(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168402
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】金属酸化物ナノ粒子分散液
(51)【国際特許分類】
C01G 51/00 20060101AFI20231116BHJP
C01G 3/02 20060101ALI20231116BHJP
C01G 45/02 20060101ALI20231116BHJP
C01F 17/235 20200101ALI20231116BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C01G51/00 A
C01G3/02
C01G45/02
C01F17/235
B01J13/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023155617
(22)【出願日】2023-09-21
(62)【分割の表示】P 2022503098の分割
【原出願日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2020033217
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大塚 裕介
(57)【要約】
【課題】粒子径が小さく分散性の高い金属酸化物ナノ粒子分散液を焼成不要で製造することのできる金属複塩分散液及びその製造方法を提供する。
【解決手段】金属酸化物ナノ粒子、及び、R
2COOH[ただしR
2は、水素原子又はアルキル基]で示す組成で表されるカルボン酸と強塩基の塩を含有することを特徴とする金属酸化物ナノ粒子分散液。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物ナノ粒子、及び、R2COOH[ただしR2は、水素原子又はアルキル基]で示す組成で表されるカルボン酸と強塩基の塩を含有することを特徴とする金属酸化物ナノ粒子分散液。
【請求項2】
アミジン骨格又はグアニジン骨格を有する有機塩基をさらに含む、請求項1に記載の金属酸化物ナノ粒子分散液。
【請求項3】
前記金属酸化物ナノ粒子を構成する金属成分の含有量に対する、前記有機塩基の含有量のモル比が、0.03以下である、請求項2に記載の金属酸化物ナノ粒子分散液。
【請求項4】
前記有機塩基が、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン及びテトラメチルグアニジンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項2又は3に記載の金属酸化物ナノ粒子分散液。
【請求項5】
有機溶媒を主成分とする溶媒を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の金属酸化物ナノ粒子分散液。
【請求項6】
前記金属酸化物ナノ粒子の表面に、カルボキシレートが存在する、請求項1~5のいずれか1項に記載の金属酸化物ナノ粒子分散液。
【請求項7】
前記金属酸化物ナノ粒子を構成する金属成分が、Cu、Mn、Co、Ce、Fe及びInからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の金属酸化物ナノ粒子分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属酸化物ナノ粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物微粒子は、低温焼結性、高比表面積、溶媒への分散性、量子効果等の特性を生かして様々な分野で使用されている。
【0003】
金属酸化物微粒子を製造する方法としては、バルク状の金属酸化物を粉砕するビルドダウン法や、分子レベルで粒子を成長させるビルドアップ法等が挙げられる。ビルドダウン法による微細化には限界があり、現在ではビルドアップ法が一般的に用いられている。
【0004】
特許文献1には、金属酸化物粒子を製造する方法として、カルボン酸化合物の水溶液中に金属塩の水溶液と中和剤の水溶液を同時に添加して金属の水酸化物又は水和物の微粒子を生成させ、これを焼成する方法が開示されている。
【0005】
非特許文献1には、酸化亜鉛ナノ粒子がエタノールに分散した分散液を製造する方法として、水酸化リチウムを塩基として用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】E.A.Meulenkamp, J.Phys.Chem. B,102,5566,(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、金属水酸化物又は金属水和物を焼成する必要があるため、得られる酸化物粒子の粒子径が大きく、また溶媒に対する分散性が悪いという課題があった。
【0009】
特許文献1に記載の方法では、金属水酸化物や金属水和物を焼成する必要があるため、焼成することなく酸化物微粒子を得る方法が求められていた。
【0010】
また、非特許文献1に記載された方法により製造された酸化亜鉛ナノ粒子は、製造直後は高い分散性を有するものの、時間経過により分散性が低下してしまうという問題があった。
【0011】
本発明者が鋭意研究したところ、カルボン酸金属塩と塩基とを反応させて得られる複塩の分散液を用いることで、上記課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、粒子径が小さく分散性の高い金属酸化物ナノ粒子分散液を焼成不要で製造することのできる金属複塩分散液及びその製造方法を提供すること、並びに、分散性の経時安定性に優れる金属酸化物ナノ粒子分散液及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の金属複塩分散液は、有機溶媒及び金属複塩を含む金属複塩分散液であって、上記金属複塩は、M(R1COO)m-x-y(OH)xAy(H2O)z[ただし、Mは金属元素、R1は水素原子又はアルキル基、Aはアニオン、mは金属元素Mの価数、0<x+y<m、x>0、y≧0、z≧0である。]で表される組成を有し、上記金属複塩分散液に対して、相対遠心力10000Gで5分の遠心操作を行った際に、上記金属複塩分散液全体に含まれる全金属元素のうち、沈殿を形成していない金属元素の割合が10.0mol%以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明の金属複塩分散液の製造方法は、金属カルボン酸塩と有機溶媒とを含む金属塩分散液に強塩基を添加する工程を含み、上記金属カルボン酸塩を構成する金属元素の価数をmとした時に、上記金属カルボン酸塩の物質量に対する上記強塩基の物質量が、0.4m以上、0.9m以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明の金属酸化物ナノ粒子分散液は、金属酸化物ナノ粒子、及び、アミジン骨格又はグアニジン骨格を有する有機塩基を含有することを特徴とする。
【0016】
