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特開2023-168720プレストレス構造及びそれを用いたプレキャストコンクリート部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168720
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】プレストレス構造及びそれを用いたプレキャストコンクリート部材
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/12 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
E04C5/12
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079992
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一成
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164DA01
2E164DA22
(57)【要約】

【課題】 端部における曲げひび割れを防止可能なプレストレス構造及びそれを用いたプレキャストコンクリート部材を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレキャストコンクリート部材1は、プレテンション方式のプレストレス構造が採用された床版であって、PC鋼より線2の各端近傍が含まれた2つの端部区間3a,3bと、それらに挟まれた中間区間3cとで構成されるが、端部区間3aには、PC鋼より線2の材軸に沿うように材軸が位置決めされてなる環状反力体4を配置してある。環状反力体4は、PC鋼より線2に導入された緊張力が端部区間3aのコンクリートに伝達されるとき、PC鋼より線2の周面からその材軸に直交する方向に向けて発生する膨張力を引張支持することで、該膨張力の反力がPC鋼より線2に向けて発生するように構成してある。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC鋼より線等のPC鋼材が該PC鋼材の各端近傍が含まれた2つの端部区間及びそれらに挟まれた中間区間に拡がるコンクリートに埋設され該PC鋼材に導入された緊張力が前記コンクリートとの付着を介して該コンクリートに伝達されるようになっているプレストレス構造において、
前記PC鋼材の材軸に沿うように材軸が位置決めされてなる環状反力体を前記2つの端部区間の少なくともいずれかに配置するとともに、該環状反力体を、前記緊張力が前記コンクリートに伝達されるときに前記PC鋼材の周面からその材軸に直交する方向に向かう膨張力を引張支持することで、該膨張力の反力を前記PC鋼材に向けて発生させるように構成したことを特徴とするプレストレス構造。
【請求項2】
前記環状反力体を、複数個の環状部材をそれらの中心軸線が共通軸線上に並ぶように配置して構成するとともに、該共通軸線を前記環状反力体の材軸とした請求項1記載のプレストレス構造。
【請求項3】
PC鋼より線等のPC鋼材が該PC鋼材の各端近傍が含まれた2つの端部区間及びそれらに挟まれた中間区間に拡がるコンクリートに埋設され該PC鋼材に導入された緊張力が前記コンクリートとの付着を介して該コンクリートに伝達されるようになっているプレストレス構造において、
前記PC鋼材の材軸に沿うように材軸が位置決めされてなる螺旋状反力体を前記2つの端部区間の少なくともいずれかに配置するとともに、該螺旋状反力体を、前記緊張力が前記コンクリートに伝達されるときに前記PC鋼材の周面からその材軸に直交する方向に向かう膨張力を引張力及びコンクリートとの付着力で支持し又は弾性復元力で支持することにより、該膨張力の反力を前記PC鋼材に向けて発生させるように構成したことを特徴とするプレストレス構造。
【請求項4】
前記螺旋状反力体をコイルバネで構成した請求項3記載のプレストレス構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一記載のプレストレス構造が採用されたことを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PC鋼材、特にPC鋼より線を用いたプレテンション方式に適用されるプレストレス構造及びそれを用いたプレキャストコンクリート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
