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特開2023-168736地盤傾斜計測装置及び地盤傾斜計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168736
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】地盤傾斜計測装置及び地盤傾斜計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 7/06 20060101AFI20231121BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20231121BHJP
   G01C 9/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
G01C7/06
G01C15/00 104B
G01C9/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080019
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】濁川 直寛
(72)【発明者】
【氏名】浅香 美治
(57)【要約】
【課題】地盤の真の変形計測を精度よく低コストかつ省スペースで実現できる。
【解決手段】山留壁10の被計測箇所に設けられるガイド管2と、ガイド管2内で管軸方向に沿って一定速度で移動可能に設けられる移動体3と、を備え、移動体3には、傾斜角度を計測するMEMS式の傾斜計4と、移動体3の移動速度を計測する回転数検出計5と、を備え、傾斜角度及び移動速度は、移動体3の移動とともに連続的に計測され、ガイド管2は、金属製の部材からなり、移動体3は、ガイド管2の内面2aに対して磁力で接触する磁石タイヤ32を備える構成の地盤傾斜計測装置を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の傾斜角度を計測する地盤傾斜計測装置であって、
前記地盤の被計測箇所に設けられるガイド管と、
前記ガイド管内で管軸方向に沿って一定速度で移動可能に設けられる移動体と、を備え、
前記移動体には、
前記傾斜角度を計測するMEMS式の傾斜計と、
前記移動体の移動速度を計測する移動速度計と、を備え、
前記傾斜角度及び前記移動速度は、前記移動体の移動とともに連続的に計測されることを特徴とする地盤傾斜計測装置。
【請求項2】
前記ガイド管は、金属製の部材からなり、
前記移動体は、前記ガイド管の内面に対して磁力で接触する回転走行部を備える請求項1に記載の地盤傾斜計測装置。
【請求項3】
前記移動体は、外側に向けて押圧して前記ガイド管の内面から反力を得る反力部を備える請求項1又は2に記載の地盤傾斜計測装置。
【請求項4】
前記傾斜計は、MEMS式である請求項1又は2に記載の地盤傾斜計測装置。
【請求項5】
前記ガイド管の管内には、液体が充填されている請求項1又は2に記載の地盤傾斜計測装置。
【請求項6】
前記ガイド管は、金属製の部材からなり、
前記ガイド管の開口端部には、電極が接続され、
前記移動体は、前記電極に通電された電気が前記ガイド管を通じて給電されるバッテリーを備える請求項1又は2に記載の地盤傾斜計測装置。
【請求項7】
前記ガイド管の内面には、管軸方向に沿って目盛りが表示され、
前記移動体には、前記目盛りを撮影する撮影部が設けられている請求項1又は2に記載の地盤傾斜計測装置。
【請求項8】
前記ガイド管の内面の所定位置には、前記ガイド管の位置情報を組み込んだICチップが設けられ、
前記移動体は、前記ICチップに組み込まれた前記位置情報を読み取る読取部を備える請求項1又は2に記載の地盤傾斜計測装置。
【請求項9】
地盤の傾斜角度を計測する地盤傾斜計測方法であって、
前記地盤の被計測箇所にガイド管を設置する工程と、
前記傾斜角度を計測する傾斜計と、前記傾斜計の移動速度を計測する移動速度計と、を備えた移動体を前記ガイド管内に挿入する工程と、
前記移動体を前記ガイド管の管軸方向に沿って一定速度で移動させ、前記傾斜角度及び前記移動速度を前記移動体の移動とともに連続的に計測する工程と、
を有することを特徴とする地盤傾斜計測方法。
【請求項10】
前記地盤は、山留壁であり、
