率ボリュームヒストグラム(DRVH)、又は差分線量率分布ヒストグラム(DDRH)などが含まれ得る。
【0057】
第1の暫定統計分布(Tj)及び対応する信頼性レベル(CLj)を定義する(図6、(6)及び(7)を参照)ことによって、粒子加速システムがシミュレーションされる(図6(5)を参照)。各動作パラメータの値が、暫定統計分布(Tj)の信頼性レベル(CLj)内でランダムに選択され(図6(8)を参照)、結果としてcD(R)DHj-Run(x=1)が計算される(図6(9)を参照)。計算されたCD(R)DH-Run(x=1)が許容変動幅(BV)内にない場合、新しい暫定統計分布(T(j+1))を対応する信頼性レベル(CL(j+1))とともに選択し(図6、ステップ(10)及び(11)を参照)、ステップ(7)~(10)を繰り返す。一方、計算されたCD(R)DH-Run(x=1)が許容変動幅(BV)内にある場合、暫定統計分布(Tj)の信頼性レベル(CLj)内で各動作パラメータの新しい値を統計的に代表的な回数(N)だけランダムに選択し(図6(11)、(12)及び(8)を参照)、ステップ(8)~(10)を繰り返す。N回のRun xから得られる計算されたCD(R)DH-Run(x=1~N)が全て許容できる変動幅(BV)内にある場合、対応する暫定統計分布(Tj)を最終統計分布(Tf)として設定することができる(図6(13)を参照)。粒子加速システムは、対応する最終統計分布(Tf)に従って、動作パラメータとともにプログラムされ得る。そのようなプログラミングにより、粒子加速システムは、治療セッションを中断することなく治療計画を満たすビームレットを提供することのCLj%の確率を有する。
【0058】
本発明の方法は、単一の計算線量(率)ヒストグラム(cD(R)DH)を用いて、又は最終統計分布(Tf)を設定するために、全てが対応する許容変動幅(BV)内にある必要があるいくつかのヒストグラムを用いて実施され得る。第1の暫定統計分布(Tj)が、対応する許容変動幅(BV)内に収まる1つのヒストグラム(例えば、cDVH)をもたらすが、許容変動幅(BV)を超えて拡大する別のヒストグラム(例えば、cDRVH)をもたらす場合、新しい暫定統計分布(T(j+1))が選択されなければならず、方法は、全ての必要なヒストグラムを対応の許容変動幅(BV)に適合する暫定統計分布(T(j+k))が見つかるまで再び実行される。線量率関連ヒストグラム(例えば、DRVH、DDRH)は、対象構造の選択されたスポットに超高蓄積率で線量を蓄積させるためにFLASHモードで放出されるビームレットからなる治療計画にとって特に重要である。
【符号の説明】
【0059】
BV 変動幅
CDj cDVHj及びcDVRHjの計算分布
D(R)DH 線量(率)分布ヒストグラム(D(R)DH)は「線量分布ヒストグラム(DDH)」及び「線量率分布ヒストグラム(DRDH)」の両方を含む
cD(R)Dj 暫定統計分布Tjを有するビームレットSiの計算線量(率)分布ヒストグラム
cDVH 暫定統計分布Tjを有するビームレットSiの計算線量ボリュームヒストグラム
cDRVH 暫定統計分布Tjを有するビームレットSiの計算線量率ボリュームヒストグラム
cD(R)Dj0 最小計算線量(率)分布ヒストグラム
cD(R)Dj1 最大計算線量(率)分布ヒストグラム
CLj 信頼性レベル
CLf 最終信頼性レベル
Dj ビームレットサイズ
DRj 線量蓄積率
i i=1-N回の実行
j、k 動作パラメータの1つの暫定統計分布を特定
MUai 粒子加速器によって提供されるビームレットSiの実際モニタユニット
MUj 暫定統計分布によるビームレットSiのモニタユニット分布
MUij ビームレットSiのモニタユニット分布からのランダム値
MUpi ビームレットSiの計画モニタユニット
PBS ペンシルビームスキャン
Si ビームレット
Tj、T(j+k) 動作パラメータの暫定統計分布
Tf 動作パラメータの最終統計分布
TP 治療計画
t0aj ビームレットSiの実際開始時間
t0j 暫定統計分布によるビームレットSiの開始時間分布
t0ij ビームレットSiの開始時間分布からのランダム値
t0pi ビームレットSiの計画開始時間
t1ai ビームレットSiの実際終了時間
t1i 暫定統計分布によるビームレットSiの終了時間分布
t1ij ビームレットSiの終了時間分布からのランダム値
t1pi ビームレットSiの計画終了時間
tD(R)Dj 暫定統計分布Tjを有するビームレットSiの理論線量(率)分布ヒストグラム
tDVH 暫定統計分布Tjを有するビームレットSiの理論線量ボリュームヒストグラム
tDRVH 暫定統計分布Tjを有するビームレットSiの理論線量率ボリュームヒストグラム
Xai ビームレットSiの実際位置
Xi ビームレットSiの位置
Xij ビームレットSiの位置からのランダム値
Xpi ビームレットSiの計画位置
(X,Y) 照射軸(Z)に対して垂直な平面
Z 照射軸
Δti ビームレットSiによる線量蓄積の持続時間
μj ビームレットSiの動作パラメータ分布の平均値
σj ビームレットSiの動作パラメータ分布の標準偏差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】