(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168659
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】逆合成開口レーダ画像合成装置、逆合成開口レーダ画像合成方法および逆合成開口レーダ画像合成プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/90 20060101AFI20231121BHJP
G06T 3/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
G01S13/90 164
G06T3/00 750
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079889
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩壁 冬樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124501
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 誠人
(72)【発明者】
【氏名】小野 清伸
【テーマコード(参考)】
5B057
5J070
【Fターム(参考)】
5B057BA01
5B057CA20
5B057CE08
5B057DA07
5J070AB01
5J070AC01
5J070AC11
5J070AH04
5J070BA01
5J070BE02
(57)【要約】
【課題】複数のISAR画像を用いてISAR画像を鮮明化できる逆合成開口レーダ画像合成装置を提供する。
【解決手段】逆合成開口レーダ画像合成装置20は、設定された相関窓の中心画素を設定された検査範囲内の任意の1つの画素に重ねてその相関窓とその検査範囲との相互相関係数を算出する処理を、その検査範囲内の全ての画素に渡って実行する検査部26と、算出された複数の相互相関係数のうち最大の相互相関係数を与える相関窓の位置から算出されるスレーブの画素の座標が示す撮像対象の位置が、マスタにおける抽出された範囲に相当する範囲内の輝度値が最大の画素の座標が示す撮像対象の位置と同一であると判定する判定部27とを備える。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ISAR(Inverse Synthetic Aperture Radar)画像の各画素の絶対値を各画素の輝度値とすることによって当該ISAR画像を実数画像に変換する変換部と、
大きさが所定のサイズであって同一の撮像対象が異なる時刻にそれぞれ撮像された複数のISAR画像が変換された複数の実数画像を座標が同一の画素同士が重なるように加算することによって1つの実数画像を生成する生成部と、
生成された1つの実数画像から所定の第1条件を満たす範囲を抽出する抽出部と、
前記複数のISAR画像のうちの1つのISAR画像であるマスタにおける抽出された範囲に相当する範囲を含む相関窓を前記マスタに設定する第1設定部と、
前記複数のISAR画像のうちの前記マスタ以外のISAR画像であるスレーブにおける設定された相関窓に相当する範囲を検査範囲として前記スレーブに設定する第2設定部と、
設定された相関窓の中心画素を設定された検査範囲内の任意の1つの画素に重ねて当該相関窓と当該検査範囲との相互相関係数を算出する処理を、当該検査範囲内の全ての画素に渡って実行する検査部と、
算出された複数の相互相関係数のうち最大の相互相関係数を与える相関窓の位置から算出される前記スレーブの画素の座標が示す前記撮像対象の位置が、前記マスタにおける抽出された範囲に相当する範囲内の輝度値が最大の画素の座標が示す前記撮像対象の位置と同一であると判定する判定部とを備える
ことを特徴とする逆合成開口レーダ画像合成装置。
【請求項2】
同一の撮像対象の位置を示す座標の画素同士が重なるようにマスタの位置とスレーブの位置を合わせる位置合わせ部を備える
請求項1記載の逆合成開口レーダ画像合成装置。
【請求項3】
位置が合わせられたマスタとスレーブを加算する加算部を備える
請求項2記載の逆合成開口レーダ画像合成装置。
【請求項4】
マスタから輝度値が所定の第2条件を満たす画素の領域を選択する選択部と、
前記マスタの画素が示す複素数とスレーブの対応する画素が示す複素数との規格化された比を、選択された領域における画素ごとにそれぞれ算出する算出部と、
選択された領域における画素に対応する前記スレーブの画素が示す複素数と対応する算出された比を乗算し、選択された領域における画素以外の画素に対応する前記スレーブの画素が示す複素数と1を乗算する処理を、前記スレーブの画素ごとにそれぞれ実行することによって前記マスタの偏角と前記スレーブの偏角を合わせる偏角合わせ部とを備える
請求項3記載の逆合成開口レーダ画像合成装置。
【請求項5】
加算部は、位置および偏角が合わせられたマスタとスレーブを加算する
請求項4記載の逆合成開口レーダ画像合成装置。
【請求項6】
ISARが取得した撮像対象のデータであるISARデータを所定の時間ごとに分割することによって複数のISARデータを生成する分割部と、
生成された複数のISARデータをそれぞれ画像化することによって複数のISAR画像を生成する画像化部とを備える
請求項1から請求項5のうちのいずれか1項に記載の逆合成開口レーダ画像合成装置。
【請求項7】
ISAR画像の各画素の絶対値を各画素の輝度値とすることによって当該ISAR画像を実数画像に変換し、
大きさが所定のサイズであって同一の撮像対象が異なる時刻にそれぞれ撮像された複数のISAR画像が変換された複数の実数画像を座標が同一の画素同士が重なるように加算することによって1つの実数画像を生成し、
生成された1つの実数画像から所定の第1条件を満たす範囲を抽出し、
前記複数のISAR画像のうちの1つのISAR画像であるマスタにおける抽出された範囲に相当する範囲を含む相関窓を前記マスタに設定し、
前記複数のISAR画像のうちの前記マスタ以外のISAR画像であるスレーブにおける設定された相関窓に相当する範囲を検査範囲として前記スレーブに設定し、
設定された相関窓の中心画素を設定された検査範囲内の任意の1つの画素に重ねて当該相関窓と当該検査範囲との相互相関係数を算出する処理を、当該検査範囲内の全ての画素に渡って実行し、
算出された複数の相互相関係数のうち最大の相互相関係数を与える相関窓の位置から算出される前記スレーブの画素の座標が示す前記撮像対象の位置が、前記マスタにおける抽出された範囲に相当する範囲内の輝度値が最大の画素の座標が示す前記撮像対象の位置と同一であると判定する
ことを特徴とする逆合成開口レーダ画像合成方法。
【請求項8】
同一の撮像対象の位置を示す座標の画素同士が重なるようにマスタの位置とスレーブの位置を合わせる
請求項7記載の逆合成開口レーダ画像合成方法。
【請求項9】
コンピュータに、
ISAR画像の各画素の絶対値を各画素の輝度値とすることによって当該ISAR画像を実数画像に変換する変換処理、
