(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168473
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】高周波プラズマCVD装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/26 20060101AFI20231116BHJP
C23C 16/517 20060101ALI20231116BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20231116BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C23C16/26
C23C16/517
H01L21/205
H05H1/46 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023171779
(22)【出願日】2023-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】303034908
【氏名又は名称】村田 正義
(72)【発明者】
【氏名】村田正義
(57)【要約】
【課題】
ダイヤモンド及びグラフェン等の炭素系薄膜材料は、新規電子デバイス創出のための新しい半導体材料として注目され、その製造方法として、マイクロ波プラズマ法及び熱フィラメント法等が開発されている。しかしながら、前者はイオン損傷の抑制、後者は成膜速度の増大化等が課題である。この課題を解決可能な輻射加熱兼用熱電子発生電極を備えた超高周波プラズマCVD装置を提供すること。
【解決手段】
基板を輻射加熱し、且つ熱電子を発生する輻射加熱兼用熱電子発生電極と、石英窓と直径0.2mm~1mmの高い開口率を有する原料ガス噴出孔を備えた高周波プラズマ発生電極を備え、放射温度計で前記高周波プラズマ発生電極を介して前記基板と前記輻射加熱兼用熱電子発生電極の温度を測定制御し、炭素含有原料ガスをプラズマ化して、ダイヤモンド又はグラフェン等の炭素系薄膜を形成することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも炭素含有ガスと水素ガス(H2)を含む原料ガスの供給系及び排気系を備えた反応容器と、前記反応容器の内部に配置されて基板を保持する主面を有し、且つ前記基板の温度を制御する冷媒を用いた基板冷却手段を備えた基板保持台と、前記基板保持台の前記主面に対向して配置されて輻射熱と熱電子を発生する輻射加熱兼用熱電子発生電極と、前記輻射加熱兼用熱電子発生電極に直流電力を供給する直流電源と、前記輻射加熱兼用熱電子発生電極に対向して配置されて前記原料ガスをプラズマ化する高周波プラズマ発生電極と、前記高周波プラズマ発生電極にインピーダンス整合器を介して高周波電力を供給する高周波電源と、を具備した高周波プラズマCVD装置であって、
前記輻射加熱兼用熱電子発生電極の発熱部は、仕事関数φが低い材料であるタングステン又はタンタル又はタンタルを含む合金で形成され、
前記高周波電源は、VHF帯域(30MHz~300MHz)から選ばれる周波数の電力を発生するとともに、
前記高周波プラズマ発生電極は、金属材を用いて内部に空洞を有する箱型に形成され、前記箱型の高周波プラズマ発生電極は前記反応容器の壁に電気絶縁材を介して貫通して固定され、前記箱型の高周波プラズマ発生電極の前記輻射加熱兼用熱電子発生電極に対向しない面に前記高周波電源の電力が供給される給電点と前記原料ガスの導入口を備え、前記箱型の前記高周波プラズマ発生電極の大気に接する面に赤外線を透過する石英窓が配置され、前記箱型の前記高周波プラズマ発生電極の前記輻射加熱兼用熱電子発生電極に対向する面に直径が0.3mm~1.0mmで、開口率が30%~90%である多数の前記原料ガスの噴出孔が配置され、前記石英窓及び前記原料ガスの噴出孔を通して、前記反応容器の外部に配置された放射温度計により前記基板の温度及び前記輻射加熱兼用熱電子発生電極の温度が測定されることを特徴とする高周波プラズマCVD装置。
【請求項2】
前記炭素含有ガスは、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)、エチレン(C2H4)、プロピレン(C3H6)及びアセチレン(C2H2)から選ばれる少なくとも1種を含むガスであることを特徴とする請求項1に記載の高周波プラズマCVD装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波プラズマCVD装置に関する。特に、炭素系薄膜形成のための、輻射加熱兼用熱電子発生電極とVHF帯域(30MHz~300MHz)の高周波プラズマ発生電極を用いた高周波プラズマCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、グラフェン及びダイヤモンド等の炭素系薄膜が注目されている。
グラフェンは、炭素原子がハニカム状に、二次元平面に隙間なく結合してsp2混成軌道を有する構造を持つ結晶である。グラフェンは、電気的、機械的、光学的に優れた特性を有し、熱的、化学的にも安定している材料であることから、多くの産業分野においてその実用化が期待されている。
グラフェンの製造方法は、機械的剥離法、化学気相成長法(CVD法)、SiC熱分解法、及びプラズマCVD法等の方法が提案され、更なる発展を目指して鋭意、研究開発が進められている。上記製造方法において、グラフェンの電子デバイスへの応用の観点から最も期待される方法に、プラズマCVD法が挙げられる。プラズマCVD法は、例えば、非特許文献1及び特許文献1に記載されているように、CH4やC2H4等の炭素含有ガスと水素ガス(H2)の混合ガスをプラズマ化することにより、大面積基板にグラフェンを形成することが可能という特長を有する方法である。しかしながら、プラズマCVD法は、例えば、非特許文献1及び特許文献1に記載されているように、原料ガスをプラズマ化する際に、該プラズマの高エネルギーイオンが基板に損傷を与えることから、高品質のグラフェン形成は困難である。即ち、プラズマCVD法によるグラフェン形成装置には、イオンダメージの抑制という困難な課題がある。
この課題を解決するために提案された方法の一つに、例えば、特許文献1に記載の方法がある。特許文献1に記載のマイクロ波によるグラフェン膜形成方法は、圧力1Torr以上、かつ基材温度500℃以下で、基材の表面にマイクロ波プラズマ生成して層数が1~2のグラフェン膜を形成するグラフェンの成膜方法であって、ノズルから炭素系ガスを含む原料ガスを前記基材表面に吹き出しながら、前記ノズルの内部及び/又はノズルの端又は周辺にマイクロ波を印加することにより、前記原料ガスからラジカルを含むプラズマを生成するとともに、前記原料ガスの流速を制御して、前記ラジカルを前記基材の表面に強制拡散させる工程を含み、前記工程の処理時間に関係なくグラフェン膜の層数が1~2層で成長が止まる自己成長停止の成長条件下で作製すること、を特徴とする。
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、マイクロ波伝播線路が細長いスリット形状であるため、プラズマは細長いスリット状に生成される。その結果、細長いスリット状プラズマの特長を生かしたロールツーロール方式によるグラフェン形成への応用等に限定される、という短所がある。
【0003】
ダイヤモンドは、例えば、非特許文献2、非特許文献3及び特許文献2に記載されているように、ワイドギャップ半導体として知られ、SiやSiC等の半導体より遙かに優れた特性を有することから、究極のパワー半導体材料として注目されている。そして、パワー半導体材料への応用を図るために、4~5インチ級の基板への対応が可能な、大面積のダイヤモンド形成装置及び方法に関し、鋭意、研究開発が進められている。
パワー半導体材料としてのダイヤモンドを形成する方法には、主として、マイクロ波プラズマCVD法と熱フィラメントCVD法があることが知られている。また、一般に次のことが知られている。即ち、該CVD法において、基板にダイヤモンドを用いる場合には、ホモエピタキシャル成長によりダイヤモンドが形成され、不純物を容易に制御可能で、かつ歪みのない結晶を形成することができる。また、基板がダイヤモンド以外の場合、ヘテロエピタキシャル成長によりダイヤモンドが形成されるので、歪みの発生を伴い、かつ結晶性が低下することがある。
【0004】
ダイヤモンド形成に用いられるマイクロ波プラズマCVD法は、例えば、特許文献2に記載されているように、基板の加熱と原料ガスの分解にマイクロ波を用いることを特徴とする。即ち、マイクロ波を用いて原料ガスであるメタン(CH4)と水素(H2)の混合ガスをプラズマ化することにより、該プラズマ中に生成される電子及びイオン等によってダイヤモンド膜の形成に不可欠の主要ラジカルであるCH3ラジカルと原子状水素H等を発生させるとともに、前記マイクロ波を用いて基板上でのプラズマ化学反応促進に必要な基板温度を、約700℃~約1,00℃に加熱する。基板上に形成されるダイヤモンドは、CH3ラジカル等を主たる前駆体とし、基板に化学吸着して、基板上で原子状H等によって水素成分やグラファイト成分が排除されて、ダイヤモンド結晶が成長する。
なお、特許文献2に記載されているダイヤモンド形成装置は、 基板の表面にダイヤモンド膜を形成するダイヤモンド合成用CVD装置であって、扁平なドーム形状を有する上半球面と扁平なドーム形状を有する下半球面とで構成された放電室と、前記下半球面を貫通して前記放電室の中心軸線に沿って延在し、前記放電室の内部へマイクロ波を供給する同軸アンテナ部材と、前記放電室内で、前記同軸アンテナ部材の先端部に取り付けられ、前記放電室の最大直径面に沿って前記中心軸線と同心に拡がった円盤状の共振アンテナと、円形外周を有し、前記共振アンテナの上面の中央に前記中心軸線と同心に配置された、前記基板が載置される載置台と、を備えることを特徴とする。
