IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成ワッカーシリコーン株式会社の特許一覧

特開2023-168633熱伝導性シリコーン組成物および該組成物を使用するギャップフィラーの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168633
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物および該組成物を使用するギャップフィラーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20231116BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20231116BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231116BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/013
C08K5/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023174889
(22)【出願日】2023-10-10
(62)【分割の表示】P 2023547179の分割
【原出願日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2021162258
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021162261
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021162279
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺下 なづ菜
(72)【発明者】
【氏名】酒井 和哉
(72)【発明者】
【氏名】内田 大志
(72)【発明者】
【氏名】淺川 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐介
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆司
(57)【要約】
【課題】 本発明は、貯蔵安定性が良好で、発熱体や放熱体等の基材に対して振動条件下においても良好な接着性を維持することが可能であり、熱伝導率が高いことにより放熱特性に優れる熱伝導性部材(ギャップフィラー)を与える熱伝導性シリコーン組成物を提供することを課題とする。本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物は、 (A) アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、 (B) ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンと、 (C) メトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および (C-2)前記有機ケイ素化合物(C-1)の加水分解物と、から選択される少なくとも1種と、 (D)付加触媒と、 (E)熱伝導性フィラーと、 (F)縮合触媒と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C) (C-1)メトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および
(C-2)前記有機ケイ素化合物(C-1)の加水分解物と、から選択される少なくとも1種と、
(D)付加触媒と、
(E)熱伝導性フィラーと、
(F)縮合触媒と、を含む、熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記(F)縮合触媒が、アルコキシ基含有金属キレート化合物を含む、請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
(G) 重合度が4以上10以下である環状水素化シロキサンをさらに含む、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物であって、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、
前記(C)成分を0.2質量部以上5.0質量部以下と、
前記(D)成分を触媒量と、
前記(E)成分を300質量部以上2,000質量部以下と、
前記(F)成分を触媒量と、を含み、
前記(B)成分の含有量は、(A)成分中のアルケニル基の個数に対する(B)成分中のヒドロシリル基の個数の比が1/5~7となる範囲である、熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、
前記(G)成分を0.01質量部以上2.0質量部以下含む、請求項3に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項6】
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、
(H) 疎水性シリカ 0.05質量部以上10.0質量部以下をさらに含む、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項7】
前記(A)成分中の5質量%以上20質量%以下が、分子鎖末端に少なくとも1個のシラノール基を有するアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンである、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項8】
前記(E)成分は酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、および窒化ホウ素から選択される少なくとも1種である、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項9】
前記熱伝導性シリコーン組成物は、硬化後に、熱伝導率が2.0 W/m・K以上であり、下記引張せん断接着変位測定試験により測定される変位が0.3mm以上である硬化物を与えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
<引張せん断接着変位測定試験>
熱伝導性シリコーン組成物を縦25mm×横25mmの塗布面積、厚み0.6mmなるようにアルミニウム製試験片と、カチオン電着塗装された鉄製試験片とで挟み、23℃の温度下で24時間硬化させて、引張せん断接着試験用試験片を得る。
前記引張せん断接着試験用試験片をJIS K6850に準拠した方法により引張せん断接着試験を行い、SーS曲線グラフを得る。
前記SーS曲線グラフにおいて、最大の応力となる点のストローク量を、各引張せん断接着試験用試験片に対応するシリコーン組成物の硬化物の変位とする。
【請求項10】
請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物を製造する方法であって、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(D)付加触媒と、
(E)熱伝導性フィラーと、
(F)縮合触媒と、を混合して第1液を得る第一工程と、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B) ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C) (C-1)メトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および (C-2)前記有機ケイ素化合物(C-1)の加水分解物と、から選択される少なくとも1種と、
(E)熱伝導性フィラーと、を混合して第2液を得る第二工程と、
を含む、2液型熱伝導性シリコーン組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の2液型熱伝導性シリコーン組成物を使用して、カチオン電着塗装により少なくとも一部を被覆された鉄表面を有するバッテリーユニット筐体と、アルミニウム表面を有する冷却器との間に配置されるギャップフィラーを製造する方法であって、
前記第1液と前記第2液とを混合して熱伝導性シリコーン組成物を得る混合工程と、
前記バッテリーユニット筐体および前記冷却器の少なくとも一方に前記熱伝導性シリコーン組成物を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で塗布された未硬化の熱伝導性シリコーン組成物を15℃以上60℃以下の温度で、硬化工程と、
を有するギャップフィラーの製造方法。
【請求項12】
熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の、金属またはカチオン電着塗料を塗布した金属表面への振動条件下における接着性を向上させ、かつ熱伝導性シリコーン組成物の貯蔵安定性を向上させる方法であって、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサン、および
(D)付加触媒
を含む前記熱伝導性シリコーン組成物に
(C) (C-1)メトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および
(C-2)前記有機ケイ素化合物(C-1)の加水分解物と、から選択される少なくとも1種と、
(F)縮合触媒と、を配合することを特徴とする、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性フィラーとメトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および該有機ケイ素化合物の加水分解物から選択される少なくとも1種と、縮合触媒とを含有する熱伝導性シリコーン組成物及び該組成物を使用するギャップフィラーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の小型化、高性能化、高出力化に伴い、放出される熱エネルギーが増大し、電子部品の温度は上昇する傾向にある。また、近年は電気自動車の普及に伴い、高性能バッテリーの開発が進められている。このような背景から、電子部品やバッテリー等の発熱体が発する熱をヒートシンクなどの放熱部材に伝えるための放熱性シリコーン製品が多く開発されている。
【0003】
放熱性シリコーン製品は、放熱シート等のシート状で提供されるものと、ギャップフィラー、放熱オイルコンパウンド、放熱グリース等の液状またはペースト状で提供されるものとに大別できる。
放熱シートは、熱伝導性シリコーン組成物をシート状に硬化させた、柔軟で高熱伝導性のシリコーンゴムシートである。そのため、簡便に設置することが可能で、部品表面に密着して放熱性を高める特徴がある。しかし、複雑な形状の部品あるいは表面粗さの大きな素材に放熱シートが追随できず、界面に微小な空隙が生じる恐れがある。
一方でギャップフィラーは、液状またはペースト状の熱伝導性シリコーン組成物を発熱体または放熱体に直接塗布し、塗布後に硬化させることにより得られる。このため、複雑な凹凸形状に適用された場合にもその空隙を埋め、高い放熱効果を発揮する利点がある。
【0004】
ギャップフィラーがより高い放熱効果を発揮するためには、ギャップフィラーの熱伝導性を向上させ、かつ、発熱体や放熱体とギャップフィラーとの接触界面の密着性・接着性を向上させることが必要である。
【0005】
例えば、特許文献1では、熱伝導性及び耐水性に優れ、かつ実装時の密着性も良好な放熱部材として用いられる熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物を提供することを課題とし、オルガノポリシロキサンをベースポリマーとし、窒化アルミニウムと破砕状アルミナとを含み、破砕状アルミナを合計で熱伝導性シリコーン組成物中60~95質量%含有することにより課題を解決している。ここで、当該組成物は100℃~140℃の温度で硬化されることが開示されている。
しかしながら、振動条件下において接着性を発現させることについての開示や示唆はなかった。また、高温での加熱硬化が必要である点は車載バッテリーの放熱材に不向きであり、熱伝導性シリコーン組成物の施工や硬化を常温で行った場合でも、その特性が発揮されることについての開示や示唆はなかった。
【0006】
特許文献2には、エラストマーに液状のエポキシ樹脂を含有させることで、反りが抑制されるとともに低温での金属層に対する密着強度に優れる絶縁層を得ることが開示されている。しかし、高温での加熱硬化が必要であるため、車載バッテリーの放熱材には不向きである。振動条件下において接着性を発現させることについての開示や示唆もなかった。
【0007】
特許文献3には所定の粒径を有する銀粉にエポキシ樹脂等のバインダ樹脂と硬化剤を配合することにより密着性が向上することを開示する。ここでも加熱硬化が必要であることから、車載バッテリーの放熱材には不向きである。振動条件下において接着性を発現させることについての開示や示唆もなかった。
また、フィラーに銀粉を使用することから高価であり、絶縁性を求められる用途には不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-210518号公報
【特許文献2】特開2019-038969号公報
【特許文献3】再表2019/189512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年では、電気自動車に搭載されたバッテリーが何らかの車体の振動に伴い、バッテリーユニット筐体又は冷却器の界面に塗布したギャップフィラーが経時的にはがれたり、また、バッテリーユニット筐体または冷却器の表面とギャップフィラーとの界面に空隙が生じたりするという問題があった。そのため、振動条件下においても良好な接着性を有するギャップフィラーを形成するための熱伝導性シリコーン組成物が求められている。また熱伝導性シリコーン組成物には長期にわたる貯蔵安定性も必要とされる。
【0010】
以上の背景から、本発明は、貯蔵安定性が良好で、発熱体や放熱体等の基材に対して振動条件下においても良好な接着性を維持することが可能であり、熱伝導率が高いことにより放熱特性に優れる熱伝導性部材(ギャップフィラー)を与える熱伝導性シリコーン組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、オルガノポリシロキサンを含む熱伝導性シリコーン組成物においてメトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および該有機ケイ素化合物の加水分解物から選択される少なくとも1種と、縮合触媒とを配合することにより、本発明の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C) (C-1)メトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および
(C-2)前記有機ケイ素化合物(C-1)の加水分解物と、から選択される少なくとも1種と、
(D)付加触媒と、
(E)熱伝導性フィラーと、
(F)縮合触媒と、を含む、熱伝導性シリコーン組成物である。
