(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168296
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】電極装置、電気化学測定装置、電極装置の洗浄方法、および電気化学測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/38 20060101AFI20231116BHJP
G01N 27/401 20060101ALI20231116BHJP
G01N 27/36 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01N27/38
G01N27/38 353
G01N27/401 313Z
G01N27/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078588
(22)【出願日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2022078461
(32)【優先日】2022-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】西尾 友志
(72)【発明者】
【氏名】室賀 樹興
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼味 拓永
(72)【発明者】
【氏名】木下 隆将
(57)【要約】
【課題】試料と接触する部分に光触媒を塗布したコーティング部を備えた電極装置において、光触媒の触媒機能または親水機能が働かず、そのコーティング部に物質が付着または集積している場合に、その物質をコーティング部から物理的に除去し、測定精度を保つ。
【解決手段】所定のイオンに応答する応答ガラス111bおよび液絡部123を備える電極装置1であって、応答ガラス111bおよび液絡部123に光触媒が塗布されたコーティング部111cと、コーティング部111cに付着または集積した物質に物理的に作用することにより、コーティング部111cから物質を取り除く除去機構15とを備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のイオンに応答する応答ガラスおよび液絡部を備える電極装置であって、
前記応答ガラスまたは前記液絡部の少なくとも一方に光触媒が塗布されたコーティング部と、
前記コーティング部に付着または集積した物質に物理的に作用することにより、前記コーティング部から前記物質を取り除く除去機構とを備える、電極装置。
【請求項2】
前記除去機構は、前記コーティング部を振動させる振動部を備える、請求項1に記載の電極装置。
【請求項3】
前記除去機構は、前記コーティング部を清掃するための清掃体と、前記清掃体を前記コーティング部に対して相対的に摺動させる駆動部とを備える請求項1又は2の何れか一項に記載の電極装置。
【請求項4】
前記除去機構は、流体を供給しまたは流れを発生させて、前記流体または前記流れを前記コーティング部に当てる流体作用部を備える、請求項1乃至3の何れか一項に記載の電極装置。
【請求項5】
前記電極装置は、前記コーティング部に紫外線を照射する光源と、前記紫外線の照射量を調整する光量調整部をさらに備える、請求項1乃至4の何れか一項に記載の電極装置。
【請求項6】
前記光触媒は、撥水性を有する請求項1乃至5の何れか一項に記載の電極装置。
【請求項7】
前記コーティング部に設けられ、前記光触媒による水の分解を補助する助触媒をさらに備える、請求項1乃至6の何れか一項に記載の電極装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の電極装置を備える電気化学測定装置。
【請求項9】
応答ガラスまたは液絡部の少なくとも一方に光触媒を塗布したコーティング部を備える電極装置の洗浄方法であって、
前記コーティング部に付着または集積した物質に物理的に作用することにより、前記コーティング部から前記物質を取り除く、電極装置の洗浄方法。
【請求項10】
応答ガラスまたは液絡部の少なくとも一方に光触媒を塗布したコーティング部を備える電極装置を用いた電気化学測定方法であって、