本発明の金属酸化物ナノ粒子分散液の製造方法は、金属カルボン酸塩と有機溶媒とを含む金属塩分散液に強塩基を添加して金属複塩分散液を調製する調製工程と、上記金属複塩分散液を水の存在下で加熱して上記金属酸化物ナノ粒子分散液を得る加熱工程と、を含み、上記調製工程において、上記金属カルボン酸塩を構成する金属元素の価数をmとした時に、上記金属カルボン酸塩の物質量に対する上記強塩基の物質量が、0.4m以上、0.9m以下であり、上記強塩基が、アミジン骨格又はグアニジン骨格を有する有機塩基を含む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、粒子径が小さく分散性の高い金属酸化物ナノ粒子分散液を焼成不要で製造することのできる金属複塩分散液及びその製造方法を提供することができる。
また本発明によれば、金属酸化物ナノ粒子の分散性の経時安定性に優れる金属酸化物ナノ粒子分散液及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施例1及び比較例1に係る金属複塩分散液に遠心操作を行った後の写真である。
【
図2】
図2は、実施例1及び比較例1に係る金属酸化物ナノ粒子分散液に遠心操作を行った後の写真である。
【
図3】
図3は、実施例15に係る金属複塩のTEM画像である。
【
図4】
図4は、実施例15に係る金属複塩のTEM画像である。
【
図5】
図5は、実施例15に係る金属複塩分散液に含まれる粒子の粒子径分布を示すスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の金属複塩分散液及び金属酸化物ナノ粒子分散液について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0020】
[金属複塩分散液]
本発明の金属複塩分散液は、有機溶媒及び金属複塩を含む金属複塩分散液であって、上記金属複塩は、M(R1COO)m-x-y(OH)xAy(H2O)z[ただし、Mは金属元素、R1は水素原子又はアルキル基、Aはアニオン、mは金属元素Mの価数、0<x+y<m、x>0、y≧0、z≧0である。]で表される組成を有し、上記金属複塩分散液に対して、相対遠心力10000Gで5分の遠心操作を行った際に、上記金属複塩分散液全体に含まれる全金属元素のうち、沈殿を形成していない金属元素の割合が10.0mol%以上であることを特徴とする。
【0021】
本発明の金属複塩分散液は、M(R1COO)m-x-y(OH)xAy(H2O)z[ただし、Mは金属元素、R1は水素原子又はアルキル基、Aはアニオン、mは金属元素Mの価数、0<x+y<m、x>0、y≧0、z≧0である。]で表される組成を有する金属複塩を含んでいる。
上記金属複塩はカルボキシレート(R1COO-)を有しているため、有機溶媒に対する親和性に優れ、有機溶媒中での分散性が高い。また、上記金属複塩は水酸化物イオン(OH-)を有しているため、100℃未満の加熱で容易に金属酸化物に転化できる。
【0022】
本発明の金属複塩分散液は、相対遠心力10000Gで5分の遠心操作を行った際に、金属複塩分散液全体に含まれる全金属元素のうち、沈殿を形成していない金属元素の割合が10.0mol%以上である。すなわち、本発明の金属複塩分散液は、所定の遠心操作を行った場合であっても全金属元素の10.0mol%以上が溶液中に分散しており、金属複塩の分散性が高いといえる。
【0023】
本発明の金属複塩分散液においては、相対遠心力10000Gで5分の遠心操作を行った際に、金属複塩分散液全体に含まれる全金属元素のうち、沈殿を形成していない金属元素の割合が12.6mol%以上であることが好ましく、30.0mol%以上であることがより好ましい。
【0024】
本発明の金属複塩分散液において、金属複塩を構成する金属元素Mは、Cu、Mn、Co、Ce、Fe及びInからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。
なお、金属元素Mが価数の異なる2種以上の金属元素を含む場合、各金属元素の金属元素全体における存在割合[mol%]に各金属元素の価数を乗じたものの総和を、金属元素の価数mとする。
【0025】
金属複塩を構成する官能基R1は、水素原子、メチル基、エチル基、1-プロピル基及び2-プロピル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含むことが好ましい。
これらのなかでは、メチル基が好ましい。
また、本発明の金属複塩分散液は、R1が異なる2種以上の複塩の混合物であってもよい。
【0026】
金属複塩を構成するアニオンAとしては塩化物イオン(Cl-)、硝酸イオン(NO3
-)、炭酸イオン(CO3
2-)、硫酸イオン(SO4
2-)等が挙げられる。
アニオンAの割合が多いと、カルボキシレートの割合が相対的に低下することによって複塩の分散性が低下する。従って、yは0以上、1以下であることが好ましい。
【0027】
金属複塩を示す組成式中、zは水和水の結合数を示す。
水和水の結合数が多いと、複塩の分散性が悪化する。そのため、zは0以上、4以下であることが好ましい。
【0028】
本発明の金属複塩分散液は、有機溶媒と金属複塩の他に、カルボン酸と強塩基の塩や金属カルボン酸塩が含まれていてもよい。
カルボン酸と強塩基の塩は、本発明の金属複塩分散液を製造する過程で生成する副生成物である。
金属カルボン酸塩は、本発明の金属複塩分散液を製造する過程で使用される未反応の原料である。
【0029】
カルボン酸と強塩基の塩としては、例えば、酢酸テトラメチルアンモニウム、酢酸ジアザビシクロウンデセン、酢酸ジアザビシクロノネン、酢酸テトラメチルグアニジン、酢酸テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。
これらの中では、酢酸ジアザビシクロウンデセンが好ましい。
【0030】
強塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)及びテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)等の第4級アンモニウム水酸化物、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(ジアザビシクロウンデセン又はDBUともいう)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エン(ジアザビシクロノネン又はDBNともいう)、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン及び7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン等のアミジン骨格を有する有機塩基、並びに、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(テトラメチルグアニジン又はTMGともいう)等のグアニジン骨格を有する有機塩基等が挙げられる。
これらの中では、アミジン骨格又はグアニジン骨格を有する有機塩基が好ましく、ジアザビシクロウンデセンがより好ましい。
【0031】
本明細書において、強塩基とは、水中における塩基解離定数(pKb)が2以下であるか、または水中における共役酸の酸解離定数(pKa)が12以上である塩基を指す。
【0032】
上記カルボン酸は、R2COOH[ただし、R2は水素原子又はアルキル基である。]で示される組成を有することが好ましい。
上記カルボン酸を構成する官能基R2は、金属複塩を構成する官能基R1と同じであることが好ましい。