大きさが所定のサイズであって同一の撮像対象が異なる時刻にそれぞれ撮像された複数のISAR画像が変換された複数の実数画像を座標が同一の画素同士が重なるように加算することによって1つの実数画像を生成する生成処理、
生成された1つの実数画像から所定の第1条件を満たす範囲を抽出する抽出処理、
前記複数のISAR画像のうちの1つのISAR画像であるマスタにおける抽出された範囲に相当する範囲を含む相関窓を前記マスタに設定する第1設定処理、
前記複数のISAR画像のうちの前記マスタ以外のISAR画像であるスレーブにおける設定された相関窓に相当する範囲を検査範囲として前記スレーブに設定する第2設定処理、
設定された相関窓の中心画素を設定された検査範囲内の任意の1つの画素に重ねて当該相関窓と当該検査範囲との相互相関係数を算出する処理を、当該検査範囲内の全ての画素に渡って実行する検査処理、および
算出された複数の相互相関係数のうち最大の相互相関係数を与える相関窓の位置から算出される前記スレーブの画素の座標が示す前記撮像対象の位置が、前記マスタにおける抽出された範囲に相当する範囲内の輝度値が最大の画素の座標が示す前記撮像対象の位置と同一であると判定する判定処理
を実行させるための逆合成開口レーダ画像合成プログラム。
【請求項10】
コンピュータに、
同一の撮像対象の位置を示す座標の画素同士が重なるようにマスタの位置とスレーブの位置を合わせる位置合わせ処理を実行させる
請求項9記載の逆合成開口レーダ画像合成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆合成開口レーダ画像合成装置、逆合成開口レーダ画像合成方法および逆合成開口レーダ画像合成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ISAR(Inverse Synthetic Aperture Radar)画像は、撮像対象の揺れによる撮像対象の各点の角速度の違いが原因で発生するドップラー周波数の違いを示している。よって、ISAR画像は、角速度の変化や回転軸の変化が原因で、不鮮明になる場合が多い。
【0003】
ISAR画像の生成に使用されるISARデータの取得時間である積分時間を維持したままISAR画像を鮮明化する場合、オートフォーカス処理等を実行する方法が考えられる。しかし、オートフォーカス処理等が実行されても、ISAR画像に含まれる角速度の変化や回転軸の変化が原因で上記のオートフォーカス処理等が収束しない可能性がある。
【0004】
積分時間の短いISARデータを使用すれば、鮮明なISAR画像が得られる可能性が高い。しかし、積分時間の短いISARデータを使用すると、撮像対象の信号がノイズに埋もれてしまい、信号対雑音比であるS/Nが小さくなる恐れがある。
【0005】
また、特許文献1には、ISAR画像の解像度を高めることができるレーダ装置および信号処理装置が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、より精度よく物体を識別することができるレーダ信号処理装置が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、目標の特徴点を用いて時刻ごとのISAR画像を重ね合わせられるようにすることで、目標の構造や姿勢によらず、画素欠落の少ない、正確な目標画像を取得可能にするレーダ装置が記載されている。
【0008】
また、特許文献4には、レーダ目標からのレーダエコーから作成される画像を用いる際に、目標を確実に捕捉できるようにするために、目標の境界を正確に識別できる時系列画像処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-006779号公報
【特許文献2】特開2019-219339号公報
【特許文献3】特開2009-162611号公報
【特許文献4】特開2002-365363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、ISAR画像は、撮像対象の揺れに起因するドップラー周波数の強度を示しているため、角速度の変化や回転軸の変化が原因で不鮮明になる場合が多い。よって、ISAR画像を利用する上で、ISAR画像を鮮明化する方法を確立することが課題になる。
【0011】
ISAR画像を鮮明化する方法として、単純に複数のISAR画像を加算する方法が考えられる。複数のISAR画像を加算する方法は、複数のISAR画像に表示されている撮像対象の同一位置を示す画素を複数のISAR画像からそれぞれ選択し、選択された複数の画素が重なるように複数の画素の座標をそれぞれ変換する。座標をそれぞれ変換した後、複数のISAR画像を加算する方法は、選択された複数の画素を重ね合わせる。
【0012】
しかし、ISAR画像では撮像対象の揺れが画像化されているため、同一位置であっても時刻によって映り方が異なる。よって、複数のISAR画像から撮像対象の同一位置を示す画素をそれぞれ選択することは困難である。
【0013】
また、位置合わせが行われたISAR画像同士を重ね合わせる際、画素が示す複素数の偏角が揃っていなければ輝度が弱まる恐れがある。輝度を弱めないためには、ISAR画像間で画素ごとに偏角を一致させることが求められる。
【0014】
ただし、雑音が表示されている画素を基に偏角を一致させると、S/Nが小さくなる。よって、ISAR画像同士を重ね合わせる際、信号成分のみが強め合うようにISAR画像間で画素ごとに偏角を調整することが重要になる。
【0015】
特許文献1~4には、複数のISAR画像から撮像対象の同一位置を示す画素をそれぞれ選択すること、および信号成分のみが強め合うようにISAR画像間で画素ごとに偏角を調整することは、いずれも記載されていない。
【0016】
そこで、本発明は、複数のISAR画像を用いてISAR画像を鮮明化できる逆合成開口レーダ画像合成装置、逆合成開口レーダ画像合成方法および逆合成開口レーダ画像合成プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明による逆合成開口レーダ画像合成装置は、ISAR画像の各画素の絶対値を各画素の輝度値とすることによってそのISAR画像を実数画像に変換する変換部と、大きさが所定のサイズであって同一の撮像対象が異なる時刻にそれぞれ撮像された複数のISAR画像が変換された複数の実数画像を座標が同一の画素同士が重なるように加算することによって1つの実数画像を生成する生成部と、生成された1つの実数画像から所定の第1条件を満たす範囲を抽出する抽出部と、複数のISAR画像のうちの1つのISAR画像であるマスタにおける抽出された範囲に相当する範囲を含む相関窓をマスタに設定する第1設定部と、複数のISAR画像のうちのマスタ以外のISAR画像であるスレーブにおける設定された相関窓に相当する範囲を検査範囲としてスレーブに設定する第2設定部と、設定された相関窓の中心画素を設定された検査範囲内の任意の1つの画素に重ねてその相関窓とその検査範囲との相互相関係数を算出する処理を、その検査範囲内の全ての画素に渡って実行する検査部と、算出された複数の相互相関係数のうち最大の相互相関係数を与える相関窓の位置から算出されるスレーブの画素の座標が示す撮像対象の位置が、マスタにおける抽出された範囲に相当する