(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168344
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】光学用のプラスチックフィルム、並びに、それを用いた光学積層体、偏光板及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20231116BHJP
G02B 1/11 20150101ALI20231116BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20231116BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20231116BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B1/11
G09F9/00 313
B32B7/023
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143366
(22)【出願日】2023-09-05
(62)【分割の表示】P 2023002796の分割
【原出願日】2021-03-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2020065374
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 佳子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 翔生
(72)【発明者】
【氏名】黒田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】牛山 章伸
(57)【要約】
【課題】面内位相差を高くすることなく、かつ、軸合わせを要することなく、裸眼で視認した際の虹ムラ及び偏光サングラスで視認した際のブラックアウトを抑制し得る、光学用のプラスチックフィルムを提供する。
【解決手段】下記の条件1及び条件2を満たす光学用のプラスチックフィルム。
<条件1>
プラスチックフィルムから200mm×300mmの大きさの大サンプルを切り出す。前記大サンプルを40mm×50mmの30個の小サンプルに分割する。それぞれの小サンプルの縁から5mmを除いた30mm×40mmの領域を4万7千以上の数の領域に細分化した後、細分化したそれぞれの領域の面内位相差を測定する。前記30個の小サンプルのうち、各測定領域の面内位相差の平均が300nm以上1200nm以下を示す小サンプルの割合が50%以上である。
<条件2>
前記30個の小サンプルについて、前記条件1と同様にして、それぞれの小サンプルの細分化したそれぞれの領域の遅相軸の角度を測定する。前記30個の小サンプルのうち、各測定領域の遅相軸の角度から算出した標準偏差σが0.8度以上20.0度以下を示す小サンプルの割合が100%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の条件1及び条件2を満たす光学用のプラスチックフィルム。
<条件1>
プラスチックフィルムから200mm×300mmの大きさの大サンプルを切り出す。前記大サンプルを40mm×50mmの30個の小サンプルに分割する。それぞれの小サンプルの縁から5mmを除いた30mm×40mmの領域を4万7千以上の数の領域に細分化した後、細分化したそれぞれの領域の面内位相差を測定する。前記30個の小サンプルのうち、各測定領域の面内位相差の平均が300nm以上1200nm以下を示す小サンプルの割合が50%以上である。
<条件2>
前記30個の小サンプルについて、前記条件1と同様にして、それぞれの小サンプルの細分化したそれぞれの領域の遅相軸の角度を測定する。前記30個の小サンプルのうち、各測定領域の遅相軸の角度から算出した標準偏差σが0.8度以上20.0度以下を示す小サンプルの割合が100%である。
【請求項2】
さらに下記の条件3を満たす、請求項1に記載の光学用のプラスチックフィルム。
<条件3>
前記30個の小サンプルについて、それぞれ前記30mm×40mmの領域の中心で厚み方向の位相差を測定する。前記30個の小サンプルのうち、厚み方向の位相差が2000nm以上を示す小サンプルの割合が50%以上である。
【請求項3】
さらに下記の条件4を満たす、請求項2に記載の光学用のプラスチックフィルム。
<条件4>
前記30個の小サンプルのうち、前記厚み方向の位相差に対する前記面内位相差の平均が0.20以下を示す小サンプルの割合が50%以上である。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の光学用のプラスチックフィルム上に機能層を有する、光学積層体。
【請求項5】
前記機能層として反射防止層を含む、請求項4に記載の光学積層体。
【請求項6】
偏光子と、前記偏光子の一方の側に配置された第一の透明保護板と、前記偏光子の他方の側に配置された第二の透明保護板とを有する偏光板であって、前記第一の透明保護板及び前記第二の透明保護板の少なくとも一方が、請求項1~3の何れかに記載の光学用のプラスチックフィルムを含む、偏光板。
【請求項7】
表示素子と、前記表示素子の光出射面側に配置されたプラスチックフィルムとを有する画像表示装置であって、前記プラスチックフィルムが請求項1~3の何れかに記載の光学用のプラスチックフィルムである、画像表示装置。
【請求項8】
前記表示素子と、前記プラスチックフィルムとの間に偏光子を有する、請求項7に記載の画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学用のプラスチックフィルム、並びに、それを用いた光学積層体、偏光板及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置等の光学部材には、種々の光学用のプラスチックフィルムが用いられる場合が多い。例えば、表示素子上に偏光板を有する画像表示装置には、偏光板を構成する偏光子を保護するためのプラスチックフィルムが用いられている。本明細書において、“偏光子を保護するためのプラスチックフィルム”のことを、“偏光子保護フィルム”と称する場合がある。
【0003】
偏光子保護フィルムに代表される画像表示装置用のプラスチックフィルムは、機械的強度が優れるものが好ましい。このため、画像表示装置用のプラスチックフィルムとしては、延伸プラスチックフィルムが好ましく用いられている。
【0004】
偏光子上に延伸プラスチックフィルムを配置する場合、偏光子を通過した直線偏光の偏光状態を延伸プラスチックフィルムが乱すことを原因として、虹模様のムラが観察されるという問題がある。かかる問題を解決するため、特許文献1~3等が提案されている。本明細書において、“虹模様のムラ”のことを“虹ムラ”と称する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-300611号公報
【特許文献2】特開2010-244059号公報
【特許文献3】特開2011-107198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2は、偏光子の吸収軸と、延伸プラスチックフィルムの遅相軸とが、平行又は垂直となるように配置し、虹ムラを抑制するものである。
しかし、偏光子と延伸プラスチックフィルムとを特許文献1及び2の関係となるように配置した場合、画像表示装置を偏光サングラスで視認した際に、画面が真っ黒になる現象が生じるという問題がある。本明細書において、前記現象のことを“ブラックアウト”と称する場合がある。
【0007】
特許文献3は、画像表示装置の光源を特定の白色光源とすること、延伸プラスチックフィルムの面内位相差を3000nm以上30000nm以下と高くすること、及び、偏光子の吸収軸と延伸プラスチックフィルムの遅相軸とを略45度で配置することにより、虹ムラ及びブラックアウトを解消し得る液晶表示装置を開示している。
しかし、特許文献3は、面内位相差の大きい延伸プラスチックフィルムを用いる必要がある。そして、面内位相差の大きい延伸プラスチックフィルムは、通常は一軸延伸であるため、延伸方向に裂けやすい等の問題がある。
また、特許文献3は、ブラックアウトを抑制するためには、偏光子の吸収軸と延伸プラスチックフィルムの遅相軸との繊細な軸合わせが必要であるため、作業性が劣るとともに、歩留まりを高くすることが困難であった。
【0008】
本開示は、面内位相差を高くすることなく、かつ、軸合わせを要することなく、裸眼で視認した際の虹ムラ及び偏光サングラスで視認した際のブラックアウトを抑制し得る、光学用のプラスチックフィルム、並びに、それを用いた光学積層体、偏光板及び画像表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究した結果、面内位相差を低くしたプラスチックフィルムにおいて、プラスチックフィルムの遅相軸の角度を均一化せず、あえて前記角度の標準偏差σを所定値以上にすることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0010】
本開示は、以下の光学用のプラスチックフィルム、並びに、それを用いた光学積層体、偏光板及び画像表示装置を提供する。
[1]下記の条件1及び条件2を満たす光学用のプラスチックフィルム。
<条件1>
プラスチックフィルムから200mm×300mmの大きさの大サンプルを切り出す。前記大サンプルを40mm×50mmの30個の小サンプルに分割する。それぞれの小サンプルの縁から5mmを除いた30mm×40mmの領域を4万7千以上の数の領域に細分化した後、細分化したそれぞれの領域の面内位相差を測定する。前記30個の小サンプルのうち、各測定領域の面内位相差の平均が50nm以上1200nm以下を示す小サンプルの割合が50%以上である。
<条件2>
前記30個の小サンプルについて、前記条件1と同様にして、それぞれの小サンプルの細分化したそれぞれの領域の遅相軸の角度を測定する。前記30個の小サンプルのうち、各測定領域の遅相軸の角度から算出した標準偏差σが0.8度以上を示す小サンプルの割合が50%以上である。
[2]前記[1]に記載の光学用のプラスチックフィルム上に機能層を有する、光学積層体。
[3]偏光子と、前記偏光子の一方の側に配置された第一の透明保護板と、前記偏光子の他方の側に配置された第二の透明保護板とを有する偏光板であって、前記第一の透明保護板及び前記第二の透明保護板の少なくとも一方が、前記[1]に記載の光学用のプラスチックフィルムを含む、偏光板。
[4]表示素子と、前記表示素子の光出射面側に配置されたプラスチックフィルムとを有する画像表示装置であって、前記プラスチックフィルムが前記[1]に記載の光学用のプラスチックフィルムである、画像表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本開示の光学用のプラスチックフィルム、並びに、それを用いた光学積層体、偏光板及び画像表示装置は、面内位相差を高くすることなく、裸眼で視認した際の虹ムラ及び偏光サングラスで視認した際のブラックアウトを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】条件1及び条件2における40mm×50mmのサンプルと、前記サンプルの縁から5mmを除いた30mm×40mmの領域を説明するための平面図である。
【
図2】ロール状のプラスチックフィルムのサンプリングの手法を説明する図である。
【
図3】本開示の画像表示装置の一実施形態を示す断面図である。
【
図4】本開示の画像表示装置の他の実施形態を示す断面図である。
【
図5】連続折り畳み試験の様子を模式的に示した図である。
【
図6】プラスチックフィルムのエロージョン率の測定装置の概略断面図である。
【
図7】噴射部から噴射した純水及び球形シリカを含む試験液により、プラスチックフィルムが摩耗される状態のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態を説明する。
【0014】
[光学用のプラスチックフィルム]
本開示の光学用のプラスチックフィルムは、下記の条件1及び条件2を満たすものである。
<条件1>
プラスチックフィルムから200mm×300mmの大きさの大サンプルを切り出す。前記大サンプルを40mm×50mmの30個の小サンプルに分割する。それぞれの小サンプルの縁から5mmを除いた30mm×40mmの領域を4万7千以上の数の領域に細分化した後、細分化したそれぞれの領域の面内位相差を測定する。前記30個の小サンプルのうち、各測定領域の面内位相差の平均が50nm以上1200nm以下を示す小サンプルの割合が50%以上である。
<条件2>
前記30個の小サンプルについて、前記条件1と同様にして、それぞれの小サンプルの細分化したそれぞれの領域の遅相軸の角度を測定する。前記30個の小サンプルのうち、各測定領域の遅相軸の角度から算出した標準偏差σが0.8度以上を示す小サンプルの割合が50%以上である。
【0015】
<測定について>
条件1及び条件2で使用する200mm×300mmの大きさの大サンプルは、プラスチックフィルムの任意の位置から切り出す。
条件1及び条件2では、前記大サンプルを40mm×50mmの30個の小サンプルに分割し、それぞれの小サンプルの縁から5mmを除いた30mm×40mmの領域を測定する。
図1では、外側の四角形領域が40mm×50mmの大きさの小サンプルを示し、内側の四角形領域が30mm×40mmの領域を示している。
小サンプルの縁から5mmを除いた領域を測定する理由は、大サンプルを切断する際に、プラスチックフィルムの縁近傍には応力がかかりやすいため、小サンプルの縁近傍の光軸が歪む場合があることを考慮したものである。
【0016】
光学用のプラスチックフィルムは、例えば、シート状の形態である場合と、ロール状の形態である場合とがある。シート状の形態のプラスチックフィルム、及び、ロール状の形態のプラスチックフィルムは、下記のように大サンプルをサンプリングし、大サンプルから30個の小サンプルを切り出してから、条件1及び2の判定を行うことが好ましい。
【0017】
シート状のプラスチックフィルムから200mm×300mmの大きさの大サンプルを複数採取できる場合には、大サンプルを最も数多く取得できるようなレイアウトでサンプリングすることが好ましい。
シート状のプラスチックフィルムから200mm×300mmの大きさの大サンプルを複数採取できる場合には、何れかの大サンプルが条件1及び条件2を満たせばよい。本開示の効果をより発揮しやすくするため、全ての大サンプルのうち、条件1及び条件2を満たす大サンプルの割合が50%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは100%である。後述する条件3も同様である。
【0018】
ロール状のプラスチックフィルムの場合、下記(1)~(4)のようにロールの幅方向ごとに条件1及び条件2を満たすか否かを判定することが好ましい。
【0019】
(1)ロール状のプラスチックフィルム10bの幅方向において、流れ方向200mm×幅方向300mmの大サンプルを取れる数だけ切り出す。例えば、ロール幅が1200mmの場合は、4つの大サンプルを切り出す。また、ロール幅が1600mmの場合は、5つの大サンプルを切り出す。ロール幅が1600mmの場合、幅方向には100mmの残分が生じる。切り出した大サンプルを、S1、S2、・・・Snとする(
図2参照)。
(2)大サンプルS1から、40mm×50mmの小サンプルを30個切り出し、条件1及び条件2に関する測定を行い、条件1及び条件2を満たすか否かを判定する。
(3)ロール状のプラスチックフィルムは、幅方向においては諸物性が変化しやすいが、流れ方向では諸物性が殆ど同一である。このため、大サンプルS1が条件1及び条件2を満たす場合、ロールにおける幅方向の位置が大サンプルS1と同一である箇所については、ロールの流れ方向の全体において条件1及び2を満たすものと擬制できる。
(4)大サンプルS2、・・・Snについても、上記(2)~(3)と同様の作業を行い、大サンプルS2、・・・Snが条件1及び条件2を満たすか否かを判定する。そして、大サンプルS2、・・・Snのうち、条件1及び条件2を満たす大サンプルとロールにおける幅方向の位置が同一である箇所については、ロールの流れ方向全体において条件1及び2を満たすものと擬制する。後述する条件3も同様である。
【0020】
条件1及び条件2では、小サンプルの縁から5mmを除いた30mm×40mmの領域を4万7千以上の数の領域に細分化した後、細分化したそれぞれの領域に関して、面内位相差及び遅相軸の角度を測定することを要する。領域を細分化する数が4万7千以上であれば、標準偏差σの値は十分に信頼できる。このため、領域を細分化する数は、例えば、4万7千程度であってもよいし、7万程度であってもよいし、10万程度であってもよい。言うまでもないが、細分化した各領域の大きさは略均等とするものとする。このような測定は、例えば、複屈折の2次元分布評価装置で測定することができる。
複屈折の2次元分布評価装置としては、フォトニックラティス社の商品名「WPA-200-L」が挙げられる。フォトニックラティス社の商品名「WPA-200-L」を用いた場合、装置のステージに小サンプルをセットし、30mm×40mmの領域を表示するピクセル数が4万7千以上となるようにプレビューの領域を調整することにより、4万7千以上の数に細分化したそれぞれの領域の面内位相差及び遅相軸の角度を測定できる。
【0021】