前記ガイド管は、前記山留壁の外壁面に沿って設けられている請求項9に記載の地盤傾斜計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤傾斜計測装置及び地盤傾斜計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、山留壁等の地盤の変形状態を把握する際には、多段式傾斜計(例えば、特許文献1参照)や挿入式傾斜計を用いて山留壁の深さ方向の変位量計測を行うことが知られている。
【0003】
多段式傾斜計による計測する場合は、地盤内にボーリング孔を設け、複数の傾斜計を孔内における例えば2m毎の計測深さに設置して変形量を計測する。計測深さは定位置となることから、測点間の変形は一般的には線形補完によって推定される。
挿入式傾斜計は、ガイド管に計器を自動または手動で挿入して変形量を計測し、例えば1m程度の任意の間隔ごとに計測される。また、自動の挿入式傾斜計を使用した傾斜測定装置が知られている(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-139348号公報
【特許文献2】特開2020-8313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の多段式傾斜計による計測方法では、測点間に変曲点がある山留壁の真の変形を精度良く計測することが困難である。そのため、従来技術によって山留壁の変形を連続的に捉える場合には、計器の配置間隔を密にせざるを得ない。すなわち、多段式傾斜計を計測箇所に応じて複数設ける必要があることから、傾斜計にかかるコストが増大するという問題があった。
【0006】
また、挿入式傾斜計による計測方法では、所定深さでの計測を繰返して山留壁全体の変形分布を描画するため、多段式傾斜計と同様に計測誤差の課題を有する。手動の挿入式傾斜計の場合は、測線数に応じて計測にかかるコストが増大し、さらに計測者に依存した計測誤差が発生するおそれがある。
一方で、特許文献2に記載されるような傾斜測定装置では、例えば幅40cm、高さ1500mm程度の大きなケース内に挿入式傾斜計等の測定機器を収容する装置であるので、装置自体の大きさが現場内に装置を静置できるヤードを確保する必要があるという問題があり、その点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、山留壁の真の変形計測を精度よく低コストかつ省スペースで実現できる地盤傾斜計測装置及び地盤傾斜計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る地盤傾斜計測装置は、地盤の傾斜角度を計測する地盤傾斜計測装置であって、前記地盤の被計測箇所に設けられるガイド管と、前記ガイド管内で管軸方向に沿って一定速度で移動可能に設けられる移動体と、を備え、前記移動体には、前記傾斜角度を計測するMEMS式の傾斜計と、前記移動体の移動速度を計測する移動速度計と、を備え、前記傾斜角度及び前記移動速度は、前記移動体の移動とともに連続的に計測されることを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る地盤傾斜計測方法は、地盤の傾斜角度を計測する地盤傾斜計測方法であって、前記地盤の被計測箇所にガイド管を設置する工程と、前記傾斜角度を計測する傾斜計と、前記傾斜計の移動速度を計測する移動速度計と、を備えた移動体を前記ガイド管内に挿入する工程と、前記移動体を前記ガイド管の管軸方向に沿って一定速度で移動させ、前記傾斜角度及び前記移動速度を前記移動体の移動とともに連続的に計測する工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明では、ガイド管内で移動体を移動させながら移動体に設けた傾斜計によって、地盤に設けたガイド管の傾斜角度を連続的に計測しつつ、移動速度計で移動体の移動速度を計測してその移動速度を一定速度にして計測することができる。これにより、断続的ではなく連続的な高精度な計測データを取得でき、地盤の被計測箇所における真の変形分布を得ることができる。
また、本発明では、傾斜計を備えた移動体をガイド管内で移動させて傾斜角度を計測するため、従来のように傾斜計を計測箇所に応じて複数設ける必要がなく、装置のコストを低減することができる。