プレストレストコンクリート(PC)は、プレストレスの導入時期によって、プレテンション方式とポストテンション方式とに大別され、ポストテンション方式は、緊張材をコンクリート内に自由に配置することができるので、さまざまな形状の場所打ちコンクリートに対して容易にかつ大きなプレストレスを導入することが可能である。
【0003】
一方、プレテンション方式は、緊張材が取り付けられた反力台から反力をとる形で該緊張材に引張力を導入し、この状態でコンクリートを打設した後、コンクリートの強度発現を待って緊張材を反力台から取り外すといった手順になるため、基本的には、工場でプレキャストコンクリート(PCa)部材を製作する際に採用される。
【0004】
ここで、プレテンション方式は、ポストテンション方式とは異なり、鉄筋工事と錯綜しながらのシースの配置に時間を要したり、油圧ジャッキを据え付けるためのスペースや足場が必要になったりすることがないため、工期短縮の要請が大きい道路橋床版の更新に数多く採用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「プレテンション部材におけるPC鋼材のプレストレス定着長に関する研究」(土木学会第58回年次学術講演会(平成15年9月))[令和4年3月16日検索]、インターネット<URL : http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/2003/58-5/58-5-0254.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プレテンション方式では、プレキャストコンクリート部材の端部で緊張力を十分に伝達させることができないため、この区間では緊張力を考慮しない設計とすることが多いが、複数のプレキャストコンクリート部材を接合して一体化させる際には、その接合箇所を曲げに抵抗し得る構造とする必要があり、その場合、曲げひび割れを防止するために緊張力を別途導入しなければならないという問題を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、端部における曲げひび割れを防止可能なプレストレス構造及びそれを用いたプレキャストコンクリート部材を提供する ことを目的とする。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るプレストレス構造は請求項1に記載したように、PC鋼より線等のPC鋼材が該PC鋼材の各端近傍が含まれた2つの端部区間及びそれらに挟まれた中間区間に拡がるコンクリートに埋設され該PC鋼材に導入された緊張力が前記コンクリートとの付着を介して該コンクリートに伝達されるようになっているプレストレス構造において、
前記PC鋼材の材軸に沿うように材軸が位置決めされてなる環状反力体を前記2つの端部区間の少なくともいずれかに配置するとともに、該環状反力体を、前記緊張力が前記コンクリートに伝達されるときに前記PC鋼材の周面からその材軸に直交する方向に向かう膨張力を引張支持することで、該膨張力の反力を前記PC鋼材に向けて発生させるように構成したものである。
【0009】
また、本発明に係るプレストレス構造は、前記環状反力体を、複数個の環状部材をそれらの中心軸線が共通軸線上に並ぶように配置して構成するとともに、該共通軸線を前記環状反力体の材軸としたものである。
【0010】
また、本発明に係るプレストレス構造は請求項3に記載したように、PC鋼より線等のPC鋼材が該PC鋼材の各端近傍が含まれた2つの端部区間及びそれらに挟まれた中間区間に拡がるコンクリートに埋設され該PC鋼材に導入された緊張力が前記コンクリートとの付着を介して該コンクリートに伝達されるようになっているプレストレス構造において、
前記PC鋼材の材軸に沿うように材軸が位置決めされてなる螺旋状反力体を前記2つの端部区間の少なくともいずれかに配置するとともに、該螺旋状反力体を、前記緊張力が前記コンクリートに伝達されるときに前記PC鋼材の周面からその材軸に直交する方向に向かう膨張力を引張力及びコンクリートとの付着力で支持し又は弾性復元力で支持することにより、該膨張力の反力を前記PC鋼材に向けて発生させるように構成したものである。
