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2023-168356エチレンビニルアルコール共重合体樹脂組成物並びにそのフィルム及び多層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168356
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】エチレンビニルアルコール共重合体樹脂組成物並びにそのフィルム及び多層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20231116BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20231116BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231116BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08L27/12
C08J5/18 CEX
B32B27/28 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023145595
(22)【出願日】2023-09-07
(62)【分割の表示】P 2020215844の分割
【原出願日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】16/729,984
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/877,555
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/877,570
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】呉 厚錫
(72)【発明者】
【氏名】蘇 世淵
(57)【要約】
【課題】本発明はエチレンビニルアルコール共重合体樹脂組成物並びにそのフィルム及び
多層構造体を得ることにある。
【解決手段】本発明は、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂組成物及び
/又はそのペレットに関するものであり、それは少なくとも1つの含フッ素粒子を含む。
エチレンビニルアルコール共重合体樹脂組成物及び/又はそのペレットは、せん断速度2
0s-1、融点温度190℃下において、1.7~7.0MPaの融解圧力を有し得る。
EVOHにより形成されたEVOHフィルムのISO 179-1に基づくシャルピー衝
撃強度は、23℃下で少なくとも2.3KJ/mであり得る。さらに、当該フィルムの
ISO 527-2に基づく破断点伸びは、23℃下で少なくとも17.8%であり得る

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンビニルアルコール共重合体と、
1つ以上の含フッ素粒子と、を含み、
前記1つ以上の含フッ素粒子はフッ化ポリマーを含み、
せん断速度20s-1及び温度190℃下において、1.7~7.0MPaの融解圧力を有し、
第1融点温度及び第2融点温度の2つの融点温度を少なくとも含み、前記第1融点温度は100℃~140℃であり、前記第2融点温度は150℃~195℃である、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項2】
せん断速度20s-1及び温度190℃下において、1.7~6.8MPaの融解圧力を有する、請求項1に記載のエチレンビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項3】
せん断速度20s-1及び温度190℃下において、0.04~2.4kNの融解力(melting force)を有する、請求項1又は2に記載のエチレンビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項4】
各前記含フッ素粒子の粒径は直径又は主軸長さが20μm未満である、請求項1から3のいずれか1項に記載のエチレンビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項5】
前記含フッ素粒子は、1.5~48wt%のフッ素含有量を含み、前記フッ素含有量は炭素、酸素及びフッ素元素の総重量に基づいている、請求項1から4のいずれか1項に記載のエチレンビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項6】
各前記含フッ素粒子の粒径は直径又は主軸長さが0.5~19μmである、請求項1から5のいずれか1項に記載のエチレンビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のエチレンビニルアルコール共重合体樹脂組成物を含み、ISO 179-1に基づくシャルピー衝撃強度(Charpy impact strength)は、23℃下で少なくとも2.3KJ/mであり、ISO 527-2に基づく破断点伸びは、23℃下で少なくとも17.8%である、フィルム。
【請求項8】
前記フィルムの破断点伸びは少なくとも20%である、請求項7に記載のフィルム。
【請求項9】
(a)請求項1から6のいずれか1項に記載のエチレンビニルアルコール共重合体樹脂組成物により形成された少なくとも1つの層と、
(b)少なくとも1つのポリマー層と、
(c)少なくとも1つの粘着剤層と、を含む、多層構造体。
【請求項10】
前記ポリマー層は、低密度ポリエチレン層、ポリエチレングラフト無水マレイン酸層、ポリプロピレン層、ナイロン層及びそれらの組み合わせで組成されたグループから選択されている、請求項9に記載の多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願の特許請求の範囲は、2019年12月30日に出願された「エチレンビニルア
ルコールペレット及びそのフィルム」と題する米国特許出願第16/729,984号の
優先権を主張するものであり、且つ本出願は当該出願の一部継続出願であり、その全内容
は参照によりここに組み込まれる。
【0002】
(技術分野)
本発明は、エチレンビニルアルコール共重合体(ethylene-vinyl al
cohol,EVOH)樹脂組成物及びそのペレットに関するものである。エチレンビニ
ルアルコール共重合体樹脂組成物は粒子を有しており、特に含フッ素粒子を有している。
EVOH樹脂組成物は、せん断速度20s-1、温度190℃下において、1.7~7.
0MPaの融解圧力を有し得る。本発明はさらに、エチレンビニルアルコール共重合体樹
脂組成物及び/又はペレットにより形成された、フィルム及び多層構造体を開示する。
【背景技術】
【0003】
EVOH樹脂は多層体において広範に使用され、傷みやすい商品の保存に用いられてい
る。例えば、EVOH樹脂や多層体は、一般的に、食品包装産業、医療機器及び付属品産
業、製薬産業、電子産業並びに農業用化学品産業において使用されている。EVOH樹脂
は、一般的に、別個の層として多層体中に加えられ、酸素バリア層として用いられている
【0004】
EVOHを使用した押出プロセスでは、ダイに蓄積してしまう事象が頻繁に生じる。ま
た、EVOHを使用した押出プロセスにおいてよくある別の問題は、スクリューに粘着す
るという望ましくない事象が生じることである。こうした問題は、EVOHによって形成
された膜の外観や機械的強度を低下させる場合がある。また、こうした問題は、従来技術
ではまだ十分に処理又は解決されていない。
【0005】
そのため、より良好なフィルムの機械的性質を提供し、且つ費用対効果の高い製造プロ
セスの実現を可能とするEVOH樹脂が引き続き必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂組成物に関するもので
あり、それは粒子、特に含フッ素粒子を有している。EVOH樹脂組成物は、ペレット、
フィルム、繊維などの形態を呈し得る。EVOH樹脂組成物は、フィルム又は多層構造体
の調製に用いることができる。EVOHとフッ化ポリマーは不混和性を有するため、それ
らの組み合わせは避けるのが一般常識である。例えば、EVOHとフッ化ポリマーの不混
和性により、形成されたフィルムの外観や機械的性質にマイナスの影響を及ぼすことが予
測できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
不混和性によって生じる問題のため、従来ではEVOHとフッ化ポリマー(フッ素ポリ
マーとも呼ばれる)の組み合わせが避けられているが、本発明は、フッ素ポリマーを使用
してEVOH樹脂組成物を調製すると、フッ素ポリマーの部分的な混和性がダイの材料析
出を改善し、スクリューに粘着する問題を低減できることを発見した。また発明者は、本
発明のEVOH樹脂組成物が、それによって形成されたフィルムや多層構造の可塑性を改
善し、機械的性質を強化できることを発見した。具体的に述べれば、発明者は、含フッ素
粒子を有するEVOH樹脂組成物を使用することにより、改善された強度(例えばシャル
ピー衝撃試験による測定)及び改善された可塑性(例えば破断点伸びによる測定)を具備
するEVOHフィルムが得られることを知った。
【0008】
本発明の他の態様において提供するEVOH樹脂組成物(又はそのペレット)は、せん
断速度20s-1、温度190℃下において、1.7~7.0MPaの融解圧力を有する
。例えば、典型的なEVOH樹脂組成物は、エチレンビニルアルコール共重合体及び1種
類以上/個の含フッ素粒子を含むことができ、そのうち、エチレンビニルアルコール共重
合体樹脂組成物は、せん断速度20s-1、温度190℃下において、1.7~7.0M
Paの融解圧力を有する。意外なことに、EVOH樹脂組成物の融解圧力がせん断速度2
0s-1、温度190℃下において1.7~7.0MPaの範囲内にある場合、広範囲の
エチレン含有量下で改善された性能を有するEVOH樹脂組成物を取得し得ることが分か
った。
【0009】
上述のEVOH樹脂組成物はさらに、1種類以上/個の含フッ素粒子を含むことができ
、含フッ素粒子はフッ化ポリマーを含む。各含フッ素粒子の粒径は、直径又は主軸長さが
20μm未満であるのが好ましい。幾つかの状況において、各含フッ素粒子の粒径は、直
径又は主軸長さが0.5~約19μmである。炭素、酸素及びフッ素元素の総重量に基づ
き、上述の含フッ素粒子は、約1.5~約48wt%のフッ素を含むことができる。意外
なことに、一定範囲内の粒子サイズは、フィルムの外観及びダイへの析出を改善し得るこ
とが分かった。
【0010】
非限定的な例として、EVOH樹脂組成物は少なくとも2つの融点温度を有し、簡単に
言うと、第1融点温度及び第2融点温度を少なくとも有し、第1融点温度は約100℃~
約140℃又は105℃~135℃でよく、第2融点温度は約150℃~約195℃又は
158℃~190℃でよい。
【0011】
EVOH樹脂組成物は、せん断速度20s-1、温度190℃下において、1.7~6
.8MPaの融解圧力を有し得る。幾つかの状況において、EVOH樹脂組成物は、せん
断速度20s-1、温度190℃下において、0.4~2.4kNの溶解力(melti
ng force)を有する。
【0012】
さらに/又は、EVOH樹脂組成物のエチレンビニルアルコール共重合体は、99.5
mole%又はより高い鹸化度を有することができる。エチレンビニルアルコール共重合
体は、約20~約50mole%のエチレン含有量を有することができる。例えば、エチ
レンビニルアルコール共重合体のエチレン含有量は、約25~約45mole%でよい。
幾つかの実施例において、EVOH樹脂組成物はポリアルキレンオキシドを含まない。
【0013】
EVOH樹脂組成物の含フッ素粒子は、約0.5~約19μmの粒径を有し得るのが好
ましい。例えば、含フッ素粒子の粒径は約1.2~約16μmでよい。
【0014】
少なくとも1つの実施例によれば、EVOH樹脂組成物は、エチレンビニルアルコール
共重合体を含み、エチレンビニルアルコール共重合体はエチレン含有量及び鹸化度を有し
ており、そのうち、エチレン含有量は約20~約50mole%であり、鹸化度は99.
