(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168652
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】電解金めっき液及びその製造方法並びに該めっき液を用いためっき方法
(51)【国際特許分類】
C25D 3/48 20060101AFI20231121BHJP
C25D 21/14 20060101ALI20231121BHJP
C25D 5/02 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C25D3/48
C25D21/14 G
C25D5/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079874
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】古山 大貴
(72)【発明者】
【氏名】巽 康司
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA25
4K023BA29
4K023CB09
4K023CB13
4K023CB28
4K023DA02
4K023DA06
4K024AA11
4K024AB01
4K024BB11
4K024BB12
4K024CA02
4K024CA03
4K024CA06
4K024CB11
(57)【要約】
【課題】35℃以下の液温でのめっきが可能であって、めっき皮膜が均一に電着するめっき性に優れ、めっき液の寿命が長く、毒性のない電解金めっき液及びその製造方法を提供する。
【解決手段】非シアンの可溶性金塩(A)と、この金塩の金イオンを錯体化する錯体化剤(B)とを含む電解金めっき液である。錯体化剤(B)が下記の一般式(1)に示されるメルカプトテトラゾール化合物であり、可溶性金塩(A)に対する錯体化剤(B)のモル比率(B/A)が10以上260以下であり、金めっき液のpHが3未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非シアンの可溶性金塩(A)と、前記金塩の金イオンを錯体化する錯体化剤(B)とを含む電解金めっき液であって、
前記錯体化剤(B)が下記の一般式(1)に示されるメルカプトテトラゾール化合物であり、前記可溶性金塩(A)に対する前記錯体化剤(B)のモル比率(B/A)が10以上260以下であり、前記金めっき液のpHが3未満であることを特徴とする電解金めっき液。
【化1】
但し、式(1)中、『*』はメチル基、エチル基、プロピル基、カルボキシル基、アセチル基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、アルボキシル基、ジメチルアミノエチル基又はアセトアミドフェニル基である。
【請求項2】
硫酸又は炭素鎖が1以上5以下のアルキルスルホン酸を更に含有する請求項1記載の電解金めっき液。
【請求項3】
シアン化合物又はシアンイオンを含まない請求項1又は2記載の電解金めっき液。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の電解金めっき液を用いて、レジストパターン内に金めっき皮膜を形成するめっき方法。
【請求項5】
金メタルを、硫酸又は炭素鎖が1以上5以下のアルキルスルホン酸中で請求項1記載の錯体化剤(B)が存在する状態で、電解を行って、非シアンの可溶性金塩(A)を含む電解液を得た後、請求項1記載の電解金めっき液を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハ又は基板等への金めっきに用いられる電解金めっき液及びその製造方法並びに該めっき液を用いためっき方法に関する。更に詳しくは、金めっきバンプを形成するのに好適に用いられる電解金めっき液及びその製造方法並びに該めっき液を用いためっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シアンは錯形成力が強いため、金塩がシアン化金塩である金めっき液が開示されている(例えば、特許文献1(請求項1、請求項2、請求項3、段落[0012]、段落[0025])参照。)。