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特開2023-16841物質及びタンパク質の共アモルファス形態
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016841
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】物質及びタンパク質の共アモルファス形態
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/42 20170101AFI20230126BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 8/65 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 31/341 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 31/403 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230126BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230126BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20230126BHJP
【FI】
A61K47/42
A61K9/16
A61K9/19
A61K8/64
A61K8/65
A61K31/167
A61K31/341
A61K31/405
A61K31/403
A61K45/00
A61Q19/00
A61P9/04
A61P9/10
A61P9/12
A61P13/12
A61P29/00
A23L5/00 M
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022181846
(22)【出願日】2022-11-14
(62)【分割の表示】P 2019529961の分割
【原出願日】2017-12-22
(31)【優先権主張番号】PA201671043
(32)【優先日】2016-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(31)【優先権主張番号】PA201770586
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(71)【出願人】
【識別番号】508335820
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ コペンハーゲン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】ジャヤ ミシュラ
(72)【発明者】
【氏名】エーダム ボーア
(72)【発明者】
【氏名】ティロ ベルク
(72)【発明者】
【氏名】コービニアン レープマン
(72)【発明者】
【氏名】トマス ラデス
(72)【発明者】
【氏名】ホルガ グローガンツ
(72)【発明者】
【氏名】ヨーリト バタ
(57)【要約】
【課題】物質及びタンパク質の共アモルファス形態の提供。
【解決手段】本発明は、物質及びタンパク質の共アモルファス形態、共アモルファス形態を含む医薬用、化粧品用、又は獣医学用の組成物、さらには共アモルファス形態の作製方法及び使用方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原薬及びタンパク質の共アモルファス形態であって、前記タンパク質は、乳清タンパク質分離物、乳清タンパク質加水分解物、ダイズタンパク質分離物、ダイズタンパク質加水分解物、ミオグロビン、リゾチーム、卵タンパク質分離物、卵白タンパク質分離物、卵白タンパク質加水分解物、卵タンパク質分離物、卵白アルブミン、カゼイン、アルファ-ラクトアルブミン、ベータ-ラクトグロブリン、免疫グロブリンG、コメタンパク質分離物、コメタンパク質加水分解物、及びコラーゲン、又はこれらの混合物から選択される、共アモルファス形態。
【請求項2】
前記タンパク質が、乳清タンパク質分離物、乳清タンパク質加水分解物、アルファ-ラクトアルブミン、ベータ-ラクトグロブリン、免疫グロブリンG、及びラクトフェリン、並びにこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の共アモルファス形態。
【請求項3】
前記タンパク質が、乳清タンパク質分離物及び/又は乳清タンパク質加水分解物である、請求項1又は2に記載の共アモルファス形態。
【請求項4】
前記タンパク質が、ベータ-ラクトグロブリン、アルファ-ラクトアルブミン、免疫グロブリンG、ウシ血清アルブミン、及び所望に応じてラクトフェリンを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の共アモルファス形態。
【請求項5】
前記タンパク質が:
i)少なくとも約50重量/重量のベータ-ラクトグロブリン、
ii)少なくとも約10%重量/重量のアルファ-ラクトアルブミン、
iii)少なくとも約10%重量/重量の免疫グロブリンG、
iv)最大で約10%重量/重量のウシ血清アルブミン、若しくは
v)少なくとも約1%重量/重量のラクトフェリン、又は
vi)これらの混合物、
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の共アモルファス形態。
【請求項6】
前記タンパク質が:
i)約50~約70%重量/重量のベータ-ラクトグロブリン、
ii)約10~約25%重量/重量のアルファ-ラクトアルブミン、
iii)約10~約20%重量/重量の免疫グロブリンG、
iv)約1~約10%重量/重量のウシ血清アルブミン、
v)約0~約10%重量/重量のラクトフェリン、
vi)及び約0~5%重量/重量の他のタンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミン、又は水、
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の共アモルファス形態。
【請求項7】
前記タンパク質が:
i)約55~約65%重量/重量のベータ-ラクトグロブリン、
ii)約15~約21%重量/重量のアルファ-ラクトアルブミン、
iii)約13~約14%重量/重量の免疫グロブリンG、
iv)約7%重量/重量のウシ血清アルブミン、及び
v)約0~約3%重量/重量のラクトフェリン、
を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の共アモルファス形態。
【請求項8】
前記タンパク質が:
i)約65%重量/重量のベータ-ラクトグロブリン、
ii)約15%重量/重量のアルファ-ラクトアルブミン、
iii)約13%重量/重量の免疫グロブリンG、
iv)約7%重量/重量のウシ血清アルブミン、及び
v)約0%重量/重量のラクトフェリン、
を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の共アモルファス形態。
【請求項9】
前記タンパク質が:
i)約55%重量/重量のベータ-ラクトグロブリン、
ii)約21%重量/重量のアルファ-ラクトアルブミン、
iii)約14%重量/重量の免疫グロブリンG、
iv)約7%重量/重量のウシ血清アルブミン、及び
v)約3%重量/重量のラクトフェリン、
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の共アモルファス形態。
【請求項10】
前記共アモルファス形態が、10~90%重量/重量の前記原薬及び10~90%重量/重量の前記タンパク質を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の共アモルファス形態。
【請求項11】
前記共アモルファス形態が、25~75%重量/重量の前記原薬及び25~75%重量/重量の前記タンパク質を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の共アモルファス形態。
【請求項12】
医療での使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の共アモルファス形態。
【請求項13】
化粧品での使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の共アモルファス形態。
【請求項14】
噴霧乾燥、溶媒蒸発、凍結乾燥、超臨界流体からの析出、融液急冷、ホットメルト押出、エレクトロスピニング、2D印刷、3D印刷、並びにボールミリング及びクライオミリングなどのいずれかのミリングプロセスから選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の共アモルファス形態の作製方法。
【請求項15】
請求項1から11のいずれか一項に記載の共アモルファス形態の作製方法であって、前記方法は:
i)原薬及びタンパク質を容器に入れ、前記容器をシールすること、
ii)前記原薬及び前記タンパク質が完全に粉砕されて共アモルファス生成物となるまで、機械的活性化によって、前記原薬を前記タンパク質と一緒に物理的に無秩序化すること、
iii)同時に、前記物質及び前記タンパク質を混合すること、
を含み、前記原薬及び前記タンパク質を含む均質な共アモルファス単相系が得られる、方法。
【請求項16】
請求項1から11のいずれか一項に記載の共アモルファス形態の作製方法であって、前記方法は:
i)原薬及びタンパク質を、溶媒又は溶媒混合物に溶解して、単相溶液を形成すること、
ii)工程i)で得られた前記溶液から前記溶媒を除去すること、
を含み、前記原薬及び前記タンパク質を含む均質な単相共アモルファス混合物が得られる、方法。
【請求項17】
請求項1から11のいずれか一項に記載の共アモルファス形態の作製方法であって、前記方法は:
i)原薬及びタンパク質を、溶媒又は溶媒混合物に溶解して、単相溶液を形成すること、
ii)工程i)からの前記単相溶液を凍結すること、
iii)工程ii)で得られた前記凍結単相から、昇華によって前記溶媒又は溶媒混合物を除去すること、
を含み、前記原薬及び前記タンパク質を含む均質な単相共アモルファス混合物が得られる、方法。
【請求項18】
前記溶媒が、水である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1から11のいずれか一項に記載の共アモルファス形態の作製方法であって、前記方法は:
i)物質及びタンパク質を混合して、両成分の物理的混合物を得ること、
ii)工程i)で得られた前記物理的混合物を、前記物質、前記タンパク質、又は両方を合わせた融点を超えて前記混合物を加熱することによって無秩序化して、物質及びタンパク質の両方を含む均質な単相溶融物を得ること、
iii)工程ii)からの前記単相溶融物を、ガラス転移温度未満に冷却すること、
を含み、前記物質及び前記タンパク質を含む均質な単相共アモルファス混合物が得られる、方法。
【請求項20】