【0011】
また、本発明に係るプレストレス構造は、前記螺旋状反力体をコイルバネで構成したものである。
【0012】
また、本発明に係るプレキャストコンクリート部材は、請求項1乃至請求項4のいずれか一記載のプレストレス構造が採用されたものである。
【0013】
従来、プレテンション方式のプレストレス構造においては、PC鋼材の緊張力が端部区間で十分に伝達されないことから、複数のプレキャストコンクリート部材を接合して一体化させるような場合には、接合箇所での曲げひび割れを防止すべく、該接合箇所に別途緊張力を導入しなければならない場合があった。
【0014】
本出願人は、端部区間における緊張力の伝達力低下が、コンクリートの膨張による付着力の低下が原因であることに着眼して研究開発を行ったところ、本願発明をなすに至ったものである。
【0015】
すなわち、本発明に係るプレストレス構造においては、2つの端部区間の少なくともいずれかに、材軸がPC鋼材の材軸に沿うように位置決めされてなる環状反力体又は螺旋状反力体を配置してある。
【0016】
ここで、プレテンション方式のプレストレス構造は、PC鋼材とコンクリートとの付着を介してPC鋼材の緊張力がコンクリートへと伝達されるが、その緊張力は、PC鋼材の材軸に平行な方向の分力が圧縮力としてコンクリートに伝達される一方、該材軸に直交する方向の分力がPC鋼材の周面からその材軸を中心とした放射方向へと向かい、膨張力としてコンクリートに伝達する。
【0017】
この膨張力は、コンクリートにひび割れを生じさせるのみならず、PC鋼材とコンクリートとの付着力を減少させ、ひいては端部区間における緊張力の伝達低下の原因となる。
【0018】
しかし、本発明においては、環状反力体であれば、その引張強度性能によって上記膨張力を引張支持するとともに、その反力をPC鋼材に向けて発生させ、螺旋状反力体であれば、引張力及びコンクリートとの付着力で支持し又は弾性復元力で支持するとともに、該膨張力の反力をPC鋼材に向けて発生させる。
【0019】
そのため、PC鋼材を取り囲むコンクリートは、材軸直交方向に膨らもうとする変形が拘束されるとともにPC鋼材に押し付けられて付着力が高まり、かくして、端部区間において緊張力の導入範囲が拡がり、その結果として端部区間における緊張力の伝達低下が抑制されるとともに、複数のプレキャストコンクリート部材を接合して一体化させるような場合においても、緊張力を別途導入することなく、上記接合箇所での曲げひび割れを防止することが可能となる。
【0020】
なお、ポストテンション方式のプレストレス構造においては、支圧板近傍に補強筋を設けることがあるが、この補強筋は、支圧板から作用する荷重に対する補強手段であって、PC鋼材の周面から放射方向に向かう荷重に対するものではなく、本発明とは技術思想が本質的に相違する。
【0021】
環状反力体や螺旋状反力体は、2つの端部区間のうち、少なくともいずれかの端部区間に設ければ足りるものであって、いずれか一方の端部区間にのみ設けるか、2つの端部区間にそれぞれ設けるかは任意である。
【0022】
環状反力体は、PC鋼材の周面からその材軸に直交する方向に向かう膨張力を引張支持するとともに、該膨張力の反力をPC鋼材に向けて発生させるように構成される限り、その構成は任意であって、リング、フープといった無端環状部材が含まれる一方、材質、径、個数、複数個の場合は配置ピッチ、長さ(PC鋼材の材軸方向に沿った全長)などは適宜設定することが可能であり、単一の構成としたり、単一かつ円筒状に形成した場合も包摂されるが、複数個の環状部材をそれらの中心軸線が共通軸線上に並ぶように配置して構成する場合が一つの典型例となる。この場合、その共通軸線が環状反力体の材軸となる。
【0023】
螺旋状反力体は、PC鋼材の周面からその材軸に直交する方向に向かう膨張力を、引張力及びコンクリートとの付着力で支持し又は弾性復元力で支持するとともに、該膨張力の反力をPC鋼材に向けて発生させるように構成される限り、その構成は任意であって、環状反力体と同様、材質、径、長さなどは適宜設定することが可能であるが、コイルバネで構成する場合が一つの典型例となる。
【0024】
なお、ここでいう引張力とは、螺旋状反力体自体の引張抵抗力を意味し、コンクリートとの付着力とは、上記膨張力に対してコンクリートから螺旋状反力体の周面に作用する反力を意味するものであって、膠着力のほか、摩擦力も含まれるものとする。
