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特開2023-168320動作時間計測装置、動作時間計測方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168320
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】動作時間計測装置、動作時間計測方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
A61B5/11 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079505
(22)【出願日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2022079801
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】519338625
【氏名又は名称】学校法人甲南女子学園
(74)【代理人】
【識別番号】100157325
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 太一
(72)【発明者】
【氏名】浅井 剛
(72)【発明者】
【氏名】三栖 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】小山 祥太
(72)【発明者】
【氏名】大島 賢典
(72)【発明者】
【氏名】三方 裕美
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB35
4C038VC01
(57)【要約】
【課題】Timed Up and Goテストによる運動機能データの計測において、個別動作時間の
計測精度を高め、計測結果の変動を抑制する。
【解決手段】個別動作P1~P5それぞれの所要時間T1~T5を計測する動作時間計測装置10であって、圧力検出手段1と、被験者の通過を検出する第1の通過検出手段21、及び第2の通過検出手段22と、圧力検出手段、第1の通過検出手段、第2の通過検出手段からの出力信号を取得し複数の個別動作時間を算出する制御手段4とを備え、圧力検出手段は、椅子Chの座面に載設され、第1の通過検出手段は、椅子から椅子に対し所定距離離れた折り返しマーカ3までの歩行路Ptにおいて、椅子から25cm以上65cm以下の長さ離間した第1の位置X1に配され、第2の通過検出手段は、歩行路Ptにおいて、椅子と折り返しマーカとの中間点より椅子から遠く、折り返しマーカより椅子に近接した第2の位置X2に配される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Timed Up and Go(TUG)テストにおける計測対象動作に含まれる複数の個別動作それぞれの所要時間を計測する動作時間計測装置であって、
圧力検出手段と、
被験者の通過を検出する第1の通過検出手段、及び第2の通過検出手段と、
前記圧力検出手段、前記第1の通過検出手段、前記第2の通過検出手段からの出力信号を取得し前記複数の個別動作の所要時間を算出する制御手段とを備え、
前記圧力検出手段は、椅子の座面に載設され、
前記第1の通過検出手段は、前記椅子から前記椅子に対し所定距離離れた折り返しマーカまでの歩行路において、前記椅子から25cm以上65cm以下の長さ離間した第1の位置に配され、
前記第2の通過検出手段は、前記歩行路において、前記椅子と前記折り返しマーカとの中間点より前記椅子から遠く、前記折り返しマーカより前記椅子に近接した第2の位置に配される
動作時間計測装置。
【請求項2】
前記複数の個別動作は、被験者が椅子に着席した状態から立ち上がる立ち上がり動作、当該立ち上がり動作ののち前記歩行路における前記第1の位置から前記第2の位置までの区間を歩行する往路歩行動作、当該往路歩行動作ののち前記折り返しマーカの周りをターンするターン動作、当該ターン動作ののち前記歩行路における前記第2の位置から前記第1の位置までの区間を歩行する復路歩行動作、及び、当該復路歩行動作ののち前記椅子に着座する着座動作からなり、
前記制御手段は、前記圧力検出手段による圧力解除検出時刻から前記第1の通過検出手段による第1の通過検出時刻までの時間を前記立ち上がり動作の所要時間とし、
前記第1の通過検出時刻から、前記第2の通過検出手段による第2の通過検出時刻までの時間を前記往路歩行動作の所要時間とし、
前記第2の通過検出時刻から、前記第2の通過検出手段による第3の通過検出時刻までの時間を前記ターン動作の所要時間とし、
前記第3の通過検出時刻から、前記第1の通過検出手段による第4の通過検出時刻までの時間を前記復路歩行動作の所要時間とし、
前記第4の通過検出時刻から、前記圧力検出手段による圧力付勢検出時刻までの時間を前記着座動作の所要時間とする
請求項1に記載の動作時間計測装置。
【請求項3】
前記第2の通過検出手段が、被験者の通過を複数回検出したとき、
前記第2の通過検出時刻は、前記計測対象動作の中で、前記第2の通過検出手段が被験者の通過を最初に検出した時刻であり、
前記第3の通過検出時刻は、前記計測対象動作の中で、前記第2の通過検出手段が被験者の通過を検出した複数の時刻のうち、連続する2時刻の差分時間が最大である時刻の組み合わせにおける、後の時刻である
請求項2に記載の動作時間計測装置。
【請求項4】
前記第1の通過検出時刻は、前記圧力解除検出時刻の後、前記第1の通過検出手段が通過を最初に検出した時刻であり、
前記第4の通過検出時刻は、前記第3の通過検出時刻の後、前記第1の通過検出手段が通過を最後に検出した時刻である
請求項2に記載の動作時間計測装置。
【請求項5】
前記第1の通過検出時刻は、前記圧力解除検出時刻の後、前記第1の通過検出手段が通過を最初に検出した時刻であり、
前記第4の通過検出時刻は、前記第3の通過検出時刻の後、前記第1の通過検出手段が通過を最初に検出した時刻である
請求項2に記載の動作時間計測装置。
【請求項6】
前記第2の位置は、前記折り返しマーカより最大50cm以下の長さだけ前記椅子に近接しているである
請求項1から5の何れか1項に記載の動作時間計測装置。
【請求項7】
前記第1の通過検出手段、及び前記第2の通過検出手段は、被験者の下腿中間位置より高く、被験者の膝より低い身体部分の通過を検出可能な高さに配されている
請求項1から5の何れか1項に記載の動作時間計測装置。
【請求項8】
前記第1の通過検出手段、及び前記第2の通過検出手段は、被験者の体幹部分の通過を検出可能な高さに配されている
請求項1から5の何れか1項に記載の動作時間計測装置。
【請求項9】
前記第1の通過検出手段は、前記歩行路を跨いで配された一対の発光部と受光部を含む第1のゲート手段からなり、
前記第2の通過検出手段は、前記歩行路を跨いで配された一対の発光部と受光部を含む第2のゲート手段からなる
請求項1から5の何れか1項に記載の動作時間計測装置。
【請求項10】
前記受光部は、外鏡筒と内鏡筒を有し、
前記内鏡筒には一方の筒端近傍に配された光拡散シートと、前記光拡散シートから他端方向に所定距離離間して配された受光素子を備え、
前記発光素子から発せられた光は、前記外鏡筒を通して前記受光部に入光し、さらに、入光した光は前記光拡散シートによって前記内鏡筒内に拡散されたのち前記受光素子に入射される
請求項9に記載の動作時間計測装置。
【請求項11】
前記第2の通過検出手段は、
前記歩行路における往路に対応する部分を跨いで配された一対の発光部及び受光部を含む第3のゲート手段と、
前記歩行路における復路に対応する部分を跨いで配された別の一対の発光部及び受光部を含む第4のゲート手段からなる
請求項1から5の何れか1項に記載の動作時間計測装置。
【請求項12】
前記第1の通過検出手段及び/又は前記第2の通過検出手段は、発光部と、前記発光部に対し前記歩行路を挟んで相対し前記発光部から出射された光を反射する反射板と、前記反射板に対し前記歩行路を挟んで相対して前記発光部と同じ側に配された受光部とを含む
請求項1から5の何れか1項に記載の動作時間計測装置。
【請求項13】
前記制御手段は、前記複数の個別動作の所要時間の情報から選択される複数の情報を入力とする主成分分析に基づき、得られた主成分ごとに前記個別動作それぞれの所要時間に基づく変数を得点化した主成分スコアを算出し、当該主成分スコアを被験者の運動機能を示す指標として出力する
請求項1から5の何れか1項に記載の動作時間計測装置。
【請求項14】
前記指標は、歩行に関する運動機能を示す指標、筋力に関する運動機能を示す指標、又はバランス機能に関する運動機能を示す指標を含む
請求項13に記載の動作時間計測装置。
【請求項15】
前記複数の個別動作の所要時間の情報は、被験者に対し異なる条件において行われた複数回のTUGテストから得られた情報を含む
請求項13に記載の動作時間計測装置。
【請求項16】
Timed Up and Go(TUG)テストにおける、計測対象動作に含まれる複数の個別動作それぞれの所要時間を計測する動作時間計測方法であって、
前記複数の個別動作は、被験者が椅子に着席した状態から立ち上がる立ち上がり動作、当該立ち上がり動作ののち前記椅子から前記椅子に対し所定距離離れた折り返しマーカまでの歩行路における第1の位置から第2の位置までの区間を歩行する往路歩行動作、当該往路歩行動作ののち前記折り返しマーカの周りをターンするターン動作、当該ターン動作ののち前記歩行路における前記第2の位置から前記第1の位置までの区間を歩行する復路歩行動作、及び、当該復路歩行動作ののち前記椅子に着座する着座動作からなり、
被験者による前記椅子の座面に載設された圧力検出手段からの圧力解除を検出し、
前記歩行路において、前記椅子から25cm以上65cm以下の長さ離間した前記第1の位置に配された第1の通過検出手段と、前記歩行路において前記椅子と前記折り返しマーカとの中間点より前記椅子から遠く、前記折り返しマーカより前記椅子に近接した第2の位置に配された前記第2の通過検出手段により、被験者の通過を検出し、
被験者による前記圧力検出手段への圧力付勢を検出し、
前記圧力検出手段による圧力解除検出時刻から前記第1の通過検出手段による第1の通過検出時刻までの時間を前記立ち上がり動作の所要時間として算出し、
前記第1の通過検出時刻から、前記第2の通過検出手段による第2の通過検出時刻までの時間を前記往路歩行動作の所要時間として算出し、
前記第2の通過検出時刻から、前記第2の通過検出手段による第3の通過検出時刻までの時間を前記ターン動作の所要時間として算出し、
前記第3の通過検出時刻から、前記第1の通過検出手段による第4の通過検出時刻までの時間を前記復路歩行動作の所要時間として算出し、
前記第4の通過検出時刻から、前記圧力検出手段による圧力付勢検出時刻までの時間を前記着座動作の所要時間として算出する
動作時間計測方法。
【請求項17】
前記第2の通過検出手段が、被験者の通過を複数回検出したとき、
前記第2の通過検出時刻は、前記計測対象動作の中で、前記第2の通過検出手段が被験者の通過を最初に検出した時刻であり、
前記第3の通過検出時刻は、前記計測対象動作の中で、前記第2の通過検出手段が被験者の通過を検出した複数の時刻のうち、連続する2時刻の差分時間が最大である時刻の組み合わせにおける、後の時刻である
請求項16に記載の動作時間計測方法。
【請求項18】
前記第1の通過検出時刻は、前記圧力解除検出時刻の後、前記第1の通過検出手段が通過を最初に検出した時刻であり、
前記第4の通過検出時刻は、前記第3の通過検出時刻の後、前記第1の通過検出手段が通過を最初に検出した時刻である
請求項16に記載の動作時間計測方法。
【請求項19】
コンピュータに、Timed Up and Go(TUG)テストにおける、計測対象動作に含まれる複数の個別動作それぞれの所要時間を計測する動作時間計測処理を行わせるプログラムであって、
前記複数の個別動作は、被験者が椅子に着席した状態から立ち上がる立ち上がり動作、当該立ち上がり動作ののち前記椅子から前記椅子に対し所定距離離れた折り返しマーカまでの歩行路における第1の位置から第2の位置までの区間を歩行する往路歩行動作、当該往路歩行動作ののち前記折り返しマーカの周りをターンするターン動作、当該ターン動作ののち前記歩行路における前記第2の位置から前記第1の位置までの区間を歩行する復路歩行動作、及び、当該復路歩行動作ののち前記椅子に着座する着座動作からなり、
前記動作時間計測処理は、
被験者による前記椅子の座面に載設された圧力検出手段からの圧力解除を検出し、
前記歩行路において前記椅子から25cm以上65cm以下の長さ離間した前記第1の位置に配された第1の通過検出手段と、前記歩行路において前記椅子と前記折り返しマーカとの中間点より前記椅子から遠く、前記折り返しマーカより前記椅子に近接した前記第2の位置に配された第2の通過検出手段により、被験者の通過を検出し、
被験者による前記圧力検出手段への圧力付勢を検出し、
前記圧力検出手段による圧力解除検出時刻から前記第1の通過検出手段による第1の通過検出時刻までの時間を前記立ち上がり動作の所要時間として算出し、
前記第1の通過検出時刻から、前記第2の通過検出手段による第2の通過検出時刻までの時間を前記往路歩行動作の所要時間として算出し、
前記第2の通過検出時刻から、前記第2の通過検出手段による第3の通過検出時刻までの時間を前記ターン動作の所要時間として算出し、
前記第3の通過検出時刻から、前記第1の通過検出手段による第4の通過検出時刻までの時間を前記復路歩行動作の所要時間として算出し、
前記第4の通過検出時刻から、前記圧力検出手段による圧力付勢検出時刻までの時間を前記着座動作の所要時間として算出する
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被験者の運動能力を計測可能な動作時間計測装置に関し、特に、高齢者に対する介護予防事業や介護保険事業における運動機能判定、健康リスク判定、およびリハビリテーション効果判定のための、動作時間計測装置に関する。ここでいう健康リスクとは、骨折リスクを高める転倒、身体の虚弱状態を表すフレイル、筋肉の減少を表すサルコペニアなどである。