【0013】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物(以下、単に組成物ともいう)は、発熱体や冷却器等の基材表面に配置される熱伝導性部材を形成するための組成物であればよく、熱伝導性部材の形態としては例えばギャップフィラーが挙げられる。
【0014】
本発明の熱伝導充填剤含有の硬化性シリコーン組成物は、熱伝導性が高く、従来のように高温硬化および/または高温処理を経ずとも硬化し、その硬化物が振動条件下であっても実用上十分な接着強度をもって金属、有機樹脂等の基材への接着性を発現させることができる。従って、振動条件下であっても基材表面からはがれたり、基材との界面に空隙を発生させることが少なく、放熱特性が良好な熱伝導性部材(ギャップフィラー)を得ることが可能である。
【0015】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物においては、(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンとが、(D)付加触媒存在下で架橋反応する。架橋反応による硬化は常温下でも良好に進行する。架橋反応により構築されたネットワーク構造中に(E)熱伝導性フィラーが分散されていることにより、熱伝導性が良好な熱伝導性部材が形成される。
【0016】
さらに、本発明においては、(C) (C-1)メトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および(C-2)前記有機ケイ素化合物(C-1)の加水分解物と、から選択される少なくとも1種が加水分解してシラノールを生成する。生成したシラノールは、各種基材の表面に存在する縮合性基(例えば、水酸基、アルコキシ基、酸基等)と反応・結合する。その際、(F)縮合触媒により、(C)成分の加水分解およびシラノール生成が促進され、さらには(C)成分のシラノールと基材の縮合性基との反応・結合が促進され、その結果、常温下でも硬化性シリコーン組成物の各種基材への接着が良好に進行する。
【0017】
(C)成分は上記ネットワーク構造中に分散しており、(E)成分の表面にある水酸基との脱水縮合反応により(E)成分の表面の一部または全体を被覆する。これにより、ネットワーク中への(E)の分散性が向上する。
すなわち(C)成分は基材との縮合反応と、(E)熱伝導性フィラーの表面被覆の両方に寄与し、基材と反応した(C)成分が(E)の表面とも相互作用することにより、(A)成分、(B)成分、(D)成分を含む硬化物全体を基材表面に接着させる。
【0018】
また、上記の(A)、(B)および(D)成分によるネットワーク中に(C)および(E)成分が分散し、各成分が相互作用により一体となっている本願の熱伝導性シリコーン組成物は、硬化して、良好なゴム強度(引張強度と伸び)を有する硬化物を与えることが分かった。
【0019】
以上述べたように、本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物は、硬化により、基材表面に対して良好な接着性を発現し、かつ、良好な引張強度を有する熱伝導性部材を形成することが可能である。このような熱伝導性部材は、高い引張せん断接着変位と高い引張せん断接着応力を示す。従って、基材が振動する条件下においても、熱伝導性部材が基材からはがれたり、基材との間に空隙が発生する現象が抑制され、振動条件下においても良好な放熱特性を維持することが可能である。
【0020】
さらに、上記の熱伝導性シリコーン組成物は、貯蔵安定性にも優れ、2液型の熱伝導性シリコーン組成物を未硬化の状態で(すなわち、第1液と第2液とを混合しない状態で)1週間貯蔵後にも、振動条件下で良好な接着性を示すことが分かった。
【発明の効果】
【0021】
本発明の組成物は、貯蔵安定性が良好で、一定期間(例えば、40℃の温度下に7日間貯蔵する場合である)貯蔵後も発熱体や放熱体等の基材表面に対して振動条件下においても良好な接着性を維持することが可能であり、かつ、熱伝導率が高いことにより放熱特性に優れる硬化物(ギャップフィラー)を与えることができるため、ギャップフィラー製造用熱伝導性シリコーン組成物として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明に係る、熱伝導性シリコーン組成物、該熱伝導性シリコーン組成物の製造方法、該熱伝導性シリコーン組成物を用いた硬化物(ギャップフィラー)の製造方法、および該ギャップフィラーの特性を向上させる方法の詳細を説明する。
【0023】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物は、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C) (C-1)メトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および
(C-2)前記有機ケイ素化合物(C-1)の加水分解物と、から選択される少なくとも1種と、
(D)付加触媒と、
(E)熱伝導性フィラーと、
(F)縮合触媒と、を含む。
【0024】
上記の熱伝導性シリコーン組成物は、貯蔵安定性が良好であり、熱伝導性シリコーン組成物が未硬化の状態で7日間貯蔵された後に基材に塗布され、硬化させた場合であっても、製造された直後に硬化させた場合と同様に高い引張せん断接着応力(後述の引張せん断接着応力測定試験において、24時間および7日間貯蔵後に0.10MPa以上を示すことである)と、高い引張せん断接着変位(引張せん断接着変位測定試験における最大応力時における変位が24時間および7日間貯蔵後に0.30mm以上を示すことである)を示す。このため、基材が振動する環境下にあっても、硬化物が基材からはがれたり、基材との界面に空隙を発生させたりする現象が抑制され、良好に接着することが可能であり、その結果、振動条件下においても良好な放熱特性を維持することが可能である。
【0025】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性部材を形成するための組成物であればよく、熱伝導性部材としては例えば車のバッテリー等の発熱体や、発熱体を被覆するフィルム上に適用されるギャップフィラーや放熱シート等が挙げられる。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、その硬化前に液体状態で基材に塗布され、塗布後に硬化させて熱伝導性部材を与えるものであってもよく、硬化させて得られた熱伝導性部材を基材に適用する物であってもよい。
【0026】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物の硬化のための温度や手順等は、得られる硬化物の用途等に応じて適宜選択することができ、限定されない。本発明は、常温環境下でしか使用できない場合でも十分な性能、すなわち十分な硬化性、振動条件下における基材への接着性を発揮する熱伝導性シリコーン組成物を提供できることを特徴としているが、高温環境が許容される場合では、そのような環境での硬化を妨げるものではない。
【0027】
熱伝導性シリコーン組成物の硬化方式は付加反応型であることが好ましい。室温から150℃程度に至るまでの様々な温度範囲で硬化を制御できること、体積変化や脱離ガスが少ないこと、熱伝導充填剤とのなじみが一般によいことなどが主な理由である。硬化温度は、一般には高い方が硬化は速いが、本発明では、用途に応じた種々の制約により熱伝導性シリコーン組成物を適用する工程、硬化する工程、さらに後工程の、一部または全部が常温の工程が必要である場合を想定しており、それに合わせた適切な硬化温度を設定することができる。用途として接着性が求められる場合は、一般的には、ケイ素原子に結合している水素原子を含有するジオルガノポリシロキサンが接着性に寄与する場合が多いので、その意味でも付加反応型の硬化方式が好ましい。
【0028】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物の硬化方式が、付加反応型である場合について、以下、熱伝導性シリコーン組成物の各成分について詳細に説明する。
【0029】
((A)成分)
(A)成分は、熱伝導性組成物の主剤であり、ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンである。
(A)成分の粘度や重合度は特に限定されず、要求される熱伝導性組成物の混合粘度等に応じて選択することができ、例えば25℃における粘度が10mPa・s以上10,000mPa・s以下であってもよい。
ジオルガノポリシロキサンは、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これは、熱伝導性組成物の主剤であり、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に平均して、少なくとも2個、好ましくは2~50個、より好ましくは2~20個有するものである。
【0030】
(A)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状構造、一部分岐を有する直鎖状構造、分岐鎖状構造、環状構造、分岐を有する環状構造であってもよい。(A)成分は、このうち、実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサンであることが好ましく、具体的には、分子鎖が主にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであってもよい。分子鎖末端の一部または全部、または側鎖の一部がシラノール基であってもよい。
【0031】
(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の位置は特に制限されず、(A)成分は、分子鎖両末端にケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンであってもよい。分子鎖両末端にアルケニル基を1つずつ有するオルガノポリシロキサンであれば、架橋反応の反応点となるアルケニル基含有量が少なく、硬化後に得られるギャップフィラーの柔軟性が高められるという利点がある。
【0032】
アルケニル基は分子鎖末端のケイ素原子又は分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子のどちらか一方にのみ結合していてもよいし、これら両者に結合していてもよい。
また、(A)成分は、単一のシロキサン単位からなる重合体であっても、2種以上のシロキサン単位からなる共重合体であってもよい。
【0033】
(A)成分の25℃における粘度は、10mPa・s以上10,000mPa・s以下であり、20mPa・s以上5,000mPa・s以下が好ましく、30mPa・s以上2,000mPa・s以下がさらに好ましい。
上記粘度範囲であれば、得られる熱伝導性組成物の適度な流動性が得られるため、吐出性が高く、生産性を高めることが可能になる。また、熱伝導性組成物を硬化して得られる熱伝導性部材の柔軟性を高くすることが可能になる。
【0034】
液状組成物を混合して得られる熱伝導性組成物の硬化前の粘度(混合粘度)調整のため、粘度の異なる2種類以上のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンを用いることもできる。
熱伝導性シリコーン組成物の適度な流動性と、該組成物を硬化して得られる熱伝導性部材の柔軟性を確保するためには、25℃における粘度100,000mPa・s以上のジオルガノポリシロキサンを含まないことがより好ましく、粘度 50,000mPa・s以上のジオルガノポリシロキサンを(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに0.1質量部以上含まないことがさらにより好ましい。
【0035】
具体的には、(A)成分は、平均組成式が下記一般式(1)で表される。
R1 aSiO(4-a)/2 (1)
(ただし、式(1)中、R1は、互いに同一または異種の炭素数1~18の非置換のまたは置換された一価炭化水素基である。aは1.7~2.1である。また、aは好ましくは1.8~2.5、より好ましくは1.95~2.05である。)
【0036】
一つの実施形態において、上記R1で示される一価炭化水素基のうち、少なくとも2個以上はビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などのアルケニル基から選ばれ、それ以外の基は、炭素数1~18の置換または非置換の一価炭化水素基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基などのアラルキル基や、これらの炭化水素基中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子、シアノ基などによって置換されたクロロメチル基、2-ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、シアノエチル基などのハロゲン置換アルキル基やシアノ置換アルキル基などから選ばれる。
【0037】
R1の選択にあたって、2個以上必要なアルケニル基としてはビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、2ーメチルー1ープロペニル基、2ーメチルアリル基、2ーブテニル基が好ましく、ビニル基が特に好ましい。アルケニル基以外のR1としてはメチル基およびフェニル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。また、全R1中の70モル%以上がメチル基であることが、硬化物の物性および経済性などの点で好ましく、通常はメチル基が80モル%以上のものが用いられる。
【0038】
(A)成分の分子構造としては、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサンコポリマー、式:(CH3)2ViSiO1/2で示されるシロキサン単位、式:(CH3)3SiO1/2で示されるシロキサン単位、式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン(式中のViは、ビニル基を表す)、これらのオルガノポリシロキサンのメチル基の一部または全部をエチル基、プロピル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;3,3,3-トリフルオロプロピル基などのハロゲン化アルキル基で置換したオルガノポリシロキサン、およびこれらのオルガノポリシロキサンの2種類以上の混合物が例示されるが、分子鎖長の増長によって硬化物の切断までの伸びを高める観点から、直鎖状のジオルガノポリシロキサンで分子鎖両末端にビニル基を有するものが好ましい。
【0039】
(A)成分中の5質量%以上20質量%以下が、分子鎖末端に少なくとも1個のシラノール基を有するアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンであってもよい。熱伝導性シリコーン組成物が、後述の(H)疎水性シリカを含む場合には、分子鎖末端にシラノール基を有する(A)成分を配合することにより、フィラー((E)熱伝導性フィラーとシリカ等の熱伝導性フィラー以外のフィラーを含む)の、熱伝導性シリコーン組成物中における貯蔵中の沈降を抑制することが可能となる。
例えば、上記熱伝導性シリコーン組成物を40℃の温度下で6か月保管したときの、熱伝導性シリコーン組成物の上部と下部の比重差は0.2以内である。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物を2液型として貯蔵する場合には、シラノール基を有するアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンは、付加触媒(D)および縮合触媒(F)を含まない第2液に配合することがより好ましい。
