(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168308
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】酸素生成反応触媒材料、組成物、複合体
(51)【国際特許分類】
C25B 11/075 20210101AFI20231116BHJP
B01J 27/043 20060101ALI20231116BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20231116BHJP
C01B 13/02 20060101ALI20231116BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20231116BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20231116BHJP
C25B 11/061 20210101ALI20231116BHJP
【FI】
C25B11/075
B01J27/043 M
B01J35/04 331Z
C01B13/02 B
C25B11/052
C25B11/031
C25B11/061
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078925
(22)【出願日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2022078212
(32)【優先日】2022-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛弘
(72)【発明者】
【氏名】リ レイケイ
【テーマコード(参考)】
4G042
4G169
4K011
【Fターム(参考)】
4G042BA10
4G042BB04
4G169AA03
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA17
4G169BB09A
4G169BB09B
4G169BB18A
4G169BB18B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BD03A
4G169BD03B
4G169BD08A
4G169BD08B
4G169CB81
4G169DA06
4G169EB01
4G169EB11
4G169EC22X
4G169EC22Y
4K011AA04
4K011AA11
4K011AA22
4K011AA69
4K011DA01
(57)【要約】
【課題】安価でかつ豊富な材料を用いながらも、コバルトと同等の酸素生成反応触媒活性を有する酸素生成反応触媒材料、酸素生成反応触媒材料を含む組成物、および酸素生成反応触媒材料を含む複合体を提供する。
【解決手段】少なくとも菱面体硫化ホウ素を含む、酸素生成反応触媒材料。前記酸素生成反応触媒材料と、溶媒と、を含む、組成物。導電性の担体と、前記担体に担持された前記酸素生成反応触媒材料と、を含む複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも菱面体硫化ホウ素を含む、酸素生成反応触媒材料。
【請求項2】
炭素材料を含む、請求項1に記載の酸素生成反応触媒材料。
【請求項3】
前記菱面体硫化ホウ素に対する前記炭素材料の含有比(炭素材料/菱面体硫化ホウ素)が、質量比で1以上3以下である、請求項2に記載の酸素生成反応触媒材料。
【請求項4】
前記炭素材料は、グラフェンである、請求項2に記載の酸素生成反応触媒材料。
【請求項5】
結着材を含む、請求項1に記載の酸素生成反応触媒材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の酸素生成反応触媒材料と、溶媒と、を含む、組成物。
【請求項7】
導電性の担体と、前記担体に担持された請求項1~5のいずれか1項に記載の酸素生成反応触媒材料と、を含む複合体。
【請求項8】
前記担体は、多孔質体である、請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
前記多孔質体は、ニッケルフォームである、請求項8に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素生成反応触媒材料、酸素生成反応触媒材料を含む組成物、および酸素生成反応触媒材料を含む複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素を排出しないゼロエミッション社会に向けて、水を高効率に電気分解するための電極触媒材料の開発が進められている。従来、酸素を生成する電極の触媒には、高価で希少な金属であるコバルトが用いられている。コバルトを含む触媒としては、例えば、コバルトを含む金属有機構造体(Metal Organic Frameworks、MOF)と、ニッケルフォームとを有するものが知られている(例えば、非特許文献1参照)。このコバルトを含む触媒は、世界最高レベルの触媒活性を有することが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Ziqian Xue,Kang Liu,Qinglin Liu,Yinle Li,Manrong Li,Cheng-Yong Su,Naoki Ogiwara,Hirokazu Kobayashi,Hiroshi Kitagawa,Min Liu,Guangqin Li,“Missing-linker metal-organic frameworks for oxygen evolution reaction”,Nature Communications 2019,10,5048
【非特許文献2】Haruki Kusaka,Ryota Ishibiki,Masayuki Toyoda,Takeshi Fujita,Tomoharu Tokunaga,Akiyasu Yamamoto,Masashi Miyakawa,Kyosuke Matsushita,Keisuke Miyazaki,Linghui Li,Satish Laxman Shinde,Mariana S.L.Lima,Takeaki Sakurai,Eiji Nishibori,Takuya Masuda,Koji Horiba,Kenji Watanabe,Susumu Saito,Masahiro Miyauchi,Takashi Taniguchi,Hideo Hosono,Takahiro Kondo,“Crystalline boron monosulfide nanosheets with tunable bandgaps”,Journal of Materials Chemistry A 2021,9,24631-24640
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コバルトは高価で、希少な金属であることから、安価でかつ豊富な材料を用いた触媒が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、安価でかつ豊富な材料を用いながらも、コバルトと同等の酸素生成反応触媒活性を有する酸素生成反応触媒材料、酸素生成反応触媒材料を含む組成物、および酸素生成反応触媒材料を含む複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]少なくとも菱面体硫化ホウ素を含む、酸素生成反応触媒材料。
[2]炭素材料を含む、[1]に記載の酸素生成反応触媒材料。
[3]前記菱面体硫化ホウ素に対する前記炭素材料の含有比(炭素材料/菱面体硫化ホウ素)が、質量比で1以上3以下である、[2]に記載の酸素生成反応触媒材料。