5mole%以上であり、EVOH樹脂組成物はさらに、第1融点温度及び第2融点温度
を含む、少なくとも2つの融点温度を含み、第1融点温度は約100℃~約140℃であ
り、第2融点温度は約150℃~約195℃であり、EVOH樹脂組成物はさらに、EV
OH樹脂組成物中に分散する含フッ素粒子を含み、ここで、EVOH樹脂組成物の融解圧
力は1.7~7.0MPaである。
【0015】
上述のEVOH樹脂組成物により形成されたフィルムは、通常、少なくとも2.3KJ
/mのシャルピー衝撃強度(例えばISO 179-1に基づき23℃下において)、
及び少なくとも17.8%の破断点伸び(ISO 527-2に基づき23℃下において
)を有する。フィルムのシャルピー衝撃強度は、少なくとも2.6KJ/mであるのが
好ましい。幾つかの状況では、フィルムの破断点伸びは少なくとも20%である。意外な
ことに、本明細書に記載の含フッ素粒子を有するEVOH樹脂組成物は、このEVOH樹
脂組成物のペレットにより形成されたフィルムの強度及び可塑性を有利に改善した。
【図面の簡単な説明】
【0016】
以下、本発明の技術の実施について、添付図面を参照しつつ、例としてのみ記述する。
【0017】
図1】本発明の例示的なEVOH樹脂組成物の断面図である。
図2】本発明の例示的なEVOH樹脂組成物の2つの融点温度の図である。
図3】本発明のEVOH樹脂組成物が溶融されて押出機を流れる断面図である。
【0018】
なお、本発明の各態様は添付図面に示す配置、手段及び特性に限らないことを理解され
たい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂組成物に関するもので
ある。EVOH樹脂組成物は、その中に分散した粒子、特に含フッ素粒子を有している。
EVOH樹脂組成物は、フィルム又は多層構造体の調製に用いることができる。
【0020】
1つの態様では、本発明はEVOH樹脂組成物を提供する。EVOH樹脂組成物は、ペ
レット、フィルム、繊維などの形態を呈し得る。本明細書に記載のEVOHペレットとは
、EVOH樹脂組成物の造粒を経て形成された1つ以上のペレットの形態及び/又は形状
を指す。本明細書では、造粒を経て形成された1つ以上のEVOHペレット形態のEVO
H樹脂組成物を記述しているが、EVOH樹脂組成物はビーズ、立方体、チップ、削りく
ずなどの形態に加工されてもよい。本発明のEVOH樹脂組成物は、通常、エチレンビニ
ルアルコール共重合体及び少なくとも1つの含フッ素粒子を含み、含フッ素粒子の粒径は
20μm以下である。
【0021】
図1は本発明の例示的EVOH樹脂組成物100の断面図を描いたものである。EVO
H樹脂組成物100は、EVOHにより形成され、EVOHはエチレン含有量を有してい
る。例えば、EVOHのエチレン含有量は、約20~約50mole%、約25~約45
mole%、約28~約42mole%又は約30~約40mole%でよい。EVOH
樹脂組成物100は、異なるエチレン含有量を有する2種類以上のEVOHにより形成す
ることができる。例えば、そのうちの1種類のEVOHのエチレン含有量は、約20~約
35mole%の範囲内でよく、例えば約24~約35mole%、約28~約35mo
le%、約20~約32mole%、約24~約32mole%、約28~約32mol
e%、約20~約30mole%又は約24~約30mole%である。さらに/又は、
そのうちの1種類のEVOHのエチレン含有量は、約36~約50mole%の範囲内で
よく、例えば約40~約50mole%、約44~約50mole%、約36~約45m
ole%又は約40~約45mole%である。しかし、幾つかの好ましい実施例におい
て、EVOH樹脂組成物100は、エチレン含有量が約20~約50mole%の単一の
EVOHにより形成される。
【0022】
上述のEVOH樹脂組成物100のフッ素含有量は、添加する1種類以上のフッ化ポリ
マー(本明細書では「フッ素ポリマー」とも呼ぶ)と関係しており、フッ化ポリマーは、
EVOH樹脂組成物100中に分散する含フッ素粒子110を形成することができる。例
えば、上述の1種類以上のフッ素ポリマーは、ポリフッ化ビニリデン(polyviny
lidene fluoride,PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(poly
tetrafluoroethylene)、ポリヘキサフルオロプロピレン(poly
hexafluoropropylene)、ポリクロロトリフルオロエチレン(pol
ychlorotrifluoroethylene,PCTFE)、2-クロロ-1,
1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(2-chloropentafluorop
ropene)、ジクロロジフルオロエチレン(dichlorodifluoroet
hylene)、1,1-ジクロロフルオロエチレン(1,1-dichloroflu
oroethylene)及びそれらの組み合わせを含むか又はそれらから選択され得る
。さらに/又は、フッ素ポリマーは、フッ化ビニリデン(vinylidene flu
oride,VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropyl
ene,HFP)及びテトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylen
e,TFE)のうち、少なくとも1種類から誘導された共重合体を含むことができる。幾
つかの実施例において、フッ素ポリマーは、VDF、HFP及びTFEのうち、2種類以
上から誘導された共重合体を含むことができる。例えば、EVOH樹脂組成物100は、
VDF及びHFPから誘導された共重合体、TFE及びHFPから誘導された共重合体、
VDF及びTFEから誘導された共重合体並びに/又はVDF、HFP及びTFEから誘
導された共重合体を含むことができる。如何なる特定の理論にも限定されないが、発明者
は、フッ素ポリマーの結晶サイズを縮小することにより、EVOH樹脂組成物100の少
なくとも1つの融点を低くさせることができ、これにより加工プロセスに必要なエネルギ
ーが低減すると確信している。
【0023】
含フッ素粒子110の炭素、酸素及びフッ素元素の総重量に基づき、含フッ素粒子11
0は、約1.5~約48wt%のフッ素を有することができる。その他の実施例では、含
フッ素粒子110の炭素、酸素及びフッ素元素の総重量に基づき、含フッ素粒子110は
、約1.5~約47.2wt%のフッ素、約1.8~約44wt%のフッ素又は約2.1
~約41wt%のフッ素を有することができる。
【0024】
EVOH樹脂組成物100は、含フッ素粒子110を有し、粒子は微粒子形態でよく、
国際純正・応用化学連合(IUPAC)によれば、微粒子の定義は10-7~10-4
ートルであり、本発明における微粒子が有し得る粒径は、直径又は断面積にわたる主軸長
さが0.5~約19μm、1.0~約19μm、又は1.2~約16μmであるのが好ま
しい。含フッ素粒子のサイズは、フッ素ポリマーのタイプ又は種類、フッ素ポリマーの量
