(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168531
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】起泡性水中油型乳化物の製造方法及びホイップドクリームの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20231116BHJP
A23D 7/005 20060101ALI20231116BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20231116BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23D7/005
A23L9/20
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172536
(22)【出願日】2023-10-04
(62)【分割の表示】P 2019038467の分割
【原出願日】2019-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】蔭山 翔子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正
(57)【要約】
【課題】合成乳化剤を使用しなくても、乳化安定性、ホイップ性、保型性、及び風味に優れた起泡性水中油型乳化物の製造方法及びホイップドクリームの製造方法を提供する。
【解決手段】25~45質量%の油脂と、1.3質量%以下のタンパク質とを含有する起泡性水中油型乳化物の製造方法であって、脱脂粉乳に酸を添加して沈殿分離させたタンパク質を水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、又は水酸化カリウムで中和、溶解し、噴霧乾燥して得られるカゼイン塩を、前記カゼイン塩由来のカリウム及びナトリウムの合計量に対する、前記カゼイン塩由来のカルシウム及びマグネシウムの合計量のモル比が、1.0~8.0となるように添加する。乳脂肪に、上記起泡性水中油型乳化物を添加してホイップドクリームを製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
25~45質量%の油脂と、1.3質量%以下のタンパク質とを含有する起泡性水中油型乳化物の製造方法であって、
脱脂粉乳に酸を添加して沈殿分離させたタンパク質を水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、又は水酸化カリウムで中和、溶解し、噴霧乾燥して得られるカゼイン塩を、前記カゼイン塩由来のカリウム及びナトリウムの合計量に対する、前記カゼイン塩由来のカルシウム及びマグネシウムの合計量のモル比が、1.0~8.0となるように添加することを特徴とする起泡性水中油型乳化物の製造方法。
【請求項2】
リン脂質を0.002~0.05質量%含有させる、請求項1に記載の起泡性水中油型乳化物の製造方法。
【請求項3】
pHを6.8~8.5とする、請求項1又は2に記載の起泡性水中油型乳化物の製造方法。
【請求項4】
前記リン脂質は乳由来のリン脂質である、請求項1~3のいずれか1項に記載の起泡性水中油型乳化物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法で得られた起泡性水中油型乳化物に乳脂肪を含有させてホイップすることを特徴とするホイップドクリームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成乳化剤を使用しなくても、乳化安定性、ホイップ性、保型性、及び風味が優れた起泡性水中油型乳化物の製造方法及びホイップドクリームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップクリームは、ケーキ、カップケーキ、パイ、アイスクリーム、ワッフル等の菓子や果物のトッピングとして広く使用されている。
【0003】
従来から、製菓分野においては、ボリュームの増大、食感の改良及び老化防止等を目的として、合成乳化剤が広く利用されている。しかしながら、合成乳化剤を使用した場合、合成乳化剤自体に由来する独特の風味や匂いが菓子に残ってしまい風味が損なわれたり、口溶けを悪くする等の食感にも好ましくない影響を及ぼすという問題があった。更に、最近の健康志向の高まりから、合成乳化剤の使用をできるだけ減らしたいという社会的要請がある。
【0004】