【背景技術】
【0002】
近年、行政機関や保健機関等において、高齢者に対する介護予防事業や介護保険に係る事業が行われ、高齢者の運動機能データが取得される。
【0003】
運動機能データの計測には、被験者の歩行能力や動的バランス、敏捷性といった総合的な運動能力を計測可能な試験方法として、Timed Up and Go(TUG)テスト(以下、「TUGテスト」と記す場合がある)が広く用いられている(例えば、非特許文献1)。
【0004】
TUGテストでは、図15に示すように、被験者Obに、椅子Chに座った状態から立ち上がり、所定距離前方の折り返しマーカMkに向かって歩行して折り返しマーカMkをターンした後、椅子Chまで戻り、方向変換して椅子Chに着座するという一連の動作を行わせ、計測者によって、一連の動作に要する時間が計測されたり、また、立ち上がり、往路歩行、ターン、復路歩行、着座からなる個別動作それぞれに要した時間T1~T5(個別動作時間)が計測される。
【0005】
また、近年、画像解析や光学的センシング技術を利用して個別動作の違いを峻別し、それぞれの動作時間の計測の自動化を図る技術が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-137226号公報
【特許文献2】特開2018-29706号公報
【特許文献3】特開2020-81413号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】"The Timed "Up & Go": A Test of Basic Functional Mobilitv for Frail Elderly Persons ",Diane Podsiadlo, in BScPT, and Sandra Richardson, in MD, Journal of American Geriafrics Society (JAGS) vol.39, 1991,P 142-148
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
行政機関や保健機関等における介護保険事業に用いられる運動機能データは、計測者や計測場所に依存しない客観的な基準に基づいて取得されたものであることが必要となる。
【0009】
ところが、TUGテストにおける個別動作時間の計測において、被験者がある動作から次の動作へ移行する際には、前後の動作には明確な区切りが存在しないために、動作間の境界の判定は曖昧となる。また、計測者が時計を用いて個別動作間を計測するという従来の計測方法では、個別動作間の切り替えのタイミングは、計測者の相対的な判断に依存する傾向があった。
【0010】
さらに、歩行動作等は被験者ごとの個別性が強く、被験者ごとに動作の切り替えタイミングが異なる傾向があるため、仮に、特許文献1~3に示した被験者の画像やセンサ出力を用いて動作境界を動作解析する手法を用いた場合でも、動作間の境界判定のばらつきが大きくデータの正確性が低下する場合があった。
【0011】
そのため、取得される運動機能データが、行政機関や保健機関等計測を行う機関、計測者や計測場所、被験者の特性によって変動し、健康リスクの判定精度に影響を与える場合があるという課題があった。
【0012】
また、介護保険に係る運動機能データの計測は行政機関や保健機関等において広く行われることから、簡易かつ安価な設備を用いて行なえる必要がある。
【0013】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、TUGテストによる運動機能データの計測において、個別動作時間の計測精度を高め、行政機関や保健機関等計測を行う機関、計測者や計測場所、被験者の特性等による計測結果の変動を抑制可能な、簡易かつ安価な動作時間計測装置及び動作時間計測方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本開示の一態様に係る動作時間計測装置は、Timed Up and Go(TUG)テストにおける計測対象動作に含まれる複数の個別動作それぞれの所要時間を計測する動作時間計測装置であって、圧力検出手段と、被験者の通過を検出する第1の通過検出手段、及び第2の通過検出手段と、前記圧力検出手段、前記第1の通過検出手段、前記第2の通過検出手段からの出力信号を取得し前記複数の個別動作の所要時間を算出する制御手段とを備え、前記圧力検出手段は、椅子の座面に載設され、前記第1の通過検出手段は、前記椅子から前記椅子に対し所定距離離れた折り返しマーカまでの歩行路において、前記椅子から25cm以上65cm以下の長さ離間した第1の位置に配され、前記第2の通過検出手段は、前記歩行路において、前記椅子と前記折り返しマーカとの中間点より前記椅子から遠く、前記折り返しマーカより前記椅子に近接した第2の位置に配されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本開示の一態様によれば、TUGテストによる運動機能データの計測において、個別動作時間の計測精度を高め、計測結果の変動を抑制可能な、簡易かつ安価な動作時間計測装置及び動作時間計測方法及びプログラムを提供することができる。
【0016】
これにより、TUGテストを構成する個別動作の相別化が可能となり運動機能データの信頼性が高められ、行政機関等における高齢者向けの介護保険に係る運動機能判定、介護予防事業の効果判定、健康リスク判定、又は、リハビリテーション効果判定などに有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の形態に係る動作時間計測装置10の構成を示す斜視図である。
図2】動作時間計測装置10の電気的構成を示す概略構成図である。
図3】(a)は、受光部2bの構成を示す斜視図、(b)は側断面図、(c)は受光部2bの別の態様を示す斜視図である。
図4】動作時間計測装置10により被験者の個別動作時間の計測方法を説明するための図である。
図5】動作時間計測装置10による動作時間計測処理のフローチャートである。
図6】(a)は、第2の通過検出手段において複数回(6回)の検出があった場合のターン動作中の検出位置、(b)は、動作時間計測における各回の検出と経過時間との関係、(c)は、ターン動作中に複数回の通過検出があったときの、連続する2つの通過検出時刻間の間隔(差分時間)の経時的変化の一例を示す図である。
図7】動作時間計測装置10において、図5のステップS100に示す検出動作の別の態様を示すフローチャートである。
図8図5のステップS100に示す検出動作の別の態様を示すフローチャートである。
図9】(a)は、被験者の後方に位置する介助者が被験者を介助する場合において複数回(8回)の検出があった場合の第1の通過検出手段における歩行動作の検出位置、(b)は、動作時間計測における各回の検出と経過時間との関係を示す図である。
図10】(a)は、動作時間計測装置10による計測結果に基づく立ち座り時間SSTと5回立ち座りテストとの散布図、(b)は、歩行時間WTと4m歩行テスト時間との散布図、(c)は、バランス時間BTと片足立ち時間との散布図である。
図11】動作時間計測装置10にて測定したT1~T5に対する主成分分析の結果を主成分1~3に関して示す3次元散布図である。
図12】動作時間計測装置10にて測定したT1~T5に対する主成分分析の結果を2次元で表した2次元散布図である。
図13】変形例に係る動作時間計測装置10Aの構成を示す斜視図である。
図14】変形例に係る動作時間計測システム100の概略構成図である。
図15】TUGテストにより被験者の個別動作時間を計測する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
≪本発明を実施するための形態の概要≫
本開示の実施の形態に係る動作時間計測装置は、
Timed Up and Go(TUG)テストにおける計測対象動作に含まれる複数の個別動作それぞれの所要時間を計測する動作時間計測装置であって、
圧力検出手段と、
被験者の通過を検出する第1の通過検出手段、及び第2の通過検出手段と、
前記圧力検出手段、前記第1の通過検出手段、前記第2の通過検出手段からの出力信号を取得し前記複数の個別動作の所要時間を算出する制御手段とを備え、
前記圧力検出手段は、椅子の座面に載設され、
前記第1の通過検出手段は、前記椅子から前記椅子に対し所定距離離れた折り返しマーカまでの歩行路において、前記椅子から25cm以上65cm以下の長さ離間した第1の位置に配され、
前記第2の通過検出手段は、前記歩行路において、前記椅子と前記折り返しマーカとの中間点より前記椅子から遠く、前記折り返しマーカより前記椅子に近接した第2の位置に配されることを特徴とする。
【0019】
係る構成により、歩行路に固定された第1及び第2の通過検出手段に基づいて動作間を区切る境界位置を固定し、計測にかかる各種要因によって変動しない絶対的な基準に基づいて動作間の境界を設定することができ、従来、行政機関等計測を行う機関、計測者や計測場所、被験者の特性等、計測にかかる各種要因によって、計測結果において動作間の境界が変動していたことを抑制することができる。また、これにより、立ち上がり動作時に、被験者の手の振りや膝の屈伸運動によって生じる下腿以下の動きを、被験者の通過として誤検出することを防止できる。
【0020】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記複数の個別動作は、被験者が椅子に着席した状態から立ち上がる立ち上がり動作、当該立ち上がり動作ののち前記歩行路における前記第1の位置から前記第2の位置までの区間を歩行する往路歩行動作、当該往路歩行動作ののち前記折り返しマーカの周りをターンするターン動作、当該ターン動作ののち前記歩行路における前記第2の位置から前記第1の位置までの区間を歩行する復路歩行動作、及び、当該復路歩行動作ののち前記椅子に着座する着座動作からなり、
前記制御手段は、前記圧力検出手段による圧力解除検出時刻から前記第1の通過検出手段による第1の通過検出時刻までの時間を前記立ち上がり動作の所要時間とし、
前記第1の通過検出時刻から、前記第2の通過検出手段による第2の通過検出時刻までの時間を前記往路歩行動作の所要時間とし、
前記第2の通過検出時刻から、前記第2の通過検出手段による第3の通過検出時刻までの時間を前記ターン動作の所要時間とし、
前記第3の通過検出時刻から、前記第1の通過検出手段による第4の通過検出時刻までの時間を前記復路歩行動作の所要時間とし、
前記第4の通過検出時刻から、前記圧力検出手段による圧力付勢検出時刻までの時間を前記着座動作の所要時間とする構成としてもよい。
【0021】
係る構成により、TUGテストを構成する個別動作の相別化が可能となり、個別動作時間の計測精度を高め、計測結果の変動を抑制可能な、簡易かつ安価な動作時間計測装置を提供することができる。併せて、TUGテストの一連の動作に要する時間の計測精度を向上できる。
【0022】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記第2の通過検出手段が、被験者の通過を複数回検出したとき、前記第2の通過検出時刻は、前記計測対象動作の中で、前記第2の通過検出手段が被験者の通過を最初に検出した時刻であり、前記第3の通過検出時刻は、前記第2の通過検出手段が被験者の通過を検出した複数の時刻のうち、連続する2時刻の差分時間が最大である時刻の組み合わせにおける、後の時刻である構成としてもよい。
【0023】
係る構成により、ターン動作の開始時と終了時の両方において第2の通過検出手段の複数回通過に伴う誤検出を抑制することが可能となる。これにより、運動能力が高い被験者から運動能力が著しく低い被験者まで全ての被験者に対し、ターン動作の開始時刻と終了時刻の誤検出を抑制できる。
【0024】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記第1の通過検出時刻は、前記圧力解除検出時刻の後、前記第1の通過検出手段が通過を最初に検出した時刻であり、前記第4の通過検出時刻は、前記第3の通過検出時刻の後、前記第1の通過検出手段が通過を最後に検出した時刻である
構成としてもよい。
【0025】
係る構成により、復路歩行動作P4時における第1の通過検出手段21の複数回通過に伴う誤検出を抑制することが可能となる。これにより、被験者Obの運動能力の高低にかかわらず、着座動作P5の開始時刻の誤検出を抑制できる。
【0026】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記第1の通過検出時刻は、前記圧力解除検出時刻の後、前記第1の通過検出手段が通過を最初に検出した時刻であり、前記第4の通過検出時刻は、前記第3の通過検出時刻の後、前記第1の通過検出手段が通過を最初に検出した時刻である構成としてもよい。
【0027】
係る構成により、高齢の被験者に対するTUGテストにおいて、背後に介助者を伴うときの被験者の通過検出が可能となる。そのため、測定中に介助者が高齢の被験者を背後からサポートすることが可能となり転倒事故を防止するとともに、正しい測定結果を取得することができる。
【0028】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記第2の位置は、前記折り返しマーカより最大50cm以下の長さ前記椅子に近接している構成としてもよい。
【0029】
係る構成により、被験者のターン動作はマーカよりも手前から開始されることに鑑み、椅子Chの位置X0から、ターン動作の開始時刻と終了時刻を、被験者による動作に即してより精度良く検出することができる。
