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  • 特開-構造スリット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168700
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】構造スリット
(51)【国際特許分類】
   G21F 3/00 20060101AFI20231121BHJP
   G21F 1/08 20060101ALI20231121BHJP
   G21F 1/12 20060101ALI20231121BHJP
   E04H 9/14 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
G21F3/00 Z
G21F1/08
G21F1/12
E04H9/14 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079963
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 憲治
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA23
2E139AC19
(57)【要約】
【課題】放射線遮蔽機能を備えた構造スリットを提供する。
【解決手段】壁16の端部に設けられるスリット18からなる構造スリット100であって、前記スリット18の内部において移動可能に設けられるとともに、放射線遮蔽機能を発揮する板状の放射線遮蔽材30を備え、前記放射線遮蔽材30は、前記スリット18の幅Wの変化に応じて前記スリット18の内部における配置角度が変化するように構成されているようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁の端部に設けられるスリットからなる構造スリットであって、
前記スリットの内部において移動可能に設けられるとともに、放射線遮蔽機能を発揮する板状の放射線遮蔽材を備え、
前記放射線遮蔽材は、前記スリットの幅の変化に応じて前記スリットの内部における配置角度が変化するように構成されていることを特徴とする構造スリット。
【請求項2】
前記放射線遮蔽材を回動可能に前記スリットの内部に対して固定する軸部と、前記スリットを閉鎖する向きに前記放射線遮蔽材を付勢するねじりばねとを有することを特徴とする請求項1に記載の構造スリット。
【請求項3】
前記スリットは、鉛直方向に延びる鉛直スリットであることを特徴とする請求項1または2に記載の構造スリット。
【請求項4】
壁の上部または下部に設けられる水平スリットからなる構造スリットであって、
前記水平スリットの内部において移動可能に設けられるとともに、放射線遮蔽機能を発揮する板状の放射線遮蔽材を備え、
前記放射線遮蔽材は、前記水平スリットの内部において互いに摺動可能に積層配置された複数枚の鉄板で構成されていることを特徴とする構造スリット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の壁などに設けられる構造スリットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐震壁を設けることによって部材に応力が集中することを防ぐために構造スリットを設けることがある(例えば、特許文献1を参照)。強力な放射線を用いた治療を行う部屋(リニアック室など)は、放射線遮蔽のために四周を分厚いコンクリート壁(例えば、厚さt=1400mmなどの壁)で囲う必要があるが、この壁にも当然、応力集中が生じることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63-167853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の応力集中を緩和するため、リニアック室と同一階の外周部に耐震壁を設ける、リニアック室周りの部材の耐力を上げる、またはリニアック室と周囲の架構との縁を切るといった対策が施されることがある。しかし、純S造と比べて施工時間が長くなるという問題があった。
【0005】
リニアック室の壁に構造スリットを設けることができれば応力集中の問題は解決される。しかし、従来のスリット材はポリエチレンなどであり、放射線を遮蔽する能力が低いため採用することは難しい。このため、放射線遮蔽機能を備えた構造スリットが求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、放射線遮蔽機能を備えた構造スリットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る構造スリットは、壁の端部に設けられるスリットからなる構造スリットであって、前記スリットの内部において移動可能に設けられるとともに、放射線遮蔽機能を発揮する板状の放射線遮蔽材を備え、前記放射線遮蔽材は、前記スリットの幅の変化に応じて前記スリットの内部における配置角度が変化するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の構造スリットは、上述した発明において、前記放射線遮蔽材を回動可能に前記スリットの内部に対して固定する軸部と、前記スリットを閉鎖する向きに前記放射線遮蔽材を付勢するねじりばねとを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の構造スリットは、上述した発明において、前記スリットは、鉛直方向に延びる鉛直スリットであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