しかしながら、上記ダイヤモンドのパワー半導体材料の形成への応用の観点で見ると、マイクロ波プラズマCVD法は、例えば、非特許文献2、非特許文献3及び特許文献3に記載されているように、一般にダイヤモンド成長速度は1~10μm/hと比較的高いが、マイクロ波の波長が短いことに起因する均一プラズマ生成領域の広さに制限があり、成膜可能な面積がλ/8~λ/10程度(λ:波長)と小さく、4~5インチ級の基板への対応の必須条件である大面積化が困難である、という課題がある。周波数2.45GHzの場合、高密度プラズマ中の波長λは、真空中の波長λ0(122mm)x波長短縮率(例えば、0.65)=79.3mmであり、均一な高密度プラズマ生成領域を、例えば、λ/8~λ/10程度と見積もると、成膜可能な面積は、直径約8~10mm程度である。
なお、マイクロ波プラズマにおいて、大面積基板への対応が可能である石英窓を用いる表面波プラズマは、該表面波プラズマにより該石英窓がエッチングされて酸素原子やシリコン原子が放出することから、酸素原子等の不純物混入を忌避する電子デバイスへの応用には、不適であることが知られている。
【0005】
熱フィラメントCVD法は、基板の加熱に輻射熱を用い、原料ガスの分解に熱フィラメントから放出される熱電子及び紫外線等を用いることを特徴とする。即ち、基板の直上数mm~10mm程度の位置に、高温のフィラメント(約1,000℃~2,400℃)を設置し、高温度のフィラメントから放出される熱電子及び紫外線等によって原料ガスである水素(H2)とメタン(CH4)の混合ガスを分解し、ダイヤモンド膜の形成に不可欠の主要ラジカルであるCH3ラジカル等と原子状水素H等を発生させる。ダイヤモンドは、CH3ラジカル等を主たる前駆体とし、基板に化学吸着しつつ、基板上で原子状H等によって水素成分やグラファイト成分が排除されて、ダイヤモンド結晶が形成される。基板の温度は、一般に、約700~約1,000℃に設定される。
しかしながら、上記究極のパワー半導体材料の形成への応用の観点で見ると、熱フィラメントCVD法は、例えば、非特許文献2及び特許文献3に記載されているように、製膜速度が、一般に1.5~2.0μm/hと低速であることから、マイクロ波プラズマCVD法と同じレベルの高速製膜の実現が課題である。また、パワー半導体材料への応用を図るには、4~5インチ級の基板への対応が可能な大面積化が課題である。
【0006】
熱フィラメントCVDによるダイヤモンド形成装置に関する代表的特許技術として、例えば、特許文献3が挙げられる。
特許文献3には、熱フィラメント法を用いたダイヤモンド形成装置に関し、以下に示す主旨の記述がある。
即ち、熱フィラメントCVDは、成膜室に供給した原料ガスを高温フィラメントにて熱分解し、化学反応を誘導する成膜方法であり、構造が簡単で安価であるとともに、成膜面積を大きくすることができる。しかしながら、従来の熱フィラメントCVDは、上記プラズマCVDより成膜の成長速度が低いという課題があった。
この課題を解決する熱フィラメントCVD装置として、特許文献3に記載の装置は、成膜室と、前記成膜室内に配置された、基板を載置するための基板ホルダー及び2,500℃以上に加熱されるためのフィラメント層と、前記成膜室内に原料ガス及びキャリアガスを供給するためのガス供給手段と、前記成膜室内からガスを排気するための排気手段とを備え、前記フィラメント層は1~10mmの間隔を隔てて複数段に配置され、前記複数段に配置されたそれぞれのフィラメント層は、線径0.1~1.0mmのタンタル又はその合金からなる線材が3~30mmの間隔で複数本配置されていることを特徴とする。
また、特許文献3に記載の熱フィラメントCVD装置は、熱電子発生量(熱電子放出量)を増大させる手段として、熱フィラメントの材料にタンタル(Ta)を用い、且つ該熱フィラメントの温度を2,500℃以上に加熱し、且つ前記熱フィラメントを多段に配置することを特徴とする。
特許文献3に記載の熱フィラメントCVD装置に関する実施例に、以下に示す主旨の記述がある。
(1)フィラメントの線径は0.1~1.0mmの範囲、好ましくは0.1~0.3mmの範囲がよい。
(2)1つのフィラメント層を形成するフィラメントの間隔は3~30mm、好ましくは5~15mmの範囲である。
(3)一段目のフィラメント層と二段目のフィラメント層の間隔は1mm~10cm、好ましくは1~10mmの範囲である。
(4)フィラメントの材質は、2,400℃以上の高温に耐えられるものであれば、各種材質を用いることができる。例えば、タングステン、タンタル等であり、これらはその合金又は炭化物等の化合物であってもよい。タンタルが好ましい。
【0007】
他方、例えば、特許文献4及び特許文献5に見られるように、電源の周波数がVHF帯域(30~300MHz)であるVHFプラズマCVDによるダイヤモンド形成装置が提案されている。
特許文献4に記載のVHFプラズマCVDによるダイヤモンド形成装置は、対向電極型容量性放電にプラズマを用いるプラズマCVD法によりダイヤモンドを合成するに際し、超短波域(30~300MHz)の電力を用いることを特徴とする。
特許文献5に記載のVHFプラズマCVDによるダイヤモンド形成装置は、高周波プラズマCVD法によるダイヤモンド膜の形成方法において、誘導結合型プラズマCVD法を用い、かつ高周波周波数を40~250MHzとして、炭素を含有する原料ガスを分解し、基体上にダイヤモンド膜を形成することを特徴とする。
しかしながら、基板温度を約700~約1,000℃に制御可能で、イオンダメージが抑制され、高品質のダイヤモンドを形成可能なVHFプラズマCVDによるダイヤモンド形成装置は、依然として開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許6661189
【特許文献2】特許7304280
【特許文献3】特許7012304
【特許文献4】特公平07-042197
【特許文献5】特開平08-027576
【0009】
【非特許文献1】長谷川雅考、石 原 正 統、山 田 貴 壽、沖 川 侑 揮、グラフェンの低温プラズマ CVDと透明電極応用へのロードマップ、J. Plasma Fusion Res. Vol.90, No.3 (2014)、190―195
【非特許文献2】有屋田修、ダイヤモンド合成用CVD装置、真空ジャーナル、2023年1月、24-26
【非特許文献3】山田英明、プラズマ CVD による単結晶ダイヤモンド合成の現状と課題、J. Plasma Fusion Res. Vol.90, No.2 (2014)152‐158
【非特許文献4】小林利明、SPring8 熱電子銃について 、運転員講習会資料、2003.5.12
【非特許文献5】ギード(横堀進、久我修、共訳本)、基礎伝熱工学、1960(丸善)、20-222
【非特許文献6】近 藤 道雄 、藤原 裕 之 、 松 田 彰 久、シリコン系薄膜製膜技術の現状 と展望、応 用物理 第71巻 第7号(2002)、823-832
【非特許文献7】布村正太、片山博貴、吉田功、表面処理用水素プラズマにおける水素原子の物理化学、AIST太陽光発電研究、成果報告2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、プラズマCVD法によるグラフェンを形成では、イオン衝撃による照射損傷を無くすことが課題である。この課題を解決する方法として、例えば、特許文献1に記載の方法が提案されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法は、プラズマ生成領域が細長いスリット状であるが故に、ロールツーロール方式によるグラフェン形成への応用等に限定される、という短所がある。
ダイヤモンドの形成に関するマイクロ波プラズマCVD法は、例えば、特許文献2に記載の方法は、使用するマイクロ波の波長が短いことから、生成されるプラズマの生成領域は小さい領域(例えば、2.45GHzの場合、約8~10mm)となり、サイズ4~5インチ級の基板への対応が本質的に困難であるという課題がある。
ダイヤモンドの形成に関する熱フィラメントCVD法は、例えば、特許文献3に記載の熱フィラメントCVD法によるダイヤモンド形成方法は、ダイヤモンド形成に際し、熱フィラメント温度をCH3ラジカル等及び原子状H等の大量発生に適した約2,400~約2,500℃以上に設定し(ここで、装置操作パラメータAと呼ぶ)、且つ基板温度をダイヤモンド成長に適した約700~約1,000℃に設定する(ここで、装置操作パラメータBと呼ぶ)が、以下に示す問題がある。
熱電子の発生は、例えば、非特許文献4に記載されているように、リチャードソン・ダッシ ュマンの式に従う(熱電子の発生は、該熱フィラメント温度の2乗に比例する)ことから、該熱電子の大量発生に際し、該熱フィラメント温度は高ければ高いほどよい。他方、該熱フィラメントの温度を高温化すると、例えば、非特許文献5に記載されているように、基板に到達する該熱フィラメントの放射エネルギーは、ステファン・ボルツマンの法則により該熱フィラメント温度の4乗に比例し、該熱フィラメントと該基板間の距離の2乗に反比例することから、該熱フィラメントの温度を高温にすると該基板の温度は上昇する。
即ち、例えば、特許文献3に記載の熱フィラメントCVD法によるダイヤモンド形成方法において、熱電子の大量発生のための該熱フィラメントの高温化(装置操作パラメータA)と該基板温度の適正値設定(装置操作パラメータB)は両立出来ないという関係(トレードオフの関係)がある。それが故に、ダイヤモンド形成に必須のCH3ラジカル及び原子状Hを大量に生成する作用を有する熱電子及び紫外線等の発生量増大(熱電子の高密度化)という装置操作パラメータAと、ダイヤモンド成長に必須の基板温度の適正値設定という装置操作パラメータBは、両立させることが困難である。その結果、ダイヤモンドの製膜速度(成長速度)を増大させることは困難である、という問題がある。
電源周波数としてVHF帯域(30MHz~300MHz)を用いるVHFプラズマCVD法は、例えば、非特許文献6に記載されているように、プラズマのシース電圧(プラズマ電位Vpと壁電位V4の差:Vp―V4)が低く、イオンダメージが抑制される、という特徴がある。また、例えば、非特許文献7に記載されているように、高濃度の原子状水素Hを発生することが可能であり、該原子状水素Hの濃度は、圧力に比例して増大する、という特徴がある。即ち、VHFプラズマCVD法は、イオンダメージの抑制が可能であり、高濃度原子状Hの生成が可能、という特徴があり、ダイヤモンド形成装置への応用が期待される。