【0030】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記第1の通過検出手段、及び前記第2の通過検出手段は、被験者の下腿中間位置より高く、膝より下の身体部分の通過を検出可能な高さに配されている構成としてもよい。
【0031】
係る構成により、被験者の下腿の動きを検出することができ、光センサを跨いでしまうことを防ぎ、また腕振りの動きの検出を抑制することでより正確に被験者の通過を検出することができる。
【0032】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記第1の通過検出手段、及び前記第2の通過検出手段は、被験者の体幹部分の通過を検出可能な高さに配されている構成としてもよい。
【0033】
係る構成により、光電管の遮光時間が下肢よりも相対的に長い、被験者の肩以下の主として体幹に該当する部分の通過を検出することで、より高い確度で被験者の通過を安定的に検出することができる。
【0034】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記第1の通過検出手段は、前記歩行路を跨いで配された一対の発光部と受光部を含む第1のゲート手段からなり、前記第2の通過検出手段は、前記歩行路を跨いで配された一対の発光部と受光部を含む第2のゲート手段からなる構成としてもよい。
【0035】
係る構成により、歩行路の所定の位置に固定され、計測にかかる各種要因によって変動しない絶対的な基準に基づいて、被験者が歩行路における所定の位置を通過したことを検出して、動作間の境界を設定することができる通過検出手段を実現できる。
【0036】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記受光部は、外鏡筒と内鏡筒を有し、前記内鏡筒には一方の筒端近傍に配された光拡散シートと、前記光拡散シートから他端方向に所定距離離間して配された受光素子を備え、前記発光素子から発せられた光は、前記外鏡筒を通して前記受光部に入光し、さらに、入光した光は前記光拡散シートによって前記内鏡筒内に拡散されたのち前記受光素子に入射される構成としてもよい。
【0037】
係る構成により、通過検出手段として、照明が多い計測環境で影響を受けにくい構造、衣服の色にかかわらず対象者の通過を感知可能な構成、及び、歩行速度が速い対象者の感知に遅れが生じることを抑制可能な構成を実現することができる。
【0038】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記第2の通過検出手段は、前記歩行路における往路に対応する部分を跨いで配された一対の発光部及び受光部を含む第3のゲート手段と、前記歩行路における復路に対応する部分を跨いで配された別の一対の発光部及び受光部を含む第4のゲート手段からなる構成としてもよい。
【0039】
係る構成により、対向する受光部と発光部をより近接された状態で、往路と復路における被験者の通過を異なるゲート手段によって独立に検出することができるために、それぞれにおける検出精度を向上することができる。このとき、受光部及び発光部は、歩行路のY方向の中央においてマーカの手前側に配されるために、被験者がターン動作を行う際に被験者の進路を妨げることはない。
【0040】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記第1の通過検出手段及び/又は前記第2の通過検出手段は、発光部と、前記発光部に対し前記歩行路を挟んで相対し前記発光部から出射された光を反射する反射板と、前記反射板に対し前記歩行路を挟んで相対して前記発光部と同じ側に配された受光部とを含む構成としてもよい。係る構成により、発光素子に赤外線発光素子を用いた構成としたときに、位置合わせを容易化あるいは簡略化できる。
【0041】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記制御手段は、前記複数の個別動作の所要時間の情報から選択される複数の情報を入力とする主成分分析に基づき、得られた主成分ごとに前記個別動作それぞれの所要時間に基づく変数を得点化した主成分スコアを算出し、当該主成分スコアを被験者の運動機能を示す指標として出力する構成としてもよい。このとき、前記指標は、歩行に関する運動機能を示す指標、筋力に関する運動機能を示す指標、又はバランス機能に関する運動機能を示す指標を含む構成としてもよい。
【0042】
係る構成により、測定された動作時間T1~T5の結果が、どのような運動機能を表す指標であるのかを、被験者の運動機能をわかりやすく伝達することができ、計測者及び被験者にとってTUGテストの利便性を向上することができる。
【0043】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記複数の個別動作の所要時間の情報は、被験者に対し異なる条件において行われた複数回のTUGテストから得られた情報を含む構成としてもよい。
【0044】
係る構成により、高齢者の運動機能を反映した数値をより効果的に算出することができ、被験者の運動能力や健康リスクをより正確に表示することができる。
【0045】
また、本開示の実施の形態に係る動作時間計測方法は、Timed Up and Go(TUG)テストにおける、計測対象動作に含まれる複数の個別動作それぞれの所要時間を計測する動作時間計測方法であって、前記複数の個別動作は、被験者が椅子に着席した状態から立ち上がる立ち上がり動作、当該立ち上がり動作ののち前記椅子から前記椅子に対し所定距離離れた折り返しマーカまでの歩行路における第1の位置から第2の位置までの区間を歩行する往路歩行動作、当該往路歩行動作ののち前記折り返しマーカの周りをターンするターン動作、当該ターン動作ののち前記歩行路における前記第2の位置から前記第1の位置までの区間を歩行する復路歩行動作、及び、当該復路歩行動作ののち前記椅子に着座する着座動作からなり、
被験者による前記椅子の座面に載設された圧力検出手段からの圧力解除を検出し、
前記歩行路において前記椅子から25cm以上65cm以下の長さ離間した前記第1の位置に配された第1の通過検出手段と、前記歩行路において前記椅子と前記折り返しマーカとの中間点より前記椅子から遠く、前記折り返しマーカより前記椅子に近接した前記第2の位置に配された第2の通過検出手段により、被験者の通過を検出し、
被験者による前記圧力検出手段への圧力付勢を検出し、
前記圧力検出手段による圧力解除検出時刻から前記第1の通過検出手段による第1の通過検出時刻までの時間を前記立ち上がり動作の所要時間として算出し、
前記第1の通過検出時刻から、前記第2の通過検出手段による第2の通過検出時刻までの時間を前記往路歩行動作の所要時間として算出し、
前記第2の通過検出時刻から、前記第2の通過検出手段による第3の通過検出時刻までの時間を前記ターン動作の所要時間として算出し、
前記第3の通過検出時刻から、前記第1の通過検出手段による第4の通過検出時刻までの時間を前記復路歩行動作の所要時間として算出し、
前記第4の通過検出時刻から、前記圧力検出手段による圧力付勢検出時刻までの時間を前記着座動作の所要時間として算出する構成としてもよい。
【0046】
係る構成により、個別動作時間の計測精度を高め、計測結果の変動を抑制可能な、簡易かつ安価な動作時間計測方法を提供することができる。
【0047】
また、動作時間計測方法に係る別の態様では、上記の何れかの態様において、前記第2の通過検出手段が、被験者の通過を複数回検出したとき、
前記第2の通過検出時刻は、前記計測対象動作の中で、前記第2の通過検出手段が被験者の通過を最初に検出した時刻であり、
前記第3の通過検出時刻は、前記計測対象動作の中で、前記第2の通過検出手段が被験者の通過を検出した複数の時刻のうち、連続する2時刻の差分時間が最大である時刻の組み合わせにおける、後の時刻である構成としてもよい。
【0048】
係る構成により、ターン動作の開始時と終了時の両方において第2の通過検出手段の複数回通過に伴う誤検出を抑制し、ターン動作の開始時刻と終了時刻の誤検出を抑制できる。
【0049】
また、動作時間計測方法に係る別の態様では、上記の何れかの態様において、前記第1の通過検出時刻は、前記圧力解除検出時刻の後、前記第1の通過検出手段が通過を最初に検出した時刻であり、
前記第4の通過検出時刻は、前記第3の通過検出時刻の後、前記第1の通過検出手段が通過を最初に検出した時刻である構成としてもよい。
【0050】
係る構成により、背後に介助者を伴うときの被験者の通過検出を可能とし、被験者を近位にて見守ることにより高齢の被験者の転倒事故を防止するとともに、介助者を伴う場合に正しい測定結果を取得することができる。
【0051】
また、本開示の実施の形態に係るプログラムは、コンピュータに、Timed Up and Go(TUG)テストにおける、計測対象動作に含まれる複数の個別動作それぞれの所要時間を計測する動作時間計測処理を行わせるプログラムであって、前記複数の個別動作は、被験者が椅子に着席した状態から立ち上がる立ち上がり動作、当該立ち上がり動作ののち前記椅子から前記椅子に対し所定距離離れた折り返しマーカまでの歩行路における第1の位置から第2の位置までの区間を歩行する往路歩行動作、当該往路歩行動作ののち前記折り返しマーカの周りをターンするターン動作、当該ターン動作ののち前記歩行路における前記第2の位置から前記第1の位置までの区間を歩行する復路歩行動作、及び、当該復路歩行動作ののち前記椅子に着座する着座動作からなり、
前記動作時間計測処理は、
被験者による前記椅子の座面に載設された圧力検出手段からの圧力解除を検出し、
前記歩行路において前記椅子から25cm以上65cm以下の長さ離間した前記第1の位置に配された第1の通過検出手段と、前記歩行路において前記椅子と前記折り返しマーカとの中間点より前記椅子から遠く、前記折り返しマーカより前記椅子に近接した前記第2の位置に配された第2の通過検出手段により、被験者の通過を検出し、
被験者による前記圧力検出手段への圧力付勢を検出し、
前記圧力検出手段による圧力解除検出時刻から前記第1の通過検出手段による第1の通過検出時刻までの時間を前記立ち上がり動作の所要時間として算出し、
前記第1の通過検出時刻から、前記第2の通過検出手段による第2の通過検出時刻までの時間を前記往路歩行動作の所要時間として算出し、
前記第2の通過検出時刻から、前記第2の通過検出手段による第3の通過検出時刻までの時間を前記ターン動作の所要時間として算出し、
前記第3の通過検出時刻から、前記第1の通過検出手段による第4の通過検出時刻までの時間を前記復路歩行動作の所要時間として算出し、
前記第4の通過検出時刻から、前記圧力検出手段による圧力付勢検出時刻までの時間を前記着座動作の所要時間として算出する構成としてもよい。
【0052】
係る構成により、個別動作時間の計測精度を高め、計測結果の変動を抑制可能な、簡易かつ安価な動作時間計測処理のプログラムを提供することができる。
【0053】
≪実施の形態≫
本実施の形態に係る動作時間計測装置について、図面を用いて説明する。なお、図面は模式図であって、その縮尺は実際とは異なる場合がある。また、以下の説明は、本開示の一態様に係る構成及び作用・効果を説明するための例示であって、本開示の本質的部分以外は以下の形態に限定されない。また、以下の説明を含め、本明細書、特許請求の範囲における上下とは相対的な位置関係を示すものであり、図面において紙面上方向を「上」方向、紙面下方向を「下」方向とする。しかしながら、必ずしも絶対的な(鉛直方向における)上下の位置関係とは一致しない。また、本明細書、特許請求の範囲において、数値範囲を示す際に用いる符号「~」は、その両端の数値を含む。
【0054】
<動作時間計測装置10を全体構成>
動作時間計測装置10(以下、「計測装置10」とする)は、Timed Up and Go(TUG)テストにおける計測対象動作に含まれる複数の個別動作それぞれの所要時間や、一連の動作に要する時間を計測する装置であって、行政機関や保健機関等において、高齢者に対する介護保険における運動機能判定、健康リスク判定、およびリハビリテーション効果判定において、高齢者の運動機能データを取得するために用いられる。
【0055】
図1は、実施の形態に係る計測装置10の構成を示す斜視図であって、TUGテストに用いられるときの計測装置10の態様を示した図である。図2は、計測装置10の電気的構成を示す概略構成図である。
【0056】
TUGテストでは、上述のとおり、被験者Obに、椅子Chに座った状態から立ち上がり、規定された距離(例えば、3m)前方の床面に載設された折り返しマーカ3に向かって歩行して折り返しマーカ3の周りをターンした後、椅子Chまで戻り、方向変換して椅子Chに着座するという一連の動作が行われる。なお、ターン動作P3における被験者Obの回転方向は、本例では、図1の平面視において時計回りとしたが、反時計回りであってもよい。
【0057】
計測装置10によれば、被験者Obによる、立ち上がり動作P1、往路歩行動作P2、ターン動作P3、復路歩行動作P4、着座動作P5からなる個別動作それぞれに要した時間T1~T5(個別動作時間)を自動的に計測することができる。
【0058】
計測装置10は、圧力検出手段1と、被験者Obの通過を検出する通過検出手段2、制御手段4とを構成要素として含む計測装置キットとして行政機関や保健機関等におけるTUGテストの計測現場に供給される。さらに、計測装置10は、折り返しマーカ3を構成要素として含んでいてもよい。
【0059】
計測現場において、計測装置10の構成要素、すなわち、圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、及び第2の通過検出手段22が図1に示す態様に配置され、制御手段4にそれぞれが配線1w、21w、22wによって接続されることにより、個別動作時間を計測可能な装置が構成される。
【0060】
<各部構成>
以下、計測装置10を構成する各構成要素について説明する。
【0061】
(圧力検出手段1)
