(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001683
(43)【公開日】2023-01-06
(54)【発明の名称】地下構造物の構築方法及び地下構造物、並びにそのためのプレキャストコンクリート側壁又は中間壁/柱
(51)【国際特許分類】
E02D 29/05 20060101AFI20221226BHJP
E02D 29/07 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
E02D29/05 F
E02D29/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102551
(22)【出願日】2021-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】浅野 均
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝
(72)【発明者】
【氏名】下坂 賢二
【テーマコード(参考)】
2D147
【Fターム(参考)】
2D147DA07
(57)【要約】
【課題】プレキャストコンクリート側壁の薄型化を図ることで、コスト縮減及び適用性の拡大を図るとともに、土被りが大きい場合でもプレキャストコンクリート側壁の破損を防止する。
【解決手段】両側壁部の構築部位に、主筋の代わりに鋼材5が芯材として配置されるとともに、前記鋼材5が上端面より上方側に延出して土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部5Bを形成した、本体構造となるプレキャストコンクリート側壁2を地中に建込み、これらプレキャストコンクリート側壁2、2間の頂版を構築する位置までの地盤を掘削除去した後、前記プレキャストコンクリート側壁2、2間に本体構造となる頂版部3を構築し、埋め戻すことにより頂版部以浅部分を先行的に完成させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも両側壁部、頂版部及び底版部を有する地下構造物の構築方法であって、
前記両側壁部の構築部位に、主筋の代わりに鋼材が芯材として配置されるとともに、前記鋼材が上端面より上方側に延出して土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部を形成した、本体構造となるプレキャストコンクリート側壁を地中に建込み、これらプレキャストコンクリート側壁間の頂版を構築する位置までの地盤を掘削除去した後、前記プレキャストコンクリート側壁間に本体構造となる頂版部を構築し、埋め戻すことにより頂版部以浅部分を先行的に完成させる第1工程と、
前記プレキャストコンクリート側壁及び頂版部によって囲まれた頂版部以深の地盤を掘削し、最終的に底版部の構築深さまで掘削を行う第2工程と、
底版部構築部位にコンクリートを打設するとともに、前記プレキャストコンクリート側壁との結合及び一体化を図り、本体構造となる底版部を構築する第3工程と、からなることを特徴とする地下構造物の構築方法。
【請求項2】
両側壁部、両側壁間の中間壁又は中間柱、頂版部及び底版部を有する地下構造物の構築方法であって、
前記両側壁部、両側壁間の中間壁又は中間柱によって仕切られる各スパンを順に、側壁の構築部位には、主筋の代わりに鋼材が芯材として配置されるとともに、前記鋼材が上端面より上方側に延出して土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部を形成した、本体構造となるプレキャストコンクリート側壁を地中に建込むとともに、中間壁又は中間柱の構築部位には、主筋の代わりに鋼材が芯材として配置されるとともに、前記鋼材が上端面より上方側に延出して土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部を形成した、本体構造となるプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱を地中に建込み、これらスパン間の頂版を構築する位置までの地盤を掘削除去した後、前記プレキャストコンクリート側壁間に本体構造となる頂版部を構築し、埋め戻すことにより頂版部以浅部分を先行的に完成させる第1工程と、
前記プレキャストコンクリート側壁及び頂版部によって囲まれた頂版部以深の地盤を掘削し、最終的に底版部の構築深さまでの掘削を行う第2工程と、
底版部構築部位にコンクリートを打設するとともに、前記プレキャストコンクリート側壁及びプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱との結合及び一体化を図り、本体構造となる底版部を構築する第3工程と、からなることを特徴とする地下構造物の構築方法。
