IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 光洋シーリングテクノ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-密封装置 図1
  • 特開-密封装置 図2
  • 特開-密封装置 図3
  • 特開-密封装置 図4
  • 特開-密封装置 図5
  • 特開-密封装置 図6
  • 特開-密封装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168666
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20231121BHJP
   F16J 15/3252 20160101ALI20231121BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
F16J15/3252
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079901
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトシーリングテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杢保 優
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J043
【Fターム(参考)】
3J006AE16
3J006CA01
3J042AA04
3J042AA12
3J042BA01
3J042DA13
3J043AA16
3J043BA05
3J043CA02
3J043CB13
3J043DA07
3J043HA01
3J043HA04
(57)【要約】
【課題】流体の多量な漏れを抑制することが可能となる密封装置を提供する。
【解決手段】密封装置10は、軸7とハウジング8との間に形成される環状空間Sに装着され、軸方向一方側の液体が軸方向他方側に漏れるのを防ぐ。密封装置10は、ハウジング8に固定される固定部14と、軸の外周面7aにつぶし代を有して接触する第一リップ先部16を有する第一リップ11と、第一リップ先部16よりも軸方向他方側に位置する第二リップ先部17を有する第二リップ12と、第二リップ先部17よりも軸方向他方側に位置する第三リップ先部18を有する第三リップ13とを備える。第二リップ先部17の軸の外周面7aにおけるつぶし代は、第一リップ先部16の軸の外周面7aにおけるつぶし代よりも小さい。第三リップ先部18は、軸の外周面7aに非接触である。第二リップ12と第三リップ13との間に、径方向外側に凹む凹部19が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸とハウジングとの間に形成される環状空間に装着され、軸方向一方側の液体が軸方向他方側に漏れるのを防ぐ密封装置であって、
前記ハウジングに固定される固定部と、
前記固定部から前記軸側に延びて設けられ前記軸の外周面に接触する第一リップ先部を有する第一リップと、
前記固定部から前記軸側に延びて設けられ前記第一リップ先部よりも軸方向他方側に位置する第二リップ先部を有する第二リップと、
前記固定部から前記軸側に延びて設けられ前記第二リップ先部よりも軸方向他方側に位置する第三リップ先部を有する第三リップと、
を備え、
前記第三リップ先部は、前記軸の外周面に非接触であり、
前記第二リップと前記第三リップとの間に、径方向外側に凹む凹部が設けられている、
密封装置。
【請求項2】
前記第二リップは、その内周に、前記軸の回転に伴って前記液体を軸方向一方側へ導く第二の突条又は第二の溝部を有する、請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記第一リップは、その内周に、前記軸の回転に伴って前記液体を軸方向一方側へ導く第一の突条又は第一の溝部を有する、請求項1または請求項2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記第一リップ先部は、前記軸の外周面につぶし代を有して接触し、
前記第二リップ先部は、前記軸の外周面につぶし代を有して接触する、前記軸の外周面におけるつぶし代がゼロである、または、前記軸の外周面に非接触である、請求項1または請求項2に記載の密封装置。
【請求項5】
前記固定部は、金属環と、前記金属環の少なくとも内周部を被覆するゴム製の被覆部と、を有し、
