(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168704
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】高濃度穀物スラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/104 20160101AFI20231121BHJP
【FI】
A23L7/104
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079968
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】391003587
【氏名又は名称】エイチビィアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 良機
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LE26
4B023LG05
4B023LK17
4B023LP05
(57)【要約】
【課題】新規な高濃度穀物スラリーの製造方法を提供する。
【解決手段】セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に水分散させた状態で作用させる工程(A)を含む、高濃度穀物スラリーの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に水分散させた状態で作用させる工程(A)を含む、高濃度穀物スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)が、15℃以下で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記セルラーゼが、穀物粉末1gに対して0.1U~10Uである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記α-アミラーゼが、穀物粉末1gに対して10U~100Uである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記高濃度穀物スラリーの、穀物スラリー全体に対する穀物粉末の割合が、30重量%以上55重量%未満である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記高濃度穀物スラリーが、1000mPa・s~2500mPa・sである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に水分散させた状態で作用させる工程(A)、並びに
前記工程(A)で得られた高濃度穀物スラリーを液化する工程(B)
を含む、高濃度穀物スラリー液化物の製造方法。
【請求項8】
セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に水分散させた状態で作用させる工程(A)、
前記工程(A)で得られた高濃度穀物スラリーを液化する工程(B)、並びに
前記工程(B)で得られた高濃度穀物スラリー液化物を糖化する工程(C)
を含む、高濃度穀物スラリー液化糖化物の製造方法。
【請求項9】
セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に水分散させた状態で作用させる工程を含む、高濃度穀物スラリーの製造方法により製造される、高濃度穀物スラリー製造用の、セルラーゼ及び/又はαアミラーゼを含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度穀物スラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物粉末を高濃度で水に分散させることにより得られるスラリーの粘度は著しく高くなる。粘度の上昇に伴い、撹拌が困難になることから、穀物粉末がダマ(継粉)を形成し、不均一化しやすい。このため、高濃度穀物粉末の均一スラリーを大量に製造することは困難である。それゆえ、分散タンク内に設置されている撹拌機の能力に依存した、低粘度の穀物スラリーしか調製することができず、このスラリーの穀物粉末濃度は低いものになるため、この液を加工して製造される穀物スラリー液化物や穀物スラリー液化糖化物等も低濃度となる。
【0003】
穀物粉末を水に分散させる際の粘度上昇を抑える方法として、特定の酵素を用いて粘度を低下する方法が知られているが、この方法により高濃度の穀物スラリーを製造することは依然として困難である。例えば、特許文献1には、4-α-グルカノトランスフェラーゼ及び/又はマルトトリオヒドロラーゼ、セルラーゼ、並びにプロテアーゼでオーツ麦外皮粉末を処理する方法が、特許文献2には、α-アミラーゼでオーツ麦粉末を処理する方法が、特許文献3には、システインプロテアーゼ及びα-アミラーゼで大麦粉砕物溶液を処理する方法が、並びに、特許文献4には、アミラーゼ単独、又はアミラーゼを主体とし、これにセルラーゼ、ペクチナーゼ、及びプロテアーゼから選択した少なくとも1種の酵素で玄米とオーツ麦の混合穀物を処理する方法が、それぞれ開示されているが、これらの方法におけるスラリーの穀物粉末濃度は30重量%程度にとどまっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-39283号公報
【特許文献2】特許第7002624号公報
【特許文献3】特開2020-54399号公報
【特許文献4】特開2009-207359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、高濃度の穀物スラリー、また、これを酵素処理することにより得られる穀物スラリー液化物、及び、穀物スラリー液化糖化物等を含む、穀物スラリーの効率的な製造方法の開発を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物スラリーに作用させ、穀物粉末中のセルロース及び多糖類を分解することによって、粘度の過度な上昇を抑制しつつ分散させうることを発見し、高濃度の穀物スラリーが得られることを見出した。本発明はかかる知見に基づいてさらに検討を加えることにより完成したものであり、以下の態様を包含する。
【0007】
項1.
セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に水分散させた状態で作用させる工程(A)を含む、高濃度穀物スラリーの製造方法。
項2.
前記工程(A)が、15℃以下で行われる、項1に記載の製造方法。
項3.
前記セルラーゼが、穀物粉末1gに対して0.1U~10Uである、項1又は2に記載の製造方法。
項4.
前記α-アミラーゼが、穀物粉末1gに対して10U~100Uである、項1又は2に記載の製造方法。
項5.
前記高濃度穀物スラリーの、穀物スラリー全体に対する穀物粉末の割合が、30重量%以上55重量%未満である、項1又は2に記載の製造方法。
項6.
前記高濃度穀物スラリーの、穀物スラリー全体に対する穀物粉末の割合が、30重量%以上55重量%未満である、項3に記載の製造方法。
項7.
前記高濃度穀物スラリーの、穀物スラリー全体に対する穀物粉末の割合が、30重量%以上55重量%未満である、項4に記載の製造方法。
項8.
前記高濃度穀物スラリーの、穀物スラリー全体に対する穀物粉末の割合が、30重量%以上55重量%未満である、項1~4のいずれかに記載の製造方法。
項9.
前記高濃度穀物スラリーが、1000mPa・s~2500mPa・sである、項1又は2に記載の製造方法。
項10.
前記高濃度穀物スラリーが、1000mPa・s~2500mPa・sである、項3に記載の製造方法。
項11.
前記高濃度穀物スラリーが、1000mPa・s~2500mPa・sである、項4に記載の製造方法。
項12.
前記高濃度穀物スラリーが、1000mPa・s~2500mPa・sである、項5に記載の製造方法。
項13.
前記高濃度穀物スラリーが、1000mPa・s~2500mPa・sである、項6に記載の製造方法。
項14.
前記高濃度穀物スラリーが、1000mPa・s~2500mPa・sである、項7に記載の製造方法。
項15.
前記高濃度穀物スラリーが、1000mPa・s~2500mPa・sである、項1~7のいずれかに記載の製造方法。
項16.
セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に水分散させた状態で作用させる工程(A)、並びに
前記工程(A)で得られた高濃度穀物スラリーを液化する工程(B)
を含む、高濃度穀物スラリー液化物の製造方法。
項17.
セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に水分散させた状態で作用させる工程(A)、
前記工程(A)で得られた高濃度穀物スラリーを液化する工程(B)、並びに
前記工程(B)で得られた高濃度穀物スラリー液化物を糖化する工程(C)
を含む、高濃度穀物スラリー液化糖化物の製造方法。
項18.
セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に水分散させた状態で作用させる工程を含む、高濃度穀物スラリーの製造方法により製造される、高濃度穀物スラリー製造用の、セルラーゼ及び/又はαアミラーゼを含む組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高濃度穀物スラリーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】α-アミラーゼ(T)のみ又はα-アミラーゼ及びセルラーゼ(AL8)で処理したオーツ麦スラリーの初期粘度と、加熱して液化反応を行い、得られたオーツ麦スラリー液化物の糖組成を示す。
図1中の「G1」はグルコースを、「G2」はマルトースを、「G3」はマルトトリオースを、「G4」はマルトテトラオースをそれぞれ示し、得られた高濃度オーツ麦スラリー液化物中におけるそれぞれの含有量をHPLCを用いて測定した。
【
図2】α-アミラーゼ(T)のみ又はα-アミラーゼ及びセルラーゼ(AL8)で処理したオーツ麦スラリーの初期粘度と、加熱して液化反応を行い、その後、グルコアミラーゼ(AN)を添加して糖化反応を行い、得られたオーツ麦スラリー液化糖化物の糖組成を示す。