この要請に応えるものとして、例えば、特許文献1には、80~40重量%の水相と、20~60重量%の油相からなる水中油型乳化物であって、0.2~0.8重量%のカゼイネート、3重量%以上の無脂乳固形分および0.05重量%以上の天然乳化剤を含み、リン酸塩およびクエン酸塩の総含量が0.01重量%未満であることを特徴とする水中油型乳化物が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、50~70質量%の水相と30~50質量%の油相からなる水中油型乳化物の製造方法であって、0.25~5.0質量%の卵黄油及び1.0~8.0質量%のバターミルクパウダーを原料として用いることを特徴とする上記製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-215783号公報
【特許文献2】特開2001-352901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2等に記載された水中油型乳化物は、ホイップタイム、使用幅、ホイップ時の状態などの点で、十分に満足できるものではなかった。
【0008】
よって、本発明の目的は、合成乳化剤、卵由来の原料を使用しなくても、ホイップタイムが短く、使用幅が広く、ホイップ時の状態が良好な起泡性水中油型乳化物の製造方法及びホイップドクリームの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、起泡性水中油型乳化物中における、カゼイン塩由来のカリウム及びナトリウムの合計量に対する、カルシウム及びマグネシウムの合計量のモル比を所定の範囲とすることにより、合成乳化剤を使用しなくても、乳化安定性、ホイップ性、保型性、及び風味が優れたものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の1つは、25~45質量%の油脂と、1.3質量%以下のタンパク質とを含有する起泡性水中油型乳化物の製造方法であって、脱脂粉乳に酸を添加して沈殿分離させたタンパク質を水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、又は水酸化カリウムで中和、溶解し、噴霧乾燥して得られるカゼイン塩を、前記カゼイン塩由来のカリウム及びナトリウムの合計量に対する、前記カゼイン塩由来のカルシウム及びマグネシウムの合計量のモル比が、1.0~8.0となるように添加することを特徴とする起泡性水中油型乳化物の製造方法を提供するものである。
【0011】
本発明の起泡性水中油型乳化物によれば、合成乳化剤を使用しなくても、乳化安定性、ホイップ性、保型性に優れた起泡性水中油型乳化物を提供することができる。また、合成乳化剤を使用していないので合成乳化剤由来の異味がなく、風味に優れた起泡性水中油型乳化物を提供することができる。
【0012】
本発明の起泡性水中油型乳化物においては、リン脂質を0.002~0.05質量%含有させることが好ましい。
【0013】
また、本発明の起泡性水中油型乳化物においては、pHを6.8~8.5とすることが好ましい。
【0014】
更に、本発明の起泡性水中油型乳化物においては、前記リン脂質は乳由来のリン脂質であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のもう1つは、上記記載の方法で得られた起泡性水中油型乳化物に乳脂肪を含有させてホイップすることを特徴とするホイップドクリームの製造方法を提供するものである。
【0016】
本発明によれば、乳脂肪の風味が引き立ったホイップドクリームを提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の起泡性水中油型乳化物によれば、合成乳化剤を使用しなくても、ホイップタイムが短く、使用幅が広く、ホイップ時の状態が良好な起泡性水中油型乳化物を提供することができる。また、合成乳化剤を使用していないので合成乳化剤由来の異味がなく、風味に優れた起泡性水中油型乳化物を提供することができる。
【0018】
また、本発明によれば、合成乳化剤由来の異味がないため、乳脂肪の風味が引き立ったホイップドクリームを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、25~45質量%の油脂と、カゼイン塩を含む乳タンパク素材とを含有する起泡性水中油型乳化物であって、タンパク質を1.3質量%以下含有し、カゼイン塩由来のカリウム及びナトリウムの合計量に対する、カルシウム及びマグネシウムの合計量のモル比が、1.0~8.0であることを特徴とする。
【0020】
本発明の起泡性水中油型乳化物の油相を構成する油脂としては、食用に適するものであれば限定されず、例えば、なたね油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、コーン油、こめ油、大豆油、ヒマワリ油、パーム油、パーム軟質油、パーム核油、ヤシ油等の植物性油脂;ラード、牛脂、乳脂、魚油等の動物性油脂;及びそれらの水素添加油、分別油、エステル交換油等が挙げられる。これらの油脂は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