【0025】
また、螺旋状反力体における膨張力の支持機構には、引張力及びコンクリートとの付着力のみで支持し、あるいは弾性復元力のみで支持する場合のほか、それらが協働して支持する場合も含まれる。
【0026】
本発明に係るプレストレス構造は、橋梁等の構造物が施工される現地において構築される場合も包摂されるが、工場で製作されるプレキャストコンクリート部材に採用される場合が典型例であり、特に道路橋床版として製作した上、これらを接合して一体化させる際には、別途緊張力を導入せずとも、接合箇所が曲げに抵抗し得る構造となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態に係るプレキャストコンクリート部材1の図であり、(a)は全体縦断面図、(b)はA-A線に沿う横断面詳細図、(c)は環状反力体4の全体斜視図。
図2】プレキャストコンクリート部材1の作用を示した図であり、(a)はPC鋼より線2の緊張力が、該PC鋼より線の材軸に平行な方向と該材軸に直交する方向でそれぞれコンクリートに伝達する様子を示した縦断面詳細図、(b)はB-B線に沿う横断面詳細図であって、PC鋼より線2の材軸に直交する方向の分力が、該PC鋼より線の周面からその材軸を中心とした放射方向へと向かい、膨張力としてコンクリートに伝達する様子を示した図、(c)はB-B線に沿う横断面部分詳細図であって、上記膨張力が、環状反力体4の引張強度性能によって引張支持されるとともに、その反力がPC鋼より線2に向けて発生する様子を示した図。
図3】プレキャストコンクリート部材の端部近傍における緊張力の伝達低下を縦断面図とともに示した図であり、(a)は従来のプレキャストコンクリート部材の図、(b)は本実施形態に係るプレキャストコンクリート部材1の図。
図4】プレキャストコンクリート部材1,1を互いに接合して道路橋床版44を構築する例を示した図であり、(a)は接合前の状態を橋軸方向から見た側面図、(b)は接合後の状態を橋軸方向から見た側面図、(c)は道路橋床版44に生じる曲げモーメントの概念図。
図5】プレキャストコンクリート部材1´の図であり、(a)は全体縦断面図、(b)はプレキャストコンクリート部材1とともに道路橋床版61を構築した場合の橋軸方向から見た側面図。
図6】第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の作用を示した図であり、(a)はPC鋼より線2の緊張力が、該PC鋼より線の材軸に平行な方向と該材軸に直交する方向でそれぞれコンクリートに伝達する様子を示した縦断面詳細図、(b)はC-C線に沿う横断面詳細図であって、PC鋼より線2の材軸に直交する方向の分力が、該PC鋼より線の周面からその材軸を中心とした放射方向へと向かい、膨張力としてコンクリートに伝達する様子を示した図、(c)はC-C線に沿う横断面部分詳細図であって、上記膨張力が、引張力及びコンクリートとの付着力で支持され又は弾性復元力で支持されるとともに、その反力がPC鋼より線2に向けて発生する様子を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るプレストレス構造及びそれを用いたプレキャストコンクリート部材の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0029】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係るプレキャストコンクリート部材1を示したものである。
【0030】
同図に示すように、プレキャストコンクリート部材1は、プレテンション方式のプレストレス構造が採用された床版であり、PC鋼材としてのPC鋼より線2がコンクリートに埋設され、該PC鋼より線に導入された緊張力がそのコンクリートとの付着を介して該コンクリートに伝達されるようになっている。
【0031】
同図に示されていないが、PC鋼より線2は、床版の幅に応じ、紙面奥行方向に沿って所要の本数だけ適宜配置すればよい。
【0032】
本実施形態に係るプレキャストコンクリート部材1は、PC鋼より線2の各端近傍が含まれた2つの端部区間3a,3bと、それらに挟まれた中間区間3cとで構成されるが、端部区間3aには、PC鋼より線2の材軸に沿うように材軸が位置決めされてなる環状反力体4を配置してある。