しかしながら、従来のVHFプラズマCVDによるダイヤモンド形成方法は、特許文献4及び特許5に記載の方法以外は見当たらず、基板温度を約700~約1,000℃に制御可能で、イオンダメージが抑制され、高品質のダイヤモンドを形成可能なVHFプラズマCVDによるダイヤモンド形成装置は、依然として開発されていない。
VHFプラズマCVD法は、生成されるプラズマ中の波長がマイクロ波プラズマのそれと比べると、充分に長いことから、波長に起因する問題はない。その故、実用に供せられるVHFプラズマCVDによるダイヤモンド形成方法の創出が課題である。
本発明は、上記課題を解決可能な高周波プラズマCVDによるダイヤモンド及びグラフェン等の炭素系博膜の形成装置を提供することを目的とする。即ち、高速製膜が可能で4~5インチ級大面積基板への対応が可能な炭素系薄膜形成のための高周波プラズマCVD装置を提供することを目的とする。また、イオンダメージの抑制が可能で、CH3ラジカル、C2H3ラジカル等及び高濃度原子状H等の生成が可能という特徴を有する高周波プラズマCVD装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、少なくとも炭素含有ガスと水素ガス(H2)を含む原料ガスの供給系及び排気系を備えた反応容器と、前記反応容器の内部に配置されて基板を保持する主面を有し、且つ前記基板の温度を制御する冷媒を用いた基板冷却手段を備えた基板保持台と、前記基板保持台の前記主面に対向して配置されて輻射熱と熱電子を発生する輻射加熱兼用熱電子発生電極と、前記輻射加熱兼用熱電子発生電極に直流電力を供給する直流電源と、前記輻射加熱兼用熱電子発生電極に対向して配置されて前記原料ガスをプラズマ化する高周波プラズマ発生電極と、前記高周波プラズマ発生電極にインピーダンス整合器を介して高周波電力を供給する高周波電源と、を具備した高周波プラズマCVD装置であって、
前記輻射加熱兼用熱電子発生電極の発熱部は、仕事関数φが低い材料であるタングステン又はタンタル又はタンタルを含む合金で形成され、
前記高周波電源は、VHF帯域(30MHz~300MHz)から選ばれる周波数の電力を発生するとともに、
前記高周波プラズマ発生電極は、金属材を用いて内部に空洞を有する箱型に形成され、前記箱型の高周波プラズマ発生電極は前記反応容器の壁に電気絶縁材を介して貫通して固定され、前記箱型の高周波プラズマ発生電極の前記輻射加熱兼用熱電子発生電極に対向しない面に前記高周波電源の電力が供給される給電点と前記原料ガスの導入口を備え、前記箱型の前記高周波プラズマ発生電極の大気に接する面に赤外線を透過する石英窓が配置され、前記箱型の前記高周波プラズマ発生電極の前記輻射加熱兼用熱電子発生電極に対向する面に直径が0.3mm~1.0mmで、開口率が30%~90%である多数の前記原料ガスの噴出孔が配置され、前記石英窓及び前記原料ガスの噴出孔を通して、前記反応容器の外部に配置された放射温度計により前記基板の温度及び前記輻射加熱兼用熱電子発生電極の温度が測定されることを特徴とする。
第2の発明は、第1の発明において、前記炭素含有ガスは、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)、エチレン(C2H4)、プロピレン(C3H6)及びアセチレン(C2H2)から選ばれる少なくとも1種を含むガスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記のように、本発明の高周波プラズマCVD装置は、基板を加熱する輻射エネルギー及び原料ガスを解離しCH3ラジカル、C2H3ラジカル等及び高濃度原子状H等を生成する熱電子を発生することが可能な輻射加熱兼用熱電子発生電極と、前記原料ガスをプラズマ化しCH3ラジカル、C2H3ラジカル等及び高濃度原子状H等を生成するイオンダメージが抑制された超高周波プラズマ発生電極を備えるとともに、前記高周波プラズマ発生電極が、箱型の構造を有し、前記箱型の高周波プラズマ発生電極に配置された石英窓と、直径が0.3mm~1.0mmで、開口率が30%~90%である前記原料ガスの噴出孔を通して、前記反応容器の外部に配置された放射温度計により前記基板の温度及び前記輻射加熱兼用熱電子発生電極の温度を測定し、前記基板温度及び前記輻射加熱兼用熱電子発生電極の温度を安定的に制御することが可能であるという効果がある。また、前記輻射加熱兼用熱電子発生電極から放出される熱電子の前記原料ガスを解離する作用及びその効果は、前記高周波プラズマ発生電極で生成されるVHFプラズマの前記原料ガスを解離する作用及びその効果と、相乗効果を生み出すという効果を奏する。
即ち、前記高周波プラズマ発生電極で生成される前記原料ガスの高周波プラズマが本来有するα作用(電子が気体分子と衝突して電離させ、新たな電子を発生させる作用)及びβ作用(イオンが気体分子と衝突し、電子を発生させる作用)による前記原料ガスの電離及び解離に加えて、前記輻射加熱兼用熱電子発生電極から放射される前記熱電子の作用により前記原料ガスの電離及び解離を起こすことが可能となる、という効果を奏する。
その結果、イオンダメージを抑制可能であり、且つ該熱電子作用と該超高周波プラズマ作用の相乗効果により、高濃度のCH3ラジカル及びC2H3ラジカル等の炭素系薄膜の前駆体及び高濃度の原子状H等を発生させることが可能となり、ダイヤモンド及びグラフェン等の炭素系薄膜を大面積で、高品質に成長させ形成させることが可能となる。即ち、上記課題を解消可能という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の構成を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の構成部材である第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極の構成を示す模式的構成図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の構成部材である第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極から放出される輻射エネルギーと熱電子、及び高周波プラズマ発生電極と基板保持台の間に生成されるプラズマを示す原理的模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置における原料ガス(メタンCH
4と水素H
2の混合ガス)のプラズマによる分解を示す原理的模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置を用いて形成されるダイヤモンドの成長過程を示す原理的模式図である。
【
図6】
図6は本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の構成部材である第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極22の構成を示す模式的構成図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置を用いて形成されるグラフェンの成長過程を示す原理的模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。各図において、同様の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。また、以下に示す図面は、説明の便宜上、各部材の縮尺が、実際と異なる場合がある。また、各図面間においても、縮尺が、実際と異なる場合がある。
【0015】
本発明は、ダイヤモンド及びグラフェン等の炭素系博膜を、イオンダメージを抑制したプラズマを用いて形成することが可能な高周波プラズマCVD装置に関する。
【0016】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の構成について、
図1~
図5を参照して、説明する。なお、本発明の高周波プラズマCVD装置の一つの応用テーマであるダイヤモンド形成への応用を前提に、以下、説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の構成を示す模式的断面図である。
図2は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の構成部材である第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極の構成を示す模式的構成図である。
図3は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の構成部材である第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極から放出される輻射エネルギーと熱電子、及び高周波プラズマ発生電極と基板保持台の間に生成されるプラズマを示す原理的模式図である
図4は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置における原料ガス(メタンCH
4と水素H
2の混合ガス)のプラズマによる分解を示す原理的模式図である。
図5は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置を用いて形成されるダイヤモンドの成長過程を示す原理的模式図である。
【0017】
本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置は、
図1及び
図2に示されるように、少なくとも炭素含有ガスと水素ガス(H
2)を含む原料ガスの供給系及び排気系を備えた反応容器1と、前記反応容器1の内部に配置されて基板9を保持する主面6aを有し、且つ前記基板9の温度を制御する冷媒を備えた基板保持台6と、前記基板保持台6の前記主面6aに対向して配置され、輻射熱と熱電子を発生する輻射加熱兼用熱電子発生電極2と、前記輻射加熱兼用熱電子発生電極2に直流電力を供給する直流電源8と、前記輻射加熱兼用熱電子発生電極2に対向して配置され、前記原料ガスをプラズマ化する高周波プラズマ発生電極13と、前記高周波プラズマ発生電極13にインピーダンス整合器11を介して高周波電力を供給する高周波電源10と、を備えている。前記直流電源8は前記輻射加熱兼用熱電子発生電極2に高周波電力を遮断するコイル16と電気的に非接地の第1の真空装置用電流導入端子12aを介して直流電力を供給する。前記高周波電源10は、前記高周波プラズマ発生電極13に前記インピーダンス整合器11及び電気的に非接地の第3の真空装置用電流導入端子12cを介して、高周波電力を供給する。