範囲内の輝度値が最大の画素の座標が示す撮像対象の位置と同一であると判定する判定部とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明による逆合成開口レーダ画像合成方法は、ISAR画像の各画素の絶対値を各画素の輝度値とすることによってそのISAR画像を実数画像に変換し、大きさが所定のサイズであって同一の撮像対象が異なる時刻にそれぞれ撮像された複数のISAR画像が変換された複数の実数画像を座標が同一の画素同士が重なるように加算することによって1つの実数画像を生成し、生成された1つの実数画像から所定の第1条件を満たす範囲を抽出し、複数のISAR画像のうちの1つのISAR画像であるマスタにおける抽出された範囲に相当する範囲を含む相関窓をマスタに設定し、複数のISAR画像のうちのマスタ以外のISAR画像であるスレーブにおける設定された相関窓に相当する範囲を検査範囲としてスレーブに設定し、設定された相関窓の中心画素を設定された検査範囲内の任意の1つの画素に重ねてその相関窓とその検査範囲との相互相関係数を算出する処理を、その検査範囲内の全ての画素に渡って実行し、算出された複数の相互相関係数のうち最大の相互相関係数を与える相関窓の位置から算出されるスレーブの画素の座標が示す撮像対象の位置が、マスタにおける抽出された範囲に相当する範囲内の輝度値が最大の画素の座標が示す撮像対象の位置と同一であると判定することを特徴とする。
【0019】
本発明による逆合成開口レーダ画像合成プログラムは、コンピュータに、ISAR画像の各画素の絶対値を各画素の輝度値とすることによってそのISAR画像を実数画像に変換する変換処理、大きさが所定のサイズであって同一の撮像対象が異なる時刻にそれぞれ撮像された複数のISAR画像が変換された複数の実数画像を座標が同一の画素同士が重なるように加算することによって1つの実数画像を生成する生成処理、生成された1つの実数画像から所定の第1条件を満たす範囲を抽出する抽出処理、複数のISAR画像のうちの1つのISAR画像であるマスタにおける抽出された範囲に相当する範囲を含む相関窓をマスタに設定する第1設定処理、複数のISAR画像のうちのマスタ以外のISAR画像であるスレーブにおける設定された相関窓に相当する範囲を検査範囲としてスレーブに設定する第2設定処理、設定された相関窓の中心画素を設定された検査範囲内の任意の1つの画素に重ねてその相関窓とその検査範囲との相互相関係数を算出する処理を、その検査範囲内の全ての画素に渡って実行する検査処理、および算出された複数の相互相関係数のうち最大の相互相関係数を与える相関窓の位置から算出されるスレーブの画素の座標が示す撮像対象の位置が、マスタにおける抽出された範囲に相当する範囲内の輝度値が最大の画素の座標が示す撮像対象の位置と同一であると判定する判定処理を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、複数のISAR画像を用いてISAR画像を鮮明化できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態の逆合成開口レーダ画像合成装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】同一位置選択部130の構成例を示すブロック図である。
【
図3】複数のISAR画像が単純加算された後のISAR画像の例を示す説明図である。
【
図7】マスタとスレーブの他の例を示す説明図である。
【
図8】偏角合わせ処理部150の構成例を示すブロック図である。
【
図9】係数マップ生成部152により生成される複素数比のマップの例を示す説明図である。
【
図10】本実施形態の逆合成開口レーダ画像合成装置100によるISAR画像鮮明化処理の動作を示すフローチャートである。
【
図11】本実施形態の同一位置選択部130による同一位置選択処理の動作を示すフローチャートである。
【
図12】本実施形態の偏角合わせ処理部150による偏角合わせ処理の動作を示すフローチャートである。
【
図13】本発明による逆合成開口レーダ画像合成装置100のハードウェア構成例を示す説明図である。
【
図14】本発明による逆合成開口レーダ画像合成装置の概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[構成の説明]
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態の逆合成開口レーダ画像合成装置の構成例を示すブロック図である。
【0023】
本実施形態の逆合成開口レーダ画像合成装置100は、積分時間が短いISAR画像同士を重ね合わせることによって、ISAR画像のS/Nを向上させる。また、逆合成開口レーダ画像合成装置100は、全時刻の情報を含む積分時間の長いISAR画像を用いて、各ISAR画像における撮像対象の同一位置を選択する。また、逆合成開口レーダ画像合成装置100は、信号成分が支配的とみなされる画素の偏角のみをISAR画像間で合わせる。
【0024】
図1に示す逆合成開口レーダ画像合成装置100は、積分時間分割部110と、ISAR画像化部120と、同一位置選択部130と、位置合わせ処理部140と、偏角合わせ処理部150と、画像化部160とを備える。
【0025】
積分時間分割部110は、受信信号が時系列で並んでいる1つのISARデータ(長時間ISARデータ)を、所定時間ごとに分割することによって複数のISARデータ(短時間ISARデータ)に変換する機能を有する。長時間ISARデータは、ISARが取得した撮像対象のデータに相当する。
【0026】
ISAR画像化部120は、ISARデータをISAR画像に変換する機能を有する。
図1に示す例であれば、ISAR画像化部120は、複数の短時間ISARデータを複数の短時間ISAR画像に変換する。
【0027】
なお、短時間ISAR画像は、積分時間が短いISAR画像である。また、変換された短時間ISAR画像は、複素数画像である。複数の短時間ISAR画像は、大きさが所定のサイズであって同一の撮像対象が異なる時刻にそれぞれ撮像された画像に相当する。
【0028】
同一位置選択部130は、複数の短時間ISAR画像(以下、複数のISAR画像と呼ぶ。)から撮像対象の同一位置をそれぞれ選択する機能を有する。
図2は、同一位置選択部130の構成例を示すブロック図である。
【0029】
図2に示す同一位置選択部130は、実数化部131と、加算部132と、範囲抽出部133と、相関窓設定部134と、相関検査範囲設定部135と、相関検査部136とを含む。
【0030】
実数化部131は、入力される複数のISAR画像を、それぞれ実数画像に変換する。実数化部131は、複素数を示す短時間ISAR画像の各画素の絶対値を各画素の値(輝度)とすることによって実数画像に変換する。
【0031】
加算部132は、変換された複数の実数画像における座標が同一の画素同士を加算する。なお、加算部132による加算処理では、位置合わせは行われていない。加算部132は、加算処理を介して複数の実数画像を基に大きさが所定のサイズである1つの実数画像を生成する。
【0032】