請求項1から11のいずれか一項に記載の共アモルファス形態、又は請求項14から19のいずれか一項に記載の通りに作製された共アモルファス形態、及び少なくとも1つの医薬的、化粧品的、又は獣医学的に許容される賦形剤を含む組成物。
【請求項21】
前記共アモルファス形態が、デシケーター内でシリカゲル上、相対湿度0%及び18~25℃の室温で保存し、XRPDによって分析された場合、少なくとも5週間以上の安定性を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の共アモルファス形態。
【請求項22】
前記共アモルファス形態が、8週間以上の安定性を有する、請求項21に記載の共アモルファス形態。
【請求項23】
前記共アモルファス形態が、15週間以上の安定性を有する、請求項21に記載の共アモルファス形態。
【請求項24】
前記共アモルファス形態の固有溶解試験の増加が、結晶原薬の前記溶解速度よりも少なくとも2倍高い、請求項1から11、21から23のいずれか一項に記載の共アモルファス形態。
【請求項25】
前記共アモルファス形態の固有溶解試験の前記増加が、前記結晶原薬の前記溶解速度よりも少なくとも5倍高い、請求項24に記載の共アモルファス形態。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質及びタンパク質の共アモルファス形態に関する。本発明はまた、共アモルファス形態を含む、医薬用、化粧品用、獣医学用、食品又は食事用の組成物、さらには共アモルファス形態の作製方法及び使用方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
経口製剤は、安価に製造され、患者にとって都合の良いものであることから、薬物投与の好ましい方法は、経口送達である。しかし、水への溶解性が乏しい結晶原薬の経口製剤は、医薬品業界にとっての主要な課題であり、それは、これらの物質が、乏しい溶解性及び低い溶解速度を呈し、その結果、低い生体利用度及び乏しい治療性能となってしまうからである。
【0003】
これらの課題に対処するために、アモルファス製剤がこれまでに用いられてきた。薬物の結晶形態をそのアモルファス対応物に変換することによって、原薬の溶解性及び溶解速度が高められ、生体利用度及び治療効果の改善に繋がる(Hancock et al., Pharm. Res. 17 (2000) pp. 397-404)。しかし、アモルファスの薬物形態は、物理的に不安定であり、保存の間に再結晶して溶解度の乏しい結晶形態に戻ってしまう傾向にある(Laitinen et al., Int. J. Pharm. 453 (2013) pp. 65-79)。したがって、アモルファスの薬物形態を安定化するための方法が、医薬品業界に必要である。特に、本技術分野において、共アモルファス製剤の安定性及び/又は溶解性をさらに改善することができる新規な賦形剤が求められている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、タンパク質又はペプチド、特に天然ペプチド又は天然タンパク質が、溶解性の乏しい原薬などの溶解性の乏しい物質の共アモルファス形態の製造に用いられる場合、得られる共アモルファス形態が、物質とタンパク質とが分子レベルで組み合わされた完全に均質な単相系であるという驚くべき発見に基づいている。この方法により、タンパク質賦形剤をまったく含まない物質単独のアモルファス形態と比較して、水溶性及び経口吸収が改善される。さらに、共アモルファス形態の物理的安定性も、薬物単独のアモルファス形態、及び物質とタンパク質との物理的混合物と比較して、高められる。本発明の別の利点は、乳製品製造などの食品製造の過程での副産物として豊富に製造される安価なタンパク質又はタンパク質混合物を用いることができることである。したがって、本発明は、物質及びタンパク質の共アモルファス形態を提供する。しかし、本発明のコンテクストでは、原薬に焦点を当てる。
【0005】
原薬のアモルファス形態、さらには原薬の固体分散体は公知である。そのような形態と比較して、原薬及びタンパク質の共アモルファス形態は、溶解性及び安定性の特性を改善したものである。共アモルファス形態が、医薬品又は化粧品用途のためである場合、タンパク質は、有害な薬理学的影響がまったくない生理学的に許容されるものであるべきである。
【0006】
態様では、本発明は、物質及びタンパク質の共アモルファス形態を提供し、タンパク質は、乳清タンパク質分離物、乳清タンパク質加水分解物、ダイズタンパク質分離物、ダイズタンパク質加水分解物、グリシニン、ベータ-コングリシニン、レグミン、ビシリン、ミオグロビン、リゾチーム、ウシ血清アルブミン、卵白タンパク質分離物、卵白タンパク質加水分解物、卵タンパク質分離物、卵白アルブミン、オボムチン、オボグロブリン、アビジン、オボムコイド、オボトランスフェリン、カゼイン、アルファ-ラクトアルブミン、ベータ-ラクトグロブリン、免疫グロブリンG、ラクトフェリン、ケラチン、コメタンパク質分離物、コメタンパク質加水分解物、レンズマメタンパク質分離物、エンドウマメタンパク質分離物、ソラマメタンパク質分離物、ヒヨコマメタンパク質分離物、コオロギタンパク質、カイコタンパク質、カボチャ種子タンパク質、麻タンパク質、コラーゲン、及びゼラチンから選択される。
【0007】
以下のタンパク質は、添付の例における共アモルファス形態に用いられたものであり、タンパク質は、乳清タンパク質分離物、乳清タンパク質加水分解物、ダイズタンパク質分離物、ダイズタンパク質加水分解物、ミオグロビン、リゾチーム、卵タンパク質分離物、卵白タンパク質分離物、卵白タンパク質加水分解物、卵タンパク質分離物、卵白アルブミン、カゼイン、アルファ-ラクトアルブミン、ベータ-ラクトグロブリン、免疫グロブリンG、コメタンパク質分離物、コメタンパク質加水分解物、及びコラーゲンである。
【0008】
加水分解物は、典型的には、購入される。それらは、タンパク質分離物を高い熱及び酵素の混合物に曝露して、タンパク質を変性及び消化して数個のアミノ酸の小断片とすることによって作製されてもよい。乳清タンパク質加水分解物の供給業者は、自身のウェブサイトに、より小断片へとタンパク質を消化するのに酵素を用いていると記載しており、この目的のために酵素の混合物を用いているものと想定される。
【0009】
本明細書における例では、トリプシン及びペプシンの2つの個別のタンパク質分解酵素のみを用いた。これらの酵素は、ヒトGI管中に存在しており、そのような個別の酵素による消化が、得られる製品の性能に対する効果を有するかどうかを試験するためである。この方法により、特定の酵素によって開裂される鎖に基づく加水分解の効果を識別することがより容易となる。購入したWPH製品の場合など、一緒に用いられた複数の酵素による消化の個別の効果を識別することはより困難である。
【0010】
購入されたWPHと、本発明者らが作製したペプシン及びトリプシンで消化された乳清タンパク質との間に相違が存在することは自然なことである。加水分解物の供給業者は、これらをスポーツ用サプリメントとして用いる人々のために安全で良好に機能する製品を得るために、酵素の混合物及び比率を最適化した可能性が最も高い。
【0011】
タンパク質及び物質、特に原薬の最良の組み合わせを選択するために、以下の全般的な観察を行った(実験セクション参照)。
【0012】
タンパク質及び活性物質(原薬)の共アモルファス形態の溶解速度の、活性物質の結晶形態の溶解速度と比較した最も高い増加が、以下の場合に見られる。
i)タンパク質及び薬物分子が、逆の電荷を有する場合。観察される効果は、引力又は反発力を起こさせる物質の電荷に基づくものである可能性が最も高い。タンパク質の場合、これはその正味の電荷である;又は、
ii)タンパク質の混合物を含有するタンパク質が選択される場合。そのようなタンパク質は、乳清タンパク質分離物、コメタンパク質分離物、卵タンパク質分離物、及びダイズタンパク質分離物である;又は、
iii)高分子量タンパク質が選択される場合;又は
iv)乳清タンパク質分離物が選択される場合。
【0013】
乳清タンパク質分離物に関して、本明細書における例は、乳清タンパク質分離物が、全体として、試験した他のすべてのタンパク質よりも性能が優れていること、及び乳清タンパク質が非常に適した特性を有すると思われることから、上記で述べた一般的ガイドラインが必ずしも乳清タンパク質に当てはまるとは限らないこと、を示している。
【0014】
共アモルファス形態の物理的安定性に関して(例6を参照)、本明細書における例は、乳清タンパク質分離物、乳清タンパク質加水分解物などのタンパク質を含有する共アモルファス形態は、全体として、非常に優れた安定性を有することを示している。興味深いことには、乳清タンパク質分離物又は乳清タンパク質加水分解物に基づく共アモルファス形態は、試験した他のタンパク質のいずれと比較しても、著しく改善された物理的安定性を有する。卵白アルブミン、カゼイン、コラーゲン、リゾチーム、ミオグロビンなどのタンパク質を含有する共アモルファス形態は、用いられる原薬に応じて、適切な安定性を有し得る。ウシ血清アルブミン又はゼラチンを用いた共アモルファス形態は、適切な安定性を有しないと思われる。
【0015】
例において実証されるように、乳清タンパク質分離物及び乳清タンパク質加水分解物は、本発明のコンテクストでの使用に適するタンパク質であることが示された。これらのタンパク質は、個々のタンパク質/ペプチド/アミノ酸の混合物を含有することから、これらのタンパク質のいずれの組み合わせも使用に適することが考えられる。したがって、本発明との関連で特に妥当であるタンパク質は、ベータ-ラクトグロブリン、アルファ-ラクトアルブミン、免疫グロブリンG、ウシ血清アルブミン、及びラクトフェリン、並びにこれらの加水分解物から選択されるタンパク質である。ウシ血清アルブミンは、タンパク質の総重量に基づいて10%重量/重量以下などの15%重量/重量以下である組み合わせで存在するべきである。
【0016】
特に、本発明は、原薬及びタンパク質の共アモルファス形態を提供し、タンパク質は、乳清タンパク質分離物又は乳清タンパク質加水分解物である。特に、天然乳清タンパク質分離物(未変性)が対象である。乳清タンパク質分離物は、通常、ベータ-ラクトグロブリン、アルファ-ラクトアルブミン、免疫グロブリンG、ウシ血清アルブミン、及びラクトフェリンを含む。しかし、乳清タンパク質分離物は、他のタンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミン、及び/又は水など(しかし、これらに限定されない)の他の構成成分を、より少ない度合いで(合計で、約0~約5%重量/重量など、5%重量/重量を超えない)含んでいてもよい。
【0017】
乳清タンパク質分離物は、通常、約50~約70%のベータ-ラクトグロブリン、約10~約25%のアルファ-ラクトアルブミン、約10~約20%の免疫グロブリンG、約1~約10%のウシ血清アルブミン、及び約1~約10%のラクトフェリンを含む。
【0018】
したがって、
i)少なくとも約50%重量/重量のベータ-ラクトグロブリン、
ii)少なくとも約10%重量/重量のアルファ-ラクトアルブミン、
iii)少なくとも約10%重量/重量の免疫グロブリンG、
iv)少なくとも約1%重量/重量のウシ血清アルブミン、
v)少なくとも約1%重量/重量のラクトフェリン、又は