さらに本発明では、鋼管などの小径のガイド管内に挿入可能な移動体に傾斜計や、移動体を駆動するための駆動部を備えた寸法で小型化することができ、現場の省スペース化を図ることができる。
【0011】
また、本発明に係る地盤傾斜計測装置は、前記ガイド管は、金属製の部材からなり、前記移動体は、前記ガイド管の内面に対して磁力で接触する回転走行部を備えることが好ましい。
【0012】
本発明では、回転走行部が磁力によって金属製のガイド管の内面に接触した状態を維持しながら転動して移動体をガイド管に沿って移動させることができる。そのため、ガイド管が下向きに急傾斜となっている場合であっても、移動体のガイド管内での落下を抑制することができる。
【0013】
また、本発明に係る地盤傾斜計測装置は、前記移動体は、外側に向けて押圧して前記ガイド管の内面から反力を得る反力部を備えてもよい。
【0014】
本発明では、移動体に設けられる反力部がガイド管の内面を押圧して反力が付与された状態を維持しながら移動体を移動させることができるので、移動体がガイド管内で落下することを抑制することができる。
【0015】
また、本発明に係る地盤傾斜計測装置は、前記傾斜計は、MEMS式であることが好ましい。
【0016】
この場合には、小型のMEMS式の傾斜計を使用することで、移動体をより小型化することができ、コストを低減することができる。
【0017】
また、本発明に係る地盤傾斜計測装置は、前記ガイド管の管内には、液体が充填されていてもよい。
【0018】
本発明では、ガイド管内に液体を充填し、傾斜計を備えた移動体の見かけの密度を液体の密度より大きくすることができ、移動体の急な落下を防止することができる。
【0019】
また、本発明に係る地盤傾斜計測装置は、前記ガイド管は、金属製の部材からなり、前記ガイド管の開口端部には、電極が接続され、前記移動体は、前記電極に通電された電気が前記ガイド管を通じて給電されるバッテリーを備えていてもよい。
【0020】
本発明では、移動体の駆動や傾斜計などの電気をバッテリーから給電することができる。移動体に搭載されるバッテリーは、ガイド管における移動体の位置に関わらず、金属製のガイド管を介してガイド管の開口端部に接続される電極を通じて給電される。そのため、バッテリーには、給電用の電線を配線する必要がなく、移動体の移動時における使い勝手を良好にできる。
【0021】
また、本発明に係る地盤傾斜計測装置は、前記ガイド管の内面には、管軸方向に沿って目盛りが表示され、前記移動体には、前記目盛りを撮影する撮影部が設けられていてもよい。
【0022】
本発明では、移動体の移動とともに移動体の撮影部でガイド管の内面の目盛りを撮影し、認識することで、移動体、すなわち傾斜計の自己位置および移動速度を把握することがきでる。これにより移動制御にフィードバックすることで傾斜計の等速度運動を維持したり、補正することができ、傾斜計の計測精度をより高めることができる。
【0023】
また、本発明に係る地盤傾斜計測装置は、前記ガイド管の内面の所定位置には、前記ガイド管の位置情報を組み込んだICチップが設けられ、前記移動体は、前記ICチップに組み込まれた前記位置情報を読み取る読取部を備えていてもよい。
【0024】
本発明では、傾斜計は等速度運動するように制御するが、繰返し計測に伴う自己位置のずれを補正することができる。
【0025】
また、本発明に係る地盤傾斜計測方法は、前記地盤は、山留壁であり、前記ガイド管は、前記山留壁の外壁面に沿って設けられていてもよい。
【0026】
本発明では、上述した地盤傾斜計測装置を使用し、予め山留壁の外壁面に沿ってガイド管を設置し、適度な頻度でガイド管の傾斜角度を計測することで、山留壁の変位状態を精度よく把握することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の地盤傾斜計測装置及び地盤傾斜計測方法によれば、山留壁の真の変形計測を精度よく低コストかつ省スペースで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態による地盤傾斜計測装置の構成を示す縦断面図である。
図2】地盤傾斜計測装置の移動体の構成を示す側面図である。
図3】地盤傾斜計測装置による計測結果を示す図である。