[4]前記炭素材料は、グラフェンである、[2]に記載の酸素生成反応触媒材料。
[5]結着材を含む、[1]に記載の酸素生成反応触媒材料。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の酸素生成反応触媒材料と、溶媒と、を含む、組成物。
[7]導電性の担体と、前記担体に担持された[1]~[5]のいずれかに記載の酸素生成反応触媒材料と、を含む複合体。
[8]前記担体は、多孔質体である、[7]に記載の複合体。
[9]前記多孔質体は、ニッケルフォームである、[8]に記載の複合体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安価でかつ豊富な材料を用いながらも、コバルトと同等の酸素生成反応触媒活性を有する酸素生成反応触媒材料、酸素生成反応触媒材料を含む組成物、および酸素生成反応触媒材料を含む複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実験例1で得られた複合体の走査型電子顕微鏡像である。
【
図2】実験例1で得られた複合体の走査型電子顕微鏡像であり、
図1の一部を拡大した図である。
【
図3】電子プローブマイクロアナライザーによる面分析の結果を示す図であり、硫黄(S)の元素分析の結果を示す図である。
【
図4】電子プローブマイクロアナライザーによる面分析の結果を示す図であり、ホウ素(B)の元素分析の結果を示す図である。
【
図5】電子プローブマイクロアナライザーと同時に測定された走査型電子顕微鏡像である。
【
図6】電子プローブマイクロアナライザーによる面分析の結果を示す図であり、ニッケル(Ni)の元素分析の結果を示す図である。
【
図7】電子プローブマイクロアナライザーによる面分析の結果を示す図であり、炭素(C)の元素分析の結果を示す図である。
【
図8】実験例1で得られた複合体の透過型電子顕微鏡像である。
【
図9】実験例1で得られた複合体の透過型電子顕微鏡像である。
【
図10】実験例1で得られた複合体の透過型電子顕微鏡像による元素分析の結果を示す図である。
【
図11】電子エネルギー損失分光による元素分析の結果を示す図であり、炭素(C)の元素分析の結果を示す図である。
【
図12】電子エネルギー損失分光による元素分析の結果を示す図であり、硫黄(S)の元素分析の結果を示す図である。
【
図13】電子エネルギー損失分光による元素分析の結果を示す図であり、ホウ素(B)の元素分析の結果を示す図である。
【
図14】実験例4において、5種の試料のそれぞれについて、線形掃引ボルタンメトリーテストの結果を示す図である。
【
図15】実験例4において、試料2、試料4および試料5のそれぞれについて、電流密度と電圧の関係を示す図である。
【
図16】実験例4において、5種の試料のそれぞれについて、ターフェル勾配を示す図である。
【
図17】実験例5において、試料5から構成される陽極の電気化学反応サイクル特性を評価した結果を示す図である。
【
図18】実験例6において、試料5から構成される陽極の長時間安定性を評価した結果を示す図である。
【
図19】実験例7において、菱面体硫化ホウ素に対するグラフェンナノプレートの含有比を変えた場合について、線形掃引ボルタンメトリーテストの結果を示す図である。
【
図20】実験例8において、実験例1で得られた菱面体硫化ホウ素のX線回折の結果を示す図である。
【
図21】実験例9において、電気化学反応サイクル前後の複合体のラマンスペクトルを示す図である。
【
図22】実験例9において、電気化学反応サイクル前後の複合体のラマンスペクトルを示す図である。
【
図23】実験例10において、4種の試料のそれぞれについて、線形掃引ボルタンメトリーテストの結果を示す図である。
【
図24】実験例11において、4種の試料のそれぞれについて、線形掃引ボルタンメトリーテストの結果を示す図である。
【
図25】実験例12において、4種の試料のそれぞれについて、線形掃引ボルタンメトリーテストの結果を示す図である。
【
図26】実験例13において、4種の試料のそれぞれについて、線形掃引ボルタンメトリーテストの結果を示す図である。
【
図27】実験例13において、試料41、試料42、試料43および試料44のそれぞれについて、電流密度と電圧の関係を示す図である。
【
図28】実験例14において、試料44または試料45から構成される陽極の電気化学反応サイクル特性を評価した結果を示す図である。
【
図29】実験例15において、試料41、試料43、試料44および試料45のX線回折の結果を示す図である。
【
図30】実験例16において、試料44のX線光電子分光の測定結果を示す図である。
【
図31】実験例17において、試料44、試料45および試料46のX線光電子分光のB1s領域の測定結果を示す図である。
【
図32】実験例17において、試料44、試料45および試料46のX線光電子分光のS2p領域の測定結果を示す図である。
【
図33】実験例18において、試料44、試料45および試料46のラマンスペクトルを示す図である。
【
図34】実験例18において、試料44、試料45および試料46のラマンスペクトルを示す図である。
【
図35】実験例19において、ニッケルフォームの体積と質量の関係を示す図である。
【
図36】実験例21において、ホウ素(B)、硫黄(S)および炭素(C)のエネルギー分散型X線分析による元素分析の結果を示す図である。
【
図37】実験例22において、4種の試料のそれぞれについて、線形掃引ボルタンメトリーテストの結果を示す図である。
【
図38】実験例23において、菱面体硫化ホウ素に対するグラフェンナノプレートの含有比を変えた場合について、線形掃引ボルタンメトリーテストの結果を示す図である。
【
図39】実験例24において、実験例22で得られた試料54から構成される電極の電気化学反応サイクル特性を評価した結果を示す図である。
【
図40】実験例25において、実験例22で得られた試料54から構成される電極の線形掃引ボルタンメトリーテストの結果を示す図である。
【
図41】実験例26において、実験例22で得られた試料54から構成される電極の回転リングディスク電極で酸素還元反応に由来するリング電極電流(I
ring)を検出した結果を示す図である。
【
図42】実験例27において、実験例22で得られた試料54から構成される電極の回転リングディスク電極で酸素還元反応に由来するリング電極電流(I
ring)を検出した結果を示す図である。
【
図43】実験例28において、5種の試料のそれぞれについて、線形掃引ボルタンメトリーテストの結果を示す図である。
【
図44】実験例29において、試料65から構成される電極の長時間安定性を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の酸素生成反応触媒材料、酸素生成反応触媒材料を含む組成物、および酸素生成反応触媒材料を含む複合体の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0010】
[酸素生成反応触媒材料]
本実施形態の酸素生成反応触媒材料は、少なくとも菱面体硫化ホウ素(r-BS)を含む。
菱面体硫化ホウ素は、硫黄とホウ素が原子比数で1:1の割合で構成される層状の物質である。菱面体硫化ホウ素は、R-3mと呼ばれる空間群に属する結晶構造をしている。
【0011】
菱面体硫化ホウ素は、非特許文献2に記載されている方法に従って、例えば、ホウ素と硫黄を原子数比で1:1の割合で混合し、5.5GPaの高圧状態で1873Kに加熱した後、室温(25℃)まで冷却することにより得られる。
【0012】
菱面体硫化ホウ素の平均結晶子径は、3nm以上500μm以下であることが好ましく、3nm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0013】