特許文献1には、この金めっき液は、シアン化金塩と、可溶性コバルト塩及び/又はニッケル塩と、有機酸伝導塩と、キレート化剤と、電解硬質金めっき液用置換防止剤とを含有することが記載されている。また、特許文献1には、この金めっき液によれば、金めっき液に所定の有機置換防止剤を配合するため、金めっき液に電流を流していない状態においてニッケル下地上に保護膜を形成することができ、且つこの保護膜は金めっき液に電流を流すことにより容易に除去できること、ニッケル下地上に形成される保護膜の存在により、電流を流していない状態で金めっき液が接触してもニッケル下地との置換反応が生じず、選択的なめっきが可能になること、及びニッケル下地との置換反応が生じないため、金パーティクルの発生に起因するめっき槽内壁への金の析出も抑制できる等の特長を有することが記載されている。
【0003】
特許文献1の発明のように、シアン化金塩を含むめっき液は毒性が強い。このため、ノーシアン電解金めっき液が開示されている(例えば、特許文献2(請求項1、段落[0012]、段落[0037]、段落[0040]、段落[0051]、段落[0054]、段落[0061])参照。)。特許文献2には、この金めっき液は、所定の1価金錯体と、電解質と、金属から選ばれる結晶調整剤とを含有すること、金めっき液のpHは、例えば3~14、好ましくは5~8であり、この金めっき液を用いた電解金めっきの条件は、例えば液温20~80℃で、電流密度0.1~6A/dm2であること、及びこの金めっき液は、安定性に極めて優れ、調製後1年間も変化がなく、金めっき作業中に析出金の物性の変化が金めっき液の分解を起こしにくいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/208340号
【特許文献2】国際公開第2016/098789号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、金めっき法で金めっきバンプを形成する場合、基板上に有機レジストで形成したパターン内に金めっきを行っている。しかしながら、特許文献2に記載された金めっき液は、毒性がないものの、pH3~14の範囲の中で、めっき液がpH7を超えたアルカリ性領域で金めっきを行うと、レジストパターンが溶解し、パターンめっきが困難となり、かつめっき液の電気伝導性が低くなり、結果としてめっき皮膜が均一に電着しない課題があった。一方、めっき液がpH3~7の酸性領域から中性領域で、めっき時の液温を20℃~80℃の範囲の中で、液温を40℃以上にしてめっきを行うと、レジストパターンがダメージを受け易く、やはりめっき皮膜が均一に電着しないという課題が依然としてある。
【0006】
本発明の目的は、35℃以下の液温でのめっきが可能であって、めっき皮膜が均一に電着するめっき性に優れ、めっき液の寿命が長く、毒性のない電解金めっき液及びその製造方法を提供することにある。本発明の別の目的は、このめっき液を用いためっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特許文献2記載の金めっき液が金イオンを錯体化し易くする目的でpHを中性領域にし、これに起因して、めっき皮膜が均一に電着しないことから、金めっき液のpHを3未満の強酸性領域にして、めっき液の電気伝導性を高める一方、特定の錯体化剤を選定し、かつこの錯体化剤と金塩とのモル比率を所定の割合にすることで、金イオンの錯体化を図って、これによりめっき皮膜が均一に電着するめっき性を良好に、かつめっき液の寿命を長くできることに着目し、本発明に到達した。
【0008】
本発明の第1の観点は、非シアンの可溶性金塩(A)と、前記金塩の金イオンを錯体化する錯体化剤(B)とを含む電解金めっき液であって、前記錯体化剤(B)が下記の一般式(1)に示されるメルカプトテトラゾール化合物であり、前記可溶性金塩(A)に対する前記錯体化剤(B)のモル比率(B/A)が10以上260以下であり、前記金めっき液のpHが3未満であることを特徴とする。
【0009】
【0010】
但し、式(1)中、『*』はメチル基、エチル基、プロピル基、カルボキシル基、アセチル基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、アルボキシル基、ジメチルアミノエチル基又はアセトアミドフェニル基である。