範囲抽出部133は、生成された実数画像の輝度値のヒストグラムを生成する。次いで、範囲抽出部133は、生成されたヒストグラムから輝度値の下位a%と上位b%の各輝度範囲をそれぞれ決定する。次いで、範囲抽出部133は、決定された輝度範囲に含まれる輝度値を示す画素を生成された実数画像から全て抽出する。なお、aおよびbは、0~100の間の任意の値である。また、aとbは、等しくなくてもよい。
【0033】
次いで、範囲抽出部133は、サイズがd画素×d画素で、輝度値の下位a%と上位b%の各輝度範囲に含まれる輝度値を示す画素が各々p画素以上含まれる(後述する所定の第1条件)範囲を生成された実数画像から抽出する。なお、dおよびpは、任意の正の整数である。
【0034】
ただし、範囲抽出部133は、サイズが(2W+1)画素×(2W+1)画素の範囲を用いて相互相関係数を算出できるように、ISAR画像のx軸方向の両端の2W画素、およびy軸方向の両端の2W画素を抽出される範囲からそれぞれ除外する。なお、Wは、後述する相関窓の縦横方向の画素数を各々奇数にするためのパラメータである。
【0035】
抽出される範囲の個数は、最大N個とする。なお、Nは、任意の正の整数であり、例えば10である。範囲抽出部133は、抽出される範囲同士に共通の画素が含まれないように抽出する。また、範囲抽出部133は、抽出されるN個の範囲内のx座標、y座標の各平均値でそれぞれ構成されるN個の座標(xq, yq)(q=1, 2, ・・・, N)の相関係数が最も小さくなるように抽出する。
【0036】
図3は、複数のISAR画像が単純加算された後のISAR画像の例を示す説明図である。加算部132は、再生された積分時間が短い複数のISAR画像を単純に加算することによって、
図3に示すISAR画像を生成する。
【0037】
次いで、範囲抽出部133は、上述したように
図3に示すISAR画像における輝度値が大きい画素と、輝度値が小さい画素とを含む範囲を抽出する。
図3に示すISAR画像における矩形が、範囲抽出部133により抽出された範囲を表す。
【0038】
抽出される範囲が独立に複数存在する場合、範囲抽出部133は、N個以下の範囲を抽出する。なお、抽出される範囲の数え方は任意である。例えば、範囲抽出部133は、ISAR画像の左上から数えてN個目の範囲まで抽出してもよい。
【0039】
また、範囲抽出部133は、他の方法で抽出される範囲を数えてもよい。また、範囲抽出部133は、N個の範囲が一意に抽出される方法であれば、どのような方法で範囲を抽出してもよい。
【0040】
なお、範囲抽出部133は、加算部132により複数のISAR画像が単純に加算されたISAR画像を用いているが、代わりに積分時間分割部110に入力された長時間ISARデータが画像化されたISAR画像を用いてもよい。
【0041】
相関窓設定部134は、例えば同一位置選択部130に入力された複数のISAR画像のうち、撮像時刻が最も早いISAR画像をマスタに定義する。本実施形態では、複数のISAR画像のうち、位置合わせの基準になる1枚の画像をマスタと呼び、マスタ以外の全ての画像をスレーブと呼ぶ。
【0042】
次いで、相関窓設定部134は、範囲抽出部133が抽出した範囲に相当するマスタ上の範囲の中から、輝度値が最大の画素の座標(x0, y0)を選択する。
【0043】
また、輝度値が最大の画素が複数存在する場合、相関窓設定部134は、複数の画素のx座標の平均値が四捨五入された値をx0、複数の画素のy座標の平均値が四捨五入された値をy0としてもよい。なお、上記のように算出された座標(x0, y0)は、輝度値が最大の画素の座標ではない可能性がある。
【0044】
また、輝度値が最大の画素が複数存在する場合、相関窓設定部134は、(x+y)が最小になる座標を座標(x0, y0)に選択してもよい。また、輝度値が最大の画素が複数存在する場合、相関窓設定部134は、複数の画素のうちの1つの画素の座標を座標(x0, y0)に選択してもよい。相関窓設定部134は、複数の座標の中から一意に座標(x0, y0)を選択できる方法であれば、どのような方法で座標(x0, y0)を選択してもよい。
【0045】
図4は、マスタの例を示す説明図である。相関窓設定部134は、再生されたISAR画像のうちの1つであるマスタに対して、範囲抽出部133が抽出した範囲に相当する範囲の中から、輝度値が最大の画素の座標(x
0, y
0)を選択する。
【0046】
図4に示すマスタにおける矩形が、範囲抽出部133が抽出した範囲に相当する範囲を表す。また、
図4に示すマスタにおける白色の円が、相関窓設定部134が選択した座標(x
0, y
0)を表す。
【0047】
次いで、相関窓設定部134は、マスタの選択された座標(x0, y0)を含む、サイズが(2W+1)画素×(2W+1)画素の範囲を選択し、選択された範囲を相関窓に設定する。
【0048】
また、相関窓設定部134は、マスタにおける相関窓に含まれる座標が(x, y)の画素の輝度値の集合Mを、M={M(x, y)|座標(x, y)の画素の輝度値、x=x0-W, x0-W+1, ・・・, x0+W, y=y0-W, y0-W+1, ・・・, y0+W}とする。
【0049】
図5は、マスタの他の例を示す説明図である。相関窓設定部134は、選択された座標を中心とし、範囲抽出部133が抽出した範囲に相当する範囲を包含する矩形の範囲を相関窓として設定する。
図5に示す破線の矩形が、相関窓設定部134が設定した相関窓を表す。
【0050】
相関検査範囲設定部135は、マスタにおける相関窓に相当する、サイズが(2W+1)画素×(2W+1)画素の範囲をスレーブ上に選択し、選択された範囲を相関検査範囲に設定する。
【0051】
また、相関検査範囲設定部135は、i番目のスレーブにおける相関検査範囲に含まれる座標が(x, y)の画素の輝度値の集合Siを、Si={Si(x, y)| 座標(x, y)の画素の輝度値、x=x0-W, x0-W+1, ・・・, x0+W, y=y0-W, y0-W+1, ・・・, y0+W}(i=1, 2, ・・・, m-1)とする。なお、m-1は、スレーブの数である。また、iは、スレーブの識別子である。
【0052】
相関検査部136は、MとSi+(j, k)={Si(x+j, y+k)|x=x0-W, x0-W+1, ・・・, x0+W, y=y0-W, y0-W+1, ・・・, y0+W}の相互相関係数を下記の式(1)に従って算出する。
【0053】
【0054】
なお、式(1)におけるnは、相関窓の画素数を表す。相関検査部136は、相互相関係数をj=-W, -W+1, ・・・, +Wとk=-W, -W+1, ・・・, +Wのそれぞれに渡って算出する。すなわち、相関検査部136は、相互相関係数を合計で(2W+1)2個算出する。
【0055】
図6は、マスタとスレーブの例を示す説明図である。相関検査範囲設定部135は、再生されたマスタ以外の他のISAR画像であるスレーブ各々に対して、設定されたマスタにおける相関窓に相当する範囲を相関検査範囲に設定する。
図6に示すスレーブにおける実線の矩形が、相関検査範囲設定部135が設定した相関検査範囲を表す。
【0056】