【0040】
これらのジオルガノポリシロキサンは市販のものを使用してもよく、また当業者に公知の方法で製造されたものを使用してもよい。
【0041】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物中、(A)成分および前記(B)成分の合計量を100質量部としたときの、(A)成分のオルガノポリシロキサンの含有量は、2質量部以上90質量部未満であることが好ましく、10質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。上記範囲内であれば、熱伝導性組成物全体の粘度が適切な範囲となり、適度な流動性を有することにより、作業性や吐出性が良好になる。
【0042】
((B)成分)
(B)成分は、ケイ素原子に結合している水素原子を2個以上有するジオルガノポリシロキサンである。
(B)成分の粘度や重合度は特に限定されず、要求される熱伝導性組成物の混合粘度等に応じて選択することができ、例えば25℃における粘度が10mPa・s以上10,000mPa・s以下であってもよい。
(B)成分は1分子中にケイ素原子に結合している水素原子を2個含有するジオルガノポリシロキサンであり、本発明の熱伝導性組成物を硬化させるための架橋剤の役割を果たす成分である。
【0043】
ケイ素原子に結合している水素原子の数は2個以上であれば結合箇所は特に限定されず、2個以上4個以下であってもよい。直鎖状の(B)成分の分子鎖両末端に各1個のケイ素原子に結合している水素原子を有することが特に好ましく、分子中の1つのケイ素原子に結合している水素原子数が2個であってもよい。
(B)成分の水素含有量は特に限定されないが、本発明の熱伝導性シリコーン組成物を硬化して得られる熱伝導性部材に実用上十分な伸びを与えるためには、(B)成分の水素含有量は0.01mmol/g以上2.0mmol/g以下であることが好ましく、0.05mmol/g以上1.0mmol/g以下であることがより好ましく、0.4mmol/g以上0.8mmol/g以下であることがさらにより好ましい。
【0044】
(B)成分は、1分子中にケイ素原子と結合している水素原子(ヒドロシリル基)を2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであればいかなるものでもよく、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー、メチルフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー、環状メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルハイドロジェンシロキシ単位とSiO4/2単位からなるコポリマーが用いられる。(B)成分は、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
(B)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐状、環状、又は三次元網状構造のいずれのものであってもよいが、具体的には、下記平均組成式(2)で示されるものを用いることができる。
R3 pHqSiO(4-p-q)/2 (2)
(式中、R3は脂肪族不飽和炭化水素基を除く、非置換又は置換の一価炭化水素基である。またpは0~3.0、好ましくは0.7~2.1、qは0.0001~3.0、好ましくは0.001~1.0で、かつp+qは0.5~3.0、好ましくは0.8~3.0を満足する正数である。)
【0046】
式(2)中のR3としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の、脂肪族不飽和結合を除く、通常、炭素数1~10、好ましくは1~8程度の非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基等が例示され、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0047】
(B)成分としては、具体的には、例えば1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、H(CH3)2SiO1/2単位とSiO2単位との共重合体、H(CH3)2SiO1/2単位と(CH3)3SiO1/2単位とSiO2単位との共重合体や、これらのオルガノハイドロジェンシロキサンの2種以上の混合物等が例示できる。
【0048】
上記シリコーン組成物中、(B)成分の含有量は、(A)成分中のアルケニル基に対する(B)成分中のヒドロシリル基の個数の比が2/5~7となる範囲であることが好ましく、1/2~2となる範囲であることがより好ましく、2/5~5/4の範囲であることがさらにより好ましい。上記範囲内であれば熱伝導性シリコーン組成物が十分に硬化し、熱伝導性組成物全体の硬さがより好適な範囲となり、ギャップフィラーとして使用する場合に割れが生じにくくなるほか、柔軟性、接着性を兼ね備え、引張せん断接着応力、引張せん断接着変位が優れるという利点がある。
【0049】
(B)成分中のヒドロシリル基は、分子鎖末端にあってもよく、側鎖にあってもよく、分子鎖末端と側鎖の両方にあってもよい。分子鎖末端にのみヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、分子鎖側鎖にのみヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを混合して使用してもよい。
【0050】
(B)成分は、分子鎖両末端にのみケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンであってもよい。分子鎖両末端にヒドロシリル基を1つずつ有するオルガノポリシロキサンであれば、ヒドロシリル基含有量が少なく、硬化後に得られる熱伝導性部材の柔軟性が高まり、基材との密着性をより高められるという利点がある。
分子鎖末端にのみヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、立体障害が少ないことから反応性が高いという利点があり、側鎖にヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは架橋反応によりネットワーク構築に寄与するため強度を向上させるという利点がある。硬化後の熱伝導性部材に柔軟性を付与するためには、分子鎖末端にのみヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用するのが好ましい。
【0051】
(B)成分は、接着性および耐熱性向上の観点からは、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基を有するもので、分子中に芳香族の基を分子中に少なくとも1個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含むこともできる。経済的な理由により芳香族の基としてはフェニル基であることがより好ましい。芳香族基含有オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、芳香族基を含まないオルガノハイドロジェンポリシロキサンを混合して用いることもできる。
【0052】
(B)成分の25℃における粘度は、10mPa・s以上10,000mPa・s以下であり、20mPa・s以上5,000mPa・s以下が好ましく、30mPa・s以上2,000mPa・s以下がさらに好ましい。
最終的な生成物である熱伝導性組成物の粘度調整のため、粘度の異なる2種類以上の、水素原子を有するジオルガノポリシロキサンを用いることもできる。ギャップフィラー組成物の混合粘度は10 Pa・s以上1,000Pa・s以下の範囲であってもよく、20 Pa・s以上500Pa・s以下の範囲であればより好ましく、30 Pa・s以上250Pa・s以下の範囲であればさらにより好ましい。
【0053】
本発明の熱伝導性組成物中、(A)成分および(B)成分の合計量を100質量部としたときの(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの含有量は、10質量部以上98質量部未満であることが好ましく、20質量部以上90質量部未満であることがより好ましい。
また、(B)成分の含有量は、(A)成分中のアルケニル基の個数に対する(B)成分中のヒドロシリル基の個数の比が1/5~7となる範囲とすることができる。
上記範囲内であれば、熱伝導性組成物の硬化後の硬さが適切な範囲となり、硬化後の熱伝導性部材は優れた引張せん断接着応力、引張せん断接着変位を有することができる。
【0054】
((C)成分)
(C)成分はバッテリーユニット筐体や冷却器等の基材への熱伝導性部材の接着性を向上させたり、熱伝導性部材に引張強度や伸びを与えるために、後述の(F)成分と共に配合される成分である。
(C)成分は(C-1)メトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および(C-2)前記有機ケイ素化合物(C-1)の加水分解物と、から選択される少なくとも1種を含む。
(C-1)成分として、エポキシ基を含む化合物も使用することが可能である。その場合、(C-1)はエポキシ基、メトキシ基、およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物である。
【0055】
(C-1)成分としては、例えばメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシランが挙げられる。
(C-2)成分としては、前記(C-1)成分の加水分解物が挙げられる。
(C-1)成分としてはテトラエトキシシランが最も好ましく、(C-2)成分としてはテトラエトキシシランの加水分解物が最も好ましい。
【0056】
(C)成分は特に限定されず、公知のものを適宜利用することができ、例えば、Wacker Chemie AGからは、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラエトキシシランのオリゴマーが入手可能である。
【0057】
(C)成分としては、(C-1)成分のみ、または(C-2)成分のみを含むものであってもよいが、(C-1)成分および(C-2)成分の両方を含むものであってもよい。
【0058】
(C-1)成分または(C-2)成分として、それぞれ1種の化合物を使用してもよく、2種以上の混合物を使用することもできる。
【0059】
(C)成分は、(F)縮合触媒の存在下で加水分解反応によりシラノールを生成する。生成したシラノールは、バッテリーユニット筐体や冷却器等の基材表面に存在する縮合性基と反応・結合することにより、熱伝導性シリコーン組成物が硬化して得られる熱伝導性部材に接着性を付与する。
また、(C)成分は(E)熱伝導性フィラーの表面にある水酸基との脱水縮合反応により、(E)成分の表面の一部または全体を被覆する。これにより(E)成分の分散性が向上し、熱伝導性シリコーン組成物中で経時的に(E)熱伝導性フィラーが沈降する現象を抑制する。
したがって、(C)成分を配合しない場合と比較して、振動条件下においても基材への接着性が良好であり、熱伝導性シリコーン組成物を長期間保管しても、組成物中での成分の偏りが少なく、長期にわたり安定した品質の熱伝導性部材を得ることが可能となる。
【0060】
熱伝導性フィラーの表面処理に(C)成分を使用する場合、一般的には(C)成分を溶剤に溶解または分散させて、熱伝導性フィラーを混合し、加熱・乾燥させる方法が採用される。本発明においても加熱・乾燥により(E)熱伝導性フィラーの表面に(C)成分を被覆させることが可能であるが、加熱・乾燥の工程を実施しなくても被覆させることができる。
すなわち、本発明では、加熱工程や(C)成分の溶解または分散工程を経なくとも、常温(例えば23℃である)で(A)~(F)成分を混合するだけで、(E)熱伝導性フィラーの表面に(C)成分を被覆させることが可能であるが、加熱・乾燥の工程を実施しなくても被覆させることができる。混合の順序も問わず、(C)成分と(E)成分を予め混合したのちに、それ以外の成分の混合物中に導入してもよく、(E)成分を含む混合物中に(C)成分を導入してもよく、(C)成分を含む混合物中に(E)成分を導入してもよい。
このように各成分の混合順序の自由度が高く、加熱工程が不要であるため、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は簡易なプロセスにより製造可能である。
【0061】
ここで基材としてはガラス、金属、セラミックス、および樹脂から選択される1種以上であってもよい。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物が接着する金属基材は、アルミニウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、チタン、ステンレス、銅、鉛、亜鉛、モリブデン、シリコンから選択される金属基材であることが好ましい。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物が接着するセラミックス基材は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、アルミナジルコニア、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化ベリリウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、などそのほか、酸化物、炭化物、窒化物であることが好ましい。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物が硬化して接着する樹脂基材は、ポリエステル、エポキシ、ポリアミド、ポリイミド、エステル、ポリアクリルアミド、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、スチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、アクリル、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびシリコーンから選択される樹脂基材であることが好ましい。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物が硬化して得られる熱伝導性部材が、バッテリーユニット用ギャップフィラーである場合、接着する基材であるバッテリーユニット筐体は、基材表面がカチオン電着塗装により少なくとも一部を被覆された鉄表面を有してもよく、ヒートシンクとしてはアルミニウム表面有してもよい。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物はカチオン電着塗装により被覆された鉄表面とアルミニウム表面との間を埋めるように注入され、硬化することによりギャップフィラーを与える。当該ギャップフィラーはバッテリーユニット筐体が振動する条件下においてもバッテリーユニット筐体表面とヒートシンク表面の双方に良好に接着する。
【0062】