前記コーティング部に付着または集積した物質に物理的に作用することにより、前記コーティング部から前記物質を取り除き、前記物質が取り除かれた前記電極装置を用いて行う電気化学測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極装置、電気化学測定装置、電極装置の洗浄方法、および電気化学測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、試料中の所定のイオンを測定する電極装置が提供されている。このような電極装置は、長時間試料中に浸漬されているので、試料と接触している部分に試料中の物質が付着し、測定の精度に影響を与えることになる。そこで、試料と接触する部分に物質が付着するのを防ぐために、種々の電極装置が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、液絡部に光触媒を塗布することで、液絡部に物質を付着しにくくさせる電極装置が示されている。この種の電極装置は、電極装置の内部に紫外線を照射する光源を設け、光源からの紫外線と光触媒とが化学反応することで、液絡部に付着した有機物を分解する(光触媒の触媒機能)。また、光源からの光と光触媒とが化学反応することで、液絡部に物質が付着しにくくなる(光触媒の親水機能)。
【0004】
しかしながら、このような電極装置では、一度液絡部に物質が付着してしまうと、その付着した物質を液絡部から除去することができない恐れがある。また、物質は、液絡部表面に付着せずとも集積する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そして、付着または集積した物質が無機物の場合、光触媒の触媒機能が働かないので、液絡部に物質が付着または集積した状態が継続してしまう。その結果、液絡部に付着または集積した物質によって、測定精度に影響を与える恐れがある。
【0007】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、試料と接触する部分に光触媒を塗布したコーティング部を備えた電極装置において、光触媒の触媒機能または親水機能が働かず、そのコーティング部に物質が付着または集積している場合に、その物質をコーティング部から物理的に除去し、測定精度を保つことをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る電極装置は、所定のイオンに応答する応答ガラスおよび液絡部を備える電極装置であって、前記応答ガラスまたは前記液絡部の少なくとも一方に光触媒が塗布されたコーティング部と、前記コーティング部に付着または集積した物質に物理的に作用することにより、前記コーティング部から前記物質を取り除く除去機構とを備えることを特徴とする。
このような電極装置であれば、応答ガラスまたは液絡部の少なくとも一方に光触媒が塗布されたコーティング部を備え、除去機構がコーティング部に付着または集積した物質に物理的に作用するので、付着または集積した物質をコーティング部から取り除くことができる。具体的には、コーティング部に付着または集積した物質が有機物の場合、光触媒の触媒機能とともに、除去機構の物理的な作用により、有機物をコーティング部から取り除くことができる。また、コーティング部に付着または集積した物質が無機物の場合、光触媒の機能によってはコーティング部に付着または集積した無機物を除去することはできない一方、除去機構の物理的な作用により、コーティング部から無機物を取り除くことができる。なお、ここでいう「物理的な作用」とは、光触媒に光を照射して得られる化学的な作用(光触媒の触媒機能、親水機能)とは別に、コーティング部に付着または集積した物質に対し、例えば振動力、波動力、押圧力、又は、光触媒によって水が分解される際に発生する気泡による衝突力などの物理的な力を加えることを言う。
【0009】
また、前記除去機構は、前記コーティング部を振動させる振動部を備えるものが好ましい。
このような除去機構であれば、振動部がコーティング部を振動させるので、コーティング部に付着または集積した物質を振るい落とすことができる。
【0010】
その上、前記除去機構は、前記コーティング部を清掃するための清掃体と、前記清掃体を前記コーティング部に対して相対的に摺動させる駆動部とを備えることが挙げられる。
このような除去機構であれば、清掃体がコーティング部に対して相対的に摺動するので、コーティング部に付着または集積した物質を、清掃体の摺動によってコーティング部から取り除くことができる。
【0011】
さらに、前記除去機構は、流体を供給しまたは流れを発生させて、前記流体または前記流れを前記コーティング部に当てる流体作用部を備えることが挙げられる。