【請求項3】
前記プレキャストコンクリート側壁の芯材となる前記鋼材は、地山側主筋の代わりに配置されている請求項1、2いずれかに記載の地下構造物の構築方法。
【請求項4】
前記鋼材としてT形鋼が用いられ、前記T形鋼は、フランジ部がプレキャストコンクリート側壁の外面側に対向し、ウェブ部が内側に向けて突出するように配置されている請求項1~3いずれかに記載の地下構造物の構築方法。
【請求項5】
前記プレキャストコンクリート側壁及び/又はプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱は、鉛直支持力及び土水圧などの側方抵抗のために、下端面より下方側に突出するように複数本の鋼杭を備える請求項1~4いずれかに記載の地下構造物の構築方法。
【請求項6】
前記プレキャストコンクリート側壁及び/又はプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱は、少なくとも内壁面側に対して、フィルムを貼設又は剥離剤を塗布してある請求項1~5いずれかに記載の地下構造物の構築方法。
【請求項7】
主筋の代わりに鋼材が芯材として配置されるとともに、前記鋼材が上端面より上方側に延出して土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部を形成し、且つ鉛直支持力及び土水圧などの側方抵抗のために下端面より下方側に突出するように複数本の鋼杭が備えられたプレキャストコンクリート側壁と、プレキャストコンクリート側壁間の上部に設けられた頂版部と、プレキャストコンクリート側壁間の下部に設けられるとともに、現場打設コンクリートによって構築された底版部とからなることを特徴とする地下構造物。
【請求項8】
前記プレキャストコンクリート側壁間に、1又は複数のプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱を有するとともに、該プレキャストコンクリート中間壁又は中間柱は、主筋の代わりに鋼材が芯材として配置されるとともに、前記鋼材が上端面より上方側に延出して土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部を形成し、且つ鉛直支持力及び土水圧などの側方抵抗のために下端面より下方側に突出するように複数本の鋼杭が備えられている請求項7記載の地下構造物。
【請求項9】
主筋の代わりに鋼材が芯材として配置されるとともに、前記鋼材が上端面より上方側に延出して配置され土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部を形成し、且つ下端面より下方側に突出するように複数本の鋼杭が備えられていることを特徴とするプレキャストコンクリート側壁又はプレキャストコンクリート中間壁/柱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半地下道路トンネル、地下駐車場、駐輪場、共同溝、地下鉄、地下道などの地下構造物の構築方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、下記特許文献1にて、土被りが大きい地下構造物の構築方法等の提案を行った。具体的には、少なくとも両側壁部、頂版部及び底版部を有する地下構造物の構築方法であって、前記両側壁部の構築部位に、上端面より所定深さに亘ってインサート金具又は鋼材を埋設した埋設部が形成されるとともに、土水圧などの側方抵抗のために上方側に突出するように複数本の仮設鋼材が着脱可能に備えられた、本体構造となるプレキャストコンクリート側壁を地中に建込み、これらプレキャストコンクリート側壁間の頂版を構築する位置までの地盤を掘削除去した後、前記プレキャストコンクリート側壁間であって、前記インサート金具又は鋼材の埋設部を避けたその下部側にコンクリートを打設するとともに、前記プレキャストコンクリート側壁との結合及び一体化を図り、本体構造となる頂版部を先行的に完成させる第1工程と、前記プレキャストコンクリート側壁及び頂版部によって囲まれた頂版部以深の地盤を掘削し、最終的に底版部の構築深さまでの掘削を行う第2工程と、前記プレキャストコンクリート側壁間であって、底版部構築部位にコンクリートを打設するとともに、前記プレキャストコンクリート側壁との結合及び一体化を図り、本体構造となる底版部を構築する第3工程と、からなる地下構造物の構築方法である。
【0003】
かかる地下構造物の構築方法によれば、土被りが大きい地下構造物において、側壁の建込み誤差が吸収できるとともに、工事に伴う地上占用規模及び期間が最小化でき、周辺環境への影響が必要最小限度に抑制でき、輸送及び現場作業が容易化でき、構造強度の確保が図れるなどの効果が発揮されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大深度地下に地下構造物を構築する場合、プレキャストコンクリート側壁に大きな土水圧などを受けるため、プレキャストコンクリート側壁の部材厚を大きくする必要があり、これに伴い、プレキャストコンクリート側壁の製作や運搬などのコストが嵩むとともに、本構築方法の適用性が低下することが懸念されていた。