の構造スリットは、壁の上部または下部に設けられる水平スリットからなる構造スリットであって、前記水平スリットの内部において移動可能に設けられるとともに、放射線遮蔽機能を発揮する板状の放射線遮蔽材を備え、前記放射線遮蔽材は、前記水平スリットの内部において互いに摺動可能に積層配置された複数枚の鉄板で構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る構造スリットによれば、壁の端部に設けられるスリットからなる構造スリットであって、前記スリットの内部において移動可能に設けられるとともに、放射線遮蔽機能を発揮する板状の放射線遮蔽材を備え、前記放射線遮蔽材は、前記スリットの幅の変化に応じて前記スリットの内部における配置角度が変化するように構成されているので、放射線遮蔽機能を備えた構造スリットを提供することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る他の構造スリットによれば、前記放射線遮蔽材を回動可能に前記スリットの内部に対して固定する軸部と、前記スリットを閉鎖する向きに前記放射線遮蔽材を付勢するねじりばねとを有するので、スリットの幅の変化に応じて放射線遮蔽材が軸部周りに回動した場合でも、放射線遮蔽機能を発揮させることができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係る他の構造スリットによれば、前記スリットは、鉛直方向に延びる鉛直スリットであるので、放射線遮蔽機能を備えた鉛直スリットを提供することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の構造スリットによれば、壁の上部または下部に設けられる水平スリットからなる構造スリットであって、前記水平スリットの内部において移動可能に設けられるとともに、放射線遮蔽機能を発揮する板状の放射線遮蔽材を備え、前記放射線遮蔽材は、前記水平スリットの内部において互いに摺動可能に積層配置された複数枚の鉄板で構成されているので、放射線遮蔽機能を備えた水平の構造スリットを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に係る構造スリットの実施の形態を示す正面図である。
図2図2は、図1のA部分の要部斜視図である。
図3図3は、図1のA部分の平断面図であり、(1)は常時、(2)は地震時である。
図4図4(1)は、図1のB部分の断面図、(2)は断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る構造スリットの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0017】
図1に示すように、柱10と、上下の梁12、14に囲まれた部分に放射線利用施設(例えば、リニアック室)の壁16が設けられる。柱10、上梁12、下梁14、壁16は、いずれも鉄筋コンクリート製である。壁16は、上辺のみが上梁12に直接固定された耐震壁であり、壁16の両側辺と下辺は、柱10および下梁14との間にスリット18、20をそれぞれ設けて構造的に絶縁されている。壁16と柱10との間の位置には、鉛直に延びる鉛直スリット18からなる構造スリット100が設けられ、壁16と下梁14との間の位置には、水平に延びる水平スリット20からなる構造スリット200が設けられる。壁16と柱10との間の構造スリット100が、本発明の実施の形態に係る構造スリットに相当する。
【0018】
構造スリット100は、図2および図3(1)に示すように、鉛直スリット18の内部において移動可能に設けられるとともに、放射線遮蔽機能を発揮する複数枚の長方形状の鉄板22(放射線遮蔽材)を備える。鉄板22は、柱10の側端面10Aに沿って設けた鉄板24と、壁16の側端面16Aに沿って設けた鉄板26と、鉛直スリット18の前後の開口面18Aに沿って設けた鉄板28と、これらに囲まれた内部に設けた鉄板30である。
【0019】
鉄板30は、鉛直スリット18の幅Wの変化に応じて鉛直スリット18の内部における配置角度θが変化するように構成されている。具体的には、鉄板30は長手方向を鉛直方向にして配置され、上から見て鉄板30の短手方向が壁厚方向Dに対して斜めに向くように配置される。鉄板30の寸法は、鉛直スリット18における放射線遮蔽機能を発揮可能な大きさであり、長手方向の長さが鉛直スリット18の鉛直方向の高さと同程度で、短手方向の長さが鉛直スリット18の幅Wよりも長い寸法のものが好ましい。各鉄板30は、壁厚方向Dに間隔をあけて平行に複数配置(図の例では4枚)される。鉄板30の枚数が多いほど、放射線遮蔽性能を向上することができる。
【0020】
鉄板30の片面の側縁側には、鉛直方向に延びる鋼棒32(軸部)が溶接されている。この鋼棒32の上端は、上梁12の下面の凹部に対して回転可能に挿し込まれ、鋼棒32の下端は、水平スリット20の鉄板36に設けた凹部に対して回転可能に挿し込まれる。したがって、鉄板30は、鉛直スリット18の内部において鋼棒32周りに回動可能に固定される。なお、鋼棒32の上下端が挿し込まれる凹部は、壁厚方向Dに延びる長溝状に形成することが好ましい。このようにすれば、鋼棒32は壁厚方向Dに移動可能である。また、鉄板30のもう片面には、鋼棒32の位置に対応した側縁側に、ねじりばね34が鉛直方向に間隔をあけて複数配置(図2の例では3つ)される。ねじりばね34は、鉛直スリット18の開口面18Aを閉鎖する向きに鉄板30を付勢する作用を有する。なお、本発明はねじりばねに限るものではなく、他の付勢手段を用いてもよい。このようにすることで、鉛直スリット18の幅Wの変化に応じて鉄板30が鋼棒32周りに回動した場合でも、放射線遮蔽機能を発揮させることができる。