及びEVOHのエチレン含有量を調節することによりコントロールすることができる。含
フッ素粒子が球形である場合、含フッ素粒子が所望の粒径を有するか否かはその断面の直
径により決定する。含フッ素粒子が球形ではなく、及び/又は含フッ素粒子の断面形状が
円形ではない(例えば楕円形又は塊状を呈する)場合、含フッ素粒子が所望の粒径を有す
るか否かは含フッ素粒子の断面の主軸長さにより決定する。主軸の定義は、最大の長さを
有する軸とする。幾つかの実施例において、EVOH樹脂組成物100の断面上で評価さ
れるすべての含フッ素粒子110の粒径はいずれも20μm以下であり、例えば19μm
以下、18μm以下、16μm以下、14μm以下又は12μm以下である。言い換える
と、幾つかの実施例において、含フッ素粒子110の粒径は20μmを超えることがなく
、例えば19μm、18μm、16μm、14μm又は12μmを超えない。含フッ素粒
子110の粒径は、0.1μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上又は0.7μm以
上でよい。例えば、EVOH樹脂組成物100は、粒径が1.0~約19μm又は1.2
~約16μmの含フッ素粒子110を有することができる。幾つかの実施例において、E
VOH樹脂組成物100の断面上で評価されるすべての含フッ素粒子110は、いずれも
本明細書に記載される所望の粒径範囲内にある。しかし、幾つかの実施例においては、E
VOH樹脂組成物100の断面上で評価される含フッ素粒子110の大多数が所望の粒径
範囲内にある。粒径が所望の範囲内にあるか否かを左右する例示的な要素には、(a)フ
ッ素ポリマーの量、(b)EVOHのエチレン含有量、(c)フッ素ポリマーのタイプ、
(d)押出機中の温度、及び(e)スクリューの回転速度が含まれ得る。
【0025】
図2に示す通り、EVOH樹脂組成物100は、少なくとも2つの融点温度を有するこ
とができる。幾つかの実施例において、EVOH樹脂組成物100における1つの融点温
度(例えば、第1融点温度)は、約100℃~約140℃であり、例えば約105℃~約
135℃、約110℃~約135℃又は約120℃~約130℃であり、前記第1融点温
度はフッ素ポリマーの融点温度に対応する。さらに/又は、そのうちの1つの融点温度(
例えば、第2融点温度)は、約150℃~約195℃であり、例えば約158℃~約19
0℃又は約164℃~約187℃であり、前記第2融点温度はEVOHの融点温度に対応
し、EVOHの融点温度はEVOHのエチレン含有量によって異なる。幾つかの実施例に
おいて、EVOH樹脂組成物100は少なくとも3つの異なる融点温度を有する。他の実
施例において、EVOH樹脂組成物100は少なくとも4つ、少なくとも5つ又は少なく
とも6つの異なる融点温度を有する。さらに/又は、EVOH樹脂組成物100の鹸化度
は90mole%以上でよく、好適には95mole%以上、好適には97mole%以
上、好適には99.5mole%以上である。
【0026】
上述のEVOH樹脂組成物100は、ポリアルキレンオキシドを含まないか又は実質的
に含まなくてよい。例えば、EVOH樹脂組成物100は、5wt%未満のポリアルキレ
ンオキシドを有することができ、例えば4wt%未満、3wt%未満、2wt%未満、1
wt%未満又は0.5wt%未満である。
【0027】
上述のEVOH樹脂組成物100は、それにより形成されるEVOHフィルムをより効
率的に調製するのに役立つ。例えば、EVOH樹脂組成物100は、EVOHフィルムの
製造過程において、ダイへの析出を改善し、スクリューに粘着する問題を低減することが
できる。EVOHフィルムを調製する相応しい方法及び設備には、当業者が容易に理解で
きる方法及び設備を含むことができる。発明者は、部分的に混和性(且つ部分的に不混和
性)であるフッ素ポリマーを使用し、且つ含フッ素粒子110を含有したEVOH樹脂組
成物100を調製することにより、一部のフッ素ポリマーが押出機の内表面において分離
し、コーティング層120が形成されると確信している。図3は、本発明におけるEVO
Hペレットのフッ素ポリマーの一部が押出機の内表面に形成したコーティング層120を
描いたものである。また、押出機の内壁をコーティングしたフッ化ポリマー層が押出機を
流れるEVOH樹脂を保護するため、EVOHペレットの押し出し工程を高温化で行って
もEVOHフィルムに変色が生じないようにさせるのに有利である。
【0028】
別の態様において、本発明が提供するEVOH樹脂組成物は、せん断速度20s-1
温度190℃下において、1.7~7.0MPaの融解圧力を有する。意外なことに、E
VOH樹脂組成物の融解圧力がせん断速度20s-1、温度190℃下において1.7~
7.0MPaの範囲内にある場合、広範囲のエチレン含有量下で改善された性能を有する
EVOH樹脂組成物を取得し得ることが分かった。本発明では、含フッ素粒子110を含
有するEVOH樹脂組成物100の融解圧力が所望の範囲内にあれば、その加工性、機械
的性質及びフィルムの外観を改善することができる。EVOH樹脂組成物は、本明細書中
で検討するEVOH樹脂及び/又はペレットの特徴、属性又は性質を1種類以上含み得る
。フッ素ポリマーを添加することは、EVOH樹脂組成物のスクリュー加工に寄与し得る
。特に、フッ素ポリマーがスクリュー押出機の内壁に付着することで、EVOH樹脂組成
物がスクリュー押出機を通過する際の流動抵抗が低減する。キャピラリーレオメーターは
、EVOHのスクリュー押出機中での挙動をシミュレーションするのに用いることができ
る。EVOH加工で用いられる温度は一般的に190℃であるため、EVOH樹脂組成物
の溶融/融解挙動を解析する際にもこの温度がよく用いられる。せん断速度20s-1
またEVOH加工でよく用いられるせん断速度の範囲内である。また、この低せん断速度
下では、溶融挙動の差異をより良好に反映し得る。上述の通り、温度190℃、せん断速
度20s-1は、EVOH加工分野において代表的なパラメータである。本発明の1つの
態様に基づき、細管中の融解圧力を特定の範囲内にコントロールすることで、EVOHに
良好なフィルム外観、加工安定性といった特徴や、改善された可塑性及び機械的性質を持
たせることができる。
【0029】
典型的なEVOH樹脂組成物は、エチレンビニルアルコール共重合体及び1種類以上/
個の含フッ素粒子を含むことができ、そのうち、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂
組成物は、せん断速度20s-1、温度190℃下において、1.7~7.0MPaの融
解圧力を有する。EVOH樹脂組成物の融解圧力は、せん断速度20s-1、温度190
℃下において、1.7~7.0MPa、1.7~約6.8MPa、1.7~約6.5MP
a、1.7~約6.2MPa、1.7~約5.9MPa、1.7~約5.6MPa、約2
~約6.8MPa、約2~約6.5MPa、約2~約6.2MPa、約2~約5.9MP
a、約2~約5.6MPa、約2.3~約6.8MPa、約2.3~約6.5MPa、約
2.3~約6.2MPa、約2.3~約5.9MPa、約2.3~約5.6MPa、約2
.6~約6.8MPa、約2.6~約6.5MPa、約2.6~約6.2MPa、約2.