条件1の面内位相差、後述する条件3の厚み方向の位相差は、各測定箇所における屈折率が最も大きい方向である遅相軸方向の屈折率nx、各測定箇所における前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率ny、プラスチックフィルムの厚み方向の屈折率nz、及び、プラスチックフィルムの厚みT[nm]により、下記式(1)及び(2)によって表わされるものである。本明細書において、“面内位相差”のことを“Re”、“厚み方向の位相差”のことを“Rth”と表記する場合がある。
面内位相差(Re)=(nx-ny)×T[nm] (1)
厚み方向の位相差(Rth)=((nx+ny)/2-nz)×T[nm] (2)
【0022】
本開示の光学用のプラスチックフィルムは、下記の条件1を満たすことを要する。
<条件1>
プラスチックフィルムから200mm×300mmの大きさの大サンプルを切り出す。前記大サンプルを40mm×50mmの30個の小サンプルに分割する。それぞれの小サンプルの縁から5mmを除いた30mm×40mmの領域を4万7千以上の数の領域に細分化した後、細分化したそれぞれの領域の面内位相差を測定する。前記30個の小サンプルのうち、各測定領域の面内位相差の平均が50nm以上1200nm以下を示す小サンプルの割合が50%以上である。
本明細書において、条件1及び条件2は、波長543nmにおける値を意味するものとする。
【0023】
プラスチックフィルムの面内位相差の平均が50nm未満の場合、ブラックアウトを抑制することが困難である。この原因は、面内位相差の平均が50nm未満のプラスチックフィルムは、直線偏光を殆ど乱すことができず、直線偏光をそのまま透過してしまうためである。
一方、プラスチックフィルムの面内位相差の平均が1200nmを超える場合、裸眼で視認した際の虹ムラを抑制することができない。
また、面内位相差の平均が50nm以上1200nm以下を示す小サンプルがあったとしても、その割合が50%未満の場合には、ブラックアウトを抑制できないか、裸眼で視認した際の虹ムラを抑制できない。30個の小サンプルのうち、各測定領域の面内位相差の平均が50nm以上1200nm以下を示す小サンプルの割合は、70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。
特許文献3のように面内位相差を3000nm以上とする技術は、画像表示装置の分光スペクトルの形状がシャープである場合には虹ムラを抑制できない。一方、本開示のように面内位相差を小さくする場合、画像表示装置の分光スペクトルの形状がシャープであっても虹ムラを解消することができる。
【0024】
条件1において、面内位相差の平均は、ブラックアウトをより抑制しやすくするため、100nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることがより好ましく、250nm以上であることがより好ましく、300nm以上であることがより好ましく、400nm以上であることがより好ましく、520nm以上であることがより好ましく、620nm以上であることがより好ましい。なお、プラスチックフィルムの面内位相差の平均が小さすぎると、遅相軸の角度の標準偏差σが大きくなりすぎる場合がある。このため、面内位相差の平均を所定の値以上とすることは、遅相軸の角度の標準偏差σを大きくし過ぎないようにする点においても好ましい。
また、プラスチックフィルムの面内位相差が小さいことは、プラスチックフィルムを構成する樹脂の分子配向が不十分であること、及び/又は、プラスチックフィルムの厚みが薄いことを意味する。このため、プラスチックフィルムの面内位相差の平均を所定の値以上とすることにより、プラスチックフィルムの鉛筆硬度を良好にすることができる。プラスチックフィルムの鉛筆硬度を良好にするためには、プラスチックフィルムの面内位相の平均が100nm以上であることが好ましく、520nm以上であることがより好ましく、620nm以上であることがさらに好ましい。
条件1において、面内位相差の平均は、裸眼で視認した際の虹ムラを抑制しやすくするため、1100nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることがより好ましく、950nm以下であることがより好ましい。また、面内位相差の平均が大きいと、後述する耐屈曲性が低下する傾向がある。面内位相差の平均を950nm以下とすることにより、耐屈曲性の低下を抑制しやすくできる。
【0025】
本明細書で示す構成要件において、数値の上限の選択肢及び下限の選択肢がそれぞれ複数示されている場合には、上限の選択肢から選ばれる一つと、上限の選択肢から選ばれる一つとを組み合わせ、数値範囲の実施形態とすることができる。
例えば、上記の面内位相差の平均の場合、50nm以上1200nm以下、50nm以上1100nm以下、50nm以上1000nm以下、50nm以上950nm以下、100nm以上1200nm以下、100nm以上1100nm以下、100nm以上1000nm以下、100nm以上950nm以下、150nm以上1200nm以下、150nm以上1100nm以下、150nm以上1000nm以下、150nm以上950nm以下、200nm以上1200nm以下、200nm以上1100nm以下、200nm以上1000nm以下、200nm以上950nm以下、250nm以上1200nm以下、250nm以上1100nm以下、250nm以上1000nm以下、250nm以上950nm以下、300nm以上1200nm以下、300nm以上1100nm以下、300nm以上1000nm以下、300nm以上950nm以下、400nm以上1200nm以下、400nm以上1100nm以下、400nm以上1000nm以下、400nm以上950nm以下、520nm以上1200nm以下、520nm以上1100nm以下、520nm以上1000nm以下、520nm以上950nm以下、620nm以上1200nm以下、620nm以上1100nm以下、620nm以上1000nm以下、620nm以上950nm以下、の数値範囲の実施形態が挙げられる。
【0026】
細分化したそれぞれの領域の面内位相差の標準偏差σは特に限定されないが、下限は、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがよりさらに好ましく、上限は、100nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。
面内位相差の標準偏差σの範囲の実施形態としては、5nm以上100nm以下、5nm以上70nm以下、5nm以上50nm以下、10nm以上100nm以下、10nm以上70nm以下、10nm以上50nm以下、15nm以上100nm以下、15nm以上70nm以下、15nm以上50nm以下、20nm以上100nm以下、20nm以上70nm以下、20nm以上50nm以下が挙げられる。
【0027】
本開示の光学用のプラスチックフィルムは、下記の条件2を満たすことを要する。
<条件2>
前記30個の小サンプルについて、前記条件1と同様にして、それぞれの小サンプルの細分化したそれぞれの領域の遅相軸の角度を測定する。前記30個の小サンプルのうち、各測定領域の遅相軸の角度から算出した標準偏差σが0.8度以上を示す小サンプルの割合が50%以上である。
【0028】
遅相軸の角度の標準偏差σが0.8度以上であることは、プラスチックフィルムの遅相軸にズレがあることを示している。標準偏差σが0.8度未満の場合、ブラックアウトを抑制することができない、
また、遅相軸の角度の標準偏差σが0.8度以上を示す小サンプルがあったとしても、その割合が50%未満の場合には、部分的なブラックアウトによりディスプレイの情報を読み取ることができない。30個の小サンプルのうち、各測定領域の遅相軸の角度から算出した標準偏差σが0.8度以上を示す小サンプルの割合は、70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。
従来の光学用のプラスチックフィルムは、遅相軸の方向がずれないように設計しているが、本開示の光学用のプラスチックフィルムは、あえて遅相軸の方向をずらすことにおいて、従来の光学フィルムと構成が異なっている。また、本開示の光学用のプラスチックフィルムは、30mm×40mmという比較的狭い領域における遅相軸のバラツキに着目した点も特徴であるといえる。
【0029】
また、条件2を満たすことは、プラスチックフィルムの耐折り曲げ性を良好にすることができる点で好ましい。
一方、遅相軸が揃っている汎用の配向フィルムは、屈曲試験後にフィルムが破断したり、曲げ癖が強く残ったりしてしまう。具体的には、特許文献3のような一軸延伸フィルムは、遅相軸に沿って屈曲試験した場合には破断してしまい、遅相軸と直交する方向で屈曲試験した場合には曲げ癖が強く残ってしまう。また、汎用の二軸延伸フィルムは、遅相軸と直交する方向で屈曲試験した場合には曲げ癖が強く残ってしまう。
本開示のプラスチックフィルムは、折り曲げの方向に関わらず、屈曲試験後に曲げ癖が残ったり、破断したりすることを抑制できる点で好ましい。
【0030】
条件2において、標準偏差σは、0.9度以上であることが好ましく、1.0度以上であることがより好ましく、1.2度以上であることがさらに好ましく、1.6度以上であることがよりさらに好ましい。標準偏差σを1.6度以上とすることにより、ブラックアウトを抑制する効果を極めて良好にすることができる。
条件2の標準偏差σが大きすぎると、プラスチックフィルムの配向性が低くなり、機械的強度及び鉛筆硬度が低下したり、環境変化で皺が生じて視認性に悪影響を生じたりする傾向がある。このため、条件2において、標準偏差σは、20.0度以下であることが好ましく、15.0度以下であることがより好ましく、10.0度以下であることがより好ましく、7.0度以下であることがより好ましく、5.0度以下であることがより好ましい。
【0031】
条件2の標準偏差σの範囲の実施形態としては、0.8度以上、0.8度以上20.0度以下、0.8度以上15.0度以下、0.8度以上10.0度以下、0.8度以上7.0度以下、0.8度以上5.0度以下、0.9度以上20.0度以下、0.9度以上15.0度以下、0.9度以上10.0度以下、0.9度以上7.0度以下、0.9度以上5.0度以下、1.0度以上20.0度以下、1.0度以上15.0度以下、1.0度以上10.0度以下、1.0度以上7.0度以下、1.0度以上5.0度以下、1.2度以上20.0度以下、1.2度以上15.0度以下、1.2度以上10.0度以下、1.2度以上7.0度以下、1.2度以上5.0度以下、1.6度以上20.0度以下、1.6度以上15.0度以下、1.6度以上10.0度以下、1.6度以上7.0度以下、1.6度以上5.0度以下が挙げられる。
【0032】
本開示の光学用のプラスチックフィルムは、下記の条件2’を満たすことが好ましい。
<条件2’>
前記30個の小サンプルについて、前記条件1と同様にして、それぞれの小サンプルの細分化したそれぞれの領域の遅相軸の角度を測定する。前記30個の小サンプルのうち、各測定領域の遅相軸の角度から算出した標準偏差3σが30.0度以下を示す小サンプルの割合が50%以上である。
【0033】
条件2’の標準偏差3σが大きすぎると、プラスチックフィルムの配向性が低くなりすぎる場合があり、鉛筆硬度が低下する傾向がある。このため、標準偏差3σを30.0度以下とすることにより、プラスチックフィルムの鉛筆硬度を良好にしやすくできる。標準偏差3σは、25.0度以下であることがより好ましく、20.0度以下であることがより好ましく、15.0度以下であることがより好ましく、10.0度以下であることがより好ましい。
条件2’の標準偏差3σが小さすぎると、プラスチックフィルムの配向性が高くなりすぎることにより、プラスチックフィルムが脆くなる場合がある。このため、標準偏差3σは、2.4度以上であることが好ましく、2.7度以上であることがより好ましく、3.0度以上であることがより好ましく、3.6度以上であることがより好ましく、4.8度以上であることがより好ましい。
条件2’の標準偏差3σの範囲の実施形態としては、2.4度以上30.0度以下、2.4度以上25.0度以下、2.4度以上20.0度以下、2.4度以上15.0度以下、2.4度以上10.0度以下、2.7度以上30.0度以下、2.7度以上25.0度以下、2.7度以上20.0度以下、2.7度以上15.0度以下、2.7度以上10.0度以下、3.0度以上30.0度以下、3.0度以上25.0度以下、3.0度以上20.0度以下、3.0度以上15.0度以下、3.0度以上10.0度以下、3.6度以上30.0度以下、3.6度以上25.0度以下、3.6度以上20.0度以下、3.6度以上15.0度以下、3.6度以上10.0度以下、4.8度以上30.0度以下、4.8度以上25.0度以下、4.8度以上20.0度以下、4.8度以上15.0度以下、4.8度以上10.0度以下が挙げられる。
【0034】
本明細書において、条件1及び条件2の測定、並びに、条件2’、条件3~6及び全光線透過率等のその他の測定の雰囲気は、特に断りのない限り、温度23℃±5℃、相対湿度40%以上65%以下とする。また、特に断りのない限り、各測定の前に、前記雰囲気にサンプルを30分以上晒すものとする。
【0035】
本開示の光学用のプラスチックフィルムは、下記の条件3を満たすことが好ましい。
<条件3>
前記30個の小サンプルについて、それぞれ前記30mm×40mmの領域の中心で厚み方向の位相差を測定する。前記30個の小サンプルのうち、厚み方向の位相差が2000nm以上を示す小サンプルの割合が50%以上である。
本明細書において、条件3は、波長589.3nmにおける値を意味するものとする。
【0036】
条件3を満たすことにより、正面方向のみならず、斜め方向から視認した際のブラックアウトを抑制しやすくできる。30個の小サンプルのうち、厚み方向の位相差が2000nm以上を示す小サンプルの割合は、70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。
条件3において、厚み方向の位相差は、3000nm以上であることがより好ましく、4000nm以上であることがさらに好ましく、5000nm以上であることがよりさらに好ましい。
条件3における厚み方向の位相差の上限は特に限定されないが、後述する条件4を満たしやすくするため、15000nm以下が好ましく、より好ましくは12000nm以下、さらに好ましくは9000nm以下である。
【0037】
条件3の厚み方向の位相差の範囲の実施形態としては、2000nm以上、2000nm以上15000nm以下、2000nm以上12000nm以下、2000nm以上9000nm以下、3000nm以上15000nm以下、3000nm以上12000nm以下、3000nm以上9000nm以下、4000nm以上15000nm以下、4000nm以上12000nm以下、4000nm以上9000nm以下、5000nm以上15000nm以下、5000nm以上12000nm以下、5000nm以上9000nm以下が挙げられる。
【0038】
条件3の厚み方向の位相差は、例えば、大塚電子社製の商品名「RETS-100」により測定できる。
大塚電子社製の商品名「RETS-100」を用いて厚み方向の位相差等を測定する場合には、以下の手順(A1)~(A4)に沿って測定の準備をすることが好ましい。
【0039】
(A1)まず、RETS-100の光源を安定させるため、光源をつけてから60分以上放置する。その後、回転検光子法を選択するとともに、θモードを選択する。θモードは、角度方向位相差測定およびRth算出のモードである。このθモードを選択することにより、ステージは傾斜回転ステージとなる。
(A2)次いで、RETS-100に以下の測定条件を入力する。
(測定条件)
・リタデーション測定範囲:回転検光子法
・測定スポット径:φ5mm
・傾斜角度範囲:0°
・測定波長範囲:400nm以上800nm以下
・プラスチックフィルムの平均屈折率。例えば、PETフィルムの場合には、N=1.617とする。
・厚み:SEMで別途測定した厚み
(A3)次いで、この装置にサンプルを設置せずに、バックグラウンドデータを得る。装置は閉鎖系とする。光源を点灯させるごとに(A1)~(A3)を実施する。
(A4)その後、装置内のステージ上にサンプルを設置して、測定する。
【0040】
本開示の光学用のプラスチックフィルムは、下記の条件4を満たすことが好ましい。
<条件4>
前記30個の小サンプルのうち、前記厚み方向の位相差に対する前記面内位相差の平均が0.20以下を示す小サンプルの割合が50%以上である。
【0041】
前記厚み方向の位相差に対する前記面内位相差の平均は、“前記面内位相差の平均/前記厚み方向の位相差”である。面内位相差の平均/前記厚み方向の位相差が小さいことは、光学用のプラスチックフィルムの延伸の程度が均等な二軸性に近づくことを意味する。したがって、前記比を0.20以下とすることにより、プラスチックフィルムの機械的強度及び鉛筆硬度を良好にしやすくすることができ、また、環境変化でプラスチックフィルムに皺が生じて視認性に悪影響が生じることを抑制できる。30個の小サンプルのうち、前記比が0.20以下を示す小サンプルの割合は、70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。
条件4の比は、0.17以下であることがより好ましく、0.15以下であることがさらに好ましい。
条件4の比の下限は特に限定されない。条件4の比の下限は通常は0.01程度である。
【0042】