【0006】
また、上記特許文献1記載の地下構造物の構築方法では、プレキャストコンクリート側壁の上端面に上方側に突出するように仮設鋼材が備えられているが、このプレキャストコンクリート側壁と仮設鋼材とは、
図20に示されるように、プレキャストコンクリート側壁50の上端面より所定深さに亘って埋設されたインサート金具52に対して、仮設鋼材51の端部に備えられたベースプレート53を介してボルト定着するか、
図21に示されるように、プレキャストコンクリート側壁50の上端面より所定深さに亘って埋設されるとともに埋設側先端部に支圧板54やスタッド(図示せず)が設けられた鋼材55に対して、仮設鋼材51を添接板56を介して添接接合することにより着脱可能に備えられている。
【0007】
しかし、プレキャストコンクリート側壁の上端面に上方側に突出する仮設鋼材をこのような方法で設けた場合には、土被りが大きくなるとプレキャストコンクリート側壁に対する仮設鋼材の固定部に過大な応力が集中し、プレキャストコンクリート側壁がひび割れなどの破損を生じるおそれがあった。
【0008】
そこで本発明の主たる課題は、プレキャストコンクリート側壁の薄型化を図ることで、コスト縮減及び適用性の拡大を図るとともに、土被りが大きい場合でもプレキャストコンクリート側壁の破損を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、少なくとも両側壁部、頂版部及び底版部を有する地下構造物の構築方法であって、
前記両側壁部の構築部位に、主筋の代わりに鋼材が芯材として配置されるとともに、前記鋼材が上端面より上方側に延出して土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部を形成した、本体構造となるプレキャストコンクリート側壁を地中に建込み、これらプレキャストコンクリート側壁間の頂版を構築する位置までの地盤を掘削除去した後、前記プレキャストコンクリート側壁間に本体構造となる頂版部を構築し、埋め戻すことにより頂版部以浅部分を先行的に完成させる第1工程と、
前記プレキャストコンクリート側壁及び頂版部によって囲まれた頂版部以深の地盤を掘削し、最終的に底版部の構築深さまで掘削を行う第2工程と、
底版部構築部位にコンクリートを打設するとともに、前記プレキャストコンクリート側壁との結合及び一体化を図り、本体構造となる底版部を構築する第3工程と、からなることを特徴とする地下構造物の構築方法が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明では、プレキャストコンクリート側壁について、主筋の代わりに鋼材を芯材として配置した構造としているため、従来の異形棒鋼を主筋とした鉄筋コンクリート構造に比べて、鋼材の断面積量が増加し、プレキャストコンクリート全体としての曲げ耐力が増加する結果、プレキャストコンクリート部材の薄型化、軽量化が可能となり、コスト縮減が図れるとともに、大深度の地下構造物にも対応可能となり、本構築方法の適用性が拡大できる。
【0011】
また、プレキャストコンクリート部材の芯材として用いられる前記鋼材が上端面より上方側に延出し、工事中の土留め壁として利用可能な土留め壁用鋼材部を形成するため、土被りが大きく、前記土留め壁用鋼材部に側方から大きな土水圧などが加わった場合でも、芯材から連続して延びる鋼材によって深度方向に対する連続的な抵抗力が確保でき、プレキャストコンクリート部材のひび割れなどの破損が防止できる。
【0012】
請求項2に係る本発明として、両側壁部、両側壁間の中間壁又は中間柱、頂版部及び底版部を有する地下構造物の構築方法であって、
前記両側壁部、両側壁間の中間壁又は中間柱によって仕切られる各スパンを順に、側壁の構築部位には、主筋の代わりに鋼材が芯材として配置されるとともに、前記鋼材が上端面より上方側に延出して土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部を形成した、本体構造となるプレキャストコンクリート側壁を地中に建込むとともに、中間壁又は中間柱の構築部位には、主筋の代わりに鋼材が芯材として配置されるとともに、前記鋼材が上端面より上方側に延出して土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部を形成した、本体構造となるプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱を地中に建込み、これらスパン間の頂版を構築する位置までの地盤を掘削除去した後、前記プレキャストコンクリート側壁間に本体構造となる頂版部を構築し、埋め戻すことにより頂版部以浅部分を先行的に完成させる第1工程と、