vi)これらの混合物、
を含有するタンパク質又はタンパク質混合物は、本発明の範囲内である。
【0019】
市販の乳清タンパク質分離物の組成は、はっきりと分かってはいるが、含有量のある特定の変動が起こり得ることを除外することはできない。したがって、本発明の範囲内に含まれるのは、以下で定められる通りの乳清タンパク質分離物である:
i)以下を含有する乳清タンパク質分離物:
50~70% ベータラクトグロブリン
10~25% アルファ-ラクトアルブミン
10~20% 免疫グロブリンG
1~10% ウシ血清アルブミン
1~10% ラクトフェリン
ii)以下を含有する乳清タンパク質分離物:
50~70% ベータラクトグロブリン
10~25% アルファ-ラクトアルブミン
10~15% 免疫グロブリンG
5~10% ウシ血清アルブミン
1~5% ラクトフェリン
iii)以下を含有する乳清タンパク質分離物:
52~72% ベータラクトグロブリン
14~22% アルファ-ラクトアルブミン
11~16% 免疫グロブリンG
2~8% ウシ血清アルブミン
2~8% ラクトフェリン
iv)以下を含有する乳清タンパク質分離物:
53~68% ベータラクトグロブリン
14~22% アルファ-ラクトアルブミン
11~15% 免疫グロブリンG
4~8% ウシ血清アルブミン
2~6% ラクトフェリン
【0020】
市販の乳清タンパク質分離物は、約55~約65%のベータ-ラクトグロブリン、約15~約21%のアルファ-ラクトアルブミン、約13~約14%の免疫グロブリンG、約7%のウシ血清アルブミン、及び約3%のラクトフェリンを含むと記載されている(De Wit, Journal of Dairy Science 81 (1998) pp. 597-608及びJenness, Protein Composition of Milk in Milk Proteins V1 : Chemistry and Molecular Biology, Academic Press, 2012)。より具体的には、本発明に従う使用のための乳清タンパク質分離物としては、以下が挙げられる:
i)以下を含有する乳清タンパク質分離物:
55% ベータラクトグロブリン、
21% アルファ-ラクトアルブミン、
14% 免疫グロブリンG、
7% ウシ血清アルブミン、及び
3% ラクトフェリン
ii)以下を含有する乳清タンパク質分離物:
65% ベータラクトグロブリン、
15% アルファ-ラクトアルブミン、
13% 免疫グロブリンG、
7% ウシ血清アルブミン、及び
0% ラクトフェリン
【0021】
上記で述べたように、本発明に従う共アモルファス形態での使用に適する別の乳清タンパク質は、乳清タンパク質加水分解物である。乳清タンパク質加水分解物は、乳清タンパク質分離物の対応する分解生成物を含む加水分解物を得るために何らかの形の化学的、酵素的、物理的、又は機械的分解に掛けられ、所望に応じて精製された乳清タンパク質分離物から誘導されたタンパク質/ペプチド/アミノ酸の混合物である。
【0022】
本発明は、低い水溶性を有し、水溶性又は溶解速度の増加が所望される物質を特に対象としている。本発明はまた、物質がアモルファス形態で用いられることが好ましいが、アモルファス形態が適切な保存安定性を有していない場合も対象としている。そのような物質としては、触媒、化学試薬、栄養素、食品成分、酵素、殺菌剤、殺虫剤、殺真菌剤、消毒剤、香料、香味料、肥料、及び微量栄養素、さらには原薬が挙げられる。
【0023】
本発明は、物質が、治療活性、予防活性、及び/又は診断活性を有する原薬である場合を主たる焦点としている。別の選択肢として、物質は、治療、予防、又は診断目的のために有用であってもよい。
【0024】
本発明のコンテクストにおいて、原薬の低い溶解性は、米国食品医薬品局(FDA)が提供し、定める生物薬剤学分類システム(BCS)に従って定められる。「溶解性」の用語は、本明細書において、化合物が溶媒中に溶解して溶液を形成する能力を意味する。本開示において特に該当するのは、薬物の以下の4つの異なるクラスに従う「乏しい溶解性又は不溶性」の用語の定義である。
クラスI-高い透過性、高い溶解性(透過性も溶解性も、薬物化合物の経口による生体利用度を制限しない)
クラスII-高い透過性、低い溶解性(低い溶解性が、薬物化合物の経口による生体利用度を制限する)
クラスIII-低い透過性、高い溶解性(低い透過性が、薬物化合物の経口による生体利用度を制限する)
クラスIV-低い透過性、低い溶解性(透過性及び溶解性の両方が、薬物化合物の経口による生体利用度を制限する)
【0025】
この分類によると、原薬は、1~7.5のpH範囲にわたって最高投与量が250ml以下の水性媒体中に溶解しない場合、低い溶解性を有している。
【0026】
物質の溶解性の特定に用いられる溶媒は、水性媒体である。水性媒体は、1~7.5の範囲内の特定のpHを確保するために、1若しくは複数のpH調節剤又は緩衝剤を含有していてよく、又はそれは水であってもよい。
【0027】
BCSクラス4の薬物など経口経路による投与が通常はできない原薬を含有する本発明に従う共アモルファス形態が特に対象である。対象となる他の原薬は、例えば、原薬の取り込みを低下又は阻害する排出ポンプ又は類似の生理学的機構の存在に起因して、経口投与できない原薬であり得る。そのような原薬の場合、熟練した医療従事者が通常は関与する非経口経路のみによる投与を回避する目的で、著しく改善された製剤が所望される。
【0028】
しかし、本発明の概念は、一般的な特徴であると考えられ、すなわち、溶解性の安定性の改善が有利であるすべての種類の原薬に対して適用することができる。そのような原薬は、アモキシシリンなどの抗生物質、
【0029】
アシクロビル、アルベンダゾール、アニデュラファンギン、アジスロマイシン、セフジニル、セフジトレン、セフィキシム、セフォチアム、セフポドキシム、セフロキシムアキセチル、クラリスロマイシン(chlarithromycin)、クロロキン、シプロフロキサシン、クラリスロマイシン、クロファジミン、コビシスタット、ダプソン、ダプトマイシン、ジロキサニド、ドキシサイクリン、エファビレンツ、エルビテグラビル、エリスロマイシン、エトラビリン、グリセオフルビン、インジナビル、イトラコナゾール、イベルメクチン、リネゾリド、ロピナビル、メベンダゾール、メフロキン、メトロニダゾール、マイカミン、ナリジクス酸、ネルフィナビル、ネビラピン、ニクロサミド、ニトロフラントイン、ニスタチン、プラジカンテル、ピランテル、ピリメタミン、キニーネ、リファンピシン、リルピビリン、リトナビル、ロキシスロマイシン、サキナビル、スルファジアジン、スルファメトキサゾール、スルタミシリン、トスフロキサシン、及びトリメトプリムなどの抗感染薬、
【0030】
ビカルタミド、シプロテロン、ドセタキセル、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、パクリタキセル、及びタモキシフェンなどの抗悪性腫瘍薬、アセタゾラミド、アトルバスタチン、アゼタコラミド(azetacolamide)、ベニジピン、カンデサルタン、シレキセチル、カルベジロール、シロスタゾール、クロピドグレル、エプロサルタン、イコサペント酸エチル、エゼチミブ、フェノフィブラート、フロセミド、ヒドロクロロチアジド、イルベサルタン、ロバスタチン、マニジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、オルメサルタン、シンバスタチン、スピロノラクトン、テルミサルタン、チクロピジン、トリフルサル、バルサルタン、ベラパミル、及びワルファリンなどの心血管治療薬、
【0031】
アセクロフェナク、アセトアミノフェン、アセチルサリチル酸、アプリプラゾール(apriprazole)、カルバマゼピン、カリソプロドール、セレコキシブ、クロルプロマジン、クロナゼパム、クロザピン、ジアゼパム、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、ハロペリドール、イブプロフェン、ケトプロフェン、ラモトリジン、レボドパ、ロラゼパム、メロキシカム、メタキサロン、メチルフェニデート、メトクロプラミド、モダフィニル、ナビロン、ナブメトン、ニセルゴリン、ニメスリド、オランザピン、オキシカルバゼピン、オキシコドン、フェノバルビタール、フェニトイン、クエチアピン、リスペリドン、ロフェコキシブ、セルトラリン、スルピリド、バルプロ酸、及びズラトプロフェン(zlatoprofen)などのCNS薬、
【0032】
イソトレチノインなどの皮膚科用薬、カベルゴリン、デキサメサゾン、エパルレスタット、硫酸エストロン、グリベンクラミド、グリクラジド、グリムピリド(glimpiride)、グリピジド、メドロキシプロゲステロン、酢酸ノルエチンドロン、ピオグリタゾン、プレドニゾン、プロピルチオウラシル、及びラロキシフェンなどの内分泌及び代謝薬、
【0033】
ビサコジル、ファモチジン、メサラミエ(mesalamie)、モサプリド、オーリスタット、レバミピド、センノシドA、スルファサラジン、テプレノン、及びウルソデオキシコール酸などの胃腸薬、
【0034】
葉酸、メナテトレノン、レチノール、及び、ニコチン酸トコフェロールなどの栄養薬、
【0035】
エバスチン、ヒドロキシジン、L-カルボシステイン、ロラタジン、プランルカスト、及びテオフィリンなどの呼吸器薬、
【0036】
アロプリノールなどの尿酸降下薬、
【0037】
並びにシルデナフィル及びタダラフィルなどの勃起不全を治療するための薬、から選択され得る。
【0038】
上述の原薬に関連して、これらの原薬のいずれか、及び本明細書で述べるタンパク質から、特に乳清タンパク質分離物若しくは乳清タンパク質加水分解物から、又はその構成成分若しくはそのいずれかの組み合わせ(すなわち、アルファ-ラクトアルブミン、ベータ-ラクトグロブリン、免疫グロブリンG、ウシ血清アルブミン、及びラクトフェリン)から選択されるタンパク質の共アモルファス形態は、改善された安定性及び溶解性などの改善された医薬特性に関する有益性を提供することが考えられる。特に、タンパク質は、乳清タンパク質分離物及び/又は乳清タンパク質加水分解物である。
【0039】
本発明に従う物質及びタンパク質の共アモルファス形態は、1~95%重量/重量の物質及び5~99%重量/重量のタンパク質を含有し得る。したがって、共アモルファス形態は、約2.5~90%重量/重量、又は約10~約80%重量/重量の物質を含有し得る。例から分かるように、様々な濃度の原薬及びタンパク質から所望される結果を得ることができる。適切な例としては、約25~約75%重量/重量の原薬を含有する共アモルファス形態が挙げられる。
【0040】
本発明に従う共アモルファス形態は、この形態の具体的な用途に応じて、適切な適用形態に製剤され得る。物質が医療用途又は化粧品用途のためである場合、共アモルファス形態は、医薬組成物又は化粧品組成物に製剤され得る。そのような組成物としては、経口、局所、粘膜、経肺、非経口、舌下、経鼻、眼内(occular)、及び経腸投与用の組成物が挙げられる。可能である場合は、経口投与経路が好ましい。
【0041】
そのような組成物は、1又は複数の医薬的又は化粧品的に許容される賦形剤を含んでいてよい。医薬又は化粧品製剤の当業者であれば、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, Mack Publishing Company, 1990をガイドとして、特定の組成物を製剤する方法が分かるであろう。