(C)成分の配合量は、(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、0.2質量部以上5.0質量部以下となる範囲である。0.3質量部以上3.0質量部以下であればより好ましく、0.5質量部以上1.0質量部以下であれば、さらにより好ましい。上記範囲であれば、振動条件下においても熱伝導性シリコーン組成物が硬化後に良好に基材に接着可能である。また、貯蔵安定性にも優れ、2液型の熱伝導性シリコーン組成物を未硬化の状態で(すなわち、第1液と第2液とを混合しない状態で)1週間貯蔵後にも、振動条件下で良好な接着性を維持可能である。
【0063】
((D)成分)
(D)成分の付加触媒は、上述した(A)成分におけるケイ素原子に結合しているアルケニル基と、上述した(B)成分におけるケイ素原子に結合している水素原子との付加硬化反応を促進する付加触媒であって、当業者には公知の触媒である。(D)成分としては白金、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、ルテニウムなどの白金族金属、または、これらを微粒子状の担体材料(例えば、活性炭、酸化アルミニウム、酸化ケイ素)に固定したものが挙げられる。
さらに、(D)成分としては、白金ハロゲン化物、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金-アルコラート錯体、白金-ビニルシロキサン錯体、ジシクロペンタジエン-白金ジクロライド、シクロオクタジエン-白金ジクロライド、シクロペンタジエン-白金ジクロライド等の白金化合物が挙げられる。
【0064】
また、経済的な観点から、上述したような白金族金属以外の金属化合物触媒を(D)成分として用いてもよい。例えば、ヒドロシリル化鉄触媒としては、鉄-カルボニル錯体触媒、シクロペンタジエニル基を配位子として有する鉄触媒、ターピリジン系配位子や、ターピリジン系配位子とビストリメチルシリルメチル基を有する鉄触媒、ビスイミノピリジン配位子を有する鉄触媒、ビスイミノキノリン配位子を有する鉄触媒、アリール基を配位子として有する鉄触媒、不飽和基を有する環状または非環状のオレフィン基を有する鉄触媒、不飽和基を有する環状または非環状のオレフィニル基を有する鉄触媒である。その他、ヒドロシリル化のコバルト触媒、バナジウム触媒、ルテニウム触媒、イリジウム触媒、サマリウム触媒、ニッケル触媒、マンガン触媒などが例示される。
【0065】
(D)成分の配合量は用途により所望される硬化温度や硬化時間に応じた有効量が用いられるが、通常、熱伝導性シリコーン組成物の合計質量に対して、触媒金属元素の濃度として好ましくは0.5ppm以上1,000ppm以下、より好ましくは1ppm以上500ppm以下、より一層好ましくは1ppm以上100ppm以下の範囲である。配合量が0.5ppm未満の場合は、付加反応が著しく遅くなり、一方、配合量が1,000ppmを超えるとコストが上昇するため経済的に好ましくない。
【0066】
((E)成分)
(E)成分の熱伝導性フィラーは、熱伝導性組成物の熱伝導率を向上させるための充填材成分である。本発明で使用される熱伝導性フィラーは、熱伝導性を有するフィラーであれば特に限定されず、例えば金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、および金属炭化物の中から選択される少なくとも1種または2種以上であることができる。
電子基板等に適用するための絶縁性の高いギャップフィラーを得るためには、(E)熱伝導性フィラーは熱伝導性のみならず絶縁性にも優れた材料を使用することが好ましい。
【0067】
(E)熱伝導性フィラーとしては、例えば、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ベリリウム等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物;炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ケイ素等の炭化物;グラファイト、黒鉛等の石墨、アルミニウム、銅、ニッケル、銀等の金属、およびこれらの混合物からなるのもが挙げられる。特に、シリコーン組成物に電気絶縁性が必要な場合は、金属酸化物、金属水酸化物、窒化物、またはこれらの混合物であることが好ましく、両性水酸化物または両性酸化物であってもよく、具体的には、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムからなる群より選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0068】
なお、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、窒化ホウ素は絶縁材料であり、成分(A)および(B)との相溶性が比較的良好であり、工業的に広範囲な粒径の品種が選択可能であり、資源的に入手が容易であり、比較的安価で入手可能であることから、熱伝導性無機充填材として好適である。
【0069】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物では、(E)成分として酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、および窒化ホウ素から選択される少なくとも1種を使用することが、振動条件下における接着性、伸びを得るためにより好ましい。(E)成分として1種のみを使用する場合には、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、または酸化亜鉛を選択することが好ましく、酸化アルミニウムを選択することがより好ましい。また、1種のみを使用する場合であっても、形状の異なるものを2種以上組み合わせることがより好ましい。例えば、球状酸化アルミニウムと不定形酸化アルミニウムを組み合わせる場合や、球状酸化亜鉛と不定形酸化亜鉛を組み合わせる場合が挙げられる。
(E)成分としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、および窒化ホウ素から選択される少なくとも2種を使用することが、さらに好ましい。例えば、球状酸化アルミニウムと、不定形酸化アルミニウムと、不定形酸化亜鉛を組み合わせる場合が挙げられる。
【0070】
熱伝導性フィラーの形状は、特に限定されず、例えば、球状、不定形、微粉末、繊維状、鱗片状等であってもよい。熱伝導性部材の熱伝導性を高くするために必要な量の熱伝導性フィラーを配合するためには、熱伝導性フィラーの形状は球状であることが好ましく、平均粒径は1~100μmであってもよい。ここでいう球状とは、真球状のみならず、丸み状であってもよい。
(E)成分として球状酸化アルミニウムを用いる場合には、高温溶射法あるいはアルミナ水和物の水熱処理により得られるα-アルミナを使用してもよい。
【0071】
熱伝導性フィラーの充填率を向上させるためには、球状の熱伝導性フィラーと球状以外の熱伝導性フィラーとを使用することがより好ましい。形状が異なる少なくとも2種以上の熱伝導性フィラーを併用すると、最密充填に近い状態で充填でき、熱伝導性がより高くなる効果が得られる。球状と球状以外の熱伝導性フィラー(例えば、不定形の熱伝導性フィラーである)を併用とすると、より熱伝導性を高めることが可能となる。
【0072】
熱伝導性フィラーは、熱伝導率が10 W/m・K以上であることが好ましい。熱伝導率が10 W/m・K未満であると、熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率そのものが小さくなるおそれがある。
特に、熱伝導性部材に電気絶縁性が必要な場合は、非導電性の熱伝導性フィラーを選択することが考えられる。
【0073】
熱伝導性フィラーは、熱伝導性部材の熱伝導性を高く(例えば2.0W/m・K以上である)するために必要となる量が配合されていればよく、例えば(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、(E)成分の含有量は500質量部以上2,000質量部以下としてもよい。(E)成分の含有量は、300質量部以上2,000質量部以下が好ましく、400質量部以上1,900質量部以下がより好ましく、500質量部以上1,800質量部以下がさらにより好ましい。
上記範囲内であれば、熱伝導性組成物全体として十分な熱伝導率を有し、配合時に混合しやすく、硬化後にも柔軟性が維持され、さらに比重も大きくなりすぎないことから、熱伝導性と軽量化が求められる熱伝導性部材を形成するための熱伝導性組成物としてより好適である。(E)成分の含有量が少なすぎると、得られる熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導率を十分に高めることが困難となり、一方、(E)成分の含有量が多すぎるとシリコーン組成物は高粘度になり、熱伝導性組成物を均一に塗布することが困難となるおそれがあり、硬化後の組成物の熱抵抗値の上昇、柔軟性の低下といった問題が生じる場合がある。
【0074】
(E)成分の平均粒径は特に限定されず、1μm以上100μm以下の範囲であってもよい。平均粒径が小さすぎると、シリコーン組成物の流動性が低下し、平均粒径が大きすぎると、塗布装置の摺動部分に挟まり、装置の削れなどの問題発生のおそれがある。なお、本発明において、(C)成分の平均粒径は、レーザー回折式粒度測定装置で測定された体積基準累積粒度分布における50%粒子径であるD50(又はメジアン径)である。
【0075】
((F)成分)
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、(F)成分として、縮合触媒を含有する。縮合触媒(F)は、本発明の熱伝導性シリコーン組成物の硬化物が、高温硬化および/または高温処理を経ずとも、すなわち、常温下であっても、振動条件下における金属および有機樹脂に対する接着性を有するために寄与する成分である。通常、アルミニウム等の金属基材、および、PET等の有機樹脂基材の表面には水酸基、アルコキシ基、アルコール基、ケトン基、エステル基、アクリル基、エーテル基、フェノール基、酸基等の縮合性基が存在している。成分(F)は、そうした縮合性基と、本発明の熱伝導性フィラー含有の熱伝導性シリコーン組成物中に存在するアルコキシ基、水酸基、ケイ素原子に結合している水素原子等の基または原子との間の縮合を促すものである。
【0076】
成分(F)の縮合触媒としては、マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、タングステン、ビスマスから選ばれる金属の化合物等が使用できる。アルミニウム三価、鉄三価、コバルト三価、亜鉛二価、ジルコニウム四価、ビスマス三価の有機酸塩、アルコキシド、キレート化合物等の金属化合物が好ましく挙げられる。
例えば、オクチル酸、ラウリン酸、ステアリン酸等の有機酸、プロポキシド、ブトキシド等のアルコキシド、カテコール、クラウンエーテル、多価カルボン酸、ヒドロキシ酸、エチルアセトアセテート等のジケトン、ケト酸等の多座配位子キレート化合物が挙げられ、一つの金属に複数種類の配位子が結合していてもよい。特にアルコキシ基を含有する金属キレート化合物であることが好ましい。
特に、配合や使用条件が多少異なっても安定した硬化性が得られ易いチタン、ジルコニウム、アルミニウムの化合物が好ましい。
【0077】
アルコキシ基含有チタン化合物である(F)縮合触媒としては、チタニウムテトラメトキシド、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトラアリルオキシド、チタニウムテトラ-n-プロポキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラ-n-ブトキシド、チタニウムテトライソブトキシド、チタニウムテトラ-s-ブトキシド、チタニウムテトラ-t-ブトキシド、チタニウムテトラ-n-ペンチルオキシド、チタニウムテトラシクロペンチルオキシド、チタニウムテトラへキシルオキシド、チタニウムテトラシクロへキシルオキシド、チタニウムテトラべンジルオキシド、チタニウムテトラオクチルオキシド、チタニウムテトラキス(2-エチルヘキシルオキシド)、チタニウムテトラデシルオキシド、チタウムテトラドデシルオキシド、チタニウムテトラステアリルオキシド、チタニウムテトラブトキシドダイマー、チタニウムテトラキス(8-ヒドロキシオクチルオキシド)、チタニウムジイソプロポキシドビス(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)、チタニウムビス(2-エチルヘキシルオキシ)ビス(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)、チタニウムテトラキス(2-メトキシエトキシド)、チタニウムテトラキス(2-エトキシエトキシド)、チタニウムブトキシドトリメトキシド、チタニウムジブトキシドジメトキシド、チタニウムブトキシドトリエトキシド、チタニウムジブトキシドジエトキシド、チタニウムブトキシドトリイソプロポキシド、チタニウムジブトキシドジイソプロポキシド、チタニウムテトラフェノキシドが例示できる。
【0078】
チタンキレート化合物である(F)縮合触媒としては、チタニウムジメトキシビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジメトキドビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジエトキシビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジエトキドビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジイソプロポキシビス(メチルアセトアセテート)、チタニウムジイソプロポキシビス(t-ブチルアセトアセテート)、チタニウムジイソプロポキシビス(メチル-3-オキソ-4,4-ジメチルヘキサノエート)、チタニウムジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジ-n-ブトキシビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジ-n-ブトキシビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジイソブトキシビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジ-t-ブトキシビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジ-t-ブトキシビス(アセチルアセトネート)、チタニウムテトラキス(エチルアセトアセテート)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス( トリメチルシロキシ)ビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムビス(トリメチルシロキシ)ビス(アセチルアセトナート)が例示できる。
【0079】