前記プレキャストコンクリート側壁及び頂版部によって囲まれた頂版部以深の地盤を掘削し、最終的に底版部の構築深さまでの掘削を行う第2工程と、
底版部構築部位にコンクリートを打設するとともに、前記プレキャストコンクリート側壁及びプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱との結合及び一体化を図り、本体構造となる底版部を構築する第3工程と、からなることを特徴とする地下構造物の構築方法が提供される。
【0013】
上記請求項2記載の発明は、側壁間に中間壁又は中間柱を有する地下構造物の場合の構築方法である。側壁間に中間壁又は中間柱を有する場合には、側壁間の頂版を構築する地盤をすべて掘削した後、頂版を構築することも可能であるが、この場合は、掘削規模が大きくなり、地上占用期間が長期化することになる。従って、両側壁部、両側壁間の中間壁又は中間柱によって仕切られる各スパンを順に、プレキャストコンクリート部材の建込み、頂版構築位置までの地盤の掘削、頂版の構築、埋戻しによる頂版部以浅部分の先行的完成の手順で施工することにより、地上占用期間を短縮化できるようになる。
【0014】
請求項3に係る本発明として、前記プレキャストコンクリート側壁の芯材となる前記鋼材は、地山側主筋の代わりに配置されている請求項1、2いずれかに記載の地下構造物の構築方法が提供される。
【0015】
上記請求項3記載の発明では、引張応力が卓越する地山側主筋の代わりの芯材として前記鋼材を用いることにより、プレキャストコンクリート側壁の曲げ耐力が増加し、プレキャスト部材の薄型化、軽量化がより確実に可能となる。
【0016】
請求項4に係る本発明として、前記鋼材としてT形鋼が用いられ、前記T形鋼は、フランジ部がプレキャストコンクリート側壁の外面側に対向し、ウェブ部が内側に向けて突出するように配置されている請求項1~3いずれかに記載の地下構造物の構築方法が提供される。
【0017】
上記請求項4記載の発明では、前記鋼材としてT形鋼が用いられ、このT形鋼は、フランジ部がプレキャストコンクリート側壁の外面側に対向し、ウェブ部が内側に向けて突出するように配置されているため、H形鋼を用いた場合に比べて鋼材の重心位置がプレキャストコンクリート側壁の外面側寄りとなるため、同一断面積の場合、有効高さが大きくなり、設計上有利となる。また、従来の異形鋼棒を用いた鉄筋コンクリート構造に比べて曲げ耐力が大きくなるため、内部掘削時の切梁による支保が簡略化できる。更に、プレキャストコンクリート側壁の製作において、現場打設コンクリートによって構築する底版部や頂版部との接合部として、多数の機械式継手が設置されるが、その際、鋼材としてH形鋼を用いた場合に比べて、鋼材と機械式継手とが干渉することなく、所定のピッチで機械式継手を配置することが可能となり、コンクリートの充填性が良好となる。
【0018】
請求項5に係る本発明として、前記プレキャストコンクリート側壁及び/又はプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱は、鉛直支持力及び土水圧などの側方抵抗のために、下端面より下方側に突出するように複数本の鋼杭を備える請求項1~4いずれかに記載の地下構造物の構築方法が提供される。
【0019】
上記請求項5記載の発明においては、前記プレキャストコンクリート側壁及び/又はプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱に対して、鉛直支持力及び土水圧などの側方抵抗のために、下端面より下方側に突出するように複数本の鋼杭を設けるようにしたものである。全根入れ長をプレキャストコンクリート部材とすることも可能であるが、この場合は建込み溝の掘削深さが深くなるばかりでなく、プレキャスト部材費が増し、工期の長期化と施工手間、工費が増す原因となる。従って、下端に複数本の鋼杭を設けることにより、建込み溝を浅くでき、かつこれら鋼杭によって十分な鉛直支持力及び土水圧などの側方抵抗力を確保することができる。
【0020】
請求項6に係る本発明として、前記プレキャストコンクリート側壁及び/又はプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱は、少なくとも内壁面側に対して、フィルムを貼設又は剥離剤を塗布してある請求項1~5いずれかに記載の地下構造物の構築方法が提供される。
【0021】