図1中の「G1」はグルコースを、「G2」はマルトースを、「G3」はマルトトリオースを、「G4」はマルトテトラオースをそれぞれ示し、得られた高濃度オーツ麦スラリー液化糖化物中におけるそれぞれの含有量をHPLCにより測定した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1. 本発明の高濃度穀物スラリーの製造方法
本発明の高濃度穀物スラリーの製造方法は、セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に水分散させた状態で作用させる工程を含む。
【0011】
本発明において、セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に作用させる工程には、水にセルラーゼ及びα-アミラーゼを溶解した酵素溶液を作成し、穀物粉末を添加し、分散することが含まれる。また、セルラーゼ及びα-アミラーゼ及び穀物粉末を水に同時添加し、分散させることが含まれる。上記工程により、穀物粉末中のセルロース及び多糖類の一部を分解することによって、粘度の過度な上昇を抑制しつつ穀物粉末を水に分散させることが可能となる。その結果、穀物スラリーの穀物粉末濃度を上昇させることが可能となる。
【0012】
本発明において、「穀物」は、オーツ麦、ライ麦、小麦、大麦、蕎麦、トウモロコシ等を含む。本発明において穀物はオーツ麦であることが好ましい。
【0013】
本発明において、水には、例えば水道水、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水、滅菌水、生理食塩水等が含まれる。
【0014】
本発明において、高濃度穀物スラリーの、穀物スラリー全体に対する穀物粉末の割合は、例えば、30重量%以上55重量%未満とすることができる。当該範囲の下限は、例えば、30重量%以上、31重量%以上、32重量%以上、33重量%以上、34重量%以上、35重量%以上、36重量%以上、37重量%以上、38重量%以上、39重量%以上、40重量%以上、41重量%以上、42重量%以上、43重量%以上、44重量%以上、又は45重量%以上であってもよい。また、当該範囲の上限は、例えば、55重量%未満、54重量%以下、53重量%以下、52重量%以下、51重量%以下、50重量%以下、49重量%以下、48重量%以下、47重量%以下、又は46重量%以下であってもよい。より具体的には、例えば、31重量%以上55重量%未満であってもよく、35重量%以上50重量%以下であってもよい。
【0015】
セルラーゼは、セルロースのβ-1,4-グルカンのグリコシド結合を切断する酵素である。本発明において、セルラーゼの由来は特に制限されず、例えば糸状菌、細菌、軟体動物、植物が挙げられる。糸状菌としては、例えばAspergillus nigerやTrichoderma reeseiが挙げられる。中でも、Aspergillus niger由来のセルラーゼが好ましい。
【0016】
本発明において、セルラーゼを穀物粉末に作用させる工程におけるセルラーゼ量は、例えば、穀物粉末1gに対して0.1U~10U程度とすることができる。当該範囲の下限値又は上限値は、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10であってもよい。より具体的には、例えば、1U~9U程度であってもよく、3U~7U程度であってもよい。
【0017】
本発明において、セルラーゼの活性(U)は、カルボキシメチルセルロースナトリウム(pH4.2)を基質とし、40℃、1分間に1μmoleのグルコースに相当する還元力の増加をもたらす酵素量を1単位(U)とする。
【0018】
α-アミラーゼは、デンプンやグリコーゲン等の多糖類のα-1,4グリコシド結合をランダムに切断するエンド型の酵素である。本発明において、α-アミラーゼの由来は特に制限されず、例えば細菌、植物、動物の唾液や膵液等が挙げられる。中でも、細菌由来のα-アミラーゼが好ましく、Bacillus amyloliquefaciens由来のα-アミラーゼがより好ましい。
【0019】
本発明において、α-アミラーゼを穀物粉末に作用させる工程におけるα-アミラーゼ量は、例えば、穀物粉末1gに対して10U~100U程度とすることができる。当該範囲の下限値又は上限値は、例えば、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100であってもよい。より具体的には、例えば、15U~90U程度であってもよく、30U~70U程度であってもよい。