菱面体硫化ホウ素の平均結晶子径は、X線回折測定の回折ピークの半値幅をシェラーの式を用いて解析することによって算出することができる。
【0014】
本実施形態の酸素生成反応触媒材料は、炭素材料を含むことが好ましい。
【0015】
本実施形態の酸素生成反応触媒材料において、菱面体硫化ホウ素に対する炭素材料の含有比(炭素材料/菱面体硫化ホウ素)が、質量比で1以上3以下であることが好ましい。前記含有比が前記下限値未満では、触媒機能が低下する。前記含有比が前記上限値を超えると、触媒機能が低下する。
【0016】
炭素材料としては、特に限定されないが、例えば、グラフェン、カーボンナノチューブ、グラッシーカーボン等が挙げられる。これらの中でも、電気伝導性が高くて表面積が大きいという観点から、グラフェンが好ましい。
【0017】
本実施形態の酸素生成反応触媒材料は、結着材を含むことが好ましい。
結着材としては、特に限定されないが、例えば、ナフィオン(登録商標)を含む過フッ素化樹脂溶液(低級脂肪族アルコールと水が混入した溶液として市販されているもの)等が挙げられる。
【0018】
本実施形態の酸素生成反応触媒材料において、結着材の含有量は、酸素生成反応触媒材料の1mg当たりに対して1.0μL以上2.0μL以下であることが好ましい。結着材の含有量が前記下限値未満では、電極を作製した場合に、酸素生成反応触媒材料が電極から剥がれ落ちてしまい、酸素生成反応の触媒性能が低下する。
【0019】
本実施形態の酸素生成反応触媒材料の製造方法を説明する。
溶媒に、菱面体硫化ホウ素の粉末とグラフェンナノプレートとを加えて、これらを撹拌、混合し、混合物を調製する。
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール等が挙げられる。
【0020】
次に、混合物を1時間~2時間、超音波処理する。
次に、必要に応じて、超音波処理した混合物に、結着材を加えて、これらを撹拌、混合する。
その後、溶媒を除去して、酸素生成反応触媒材料を得る。溶媒を除去するには、例えば、溶媒を蒸発させる。
【0021】
本実施形態の酸素生成反応触媒材料は、水の電気分解するための電極触媒材料として好適に用いることができる。本実施形態の酸素生成反応触媒材料によれば、安価でかつ豊富な元素からなる菱面体硫化ホウ素を用いて、コバルトと同等の酸素生成反応触媒活性を有する電極触媒材料が得られる。
【0022】
[組成物」
本実施形態の組成物は、本実施形態の酸素生成反応触媒材料と、溶媒と、を含む。
【0023】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール等が挙げられる。
【0024】
本実施形態の組成物において、本実施形態の酸素生成反応触媒材料の含有量は、組成物の1mg当たりに対して1.0μL以上2.0μL以下であることが好ましい。酸素生成反応触媒材料の含有量が前記下限値未満では、酸素生成反応の触媒性能が低下する。酸素生成反応触媒材料の含有量が前記上限値を超えると、酸素生成反応の触媒性能が低下する。
【0025】
本実施形態の組成物の製造方法を説明する。
溶媒に、所定量の本実施形態の酸素生成反応触媒材料を加えて、これらを撹拌、混合し、本実施形態の組成物の製造方法を得る。
【0026】
本実施形態の組成物は、水の電気分解するための電極を形成するために好適に用いることができる。本実施形態の組成物によれば、安価でかつ豊富な元素からなる菱面体硫化ホウ素を用いて、コバルトと同等の酸素生成反応触媒活性を有する電極が得られる。
【0027】
[複合体]
本実施形態の複合体は、導電性の担体と、前記担体に担持された本実施形態の酸素生成反応触媒材料と、を含む。
【0028】
本実施形態の複合体において、導電性の担体の表面に酸素生成反応触媒材料が担持されているとは、担体の表面に酸素生成反応触媒材料が付着している状態を示す。
【0029】
導電性の担体としては、表面積が大きく、酸素生成反応触媒材料をより多く担持することができるものが挙げられる。このような担体としては、多孔質体、繊維の束、布等が挙げられる。具体的には、ニッケルフォーム(スポンジ状の多孔質金属)、金属繊維の束、炭素繊維の束、炭素繊維からなる織布または不織布等が挙げられる。これらの中でも、現状では安価に入手可能であるという観点から、ニッケルフォームが好ましい。
【0030】
多孔質体の細孔の気孔率(物質の全体積に占める空間の体積の割合)は90%以上98%以下であることが好ましく、95%以上98%以下であることがより好ましい。細孔の気孔率が前記下限値未満では、多孔質としての効果が減る。細孔の平均細孔径が前記上限値を超えると、多孔質としての効果が減る。
【0031】
多孔質体の細孔の気孔率は、例えば、計算機トモグラフィー法によって測定することができる。
【0032】
繊維の束を構成する繊維の平均径は、0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上70μm以下であることがより好ましい。繊維の平均径が前記下限値未満でが、触媒が十分に担持されない。繊維の平均径が前記上限値を超えると、触媒が十分に担持されない。
【0033】
繊維の平均径は、走査電子顕微鏡観察によって測定することができる。
【0034】
担体に対する酸素生成反応触媒材料の担持量は、担体の表面の単位面積当たりの酸素生成反応触媒材料の質量で表され、5μL/cm2以上50μL/cm2以下であることが好ましく、10μL/cm2以上40μL/cm2以下であることがより好ましい。酸素生成反応触媒材料の担持量が前記下限値未満では、触媒活性が小さくなる。酸素生成反応触媒材料の担持量が前記上限値を超えると、酸素生成反応触媒材料が凝集して有効に利用できない。
【0035】
本実施形態の複合体の製造方法を説明する。
導電性の担体に、酸素生成反応触媒材料の担持量が上記の本実施形態の組成物を滴下した後、乾燥する。これにより、前記担体の表面に酸素生成反応触媒材料を担持させて、本実施形態の複合体を得る。
【0036】
担体の表面に酸素生成反応触媒材料を担持させる方法は、特に限定されない。例えば、上記組成物を担体の表面に滴下し、滴下した組成物を乾燥させることにより、担体の表面に酸素生成反応触媒材料を担持させる。上記組成物を滴下する方法としては、例えば、ピペット等を用いる方法が用いられる。
【0037】
本実施形態の複合体は、水を電気分解するための電極として好適に用いることができる。本実施形態の複合体によれば、安価でかつ豊富な元素からなる菱面体硫化ホウ素を用いて、コバルトと同等の酸素生成反応触媒活性を有する電極が得られる。
【実施例0038】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0039】
[実験例1]
「複合体の作製」
非特許文献2に記載されている方法に従い、ホウ素と硫黄を原子数比で1:1の割合で混合し、5.5GPaの高圧状態で1873Kに加熱した後、室温(25℃)まで冷却することにより、菱面体硫化ホウ素を得た。
1mLのエタノールに、5mgの菱面体硫化ホウ素の粉末と10mgのグラフェンナノプレートとを加えて、これらを撹拌、混合し、混合物を調製した。菱面体硫化ホウ素に対するグラフェンナノプレートの含有比(炭素材料/菱面体硫化ホウ素)は、質量比で1であった。
次に、上記混合物を室温(25℃)で1時間、超音波処理した。超音波処理には、超音波洗浄機(型式名:SWS510、アスクル社製)を用いた。
次に、超音波処理した混合物に、50μLのナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)を加えて、これらを撹拌、混合し、菱面体硫化ホウ素の粉末と、グラフェンナノプレートと、ナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)とを含む組成物を得た。