相関検査部136は、マスタにおける相関窓の中心画素をスレーブにおける相関検査範囲内の任意の1つの画素に重ねて相関検査を行う。すなわち、相関検査部136は、移動された相関窓と相関検査範囲との相互相関係数を算出する。
図6に示すスレーブにおける破線の矩形が、マスタにおける相関窓を表す。相関検査部136は、相関検査をスレーブにおける相関検査範囲内の全ての画素に対して行う。
【0057】
相関検査部136は、算出された相互相関係数のうち、閾値H以上、かつ最大の相互相関係数を与える(j, k)を用いて、i番目のスレーブ上の座標(x0-j, y0-k)が示す撮像対象の位置と、マスタ上の座標(x0, y0)が示す撮像対象の位置とが同一であると判定する。なお、スレーブ上の座標(x0-j, y0-k)は、最大の相互相関係数を与える相関窓の位置から算出される座標でもある。
【0058】
また、閾値Hは、0~1の間の任意の実数であるが、1に近い方が好ましい。相関検査部136は、上記の同一位置選択処理を、i=1, 2, ・・・, m-1に渡って、すなわち全てのスレーブに対して行う。また、閾値H以上の相互相関係数を与える座標が無い場合、相関検査部136は、同一位置を選択する作業を中止する。
【0059】
図7は、マスタとスレーブの他の例を示す説明図である。相関検査部136は、検査された相互相関係数のうち閾値以上で最も大きい相互相関係数を与える座標をスレーブから選択する。相関検査部136は、スレーブにおいて選択された座標が示す位置が、重ね合わせられるマスタにおける座標(x
0, y
0)が示す位置と同一であると判定する。
【0060】
図7に示すスレーブにおける白色の円が、相関検査部136が選択した座標を表す。また、
図7に示すマスタにおける白色の円と
図7に示すスレーブにおける白色の円は、撮像対象における同一位置を表す。
【0061】
同一位置選択部130は、輝度値が最大の画素の座標を選択する処理から同一位置を選択する処理までを範囲抽出部133が抽出した範囲ごとに繰り返し(すなわち、N回)実行する。
【0062】
位置合わせ処理部140は、同一位置選択部130により選択された同一位置を用いて、複数のISAR画像間で位置合わせを行う機能を有する。具体的には、位置合わせ処理部140は、同一の撮像対象の位置を示す座標の画素同士が重なるようにマスタの位置とスレーブの位置を合わせる。
【0063】
例えば、位置合わせ処理部140は、選択された同一位置を基に一般的なアフィン変換式を算出する。位置合わせ処理部140は、算出されたアフィン変換式を用いて位置合わせを行う。
【0064】
偏角合わせ処理部150は、複数のISAR画像の偏角を合わせる機能を有する。
図8は、偏角合わせ処理部150の構成例を示すブロック図である。
【0065】
図8に示す偏角合わせ処理部150は、領域選択部151と、係数マップ生成部152と、偏角変換部153とを含む。
【0066】
領域選択部151は、マスタの各画素の輝度値のヒストグラムを生成する。次いで、領域選択部151は、生成されたヒストグラムにおける閾値c%以上(後述する所定の第2条件)の輝度値を示す画素の領域を選択する。
【0067】
係数マップ生成部152は、各画素の値が複素数である各スレーブに対して、領域選択部151で選択された領域の画素ごとに、各画素の値が複素数であるマスタの対応する画素との複素数比を求める。次いで、係数マップ生成部152は、求められた複素数比を規格化する。
【0068】
例えば、マスタの座標(x, y)の画素の画素値は、以下の式(2)で与えられる。
【0069】
【0070】
また、スレーブの座標(x, y)の画素の画素値は、以下の式(3)で与えられる。
【0071】
【0072】
係数マップ生成部152は、規格化された複素数比を、以下の式(4)で求めることができる。
【0073】
【0074】
次いで、係数マップ生成部152は、領域選択部151で選択された領域の画素に対して規格化された複素数比のマップを生成する。なお、係数マップ生成部152は、領域選択部151で選択された領域以外の画素に対応するマップの箇所に1を格納する。係数マップ生成部152は、スレーブごとに、規格化された複素数比のマップを生成する。
【0075】
図9は、係数マップ生成部152により生成される複素数比のマップの例を示す説明図である。
図9に示す複素数比のマップにおける太線の領域は、領域選択部151により選択された画素の領域に対応する領域である。
【0076】
図9に示すように、太線の領域には、式(4)で求められた複素数比が格納されている。また、
図9に示すように、太線の領域以外の領域には、1が格納されている。
【0077】
偏角変換部153は、スレーブと、係数マップ生成部152により生成された対応する複素数比のマップとを画素ごとに乗算する。偏角変換部153は、スレーブごとに、スレーブと複素数比のマップとを画素ごとに乗算する。
【0078】
すなわち、偏角合わせ処理部150は、位置合わせが行われた複素数を示す複数のISAR画像に対して、信号成分が支配的な画素ごとに各々の画素値の偏角を合わせることができる。上述したように、偏角合わせ処理部150は、信号成分のみが強め合うように偏角を調整できる。
【0079】
なお、偏角合わせ処理部150は、逆合成開口レーダ画像合成装置100に備えられていなくてもよい。偏角合わせ処理部150が備えられていない場合、位置合わせ処理部140は、位置合わせが行われた後の複数のISAR画像(複素数)をそれぞれ実数画像に変換し、変換された複数の実数画像を画像化部160に入力する。
【0080】
偏角合わせ処理部150が備えられていない場合、逆合成開口レーダ画像合成装置100全体の処理負荷が軽減される。なお、最終的に得られるISAR画像のS/Nの改善度は、偏角合わせ処理が実行される場合と比較して低くなる。しかし、最終的に得られるISAR画像のS/Nは、短時間ISAR画像のS/Nより高い。
【0081】
また、偏角合わせ処理部150は、閾値を設定して信号成分が支配的とみなせる画素に対してのみ偏角を合わせる処理を実行しているが、一般的な最大比合成法で全画素に対して偏角を調整してもよい。
【0082】
最大比合成法で偏角を調整する場合、偏角合わせ処理部150は、複数のISAR画像が加算された後のISAR画像のS/Nが最大になるように係数マップを更新してS/Nを調査する処理を繰り返し実行する。すなわち、偏角合わせ処理の計算量が大きくなるが、複数のISAR画像が加算された後のISAR画像のS/Nは最大になる。
【0083】
画像化部160は、位置および偏角が合わせられた複数のISAR画像を加算することによって1枚のISAR画像を生成する機能を有する。すなわち、画像化部160は、位置および偏角が合わせられたマスタとスレーブを加算する。
【0084】
次いで、画像化部160は、生成された1枚のISAR画像の各画素の複素数の絶対値を画素値とすることによって1枚の実数画像を生成する。なお、画像化部160は、実数化において各画素の強度(絶対値の2乗)や強度の対数等の、絶対値に対して単調に増加する関数値を画素値とする処理を代わりに実行してもよい。
【0085】