前記第二リップおよび前記第三リップそれぞれは、共通する前記被覆部から延びて設けられている、請求項1または請求項2に記載の密封装置。
【請求項6】
前記第三リップは、前記被覆部の軸方向他方側の側面よりも軸方向一方側に位置している、請求項5に記載の密封装置。
【請求項7】
前記第二リップ先部は、前記固定部が有する被覆部のうち前記第一リップが繋がる部分の径方向の内側に存在する、請求項5に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転する軸とその軸を支持するハウジングの一部との間に、潤滑油などの流体が外部に漏れることを防止するための密封装置が設けられる。密封装置は、ハウジングに取り付けられる固定部と、その固定部から延び弾性変形が可能であるリップとを有する。特許文献1に、前記のような密封装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019?210998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
密封装置のリップは、回転する軸の外周面に滑り接触するリップ先部を有する。特に軸が高速で回転する場合、リップ先部に面焼けや異常摩耗が発生し、密封対象である潤滑油がリップ先部と軸との間から滲み出て、漏れが発生することがある。このような潤滑油の漏れは僅かであるが、継続すると、その漏れ量は徐々に増加し、多量な漏れに至る場合がある。
【0005】
そこで、本開示は、流体の多量な漏れを抑制することが可能となる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の密封装置は、軸とハウジングとの間に形成される環状空間に装着され、軸方向一方側の液体が軸方向他方側に漏れるのを防ぐ密封装置であって、前記ハウジングに固定される固定部と、前記固定部から前記軸側に延びて設けられ前記軸の外周面に接触する第一リップ先部を有する第一リップと、前記固定部から前記軸側に延びて設けられ前記第一リップ先部よりも軸方向他方側に位置する第二リップ先部を有する第二リップと、前記固定部から前記軸側に延びて設けられ前記第二リップ先部よりも軸方向他方側に位置する第三リップ先部を有する第三リップと、を備え、前記第三リップ先部は、前記軸の外周面に非接触であり、前記第二リップと前記第三リップとの間に、径方向外側に凹む凹部が設けられている。
【0007】
前記密封装置によれば、液体が第一リップ先部を通過しても、第一リップと第二リップとの間に形成される空間に、その液体を留めることが可能となる。さらに液体が第二リップ先部を通過しても、第二リップと第三リップとの間の凹部によって、液体が第三リップを越えて軸方向他方側に流れ難い。
第三リップ先部は、軸の外周面から離れている。このため、第二リップ先部を通過した液体は、例えば表面張力によって第二リップに付着することがあるが、第三リップには、第二リップよりも付着し難い。このため、液体は、第三リップを越えて軸方向他方側に流れ難い。
以上より、流体の多量な漏れを抑制することが可能となる。
【0008】
(2)好ましくは、前記第二リップは、その内周に、前記軸の回転に伴って前記液体を軸方向一方側へ導く第二の突条又は第二の溝部を有する。前記構成によれば、液体が第二リップ先部を通過し、前記凹部に留まることがあっても、その液体を軸方向一方側に戻すことが可能となる。
【0009】
(3)好ましくは、前記第一リップは、その内周に、前記軸の回転に伴って前記液体を軸方向一方側へ導く第一の突条又は第一の溝部を有する。前記構成によれば、液体が第一リップ先部を通過し、第一リップと第二リップとの間の空間に留まることがあっても、その液体を軸方向一方側に戻すことが可能となる。
【0010】
(4)好ましくは、前記(1)から(3)のいずれか一つに記載の密封装置において、前記第一リップ先部は、前記軸の外周面につぶし代を有して接触し、前記第二リップ先部は、前記軸の外周面につぶし代を有して接触する、前記軸の外周面におけるつぶし代がゼロである、または、前記軸の外周面に非接触である。前記構成によれば、第二リップ先部のつぶし代がゼロである、または、第二リップ先部が軸に非接触である場合、特に、第二リップ先部による軸の回転抵抗の増加を抑えることが可能である。第三リップ先部は、軸の外周面に非接触であり、第三リップ先部による軸の回転抵抗が生じない。特に第二リップ先部のつぶし代をゼロとすれば、第一リップと第二リップとの間の空間の液体を軸方向他方側に流れ難くすることが可能である。
【0011】