【0042】
ある特定の物質がある場合、共アモルファス形態を形成するためのタンパク質は、個々の成分の物理化学的特性に基づいて選択され得る。そのような選択又はマッチングは、サイズ(例えば、分子量及び/又は流体力学的体積に関する)、疎水性(例:疎水性物質/疎水性タンパク質、又は親水性物質/親水性タンパク質)、並びに/又は静電相互作用(例:アニオン性物質/カチオン性タンパク質、カチオン性物質/アニオン性タンパク質、及び中性物質/中性タンパク質)に従って行われ得る。しかし、問題の物質に応じて、選択及びマッチングのための他の基準も想定され得る。
【0043】
態様では、本発明は、物質及びタンパク質の共アモルファス形態を作製するための方法を提供し、共アモルファス形態は、噴霧乾燥、溶媒蒸発、凍結乾燥、超臨界流体からの析出、融液急冷、ホットメルト押出、2D印刷、及び3D印刷などの熱力学的方法によって、又はボールミリング及びクライオミリングを含むいずれかの種類のミリングプロセスなどの動力学的無秩序化プロセス(kinetic disordering processes)によって作製される。
【0044】
本明細書における例から明らかなように、噴霧乾燥が、非常に優れた結果をもたらす。
【0045】
本発明によって定められる共アモルファス形態を作製するための方法は:
i)物質及びタンパク質を容器に入れ、容器をシールすること、
ii)物質及びタンパク質が完全に粉砕されて共アモルファス生成物となるまで、機械的活性化によって、物質をタンパク質と一緒に物理的に無秩序化すること、
iii)同時に、物質及びタンパク質を混合すること、
を含み、物質及びタンパク質を含む均質な共アモルファス単相系が得られる。
【0046】
本発明によって定められる共アモルファス形態を作製するための別の方法は:
i)物質及びタンパク質を、溶媒又は溶媒混合物に溶解して、単相溶液を形成すること、
ii)工程i)で得られた溶液から溶媒を除去すること、
を含み、物質及びタンパク質を含む均質な単相共アモルファス混合物が得られる。
【0047】
本発明によって定められる共アモルファス形態を作製するためのなお別の方法は:
i)物質及びタンパク質を、溶媒又は溶媒混合物に溶解して、単相溶液を形成すること、
ii)工程i)からの単相溶液を凍結すること、
iii)工程ii)で得られた凍結単相から、昇華によって溶媒又は溶媒混合物を除去すること、
を含み、物質及びタンパク質を含む均質な単相共アモルファス混合物が得られる。
【0048】
本明細書の例から分かるように、適切な溶媒は、水溶液の水である。共アモルファス形態を得るために、pH制御は不要であると思われ、有機溶媒も不要であると思われる。例では、溶媒として水を用いた。
【0049】
本発明で定められる共アモルファス形態を作製するためのなお別の方法は:
i)物質及びタンパク質を混合して、両成分の物理的混合物を得ること、
ii)工程i)で得られた物理的混合物を、薬物、タンパク質、又は両方の融点を超えて混合物を加熱することによって無秩序化して、物質及びタンパク質の両方を含む均質な単相溶融物を得ること、
iii)工程ii)からの単相溶融物を、ガラス転移温度未満に冷却すること、
を含み、物質及びタンパク質を含む均質な単相共アモルファス混合物が得られる。
【0050】
原薬が胃腸系の排出ポンプに対する基質である原薬及びタンパク質の共アモルファス形態
特に対象となるのは、タンパク質、及び通常は経口経路によって投与されるが、治療効果及び患者コンプライアンスを改善するために別の選択肢としての製剤が求められている抗癌原薬などの原薬の共アモルファス形態である。
【0051】
治療効果を有するためには、経口投与されたいずれの原薬も、まず腸液に溶解し、続いて腸壁を透過しなければならない。したがって、原薬の充分な水溶性及び腸透過性は、許容される生体利用度を得るために重要である。しかし、抗癌原薬などの多くの原薬は、水溶性に乏しく、その結果、経口での生体利用度が低く、したがって、非効率的な薬物作用となる。
【0052】
生体利用度が乏しい別の理由は、腸吸収が乏しいからでもあり得る。一部の抗癌薬などの多くの原薬の乏しい吸収は、そのような原薬が、P-糖タンパク質(多剤耐性タンパク質又はMDR1としても知られ、胃腸管に加えて、肝臓及び腎臓、並びに血液脳関門にも存在する)などのいわゆる腸排出ポンプに対する基質であることに起因する。そのような排出ポンプは、典型的には、腸の吸収細胞層に位置しており、その主たる目的は、異物又は毒性物質を再度排出して腸管腔へと戻すことによって身体を保護することである。一部の抗癌原薬などの多くの原薬は、これらの排出ポンプに対する基質である。しかし、ビカルタミドなどの一部の抗癌原薬は、その抗癌効果に加えて、排出ポンプ阻害性も示す。
【0053】
抗癌薬ドセタキセルなどの一部の原薬の場合、前記原薬が溶解性にも吸収性にも乏しく、その結果、2つの送達バリアが存在することになることから、状況はさらに困難となる。このため、これらの原薬に対する好ましい投与経路は、静脈内点滴である。しかし、原薬が溶解性に非常に乏しいことから、可溶化剤及び溶媒を添加することがそれでも必要であり、このことは、身体に対して有害である可能性があり、刺激及び重篤なアレルギー反応を引き起こし得る。注射用製剤は、さらに、無菌である必要があり、これは、コストが掛かり、それでも感染のリスクは存在する。さらに、点滴の間、患者は入院する必要があることから、投与には熟練したスタッフが必要とされる。そして、化学療法などの静注療法は、一般的に、その対応する経口療法ほど有利ではなく、その理由は、2~3週間に1回の投与が通常であり、したがって、毎日の経口療法と比較して、原薬の血漿中プロファイルが均一ではなくなる結果となるからである。したがって、静注療法を経口療法に変えることを可能とする技術は、多くの利点を有する。
【0054】
原薬及びタンパク質の共アモルファス形態などの共アモルファス形態は、通常は静脈内経路でしか利用可能ではない原薬を経口投与する方法を提供するものであり、それは、共アモルファス形態が、原薬の溶解性及び安定性を高め、その結果、生体利用度が高まるからである。
【0055】
特に、共アモルファス形態は、P-糖タンパク質などの排出ポンプに対する基質であるドセタキセルなどの溶解性に乏しい原薬、及び治療効果に加えて前記排出ポンプの阻害剤でもあるビカルタミドなどの溶解性に乏しい別の原薬を共送達するために用いられ得る。そのような原薬を同じ共アモルファス形態中に含めることにより、原薬は、水素結合又はイオン性相互作用などの分子間相互作用を介して、アモルファス形態中で互いに安定化し得る。安定なアモルファス系の結果として、溶解性に乏しい両原薬は、より高い溶解性及び安定性を実現し、このことは、胃腸管中において吸収に利用可能である溶解した原薬の量の増加に繋がる。さらに、排出ポンプ基質及び排出ポンプ阻害剤を同じ共アモルファス形態中に含めることにより、排出ポンプ基質の取り込みが改善されることになり、経口による生体利用度が高まる結果となる。
【0056】
ビカルタミド及びドセタキセルのペアに加えて、タリノロール及びナリンギン、並びにリトナビル及びケルセチンのペアが、排出ポンプ基質及び排出ポンプ阻害剤の組み合わせとして例示される。
【0057】
他の例は、文献に見出すことができ、1又は複数の原薬がタンパク質と共に共アモルファス化された場合、本発明の範囲内である。
【0058】
定義
「物質」:
本発明によると、共アモルファス形態のコンテクストにおける「物質」の用語は、1又は複数の物質として定義される。したがって、本発明によると、「物質及びタンパク質の共アモルファス形態」の用語は、1又は複数の物質を含む共アモルファス形態を表す。「原薬」の用語は、治療活性物質又は予防活性物質を表す。
【0059】
「タンパク質」:
本発明によると、共アモルファス形態のコンテクストで用いられる「タンパク質」の用語は、単一のタンパク質、タンパク質混合物、タンパク質/ペプチド/アミノ酸混合物、タンパク質/アミノ酸混合物、及びペプチド/アミノ酸混合物などの1又は複数のタンパク質に関する。
【0060】
「乳清タンパク質分離物」:
本発明によると、乳清タンパク質分離物(WPI)は、ベータ-ラクトグロブリン、アルファ-ラクトアルブミン、免疫グロブリンG、ウシ血清アルブミン、及び/又はラクトフェリンを含むタンパク質の混合物として定義される。
【0061】
通常、乳清タンパク質分離物は、約50~約70%重量/重量のベータ-ラクトグロブリン、約10~約25%重量/重量のアルファ-ラクトアルブミン、約10~約20%重量/重量の免疫グロブリンG、約1~約10%重量/重量のウシ血清アルブミン、及び約1~約10%重量/重量のラクトフェリンを含む。所望に応じて、乳清タンパク質分離物は、他のタンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミン、又は水など(しかし、これらに限定されない)の他の構成成分を、より少ない度合いで(合計で、5%重量/重量を超えない)含んでいてもよい。
【0062】
「乳清タンパク質加水分解物」
本発明によると、乳清タンパク質加水分解物は、乳清タンパク質分離物の対応する分解生成物を含む加水分解物を得るために何らかの形の化学的、酵素的、物理的、又は機械的分解プロセスに掛けられ、所望に応じて精製された乳清タンパク質分離物から誘導されたタンパク質/ペプチド/アミノ酸の混合物として定義される。
【0063】
「共アモルファス」:
本発明によると、「共アモルファス」の用語は、均質なアモルファス単相系を形成する2つ以上の成分の組み合わせを意味し、成分は、分子レベルで密接に混合されている。「共アモルファス」サンプルは、熱力学的方法又は動力学的無秩序化プロセスによって作製され得る。DSCと共にXRPDを用いて、サンプルが作製後に「共アモルファス」であるかどうかが識別され得る。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】インドメタシン(IND)、カルベジロール(CAR)、パラセタモール(PAR)、及びフロセミド(FUR)と、乳清タンパク質分離物(WPI)又は乳清タンパク質加水分解物(WPH)のいずれかとの共アモルファス形態のXRPDディフラクトグラム。共アモルファス形態はすべて、噴霧乾燥によって得た。パネル(i):A=IND-WPI、B=CAR-WPI、C=PAR-WPI、D=FUR-WPI。パネル(ii):A=IND-WPH、B=CAR-WPH、C=PAR-WPH、D=FUR-WPH。
図2】結晶インドメタシン(C IND)、アモルファスインドメタシン(A IND)、ボールミリングで得た共アモルファスインドメタシン-乳清タンパク質分離物(BM IND-WPI)、ボールミリングで得た共アモルファスインドメタシン-乳清タンパク質加水分解物(BM IND-WPH)、噴霧乾燥で得た共アモルファスインドメタシン-乳清タンパク質分離物(SD IND-WPI)、及び噴霧乾燥で得た共アモルファスインドメタシン-乳清タンパク質加水分解物(SD IND-WPH)の固有溶解速度。