【0033】
環状反力体4は、平鋼を環状に湾曲加工してなる複数個、本実施形態では一例として4つの環状部材21をそれらの中心軸線が共通軸線上に並ぶように配置して構成してあり、該共通軸線が環状反力体4の材軸となる。
【0034】
環状反力体4は、環状部材21を互いのピッチが確保されるように連結材で相互連結するとともに、材軸がPC鋼より線2の材軸に一致するようにスペーサーで適宜位置決めすればよい(いずれも図示せず)。
【0035】
なお、環状部材は、同図に示すような平鋼ではなく、丸鋼等で形成してもかまわない。
【0036】
環状反力体4は、PC鋼より線2に導入された緊張力が端部区間3aのコンクリートに伝達されるとき、PC鋼より線2の周面からその材軸に直交する方向に向けて発生する膨張力を引張支持することで、該膨張力の反力がPC鋼より線2に向けて発生するように構成してある。
【0037】
環状部材21の個数や配置ピッチあるいはそれらの径は、端部区間3aを含む材端近傍での緊張力の伝達低下をどの程度改善したいかに応じて適宜定めればよい。
【0038】
プレキャストコンクリート部材1を製作する際は、環状反力体4に予めPC鋼より線2を挿通した上、従来と同様の手順で行えばよい。
【0039】
本実施形態に係るプレキャストコンクリート部材1は、プレテンション方式のプレストレス構造を採用してあり、PC鋼より線2とコンクリートとの付着を介して該PC鋼より線の緊張力がコンクリートへと伝達されるが、その緊張力は、図2(a)に示すように、PC鋼より線2の材軸に平行な方向の分力が圧縮力としてコンクリートに伝達される一方、該材軸に直交する方向の分力は、膨張力としてコンクリートに伝達する。
【0040】
この膨張力は、コンクリートが本来、引張強度を期待できないものであるため、そのコンクリートにひび割れを生じさせるのみならず、PC鋼より線2とコンクリートとの付着力を減少させ、ひいては端部区間3aにおける緊張力の伝達低下の原因となる。
【0041】
かかる点に鑑み、本実施形態に係るプレキャストコンクリート部材1においては、図2に示すように、端部区間3aにPC鋼より線2の材軸に沿うように材軸が位置決めされてなる環状反力体4を配置するとともに、該環状反力体を、PC鋼より線2に導入された緊張力が端部区間3aのコンクリートに伝達されるとき、PC鋼より線2の周面からその材軸に直交する方向に向けて伝達される膨張力(図2(b)、(c)では黒矢印)が、環状部材21の引張強度性能によって図2(c)の白矢印(大)で示されるように引張支持されるとともに、該膨張力の反力が、同図白矢印(小)で示されるようにPC鋼より線2に向けて発生するように構成してある。
【0042】
そのため、PC鋼より線2を取り囲むコンクリートは、材軸直交方向に膨らもうとする変形が拘束されるとともにPC鋼より線2に押し付けられて付着力が高まる。
【0043】
図3は、緊張力の伝達低下に関する作用を示したものであり、従来のプレストレス構造が採用されたプレキャストコンクリート部材の場合、同図(a)に示すように、PC鋼材の端部近傍では、コンクリートの膨張を抑えることができないためにPC鋼材とコンクリートとの付着力が小さくなり、それゆえ、部材縁部から一定程度離れた部位までの間は、PC鋼材の緊張力が十分な大きさでコンクリートに伝達されない区間(定着長L)として扱う必要があった。
【0044】
一方、本実施形態に係るプレキャストコンクリート部材1においては、同図(b)に示したように、上述した環状反力体4によって端部区間3aにおけるコンクリートの膨張が抑制されるため、定着長はLに短縮される。
【0045】
図4は、プレキャストコンクリート部材1を用いて道路橋床版を構築する例を示したものである。
【0046】
道路用床版を構築するには、同図(a)に示すようにまず橋桁42の上にプレキャストコンクリート部材1,1を架け渡す。このとき、プレキャストコンクリート部材1,1は、接合のためのクリアランス41を介して端部区間3aが対向するように配置する。
【0047】
次に、同図(b)に示すように、クリアランス41に接合構造43を適宜施してプレキャストコンクリート部材1,1を互いに接合し、道路橋床版44とする。
【0048】
同図(c)は、道路橋床版44に生じる曲げモーメントを概略的に示したものである。
【0049】