上記請求項6記載の発明においては、プレキャストコンクリート側壁及び/又はプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱の少なくとも内壁面側に対して、フィルムを貼設したり、或いは剥離剤を塗布しておくものである。施工時に前記プレキャストコンクリート部材の表面には、泥水やソイルセメントが付着し汚れるため、工事完成後に前記フィルムを剥がすことにより、或いは剥離剤を塗布しておき簡単に洗い流しできるようにしておくことにより、内壁面側を簡単に綺麗に仕上げできるようになる。
【0022】
請求項7に係る本発明として、主筋の代わりに鋼材が芯材として配置されるとともに、前記鋼材が上端面より上方側に延出して土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部を形成し、且つ鉛直支持力及び土水圧などの側方抵抗のために下端面より下方側に突出するように複数本の鋼杭が備えられたプレキャストコンクリート側壁と、プレキャストコンクリート側壁間の上部に設けられた頂版部と、プレキャストコンクリート側壁間の下部に設けられるとともに、現場打設コンクリートによって構築された底版部とからなることを特徴とする地下構造物が提供される。
【0023】
請求項8に係る本発明として、前記プレキャストコンクリート側壁間に、1又は複数のプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱を有するとともに、該プレキャストコンクリート中間壁又は中間柱は、主筋の代わりに鋼材が芯材として配置されるとともに、前記鋼材が上端面より上方側に延出して土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部を形成し、且つ鉛直支持力及び土水圧などの側方抵抗のために下端面より下方側に突出するように複数本の鋼杭が備えられている請求項7記載の地下構造物が提供される。
【0024】
請求項9に係る本発明として、主筋の代わりに鋼材が芯材として配置されるとともに、前記鋼材が上端面より上方側に延出して配置され土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部を形成し、且つ下端面より下方側に突出するように複数本の鋼杭が備えられていることを特徴とするプレキャストコンクリート側壁又はプレキャストコンクリート中間壁/柱が提供される。
【発明の効果】
【0025】
以上詳説のとおり本発明によれば、プレキャストコンクリート側壁の薄型化を図ることで、コスト縮減及び適用性の拡大が図れるとともに、土被りが大きい場合でもプレキャストコンクリート側壁の破損が防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る地下構造物1Aを示す縦断面図である。
【
図2】地下構造物1Aの構築手順(その1)である。
【
図3】プレキャストコンクリート側壁2を示す、(A)は側面側の縦断面図、(B)は正面側の縦断面図である。
【
図4】変形例に係るプレキャストコンクリート側壁2を示す、(A)は側面側の縦断面図、(B)は正面側の縦断面図である。
【
図6】ボックスカルバートの曲げモーメント図である。
【
図7】底版部接合部におけるプレキャストコンクリート側壁2の横断面図である。
【
図8】プレキャストコンクリート側壁2、2同士の止水構造例を示す要部横断面図である。
【
図9】地下構造物1Aの構築手順(その2)である。
【
図10】地下構造物1Aの構築手順(その3)である。
【
図11】地下構造物1Aの構築手順(その4)である。
【
図12】プレキャストコンクリート側壁2とプレキャストコンクリート頂版3との接合部を示す要部断面図である。
【
図13】プレキャストコンクリート側壁2と頂版3との接合構造を示す要部断面図である。
【
図14】地下構造物1Aの構築手順(その5)である。
【
図15】地下構造物1Aの構築手順(その6)である。
【
図16】地下構造物1Aの構築手順(その7)である。
【
図17】地下構造物1Aの構築手順(その8)である。
【
図18】底版部4との接合部を示す要部縦断面図である。
【
図19】第2形態例に係る地下構造物1Bを示す縦断面図である。
【
図20】従来の仮設鋼材51の固定構造を示す、(A)は側面側の縦断面図、(B)は正面側の縦断面図である。
【
図21】変形例に係る従来の仮設鋼材51の固定構造を示す、(A)は側面側の縦断面図、(B)は正面側の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0028】
〔第1形態例〕
図1~
図3において、地下構造物1Aは、主筋の代わりに鋼材5、5…が芯材として配置されるとともに、前記鋼材5が上端面より上方側に延出して土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部5Bを形成し、且つ鉛直支持力及び土水圧などの側方抵抗のために下端面より下方側に突出するように複数本の鋼杭6、6…が備えられたプレキャストコンクリート側壁2と、前記プレキャストコンクリート側壁2、2間の上部に設けられた頂版部3と、プレキャストコンクリート側壁2、2間の下部に設けられるとともに、現場打設コンクリートによって構築された底版部4とからなるものである。