アルコキシ基含有ジルコニウム化合物である(F)縮合触媒としては、ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラアリルオキシド、ジルコニウムテトラ-n-プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシド、ジルコニウムテトライソブトキシド、ジルコニウムテトラ-s-ブトキシド、ジルコニウムテトラ-t-ブトキシド、ジルコニウムテトラ-n-ペンチルオキシド、ジルコニウムテトラシクロペンチルオキシド、ジルコニウムテトラへキシルオキシド、ジルコニウムテトラシクロへキシルオキシド、ジルコニウムテトラべンジルオキシド、ジルコニウムテトラオクチルオキシド、ジルコニウムテトラキス(2-エチルヘキシルオキシド)、ジルコニウムテトラデシルオキシド、チタウムテトラドデシルオキシド、ジルコニウムテトラステアリルオキシド、ジルコニウムテトラキス(2-メトキシエトキシド)、ジルコニウムテトラキス(2-エトキシエトキシド)、ジルコニウムブトキシドトリメトキシド、ジルコニウムジブトキシドジメトキシド、ジルコニウムブトキシドトリエトキシド、ジルコニウムジブトキシドジエトキシド、ジルコニウムブトキシドトリイソプロポキシド、ジルコニウムジブトキシドジイソプロポキシド、ジルコニウムテトラフェノキシド、が例示できる。
【0080】
ジルコニウムキレート化合物である(F)縮合触媒としては、ジルコニウムテトラ(アセチルアセトネート)、ジルコニウムジメトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジメトキドビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムジエトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジエトキドビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムジエトキシドビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリ-n-ブトキシド(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジイソプロポキシビス(メチルアセトアセテート)、ジルコニウムジイソプロポキシビス(t-ブチルアセトアセテート)、ジルコニウムジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムジ-n-ブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジ-n-ブトキシビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムジイソブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジイソブトキシビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムジ-t-ブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジ-t-ブトキシビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムイソプロポキシトリス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウム-n-ブトキシドトリス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラキス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、が例示できる。
ジルコニウムを含むアシレート化合物である(F)縮合触媒としては、オクチル酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウムが例示できる。
【0081】
アルコキシ基含有アルミニウム化合物である(F)縮合触媒としては、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリアリルオキシド、アルミウムトリ-n-プロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリ-n-ブトキシド、アルミニウムトリイソブトキシド、アルミニウムトリ-s-ブトキシド、アルミニウムトリ-t-ブトキシド、アルミニウムトリ-n-ペンチルオキシド、アルミニウムトリシクロペンチルオキシド、アルミニウムトリデシルオキシド、アルミニウムトリドデシルオキシド、アルミニウムトリステアリルオキシド、アルミニウムトリス(2-メトキシエトキシド)、アルミニウムトリス(2-エトキシエトキシド)、アルミニウムブトキシドジメトキシド、アルミニウムメトキシドジブトキシド、アルミニウムブトキシドジエトキシド、アルミニウムエトキシドジブトキシド、アルミニウムブトキシドジイソプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシドジブトキシド、アルミニウムトリフェノキシド、が例示できる。
【0082】
アルミニウムキレート化合物である(F)縮合触媒としては、アルミニウムメトキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムメトキドビス(アセチルアセトネート)、アルミニウムエトキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムエトキドビス(アセチルアセトネート)、アルミニウムイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムイソプロポキシビス(メチルアセトアセテート)、アルミニウムイソプロポキシビス(t-ブチルアセトアセテート)、アルミニウムジメトキシド(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジメトキシ(アセチルアセトネート)、アルミニウムジエトキシ(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジエトキシ(アセチルアセトネート)、アルミニウムジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジイソプロポキシ(メチルアセテート)、アルミニウムジイソプロポキシ(t-ブチルアセトアセテート)、アルミニウムジイソプロポキシ(メチルアセトアセテート)、アルミニウムイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、アルミニウム-n-ブトキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウム-n-ブトキシビス(アセチルアセトネート)、アルミニウムイソブトキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムイソブトキシビス(アセチルアセトネート)、アルミニウム-t-ブトキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウム-t-ブトキシビス(アセチルアセトネート)、アルミニウム-2-エチルヘキソキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウム(アセチルアセトネート)ビス(エチルアセトアセテート)が例示できる。
【0083】
6か月貯蔵後であっても熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の基材への振動条件下における接着性を維持可能である点で、(F)成分としてチタニウムジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)を使用することが最も好ましい。
【0084】
上記成分(F)縮合触媒の含有量は触媒量でよく、熱伝導性シリコーン組成物の組成、硬化条件等によって適宜設定することができる。成分(F)の含有量は、例えば、成分(A)の質量に対して、金属分として0.1~20質量%とすることができる。
【0085】
上記の熱伝導性シリコーン組成物は、貯蔵安定性が良好で、硬化後に発熱体や放熱体等の基材に対して振動条件下においても良好な接着性を維持することが可能であり、熱伝導率が高いことにより放熱特性に優れる熱伝導性部材を与えることが可能である。
具体的には、硬化後に得られる熱伝導性部材の熱伝導率は2.0 W/m・K以上であり、後述の引張せん断接着応力測定試験において、0.10MPa以上となる高い引張せん断接着応力を示し、かつ、引張せん断接着変位測定試験における最大応力時における変位が0.30mm以上となる高い引張せん断接着変位を有する。熱伝導性部材の引張せん断接着応力および引張せん断接着変位が上記範囲である場合に、当該熱伝導性部材は振動条件下で基材に対して良好な接着性を示す。
熱伝導率、引張せん断接着応力、および引張せん断接着変位は、2液型の熱伝導性シリコーン組成物を未硬化の状態で(すなわち、第1液と第2液とを混合しない状態で)24時間および7日間貯蔵後にも上記の範囲を維持し得ることから、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は貯蔵安定性にも優れている。
【0086】
<引張せん断接着変位測定試験、引張せん断接着応力測定試験>
熱伝導性シリコーン組成物を縦25mm×横25mmの塗布面積、厚み0.6mmなるようにアルミニウム製試験片と、カチオン電着塗装された鉄製試験片とで挟み、23℃の温度下で24時間硬化させて、引張せん断接着試験用試験片を得る。
前記引張せん断接着試験用試験片をJIS K6850に準拠した方法により引張せん断接着試験を行い、SーS曲線グラフを得る。
前記SーS曲線グラフにおいて、最大の応力となる点のストローク量を、各引張せん断接着試験用試験片に対応するシリコーン組成物の硬化物の引張せん断接着変位とする。
前記SーS曲線グラフにおいて、応力の最大値を、各引張せん断接着試験用試験片に対応するシリコーン組成物の硬化物の引張せん断接着応力とする。
【0087】
(G)成分 本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、任意で重合度が4以上10以下である環状水素化シロキサンをさらに含むことができる。(G)成分は1種の環状水素化シロキサンであってもよいが、重合度が4以上10以下の範囲であれば複数種類の環状水素化シロキサンを含むものであってもよい。(G)成分の重合度は、熱伝導性シリコーン組成物に必要とされる安定性、熱伝導性部材に必要とされる引張強度、接着力、耐熱性、耐湿性に応じて選択してもよい。
【0088】
(G)成分としては、特に(G-1)1,3,5,7,9-ペンタメチルシクロペンタシロキサンまたは(G-2)1,3,5,7,9,11-ヘキサメチルシクロヘキサシロキサンとを含むものが好ましい。(G-1)または(G-2)成分を配合することにより、架橋密度を向上させることができ、得られる硬化物の引張強度と接着力を向上させることが可能になる。さらに、(G-1)成分と(G-2)成分との2種を配合することにより、熱伝導性シリコーン組成物を硬化して得られる熱伝導性部材の耐熱性と耐湿性を向上させることが可能になる。
【0089】
(G)成分の配合量は、熱伝導性部材に必要とされる強度や接着力等の特性に応じて定めることができる。(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、(G)成分の配合量は0.01質量部以上2.0質量部以下とすることができる。
(G)成分として、(G-1)成分および/または(G-2)成分を含む場合、(G-1)成分、(G-2)成分は、それぞれ0.01質量部以上1.0質量部以下であってもよく、好ましくはそれぞれ0.05質量部以上0.7質量部以下であり、より好ましくはそれぞれ0.1質量部以上0.5質量部以下としてもよい。
(G)成分中に含まれる(G-1)成分および(G-2)成分の合計量は、(G)成分全体を100重量%としたときに、30重量%以上99重量%以下であることが好ましい。(G)成分中に(G-1)成分および(G-2)成分が含まれる場合の、(G-1)成分と(G-2)成分との比率は特に限定されず、例えば(G-2)成分は(G-1)成分の重量の50%以上150%以下としてもよく、70%以上110%以下としてもよい。
【0090】
((H)成分)
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物には、(E)成分以外のフィラーをさらに配合することもできる。(E)成分以外のフィラーとしては、例えば、親水性シリカ、疎水性シリカ、結晶性シリカ、沈降性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー等の非熱伝導性を有するフィラーが挙げられる。
【0091】
特に、引張強度を向上させ、貯蔵中のフィラーの経時的な沈降が抑制されることにより沈降抑制性の優れた熱伝導性シリコーン組成物を得ることが可能となるため、(H)疎水性シリカを配合することが好ましい。(H)疎水性シリカの配合量は、(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、0.05質量部以上10.0質量部以下とすることが好ましく、0.1質量部以上1.0質量部以下とすることがより好ましい。0.05質量部未満である場合、沈降抑制性が低く、10質量部を超えると、吸湿性が増したり、流動性が低下するからである。
【0092】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、さらに、上記(A)成分~(H)以外のさらなる任意成分として、シリコーンゴム、ゲルへの添加物として従来公知のものを使用することができる。このような添加物としては、加水分解によりシラノールを生成する(C)成分以外の有機ケイ素化合物またはオルガノシロキサン(シランカップリング剤ともいう)、架橋剤、接着助剤、顔料、染料、硬化抑制剤、耐熱付与剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、気密性向上剤、放射線遮蔽剤、電磁波遮蔽剤、防腐剤、安定剤、有機溶剤、可塑剤、防かび剤、あるいは、1分子中に1個のケイ素原子結合水素原子またはアルケニル基を含有し、他の官能性基を含有しないオルガノポリシロキサンや、ケイ素原子結合水素原子およびアルケニル基を含有しない無官能性のオルガノポリシロキサンが例示され、これらのさらなる任意成分は、1種を単独で使用してもよく、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0093】
シランカップリング剤としては、1分子中にエポキシ基、アルキル基、アリール基、ビニル基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、イソシアヌレート基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、酸無水物等の炭素数3以上の有機基と、ケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物またはオルガノシロキサンが挙げられる。シランカップリング剤の一例としてオクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等のシラン化合物がある。前記シラン化合物は、ヒドロシリル基を有しない化合物であってもよく、一種又は二種以上混合して使用することができる。前記シランカップリング剤で熱伝導性フィラーの表面を処理することにより、シリコーンポリマーとの親和性が良くなり、組成物の粘度を下げることができ、熱伝導性フィラーの充填性が向上することが可能となる。したがってより多くの熱伝導性フィラーを配合することで、熱伝導率を向上することが可能である。
【0094】