条件4の比の範囲の実施形態としては、0.20以下、0.01以上0.20以下、0.01以上0.17以下、0.01以上0.15以下が挙げられる。
条件4を満たすことによる上述した効果を得やすくするためには、条件1の面内位相差の平均が100nm以上であることが好ましい。
【0043】
<条件5>
前記30個の小サンプルについて、それぞれ前記30mm×40mmの領域の中心において、小サンプルを構成するプラスチックフィルムの表面から深さ20μmまでのエロージョン率を測定する。小サンプルを構成するプラスチックフィルムの表面から深さ20μmまでのエロージョン率の平均をE0-20と定義した際に、前記30個の小サンプルのうち、E0-20が1.4μm/g以上である小サンプルの割合が50%以上である。
【0044】
本明細書において、E0-20は、下記の測定条件で測定したものとする。
<測定条件>
純水と、分散液と、平均粒子径が4.2μmを基準として±8%以内である球形シリカとを、質量比968:2:30で混合してなる試験液を容器に収納する。前記容器内の前記試験液をノズルに送る。前記ノズル内に圧縮空気を送り、前記ノズル内で前記試験液を加速させ、前記ノズルの先端の噴射孔から所定量の前記試験液を前記プラスチックフィルムに対して垂直に噴射し、前記試験液中の球形シリカを前記プラスチックフィルムに衝突させる。前記ノズルの横断面形状は1mm×1mmの正方形として、前記噴射孔と前記プラスチックフィルムとの距離は4mmとする。また、前記ノズルに供給される前記試験液及び前記圧縮空気の流量、前記圧縮空気の圧力、前記ノズル内の前記試験液の圧力は、後述する校正により調整した所定の値とする。
所定量の前記試験液を噴射した後、前記試験液の噴射を一旦停止する。
前記試験液の噴射を一旦停止した後、前記プラスチックフィルムの前記試験液中の前記球形シリカが衝突した箇所について、断面プロファイルを測定する。
前記噴射口から所定量の前記試験液を噴射するステップ、所定量の前記試験液を噴射した後に前記試験液の噴射を一旦停止するステップ、及び、前記試験液の噴射を一旦停止した後に前記断面プロファイルを測定するステップ、の3つのステップを1サイクルとする操作を、断面プロファイルの深さが20μmを超えるまで実行する。そして、断面プロファイルの深さが20μmまでの各サイクルにおいて、各サイクルで進行した断面プロファイルの深さ(μm)を、各サイクルにおける試験液の噴射量(g)で除してなる、プラスチックフィルムのエロージョン率(μm/g)を算出する。断面プロファイルの深さが20μmまでの各サイクルのプラスチックフィルムのエロージョン率を平均して、前記E0-20を算出する。
【0045】
<校正>
前記試験液を前記容器に収納する。前記容器内の前記試験液を前記ノズルに送る。前記ノズル内に圧縮空気を送り、前記ノズル内で前記試験液を加速させ、前記ノズルの先端の噴射孔から任意の量の前記試験液を厚2mmのアクリル板に対して垂直に噴射し、前記試験液中の球形シリカを前記アクリル板に衝突させる。前記ノズルの横断面形状は1mm×1mmの正方形として、前記噴射孔と前記アクリル板との距離は4mmとする。
任意の量の前記試験液を噴射した後、前記試験液の噴射を一旦停止する。前記試験液の噴射を一旦停止した後、前記アクリル板の前記試験液中の前記球形シリカが衝突した箇所について、断面プロファイルを測定する。
断面プロファイルの深さ(μm)を、前記任意の量(g)で除してなる、アクリル板のエロージョン率(μm/g)を算出する。
前記アクリル板のエロージョン率が、1.88(μm/g)を基準として±5%の範囲を合格条件として、前記アクリル板のエロージョン率が前記範囲となるように、前記試験液及び前記圧縮空気の流量、前記圧縮空気の圧力、前記ノズル内の前記試験液の圧力を調整し、校正する。
【0046】
以下、エロージョン率の測定条件及び前記測定条件により算出されるエロージョン率の技術的意義について、
図6を引用しながら説明する。
図6のようなエロージョン率の測定装置としては、例えば、パルメソ社(Palmeso Co., Ltd.)のMSE試験装置の品番「MSE-A203」等が挙げられる。
【0047】
本開示のエロージョン率の測定条件では、まず、純水と、分散剤と、平均粒子径が4.2μmを基準として±8%以内である球形シリカとを、質量比968:2:30で混合してなる試験液を容器(110)に収納する。容器(110)内において、試験液は攪拌することが好ましい。
純水は、汎用の純水を用いることができる。純水は、一般的には、比抵抗値が0.1MΩ・cm以上15MΩ・cm以下である。
分散剤は、球形シリカを分散できるものであれば特に制限されない。分散剤としては、例えば、和光純薬工業社の商品名「デモールN(Demol N)」 が挙げられる。
「平均粒子径が4.2μmを基準として±8%以内」とは、言い換えると、平均粒子径が3.864μm以上4.536μm以下であることを意味する。
また、本明細書のエロージョン率の測定条件において、“球形シリカの平均粒子径”は、レーザー光回折法による粒度分布測定における体積平均値d50として測定したものであり、いわゆる“メディアン径”を意味する。
前記球形シリカは、前記粒度分布測定の結果において、頻度が最大を示す粒子径の頻度を100に規格化した際に、頻度が50を示す粒子径の幅が、4.2μmを基準として±10%以内であることが好ましい。“頻度が50を示す粒子径の幅”は、“頻度が50を示す粒子径であって、頻度が100を示す粒子径よりもプラス方向に位置する粒子径をX”、“頻度が50を示す粒子径であって、頻度が100を示す粒子径よりもマイナス方向に位置する粒子径をY”と定義した際に、“X-Y(μm)”で表されるものである。なお、本明細書において、“頻度が50を示す粒子径の幅”のことを“粒度分布の半値全幅”と称する場合がある。
【0048】
平均粒子径が4.2μmを基準として±8%以内である球形シリカとしては、パルメソ社(Palmeso Co., Ltd.)が指定する型番「MSE-BS-5-3」が挙げられる。パルメソ社(Palmeso Co., Ltd.)が指定する型番「MSE-BS-5-3」に該当する球形シリカとしては、例えば、ポッターズ・バロティーニ社(Potters-Ballotini Co., Ltd.)の品番「BS5-3」が挙げられる。
【0049】
容器内の試験液はノズル(510)に送り込まれる。試験液は、例えば、試験液用配管(210)を通してノズルに送ることができる。容器(110)とノズル(510)との間には、試験液の流量を測定するための流量計(310)が配置されていることが好ましい。試験液の流量は、前記校正により調整した値とする。
なお、
図6では、ノズル(510)は、噴射部(500)を構成する筐体(520)内に配置されている。
【0050】
ノズル(510)内には圧縮空気を送る。圧縮空気は、例えば、圧縮空気用配管(220)を通してノズルに送られる。ノズル内において、圧縮空気が送り込まれる位置は、試験液が送り込まれる位置よりも上流側とすることが好ましい。上流側とは、ノズルの噴射孔から遠い側をいう。
圧縮空気がノズル(510)に到達するまでに、圧縮空気の流量を測定するための流量計(320)、及び、圧縮空気の圧力を測定する圧力計(420)が配置されていることが好ましい。圧縮空気は、図示しないエアコンプレッサ等で供給することができる。
圧縮空気の流量及び圧力は、前記校正により調整した値とする。
【0051】
ノズル(510)内に圧縮空気が送られると、圧縮空気によって試験液がミキシングされながら加速される。そして、加速した試験液は、ノズル(510)の先端の噴射孔から噴射された後、プラスチックフィルム(10)に対して垂直に衝突する。プラスチックフィルムは、主として、試験液中の球形シリカ粒子により摩耗される。
なお、ノズル(510)内には、ノズル内の試験液の圧力を測定する圧力計(410)が配置されていることが好ましい。圧力計(410)は、圧縮空気が送りこまれる位置、及び、試験液が送り込まれる位置よりも下流側とすることが好ましい。
ノズル(510)内の試験液の圧力は、前記校正により調整した値とする。
【0052】
ノズル(510)の先端の噴射孔から噴射される試験液は、空気と混合して霧状に噴射される。このため、球形シリカ粒子のプラスチックフィルムに対する衝突圧力を低くすることができる。よって、1個の球形シリカ粒子によるプラスチックフィルムの摩耗量を微量に抑えることができる。
図7は、噴射部(500)から噴射した、純水(A1)及び球形シリカ(A2)を含む試験液により、プラスチックフィルム(10)が摩耗される状態のイメージ図である。
図7中、符号A3は空気、符号A4は摩耗されたプラスチックフィルムを示している。
また、試験液には冷却効果に優れる水が含まれているため、衝突時の熱を起因とするプラスチックフィルムの変形及び変質を実質的に排除することができる。すなわち、プラスチックフィルムの異常な摩耗を実質的に排除することができる。また、水は、摩耗されたプラスチックフィルムの表面を洗浄し、安定した摩耗を実現する役割もある。また、水は、球形シリカ粒子を加速したり、試験液の流体を制御したりする役割を有する。
また、プラスチックフィルムには、膨大な数の球形シリカが衝突することになるため、個々の球形シリカ粒子の微妙な物性の違いによる影響を排除することができる。
さらに、本開示の測定条件は、ノズルに供給される試験液の流量、ノズルに供給される圧縮空気の流量、ノズルに供給される圧縮空気の圧力、及びノズル内の試験液の圧力を前記校正で調整した値とするとともに、ノズルの横断面形状を1mm×1mmの正方形に特定し、噴射孔とプラスチックフィルムとの距離を4mmに特定することによって、プラスチックフィルムの摩耗量に影響を与える要素を特定している。なお、前記距離は、
図6の“d”で示される距離であり、ノズルの先端である噴射孔と、プラスチックフィルムとの垂直距離を意味する。
以上のことから、本開示の測定条件は、プラスチックフィルムに対して統計学的に安定した摩耗痕を形成できる測定条件であるといえる。
【0053】
プラスチックフィルム(10)は、測定装置(900)の試料取付台(810)に取り付ければよい。なお、プラスチックフィルムをステンレス板等の支持体(820)に貼り合わせた積層体を作製し、前記積層体を試料取付台(810)に取り付けることが好ましい。
【0054】
プラスチックフィルム(10)に噴射した試験液は、受容器(120)で回収し、返送配管(230)を通して、容器(110)に戻すことが好ましい。
【0055】
本開示の測定条件では、所定量の試験液を噴射した後、試験液の噴射を一旦停止すること、及び、試験液の噴射を一旦停止した後、プラスチックフィルムの試験液中の球形シリカが衝突した箇所の断面プロファイルを測定すること、を要件としている。
断面プロファイルは、試験液により摩耗されたプラスチックフィルムの断面形状を意味する。プラスチックフィルムは、主として、試験液中の球形シリカ粒子により摩耗される。
断面プロファイルは、例えば、触針式の表面形状測定装置及びレーザー干渉式の表面形状測定装置等の断面プロファイル取得部(600)により測定することができる。なお、断面プロファイル取得部(600)は、通常、試験液の噴射時は、プラスチックフィルム(10)とは離れた位置に配置されている。このため、プラスチックフィルム(10)及び断面プロファイル取得部(600)の少なくとも何れかが可動できることが好ましい。
パルメソ社(Palmeso Co., Ltd.)のMSE試験装置の品番「MSE-A203」は、断面プロファイルの測定手段は触針式である。
【0056】
さらに、本開示の測定条件では、噴射口から所定量の試験液を噴射するステップ、所定量の試験液を噴射した後に試験液の噴射を一旦停止するステップ、及び、試験液の噴射を一旦停止した後に断面プロファイルを測定するステップ、の3つのステップを1サイクルとする操作を、断面プロファイルの深さが20μmを超えるまで実行する。
上記操作を実行することにより、各サイクルにおけるプラスチックフィルムのエロージョン率を測定することができ、さらには、プラスチックフィルムのエロージョン率のバラツキを算出することができる。
上記サイクルは、断面プロファイルの深さが20μmを超えた後も継続してもよいが、断面プロファイルの深さが20μmを超えた時点で終了することが好ましい。また、“プラスチックフィルムの表面から深さ20μm”までの測定としている理由は、プラスチックフィルムの物性は、表面近傍は変動しやすい一方で、内部に向かうほど安定する傾向があることを考慮したためである。
【0057】
本明細書において、各サイクルのエロージョン率は、下記[式1]で表すことができる。
各サイクルのエロージョン率(μm/g)=各サイクルで進行した断面プロファイルの深さ(μm)/各サイクルの試験液の噴射量(g) [式1]
【0058】
式1において、“各サイクルで進行した断面プロファイルの深さ(μm)”とは、n回目のサイクルの断面プロファイルの深さをx(μm)、n+1回目のサイクルの断面プロファイルの深さをy(μm)と定義した際に、“y-x”で表される値を意味する。また、1サイクル目に関しては、1サイクル目の断面プロファイルの深さ(μm)が、“各サイクルで進行した断面プロファイルの深さ(μm)”に相当する。
なお、本明細書において、n回目のサイクルの断面プロファイルの深さは、n回目のサイクルにおける断面プロファイルの最深位置の深さを意味する。nは1以上の整数である。
【0059】
式1において、“各サイクルの試験液の噴射量(g)”は、原則として定量であるが、サイクルごとに若干の変動があっても構わない。
各サイクルの試験液の噴射量は特に制限されないが、下限は好ましくは0.5g以上、より好ましくは1.0g以上であり、上限は好ましくは3.0g以下、より好ましくは2.0g以下である。
【0060】
本開示の測定条件では、断面プロファイルの深さが20μmまでの各サイクルにおいてエロージョン率(μm/g)を算出する。そして、断面プロファイルの深さが20μmまでの各サイクルのエロージョン率を平均して、E0-20を算出する。
上記サイクルは、断面プロファイルの深さが20μmを超えるまで実施するが、断面プロファイルの深さが20μmを超えたサイクルのデータは、E0-20を算出するデータから外れることになる。
【0061】
一般的に、プラスチックフィルムは、柔らかい方が傷つきやすく、硬い方が傷つきにくいものである。本発明者らは、マルテンス硬さ、インデンテーション硬さ、弾性回復仕事量等のピコデンターによる深さ方向を含む評価で得られた値を鉛筆硬度の指標とすることを検討した。しかし、前述のマルテンス硬さ、インデンテーション硬さ、弾性回復仕事量等のパラメータは、鉛筆硬度の指標とすることはできなかった。
また、プラスチックフィルムは延伸すると強度が増す傾向がある。具体的には、未延伸のプラスチックフィルムより一軸延伸プラスチックフィルムの方が鉛筆硬度が良好な傾向があり、一軸延伸プラスチックフィルムより二軸延伸プラスチックフィルムの方が鉛筆硬度が良好な傾向がある。しかし、二軸延伸プラスチックフィルムでも鉛筆硬度が十分ではない場合があった。
本発明者らはプラスチックフィルムの鉛筆硬度の指標として、エロージョン率に関して検討した。上述したように、プラスチックフィルムは、柔らかい方が傷つきやすく、硬い方が傷つきにくいものであるため、エロージョン率が小さい方が鉛筆硬度を良好にし得るように考えられる。しかし、本発明者らは、逆に、エロージョン率E0-20を1.4μm/g以上と大きくすることにより、プラスチックフィルムが鉛筆硬度を良好にし得ることを見出した。また、本発明者らは、プラスチックフィルムのエロージョン率は、一軸延伸プラスチックフィルムより二軸延伸プラスチックフィルムの方が大きい値を示すこと、及び、二軸延伸プラスチックフィルムにおける鉛筆硬度の良否をエロージョン率により判別し得ることを見出した。
なお、プラスチックフィルムの鉛筆硬度には、上記したようにプラスチックフィルムを構成する樹脂の分子配向性も関与する。また、プラスチックフィルムは、σ及び3σが大きすぎない方が、鉛筆硬度等の機械的強度が良好になる傾向がある。
【0062】
プラスチックフィルムのエロージョン率が鉛筆硬度に相関する理由は、以下のように考えられる。
上述したように、本開示の測定条件では、水及び球形シリカを含む試験液は空気と混合して霧状に噴射される。このため、球形シリカ粒子のプラスチックフィルムに対する衝突圧力は低く抑えられる。よって、プラスチックフィルムが柔らかい場合、球形シリカがプラスチックフィルムに衝突した際の応力が分散されやすくなるため、プラスチックフィルムが摩耗されにくくなり、エロージョン率が低くなると考えられる。一方、プラスチックフィルムが硬い場合、球形シリカがプラスチックフィルムに衝突した際の応力が分散されにくいため、プラスチックフィルムが摩耗されやすくなり、エロージョン率が高くなると考えられる。
また、二軸延伸プラスチックフィルムにおけるエロージョン率の違いは、分子鎖の伸び具合の違い、及び、分子の配向度の違いなどに生じていると考えられる。例えば、二軸延伸プラスチックフィルムは、原則として、面内で分子は延ばされているが、面内で局所的に十分に伸びていない分子も存在することがある。このように、面内で局所的に十分に伸びていない分子の割合が多くなると、二軸延伸プラスチックフィルムは局所的に柔らかくなり、エロージョン率が低下すると考えられる。また、面内位相差が同等の二軸延伸プラスチックフィルムであっても、局所的な分子の配向の違いにより、異なるエロージョン率を示すと考えられる。
【0063】
30個の小サンプルのうち、E0-20が1.4μm/g以上である小サンプルの割合は、70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。
【0064】