起泡性水中油型乳化物における油脂の含有量は25~45質量%であり、好ましくは27~40質量%、より好ましくは30~35質量%である。油脂の含有量が25質量%未満であると、クリームが起泡しにくくなり、保型性がなくなる傾向があり、45質量%を超えると、乳化が不安定となる傾向がある。
【0022】
また、本発明の起泡性水中油型乳化物に用いられる乳タンパク素材としては、例えば、生乳、牛乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、脱脂乳、脱脂粉乳、全粉乳、バターミルク、バターミルクパウダー、ホエイタンパク、トータルミルクプロテイン、ミルクプロテインコンセントレート、クリーム、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、酸カゼイン、レンネットカゼイン、カゼイン塩等が挙げられる。これらの乳タンパク素材は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
ここで、カゼイン塩とは、例えばカゼインカルシウム、カゼインマグネシウム、カゼインナトリウム、及びカゼインカリウム等が挙げられ、脱脂乳に酸を添加して沈殿分離させたタンパク質を水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等で中和、溶解し、噴霧乾燥して得られるものを云い、市販のものを用いてもよい。
【0024】
起泡性水中油型乳化物におけるタンパク質の含有量は1.3質量%以下であり、好ましくは0.2~1.2質量%、より好ましくは0.3~1.1質量%である。タンパク質の含有量が1.3質量%を超えると、ホイップに時間を要するので作業性が悪くなる傾向がある。なお、タンパク質の含有量の下限値は特に限定されないが、0.2質量%未満になると、起泡性水中油型乳化物の風味が乏しくなる傾向にある。
【0025】
なお、本発明において単に「タンパク質」と言う場合、乳タンパク素材由来のタンパク質に限られない意味である。
【0026】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、カゼイン塩由来のカリウム及びナトリウムの合計量に対する、カルシウム及びマグネシウムの合計量のモル比が1.0~8.0であり、好ましくは1.3~5.0、より好ましくは1.7~4.9である。モル比が1.0未満であると、ホイップに時間を要するので作業性が悪くなったり、ホイップの状態が悪くなったりする傾向がある。具体的には、撹拌しているときは適当な流動性を有しているが撹拌をやめると固まってしまう状態で、ホイップとして絞ろうとしても硬くて絞れない状態となる。一方、モル比が8.0を超えると、乳化が不安定でホイップ後のクリームの締りが顕著になったり、水中油型乳化物の製造時に乳化が壊れてしまう傾向がある。
【0027】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、リン脂質を含有してもよい。用いるリン脂質としては、特に限定されるものではなく、食品に使用できるリン脂質、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質、又はこれらのリゾ体等が挙げられる。
【0028】
このようなリン脂質を含有する食品素材として、乳、大豆、卵黄、菜種、コーン、ヒマワリ等由来のリン脂質(レシチン)又はそれらの酵素処理物(リゾレシチン)を用いることができるが、特に乳由来のリン脂質を用いることが好ましい。乳としては、牛、山羊、羊、馬、水牛等各種家畜の乳の他、母乳も用いることができる。
【0029】
リン脂質を含有する場合、起泡性水中油型乳化物におけるリン脂質の含有量は0.002~0.05質量%であることが好ましく、0.003~0.04質量%であることがより好ましい。リン脂質の含有量が0.002質量%未満であると、ホイップに時間を要するので作業性が悪くなる傾向があり、リン脂質の含有量が0.05質量%を超えると、しまりやすくなり作業性が悪くなる傾向にある。
【0030】
ここで、食品素材の固形分中のリン脂質の定量方法は、例えば、基準油脂分析試験法2.4.11-2013に従ってリン量を測定し、ステアロイルオレオイルホスファチジルコリン量として算出することができる。
【0031】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、上記に記載した油脂、乳タンパク素材(カゼイン塩を含む)、必要に応じてリン脂質からなる主原料と副原料とを混合する予備乳化工程、加熱殺菌工程、冷却工程、均質化工程、エージング工程等を経て調製される。