シランカップリング剤の熱伝導性フィラーに対する配合量は用途により所望される硬化温度や硬化時間に応じた有効量が用いられるが、通常、熱伝導性フィラーに対して0.5wt%以上2wt%以下が一般的な最適量であるが、必要量の目安として次の式により計算され、1~3倍量配合してもよい。
シランカップリング剤の必要量(g)=熱伝導性フィラー質量(g)×熱伝導性フィラーの比表面積(m2/g)÷シランカップリング剤の固有の最小被覆面積(m2/g)
【0095】
架橋剤としては、オルガノハイドロジェンポリシロキサン使用することができる。架橋剤成分はアルケニル基と付加反応することにより硬化物を形成するものであり、分子中の側鎖に少なくとも1個以上のケイ素原子に結合した水素原子(ヒドロシリル基)を有するものであってもよい。架橋剤は、好ましくは1分子中のヒドロシリル基の数が3個以上であり、かつ、分子中の側鎖に少なくとも1個のヒドロシリル基を有するものである。
【0096】
本発明の架橋剤としては、ヒドロシリル基を5個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンがより好ましく、10個以上15個以下有するものであってもよい。架橋剤であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、その側鎖に少なくとも2個のヒドロシリル基を有するものである。分子鎖末端のヒドロシリル基の数は0個以上2個以下であることができるが、2個であることが経済的には好ましい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよい。水素原子が結合するケイ素原子の位置は特に制約はなく、分子鎖の末端でも非末端、側鎖でもよい。その他の条件、ヒドロシリル基以外の有機基、結合位置、重合度、構造等については特に限定されず、また2種以上のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用してもよい。
【0097】
架橋剤は、架橋により(A)成分および(B)成分を含むマトリックスを形成するために必要となる量が配合されていればよい。架橋剤成分の配合量は、例えば(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、1質量部以上10質量部以下であってもよく、1質量部以上6質量部以下がより好ましく、1質量部以上4質量部以下がさらにより好ましい。
【0098】
接着助剤としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランのオリゴマー、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランのオリゴマー、あるいは有機官能基として、ビニル基、メタクリル基、アクリル基、イソシアネート基から選択されるいずれかひとつ、あるいは複数を含むものも好ましく、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランや3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのメタクリロキシシランや、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、ジヒドロ-3-(3-(トリエトキシシリル)プロピル)-2,5-フランジオンなどのフランジオンなどが挙げられる。
【0099】
有機官能基はアルキレン基などの他の基を介してケイ素原子に結合していてもよい。前記以外にも、1分子中にエポキシ基、アルキル基、アリール基などの有機基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物またはオルガノシロキサンを含むものが好ましく、少なくとも1個のエポキシ基、アルキル基、アリール基などの有機基と、少なくともケイ素原子結合のアルコキシ基を2個以上有する有機ケイ素化合物またはオルガノシロキサンがより好ましい。かかるエポキシ基としては、グリシドキシプロピル基などのグリシドキシアルキル基、2,3-エポキシシクロヘキシルエチル基、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル基などのエポキシ含有シクロヘキシルアルキル基などの形でケイ素原子に結合していること、または、炭素数1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基、または芳香環をもつ有機基が好ましい。エポキシ基の場合、1分子中のエポキシ基は2~3個含むものを用いてもよい。また、ケイ素原子結合アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基のほか、メチルジメトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基などのアルキルジアルコキシシリル基などが好ましい。
また、前述以外の官能基としては、例えば、ビニル基などのアルケニル基、(メタ)アクリロキシ基、ヒドロシリル基(ヒドロシリル基)、イソシアネート基、から選択される官能基を用いてもよい。
【0100】
顔料としては、酸化チタン、アルミナケイ酸、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カーボンブラック、希土類酸化物、酸化クロム、コバルト顔料、群青、セリウムシラノレート、アルミニウムオキシド、アルミニウムヒドロキシド、チタンイエロー、カーボンブラック、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム等、および、これらの混合物が例示される。
顔料の配合量は用途により所望される硬化温度や硬化時間に応じた有効量が用いられるが、通常、熱伝導性シリコーン組成物の合計質量に対して、顔料成分の配合量は0.001%から5%の範囲が望ましい。好ましくは0.01%以上2%以下、より好ましくは0.05%以上1%以下、の範囲である。配合量が0.001%未満の場合は、着色が不十分であり、第1液と第2液を視覚的に区別することが困難となる。一方、配合量が5%を超えるとコストが上昇するため経済的に好ましくない。
【0101】
硬化抑制剤としては、付加反応の硬化速度を調整する能力を有するものであり、アセチレン系化合物、ヒドラジン類、トリアゾール類、フォスフィン類、メルカプタン類が例示され、硬化抑制効果を持つ化合物として当該技術分野で従来公知の硬化抑制剤はすべて使用することができる。かかる化合物としては、トリフェニルホスフィン等のリン含有化合物、トリブチルアミンやテトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の窒素含有化合物、硫黄含有化合物、アセチレン系化合物、アルケニル基を2個以上含有する化合物、ハイドロパーオキシ化合物、マレイン酸誘導体などが例示される。また、アミノ基を有する、シランおよびシリコーン化合物を使用してもよい。
【0102】
硬化抑制剤の配合量は用途により所望される硬化温度や硬化時間に応じた有効量が用いられるが、通常、(A)成分および(B)成分の合計量を100質量部としたとき、0.1質量部から15質量部の範囲が望ましい。好ましくは0.2質量部から10質量部の範囲、より好ましくは0.5質量部から5質量部の範囲である。0.1質量部未満であると付加反応が著しく速くなり、塗布作業性中に硬化反応が進行し、作業性を悪化させるおそれがある。一方10質量部を超えると、付加反応が遅くなり、ポンプアウトの発生のおそれがある。
【0103】
具体的には、3-メチル-3-ペンテンー1-イン、および3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-インのような各種の「エン-イン」システム;3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、および2-フェニル-3-ブチン-2-オールのようなアセチレン性アルコール;周知のジアルキル、ジアルケニル、およびジアルコキシアルキルフマラートおよびマレアートのようなマレアートおよびフマラート;およびシクロビニルシロキサンを含有するものが例示される。
【0104】
耐熱付与剤としては、水酸化セリウム、酸化セリウム、酸化鉄、ヒューム二酸化チタン等、および、これらの混合物が例示される。
【0105】
気密性向上剤としては、硬化物の通気性を低下させる効果を有するものであればいかなるものでもよく、有機物、無機物を問わず、具体的にはウレタン、ポリビニルアルコール、ポリイソブチレン、イソブチレン-イソプレン共重合体や、板状形状を有するタルク、マイカ、ガラスフレーク、ベーマイト、各種金属箔や金属酸化物の粉体、および、これらの混合物が例示される。
【0106】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)またはドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6) 、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン(D7)、ヘキサデカメチルシクロオクタシロキサン(D8)のうちいずれか1種または2種以上を含んでいてもよい。
【0107】
上記(D4)、(D5)、(D6)、(D7)および(D8)のそれぞれの含有量合計は、前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、0.1質量部未満(すなわち1,000ppm未満)であってもよい。
熱伝導性シリコーン組成物中の(D4)~(D8)の含有量合計が上記範囲内であれば、該組成物全体としての引火点が高くなり、貯蔵中の安全性を向上させることが可能となる。また、該組成物を硬化させて得られる熱伝導性部材について、電子部品等への接点障害を起こしにくい熱伝導性部材を提供することが可能となる。
【0108】
上記(D4)~(D8)の含有量の合計が、(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、0.1質量部未満である熱伝導性シリコーン組成物は、(D4)~(D8)の含有量の合計が0.1質量部未満である(A)成分と、(D4)~(D8)の含有量の合計が0.1質量部未満である(B)成分と、(D4)~(D8)の含有量の合計が0.1質量部未満である(C)成分とを使用することにより製造することが可能である。
(D4)~(D8)の含有量はガスクロマトグラフィーにより測定される。ガスクロマトグラフィーの測定条件は従来公知の方法に従い適宜選択されればよい。
【0109】
(D4)、(D5)、(D6)、(D7)、(D8)の含有量が少ない(A)成分、(B)成分、および(C)成分を使用することにより、(D4) ~(D8)のそれぞれの含有量を上記範囲とすることができる。(A)~(C)成分中の(D4)~(D8)の含有量を減らす手法としては、加熱及び減圧処理を行う方法が広く知られており、例えば、(A)~(C)の原料作製時に180℃、20mmHgにて8h程度の加熱減圧処理を行うことが望ましい。
【0110】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物は、付加硬化型組成物であり、1液型組成物としてもよいが、2液型組成物としてもよい。1液型の場合には、加熱硬化により硬化させる組成物にする等の工夫により、貯蔵性を向上させることができる。
2液型組成物の場合には、これらの工夫なしに貯蔵安定性をさらに向上させることが可能になり、室温(例えば25℃)で硬化する組成物とすることが容易である。その場合、本発明に係る熱伝導性組成物を例えば次のように第1液と第2液とに分配することができる。第1液は(B)成分を含まず、(D)成分および(F)成分を含むことを特徴とし、第2液は(B)成分および(C)成分を含み、(D)成分および(F)成分を含まないことを特徴とする。
(E)成分は第1液または第2液にのみ含まれてもよいが、その両方に含まれることが好ましい。
任意成分として(G)成分を含む場合には、これらの成分は第2液に含まれることが好ましい。
【0111】
(A)成分として分子鎖末端に少なくとも1個のシラノール基を有するアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンが含まれる場合には、当該成分は第2液に含まれることが好ましい。第2液には縮合触媒が含まれていないため、貯蔵中にシラノール基を有するアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンが触媒存在下で(C)成分と反応して経時的に物性が変化する現象が起きないためである。
【0112】
したがって、本発明の2液型熱伝導性シリコーン組成物の製造方法は、
(A) ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、(D)付加触媒と、(E)熱伝導性フィラーと、(F)縮合触媒とを混合して第1液を得る第一工程と、
(A) ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、(C) (C-1)メトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および (C-2)前記有機ケイ素化合物(C-1)の加水分解物と、から選択される少なくとも1種と、(E)熱伝導性フィラーと、を混合して第2液を得る第二工程と、を含む方法である。
【0113】
本発明はまた、上記2液型熱伝導性組成物の第1液と第2液とを混合する混合工程と、混合工程で得られた第1液と第2液との混合物である熱伝導性シリコーン組成物をバッテリーユニット筐体および前記冷却器の少なくとも一方に塗布する塗布工程と、塗布工程で塗布された未硬化の熱伝導性シリコーン組成物を15℃以上40℃以下の温度で硬化させる硬化工程と、を有する、ギャップフィラーの製造方法である。
【0114】
塗布工程において基材に塗布された熱伝導性組成物は、塗布後概ね120分以内に非流動性の硬化物である熱伝導性部材を形成する。
基材に塗布後に硬化させる際の温度は特に限定されず、例えば15℃以上60℃以下の温度であってもよい。バッテリーユニット筐体や冷却器等の基材への熱ダメージを軽減させるため、15℃以上40℃以下の温度としてもよい。
【0115】
電気自動車等のバッテリーパックは、バッテリーユニット筐体と、バッテリーユニット筐体に収容されるバッテリーユニットを備える。バッテリーユニットは、配列された複数のバッテリーセルを備える。バッテリーユニット筐体は熱伝導性部材であるギャップフィラーを介して冷却器に接続される。
冷却器としては、例えばヒートシンク、放熱器、冷却ファン、ヒートパイプ、冷却フィン、金属カバーが挙げられるがこれらに限定されない。
ギャップフィラーが適応される基材は特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリカーボネート等の樹脂、セラミックス、ガラス、及びアルミニウム等の金属が挙げられる。
【0116】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物を硬化して得られるギャップフィラーは、表面に縮合性基を有する基材と振動条件下において良好な接着性を示すことから、バッテリーユニット筐体がカチオン電着塗装により少なくとも一部を被覆された鉄表面を有しており、冷却器がアルミニウム表面を有している場合に、振動条件下において特に高い接着性を発揮する。
【0117】