【0033】
上記金属カルボン酸塩としては、酢酸銅(II)、酢酸マンガン(II)、酢酸コバルト(II)酢酸セリウム(III)、酢酸鉄(II)及び酢酸インジウム(III)等が挙げられる。
【0034】
本発明の金属複塩分散液における金属元素濃度は特に限定されないが、0.0001mol/L以上、2.0mol/L以下であることが好ましい。
【0035】
本発明の金属複塩分散液において用いられる有機溶媒の種類は特に限定されないが、Snyderの極性パラメータが3.5以上の有機溶媒であることが望ましい。
Snyderの極性パラメータが3.5以上の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、1-メチル-2ピロリドン(NMP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ピリジン等が挙げられる。
【0036】
本発明の金属複塩分散液に含まれる金属複塩の乾燥状態における平均粒子径は、1nm以上、5nm以下であることが好ましい。
上記平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することができ、視野中から無作為に選択した30個の金属複塩の粒子径の平均値とする。
【0037】
本発明の金属複塩分散液は、水の存在下で加熱することにより金属酸化物ナノ粒子分散液とすることができる。
本発明の金属複塩分散液を用いて製造される金属酸化物ナノ粒子分散液においては、金属酸化物ナノ粒子の表面に複塩由来のカルボキシレートが存在するため、有機溶媒中でコロイド状に分散し、分散性に優れると考えられる。
【0038】
本発明の金属複塩分散液を加熱する場合、金属複塩1molに対して2mol以上20mol以下の水が存在することが好ましい。
水の存在量が金属複塩1molに対して20molを超えると、金属複塩を加熱して得られる金属酸化物の分散性が低下することがある。
【0039】
本発明の金属複塩分散液を用いて金属酸化物ナノ粒子分散液を製造する場合、例えば、金属複塩分散液に水を添加した状態で、50℃以上、100℃未満の温度で、15分以上、12時間以下加熱する方法が挙げられる。
【0040】
本発明の金属複塩分散液は、上述した金属酸化物ナノ粒子分散液を製造する用途以外の用途に用いることもできる。例えば、本発明の金属複塩分散液を用いて、金属複塩を含む膜を成膜し、これを加熱することによって、金属酸化物の薄膜を形成することができる。また、本発明の金属複塩分散液を母材となる物質と混合することで、母材と金属複塩が複合化した材料を得ることができる。
【0041】
[金属複塩分散液の製造方法]
本発明の金属複塩分散液の製造方法は、金属カルボン酸塩と有機溶媒とを含む金属塩分散液に強塩基を添加する工程を含み、上記金属カルボン酸塩を構成する金属元素の価数をmとした時に、上記金属カルボン酸塩の物質量に対する上記強塩基の物質量が、0.4m以上、0.9m以下であることを特徴とする。
【0042】
本発明の金属複塩分散液の製造方法では、金属カルボン酸塩と有機溶媒とを含む金属塩分散液に対して、金属カルボン酸塩を構成する金属元素の価数をmとした時に、金属カルボン酸塩の物質量に対する強塩基の物質量が、0.4m以上、0.9m以下となるように強塩基を添加する。そのため、有機溶媒中に分散する金属カルボン酸塩が強塩基と反応して金属複塩を形成する。
金属カルボン酸塩が強塩基と反応して得られる金属複塩は、カルボキシレート(R1COO-)を有するため、有機溶媒に対する親和性に優れ、有機溶媒中での分散性が高い。また、上記複塩は水酸化物イオン(OH-)を有しているため100℃未満の加熱で容易に金属酸化物に転化できる。
従って、本発明の金属複塩分散液の製造方法により、分散性及び反応性の高い金属複塩分散液を製造することができる。
強塩基の上記割合が0.4m未満の場合は、形成した金属複塩が酸化物に転化しにくい。一方、強塩基の上記割合が0.9mを超える場合は、形成した金属複塩の分散性が充分ではない。
【0043】
本発明の金属複塩分散液の製造方法に用いられる金属カルボン酸塩としては、酢酸銅(II)、酢酸マンガン(II)、酢酸コバルト(II)、酢酸セリウム(III)、酢酸鉄(II)及び酢酸インジウム(III)等が挙げられる。これらの酢酸塩は水和物であってもよい。また、複数種類の金属元素を含んでいてもよい。
なお、金属カルボン酸塩に、価数が異なる2種以上の金属元素が含まれる場合には、各金属元素の金属元素全体における存在割合[mol%]に各金属元素の価数を乗じたものの総和を、金属カルボン酸塩を構成する金属元素の価数mとする。
【0044】
本発明の金属複塩分散液の製造方法に用いられる有機溶媒及び強塩基としては、本発明の金属複塩分散液を構成する有機溶媒及び強塩基と同様のものを用いることができる。
【0045】
金属塩分散液は、金属カルボン酸塩と有機溶媒とを混合することにより得ることができる。
【0046】
また、金属塩分散液を準備する方法として、金属カルボン酸塩を用いない方法を用いてもよい。
金属カルボン酸塩を用いないで金属塩分散液を準備する場合、例えば、金属カルボン酸塩以外の金属塩(例えば、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等)と、カルボン酸化合物と、有機溶媒とを混合すればよい。
【0047】
金属塩分散液に強塩基を添加する工程では、金属塩分散液を混合しながら、強塩基を滴下することが好ましい。
強塩基は、有機溶媒に溶解又は分散させた状態で金属塩分散液に添加してもよい。
添加する強塩基は1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0048】
[金属酸化物ナノ粒子分散液]
本発明の金属酸化物ナノ粒子分散液は、金属酸化物ナノ粒子、及び、アミジン骨格又はグアニジン骨格を有する有機塩基を含有することを特徴とする。
【0049】
本発明の金属酸化物ナノ粒子分散液は、アミジン骨格又はグアニジン骨格を有する有機塩基を含有している。そのため、金属酸化物ナノ粒子分散液における、金属酸化物ナノ粒子の分散性の経時安定性を高めることができる。
【0050】
アミジン骨格を有する有機塩基としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(ジアザビシクロウンデセン又はDBUともいう)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エン(ジアザビシクロノネン又はDBNともいう)、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン及び7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン等が挙げられる。これらの中では、ジアザビシクロウンデセン及びジアザビシクロノネンが好ましい。
グアニジン骨格を有する有機塩基としては、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(テトラメチルグアニジン又はTMGともいう)等が挙げられる。
従って、有機塩基としては、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン及びテトラメチルグアニジンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