図3】(a)結晶カルベジロール(C CAR)、アモルファスカルベジロール(A CAR)、ボールミリングで得た共アモルファスカルベジロール-乳清タンパク質分離物(BM CAR-WPI)、ボールミリングで得た共アモルファスカルベジロール-乳清タンパク質加水分解物(BM CAR-WPH)、噴霧乾燥で得た共アモルファスカルベジロール-乳清タンパク質分離物(SD CAR-WPI)、及び噴霧乾燥で得た共アモルファスカルベジロール-乳清タンパク質加水分解物(SD CAR-WPH);(b)結晶パラセタモール(C PAR)、アモルファスパラセタモール(A PAR)、ボールミリングで得た共アモルファスパラセタモール-乳清タンパク質分離物(BM PAR-WPI)、ボールミリングで得た共アモルファスパラセタモール-乳清タンパク質加水分解物(BM PAR-WPH)、噴霧乾燥で得た共アモルファスパラセタモール-乳清タンパク質分離物(SD PAR-WPI)、及び噴霧乾燥で得た共アモルファスパラセタモール-乳清タンパク質加水分解物(SD PAR-WPH);(c)結晶フロセミド(C FUR)、アモルファスフロセミド(A FUR)、ボールミリングで得た共アモルファスフロセミド-乳清タンパク質分離物(BM FUR-WPI)、ボールミリングで得た共アモルファスフロセミド-乳清タンパク質加水分解物(BM FUR-WPH)、噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-乳清タンパク質分離物(SD FUR-WPI)、及び噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-乳清タンパク質加水分解物(SD FUR-WPH)の固有溶解速度。
図4】(a)結晶インドメタシン(C IND)、アモルファスインドメタシン(A IND)、噴霧乾燥で得た共アモルファスインドメタシン-乳清タンパク質分離物(SD IND-WPI)、噴霧乾燥で得た乳清タンパク質分離物(トリプシンで消化)との共アモルファスインドメタシン(SD IND-WPI ENZ T)、噴霧乾燥で得た乳清タンパク質分離物(トリプシン、続いてペプシンで消化)との共アモルファスインドメタシン(SD IND-WPI ENZ T+P)、噴霧乾燥で得た乳清タンパク質分離物(ペプシンで消化)との共アモルファスインドメタシン(SD IND-WPI ENZ P)、噴霧乾燥で得た乳清タンパク質分離物(ペプシン、続いてトリプシンで消化)との共アモルファスインドメタシン(SD IND-WPI ENZ P+T);(b)結晶インドメタシン(C IND)、アモルファスインドメタシン(A IND)、噴霧乾燥で得た共アモルファスインドメタシン-乳清タンパク質分離物(SD IND-WPI)、噴霧乾燥で得た共アモルファスインドメタシン-ウシ血清アルブミン(SD IND-BSA)、噴霧乾燥で得た共アモルファスインドメタシン-アルファ-ラクトアルブミン(SD IND-a ラクトアルブミン)、及び噴霧乾燥で得た共アモルファスインドメタシン-ベータ-ラクトグロブリン(SD IND-b ラクトグロブリン)の固有溶解速度。
図5】結晶インドメタシン(C IND)、アモルファスインドメタシン(A IND)、インドメタシン及び乳清タンパク質分離物の物理的混合物(PM IND-WPI)、ボールミリングで得たインドメタシン及び乳清タンパク質分離物の共アモルファス形態(BM IND-WPI)、並びに噴霧乾燥で得たインドメタシン及び乳清タンパク質分離物の共アモルファス形態(SD IND-WPI)の粉末溶解実験。
図6】それぞれ、インドメタシン(IND)、カルベジロール(CAR)、パラセタモール(PAR)、及びフロセミド(FUR)との乳清タンパク質分離物(WPI)の共アモルファス形態の安定性。X線粉末回折(XRPD)を用いて評価することにより、IND、CAR、及びFURとのWPI混合物については、5ヶ月間の安定性データを測定し、PAR-WPIについては、1ヶ月間の安定性を測定した。共アモルファス混合物はすべて、噴霧乾燥によって得た。A=PAR-WPI、B=FUR-WPI、C=CAR-WPI、D=IND-WPI。安定性実験は、原薬が再結晶を開始するまで、月ごとにさらに行い、データを表3に示す。
図7】結晶フロセミド(結晶FUR)、アモルファスフロセミド(アモルファスFUR)、噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-ポリビニルピロリドン(25:75 重量/重量)(SD FUR-PVP(75:25))、フロセミド-乳清タンパク質分離物の物理的混合物(50:50 重量/重量)(PM FUR-WPI(50:50))、噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-乳清タンパク質分離物(25:75 重量/重量)(SD FUR-WPI(25:75))、噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-乳清タンパク質分離物(50:50 重量/重量)(SD FUR-WPI(50:50))、及び噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-乳清タンパク質分離物(75:25 重量/重量)(SD FUR-WPI(75:25))の絶対生体利用度。生体利用度は、ラットへの経口投与後に評価した。ポリビニルピロリドンを実験に含めたのは、溶解性及び/又は安定性に乏しい原薬の溶解性及び/又は安定性の最適化に関してアモルファス化と競合する主要な技術である固体分散体の作製に最も一般的に用いられる賦形剤だからである。WPIとFURとの比は、FURの含有量を一定に保持した状態で、WPIの含有量を変化させることによって変動させた。
図8】結晶フロセミド(結晶FUR)、アモルファスフロセミド(アモルファスFUR)、噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-ポリビニルピロリドン(25:75 重量/重量)(SD FUR-PVP(75:25))、フロセミド-乳清タンパク質分離物の物理的混合物(50:50 重量/重量)(PM FUR-WPI(50:50))、噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-乳清タンパク質分離物(25:75 重量/重量)(SD FUR-WPI(25:75))、噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-乳清タンパク質分離物(50:50 重量/重量)(SD FUR-WPI(50:50))、及び噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-乳清タンパク質分離物(75:25 重量/重量)(SD FUR-WPI(75:25))の血流中の最大濃度(Cmax)。Cmaxは、ラットへの経口投与後に評価した。ポリビニルピロリドンを実験に含めたのは、溶解性及び/又は安定性に乏しい原薬の溶解性及び/又は安定性の最適化に関してアモルファス化と競合する主要な技術である固体分散体の作製に最も一般的に用いられる賦形剤だからである。WPIとFURとの比は、FURの含有量を一定に保持した状態で、WPIの含有量を変化させることによって変動させた。
図9】結晶フロセミド(結晶FUR)、アモルファスフロセミド(アモルファスFUR)、噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-ポリビニルピロリドン(25:75 重量/重量)(SD FUR-PVP(75:25))、フロセミド-乳清タンパク質分離物の物理的混合物(50:50 重量/重量)及び(PM FUR-WPI(50:50))、噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-乳清タンパク質分離物(25:75 重量/重量)(SD FUR-WPI(25:75))、噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-乳清タンパク質分離物(50:50 重量/重量)(SD FUR-WPI(50:50))、及び噴霧乾燥で得た共アモルファスフロセミド-乳清タンパク質分離物(75:25 重量/重量)(SD FUR-WPI(75:25))の固有溶解速度。ポリビニルピロリドンを実験に含めたのは、溶解性及び/又は安定性に乏しい原薬の溶解性及び/又は安定性の最適化に関してアモルファス化と競合する主要な技術である固体分散体の作製に最も一般的に用いられる賦形剤だからである。WPIとFURとの比は、FURの含有量を一定に保持した状態で、WPIの含有量を変化させることによって変動させる。
図10】様々なタンパク質とのインドメタシン(IND)の共アモルファス形態のXRPDディフラクトグラムである。共アモルファス形態はすべて、噴霧乾燥によって得た。A:SD IND-ダイズ、B:SD IND-コメ、C:SD IND-卵、D:SD IND-ゼラチン、E:SD IND-コラーゲン、F:SD IND-ミオグロビン、G:SD IND-リゾチーム、及びH:SD IND-カゼイン
図11】(i)SD IND-ゼラチン、SD IND-卵、SD IND-ダイズ、C IND、A IND;及び(ii)SD IND-ミオグロビン、SD IND-リゾチーム、SD IND-コラーゲン、SD IND-カゼイン、C IND、A INDの固有溶解速度。
図12】A:SD IND-卵白アルブミン、B:SD CEL-WPI、C:SD CEL-ミオグロビン、D:SD CEL-リゾチーム、E:SD CEL-カゼイン、F:SD CEL-コラーゲンのXRPDディフラクトグラム。
図13】(i)SD IND-ミオグロビン、SD IND-リゾチーム、SD IND-コラーゲン、SD IND-カゼイン、SD IND-WPI;(ii)SD CEL-ミオグロビン、SD CEL-リゾチーム、SD CEL-コラーゲン、SD CEL-カゼイン、SD CEL-WPI;及び(iii)SD CAR-ミオグロビン、SD CAR-リゾチーム、SD CAR-コラーゲン、SD CAR-カゼイン、SD CAR-WPIの固有溶解速度。
図14】(i)SD IND-卵、SD IND-コメ、SD IND-ダイズ、SD IND-WPI、SD IND-ゼラチン;及び(ii)SD IND-BSA、SD IND-卵白アルブミン、SD IND-カゼイン、SD IND-WPIの固有溶解速度。
図15】(i)SD IND-ミオグロビン、SD IND-リゾチーム、SD IND-コラーゲン、SD IND-カゼイン、SD IND-WPI;ii)SD CEL-ミオグロビン、SD CEL-リゾチーム、SD CEL-コラーゲン、SD CEL-カゼイン、SD CEL-WPI;及びiii)SD CAR-ミオグロビン、SD CAR-リゾチーム、SD CAR-コラーゲン、SD CAR-カゼイン、SD CAR-WPIの固有溶解速度(IDR);図中、IDRは、タンパク質の等イオン点(pI)の関数としてプロットされている。
図16】SD IND-BSA、SD IND-卵白アルブミン、SD IND-カゼイン、SD IND-WPIの固有溶解速度(IDR);図中、(i)IDRは、タンパク質の分子量(Mw)の関数としてプロットされ、及び(ii)IDRは、タンパク質の等イオン点(pI)の関数として示されている。