本発明はまた、熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の、金属またはカチオン電着塗料を塗布した金属表面への振動条件下における接着性を向上させ、かつ熱伝導性シリコーン組成物の貯蔵安定性を向上させる方法であって、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサン、および
(D)付加触媒 を含む前記熱伝導性シリコーン組成物に、
(C) (C-1)メトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および
(C-2)前記有機ケイ素化合物(C-1)の加水分解物と、から選択される少なくとも1種と、
(F)縮合触媒と、を配合する工程を含む、方法である。
【0118】
上記(C)成分および(F)成分を配合することにより、(C)成分の加水分解により生成するシラノールが、基材表面の縮合性基と反応し、基材への接着が良好に進行する。また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は硬化して良好な引張強度と伸びを有する硬化物を与えることから、振動条件下においても基材への接着状態を維持することが可能である。
【実施例0119】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。実施例および比較例の各成分の配合比と、評価結果を表1、表2に示す。表1、表2中に示す配合比の数値は質量部を示す。
なお、本明細書内において記載する粘度は、25℃、せん断速度:10/sで、回転粘度計(JIS K7117-2)により測定した値である。
【0120】
<熱伝導性組成物の硬化物(熱伝導性部材)の作製方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、各熱伝導性組成物を作製した。これを、各評価項目に応じた試験片となるように、23℃、24時間で硬化させ、各硬化物である熱伝導性部材を作製した。
【0121】
<引張せん断接着変位測定試験および引張せん断接着応力測定試験による、振動条件下における接着性、耐熱性、耐湿性評価方法>
引張せん断接着変位測定試験および引張せん断接着応力測定試験用には、以下の条件の試験片を使用した。
24時間貯蔵後の引張せん断接着変位および引張せん断接着応力測定:第1液と第2液をそれぞれ下記の手順で作成後、23℃24時間静置した後に混合し、脱気し、硬化させた試験片(表中で「24時間後」と表示)
7日間貯蔵後の引張せん断接着変位および引張せん断接着応力測定:第1液と第2液をそれぞれ下記の手順で作成後、40℃7日間密閉容器にて貯蔵した後に混合し、脱気し、硬化させた試験片(表中で「7日後」と表示)
6か月間貯蔵後の引張せん断接着変位および引張せん断接着応力測定:第1液と第2液をそれぞれ下記の手順で作成後、、40℃6か月密閉容器にて貯蔵後に混合し、脱気し、硬化させた試験片(表中で「6か月後」と表示)
湿熱暴露後の引張せん断接着変位および引張せん断接着応力測定:上記24時間貯蔵後の試験片と同様に作成した試験片を、硬化後に温度85℃、湿度95%の条件下に4日間静置した試験片(表中で「硬化後、湿熱暴露後」と表示)
【0122】
上記の「24時間後」、「7日後」、「6か月後」の試験片による測定は、熱伝導性シリコーン組成物が2液型の熱伝導性シリコーン組成物である場合における、硬化前の貯蔵安定性(7日間)および長期貯蔵安定性(6か月間)を評価するものである。
【0123】
引張せん断接着変位は、「24時間後」の条件で0.30mm以上であることが要求される。
引張せん断接着変位は0.40mm以上であればより良好であり、0.50mm以上であれば極めて良好であると評価される。
【0124】
引張せん断接着応力は、「24時間後」の条件で0.10MPa以上であることが要求される。引張せん断接着応力は、0.15MPa以上であればより良好であり、0.20MPa以上であれば極めて良好であると評価される。
【0125】
引張せん断接着変位が0.30mm以上であり、かつ、引張せん断接着応力が0.10MPa以上である熱伝導性部材は、振動条件下における基材表面への接着性が良好である。
第1液と第2液を製造後、7日間貯蔵しても測定結果が上記の要求を満たしていれば貯蔵安定性が良好であるといえる。
第1液と第2液を製造後、6か月間貯蔵しても測定結果が上記の要求を満たしていれば長期貯蔵安定性が良好であるといえる。
【0126】
上記の「硬化後、湿熱暴露後」の試験片による測定は、熱伝導性シリコーン組成物を硬化して得られる熱伝導性部材の耐熱性および耐湿性を評価するために実施され、湿熱暴露後においても測定結果が上記の要求を満たしていれば耐熱性と耐湿性が良好であるといえる。
【0127】
<引張せん断接着変位測定試験方法>
熱伝導性シリコーン組成物を縦25mm×横25mmの塗布面積、厚み0.6mmなるようにアルミニウム製試験片と、カチオン電着塗装された鉄製試験片とで挟み、23℃の温度下で24時間硬化させて、引張せん断接着試験用試験片を得る。
前記引張せん断接着試験用試験片をJIS K6850に準拠した方法により引張せん断接着試験を行い、SーS曲線グラフを得る。
前記SーS曲線グラフにおいて、最大の応力となる点のストローク量を、各引張せん断接着試験用試験片に対応するシリコーン組成物の硬化物の引張せん断接着変位とする。
【0128】
<引張せん断接着応力測定試験方法>
熱伝導性シリコーン組成物を縦25mm×横25mmの塗布面積、厚み0.6mmなるようにアルミニウム製試験片と、カチオン電着塗装された鉄製試験片とで挟み、23℃の温度下で24時間硬化させて、引張せん断接着試験用試験片を得る。
前記引張せん断接着試験用試験片をJIS K6850に準拠した方法により引張せん断接着試験を行い、SーS曲線グラフを得る。
前記SーS曲線グラフにおいて、応力の最大値を、各引張せん断接着試験用試験片に対応するシリコーン組成物の硬化物の引張せん断接着応力とする。
【0129】
<熱伝導率の測定方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、直径30mm×高さ6mmの円柱状のプレス金型に流し込み、23℃、24時間の条件で硬化させ、円柱状の硬化物を作製した。硬化物の熱伝導率はISO 22007-2に準拠したホットディスク法により測定する機械[TPS-500、京都電子工業(株)製]を用いて測定した。上記で作成した2個の円柱状の硬化物にセンサーを挟み、上記装置で熱伝導率を測定した。
熱伝導率は2.0W/m・k以上であることが好ましい。
【0130】
<熱伝導率測定試験による、貯蔵中の沈降抑制性評価方法>
熱伝導性シリコーン組成物の貯蔵中における沈降性評価は、熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導性フィラーおよびそれ以外のフィラーの沈降性を確認するために実施され、沈降性評価結果が良好であれば貯蔵中のフィラー沈降が少なく、沈降抑制性が良好であると判定する。
実施例と比較例にそれぞれ示した、第1液と第2液をそれぞれ別々の円筒状の1Lの金属缶に内袋を入れた容器に0.7L程度満たし、上部に0.05mm厚のポリエチレンフィルムを載せて、金属缶の蓋を閉めて、40℃で6か月静置させた。
6か月放置後に内容物を上から、上下が混ざらないように取り出し、3分の1ずつ分け、上から3分の1を上部、下から3分の1を下部とした。
【0131】
上部の第1液と上部の第2液とを1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、直径30mm×高さ6mmの円柱状のプレス金型に流し込み、23℃、24時間の条件で硬化させ、円柱状の硬化物を作製した。硬化物の熱伝導率は上記熱伝導率の測定方法に従って測定した結果を、表中に「上部1/3」として示した。
下部の第1液と下部の第2液についても同様に測定し、表中に「下部1/3」として示した。
熱伝導率は2.0W/m・k以上であることが好ましい。
第1液と第2液を製造後、6か月間貯蔵しても、上部、下部ともに熱伝導率が2.0W/m・k以上を満たしていれば沈降抑制性が良好であるといえる。
【0132】
<引張強度および伸びの測定方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、縦120mm×横120mm、厚さ2mmの型に流し込み、PETフィルム、鉄板の順で被せて、プレス機5MPa、5秒間にて圧縮成型後、100℃1時間の条件で硬化させ、シート状の硬化物を作製した。作成した硬化物を5号ダンベル型にて打ち抜き、ダンベル形状の硬化物(以下ダンベル)を得る。
上記ダンベルを島津社製オートグラフAGS-Xにてチャック間距離75mmにて挟み込み、引張速度50mm/minにて引張試験を実施し、ダンベル破断時の応力を引張強度(MPa)とし、そのときのストローク量をチャック間距離で割ったものを伸び(%)とする。そのほかの条件に関してはJIS K 6249に準拠して行う。
【0133】
<低分子環状シロキサン量の評価方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、100mm×100mm×高さ6mmの板状のプレス金型に流し込み、23℃、24時間の条件で硬化させ、硬化物を作製した。この硬化物を0.3g秤量し、サンプルバイアル瓶にいれたアセトン溶液10ml中に入れ、密閉し、12時間かけて抽出を行う。この抽出溶液を使用し、ガスクロマトグラフを用いて、低分子環状体((D4)~(D8))を計量した。
【0134】
<熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の作製方法>
(実施例1)
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液とを、表に示す組成に従い、それぞれ以下の手順により作成した。表に示す各成分の配合比の単位は質量部である。
【0135】
[実施例1の第1液]
(A)成分として、アルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン、 (D)成分として、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、(F)成分として縮合触媒、任意の成分のBET比表面積300m2/gの疎水性シリカ(H)、任意のシランカップリング剤としてn-オクチルトリエトキシシランの半量、をそれぞれ計量し加え、プラネタリミキサーを用いて室温で30分間混練りした。
(A)成分は両末端に各1個のアルケニル基を有し、粘度が120mPa・sである直鎖のジメチルポリシロキサン(A-1)と、両末端に各1個のアルケニル基を有し、粘度が1,000mPa・sである直鎖のジメチルポリシロキサン(A-2)との混合物である。
【0136】
(F)成分はマツモトファインケミカル社製オルガチックスTC-750(チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート))(F-1)であり、アルコキシ基含有チタンキレート化合物である。
その後、(E)成分として熱伝導性フィラーである(E-1) 平均粒径が0.6μmの不定形の酸化亜鉛、(E-2)平均粒径が4μmの不定形の酸化アルミニウム、および(E-3)平均粒径が50μmの球状の酸化アルミニウムの半量を加えプラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りした。
その後、シランカップリング剤の半量、(E)成分として上記の(E-1)、(E-2)、および(E-3)の半量を加えプラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りし、第1液を作製した。
(E-1) 不定形の酸化亜鉛としてはGrillo Zinkoxid製Pharma 4 API(平均粒径(D50)0.6μm、BET比表面積は4.1 m2/g)を使用した。
(E-2) 不定形の酸化アルミニウムとしてはALMATIS社製CL 3000 SG (平均粒径(D50)3.9μm、BET比表面積は0.9 m2/gである)を使用した。
(E-3) 球状の酸化アルミニウムとしては、Shanghai Bestry Performance Materials 社製BAK-40(平均粒径(D50)40μm、 BET比表面積は0.12 m2/gである)を使用した。
【0137】
[実施例1の第2液]
(A)成分として、第1液と同じアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン(A-1)、(A-2)に加えて、両末端にシラノール基を有するジオルガノポリシロキサン(A-3)を使用した。これらの(A)成分、(B)成分として、両末端に水素原子2個を有する粘度が70mPa・sである直鎖状ジオルガノポリシロキサン(水素量は0.5mmol/gである)、(C)成分、(G-1)成分である1,3,5,7,9-ペンタメチルシクロペンタシロキサン、(G-2)成分である1,3,5,7,9,11-ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン、(H)成分、任意成分の(F)架橋剤、任意のシランカップリング剤の半量をそれぞれ計量し加え、プラネタリミキサーを用いて室温で30分間混練りした。(H)成分とシランカップリング剤は第1液と同じである。
【0138】
(C)成分は、(C-1) Wacker Chemie AG社製(登録商標)TES 28(テトラエトキシシラン)と、(C-2)同社製(登録商標)TES 40(テトラエトキシシランの加水分解物であるオリゴマー)である。
(F)架橋剤は、側鎖にケイ素原子に結合する水素原子を12~18個有する、粘度200mPa・sのジメチルポリシロキサンである。
その後、シランカップリング剤の半量、(E)成分として第1液と同じ熱伝導性フィラーを加えプラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りし、第2液を作製した。
【0139】
実施例1では、貯蔵24時間後の熱伝導性シリコーン組成物を硬化させた場合に引張せん断接着変位が0.65mm、引張せん断接着応力が0.24MPaと極めて良好な値であり、振動条件下における接着性が極めて良好であった。熱伝導性シリコーン組成物を7日貯蔵後であってもこれらの測定結果に変化はなく、貯蔵安定性も極めて良好である。6か月間貯蔵後にも引張せん断接着変位と引張せん断接着応力が極めて良好な値を維持しており、長期貯蔵安定性も極めて良好であった。
硬化後の熱伝導性部材の熱伝導率は2.0W/m・k以上の良好な値であり、放熱特性が良好である。熱伝導性シリコーン組成物を6か月貯蔵後の上部と下部を使用した場合の、硬化後の熱伝導率もいずれも2.0W/m・k以上を示すことから、貯蔵中のフィラーの沈降も十分に低く抑制されていたといえ、沈降抑制性も良好であったといえる。
さらに、伸びと引張強度についても良好な値であり、良好なゴム強度を有することが分かった。
【0140】
(実施例2)
実施例2では、(A-2)、(E-1)、(E-3)、(H)、シランカップリング剤、(C-1)、(G-1)、(G-2)、架橋剤を配合しなかった以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。(A)成分、(C)成分、(E)成分の合計量は実施例1と同等となるように配合量を調整している。
【0141】
実施例2では、引張せん断接着変位、引張せん断接着応力、伸び、引張強度の値が全体的に実施例1よりも低下したが、ギャップフィラーとして使用するに足る範囲である。耐熱性、耐湿性も低下した。主に疎水性シリカと(G)成分が配合されていないことに起因すると考えられる。