反応容器1は、円筒箱状あるいは矩形箱状の反応容器である。反応容器1の内部には、高周波プラズマ発生電極13と、第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2と、基板9を保持する主面6aを有する基板保持台6が配置される。前記輻射加熱兼用熱電子発生電極2は、
図1に示されるように、前記基板保持台6に対向して配置され、前記高周波プラズマ発生電極13は、前記輻射加熱兼用熱電子発生電極2に対向して配置される。
反応容器1は、図示しない真空ポンプに接続された排気口17a、17bを備えている。排気口17a、17bは、図示しない真空ポンプと組み合わせて稼働させることにより、反応容器1の内部を所定の圧力に調整し、該圧力を保持することが可能である。また、反応容器1内部を高真空度に真空引きすることが可能である。
反応容器1は、該反応容器1内部の各種構成部品を組み立て、配置するための図示しない作業用フランジを備えている。
【0018】
基板保持台6は、主面6aを有し、該主面6aで基板9と接し、保持する。基板9は、第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2が放射する輻射熱により加熱され、基板保持台6の内部に設けられた図示しない冷媒を用いた基板冷却手段と連携して所定の温度に制御される。基板9の温度は、約700~約1,200℃に、例えば、1,000℃に設定される。なお、基板6の温度は、後述の放射温度計19を用いて測定される。
基板保持台6の断面形状は、基板9の形状と相似形である。例えば、基板9のサイズが直径5インチの円板形である場合は、それより一回りおおきいサイズで、例えば、直径153mmである。例えば、基板9のサイズが5インチx5インチの矩形板である場合は、それより一回りおおきいサイズで、例えば、153mmx153mmである。
基板9は、図示しない基板搬入搬出用バルブを開閉することにより、大気側から基板保持台6の主面6aに搬入、載置され、目的とするプラズマ処理が行なわれた後、大気側へ搬出される。
ここでは、基板9を、例えば、直径5インチの単結晶Siウエハーとする。基板保持台6の主面6aのサイズは、例えば、直径153mmとする。なお、基板9は単結晶Siウエハーに限定されない、例えば、高温高圧法で製作された小さいサイズの複数個のダイヤモンド基板を載置してもよい。
【0019】
第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2は、
図2に示されるように、第1の導体棒2aと、第2の導体棒2bと、複数の第3の導体棒2cを備えている。なお、複数の第3の導体棒2cは発熱部であり、第1の導体棒2aと第2の導体棒2bは、複数の第3の導体棒2cの固定部である。
第1の導体棒2aと第2の導体棒2bは、互いに平行に、且つ基板保持台6の主面6aに平行に配置される。複数の第3の導体棒2cは、その端部の一方が前記第1の導体棒2aに固着され、他方が前記第2の導体棒2bに固着される。複数の第3の導体棒2cは、互いに平行に、等間隔に並べられる。
第1の導体棒2aは、
図2に示されるように、第1の板バネ式張力付与手段3aに固着され、該第1の板バネ式張力付与手段3aは、第1の給電棒5aに第1の接続治具5aaを介して固着される。なお、第1の板バネ式張力付与手段3aは電気的に導体で、高温度に耐える金属で、例えば、タングステンあるいはタンタルあるいはタンタルを含む合金で製作される。
第1の導体棒2aは、断面形状を、例えば円形とし、高融点の金属、例えば、タングステン(W)又はタンタル(Ta)又はタンタルを含む合金で製作される。第1の導体棒2aの直径は、適度の剛性を持つ、例えば、直径1mm~5mmの丸棒を選ぶ。第1の導体棒2aの長さは、基板保持台6の主面6aより大きいサイズ、例えば、160mm~170mm、例えば、160mmとする。
第2の導体棒2bは、
図2に示されるように、第2の板バネ式張力付与手段3bに固着され、該第2の板バネ式張力付与手段3bは、第2の給電棒5bに第2の接続治具5bbを介して固着される。なお、第2の板バネ式張力付与手段3bは電気的に導体で、高温度に耐える金属で、例えば、タングステンあるいはタンタルあるいはタンタルを含む合金で製作される。
第2の導体棒2bは、断面形状を、例えば円形とし、高融点の金属、例えば、タングステン(W)又はタンタル(Ta)又はタンタルを含む合金で製作される。第2の導体棒2bの直径は、適度の剛性を持つ、例えば、直径1mm~5mmの丸棒を選ぶ。第2の導体棒2bの長さは、基板保持台6の主面6aより大きいサイズ、例えば、160mm~170mm、例えば、160mmとする。
第3の導体棒2cは、熱電子発生の観点から、仕事関数φが低い材料であるタングステン(W、φ=4.5eV)あるいはタンタル(Ta、φ=4.2eV)あるいはタンタルを含む合金で形成される。第3の導体棒2cの断面形状は、電気抵抗と表面積を考慮し、円形あるいは長方形とする。なお、第3の導体棒2cを発熱部と呼ぶ。
本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置では、円形を選ぶ。例えば、直径0.1mm~1.0mmから、例えば、0.3mmを選ぶ。
なお、直径0.1mm~1.0mmを選ぶ理由は、例えば、特許文献3に記載されているように、熱フィラメントCVD装置としての実績があり、一般的知見として妥当であるからである。
第3の導体棒2cの長さは、 第1の導体棒2aおよび第2の導体棒2bのそれと同じとする。例えば、第1の導体棒2aおよび第2の導体棒2bの長さと同じく、160mmとする。その理由は、基板9の面積より広い領域に、熱電子及びプラズマを発生させるためである。隣り合う第3の導体棒2c同士の間隔は、3mm~10mm、例えば、5mmとする。その理由は、基板9の温度を制御するために、適度の間隔であり、例えば、特許文献3に記載されているように、熱フィラメントCVDとしての実績があるからであり、一般的知見として妥当であるからである。
【0020】
第3の導体棒2cをタンタル製とした場合、前記第3の導体棒2c(タンタル線)の電気抵抗は、概略、次に示す値を持つ。因みに、タンタル線の抵抗率は、1,200℃で、61.5x10-6Ω・cmである。
第3の導体棒2c(タンタル線)の抵抗値(直径:0.3mm、長さ16cm)R
=抵抗率(Ω・cm)x長さ(cm)/断面積(cm2)
=61.5x10-6(Ω・cm)x16(cm)/0.7x10-3(cm2)
=1.4Ω ・・・(1)
第3の導体棒2cと基板6の間隔は、基板温度の設定条件を考慮して決められる。ここでは、基板温度を、約700~約1,200℃に、例えば、1,000℃に設定し、且つ後述の熱電子の発生を多大にする第3の導体棒2cの温度の最大化を満たすために、第3の導体棒2cと基板6の間隔は、略4mm~略40mmの範囲に選定される。例えば、5mmとする。
【0021】
高周波プラズマ発生電極13は、
図1に示されるように、赤外線を透過する石英窓19aと、原料ガスを導入する原料ガス導入口7aと、前記原料ガスを噴出する多数の原料ガス噴出孔13a、とを備える。前記原料ガス導入口7aは、絶縁材で製作された管継ぎ手15を介して原料ガス供給管7bに接続される。 高周波プラズマ発生電極13は、絶縁材料で形成された真空装置用フランジ18で真空容器1に固定され、真空容器1と電気的に絶縁される。
原料ガス供給管7bの上流に図示しない少なくとも炭素含有ガスと水素ガス(H
2)を含む原料ガスの供給源が配置される。高周波プラズマ発生電極13は後述の高周波電源10から供給される高周波電力を受電する給電点27を備える。
前記炭素含有ガスは、メタン(CH
4)、エタン(C
2H
6)、プロパン(C
3H
8)、エチレン(C
2H
4)、プロピレン(C
3H
6)及びアセチレン(C
2H
2)から選ばれる少なくとも1種を含むガスである。高品質ダイヤモンドの形成の観点から、sp3混成軌道を有するメタン(CH
4)、エタン(C
2H
6)、プロパン(C
3H
8)から選ぶのが好ましい。ここでは、炭素含有ガスとして、メタン(CH
4)を選ぶ。
石英窓19aは、放射温度計19と連携して、基板9の温度測定に用いられる。なお、温度測定用の石英窓19aは、基板9及び第1の輻射加熱電極2が放射する赤外線を透過する特性を有する。
原料ガス噴出穴13aは、多数個が配置される。 前記原料ガス噴出穴13aの直径は、例えば、略0.4mm~略1mmで、開口率は、例えば、略30%~略90%である。穴の直径を0.4mm~1mmに設定することにより、原料ガスを均一に噴出することが出来る。開口率を30%~90%に設定することにより、温度測定用の石英窓19aから基板9の表面を透視できるので、放射温度計19により、石英窓19aを介して、基板9の温度を測定出来る。また、放射温度計19は、基板9の温度のみならず、複数の第3の導体棒2cの温度も測定することが出来る。
【0022】
第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2に直流電力を供給する直流電力供給手段は、
図1及び
図2に示されるように、直流電源8と、非接地の直流電力供給線8aと、高周波電力を遮断するコイル16と、接地された直流電力供給線8bと、電気的に非接地の第1の真空用電流導入端子12aと、電気的に接地の第2の真空用電流導入端子12bと、を備える。なお、直流電源8は、定電力制御方式の直流電源であり、負荷の状態が変化しても常に一定の電力を流すように制御可能である。
直流電源8の非接地の出力端子は、非接地の直流電力供給線8aとコイル16を介して、第1の真空用電流導入端子12aに接続される。直流電源8の接地された出力端子は、接地された直流電力供給線8bを介して、第2の真空用電流導入端子12bに接続される。