次に、ピペットを用いて、20μLの上記組成物を、ニッケルフォーム(商品名:Nickel foam、HUI RUI SIWANG社製)に滴下した。ニッケルフォームの細孔率は95%~98%、ニッケルフォームのかさ密度は0.1g/cm3超であった。
次に、組成物を滴下したニッケルフォームを約60℃で3分~4分乾燥させて、ニッケルフォームと、ニッケルフォームに担持された、菱面体硫化ホウ素とグラフェンナノプレートとを含む酸素生成反応触媒材料とを含む複合体(r-BS+G-NF)を得た。
【0040】
「表面観察、元素分析」
得られた複合体を、走査型電子顕微鏡(商品名:JXA-8530F、JEOL社製)で観察した。結果を
図1および
図2に示す。
図2は
図1の一部を拡大した図である。
また、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA、商品名:JXA-8530F、JEOL社製)を用いて、得られた複合体の面分析を行った。結果を
図3~
図7に示す。
図3~
図7は、
図2に対応する。
図3は、電子プローブマイクロアナライザーによる面分析の結果を示す図であり、硫黄(S)の元素分析の結果を示す図である。
図4は、電子プローブマイクロアナライザーによる面分析の結果を示す図であり、ホウ素(B)の元素分析の結果を示す図である。
図5は、電子プローブマイクロアナライザーの面分析に対応する走査型電子顕微鏡像である。
図6は、電子プローブマイクロアナライザーによる面分析の結果を示す図であり、ニッケル(Ni)の元素分析の結果を示す図である。
図7は、電子プローブマイクロアナライザーによる面分析の結果を示す図であり、炭素(C)の元素分析の結果を示す図である。
図1~
図7に示す結果から、ニッケルフォームの表面に、菱面体硫化ホウ素とグラフェンナノプレートとを含む酸素生成反応触媒材料が担持されていることが確認された。
【0041】
[実験例2]
「酸素生成反応触媒材料の作製」
非特許文献2に記載されている方法に従い、ホウ素と硫黄を原子数比で1:1の割合で混合し、5.5GPaの高圧状態で1873Kに加熱した後、室温(25℃)まで冷却することにより、菱面体硫化ホウ素を得た。
1mLのエタノールに、5mgの菱面体硫化ホウ素の粉末と10mgのグラフェンナノプレートとを加えて、これらを撹拌、混合し、混合物を調製した。菱面体硫化ホウ素に対するグラフェンナノプレートの含有比(炭素材料/菱面体硫化ホウ素)は、質量比で1であった。
次に、上記混合物を室温(25℃)で1時間、超音波処理した。超音波処理には、超音波洗浄機(型式名:SWS510、アスクル社製)を用いた。
次に、超音波処理した混合物に、25μLのナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)を加えて、これらを撹拌、混合し、菱面体硫化ホウ素の粉末と、グラフェンナノプレートと、ナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)とを含む組成物を得た。
次に、組成物を約60℃で3分~4分間乾燥させて、菱面体硫化ホウ素とグラフェンナノプレートとを含む酸素生成反応触媒材料を得た。
【0042】
[実験例3]
「表面観察、元素分析」
実験例1で得られた複合体を、透過型電子顕微鏡(商品名:JEM―2100F、JEOL社製)で観察した。結果を
図8および
図9に示す。
また、電子エネルギー損失分光(商品名:JEM―2100F、JEOL社製)を用いて、得られた複合体の元素分析を行った。結果を
図10~
図11に示す。
図10~
図11は、
図9に対応する。
図10は、電子エネルギー損失分光に対応する透過電子顕微鏡像である。
図11は、電子エネルギー損失分光による元素分析の結果を示す図であり、炭素(C)の元素分析の結果を示す図である。
図12は、電子エネルギー損失分光による元素分析の結果を示す図であり、硫黄(S)の元素分析の結果を示す図である。
図13は、電子エネルギー損失分光による元素分析の結果を示す図であり、ホウ素(B)の元素分析の結果を示す図である。
図8~
図13に示す結果から、ニッケルフォームの表面に、菱面体硫化ホウ素とグラフェンナノプレートとを含む酸素生成反応触媒材料が担持されていることが確認された。
【0043】
[実験例4]
「電気化学的測定」
固体高分子電解質膜(Polymer Electrolyte Membrane:PEM)型電解槽を用いて、下記の5種の試料について、電気化学的測定を行った。
上記の電解槽は、隔膜を隔てて陽極側電解槽と陰極側電解槽に区切られている。陽極としては下記の5種の試料から構成されるものを用い、陰極としては白金線を用いた。また、参照電極としては、Ag/AgCl電極を用いた。
陽極側電解槽と陰極側電解槽には、電解液として、1mol/Lの水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いた。
下記の方法により、線形掃引ボルタンメトリー(LSV)テストを行い、陽極および陰極に印加される電流と電位の関係を表す分極曲線を得た。
(Sweep条件:5mV/s、1.0V~1.8V(vsRHE)、装置:CS2350 Bipotentiostat、Wuhan CorreTest Instruments company)
結果を
図14に示す。
【0044】
(5種の試料)
ニッケルフォーム(商品名:Nickel foam、HUI RUI SIWANG社製)に、エタノールとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)を滴下させたもの(nickel foam(NF))。エタノールとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)の量は、それぞれ1mL/cm2と25μL/cm2であった。この試料を「試料1」とする。
上記のニッケルフォームに、酸化ルテニウム(RuO2)5mg/cm2とエタノール1mL/cm2とナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μL/cm2とを混合した混合物を担持させたもの(RuO2-NF)。この試料を「試料2」とする。
上記のニッケルフォームに、グラフェンナノプレート5mgとエタノール1mL/cm2とナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μL/cm2とを混合した混合物を担持させたもの(graphene-NF)。この試料を「試料3」とする。
上記のニッケルフォームに、実験例2で作製した菱面体硫化ホウ素5mgとエタノール1mL/cm2とナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μL/cm2とを混合した混合物を担持させたもの(r-BS-NF)。この試料を「試料4」とする。
上記のニッケルフォームに、上記の菱面体硫化ホウ素5mgとグラフェンナノプレート10mgとエタノール1mLとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとを混合した混合物を担持させたもの(r-BS+G-NF)。この試料を「試料5」とする。
【0045】
図14に示す結果から、試料5は、上記の5種の試料の中で最も低い電圧(1.47V)で酸素生成反応に由来する電流が流れる始めることが分かった。この電圧が低い程、電極としての触媒活性に優れていると考えられる。
また、試料2、試料4および試料5のそれぞれについて、電流密度が10mAcm
-2、100mAcm
-2、500mAcm
-2に達するために必要な電圧を