6~約5.9MPa、約2.6~約5.6MPa、約2.9~約6.8MPa、約2.9
~約6.5MPa、約2.9~約6.2MPa、約2.9~約5.9MPa、約2.9~
約5.6MPa、約3.2~約6.8MPa、約3.2~約6.5MPa、約3.2~約
6.2MPa、約3.2~約5.9MPa、約3.2~約5.6MPa、約3.5~約6
.8MPa、約3.5~約6.5MPa、約3.5~約6.2MPa、約3.5~約5.
9MPa、約3.5~約5.6MPa、約3.9~約6.8MPa、約3.9~約6.5
MPa、約3.9~約6.2MPa、約3.9~約5.9MPa、約3.9~約5.6M
Pa、約4.2~約6.8MPa、約4.2~約6.5MPa、約4.2~約6.2MP
a、約4.2~約5.9MPa又は約4.2~約5.6MPaの範囲内であり得る。
【0030】
ある状況下において、EVOH樹脂組成物は、ホウ素化合物及び/又はホウ酸及び/又
はケイ皮酸及び/又はアルカリ金属及び/又は共役ポリエン及び/又は潤滑剤及び/又は
アルカリ土類金属を含み得る。上述の物質は、EVOH樹脂組成物により良好な性質を付
与し得る。
【0031】
EVOH樹脂組成物は、せん断速度20s-1、温度190℃下において、約0.04
~約2.4kNの溶解力を有し得る。例えば、せん断速度20s-1、温度190℃下に
おける溶解力は、約0.04~約2.4kN、約0.04~約2.0kN、約0.04~
約1.7kN、約0.04~約1.4kN、約0.04~約1.1kN、約0.04~約
1.0kN、約0.04~約0.8kN、約0.06~約2.4kN、約0.06~約2
.0kN、約0.06~約1.7kN、約0.06~約1.4kN、約0.06~約1.
1kN、約0.06~約1.0kN、約0.06~約0.8kN、約0.08~約2.4
kN、約0.08~約2.0kN、約0.08~約1.7kN、約0.08~約1.4k
N、約0.08~約1.1kN、約0.08~約1.0kN、約0.1~約2.4kN、
約0.1~約2.0kN、約0.1~約1.7kN、約0.1~約1.4kN、約0.1
~約1.1kNであり得る。
【0032】
さらに/又は、本発明の他の態様において、EVOH樹脂組成物は、含フッ素粒子及び
10~450ppmのホウ素含有量を有し得る。如何なる特定の理論にも限定されないが
、発明者は、含フッ素粒子を有するEVOH樹脂組成物中にホウ素化合物を添加し、EV
OHのホウ素含有量を10~450ppmとすることで、スクリュー押出機の押出プロセ
スにおけるEVOH樹脂組成物の粘着が低減又はなくなり、且つフィルム厚みの均一性及
び可塑性がより改善されると確信している。ある状況下において、こうしたEVOH樹脂
組成物は、押出プロセス中、スクリュー押出機の内側表面に粘着していたEVOH樹脂を
除去又は少なくとも一部を除去し、スクリュー押出機を洗浄し得る。
【0033】
典型的なEVOH樹脂組成物は、エチレンビニルアルコール共重合体、1種類以上/個
の含フッ素粒子、及びホウ素化合物を含むことができ、そのうち、エチレンビニルアルコ
ール共重合体樹脂組成物のホウ素含有量は10~450ppmである。幾つかの状況にお
いて、EVOH樹脂組成物のホウ素含有量は、EVOH樹脂組成物の総重量に基づき、1
0~450ppm、10~約400ppm、10~約350ppm、10~約300pp
m、10~約275ppm、10~約250ppm、10~約225ppm、10~約2
00ppm、10~約175ppm、約20~450ppm、約20~約400ppm、
約20~約350ppm、約20~約300ppm、約20~約275ppm、約20~
約250ppm、約20~約225ppm、約20~約200ppm、約20~約175
ppm、約60~450ppm、約60~約400ppm、約60~約350ppm、約
60~約300ppm、約60~約275ppm、約60~約250ppm、約60~約
225ppm、約60~約200ppm、約60~約175ppm、約100~450p
pm、約100~約400ppm、約100~約350ppm、約100~約300pp
m、約100~約275ppm、約100~約250ppm、約100~約225ppm
、約100~約200ppm、約100~約175ppm、約140~450ppm、約
140~約400ppm、約140~約350ppm、約140~約300ppm、約1
40~約275ppm、約140~約250ppm、約140~約225ppm、約14
0~約200ppm、約180~約450ppm、約180~約400ppm、約180
~約350ppm、約180~約300ppm、約180~約275ppm、約180~
約250ppm、約180~約225ppm、約220~450ppm、約220~約4
00ppm、約220~約350ppm、約220~約300ppm、約220~約27
5ppmであり得る。EVOH樹脂組成物のホウ素含有量が一定範囲内にある場合、EV
OH樹脂組成物の粘度が増加し、且つEVOH樹脂組成物がスクリューに粘着する機会が
低減するか、又はスクリュー上のEVOHを除去することができ、これにより、材料に自
浄機能を持たせて、フィルム厚みの均一性をさらに改善することができる。ある状況下に
おいて、ホウ素含有量が10~450ppmであるだけでなく、EVOH樹脂組成物はさ
らにケイ皮酸、アルカリ金属、共役ポリエン、潤滑剤、アルカリ土類金属、それらの塩及
び/又はそれらの混合物を含み得る。上述の物質は、一般的にEVOH樹脂組成物中でよ
く存在する物質であり、より良好な性質を持たせる。EVOH樹脂組成物中の単位重量あ
たりの共役ポリエン構造を有する化合物の含有量が1~30000ppmである場合、加
熱着色がより抑制され、熱安定性をより優れたものにし得る。EVOH樹脂組成物中の単
位重量あたりのアルカリ金属を有する化合物又はアルカリ土類金属を有する化合物の含有
量が金属換算で1~1000ppmである場合、ロングラン成形性をより優れたものにし
得る。また、EVOH樹脂組成物中の単位重量あたりの潤滑剤含有量が1~300ppm
である場合、加工性をより優れたものにし得る。
【0034】
ある状況下において、ホウ素化合物はホウ酸又はその金属塩を含み得る。金属塩の例と
して、ホウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛
など)、ホウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム
、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウムなど)、ホウ酸
カドミウム(オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウムなど)、ホウ酸カリウム(メ
タホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸
カリウムなど)、ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀など)、ホウ酸銅(ホウ酸第2銅
、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅など)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ
酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ
酸ナトリウムなど)、ホウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛など)、ホウ酸ニッケル(オ
ルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケルなど)、
ホウ酸バリウム(オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホ
ウ酸バリウムなど)、ホウ酸ビスマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム
、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸
五マグネシウムなど)、ホウ酸マンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四