2枚のプレキャストコンクリート部材を剛接合して道路橋床版を構築する場合、該道路橋床版の端部では、回転拘束されないので曲げモーメントがゼロになる一方、接合箇所では、それぞれのプレキャストコンクリート部材の端部が回転拘束されるため、一定の曲げモーメントが発生するが、本実施形態に係るプレキャストコンクリート部材1,1では、同図に示すように、端部区間3aに拡がるコンクリートに十分な緊張力が伝達され予め圧縮力が導入されているため、接合箇所では曲げひび割れが抑制される。
【0050】
なお、接合構造43を構築するにあたり、その構成材料として超高強度繊維補強コンクリートを用いるようにすれば、接合構造43とプレキャストコンクリート部材1,1との接合箇所でも曲げひび割れが抑制される。
【0051】
超高強度繊維補強コンクリートの配合や施工方法は、土木学会から発行されている「超高強度繊維補強コンクリートの設計・施工指針 (案) 」を参照して適宜決定すればよい。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係るプレキャストコンクリート部材1によれば、PC鋼より線2の材軸に沿うように材軸が位置決めされてなる環状反力体4を端部区間3aに配置するとともに、該環状反力体を、PC鋼より線2に導入された緊張力が端部区間3aのコンクリートに伝達されるとき、PC鋼より線2の周面からその材軸に直交する方向に向けて伝達される膨張力が、環状部材21の引張強度性能によって引張支持されるとともに、該膨張力の反力がPC鋼より線2に向けて発生するように構成してあるので、PC鋼より線2を取り囲むコンクリートは、材軸直交方向に膨らもうとする変形が拘束されるとともにPC鋼より線2に押し付けられて付着力が高まり、それゆえ、PC鋼より線2の緊張力は十分な大きさをもって圧縮力としてコンクリートに伝達される。
【0053】
そのため、端部区間3aにおける緊張力の伝達低下が抑制されるとともに、2枚のプレキャストコンクリート部材1,1を接合して一体化させるような場合においても、緊張力を別途導入することなく、上記接合箇所での曲げひび割れを防止することが可能となる。
【0054】
本実施形態では、PC鋼材がPC鋼より線2である場合について説明したが、プレキャストコンクリート部材のサイズいかんでは、PC鋼より線2に代えて、PC鋼棒を用いるようにしてもかまわない。
【0055】
また、本実施形態では、プレキャストコンクリート部材1を床版用としたが、端部の曲げひび割れを抑制する必要があるのであれば、床版のみならず、柱材、梁材など任意の部位の部材に適用することが可能である。
【0056】
また、本実施形態では、プレキャストコンクリート部材に係る構成を説明したが、例えば、長大であるがゆえに搬送コストが高くなり、現地で緊張力導入を行うことのコストを差し引いても、全体としては経済性があるような場合であれば、プレストレス構造として現場で構築するようにしてもかまわない。
【0057】
また、本実施形態では、端部区間3a,3bのうち、一方の端部区間3aにのみ環状反力体4を設けたが、これに代えて、端部区間3a,3bのそれぞれに環状反力体4を設けた構成としてもよい。この場合、端部区間3aに関する上述の変形例は、端部区間3bにもすべて同様に適用される。
【0058】
図5(a)は、端部区間3a,3bのそれぞれに環状反力体4を設けてなるプレキャストコンクリート部材1´を示した縦断面図、同図(b)は、プレキャストコンクリート部材1及びプレキャストコンクリート部材1´を用いて道路橋床版61を構成した例を示した側面図である。
【0059】
道路用床版61を構築するには、まず、橋桁42の上にプレキャストコンクリート部材1、プレキャストコンクリート部材1´及びプレキャストコンクリート部材1を架け渡す。
【0060】
このとき、同図で左側に位置するプレキャストコンクリート部材1と中央に位置するプレキャストコンクリート部材1´は、クリアランス41と同様のクリアランスを介してプレキャストコンクリート部材1の端部区間3aとプレキャストコンクリート部材1´の端部区間3bが対向するように配置し、プレキャストコンクリート部材1´と同図で右側に位置するプレキャストコンクリート部材1とは、同じくクリアランス41と同様のクリアランスを介してプレキャストコンクリート部材1´の端部区間3aとプレキャストコンクリート部材1の端部区間3aが対向するように配置する。
【0061】