【0032】
予備乳化工程では、主原料と副原料とを、加熱、撹拌しながら添加、混合し乳化をする。この場合、油脂以外のものを水と混合し、次いで油脂を添加して混合する方法が好ましく採用される。乳化温度は、40~80℃が好ましく、50~75℃がより好ましい。予備乳化工程には、プロペラ等の撹拌機を保持する各種調合タンクを使用することができる。ここで副原料としては、本発明の効果を損なわない範囲で、調味料、タンパク質、香料、着色料、酸化防止剤、保存料、pH調整剤等を用いることができる。
【0033】
加熱殺菌工程は、乳化物を殺菌するために行うための工程であり、起泡性水中油型乳化物の品温が、好ましくは90~150℃、より好ましくは120℃~150℃の条件下で、好ましくは2~30秒間、より好ましくは4~15秒間行う。なお、殺菌装置は、特に限定されないが、例えばUHT滅菌装置や、HTST滅菌装置が好ましく用いられる。
【0034】
冷却工程は、間接冷却や蒸発冷却による方法で行うことができる。特に、間接冷却により冷却を行うことで、製造時の風味成分が散逸することによる風味劣化を抑制することができる。
【0035】
均質化工程は、一般的に知られている均質化装置を使用することができ、例えば、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーの様な高速せん断乳化釜、スタティックミキサー、インラインミキサー、バブル式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル、ディスパーミル等が挙げられる。
【0036】
エージング工程は、油脂類の結晶状態を安定化させ、適度な粘度に調整するための工程であり、好ましくは0~10℃、より好ましくは0~5℃の温度条件下で、好ましくは6~60時間、より好ましくは12~54時間静置することにより行う。
【0037】
このようにして得られた本発明の起泡性水中油型乳化物は、pH6.8~8.5であることが好ましく、pH6.9~8.0であることがより好ましい。pH6.8未満であると、乳化が不安定となり、pH8.5を超えると風味が悪くなる。なお、pHは、調整剤を使用することによって調整することができる。
【0038】
pH調整剤とは、食品に利用可能なpH調整剤であればよく、例えば炭酸カリウム(無水)、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。
【0039】
また、起泡性水中油型乳化物をホイップしたホイップドクリームは、乳脂肪を含むものでもよい。
【0040】
添加する乳脂肪の量は特に限定されず、最終的に得たいクリームの種類に合わせて適切な量を選択すればよい。また、乳脂肪の由来も特に限定されず、水相を含有しない乳脂肪を用いてもよいし、例えば、生乳、牛乳、加糖練乳、無糖練乳、全粉乳、バターミルクパウダー、生クリーム、純乳脂クリーム、生クリーム及び純乳脂クリームにコンパウンドクリームや純植脂クリームを混合したもの、チーズ、バター、バターやクリームを含有する各種調製品等、乳脂肪を含有する食品であってもよい。
【0041】
ホイップドクリームは、起泡性水中油型乳化物が乳脂肪を含有するものであってもよいが、起泡性水中油型乳化物に、更に生クリームや、純乳脂クリーム、生クリーム及び純乳脂クリームにコンパウンドクリームや純植脂クリームを混合したものを添加してホイップさせ、ホイップドクリームとしたものであることが好ましい。
【0042】
このような本発明の起泡性水中油型乳化物やホイップドクリームは、ケーキ、カップケーキ、パイ、アイスクリーム、ワッフル等の菓子や果物のトッピング用、フィリング用、練り込み用、調理用等として好適に使用することができる。
【0043】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、合成乳化剤を実質的に含有しなくても、乳化安定性、ホイップ性、保型性に優れている。「合成乳化剤を実質的に含有しない」とは、少なくとも意図的には合成乳化剤を含有させないこと、すなわち使用原料に由来して不可避的に混入する合成乳化剤以外には含有させないことを意味し、例えば0.01質量%以下とされる。
【0044】
ここで、合成乳化剤としては、蒸留モノグリセリド、反応モノグリセリド、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム及びポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等が挙げられる。
【0045】