即ち、直流電源8の直流電力供給回路は、該直流電源8の出力端子から順に、非接地の直流電力供給線8a、コイル16、第1の真空用電流導入端子12a、第1の給電棒5a、第1の板バネ式張力付与手段3a、第1の導体棒2a、複数の第3の導体棒2c、第2の導体棒2b、第2の板バネ式張力付与手段3b、第2の給電棒5b、第2の真空用電流導入端子12b、接地された直流電力供給線8b及び前記直流電源8の接地された出力端子を結ぶループで形成される。
直流電源8は、定電力制御方式であり、第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2の構成部材の第3の導体棒2cの温度を、約1,000~約2,500℃に、例えば、2,400℃に加熱し、一定温度に制御可能である。直流電源8は、市販の装置、例えば、出力電流:最大30A,出力電圧:最大1kV、出力電力:最大30kWの定電力制御方式直流電源を用いる。
コイル16は、後述の高周波電源10が発生する高周波電力の直流電源8への進入を遮断するインダクタンスを有する。なお、高周波電力の周波数に見合ったインダクタンスは、コイルの巻き数を調整することにより、対応可能であり、該高周波数の電力を遮断することが出来る。
【0023】
高周波プラズマ発生電極13に高周波電力を供給する高周波電力供給手段は、
図1に示されるように、高周波電源10と、同軸ケーブル10aと、インピーダンス整合器11と、高周波電力線11aと、電気的に非接地の第3の真空用電流導入端子12cと、第3の給電棒5cと、を備える。また、高周波プラズマ発生電極13は、前記高周波電源10から供給される高周波電力を受電する給電点27を備える。
高周波電源10の非接地の出力端子は、同軸ケーブル10aとインピーダンス整合器11と高周波電力線11aとを介して、第3の真空用電流導入端子12cに接続される。なお、インピーダンス整合器11は、高周波電源10から供給された高周波電力が第3の真空用電流導入端子12c側から上流側へ反射して戻ってくる反射波の強さを最小になるように、該インピーダンス整合器11に内蔵されるインピーダンス調整手段を調整することができる。第3の真空用電流導入端子12cと給電点27は第3の給電棒5cで接続される。
即ち、高周波電源10の高周波電力供給回路は、該高周波電源10の出力端子から順に、同軸ケーブル10a、インピーダンス整合器11、高周波電力線11a、第3の真空用電流導入端子12c、第3の給電棒5c、給電点27で構成される。なお、高周波電源10の接地された端子は、反応容器1の壁及び輻射加熱兼用熱電子発生電極2(反応容器1の壁と導通状態にある)に電気的に接続される。
高周波電力線11aは、帯状の導体板あるいは同軸ケーブルが用いられる。ここでは、インピーダンスが小さい帯状の導体板が用いられる。
前記高周波電源10の出力電圧が前記給電点27に印加されると、前記高周波プラズマ発生電極13と反応容器1の壁の間に電界を発生するともに、前記高周波プラズマ発生電極13と前記第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2の間に電界を発生する。前記電界がプラズマ生成の条件を満たす値になると、高周波プラズマ発生電極13は、該高周波プラズマ発生電極13と基板保持台6に挟まれる領域に主たるプラズマを生成する。なお、高周波プラズマ発生電極13の裏側及び側面側の空間には、図示しない誘電体を配置し、該空間でのプラズマの生成を抑制する
高周波電源10は、発生電力の周波数がVHF帯域である30MHz~300MHzから選ぶ。例えば、60MHzの電源を用いる。なお、直流電源10と後述のインピーダンス整合器11は市販されている装置、例えば、周波数60MHz、出力最大1kWの高周波電源が用いられる。
VHF帯域の周波数を用いたプラズマ生成では、高周波プラズマ発生電極13が形成する電界の方向が超短時間で正方向と負方向に変化することから、プラズマ中の電子が該プラズマ領域に補足され電子密度が高くなるという効果がある。その結果、高密度プラズマの生成が可能であり、低電子温度のプラズマが生成される。
【0024】
次に、上述の直流電力供給手段から第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2へ直流電力が供給される際に発生する輻射熱及び熱電子の形態について、以下に説明する。
図1において、直流電源8の出力を、例えば、500W~10kW、例えば、5kWとして、第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2に供給する。そうすると、発熱部である該第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2の構成部材の第3の導体棒2cは、赤熱し、
図3に示されるように、該第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2の第3の導体棒2cから輻射エネルギー(赤外線、可視光、紫外線等を含む輻射熱)100が放出され、基板9は加熱される。ただし、
図3において、符号100は、第3の導体棒2cから放射される輻射エネルギー(赤外線、可視光、紫外線等を含む輻射熱)である。
発熱部である第3の導体棒2cから放射される輻射エネルギー(赤外線、可視光、紫外線等を含む輻射熱)100は、例えば、非特許文献5に記載されているように、ステファン・ボルツマンの法則で表される。即ち、第3の導体棒2cから放射される輻射エネルギーEsは、次式(2)で表される。
Es ∝ ε・σ・T
4(w/cm
2) ・・・(2)
ただし、εは放射率、σはステファン・ボルツマン定数、Tは第3の導体棒2cの絶対温度である。
基板9に入射する輻射エネルギーQは、例えば、非特許文献5に記載されているように、次式(3)で表される。
Q ∝ Es・Ss・cosθ/d
2 ・・・(3)
ただし、Esは第3の導体棒2cから放射される輻射エネルギー、Ssは第3の導体棒2cの表面積、θは、
図3に示されるように基板9の法線を基準にした第3の導体棒2cを見上げる角度(仰角)、dは第3の導体棒2cと基板9の距離である。
また、隣り合う2つの高温物体では輻射エネルギーの交換が発生する。例えば、隣り合って配置された第1の高温物体の温度T
1で、第2の高温物体の温度T
2の場合、単位面積当たりの正味のエネルギー交換量ΔEは、次式(4)で表される。
ΔE ∝ ε・σ・(T
1-T
2)
4 ・・・(4)
これは、隣り合って配置された複数の第3の導体棒2cの間では、温度が同じであれば、正味のエネルギー交換は発生しない、ということを示している。即ち、隣り合って配置された複数の第3の導体棒2c同士は温度がほぼ同じであるので、両者の間で正味のエネルギー交換は発生しない、という意味である。
基板9の表面温度は、上記式(2)ないし式(4)で表されるように、複数の隣り合う第3の導体棒2c間の距離、前記第3の導体棒2cと基板9の距離d及び直流電源8の出力に依存することから、放射温度計19で基板9の表面温度を測定しながら、基板9の表面温度が該基板9の前面に亘って、ほぼ一様になるように、複数の第3の導体棒2c同士間の距離、第3の導体棒2cと基板9の距離d及び直流電源8の出力のそれぞれの最適値に関するデータを、予め実験により把握する。
ここでは、予め把握した複数の第3の導体棒2c同士間の距離、第3の導体棒2cと基板9の距離及び直流電源8の出力のそれぞれの最適値に関するデータを基に、基板9の表面温度が、約700~約1,200℃に、例えば、1,000℃に設定し、制御する。
【0025】
他方、発熱部である第3の導体棒2cが高温度に加熱される場合、熱電子が発生する。熱電子の発生状況を、模式的に
図3に示す。ただし、
図3において、符号101は、第3の導体棒2cから放出される熱電子である。
第3の導体棒2cが高温である場合、例えば、非特許文献4に記載されているように、リチャードソン・ダッシ ュマンの式に従って、熱電子を発生する。
即ち、第3の導体棒2cが発生する熱電子の発生個数Neは、次式(5)で表される。
Ne ∝ T
2・exp{-φ/kT} (単位:A/m
2) ・・・(5)
ただし、Tは第3の導体棒2cの絶対温度、φは第3の導体棒2cの仕事関数、kはボルツマン定数である。
したがって、第3の導体棒2cの温度が高いほど、また、仕事関数が小さいほど、放出される熱電子の数が多くなる。例えば、非特許文献4によれば、タングステン(W)の仕事関数φ=4.5eV、タンタル(Ta)の仕事関数φ=4.2eVであり、熱電子放出特性として、タングステンW(融点:3,000℃)に関し、2000℃で0.01A/cm
2及び2,400℃で、1A/cm
2が得られ、タンタルTa(融点:2,850℃)に関し、1,400℃で、0.01A/cm
2及び1,800℃で、1A/cm
2が得られている。
即ち、上記式(5)及び非特許文献4に記載の上記データは、第3の導体棒2cの温度が高ければ高いほど、多量の熱電子が発生することを示している。また、熱電子発生の能力で比較すれば、タンタルがタングステンよりも優れていることが判る。
ここでは、熱電子の発生量を最大とするために、第3の導体棒2cの温度を融点以下とし、可能な限り最大の温度に選ぶ。例えば、基板9の表面温度を所要の値に維持しつつ、第3の導体棒2cの温度を可能な限り高い温度に、例えば、2,400℃に設定する。ただし、基板9の温度は上昇するので、基板保持台6が内蔵する冷却手段を用いて、基板9の表面温度を約1,000℃に制御する。
【0026】
次に、上述の高周波電力供給手段から高周波プラズマ発生電極13へ高周波電力を供給する際に発生するプラズマの形態について、以下に説明する。
原料ガス噴出穴13aから、例えば、メタン(CH
4)と水素(H
2)の混合ガスを噴出させ、圧力を所定の値に設定し、高周波電源10の出力を、同軸ケーブル10a、インピーダンス整合器11、高周波電力線11a、第3の真空用電流導入端子12cを介して、給電点27に供給する。そうすると、
図3に示されるように、プラズマ102が発生する。
該プラズマ102は、周波数がVHF帯域(30MHz~300MHz)である高周波電源10を用いて生成されること及び該プラズマ102の生成領域に熱電子を発生する第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2が配置されていることから、以下に列記するような特徴がある。