(5)好ましくは、前記(1)から(4)のいずれか一つに記載の密封装置において、前記固定部は、金属環と、前記金属環の少なくとも内周部を被覆するゴム製の被覆部と、を有し、前記第二リップおよび前記第三リップそれぞれは、共通する前記被覆部から延びて設けられている。前記構成によれば、軸の外周面に対する、第二リップ先部および第三リップ先部の径方向の位置が定まりやすい。
【0012】
(6)好ましくは、前記(5)に記載の密封装置において、前記第三リップは、前記被覆部の軸方向他方側の側面よりも軸方向一方側に位置している。前記構成によれば、第三リップが、被覆部よりも軸方向他方側にはみ出ない。密封装置が他の部材と干渉することが防止される。
【0013】
(7)好ましくは、前記(5)または(6)に記載の密封装置において、前記第二リップ先部は、前記固定部が有する被覆部のうち前記第一リップが繋がる部分の径方向の内側に存在する。前記構成によれば、被覆部のうち第一リップと繋がる部分と第二リップ先部との間に、軸方向他方側に凹んだ空間が形成される。液体が第一リップ先部を通過し、前記凹んだ空間に存在すると、その液体は、軸方向他方側に流れ難い。
【発明の効果】
【0014】
本開示の密封装置によれば、第一リップと軸との間で流体の滲み出しが生じたとしても、流体の多量な漏れを抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、第1実施形態に係る密封装置の断面図である。
図2図2は、密封装置の断面および内周側の一部を示す説明図である。
図3図3は、密封装置の他の実施形態(第二の実施形態)を示す断面図である。
図4図4は、密封装置のさらに別の実施形態(第三の実施形態)を示す断面図である。
図5図5は、第二リップおよび第三リップの機能を説明する拡大図である。
図6図6は、第二リップおよび第三リップの機能を説明する拡大図である。
図7図7は、比較例を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1実施形態について〕
図1は、第1実施形態に係る密封装置の断面図である。図1は、軸7を側面から見た状態を示している。図1は、軸7の中心線Cを含む面における断面図である。密封装置10は、軸7とハウジング8の一部との間に形成される環状空間Sに装着される。
【0017】
軸7は、円柱形状であり、ハウジング8に設けられる軸受等(図示せず)によって回転可能に支持されている。軸7は、中心線Cを中心として回転する。軸7の中心線Cと密封装置10の中心線とは一致する。密封装置10は、例えば、モータ、変速機等に用いられるが、他の機器にも適用可能である。
【0018】
本開示の密封装置10の各方向について定義する。中心線Cに沿った方向および中心線Cに平行な方向を軸方向とする。中心線Cに直交する方向を径方向とする。中心線Cを中心とする円に沿った方向を周方向とする。
環状空間Sにおいて、図1の右側を軸方向一方側(軸方向の第一側)とし、図1の左側を軸方向他方側(軸方向の第二側)とする。本実施形態では、密封装置10よりも軸方向一方側に潤滑油が存在する。密封装置10よりも軸方向他方側は大気側となる。以下の説明において、軸方向一方側を「密封流体側」と呼び、軸方向他方側を「大気側」と呼ぶ。
【0019】
密封装置10は、環状空間Sにおいて、密封流体側の潤滑油が大気側に漏れるのを防ぐ。そのために、密封装置10は、固定部14と、第一リップ11と、第二リップ12と、第三リップ13とを備える。なお、密封装置10が漏れを防ぐ対象となる液体は、潤滑油以外であってもよい。
【0020】
固定部14は、ハウジング8に固定される環状の部分である。図1に示す実施形態では、固定部14は、第一金属環21と、第一金属環21を被覆するゴム製の第一被覆部23と、第二金属環22と、第二金属環22を被覆するゴム製の第二被覆部24とを有する。第一金属環21と第一被覆部23と第一リップ11とによって、一つの第一シール26が構成される。第二金属環22と第二被覆部24と第二リップ12と第三リップ13とによって、一つの第二シール27が構成される。第一シール26と第二シール27とが組み合わされることで、一つの密封装置10が構成される。
【0021】
第一金属環21の円筒状である外周部21aが、第一被覆部23の外周部23bを介して、ハウジング8に嵌合し、第一シール26がハウジング8に固定される。第二金属環22の円筒状である外周部22bがハウジング8に嵌合し、第二シール27がハウジング8に固定される。第一被覆部23、第二被覆部24、第一リップ11、第二リップ12及び第三リップ13は、ゴム等の弾性材により構成される。
【0022】