有機塩基がジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン及びテトラメチルグアニジンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む場合、これらの化合物は立体障害が大きいので、これらの化合物が付着した金属酸化物ナノ粒子は金属酸化物ナノ粒子同士が接近することが防止され、凝集しにくくなって、金属酸化物ナノ粒子の分散性の経時安定性が高くなるものと推測される。
【0051】
金属酸化物ナノ粒子を構成する金属成分の含有量に対する、上記有機塩基の含有量のモル比は、0.03以下であることが好ましい。
上記有機塩基の上記含有量のモル比が0.03を超えると、金属酸化物ナノ粒子分散液に含まれる不純物の割合が少なく、金属酸化物ナノ粒子分散液を使用する際に、不純物による不都合が生じることを抑制することができる。
金属酸化物ナノ粒子分散液に含まれるアミジン骨格又はグアニジン骨格を有する有機塩基の含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
また、金属酸化物ナノ粒子を構成する金属成分の含有量に対する、上記有機塩基の含有量のモル比は、0.001以上であってもよく、有機塩基の検出限界以上であればよい。
【0052】
有機塩基は、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン及びテトラメチルグアニジンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
【0053】
金属酸化物ナノ粒子を構成する金属成分が、Cu、Mn、Co、Ce、Fe及びInからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。2種類以上の金属が金属酸化物ナノ粒子に含まれていてもよい。
また、金属酸化物ナノ粒子を構成する金属成分の種類及び金属酸化物の種類は、金属酸化物ナノ粒子分散液における金属酸化物ナノ粒子の分散性には関係ない。
【0054】
金属酸化物ナノ粒子分散液を構成する金属酸化物ナノ粒子の平均粒径は、1nm以上、20nm以下であることが好ましく、1nm以上、10nm以下であることがより好ましい。
金属酸化物ナノ粒子の平均粒径が上記範囲であると、分散性の経時安定性に優れる。
なお、金属酸化物ナノ粒子の平均粒径は、動的光散乱法により測定される、金属酸化物ナノ粒子の累積個数50%粒子径(D50)である。
【0055】
[金属酸化物ナノ粒子分散液の製造方法]
本発明の金属酸化物ナノ粒子分散液の製造方法は、金属カルボン酸塩と有機溶媒とを含む金属塩分散液に強塩基を添加して金属複塩分散液を調製する調製工程と、上記金属複塩分散液を水の存在下で加熱して上記金属酸化物ナノ粒子分散液を得る加熱工程と、を含み、上記調製工程において、上記金属カルボン酸塩を構成する金属元素の価数をmとした時に、上記金属カルボン酸塩の物質量に対する上記強塩基の物質量が、0.4m以上、0.9m以下であり、上記強塩基が、アミジン骨格又はグアニジン骨格を有する有機塩基を含む、ことを特徴とする。
【0056】
本発明の金属酸化物ナノ粒子分散液の製造方法を用いることで、金属酸化物ナノ粒子の分散性の経時安定性に優れる金属酸化物ナノ粒子分散液を製造することができる。
本発明の金属酸化物ナノ粒子分散液の製造方法により製造される金属酸化物ナノ粒子分散液は、本発明の金属酸化物ナノ粒子分散液でもある。
【0057】
本発明の金属酸化物ナノ粒子分散液の製造方法は、本発明の金属複塩分散液の製造方法において、アミジン骨格又はグアニジン骨格を有する有機塩基を強塩基として用いて、得られた金属複塩分散液を水の存在下で加熱する方法に相当する。
従って、金属複塩分散液を調製する工程についての説明は省略する。
【0058】
上記有機塩基は、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン及びテトラメチルグアニジンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン及びテトラメチルグアニジンは、金属酸化物ナノ粒子分散液において、金属酸化物ナノ粒子の分散性の経時安定性を高めることができる。また、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン及びテトラメチルグアニジンは、金属酸化物ナノ粒子分散液中に含まれていることが特定しやすい。
【0059】
上記金属酸化物ナノ粒子を構成する金属成分が、Cu、Mn、Co、Ce、Fe及びInからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。
【0060】
上記水は、金属複塩分散液を調製する過程で添加される水であってもよいし、金属複塩分散液の調製後に、別途添加される水であってもよい。金属複塩分散液を調製する過程で添加される水としては、例えば、金属のカルボン酸塩に含まれる水和水が挙げられる。
【0061】
金属複塩分散液を加熱する際の水の存在量は、金属成分に対してモル比で2倍以上、20倍以下であることが好ましい。
【0062】
水の共存下で金属複塩分散液を加熱する温度及び時間は、得たい金属酸化物ナノ粒子の種類及び粒径により適宜調製することができる。
加熱温度は、例えば、50℃以上、100℃未満が挙げられる。
加熱時間は、例えば、15分以上、12時間以下が挙げられる。
【0063】
上記手順により得られた金属酸化物ナノ粒子分散液は、必要に応じて精製してもよい。
金属酸化物ナノ粒子分散液を精製することで、金属酸化物ナノ粒子分散液に含まれる有機塩基の含有量を減らすことができる。
【0064】
金属酸化物ナノ粒子分散液を精製する手順としては、例えば、金属酸化物ナノ粒子分散液に酢酸メチル等の有機溶媒を添加した後、遠心分離処理を行って金属酸化物ナノ粒子を沈殿させ、上澄みの溶液を除去した後、再び金属酸化物ナノ粒子を分散媒に分散させる方法が挙げられる。上記の精製は、複数回行ってもよい。精製回数を増やすことにより、金属酸化物ナノ粒子を構成する金属成分の含有量に対する有機塩基の含有量のモル比を小さくすることができる。
【0065】
上記手順による金属酸化物ナノ粒子分散液の精製は、金属酸化物ナノ粒子を構成する金属成分の含有量に対する有機塩基の含有量のモル比が0.03以下となるまで、繰り返し行うことが好ましい。
【実施例0066】
以下、本発明の金属複塩分散液及び本発明の金属複塩分散液の製造方法並びに本発明の金属酸化物ナノ粒子分散液及び本発明の金属酸化物ナノ粒子分散液の製造方法をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0067】
<実施例1>
(金属複塩分散液の作製)
酢酸銅(II)1水和物[富士フイルム和光純薬(株)製]0.2gにエタノール[超脱水グレード、富士フイルム和光純薬(株)製]9.23mLを加えて室温で混合した。この溶液にテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)の25%メタノール溶液[シグマアルドリッチ社製]0.422mLを滴下しながら室温で混合することで、実施例1に係る金属複塩分散液を得た。金属カルボン酸塩の物質量に対する強塩基の物質量は1.00であり、0.4m以上0.9m以下(m=2)であった。