図17】SD IND-卵、SD IND-コメ、SD IND-ダイズ、SD IND-WPI、SD IND-ゼラチンの固有溶解速度(IDR);図中、IDRは、タンパク質の等イオン点(pI)の関数として示されている。
図18】A:SD CAR-ミオグロビン、B:SD CAR-リゾチーム、C:SD CAR-コラーゲン、D:SD CAR-カゼインのXRPDディフラクトグラム。
図19】それぞれの共アモルファス製剤の作製の20か月後における、SD IND-WPI及びSD IND-WPHのXRPDディフラクトグラム。
【発明を実施するための形態】
【0065】
略語
BM、ボールミリング
CAR、カルベジロール
CEL、セレコキシブ
FUR、フロセミド
IDR、固有溶解速度
IND、インドメタシン
pI、等イオン点
LC-MS、液体クロマトグラフィ-質量分析
mDSC、変調示差走査熱量測定
Mw、分子量
PAR、パラセタモール
PM、物理的混合物
PVP、ポリビニルピロリドン
SD、噴霧乾燥
TGA、熱重量分析
UV Vis、紫外線分光光度分析
XRPD、X線粉末回折
WPH、乳清タンパク質加水分解物
WPI、乳清タンパク質分離物
【0066】
実験
材料
インドメタシン(IND)は、Hawkins,Inc.(ミネアポリス、ミネアポリス、米国)から購入した。カルベジロール(CAR)は、Cipla Ltd.(ムンバイ、インド)から、パラセタモール(PAR)は、Fagron(コペンハーゲン、デンマーク)から、フロセミド(FUR)は、Sigma-Aldrich(セントルイス、ミズーリ州、米国)から。これらの粉末はすべて試薬グレードであり、受け取ったままの状態で用いた。乳清タンパク質分離物(WPI)、乳清タンパク質加水分解物(WPH)、コメタンパク質分離物、ダイズタンパク質分離物、及び卵タンパク質分離物は、LSP Sporternahrung(ボン、ドイツ、www.lsp-sports.de)から購入した。ポリビニルピロリドン(PVP、Kollidon(登録商標)25)、ウシ乳由来のアルファ-ラクトアルブミン、及びベータ-ラクトグロブリンは、Sigma-Aldrich(シュネルドルフ、ドイツ)から受け取った。ウシ血清アルブミン(BSA)、セレコキシブ(CEL)、卵白アルブミン、コラーゲン、ゼラチン、ミオグロビン、リゾチーム、カゼイン、並びにブタ胃粘膜由来ペプシン及びウシ膵臓由来トリプシンは、Sigma-Aldrich(ブランビュー、デンマーク)から入手した。材料はすべて試薬グレードであり、受け取ったままの状態で用いた。
【0067】
方法
噴霧乾燥:
IND、CAR、PAR、CEL、及びFURとWPI又はWPHのいずれかとの物理的混合物(容器中でスパチュラを用いて一緒に混合された粉末)を、1:1の重量比で調製した。次に、この混合物を、LabWater(ロサンゼルス、カリフォルニア州、米国)製MilliQ水システムで新しく調製したmilliQ水(18.2MΩ、23.8℃)の250mlに溶解した。各対応する溶液の原薬-WPI/WPHの濃度は、4mg/mlであった。噴霧乾燥は、除湿装置(Buchi B296)を備えたBuchi B-290スプレードライヤー(Buchi Labortechnik AG、フラビル、スイス)を用いて行った。噴霧乾燥条件は、以下の通りとした:入口部温度:120℃;出口部温度:約62℃;霧化空気流速:667l/時間;乾燥空気流量(窒素):40m/時間、及びフィード流速:9ml/分。共アモルファス形態の溶解挙動をさらに試験するために、INDを、WPIの主成分(それぞれ、アルファ-ラクトアルブミン、ベータ-ラクトグロブリン、及びウシ血清アルブミン(BSA))と共に、及び酵素消化(それぞれ、トリプシン、ペプシン、トリプシンに続いてペプシン、及びペプシンに続いてトリプシン)を施したWPIと共に噴霧乾燥した。酵素消化は、各100mg WPIに対して1mgの酵素を用いて一晩行った。ペプシン消化は、pH8で行い、トリプシン消化は、pH3で行った。異なる特性のタンパク質との原薬の溶解挙動を分析するために、INDを、コメタンパク質分離物、卵タンパク質分離物、ダイズタンパク質分離物、卵白アルブミン、コラーゲン、ゼラチン、ミオグロビン、リゾチーム、及びカゼインと共に噴霧乾燥し、並びにCEL及びCARを、WPI、ミオグロビン、リゾチーム、コラーゲン、及びカゼインと共に噴霧乾燥した。
【0068】
ボールミリング:
噴霧乾燥によって得られる共アモルファス形態を、ボールミリングによって得られる共アモルファス形態と比較するために、IND、CAR、PAR、及びFURとWPI又はWPHのいずれかとの物理的混合物を、低温室(4℃)中でMixerMill MM400(Retsch GmbH & Co.、ハーン、ドイツ)を用いた振動ボールミリングに掛けた。ボールミリングによって得られる共アモルファス形態を、2個の12mmステンレス鋼ボールを入れた25mlミリング容器中に、1:1重量比(原薬-WPI/WPH)の合計質量700mgを投入することによって調製した。ミリングは、30Hzで、IND及びCARの場合は最大30分間にわたって、FUR及びPARの場合は最大60分間にわたって行った。
【0069】
固体形態の測定のためのX線粉末回折(XRPD):
原薬-WPI/WPH混合物の分子相互作用を、X’Pert PANanalytical PRO X線回折計(PANanalytical、アルメロ、オランダ)をCuKα線:1.54187Å、電流:40mA、及び加速電圧:45kVで用いたXRPDによって調べた。噴霧乾燥又はボールミリングのいずれかによって得た共アモルファス形態の各々を、反射モードを用いて、2°~35°の2θでスキャンした(スキャン速度0.067°2θ/秒及びステップサイズ0.026°)。収集したデータを、X’Pert PANanalytical Collectorソフトウェア(PANanalytical、アルメロ、オランダ)を用いて分析した。
【0070】
残留水分の測定のための熱重量分析:
熱重量分析は、TGA Discovery装置(TA Instruments、ニューキャッスル、米国)で行った。10mgのサンプルを、白金パンに入れ、フタで密封し、25から300℃まで、10℃/分で加熱した。得られた重量-温度のグラフを、Triosソフトウェア(TA Instruments、ニューキャッスル、米国)を用いて分析して、25から150℃での重量減少を算出した。
【0071】
Tg及びTmの測定のための変調示差走査熱量測定(mDSC):
熱分析は、Discovery DSC装置(TA Instruments、ニューキャッスル、米国)を用いて行った。約6~8mgに秤量した各サンプルを、アルミニウムパンに入れ、フタで密封した。装置の校正をインジウムで行い、次にサンプルを、40秒間の0.2120℃の振幅に掛けた。2℃/分の昇温速度を用いて-20℃から180℃の範囲内を測定した。各測定の間、50mL/分の一定窒素流速を適用した。ガラス転移温度(Tg)は、収集したデータをTriosソフトウェア(TA Instruments、ニューキャッスル、米国)を用いて分析し、サンプルの開始及び終了温度の中点の半値を見ることによって見出した。
【0072】
固有溶解速度:
固有溶解速度(IDR)は、液圧プレス(PerkinElmer、Hydraulische Presse Model IXB-102-9、ユーバーリンゲン、ドイツ)を用いて得た圧縮粉から特定した。純薬物のボールミング粉末、及び薬物-タンパク質混合物の噴霧乾燥粉末を圧縮して錠剤とした。150mgの錠剤を、固有溶解サンプルホルダーとして作用するステンレス鋼シリンダー中に、124.9MPaの圧力で45秒間直接圧入した。錠剤の圧入の結果、シリンダーの一方の端部が、表面積0.7854cmの平坦面となった。次に、これらのシリンダーを、900mlの0.1Mリン酸緩衝(pH7.2、37℃)溶解媒体中に入れ、50rpmの回転速度でマグネティックスターラーバーで撹拌した。所定の時間点で(1、5、10、15、20、25、及び30分、いくつかのIDRの特定は、20分までしか行わなかった)、5mlのアリコートを取り出し、溶解緩衝液で直ちに置き換えた。得られたサンプルを、次に、UV分光光度計を用いて分析した(以下を参照)。溶解実験はすべて3つの反復サンプルで行った。
【0073】
紫外線分光光度分析(UV Vis):
緩衝液中の各薬物の濃度は、Evolution 300 UV分光光度分析(Thermo Scientific,ケンブリッジ、英国)により、IND、CAR、PAR、CEL、及びFURに対して、それぞれ320nm、272nm、270nm、265nm、及び285nmで測定した。
【0074】
粉末溶解(USP II装置):
粉末溶解を、USP II型装置で行った。200mgの結晶IND、アモルファスIND、SD、IND-WPI、及び物理的混合物(PM)IND-WPIを、溶解媒体としてのpH7.2のリン酸緩衝液50ml(リン酸ナトリウム二塩基性七水和物及びリン酸ナトリウム一塩基性無水物)に添加して、3つの反復サンプルとした。溶解パドルを、50rpmで1時間回転させ、1、3、5、7、10、15、20、25、30、35、40、50、60、及び120分でサンプルを取り出した。5mlの各サンプルを取り出し、溶解媒体で置き換えた。媒体からの粉末を分離するために、サンプルを0.45μmのシリンジフィルター(Qmax、Frisinette ApS)でろ過し、吸着によるロスを最小限に抑えるために、最初の2mlを廃棄した。サンプルを、UV Visを用いて検査して、薬物濃度を分析した。
【0075】
安定性:
サンプルはすべて、デシケーター内でシリカゲル上(相対湿度0%)、室温で保存し、物理的安定性実験を、すべてのSDサンプルに対して行った。各サンプルを、第0日にXRPDによって分析し、続いてその後は、毎月1回行った。
【0076】
生体内薬物動態実験:
この実験は、Danish Animal Experiments Inspectorate(認可番号2014-15-0201-00031)によって認可された実験プロトコルの下で行った。この実験の目的は、(i)結晶FURの性能を、(ii)アモルファスFUR;(iii)物理的混合物FUR-WPI(50%FUR、50%WPI);(iv)SD PVP-WPI(75%PVP、25%FUR);(v)SD FUR-WPI(75%FUR、25%WPI);(vi)SD FUR-WPI(50%FUR、50%WPI);及び(vii)SD FUR-WPI(25%FUR、75%WPI)と比較して試験することであった。比率はすべて重量%である。SD、XRPD、DSC、及び固有溶解実験はすべて、セクション1.2で述べたものと同じ条件を用いて行った。
【0077】
この実験では、体重250~348gの雄の7週齢スプラーグドーリーラット(Charles River、デンマーク)を用いた。動物は、水及び餌を自由摂取可能とし、制御された環境条件下で飼育した(12時間の明暗サイクルで、一定の温度及び湿度)。動物はすべて、薬物投与前の約12時間の間、空腹状態とした。ラットを、無作為に8つの群に振り分け(各々6~8体のラットから成る)、尾静脈注射によって生理食塩水中のFURを1.5mg/ラット(約5mg/kg)で静脈内投与された群を含む。残りの7群には、2.5mmの錠剤厚さのサイズの経口強制投与を用いて経口投与した。各錠剤は、ラットあたり4.5mgのFURの用量であり、これは、約15mg/kgに等しい。0.25、0.5、1、2、4、及び24時間後に、血液サンプル(0.2ml)を、尾への穿刺により尾静脈から採取した。これらの血液サンプルは、EDTAコーティングチューブに採取、保存し、その後、血漿を、3600g(12分間、4℃)での遠心分離によって回収し、マイクロチューブに移した。血漿サンプルは、さらなる分析に用いるまで、-80℃で保存した。薬物投与の約8時間後に餌をラットに与えた。水は、実験の全期間にわたって、ラットが自由摂取可能とした。