【0021】
本実施の形態では、鋼棒32が柱10に近い側に配置された鉄板30Aと、壁16に近い側に配置された鉄板30Bとが、壁厚方向Dに交互に4枚配置される。鋼棒32が柱10に近い側に配置された鉄板30Aにおいては、ねじりばね34の一端は鉄板30Aに固定され、他端は柱10側の鉄板24に当接している。鋼棒32が壁16に近い側に配置された鉄板30Bにおいては、ねじりばね34の一端は鉄板30Bに固定され、他端は壁16側の鉄板26に当接している。
【0022】
鉛直スリット18の前後の開口面18Aに設けた鉄板28は、柱面と壁面とを略面一につなぐ態様で配置される。この鉄板28は、鉛直スリット18の左右の柱10の隅角部に形成した切り欠き部10Bと、壁16の隅角部に形成した切り欠き部16Bとを跨ぐように配置され、鉛直スリット18の幅Wの変化に応じてこの間で左右方向(水平方向)にスライド可能に構成される。
【0023】
構造スリット200は、図4に示すように、水平スリット20の内部において上下方向に積層配置された複数枚(2枚以上)の長方形状の鉄板36と、これらの鉄板36を壁16の下面および下梁14の上面に対して揺動可能に固定する固定部材38とからなる。固定部材38は、円柱状の発泡樹脂材38Aと、アンカー筋38Bで構成され、下梁14の長手方向および短手方向に間隔をあけて複数配置される。発泡樹脂材38Aは、壁16の下面に設けた凹部16Cに埋設される。アンカー筋38Bは、鉄板36に設けた孔36Aを貫通して発泡樹脂材38Aと下梁14とを上下に連結する。この構成によれば、水平スリット20内に積層配置された複数の鉄板36は互いに摺動可能である。この鉄板36を壁16の下面と下梁14の上面との間で滑らせることで、水平スリットとして機能させることができる。
【0024】
上記の構成の動作および作用を説明する。
図3(2)に示すように、地震時の層間変形によりに柱10と壁16が変形すると、鉛直スリット18の幅Wが変化する。この変化に伴って柱10側の鉄板24と壁16側の鉄板26が図3(2)の(b)から(a)のように接近すると、ねじりばね34を介して内部の鉄板30が鋼棒32周りに回動する。これにより、鉛直スリット18の内部における鉄板30の配置角度θが変化する。なお、鉄板30どうしの間に隙間が生じても、1mm程度の隙間であれば放射線遮蔽能力に影響はない。図3(2)の(a)の例では、説明の都合上、鋼棒32、ねじりばね34の図示を省略している。
【0025】
本実施の形態によれば、構造スリットの材料として鉄板を用いることで放射線遮蔽能力を確保しつつ、壁16と柱梁の縁を切ることができる。また、柱10と壁16の間に回転可能な鉄板30を敷き詰めることにより層間変形に追従することができる。こうすることで、放射線遮蔽機能を備えた鉛直スリットとして機能させることができる。
【0026】
また、応力集中緩和による設計の合理化が可能となる。応力集中の対策として従来採用していた外周部耐震壁を中止し、RC柱梁をS造に変更することによる工期短縮を図ることができる。
【0027】
また、上記の実施の形態においては、壁16の上辺のみが上梁12に直接固定されることにより壁16と下梁14との間に水平スリット20が設けられる場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではく、壁16の下辺のみが下梁14に直接固定されることにより壁16と上梁12との間に水平スリットが設けられる構成に適用してもよい。このようにしても上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0028】
以上説明したように、本発明に係る構造スリットによれば、壁の端部に設けられるスリットからなる構造スリットであって、前記スリットの内部において移動可能に設けられるとともに、放射線遮蔽機能を発揮する板状の放射線遮蔽材を備え、前記放射線遮蔽材は、前記スリットの幅の変化に応じて前記スリットの内部における配置角度が変化するように構成されているので、放射線遮蔽機能を備えた構造スリットを提供することができる。
【0029】
また、本発明に係る他の構造スリットによれば、前記放射線遮蔽材を回動可能に前記スリットの内部に対して固定する軸部と、前記スリットを閉鎖する向きに前記放射線遮蔽材を付勢するねじりばねとを有するので、スリットの幅の変化に応じて放射線遮蔽材が軸部周りに回動した場合でも、放射線遮蔽機能を発揮させることができる。
【0030】
また、本発明に係る他の構造スリットによれば、前記スリットは、鉛直方向に延びる鉛直スリットであるので、放射線遮蔽機能を備えた鉛直スリットを提供することができる。
【0031】
また、本発明に係る他の構造スリットによれば、壁の上部または下部に設けられる水平スリットからなる構造スリットであって、前記水平スリットの内部において移動可能に設けられるとともに、放射線遮蔽機能を発揮する板状の放射線遮蔽材を備え、前記放射線遮蔽材は、前記水平スリットの内部において互いに摺動可能に積層配置された複数枚の鉄板で構成されているので、放射線遮蔽機能を備えた水平の構造スリットを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明に係る構造スリットは、建物の壁などに有用であり、特に、放射線利用施設の壁などに設ける構造スリットに適している。
【符号の説明】
【0033】
10 柱
12 上梁
14 下梁
16 壁
18 鉛直スリット
20 水平スリット
22,24,26,28,30,36 鉄板(放射線遮蔽材)
32 鋼棒(軸部)
34 ねじりばね
38 固定部材
38A 発泡樹脂材
38B アンカー筋
100 構造スリット
D 壁厚方向
W 幅
θ 角度
図1
図2
図3
図4