第一リップ11は、環状である。第一リップ11は、固定部14のうち、第一被覆部23の内周部23aから軸7側に延びて設けられている。第一リップ11は、軸7の外周面7aにつぶし代を有して接触する第一リップ先部16を有する。第一リップ先部16の外周側に、環状のスプリング30が設けられている。スプリング30は、その弾性復元力によって第一リップ先部16を軸7に押し付ける。第一リップ11は、第一被覆部23の内周部23aと第一リップ先部16とを繋ぐリップ基部15を有する。
【0023】
第一リップ先部16は、密封流体側に向かって拡径する第一傾斜面31と、大気側に向かって拡径する第二傾斜面32とを有する。リップ基部15は、第二傾斜面32から延長する第三傾斜面33を有する。第一傾斜面31と第二傾斜面32との交差部分が、第一リップ先部16のリップ先端16aとなる。リップ先端16aが軸7の外周面7aに接触し、リップ先端16aにおいて前記つぶし代が生じる。
【0024】
図2は、密封装置10の断面および内周側の一部を示す説明図である。第一リップ11は、その内周に、軸7の回転に伴って潤滑油Lを密封流体側へ導く第一の突条38を有する。第一の突条38は、第一リップ11の内周側において、リップ先端16aおよび第一傾斜面31を除く範囲に設けられている。図2に示す形態では、第一の突条38は、第二傾斜面32(ただし、リップ先端16aを除く)と第三傾斜面33と第一被覆部23の内周面23cとに形成されている。第一の突条38の機能については後に説明する。
【0025】
図1及び図2により、第二リップ12について説明する。第二リップ12は、環状である。第二リップ12は、固定部14のうち、第二被覆部24の内周部24aから軸7側に延びて設けられている。第二リップ12は、第一リップ先部16よりも大気側に位置する第二リップ先部17を有する。第二リップ先部17は、密封流体側に向かって拡径する第四傾斜面34と、大気側に向かって拡径する第五傾斜面35とを有する。
【0026】
第四傾斜面34と第五傾斜面35との交差部分が、第二リップ先部17のリップ先端17aとなる。リップ先端17aは軸7の外周面7aに近接する。第二リップ先部17(リップ先端17a)は、軸7の外周面7aに接触可能である。ただし、第二リップ先部17の軸7の外周面7aにおけるつぶし代は、第一リップ先部16の軸7の外周面7aにおけるつぶし代よりも小さい。具体的に説明すると、本実施形態では、第二リップ先部17の軸7の外周面7aにおけるつぶし代は、ゼロである。なお、前記つぶし代はゼロであるが、密封装置10の使用開始前では、前記つぶし代は正の小さな値で存在してもよく、軸7の回転が開始されてしばらく経過すると、リップ先端17aが摩耗して、前記つぶし代がゼロとなってもよい。
【0027】
または、第二リップ先部17の軸7の外周面7aにおけるつぶし代は、負の値であってもよい。つまり、第二リップ先部17は、軸7の外周面7aに非接触であり、リップ先端17aと軸7の外周面7aとの間に隙間が生じていてもよい。ただし、リップ先端17aと軸7の外周面7aとの間に、微小な隙間(径方向で1ミリメートル未満の隙間)が生じている程度であるのが好ましい。
【0028】
第二リップ先部17は、第一リップ11が繋がる第一被覆部23(内周部23a)の径方向の内側に存在する。この構成により、第一被覆部23(内周部23a)と第二リップ先部17との間に、大気側に凹んだ空間K3が形成される。
【0029】
第二リップ12は、その内周に、軸7の回転に伴って潤滑油を密封流体側へ導く第二の突条39を有する。図2に示すように、第二の突条39は、第二リップ12の内周側において、第五傾斜面35に設けられている。第二の突条39は、リップ先端17aから凹部19に至る範囲に設けられている。第二の突条39の機能については後に説明する。
【0030】
第三リップ13は、環状である。第三リップ13は、固定部14のうち、第二被覆部24の内周部24aから軸7側に延びて設けられている。第三リップ13は、第二リップ先部17よりも大気側に位置する第三リップ先部18を有する。第三リップ先部18は、密封流体側に向かって拡径する第六傾斜面36と、大気側に向かって拡径する第七傾斜面37とを有する。
【0031】
第六傾斜面36と第七傾斜面37との交差部分が、第三リップ先部18のリップ先端18aとなる。リップ先端18aは軸7の外周面7aに非接触である。リップ先端18aと軸7の外周面7aとの間に、全周にわたって隙間が設けられている。第三リップ先部18は、第三リップ13の寸法公差の範囲で製造誤差が生じても、軸7の外周面7aに非接触である。
【0032】
第二リップ12と第三リップ13との間に、凹部19が設けられている。凹部19は、径方向外側に凹む部分であり、周方向に連続するV字状の溝である。凹部19は、第五傾斜面35と第六傾斜面36との間の部分である。