【0078】
液体クロマトグラフィ-質量分析(LC-MS)による血漿サンプルの定量分析:
血漿サンプル中のフロセミド含有量を、30μlの血漿に300μlのアセトニトリルを添加してタンパク質を析出させることによって評価した。30μlのフェノフィブル酸(FA)から成る内標準も、各サンプルに添加した。これらの最終混合物を、次に、8000rpmで10分間遠心分離した(室温)。遠心分離後、上清を注意深くLC-MSプレートに移し、6140四重極検出器を備えたAgilent technologies 1200システムを用いてLC-MSを行った。クロマトグラフィによる分離は、Agilent Zorbax XDB-C18カラム(2.1×50mm、3.5μm)を用いて行った。サンプルは、milliQ水中の0.04%氷酢酸(溶媒A)及びアセトニトリル(溶媒B)の勾配混合物により、0.5mL/分の流速で溶出した。各勾配プログラムは:0~8分、15%溶媒B;8~10分、15%~80%溶媒B;10~11分、80%溶媒B;11~11.10分、80%~15%溶媒B;11.10~14分、15%溶媒B。オートサンプラー温度は、8℃に維持し、各注入サンプルの体積は、5μlに設定した。LC-MS法は、霧化を補助するための窒素の存在下で行った。
【0079】
薬物動態分析:
時間に対する血漿中濃度の曲線下面積(AUC)を、時間t=0分からt=1440分(最終血漿中濃度)までの線形対数台形法によって特定した。AUCを用いて、絶対生体利用度(F)を算出した:
【数1】
数式中、P.O.は、経口送達を表し、I.V.は、静脈内投与の場合である。最大FUR血漿中濃度のCmaxも特定した。
【実施例0080】
例1:噴霧乾燥原薬-WPI/WPHのX線粉末回折
XRPDを用いて、すべてのサンプルに対してアモルファス(XRPDにおけるハロー構造-ディフラクトグラムにブラッグピークなし)又は結晶相(ディフラクトグラムに明確なピーク)を分析した。図1は、各場合においてアモルファスのハローの出現を示しており、すべての薬物-WPI/WPH混合物のアモルファス化が成功したことを示している。
【0081】
図10は、INDと、それぞれコメタンパク質分離物、ダイズタンパク質分離物、卵タンパク質分離物、コラーゲン、ゼラチン、ミオグロビン、リゾチーム、及びカゼインとが共アモルファス形態であった実験におけるアモルファスのハローの出現を示している。図は、すべての場合においてアモルファス化が成功したことを明らかに示している。これに加えて、図12は、INDと卵白アルブミン、並びにCELとミオグロビン、リゾチーム、カゼイン、コラーゲン、及びWPIとの場合のハロー構造を示しており、共アモルファス製剤の形成が確認される。図18におけるCARとミオグロビン、リゾチーム、カゼイン、コラーゲンとの場合のハロー構造からも、共アモルファス製剤であることが確認される。
【0082】
例2:噴霧乾燥原薬-タンパク質混合物の熱分析
TGAから、すべてのアモルファス薬物及びSD原薬-タンパク質混合物における残留水分含有量が、3.2~8.3%であることが確認された。詳細な結果については、表1a及び1bを参照されたい。
【0083】
【表1a】
【0084】
【表1b】
【0085】
各SD原薬-タンパク質混合物は、単一のTg(ガラス転移温度)を示し、このことは、単相の共アモルファス系が得られたことを示している。共アモルファス混合物はすべて、アモルファス薬物単独と比較してTg値の上昇を示し、このことは、混合物中での混和性がより良好であることを示している。
【0086】
例3:異なる形態のINDの固有溶解速度
図2に示されるように、アモルファスボールミリングINDの固有溶解速度(IDR)(0.1333mg・cm-2・分-1)は、結晶INDのIDR(0.0787mg・cm-2・分-1)よりも1.7倍高い。これと比較して、共アモルファスIND-WPI及びIND-WPH混合物の場合、非常により大きいIDRの増加が観察された。噴霧乾燥IND-WPIの場合(1.494mg・cm-2・分-1)、結晶INDと比較すると、溶解速度は19倍の増加であり、ボールミリングアモルファスINDと比較すると、11倍の増加である。噴霧乾燥IND-WPHの場合(1.3066mg・cm-2・分-1)、結晶INDからは4倍の増加であり、ボールミリングアモルファスINDからは約2倍の増加である。また、噴霧乾燥IND-WPIの溶解の増加は、噴霧乾燥IND-WPHと比較した場合、1倍である。該当する直線式及び固有溶解速度については、表2aを参照されたい。さらに、表2bは、共アモルファス混合物に対するさらなる直線式及び固有溶解速度を示す。
【0087】
【表2a】
【0088】
【表2b】
【0089】
図11(i)及び(ii)は、INDと様々なタンパク質との共アモルファス形態における固有溶解速度(IDR)を示し、この場合、共アモルファス形態は、噴霧乾燥によって調製されている。噴霧乾燥IND-WPI(1.494mg・cm-2・分-1)は、結晶INDと比較すると、溶解速度が19倍増加しており、ボールミリングアモルファスINDと比較すると、11倍の増加である。噴霧乾燥IND-WPHの場合(1.3066mg・cm-2・分-1)、結晶INDからは4倍の増加であり、ボールミリングアモルファスINDからは約2倍の増加である。また、噴霧乾燥IND-WPIの溶解速度の増加は、噴霧乾燥IND-WPHと比較した場合、1倍である。SD IND-卵白アルブミン、SD IND-ゼラチン、SD IND リゾチーム、SD IND-ミオグロビン、SD IND-コラーゲン、及びSD IND-カゼインの溶解速度は、それぞれ、C INDよりも3.5、7.9、13.5、11.6、3.7、2.8倍高く、A INDよりも2、4.7、8、6.8、2.2、1.7倍高い。一方、SD IND-卵、SD IND-コメ、及びSD IND-ダイズは、C INDよりも4.5、2.5、2.3倍高く、A INDよりも2.6、1.5、1.4倍高い。
【0090】
タンパク質は、その等イオン点(pI)、両性イオン分子が等しい数の正電荷及び負電荷を有するpH値、に基づいて、酸性薬物IND(pKa:4.5)、中性薬物CEL(pKa:11.1)、及び塩基性薬物CAR(pKa:7.8)とのペアとし、続いて、固有溶解速度(IDR)を特定した(図13(i)、13(ii)、13(iii))。リゾチーム、ミオグロビン、コラーゲン、及びカゼインのpIは、それぞれ、10.7、7.4、5.8、及び4.6である。WPIのpIは、約5であり、それは、WPIが、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、及びBSAの混合物であり、これらがそれぞれ、5.0、5.2、及び5.2のpIを有するからである。INDとの共アモルファス混合物の場合、SD IND-リゾチーム(1.0676mg・cm-2・分-1)が最も高いIDRを有し、続いてSD IND-ミオグロビン(0.9113mg・cm-2・分-1)、SD IND-コラーゲン(0.2924mg・cm-2・分-1)、及びSD IND-カゼイン(0.2224mg・cm-2・分-1)であった。このことは、pH7.2において、負に帯電したINDが、高いpIを有するコフォーマータンパク質とのペアとされた場合に、より高いIDRを実現することを示しており、負に帯電したINDと正味の正電荷を有するタンパク質との間の静電引力が、溶解速度に良好な影響を有することを示すものである。
【0091】
pH7.2で正に帯電するCARの場合にも、同様のパターンが見出され、共アモルファス混合物の形成に用いたタンパク質のpIの低下と共に高くなるIDRを示した。SD CAR-カゼイン(0.1925mg・cm-2・分-1)、SD CAR-コラーゲン(0.1694mg・cm-2・分-1)、及びSD CAR-WPI(0.1948mg・cm-2・分-1)は、正味の正電荷を有するタンパク質、リゾチーム及びミオグロビンと混合されたCARと比較して、より高いIDRを示した。SD CAR-カゼインは、SD CAR-リゾチーム(0.0737mg・cm-2・分-1)よりも2.6倍高く、SD CAR-ミオグロビン(0.092mg・cm-2・分-1)よりも2.1倍高く、一方SD CAR-コラーゲンは、SD CAR-リゾチーム及びSD CAR-ミオグロビンよりも、それぞれ2.3倍及び1.8倍高かった。このことは、薬物分子とコフォーマータンパク質との間の静電引力が、静電反発力と比較して、得られるIDRに対して良好な影響を有することを示唆している。興味深いことに、pH7.2で中性であるCELも、正味の負電荷を有するタンパク質をコフォーマーとして組み合わせた場合、より高いIDRを示した。SD CEL-カゼイン(0.9714mg・cm-2・分-1)が最も高いIDRを示し、続いてSD CEL-コラーゲン(0.6629mg・cm-2・分-1)、SD CEL-ミオグロビン(0.2628mg・cm-2・分-1)、及びSD CEL-リゾチーム(0.2019mg・cm-2・分-1)であった。これは、pH7.2での中性電荷、及びCELの他のさらなる特性に起因するものであり得る。
【0092】
すべての場合において、WPIをコフォーマーとして用いた場合、IDRは、pIに関わらず、及び薬物の性質(酸性、塩基性、又は中性)とも独立して、他のタンパク質で観察されたものよりも高いことが見出された。異なる電荷を有する薬物のIDRと異なる正味の電荷を有するタンパク質との間の相関をさらに視覚化するために、異なる薬物-タンパク質の組み合わせのIDRを、タンパク質のpIに対してプロットした(図15i~iii)。タンパク質のpIと共アモルファス混合物の得られたIDRとの間には、INDとのコフォーマーとして用いられた場合のWPI以外は、良好な相関が存在する。このことは、WPIの組成及び特性によって説明され得る。述べたように、WPIは、複数のタンパク質の混合物から成っており、その結果、単一のタンパク質及び薬物から成る共アモルファス混合物と比較して、得られる共アモルファス混合物の不均質性が高くなり得る。このことは、薬物の溶解速度に良好な効果を有し得る。さらに、WPIのタンパク質のある特定の特性が、薬物分子との安定な相互作用を形成するのにそれらを特に好適としており、それによって、薬物の溶解速度が高められる結果となっているものと考えられる。
【0093】