以上のように、本実施形態の実数化部131は、ISAR画像の各画素の絶対値を各画素の輝度値とすることによってそのISAR画像を実数画像に変換する。また、加算部132は、大きさが所定のサイズであって同一の撮像対象が異なる時刻にそれぞれ撮像された複数のISAR画像が変換された複数の実数画像を座標が同一の画素同士が重なるように加算することによって1つの実数画像を生成する。
【0086】
また、本実施形態の範囲抽出部133は、生成された1つの実数画像から所定の第1条件を満たす範囲を抽出する。また、相関窓設定部134は、複数のISAR画像のうちの1つのISAR画像であるマスタにおける抽出された範囲に相当する範囲を含む相関窓をマスタに設定する。また、相関検査範囲設定部135は、複数のISAR画像のうちのマスタ以外のISAR画像であるスレーブにおける設定された相関窓に相当する範囲を検査範囲としてスレーブに設定する。
【0087】
また、本実施形態の相関検査部136は、設定された相関窓の中心画素を設定された検査範囲内の任意の1つの画素に重ねてその相関窓とその検査範囲との相互相関係数を算出する処理を、その検査範囲内の全ての画素に渡って実行する。また、相関検査部136は、算出された複数の相互相関係数のうち最大の相互相関係数を与える相関窓の位置から算出されるスレーブの画素の座標が示す撮像対象の位置が、マスタにおける抽出された範囲に相当する範囲内の輝度値が最大の画素の座標が示す撮像対象の位置と同一であると判定する。
【0088】
また、本実施形態の位置合わせ処理部140は、同一の撮像対象の位置を示す座標の画素同士が重なるようにマスタの位置とスレーブの位置を合わせる。また、本実施形態の画像化部160は、位置が合わせられたマスタとスレーブを加算する。
【0089】
また、本実施形態の領域選択部151は、マスタから輝度値が所定の第2条件を満たす画素の領域を選択する。また、係数マップ生成部152は、マスタの画素が示す複素数とスレーブの対応する画素が示す複素数との規格化された比を、選択された領域における画素ごとにそれぞれ算出する。
【0090】
また、本実施形態の偏角変換部153は、選択された領域における画素に対応するスレーブの画素が示す複素数と対応する算出された比を乗算し、選択された領域における画素以外の画素に対応するスレーブの画素が示す複素数と1を乗算する処理を、スレーブの画素ごとにそれぞれ実行することによってマスタの偏角とスレーブの偏角を合わせる。
【0091】
本実施形態の画像化部160は、位置および偏角が合わせられたマスタとスレーブを加算してもよい。
【0092】
また、本実施形態の積分時間分割部110は、ISARが取得した撮像対象のデータであるISARデータを所定の時間ごとに分割することによって複数のISARデータを生成する。また、ISAR画像化部120は、生成された複数のISARデータをそれぞれ画像化することによって複数のISAR画像を生成する。
【0093】
以上の構成により、本実施形態の逆合成開口レーダ画像合成装置100は、複数のISAR画像を用いてISAR画像を鮮明化できる。
【0094】
逆合成開口レーダが撮像した画像は、撮像対象の揺れが原因で撮像対象の各点に発生するドップラー周波数の強度を示している。よって、積分時間が長いほど、ISAR画像は、角速度の変化や回転軸の変化が原因で不鮮明になる場合が多い。
【0095】
また、積分時間が短いと、鮮明なISAR画像が得られる可能性が高い。しかし、撮像対象の信号が雑音に埋もれてしまい、S/Nが小さくなる恐れがある。
【0096】
本実施形態の逆合成開口レーダ画像合成装置100は、積分時間を分割し、撮像時刻がそれぞれ異なる積分時間の短い複数のISAR画像を加算することによって、鮮明かつS/Nの高いISAR画像を生成する。
【0097】
撮像時刻がそれぞれ異なる複数のISAR画像を加算する場合、撮像対象の揺れが原因で、時刻ごとにISAR画像における撮像対象の同一位置を示す座標が異なり、かつ同一位置であっても映り方が異なることを考慮することが求められる。よって、画像の鮮明さを維持するには、複数のISAR画像が加算される際に撮像対象の同一位置が重なるように、複数のISAR画像に対して位置合わせを行うことが求められる。
【0098】
また、位置合わせが行われた後の複数のISAR画像を加算する際、信号同士が弱め合わないように、画素ごとに偏角を一致させることが求められる。ただし、雑音が表示されている画素を基に偏角を一致させると、S/Nは低下する。
【0099】
本実施形態の逆合成開口レーダ画像合成装置100は、複数のISAR画像から時刻による映り方の変化が比較的小さい位置を見つけ出し、撮像対象の同一位置を選択する。次いで、逆合成開口レーダ画像合成装置100は、選択された同一位置を基に、各画素値が複素数で表される各複素数画像に対して、一般的なアフィン変換により複素数画像全体の位置を複素数画像間で合わせる。
【0100】
さらに、逆合成開口レーダ画像合成装置100は、信号成分が支配的な画素のみに対して、各複素数画像の同一画素ごとに偏角を合わせる。以上の各処理が行われた複数の複素数画像を加算することによって、逆合成開口レーダ画像合成装置100は、鮮明かつS/Nが高いISAR画像を得ることができる。
【0101】
[動作の説明]
以下、本実施形態の逆合成開口レーダ画像合成装置100のISAR画像を鮮明化する動作を
図10を参照して説明する。
図10は、本実施形態の逆合成開口レーダ画像合成装置100によるISAR画像鮮明化処理の動作を示すフローチャートである。
【0102】
最初に、逆合成開口レーダ画像合成装置100の積分時間分割部110に、長時間ISARデータが入力される(ステップS1100)。
【0103】
次いで、積分時間分割部110は、入力された長時間ISARデータを所定の時間ごとに分割することによって、複数の短時間ISARデータを生成する(ステップS1200)。
【0104】
次いで、ISAR画像化部120は、生成された複数の短時間ISARデータを基に複数のISAR画像を生成する(ステップS1300)。
【0105】
次いで、同一位置選択部130は、同一位置選択処理を実行する(ステップS1400)。
【0106】
次いで、位置合わせ処理部140は、複数のISAR画像間で、画像全体の位置を合わせる(ステップS1500)。
【0107】
次いで、偏角合わせ処理部150は、偏角合わせ処理を実行する(ステップS1600)。
【0108】
次いで、画像化部160は、位置および信号成分の偏角が一致した複数のISAR画像を加算する(ステップS1700)。
【0109】
次いで、画像化部160は、生成された複素数を示す1枚のISAR画像を実数を示す画像に変換する(ステップS1800)。変換した後、逆合成開口レーダ画像合成装置100は、ISAR画像鮮明化処理を終了する。
【0110】
次に、
図10に示すISAR画像鮮明化処理を構成する副処理であるステップS1400の同一位置選択処理を、
図11を参照して説明する。
図11は、本実施形態の同一位置選択部130による同一位置選択処理の動作を示すフローチャートである。
【0111】
最初に、同一位置選択部130の実数化部131は、複数のISAR画像を複数の実数画像に変換する(ステップS1401)。
【0112】
次いで、加算部132は、変換された複数の実数画像における座標が同一の画素同士を画素ごとにそれぞれ加算する(ステップS1402)。