このような除去機構であれば、流体作用部が流体を供給しまたは流れを発生させ、その流体または流れがコーティング部に当たるので、コーティング部に付着または集積した物質は、その流体または流れによって流される。その結果、コーティング部に付着または集積した物質をコーティング部から除去することができる。
【0012】
そして、前記電極装置は、前記コーティング部に紫外線を照射する光源と、前記紫外線の照射量を調整する光量調整部をさらに備えることが望ましい。
このようなものであれば、光源がコーティング部に紫外線を照射し、光量調整部がその照射量を調整するので、コーティング部に物質が付着または集積した際に、例えば照射量を大きくさせることで、光触媒と紫外線との反応を増大させることができる。したがって、光触媒の触媒機能および親水機能を向上させることができるので、特に付着または集積した物質が有機物である場合、その有機物をコーティング部から除去することができる。
また、コーティング部に紫外線が照射されることにより、コーティング部に接している水分子(H2O)は、水素分子(H2)及び酸素分子(O2)に分解される(光触媒の本多―藤島効果)。その結果、水素分子(H2)及び酸素分子(O2)を含む気泡がコーティング部111cの外面に発生し、当該気泡がコーティング部に付着又は集積した物質に衝突することによって、当該物質をコーティング部から除去ことができる。
【0013】
また、前記光触媒は、撥水性を有することが挙げられる。
このような光触媒であれば、電極装置が、撥水性を有する光触媒を応答ガラスに塗布したコーティング部を備えるので、溶液中の物質がコーティング部に付着または集積するのを低減することができる。
【0014】
前記電極装置は、前記コーティング部に設けられ、前記光触媒による水の分解を補助する助触媒を備えることが望ましい。
このようなものであれば、コーティング部に光触媒及び助触媒が塗布され、コーティング部における酸化サイト及び還元サイトが決定されるので、光触媒の本多―藤島効果によって水が分解される際の逆反応を防ぐことができる。その結果、コーティング部に助触媒が塗布されていない場合と比較して、水の分解による気泡が増加するので、コーティング部に付着又は集積した物質をコーティング部から除去することができる。
【0015】
その上、電気化学測定装置は前記電極装置を備えることが望ましい。
このような電気化学測定装置であれば、光触媒を塗布したコーティング部とコーティング部に付着または集積した物質に物理的に作用する除去機構を備えているので、電気化学測定を精度よく行うことができる。
【0016】
そして、電極装置の洗浄方法は、応答ガラスに光触媒を塗布したコーティング部を備える電極装置の洗浄方法であって、前記コーティング部に付着または集積した物質に物理的に作用することにより、前記コーティング部から前記物質を取り除くことが挙げられる。
このような洗浄方法であれば、コーティング部に付着または集積した物質に物理的に作用するので、コーティング部に付着または集積した物質を除去することができる。
【0017】
さらに、電気化学測定方法は、応答ガラスまたは液絡部の少なくとも一方に光触媒を塗布したコーティング部を備える電極装置を用いた電気化学測定方法であって、前記コーティング部に付着または集積した物質に物理的に作用することにより、前記コーティング部から前記物質を取り除き、前記物質が取り除かれた前記電極装置を用いて行うものが挙げられる。
このような電気化学測定方法であれば、コーティング部に付着または集積した物質に物理的に作用するので、コーティング部に付着または集積した物質を除去することができる。その結果、物質がコーティング部に付着または集積した状態が継続することを防ぐことができるので、電気化学測定を精度よく行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
以上に述べた本発明によれば、試料と接触する部分に光触媒を塗布したコーティング部を備えた電極装置において、光触媒の触媒機能または親水機能が働かず、そのコーティング部に物質が付着または集積している場合に、その物質をコーティング部から物理的に除去し、測定精度を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電極装置の側面図である。
【
図2】同実施形態における電極装置の部分断面図である。
【
図3】同実施形態における電極装置の模式図である。
【
図4】変形実施形態における電極装置の(a)模式図、(b)A-A指示線における断面図である。
【
図5】変形実施形態における電極装置の模式図である。
【