【0033】
図1に示す実施形態では、固定部14は、第二金属環22と、第二金属環22の少なくとも内周部22aを被覆するゴム製の第二被覆部24とを有する。第二リップ12および第三リップ13それぞれは、共通する一つの第二被覆部24(内周部24a)から延びて設けられている。具体的に説明すると、第二リップ12は、内周部24aの密封流体側に位置する第一部分から突出して設けられている。第三リップ13は、内周部24aの大気側に位置する第二部分から突出して設けられている。
【0034】
この構成により、軸7の外周面7aに対する、第二リップ先部17および第三リップ先部18の径方向の位置が定まりやすい。つまり、固定部14をハウジング8に固定すれば、第二リップ先部17と軸7の外周面7aとの間の位置関係(つぶし代がゼロとなる関係)が適切に設定されるとともに、第三リップ先部18が軸7の外周面7aに非接触となる。
【0035】
第三リップ13は、第二被覆部24の大気側の側面41よりも密封流体側に位置している。つまり、第三リップ13は、第二被覆部24よりも大気側にはみ出ない。
【0036】
〔第一の突条38および第二の突条39の機能について〕
図2において、第一の突条38を線で模式的に示し、第二の突条39を線で模式的に示している。
第一の突条38は、第一リップ11の内周に、周方向に間隔をあけて複数設けられている。第一の突条38は、第二傾斜面32から径方向内側に突出した形状を有する。
第二の突条39は、第二リップ12の内周に、周方向に間隔をあけて複数設けられている。第二の突条39は、第五傾斜面35から径方向内側に突出した形状を有する。
【0037】
軸7が回転すると、軸7の周囲のエアが、軸7の回転方向と同じ方向に流れる。第一の突条38に潤滑油Lが付着していると、その潤滑油Lは、周方向に流れるエアによって押され、第一の突条38に沿ってリップ先端16aに近づくように密封流体側へ導かれる(図2の点線による矢印参照)。これにより、第二傾斜面32に付着する潤滑油Lは、リップ先端16a近傍にまで導かれる。
【0038】
このような第一の突条38によるポンプ作用が継続されることによって、潤滑油Lをリップ先端16aよりも密封流体側へ戻すことが可能となる。潤滑油Lが、前記のように、周方向に流れるエアに押されることで密封流体側へ導かれるように、第一の突条38は、軸7の回転方向にあわせて、周方向及び軸方向に対して傾斜して設けられている。
【0039】
軸7が回転すると、軸7の周囲のエアが、軸7の回転方向と同じ方向に流れる。第二の突条39に潤滑油Lが付着していると、その潤滑油Lは、周方向に流れるエアによって押され、第二の突条39に沿ってリップ先端17aに近づくように密封流体側へ導かれる(図2の点線による矢印参照)。これにより、凹部19および第五傾斜面35に付着する潤滑油Lは、リップ先端17a近傍にまで導かれる。
【0040】
このような第二の突条39によるポンプ作用が継続されることによって、潤滑油Lをリップ先端17aよりも密封流体側へ戻すことが可能となる。潤滑油Lが、前記のように、周方向に流れるエアに押されることで密封流体側へ導かれるように、第二の突条39は、軸7の回転方向にあわせて、周方向及び軸方向に対して傾斜して設けられている。
【0041】
図1に示す密封装置10の場合、第二金属環22の円筒状である外周部22bは、第一金属環21の円筒状である外周部21aの一部と、第一被覆部23の一部を間に挟んで、径方向について重なっている。図1に示す第一の実施形態では、第一シール26と第二シール27とは一体となって、ハウジング8に取り付けられる。
【0042】
〔密封装置10の他の形態について〕
図3は、密封装置10の他の形態(第二実施形態)を示す断面図である。第二実施形態の場合、第二金属環22の円筒形状である外周部22bは、第一金属環21と径方向について重ならない。第二金属環22の外周部22bは、第二金属環22の円環部22cから大気側に延びて設けられている。ゴム製の被覆部42が外周部22bを被覆している。外周部22bcは被覆部42を介してハウジング8に嵌合する。
【0043】
第二実施形態の場合、第一シール26と第二シール27とを別々としてハウジング8に取り付け可能である。または、既存の第一シール26に第二シール27を追加することで密封装置10を構成することができる。
【0044】
〔密封装置10のさらに別の形態について〕
図4は、密封装置10のさらに別の形態(第三実施形態)を示す断面図である。第三実施形態の場合、固定部14は、一つの金属環28と、その金属環28を被覆するゴム製の被覆部29とにより構成されている。その被覆部29の内周部29aから、第一リップ11、第二リップ12および第三リップ13それぞれが延びて設けられている。第三形実施態の場合、密封装置10の取り扱いおよびハウジング8への取り付けが容易となる。