図4】変形例による地盤傾斜計測装置の構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態による地盤傾斜計測装置及び地盤傾斜計測方法について、図面に基づいて説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の地盤傾斜計測装置1は、地盤の傾斜角度を計測するための装置である。本実施形態は、山留壁10(地盤)における傾斜角度の計測に適用され、山留壁10の変位を確認する一例を示している。山留壁10は、地山の壁面にコンクリートを吹き付け又は打設することにより施工されている。このように本発明の地盤は、コンクリート製の山留壁等の地盤の表面に施工されたコンクリート構造体も含む。
【0031】
地盤傾斜計測装置1は、山留壁10の外壁面あるいは地盤内に設けられ、山留壁10の傾斜方向に向けて延在するガイド管2と、ガイド管2内で管軸方向に沿って一定速度で移動可能に設けられた移動体3と、移動体3に設けられたMEMS式の傾斜計4と、移動体3に設けられ、移動体3の移動速度を計測する回転数検出計5(移動速度計)と、を備える。
図1において、符号Oは鉛直基線を示し、符号θは鉛直基線Oに対する傾斜角度を示している。傾斜計4では、傾斜角度θが計測される。
【0032】
ガイド管2は、例えば直径**mm程度の円形断面の鋼管が採用される。ガイド管2は、例えば長さ3mmの単体を複数直列に接続して、山留壁10の外壁面に沿って設けられている。ガイド管2の内面2aは、凹凸が無く滑らかな曲面をなし、内面全体にわたって鋼材が露出している。
【0033】
ガイド管2の一方の開口端部2bには、電極21が接続されている。電極21が通電されると、この電極21から金属製のガイド管2を通じて移動体3に収容される後述するバッテリー34が給電される。
【0034】
また、ガイド管2の内面2aには、管軸方向に沿って所定間隔をあけて表示される目盛り(図示省略)が設けられている。本実施形態では、傾斜計4を備えた移動体3が移動しながらガイド管2内の目盛りを移動体3の撮影部38(後述する)で撮影・認識することで自己位置及び移動速度を認識して、移動体3の移動速度の制御にフィードバックすることで傾斜計4の等速度運動を維持・補正する機能を有する。
【0035】
さらに、ガイド管2の内面2aの所定位置には、ガイド管2の位置情報を組み込んだICチップ22が設けられている。ICチップ22は、例えばガイド管2内の所定深度に設置され、傾斜計4を備えた移動体3がICチップ22を読み取り可能な位置に移動したときに、移動体3に対して位置情報を付与、あるいは移動距離をリセットするためのスイッチ機能をもたせることができる。これにより、移動体3は等速度運動するように制御する際の、繰返し計測に伴う自己位置のずれを解消できる。
【0036】
図2に示すように、移動体3は、例えば鋼鈑等の金属部材からなる薄厚で箱状の筐体からなる筐体31を備える。筐体31は、一方向に延在し、その長手方向に直交する方向に対向する第1面3a(図2で紙面上側の面)と第2面3b(図2で紙面下側の面)とを有する。第1面3aと第2面3bは平行であるが、必ずしも平行であることに限定されない。移動体3は、長手方向をガイド管2の管軸方向に平行にしてガイド管2内に挿入される。移動体3は、筐体31に後述する磁石タイヤ32及び押さえ板33を一体で設けた状態で、ガイド管2内を移動可能に設けられている。筐体31の延在方向中央部は、中空で密閉され、防水機能を有する収容部31aを備えている。収容部31aには、傾斜計4、バッテリー34、記憶部35、及び走行駆動部36等が収容される。
ここで、筐体31において、長手方向に直交し、第1面3a及び第2面3bに平行となる方向を幅方向とする。
【0037】
バッテリー34は、移動体3の収容部31aに収容される傾斜計4、回転数検出計5、及び後述する磁石タイヤ32を駆動する走行駆動部36に電気的に接続される。図1に示すように、移動体3に対する給電は、ガイド管2に接続される電極21により行われる。すなわち、ガイド管2の開口端部2b付近に設置される電極21に通電され、この電極21から金属製のガイド管2を通じてバッテリー34が給電される。
【0038】
図2に示すように、収容部31aには、傾斜計4及びバッテリー34の他に計測データを蓄積する記憶機能を有する記憶部35と、ガイド管2内で移動体3を移動させるための走行駆動部36と、が配置されている。走行駆動部36は、例えば駆動モータであって、この駆動モータの回転数が不図示の制御部により任意に制御される。