ホウ酸マンガンなど)、ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホ
ウ酸リチウムなど)、それらの塩又はそれらの組み合わせを含むが、これらに限らない。
例えばホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、スーアン石(suanite)
及びザイベリ石(szaibelyite)などのホウ酸塩鉱物などを含み得る。そのう
ち、ホウ砂、ホウ酸及びホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム
、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム及び八ホウ酸ナトリウ
ムなど)を使用するのが好ましい。
【0035】
別の態様では、本発明はEVOH樹脂組成物100により形成されたEVOHフィルム
を提供する。EVOHフィルムのISO 179-1に基づくシャルピー衝撃強度は、2
3℃下で少なくとも2.3KJ/mであり、EVOHフィルムのISO 527-2に
基づく破断点伸びは、23℃下で少なくとも17.8%であった。幾つかの実施例では、
EVOHフィルムのISO 179-1に基づくシャルピー衝撃強度は、23℃下で少な
くとも3KJ/m、少なくとも4.5KJ/m、少なくとも5.5KJ/m又は少
なくとも6.5KJ/mであり得る。上述のシャルピー衝撃強度を得るには、ISO
179-1の方法を用いて測定を行う前に、試料を相対湿度50%±5%、温度23℃±
2℃において16時間放置する必要がある。また、衝撃エネルギーを7.5Jに設定し、
衝撃方向はエッジワイズ方向とし、試料タイプは1eAとし、試料の平均幅は10.06
mmとし、試料の平均厚さは3.94mmとする必要がある。試験するノッチの深さは8
.09mmとし、試験温度は23℃±2℃とし、破断タイプはCとする必要がある。EV
OHフィルムのISO 527-2に基づく破断点伸びは、23℃下で少なくとも20%
であり得る。幾つかの実施例では、EVOHフィルムのISO 527-2に基づく破断
点伸びは、23℃下で少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%又は少な
くとも24%である。上述の破断点伸び値を得るには、2012エディションの試験方法
を使用し、試験速度は50mm/minとし、試料タイプは1Aとし、試料の平均厚さは
3.99mmとする必要がある。
【0036】
また別の態様では、本発明は多層構造体を提供し、それは少なくとも1つの本発明のE
VOH樹脂組成物により形成された層、少なくとも1つのポリマー層、及び少なくとも1
つの粘着剤層(adhesive layer)を有する。ポリマー層は、低密度ポリエ
チレン層、ポリエチレングラフト無水マレイン酸層、ポリプロピレン層、ナイロン層及び
それらの組み合わせから選択され得る。粘着剤層は、例えばARKEMA社のARKEM
A OREVAC 18729などの結合層(tie layer)でよい。
【実施例0037】
以下で提供する本発明の各態様の非限定的実施例は、主に本発明の各態様及びそれによ
り達成される効果を明らかにするためのものである。
【実施例0038】
本発明に基づき、4種類のフッ素ポリマーを調製する(実施例フッ素ポリマーA~D)
。その後、実施例フッ素ポリマーA~Dを使用して、本発明のエチレンビニルアルコール
共重合体(以下、「EVOH」と呼ぶ)樹脂組成物を調製する。以下に開示する具体的な
方法に基づいて実施例フッ素ポリマーA~Dを調製するが、その他のタイプのフッ素ポリ
マーを使用してEVOHに添加することもできる。
【0039】
実施例フッ素ポリマーA
オートクレーブを回分反応器として使用し、実施例フッ素ポリマーAを調製した。オー
トクレーブの内容積は約20Lであり、電磁誘導撹拌装置が設置されている。オートクレ
ーブに窒素ガス(N)を十分に充填し、その後に減圧した窒素ガスを5回充填した。
【0040】
オートクレーブ内を減圧させると同時に、6,960gの脱酸素純水、3,204gの
1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン及び3.5gのメチルセルロ
ースをオートクレーブに加えた。メチルセルロースの粘度は50cpであり、懸濁安定剤
としてオートクレーブ内の組成物中に450rpmで撹拌混入した。オートクレーブ内の
組成物は52℃下に置いた。
【0041】
25.3wt%のフッ化ビニリデン(VDF)、68.6wt%のヘキサフルオロプロ
ピレン(HFP)及び6.1wt%のテトラフルオロエチレン(TFE)で組成されたモ
ノマーを充填ガスとしてバッチ中に混入して、10kg/cmまで充填した。その後、
約90wt%の1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン及び10wt
%のジイソプロピルパーオキシジカーボネートを含有する溶液45.6gを触媒として添
加し、重合反応を開始させた。ジイソプロピルパーオキシジカーボネートは、重合反応を
開始させるための開始剤として用いた。重合反応過程では圧力が低下するため、44.7
wt%のVDF、32.5wt%のHFP及び22.8wt%のTFEを有する混合モノ
マーを添加して、圧力を10kg/cmまで上げた。重合反応完了後、残りの混合モノ
マーを除去し、且つ得られた懸濁液を遠心分離機で脱水し、脱イオン水で洗浄してから1
00℃で真空乾燥させて、7.5kgの実施例フッ素ポリマーAを得た。
【0042】
実施例フッ素ポリマーB
同様のオートクレーブを使用して実施例フッ素ポリマーBを調製し、且つ実施例フッ素
ポリマーAと同じ方法に従って設置を行った。オートクレーブは同様に減圧した窒素ガス
の充填を5回繰り返した。
【0043】
オートクレーブ内を減圧させると同時に、7,200gの脱酸素純水、3,250gの
1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン及び4gのメチルセルロース
をオートクレーブに加えた。メチルセルロースの粘度は50cpであり、懸濁安定剤とし
てオートクレーブ内のバッチ中に500rpmで撹拌混入した。オートクレーブ内のバッ
チは52℃下に置いた。
【0044】
25wt%のVDF、55wt%のHFP及び20wt%のTFEで組成されたモノマ
ーを充填ガスとしてバッチ中に混入して、20kg/cmまで充填した。その後、約8
5wt%の1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン及び15wt%の
ジイソプロピルパーオキシジカーボネートを含有する溶液40gを触媒として添加し、重
合反応を開始させた。ジイソプロピルパーオキシジカーボネートは、重合反応を開始させ
るための開始剤として用いた。重合反応過程では圧力が低下するため、40wt%のVD
F、35wt%のHFP及び25wt%のTFEを有する混合モノマーを添加して、圧力
を20kg/cmまで上げた。重合反応完了後、残りの混合モノマーを除去し、且つ得
られた懸濁液を遠心分離機で脱水し、脱イオン水で洗浄してから100℃で真空乾燥させ
て、6kgの実施例フッ素ポリマーBを得た。
【0045】
実施例フッ素ポリマーC
実施例フッ素ポリマーAの調製に用いたのと同様のオートクレーブ及び誘導撹拌装置を
使用して、実施例フッ素ポリマーCを調製した。オートクレーブに窒素ガスを十分に充填
し、且つ3Lの組成物を加えた。当該組成物には脱酸素純水及び乳化剤として30gのノ
ナデカフルオロデカン酸アンモニウムが含有されている。オートクレーブ内の組成物を6
0℃まで加熱して、380rpmで攪拌した。
【0046】
その後、オートクレーブの内部圧力が20kg/cmに達するまで、約70wt%の
VDF及び約30wt%のHFPを含有する混合ガスをオートクレーブに充填した。次に
、約80wt%の1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン及び20w
t%のジイソプロピルパーオキシジカーボネートを含有する溶液40gをオートクレーブ
中に窒素ガスを用いて添加した。ジイソプロピルパーオキシジカーボネートは、重合反応