(a-1):第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2の第3の導体棒2cは、リチャードソン・ダッシ ュマンの式に従って、熱電子を発生する。前記第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2の第3の導体棒2cで発生した熱電子101は、一般的なプラズマ生成空間におけるα作用(電子が気体分子と衝突して電離させ、新たな電子を発生させる作用)、β作用(イオンが気体分子と衝突し、電子を発生させる作用)及びγ作用(陰極に、正イオンが衝突して電子を放出させる作用)で生成される電子と同様に、気体分子の電離作用及び解離作用を有する。
(b-1):プラズマは高周波プラズマ発生電極13に印加された高周波電源10の高周波電力が形成する電界により生成されるが、上記熱電子101の存在(エジソン効果)により、一般的なプラズマ生成条件に比べて、高周波プラズマが容易に生成される。即ち、上記熱電子101が超高周波数の電界で加速され、上記α作用及びβ作用に起因するVHFプラズマが生成される。一般的なプラズマ生成では、パッシェンの法則(放電開始電圧Vsは、圧力pと電極間の距離dの積:pd=1~10Pa・m程度に極小値を取る)に依存し、高圧条件下でのグロー放電の生成は困難である。ところが、
図1及び
図2に示される本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVDに装置では、高周波プラズマ発生電極13と基板保持台6の間の空間領域に該第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2の第3の導体棒2cが発生する熱電子を含むことから、エジソン効果及び超高周波電界印加効果(電界の方向が超短時間で正方向と負方向に変化することから、電子が空間領域に補足され電子密度が高くなる効果)により高圧条件でのプラズマ生成が可能となる。その結果、電極間の距離dが、例えば、5mm~10mmで、例えば、数kPa~略10kPaにおいて、高周波グロー放電プラズマの生成が可能である。
(c-1):高周波電源10の周波数がVHF帯域(30MHz~300MHz)であることから、プラズマ空間(電界発生空間)での電子補足効果があり、イオンダメージが抑制され、且つ高密度のプラズマが生成され、維持される。イオンダメージが抑制された高密度のプラズマの発生により、気体分子の電離及び解離が効果的に促進される。
(d-1):プラズマ102が生成されると、ダイヤモンド形成での主たる前駆体である多量のCH
3ラジカル(電気的に中性の化学的活性種)と、多量の原子状Hが生成される。該CH
3ラジカルはダイヤモンド形成の主たる前駆体として、基板表面に化学吸着し、該基板表面で表面化学的に反応し、多数のC-C結合体を形成する。基板表面に化学吸着したCH
3ラジカル及び該CH
3ラジカルで形成されたC-C結合体に対し、多量の原子状Hが入射し、基板上で成長するダイヤモンド形成前駆体の中の水素成分及び結合の弱い炭素成分を抜き取ることにより、正四面体構造(ダイヤモンド構造)のC-C結合体が効率良く成長する。
【0027】
ところで、CH3ラジカルの気相中の輸送(移動)は、「物質の単位面積、単位時間当たりの拡散量は、濃度勾配に比例する」というフイックの法則に従う。即ち、これは、次式(6)で表せられる。なお、基板表面の法線方向を座標x軸とし、該基板表面をx=0とする。基板表面に流れ込む単位面積・単位時間当たりのCH3ラジカルの量J1(CH3):(cm-2・s-1)は、CH3ラジカルの拡散係数をD(CH3)として、
J1(CH3)∝ D(CH3)・{d[CH3]/dx}x=0 ・・・(6)
ただし、{d[CH3]/dx}x=0 は基板表面近傍でのCH3濃度勾配(cm-4)である。
原子状Hの輸送(移動)は、上記CH3ラジカルの輸送(移動)と同様に、フイックの法則に従う。即ち、基板表面に流れ込む原子状Hの量J2(H)は、原子状Hの拡散係数をD(H)として、次式(7)で表せられる。
J2(H)∝ D(H)・{d[H]/dx}x=0 ・・・(7)
ただし、{d[H]/dx}x=0 は基板表面近傍でのH濃度勾配(cm-4)である。
なお、上記式(6)及び式(7)は、基板表面近傍のCH3ラジカル及び原子状Hの輸送量は、それぞれの濃度が高ければ、高いほど多くなる、ということを示している。
また、上記式(6)の{d[CH3]/dx}x=0 を増大させるには、CH3ラジカルを発生させるプラズマ中の電子の密度を増大することが効果的であることを意味している。
また、上記式(7)の{d[H]/dx}x=0 を増大させるには、原子状Hを発生させるプラズマ中の電子の密度を増大することが効果的であることを意味している。
【0028】
上記特徴(a-1)~(d-1)を有する本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置では、
図4及び
図5に示されるように、CH
3ラジカルと原子状Hを主体にしたラジカルの輸送現象と基板表面での化学反応現象、並びに多量の原子状によるダイヤモンド形成前駆体の中の水素成分及び結合の弱い炭素成分の引き抜き作用によりダイヤモンドが形成される、と考えられる。
即ち、
図4及び
図5において、高周波プラズマ発生電極13と基板9の間の領域で発生した高濃度のCH
3ラジカルは拡散現象により、基板9の表面に移動する。その一部分は、基板9の表面に化学吸着する。基板表面に化学吸着したCH
3ラジカルの一部分は、表面化学反応により、C-Cの形で結合する。原子状Hは、膜表面及び膜中のH成分及び結合の弱い炭素成分を引き抜く。引き抜きされたC及びH成分はガスに成って排出される。基板上では、C-C結合が正四面体構造で形成され、ダイヤモンドが成長する。
【0029】
次に、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の操作手順について、
図1~
図5を参照して説明する。
先ず、反応容器1の図示しない基板搬入搬出バルブを開いて、基板9を基板保持台6の主面6aに載置する。次に、基板搬入搬出バルブを閉じた後、図示しない真空ポンプにより、排気口17a及び排気口7bを介して、反応容器1内部を所定の真空度にする。
次に、直流電源8の出力を第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2に供給し、予め把握しているデータに基づいて、基板9の表面温度を、例えば、1,000℃に設定する。
次に、基板9の表面を上記温度に加熱した状態で、水素プラズマによる基板9の表面のクリーニングを行う。図示しない原料ガスの供給源から原料ガスとして水素ガスのみを導入し、高周波電源10の出力を高周波プラズマ発生電極13に供給し、水素プラズマを発生させる。なお、水素プラズマによる基板9の表面のクリーニングの方法は、公知の方法で行う。水素プラズマによる基板9の表面のクリーニングの時間は数分以内でよい。ここでは、例えば、3分間の水素プラズマによる基板9の表面のクリーニングを行う。
次に、上記高周波電源10の出力を、一旦、ゼロに戻す。
次に、図示しない原料ガスの供給源から原料ガスとして、高品質ダイヤモンドの形成の観点から、sp3混成軌道を有するメタン(CH
4)、エタン(C
2H
6)、プロパン(C
3H
8)の中から選ぶ。ここでは、炭素含有ガスとして、例えば、メタン(CH
4)を選ぶ。ガス供給条件は、例えば、流量比を水素流量/メタンガス流量=100/3とする。その後、図示しない原料ガス供給源から、それぞれ図示しないメタンガス及び水素ガスのマスフローコントローラで所定の流量を制御されたメタンガス及び水素ガスを、原料ガス供給口7aを介して原料ガス噴出穴13aから噴出させる。
次に、図示しない排気バルブ制御装置により図示しない排気バルブの開閉度を制御し、反応容器1の内部圧力を、略1kPa~略10kPaに保つ。ここでは、例えば、4kPaに設定し、維持する。
【0030】
次に、高周波電源10の周波数をVHF帯域(30MHz~300MHz)、例えば、60MHzとし、出力を、例えば、200W~1KW、ここでは500Wに設定する。
そうすると、
図3に示されるように、高周波プラズマ発生電極13と基板保持台6の間に、プラズマ102が生成される。原料ガスのメタン(CH
4)及び水素(H
2)がプラズマ化すると、CH
4、H
2が解離し、ダイヤモンド形成の前駆体であるCH
3ラジカル及び原子状H等を発生する。該CH
3ラジカル及び該原子状H等は拡散して、基板9の表面に到達する。
【0031】
次に、ダイヤモンド膜の厚みは上記プラズマ102の生成持続の時間に比例するので、上記高周波電源10の出力供給開始から所定の時間が経過した時点で、その出力をゼロにする。また、直流電源8の出力をゼロに落とす。製膜時間は、予め取得されたデータに基づいて決められる。ここでは、例えば、30分~60分、例えば60分とする。
なお、製膜時間は、高周波プラズマ発生電極13と基板保持台6の間隔、第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2と基板保持台6の間隔、基板温度、メタンガスの流量、水素ガスの流量、圧力、電力等の関係に係わるデータを、予め把握し、そのデータを基に決められる。
目的とするダイヤモンド膜の製膜が終了後、上記メタンガス及び水素ガスの供給を停止し、反応容器1内部を、一旦、高い真空度に真空引きする。その後、反応容器1を大気条件に戻す。反応容器1が大気条件に戻され、基板9の温度が室温になった後、図示しない基板搬入搬出バルブを開とし、基板9を取り出す。反応容器1から取り出された基板9に、均一なダイヤモンド膜が形成されている、ことを確認する。
【0032】
以上の説明で示されたように、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置では、第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2と、直流電源8と、高周波プラズマ発生電極13と、周波数60MHzの高周波電源10等を備えることにより、従来の装置では困難である大面積基板への対応が可能である。
即ち、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置は、次に示すような特徴を有する。