図6】変形実施形態における電極装置の模式図である。
【
図7】変形実施形態における電極装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る電極装置について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示すいずれの図についても、わかりやすくするために、適宜省略しまたは誇張して模式的に描かれている。同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0021】
本実施形態における電極装置1は、例えば、工業排水または水処理施設からの放流水、河川水または沼湖水などの試料中の、例えば、pHまたは各種イオン濃度等を測定する電気化学測定装置100に使用されるものである。
【0022】
電気化学測定装置100は、例えば、
図1に示すように、試料中のイオン濃度などを電気信号として出力する電極装置1と、電極装置1からの電気信号を受信して、その電気信号を所望の情報に変換して出力して演算部や電気化学測定装置100の各部を制御する制御部等を含む情報処理装置2と、情報処理装置2から出力された情報を表示する表示部3とを備えるものである。
【0023】
具体的に電極装置1は、
図1に示すように、例えばpHを測定するガラス電極11と、ガラス電極11に発生した電位差を測定する比較電極12と、紫外線を照射する光源部13と、ガラス電極11および比較電極12を保護する保護カバー14と、光源部13とは別に設けられ、ガラス電極11に付着または集積した物質を除去する除去機構15とを備えるものである。なお、ガラス電極11および比較電極12は、電極本体部16を構成する。
【0024】
ガラス電極11は、所定のイオンに応答することにより、例えばpHを測定するものである。具体的にガラス電極11は、
図2に示すように、透明なガラス等からなる円筒状のガラス電極筐体111と、ガラス電極筐体111の内部に収容された測定用内部電極112とを備える。
【0025】
ガラス電極筐体111は、例えばガラス製のガラス電極支持管111aの先端部に、所定のイオンに応答する応答ガラス111bを備えるものである。ここで、後述する光触媒の塗布をしやすくするために、又は、付着又は集積した物質の除去をしやすくするために、応答ガラス111bの形状は、球状が好ましく、より好ましい形状は先端部が略半球状をなすように形成した円筒状であり、更に好ましい形状はフラット型である。
【0026】
また、ガラス電極筐体111は、測定用内部電極112と応答ガラス111bとを電気的に接続させるガラス電極内部液113を収容している。ガラス電極内部液113は、例えばKCl水溶液であるが、これに限られない。
【0027】
測定用内部電極112は、例えば、銀/塩化銀電極である。この測定用内部電極112は、例えば、リード線LまたはケーブルK等を介して情報処理装置2と電気的に接続されている。
【0028】
比較電極12は、ガラス電極11に発生した電位差を測定するためにガラス電極11と組み合わせて用いられるものである。具体的に比較電極12は、
図2に示すように、例えばガラス製の比較電極筐体121と、比較電極筐体121の内部に収容された比較用内部電極122と、試料と電気的に接続される液絡部123とを備える。
【0029】
比較用内部電極122は、例えば、銀/塩化銀電極である。この比較用内部電極122は、例えば、リード線LまたはケーブルK等を介して情報処理装置2と電気的に接続されている。
【0030】
液絡部123は、試料と比較電極12とを電気的に接続させるものである。具体的に液絡部123は、比較電極筐体121の厚み方向に貫通した貫通孔であって、試料と接する比較電極筐体121の表面に開口するように形成されている。他には、液絡部123は、貫通孔の内部に取り付けられた多孔質セラミックまたはキャピラリ等からなる。なお、液絡部123は、スリーブ形、ピンホール形、又は、ダブルジャンクション形の何れであってもよい。
【0031】
しかして、応答ガラス111bまたは液絡部123の少なくとも一方において、それらの試料と接触する面の少なくとも一部の面に光触媒が塗布され、その応答ガラス111bまたは液絡部123の少なくとも一方と光触媒とによって、コーティング部111cが構成される。特に、本実施形態におけるコーティング部111cは、応答ガラス111bおよび液絡部123の全体に光触媒が塗布されており、溶液中に浸漬される。ここで、光触媒は、例えば二酸化チタン(TiO2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、又は、チタン酸ナトリウム(NaTiO3)等のチタン酸化合物が挙げられるが、撥水性を有するビスマス系、ジルコニア系、または酸化亜鉛であってもよい。