図14(i)は、複数のタンパク質を一緒にした混合物を表すWPI及び他のタンパク質と共に噴霧乾燥したINDの共アモルファス形態を示す。卵タンパク質分離物(卵)は、主として卵白アルブミン、オボムコイド、オボムチン、及びリゾチームから成る混合物であり、一方コメタンパク質分離物(コメ)は、グルテニン、グロブリン、アルブミン、及びプロラミンから成る。他方、ダイズタンパク質分離物(ダイズ)は、球状タンパク質、コングリシニン及びグリシニンの混合物であり、ゼラチンは、本質的に変性された加水分解コラーゲンである。SD IND-卵のIDRは、SD IND-ダイズの1.9倍高く、SD IND-コメの1.8倍高いことが見出された。さらに、SD IND-ゼラチンは、SD IND-卵よりも1.8倍高い固有溶解を示した。すべてのIND-タンパク質混合物のなかで、ここでもSD IND-WPIが最も高い固有溶解を示し、SD IND-ゼラチンの2.4倍高かった。全体として、SD IND-WPIが最も高い溶解速度を有し、続いてSD IND-ゼラチン、SD IND-卵、SD IND-コメ、及びSD IND-ダイズであった。図17は、これらのタンパク質の等イオン点(pI)が、観察されたIDRとの直接の相関を有していなかったことを示しており、それは、これらのタンパク質が、複数の他のタンパク質の組み合わせであったことに起因する可能性が最も高い。しかし、SD IND-WPIは、最も高い溶解速度を有していた。WPIを構成する各タンパク質、特にα-ラクトアルブミンは、単独で薬物分子と用いられた場合(表2a)、比較的高いIDRを示し、WPIとして混合された場合は、さらにより高いIDRという結果であった。SD IND-ゼラチンも、多くの他のタンパク質と比較して、高い溶解速度を示したが、SD IND-WPI及びSD IND-WPHの両方は、それよりも高い溶解速度という結果であった。
【0094】
図14(ii)は、コフォーマータンパク質が、その分子量(Mw)に基づいて選択されたSD IND-タンパク質共アモルファス混合物を示しており、BSAが最も高いMw(約66500)を有し、続いて卵白アルブミン(約45000)、カゼイン(約23000)、そしてWPI(約15000)である。これらの4つのタンパク質、BSA、卵白アルブミン、カゼイン、及びWPIは、それぞれ、5.2、4.8、4.6、及び約5という類似のpIも有する。興味深いことに、SD IND-BSAの溶解速度は、比較的類似していたとは言え、SD IND-卵白アルブミンの約1.05倍高く、SD IND-カゼインの1.3倍高いことが見出された。このことは、タンパク質のMwが、共アモルファス混合物の得られる溶解速度に僅かな影響を有することを示唆し得るものであり、恐らくは、高Mwタンパク質と形成される相互作用の高い多様性に起因する。図16(i)も、この傾向を示している。ここでもやはり、SD IND-WPIは孤立値であり、そのより低いMwにも関わらず、より高いIDRという結果であった。
【0095】
例3:異なる形態のCAR、PAR、及びFURの固有溶解速度
図3は、異なる形態のCAR(図3A)、PAR(図3B)、及びFUR(図3C)のIDRを示す。該当する直線式については、表2を参照されたい。
【0096】
図3は、ボールミリングアモルファスCAR(0.0214mg・cm-2・分-1)、PAR(0.201mg・cm-2・分-1)、及びFUR(0.514mg・cm-2・分-1)のIDRが、結晶CAR(0.0117mg・cm-2・分-1)、PAR(0.1632mg・cm-2・分-1)、及び(0.1024mg・cm-2・分-1)よりも、それぞれ、1.8、1.2、及び1.5倍高いことを示している。
【0097】
さらに、共アモルファス原薬-WPI/WPH混合物のIDRが大きく増加している。噴霧乾燥(SD)CAR-WPI及びSD CAR-WPHのIDR(それぞれ、0.194mg・cm-2・分-1及び0.0794mg・cm-2・分-1)は、結晶CARと比較して、ほぼ17倍(WPI)及び7倍(WPH)の増加を示し、ボールミリングアモルファスCARと比較して、9倍(WPI)及び3.7倍(WPH)の増加を示している。
【0098】
SD PAR-WPI及びSD PAR-WPHの場合(0.5433mg・cm-2・分-1及び0.4664mg・cm-2・分-1)、結晶PARと比較して、3.3倍(WPI)及び2.8倍(WPH)の溶解速度の増加であり、個別のボールミリングアモルファスPARと比較して、2.7倍(WPI)及び2.3倍(WPH)の増加である。
【0099】
SD FUR-WPI及びSD FUR-WPHでは(0.4115mg・cm-2・分-1及び0.2359mg・cm-2・分-1)、結晶FURと比較した場合、4倍(WPI)及び2.3倍(WPH)の溶解速度の増加が観察され、単独のアモルファス(BM)FURと比較して、2.6倍(WPI)及び1.5倍(WPH)の増加であった。図2及び3から、噴霧乾燥薬物-WPI混合物が、その結晶又はアモルファス対応物と比較した場合、最も高い溶解速度を有するものと結論付けることができる。
【0100】
例4:異なるWPI成分とのアモルファスINDの固有溶解速度
図4は、WPIのIDR(3.8317mg・cm-2・分-1)が、その成分であるα-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、及びBSAよりも、それぞれ3.4、11、及び13.4倍高いことを示している。SD IND-WPIは、トリプシンを用いたSD IND-WPIよりも6倍高く、ペプシンを用いたSD IND-WPIよりも13.2倍高く、トリプシン+ペプシン(トリプシンを先に添加)を用いたSD IND-WPIよりも6.6倍多い。SD IND-WPIは、ペプシン+トリプシン(ペプシンを先に添加)を用いたSD IND-WPIよりも1.25倍高い。したがって、未処理天然形態のWPIが、酵素消化を行った共アモルファス形態と比較した場合、最も高い溶解速度を提供するものと結論付けることができる。
【0101】
例5:粉末溶解実験
図5に示されるように、共アモルファスSD IND-WPIが、BM IND-WPIと比較してより高い溶解速度を示すことが分かる。アモルファスIND単独では、PM IND-WPIよりも多い溶解を示している。アモルファス状態のINDの溶解性は、結晶INDの値の2倍を超えている。これは、ギブス自由エネルギーがより高いために、アモルファス形態の化合物の溶解性が、より安定な結晶形態よりも高いことに起因している。アモルファス薬物単独からの溶解速度のこの増加は、共アモルファス化による分子相互作用の増加に起因する。
【0102】
例6:安定性実験
図6は、それぞれIND、CAR、FUR、及びPARとのWPI及びWPHの共アモルファス形態の物理的安定性を示す。アモルファスIND、CAR、FUR、及びPARは、XRPDから、再結晶によって示される1週間未満の安定性であることが見出された。対照的に、共アモルファス噴霧乾燥原薬-タンパク質混合物は、数ヶ月間にわたって安定であることが見出された。SD IND-WPI及びSD IND-WPHは、20ヶ月間を超えて安定であることが見出され(図19)、一方、例えばSD IND-ゼラチン、SD IND-BSA、及びSD IND-コラーゲンなどのほとんどの他のSD IND-タンパク質共アモルファス形態は(詳細な安定性実験については以下の表3を参照)、2~3ヶ月間安定であるだけであった。薬物CAR及びFURとのWPI及びWPHの共アモルファス製剤も、それぞれ、最大で8ヶ月間及び18ヶ月間安定であった。SD CEL-WPIの共アモルファス形態も、8ヶ月間を超えて安定であった。したがって、WPI及びWPHは、実験したすべての薬物において、最良の安定化特性を有する共アモルファス混合物のためのタンパク質でありコフォーマーであった。それはまた、より高い薬物濃度(薬物ロード量)であっても、PVP(アモルファス製剤に対して一般的に用いられるコフォーマー)及び薬物を用いて調製した固体分散体よりも安定であった。このことは、WPI及びWPHが、溶解性の乏しい薬物と組み合わされて共アモルファス混合物又は固体分散体を形成した場合の溶解に関して、他のタンパク質及びタンパク質混合物と比較してより優れて機能するというだけではないことを示している。それらは、物理的安定性に関しても、他のタンパク質及びタンパク質混合物と比較してより優れて機能しており、数倍の安定性の増加がWPI及びWPHにおいて観察された。
【0103】
【表3】
【0104】
例7:生体内実験
図7は、FUR及びWPIの共アモルファス(噴霧乾燥)形態の、ラットへの経口投与後の生体利用度を示す。SD WPI:FUR(75% WPI、25% FUR)が、最も高い生体利用度(11.4%)を示し、それに近接して続いてSD WPI:FUR(50% WPI、50% FUR)(11.3%)及びSD WPI:FUR(25% WPI、75% FUR)(10.6%)であった。このことは、生体利用度が、WPI含有量の増加と共に増加することを示している。SD WPI:FURサンプルの生体利用度は、SD PVP:FUR(6.3%)及び物理的混合物よりも著しく高かった。結晶FURは、予想通りに最も低い生体利用度を示し(4.7%)、続いてアモルファスFUR(5.1%)であり、これらはいずれも、SD WPI:FURサンプルよりも著しく低かった。WPIとFURとの比は、FURの含有量を一定に保持した状態で、WPIの含有量を変化させることによって変動させた。
【0105】
図8は、ラットへの経口投与後の最大濃度(Cmax)を示す。Cmax値のパターンは、生体利用度の結果と一致していた。共アモルファス中のWPIの量の増加は、Cmaxレベルの上昇という結果をもたらした。
【0106】
例8:生体内実験に用いた化合物の固有溶解速度
図9は、生体内実験に用いた組成物のIDRを示す。SD WPI-FUR(75% WPI、25% FUR)のIDRは、最も高い溶解速度であることが見出された。それは、結晶FURよりも5.67倍高く、アモルファスFURよりも3.7倍高かった。続いては、SD WPI-FUR(50% WPI、50% FUR)であり、結晶よりも4倍多く、アモルファスFURよりも2.6倍多かった。興味深いことに、従来から用いられていたSD PVP/FUR(75% PVP、25% FUR)の高さは、SD WPI-FUR(25% WPI、75% FUR)の1倍でしかないことが見出された。アモルファスFURの高さは、PM WPI-FUR(50% WPI、50% FUR)の0.69倍であった。該当する直線式については、表4を参照されたい。
【0107】
【表4】
【0108】
全体的結論:
上記の例から、様々なタンパク質、特にWPIが、結晶原薬の共アモルファス化のための有望な新規の賦形剤であると結論付けることができる。薬物IND、CAR、FUR、PAR、及びCELの共アモルファス形態は、原薬の結晶又は単独アモルファスの形態と比較して、しかし最も特筆すべきは、溶解性に乏しい原薬の溶解速度及び溶解性を改善するために開発された他の競合技術と比較しても、著しく高い溶解速度を示す。単独アモルファス原薬及び固体分散体(PVPと共に)及び物理的混合物と比較して改善された生体利用度及びPKプロファイルも、WPIとのすべての製剤で観察された。さらに、共アモルファス原薬-WPIの形態は、その単独アモルファスの対応物と比較して、物理的安定性の増加も示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【手続補正書】
【提出日】2022-12-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書及び図面に記載の通りの発明。
【外国語明細書】