【0020】
本発明において、α-アミラーゼの活性(U)は、デンプン1gに相当する10%バレイショデンプン糊液を基質とし、pH6.0、65℃、15分間で標準粘性物質と同程度にまで減少させる酵素量を1単位(U)とする。
【0021】
本発明において、セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に作用させる工程の温度条件は、それが酵素としての機能が失われない範囲であれば特に制限されない。酵素の至適温度を超えなければよい。また、低温であってもよいが、酵素はその性質から低温では触媒効率が著しく低下する。本発明において、低温とは、15℃以下の温度条件をいう。一般に、セルラーゼの至適温度は40℃~60℃、α-アミラーゼの至適温度は50℃~75℃であることが知られている。このため、本発明は、セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に作用させる工程の温度条件下が15℃以下の低温であってもよい点で、特徴を有する。これより、本発明の製造方法を使用すれば、高濃度穀物スラリー、後述の高濃度穀物スラリー液化物、並びに高濃度穀物スラリー液化糖化物を含む高濃度穀物スラリーの製造において、予め溶媒となる水を加熱する必要がなく、穀物粉末投入時の作業員の安全性が高く保たれる。
【0022】
本発明の方法により製造される本発明の高濃度穀物スラリーの粘度は、例えば、1000mPa・s~2500mPa・s程度とすることができる。当該範囲の下限値又は上限値は、例えば、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、又は2500であってもよい。より具体的には、例えば、1200mPa・s~2000mPa・s程度であってもよく、1300mPa・s~1500mPa・s程度であってもよい。
【0023】
本発明において、高濃度穀物スラリー液化物の粘度は、B型粘度計No.3ローター12rpmで測定することができる。
【0024】
本発明の高濃度穀物スラリーの製造方法は、プラントベースミルク又は醸造用原料の製造に用いることができる。
【0025】
本発明において、「プラントベースミルク」との用語は、「植物性ミルク」と同義であり、植物由来の原材料から製造された代替乳飲料を意味する。本発明において、プラントベースミルクは、本発明の製造方法を用いて製造された高濃度穀物スラリー、後述の高濃度穀物スラリー液化物、及び高濃度穀物スラリー液化糖化物を含む高濃度穀物スラリー自体、並びに、これらをさらに加工して得られるものを含む。
【0026】
本発明において、「醸造」との用語は、発酵作用を利用して、酒類を製造することを意味する。酒類には、例えば、ビール、焼酎、ウイスキーが含まれる。
【0027】
2. 本発明の高濃度穀物スラリー液化物の製造方法
本発明の高濃度穀物スラリー液化物の製造方法は、セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に水分散させた状態で作用させる工程(A)の後に、前記工程(A)で得られた高濃度穀物スラリーを液化する工程(B)を含む。
【0028】
本発明において、「液化」なる用語は、糊化(α化)したデンプンに対しα-アミラーゼが作用することでグリコシド結合がランダムに切断され、より低分子の結合体(デキストリン)が生成することを示す。
【0029】
本発明において、高濃度穀物スラリーを液化する工程(B)は、具体的には、前記工程(A)で得られた高濃度穀物スラリーをα-アミラーゼの至適温度(50℃~75℃)まで加熱することを含む。
【0030】
本発明の方法により製造される本発明の高濃度穀物スラリー液化物の粘度は、例えば、1500mPa・s~3000mPa・s程度とすることができる。当該範囲の下限値又は上限値は、例えば、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、又は3000であってもよい。より具体的には、例えば、1600mPa・s~2800mPa・s程度であってもよく、1800mPa・s~2400mPa・s程度であってもよい。