【0113】
次いで、範囲抽出部133は、生成された実数を示す1枚のISAR画像から所定の第1条件を満たす範囲を最大N個抽出する(ステップS1403)。次いで、範囲抽出部133は、範囲ループに入る(ステップS1404)。
【0114】
相関窓設定部134は、抽出された範囲のうちまだ位置合わせが行われていない範囲を1つ取り出す。次いで、相関窓設定部134は、取り出された範囲に相当するマスタ上の範囲の中から、輝度値が最大の画素の座標を選択する(ステップS1405)。
【0115】
次いで、相関窓設定部134は、マスタの選択された座標を含む範囲を選択し、選択された範囲を相関窓としてマスタ上に設定する(ステップS1406)。次いで、相関窓設定部134は、スレーブループに入る(ステップS1407)。
【0116】
相関窓設定部134は、スレーブのうち取り出された範囲に対してまだ位置合わせが行われていないスレーブを1つ取り出す。次いで、相関検査範囲設定部135は、スレーブ上の、マスタにおける相関窓に相当する範囲を相関検査範囲に設定する(ステップS1408)。
【0117】
次いで、相関検査部136は、マスタにおける相関窓を移動させながら、相関窓とスレーブにおける相関検査範囲とに対して、複数の相互相関係数を算出する(ステップS1409)。
【0118】
次いで、相関検査部136は、算出された複数の相互相関係数を基に、マスタにおける輝度値が最大の画素の座標が示す位置と同一の位置をスレーブから選択する(ステップS1410)。
【0119】
同一位置選択部130は、取り出された範囲に対して全てのスレーブの位置合わせが行われるまで、ステップS1408~S1410の処理を繰り返し実行する。全てのスレーブの位置合わせが行われたとき、同一位置選択部130は、スレーブループを抜ける(ステップS1411)。
【0120】
同一位置選択部130は、全ての抽出された範囲に対する位置合わせが行われるまで、ステップS1405~S1411の処理を繰り返し実行する。全ての抽出された範囲に対する位置合わせが行われたとき、同一位置選択部130は、範囲ループを抜ける(ステップS1412)。範囲ループを抜けた後、同一位置選択部130は、
図10に示すISAR画像鮮明化処理に戻る。
【0121】
次に、
図10に示すISAR画像鮮明化処理を構成する副処理であるステップS1600の偏角合わせ処理を、
図12を参照して説明する。
図12は、本実施形態の偏角合わせ処理部150による偏角合わせ処理の動作を示すフローチャートである。
【0122】
最初に、偏角合わせ処理部150の領域選択部151は、マスタから輝度値が所定の第2条件を満たす画素の領域を選択する(ステップS1601)。
【0123】
次いで、係数マップ生成部152は、各画素値が複素数である各スレーブに対して、選択された領域の画素ごとに、各画素値が複素数であるマスタの対応する画素との複素数比を求め、規格化する(ステップS1602)。
【0124】
次いで、係数マップ生成部152は、スレーブごとに、選択された領域の画素に対して規格化された複素数比のマップを生成する(ステップS1603)。なお、係数マップ生成部152は、選択された領域以外の画素に対応するマップの箇所には1を格納する。
【0125】
次いで、偏角変換部153は、スレーブごとに、スレーブと生成された対応する複素数比のマップとを画素ごとに乗算する(ステップS1604)。乗算した後、偏角合わせ処理部150は、
図10に示すISAR画像鮮明化処理に戻る。
【0126】
[効果の説明]
ISAR画像は、撮像対象の揺れによる撮像対象の各点の角速度の違いが原因で発生するドップラー周波数の違いを示している。よって、ISAR画像は、積分時間が長いほど、角速度の変化や回転軸の変化が原因で不鮮明になる場合が多い。
【0127】
また、積分時間が短いと、鮮明なISAR画像が得られる可能性が高い。しかし、撮像対象の信号が雑音に埋もれてしまい、S/Nが小さくなる恐れがある。
【0128】
本実施形態の逆合成開口レーダ画像合成装置100は、積分時間分割部110がISAR画像の積分時間を分割し、画像化部160が撮像時刻が異なる積分時間の短い複数のISAR画像を加算するので、鮮明かつS/Nの高いISAR画像を生成できる。
【0129】
また、撮像対象の揺れが原因でISAR画像における撮像対象の同一位置の座標が時刻によって異なり、かつ同一位置であっても時刻によって映り方が異なる。よって、ISAR画像を重ね合わせる際には撮像対象の同一位置が重なるようにISAR画像間で位置合わせを行うことが求められる。
【0130】
本実施形態の同一位置選択部130、位置合わせ処理部140、および画像化部160は、撮像対象の同一位置が重なるように位置合わせを行った上で、積分時間の短い複数のISAR画像を重ね合わせる。よって、逆合成開口レーダ画像合成装置100は、手動で同一位置を各ISAR画像から選択する場合と比較して、短時間で鮮明かつS/Nの高いISAR画像を生成できる。
【0131】
また、位置合わせ後のISAR画像を加算する際に信号同士が弱め合わないように画素ごとに偏角を一致させることが求められる。ただし、雑音を示す画素を基に偏角を一致させると、S/Nが低下する。
【0132】
本実施形態の偏角合わせ処理部150および画像化部160は、重ね合わせる画素の信号成分が支配的とみなされる場合に偏角を全て一致させた上で複数のISAR画像を重ね合わせる。よって、逆合成開口レーダ画像合成装置100は、短時間ISAR画像と比較してS/Nが向上したISAR画像を生成できる。
【0133】
以下、本実施形態の逆合成開口レーダ画像合成装置100のハードウェア構成の具体例を説明する。
図13は、本発明による逆合成開口レーダ画像合成装置100のハードウェア構成例を示す説明図である。
【0134】
図13に示す逆合成開口レーダ画像合成装置100は、CPU(Central Processing Unit )11と、主記憶部12と、通信部13と、補助記憶部14とを含む。また、ユーザが操作するための入力部15や、ユーザに処理結果または処理内容の経過を提示するための出力部16を含む。
【0135】
逆合成開口レーダ画像合成装置100は、
図13に示すCPU11が各構成要素が有する機能を提供するプログラムを実行することによって、ソフトウェアにより実現される。
【0136】
すなわち、CPU11が補助記憶部14に格納されているプログラムを、主記憶部12にロードして実行し、逆合成開口レーダ画像合成装置100の動作を制御することによって、各機能がソフトウェアにより実現される。
【0137】
なお、
図13に示す逆合成開口レーダ画像合成装置100は、CPU11の代わりにDSP(Digital Signal Processor)を含んでもよい。または、
図13に示す逆合成開口レーダ画像合成装置100は、CPU11とDSPとを併せて含んでもよい。
【0138】
主記憶部12は、データの作業領域やデータの一時退避領域として用いられる。主記憶部12は、例えばRAM(Random Access Memory)である。
【0139】
通信部13は、有線のネットワークまたは無線のネットワーク(情報通信ネットワーク)を介して、周辺機器との間でデータを入力および出力する機能を有する。