【0011】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、硫酸又は炭素鎖が1以上5以下のアルキルスルホン酸を更に含有する電解金めっき液である。
【0012】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、シアン化合物又はシアンイオンを含まない電解金めっき液である。
【0013】
本発明の第4の観点のめっき方法は、第1、第2又は第3の観点の電解金めっき液を用いて、レジストパターン内に金めっき皮膜を形成するめっき方法である。
【0014】
本発明の第5の観点の製造方法は、金メタルを、硫酸又は炭素鎖が1以上5以下のアルキルスルホン酸中で第1の観点の錯体化剤(B)が存在する状態で、電解を行って、非シアンの可溶性金塩(A)を含む電解液を得た後、第1の観点の電解金めっき液を製造する方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の観点の電解金めっき液では、上記式(1)に示される特定のメルカプトテトラゾール化合物を錯体化剤として用い、かつ錯体化剤(B)と金塩(A)とのモル比率(B/A)を10以上260以下の所定の割合することにより、pHが3未満であっても金イオンを錯体化することができる。また、pHが3未満であることにより、めっき液の電気抵抗が低くなりめっき液の電気伝導性が高く、これによりめっき時にめっき皮膜が均一に電着し、めっき性に優れる。またこの電解めっき液は、特定のメルカプトテトラゾール化合物を含有するため、めっき液の温度を比較的低温(例えば、35℃以下)の条件下で、金めっきを行うことができるとともに、pHが3未満の酸性であることにより、めっき時にレジストパターンのダメージを小さくする利点がある。また特定のメルカプトテトラゾール化合物により金イオンを錯体化しているため、高い酸化安定性を示し、めっき液を製造した後のめっき液の寿命が長い効果を有する。
【0016】
本発明の第2の観点の電解金めっき液では、金めっき液が硫酸又は炭素鎖が1以上5以下のアルキルスルホン酸を更に含有するため、電解によって金を水溶液中に溶解させる効果がある。
【0017】
本発明の第3の観点の電解金めっき液では、金めっき液がシアン化合物又はシアンイオンを含まないため、毒性が低い。
【0018】
本発明の第4の観点のめっき方法では、pHが3未満である金めっき液を使用するため、金めっき時にレジストパターンを溶解させずに、レジストパターン内に均一な金めっき皮膜を形成することができる。
【0019】
本発明の第5の観点の製造方法では、金メタルを、硫酸又は炭素鎖が1以上5以下のアルキルスルホン酸中で第1の観点の錯体化剤(B)が存在する状態で、電解を行って、pHが1未満の非シアンの可溶性金塩(A)の水溶液を調製し、この水溶液のpHをpH調整剤を用いて3未満に調整することにより、第1の観点の電解金めっき液を製造する。このため、この方法は、金イオンに対して錯体化剤(B)のみを配位させる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の非シアンの可溶性金塩を調製するための装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0022】
〔電解金めっき液〕
本実施形態の電解金めっき液は、非シアンの可溶性金塩(A)と、この金塩の金イオンを錯体化する錯体化剤(B)とを含み、錯体化剤(B)が上述した一般式(1)に示されるメルカプトテトラゾール化合物であり、可溶性金塩(A)に対する錯体化剤(B)のモル比率(B/A)が10以上260以下であり、金めっき液のpHが3未満であることを特徴とする。
【0023】
電解金めっき液の錯体化剤(B)としては、上述した一般式(1)に示されるメルカプトテトラゾール化合物が用いられる。こうした錯体化剤(B)は、テトラゾール環内の電子密度が高く、メルカプト基の非共有電子対の配位力が強い理由で、金イオンを的確に錯体化し、かつ金成分の析出や沈殿が生じない安定性の高いめっき液にする。メルカプトテトラゾール化合物としては、5-メルカプト-1-メチルテトラゾール及びI-(2-ジメチルアミノエチル)-5-メルカプトテトラゾールが水溶液への溶解性が高いという理由で好ましい。