条件5において、プラスチックフィルムのE0-20は、鉛筆硬度をより良好にするため、1.6μm/g以上であることがより好ましく、1.8μm/g以上であることがより好ましく、1.9μm/g以上であることがより好ましく、2.0μm/g以上であることがより好ましい。
E0-20は、プラスチックフィルムを割れにくくするために、3.0μm/g以下であることが好ましく、2.5μm/g以下であることがより好ましく、2.2μm/g以下であることがさらに好ましい。
E0-20の好ましい数値範囲の実施形態は、例えば、1.4μm/g以上3.0μm/g以下、1.4μm/g以上2.5μm/g以下、1.4μm/g以上2.2μm/g以下、1.6μm/g以上3.0μm/g以下、1.6μm/g以上2.5μm/g以下、1.6μm/g以上2.2μm/g以下、1.8μm/g以上3.0μm/g以下、1.8μm/g以上2.5μm/g以下、1.8μm/g以上2.2μm/g以下、1.9μm/g以上3.0μm/g以下、1.9μm/g以上2.5μm/g以下、1.9μm/g以上2.2μm/g以下、2.0μm/g以上3.0μm/g以下、2.0μm/g以上2.5μm/g以下、2.0μm/g以上2.2μm/g以下が挙げられる。
【0065】
上述したエロージョン率を測定する前には、前記校正を行うものとする。
例えば、校正は以下のように行うことができる。
【0066】
<校正>
前記試験液を前記容器に収納する。前記容器内の前記試験液を前記ノズルに送る。前記ノズル内に圧縮空気を送り、前記ノズル内で前記試験液を加速させ、前記ノズルの先端の噴射孔から任意の量の前記試験液を厚み2mmのアクリル板に対して垂直に噴射し、前記試験液中の球形シリカを前記アクリル板に衝突させる。前記ノズルの横断面形状は1mm×1mmの正方形として、前記噴射孔と前記アクリル板との距離は4mmとする。
任意の量の前記試験液を噴射した後、前記試験液の噴射を一旦停止する。前記試験液の噴射を一旦停止した後、前記アクリル板の前記試験液中の前記球形シリカが衝突した箇所について、断面プロファイルを測定する。
断面プロファイルの深さ(μm)を、前記任意の量(g)で除してなる、アクリル板のエロージョン率(μm/g)を算出する。
前記アクリル板のエロージョン率が、1.88(μm/g)を基準として±5%の範囲を合格条件として、前記アクリル板のエロージョン率が前記範囲となるように、前記試験液及び前記圧縮空気の流量、前記圧縮空気の圧力、前記ノズル内の前記試験液の圧力を調整し、校正する。
【0067】
校正で用いる試験液は、後に実施する測定条件で用いる試験液と同じものとする。
また、校正で用いる測定装置は、後に実施する測定条件で用いる測定装置と同じものとする。
校正と、後に実施する測定条件とで異なる点は、例えば、校正では試料として標準試料である厚み2mmのアクリル板を用いるのに対して、測定条件では試料としてプラスチックフィルムを用いる点である。
【0068】
標準試料である厚み2mmのアクリル板は、ポリメチルメタクリレート板であることが好ましい。また、標準試料である厚み2mmのアクリル板は、下記の測定条件Aで測定してなるアクリル板のエロージョン率の平均をAcEと定義した際に、AcEが1.786μm/g以上1.974μm/g以下であるものが好ましい。また、下記の測定条件Aにおける球形シリカとしては、パルメソ社(Palmeso Co., Ltd.)が指定する型番「MSE-BS-5-3」をが挙げられる。パルメソ社(Palmeso Co., Ltd.)が指定する型番「MSE-BS-5-3」に該当する球形シリカとしては、例えば、ポッターズ・バロティーニ社(Potters-Ballotini Co., Ltd.)の品番「BS5-3」が挙げられる。
<測定条件A>
純水と、分散剤と、平均粒子径が4.2μmを基準として±8%以内である球形シリカとを、質量比968:2:30で混合してなる試験液を容器に収納する。前記容器内の前記試験液をノズルに送る。前記ノズル内に圧縮空気を送り、前記ノズル内で前記試験液を加速させ、前記ノズルの先端の噴射孔から所定量の前記試験液を前記アクリル板に対して垂直に噴射し、前記試験液中の球形シリカを前記アクリル板に衝突させる。前記ノズルの横断面形状は1mm×1mmの正方形として、前記噴射孔と前記アクリル板との距離は4mmとする。また、前記ノズルに供給される前記試験液及び前記圧縮空気の流量、前記圧縮空気の圧力、前記ノズル内の前記試験液の圧力は、試験液の流量が100ml/分以上150ml/分以下、圧縮空気の流量が4.96L/分以上7.44L/分以下、圧縮空気の圧力が0.184MPa以上0.277MPa以下、ノズル内の試験液の圧力が0.169MPa以上0.254MPa以下とする。
前記試験液を4g噴射した後、前記試験液の噴射を一旦停止する。
前記試験液の噴射を一旦停止した後、前記アクリル板の前記試験液中の前記球形シリカが衝突した箇所について、断面プロファイルを測定する。
そして、断面プロファイルの深さ(μm)を、試験液の噴射量である4gで除してなる、アクリル板のエロージョン率であるAcEを算出する。AcEの単位は「μm/g」である。
【0069】
校正では、前記アクリル板のエロージョン率が、1.88(μm/g)を基準として±5%の範囲を合格条件として、前記アクリル板のエロージョン率が前記範囲となるように、前記試験液及び前記圧縮空気の流量、前記圧縮空気の圧力、前記ノズル内の前記試験液の圧力を調整する作業を実施する。
なお、「エロージョン率が、1.88(μm/g)を基準として±5%」とは、言い換えると、エロージョン率が1.786(μm/g)以上1.974(μm/g)以下であることを意味する。
【0070】
<条件6>
前記30個の小サンプルについて、それぞれ前記30mm×40mmの領域の中心において、小サンプルを構成するプラスチックフィルムの表面から深さ20μmまでのエロージョン率を測定する。小サンプルを構成するプラスチックフィルムの表面から深さ20μmまでのエロージョン率から算出してなるエロージョン率のバラツキをσ0-20と定義した際に、前記30個の小サンプルのうち、σ0-20/E0-20が0.100以下である小サンプルの割合が50%以上である。
本明細書において、σ0-20は、前記測定条件において、断面プロファイルの深さが20μmまでの各サイクルのエロージョン率から算出することができる。
【0071】
σ0-20/E0-20は、エロージョン率の変動係数を示しており、σ0-20/E0-20が小さいことは、プラスチックフィルムの厚み方向においてエロージョン率が変動しにくいことを意味している。σ0-20/E0-20を0.100以下とすることにより、厚み方向のエロージョン率が安定し、鉛筆硬度をより良好にしやすくできる。
また、σ0-20/E0-20を0.100以下とすることにより、プラスチックフィルムの厚み方向の膜質を均質にすることができる。プラスチックフィルムの厚み方向の膜質が均質であることとは、プラスチックフィルム自身の膜質の均質性につながる。プラスチックフィルムの厚み方向の膜質の均質性が低い場合、プラスチックフィルム上に機能層を安定して形成しにくい場合がある。このため、条件6を満たすことにより、プラスチックフィルム上に機能層を有する光学積層体の品質を向上しやすくできる。
【0072】
30個の小サンプルのうち、σ0-20/E0-20が0.100以下である小サンプルの割合は、70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。
【0073】
条件6において、σ0-20/E0-20は、上限はより好ましくは0.080以下、さらに好ましくは0.070以下、さらに好ましくは0.060以下、さらに好ましくは0.055以下である。
σ0-20/E0-20の値が小さくなるほど、プラスチックフィルムの厚み方向の膜質が均質であることを意味する。プラスチックフィルムの厚み方向の膜質が均質である場合、厚み方向に応力が伝播しやすくなる傾向がある。このため、σ0-20/E0-20は、0.020以上であることが好ましく、より好ましくは0.035以上である。
【0074】
σ0-20/E0-20の好ましい数値範囲の実施形態は、例えば、0.020以上0.100以下、0.020以上0.080以下、0.020以上0.070以下、0.020以上0.060以下、0.020以上0.055以下、0.035以上0.100以下、0.035以上0.080以下、0.035以上0.070以下、0.035以上0.060以下、0.035以上0.055以下が挙げられる。
【0075】
プラスチックフィルムのエロージョン率を上記範囲とするためには、プラスチックフィルムの面内で分子を均等に伸ばすことが好ましい。
プラスチックフィルムは、例えば、汎用の逐次二軸延伸により製造することができる。逐次二軸延伸の流れ方向の延伸において、延伸時間を短くするとエロージョン率が低下し、延伸時間を長くするとエロージョン率が上昇する傾向がある。この理由は、延伸時間が短いとプラスチックフィルムの面内で分子が均等に伸ばされにくい一方で、延伸時間が長いとプラスチックフィルムの面内で分子が均等に伸ばされやすくなるためだと考えらえる。すなわち、E0-20を1.4μm/g以上とするためには、延伸時間を長くすることが好ましい。さらに、物性がバラつかない程度に延伸倍率を適度に大きくしつつ、延伸時間を長くすることで、よりE0-20を1.4μm/g以上にしやすくできる。
【0076】
<プラスチックフィルムの幅方向と遅相軸との関係>
光学用のプラスチックフィルムは、幅方向の全体において、配向性が高いことが好ましい。プラスチックフィルムの幅方向の全体における配向性が高い状態とは、1000mm幅のプラスチックフィルムにおいて、幅方向全体の遅相軸の振れ幅が24.0度以下になることである。振れ幅とは、幅方向の全体における遅相軸の角度の最小値と最大値との差の半分の値を意味する。
厚み15μm以上100μm以下のPET等の汎用の2軸延伸の光学用プラスチックフィルムは、ボーイング現象により、プラスチックフィルムの幅方向全体における遅相軸の振れ幅が大きくなる。具体的には、汎用の幅1000mmの2軸延伸の光学用プラスチックフィルムの幅方向全体における遅相軸の振れ幅は30.0度近くある。(本開示の光学用のプラスチックフィルムの条件2は、30mm×40mmという狭い領域における遅相軸のバラツキを特定している。一方、前述のプラスチックフィルムの幅方向全体における遅相軸の振れ幅は、広い領域における遅相軸の振れ幅を特定している点が相違している。)
プラスチックフィルムの幅方向の全体における遅相軸の振れ幅を24.0度以下とすることにより、プラスチックフィルムの幅方向における鉛筆硬度等の物理特性のバラツキを抑制しやすくできる。前記の振れ幅は、20.0度以下がより好ましく、17.0度以下がさらに好ましい。
なお、前記の振れ幅が小さ過ぎると、プラスチックフィルムが十分に二軸延伸されていない場合がある。このため、前記の振れ幅は、4.0度以上が好ましく、6.0度以上がより好ましく、8.0度以上がさらに好ましい。
光学用のプラスチックフィルムの幅方向または流れ方向に対する遅相軸の傾きは、24.0度以下であることが好ましく、20.0度以下であることがより好ましい。大きなプラスチックフィルムから四角形のプラスチックフィルムを切り出す場合、大きなプラスチックフィルムの幅方向及び流れ方向に沿って切り出すことが多い。プラスチックフィルムの幅方向に対する遅相軸の傾きが小さいほど、切り出したプラスチックフィルムの幅方向と、プラスチックフィルムの遅相軸の方向との差分が小さくなるため、光学用のプラスチックフィルムを画像表示装置に適用した際の光学特性を安定しやすくできる。なお、ブラックアウトを抑制しやすくするために、プラスチックフィルムの幅方向に対する遅相軸の傾きを大きくする技術も検討されている。しかし、本開示の光学用のプラスチックフィルムは、条件2を満たすことによりブラックアウトを抑制できるため、プラスチックフィルムの幅方向に対する遅相軸の傾きを大きくする必要がない。
プラスチックフィルムの遅相軸は、例えば、大塚電子社製の商品名「RETS-100」では“配向角(度)”として測定できる。
【0077】
<プラスチックフィルム>
プラスチックフィルムの積層構成は、単層構造及び多層構造が挙げられる。この中でも単層構造であることが好ましい。
プラスチックフィルムは、機械的強度を良好にしつつ虹ムラを抑制するために、面内位相差の小さい延伸プラスチックフィルムとすることが好ましい。そして、延伸プラスチックフィルムの面内位相差を小さくするためには、流れ方向及び幅方向の延伸を均等に近づけるなどの細かな延伸制御が重要となる。単層構造は、厚み方向の物性が略均一であり、多層構造よりも細かな延伸制御を行いやすい点で好ましい。
【0078】
プラスチックフィルムを構成する樹脂成分としては、ポリエステル、トリアセチルセルロース(TAC)、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリウレタン及び非晶質オレフィン(Cyclo-Olefin-Polymer:COP)等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステルは、機械的強度及び鉛筆硬度を良好にしやすい点で好ましい。すなわち、光学用のプラスチックフィルムはポリエステルフィルムであることが好ましい。
ポリエステルフィルムは、上述したように、鉛筆硬度等を良好にしやすいため、画像表示装置の表面材として好適に用いることができる。
一方、ポリカーボネートフィルム及び非晶質オレフィンフィルムは、フィルム自身の鉛筆硬度がB以下と低いものが多い。このため、ポリカーボネートフィルム及び非晶質オレフィンフィルムの鉛筆硬度を良好にするためには、フィルムを厚くしたり、非常に厚い機能層を設けたり、更にはスパッタ膜でカバーしたりするなど工夫が必須となる。このように、ポリカーボネートフィルム及び非晶質オレフィンフィルムは、鉛筆硬度を高める際に厚膜化する等のデメリットがあるため、画像表示装置の表面材として使用しにくい。
また、プラスチックフィルムを構成する樹脂として、トリアセチルセルロース、シクロオレフィン系樹脂及びポリメチルメタクリレート等の光学等方性を付与しやすい樹脂を用いることにより、延伸プラスチックフィルムであっても面内位相差を限りなく小さくするという検討がなされている。しかし、トリアセチルセルロース、シクロオレフィン系樹脂及びポリメチルメタクリレートを用いた延伸プラスチックフィルムは、製造条件の制御が困難であるため、面内位相差及び遅相軸のバラツキの範囲等の光学特性を、本開示の光学用のプラスチックフィルムの光学特性の好ましい範囲に調整することが難しい傾向がある。
【0079】
ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)及びポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。これらの中でも、固有複屈折が低く面内位相差を低くしやすい点で、PETが好ましい。
【0080】
プラスチックフィルムは、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、ゲル化防止剤及び界面活性剤等の添加剤を含有しても良い。
【0081】
プラスチックフィルムの厚みは、機械的強度を良好にするため、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることがよりさらに好ましい。
プラスチックフィルムの厚みは、条件1を満たしやすくするため、及び、耐屈曲性を良好にするため、75μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましく、55μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることがよりさらに好ましい。
【0082】
プラスチックフィルムの厚みの範囲の実施形態としては、10μm以上75μm以下、10μm以上60μm以下、10μm以上55μm以下、10μm以上50μm以下、20μm以上75μm以下、20μm以上60μm以下、20μm以上55μm以下、20μm以上50μm以下、25μm以上75μm以下、25μm以上60μm以下、25μm以上55μm以下、25μm以上50μm以下、30μm以上75μm以下、30μm以上60μm以下、30μm以上55μm以下、30μm以上50μm以下が挙げられる。
【0083】
光学用のプラスチックフィルムは、JIS K7136:2000のヘイズが3.0%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。
光学用のプラスチックフィルムは、JIS K7361-1:1997の全光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0084】
プラスチックフィルムは、機械的強度及び鉛筆硬度を良好にするために、延伸プラスチックフィルムであることが好ましく、延伸ポリエステルフィルムであることがより好ましい。さらに、延伸ポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂層の単層構造であることがより好ましい。
【0085】
延伸プラスチックフィルムは、プラスチックフィルムを構成する成分を含む樹脂層を延伸することによって得ることができる。延伸の手法は、逐次二軸延伸及び同時二軸延伸等の二軸延伸、縦一軸延伸等の一軸延伸が挙げられる。これらの中でも、面内位相差を低くしやすく、かつ、機械的強度及び鉛筆硬度を高くしやすい二軸延伸が好ましい。すなわち、延伸プラスチックフィルムは、二軸延伸プラスチックフィルムであることが好ましい。二軸延伸プラスチックフィルムの中でも二軸延伸ポリエステルフィルムが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。