【0032】
また、コーティング部111cには、白金、金又は銅などの貴金属といった、光触媒の触媒機能を向上させる助触媒が塗布されていてもよい。すなわち、助触媒及び光触媒が応答ガラス111bまたは液絡部123に塗布されていてもよい。この場合、助触媒が塗布されることによって、コーティング部111cにおける酸化サイト又は還元サイトが決定されて逆反応が防がれるので、光触媒の本多―藤島効果が向上する。
【0033】
ここで、助触媒又は光触媒がコーティング部111cに塗布される回数は、応答ガラス111bのpH性能を維持するために、2回以上8回以下であることが望ましい。また、助触媒の添加量は、助触媒の機能及び光触媒の触媒機能を担保するために、0.01質量パーセント濃度以上5.0質量パーセント濃度以下であることが好ましく、より好ましくは、0.1質量パーセント濃度以上1.0質量パーセント濃度以下である。
【0034】
光源部13は、コーティング部111cまたは液絡部123に紫外線を照射するものである。具体的に光源部13は、
図2に示すように、紫外線が出射される光源131と、光源131が取り付けられる基板132と、光源131を電源装置(不図示)に取り付ける接続ライン133とを備える。
【0035】
光源131は、応答ガラス111bに向かって紫外線を射出するものである。光源131は、小さい波長域の紫外線を射出するLED(発光ダイオードチップ)であり、具体的な波長域は、400nm以下であり、より好ましくは370nm以下である。また、光源131は、紫外線強度が強い紫外線を射出するものであり、水を分解するための好ましい紫外線強度の範囲は、0.1mW/cm2以上100mW/cm2である。さらに、光源131は、コーティング部111cに近接して設けられることが好ましい。
【0036】
基板132は、光源131が設置されるものである。具体的には、基板132は、応答ガラス111bと対向する一方の面に、光源131のLEDチップが取り付けられ、他方の面は、接続ライン133に接続される。このように構成された基板132により、LEDチップからの光は、基板132のLEDチップが取り付けられている面から応答ガラス111bの端部へと照射される。
【0037】
保護カバー14は、電極本体部16を保護するものである。具体的には、
図2に示すように、保護カバー14は、例えば、円筒状の形状からなり、電極本体部16の周囲に設けられ、電極本体部16の上部と接続されている。また、保護カバー14は、コーティング部111cが試料と接触することができるように、保護カバー14の軸方向に対して、開口部141を設けている。特に本実施形態において、保護カバー14は、その軸方向に対して電極本体部16全体が試料と接触することができるように開口部141を形成している。
【0038】
そして除去機構15は、コーティング部111cに付着または集積した物質に物理的に作用することにより、その付着または集積した物質をコーティング部111cから除去するものである。具体的には、
図3に示すように、除去機構15は、コーティング部111cを振動させる振動部150を備える。より詳細には、振動部150は、コーティング部111cを電極本体部16の軸方向に対して左右方向(以下、「左右方向」という。)に往復して移動させる左右振動部151(
図3(a))、コーティング部111cを電極本体部16の軸方向に対して上下方向(以下、「上下方向」という。)に往復して移動させる上下振動部152、またはコーティング部111cをバイブレーションにより振動させるバイブレーション振動部153(
図3(c))である。
【0039】
左右振動部151は、コーティング部111cを左右方向に往復して移動させるものである。具体的には、
図3(a)に示すように、左右振動部151は、電極本体部16と接続する左右接続部151aと、左右接続部151aを左右方向に往復して移動させる左右リフト部151bと、左右リフト部151bを支持する左右リフト支持部151cとを備える。ここで左右リフト部151bは、例えば油圧リフトが挙げられるが、これに限られない。
【0040】
上下振動部152は、コーティング部111cを上下方向に往復して移動させるものである。具体的には、