実施例1に係る金属複塩分散液には、金属複塩である銅複塩[Cu(CH3COO)2-x(OH)x]、未反応の金属カルボン酸塩である酢酸銅(II)、カルボン酸と強塩基の塩である酢酸テトラメチルアンモニウムが含まれていると考えられる。
また、得られた金属複塩分散液から分離した金属複塩粉末をフーリエ変換型赤外分光法(FT-IR)により測定したところ、得られたスペクトルから、カルボキシレート(R1COO-)に由来する1400cm-1付近及び1600cm-1付近の吸収と、水酸化物イオン(OH-)に由来する3200~3500cm-1付近の吸収を確認した。
【0068】
(金属複塩分散液において分散状態にある金属量の測定)
実施例1に係る金属複塩分散液を相対遠心力10000Gで5分遠心操作を行い、その上澄み液を分取した。分取液に対して同体積の酢酸メチルと4倍体積のヘプタンを加えて撹拌した後、さらに相対遠心力10000Gで5分遠心操作を行った後、上澄み液を廃棄し、残渣を回収した。回収した残渣を400℃で熱分解して得られた酸化銅(CuO)の重量から、金属複塩分散液中で沈殿を形成していなかった金属元素(すなわち分散状態にある複塩)の割合を算出した。結果を表1に示す。
【0069】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
実施例1に係る金属複塩分散液5mLに純水0.131mLを加えて70℃のオイルバスで30分間加熱混合して、金属酸化物ナノ粒子分散液を得た。得られた金属酸化物ナノ粒子分散液を分取した後乾燥し、固形分を粉末X線回折(XRD)により測定したところ、酸化銅(CuO)に由来するピークが存在することを確認した。
【0070】
(金属酸化物ナノ粒子分散液において分散状態にある金属量の測定)
続いて、得られた金属酸化物ナノ粒子分散液に対して同体積の酢酸メチルと4倍体積のヘプタンを加えて撹拌した後、さらに相対遠心力10000Gで5分遠心操作を行った後、上澄み液を廃棄し、残渣を回収した。回収した残渣を400℃で熱分解して得られた酸化銅(CuO)の重量から、金属酸化物ナノ粒子分散液中で沈殿を形成していなかった金属元素(すなわち分散状態にある酸化物)の割合を算出した。結果を表1に示す。
【0071】
<実施例2>
エタノールの添加量を9.23mLから8.92mLに変更し、TMAHの25%メタノール溶液の添加量を0.422mLから0.739mLに変更したほかは、実施例1と同様の手順で、実施例2に係る金属複塩分散液を作製し、分散状態にある複塩の割合を測定した。また、実施例1と同様の手順で金属酸化物ナノ粒子分散液を作製し、分散状態にある酸化物の割合を測定した。結果を表1に示す。なお、金属カルボン酸塩の物質量に対する強塩基の物質量は1.75であった。
【0072】
<比較例1>
エタノールの添加量を9.23mLから8.90mLに変更し、TMAHの25%メタノール溶液の添加量を0.422mLから0.802mLに変更したほかは、実施例1と同様の手順で、比較例1に係る金属複塩分散液を作製し、分散状態にある複塩の割合を測定した。また、実施例1と同様の手順で金属酸化物ナノ粒子分散液を作製し、分散状態にある酸化物の割合を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
<実施例3>
(金属複塩分散液の作製)
酢酸コバルト(II)4水和物[富士フイルム和光純薬(株)製]0.2gにDMSO[超脱水グレード、富士フイルム和光純薬(株)製]7.27mLを加えて室温で混合した。この溶液にTMAHの25%メタノール溶液[シグマアルドリッチ社製]0.406mLを滴下しながら室温で混合することで、実施例3に係る金属複塩分散液を得た。
得られた金属複塩分散液を相対遠心力10000Gで5分遠心操作を行い、その上澄み液を分取した。分取液に対して4倍体積の酢酸メチルと4倍体積のトルエンを加えて撹拌した後、相対遠心力10000Gで5分遠心操作を行い、上澄み液を廃棄して残渣を回収した。回収した残渣を400℃で熱分解して得られた酸化コバルト(Co3O4)の重量から、金属複塩分散液中で分散状態にある複塩の割合を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
実施例3に係る金属複塩分散液5mLに純水0.148mLを加えて95℃のオイルバスで2.5時間加熱して、実施例3に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を得た。得られた金属酸化物ナノ粒子分散液を相対遠心力10000Gで5分遠心操作を行った後、上澄み液を分取し、分取した分散液に対して4倍体積の酢酸メチルを加えて撹拌した後、さらに相対遠心力10000Gで5分遠心操作を行い、上澄み液を廃棄して残渣を回収した。回収した残渣を400℃で熱分解して得られた酸化コバルト(Co3O4)の重量から、金属酸化物ナノ粒子分散液中で分散状態にある酸化物の割合を算出した。結果を表1に示す。
【0075】
<実施例4>
(金属複塩分散液の作製)
酢酸コバルト(II)4水和物に代わって酢酸マンガン(II)4水和物[富士フイルム和光純薬(株)製]0.2gを用い、DMSOの添加量を7.27mLから7.60mLに変更し、TMAHの25%メタノール溶液の添加量を0.406mLから0.344mLに変更したほかは、実施例3と同様の手順で実施例4に係る金属複塩分散液を作製し、実施例3と同様の手順で、金属複塩分散液中で分散状態にある複塩の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0076】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
金属酸化物ナノ粒子分散液の作製時に添加する純水量を0.055mLとし、オイルバスでの加熱を70℃で1時間に変更し、分取した金属酸化物ナノ粒子分散液に加える酢酸メチル量を分取液の7倍体積としたほかは、実施例3と同様の手順で、金属酸化物ナノ粒子分散液中で分散状態にある酸化物の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0077】
<実施例5>
(金属複塩分散液の作製)
酢酸コバルト(II)4水和物に代わって酢酸セリウム(III)1水和物[ナカライテスク(株)製]0.2gを用い、DMSOの添加量を7.27mLから5.37mLに変更し、TMAHの25%メタノール溶液の添加量を0.406mLから0.377mLに変更したほかは、実施例3と同様の手順で実施例5に係る金属複塩分散液を作製し、実施例3と同様の手順で、金属複塩分散液中で分散状態にある複塩の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0078】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
金属酸化物ナノ粒子分散液の作製時に添加する純水量を0.082mLとし、オイルバスでの加熱を95℃で1時間に変更し、分取した金属酸化物ナノ粒子分散液に加える酢酸メチル量を、分取液の9倍体積と、分取した金属酸化物ナノ粒子分散液に加える酢酸メチル量を分取液の9倍体積としたほかは、実施例3と同様の手順で、金属酸化物ナノ粒子分散液中で分散状態にある酸化物の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0079】