【0086】
-逐次二軸延伸-
逐次二軸延伸では、キャスティングフィルムを流れ方向に延伸した後に、フィルムの幅方向の延伸を行う。
流れ方向の延伸は、通常は、延伸ロールの周速差により施され、1段階で行ってもよいが、複数本の延伸ロール対を使用して多段階に行っても良い。面内位相差等の光学特性の過度なバラツキを抑制するため、延伸ロールには複数のニップロールを近接させることが好ましい。流れ方向の延伸倍率は、通常は2倍以上15倍以下であり、面内位相差等の光学特性の過度なバラツキを抑制するため、好ましくは2倍以上7倍以下、より好ましくは3倍以上5倍以下、さらに好ましくは3倍以上4倍以下である。
延伸温度は、面内位相差等の光学特性の過度なバラツキを抑制するため、樹脂のガラス転移温度以上であって、かつ、ガラス転移温度+100℃以下が好ましい。PETの場合、70℃以上120℃以下が好ましく、80℃以上110℃以下がより好ましく、95℃以上110℃以下がさらに好ましい。フィルムを速く昇温するなどして、低温での延伸区間を短くすることにより、面内位相差の平均値が小さくなる傾向がある。
【0087】
延伸時の加熱又は延伸後の冷却の際に、フィルムに対して乱流を含む風を送風することが好ましい。乱流を含む風を送風することにより、フィルム面内の微細な領域で温度差が生じ、さらに、前記温度差によって配向軸に微細なズレが生じやすくなるため、条件2を満たしやすくできる。
【0088】
流れ方向に延伸したフィルムに、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。また、インラインコーティングの前に、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施してもよい。
このようにインラインコーティングに形成される塗膜は厚み10nm以上2000nm以下程度のごく薄いものである。前記塗膜は延伸処理によりさらに薄く引き延ばされる。本明細書では、このような薄い層は、プラスチックフィルムを構成する層の数としてカウントしないものとする。
【0089】
幅方向の延伸は、通常は、テンター法を用いて、フィルムの両端をクリップで把持して搬送しながら幅方向に延伸する。幅方向の延伸倍率は、通常は2倍以上15倍以下である。幅方向の延伸倍率は、面内位相差等の光学特性の過度なバラツキを抑制するため、好ましくは2倍以上5倍以下、より好ましくは3倍以上5倍以下、さらに好ましくは3倍以上4.5倍以下である。また、縦延伸倍率よりも幅延伸倍率を高くすることが好ましい。
延伸温度は、樹脂のガラス転移温度以上であって、かつ、ガラス転移温度+120℃以下が好ましく、上流から下流に行くに従って温度が高くなっていくことが好ましい。具体的には、幅方向の延伸区間を2分割した場合、上流の温度と下流の温度の差は好ましくは20℃以上であり、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは35℃以上、よりさらに好ましくは40℃以上である。PETの場合、1段目の延伸温度は80℃以上120℃以下が好ましく、90℃以上110℃以下がより好ましく、95℃以上105℃以下がさらに好ましい。
【0090】
上記のように逐次二軸延伸されたプラスチックフィルムは、平面性、寸法安定性を付与するために、テンター内で、延伸温度以上かつ融点未満の熱処理を行うのが好ましい。具体的には、PETの場合、150℃以上255℃以下の範囲で熱固定を行うことが好ましく、200℃以上250℃以下がより好ましい。また、面内位相差等の光学特性の過度なバラツキを抑制するため、熱処理前半で1%以上10%以下の追延伸を行うことが好ましい。
逐次二軸延伸の後であって、上記熱処理の前に、乱流を含む風でプラスチックフィルムを冷却することが好ましい。前記冷却工程により、フィルム面内の微細な領域で温度差が生じ、さらに、前記温度差によって配向軸に微細なズレが生じやすくなるため、条件2を満たしやすくできる。
【0091】
プラスチックフィルムを熱処理した後は、室温まで徐冷した後に巻き取られる。また、必要に応じて、熱処理や徐冷の際に弛緩処理などを併用してもよい。熱処理時の弛緩率は、面内位相差等の光学特性の過度なバラツキを抑制するため、0.5%以上5%以下が好ましく、0.5%以上3%以下がより好ましく、0.8%以上2.5%以下がさらに好ましく、1%以上2%以下がよりさらに好ましい。また、徐冷時の弛緩率は、面内位相差等の光学特性の過度なバラツキを抑制するため、0.5%以上3%以下が好ましく、0.5%以上2%以下がより好ましく、0.5%以上1.5%以下がさらに好ましく、0.5%以上1.0%以下がよりさらに好ましい。徐冷時の温度は、平面性を良好にするため、80℃以上150℃以下が好ましく、90℃以上130℃以下がより好ましく、100℃以上130℃以下がさらに好ましく、100℃以上120℃以下がよりさらに好ましい。
【0092】
-同時二軸延伸-
同時二軸延伸は、キャスティングフィルムを同時二軸テンターへ導き、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、流れ方向と幅方向に同時および/または段階的に延伸する。同時二軸延伸機としては、パンタグラフ方式、スクリュー方式、駆動モーター方式、リニアモーター方式があるが、任意に延伸倍率を変更可能であり、任意の場所で弛緩処理を行うことができる駆動モーター方式もしくはリニアモーター方式が好ましい。
【0093】
同時二軸延伸の倍率は、面積倍率として通常は6倍以上50倍以下であり、面内位相差等の光学特性の過度なバラツキを抑制するため、好ましくは8倍以上30倍以下、より好ましくは9倍以上25倍以下、さらに好ましくは9倍以上20倍以下、よりさらに好ましくは10倍以上15倍以下である。
また、同時二軸延伸の場合には、面内の配向差を抑制するために、流れ方向と幅方向の延伸倍率を同一とするとともに、延伸速度もほぼ等しくなるようにすることが好ましい。
【0094】
同時二軸延伸の延伸温度は、面内位相差等の光学特性の過度なバラツキを抑制するため、樹脂のガラス転移温度以上、かつ、ガラス転移温度+120℃以下が好ましい。PETの場合、80℃以上160℃以下が好ましく、90℃以上150℃以下がより好ましく、100℃以上140℃以下がさらに好ましい。
【0095】
同時二軸延伸されたフィルムは、平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内の熱固定室で延伸温度以上融点未満の熱処理を行うのが好ましい。前記熱処理の条件は、逐次二軸延伸後の熱処理条件と同様である。
【0096】
<大きさ>
光学用のプラスチックフィルムは、所定の大きさにカットした枚葉状の形態でもよいし、長尺シートをロール状に巻き取ったロール状の形態であってもよい。枚葉の大きさは特に限定されないが、最大径が14.2インチ以上500インチ以下程度である。“最大径”とは、光学用のプラスチックフィルムの任意の2点を結んだ際の最大長さをいうものとする。例えば、光学用のプラスチックフィルムが長方形の場合は、長方形の対角線が最大径となる。光学用のプラスチックフィルムが円形の場合は、円の直径が最大径となる。
ロール状の幅及び長さは特に限定されないが、一般的には、幅は300mm以上9000mm以下、長さは100m以上5000m以下程度である。ロール状の形態の光学用のプラスチックフィルムは、画像表示装置等の大きさに合わせて、枚葉状にカットして用いることができる。カットする際、物性が安定しないロール端部は除外することが好ましい。
枚葉の形状も特に限定されず、例えば、三角形、四角形、五角形等の多角形であってもよいし、円形であってもよいし、ランダムな不定形であってもよい。
【0097】
<用途>
本開示の光学用のプラスチックフィルムは、画像表示装置のプラスチックフィルムとして好適に用いることができる。
また、上述したように、本開示のプラスチックフィルムは、折り曲げの方向に関わらず、屈曲試験後に曲げ癖が残ったり、破断したりすることを抑制できるため、フォルダブル型の画像表示装置、ローラブル型の画像表示装置、曲面形状を有する画像表示装置用のプラスチックフィルムとしてより好適に用いることができる。
また、本開示の光学用のプラスチックフィルムは、画像表示装置の表示素子の光出射面側に配置するプラスチックフィルムとして好適に用いることができる。この際、表示素子と、本開示の光学用のプラスチックフィルムとの間に偏光子を有することが好ましい。
画像表示装置のプラスチックフィルムとしては、偏光子保護フィルム、表面保護フィルム、反射防止フィルム、タッチパネルを構成する導電性フィルム等の各種の機能性フィルムの基材として用いるプラスチックフィルムが挙げられる。
【0098】
[光学積層体]
本開示の光学積層体は、上述した本開示の光学用のプラスチックフィルム上に機能層を有するものである。
【0099】
機能層としては、ハードコート層、反射防止層、防眩層、位相差層、接着剤層、透明導電層、帯電防止層及び防汚層等から選ばれる1種以上が挙げられる。前述した機能層のうち、液晶層に代表される位相差層は、鉛筆硬度等の物理特性が弱く、さらに、耐光性が十分ではない傾向がある。このため、光学積層体が位相差層を有する場合、画像表示装置において、プラスチックフィルムを基準として光学積層体の位相差層側が表示素子側を向くように配置することが好ましい。
光学積層体の機能層は、反射防止層を含むことが好ましい。反射防止層は、プラスチックフィルムの機能層を有する側の最表面に配置することが好ましい。
光学積層体の機能層として、反射防止層を有することにより、虹ムラをより抑制することができる。
【0100】
本開示の光学積層体を構成する光学用のプラスチックフィルムは、上述したように所定の好適な条件を満たすことにより、鉛筆硬度を良好にしやすい。このため、本開示の光学積層体も、鉛筆硬度を良好にしやすくできる。よって、本開示の光学積層体は、画像表示装置の表面材として好適に用いることができる。なお、本開示の光学積層体を画像表示装置の表面材として用いる場合には、視認側の機能層として位相差層を有さないようにする。
【0101】
機能層は、ハードコート層及び反射防止層を含むことがより好ましい。機能層がハードコート層及び反射防止層を含む場合、プラスチックフィルム10上に、ハードコート層41及び反射防止層42がこの順に配置されていることが好ましい(
図3)。機能層がハードコート層及び反射防止層を含む場合、画像表示装置の表面材としての適性を高めることができる。
【0102】
反射防止層は、例えば、低屈折率層の単層構造;高屈折率層と低屈折率層の2層構造;3層構造以上の多層構造;が挙げられる。
【0103】
低屈折率層は、プラスチックフィルムの機能層を有する側の最表面に配置することが好ましい。
低屈折率層の屈折率は、下限は、1.10以上が好ましく、1.20以上がより好ましく、1.26以上がより好ましく、1.28以上がより好ましく、1.30以上がより好ましく、上限は、1.48以下が好ましく、1.45以下がより好ましく、1.40以下がより好ましく、1.38以下がより好ましく、1.32以下がより好ましい。
低屈折率層の屈折率の範囲の実施形態としては、1.10以上1.48以下、1.10以上1.45以下、1.10以上1.40以下、1.10以上1.38以下、1.10以上1.32以下、1.20以上1.48以下、1.20以上1.45以下、1.20以上1.40以下、1.20以上1.38以下、1.20以上1.32以下、1.26以上1.48以下、1.26以上1.45以下、1.26以上1.40以下、1.26以上1.38以下、1.26以上1.32以下、1.28以上1.48以下、1.28以上1.45以下、1.28以上1.40以下、1.28以上1.38以下、1.28以上1.32以下、1.30以上1.48以下、1.30以上1.45以下、1.30以上1.40以下、1.30以上1.38以下、1.30以上1.32以下が挙げられる。
本明細書において、低屈折率層及び高屈折率層等の反射防止層を構成する層の屈折率は、波長589.3nmにおける値を意味するものとする。
【0104】
低屈折率層の厚みは、下限は、80nm以上が好ましく、85nm以上がより好ましく、90nm以上がより好ましく、上限は、150nm以下が好ましく、110nm以下がより好ましく、105nm以下がより好ましい。
低屈折率層の厚みの範囲の実施形態としては、80nm以上150nm以下、80nm以上110nm以下、80nm以上105nm以下、85nm以上150nm以下、85nm以上110nm以下、85nm以上105nm以下、90nm以上150nm以下、90nm以上110nm以下、90nm以上105nm以下が挙げられる。
【0105】
低屈折率層を形成する手法としては、ウェット法とドライ法とに大別できる。ウェット法としては、金属アルコキシド等を用いてゾルゲル法により形成する手法、フッ素樹脂のような低屈折率の樹脂を塗工して形成する手法、樹脂組成物に低屈折率粒子を含有させた低屈折率層形成用塗布液を塗工して形成する手法が挙げられる。ドライ法としては、物理気相成長法又は化学気相成長法により低屈折率層を形成する手法が挙げられ、材料としては、例えばSiO2、SiOx(x=1以上2以下)、MgF2などが挙げられる。
ウェット法は、生産効率、斜め反射色相の抑制、及び耐薬品性の点で、ドライ法よりも優れている。本実施形態においては、ウェット法の中でも、密着性、耐水性、耐擦傷性及び低屈折率化のため、バインダー樹脂組成物に低屈折率粒子を含有させた低屈折率層形成用塗布液により形成することが好ましい。言い換えると、低屈折率層は、バインダー樹脂及び低屈折率粒子を含むことが好ましい。
【0106】
低屈折率層のバインダー樹脂は、硬化性樹脂組成物の硬化物を含むことが好ましい。低屈折率層の全バインダー樹脂に対する硬化性樹脂組成物の硬化物の割合は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
低屈折率層の硬化性樹脂組成物としては、熱硬化性樹脂組成物又は電離放射線硬化性樹脂組成物が挙げられる。熱硬化性樹脂組成物又は電離放射線硬化性樹脂組成物等の硬化性樹脂組成物は、汎用の組成物を用いることができる。
【0107】
低屈折率粒子は、中空粒子及び非中空粒子から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。低反射及び耐擦傷性のバランスのため、中空粒子から選ばれる1種以上と、非中空粒子から選ばれる1種以上とを併用することが好ましい。
中空粒子及び非中空粒子の材質は、シリカ及びフッ化マグネシウム等の無機化合物、有機化合物のいずれであってもよいが、低屈折率化及び強度のため、シリカが好ましい。すなわち、低屈折率層は、低屈折率粒子として、中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子を含むことが好ましい。
【0108】
光学的特性および機械的強度を考慮すると、中空粒子粒子の平均粒子径は、下限は、50nm以上であることが好ましく、60nm以上であることがより好ましく、上限は、100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましい。中空粒子粒子の平均粒子径の範囲の実施形態としては、50nm以上100nm以下、50nm以上80nm以下、60nm以上100nm以下、60nm以上80nm以下が挙げられる。
非中空粒子の凝集を防止しつつ分散性を考慮すると、非中空粒子の平均粒子径は、下限は、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、上限は、20nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがより好ましい。非中空粒子の平均粒子径の範囲の実施形態としては、5nm以上20nm以下、5nm以上15nm以下、10nm以上20nm以下、10nm以上15nm以下が挙げられる。
【0109】
中空粒子の含有量が多くなるほど、バインダー樹脂中の中空粒子の充填率が高くなり、低屈折率層の屈折率が低下する。このため、中空粒子の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して100質量部以上であることが好ましく、150質量部以上であることがより好ましい。
一方で、バインダー樹脂に対する中空粒子の含有量が多すぎると、バインダー樹脂から露出する中空粒子が増加する上、粒子間を結合するバインダー樹脂が少なくなることにより、低屈折率層の耐擦傷性等の機械的強度が低下する傾向がある。このため、中空粒子の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して400質量部以下であることが好ましく、300質量部以下であることがより好ましい。
バインダー樹脂100質量部に対する中空粒子の含有量の範囲の実施形態としては、100質量部以上400質量部以下、100質量部以上300質量部以下、150質量部以上400質量部以下、150質量部以上300質量部以下が挙げられる。
【0110】
非中空粒子の含有量が少ない場合には、低屈折率層の表面に非中空粒子が存在していても硬度上昇に影響を及ぼさないことがある。一方、非中空粒子の含有量が多い場合には、バインダー樹脂の重合による収縮ムラの影響が小さくなることにより樹脂硬化後に低屈折率層表面に発生する凹凸が小さくなるため、さらには耐擦傷性を向上しやすくできる。このため、非中空粒子の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、70質量部以上であることがより好ましく、100質量部以上であることがより好ましい。