を開始させるための開始剤として用いた。
【0047】
重合反応過程中、VDF(62wt%)及びHFP(38wt%)の混合ガスを連続的
に注入して、オートクレーブの内部圧力を20kg/cmに維持させた。重合速度は重
合反応の進行と共に低下するため、重合反応開始から3時間後に、約80wt%の1,1
,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン及び20wt%のジイソプロピルパ
ーオキシジカーボネートを含有する溶液30gをオートクレーブ中に窒素ガスを用いて添
加した。モノマーをさらに3時間重合させた後、得られた懸濁液を遠心分離機で脱水し、
脱イオン水で洗浄してから100℃で真空乾燥させて、7.2kgの実施例フッ素ポリマ
ーCを得た。
【0048】
実施例フッ素ポリマーD
容積が約3Lのオートクレーブを回分反応器として使用し、実施例フッ素ポリマーDを
調製した。オートクレーブは電磁誘導撹拌装置を備えている。936gの脱イオン水、0
.36gのメチルセルロース、360gのVDF、0.3gのt-ブチルパーオキシピバ
レート(tert-butyl peroxypivalate)、0.36gのピロリ
ン酸ナトリウム、0.36gの酸性ピロリン酸ナトリウム及び1.8gの炭酸ジエチルの
バッチをオートクレーブにセットして加え、10℃で30分間撹拌した後、45℃で14
0分間加熱した。
【0049】
オートクレーブ内の最大圧力は6MPaであった。オートクレーブ内の圧力が2.5M
Paまで下がったとき、モノマーの重合反応が終了したが、これは、モノマーの加熱開始
から15時間後に生じた。重合反応完了後、ポリマースラリーを取り出して脱水し、脱イ
オン水で洗浄して脱水した後、80℃で24時間乾燥させて、インヘレント粘度が2.0
5dl/g、かさ密度が0.225g/mlのポリフッ化ビニリデン(実施例フッ素ポリ
マーD)を得たが、収率は55%であった。
【実施例0050】
以下では、EVOH樹脂組成物により形成されるEVOHペレットの非限定的な調製方
法を提供する。以下に開示する方法と同様の方法に基づき、フッ素粒子を有する非限定的
実施例EVOHを27種類(実施例EVOH1~27)、及び比較例EVOHペレットを
5種類(比較例EVOH1~5)調製した。但し、実施例EVOH1~27及び比較例E
VOH1~5を調製する具体的な方法は、通常、1つ以上の面で以下に開示する方法と異
なっている。
【0051】
エチレン含有量が29mole%のエチレン酢酸ビニル共重合体(ethylene-
vinyl acetate copolymer、以下では「EVAC」と呼ぶ)の鹸
化を行い、鹸化度99.5%でEVOHポリマーを調製した。次に、EVOHをメタノー
ルと水(比率は70:30)を含有した溶液中に溶解した。その後、溶液におけるEVO
Hの固体含有量は41wt%となり、溶液を60℃下に置いた。
【0052】
水中ペレット製造(underwater pelletization)により、上
述のメタノール、水及びEVOHの溶液の造粒を行った。具体的には、ポンプを使用して
、上述のメタノール、水及びEVOHの溶液を流速120L/minで供給管に送り、次
に直径2.8mmの吸込管へ送り、回転ナイフを用いて1500rpmでカットした。5
℃の水を添加して、EVOHペレットを冷却した。次に、EVOHペレットを遠心分離し
て、EVOH粒子を分離した。分離後のEVOH粒子を水で洗浄した後、乾燥させてEV
OHペレットを得た。
【0053】
EVOHペレットと実施例1などのフッ素ポリマーを一定の比率で混合した後、二軸ス
クリュー押出機に送った。表1に示す通り、二軸スクリュー押出機の13の区域(1区~
13区)は温度が異なっている。混合後、25℃下でストランドカット(strand
cutting)を行い、フッ素元素を有する粒子(本明細書では「フッ素粒子」とも呼
ぶ)が含まれたEVOHを調製した。表1中、「EV27」とは、エチレン含有量が27
mole%のEVOHを指し、「EV29」とは、エチレン含有量が29mole%のE
VOHを指し、「EV32」とは、エチレン含有量が32mole%のEVOHを指し、
「EV38」とは、エチレン含有量が38mole%のEVOHを指し、「EV44」と
は、エチレン含有量が44mole%のEVOHを指す。
【0054】
【表1】
【実施例0055】
下記の方法に基づき、実施例EVOH1~27を用いてそれぞれフィルムを形成した。
実施例EVOH1~27及び比較例EVOH1~5を単層Tダイキャストフィルム押出機
(光学制御システムMEV4)へ送り、フィルムを調製した。実施例EVOH1~27及
び比較例EVOH1~5により形成された各フィルムの厚さは20μmであった。押出機
の温度は220℃に設定し、金型(即ちTダイ)の温度は230℃に設定した。スクリュ
ーの回転数は7rpm(rotations/minutes)とした。
【実施例0056】
実施例EVOH1~27及び比較例EVOH1~5の評価を行い、これらのEVOH及
びそれらにより形成されたフィルムの性質を判断した。上述の通り、実施例2に記載の方
法と類似の方法に基づき、実施例EVOH1~27を調製した。但し、EVOH1~27
の調製方法は、調製するEVOHについて、異なるエチレン含有量、異なるフッ素ポリマ
ー及び異なるフッ素ポリマー含有量を有するという面で異なっている。比較例EVOH1
~5についても、実施例2に記載したのと類似の方法に基づいて調製した。
【0057】
下記の表2は、実施例EVOH1~27及び比較例EVOH1~5の幾つかの属性、即
ちEVACのエチレン含有量、EVOHペレット中に含まれる特定のフッ素ポリマー及び
フッ素ポリマー含有量に関する概要である。
【0058】
【表2】
【0059】
特定の実施例EVOHと、実施例EVOHと同じ特徴を少なくとも1つ有する比較例E
VOHとを比較して、実施例EVOH1~27の性能を評価した。例えば、表3では実施
例EVOH1~5と比較例EVOH1~3の比較が提供されており、これらのEVOHの
調製にはいずれもエチレン含有量29mole%のEVACが使用されている。また、表
3には実施例EVOH6~10と比較例EVOH4及び5の比較が提供されており、これ
らのEVOHの調製にはいずれもエチレン含有量44mole%のEVACが使用されて
いる。
【0060】
【表3】
【0061】
実施例EVOH1~10中の粒子と比較例EVOH1~5中の粒子(あれば)の分散度
を評価するために、実施例EVOH1~10及び比較例EVOH1~5から種類毎に1つ
のEVOHペレットを取り、厚さ0.5mmの試料にカットした。次に、LEICA D
M2700M光学顕微鏡(Leica Microsystems)、CCDカメラ(例
えばLeica Microsystems製のもの)を使用して、各EVOHペレット
試料のカット面を評価し、ソフトウェア(例えばLAS V4.11のソフトウェア)を
使用して分析し、各含フッ素粒子の断面長さを測定した。EVOHペレット中に直径又は
主軸長さが20μmより大きい粒径の粒子が1つ以上ある場合、又は粒子が形成されてい
ない場合は「X」で表し、EVOHペレットの粒子が凝固しておらず、優れた分散性が示
されている場合は「O」で表した。
【0062】
JSM-6390走査電子顕微鏡(JEOL USA,INC.製)を使用してフッ素
含有量を測定した。電圧は15KVに設定し、作動距離は15mmとした。オックスフォ
ード・インスツルメンツ(Oxford Instrument)社のINCA 758
2型を使用して、エネルギー分散分光分析を行った。走査電子顕微鏡のスポットサイズを
調節して、エネルギー分散分光の不感時間を35%未満にした。エネルギー分散分光分析
の取得率は1Kcpsに設定した。走査電子顕微鏡とエネルギー分散分光から得られた測
定結果を使用し、炭素のkα0.2774keV、酸素のkα0.5249keV及びフ
ッ素のkα0.6768keVの元素信号ピーク値に従い、フッ素含有量を炭素、酸素及
びフッ素の総含有量に基づき重量パーセント濃度(wt%)で計算した。また、エネルギ
ー分散分光分析過程では、走査電子顕微鏡のターゲットを粒子にして、測定されるフッ素
含有量が主に粒子中のフッ素を反映するようにさせた。具体的には、各実施例EVOH1