(イ-1):装置構成において、輻射エネルギー(輻射熱)を放射し、且つ熱電子を発生し、且つ、超高周波電界を形成するタンタル製あるいはタンタルを含む合金製あるいはタングステン製の発熱部である第3の導体棒2cを備える第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2と、高周波電力の侵入を遮断するコイルを備えた直流電源8と、高周波プラズマ発生電極13と、高周波電源10と、を主要部材として用いることを特徴とする。
(ロ-1):発熱部である第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2の第3の導体棒2cとして、仕事関数φが小さいタンタル製あるいはタンタルを含む合金製あるいはタングステン(タンタルのφ=4.2eV、タングステンのφ=4.5eV)を用いることから、温度上昇に伴い、熱電子を効果的に発生可能という作用を有する。また、高周波プラズマ発生電極13は、VHF帯域(30MHz~300MHz)の超高周波電圧の供給に伴い、超高周波電界による高密度プラズマを効果的に発生可能で、且つ前記熱電子のエジソン効果との相乗効果により、超高密度プラズマを形成可能という作用を有する。また、第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2は基板温度を約約800℃~約1,200℃の範囲から選ばれた任意の温度に均一に加熱することが可能という作用を有する。
(ハ-1):上記(ロ-1)により、原料ガスであるメタンと水素の混合ガスを高密度でプラズマ化し、CH3ラジカルと原子状水素H等を多量に発生することが可能となり、高温度に制御された基板上に効率良くダイヤモンドを形成可能という効果を奏する。前記高密度プラズマを励起する高周波電力の波長はメートル級と長いことから、4インチ~5インチ級の基板を対象にした大面積ダイヤモンドの形成に必須の基板温度の制御と、CH3ラジカルの発生に関する制御と、高濃度の原子状水素Hの発生に関する制御が可能となり、従来のダイヤモンド形成装置が抱える課題を解消可能という効果を奏する。
【0033】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置は、上述の本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置における第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2に代えて、以下に示す第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極22が用いられることを特徴とする。
本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置について、
図6(a)、(b)を参照して、説明する。
図1ないし
図5も参照する。
図6は、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の構成部材である第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極22の構成を示す模式的構成図である。
図6(a)は、第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極22の模式的構成図、
図6(b)は、第1及び第2の棒バネ式張力付与手段3aa、3bbと第4及び第5の真空用電流導入端子21a、21bの接続部の構成図である。
図6(a)において、符号22は、第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極である。第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極22は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の構成部材である第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極2と同様の構成部材で構成される。
第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極22は、
図6(a)に示されるように、第4の導体棒2aaと、第5の導体棒2bbと、発熱部である複数の第6の導体棒2caを備えている。第4の導体棒2aaと第5の導体棒2bbは、互いに平行に、且つ基板保持台6の主面6aに平行に配置される。発熱部である複数の第6の導体棒2caは、その端部の一方が前記第4の導体棒2aaに固着され、他方が前記第5の導体棒2bbに固着される。複数の第6の導体棒2caは、互いに平行に、等間隔に並べられる。
【0034】
第4の導体棒2aaは、
図6(a)に示されるように、断面形状を、例えば矩形とし、高融点の金属、例えば、タングステン(W)又はタンタル(Ta)又はタンタルを含む合金で製作される。第4の導体棒2aaの寸法は、適度の剛性を持つ、例えば、断面寸法2mm~5mm程度x2mm~5mm程度の角棒を選ぶ。第4の導体棒2aaの長さは、基板保持台6の主面6aより大きいサイズ、例えば、160mm~170mm、例えば、160mmとする。
また、第4の導体棒2aaは、
図6(a)、(b)に示されるように、第1の棒バネ式張力付与手段3aaに固着され、該第1の棒バネ式張力付与手段3aaは、後述の第3の真空用電流導入端子21aの給電棒5aに第3の接続治具20aを介して固着される。なお、第1の棒バネ式張力付与手段3aaは電気的に導体で、高温度に耐える金属で、例えば、タングステンあるいはタンタルあるいはタンタルを含む合金で製作される。
第5の導体棒2bbは、
図6(a)に示されるように、断面形状を、例えば矩形とし、高融点の金属、例えば、タングステン(W)又はタンタル(Ta)又はタンタルを含む合金で製作される。第5の導体棒2bbの寸法は、適度の剛性を持つ、例えば、断面寸法2mm~5mm程度x2mm~5mm程度の角棒を選ぶ。第5の導体棒2bbの長さは、基板保持台6の主面6aより大きいサイズ、例えば、160mm~170mm、例えば、160mmとする。
また、第5の導体棒2bbは、
図6(a)、(b)に示されるように第2の棒バネ式張力付与手段3bbに固着される。第2の棒バネ式張力付与手段3bbは、図示しない給電棒5bに第4の接続治具20bを介して固着される。なお、第2の棒バネ式張力付与手段3bbは電気的に導体で、高温度に耐える金属で、例えば、タングステンあるいはタンタルあるいはタンタルを含む合金で製作される。
発熱部である第6の導体棒2caは、熱電子発生の観点から、仕事関数φが低い材料であるタングステン(W、φ=4.5eV)あるいはタンタル(Ta、φ=4.2eV)あるいはタンタルを含む合金で形成される。第6の導体棒2caの断面形状は、電気抵抗と表面積を考慮し、円形あるいは長方形とする。ここでは、以下に示すように、長方形を選ぶ。
【0035】
本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置では、第6の導体棒2caの断面形状として長方形を選ぶ。
例えば、厚み0.1mm~1.0mmx幅0.5~1mmから、例えば、厚み0.1mmx幅0.706mmを選ぶ。なお、厚み0.1mmx幅0.706mmを選ぶ理由は、第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の第3の導体棒2c(タンタル線、直径:0.3mm)と略同じ電気抵抗値とするため、である。
ところで、基板9の加熱及び熱電子の発生数の観点で見れば、仮に第1及び第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極の発熱体を同一断面積とすると、円形(例えば、直径0.3mm)と長方形(例えば、厚み0.1mmx幅0.706mm)では、周長が長い前記長方形の方が表面積が広いことから優れている、と考えられる。
【0036】
発熱部である第6の導体棒2caの電気抵抗は、概略次に示す値を持つ。因みに、タンタル材の抵抗率は、1,200℃で、61.5x10-6Ω・cmである。
タンタル製の第6の導体棒2caの抵抗値(厚み0.1mmx幅0.706mm、長さ16cm)R
=抵抗率(Ω・cm)x長さ(cm)/断面積(cm2)
=61.5x10-6(Ω・cm)x16(cm)/0.7x10-3(cm2)
=1.4Ω ・・・(8)
第6の導体棒2caと基板6の間隔は、プラズマ生成条件と基板温度の設定条件を考慮して決められる。ここでは、基板温度を、約300~約600℃に、例えば、500℃に設定し、且つ後述の熱電子の発生を多大にするための条件である第6の導体棒2caの温度の最大化、且つ生成されるプラズマがグロー放電領域である条件を満たすために、第6の導体棒2caと基板6の間隔は、略5mm~略40mmの範囲に選定される。例えば、8mmとする。
【0037】
ここで、 本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置に用いられる発熱部である第6の導体棒2caと、 本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置に用いられる発熱部である第3の導体棒2cの熱電子発生能力を比較する。
第6の導体棒2ca及び第3の導体棒2cが発生する熱電子の発生個数Neは、リチャードソン・ダッシ ュマンの式で求められる。即ち、次式で表される。
Ne ∝ T2・exp{-φ/kT} (単位:A/m2) ・・・(5)
ただし、Tは第6の導体棒2ca及び第3の導体棒2cの絶対温度、φは第6の導体棒2ca及び第3の導体棒2cの仕事関数、kはボルツマン定数である。
上式(5)は単位面積当たりの熱電子の発生個数Neであるので、第6の導体棒2caの場合は、該第6の導体棒2caの表面積、即ち、厚み0.1mmx幅0.706mmの周長=1.612mmに比例した個数になる。
他方、第3の導体棒2cの場合は、該第3の導体棒2cの表面積、即ち、直径0.3mmの周長=0.942mmに比例した個数になる。