図15に示す。
図15に示す結果から、試料5は、試料2および試料4よりもそれぞれの電流密度に達するための電圧が低いことが分かった。この電圧が低い程、電極としての触媒活性に優れていると考えられる。
【0046】
また、上記の5種の試料について、ターフェル勾配(Tafel slope)を算出した。
ターフェル勾配は、横軸の電位から1.23Vを引いた値の絶対値を縦軸にとり、横軸を電流密度の対数にしたときの傾きを求めることで算出した。
結果を
図16に示す。
図16に示す結果から、上記の5種の試料の中で試料5のターフェル勾配が最も小さいことが分かった。ターフェル勾配が小さい程、電極としての触媒活性に優れていると考えられる。
以上の結果から、試料5は、上記の5種の試料の中で最も触媒活性に優れることが分かった。
【0047】
[実験例5]
「電気化学反応サイクル特性評価」
実験例4と同様の固体高分子電解質膜型電解槽を用いて、上記の試料5から構成される陽極の電気化学反応サイクル特性を評価した。
1.20Vと1.45Vの間で固体高分子電解質膜型電解槽の電気化学反応サイクルを2000回繰り返した。
実験例4と同様にして、電気化学反応サイクル前(before CV-lsv)と電気化学反応サイクルを2000回繰り返した後(after 2000 CV-lsv)の線形掃引ボルタンメトリーテストを行った。結果を
図17に示す。
図17に示す結果から、電気化学反応サイクルを2000回繰り返しても、試料5から構成される陽極の電気化学的特性は劣化しないことが分かった。すなわち、試料5から構成される陽極は、電気化学反応サイクル特性に優れることが分かった。
【0048】
[実験例6]
「長時間安定性評価」
実験例4と同様の固体高分子電解質膜型電解槽を用いて、上記の試料5から構成される陽極の長時間安定性を評価した。
電流密度が100mAcm
-2となるように、陽極と陰極の間に、70時間、電圧を印加した。結果を
図18に示す。
図18に示す結果から、電流密度が100mAcm
-2となるための電圧が70時間でほとんど変化しないことが分かった。すなわち、試料5から構成される陽極は、長時間安定性に優れることが分かった。
【0049】
[実験例7]
「電気化学的測定」
菱面体硫化ホウ素に対するグラフェンナノプレートの含有比(炭素材料/菱面体硫化ホウ素)を質量比で1(r-BS+G-1:1-NF)、前記含有比を質量比で2(r-BS+G-1:2-NF)または前記含有比を質量比で3(r-BS+G-1:3-NF)としたこと以外は、実験例1と同様にして、複合体を作製した。
また、実験例4と同様にして、それぞれの複合体について、電気化学的測定を行った。結果を
図19に示す。
図19に示す結果から、菱面体硫化ホウ素に対するグラフェンナノプレートの含有比が2の場合が最も低い電圧で電流が流れることが分かった。また、菱面体硫化ホウ素に対するグラフェンナノプレートの含有比が2の場合には、コバルトを含む酸素生成反応触媒材料の触媒活性(100mAcm
-1で241mVの過電圧)に近い触媒活性(100mAcm
-1で295mVの過電圧)を示した。
【0050】
[実験例8]
「X線回折」
実験例1で得られた菱面体硫化ホウ素のX線回折(XRD)を行った。
X線回折装置として、Rigaku社製のMiniFlexを用いた。X線回折の結果を
図20に示す。
図20に示す結果から、標準的な菱面体硫化ホウ素のX線回折パターン(r-BS-standard)と比較すると、実験例1では菱面体硫化ホウ素(r-BS)が得られていることが確認された。
【0051】
[実験例9]
「ラマンスペクトル測定」
実験例5と同様にして、実験例1の複合体から構成される陽極を備える固体高分子電解質膜型電解槽の電気化学反応サイクルを2000回繰り返した。
電気化学反応サイクル前(before Lsv)と電気化学反応サイクルを2000回繰り返した後(after Lsv)の複合体について、ラマンスペクトルを測定した。ラマンスペクトルの測定には、ラマン分光装置(商品名:NRS-5100、日本分光社製)を用いた。結果を
図21および
図22に示す。
図21は波数250cm
-1~3750cm
-1のラマンスペクトルを示す図であり、
図22は波数0cm
-1~1200cm
-1のラマンスペクトルを示す図である。
図21および
図22に示す結果から、電気化学反応サイクル後も複合体において菱面体硫化ホウ素が検出された。すなわち、実験例1の複合体は、電気化学反応サイクルの繰り返し耐久性に優れることが分かった。
【0052】
[実験例10]
「電気化学的測定」
実験例4と同様にして、下記の4種の試料について、電気化学的測定を行った。結果を
図23に示す。
(4種の試料)
ニッケルフォーム(商品名:Nickel foam、HUI RUI SIWANG社製)に、ナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μL、エタノール1mLを担持させたもの(nickel foam(NF))。この試料を「試料11」とする。
上記のニッケルフォームに、グラフェンナノプレート10mgとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとエタノール1mLを担持させたもの(graphene-NF)。この試料を「試料12」とする。
上記のニッケルフォームに、上記の菱面体硫化ホウ素5mgとグラフェンナノプレート10mgとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとエタノール1mLとを担持させたもの(r-BS+G-NF)。この試料を「試料13」とする。
上記のニッケルフォームに、上記の菱面体硫化ホウ素5mgとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとエタノール1mLとを担持させたもの(r-BS-NF)。この試料を「試料13」とする。
【0053】
図23に示す結果から、菱面体硫化ホウ素の作製時に、不純物として含まれる可能性がある窒化ホウ素を含む試料14は、試料13よりも高い電圧で電流が流れることが分かった。すなわち、試料14は、試料13よりも電極としての触媒活性に劣ると考えられる。
【0054】
[実験例11]
「電気化学的測定」
実験例4と同様にして、下記の4種の試料について、電気化学的測定を行った。結果を
図24に示す。
(4種の試料)
ニッケルフォーム(商品名:Nickel foam、HUI RUI SIWANG社製)に、ホウ素(B)と硫黄(S)2.5mgずつとグラフェンナノプレート10mgとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとエタノール1mLとを担持させたもの(B+S+G-NF)。この試料を「試料21」とする。
上記のニッケルフォームに、グラフェンナノプレート5mgとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとエタノール1mLとを担持させたもの(graphene-NF)。この試料を「試料22」とする。
上記のニッケルフォームに、上記の菱面体硫化ホウ素5mgとグラフェンナノプレート10mgとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとエタノール1mLとを担持させたもの(r-BS+G-NF)。この試料を「試料23」とする。
上記のニッケルフォームに、酸化ルテニウム(RuO
2)5mgとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとエタノール1mLとを担持させたもの(RuO
2-NF)。この試料を「試料24」とする。
【0055】