図3(b)に示すように、上下振動部152は、電極本体部16と接続する上下接続部152aと、上下接続部152aを縦方向に往復して移動させる上下リフト部152bと、上下リフト部152bを支持する上下リフト支持部152cとを備える。ここで上下リフト部152bは、例えば油圧リフトが挙げられるが、これに限られない。
【0041】
バイブレーション振動部153は、コーティング部111cをバイブレーションさせるものである。具体的には、
図3(c)に示すように、バイブレーション振動部153は、電極本体部16と接続して、電極本体部16をバイブレーションさせるバイブレーション部153aと、バイブレーション部153aを支持するバイブレーション支持部153bとを備える。バイブレーション部153aは、例えば振動発生装置であるが、これに限られない。
【0042】
情報処理装置2は、CPU、内部メモリ、入出力インターフェース、キーボード等の入力手段、通信手段等を備える所謂コンピュータである。本実施形態において、情報処理装置2は、電極装置1からの電気信号に基づいて、試料中のpHを演算するとともに、光源131を制御する。より詳細には、情報処理装置2は、光源131の紫外線強度の制御又は光源131のON/OFF制御を行う。
【0043】
<電極装置の洗浄方法>
次に、コーティング部111cに付着または集積した物質を除去する洗浄方法について説明する。
【0044】
情報処理装置2が光源131をON状態に制御すると、光源131からコーティング部111cに紫外線が照射される。これにより、コーティング部111cに接している水分子(H2O)は、水素分子(H2)及び酸素分子(O2)に分解される(光触媒の本多―藤島効果)。その結果、水素分子(H2)及び酸素分子(O2)を含む気泡がコーティング部111cの外面に発生し、当該気泡がコーティング部111cに物理的に作用することによって、コーティング部111cに付着又は集積した物質がコーティング部111cから離れる。なお、光源131のON状態が継続すると気泡が大量に発生してしまい、pH測定に影響を及ぼす場合がある。そこで、情報処理装置2は、予め設定された時間に基づいて、光源131のON状態及びOFF状態を切り替えて制御してもよい。
【0045】
さらに、振動部150が移動または振動することにより、コーティング部111cも移動または振動する。この結果、コーティング部111cに付着した物質は、コーティング部111cの移動または振動に伴う衝撃を受けて、コーティング部111cから滑り落ちることで、コーティング部111cから離れる。もしくは、コーティング部111cは溶液中に浸漬されるので、コーティング部111cが移動または振動することにより、溶液の水圧および摩擦力が生ずる。その結果、コーティング部111cに付着または集積した物質にその水圧および摩擦力が作用することで、この物質はコーティング部111cから離れる。
【0046】
なお、光源131がON状態である場合、振動部150が移動又は振動することによって、光触媒の本多-藤島効果により発生した気泡も追従して移動する。その結果、気泡の移動がコーティング部111cの多方向に亘るので、コーティング部111cに付着又は集積した物質がコーティング部111cからより離れやすくなる。
【0047】
<本実施形態の効果>
本実施形態の電極装置1によれば、応答ガラス111bおよび液絡部123に光触媒を塗布したコーティング部111cを備え、除去機構15は、コーティング部111cに付着または集積した物質に物理的に作用する。その結果、電極装置1において、光触媒の触媒機能または親水機能が働かず、コーティング部111cに物質が付着または集積している場合に、除去機構15が、その物質をコーティング部111cから物理的に除去するので、電極装置1の測定精度を保つことができる。
【0048】
特に本実施形態においては、振動部150の移動または振動により、コーティング部111cも移動または振動する。この結果、コーティング部111cに付着または集積した物質は、コーティング部111cから滑り落ちることで、コーティング部111cから離れる。もしくは、コーティング部111cは溶液中に浸漬されるので、振動部150の移動または振動によって、溶液の水圧および摩擦力が生ずる。その結果、この水圧および摩擦力が、コーティング部111cに付着または集積した物質に作用する。したがって、コーティング部111cに付着または集積した物質は、この水圧および摩擦力によってコーティング部111cから離れることになるので、この物質をコーティング部111cから除去することができる。
【0049】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記各実施形態に限られるものではない。