即ち、第6の導体棒2caは、電気抵抗値としては、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置における第3の導体棒2cと同じであるが、周長は、第3の導体棒2c(直径0.3mm)の0.942mmに対し、第6の導体棒2ca(長方形0.1mmx0.706mm)の場合、1.612mmであり、約1.7倍増大する。
電気抵抗値が同じ条件において、上記周長が約1.7倍になることは、第6の導体棒2caから放出される熱電子の発生量が、第3の導体棒2cの約1.7倍になることを意味する。
したがって、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置は、本発明の第1の実施形態に係わる高周波プラズマCVDに装置に比べて、熱電子の発生量の増大化が可能であり、プラズマ密度の増大の作用を強めることから、原料ガスである炭素含有ガスと水素の混合ガスを高密度でプラズマ化し、CH3ラジカルあるいはC2H3ラジカル等と原子状水素H等を多量に発生することが可能となり、高温度に制御された基板上に効率良く、炭素系薄膜を形成可能という効果を奏する。
【0038】
次に、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の操作手順について、
図1、
図6及び
図7を参照して説明する。なお、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置の一つの応用テーマであるグラフェン形成への応用を前提に、以下、説明する。
先ず、反応容器1の図示しない基板搬入搬出バルブを開いて、基板9を基板保持台6の主面6aに載置する。次に、基板搬入搬出バルブを閉じた後、図示しない真空ポンプにより、排気口17a及び排気口7bを介して、反応容器1内部を所定の真空度にする。
次に、直流電源8の出力を第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極22に供給し、予め把握しているデータに基づいて、基板9の表面温度を、例えば、500℃に設定する。
次に、基板9の表面を上記温度に加熱した状態で、水素プラズマによる基板9の表面のクリーニングを行う。図示しない原料ガスの供給源から原料ガスとして水素ガスのみを導入し、高周波電源10の出力を高周波プラズマ発生電極13に供給し、水素プラズマを発生させる。なお、水素プラズマによる基板9の表面のクリーニングの方法は、公知の方法で行う。水素プラズマによる基板9の表面のクリーニングの時間は数分以内でよい。ここでは、例えば、3分間の水素プラズマによる基板9の表面のクリーニングを行う。
次に、上記高周波電源10の出力を、一旦、ゼロに戻す。
次に、図示しない原料ガスの供給源から原料ガスとして、高品質グラフェンの形成の観点から、sp2混成軌道を有するエチレン(C
2H
4)、プロピレン(C
3H
6)及びアセチレン(C
2H
2)等から選ぶ。ここでは、例えば、炭素含有ガスとして、エチレン(C
2H
4)を選ぶ。
ガス供給条件は、例えば、流量比を水素流量/エチレンガス流量=100/1とする。その後、図示しない原料ガス供給源から、それぞれ図示しないエチレンガス及び水素ガスのマスフローコントローラで所定の流量を制御されたエチレンガス及び水素ガスを、原料ガス供給口7aを介して原料ガス噴出穴13aから噴出させる。
次に、図示しない排気バルブ制御装置により図示しない排気バルブの開閉度を制御し、反応容器1の内部圧力を、略133Pa~略1,333Paに保つ。なお、プラズマCVD装置による微結晶シリコン製膜分野ではイオンダメージを抑制する手段として、略133Pa以上の高圧力条件はよく知られている。ここでは、例えば、133Paに設定し、維持する。
【0039】
次に、高周波電源10の周波数をVHF帯域(30MHz~300MHz)、例えば、60MHzとし、出力を、例えば、200W~1KW、ここでは500Wに設定する。
そうすると、高周波プラズマ発生電極13と基板保持台6の間に、プラズマ102が生成される。原料ガスのエチレン(C
2H
4)及び水素(H
2)がプラズマ化すると、C
2H
4、H
2が解離し、グラフェン形成の前駆体であるC
2H
3ラジカル等及び原子状H等を発生する。該C
2H
3ラジカル及び該原子状H等は拡散して、基板9の表面に到達する。なお、C
2H
3ラジカル等及び原子状H等は、フイックの法則により濃度勾配に比例して拡散移動する。
プラズマ領域から基板9表面に移動したC
2H
3ラジカルは、
図7に示されるように、化学吸着し、基板表面反応によりグラフェンを自然発生的に形成する、と考えられる。
即ち、
図7において、高周波プラズマ発生電極13と基板9の間の領域で発生した高濃度のC
2H
3ラジカルは拡散現象により、基板9の表面に移動する。その一部分は、基板9の表面に化学吸着する。基板表面に化学吸着したC
2H
3ラジカルの一部分は、表面化学反応により、C―Cの形で結合する。基板表面に化学吸着したC
2H
3ラジカルは基板表面上での反応が強く、平面的な結合を優先的に形成する、と考えられる。プラズマ領域から基板9表面に移動した原子状Hは、膜表面及び膜中のH成分及び結合の弱い炭素成分を引き抜く。引き抜きされたC及びH成分はガスに成って排出される。基板上では、C-C結合がグラフェン構造で形成され、グラフェンが形成される。
なお、特許文献1に、該グラフェンは数層が形成されると、それ以上に成長しない、というデータが記載されている。
【0040】
次に、プラズマCVDによるグラフェン形成では、グラフェンの初期核が基板9の全面に一様に低密度で形成されていれば、その厚みは数層で自動的に停止するという特性があることから、製膜時間は、1分ないし20分、例えば、5分とする。即ち、上記高周波電源10の出力供給開始から5分の時間が経過した時点で、その出力をゼロにする。
なお、製膜時間は、高周波プラズマ発生電極13と基板保持台6の間隔、第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極22と基板保持台6の間隔、基板温度、エチレンガスの流量、水素ガスの流量、圧力、電力等の関係に係わるデータを、予め把握し、そのデータを基に決められる。
目的とするグラフェンの製膜が終了後、上記エチレンガス及び水素ガスの供給を停止し、反応容器1内部を、一旦、高い真空度に真空引きする。その後、反応容器1を大気条件に戻す。反応容器1が大気条件に戻され、基板9の温度が室温になった後、図示しない基板搬入搬出バルブを開とし、基板9を取り出す。反応容器1から取り出された基板9に、均一なグラフェンが形成されている、ことを確認する。
【0041】
以上の説明で示されたように、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置は、第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極22と、高周波プラズマ発生電極13と、直流電源8と、周波数60MHzの高周波電源10と等を備えることにより、従来の装置では困難である大面積基板への対応が可能である。
即ち、本発明の第2の実施形態に係わる高周波プラズマCVD装置は、次に示すような特徴を有する。
(イ-2):装置構成において、輻射エネルギー(輻射熱)を放射し、且つ熱電子を発生するタンタル製あるいはタンタルを含む合金製あるいはタングステン製の第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極22と、高周波電力の侵入を遮断するコイルを備えた直流電源8と、イオンダメージが抑制されるVHFプラズマを生成する高周波プラズマ発生電極13と、周波数60MHzの高周波電源10と、を主要部材として用いることを特徴とする。
(ロ-2):第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極22は仕事関数φが小さいタンタル製あるいはタンタルを含む合金あるいはタングステン(タンタルのφ=4.2eV、タングステンのφ=4.5eV)で形成されることから、温度上昇に伴い、熱電子を効果的に発生可能という作用を有する。また、高周波プラズマ発生電極13は、VHF帯域(30MHz~300MHz)の超高周波電圧の供給に伴い、超高周波電界による高密度プラズマを効果的に発生可能で、且つ前記第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極22から放出される熱電子のエジソン効果との相乗効果により、超高密度プラズマを形成可能という作用を有する。また、第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極22は基板温度を約約300℃~約600℃の範囲から選ばれた任意の温度に均一に加熱することが可能という作用を有する。
(ハ-2):上記(ロ-2)により、原料ガスであるエチレンと水素の混合ガスを高密度でプラズマ化し、C2H3ラジカル等と原子状水素H等を多量に発生することが可能となり、高温度に制御された基板上に効率良くグラフェンを形成可能という効果を奏する。前記高密度プラズマを励起する高周波電力の波長はメートル級と長いことから、4インチ~5インチ級の基板を対象にした大面積グラフェンの形成に必須の基板温度の制御と、C2H3ラジカル等の発生に関する制御と、高濃度の原子状水素Hの発生に関する制御が可能となり、従来のグラフェン形装置が抱える課題を解消可能という効果を奏する。
【符号の説明】
【0042】
1・・・反応容器、
2・・・第1の輻射加熱兼用熱電子発生電極、
2a・・・第1の導体棒、
2b・・・第2の導体棒、
2c・・・発熱部である複数の第3の導体棒、
3a、3b・・・第1及び第2の板バネ式張力付与手段、
3aa、3bb・・・第1及び第2の棒バネ式張力付与手段、
6・・・基板保持台、
6a・・・基板保持台の主面、
7a・・・原料ガス供給口、
8・・・直流電源、
9・・・基板、
10・・・高周波電源、
11・・・インピーダンス整合器、
12a、12b,12c・・・第1、第2及び第3の真空用電流導入端子、
13・・・高周波プラズマ発生電極、
13a・・・原料ガス噴出穴、
15・・・絶縁材で製作された管継ぎ手、
16・・・コイル、
18・・・絶縁材料で形成された真空装置用フランジ、
19・・・放射温度計、
19a・・・温度測定用石英窓、
22・・・第2の輻射加熱兼用熱電子発生電極、
27・・・給電点。