図24に示す結果から、菱面体硫化ホウ素の原料であるホウ素と硫黄を含む混合物を含む試料21は、試料23よりも高い電圧で電流が流れることが分かった。すなわち、試料21は、試料23よりも電極としての触媒活性に劣ると考えられる。
【0056】
[実験例12]
「電気化学的測定」
実験例4と同様にして、下記の4種の試料について、電気化学的測定を行った。結果を
図25に示す。
(4種の試料)
ニッケルフォーム(商品名:Nickel foam、HUI RUI SIWANG社製)に、上記の菱面体硫化ホウ素とグラフェンナノプレートとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)とエタノールとをそれぞれ10mg、25μL、1mLで混合させたものを担持させたもの(r-BS+G-NF)。この試料を「試料31」とする。
上記のニッケルフォームに、上記の菱面体硫化ホウ素をボールミルで15分間粉砕して、平均結晶子径を34nmとしたものとグラフェンナノプレートとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)とエタノールとをそれぞれ5mg、10mg、25μL、1mLで混合させたものを担持させたもの(r-BS-15min+G-NF)。この試料を「試料32」とする。
上記のニッケルフォームに、上記の菱面体硫化ホウ素をボールミルで2時間粉砕して、平均結晶子径を25nmとしたものとグラフェンナノプレートとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)とエタノールとをそれぞれ5mg、10mg、25μL、1mLで混合させたものを担持させたもの(r-BS-2h+G-NF)。この試料を「試料33」とする。
上記のニッケルフォームに、上記の菱面体硫化ホウ素をボールミルで5時間粉砕して、平均結晶子径を3.5nmとしたものとグラフェンナノプレートとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)とエタノールとをそれぞれ5mg、10mg、25μL、1mLで混合させたものを担持させたもの(r-BS-5h+G-NF)。この試料を「試料34」とする。
【0057】
図25に示す結果から、試料31よりも、菱面体硫化ホウ素の平均結晶子径が小さい試料32~試料34は、試料31よりも高い電圧で電流が流れることが分かった。すなわち、試料32~試料34は、試料31よりも電極としての触媒活性に劣ると考えられる。
【0058】
[実験例13]
「電気化学的測定」
3電極電気化学セル(大容量ボルタンメトリー用セル、BAS社製)を用いて、下記の4種の試料について、電気化学的測定を行った。
電極としては下記の4種の試料から構成されるものを用い、対極としては白金線を用いた。また、参照電極としては、Hg/HgO電極を用いた。
電解液として、1mol/Lの水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いた。
下記の方法により、線形掃引ボルタンメトリー(LSV)テストを行い、電極に印加される電流と電位の関係を表す分極曲線を得た。
(Sweep条件:5mV/s、1.0V~1.8V(vsRHE)、装置:CS2350 Bipotentiostat、Wuhan CorreTest Instruments company)
結果を
図26に示す。
【0059】
(4種の試料)
グラフェンナノプレート10mgとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとエタノール1mLとを含む混合液を乾燥して得られた、グラフェンナノプレートとナフィオン(登録商標)とを含む混合物(graphene)。この試料を「試料41」とする。
酸化ルテニウム(RuO2)5mgとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとエタノール1mLとを含む混合液を乾燥して得られた、酸化ルテニウムとナフィオン(登録商標)とを含む混合物(RuO2)。この試料を「試料42」とする。
実験例2で作製した菱面体硫化ホウ素5mgとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとエタノール1mLとを含む混合液を乾燥して得られた、菱面体硫化ホウ素とナフィオン(登録商標)とを含む混合物(r-BS)。この試料を「試料43」とする。
上記の菱面体硫化ホウ素5mgとグラフェンナノプレート10mgとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとエタノール1mLとを含む混合液を乾燥して得られた、菱面体硫化ホウ素とグラフェンナノプレートとナフィオン(登録商標)とを含む混合物(r-BS+G)。この試料を「試料44」とする。
【0060】
図26に示す結果から、試料44は、上記の4種の試料の中で最も低い電圧(約1.2V)で酸素生成反応に由来する電流が流れる始めることが分かった。この電圧が低い程、電極としての触媒活性に優れていると考えられる。
また、試料41、試料42、試料43および試料44のそれぞれについて、電流密度が10mAcm
-2に達するために必要な電圧を
図27に示す。
図27に示す結果から、試料44は、試料41、試料42および試料43よりも前記の電流密度に達するための電圧が低いことが分かった。この電圧が低い程、電極としての触媒活性に優れていると考えられる。
【0061】
[実験例14]
「電気化学反応サイクル特性評価」
実験例4と同様の固体高分子電解質膜型電解槽を用いて、上記の試料44および下記の試料45から構成される陽極の電気化学反応サイクル特性を評価した。
1.2Vと1.45Vの間で固体高分子電解質膜型電解槽の電気化学反応サイクルを500回繰り返した。
実験例4と同様にして、電気化学反応サイクル前(r-BS+G:試料44)と電気化学反応サイクルを500回繰り返した後(after 500 CV cycles r-BS+G:試料45)の線形掃引ボルタンメトリーテストを行った。結果を
図28に示す。
図28に示す結果から、電気化学反応サイクルを500回繰り返しても、試料44から構成される陽極の電気化学的特性は劣化しないことが分かった。すなわち、試料44から構成される陽極は、電気化学反応サイクル特性に優れることが分かった。
【0062】
[実験例15]
「X線回折」
上記の試料41、試料43、試料44(電気化学反応サイクル前(r-BS+G-before lsv))および試料45(電気化学反応サイクルを500回繰り返した後(r-BS+G-after 500 CV cycles))のX線回折(XRD)を行った。
X線回折装置として、Rigaku社製のMiniFlexを用いた。X線回折の結果を
図29に示す。
図29に示す結果から、電気化学反応サイクルを500回繰り返しても物質が変化することなく、r-BSとグラフェンの状態を保っていることが確認された。
【0063】
[実験例16]
「X線光電子分光測定」
X線光電子分光装置(商品名:JPS 9010 TR、日本電子社製)を用いて、上記の試料44について、結合エネルギーを測定した。
結果を
図30に示す。
図30に示す結果から、用いている試料にはホウ素と硫黄と炭素およびナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)に由来する酸素とフッ素のみが存在していることが確認された。
【0064】
[実験例17]
「X線光電子分光測定」
実験例16と同様のX線光電子分光装置を用いて、上記の試料44(before lsv)、試料45(after 500 CV cycles)および試料46(電気化学反応サイクルを1回繰り返した後(after lsv))について、結合エネルギーを測定した。
B1s領域の測定結果を
図31に、S2p領域の測定結果を