【0029】
以下、具体的に前記地下構造物1Aについて施工順序に従いながら詳述する。
【0030】
(第1工程)
第1工程は、プレキャストコンクリート側壁2、2間に本体構造となる頂版部3を構築し、埋め戻すことにより頂版部以浅部分を先行的に完成させる工程である。この第1工程について、
図2~
図14に基づき詳述する。
【0031】
先ず、
図2に示されるように、側壁構築部位に、掘削重機を用いてプレキャストコンクリート側壁2の建込みのための掘削を行った後、プレキャストコンクリート側壁2を建て込む。
【0032】
前記プレキャストコンクリート側壁2は、
図3~
図5に示されるように、主筋の代わりに鋼材5、5…が芯材として配置されるとともに、前記鋼材5が上端面より上方側に延出して配置され、頂版部3の構築までの間、土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材部5Bとして機能し、且つ鉛直支持力及び土水圧などの側方抵抗のために、下端面より下方側に突出するように複数本の鋼杭6、6…が備えられたものを使用する。
【0033】
前記鋼材5は、プレキャストコンクリート側壁2に埋設された芯材用鋼材部5Aと、プレキャストコンクリート側壁2の上端面より上方側に延出した土留め壁用鋼材部5Bとが連続的に形成されたものである。
【0034】
前記鋼材5は、
図5に示されるように、プレキャストコンクリート側壁2の地山側及び構造物内側にそれぞれ配列された主筋のうち、地山側主筋の代わりに配置するのが好ましく、構造物内側は異形鋼棒を用いた鉄筋を配筋するのがよい。
【0035】
地山側主筋の代わりの芯材として前記鋼材5を配置することにより、本発明に係る地下構造物1Aのようなボックスカルバート構造において、
図6に示されるように引張応力が卓越する側壁の強度を増加することができ、異形鋼棒を用いた鉄筋コンクリート構造に比べて、鋼材の断面積量が増加し、同一断面積の場合曲げ耐力が大きくなる。その結果、プレキャストコンクリート側壁2の薄型化及び軽量化が図れるとともに、大深度の地下構造物にも対応可能となり、本構築方法の適用性が拡大できる。
【0036】
また、前記鋼材5をプレキャストコンクリート側壁2の上端面より上方側の地上まで到達する長さで延出させ、その地山側に鋼矢板などの板材を設置することにより、土留め壁として利用できるようにしている。前記鋼材5をプレキャストコンクリート側壁2の上端面より上方側に延出させるには、
図3に示されるように、芯材用鋼材部5Aから分断することなく、連続する1本の鋼材としてもよいし、
図4に示されるように、プレキャストコンクリート側壁2の上端面より上方側に突出した位置で、分断した鋼材の端部同士を添接板7により添接接合した構造としてもよい。
【0037】
このように、プレキャストコンクリート側壁2の芯材として用いられる鋼材5が、プレキャストコンクリート側壁2の上端面より上方側に延出し、工事中の土留め壁として利用可能な土留め壁用鋼材部5Bを形成するため、土被りが大きく、前記土留め壁用鋼材部5Bに側方から大きな土水圧などが加わった場合でも、芯材から連続して延びる鋼材5によって深度方向に対する連続的な抵抗力が確保でき、プレキャストコンクリート側壁2のひび割れなどの破損が防止できる。
【0038】
前記鋼材5は、T形鋼、H形鋼、I形鋼、溝形鋼など、公知の形鋼材を使用することができるが、特にT形鋼を用いるのが望ましい。このT形鋼の配置は、
図5に示されるように、フランジ部5fがプレキャストコンクリート側壁2の外面側(地山側)に対向し、ウェブ部5wが内側に向けて突出する向きで配置するのがよい。
【0039】
T形鋼からなる鋼材5を上述のような向きで配置することにより、H形鋼をフランジ部がプレキャストコンクリート側壁2の外面側に対向するように配置した場合と比較して、鋼材の重心位置がプレキャストコンクリート側壁2の外面側寄りとなるため、同一断面積の場合、T形鋼とした方が、有効高さが大きくなり、設計上有利となる。
【0040】
また、従来の異形鋼棒を用いた鉄筋コンクリート構造に比べて曲げ耐力が大きくなるため、内部掘削時の切梁による支保が簡略化できる。
【0041】
更に、プレキャストコンクリート側壁2の製作において、現場打設コンクリートによって構築する底版部4や頂版部3との接合部として、
図7に示されるように、主筋の配置位置に対応して機械式継手8、8…が設置されるが、その際、
図7(B)に示されるように、鋼材としてH形鋼を用いた場合は、機械式継手8がH形鋼のフランジに干渉して主筋に対応する位置に配置できずに隣接する機械式継手8、8同士の間隔が過密化する場合があるのに対して、