傾斜計4及び回転数検出計5で計測したデータは、移動体3に蓄積してもよいし、移動体3から無線又は有線によりリアルタイムで外部に設置されるPC等の機器に接続して送信するようにしてもよい。
【0039】
傾斜計4は、物体の重力に対する傾きを計測するMEMS式の微小な加速度計が用いられる。傾斜計4は、計測対象によって適切な分解能を有するものを選定することが好ましい。傾斜計4は、収容部31aに固定されるMEMS基板、つまりプリント基板上に配置されている。傾斜計4は、バッテリー34で駆動する。地盤傾斜計測装置1の移動体3が傾斜すると、移動体3の傾斜角度に応じて収容部31aに固定されている傾斜計4も傾斜し、この傾斜計4によって計測される重力加速度が変化することを利用して傾斜角度θが計測される。
【0040】
傾斜計4は、等速度運動(計測値が重力加速度の成分のみ)となるようにガイド管2内での移動速度を制御しながら、連続的に加速度データを取得する。得られた加速度データに対して、従来と同じく加速度から傾斜、および傾斜から変位への換算によって山留壁10の変位が間接的に求められる。本実施形態では、傾斜計4を等速度で駆動させるため、後述するような筐体31の外側に車輪(磁石タイヤ32)を取り付けて回転数を制御する構造を採用している。
【0041】
移動体3には、ガイド管2の内面2aに対して磁力で接触する複数(ここでは4つ)の磁石タイヤ32(回転走行部)と、外側に向けて押圧してガイド管2の内面2aから反力を得る押さえ板33(反力部)と、を有している。
【0042】
磁石タイヤ32は、筐体31の長手方向の一端側と他端側において、それぞれ幅方向両側に一対で設けられている。磁石タイヤ32は、筐体31の側面において第2面3b寄りの位置で回転可能に支持されている。磁石タイヤ32は、磁力でガイド管2の内面2aに接触した状態を維持しながら、内面2aに沿って転動する。4つの磁石タイヤ32のうち、少なくとも1つに回転数検出計5が設けられている。
【0043】
回転数検出計5としては、周知のエンコーダ等を使用できる。移動体3は、回転数検出計5で検出した磁石タイヤ32の回転数から移動速度が計測され、移動速度が一定となるように磁石タイヤ32の駆動、すなわち回転数が制御されるようになっている。
傾斜計4及び回転数検出計5の計測データは、移動体3の移動とともに連続的に取得される。
【0044】
押さえ板33は、本実施形態では板ばねが採用されている。押さえ板33は、断面視してガイド管2に対する移動体3の位置を一定に保持する。押さえ板33は、ばね本体部331と、ばね本体部331の外周側に位置する取付部332と、を有する。取付部332は、筐体31の第1面3aに固定されている。ばね本体部331は、第1面3aから離間するように設けられる。すなわち、筐体31の外側に移動体3のガイド管2内の移動を妨げない程度の剛性を付与することで、ガイド管2内での移動体3の落下を防止できる構造となっている。
【0045】
また、移動体3には、ガイド管2の内面2aに表示された目盛りを撮影するためのカメラ等の撮影部38が設けられている。移動体3における撮影部38の位置は任意に設定できるが、例えば移動体3の移動方向の両端部に設けられる。撮影部38で撮影された画像データは、無線または有線によってガイド管2の外方の画像処理部(図示省略)に送信され、移動体3の位置情報としてデータが蓄積され、あるいは移動体3にフィードバックして移動速度等を制御する。
【0046】
さらに、移動体3には、ガイド管2の内面2aに設けられたICチップ22に組み込まれた位置情報を読み取るリーダー等の読取部37を備える。移動体3における読取部37の位置は任意に設定できるが、例えば移動体3の移動方向の両端部に設けられる。読取部37で読み取られたデータは、無線または有線によってガイド管2の外方の制御部(図示省略)に送信され、移動体3の位置情報としてデータが蓄積され、あるいは移動体3にフィードバックして移動速度等を制御したり、移動体3の停止位置を決めることができる。
なお、読取部37のICチップ22の読取り機能と、上述した撮影部38の撮影機能との両機能を備えた検出部であってもかまわない。
【0047】