一方で、非中空粒子の含有量が多すぎる場合には、非中空粒子が凝集しやすくなることによりバインダー樹脂の収縮ムラが生じるため、表面の凹凸が大きくなる。このため、非中空粒子の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることがより好ましい。
バインダー樹脂100質量部に対する非中空粒子の含有量の範囲の実施形態としては、10質量部以上200質量部以下、10質量部以上150質量部以下、50質量部以上200質量部以下、50質量部以上150質量部以下、70質量部以上200質量部以下、70質量部以上150質量部以下、100質量部以上200質量部以下、100質量部以上150質量部以下が挙げられる。
【0111】
高屈折率層は、低屈折率層よりもプラスチックフィルム側に配置することが好ましい。後述するハードコート層を有する場合、高屈折率層は、ハードコート層と低屈折率層との間に形成することが好ましい。
【0112】
高屈折率層の屈折率は、下限は、1.53以上が好ましく、1.54以上がより好ましく、1.55以上がより好ましく、1.56以上がより好ましく、上限は、1.85以下が好ましく、1.80以下がより好ましく、1.75以下がより好ましく、1.70以下がより好ましい。
高屈折率層の屈折率の範囲の実施形態としては、1.53以上1.85以下、1.53以上1.80以下、1.53以上1.75以下、1.53以上1.70以下、1.54以上1.85以下、1.54以上1.80以下、1.54以上1.75以下、1.54以上1.70以下、1.55以上1.85以下、1.55以上1.80以下、1.55以上1.75以下、1.55以上1.70以下、1.56以上1.85以下、1.56以上1.80以下、1.56以上1.75以下、1.56以上1.70以下が挙げられる。
【0113】
高屈折率層の厚みは、上限は、200nm以下が好ましく、180nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましく、下限は、50nm以上が好ましく、70nm以上がより好ましい。
高屈折率層の厚みの範囲の実施形態としては、200nm以下、50nm以上200nm以下、50nm以上180nm以下、50nm以上150nm以下、70nm以上200nm以下、70nm以上180nm以下、70nm以上150nm以下が挙げられる。
高屈折率ハードコート層とする場合には、ハードコート層の厚みに準じることが好ましい。
【0114】
高屈折率層は、例えば、バインダー樹脂組成物及び高屈折率粒子を含む高屈折率層形成用塗布液から形成することができる。すなわち、高屈折率層は、バインダー樹脂及び高屈折率粒子を含むことが好ましい。
【0115】
高屈折率層のバインダー樹脂は、硬化性樹脂組成物の硬化物を含むことが好ましい。高屈折率層の全バインダー樹脂に対する硬化性樹脂組成物の硬化物の割合は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
高屈折率層の硬化性樹脂組成物としては、熱硬化性樹脂組成物又は電離放射線硬化性樹脂組成物が挙げられる。熱硬化性樹脂組成物又は電離放射線硬化性樹脂組成物等の硬化性樹脂組成物は、汎用の組成物を用いることができる。
【0116】
高屈折率粒子としては、五酸化アンチモン(屈折率:約1.79)、酸化亜鉛(屈折率:約1.90)、酸化チタン(屈折率:約2.3以上2.7以下)、酸化セリウム(屈折率:約1.95)、スズドープ酸化インジウム(屈折率:約1.95以上2.00以下)、アンチモンドープ酸化スズ(屈折率:約1.75以上1.85以下)、酸化イットリウム(屈折率:約1.87)及び酸化ジルコニウム(屈折率:約2.10)等が挙げられる。
【0117】
高屈折率粒子の平均粒子径は、2nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。また、高屈折率粒子の平均粒子径は、白化抑制及び透明性のため、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、80nm以下がより好ましく、60nm以下がより好ましく、30nm以下がより好ましい。
高屈折率粒子の平均粒子径の範囲の実施形態としては、2nm以上200nm以下、2nm以上100nm以下、2nm以上80nm以下、2nm以上60nm以下、2nm以上30nm以下、5nm以上200nm以下、5nm以上100nm以下、5nm以上80nm以下、5nm以上60nm以下、5nm以上30nm以下、10nm以上200nm以下、10nm以上100nm以下、10nm以上80nm以下、10nm以上60nm以下、10nm以上30nm以下が挙げられる。
【0118】
高屈折率粒子又は低屈折率粒子の平均粒子径は、以下の(y1)~(y3)の作業により算出できる。
(y1)高屈折率層又は低屈折率層の断面をSTEMで撮像する。STEMの加速電圧は10kV以上30kV以下、倍率は5万倍以上30万倍以下とすることが好ましい。STEMの市販品としては、日立ハイテクノロジーズ社の電界放出型走査電子顕微鏡の「品番:S-4800」が挙げられる。
(y2)観察画像から任意の10個の粒子を抽出した後、個々の粒子の粒子径を算出する。粒子径は、粒子の断面を任意の平行な2本の直線で挟んだとき、前記2本の直線間距離が最大となるような2本の直線の組み合わせにおける直線間距離として測定される。粒子が凝集している場合、凝集した粒子を一個の粒子とみなして測定する。
(y3)同じサンプルの別画面の観察画像において同様の作業を5回行った後、合計50個分の粒子径の数平均から得られる値を、高屈折率粒子又は低屈折率粒子の平均粒子径とする。
【0119】
ハードコート層は、熱硬化性樹脂組成物又は電離放射線硬化性樹脂組成物等の硬化性樹脂組成物の硬化物を主成分として含むものが好ましい。熱硬化性樹脂組成物又は電離放射線硬化性樹脂組成物等の硬化性樹脂組成物は、汎用の組成物を用いることができる。
主成分とは、ハードコート層を構成する樹脂成分の50質量%以上であることを意味し、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0120】
ハードコート層の厚みは、下限は、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、上限は30μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
ハードコート層の厚みの範囲の実施形態としては、0.5μm以上30μm以下、0.5μm以上10μm以下、1μm以上30μm以下、1μm以上10μm以下が挙げられる。
【0121】
<大きさ>
光学積層体は、所定の大きさにカットした枚葉状の形態でもよいし、長尺シートをロール状に巻き取ったロール状の形態であってもよい。枚葉の大きさは特に限定されないが、最大径が14.2インチ以上500インチ以下程度である。“最大径”とは、光学積層体の任意の2点を結んだ際の最大長さをいうものとする。例えば、光学積層体が長方形の場合は、長方形の対角線が最大径となる。光学積層体が円形の場合は、円の直径が最大径となる。
ロール状の幅及び長さは特に限定されないが、一般的には、幅は300mm以上9000mm以下、長さは100m以上5000m以下程度である。ロール状の形態の光学積層体は、画像表示装置等の大きさに合わせて、枚葉状にカットして用いることができる。カットする際、物性が安定しないロール端部は除外することが好ましい。
枚葉の形状も特に限定されず、例えば、三角形、四角形、五角形等の多角形であってもよいし、円形であってもよいし、ランダムな不定形であってもよい。
【0122】
[偏光板]
本開示の偏光板は、偏光子と、前記偏光子の一方の側に配置された第一の透明保護板と、前記偏光子の他方の側に配置された第二の透明保護板とを有する偏光板であって、前記第一の透明保護板及び前記第二の透明保護板の少なくとも一方が上述した本開示の光学用のプラスチックフィルムを含むものである。
【0123】
偏光板は、例えば、偏光板とλ/4位相差板とを組み合わせることにより反射防止性を付与するために使用される。この場合、画像表示装置の表示素子上にλ/4位相差板を配置し、λ/4位相差板よりも視認者側に偏光板が配置される。
偏光板を液晶表示装置用に用いる場合、偏光板は液晶シャッターの機能を付与するために使用される。この場合、液晶表示装置は、下側偏光板、液晶表示素子、上側偏光板の順に配置され、下側偏光板の偏光子の吸収軸と上側偏光板の偏光子の吸収軸とが直交して配置される。前記構成では、上側偏光板として本開示の偏光板を用いることが好ましい。
【0124】
<透明保護板>
本開示の偏光板は、第一の透明保護板及び第二の透明保護板の少なくとも一方として上述した本開示の光学用のプラスチックフィルムを含む。好ましい実施形態は、第一の透明保護板及び第二の透明保護板の両方が上述した本開示の光学用のプラスチックフィルム含むことである。
【0125】
第一の透明保護板及び第二の透明保護板の一方が上述した本開示の光学用のプラスチックフィルムを含む場合、他方の透明保護板は特に限定されないが、光学的等方性の透明保護板が好ましい。
本明細書において、光学的等方性とは、面内位相差が20nm以下のものを指し、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下である。アクリルフィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムは、光学的等方性を付与しやすい。
第一の透明保護板及び第二の透明保護板の一方が上述した本開示の光学用のプラスチックフィルムを含む場合、光出射側の透明保護板が上述した本開示の光学用のプラスチックフィルムを含むことが好ましい。
【0126】
本開示の偏光板は、第一の透明保護板及び第二の透明保護板の少なくとも一方として、上述した本開示の光学積層体を用いることも好ましい。
【0127】
<偏光子>
偏光子としては、例えば、ヨウ素等により染色し、延伸したポリビニルアルコールフィルム、ポリビニルホルマールフィルム、ポリビニルアセタールフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体系ケン化フィルム等のシート型偏光子、平行に並べられた多数の金属ワイヤからなるワイヤーグリッド型偏光子、リオトロピック液晶や二色性ゲスト-ホスト材料を塗布した塗布型偏光子、多層薄膜型偏光子等が挙げられる。これらの偏光子は、透過しない偏光成分を反射する機能を備えた反射型偏光子であってもよい。
【0128】
偏光子の吸収軸の向きと、光学用のプラスチックフィルムの遅相軸の向きの平均とが成す角度は特に制限されないが、略平行又は略垂直となるように配置することが好ましい。本明細書において、略平行とは、0度±5度以内であることを意味し、好ましくは0度±3度以内、より好ましくは0度±1度以内である。本明細書において、略垂直とは、90度±5度以内であることを意味し、好ましくは90度±3度以内、より好ましくは90度±1度以内である。通常、偏光子の吸収軸の向きと、光学用のプラスチックフィルムの遅相軸の向きとが成す角度が略平行又は略垂直である場合、ブラックアウトを抑制することが困難となる。しかし、本開示の偏光板は、本開示の光学用のプラスチックフィルムを用いているため、前記角度が略平行又は略垂直であってもブラックアウトを抑制することができる。また、前記角度を略平行又は略垂直とすることにより、偏光子及び光学用のプラスチックフィルムの歩留まりを良好にしやすくできる。
【0129】
<大きさ>
偏光板は、所定の大きさにカットした枚葉状の形態でもよいし、長尺シートをロール状に巻き取ったロール状の形態であってもよい。枚葉の大きさは特に限定されないが、最大径が14.2インチ以上500インチ以下程度である。“最大径”とは、偏光板の任意の2点を結んだ際の最大長さをいうものとする。例えば、偏光板が長方形の場合は、長方形の対角線が最大径となる。偏光板が円形の場合は、円の直径が最大径となる。
ロール状の幅及び長さは特に限定されないが、一般的には、幅は300mm以上9000mm以下、長さは100m以上5000m以下程度である。ロール状の形態の偏光板は、画像表示装置等の大きさに合わせて、枚葉状にカットして用いることができる。カットする際、物性が安定しないロール端部は除外することが好ましい。
枚葉の形状も特に限定されず、例えば、三角形、四角形、五角形等の多角形であってもよいし、円形であってもよいし、ランダムな不定形であってもよい。
【0130】
[画像表示装置]
本開示の画像表示装置は、表示素子と、前記表示素子の光出射面側に配置されたプラスチックフィルムとを有する画像表示装置であって、前記プラスチックフィルムが上述した本開示の光学用のプラスチックフィルムであるものである。
【0131】
図3及び
図4は、本開示の画像表示装置100の実施形態を示す断面図である。
図3及び
図4の画像表示装置100は、表示素子20の光出射面側に、光学用のプラスチックフィルム10を有している。
図3及び
図4の上側が、表示素子の光出射面側である。
図3及び
図4の画像表示装置100は、何れも、表示素子20と、光学用のプラスチックフィルム10との間に偏光子31を有している。
図3及び
図4において、偏光子31の両面には第一の透明保護板(32)及び第二の透明保護板(33)が積層されている。
図4の画像表示装置では、第一の透明保護板(32)として光学用のプラスチックフィルム10を用いている。
表示素子と、光学用のプラスチックフィルムとの間に偏光子を有する場合、偏光子の吸収軸の向きと、光学用のプラスチックフィルムの遅相軸の向きの平均とが成す角度は特に制限されないが、略平行又は略垂直となるように配置することが好ましい。
【0132】
画像表示装置100は、
図3及び
図4の形態に限定されない。例えば、
図3及び
図4では、画像表示装置100を構成する各部材は所定の間隔を空けて配置されているが、各部材は接着剤層を介するなどして一体化されたものであってもよい。画像表示装置は、図示しない部材を有していてもよい。
【0133】
<表示素子>
表示素子としては、液晶表示素子、有機EL表示素子及び無機EL表示素子等のEL表示素子、プラズマ表示素子等が挙げられ、さらには、マイクロLED表示素子、ミニLED表示素子等のLED表示素子が挙げられる。
表示装置の表示素子が液晶表示素子である場合、液晶表示素子の樹脂シートとは反対側の面にはバックライトが必要である。
【0134】
表示素子は色域の幅が広いものが好ましい。後述するように、色域の幅が広い表示素子は、RGBの分光スペクトルがそれぞれシャープである。そして、表示素子の分光スペクトルの形状がシャープであると、面内位相差を大きくする手法では虹ムラを抑制しにくい。本開示の光学用のプラスチックフィルムは面内位相差が小さいことから、表示素子の色域の幅が広い場合であっても、虹ムラを抑制しやすい点で好ましい。
【0135】
RGBの三色の混合によって再現できる色域は、CIE-xy色度図上の三角形で示される。前記三角形は、RGB各色の頂点座標を定め、各頂点を結ぶことにより形成される。
RGBの分光スペクトルがそれぞれシャープであると、CIE-xy色度図において、Rの頂点座標はxの値が大きくyの値が小さくなり、Gの頂点座標はxの値が小さくyの値が大きくなり、Bの頂点座標はxの値が小さくyの値が小さくなる。つまり、RGBの分光スペクトルがそれぞれシャープであると、CIE-xy色度図においてRGB各色の頂点座標を結んだ三角形の面積が大きくなり、再現できる色域の幅が広くなる。そして、色域の幅が広くなることは、動画の迫力、臨場感の向上につながる。
色域を表す規格としては、「ITU-R勧告 BT.2020-2(以下、「BT.2020-2」と称する。)」等が挙げられる。ITU-Rは、「International Telecommunication Union - Radiocommunication Sector」の略称であり、ITU-R勧告 BT.2020-2は、2015年10月に改訂されたスーパーハイビジョンの色域の国際規格である。下記式で表されるCIE-xy色度図に基づくBT.2020-2のカバー率が後述する範囲であると、動画の迫力及び臨場感を向上しやすくできる。
<BT.2020-2のカバー率を表す式>
[表示素子から出射する光のCIE-xy色度図の面積のうち、BT.2020-2のCIE-xy色度図の面積と重複する面積/BT.2020-2のCIE-xy色度図の面積]×100(%)
【0136】
BT.2020-2のカバー率を算出する際に必要となる“表示素子から出射する光のCIE-xy色度図の面積”は、赤表示、緑表示、及び青表示の際のCIE-Yxy表色系のx値及びy値をそれぞれ測定し、前記測定の結果から得られた“赤の頂点座標”、“緑の頂点座標”及び“青の頂点座標”から算出できる。CIE-Yxy表色系のx値及びy値は、例えば、コニカミノルタ社製の分光放射輝度計CS-2000で測定できる。
【0137】
表示素子は、上記式で算出されるBT.2020-2のカバー率が60%以上のものが好ましく、65%以上のものがより好ましい。本開示の光学用のプラスチックフィルムは面内位相差が小さいことから、表示素子のBT.2020-2のカバー率が60%以上であっても、虹ムラを抑制しやすい点で好ましい。
【0138】
画像表示装置は、タッチパネル機能を備えた画像表示装置であってもよい。
タッチパネルとしては、抵抗膜式、静電容量式、電磁誘導式、赤外線式、超音波式等の方式が挙げられる。