【0024】
電解金めっき液における可溶性金塩(A)に対する錯体化剤(B)のモル比率(B/A)は10以上260以下である。モル比率(B/A)が10未満では錯体化剤が不足し可溶性金塩から溶出する金イオンの錯体化が不十分になり、めっき液の金成分が析出や沈殿が生じ、めっき液の安定性が劣るようになる。また260を超えると錯体化剤が過剰となり金イオンの電析が過度に抑制され、緻密なめっき皮膜が得られない不具合を生じる。好ましいモル比率(B/A)は10以上100以下である。
【0025】
電解金めっき液中の非シアンの可溶性金塩(A)の濃度は0.001モル/L~0.1モル/Lであることが好ましい。0.001モル/L未満であると、めっき速度が遅くなり易く、0.1モル/Lを超えると、めっき浴が高価になり過ぎるおそれがある。また、電解金めっき液中の錯体化剤(B)の濃度は0.01モル/L~3モル/Lであることが好ましい。0.01モル/L未満であると、金イオンの錯体化が不十分になり易く、めっき液の金成分が沈殿し易くなる。3モル/Lを超えると、錯体化剤を水溶液中へ溶解させることが困難になり易い。
【0026】
電解金めっき液のpHは、めっき液の電気伝導性を高くするために、3未満である。このpHが3以上になると、めっき液の電気伝導性が低くなり、めっき性に劣るようになる。好ましいpHは0~2である。
【0027】
電解金めっき液では、硫酸又は炭素鎖が1以上5以下のアルキルスルホン酸を含有していることが好ましい。硫酸又は炭素鎖が1以上5以下のアルキルスルホン酸の濃度は0.01モル/L~5モル/Lの範囲であることが好ましい。0.01モル/L以下の場合、めっき液の導電度が低くなり易く、めっき皮膜が均一に電着しにくくなる。また、5モル/Lを超えると、めっき液の粘度が高過ぎて、緻密なめっき皮膜が得にくくなる。
【0028】
電解金めっき液では、シアン化合物又はシアンイオンを含まないことが好ましい。シアン化合物又はシアンイオンを含まないので毒性が低い。「シアン化合物又はシアンイオンを含まない」とは、JIS-K0102に規定される試験方法(ピリジン-ピラゾロン吸光光度法,4-ピリジンカルボン酸-ピラゾロン吸光光度法,イオン電極法又は4-ピリジンカルボン酸-ピラゾロン発色による流れ分析法が挙げられる)によって電解金めっき液を測定したときに、シアン化合物又はシアンイオンの濃度が1ppm以下であることをいう。
【0029】
〔電解金めっき液の製造方法〕
本実施形態における電解金めっき液の製造方法を次に詳述する。
本実施形態の電解金めっき液の製造方法では、イオン交換膜による金メタルの電解を利用することが好ましい。この方法を用いることにより得られる電解金めっき液においては、メルカプトテトラゾール化合物が確実に金イオンに配位されるので、金めっきを確実に行うことができる。
【0030】
図1に示すように、非シアンの可溶性金塩は、アノード槽1とカソード槽2とが水素イオン交換膜3を挟んで連結された電解装置10により調製される。
先ず、アノード槽1に硫酸又は炭素鎖が1以上5以下のアルキルスルホン酸と上述した一般式(1)に示される錯体化剤(B)と純水を入れる。ここで、硫酸又は炭素鎖が1以上5以下のアルキルスルホン酸の濃度は0.1~5モル/Lとすることが好ましい。錯体化剤(B)の濃度は0.01~3モル/Lとすることが好ましい。純水はイオン交換水などを用いることができる。
【0031】
次いで、カソード槽2に硫酸又は炭素鎖が1以上5以下のアルキルスルホン酸と純水を入れる。ここで、硫酸又は炭素鎖が1以上5以下のアルキルスルホン酸の濃度は0.01~5モル/Lとすることが好ましい。次に、アノードには可溶性の板状又は棒状の金メタル4を用い、カソードにはチタン(Ti)を基体として白金(Pt)をめっきしてなる不溶性のPt/Ti板5を用いる。金メタル4としては、純度99%以上の金を板状又は棒状に加工して用いることが好ましい。
【0032】
このような構成の電解装置10により、金メタル4の電解を行い、金イオンを溶出するとともに、錯体化剤(B)により錯体化する。得られた電解液6をアノード槽1より取り出し、この電解液6を図示しない固液分離装置により固液分離し、非シアンの可溶性金塩(A)を含む液を得る。ここでの電解は、液温10℃~50℃、電流密度0.01ASD~10ASDで行うことができ、金濃度(非シアンの可溶性金塩(A)の濃度)が0.001モル/L~1モル/Lとなるようにすることが好ましい。