図7(A)に示されるように、鋼材5としてT形鋼を用いた場合は、鋼材5と機械式継手8とが干渉することなく、主筋に対応する位置にほぼ等間隔に配置することができ、コンクリートの充填性が良好となる。
【0042】
前記プレキャストコンクリート側壁2は、少なくとも内壁面側に対して、フィルムを貼設するか、剥離剤を塗布しておくことが望ましい。
【0043】
前記プレキャストコンクリート側壁2と鋼杭6とは、
図3に示されるように、プレキャストコンクリート側壁2の下端面より所定深さに亘って埋設されたインサート金具9に対して、鋼杭6の端部に備えられたベースプレート6aを介してボルト定着するか、図示しないが、プレキャストコンクリート側壁2の下端面より所定深さに亘って埋設されるとともに埋設側先端部に支圧板やスタッドが設けられた鋼材に対して、鋼杭6を添接板を介した添接接合することにより着脱可能に備えられている。
【0044】
建込みに当たり、前記プレキャストコンクリート側壁2、2同士の接合面においては、所定の止水構造を設ける。この止水構造としては公知のものを制限なく用いることが可能であるが、特に、特開2011-122386号公報に開示された好適止水構造を用いるのが望ましい。同公報に開示されたプレキャストコンクリート側壁2の止水構造は、
図8に示されるように、相隣接するプレキャストコンクリート側壁2A、2Bの対向側面において、一方のプレキャストコンクリート側壁2Aの側面に埋設された一方側接合金具10Aと、他方のプレキャストコンクリート側壁2Bの側面に埋設された他方側接合金具10Bとの係合によって周囲から締め切られた空間11が形成され、この締切り空間11内において、プレキャストコンクリート側壁2A、2Bに部材長手方向に沿って対向する凹状溝12が形成されるとともに、これら凹状溝12、12間に跨がって止水板13が挿入設置され、前記締切り空間11内にグラウト材14が充填されてなるものである。
【0045】
以上の工程までを終えたならば、
図9に示されるように、プレキャストコンクリート側壁2の上方側に突出する土留め壁用鋼材部5B、5Bの間及びプレキャストコンクリート側壁2、2間の地盤を掘削除去する。地盤の掘削に当たっては、
図10に示されるように、必要に応じて土留め壁用鋼材部5B、5B間に切梁20を架設する。掘削深さは、プレキャストコンクリート側壁2の頂部を露出させ、次工程の頂版部3を構築可能な程度とする。
【0046】
掘削を終えたならば、
図11に示されるように、プレキャストコンクリート側壁2、2間に頂版部3を構築する。前記頂版部3の構築は、プレキャストコンクリート頂版を架設するプレキャスト方式か、現場打設コンクリートによる現場打設方式を採用することができる。
【0047】
前記プレキャスト方式により前記頂版部3を構築する場合、プレキャストコンクリート側壁2との結合部は、例えば
図12(A)に示されるように、プレキャストコンクリート側壁2の上部にアンカーロッド21を埋設しておくとともに、その上部にねじ式カップラー22を設けておき、前記プレキャストコンクリート頂版3を設置した後、前記ねじ式カップラー22の対応位置に予め埋設してあるスリーブ23を通してロッド24を挿入し、ねじ式カップラー22に連結した後、上部を締結するロッド結合方式や、
図12(B)に示されるように、施工誤差を吸収するためにプレキャストコンクリート頂版3に埋設されたスリーブ25、25内に、プレキャストコンクリート側壁2の上面から突出させた鉄筋26、26を挿入した後、スリーブ25内にモルタルを注入し接合するスリーブ方式等を採用するのが望ましい。前記スリーブ25の内径は、前記鉄筋26の外形よりも若干大きく製作されており、頂版部3の施工誤差をこの部分で吸収することができる。
【0048】
また、前記現場打設方式により前記頂版部3を構築する方法は、例えば
図13に示されるように、予めプレキャストコンクリート側壁2の上面又は側面上部に側壁部主鉄筋27、27…を配筋し、その先端部に機械式継手28を設けておき、この機械式継手28に対し頂版部主鉄筋29の先端部に取り付けた機械式継手30を接合して頂版部3の配筋を行った後、型枠を配設し、コンクリートを打設する。
【0049】
ここで、前記頂版部3をプレキャストコンクリート側壁2の上面に配置し、プレキャストコンクリート側壁2の上端面より上方側に突出する土留め壁用鋼材部5Bを頂版部3に埋設することにより、プレキャストコンクリート側壁2と頂版部3との結合を強化するのが好ましい。例えば
図12に示されるようにプレキャストコンクリート頂版3を架設する場合、プレキャストコンクリート頂版3に土留め壁用鋼材部5Bと嵌合可能な嵌合部31を上下方向に沿って設けておき、この嵌合部31に土留め壁用鋼材部5Bを嵌合させつつプレキャストコンクリート頂版3を設置した後、前記嵌合部31内の土留め壁用鋼材5Bとの隙間をモルタルで充填する。