【0050】
本実施形態における振動部150は、コーティング部111cを左右方向または上下方向に移動させるものであったが、移動方向はこれに限られない。すなわち、振動部150は、コーティング部111cを電極本体部16の軸方向に対して任意の角度で往復移動させるものであってもよい。また、振動部150は、電極本体部16の一端を固定して、その固定した点を中心に電極本体部16を回転させるものであってもよい。
【0051】
また、本実施形態における振動部150は、コーティング部111cに対する振動の周波数を変化させるものであってもよい。例えば、左右振動部151および上下振動部152において、往復する際に速度を変化させる速度制御部を設けることで、コーティング部111cに付着または集積した物質をさらにコーティング部111cから取り除くことができる。また、バイブレーション振動部153において、バイブレーション部153aの周波数を変化させる周波数制御部を設けることで、例えば粘性の高い物質がコーティング部111cに付着または集積した際、周波数を増加させることでその物質をコーティング部111cから除去することができる。
【0052】
さらに、本実施形態における振動部150は、電極本体部16に直接振動を与えるものであったが、振動部150は、電極本体部16に間接的に振動を与えるものであってもよい。例えば、振動部150は、保護カバー14に振動を与えるものであってもよい。具体的には、振動部150は、保護カバー14に例えば振動発生装置を取り付けることにより、保護カバー14自体を振動させてもよい。この場合、保護カバー14における振動が電極本体部16に伝わり、その後その振動がコーティング部111cに伝わることで、コーティング部111cに付着または集積した物質を除去することができる。
【0053】
また、除去機構15は、コーティング部111cに対して超音波を当てる超音波発生部154を備えるものであってもよい。例えば、
図4に示すように、超音波発生部154は、コーティング部111cと対向する保護カバー14の面に少なくとも1以上設けられる。この場合、超音波発生部154が超音波を発生させ、その超音波がコーティング部111c全体に当たる。その結果、超音波がコーティング部111cを振動させるので、コーティング部111cに付着または集積した物質をコーティング部111cから除去することができる。また、光触媒の本多―藤島効果により発生した気泡は、超音波によって振動するので、当該気泡は、コーティング部111cに付着又は集積した物質をコーティング部111cからより落とすことができる。なお、超音波発生部154は、保護カバー14に設けられていなくともよく、例えば、電極本体部16の付属品として、外付けされたものであってもよい。
【0054】
本実施形態における除去機構15は、コーティング部111cを振動させる振動部150であったが、除去機構15はこれに限られない。例えば、
図5に示すように、除去機構15は、コーティング部111cを清掃するための清掃体155と、清掃体155をコーティング部111cに対して相対的に摺動させる駆動部156とを備えるものであってもよい。具体的には、清掃体155は、例えばブラシであり、コーティング部111cに接触する。この場合、清掃体155がコーティング部111cに対して接触しており、駆動部156は、コーティング部111cの上下方向を往復して移動する。したがって、駆動部156の移動により清掃体155はコーティング部111cに対して相対的に摺動するので、コーティング部111cに付着または集積した物質は、コーティング部111cから離れる。この結果、コーティング部111cに付着または集積した物質をコーティング部111cから除去することができる。なお、
図5では、清掃体155はコーティング部111cの全周を覆う構成であったが、コーティング部111cの少なくとも一部を覆う構成であってもよい。また、
図5では、駆動部156は、コーティング部111cの上下方向を往復して移動するものであったが、駆動部156は、コーティング部111cの周方向を往復して移動するものであってもよい。そして、
図5では、清掃体155および駆動部156は保護カバー14に設けられている構成であったが、保護カバー14に設けられていなくともよく、例えば、電極本体部16の付属品として、外付けされたものであってもよい。その上、清掃体155は、コーティング部111cに付着または集積した物質をふき取るワイパーであってもよい。
【0055】