圧力検出手段1は、椅子Chの座面に載設されて用いられ、被験者Obにより座面に付勢される圧力を検出するための圧力センサであり、例えば、圧電効果式、静電容量変化式、又は抵抗膜式を利用したフィルム型圧力センサシートを利用することができる。
【0062】
圧力検出手段1は、図2に示すように、通信部1cを備え、検出された圧力に応じた電気信号を制御手段4に出力する。
【0063】
圧力検出手段1からの電気信号の変化に基づいて、制御手段4は、被験者Obによる座面への圧力が解除された時刻を立ち上がり動作P1の開始時刻として検出し、被験者Obにより座面への圧力が付勢された時刻を着座P5の終了時刻として検出する。
【0064】
(通過検出手段2)
通過検出手段2は、被験者Obの通過を検出する、例えば、レーザーセンサなどを含む光電式の通過センサであり、例えば、透過型センサを用いることができる。
【0065】
通過検出手段2は、椅子Chから規定された距離(例えば、3m)前方(図1におけるX方向)に配された折り返しマーカ3までの歩行路Ptにおいて、椅子Chに近い側に配された通過検出手段21と、折り返しマーカ3に近い側に配された通過検出手段22とから構成される。
【0066】
通過検出手段21、22は、図2に示すように、それぞれ通信部21c、22cを備え、検出された光の強度に応じた電気信号を制御手段4に出力する。
【0067】
被験者Obの往路歩行時における通過検出手段21からの電気信号の変化に基づいて、制御手段4は、被験者Obによる立ち上がり動作P1の終了時刻を検出し、復路歩行時における通過検出手段21からの電気信号の変化に基づいて着座動作P5の開始時刻を検出する。
【0068】
また、被験者Obの往路歩行時における通過検出手段22からの電気信号の変化に基づいて、制御手段4は、被験者Obによるターン動作P3の開始時刻を検出し、復路歩行時における通過検出手段22からの電気信号の変化に基づいて被験者Obによるターン動作P3の終了時刻を検出する。
【0069】
ここで、通過検出手段21は、椅子Chの位置X0からマーカ3の位置X3に至る線分X0-X3上において、椅子Chの位置X0から第1の距離x1だけ離間した第1の位置X1に配される。第1の距離x1は、25cm以上65cm以下、より好ましくは、35cm以上55cm以下であることが好ましい。これにより、立ち上がり動作P1時に、被験者Obの手の振りや膝の屈伸運動によって生じる下腿以下の動きを、被験者Obの通過として誤検出することを防止できる。
【0070】
また、通過検出手段22は、線分X0-X3上において、椅子Chの位置X0から第2の距離x2だけ離間した第2の位置X2に配される。第2の位置X2は、線分X0-X3上において、椅子Chの位置X0と、椅子Chの位置X0から距離x3だけ離間した折り返しマーカ3の位置X3との中間点より椅子Chから遠く、折り返しマーカ3の位置X3より椅子Chに近接している。すなわち、第2の距離x2は式1により規定される範囲となる。
【0071】
【数1】
ここで、第2の距離x2は、第1の距離x1よりも長く、かつ、距離x3より、最大50cm以下の長さだけ短いことが好ましい。発明者の検討によれば、被験者Obのターン動作P3はマーカ3よりも手前から開始されることが判明しており、第2の距離x2を上記の長さとすることにより、ターン動作P3の開始時刻と終了時刻を、被験者Obによる動作に即してより精度良く検出することができる。
【0072】
さらに、第2の距離x2は、距離x3より10cm以上短い構成とすることで、被験者Obのターン動作P3開始位置から位置X3までの動作をターン動作P3に含めることができるためにより一層好ましい。
【0073】
計測装置10では、通過検出手段21、22を、歩行路Ptに沿った線分X0-X3上における所定の位置X1、X2に設置するために、取扱説明書や計測仕様書などに椅子Ch、通過検出手段21、22、折り返しマーカ3を設置すべき位置X1、位置X2、位置X3を明記し、計測者は説明書の記載に基づいて通過検出手段21、22、椅子Ch、折り返しマーカ3を設置することが可能な構成とすることが好ましい。
【0074】
あるいは、計測装置10のキットに、位置X0を基準として、位置X1、位置X2、位置X3までの長さx1、x2、x3を簡易に計測可能な専用のメジャーを付属品として含めてもよい。
【0075】
あるいは、計測装置10のキットに、位置X0、位置X1、位置X2、位置X3が実寸大のサイズで印刷され、床面に敷設してTUGテストを行うことが可能な専用のシートを含めてもよい。
【0076】
このとき、椅子Ch、折り返しマーカ3の設置場所の表示に加えて、通過検出手段21、22の設置場所を表示した専用のシートを用いることで、設置時における発光部21aと受光部21bとの位置合わせが容易になり、発光部21aと受光部21bの設置に要する時間を短縮することができる。また、このとき、シート上の表示を高齢者の動作特性を考慮に入れたレイアウトとすることで、高齢者が通常動作しない範囲を排して装置の省スペース化が可能となる。
【0077】
また、通過検出手段21、22は、被験者Obの下腿の中間位置から膝より低い身体部分の通過を検出可能な高さに配されている。例えば、床面から5cm以上50cm以下の高さに配されていてもよい。これにより、被験者Obの下腿の動きを検出することができ、光センサを跨いでしまうことを防ぎ、また腕振りの動きの検出を抑制することで、より正確に被験者Obの通過を検出することができる。
【0078】
あるいは、第1の通過検出手段21、及び第2の通過検出手段22は、被験者Obの体幹部分の通過を検出可能な高さに配されている構成としてもよい。これにより、光電管の遮光時間が下肢よりも相対的に長い、被験者の肩以下の主として体幹に該当する部分の通過を検出することで、より高い確度で被験者の通過を安定的に検出することができる。
【0079】
次に、通過検出手段2の構造について説明する。通過検出手段21は、本例では、図1に示すように、歩行路Ptを跨いで配された一対の発光部21aと受光部21bを含む透過型センサからなる第1のゲート手段からなる。ここで、第1のゲート手段は、歩行路Ptを挟んで、発光部と受光部を含む投受光器と反射板とが相対する回帰反射型の光電式の通過センサを用いてもよい。
【0080】
また、通過検出手段22は、歩行路Ptを跨いで配された一対の発光部22aと受光部22bを含む透過型センサからなる第2のゲート手段からなる。第2のゲート手段にも、回帰反射型の光電式の通過センサを用いることができる。
【0081】
ここで、「ゲート手段」とは、歩行路Ptの所定の位置に固定された手段であって、被験者Obが歩行路Ptにおける所定の位置を通過したことを検出可能な手段を指す。ゲート手段は、光学的、電気的、磁気的、機械的手段を含む。
【0082】
計測装置10では、第1及び第2のゲート手段を採用したことにより、歩行路Ptの所定の位置に固定され、行政機関等計測を行う機関、計測者や計測場所、被験者Obの特性等、計測結果に影響を与える各種要因によって変動しない絶対的な基準に基づいて、被験者Obが歩行路Ptにおける所定の位置を通過したことを検出して、個別動作P1~P5間の境界を設定することができる。
【0083】
また、本明細書では、発光部21a、22aをまとめて発光部2aと、受光部21b、22bをまとめて受光部2bと記す場合がある。
【0084】
発光部2aは、例えば、可視光赤色半導体レーザー、その他の発光素子を用いることができる。
【0085】
受光部2bには、発光部2aから発せられた波長の光を検知可能な受光素子、光電管を用いることができる。
【0086】
図3(a)は、受光部2bの構成を示す斜視図、(b)は側断面図、(c)は受光部2bの別の態様を示す斜視図である。図3(a)に示すように、受光部2bは外鏡筒2b1と筐体2b2を備え、発光部2aから発せられた光LDが外鏡筒2b1を通して筐体2b2に入光される構成を採る。外鏡筒2b1は筐体2b2の側壁から延伸するように配されており、外鏡筒2b1の側壁から突出する部分の筒長L0は、一例として、6~10cmとしてもよい。
【0087】
図3(b)に示すように、受光部2bには筐体2b2の内方に内鏡筒2b3、内鏡筒2b3の一方の筒端近傍に配された光拡散シート2b4と、光拡散シート2b4の後方で、すなわち、光拡散シート2b4から他端方向に所定距離離間して配された受光素子2b5を備える。当該構成により、外鏡筒2b1の一端から筐体2b2に入光した光LDは、光拡散シート2b4によって内鏡筒2b3に拡散されたのち受光素子2b5に入射される。
【0088】
ここで、光拡散シート2b4には、透光性樹脂材料に光反射性の粒子が分散された材料からなるシート、ガラス、紙等を用いることができる。
【0089】
仮に、発光部2aに赤外線発光素子、受光部2bに赤外線センサを用いた場合には、1)商業施設などの照明が多い計測環境の場合、対象者の通過を感知しないときがある、2)対象者の衣服が黒などの反射率が低い色の場合、対象者の通過を感知しない場合がある、3)赤外線センサの特性上(温度変化)、歩行などの計測において感知に遅れが生じる場合があるなどの課題が生じることがあった。
【0090】
これに対し、通過検出手段2によれば、発光部2aに、発光素子に直進性の高い可視光赤色半導体レーザーを用いるとともに、受光部2bに上記構成を採用したことにより、外鏡筒2b1と内鏡筒2b3からなる二重構造によって外光の侵入を防ぐとともに、光拡散シート2b4によって鏡筒2b3に入光した直進性のある光LDを拡散させることで受光素子2b5の信号光に対する感度を向上することができる。
【0091】
これにより、A)照明が多い計測環境で影響を受けにくい構造、B)衣服の色にかかわらず対象者の通過を感知可能な構成、及び、C)歩行速度が速い対象者の感知に遅れが生じることを抑制可能な構成、を実現することができる。
【0092】
さらに、図3(c)に示すように、受光部2bは、光LDが入光する外鏡筒2b1の開口2b1aを覆うように庇2b11を備えて構成されていてもよい。庇2b11は、例えば、外鏡筒2b1が配設された筐体2b2の側壁の外縁付近の上半分90から、光が入光する方向に、外鏡筒2b1の開口2baを基準として所定の長さL1だけ延伸した、サンバイザーの様な形状であってもよい。このとき、庇2b11の長さL1は、鉛直方向の開口2b1aの長さに対し、例えば、0.5倍以上3倍以下としてもよい。本例では、庇の長さL1は、一例として、5~10cmとした。これにより、受光部2bに、例えば、照明など上方からの外光の侵入を抑制し、受光素子2b5の信号光に対する感度を向上することができる。その結果、計測の安定性を向上することができる。また、庇2b11により上方からの外光の侵入を抑制できるため、庇2b11を設けた場合には、外鏡筒2b1の筒長L0は上記した6~10cmより短縮してもよい。
【0093】
(折り返しマーカ3)
折り返しマーカ3には、三角コーンなどのコーンを用いることができる。折り返しマーカ3は、計測装置10の任意的な構成要素であって、市販のコーンなどを別途準備してTUGテストを行ってもよい。
【0094】
(制御手段4)
制御手段4は、圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、第2の通過検出手段22と配線1w、21w、22wによって電気的に接続され、圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、第2の通過検出手段22からの出力信号を取得し、TUGテストにおける複数の個別動作時間T1~T5を算出する回路である。
【0095】
制御手段4は、図2に示すように、通信部41、データ記憶部42、制御部43、表示部44、操作入力部45を有し、制御部43を構成するCPU(Central Processing Unit)がプログラム43pを実行することにより計測装置10の機能を実現する。さらに、音信号を発するスピーカ手段46を備えていてもよい。
【0096】
通信部41は、圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、第2の通過検出手段22の通信部1c、21c、22cに有線接続され、圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、第2の通過検出手段22から発せられる出力信号を取得するインターフェイス回路である。あるいは、通信部1c、21c、22cと通信部41とは、IEEE802.11規格などによる無線LAN(Local Area Network)やBluetooth(登録商標)通信などの近距離無線通信規格によって接続される構成であってもよい。
【0097】
データ記憶部42は、通信部41によって取得された出力信号が送信されて記憶される。また、制御部43により算出された個別動作時間T1~T5が記憶される。また、本実施の形態に係る動作時間計測方法を実行させるために必要なプログラムなどを記憶している他、制御部43の計算結果を一時的に格納する一時記憶領域としての機能を有する。データ記憶部42は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリ、及び、例えばハードディスクなどの不揮発性メモリを含んで構成される。
【0098】
表示部44は、例えば液晶パネル、有機ELディスプレイなどの表示装置であり、制御部43の生成した表示画面を表示する。
【0099】
操作入力部45は、操作者である検査員が本実施の形態に係る動作時間計測方法を操作するための入力を行う入力装置である。例えば、表示部44の前面にタッチセンサを配したタッチパネル、マウス、キーボードなどの入力装置として実現される。
【0100】
制御部43は、CPUとデータ記憶部42からプログラム43pを読み出して実行することにより、動作時間計測装置10の機能を実現する。
【0101】
<動作について>
以下、制御手段4による動作時間計測装置10における個別動作時間計測処理について説明する。
【0102】