<実施例6>
(金属複塩分散液の作製)
酢酸コバルト(II)4水和物0.2gに加えて酢酸マンガン(II)4水和物[富士フイルム和光純薬(株)製]0.0971gを用い、DMSOの添加量を7.27mLから5.48mLに変更し、さらに有機溶媒としてDMSOの他に5.48mLのピリジンを添加し、TMAHの25%メタノール溶液の添加量を0.406mLから0.6065mLに変更したほかは、実施例3と同様の手順で実施例6に係る金属複塩分散液を作製した。
分取した金属複塩分散液に加える溶媒を分取液の4倍体積の酢酸メチルだけとしてトルエンを添加しないほかは、実施例3と同様の手順で、金属複塩分散液中で分散状態にある複塩の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0080】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
金属酸化物ナノ粒子分散液の作製時に添加する純水量を0.101mLとし、オイルバスでの加熱を95℃で2時間に変更したほかは、実施例3と同様の手順で、金属酸化物ナノ粒子分散液中で分散状態にある酸化物の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0081】
<実施例7>
(金属複塩分散液の作製)
酢酸コバルト(II)4水和物の量を0.2gから1.0gに変更し、酢酸マンガン(II)4水和物の量を0.0971gから0.485gに変更し、DMSO及びピリジンの添加量をそれぞれ5.48mLから2.32mLに変更し、TMAHの25%メタノール溶液の添加量を0.6065mLから3.03mLに変更したほかは、実施例6と同様の手順で実施例7に係る金属複塩分散液を作製し、金属複塩分散液中で分散状態にある複塩の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0082】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
金属酸化物ナノ粒子分散液の作製時に添加する純水量を0mLとして(すなわち純水を添加しないで)、オイルバスでの加熱を95℃で7時間に変更したほかは、実施例6と同様の手順で、金属酸化物ナノ粒子分散液中で分散状態にある酸化物の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0083】
<実施例8>
(金属複塩分散液の作製)
DMSO及びピリジンの添加量をそれぞれ2.32mLから3.30mLに変更し、TMAHの25%メタノール溶液3.03mLに代わってジアザビシクロウンデセン[東京化成工業(株)製]1.07mLを用いたほかは、実施例7と同様の手順で実施例8に係る金属複塩分散液を作製した。
分取した金属複塩分散液に加える溶媒を、分取液の4倍体積の酢酸メチルと6倍体積のトルエンに変更したほかは、実施例7と同様の手順で、金属複塩分散液中で分散状態にある複塩の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0084】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
金属酸化物ナノ粒子分散液の作製時に添加する溶媒を、分取液の4倍体積の酢酸メチルと6倍体積のトルエンに変更したほかは、実施例7と同様の手順で、金属酸化物ナノ粒子分散液中で分散状態にある酸化物の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0085】
<実施例9>
(金属複塩分散液の作製)
酢酸コバルト(II)4水和物の量を0.2gから2.2gに変更し、DMSOの添加量を7.27mLから14.45mLに変更し、TMAHの25%メタノール溶液3.03mLに代わってジアザビシクロウンデセン1.85mLに変更したほかは、実施例3と同様の手順で実施例9に係る金属複塩分散液を作製し、実施例3と同様の手順で、金属複塩分散液中で分散状態にある複塩の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0086】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
金属酸化物ナノ粒子分散液の作製時に添加する純水量を0.023mLとし、オイルバスでの加熱を3時間に変更し、オイルバスでの加熱の際に反応溶液に大気を200sccmの流量でバブリングしながら導入し、分取した金属酸化物ナノ粒子分散液の作製時に添加する溶液を、分取液の4倍体積の酢酸メチルと6倍体積のトルエンに変更したほかは、実施例3と同様の手順で、金属酸化物ナノ粒子分散液中で分散状態にある酸化物の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0087】
<実施例10>
(金属複塩分散液の作製)
DMSOの添加量を14.45mLから14.82mLに変更し、ジアザビシクロウンデセン1.85mLに代わってジアザビシクロノネン[東京化成工業(株)製]1.48mLに変更したほかは、実施例9と同様の手順で実施例10に係る金属複塩分散液を作製し、実施例9と同様の手順で、金属複塩分散液中で分散状態にある複塩の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0088】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
実施例9と同様の手順で、金属酸化物ナノ粒子分散液中で分散状態にある酸化物の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0089】
<実施例11>
(金属複塩分散液の作製)
DMSOの添加量を14.45mLから14.74mLに変更し、ジアザビシクロウンデセン1.85mLに代わってテトラメチルグアニジン[東京化成工業(株)製]1.55mLに変更したほかは、実施例9と同様の手順で実施例11に係る金属複塩分散液を作製し、実施例9と同様の手順で、金属複塩分散液中で分散状態にある複塩の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0090】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
実施例9と同様の手順で、金属酸化物ナノ粒子分散液中で分散状態にある酸化物の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0091】
<実施例12>
(金属複塩分散液の作製)
酢酸コバルト(II)4水和物に代わって酢酸銅(II)1水和物1.5gを用い、DMSOの添加量を14.45mLから12.61mLに変更し、ジアザビシクロウンデセンの添加量を1.85mLから1.35mLに変更したほかは、実施例9と同様の手順で実施例12に係る金属複塩分散液を作製し、実施例9と同様の手順で、金属複塩分散液中で分散状態にある複塩の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0092】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