また、実施例1と比較すると熱伝導性部材の熱伝導率はやや低下したが、許容範囲内である。
貯蔵安定性および長期貯蔵安定性は実施例1よりは低下したが、許容範囲内である。沈降抑制性は実施例1よりも低下した。
【0142】
(実施例3)
実施例3では(C-2)成分を配合しなかった以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0143】
(実施例4)
実施例4では(C-1)成分を配合しなかった以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0144】
実施例3および4では引張せん断接着変位と引張せん断接着応力が実施例1よりもわずかに低下した。接着性等に寄与する(C-2)成分または(C-1)成分が配合されていなかったことに起因すると考えられる。
【0145】
(実施例5)
実施例5では縮合触媒(F)としてオルガチックスTC-750に代えて、(F-2)Wacker社製Cat-77(ジルコニウムテトラブトキシド)を使用した以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0146】
(実施例6) 実施例6では縮合触媒(F)としてオルガチックスTC-750に代えて、(F-3)関東化学社製チタニウムテトラn-ブトキシドを使用した以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0147】
(実施例7)
実施例7では縮合触媒(F)としてオルガチックスTC-750に代えて、(F-4)マツモトファインケミカル社製ZC-200(オクチル酸ジルコニウム化合物)を使用した以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0148】
(実施例8)
実施例8では縮合触媒(F)としてオルガチックスTC-750に代えて、(F-5)マツモトファインケミカル社製ZC-540(ジルコニウムモノアセチルアセトネート)を使用した以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0149】
(実施例9)
実施例9では縮合触媒(F)としてオルガチックスTC-750に代えて、(F-6) マツモトファインケミカル社製ZC-700(ジルコニウムテトラアセチルアセトネート)を使用した以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0150】
(実施例10)
実施例10では縮合触媒(F)としてオルガチックスTC-750に代えて、(F-2)および(F-6)を使用した以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0151】
実施例5~10のいずれも実施例1よりも引張せん断接着変位と引張せん断接着応力が低下したが、貯蔵後24時間後と7日後は評価基準を上回る結果となり、ギャップフィラーとして使用するに足る特性(貯蔵安定性)を有していた。
一方、6か月貯蔵後はさらにこれらの測定値は低下し、特に実施例5~7では評価基準を下回ったことから、6か月間の長期貯蔵安定性は良好ではなかった。
耐熱性、耐湿性も実施例1よりも低下した。
実施例10はアルコキシ基を有する縮合触媒と、キレート化合物である縮合触媒を混合して使用したが、アルコキシ基とキレート構造を1分子内に有する縮合触媒を使用した実施例1と比較すると7日間貯蔵後、6か月間貯蔵後のいずれも低下する結果となった。
縮合触媒がアルコキシ基を含有するキレート金属化合物である場合に、振動条件下における接着性、貯蔵安定性、耐熱性、耐湿性のいずれもが最も良い結果になった。
【0152】
(実施例11)
実施例11では第2液に(A-3)成分を配合しなかった以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0153】
実施例11では、実施例1と比較して、6か月貯蔵後の熱伝導性シリコーン組成物の上部と下部をそれぞれ硬化させた場合の熱伝導率の差がやや大きくなった。これは(A-3)を配合しないことにより、熱伝導性シリコーン組成物中でフィラーの沈降を抑制する効果が低くなったためと考えられる。
【0154】
(実施例12)
実施例12では(H)疎水性シリカを配合しなかった以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0155】
実施例12では実施例1と比較して、6か月貯蔵後の熱伝導性シリコーン組成物の上部と下部をそれぞれ硬化させた場合の熱伝導率の差がやや大きくなったほか、引張強度もやや低下した。疎水性シリカも熱伝導性シリコーン組成物中のフィラー沈降抑制に一定の寄与を果たすものと考えられる。
【0156】
(実施例13)
実施例13は(G-1)および(G-2)成分に代えて、(G-3)1,3,5,7,9,11,13-ヘプタメチルシクロヘプタシロキサンを配合した以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0157】
実施例13では実施例1と比較して、やや引張せん断接着変位と引張せん断接着応力が低下し、耐熱性、耐湿性もやや低下した。
【0158】
(比較例1)
比較例1は、(C)成分と(F)成分を配合しなかった以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0159】
(比較例2)
比較例2は、 (F)成分を配合しなかった以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0160】
比較例1、比較例2では引張せん断接着変位の値が低く、引張せん断接着応力は基準値となる0.10MPaを下回る結果となった。このため、振動条件下における接着性が不十分である。
この結果から、(C)成分と(F)成分の両方を配合することが、振動条件下において接着性を発現するために必要であることが分かる。
【0161】
(比較例3)
比較例3は、(C-1)成分に代えて(C-1(R))テトラプロポキシシランを配合し、(C-2)成分は配合しなかった以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0162】
比較例3では、熱伝導性シリコーン組成物を7日間貯蔵したのちの硬化物における引張せん断接着応力が基準値である0.10MPaを下回る結果となり、貯蔵安定性が不十分であった。
【0163】
(比較例4)
比較例4は(C)成分を配合しなかった以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0164】
比較例4では引張せん断接着変位が、熱伝導性シリコーン組成物を6か月貯蔵した場合に0.30mmを下回ったほか、引張せん断接着応力は7日間貯蔵後に0.1MPaを下回った。貯蔵安定性が不十分であるといえる。
【0165】
熱伝導性シリコーン組成物を硬化させて得られる熱伝導性部材の熱伝導率は、いずれの実施例、比較例にいても2.0W/m・k以上の良好な値であった。
【0166】
低分子環状シロキサン(D4)~(D8)含有量の合計は、いずれの実施例、比較例においても1,000ppm以下であった。これら全ケースにおいて、熱伝導性シリコーン組成物の引火点は100℃以上であった。
【0167】
【表1】
【0168】
【表2】
【0169】
上記実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下の記載には限定されない。
【0170】
(付記1)
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C) (C-1)メトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および
(C-2)前記有機ケイ素化合物(C-1)の加水分解物と、から選択される少なくとも1種と、
(D)付加触媒と、
(E)熱伝導性フィラーと、
(F)縮合触媒と、を含む、熱伝導性シリコーン組成物。
【0171】
(付記2)
前記(F)縮合触媒が、アルコキシ基含有金属キレート化合物を含む、付記1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【0172】
(付記3)
(G) 重合度が4以上10以下である環状水素化シロキサンをさらに含む、付記1または付記2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【0173】
(付記4)
前記(G)成分は、
(G-1)1,3,5,7,9-ペンタメチルシクロペンタシロキサンと、
(G-2)1,3,5,7,9,11-ヘキサメチルシクロヘキサシロキサンと、を含む、付記3に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【0174】
(付記5)
付記1ないし付記4のいずれか1つに記載の熱伝導性シリコーン組成物であって、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、
前記(C)成分を0.2質量部以上5.0質量部以下と、
前記(D)成分を触媒量と、
前記(E)成分を300質量部以上2,000質量部以下と、
前記(F)成分を触媒量と、を含み、
前記(B)成分の含有量は、(A)成分中のアルケニル基の個数に対する(B)成分中のヒドロシリル基の個数の比が1/5~7となる範囲である、熱伝導性シリコーン組成物。
【0175】
(付記6)
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、
前記(G)成分を0.01質量部以上2.0質量部以下含む、付記3ないし付記5のいずれか1つに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【0176】
(付記7)
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、
前記(G-1)成分 0.01質量部以上1.0質量部以下と、
前記(G-2)成分 0.01質量部以上1.0質量部以下と、
を含む、付記4ないし付記6のいずれか1つに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【0177】
(付記8)
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、
(H) 疎水性シリカ 0.05質量部以上10.0質量部以下をさらに含む、付記7ないし付記5のいずれか1つに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【0178】
(付記9)
前記(A)成分中の5質量%以上20質量%以下が、分子鎖末端に少なくとも1個のシラノール基を有するアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンである、付記1ないし付記8のいずれか1つに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【0179】
(付記10)
前記(E)成分は酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、および窒化ホウ素から選択される少なくとも1種である、付記1ないし付記9のいずれか1つに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【0180】
(付記11)
前記熱伝導性シリコーン組成物は、硬化後に、熱伝導率が2.0 W/m・K以上であり、下記引張せん断接着変位測定試験により測定される変位が0.3mm以上である硬化物を与えることを特徴とする、付記1ないし付記10のいずれか1つに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
<引張せん断接着変位測定試験>
熱伝導性シリコーン組成物を縦25mm×横25mmの塗布面積、厚み0.6mmなるようにアルミニウム製試験片と、カチオン電着塗装された鉄製試験片とで挟み、23℃の温度下で24時間硬化させて、引張せん断接着試験用試験片を得る。
前記引張せん断接着試験用試験片をJIS K6850に準拠した方法により引張せん断接着試験を行い、SーS曲線グラフを得る。
前記SーS曲線グラフにおいて、最大の応力となる点のストローク量を、各引張せん断接着試験用試験片に対応するシリコーン組成物の硬化物の変位とする。
【0181】
(付記12)
付記1ないし付記11のいずれか1つに記載の熱伝導性シリコーン組成物を製造する方法であって、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(D)付加触媒と、
(E)熱伝導性フィラーと、
(F)縮合触媒と、を混合して第1液を得る第一工程と、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B) ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C) (C-1)メトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および (C-2)前記有機ケイ素化合物(C-1)の加水分解物と、から選択される少なくとも1種と、
(E)熱伝導性フィラーと、を混合して第2液を得る第二工程と、
を含む、2液型熱伝導性シリコーン組成物の製造方法。
【0182】
(付記13)
付記12に記載の2液型熱伝導性シリコーン組成物を使用して、カチオン電着塗装により少なくとも一部を被覆された鉄表面を有するバッテリーユニット筐体と、アルミニウム表面を有する冷却器との間に配置されるギャップフィラーを製造する方法であって、
前記第1液と前記第2液とを混合して熱伝導性シリコーン組成物を得る混合工程と、
前記バッテリーユニット筐体および前記冷却器の少なくとも一方に前記熱伝導性シリコーン組成物を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で塗布された未硬化の熱伝導性シリコーン組成物を15℃以上60℃以下の温度で、硬化工程と、
を有するギャップフィラーの製造方法。
【0183】
(付記14)
熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の、金属またはカチオン電着塗料を塗布した金属表面への振動条件下における接着性を向上させ、かつ熱伝導性シリコーン組成物の貯蔵安定性を向上させる方法であって、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサン、および
(D)付加触媒
を含む前記熱伝導性シリコーン組成物に
(C) (C-1)エメトキシ基およびエトキシ基から選択される少なくとも一種の基を2個以上有し、炭素数3以上の炭化水素基またはビニル基を有しない有機ケイ素化合物、および
(C-2)前記有機ケイ素化合物(C-1)の加水分解物と、から選択される少なくとも1種と、
(F)縮合触媒と、を配合する工程を含む、前記方法。
【0184】
(付記15)
オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン(D7)、およびヘキサデカメチルシクロオクタシロキサン(D8)のそれぞれの含有量合計は、前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、0.1質量部未満である、付記1ないし付記9のいずれか1つに記載の熱伝導性シリコーン組成物。