次に、各クリアランスに接合構造43と同様の接合構造62を適宜施してプレキャストコンクリート部材1,1´,1を互いに接合し、道路橋床版61とする。
【0062】
このように構成すると、プレキャストコンクリート部材1の端部区間3a及びプレキャストコンクリート部材1´の端部区間3a,3bに拡がるコンクリートに十分な緊張力が伝達され予め圧縮力が導入されているため、接合箇所では曲げひび割れが抑制される。
【0063】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明するが、第1実施形態と実質的に同一の構成については、同一の番号を付してその説明を省略する。
【0064】
第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材は、第1実施形態で説明したプレキャストコンクリート部材1の環状反力体4に代えて、図6(a)に示すように、螺旋状反力体61を配置してあり、環状反力体4と同様、その材軸がPC鋼より線2の材軸に沿うように位置決めしてある。
【0065】
螺旋状反力体61は、鋼製のコイルバネで構成してあり、主としてその弾性復元力で上記膨張力に抵抗するように構成することが可能であるが、線材の太さや全体径などについては、端部区間3aを含む材端近傍での緊張力の伝達低下をどの程度改善したいかに応じて適宜定めればよい。
【0066】
なお、螺旋状反力体61は、その弾性復元力に加え、線材自体が有する引張力及び周辺コンクリートとの付着との協働作用によって上記膨張力に抵抗するように構成してもかまわない。
【0067】
螺旋状反力体61は、PC鋼より線2に導入された緊張力が端部区間3aのコンクリートに伝達されるとき、PC鋼より線2の周面からその材軸に直交する方向に向けて発生する膨張力を引張力及びコンクリートとの付着力で支持し又は弾性復元力で支持することで、該膨張力の反力がPC鋼より線2に向けて発生するように構成してある。
【0068】
第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材を製作するにあたっては、螺旋状反力体61を巻き付けるようにしてPC鋼より線2に配置することができるため、プレキャストコンクリート部材1とは異なり、コンクリート打設前の任意のタイミングで螺旋状反力体61をPC鋼より線2に配置すればよい。
【0069】
第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材は、第1実施形態のプレキャストコンクリート部材1と同様、プレテンション方式のプレストレス構造を採用してあり、PC鋼より線2とコンクリートとの付着を介して該PC鋼より線の緊張力がコンクリートへと伝達されるが、その緊張力は、図6(a)に示すように、PC鋼より線2の材軸に平行な方向の分力が圧縮力としてコンクリートに伝達される一方、該材軸に直交する方向の分力は、膨張力としてコンクリートに伝達する。
【0070】
この膨張力は、コンクリートが本来、引張強度を期待できないものであるため、そのコンクリートにひび割れを生じさせるのみならず、PC鋼より線2とコンクリートとの付着力を減少させ、ひいては端部区間3aにおける緊張力の伝達低下の原因となる。
【0071】
かかる点に鑑み、第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材においては、図6に示すように、端部区間3aにPC鋼より線2の材軸に沿うように材軸が位置決めされてなる螺旋状反力体61を配置するとともに、該螺旋状反力体を、PC鋼より線2に導入された緊張力が端部区間3aのコンクリートに伝達されるとき、PC鋼より線2の周面からその材軸に直交する方向に向けて伝達される膨張力(図6(b)、(c)では黒矢印)が、同図(c)の白矢印(大)で示されるように、引張力及びコンクリートとの付着力で支持され又は弾性復元力で支持されるとともに、該膨張力の反力が、同図白矢印(小)で示されるようにPC鋼より線2に向けて発生するように構成してある。
【0072】
そのため、PC鋼より線2を取り囲むコンクリートは、材軸直交方向に膨らもうとする変形が拘束されるとともにPC鋼より線2に押し付けられて付着力が高まる。
【0073】
第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材においても、図3を用いて説明したと同様、緊張力伝達低下の抑制作用が発揮されるが、ここではその説明を省略する。