【0045】
第三実施形態では、第二リップ先部17は、第一リップ11が繋がる被覆部29(内周部29a)の径方向の内側に存在する。被覆部29(内周部29a)と第二リップ先部17との間に、大気側に凹んだ空間K3が形成される。
【0046】
第二実施形態および第三実施形態それぞれにおいて、第一実施形態と同じ構成については同じ符号を付しており、同じ構成の説明については省略する。
【0047】
〔各実施形態の密封装置10について〕
第一から第三の各実施形態の密封装置10は、ハウジング8に固定される固定部14から軸7側に延びて設けられている第一リップ11、第二リップ12および第三リップ13を備える。第一リップ11は、軸7の外周面7aに接触する第一リップ先部16を有する。第二リップ12は、第一リップ先部16よりも大気側に位置する第二リップ先部17を有する。第三リップ13は、第二リップ先部17よりも大気側に位置する第三リップ先部18を有する。第三リップ先部18は、軸7の外周面7aに非接触である。第二リップ12と第三リップ13との間に、径方向外側に凹む凹部19が設けられている。
【0048】
前記構成を備える密封装置10によれば、その密封装置10よりも密封流体側に存在する潤滑油が第一リップ先部16を通過しても、第一リップ11と第二リップ12との間に形成される第一の空間K1に、その潤滑油を留めることが可能となる。さらに潤滑油が第二リップ先部17を通過しても、第二リップ12と第三リップ13との間の凹部19によって、潤滑油が第三リップ13を越えて大気側に流れ難い。
【0049】
図5および図6は、第二リップ12および第三リップ13の機能を説明する拡大図である。図5は、軸7の回転が停止している状態(停止状態)を示す。図6は、軸7が回転している状態を示す。図5に示すように、第二リップ先部17を大気側(図5では左側)に通過した潤滑油Lは、凹部19に補足される。図6に示すように、軸7が回転すると、凹部の潤滑油Lは、第二の突条39の機能によって、第二リップ先部17のリップ先端17a側に移動する。このため、潤滑油Lは、第三リップ13を越えて大気側に流出し難い。
【0050】
図7は、比較例を示す拡大図である。図7では、第三リップ先部18が、第二リップ先部17と同様に、軸7の外周面7aに接触する場合を示す。この比較例の場合、第二リップ先部17を大気側(図7では左側)に通過した潤滑油Lは、表面張力によって、第三リップ先部18のリップ先端18aと軸7の外周面7aとの間に捕捉されることがある。すると、やがて、その潤滑油Lが、リップ先端18aを大気側に越えて、密封装置10の外に漏れる可能性が高くなる。
【0051】
これに対して、図5および図6に示すように、第一から第三の各実施形態の密封装置10によれば、第三リップ先部18は、軸7の外周面7aから離れている。このため、図6に示すように、第二リップ先部17を通過した潤滑油Lは、例えば表面張力によって第二リップ12に付着することはあるが、第三リップ18には、第二リップ17よりも付着し難い。このため、潤滑油Lは、第三リップ18を越えて大気側に流れ難い。
以上より、潤滑油の多量な漏れを抑制することが可能となる。
【0052】
第一から第三の各実施形態の密封装置10によれば、第二リップ先部17のつぶし代は、第一リップ先部16のつぶし代よりも小さいので、第二リップ先部17による軸7の回転抵抗の増加および発熱を抑えることが可能である。第三リップ先部18は、軸7の外周面7aに非接触であり、第三リップ先部18による軸7の回転抵抗が生じない。
【0053】
第一から第三の各実施形態の密封装置10では(例えば図1参照)、前記のとおり、第二リップ先部17の軸7の外周面7aにおけるつぶし代は、ゼロである。または、第二リップ先部17は軸7の外周面7aに非接触である。このため、第二リップ先部17による軸7の回転抵抗の増加を抑える機能がより一層高まる。特に第二リップ先部17のつぶし代をゼロとすれば、第一リップ11と第二リップ12との間の第一の空間K1の潤滑油を大気側に流れ難くすることが可能である。
または、第二リップ先部17は、軸7の外周面7aにつぶし代を有して接触してもよい。この場合も、第一の空間K1の潤滑油を大気側に流れ難くすることが可能である。
【0054】
図2により説明したように、第二リップ12は、その内周に、軸7の回転に伴って潤滑油Lを密封流体側へ導く第二の突条39を有する。図5および図6に示すように、第一の空間K1の潤滑油Lが、第二リップ先部17を通過し、凹部19に留まることがあっても、軸7が回転すれば、その潤滑油Lを密封流体側に戻すことが可能となる。