金属酸化物ナノ粒子分散液の作製時に添加する純水量を0.091mLとし、オイルバスの温度を70℃に変更し、オイルバスでの加熱を1時間に変更し、オイルバスでの加熱の際に反応溶液への大気の導入量を0sccmに変更したほかは、実施例9と同様の手順で、金属酸化物ナノ粒子分散液中で分散状態にある酸化物の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0093】
<実施例13>
(金属複塩分散液の作製)
酢酸コバルト(II)4水和物に代わって酢酸マンガン(II)4水和物1.5gを用い、DMSOの添加量を14.45mLから10.38mLに変更し、ジアザビシクロウンデセンの添加量を1.85mLから0.932mLに変更したほかは、実施例9と同様の手順で実施例13に係る金属複塩分散液を作製し、実施例9と同様の手順で、金属複塩分散液中で分散状態にある複塩の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0094】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
金属酸化物ナノ粒子分散液の作製時に添加する純水量を0mLとし、オイルバスの温度を70℃に変更し、オイルバスでの加熱を2時間に変更したほかは、実施例9と同様の手順で、金属酸化物ナノ粒子分散液中で分散状態にある酸化物の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0095】
<実施例14>
(金属複塩分散液の作製)
酢酸コバルト(II)4水和物に代わって酢酸セリウム(III)1水和物3.0gを用い、DMSOに代わってNMP[超脱水グレード、富士フイルム和光純薬(株)製]12.63mLを用い、ジアザビシクロウンデセンの添加量を1.85mLから3.34mLに変更したほかは、実施例9と同様の手順で実施例14に係る金属複塩分散液を作製し、実施例9と同様の手順で、金属複塩分散液中で分散状態にある複塩の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0096】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
金属酸化物ナノ粒子分散液の作製時に添加する純水量を0.045mLとしたほかは、実施例9と同様の手順で、金属酸化物ナノ粒子分散液中で分散状態にある酸化物の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0097】
【0098】
(実施例1及び比較例1における分散状態の比較)
実施例1及び比較例1で作製した金属複塩分散液及び金属酸化物ナノ粒子分散液を、それぞれ相対遠心力10000Gで5分遠心操作を行った後の分散状態を確認した。結果を
図1及び
図2に示す。
図1は、実施例1及び比較例1に係る金属複塩分散液に遠心操作を行った後の写真であり、
図2は、実施例1及び比較例1に係る金属酸化物ナノ粒子分散液に遠心操作を行った後の写真である。
図1より、比較例1に係る金属複塩分散液(右側)には沈殿がみられたのに対して、実施例1に係る金属複塩分散液(左側)には沈殿がみられなかった。また、
図2より、比較例1に係る金属酸化物ナノ粒子分散液(右側)には沈殿がみられたのに対して、実施例1に係る金属酸化物ナノ粒子分散液(左側)には沈殿がみられなかった。
この結果より、実施例1に係る金属複塩分散液中における金属複塩の分散性、及び、金属酸化物ナノ粒子分散液における金属酸化物ナノ粒子の分散性が高いことが確認できた。本発明の金属複塩分散液を用いて製造される金属酸化物ナノ粒子分散液においては、金属酸化物ナノ粒子がコロイド状に分散し、安定化していると考えられる。
【0099】
<実施例15>
(金属複塩の確認)
酢酸銅(II)1水和物0.4gに、エタノール3.49mLを加えて室温で混合した。この溶液にジアザビシクロウンデセン0.299mLを滴下しながら室温で混合することで、金属複塩分散液を作製した。続いて、金属濃度が0.001Mとなるようにエタノールで希釈した。TEM観察用支持膜であるスライドフィルム上に上記希釈液を1滴滴下し、乾燥させた後、スライドフィルム上の分散液を滴下した箇所をTEMにより観察した。結果を
図3及び
図4に示す。
図3及び
図4は、実施例15に係る金属複塩のTEM画像である。
図3より、金属複塩分散液には、乾燥状態で粒子径が約1.5nmから約3.1nmの粒子状物質として金属複塩が存在していることを確認した。視野中から無作為に選択した30個の金属複塩の粒子径の平均値は、2.1nmであった。また、
図4より、粒子状物質に格子縞が観測され、金属複塩が結晶性の物質であることを確認した。
【0100】
(DLS及びSAXSを用いた金属複塩の平均粒子径の確認)
参考のため、上記金属複塩の確認で調製された金属複塩分散液に含まれる粒子の粒子径を、動的光散乱法(DLS)及びX線小角散乱法(SAXS)により測定した。結果を
図5に示す。
図5は、実施例15に係る金属複塩分散液に含まれる粒子の粒子径分布を示すスペクトルである。
左側(実線)がDLSの測定結果であり、右側(破線)がSAXSの測定結果である。
図5より、DLS及びSAXSの結果は、TEMにより測定した金属複塩の平均粒子径とおおよそ対応していることを確認した。
【0101】
(実施例16)
(金属複塩分散液の作製)
酢酸コバルト(II)4水和物と酢酸マンガン(II)4水和物を金属成分のモル比で6:4となるように秤量し、DMSO[超脱水グレード、富士フイルム和光純薬(株)製]に加えて室温で混合し、金属塩を有機溶媒と混合した。この混合物に対して、金属成分の総物質量に対してモル比で1.2倍量のDBUを添加し、金属複塩分散液を得た。
【0102】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の作製)
得られた金属複塩分散液に、金属成分の総物質量に対してモル比で0.5倍量の純水を添加し、大気雰囲気中で空気をバブリングしつつ撹拌しながら、95℃まで加熱し、2.5時間保持することで、金属酸化物ナノ粒子分散液を得た。
【0103】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の精製)
得られた金属酸化物ナノ粒子分散液に酢酸メチルを添加して、10000Gで5分間遠心分離し、金属酸化物ナノ粒子を沈殿させた。上澄みの溶液を除去し、沈殿に2-プロパノール及びジエチレングリコールモノエチルエーテルを加えて分散させた後、ヘプタンを添加して10000Gの遠心力で5分間遠心分離し、金属酸化物ナノ粒子を沈殿させた。上澄みの溶液を除去した後、沈殿に対してエチレングリコールモノプロピルエーテルを加えて分散させることで、精製された金属酸化物ナノ粒子分散液を得た。
【0104】
(実施例17)
DBUに代わって、DBUと同じ物質量のDBNを用いた以外は、実施例16と同じ手順で、実施例17に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0105】
(実施例18)
DBUに代わって、DBUと同じ物質量のTMGを用いた以外は、実施例16と同じ手順で、実施例18に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0106】