【0140】
補助記憶部14は、一時的でない有形の記憶媒体である。一時的でない有形の記憶媒体として、例えば磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory )、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory )、半導体メモリが挙げられる。
【0141】
入力部15は、データや処理命令を入力する機能を有する。入力部15は、例えばキーボード、マウス、タッチパネル等の入力デバイスである。
【0142】
出力部16は、データを出力する機能を有する。出力部16は、例えば液晶ディスプレイ装置等の表示装置、タッチパネル、またはプリンタ等の印刷装置である。
【0143】
また、
図13に示すように、逆合成開口レーダ画像合成装置100において、各構成要素は、システムバス17に接続されている。
【0144】
逆合成開口レーダ画像合成装置100において、補助記憶部14は、積分時間分割部110、ISAR画像化部120、同一位置選択部130、位置合わせ処理部140、偏角合わせ処理部150、および画像化部160を実現するためのプログラムを記憶している。
【0145】
なお、逆合成開口レーダ画像合成装置100は、例えば内部に
図1に示すような機能を実現するLSI(Large Scale Integration )等のハードウェア部品が含まれる回路が実装されてもよい。
【0146】
また、逆合成開口レーダ画像合成装置100は、CPU等の素子を用いるコンピュータ機能を含まないハードウェアにより実現されてもよい。例えば、各構成要素の一部または全部は、汎用の回路(circuitry )または専用の回路、プロセッサ等やこれらの組み合わせによって実現されてもよい。これらは、単一のチップ(例えば、上記のLSI)によって構成されてもよいし、バスを介して接続される複数のチップによって構成されてもよい。各構成要素の一部または全部は、上述した回路等とプログラムとの組み合わせによって実現されてもよい。
【0147】
また、逆合成開口レーダ画像合成装置100の各構成要素の一部または全部は、演算部と記憶部とを備えた1つまたは複数の情報処理装置で構成されていてもよい。
【0148】
各構成要素の一部または全部が複数の情報処理装置や回路等により実現される場合には、複数の情報処理装置や回路等は集中配置されてもよいし、分散配置されてもよい。例えば、情報処理装置や回路等は、クライアントアンドサーバシステム、クラウドコンピューティングシステム等、各々が通信ネットワークを介して接続される形態として実現されてもよい。
【0149】
次に、本発明の概要を説明する。
図14は、本発明による逆合成開口レーダ画像合成装置の概要を示すブロック図である。本発明による逆合成開口レーダ画像合成装置20は、ISAR画像の各画素の絶対値を各画素の輝度値とすることによってそのISAR画像を実数画像に変換する変換部21(例えば、実数化部131)と、大きさが所定のサイズであって同一の撮像対象が異なる時刻にそれぞれ撮像された複数のISAR画像が変換された複数の実数画像を座標が同一の画素同士が重なるように加算することによって1つの実数画像を生成する生成部22(例えば、加算部132)と、生成された1つの実数画像から所定の第1条件を満たす範囲を抽出する抽出部23(例えば、範囲抽出部133)と、複数のISAR画像のうちの1つのISAR画像であるマスタにおける抽出された範囲に相当する範囲を含む相関窓をマスタに設定する第1設定部24(例えば、相関窓設定部134)と、複数のISAR画像のうちのマスタ以外のISAR画像であるスレーブにおける設定された相関窓に相当する範囲を検査範囲としてスレーブに設定する第2設定部25(例えば、相関検査範囲設定部135)と、設定された相関窓の中心画素を設定された検査範囲内の任意の1つの画素に重ねてその相関窓とその検査範囲との相互相関係数を算出する処理を、その検査範囲内の全ての画素に渡って実行する検査部26(例えば、相関検査部136)と、算出された複数の相互相関係数のうち最大の相互相関係数を与える相関窓の位置から算出されるスレーブの画素の座標が示す撮像対象の位置が、マスタにおける抽出された範囲に相当する範囲内の輝度値が最大の画素の座標が示す撮像対象の位置と同一であると判定する判定部27(例えば、相関検査部136)とを備える。
【0150】
また、逆合成開口レーダ画像合成装置20は、同一の撮像対象の位置を示す座標の画素同士が重なるようにマスタの位置とスレーブの位置を合わせる位置合わせ部(例えば、位置合わせ処理部140)を備えてもよい。
【0151】
また、逆合成開口レーダ画像合成装置20は、位置が合わせられたマスタとスレーブを加算する加算部(例えば、画像化部160)を備えてもよい。
【0152】
そのような構成により、逆合成開口レーダ画像合成装置は、複数のISAR画像を用いてISAR画像を鮮明化できる。
【0153】
また、逆合成開口レーダ画像合成装置20は、マスタから輝度値が所定の第2条件を満たす画素の領域を選択する選択部(例えば、領域選択部151)と、マスタの画素が示す複素数とスレーブの対応する画素が示す複素数との規格化された比を、選択された領域における画素ごとにそれぞれ算出する算出部(例えば、係数マップ生成部152)と、選択された領域における画素に対応するスレーブの画素が示す複素数と対応する算出された比を乗算し、選択された領域における画素以外の画素に対応するスレーブの画素が示す複素数と1を乗算する処理を、スレーブの画素ごとにそれぞれ実行することによってマスタの偏角とスレーブの偏角を合わせる偏角合わせ部(例えば、偏角変換部153)とを備えてもよい。
【0154】
また、加算部は、位置および偏角が合わせられたマスタとスレーブを加算してもよい。
【0155】
そのような構成により、逆合成開口レーダ画像合成装置は、ISAR画像のS/Nをより高めることができる。
【0156】
また、逆合成開口レーダ画像合成装置20は、ISARが取得した撮像対象のデータであるISARデータを所定の時間ごとに分割することによって複数のISARデータを生成する分割部(例えば、積分時間分割部110)と、生成された複数のISARデータをそれぞれ画像化することによって複数のISAR画像を生成する画像化部(例えば、ISAR画像化部120)とを備えてもよい。
【0157】
そのような構成により、逆合成開口レーダ画像合成装置は、より鮮明な複数のISAR画像を用いることができる。
【符号の説明】
【0158】
11 CPU
12 主記憶部
13 通信部
14 補助記憶部
15 入力部
16 出力部
17 システムバス
20、100 逆合成開口レーダ画像合成装置
21 変換部
22 生成部
23 抽出部
24 第1設定部
25 第2設定部
26 検査部
27 判定部
110 積分時間分割部
120 ISAR画像化部
130 同一位置選択部
131 実数化部
132 加算部
133 範囲抽出部
134 相関窓設定部
135 相関検査範囲設定部
136 相関検査部
140 位置合わせ処理部
150 偏角合わせ処理部
151 領域選択部
152 係数マップ生成部
153 偏角変換部
160 画像化部