【0050】
以上、頂版部3を設置したならば、
図14に示されるように、頂版部3よりも上方に突出した土留め壁用鋼材部5B部分をガス切断等により撤去した後、埋戻しを行い、地上占用を開放する。
【0051】
(第2工程)
上記第1工程により、頂版部3の以浅部分を先行的に完成させたならば、
図15に示されるように、前記プレキャストコンクリート側壁2、2及び頂版部3によって囲まれた頂版部3以深の地盤を掘削し、最終的に底版部4の構築深さまでの掘削を行う。
図16に示されるように、掘削は、必要に応じて切梁32、32によって支保を行い、掘削土砂の排出は、例えば頂版部3の一部を開口としておき、バケット(クレーン)により地上まで揚上し、ダンプトラック等により搬出するようにする。
【0052】
(第3工程)
所定深さ(底版部4の構築深さ)までの掘削を終えたならば、
図17に示されるように、底版部構築部位にコンクリート33を打設するとともに、前記プレキャストコンクリート側壁2、2との結合及び一体化を図るようにする。底版部4とプレキャストコンクリート側壁2との結合は、例えば
図18に示されるように、プレキャストコンクリート側壁2の下部より底版部4側に向けて側壁部主鉄筋33を配筋し、その先端部に機械式継手34を設けておき、この機械式継手34に対し底版部主鉄筋35の先端部に取り付けた機械式継手36を接合して底版部4の配筋を行った後、型枠を配設し、コンクリートを打設する。
【0053】
後は、最終仕上げとして、前記プレキャストコンクリート側壁2の内壁面側に対して、予めフィルムを貼設している場合には、これを剥がして綺麗なコンクリート面を露出させる。また、剥離剤が塗布されている場合にはジェットウォーターの噴射やブラシ清掃により泥水やソイルセメント等の汚れを落とすようにする。
【0054】
〔第2形態例〕
上記形態例では、両側壁2、2間に頂版部3及び底版部4が架け渡される構造としたが、
図19に示されるように、両側壁2、2間をプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱15により仕切る地下構造物1Bとすることも可能である。構築手順は前述した第1形態例と基本的には同様であるが、施工ヤードがない場合などには、少なくとも一部の主筋の代わりに鋼材が芯材として配置されるとともに、前記鋼材が土水圧などの側方抵抗のために上端面より上方側に延出して配置された中間壁15を用いた上で、第1工程において左側の側壁2と中間壁15との間の左側スパン部分の頂版部3の構築を先行して行い、左側の側壁2の土留め壁用鋼材5Bのみを除去して埋戻しを行った後、中間壁15と右側の側壁2との間の右側スパン部分の掘削及び頂版部3の構築を行い、中間壁15及び右側の側壁2の土留め壁用鋼材5Bを除去して埋戻しを行う段階的な施工を行ってもよいし、施工ヤードがある場合などには、鋼材が上端面より上方側に延出しない通常の中間壁を配置した上で、左側スパン部分及び右側スパン部分を同時に施工してもよい。
【0055】
また、第3工程において、底版部4のコンクリート打設に当たって、プレキャストコンクリート中間壁又は中間柱15の下端面を底版部下面よりも上側位置としておき、打設したコンクリートがプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱15部でとぎれることなく連続して配筋可能とするのが望ましい。
【0056】
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、プレキャストコンクリート側壁2、2間の頂版を構築する位置までの地盤を掘削除去した後、頂版部3を構築するようにしたが、掘削部の開放が長期に亘る場合には、一端、覆工板を設置して掘削部を塞ぎ、この覆工板と順次交換しながら、頂版部3を構築するようにしてもよい。
【0057】
(2)上記形態例においては、プレキャストコンクリート側壁2及びプレキャストコンクリート中間壁又は中間柱15共に、下端面より下方側に突出するように複数本の鋼杭6を備えるものを使用したが、前記鋼杭6を無くし、全根入れ長をプレキャストコンクリート部材としてもよい。
【0058】
(3)上記形態例では、
図3及び
図4に示されるように、プレキャストコンクリート側壁2に配置された全ての芯材(鋼材5)が上端面より上方側に延出して土水圧などの側方抵抗のための土留め壁用鋼材5Bを形成していたが、土水圧などに応じて、上端面より上方側に延出させる鋼材5を1つ置き又は2つ置き以上とし、それ以外の鋼材5を上方側に延出させないようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1A・1B…地下構造物、2…プレキャストコンクリート側壁、3…頂版部、4…底版部、5…鋼材、5A…芯材用鋼材部、5B…土留め壁用鋼材部、6…鋼杭