図4は、計測装置10により被験者Obの個別動作時間の計測方法に係る処理を説明するための図である。図5は、計測装置10による動作時間計測処理のフローチャートである。
【0103】
(被験者の動作時刻の検出処理)
先ず、図5のステップのS100に示す動作時刻の検出処理、すなわち、圧力解除検出時刻、第1~第4の通過検出時刻、及び圧力付勢検出時刻の検出動作について説明する。
図5において、制御手段4は、先ず、圧力検出手段1から発せられる電気信号の変化に基づいて、被験者Obによる座面への圧力が解除された時刻を立ち上がり動作P1の開始時刻として検出する(ステップS1)。
【0104】
次に、被験者Obの往路歩行時における通過検出手段21から発せられる電気信号の変化に基づいて、第1の通過検出手段21による最初の通過検出時刻を第1の通過検出時刻として検出し(ステップS2)、被験者Obによる立ち上がり動作P1の終了時刻とする。この立ち上がり動作P1の終了時刻は、往路歩行動作P2の開始時刻となる。
【0105】
次に、被験者Obの往路歩行時における通過検出手段22から発せられる電気信号の変化に基づいて、第2の通過検出手段22による最初の通過検出時刻を第2の通過検出時刻として検出し(ステップS3)、被験者Obによるターン動作P3の開始時刻とする。このターン動作P3の開始時刻は、往路歩行動作P2の終了時刻となる。
【0106】
次に、復路歩行時における第2の通過検出手段22から発せられる電気信号の変化に基づいて、第2の通過検出手段22による連続する2つの通過検出時刻間の最大間隔(最大時間差分)の終了時刻を第3の通過検出時刻として検出し(ステップS4)、被験者Obによるターン動作P3の終了時刻とする。このターン動作P3の終了時刻は、復路歩行動作P4の開始時刻となる。ステップS4におけるターン動作P3の終了時刻の検出方法の詳細については後述する。
【0107】
次に、復路歩行時における通過検出手段21から発せられる電気信号の変化に基づいて、第1の通過検出手段21による最後の通過検出時刻を第4の通過検出時刻として検出し(ステップS5)、着座動作P5の開始時刻とする。この着座動作P5の開始時刻は、復路歩行動作P4の終了時刻となる。
【0108】
次に、圧力検出手段1から発せられる電気信号の変化に基づいて、被験者Obにより座面への圧力が付勢された時刻を着座動作P5の終了時刻として検出する(ステップS6)。
【0109】
以上のステップS1~S6において、通信部41によって取得された出力信号、検出された個別動作P1~P5の開始時刻及び終了時刻はデータ記憶部42に出力されて記憶される。
【0110】
(ターン動作における通過検出処理)
次に、ターン動作P3の開始及び終了時刻の検出方法について説明する。発明者らの実験によれば、ステップS3、S4の動作において、被験者Obは第2の通過検出手段22を複数回横切る場合がある。この場合、すなわち、第2の通過検出手段22が複数回、被験者Obの通過を検出した場合には、何れの検出がターン動作の開始とターン動作の終了に相当するかを判別することが難しいという課題があった。
【0111】
これに対し、例えば、ステップS3における第2の通過検出手段22の検出から所定時間の無反応時間(delay時間)を設定して、被験者Obの往路歩行における複数回の第2の通過検出手段22の通過をカウントしない構成とするという対策が考えられる。
【0112】
しかしながら、この場合も、運動機能が高い被験者Obが無反応時間内にターン動作を終了し、第2の通過検出手段22によって復路歩行時の通過を検出できない場合がある。また、疾患を患っていたり、運動機能が著しく低い被験者Obの場合には、無反応時間後に再度、往路歩行において第2の通過検出手段22を通過する可能性があり、無反応時間(delay時間)を設定する方法では、これらの場合に誤検出が生じることがあった。
【0113】
これに対し、計測装置10では、ターン動作の開始の検出には第2の通過検出手段22の最初の通過検出を採用し、ステップS3において第2の通過検出手段22による最初の通過検出時刻を第2の通過検出時刻として検出した。ターン動作の終了の検出は、ターン動作が最も時間を要しているとの発明者の知見に基づき、ステップS4において第2の通過検出手段22による連続する2つの通過検出時刻間の最大間隔(最大時間差分)の終了時刻を第3の通過検出時刻として検出するという構成を採ることにより、ターン動作P3の開始時と終了時の両方において第2の通過検出手段22の複数回通過に伴う誤検出を抑制することが可能となる。
【0114】
図6は、誤検出に関する説明図であって、ターン動作P3のターンがうまくできないために、第2の通過検出手段22で何度も通過を検出した場合の例であり、(a)は、歩行速度が遅い場合の検出結果の一例であって、第2の通過検出手段において複数回(6回)の入力があった場合のターン動作中の検出位置を示す図、(b)は、動作時間計測における各回の検出と経過時間との関係を示す図である。
【0115】
図6(a)の例では、第2の通過検出手段22は、位置a、b、c、dにおいて被験者のターン動作の開始時付近での通過を検出し、位置e、fにおいて被験者のターン動作の終了時付近での通過を検出する。この場合、上述のステップS3において、図6(a)に実線で示した位置aにおける通過検出に対応する最初の通過検出時刻を第2の通過検出時刻とすると、位置b、c、d、e、fにおける通過検出に対応する5つの時刻のうち何れの時刻が第3の通過検出時刻に該当するかを判定することが必要となる。図6(a)では、正規の通過検出である位置a、eにおける検出位置を実線で示し、誤検出である位置b、c、d、fにおける検出位置を破線で示している。以下、正規の通過検出と誤検出とを判別する方法について説明する。
【0116】
例えば、ステップS3において、第2の通過検出手段22による最初の通過検出時刻を第2の通過検出時刻として検出したあと、被験者Obの動きが遅い場合、無反応時間Tdelayを超え、その場で何度も第2の通過検出手段22により被験者Obの通過が検出される。
【0117】
ここで仮に、ステップS3による被験者の検出(検出3)より後に、ステップS4の処理により被験者Obの通過が3回検出され(検出4-6)、さらにステップS4の処理により正規の被験者Obの通過と認定される検出がなされ(検出7)、その後に、さらに1回被験者Obの通過が検出(検出8)された場合を想定する。
【0118】
この場合、ステップS3の検出を含め、検出3-8の6回の検出が行われるため、検出と検出の間の時間間隔(差分時間)を算出することにより正規の検出と誤検出とを判別する。
【0119】
図6(c)は、ターン動作中に複数回の通過検出があったときの連続する2つの通過検出時刻間の間隔(差分時間)の経時的変化の一例を示す図である。
【0120】
図6(c)において、差分時間(1)は検出3と検出4との間の時間間隔、差分時間(2)は検出4と検出5との間の時間間隔、差分時間(3)は検出5と検出6との間の時間間隔、差分時間(4)は検出6と検出7との間の時間間隔、差分時間(5)は検出7と検出8との間の時間間隔をそれぞれ表す。
【0121】
図6(c)に示す例では、検出6と検出7との間の差分時間(4)が、他の差分時間(1)(2)(3)(5)に比べて顕著に長いことが見て取れる。図6のような信号配列を呈する被験者Obは、歩行速度が非常に遅い被験者Obである。このような運動能力が低い被験者Obにおいて通過検出が連続して何度も行われる場合には、概ね無反応時間Tdelay超過直後に通過検出が行われる傾向がある。
【0122】
このことから、検出4-6、検出8は、無反応時間Tdelay直後に検出されたデータであり、歩行速度が非常に遅い被験者Obが連続して何度も第2の通過検出手段22を横切ったものと推定される。
【0123】
他方、差分時間(4)では、相対的に長い時間間隔が検出されているので、差分時間(4)の終了時刻に相当する検出7は、歩行速度が非常に遅い被験者Obが連続して何度も第2の通過検出手段22を横切ったことに起因するものでは無く、被験者Obがターン動作P3を行った後の復路歩行時に第2の通過検出手段22を正規に通過したことによるものと推定することができる。
【0124】
そのため、図6(c)に示す例では、相対的に短い差分時間(1)(2)(3)(5)の終了時刻に当たる検出4、5、6、8は誤検出であるため計測データには用いず、相対的に長い差分時間(4)の終了時刻に当たる検出7は、ターン動作P3を行った後の第2の通過検出手段22を正規に通過したことを検出したものであるため、相対的に長い差分時間(4)の終了時刻(検出7)をターン動作P3の終了時刻とする。
【0125】
これより、図6(b)における検出4、5、6、8は、誤検出である図6(a)の位置b、c、d、fにおける検出と判定することができ、図6(b)の検出3、7は、正規の検出である図6(a)の位置a、eにおける検出と判定することができる。
【0126】
以上のことから、計測装置10では、ステップS4において第2の通過検出手段22による連続する2つの通過検出時刻間の最大間隔(最大時間差分)の終了時刻を第3の通過検出時刻として検出することにより、ターン動作P3の終了時における第2の通過検出手段22の複数回通過に伴う誤検出を抑制することが可能となる。
【0127】
これにより、運動能力が高く、例えば、小走りのような動きをする被験者Obから、運動能力が著しく低く摺り足のような状態で歩行速度が遅い被験者Obまで全ての被験者Obに対し、歩行速度に依存することなくターン動作P3の開始時刻と終了時刻の誤検出を抑制できる。
【0128】
また、計測装置10では、ステップS2において第1の通過検出手段21による最初の通過検出時刻を第1の通過検出時刻として検出し、0.1~10.0秒の無反応時間(delay時間)を設定するという構成を採ることにより、往路歩行動作P2時における第1の通過検出手段21の複数回通過に伴う誤検出を抑制することが可能となる。これにより、被験者Obの運動能力の高低にかかわらず、立ち上がり動作P1の終了時刻の誤検出を抑制できる。
【0129】
同様に、計測装置10では、ステップS5において第1の通過検出手段21による最初の通過検出の後に無反応時間(delay時間)後、最後の通過検出時刻を第4の通過検出時刻として検出するという構成を採ることにより、復路歩行動作P4時における第1の通過検出手段21の複数回通過に伴う誤検出を抑制することが可能となる。これにより、被験者Obの運動能力の高低にかかわらず、着座動作P5の開始時刻の誤検出を抑制できる。
【0130】
(動作時間T1~T5の算出処理)
次に、制御手段4では、データ記憶部42から個別動作P1~P5の開始時刻及び終了時刻に関する情報が読み出されて、動作時間T1~T5が算出される。
【0131】
先ず、圧力検出手段1による圧力解除検出時刻から第1の通過検出手段21による第1の通過検出時刻までの時間T1を立ち上がり動作P1の所要時間として算出する(ステップS7)。立ち上がり動作時間T1により被験者Obの下肢筋力を評価することができる。
【0132】
次に、第1の通過検出時刻から、第2の通過検出手段22による第2の通過検出時刻までの時間T2を往路歩行動作P2の所要時間として算出する(ステップS8)。
【0133】
次に、第2の通過検出時刻から、第2の通過検出手段22による第3の通過検出時刻までの時間T3をターン動作P3の所要時間として算出する(ステップS9)。
【0134】
次に、第3の通過検出時刻から、第1の通過検出手段21による第4の通過検出時刻までの時間T4を復路歩行動作P4の所要時間として算出する(ステップS10)。
【0135】
次に、第4の通過検出時刻から、圧力検出手段1による圧力付勢検出時刻までの時間T5を着座動作P5の所要時間として算出する(ステップS11)。
【0136】
(評価パラメータの算出処理)
次に、式2~式6に示す評価パラメータを算出する(ステップS12)。
【0137】
【数2】
歩行時間(Walking Time)を示すWTにより被験者Obの歩行能力を評価してもよい。
【0138】
【数3】
また、立ち座り時間(Sitting and Standing Time)を示すSSTにより被験者Obの脚力を評価してもよい。
【0139】
【数4】
また、バランス時間(Balance Time)を示すBTにより被験者Obのバランスを保つ能力を評価してもよい。
【0140】
【数5】
Fall Indexを示すFLIにより被験者Obの転倒リスクを評価してもよい。
【0141】
【数6】
Frail Indexを示すFRIにより被験者Obの身体的虚弱を評価してもよい。
【0142】
以上のステップS7~S12において、算出された個別動作時間T1~T5はデータ記憶部42に出力されて記憶される。このとき、椅子Chを基準に、通過検出手段21、22、折り返しマーカ3が設置された位置X1、位置X2、位置X3、あるいは、距離x1、x2、x3に関する情報も計測条件に関するリファレンス情報としてデータ記憶部42に記憶される構成としてもよい。
【0143】
以上の工程により、計測装置10による動作時間計算処理を終了する。
【0144】
(動作時刻検出処理の別の態様について)
以下、図5のステップS100におけるステップS1~S6に示す一連の動作時刻の検出処理、すなわち、圧力解除検出時刻、第1~第4の通過検出時刻、及び圧力付勢検出時刻の検出動作を実現する別の処理態様について、図面を用いて説明する。図7、8は、計測装置10において、図5のステップS100に示す動作時刻の検出動作の別の態様を示すフローチャートである。
【0145】
先ず、被験者ObにTUGテストの一連の動作を行わせ、制御手段4は、圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、第2の通過検出手段22から出力される出力信号DT(I,ID(I),T(I))を取得し、得られた信号を受信時刻に基づき時系列に配列する(ステップS101)。出力信号DT(I)は、取得順序を示すインデックスI(1~N)、検出手段識別子ID(I)、信号の検出時刻T(I)を含んで構成される。本例では、識別子IDは、圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、第2の通過検出手段22の区別を示す識別子からなる。