(実施例19)
酢酸マンガン(II)4水和物を用いず、DBUの添加量をコバルトに対してモル比で1.4倍量となるように変更した以外は、実施例16と同じ手順で、実施例19に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0107】
(実施例20)
DBUに変わって、DBUと同じ物質量のDBNを用いた以外は、実施例19と同じ手順で、実施例20に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0108】
(実施例21)
DBUに代わって、DBUと同じ物質量のTMGを用いた以外は、実施例19と同じ手順で、実施例21に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0109】
(実施例22)
酢酸コバルト(II)4水和物を用いず、DBUの添加量をマンガンに対してモル比で1.0倍量となるように変更し、純水を添加せず、加熱温度を70℃に変更した以外は、実施例16と同じ手順で、実施例22に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0110】
(実施例23)
DBUに変わって、DBUと同じ物質量のDBNを用いた以外は、実施例22と同じ手順で、実施例23に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0111】
(実施例24)
DBUに代わって、DBUと同じ物質量のTMGを用いた以外は、実施例22と同じ手順で、実施例24に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0112】
(実施例25)
酢酸マンガン(II)4水和物及び酢酸コバルト(II)4水和物の代わりに、酢酸銅(II)1水和物を用い、純水の添加量を銅に対してモル比で2.0倍量となるように変更し、加熱温度を75℃に変更し、撹拌時の空気のバブリングを行わなかった以外は、実施例16と同じ手順で、実施例25に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0113】
(実施例26)
DBUに代わって、DBUと同じ物質量のDBNを用いた以外は、実施例25と同じ手順で、実施例26に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0114】
(実施例27)
DBUに代わって、DBUと同じ物質量のTMGを用いた以外は、実施例25と同じ手順で、実施例27に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0115】
(実施例28)
酢酸マンガン(II)4水和物及び酢酸コバルト(II)4水和物の代わりに、酢酸鉄(II)無水物を用い、純水の添加量を鉄に対してモル比で4.0倍量となるように変更した以外は、実施例16と同じ手順で、実施例28に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0116】
(実施例29)
DBUに代わって、DBUと同じ物質量のDBNを用いた以外は、実施例28と同じ手順で、実施例29に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0117】
(実施例30)
DBUに代わって、DBUと同じ物質量のTMGを用いた以外は、実施例28と同じ手順で、実施例30に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0118】
(実施例31)
酢酸マンガン(II)4水和物及び酢酸コバルト(II)4水和物の代わりに、酢酸インジウム(III)無水物を用い、DBUの添加量をインジウムに対してモル比で2.0倍量となるように変更し、純水の添加量をインジウムに対してモル比で4.0倍量となるように変更し、撹拌時の空気のバブリングを行わなかった以外は、実施例16と同じ手順で、実施例31に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0119】
(実施例32)
酢酸マンガン(II)4水和物及び酢酸コバルト(II)4水和物の代わりに、酢酸セリウム(III)1水和物を用い、DBUの添加量をセリウムに対してモル比で2.5倍量となるように変更し、純水の添加量をインジウムに対してモル比で1.0倍量となるように変更した以外は、実施例16と同じ手順で、実施例32に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0120】
(実施例33)
DBUに代わって、DBUと同じ物質量のDBNを用いた以外は、実施例32と同じ手順で、実施例33に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0121】
(実施例34)
DBUに代わって、DBUと同じ物質量のTMGを用いた以外は、実施例32と同じ手順で、実施例34に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0122】
(比較例2)
DBUに代わって、水酸化リチウム1水和物のメタノール溶液(濃度2.0M)を、DBUと同じ物質量だけ用いた以外は、実施例16と同じ手順で、比較例2に係る金属酸化物ナノ粒子分散液を製造した。
【0123】
(塩基量の測定)
実施例16~34及び比較例2に係る金属酸化物ナノ粒子分散液について、ガスクロマトグラフィーにより、精製された金属酸化物ナノ粒子分散液に含まれる、アミジン骨格又はグアニジン骨格を有する有機塩基の含有量の、金属酸化物ナノ粒子分散液に含まれる全金属成分の物質量に対するモル比を測定した。結果を表2に示す。
【0124】
(金属酸化物ナノ粒子分散液の分散性の経時安定性の測定)
実施例16~34及び比較例2に係る精製された金属酸化物ナノ粒子分散液を相対遠心力10000Gで5分遠心操作を行った後、上澄み液を分取し、上澄み液に含まれる金属成分の濃度を測定した。その後、金属酸化物ナノ粒子分散液をガラス瓶に密閉し、相対湿度50%、温度25℃の条件で1週間静置した後に同様の手順で金属成分の濃度を測定し、静置前後における金属酸化物ナノ粒子分散液における分散状態にある金属酸化物ナノ粒子の変化率の減少幅を算出した。結果を表2に示す。
一週間静置前後で分散状態にある金属酸化物ナノ粒子の変化率の減少幅が1.0%未満である場合を経時安定性「良」とし、1.0%以上である場合を経時安定性「不良」と評価した。
【0125】
(金属酸化物ナノ粒子の結晶相の測定)
実施例16~34及び比較例2に係る金属酸化物ナノ粒子分散液について、金属酸化物ナノ粒子分散液を乾燥して粉末を得て、粉末X線回折法を用いて金属酸化物ナノ粒子の結晶相を同定し、結晶相から金属酸化物ナノ粒子の組成を求めた。結果を表2に示す。
【0126】
(金属酸化物ナノ粒子の平均粒径の測定)
動的光散乱法を用いて、実施例16~34及び比較例2に係る金属酸化物ナノ粒子分散液中に分散する金属酸化物ナノ粒子の平均粒径(D50)を測定した。結果を表2に示す。
【0127】
【0128】
表2の結果より、有機塩基としてアミジン骨格又はグアニジン骨格を有する有機塩基を用いた実施例16~34に係る金属酸化物ナノ粒子分散液は、金属酸化物ナノ粒子の分散性の経時安定性に優れることがわかった。