【0033】
次いで、この非シアンの可溶性金塩(A)を含む液を希釈して本実施形態の電解金めっき液を製造する。希釈はイオン交換水や蒸留水などの純水で行い、非シアンの可溶性金塩(A)が0.001モル/L~0.1モル/Lの範囲となるように希釈することが好ましい。この際、錯体化剤(B)の濃度が低下している場合、0.01モル/L~3モル/Lの範囲となるように追加添加することが好ましい。また、強酸に対して不安定な対象物にめっきをする場合などは、必要に応じて、pHが3を超えない範囲で中和により、めっき液のpHを調整することもできる。中和は、水酸化ナトリウムなどの水酸化物、アンモニアなどの塩基により行うとよい。これにより、本実施形態の電解金めっき液が製造される。
【実施例0034】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0035】
最初に、実施例1~12と比較例1~6において使用する6種類の錯体化剤(種類:A~F)とそれぞれの分子量を以下の表1に示す。
【0036】
【0037】
<実施例1>
先ず、下記の非シアンの可溶性金塩(A)を含む液を調製し、次いでこの液を用いて電解金めっき液を調製した。
(非シアンの可溶性金塩(A)を含む液の調製)
非シアンの可溶性金塩(A)を含む液は、上記表1に示される種類Aの錯体化剤(B)を用いて、下記組成で調製した。調製した液を
図1に示されるアノード槽1に投入した。
メタンスルホン酸:100g/L
5-メルカプト-1-メチルテトラゾール(種類Aの錯体化剤(B)):100g/L
残部:純水
【0038】
次に、下記組成の液を調製し、この液を
図1に示されるカソード槽2に投入した。
メタンスルホン酸:100g/L
残部:純水
上記構成の可溶性金塩の調製装置10において、液温を25℃に、アノードの電流密度を0.1ASDにそれぞれ設定して、50時間、金メタル4の電解を行った。電解液6のpHは1未満であった。この電解液6を定性分析用3種のろ紙を用いてろ過し、ろ液として黄色の透明な非シアンの可溶性金塩(A)を含む液を得た。ここで、この液に含まれる金イオン濃度をICP発光分光分析装置(ICP-OES)を用いて測定したところ、10g/Lであった。
【0039】
(電解金めっき液の調製)
電解金めっき液を以下の手順で調製した。上記金イオン濃度が10g/LであるpHが1未満の非シアンの可溶性金塩(A)を含む液を純水で希釈し、金イオン濃度を0.5g/L(0.002538モル/L)に調整した。次いで、種類Aの錯体化剤(B)である5-メルカプト-1-メチルテトラゾールを上記希釈された液に添加し混合することにより、電解金めっき液を調製した。電解金めっき液における錯体化剤(B)の濃度は10g/L(0.086103モル/L)であり、電解金めっき液のpHは1未満であった。上記金イオン濃度と錯体化剤の濃度から算出されるモル比(B/A)は34であった。
【0040】
上述した実施例1の内容を、以下の表2に示す。表2には、次に述べる実施例2~12及び比較例1~6の内容(モル比(B/A)及びpH値)も一緒に示す。
【0041】
【0042】
<実施例2~12及び比較例1~6>
上記表2に示すように、実施例2~12及び比較例1~6では、実施例1における非シアンの可溶性金塩(A)を含む液を純水で希釈する際の希釈度合いを変更することにより、非シアンの可溶性金塩(A)の金イオン濃度を実施例1と異なる値に変更した。また、錯体化剤(B)を表2に記載された量となるように調製した。
また、実施例2~9及び比較例1~3、6における錯体化剤(B)は実施例1と同一の錯体化剤を用いた。実施例10~12及び比較例4、5は実施例1と異なる錯体化剤を用いた。比較例4、5では、メルカプトテトラゾール化合物の代わりにメルカプトトリアゾール化合物を用いた。
また、実施例2~12及び比較例1~6では、非シアンの可溶性金塩(A)を含む液を調製するときの錯体化剤(B)の添加量を実施例1と同一又は変更して電解金めっき液中の錯体化剤の濃度を調整した。