また、本発明の起泡性水中油型乳化物は、リン酸塩及び/又はクエン酸塩を実質的に含有しなくても、乳化安定性、ホイップ性、保型性に優れている。ここで「リン酸塩及び/又はクエン酸塩を実質的に含有しない」とは、少なくとも意図的にはリン酸塩及び/又はクエン酸塩を含有させないこと、すなわち使用原料に由来して不可避的に混入するリン酸塩及び/又はクエン酸塩以外には含有させないことを意味し、例えば0.01質量%以下とされる。
【0046】
一般的に水中油型乳化物には、安定剤としてリン酸塩やクエン酸塩等が0.1~1質量%程度使用され、良好なホイップの物性(オーバーラン、作業性、キメ等)を得るためには不可欠とされている。しかしながら、リン酸塩やクエン酸塩は風味を損なうものである。
【0047】
更に、本発明の起泡性水中油型乳化物は、卵由来成分を実質的に含有しなくても、乳化安定性、ホイップ性、保型性に優れている。「卵由来成分を実質的に含有しない」とは、少なくとも意図的には卵由来成分を含有させないこと、すなわち使用原料に由来して不可避的に混入する卵由来成分以外には含有させないことを意味し、例えば0.01質量%以下とされる。このことにより、卵アレルギーを有する人でも、本発明の起泡性水中油型乳化脂やホイップドクリームを摂取することができる。
【実施例0048】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0049】
<試験例1>
(1)起泡性水中油型乳化物の調製
用いた原料の成分を表1に示した。
【0050】
カゼインCa、カゼインK、カゼインMgのミネラル量は原子吸光光度法にて測定した。
【0051】
また、カゼインCa、カゼインK、カゼインMg、バターミルクパウダー、全粉乳、脱脂粉乳のタンパク質量はケルダール分解法にて測定した。
【0052】
バターミルクパウダー及び油脂のリン脂質量は、基準油脂分析試験法2.4.11-2013に準じて測定し、ステアロイルオレオイルホスファチジルコリン量として算出した。
【0053】
カゼインCa、カゼインK、カゼインMg、バターミルクパウダー、全粉乳、脱脂粉乳の油分は油分水分計(TURBO SMART SYSTEM5、CEM社)を用いて測定した。
【0054】
なお、油脂としては、パーム系油脂と、ラウリン系油脂と、パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油との混合油脂を用いた。
【0055】
【0056】
上記の原料を用いて、表2,3に示す配合の起泡性水中油型乳化物を調製した。具体的には、水に、カゼインCa、カゼインK、カゼインMg、炭酸Na、バターミルクパウダー、全粉乳、脱脂粉乳、発酵乳、キサンタンガム、グアーガムを添加し、水相とした。この水相と、前記油脂からなる油相とを、それぞれ60℃に加温し、水相に油相を添加し攪拌して乳化した後、均質化し、加熱殺菌機で約142℃で殺菌した。得られた乳化物を冷却した。更に、5℃の温度条件下で、48時間エージングし、起泡性水中油型乳化物を得た。
【0057】
また、調製した起泡性水中油型乳化物に含まれる各成分の含有量を同じく表2,3に示した。
【0058】
【0059】
【0060】
(2)評価方法
上記で調製した実施例1~10、比較例1~4の起泡性水中油型乳化物を、下記基準に従って評価を行った。
【0061】
・ホイップタイム
ホバートミキサーN50、ワイヤーホイッパーを使用し、グラニュー糖を8%添加し、3速でホイップさせたときの時間をホイップタイムとした。
【0062】
・タイム評価
ホイップタイムからタイム評価を以下の基準で判定した。
◎:~2分29秒
〇:2分30秒~2分59秒
△:3分00秒~3分29秒
×:3分30秒~
【0063】
・使用幅
レオメータで測定した下記A,B値の差(A-B)を求め、この差(A-B)に基づいて下記評価基準によって評価した。
A:8分立ての状態+15secホイップした時の値
B:最適の硬さ(8分立ての状態)の値
◎:0~40(ひろい)
〇:40~50
△:50~60
×:60~(せまい)
【0064】
・ホイップ時状態(口金で絞ったときの形状外観)
表4,5に直接評価を記載した。
【0065】
(3)結果
結果を表4,5に示した。表4,5に示されるように、油脂含量や、タンパク含量や、Ca+Mg/K+Naのモル比が、本発明で規定する範囲に入るものは、いずれも、ホイップタイムが比較的短く、使用幅も問題のない範囲にあり、ホイップ時状態が良好であった。
【0066】
一方、タンパク質が1.3質量%を超える比較例1は、ホイップタイムが長く、ホイップ時にダレを生じた。
【0067】
また、Ca+Mg/K+Naのモル比が1未満である比較例2は、ホイップ時間が長く、ホイップ時の状態も荒れていた。
【0068】
更に、Ca+Mg/K+Naのモル比が8をはるかに超える比較例3は、乳化不安定であった。
【0069】
更に、Ca+Mg/K+Naのモル比が8をわずかに超える比較例4は、ホイップ時の使用幅が狭かった。
【0070】
【0071】