タッチパネル機能は、インセルタッチパネル液晶表示素子のように表示素子内に機能が付加されたものであってもよいし、表示素子上にタッチパネルを載置したものであってもよい。
【0139】
上述したように、本開示の光学用のプラスチックフィルムは、屈曲試験後に曲げ癖が残ったり、破断したりすることを抑制できる。このため、本開示の画像表示装置は、フォルダブル型の画像表示装置(折り畳み可能な画像表示装置)、ローラブル型の画像表示装置(曲面形状から平面形状に変形可能な巻き取り可能な画像表示装置)、曲面形状を有する画像表示装置である場合に、より際立った効果を発揮できる点で好ましい。
画像表示装置が、フォルダブル型の画像表示装置、ローラブル型の画像表示装置及び曲面形状を有する画像表示装置である場合には、表示素子は有機EL表示素子であることが好ましい。
【0140】
<プラスチックフィルム>
本開示の画像表示装置は、表示素子の光出射面側に、上述した本開示の光学用のプラスチックフィルムを有する。画像表示装置内において、本開示の光学用のプラスチックフィルムは1枚のみであってもよいし、2枚以上であってもよい。
表示素子の光出射面側に配置される光学用のプラスチックフィルムとしては、偏光子保護フィルム、表面保護フィルム、反射防止フィルム、タッチパネルを構成する導電性フィルム等の各種の機能性フィルムの基材として用いる光学用のプラスチックフィルムが挙げられる。
【0141】
<その他のプラスチックフィルム>
本開示の画像表示装置は、本開示の効果を阻害しない範囲でその他のプラスチックフィルムを有していてもよい。その他のプラスチックフィルムとは、本開示の光学用のプラスチックフィルムの条件を満たさないプラスチックフィルムである。
その他のプラスチックフィルムとしては、光学的等方性を有するものが好ましい。本明細書において、光学的等方性とは、面内位相差が20nm以下を意味する。
【0142】
<大きさ>
画像表示装置の大きさは特に限定されないが、最大径が14.2インチ以上500インチ以下程度である。“最大径”とは、画像表示装置の任意の2点を結んだ際の最大長さをいうものとする。例えば、画像表示装置が長方形の場合は、長方形の対角線が最大径となる。画像表示装置が円形の場合は、円の直径が最大径となる。
画像表示装置の形状は特に限定されず、例えば、三角形、四角形、五角形等の多角形であってもよいし、円形であってもよいし、ランダムな不定形であってもよい。
【0143】
本開示は、以下の[1]~[10]を含む。
[1] 下記の条件1及び条件2を満たす光学用のプラスチックフィルム。
<条件1>
プラスチックフィルムから200mm×300mmの大きさの大サンプルを切り出す。前記大サンプルを40mm×50mmの30個の小サンプルに分割する。それぞれの小サンプルの縁から5mmを除いた30mm×40mmの領域を4万7千以上の数の領域に細分化した後、細分化したそれぞれの領域の面内位相差を測定する。前記30個の小サンプルのうち、各測定領域の面内位相差の平均が50nm以上1200nm以下を示す小サンプルの割合が50%以上である。
<条件2>
前記30個の小サンプルについて、前記条件1と同様にして、それぞれの小サンプルの細分化したそれぞれの領域の遅相軸の角度を測定する。前記30個の小サンプルのうち、各測定領域の遅相軸の角度から算出した標準偏差σが0.8度以上を示す小サンプルの割合が50%以上である。
[2] 前記条件2において、前記標準偏差σが0.8度以上20.0度以下である、[1]に記載の光学用のプラスチックフィルム。
[3] さらに下記の条件3を満たす、[1]又は[2]に記載の光学用のプラスチックフィルム。
<条件3>
前記30個の小サンプルについて、それぞれ前記30mm×40mmの領域の中心で厚み方向の位相差を測定する。前記30個の小サンプルのうち、厚み方向の位相差が2000nm以上を示す小サンプルの割合が50%以上である。
[4] さらに下記の条件4を満たす、[3]に記載の光学用のプラスチックフィルム。
<条件4>
前記30個の小サンプルのうち、前記厚み方向の位相差に対する前記面内位相差の平均が0.20以下を示す小サンプルの割合が50%以上である。
[5] さらに下記の条件5を満たす、[1]~[4]の何れかに記載の光学用のプラスチックフィルム。
<条件5>
前記30個の小サンプルについて、それぞれ前記30mm×40mmの領域の中心において、小サンプルを構成するプラスチックフィルムの表面から深さ20μmまでのエロージョン率を測定する。小サンプルを構成するプラスチックフィルムの表面から深さ20μmまでのエロージョン率の平均をE0-20と定義した際に、前記30個の小サンプルのうち、E0-20が1.4μm/g以上である小サンプルの割合が50%以上である。
[6] [1]~[5]の何れかに記載の光学用のプラスチックフィルム上に機能層を有する、光学積層体。
[7] 前記機能層として反射防止層を含む、[6]に記載の光学積層体。
[8] 偏光子と、前記偏光子の一方の側に配置された第一の透明保護板と、前記偏光子の他方の側に配置された第二の透明保護板とを有する偏光板であって、前記第一の透明保護板及び前記第二の透明保護板の少なくとも一方が、[1]~[5]の何れかに記載の光学用のプラスチックフィルムを含む、偏光板。
[9] 表示素子と、前記表示素子の光出射面側に配置されたプラスチックフィルムとを有する画像表示装置であって、前記プラスチックフィルムが[1]~[5]の何れかに記載の光学用のプラスチックフィルムである、画像表示装置。
[10] 前記表示素子と、前記プラスチックフィルムとの間に偏光子を有する、請求項[9]に記載の画像表示装置。
【実施例0144】
次に、本開示を実施例により更に詳細に説明するが、本開示はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0145】
1.測定、評価
以下の測定及び評価の雰囲気は、温度23℃±5℃、相対湿度40%以上65%以下とする。また、測定及び評価の前に、前記雰囲気にサンプルを30分以上晒すものとする。また、各サンプルは、光学用のプラスチックフィルム及び機能層に欠陥がない箇所からサンプリングするものとする。
【0146】
1-1.面内位相差(Re)、遅相軸の方向
後述の「2」で作製した幅2100mmの実施例1~10、比較例6のロール状の光学用のプラスチックフィルムから、流れ方向200mm×幅方向300mmの大サンプルを7つ切り出した。幅方向の中央の大サンプルを各実施例のサンプル1、幅方向の中央より一つ右側の大サンプルを各実施例のサンプル2、幅方向の中央より二つ右側の大サンプルを各実施例のサンプル3、幅方向の中央より三つ右側の右端の大サンプルを各実施例のサンプル4とした。光学用のプラスチックフィルムは、幅方向の中央を基準として左右対称の位置の物性が略均等といえるため、幅方向の中央より左側のものは測定を省略した。但し、実施例4はサンプル2~3、実施例5はサンプル1~3、実施例7~9はサンプル1、実施例10はサンプル1~2、比較例6はサンプル1~2のみを採取した。
4つの大サンプルのサンプル1~4から、40mm×50mmの小サンプルをそれぞれ30個切り出すことにより、測定用サンプルを得た。
一方、後述の「2」で準備した比較例1~5の光学用のプラスチックフィルムから200mm×300mmの大サンプルを1つ切り出し、前記大サンプルから40mm×50mmの小サンプルを30個切り出すことにより、測定用サンプルを得た。
次いで、実施例及び比較例の40mm×50mmの測定用サンプルの縁から5mmを除いた30mm×40mmの領域内において、面内位相差、及び、遅相軸の角度を測定した。測定装置は、フォトニックラティス社の商品名「WPA-200-L」を用いた。測定条件等は下記の通りとした。この測定により、30mm×40mmの領域を4万7千以上の数の領域に細分化したそれぞれの領域の面内位相差及び遅相軸の角度を測定できる。
測定結果を元に、大サンプルを構成する30個の小サンプルについて、それぞれの面内位相差の平均、及び、遅相軸の角度の標準偏差σを算出した後、各大サンプルが条件1~2を満たすか否かについて判定した。条件を満たすものを「A」、満たさないものを「C」とした。結果を表1又は2に示す。
また、それぞれの小サンプルから算出した面内位相差の平均、面内位相差の標準偏差σ、及び、遅相軸の角度の標準偏差σに基づいて、30個の小サンプルの平均値を算出した。結果を表3に示す。
なお、フォトニックラティス社の商品名「WPA-200-L」は、3000nm以上の面内位相差を測定できない。このため、比較例5の測定用サンプルは、遅相軸の角度の標準偏差σのみをフォトニックラティス社の商品名「WPA-200-L」を用いて測定した。また、比較例5の測定用サンプルの面内位相差は、大塚電子社製の商品名「RETS-100」を用いて、サンプルの面内の中心の値を測定した。
【0147】
<WPA-200-Lの仕様>
・複屈折画素数:384×288ピクセル
・レンズ:標準レンズ(f1.25)
<測定のステップ>
(1)装置の電源を入れ、ソフトウェア(WPA-view)を立ち上げてから、少なくとも30分待ち、安定化させる。
(2)光源ステージ上に測定用サンプルを配置した後、カメラユニットの高さを調整しながら、カメラプレビューウィンドウ内の光源ステージが映し出されたエリア内に測定用サンプルが収まるようにする。この際、測定用サンプルが光源ステージから浮かないようにする。また、プレビューウィンドウ上で外光が映り込んでいないことを目視で確認する。カメラプレビューウィンドウ内の光源ステージが映し出されたエリア内が、384×288ピクセル(110,592ピクセル)に細分化されることになる。なお、カメラプレビューウィンドウにおいて、測定用サンプルの外縁と、光源ステージが映し出されたエリアの外縁とに若干の間隔が空くように上記調整を行うことが好ましい。前記間隔は、実寸で3mm程度とすることが好ましい。
(3)レンズのダイヤルを回しながら、測定用サンプルにピントを合わせる。実施例の測定ではダイヤルの目盛りを「4」に合わせた。
(4)ユーザー設定において、下記の条件を設定する。次いで、測定用サンプルを一旦外した後、ベースラインを測定する。ベースラインの測定は1サンプル毎に実施する。
(5)サンプルを再度配置してから、測定を実施する。
(6)解析画面上で、サンプルの実面積が30mm×40mmに相当する領域を選択した後、面内位相差の平均、面内位相差の標準偏差σ、及び、遅相軸の角度の標準偏差σを算出する。
<ユーザー設定>
ユーザー設定において、下記の項目にチェックを入れる。
・自動露光調整:測定時自動露光調整を行う
・ノイズフィルター:自動的に適用
・暗部へのマスク処理:マスク処理を行う(10.0%)
・軸方向の設定:遅軸
・測定精度:高精度
・測定モード:3波長測定
・材料係数:自動
【0148】
1-2.厚み方向の位相差(Rth)
1-1で準備した実施例及び比較例の30個の40mm×50mmの測定用サンプルの縁から5mmを除いた30mm×40mmの領域の中心の厚み方向の位相差を測定した。測定装置は、大塚電子社製の商品名「RETS-100」を用いた。
測定結果を元に、大サンプルが条件3を満たすか否かについて判定した。条件を満たすものを「A」、満たさないものを「C」とした。結果を表1又は2に示す。
また、それぞれの小サンプルから算出した厚み方向の位相差に基づいて、30個の小サンプルの平均値を算出した。結果を表3に示す。
【0149】
1-3.エロージョン率
1-1で準備した実施例及び比較例の30個の40mm×50mmの測定用サンプルの縁から5mmを除いた30mm×40mmの領域の中心において、サンプルを構成するプラスチックフィルムの表面から深さ20μmまでのエロージョン率を測定した。そして、得られたエロージョン率から、サンプルを構成するプラスチックフィルムの表面から深さ20μmまでのエロージョン率の平均であるE0-20を算出した。エロージョン率の測定手法は、明細書本文の記載に従った。
測定結果を元に、大サンプルが条件5を満たすか否かについて判定した。条件を満たすものを「A」、満たさないものを「C」とした。結果を表1又は2に示す。
【0150】
1-4.虹ムラ1(プラスチックフィルム単体、光源が白色LEDの液晶表示装置)
下記構成の画像表示装置1の視認側偏光板上に、1-1で準備した実施例及び比較例の200mm×300mmの大サンプルを配置した。視認側偏光板の偏光子の吸収軸の向きと、大サンプルの遅相軸の向きの平均とが平行となるように配置した。次いで、画像表示装置を暗室環境で点灯し、約1mの距離から裸眼で、測定用サンプルの遅相軸に沿った様々な角度から観察し、下記の基準で虹ムラの有無を評価した。評価者は、矯正した視力が1.0以上の20歳台~50歳台の各年代で5名ずつの合計20人の健康な人とした。
A:虹ムラが視認できないと答えた人が16人以上。
B:虹ムラが視認できないと答えた人が11人以上15人以下。
C:虹ムラが視認できないと答えた人が10人以下。
<画像表示装置1の構成>
(1)バックライト光源:白色LED
(2)表示素子:カラーフィルター付きの液晶表示素子
(3)光源側偏光板:PVAとヨウ素からなる偏光子の両側の保護フィルムとしてTACフィルムを有する。偏光子の吸収軸の方向が画面の水平方向と垂直となるように配置。
(4)画像表示セル:液晶セル
(5)視認側偏光板:PVAとヨウ素からなる偏光子の偏光子保護フィルムとしてTACフィルムが使用された偏光板。偏光子の吸収軸の方向が画面の水平方向と平行となるように配置。
(6)サイズ:対角21.5インチ
画像表示装置1のCIE-xy色度図に基づくBT.2020-2のカバー率は49%であった。
【0151】
1-5.虹ムラ2(プラスチックフィルム単体、有機EL表示装置)
画像表示装置1を下記の画像表示装置2に変更した以外は、1-4と同様にして虹ムラを評価した。
<画像表示装置2の構成>
(1)表示素子:マイクロキャビティ構造を備えた三色独立方式の有機EL表示素子
(2)光源側偏光板:なし
(3)視認側偏光板:PVAとヨウ素からなる偏光子の偏光子保護フィルムとしてTACフィルムが使用された偏光板。偏光子の吸収軸の方向が画面の水平方向と平行となるように配置。
(4)サイズ:対角21.5インチ
画像表示装置2のCIE-xy色度図に基づくBT.2020-2のカバー率は77%であった。
【0152】
1-6.虹ムラ3(光学積層体、光源が白色LEDの液晶表示装置)
視認側偏光板上に配置する実施例及び比較例のプラスチックフィルムを、下記「3」で作製した実施例及び比較例の光学積層体に変更した以外は、1-4と同様にして虹ムラを評価した。
【0153】
1-7.虹ムラ4(光学積層体、有機EL表示装置)
視認側偏光板上に配置する実施例及び比較例のプラスチックフィルムを、下記「3」で作製した実施例及び比較例の光学積層体に変更した以外は、1-5と同様にして虹ムラを評価した。
【0154】
1-8.ブラックアウト1(垂直配置)
1-4に示した構成の画像表示装置1の視認側偏光板上に、1-1で準備した実施例及び比較例の200mm×300mmの大サンプルを配置した。各サンプルは、サンプルの遅相軸の平均方向が、画面の水平方向と垂直となるように配置した。言い換えると、視認側偏光板の偏光子の吸収軸と、サンプルの遅相軸の平均方向との成す角が90度となるように配置した。
次いで、サンプルを配置した画像表示装置の中央部に、マイクロソフト社の商品名「WORD(登録商標)」でフォントサイズ16の文字を表示倍率100%で3文字表示した後、偏光サングラスを介して正面から視認した。視認時の偏光サングラスの吸収軸の方向は、視認側偏光板の偏光子の吸収軸と直交する方向とした。文字が容易に判別できるものを3点、どちらとの言えないものを2点、ブラックアウトにより文字が容易に判別できないものを1点として、20歳台~50歳台の各年代で5名ずつの合計20人の被験者が評価した。20人の評価の平均点を算出し、下記基準によりランク付けした。20人の被験者は、何れも視力1.0以上の健康な人とした。前記視力は矯正した視力を含む。
<評価基準>
AAA:平均点が2.85以上
AA:平均点が2.70以上2.85未満
A:平均点が2.50以上2.70未満
B:平均点が2.00以上2.50未満
C:平均点が1.50以上2.00未満
D:平均点が1.50未満
【0155】
1-9.ブラックアウト2(45度配置)
1-4に示した構成の画像表示装置1の視認側偏光板上に、1-1で準備した実施例及び比較例の200mm×300mmの大サンプルを配置した。各サンプルは、サンプルの遅相軸の平均方向が、画面の水平方向と45度となるように配置した。言い換えると、視認側偏光板の偏光子の吸収軸と、サンプルの遅相軸の平均方向との成す角が45度となるように配置した。
次いで、サンプルを配置した画像表示装置の中央部に、マイクロソフト社の商品名「WORD(登録商標)」でフォントサイズ16の文字を表示倍率100%で3文字表示した後、偏光サングラスを介して正面から視認しながら、1-8と同様の手法により評価した。視認時の偏光サングラスの吸収軸の方向は、視認側偏光板の偏光子の吸収軸と直交する方向とした。
【0156】
1-10.耐屈曲性
<遅相軸方向>
1-1で準備した実施例1~10及び比較例6の200mm×300mmの大サンプルの幅方向の中央部から、幅方向30mm×流れ方向100mmの短冊状のサンプルを切り出した。実施例1~10及び比較例6の光学用のプラスチックフィルムの中央部は、幅方向が概ね遅相軸の平均方向を示している。
また、後述の「2」で準備した比較例1~5の光学用のプラスチックフィルムから、遅相軸方向30mm×進相軸方向100mmの短冊状のサンプルを切り出した。
耐久試験機(製品名「DLDMLH-FS」、ユアサシステム機器社製)に、サンプルの短辺側の両端を固定した後、180度折り畳む連続折り畳み試験を10万回行った。サンプルの短辺側の両端は、サンプルの先端から10mmの領域を固定した。折り畳み速度は、1分間に120回とした。折り畳み試験のより詳細な手法を下記に示す。