図32にそれぞれ示す。
図31および
図32に示す結果から、電気化学反応サイクル後もホウ素と硫黄が酸化物になるなどの劣化を起こすことなく、ほぼ同じ化学状態を維持していることが確認された。
【0065】
[実験例18]
「ラマンスペクトル測定」
上記の試料44(before lsv)、試料45(after 500 CV cycles)および試料46(after lsv)について、ラマンスペクトルを測定した。ラマンスペクトルの測定には、ラマン分光装置(商品名:NRS-5100、日本分光社製)を用いた。結果を
図33および
図34に示す。
図33は波数500cm
-1~3500cm
-1における試料44、試料45および試料46のラマンスペクトルを示す図であり、
図34は波数0cm
-1~1200cm
-1における試料44、試料45および試料46のラマンスペクトルを示す図である。
図33および
図34に示す結果から、電気化学反応サイクル後も菱面体硫化ホウ素とグラフェンナノプレートとの混合物において菱面体硫化ホウ素が検出された。すなわち、菱面体硫化ホウ素とグラフェンナノプレートとの混合物は、電気化学反応サイクルの繰り返し耐久性に優れることが分かった。
【0066】
[実験例19]
ニッケルフォーム(商品名:Nickel foam、HUI RUI SIWANG社製)を異なる4つの大きさ(体積)に切り出して、それぞれの質量を、電子天秤により測定し、体積と質量の関係を調べた。結果を
図35に示す。
図35は、ニッケルフォームの体積と質量の関係を示す図である。
図35に示す結果から、ニッケルフォームの質量密度が均一であることが分かった。
【0067】
[実験例20]
「酸素生成反応触媒材料の作製」
非特許文献2に記載されている方法に従い、ホウ素と硫黄を原子数比で1:1の割合で混合し、5.5GPaの高圧状態で1873Kに加熱した後、室温(25℃)まで冷却することにより、菱面体硫化ホウ素を得た。
1mLのエタノールに、5mgの菱面体硫化ホウ素の粉末と10mgのグラフェンナノプレートとを加えて、これらを撹拌、混合し、混合物を調製した。菱面体硫化ホウ素に対するグラフェンナノプレートの含有比(炭素材料/菱面体硫化ホウ素)は、質量比で1であった。
次に、上記混合物を室温(25℃)で1時間、超音波処理した。超音波処理には、超音波洗浄機(型式名:SWS510、アスクル社製)を用いた。
次に、超音波処理した混合物に、25μLのナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)を加えて、これらを撹拌、混合し、菱面体硫化ホウ素の粉末と、グラフェンナノプレートと、ナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)とを含む組成物を得た。
次に、組成物を約60℃で3分~4分間乾燥させて、菱面体硫化ホウ素とグラフェンナノプレートとを含む酸素生成反応触媒材料を得た。
【0068】
[実験例21]
「元素分析」
実験例20で得られた複合体について、透過型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分析(商品名:JEM―2100F、JEOL社製)を用いて元素分析を行った。結果を
図36に示す。
図36は、エネルギー分散型X線分析による元素分析の結果を示す図であり、ホウ素(B)、硫黄(S)および炭素(C)の元素分析の結果を示す図である。
図36に示す結果から、実験例20で得られた複合体は、ホウ素(B)、硫黄(S)、炭素(C)および酸素(O)以外の元素を含まないことが確認された。
【0069】
[実験例22]
「電気化学的測定」
3電極電気化学セル(大容量ボルタンメトリー用セル、BAS社製)を用いて、下記の4種の試料について、電気化学的測定を行った。
電極としては下記の5種の試料から構成されるものを用い、対極としては白金線を用いた。また、参照電極としては、Hg/HgO電極を用いた。
電解液として、1mol/Lの水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いた。
下記の方法により、線形掃引ボルタンメトリー(LSV)テストを行い、電極に印加される電流と電位の関係を表す分極曲線を得た。
(Sweep条件:5mV/s、1.0V~1.8V(vsRHE)、装置:CS2350 Bipotentiostat、Wuhan CorreTest Instruments company)
結果を
図37に示す。
【0070】
(4種の試料)
グラフェンナノプレート10mgとエタノール1mL/cm2とナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μL/cm2とを混合した混合物を担持させたもの(GNP)。この試料を「試料51」とする。
酸化ルテニウム(RuO2)5mg/cm2とエタノール1mL/cm2とナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μL/cm2とを混合した混合物を担持させたもの(RuO2)。この試料を「試料52」とする。
実験例22で作製した菱面体硫化ホウ素5mgとエタノール1mL/cm2とナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μL/cm2とを混合した混合物を担持させたもの(r-BS)。この試料を「試料53」とする。
上記の菱面体硫化ホウ素5mgとグラフェンナノプレート10mgとエタノール1mLとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとを混合した混合物を担持させたもの(r-BS+G)。この試料を「試料54」とする。
【0071】
図37に示す結果から、試料54は、上記の4種の試料の中で最も低い電圧(1.2V)で酸素生成反応に由来する電流が流れる始めることが分かった。この電圧が低い程、電極としての触媒活性に優れていると考えられる。
以上の結果から、試料54は、上記の4種の試料の中で最も触媒活性に優れることが分かった。
【0072】
[実験例23]
「電気化学的測定」
菱面体硫化ホウ素に対するグラフェンナノプレートの含有比(炭素材料/菱面体硫化ホウ素)を質量比で1(r-BS+G-1:1)、前記含有比を質量比で2(r-BS+G-1:2)または前記含有比を質量比で3(r-BS+G-1:3)としたこと以外は、実験例22と同様にして、複合体を作製した。
また、実験例22と同様にして、それぞれの複合体について、電気化学的測定を行った。結果を
図38に示す。
図38に示す結果から、菱面体硫化ホウ素に対するグラフェンナノプレートの含有比が2の場合が最も低い電圧で電流が流れることが分かった。
【0073】
[実験例24]
「電気化学反応サイクル特性評価」
実験例22と同様の固体高分子電解質膜型電解槽を用いて、上記の試料54から構成される陽極の電気化学反応サイクル特性を評価した。
1.20Vと1.45Vの間での電位操作で試料が劣化したり電極からはがれるなどの理由により触媒性能が落ちることが無いかどうかを確認するため固体高分子電解質膜型電解槽の電気化学反応サイクルを500回繰り返した。
実験例22と同様にして、電気化学反応サイクル前(before CV-lsv)と電気化学反応サイクルを500回繰り返した後(after 2000 CV-lsv)の線形掃引ボルタンメトリーテストを行った。結果を
図39に示す。
図39に示す結果から、電気化学反応サイクルを500回繰り返しても、試料24から構成される陽極の電気化学的特性は劣化しないことが分かった。すなわち、試料24から構成される陽極は、電気化学反応サイクル特性に優れることが分かった。
【0074】
[実験例25]
「電気化学的測定」