また、除去機構15は、流体を供給しまたは流れを発生させて、その流体または流れをコーティング部111cに当てる流体作用部157を備えるものであってもよい。例えば、
図6に示すように、流体作用部157は、コーティング部111cに対して、流体を噴射するノズルであってもよい。この場合、ノズルから流体が噴射され、その流体がコーティング部111cに当たるので、コーティング部111cに付着または集積した物質は流体の流れ方向へと流される。この結果、コーティング部111cに付着または集積した物質をコーティング部111cから除去することができる。また、光触媒の本多―藤島効果により発生した気泡には、流体又は流速による力が加わるので、当該気泡は、コーティング部111cに付着又は集積した物質をコーティング部111cからより落とすことができる。
【0056】
なお、流体作用部157は、保護カバー14に設けられていてもよいし、保護カバー14の外部に設けられていてもよい。また、ノズルが噴射する流体は、液体であってもよいし、気体であってもよい。さらに、
図6に示すように、流体作用部157に加えて、コーティング部111cに超音波を当てる超音波発生部154を備える構成としてもよい。
【0057】
さらに、流体作用部157は、ノズルの他に、コーティング部111cを溶液中で撹拌させるものであってもよい。具体的には、流体作用部157は、電極本体部16を保持し、溶液中で電極本体部16を撹拌させるものであってもよい。この場合、撹拌によって生じた溶液の流れがコーティング部111cに当たるので、コーティング部111cに付着または集積した物質は、溶液の流れ方向へと流される。この結果、コーティング部111cに付着または集積した物質をコーティング部111cから除去することができる。
【0058】
その上、電極装置1は、除去機構15とは別に、光源131が射出する紫外線の照射量を調整する光量調整部17をさらに備えるものであってもよい。例えば、
図7に示すように、光量調整部17は、通常運転時の通常モード(
図7(a)参照)と、コーティング部111cに物質が付着した際の除去モード(
図7(b)参照)とを備える。除去モードでは、通常モードと比較して、コーティング部111cに当たる紫外線の量が多いので、紫外線と光触媒との反応がより増加する。したがって、特に付着した物質が有機物の場合、光触媒の触媒機能が増大するので、コーティング部111cに付着または集積した有機物をより一層分解することができる。また、除去モードでは光触媒の本多―藤島効果により発生する気泡が多くなるので、当該気泡がコーティング部111cに物理的に作用することによって、コーティング部111cに付着又は集積した物質をコーティング部111cから落とすことができる。
【0059】
なお、本実施形態において光源131は、電極本体部16の内部に設けられるものであったが、光源131は、電極本体部16の外部に設けられてもよい。また、光源131は、電極本体部16の内部または外部において、複数設けられていてもよい。
【0060】
そして、除去機構15は、上記の各実施形態における除去機構を組み合わせてもよい。例えば、除去機構15は、上下振動部152と清掃体155を組み合わせたものであってもよい。
【0061】
また、本実施形態におけるコーティング部111cは、応答ガラス111bおよび液絡部123の両方を覆う構成であったが、コーティング部111cの覆う部分はこれに限られない。すなわち、コーティング部111cは、応答ガラス111bと液絡部123との少なくとも一方を覆う構成でよい。例えば、コーティング部111cは、応答ガラス111bを覆わず、液絡部123を覆う構成としてもよいし、逆に、応答ガラス111bを覆い、液絡部123を覆わない構成としてもよい。
【0062】
その他、本発明は前記各実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。また他の実施形態の電気化学測定装置100は、食品分野、飲料分野、養殖、バイオマス産業、水道水、河川や沼湖の水、工業原水、工業廃水、産業廃液、工業プロセスにおける機能水、実験試薬、し尿、上水、中水、下水、医療用試薬、空調用冷却水、浸出水処理、窯業、紙業などの分野における原水、放流水、中間処理過程の様々な試料溶液に対して使用されてよい。
【符号の説明】
【0063】
100 ・・・電気化学測定装置
1 ・・・電極装置
11 ・・・ガラス電極
111b・・・応答ガラス
111c・・・コーティング部
12 ・・・比較電極
13 ・・・光源部
14 ・・・保護カバー
15 ・・・除去機構
150 ・・・振動部