【0146】
次に、インデックスIを初期化(ステップS102)したのち、出力信号DT(I),DT(I+1)を取得(ステップS103)して、識別子ID(I)が示す検出手段が圧力検出手段1であるか否かを判定する(ステップS104)。
【0147】
ステップS104の判定において、検出手段が圧力検出手段1である場合には、識別子ID(I+1)が示す検出手段が第1の通過検出手段21であるか否かを判定する(ステップS105)。そして、ステップS105の判定において、第1の通過検出手段21である場合には、検出時刻T(I)を圧力解除検出時刻として検出し、検出時刻T(I+1)を第1の通過検出時刻として検出し(ステップS106)、インデックスIをインクリメントして(ステップS107)、ステップS103に戻り、出力信号DT(I),DT(I+1)を更新(ステップS103)して以降の処理を行う。
【0148】
他方、ステップS105の判定において検出手段が第1の通過検出手段21でないと判定された場合には、圧力検出手段1からの誤検出であることから、インデックスIをインクリメントして(ステップS107)、ステップS103に戻り、出力信号DT(I),DT(I+1)を更新(ステップS103)して以降の処理を行う。
【0149】
ステップS104の判定において、識別子ID(I)が示す検出手段が圧力検出手段1でない場合には、識別子ID(I)が示す検出手段が第1の通過検出手段21であるか否かを判定し(ステップS108)、第1の通過検出手段21である場合には、続けて、識別子ID(I+1)が示す検出手段が第2の通過検出手段22であるか否かを判定する(ステップS109)。ステップS109の判定において、第2の通過検出手段22である場合には、検出時刻T(I+1)を第2の通過検出時刻として検出し(ステップS110)、インデックスIをインクリメントして(ステップS107)、ステップS103に戻り、出力信号DT(I),DT(I+1)を更新(ステップS103)して処理を継続する。
【0150】
ステップS108の判定において、識別子ID(I)が示す検出手段が第1の通過検出手段21でない場合には、図8のステップS112に進み、識別子ID(I)が示す検出手段が第2の通過検出手段22であるか否かを判定し、第2の通過検出手段22でない場合には、インデックスIをインクリメントして(ステップS107)、ステップS103に戻り、出力信号DT(I),DT(I+1)を更新(ステップS103)して処理を継続する。
【0151】
ステップS112の判定において、識別子ID(I)が示す検出手段が第2の通過検出手段22である場合には、続けて、識別子ID(I+1)が示す検出手段が第2の通過検出手段22であるか否かを判定し(ステップS113)、第2の通過検出手段22である場合には、検出時刻T(I+1)とT(I)との差分時間ΔTを算出し(ステップS114)、得られた差分時間ΔTが最大値maxΔTより大きい値であるか否かを判定する(ステップS115)。ここで、最大値maxΔTはΔTの暫定的な最大値を示す変数であり初期値は-1に設定される。差分時間ΔTが最大値maxΔTより大きい値でない場合には、インデックスIをインクリメントして(ステップS107)、ステップS103に戻り、出力信号DT(I),DT(I+1)を更新して(ステップS103)、ステップS115までの処理を繰り返す。
【0152】
ステップS115の判定において、差分時間ΔTが最大値maxΔTより大きい値である場合には、最大値maxΔTをΔTに更新するとともに(ステップS116)、変数Temp_Tを検出時刻T(I+1)に更新して(ステップS117)、インデックスIをインクリメントして(ステップS107)、ステップS103に戻り、出力信号DT(I),DT(I+1)を更新して(ステップS103)、ステップS117までの処理を繰り返す。ここで、変数Temp_Tは、差分時間ΔTが最大であるときの検出時刻を表す既定の変数であり、初期値は0に設定される。
【0153】
ステップS113の判定において、識別子ID(I+1)が示す検出手段が第2の通過検出手段22でない場合には、第3の通過検出時刻の検出を終了し、変数Temp_Tの時刻を第3の通過検出時刻として検出する(ステップS118)。同時に、検出時刻T(I+1)を第4の通過検出時刻として検出する(ステップS118)。この場合も、インデックスIをインクリメントして(ステップS107)、ステップS103に戻り、出力信号DT(I),DT(I+1)を更新して以降の処理を行う。
【0154】
以上の処理により、第3の通過検出時刻の検出動作により、ターン動作開始の通過検出以後、連続する検出時刻の間の差分時間を算出して最も長い差分時間を抽出し、最長差分時間の終了時刻を第3の通過検出時刻、すなわち、ターン動作の終了時刻として検出することができる。
【0155】
図7のステップS109の判定において、識別子ID(I+1)が示す検出手段が第2の通過検出手段22でない場合には、検出手段が圧力検出手段1であるか否かを判定し(ステップS119)、圧力検出手段1でない場合には、インデックスIをインクリメントして(ステップS107)、ステップS103に戻り、出力信号DT(I),DT(I+1)を更新して以降の処理を行う。
【0156】
他方、ステップS119の判定において、識別子ID(I+1)が示す検出手段が圧力検出手段1である場合には、検出時刻T(I+1)を圧力付勢検出時刻として検出し(ステップS120)、すべての出力信号DT(I)(I=1~N)の処理が完了していない場合には(ステップS121:No)、インデックスIをインクリメントして(ステップS107)、ステップS103に戻り、完了している場合(ステップS121:Yes)には、動作時刻の検出処理を終了し、図5のステップS7に進む。
【0157】
以上の処理により、図5のステップS100におけるステップS1~S6に示す一連の動作時刻の検出処理、すなわち、圧力解除検出時刻、第1~第4の通過検出時刻、及び圧力付勢検出時刻の検出動作を実現することができる。
【0158】
(被験者に介助者が付き添う場合における通過検出処理)
被験者が高齢であるとき、測定中の被験者の転倒等の事故を防止するために被験者に介助者が付き添うことが必要となる。しかしながら、この場合、複数人が通過するため、被験者の正しい通過時刻を測定することができない可能性がある。
【0159】
TUGテストにおいて、介助者が付き添い被験者をサポートする場合、介助者の動きが被験者の歩行する方向や速度に影響を与えることが無いことが必要となる。そのため、介助者は被験者の背後から、被験者が転倒しないように被験者を近位にて見守ることが好ましく、介助者は被験者に後行してTUGテストを行うことが好ましい。そのため、計測装置10では、介助者を伴う場合には、被験者の後方に位置する介助者が後方から被験者を介助するという測定ルールに基づいてTUGテストを行う構成とする。
【0160】
[第1の通過検出手段21における通過検出について]
計測装置10では、介助者を伴う場合には、図5のステップS2において、圧力検出手段1における立ち上がり動作P1の開始を検出した後、第1の通過検出手段21による最初の通過検出の時刻を被験者に対する第1の通過検出時刻として検出する構成を採る。
【0161】
さらに、図5のステップS5において、介助者を伴う場合には、第2の通過検出手段22がターン動作P3の終了を検出した後の、第1の通過検出手段21による最初の通過検出の時刻を被験者に対する第4の通過検出時刻として検出する構成を採る。この場合、操作入力部45への操作入力などに基づいて、介助者を伴う場合と伴わない場合とで、図5のステップS5における、第4の通過検出時刻の検出動作を異ならせてもよい。
【0162】
図9(a)は、被験者の後方に位置する介助者Spが被験者を介助する場合において複数回(8回)の入力があった場合の第1の通過検出手段における歩行動作の検出位置、(b)は、動作時間計測における各回の検出と経過時間との関係を示す図である。
【0163】
図9(a)の例では、往路において、第1の通過検出手段21は、位置a、bにおいて先行する被験者Obの通過を検出し、位置c、dにおいて後行する介助者Spの通過を検出する。また、復路において、第1の通過検出手段21は、位置e、fにおいて先行する被験者Obの通過を検出し、位置g、hにおいて後行する介助者Spの通過を検出する。図9(a)では、正規の通過検出である位置a、eにおける検出位置を実線で示し、誤検出である位置b、c、d、f、g、hにおける検出位置を破線で示している。
【0164】
この場合、上述のステップS2の動作により、図9(b)に示すように、ステップS1における立ち上がり動作P1の開始を検出(検出1)した後の、最初の通過検出(検出2)の時刻を第1の通過検出時刻とすることで位置aでの被験者Obによる通過検出が可能となる。同様に、上述のステップS5の動作により、ステップS4におけるターン動作P3の終了を検出(検出7)した後の、最初の通過検出(検出8)の時刻を第1の通過検出時刻とすることで位置eでの被験者Obによる通過検出が可能となる。
【0165】
これより、図9(b)のステップ2における検出3、4、5及びステップ5における検出9、10、11は、誤検出である図9(a)の位置b、c、d、及びf、g、hにおける検出と判定することができる。また、図9(b)のステップ2における検出2、及びステップ5における検出8は、正規の検出である図9(a)の位置a、eにおける検出と判定することができる。
【0166】
なお、計測装置10では、ステップS2において、立ち上がり動作P1の開始を検出した後、第1の通過検出手段21による最初の通過検出時刻を第1の通過検出時刻として検出し、無反応時間(delay時間)を設定するという構成を採ることにより、往路歩行動作P2時における介助者の通過を含む第1の通過検出手段21の複数回通過に伴う誤検出を抑制することが可能となる。
【0167】
同様に、ステップS5において、第2の通過検出手段22がターン動作P3の終了を検出した後、第1の通過検出手段21による最初の通過検出時刻を第4の通過検出時刻として検出し、この最初の通過検出の後に無反応時間(delay時間)を設定するという構成を採ることにより、復路歩行動作P4時における介助者の通過を含む第1の通過検出手段21の複数回通過に伴う誤検出を抑制することが可能となる。
【0168】
以上のとおり、計測装置10によれば、第1の通過検出時刻は、圧力解除検出時刻の後、第1の通過検出手段21が通過を最初に検出した時刻であり、第4の通過検出時刻は、第3の通過検出時刻の後、第1の通過検出手段21が通過を最初に検出した時刻である構成を採る。これにより、高齢の被験者Obに対するTUGテストにおいて、背後に介助者Spを伴ったときの被験者Obの通過検出が可能となり、測定中に介助者Spが高齢の被験者Obを背後からサポートすることが可能となり、被験者Obを近位にて見守ることにより転倒事故を防止するとともに、正しい測定結果を取得することができる。
【0169】
[第2の通過検出手段22における通過検出について]
一方、第2の通過検出手段22におけるターン動作の開始の検出では、計測装置10では、上述のとおり、ステップS3において第2の通過検出手段22による最初の通過検出時刻を第2の通過検出時刻として検出するため、背後に介助者を伴ったときの被験者の通過検出が可能となる。
【0170】
また、ターン動作の終了の検出でも、背後に介助者を伴ったときの被験者の通過検出が可能となる。介助者は被験者をサポートするため被験者の背後に近接しているため、介助者の通過は被験者の通過の直後に検出される。計測装置10では、上述のとおり、ターン動作の終了の検出では、ステップS4における第2の通過検出手段22による連続する2つの通過検出時刻間の最大間隔(最大時間差分)の終了時刻を第3の通過検出時刻として検出される構成を採ることから、被験者の背後に近接する介助者の通過検出時刻が2つの通過検出時刻間の最大間隔の選択に影響を与えることは無く、また、2つの通過検出時刻間の最大間隔の終了時刻となることは無い。そのため、背後に介助者を伴った場合でも被験者のターン動作の終了の検出が可能となる。
【0171】
なお、計測装置10では、介助者を伴う場合には、ステップS3において第2の通過検出手段22が最初の通過検出を行った後に、介助者が通過するまでの間、無反応時間Tdelayに相当する時間待機させる構成としてもよい。このとき、無反応時間Tdelayは、被験者と介助者との距離、被験者の年齢や歩行速度などの特性を考慮して、例えば、0.1~10.0秒に設定してもよい。
【0172】
ターン動作P3の開始後、介助者が通過するまでの時間に相当し、かつ、被験者がターン動作を行って再び第2の通過検出手段22を通過する迄の時間より短い無反応時間Tdelayを設けることで、介助者を伴う場合に、被験者がターン動作の開始時に第2の通過検出手段22を通過するときに、第2の通過検出手段22が被験者や介助者の通過を複数回、検出することを抑制することができる。
【0173】
<評価試験>
以下、計測装置10の評価試験により性能評価を行った。以下、その結果について説明する。
(試験1)
計測装置10の実施例と比較例を用いて動作検出の正確性を評価した。
【0174】
[実施例]
計測装置10の実施例として、図1~3に示す態様の動作時間計測装置を作成し評価を行った。計測装置10の実施例では、通過検出手段21、22において、発光部2aは、赤色半導体レーザーを用いた。また、受光部2bには、図3(a)(b)に示したような外鏡筒2b1と筐体2b2、内鏡筒2b3、光拡散シート2b4を備えた構成とし、受光素子2b5には赤色光を検知可能な受光素子を用いた。
【0175】