更に、実施例2~12及び比較例1~6では、実施例1において希釈した液に錯体化剤を添加混合した後で、この混合液に0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、混合液のpHを表2に示すように変更した。
【0043】
<比較試験及び評価>
実施例1~12及び比較例1~6の18種類の電解金めっき液について、調製してからめっき液の安定性と、めっき性を次の方法により調べた。それらの結果を上記表2に示す。
【0044】
(1)めっき液の安定性について
電解金めっき液の安定性は、調製した電解金めっき液を50mL採取して、透明なガラス製の瓶に密封した。この瓶を40℃の温度に維持されたクリーンオーブン内に6ヶ月間保管した。保管後の液の外観を目視によって確認した。目視による確認において、ガラス製の瓶の底部に沈殿を生じなかった場合をめっき液の安定性が「良好」であると判定し、沈殿を生じた場合をめっき液の安定性が「不良」であると判定した。
【0045】
(2)めっき性について
電解めっき装置のアノードとして、直径1mmの棒状の金メタルを用いた。またカソードとして、ウエハ表面に直径100μmのビア径を2000個有するレジストパターンが形成されたシリコンウエハを用いた。
実施例1~12及び比較例1~6で得られた18種類の電解金めっき液100mLをそれぞれガラス製ビーカーに入れ、スターラーで撹拌した。この撹拌した液を上記電解めっき装置のめっき槽に入れ、液温を30℃に、カソードの電流密度を0.1ASDにそれぞれ設定して、1時間、レジストパターンのビア開口部をめっきした。
シリコンウエハをめっき装置から取出して、洗浄、乾燥した後、レジストパターンを有機溶媒を用いて剥離した。レジストパターンの形状に沿って金めっきバンプが形成された場合をめっき性が「良好」であると判定し、レジストパターン通りに金めっきバンプが形成されなかった場合をめっき性が「不良」であると判定した。この結果を上記表2に示す。
【0046】
表2から明らかなように、比較例1では、錯体化剤(B)としてメルカプトテトラゾール化合物が用いられ、電解金めっき液のpHが1であって、金めっきバンプがレジストパターン通りに形成され、めっき性は「良好」であったが、可溶性金塩(A)と錯体化剤(B)のモル比(B/A)が8と小さ過ぎたため、錯体化剤が不足し金イオンの錯体化が不十分になり、沈殿が生じ、めっき液の安定性が「不良」であった。
【0047】
比較例2では、錯体化剤(B)としてメルカプトテトラゾール化合物が用いられ、可溶性金塩(A)と錯体化剤(B)のモル比(B/A)が170であって、めっき液の安定性は「良好」であったが、電解金めっき液のpHが3と高過ぎたため、水素が発生し、レジストパターンが剥離して、金めっきバンプがレジストパターン通りに形成されず、めっき性は「不良」であった。
【0048】
比較例3では、錯体化剤(B)としてメルカプトテトラゾール化合物が用いられたが、可溶性金塩(A)と錯体化剤(B)のモル比(B/A)が8と小さ過ぎたため、沈殿が生じ、めっき液の安定性が「不良」であった。また、電解金めっき液のpHが4と高過ぎたため、水素が発生し、レジストパターンが剥離して、金めっきバンプがレジストパターン通りに形成されず、めっき性も「不良」であった。
【0049】
比較例4及び5では、電解金めっき液のpHがそれぞれ1及び2であって、金めっきバンプがレジストパターン通りに形成され、めっき性はともに「良好」であった。また、可溶性金塩(A)と錯体化剤(B)のモル比(B/A)がそれぞれ97及び171で適正であったが、錯体化剤として、メルカプトトリアゾール化合物を用いたため、上述しためっき条件では、金イオンが確実に錯体化せず、沈殿が生じ、めっき液の安定性がともに「不良」であった。
【0050】
比較例6では、錯体化剤(B)としてメルカプトテトラゾール化合物が用いられたが、可溶性金塩(A)と錯体化剤(B)のモル比(B/A)が305と大き過ぎたため、錯体化剤による金イオンの電析が過度に抑制され、レジストパターン内に形成されためっき皮膜は緻密では無く、めっき性は「不良」であった。
【0051】
これらの比較例に対して、実施例1~12では、本発明の第1の観点の要件を備えた電解金めっき液であったため、6ヶ月保管後には沈金現象は生じず、またレジストパターン通りに金めっきバンプが形成され、めっき液の安定性及びめっき性はすべて「良好」であった。