~10及び比較例EVOH1~5を10箇所で評価した。
【0063】
実施例EVOH1~10は、いずれも優れた含フッ素粒子の分散性及び本明細書に記載
の所望範囲の粒子サイズを示していたが、比較例EVOH1~5は分散性がやや劣り、且
つ粒子(存在する場合)のサイズは所望範囲を超えていた。表3が示す通り、比較例EV
OH3は、本明細書に記載の所望範囲に適合する2つの融点温度を有しており、且つ実施
例EVOH1~5と同じエチレン含有量を有するEVACにより調製されているが、比較
例EVOH3は粒子分散性に優れず、ひどく凝固しており、粒子のサイズは約40μmに
まで達していた。また、例えば比較例EVOH5は、実施例EVOH6~10と同じエチ
レン含有量及びフッ素ポリマーを有するEVACにより調製されているが、比較例EVO
H5のフッ素ポリマー含有量は本明細書に記載の所望範囲を超えており、含フッ素粒子の
分散性に優れず、粒子サイズが本明細書に記載の所望範囲を超えていた。また、比較例E
VOH1及び4はフッ素ポリマーを使用せずに調製されているため、粒子は示されなかっ
た。
【0064】
実施例3に記載したのと同じ方法に従って、実施例EVOH1~10及び比較例EVO
H1~5それぞれによりフィルムを形成した。フィルムを評価して、フィルムの外観、ダ
イへの析出の状態、フィルムのシャルピー衝撃強度及びフィルムの破断点伸びを判断した
。表4は、実施例EVOH1~10及び比較例EVOH1~5により形成されたフィルム
の特性の概要を示している。
【0065】
【表4】
【0066】
実施例EVOH1~10及び比較例EVOH1~5により形成されたフィルムの外観に
ついては、1m内において200μmより大きなサイズのフィッシュアイの数が3個未
満であった場合は「O」で表し、1m内において200μmより大きなサイズのフィッ
シュアイの数が3~10個であった場合は「Δ」で表し、1m内において200μmよ
り大きなサイズのフィッシュアイの数が10個より多い場合は「X」で表した。フィッシ
ュアイ数のテストには、電荷結合素子(charged coupled device
,CCD)センサ及びFSA-100 V.8ソフトウェアにより設計されたFSA-1
00を使用した。また、ダイ上に析出がない場合は「O」で表し、ダイ上に析出がある場
合は「X」で表した。
【0067】
シャルピー衝撃強度については、ISO 179-1の方法を用いて測定を行う前に、
試料を相対湿度50%±5%、温度23℃±2℃において16時間放置した。加えた衝撃
エネルギーは7.5Jであり、衝撃方向はエッジワイズであり、試料の平均幅は10.0
6mmとし、試料の平均厚さは3.94mmとした。試験するノッチの深さは8.09m
mとし、試験温度は23℃±2℃とし、破断タイプはCとした。
【0068】
破断点伸びについては、2012エディションのISO 527-2に基づく試験方法
を使用し、23℃の温度下で実施し、試験速度は50mm/minとし、試料タイプは1
Aとし、試料の平均厚さは3.99mmとした。
【0069】
実施例EVOH1~10のフィルムは、ダイ上に析出が生じず、1m内における20
0μmより大きなフィッシュアイは3個以下であった。実施例EVOH1~10のフィル
ムのシャルピー衝撃強度は2.45~6.9KJ/mであった。実施例EVOH1~1
0により形成されたフィルムの破断点伸びは17.8%~24.3%であった。
【0070】
比較例EVOH1、2及び4のフィルムは、ダイ上に析出が生じた。実施例EVOH1
により形成されたフィルムと比較例EVOH1により形成されたフィルムの比較からは、
実施例フッ素ポリマーAの添加により機械的性質が改善されることが示された。また、比
較例EVOH1及び2のフィルムと実施例EVOH1~4のフィルムの比較からは、粒子
サイズを本明細書が検討する特定の範囲内にコントロールすることで、シャルピー衝撃強
度と破断点伸びが大幅に改善されることが示された。比較例EVOH3及び5のフィルム
は、ダイ上に析出が生じなかったが、これらのフィルム中、1m内における200μm
より大きなサイズのフィッシュアイは10個より多かった。
【0071】
如何なる理論にも限定されないが、発明者は、比較例EVOH3及び5中には望ましく
ない粒子サイズが存在しているために過度の凝固現象が生じ、1m内における200μ
mより大きなサイズのフィッシュアイの数に悪影響を与えていると確信している。しかし
、粒子のサイズが所望範囲内にコントロールされた場合、実施例EVOHのフィルムは、
シャルピー衝撃強度や破断点伸びなどのより優れた機械的性質を示すだけでなく、より優
れた加工性やフィルム性質も示すようになる。
【0072】
実施例EVOH1、3、8及び10~20に対する比較を行うことにより、異なるエチ
レン含有量を有するEVACを使用した調製がEVOHに与える影響を評価した。下記の
表5に実施例EVOH1、3、8及び10~20の幾つかの特性をまとめた。
【0073】
【表5】
【0074】
EVOHの融点温度は、ISO 11357-3(2011)の方法に従い、TA-Q
200示差走査熱量計(differential scanning calorim
eter、略称DSC、TAインスツルメンツ製)を使用して測定し、示差走査熱量計の
1回目の作動において表示された第1融点温度と第2融点温度を得た。
【0075】
実施例EVOH1、3、8及び10~20は、いずれも優れた含フッ素粒子の分散性を
示した。また、実施例EVOH1、3、8及び10~20は、本明細書に記載の所望範囲
に適合するサイズ及びフッ素含有量の粒子を有していた。実施例EVOH1、3、8及び
10~20は各々が2つの融点温度を有しており、そのうち第1(低い)融点温度は11
0℃~125.2℃であり、第2(高い)融点温度は158.7℃~189.9℃であっ
た。驚いたことに、エチレン含有量の大小に関わらず、これらの実施例EVOHはいずれ
も改善された加工性を示しており、且つそれにより形成されたEVOHフィルムは改善さ
れた機械的性質を有していた。如何なる特定の理論にも限定されないが、発明者は、EV
OH樹脂及びそのペレットが粒径20μm未満のフッ素ポリマーを含んだ粒子を有してい
る場合、それにより形成されたEVOHフィルムの加工性及び機械的性質を改善すること
ができると確信している。なお、実施例フッ素ポリマーAの量と粒子中のフッ素含有量の
範囲に直接的な関係はなく、正の相関関係にもなかった。
【0076】
実施例3に記載したのと同様の方法に基づき、実施例EVOH1、3、8、10、11
及び12によりフィルムを形成した。上述の工程及び定性的評価指標を用いてフィルムを
評価し、フィルムの外観、ダイ部分の析出、フィルムのシャルピー衝撃強度及びフィルム
の破断点伸びを判断した。下記の表6に実施例EVOH1、3、8、10、11及び12
のフィルムの特性の概要を示した。
【0077】
【表6】
【0078】
実施例EVOH1、3、8、10、11及び12のフィルムは、いずれもダイ上に析出
が生じず、1m内における200μmより大きなサイズのフィッシュアイは3個未満で
あった。実施例EVOH1、3、8、10、11及び12のフィルムのシャルピー衝撃強
度は2.3~6.8KJ/mの範囲内であり、実施例EVOH1、3、8、10、11
及び12のフィルムの破断点伸びは17.8%~24.1%であった。
【0079】
実施例フッ素ポリマーA~Dにより調製されたEVOHに対する比較を行うことにより
、実施例フッ素ポリマーA~Dが形成されたEVOHに与える影響を評価した。下記の表
7に実施例EVOH1、11及び21~27の幾つかの特性の概要を示した。
【0080】
【表7】
【0081】
実施例EVOH1、11及び21~27は、いずれも優れた含フッ素粒子の分散性を示
した。また、実施例EVOH1、11及び21~27は、本明細書に記載の所望範囲に適
合するサイズ及びフッ素含有量の粒子を有していた。実施例EVOH1、11及び21~
27は各々がいずれも2つの融点温度を有しており、そのうち第1(低い)融点温度は1
13.7℃~133.7℃の範囲内であり、第2(高い)融点温度は180.9℃~18
6.9℃の範囲内であった。
【0082】
実施例3に記載したのと類似の方法に基づき、実施例EVOH1、11及び21~27
によりフィルムを形成した。上述の工程及び定性的評価指標を用いてフィルムを評価し、