また、計測装置10の実施例では、ターン動作における通過検出処理において、図5に示す態様、すなわち、第2の通過検出手段22の最初の通過検出時刻をターン動作の開始時刻とし、第2の通過検出手段22による連続する2つの通過検出時刻間の最大間隔(最大時間差分)の終了時刻を第3の通過検出時刻として検出する構成とした。
【0176】
[比較例]
比較例として、以下の計測装置を用いた。実施例における通過検出手段21、22に替えて、発光部に赤外線発光素子を用い、受光部に赤色光を検知可能な受光素子が筐体に内装された赤外線センサを用いた。また、ターン動作における通過検出処理は、第2の通過検出手段における最初の通過検出時刻をターン動作の開始時刻とし、第2の通過検出手段における次の通過検出時刻を第3の通過検出時刻として検出する構成とした。
【0177】
[試験方法]
計測装置10の実施例と比較例を用いて、それぞれ別の高齢者を被験者としてTUGテストを行い、各検出手段において被験者の動作転換を正常に判別可能であった割合を算出した。一人の被験者に対して通常歩行速度の1条件で計測を行った(実施例の被験者数:72名以上、実施例の測定回数:72回、比較例の被験者数:60名、比較例の測定回数:116回(計測の重複あり))。
【0178】
[試験結果]
被験者の動作転換を正常に判別可能な割合:ターン動作における通過検出の場合、比較例では10%であったのに対し、実施例では75%であった。立ち上がり動作及び着座動作の動作検出の場合、比較例、実施例ともに100%であった。
以上の結果から、計測装置10の実施例では比較例に対し、ターン動作における通過検出動作の判別割合が向上したことが見て取れる。これにより、実施例における、通過検出手段におけるレーザーと筐体構造の採用、及びターン動作における通過検出処理により検出精度は向上し、高齢被験者による動作速度の低下がある場合でも75%程度の正常な動作検知が可能となったことが確認された。
【0179】
(試験2)
計測装置10の計測結果に基づき算出される指標が、実際の高齢者の身体機能を反映したものであるかを検証し、計測装置10の計測結果の妥当性を検証した。
【0180】
[試験方法]
計測装置10を用いて、高齢者66名を被験者としてTUGテストを行い、計測された立ち上がり動作の所要時間(T1)、往路の歩行動作の所要時間(T2)、ターン動作の所要時間(T3)、復路の歩行動作の所要時間(T4)、着座動作の所要時間(T5)に基づき、運動能力を表す指標として、立ち座り時間(SST)、歩行時間(WT)、バランス時間(BT)を算出した。
高齢者の身体機能のリファレンス計測として、同じ被験者に対し、TUGテストとは別の個別の検査を行い、計測装置10に基づき算出された指標の値と高齢者の身体機能の計測結果との相関を調査した。
【0181】
[試験結果]
図10(a)は、計測装置10による計測結果に基づく立ち座り時間SSTと5回立ち座りテストとの散布図、(b)は、歩行時間(WT)と4m歩行テスト時間との散布図、(c)は、バランス時間(BT)と片足立ち時間との散布図である。同図に示すように、計測装置10による計測結果に基づく歩行時間(WT)と歩行機能を示す4m歩行テスト時間の測定値との相関係数は0.74となり、両者は良好な相関性を有している。同様に、立ち座り時間(SST)の下肢筋力を示す5回立ち座りテストとの相関係数は0.43、バランス時間(BT)とバランス機能を示す片足立ち時間との相関係数は0.40となり、両者は相関性を有していることがわかる。以上より、計測装置10による計測結果に基づき算出された指標は、いずれも高齢者の身体機能を必要なレベルで反映していることが確認された。これより、計測装置10は高齢者の機能評価方法として有用であることがわかる。
【0182】
(試験3)
計測装置10の計測結果について主成分分析を行い、高齢者の運動機能を適正に示す指標について検討した。
【0183】
[試験方法]
計測装置10を用いて、高齢者を被験者としてTUGテストを行い、計測された立ち上がり動作の所要時間(T1)、往路の歩行動作の所要時間(T2)、ターン動作の所要時間(T3)、復路の歩行動作の所要時間(T4)、着座動作の所要時間(T5)について主成分分析を行い、高齢者の運動機能を示す指標となる主成分について検討を行った。
【0184】
[試験結果]
図11は、計測装置10を用いて測定したT1~T5に対する主成分分析の結果を主成分1~3に関して示す3次元散布図であり、図12は、主成分分析の結果を2次元で表した2次元散布図である。同図に示すように、計測装置10の計測結果T1~T5に対する主成分分析により抽出された第1主成分~第3主成分のうち、第1主成分は、往路の歩行動作の所要時間(T2)及び復路の歩行動作の所要時間(T4)を含むすべての計測結果T1~T5に対し正の相関が強いことが見て取れ、歩行時間(WT)を含む全般的な運動機能を表すことがわかる。また、第2主成分は立ち上がり動作の所要時間(T1)との正の相関が強いことから、立ち座り機能、すなわち、筋力に関する運動機能を表すことがわかる。また、第3主成分は立ち上がりターン動作の所要時間(T3)との正の相関が強いことから、バランス機能に関する運動機能を表すことがわかる。
【0185】
そのため、計測装置10の計測結果に対する主成分分析により抽出された主成分は、高齢者の運動能力を表す指標であることが示唆された。
【0186】
<まとめ>
以上、説明したように、実施の形態に係る動作時間計測装置10は、Timed Up and Go(TUG)テストにおける計測対象動作に含まれる複数の個別動作P1~P5それぞれの所要時間T1~T5を計測する動作時間計測装置10であって、
圧力検出手段1と、
被験者Obの通過を検出する第1の通過検出手段21、及び第2の通過検出手段22と、
圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、第2の通過検出手段22からの出力信号を取得し複数の個別動作の所要時間T1~T5を算出する制御手段4とを備え、
圧力検出手段1は、椅子Chの座面に載設され、
第1の通過検出手段21は、椅子Chから椅子Chに対し所定距離離れた折り返しマーカ3までの歩行路Ptにおいて、椅子から第1の距離x1として25cm以上65cm以下の長さ離間した第1の位置X1に配され、
第2の通過検出手段22は、歩行路Ptにおいて、椅子Chと折り返しマーカ3との中間点より椅子Chから遠く、折り返しマーカ3より椅子Chに近接した第2の位置X2に配されることを特徴とする。
【0187】
さらに、複数の個別動作P1~P5は、被験者Obが椅子Chに着席した状態から立ち上がる立ち上がり動作P1、当該立ち上がり動作P1ののち歩行路における第1の位置X1から第2の位置X2までの区間を歩行する往路歩行動作P2、当該往路歩行動作P2ののち折り返しマーカ3の周りをターンするターン動作P3、当該ターン動作P3ののち歩行路における第2の位置X2から第1の位置X1までの区間を歩行する復路歩行動作P4、及び、当該復路歩行動作P4ののち椅子Chに着座する着座動作P5からなり、
制御手段4は、圧力検出手段1による圧力解除検出時刻から第1の通過検出手段21による第1の通過検出時刻までの時間を立ち上がり動作P1の所要時間T1とし、
第1の通過検出時刻から、第2の通過検出手段22による第2の通過検出時刻までの時間を往路歩行動作P2の所要時間T2とし、
第2の通過検出時刻から、第2の通過検出手段22による第3の通過検出時刻までの時間をターン動作P3の所要時間T3とし、
第3の通過検出時刻から、第1の通過検出手段21による第4の通過検出時刻までの時間を復路歩行動作P4の所要時間T4とし、
第4の通過検出時刻から、圧力検出手段1による圧力付勢検出時刻までの時間を着座動作P5の所要時間T5とする構成としてもよい。
【0188】
本来、行政機関等における介護保険に係る運動機能判定、健康リスク判定、およびリハビリテーション効果判定に用いられる運動機能データは、計測者や計測場所に依存しない客観的な基準に基づいて取得されたものであることが必要であるにもかかわらず、従来の計測方法では、TUGテストにおける個別動作時間の計測において、動作間には明確な区切りが存在しないために、動作間の境界の判定は曖昧となる傾向があり、個別動作間の切り替えのタイミングは計測者の相対的な判断に依存する傾向があった。
【0189】
また、歩行動作等は被験者Obごとの個別性が強く、被験者Obごとに動作の切り替えタイミングが異なる傾向があるため、動作間の境界判定のばらつきが大きく正確性が低下する場合があった。
【0190】
そのため、取得される運動機能データが、行政機関や保健機関等計測を行う機関、計測者や計測場所、被験者Obの特性によって変動し、健康リスクの判定精度に影響を与える場合があった。
【0191】
また、運動機能の計測は行政機関等において、簡易かつ安価な設備を用いて広く行なえる必要がある。
【0192】
これに対し、実施の形態に係る計測装置10によれば、上記構成を採ることにより、TUGテストによる運動機能データの計測において、歩行路Ptに固定された通過検出手段21、22に基づいて個別動作間の境界を判定する構成を採用したことにより、従来、行政機関等計測を行う機関、計測者や計測場所、被験者Obの特性等、計測にかかる各種要因によって、TUGテストの計測結果において個別動作P1~P5間の境界が変動していたことを抑制することができる。
【0193】
すなわち、上記構成は、歩行路Ptに固定された通過検出手段21、22に基づいて動作間を区切る境界位置を固定し、計測にかかる各種要因によって変動しない絶対的な基準に基づいて動作間の境界を設定するものである。
【0194】
これにより、TUGテストを構成する個別動作の相別化が可能となり、個別動作時間の計測精度を高め、計測結果の変動を抑制可能な、簡易かつ安価な動作時間計測装置を提供することができる。併せて、TUGテストの一連の動作に要する時間の計測精度を向上できる。
【0195】
具体的には、例えば、立ち上がり動作P1時に、被験者Obの手の振りや膝の屈伸運動を、被験者Obの通過として誤検出することを防止できる。
【0196】
また、被験者Obのターン動作はマーカ3よりも手前から開始されることに鑑み、椅子Chの位置X0から、第2の通過検出手段22が配される第2の位置X2までの第2の距離x2を、式1により規定される長さとすることにより、ターン動作P3の開始時刻と終了時刻を、被験者Obによる動作に即してより精度良く検出することができる。
【0197】
また、別の態様では、第2の通過検出手段22が、被験者Obの通過を複数回検出したとき、第2の通過検出時刻は、計測対象動作P1~P5の中で、第2の通過検出手段22が被験者Obの通過を最初に検出した時刻であり、第3の通過検出時刻は、計測対象動作P1~P5の中で、第2の通過検出手段22が被験者Obの通過を検出した複数の時刻のうち、連続する2時刻の差分時間が最大である時刻の組み合わせにおける、後の時刻である構成としてもよい。
【0198】
係る構成により、ターン動作P3の開始時と終了時の両方において第2の通過検出手段22の複数回通過に伴う誤検出を抑制することが可能となる。これにより、運動能力が高い被験者Obから運動能力が著しく低い被験者Obまで全ての被験者Obに対し、ターン動作P3の開始時刻と終了時刻の誤検出を抑制できる。
【0199】
また、別の態様では、第1の通過検出時刻は、圧力解除検出時刻の後、第1の通過検出手段21が通過を最初に検出した時刻であり、第4の通過検出時刻は、第3の通過検出時刻の後、第1の通過検出手段21が通過を最初に検出した時刻である構成としてもよい。
【0200】
係る構成により、高齢の被験者Obに対するTUGテストにおいて、背後に介助者Spを伴うときの被験者Spの通過検出が可能となる。そのため、測定中に介助者Spが高齢の被験者Obを背後からサポートすることが可能となり、被験者Obを近位にて見守ることにより転倒事故を防止するとともに、正しい測定結果を取得することができる。
【0201】
また、別の態様では、発光部2aは、可視光赤色半導体レーザーからなる発光素子を有し、受光部2bは、外鏡筒2b1と内鏡筒2b3を有し、内鏡筒2b3には一方の筒端近傍に配された光拡散シート2b4と、光拡散シート2b4から内鏡筒2b3の他端方向に所定距離離間して配された受光素子2b5を備え、発光素子から発せられた光は、外鏡筒2b1を通して受光部2bに入光し、さらに、入光した光は光拡散シート2b4によって内鏡筒2b3内に拡散されたのち受光素子2b5に入射される構成としてもよい。
【0202】
係る構成の通過検出手段2によれば、発光部2aに、発光素子に直進性の高い可視光赤色半導体レーザーを用いるとともに、受光部2bに上記構成を採用したことにより、外鏡筒2b1、内鏡筒2b3からなる二重構造を採用して外光の侵入を防ぐとともに、光拡散シート2b4によって鏡筒2b3に入光した直進性のある光LDを拡散させることで受光素子2b5の信号光に対する感度を向上することができる。
【0203】
これにより、照明が多い計測環境で影響を受けにくい構造、衣服の色にかかわらず対象者の通過を感知可能な構成、及び、歩行速度が速い対象者の感知に遅れが生じることを抑制可能な構成を実現することができる。
【0204】
以上のとおり、本実施の形態に係る計測装置10によれば、TUGテストを構成する個別動作の相別化が可能となり運動機能データの信頼性が高まる。その結果、行政機関等における高齢者向けの介護保険に係る運動機能判定、介護予防事業の効果判定、健康リスク判定、又は、リハビリテーション効果判定などに有効に活用することができる。
【0205】
≪変形例≫
以上、本開示の具体的な構成について、実施形態を例に説明したが、本開示は、その本質的な特徴的構成要素を除き、以上の実施の形態に何ら限定を受けるものではない。例えば、実施の形態に対して各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【0206】
以下では、そのような形態の一例として、変形例について説明する。