3電極電気化学セル(大容量ボルタンメトリー用セル、BAS社製)を用いて、下記の試料について、電気化学的測定を行った。
電極としては下記の試料から構成されるものを用い、対極としては白金線を用いた。また、参照電極としては、Hg/HgO電極を用いた。
電解液として、1mol/Lの水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いた。
下記の方法により、線形掃引ボルタンメトリー(LSV)テストを行い、電極に印加される電流と電位の関係を表す分極曲線を得た。
(Sweep条件:5mV/s、1.0V~1.8V~1.0V(vsRHE)の順番でスキャン、装置:CS2350 Bipotentiostat、Wuhan CorreTest Instruments company)
結果を
図40に示す。
【0075】
(試料)
上記の菱面体硫化ホウ素5mgとグラフェンナノプレート10mgとエタノール1mLとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとを混合した混合物を担持させたもの(r-BS+G)。
【0076】
図40に示す結果から、上記の試料は、線形掃引ボルタンメトリー(LSV)において特異的なピークが現れないことが分かった。すなわち、上記の試料は、鉄等の電気化学に寄与する可能性のある微量不純物を含まないことが分かった。
【0077】
[実験例26]
「電気化学的測定」
リングディスク電極を搭載した電気化学セル(大容量ボルタンメトリー用セル、BAS社製)を用いて、下記の試料について、電気化学的測定を行った。
作用極として下記の試料から構成されるものを用い、対極として白金線を用いた。また、参照電極としては、Hg/HgO電極を用いた。試料を載せる電極を回転リングディスク電極に変更した。
電解液として、1mol/Lの水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いた。
回転リングディスク電極のリング電極部分では最初電流が流れない状態から約20秒後に300μAの電流(I
disc)が流れるように設定し、回転リングディスク電極のディスク電極部分では0.4Vに設定した。回転リングディスク電極のディスク電極部分から酸素が発生した場合に、回転リングディスク電極のリング電極部分で酸素還元反応に由来する電流(I
ring)の検出を通して、回転リングディスク電極のリング電極部分での電流が酸素発生由来であることを確認した。回転リングディスク電極のリング電極部分で酸素還元反応に由来する電流(I
ring)を検出した結果を
図41に示す。
下記の式(1)に従って、下記の試料から構成される陽極のファラデー効率(FE)を算出した。
FE=I
ring/(Ce×I
disc) (1)
上記の式(1)において、Ceは補足係数であり、ここでは、0.2とした。その結果、ファラデー効率(FE)は98.8%であった。
【0078】
(試料)
上記の菱面体硫化ホウ素5mgとグラフェンナノプレート10mgとエタノール1mLとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとを混合した混合物を担持させたもの(r-BS+G)。
【0079】
上記の結果から、回転リングディスク電極のディスク電極部分での電流が酸素発生由来であることが確認された。
【0080】
[実験例27]
「電気化学的測定」
リングディスク電極を搭載した電気化学セル(大容量ボルタンメトリー用セル、BAS社製)を用いて、下記の試料について、電気化学的測定を行った。
電極としては下記の試料から構成されるものを用い、対極としては白金線を用いた。また、参照電極としては、Hg/HgO電極を用いた。試料を載せる電極を回転リングディスク電極に変更した。
電解液として、1mol/Lの水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いた。
回転リングのディスク電極部分のポテンシャルを1.0V~1.8Vまで掃引させて、その間に回転リングディスク電極のリングに流れる電流(I
disc)を測定した。同時に、回転リングディスク電極のリング部分は0.2Vに設定した。回転リングディスク電極のディスク電極から酸素が発生した場合に、回転リングディスク電極のリング電極部分で酸素還元反応に由来する電流(I
ring)の検出を通して、回転リングディスク電極の電極部分での電流が酸素発生由来であることを確認した。回転リングディスク電極のリング電極で酸素還元反応に由来する電流(I
ring)を検出した結果を
図42に示す。
【0081】
(試料)
上記の菱面体硫化ホウ素5mgとグラフェンナノプレート10mgとエタノール1mLとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとを混合した混合物を担持させたもの(r-BS+G)。
【0082】
図42に示す結果から、リングディスク電極部分での電流と陰極での電流が対応する形で増加しており、回転リングディスク電極のディスク電極での電流が酸素発生由来であることが確認された。
【0083】
[実験例28]
「電気化学的測定」
実験例4と同様にして、下記の5種の試料について、電気化学的測定を行った。結果を
図43に示す。
(5種の試料)
ニッケルフォーム(商品名:Nickel foam、HUI RUI SIWANG社製)に、ナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μL、エタノール1mLを担持させたもの(nickel foam(NF))。この試料を「試料61」とする。
上記のニッケルフォームに、グラフェンナノプレート10mgとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとエタノール1mLを担持させたもの(graphene-NF)。この試料を「試料62」とする。
上記のニッケルフォームに、酸化ルテニウム(RuO
2)5mg/cm
2とエタノール1mL/cm
2とナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μL/cm
2とを混合した混合物を担持させたもの(RuO
2-NF)。この試料を「試料63」とする。
上記のニッケルフォームに、実験例22で作製した菱面体硫化ホウ素5mgとエタノール1mL/cm
2とナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μL/cm
2とを混合した混合物を担持させたもの(r-BS-NF)。この試料を「試料64」とする。
上記のニッケルフォームに、上記の菱面体硫化ホウ素5mgとグラフェンナノプレート10mgとエタノール1mLとナフィオン(登録商標)(ナフィオンを含む過フッ素化樹脂溶液1100W、シグマアルドリッジ社製)25μLとを混合した混合物を担持させたもの(r-BS+G-NF)。この試料を「試料65」とする。
【0084】
図43に示す結果から、試料65は、上記の5種の試料の中で最も低い電圧(1.47V)で酸素生成反応に由来する電流が流れる始めることが分かった。この電圧が低い程、電極としての触媒活性に優れていると考えられる。
以上の結果から、試料65は、上記の5種の試料の中で最も触媒活性に優れることが分かった。
【0085】
[実験例29]
「長時間安定性評価」
実験例4と同様の固体高分子電解質膜型電解槽を用いて、上記の試料65から構成される陽極の長時間安定性を評価した。
電流密度が100mAcm
-2となるように、陽極と陰極の間に、70時間、電圧を印加した。結果を
図44に示す。
図44に示す結果から、電流密度が100mAcm
-2となるための電圧が100時間でほとんど変化しないことが分かった。すなわち、試料35から構成される陽極は、長時間安定性に優れることが分かった。