【0031】
本発明において、高濃度穀物スラリー液化物の粘度は、B型粘度計No.3ローター12rpmで測定することができる。
【0032】
本発明の高濃度穀物スラリー液化物の製造方法は、プラントベースミルク又は醸造用原料の製造に用いることができる。
【0033】
3. 本発明の高濃度穀物スラリー液化糖化物の製造方法
本発明の高濃度穀物スラリー液化糖化物の製造方法は、セルラーゼ及びα-アミラーゼを穀物粉末に水分散させた状態で作用させる工程(A)の後に、前記工程(A)で得られた高濃度穀物スラリーを液化する工程(B)、並びに、前記工程(B)で得られた高濃度穀物スラリー液化物を糖化する工程(C)を含む。
【0034】
本発明において、「糖化」なる用語は、デキストリンにグルコアミラーゼが作用することでグリコシド結合が切断されブドウ糖が生成することを示す。
【0035】
グルコアミラーゼは、アミロースやアミロペクチン等のα-1,4グリコシド結合やα-1,6グリコシド結合を逐次分解するエキソ型の酵素である。本発明において、グルコアミラーゼの由来は特に制限されず、例えば糸状菌、酵母、細菌、植物、動物の唾液や膵液等が挙げられる。糸状菌としては、例えばAspergillus niger、Rhizopus oryzae等が挙げられる。中でも、Aspergillus niger由来のグルコアミラーゼが好ましい。
【0036】
本発明において、グルコアミラーゼを高濃度穀物スラリー液化物に作用させる工程におけるグルコアミラーゼ量は、例えば、穀物粉末1gに対して10U~50U程度とすることができる。当該範囲の下限値又は上限値は、例えば、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50であってもよい。より具体的には、例えば、15U~45U程度であってもよく、25U~35U程度であってもよい。
【0037】
本発明において、グルコアミラーゼの活性(U)は、可溶性デンプンを基質とし、pH5.0、40℃、30分間で10mgのグルコースに相当する還元力の増加をもたらす酵素量を1単位(U)とする。
【0038】
本発明において、液化物を糖化する工程(C)は、具体的には、前記工程(B)で得られた高濃度オーツ麦スラリー液化物にグルコアミラーゼを作用させ、グルコアミラーゼの至適温度(40℃~60℃)まで温度を調節することを含む。
【0039】
本発明の高濃度穀物スラリー液化糖化物の製造方法は、プラントベースミルク又は醸造用原料の製造に用いることができる。
【0040】
4. 本発明のセルラーゼ及び/又はαアミラーゼ
本発明の特徴の一つは、セルラーゼ及びα-アミラーゼをオーツ麦粉末に作用させる工程により、高濃度オーツ麦スラリー、高濃度オーツ麦スラリー液化物、及び高濃度オーツ麦スラリー液化糖化物が製造できる点にある。
【0041】
よって、本発明は、高濃度オーツ麦スラリー、高濃度オーツ麦スラリー液化物、及び高濃度オーツ麦スラリー液化糖化物の製造方法に用いるための、セルラーゼ及び/又はαアミラーゼ、並びに、セルラーゼ及び/又はαアミラーゼを含む組成物を包含する。
【実施例0042】
本実施例においては、以下の酵素を使用した。
<α-アミラーゼ>
・起源:Bacillus amyloliquefaciens
・製品名:「液化酵素T(エイチビィアイ株式会社製)」
・デンプン1 gに相当する10%バレイショデンプン糊液を基質とし、pH6.0、65℃、15分間で標準粘性物質と同程度にまで減少させる酵素量を1単位(U)とする。
<グルコアミラーゼ>
・起源:Aspergillus niger
・製品名:「グルターゼAN(エイチビィアイ株式会社製)」
・可溶性デンプンを基質とし、pH5.0、40℃、30分間で10 mgのグルコースに相当する還元力の増加をもたらす酵素量を1単位(U)とする。
<セルラーゼ>
・起源:Aspergillus niger
・製品名:「セルロシンAL8(エイチビィアイ株式会社製)」
・カルボキシメチルセルロースナトリウム(pH4.2)を基質とし、40℃、1分間に1μmoleのグルコースに相当する還元力の増加をもたらす酵素量を1単位(U)とする。
<キシラナーゼ>
・起源:Trichoderma reesei