(1)上記実施の形態では、計測装置10を用いてシングルタスクのTUGテストを実施する例について説明を行った。しかしながら、シングルタスクのテストに加え、例えば、被験者Obに数字を逆唱(降順に復唱)させながらTUGテストを行うデユアルタスクのテストを行い、式7によりDG(Dual Task Gait)を算出し、式8によりDB(Dual Task Balance)を算出し、数字を逆唱させたときの運動能力の低下に基づき脳の機能の変化を評価してもよい。
【数7】
【0207】
【数8】
【0208】
上式において、Dはデユアルタスク時の動作時間、Sはシングルタスク時の動作時間を表す。
(2)上記実施の形態に係る計測装置10では、通過検出手段22は、歩行路Ptを跨いで配された一対の発光部22aと受光部22bを含む透過型センサからなる第2のゲート手段からなる構成とした。
【0209】
図13は、変形例に係る動作時間計測装置10Aの構成を示す斜視図である。図13に示すように、動作時間計測装置10Aでは、第2の通過検出手段22は、歩行路Ptにおける往路に対応する部分を跨いで配された一対の発光部22a2及び受光部22b2を含む第3のゲート手段と、歩行路Ptにおける復路に対応する部分を跨いで配された別の一対の発光部22a1及び受光部22b1を含む第4のゲート手段からなる構成を採る。
【0210】
制御手段4は、圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、第2の通過検出手段22としての第3のゲート手段、及び第4のゲート手段と、配線1w、21w、22w1、22w2によって電気的に接続され、圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、第3のゲート手段、第4のゲート手段からの出力信号を取得し、TUGテストにおける個別動作時間
T1~T5を算出する。
【0211】
被験者Obはターン動作の前後において、歩行速度が著しく遅くなる傾向がある。これに対し、本変形例に係る構成によれば、計測装置10に比べて対向する受光部と発光部をより近接された状態で、往路と復路における被験者Obの通過を異なるゲート手段によって独立に検出することができるために、各ゲートで検出した本実施の形態(図5等)に示した簡易なアルゴリズムを採用すればよく、それぞれにおける検出精度を向上することができる。
【0212】
また、被験者Obの運動特性に応じて、第3のゲート手段及び第4のゲート手段が配されるX方向の位置X2を独立に設定してもよい。
【0213】
また、受光部22b1及び発光部22a2は、歩行路PtのY方向の中央においてマーカ3の手前側に配されるために、被験者Obがターン動作P3を行う際に被験者Obの進路を妨げることはない。
(3)別の変形例では、動作時間計測装置は、無線基地局等を介して通信ネットワークNに接続され、通信ネットワークNに接続されたサーバ手段においてプログラムを実行することにより、動作時間計測装置の機能を実現するクライアントコンピュータとして実現される構成であってもよい。
【0214】
以下、変形例に係る動作時間計測システム100について、図面を用いて詳細に説明する。図14は、変形例に係る動作時間計測システム100の概略構成図である。図14に示すように、動作時間計測システム100は、通信ネットワークNに接続された複数の動作時間計測装置10B、サーバ手段5、及びデータ記憶手段6で構成される。
【0215】
通信ネットワークNは、例えば、インターネットであり、動作時間計測装置10B、サーバ手段5、及びデータ記憶手段6が、互いに情報を交換できるように接続されている。
【0216】
動作時間計測装置10Bは、操作者である検査者がTUGテストを実施するときに使用する端末装置である。動作時間計測装置10Bは、圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、第2の通過検出手段22、制御手段4Aを備え、制御手段4Aは、通信部41、制御部43A、表示部44、操作入力部45を有する。
【0217】
制御部43Aは通信部41を介して通信ネットワークNに接続されており、内装するCPUによりプログラムを実行することにより計測用端末としての機能を実現する。操作入力部45からの操作入力に基づきサーバ手段5に指示信号を発し、サーバ手段5においてプログラムを実行させることにより動作時間計測装置の機能を実現させるクライアントコンピュータである点で図2に示す制御手段4と相違している。
【0218】
通信部41は、圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、第2の通過検出手段22の通信部に、例えば、IEEE802.11規格やBluetooth(登録商標)通信などの近距離無線通信規格などによる手段によって接続され、圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、及び第2の通過検出手段22から発せられる出力信号を取得するとともに、制御手段4Aは通信部41によって取得された出力信号を、通信ネットワークNを介してデータ記憶手段6に送信して保存する。
【0219】
サーバ手段5は、内装するCPUによりプログラム5pを実行するサーバコンピュータとして実現される。動作時間計測装置10Bは、データ記憶手段6に保存された圧力検出手段1、第1の通過検出手段21、第2の通過検出手段22からの出力信号を読み出しプログラム5pを実行することにより被験者Obの個別動作時間を算出し、得られた個別動作時間を、通信ネットワークNを介して動作時間計測装置10Bに送信して表示させるとともに、データ記憶手段6に送信して保存する。
【0220】
データ記憶手段6には、通信部41によって取得された出力信号、検出された個別動作P1~P5の開始時刻及び終了時刻、得られた個別動作時間T1~T5が送信されて記憶される。また、距離x1、x2、x3に関する情報等、計測条件に関するリファレンス情報も同時に記憶される。
【0221】
係る構成により、サーバ手段5に動作時間計測装置における個別動作時間算出機能を集約することで動作時間計測装置10Bの機能を簡素化するとともに、データ記憶手段6に複数の動作時間計測装置10Bごとに、あるいは被験者Obごとに得られた個別動作時間や取得された出力信号を蓄積して、検査結果のデータベースを構築することができる。
【0222】
(4)上記実施の形態では、第2の通過検出手段22が、被験者Obの通過を複数回検出したとき、第3の通過検出時刻は、第2の通過検出手段22が被験者Obの通過を検出した複数の時刻のうち、連続する2時刻の差分時間が最大である時刻の組み合わせにおける、後の時刻である構成とした。このとき、第2の通過検出手段22が、例えば、3回など、所定回数以上の同値の電圧の信号を検出した場合には、被験者が立ち止まって動けなくなっている可能性があるため、スピーカ手段46から音信号によるアラートを発して、計測動作を中止する構成としてもよい。
【0223】
発明者の知見によれば、身体機能の低下した高齢者では、ターン動作と椅子への着座動作でその場に立ち止まる傾向があることが判明している。これに対し、上記した構成を採ることにより、高齢者の身体機能に応じた運動能力の計測を実現することができる。
【0224】
(5)上記実施の形態では、通過検出手段2における発光部2aに、発光素子に直進性の高い可視光赤色半導体レーザーを用いる構成を採用した。しかしながら、発光素子の出力を十分に確保するとともに、図3(b)又は(c)に示す受光部2bにより受光素子2b5の信号光に対する感度を確保することにより、発光素子に直進性の高いレーザーに替えて、光が放射状に広がるタイプの赤外線発光素子を用いた構成としてもよい。この場合に、通過検出手段2は、歩行路Ptを挟んで、発光部と受光部を含む投受光器と回帰反射板とが相対する回帰反射型の光電センサを用いてもよい。赤外線発光素子では光が放射状に広がって進むことから、入射光を効果的に反射させる適当な反射板を選択することにより、発光部2aと受光部2bとの間の多少の位置ずれがある場合でも受光部2bに光を導光することができる。そのため、発光部2aと受光部2bとの位置合わせが容易になる。あるいは、簡略化できる。
【0225】
係る構成により、発光部21aからの光の照射範囲が拡大して受光部21bの設置可能な範囲が拡大するため、発光部21aと受光部21bとの位置合わせが容易となる。そのため、受光素子2b5の信号光に対する感度を確保しつつ、発光部21aと受光部21bの設置に要する時間を短縮することができる。
【0226】
(6)上記実施の形態では、制御手段4は、計測された立ち上がり動作の所要時間(T1)、往路の歩行動作の所要時間(T2)、ターン動作の所要時間(T3)、復路の歩行動作の所要時間(T4)、着座動作の所要時間(T5)に基づき、運動能力を表す指標として、立ち座り時間(SST)、歩行時間(WT)、バランス時間(BT)を算出する構成とした。しかしながら、計測された動作時間T1~T5に対して主成分分析(PCA:Principal Component Analysis)を行い、得られた主成分ごとに個別動作それぞれの所要時間に基づく変数を得点化することにより、高齢者の運動機能を示す指標となる主成分スコアを算出して出力する構成としてもよい。主成分分析には、例えば、(Brodie MA, Menz HB, Lord SR. Age-associated changes in head jerk while walking reveal altered dynamic stability in older people. Exp Brain Res. 2014 Jan;232(1):51-60. doi: 10.1007/s00221-013-3719-6. Epub 2013 Oct 5. PMID: 24091775.)に記載される公知の方法を用いることができる。
【0227】
例えば、動作時間T1~T5に基づく第1主成分を、歩行時間(WT)を含む全般的な運動機能を表す指標として出力してもよい。また、動作時間T1~T5に基づく第2主成分を立ち座り機能、すなわち、筋力に関する運動機能を表す指標として出力してもよい。また、動作時間T1~T5に基づく第3主成分をバランス機能に関する運動機能を表す指標として出力してもよい。
【0228】
測定された動作時間T1~T5の個別の数値は、それぞれがどのような運動機能を表す指標であるのかが、測定者及び被験者に理解されにくく、効果判定を行いにくいということが想定される。これに対し、計測装置10の計測結果に対する主成分分析により抽出された第1主成分~第3主成分を高齢者の運動能力を表す指標として、立ち座り時間(SST)、歩行時間(WT)、バランス時間(BT)などの指標と併せて表示することで、どのような運動機能を表す指標であるのかを被験者にわかりやすく伝達することができ、計測者及び被験者にとってTUGテストの利便性を向上することができる。
【0229】
さらに、主成分分析に際し、通常の速度条件でのTUGテストから得られた動作時間T1~T5に加え、より筋力への影響が大きい、被験者にとっての最大速度条件でのTUGテストや、日常生活能力を反映する二重課題下でのTUGテストから得られた動作時間T1~T5を含めた測定結果に対して主成分分析を行い、得られた主成分ごとに、個別動作それぞれの所要時間に基づく変数を負荷量に基づき得点化することで、高齢者の運動能力や健康リスクを表す指標として主成分スコアを算出してもよい。これにより、高齢者の運動機能や健康リスクを反映した数値をより精度よく算出することができ、被験者の運動能力や健康リスクをより正確に表示することができる。
【0230】
(7)上記実施の形態に係る計測装置10では、通過検出手段2は、被験者Obの通過を検出する光電式の通過センサであり、透過型センサを用いた構成とした。しかしながら、通過検出手段2には、反射型センサを用いて構成してもよい。
【0231】
≪補足≫
以上で説明した実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程、工程の順序などは一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていないものについては、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0232】
また、上記の方法が実行される順序は、本発明を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記方法の一部が、他の方法と同時(並列)に実行されてもよい。
【0233】
また、発明の理解の容易のため、上記各実施の形態で挙げた各図の構成要素の縮尺は実際のものと異なる場合がある。また本発明は上記各実施の形態の記載によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0234】
また、各実施の形態及びその変形例の機能のうち少なくとも一部を組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0235】
本開示の一態様に係る動作時間計測装置は、TUGテストによる運動機能データの計測における個別動作時間の計測手段として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0236】
1 圧力検出手段
2 通過検出手段
21 第1の通過検出手段
21a 発光部
21b 受光部
21c 通信部
22 第2の通過検出手段
22a、22a1、22a2 発光部
22b 22b1、22b2 受光部
22c 通信部
2b1 外鏡筒
2b11 庇
2b2 筐体部
2b3 内鏡筒
2b4 光拡散シート
2b5 受光素子
3 折り返しマーカ
4、4A 制御手段
41 通信部
42 データ記憶部
43、43A 制御手段
44 表示部
45 操作入力部
46 スピーカ手段
5 サーバ手段
6 データ記憶手段
10、10A、10B 動作時間計測装置
100 動作時間計測システム
図1
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