【0055】
なお、第二の突条39の代わりに、第二の溝部が、第二リップ12の内周に形成されていてもよい。この場合においても、軸7が回転すると、周方向に流れるエアによって潤滑油は押され、前記第二の溝部に沿って、密封流体側に戻される。
【0056】
図2により説明したように、第一リップ11は、その内周に、軸7の回転に伴って潤滑油Lを密封流体側へ導く第一の突条38を有する。密封装置10の密封流体側に存在する潤滑油が、第一リップ先部16を通過し、第一リップ11と第二リップ12との間の第一の空間K1に留まることがあっても、軸7が回転すれば、その潤滑油を、第一リップ先部16のリップ先端16aよりも密封流体側に戻すことが可能となる。
【0057】
なお、第一の突条38の代わりに、第一の溝部が、第一リップ11の内周に形成されていてもよい。この場合においても、軸7が回転すると、周方向に流れるエアによって潤滑油は押され、前記第一の溝部に沿って、密封流体側に戻される。
【0058】
第一実施形態(図1)および第二実施形態(図3)の密封装置10では、固定部14は、第二金属環22と、第二金属環22の少なくとも内周部22aを被覆するゴム製の第二被覆部24とを有する。第二リップ12および第三リップ13それぞれは、共通する一つの第二被覆部24から延びて設けられている。この構成によれば、軸7の外周面7aに対する、第二リップ先部17および第三リップ先部18の径方向の位置が定まりやすい。
【0059】
第三実施形態(図4)の密封装置10では、固定部14は、金属環28と、金属環28の少なくとも内周部28aを被覆するゴム製の被覆部29とを有する。第二リップ12および第三リップ13それぞれは、共通する一つの被覆部29から延びて設けられている。第一リップ11も、前記被覆部29から延びて設けられている。この構成によれば、軸7の外周面7aに対する、第一リップ先部11、第二リップ先部17および第三リップ先部18の径方向の位置が定まりやすい。
【0060】
第一実施形態(図1)および第二実施形態(図3)の密封装置10では、第三リップ13は、第二被覆部24の大気側の側面41よりも密封流体側(図1および図3では、右側)に位置している。第三実施形態(図4)の密封装置10では、第三リップ13は、被覆部29の大気側の側面41よりも密封流体側(図4では、右側)に位置している。この構成によれば、第三リップ13が、第二被覆部24(被覆部29)よりも大気側にはみ出ない。密封装置10が他の部材と干渉することが防止される。
【0061】
第一から第三の各実施形態の密封装置10では、第二リップ先部17は、第二被覆部24(被覆部29)のうち第一リップ11が繋がる部分の径方向の内側に存在する。このため、第二被覆部24(被覆部29)のうち第一リップ11と繋がる部分と第二リップ先部17との間に、大気側に凹んだ空間K3が形成される。例えば図1において、密封装置10よりも密封流体側の潤滑油が第一リップ先部16を通過し、第一の空間K1のうち、凹んだ空間K3に存在すると、その潤滑油は、大気側に流れ難い。
【0062】
以上のように、前記各実施形態の密封装置10によれば、第一リップ11と軸7との間に潤滑油の滲み出しが生じたとしても、潤滑油の多量な漏れを抑制することが可能である。
【0063】
〔その他〕
第三リップ13の内周に、第二の突条39と同様の、第三の突条が設けられていてもよい。第三の突条は、第六傾斜面36および第七傾斜面37の少なくとも一方に設けられる。この場合、軸7が回転すると、周方向に流れるエアによって、第三リップ13の内周に存在する潤滑油は押され、前記第三の突条に沿って、密封流体側に戻される。なお、このような第三の突条の代わりに第三の溝部が設けられていてもよい。
【0064】
前記実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、前記実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0065】
7 軸
7a 外周面
8 ハウジング
10 密封装置
11 第一リップ
12 第二リップ
13 第三リップ
14 固定部
16 第一リップ先部
17 第二リップ先部
18 第三リップ先部
19 凹部
21 第一金属環
22 第二金属環
23 第一被覆部
24 第二被覆部
28 金属環
29 被覆部
38 第一の突条
39 第二の突条
41 側面
S 環状空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7