・製品名:「セルロシンTP25(エイチビィアイ株式会社製)」
・アラビノキシラン(pH4.5)を基質とし、40℃、1分間に1μmoleのグルコースに相当する還元力の増加をもたらす酵素量を1単位(U)とする。
【0043】
実施例1. 高濃度オーツ麦スラリーの製造
15℃で50gの脱イオン水にオーツ麦粉末グラム当たり5単位のセルロシンAL8(セルラーゼ)と50単位の液化酵素T(α-アミラーゼ)を加えて溶解し、50gのオーツ麦粉末を加えて撹拌して均一なスラリーを得た。比較例として、酵素添加無しのスラリーを作成した。製造したオーツ麦スラリーの初期粘度をB型粘度計No.3ローター12rpmで測定したところ、酵素添加では1400 mPa・s(cP)であり、酵素無しでは粘性が高すぎて測定不可能であった。
【0044】
比較例1. セルラーゼ及びキシラナーゼの粘性低下効果
様々な添加量のセルロシンAL8(セルラーゼ)及びTP25(キシラナーゼ)の粘性低下効果について調べた。
15℃で50gの脱イオン水にオーツ麦粉末グラム当たり5単位、3単位、1単位、若しくは0.5単位のセルロシンAL8(セルラーゼ)又はTP25(キシラナーゼ)、及び50単位の液化酵素T(α-アミラーゼ)を加えて溶解し、50gのオーツ麦粉末を加えて撹拌して均一なスラリーを得た。製造した各オーツ麦スラリーの初期粘度をB型粘度計No.3ローター12rpmで測定した。結果を表1に示す。
【表1】
セルロシンAL8(セルラーゼ)の添加量を減少させても、ある程度は初期粘度の低下効果があり、AL8(セルラーゼ)添加量は撹拌機の能力に依存する。一方で、TP25(キシラナーゼ)ではオーツ麦スラリーの初期粘度は1万mPa・s以上と高く、セルロシンAL8(セルラーゼ)に比べて粘性低下効果が低かった。
【0045】
比較例2. α-アミラーゼとセルラーゼの粘性低下効果
液化酵素T(α-アミラーゼ)とセルロシンAL8(セルラーゼ)の粘性低下効果について調べた。
15℃で50gの脱イオン水にオーツ麦粉末グラム当たり50単位の液化酵素T(α-アミラーゼ)又は5単位のセルロシンAL8(セルラーゼ)を加えて溶解し、50gのオーツ麦粉末を加えて撹拌して均一なスラリーを得た。製造した各オーツ麦スラリーの初期粘度をB型粘度計No.3ローター12rpmで測定した。結果を表2に示す。
【表2】
セルロシンAL8(セルラーゼ)の方が、液化酵素T(α-アミラーゼ)と比べて、粘性低下効果が高く、オーツ麦スラリーの初期粘度の低下に寄与していることが分かった。α-アミラーゼはオーツ麦粉末中のわずかにα化(糊化)したデンプンに作用し、セルラーゼによる作用と合わせて粘性低下効果を示すことが示唆された。
【0046】
実施例2. 高濃度オーツ麦スラリー液化物の製造
実施例1で製造された高濃度オーツ麦スラリーを加熱して液化酵素T(α-アミラーゼ)による液化反応を行った(
図1)。液化酵素T(α-アミラーゼ)のみの試験区では50重量%のオーツ麦スラリーの初期粘度が測定不可能なほど高くなった(グラフの都合上10000mPa・sで表記した)が、その後の加熱による液化反応によって得られた液化物は3000mPa・sとなった。一方で、液化酵素T(α-アミラーゼ)及びセルロシンAL8(セルラーゼ)の試験区では同重量%のオーツ麦スラリーは1400mPa・sと非常に低粘度となり、液化反応によって得られた液化物は2000mPa・sと低粘度が維持された。得られた液化物のG1~G4の糖組成には違いが無かった。
【0047】
実施例3. 高濃度オーツ麦スラリー液化糖化物の製造
実施例2と同様の操作により、実施例1で製造された高濃度オーツ麦スラリーを加熱して液化酵素T(α-アミラーゼ)による液化反応を行った後、グルターゼAN(グルコアミラーゼ)をオーツ麦粉末グラム当たり30単位添加して糖化反応を行った(
図2)。液化酵素T(α-アミラーゼ)のみの試験区では、50重量%のオーツ麦スラリーの初期粘度が測定不可能なほど高くなった(グラフの都合上10000mPa・sで表記した)のに対して、液化酵素T(α-アミラーゼ)及びセルロシンAL8(セルラーゼ)の試験区では、50重量%のオーツ麦スラリーでも初期粘度が1400mPa・sであった。得られた液化糖化物は非常に高いG1濃度を示し、50重量%オーツ麦の試験区で約350mg/mlを示した。