折り畳み試験後に短冊状のサンプルを水平な台に置き、台からサンプルの端部が浮き上がる角度を測定することにより、遅相軸方向の耐屈曲性を評価した。結果を表1又は2に示す。但し、サンプルが途中で破断したものは“破断”と表記した。
<進相軸方向>
1-1で準備した実施例1~10及び比較例6の200mm×300mmの大サンプルの幅方向の中央部から、流れ方向30mm×幅方向100mmの短冊状のサンプルを切り出した。実施例1~10及び比較例6の光学用のプラスチックフィルムの中央部は、流れ方向が概ね進相軸の平均方向を示している。
また、後述の「2」で準備した比較例1~5の光学用のプラスチックフィルムから、進相軸方向30mm×遅相軸方向100mmの短冊状のサンプルを切り出した。
これらのサンプルに関して、上記と同様の測定を行い、進相軸方向の耐屈曲性を評価した。
【0157】
<折り畳み試験の詳細>
図5(A)に示すように連続折り畳み試験においては、まず、プラスチックフィルム10の辺部10Cと、辺部10Cと対向する辺部10Dとを、平行に配置された固定部60でそれぞれ固定する。固定部60は水平方向にスライド移動可能なっている。
次に、
図5(B)に示すように、固定部60を互いに近接するように移動させることにより、プラスチックフィルム10を折り畳むように変形させる。更に、
図5(C)に示すように、プラスチックフィルム10の固定部60で固定された対向する2つの辺部の間隔が10mmとなる位置まで固定部60を移動させた後、固定部60を逆方向に移動させることにより、プラスチックフィルム10の変形を解消させる。
図5(A)~(C)に示すように固定部60を移動させることで、プラスチックフィルム10を180度折り畳むことができる。また、プラスチックフィルム10の屈曲部10Eが固定部60の下端からはみ出さないように連続折り畳み試験を行い、かつ固定部60が最接近したときの間隔を10mmに制御することにより、光学フィルム10の対向する2つの辺部の間隔を10mmにできる。
【0158】
1-11.鉛筆硬度
鉛筆硬度試験用のサンプルとして、1-1で準備した実施例及び比較例の30個の40mm×50mmの測定用サンプルを準備した。前記サンプルを100℃で10分加温した。加温後の前記サンプルに対して、鉛筆硬度試験を実施した。鉛筆硬度試験は、前記サンプルの縁から5mmを除いた30mm×40mmの領域で実施した。
鉛筆硬度試験は、JIS K5600-5-4:1999に規定される鉛筆硬度試験を基準としつつ、荷重、速度及び判定条件はJISの規定から変更して実施した。具体的には、荷重は100g、速度は3mm/sとした。加温後の前記サンプルに荷重をかけた後、傷を目視評価する前に、再度、前記サンプルを100℃で10分加温した。次いで、加温したサンプルの傷を目視で評価した。
合格の判定条件は5回の評価のうち3回以上傷つかなかったこととした。例えば、硬度2Bで5回中3回以上傷つかなければ硬度2Bは合格として、次に硬い硬度での試験に進む、という判定手法とした。
表1又は2に、実施例及び比較例のサンプルの鉛筆硬度を示すとともに、5回の評価のうち傷つかなかった評価の回数を示す。30個のサンプルの鉛筆硬度の結果が全て同一ではない場合には、最も評価が悪い結果の鉛筆硬度を表1又は2に示した。
鉛筆硬度Fにおいて、5回の評価のうち3回以上傷つかないものが合格レベルである。鉛筆硬度Fにおいて、5回の評価のうち5回傷つかないものを「AAA」、鉛筆硬度Fにおいて、5回の評価のうち4回傷つかないものを「AA」、鉛筆硬度Fにおいて、5回の評価のうち3回傷つかないものを「A」とした。合格レベルに達しないものを「C」とした。
【0159】
2.光学用のプラスチックフィルムの作製及び準備
[実施例1]
1kgのPET(融点258℃、吸収中心波長:320nm)と、0.1kgの紫外線吸収剤(2,2’-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンズオキサジノン-4-オン)とを、混練機で280℃にて溶融混合することにより、紫外線吸収剤を含有したペレットを作製した。そのペレットと、融点258℃のPETを単軸押出機に投入し280℃で溶融混練した後、Tダイから押出すことにより、25℃に表面温度を制御したキャストドラム上にキャストしてキャスティングフィルムを得た。キャスティングフィルム中の紫外線吸収剤の量はPET100質量部に対して1質量部であった。
得られたキャスティングフィルムを、95℃に設定したロール群で加熱した後、延伸区間400mmの130mm地点のフィルム温度が99℃、150mm地点でのフィルム温度が100℃となるように、ラジエーションヒーターにより加熱しながら、フィルムを流れ方向に3.3倍延伸した後、一旦冷却し、一軸延伸フィルムを得た。前記延伸区間は、始点が延伸ロールA、終点が延伸ロールBであり、延伸ロールA及びBは、それぞれ2本のニップロールを有している。なお、ラジエーションヒーターでの加熱時に、ラジエーションヒーターの裏から、80℃、5m/sの風をフィルムに向けて送風することで乱流を生じさせることにより、フィルムの温度均一性が乱れるようにした。
次いで、一軸延伸フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施すことにより、基材フィルムの濡れ張力を55mN/mとした。次いで、フィルム両面のコロナ放電処理面に、下記の易滑層塗布液をインラインコーティングし、易滑層を形成した。
次いで、一軸延伸フィルムをテンターに導き、95℃の熱風で予熱後、1段目105℃、2段目135℃の温度でフィルム幅方向に4.5倍延伸した。ここで、幅方向の延伸区間を2分割した場合、幅方向の延伸区間の中間点におけるフィルムの延伸量は、幅方向の延伸区間終了時の延伸量の80%となるように2段階で延伸した。前述した“延伸量”は、計測地点でのフィルム幅と、延伸前フィルム幅との差分を意味する。幅方向に延伸したフィルムに対して、55℃で5m/sの乱流を含む風をフィルム表裏から約2秒間送風することにより、フィルム温度均一性が乱れるように冷却した。次いで、テンター内で熱風にて熱処理を行った。熱風の温度は、段階的に180℃から245℃まで上げた。続いて同温度条件で幅方向に1%の弛緩処理を行い、さらに100℃まで急冷した後に、幅方向に1%の弛緩処理を施した。その後、巻き取り、幅2100mm強の実施例1の光学用のプラスチックフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
<易滑層塗布液>
ガラス転移温度18℃のポリエステル樹脂、ガラス転移温度82℃のポリエステル樹脂、及び平均粒径100nmのシリカ粒子を含む塗布液。
【0160】
[実施例2]
キャスティングフィルムの130mm地点のフィルム温度を97℃、150mm地点のフィルム温度を98℃、幅方向に延伸したフィルムに対して送風する乱流を含む風の温度を60℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の光学用のプラスチックフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0161】
[実施例3]
キャスティングフィルムの130mm地点のフィルム温度を98℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、実施例3の光学用のプラスチックフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0162】
[実施例4]
キャスティングフィルムの130mm地点のフィルム温度を98℃、150mm地点のフィルム温度を105℃、流れ方向の延伸倍率を3.9倍、幅方向に延伸したフィルムに対して送風する乱流を含む風の温度を60℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の光学用のプラスチックフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0163】
[実施例5]
キャスティングフィルムの130mm地点のフィルム温度を98℃、150mm地点のフィルム温度を105℃、流れ方向の延伸倍率を4.1倍、幅方向に延伸したフィルムに対して送風する乱流を含む風の温度を60℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の光学用のプラスチックフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0164】
[実施例6]
キャスティングフィルムの130mm地点のフィルム温度を98℃、150mm地点のフィルム温度を110℃、流れ方向の延伸倍率を3.5倍、流れ方向の延伸時にラジエーションヒーターの裏から送風する風の温度を90℃、幅方向に延伸したフィルムに対して送風する乱流を含む風の温度を45℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例6の光学用のプラスチックフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0165】
[実施例7]
キャスティングフィルムの130mm地点のフィルム温度を95℃、150mm地点のフィルム温度を99℃、流れ方向の延伸倍率を3.1倍、幅方向の延伸倍率を3.8倍、幅方向に延伸したフィルムに対して送風する乱流を含む風の温度を45℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例7の光学用のプラスチックフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0166】
[実施例8]
キャスティングフィルムの130mm地点のフィルム温度を98℃、流れ方向の延伸倍率を3.9倍、幅方向に延伸したフィルムに対して送風する乱流を含む風の温度を55℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例8の光学用のプラスチックフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0167】
[実施例9]
キャスティングフィルムの130mm地点のフィルム温度を95℃、150mm地点のフィルム温度を98℃、流れ方向の延伸倍率を4.1倍、幅方向に延伸したフィルムに対して送風する乱流を含む風の温度を60℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例9の光学用のプラスチックフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0168】
[実施例10]
キャスティングフィルムの130mm地点のフィルム温度を102℃、150mm地点のフィルム温度を110℃、流れ方向の延伸倍率を3.0倍、幅方向の延伸倍率を3.2倍、幅方向に延伸したフィルムに対して送風する乱流を含む風の温度を40℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例10の光学用のプラスチックフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0169】
[比較例1~5]
比較例の光学用のプラスチックフィルムとして、下記のプラスチックフィルムを準備した。
<比較例1>
トリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム社製、品番:TD40、厚み:40μm)
<比較例2>
二軸延伸ポリエステルフィルム(東洋紡社製、商品名:コスモシャインA4300、厚み:38μm)
<比較例3>
二軸延伸ポリエステルフィルム(東レ社製、商品名:ルミラー50U403、厚み:50μm)
<比較例4>
二軸延伸ポリエステルフィルム(三菱化学社製、商品名:ダイアホイルT600、厚み:23μm)
<比較例5>
一軸延伸ポリエステルフィルム(東洋紡社製、商品名:コスモシャインTA048、厚み:80μm)
【0170】
[比較例6]
キャスティングフィルムの130mm地点のフィルム温度を102℃、150mm地点のフィルム温度を110℃、流れ方向の延伸倍率を3.0倍、幅方向の延伸倍率を3.2倍、幅方向に延伸したフィルムに対して送風する乱流を含む風の温度を65℃に変更するとともに、流れ方向の延伸時にラジエーションヒーターの裏から送風を行わないように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例6の光学用のプラスチックフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0171】
3.光学積層体の作製
実施例1~10及び比較例1~6の光学用のプラスチックフィルム上に、下記処方のハードコート層形成用塗布液を塗布、乾燥、紫外線照射することにより、厚み5μmのハードコート層を形成した。次いで、ハードコート層上に、下記処方の低屈折率層形成用塗布液を塗布、乾燥、紫外線照射することにより、厚み100nm、屈折率1.30の低屈折率層を形成し、実施例1~10及び比較例1~6の光学積層体を得た。
【0172】
<ハードコート層形成用塗布液>
・紫外線硬化性化合物 25.1質量部
(アクリルポリマー、大成ファインケミカル社製、商品名 8KX-077)
・紫外線硬化性化合物 25.4質量部
(多官能アクリレート、日本化薬社製、商品名 PET-30)
・光重合開始剤 1.0質量部
(IGM Resins B.V.社、商品名「Omnirad 184」)
・シリコーン系レベリング剤 0.30質量部
(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、商品名 TSF4460)
・希釈溶剤 37.4質量部
(トルエン、IPA及び PMAの質量比47:33:20の混合溶剤)
【0173】
<低屈折率層形成用塗布液>
・紫外線硬化性化合物 0.6質量部
(3官能以上4官能以下のアルコキシ化ペンタエリスリトールアクリレート、新中村化学工業社製、商品名「NKエステル ATM-4PL」)
・光重合開始剤 0.1質量部
(IGM Resins B.V.社、商品名「Omnirad 127」)
・中空シリカ 1.88質量部
(平均粒子径60nm)
・中実シリカ 0.3質量部
(平均粒子径12nm)
・フッ素系防汚剤 1.16質量部
(DIC社製、商品名「MEGAFACE F-568」)
・希釈溶剤 92.7質量部(メチルイソブチルケトンとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートとの質量比90:10の混合溶剤)
【0174】
【0175】
表1及び表2において、割合1~割合5は、以下の割合を意味する。
割合1:面内位相差の平均が50nm以上1200nm以下の小サンプルの割合
割合2:遅相軸の角度の標準偏差σが0.8度以上の小サンプルの割合
割合3:厚み方向の位相差が2000nm以上の小サンプルの割合
割合4:面内位相差の平均/厚み方向の位相差の比が0.20以下の小サンプルの割合
割合5:E0-20が1.4μm/g以上の小サンプルの割合
また、表1~表3において、S1はサンプル1、S2はサンプル2、S3はサンプル3、S4はサンプル4を示す。
【0176】
【0177】
【0178】
表1~3の結果から、実施例の光学用のプラスチックフィルムは、面内位相差を高くすることなく、かつ、軸合わせを要することなく、裸眼で視認した際の虹ムラ及び偏光サングラスで視認した際のブラックアウトを抑制し得ることを確認できる。また、実施例の光学用のプラスチックフィルムは、折り曲げの方向に関わらず、屈曲試験後に曲げ癖が残ったり、破断したりすることを抑制できることが確認できる。
また、実施例の光学用のプラスチックフィルムは、条件5のエロージョン率を満たすため、鉛筆硬度が良好であることが確認できる。特に、実施例1~3、実施例4のサンプル2、実施例5のサンプル1~2、実施例8~9の光学用のプラスチックフィルムは、条件5のエロージョン率を満たす小サンプルの割合が90%以上であり、かつ、条件2の遅相軸の角度のσが大きすぎないため、鉛筆硬度が極めて良好であることが確認できる。条件5のエロージョン率は、主として厚み方向の強度を高めると考えられる。このため、条件5のエロージョン率を満たす実施例の光学用のプラスチックフィルムは、鉛筆硬度を良好にできると考えられる。中でも、条件5のエロージョン率を満たす小サンプルの割合が90%以上である場合には、鉛筆硬度をより良好にしやすくできる。また、実施例の中でも、実施例1~5、8~9の光学用のプラスチックフィルムは、条件2の遅相軸の角度のσが大きすぎないため、面内の配向性が良好である。すなわち、面内の配向性が良好である実施例1~5、8~9の光学用のプラスチックフィルムは、面内での物性のバラツキが少ないため、局所的に強度が弱い箇所を起点として鉛筆硬度が低下することを抑制しやすくできると考えられる。これらのことから、実施例の中でも、実施例1~3、実施例4のサンプル2、実施例5のサンプル1~2、実施例8~9の光学用のプラスチックフィルムは、鉛筆硬度を極めて良好にできると考えられる。
なお、表には記載していないが、実施例1~10のプラスチックフィルムは、明細書本文に記載の条件6を満たすものであった。よって、実施例1~10のプラスチックフィルムは、厚み方向の膜質の均質性に優れ、かつ、コーティング適性が良好なプラスチックフィルムであるといえる。