フィルムの外観、ダイ部分の析出、フィルムのシャルピー衝撃強度及びフィルムの破断点
伸びを判断した。表8は、実施例EVOH1、11及び21~27のフィルムの特性の概
要を示している。
【0083】
【表8】
【0084】
実施例EVOH1、11及び21~27により形成されたフィルムは、いずれもダイ上
に析出が生じず、1m内における200μmより大きなサイズのフィッシュアイは3個
未満であった。実施例EVOH1、11及び21~27のフィルムのシャルピー衝撃強度
は2.45~3.3KJ/mの範囲内であり、実施例EVOH1、11及び21~27
のフィルムの破断点伸びは17.8%~22.4%であった。
【実施例0085】
上述の実施例(実施例2など)に記載の工程に基づき、実施例EVOH1~4、6、8
、10、12、22~25及び27~29並びに比較例EVOH1、3及び6を調製した
。実施例3に記載の方法に基づき、実施例EVOH1~4、6、8、10、12、22~
25及び27~29並びに比較例EVOH1、3及び6それぞれによりフィルムを調製し
た。下記の表9は、実施例EVOH1~4、6、8、10、12、22~25及び27~
29並びに比較例EVOH1、3、6の幾つかの属性、即ちEVACのエチレン含有量、
EVOHペレット中に含まれる特定のフッ素ポリマー及びフッ素ポリマー含有量に関する
概要である。
【0086】
【表9】
【実施例0087】
実施例EVOH1~4、6、8、10、12、22~25及び27~29並びに比較例
EVOH1、3及び6に対する評価を行い、樹脂組成物の融解圧力、溶解力、フッ素含有
量、粒子サイズの範囲、粒子の分散性、及び融点温度など、幾つかの性質を判断した。実
施例3に記載の方法に基づき、実施例EVOH1~4、6、8、10、12、22~25
及び27~29並びに比較例EVOH1、3及び6のフィルムを調製した。
【0088】
実施例EVOH1~4、6、8、10、12、22~25及び27~29並びに比較例
EVOH1、3及び6の融解圧力及び溶解力をそれぞれ測定した。具体的には、実施例E
VOH1~4、6、8、10、12、22~25及び27~29並びに比較例EVOH1
、3及び6の試料をそれぞれマルバーンインスツルメンツ社製のRH7 Flowmas
ter ツイン・ボア式キャピラリーレオメーター(twin bore capill
ary rheometer)に入れた。RH7 Flowmaster ツイン・ボア
式キャピラリーレオメーターのテスト側に長いダイ(long die)(孔内径:1m
m、長さ:20mm)を取り付け、ブランク側にゼロ長ダイ(zero die)(孔内
径:1mm、長さ:0.25mm)を取り付けた。RH7 Flowmaster ツイ
ン・ボア式キャピラリーレオメーターの孔径は15mmであり、Ultra-MAX-H
T圧力センサ(型番:UMHT3-6-M-X-18-D8-30M-B)を有し、Ro
sandレオメータコントロールソフトウェア(バージョン8.6)をソフトウェアプラ
ットフォームとして使用した。RH7 Flowmaster ツイン・ボア式キャピラ
リーレオメーターの最大荷重は50kNである。
【0089】
ペレットを加える前に、RH7 Flowmaster ツイン・ボア式キャピラリー
レオメーターを温度190℃で30分間保持した。テスト開始前に、ペレットを適度な速
度で押圧して材料中の空気を排出し、RH7 Flowmaster ツイン・ボア式キ
ャピラリーレオメーターの2つのボア内でそれを9分間溶解させた。テストのせん断速度
範囲は、約10~約10,000(s-1)とした。
【0090】
下記の表10は、実施例EVOH1~4、6、8、10、12、22~25及び27~
29並びに比較例EVOH1、3、6の性質の比較である。フッ素含有量、粒子サイズの
範囲、粒子の分散性及び融点温度は、実施例2~4に記載の方法に基づき測定した。
【0091】
【表10】
【0092】
実施例EVOH1~4、6、8、10、12、22~25及び27~29はいずれも優
れた分散性を示していたが、比較例EVOHはやや劣る分散性を示していた。上述したよ
うに、EVOH樹脂組成物中に粒径が20μmより大きい粒子が1つ以上ある場合、又は
粒子が形成されていない場合は「X」で表し、EVOH樹脂組成物の粒子が凝固しておら
ず、優れた分散性が示されている場合は「O」で表した。
【0093】
上述の実施例(実施例3など)に記載したのと類似の方法に基づき、実施例EVOH1
~4、6、8、10、12、22~25及び27~29並びに比較例EVOH1、3及び
6によりフィルムを形成した。また、上述の工程及び定性的評価指標を用いてフィルムを
評価し、フィルムの外観、ダイ部分の析出、フィルムのシャルピー衝撃強度及びフィルム
の破断点伸びを判断した。下記の表11に実施例EVOH1~4、6、8、10、12、
22~25及び27~29並びに比較例EVOH1、3及び6のフィルムの特性の概要を
示した。
【0094】
【表11】
【0095】
意外なことに、本発明のEVOH樹脂組成物の融解圧力がせん断速度20s-1、温度
190℃下において1.7~7.0MPaの範囲内にある場合、そのフィルムはダイ上に
析出が生じず、1m内における200μmより大きなフィッシュアイは3個以下である
ことが分かった。上述したように、実施例EVOH1~4、6、8、10、12、22~
25及び27~29は、いずれもダイ上に析出が生じず、1m内における200μmよ
り大きなフィッシュアイは3個以下であった。実施例EVOH1~4、6、8、10、1
2、22~25及び27~29のフィルムのシャルピー衝撃強度は2.3~6.8KJ/
の範囲内であり、実施例EVOH1~4、6、8、10、12、22~25及び27
~29のフィルムの破断点伸びは17.8%~23.9%の範囲内であった。
【0096】
融解圧力が所望の範囲を越えていた比較例1及び6は、ダイ上に析出が生じ、可塑性も
悪かった。上述したように、フッ素ポリマーを有する状況下において、融解圧力の低減は
、スクリュー押出機中におけるEVOHの流動挙動がよりスムーズであることを示してお
り、スクリュー押出機の内壁にフッ素ポリマーの保護が提供されることにより、ダイ上の
析出が低減し、フィルムの外観が改善される。
【0097】
EVOH樹脂組成物中に存在するフッ素ポリマーに関しては、フッ素含有量が高すぎる
場合、EVOH樹脂組成物が望ましくない融解圧力を有するため、フィルム外観の不良を
招く可能性がある。
【0098】
本明細書において提供する全ての範囲は、割り当て範囲内における各特定の範囲及び割
り当て範囲の間の二次範囲の組み合わせを含むという意味である。また、別段の説明がな
い限り、本明細書が提供する全ての範囲は、いずれも範囲のエンドポイントを含む。従っ
て、範囲1~5は、具体的には1、2、3、4及び5、並びに2~5、3~5、2~3、
2~4、1~4などの二次範囲を含む。
【0099】
本明細書において参照される全ての刊行物及び特許出願はいずれも参照により本明細書
に組み込まれ、且つありとあらゆる目的から、各刊行物又は特許出願はいずれも各々参照
により本明細書に組み込まれることを明確且つ個々に示している。本明細書と参照により
本明細書に組み込まれるあらゆる刊行物又は特許出願との間に不一致が存在する場合には
、本明細書に準ずる。
【0100】
本明細書で使用する「含む」、「有する」及び「包含する」という用語は、開放的、非
限定的な意味を有する。「1」及び「当該」という用語は、複数及び単数を含むと理解さ
れるべきである。「1つ以上」という用語は、「少なくとも1つ」を指し、従って単一の
特性又は混合物/組み合わせた特性を含むことができる。
【0101】
操作の実施例中又は他の指示する場所を除き、成分及び/又は反応条件の量を示す全て
の数字は、全ての場合においていずれも「約」という用語を用いて修飾することができ、
示した数字の±5%以内であるという意味である。本明細書で使用する「基本的に含まな
い」又は「実質的に含まない」という用語は、特定の特性が約2%未満であることを意味
する。本明細書中に明確に記載されている全ての要素又は特性は、特許請求の範囲から否
定的に除外することができる。
【符号の説明】
【0102】
100 EVOH樹脂組成物
110 含フッ素粒子
120 コーティング層
図1
図2
図3