【0074】
また、図4で説明したと同様、第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材を用いて道路橋床版を構築することができるが、施工手順や曲げひび割れに関する作用については第1実施形態と同様であるので、詳細な説明については割愛する。
【0075】
以上説明したように、第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材によれば、PC鋼より線2の材軸に沿うように材軸が位置決めされてなる螺旋状反力体61を端部区間3aに配置するとともに、該螺旋状反力体を、PC鋼より線2に導入された緊張力が端部区間3aのコンクリートに伝達されるとき、PC鋼より線2の周面からその材軸に直交する方向に向けて伝達される膨張力が、引張力及びコンクリートとの付着力で支持され又は弾性復元力で支持されるとともに、該膨張力の反力がPC鋼より線2に向けて発生するように構成してあるので、PC鋼より線2を取り囲むコンクリートは、材軸直交方向に膨らもうとする変形が拘束されるとともにPC鋼より線2に押し付けられて付着力が高まり、それゆえ、PC鋼より線2の緊張力は十分な大きさをもって圧縮力としてコンクリートに伝達される。
【0076】
そのため、端部区間3aにおける緊張力の伝達低下が抑制されるとともに、2枚のプレキャストコンクリート部材1,1を接合して一体化させるような場合においても、緊張力を別途導入することなく、上記接合箇所での曲げひび割れを防止することが可能となる。
【0077】
また、第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材によれば、螺旋状反力体61を巻き付けるようにしてPC鋼より線2に配置することができるので、コンクリート打設前の任意のタイミングで螺旋状反力体61をPC鋼より線2に配置することが可能となり、かくして製作時の制約が緩和され、製造コストの低減を図ることができる。
【0078】
第2実施形態では、PC鋼材がPC鋼より線2である場合について説明したが、プレキャストコンクリート部材のサイズいかんでは、PC鋼より線2に代えて、PC鋼棒を用いるようにしてもかまわない。
【0079】
また、第2実施形態では、プレキャストコンクリート部材を床版用としたが、端部の曲げひび割れを抑制する必要があるのであれば、床版のみならず、柱材、梁材など任意の部位の部材に適用することが可能である。
【0080】
また、第2実施形態では、プレキャストコンクリート部材に係る構成を説明したが、例えば、長大であるがゆえに搬送コストが高くなり、現地で緊張力導入を行うことのコストを差し引いても、全体としては経済性があるような場合であれば、プレストレス構造として現場で構築するようにしてもかまわない。
【0081】
また、第2実施形態では、本発明の螺旋状反力体を、鋼製のコイルバネからなる螺旋状反力体61とし、主としてその弾性復元力で上記膨張力に抵抗するようにしたが、これに代えて、弾性復元力が期待できない線材を螺旋状に配置して構成することも可能であり、かかる変形例であっても、線材が有する引張力と周辺コンクリートとの付着によって上記膨張力に抵抗させることが可能である。
【0082】
また、第2実施形態では、端部区間3a,3bのうち、一方の端部区間3aにのみ螺旋状反力体61を設けたが、これに代えて、端部区間3a,3bのそれぞれに螺旋状反力体61を設けた構成としてもよい。この場合、端部区間3aに関する上述の変形例は、端部区間3bにもすべて同様に適用される。
【0083】
なお、図5で説明したと同様、一方の端部区間3aにのみ螺旋状反力体61を設けてなるプレキャストコンクリート部材と端部区間3a,3bのそれぞれに螺旋状反力体61を設けてなるプレキャストコンクリート部材とを用いて道路橋床版を構築することができるが、施工手順や曲げひび割れに関する作用については第1実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【符号の説明】
【0084】
1,1´ プレキャストコンクリート部材
2 PC鋼より線(PC鋼材)
3a,3b 端部区間
3c 中間区間3c
4 環状反力体
21 環状部材
61 螺旋状反力体
図1
図2
図3
図4
図5
図6