次に、上述した地盤傾斜計測装置1を使用して地盤の傾斜角度を計測する地盤傾斜計測方法について、図面に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2に示すように、地盤傾斜計測方法は、先ず、山留壁10の外壁面に沿って被計測箇所にガイド管2を設置する。ガイド管2は、例えば2~3mの複数本の鋼管を直列に繋いで世知される。ガイド管2は、山留壁10の外壁面の外側、あるいは地盤内であってもよい。地盤中にガイド管2を設ける際には、ボーリング孔にガイド管2を挿入、圧入することで設置する。
【0048】
次に、傾斜角度を計測するMEMS式の傾斜計4と、移動速度を計測する回転数検出計5と、を備えた移動体3をガイド管2内に挿入する。
その後、移動体3をガイド管2の管軸方向に沿って一定速度で移動させ、傾斜角度及び移動速度を移動体の移動とともに連続的に計測する。
【0049】
なお、地盤傾斜計測毎に移動体3をガイド管2内で往復移動させて計測することが好ましい。この場合、復路の際には傾斜計4を180度回転させて2度の計測を行うことによって、傾斜計4の原点移動による誤差を除去し、傾斜角度を正確に計測することが可能となる。
【0050】
図3は、実際の山留壁10の壁面10aの傾斜線形(真の変形P0)に対して、従来の装置を使用して地盤傾斜計測を行ったケース(CASE1)の第1計測線形P1と、本実施形態の地盤傾斜計測装置1を使用して地盤傾斜計測を行ったケース(CASE2)の第2計測線形P2と、を示している。
従来のCASE1の第1計測線形P1は、例えば2m間隔の測点による測定結果となるので、真の変形P0に対する測定誤差がCASE2の第2計測線形P2よりも大きくなる。一方、実施形態による第2計測線形P2では、ガイド管2に対して連続的に傾斜角度を計測できるので、真の変形P0に対する測定誤差が小さく、真の変形P0に近似した精度で計測できる。
【0051】
次に、上述した地盤傾斜計測装置1及び地盤傾斜計測方法の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態による地盤傾斜計測装置1では、ガイド管2内で移動体3を移動させながら移動体3に設けた傾斜計4によってガイド管2の傾斜角度θを連続的に計測しつつ、回転数検出計5で移動体3の移動速度を計測してその移動速度を一定速度にして計測することができる。これにより、断続的ではなく連続的な高精度な計測データを取得でき、山留壁10の被計測箇所における真の変形分布を得ることができる。
【0052】
また、本実施形態では、傾斜計4を備えた移動体3をガイド管2内で移動させて傾斜角度θを計測するため、従来のように傾斜計を計測箇所に応じて複数設ける必要がなく、装置のコストを低減することができる。
さらに本実施形態では、鋼管などの小径のガイド管2内に挿入可能な移動体3に傾斜計4や、移動体3を駆動するための走行駆動部36を備えた寸法で小型化することができ、現場の省スペース化を図ることができる。
【0053】
また、本実施形態では、ガイド管2は、金属製の部材からなる。移動体3は、ガイド管2の内面2aに対して磁力で接触する磁石タイヤ32を備える。これにより、磁石タイヤ32が磁力によって金属製のガイド管2の内面2aに接触した状態を維持しながら転動して移動体3をガイド管2に沿って移動させることができる。そのため、ガイド管2が下向きに急傾斜となっている場合であっても、移動体3のガイド管2内での落下を抑制することができる。
【0054】
さらに、本実施形態では、移動体3は、外側に向けて押圧してガイド管2の内面2aから反力を得る押さえ板33を備える。このような構成とすることにより、移動体3に設けられる押さえ板33がガイド管2の内面2aを押圧して反力が付与された状態を維持しながら移動体3を移動させることができるので、移動体3がガイド管2内で落下することを抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態では、小型のMEMS式の傾斜計4を使用することで、移動体3をより小型化することができ、コストを低減することができる。
【0056】
また、本実施形態では、ガイド管2は、金属製の部材からなる。ガイド管2の開口端部2bには、電極21が接続されている。移動体3は、電極21に通電された電気がガイド管2を通じて給電されるバッテリー34を備える。これにより、移動体3の駆動や傾斜計4などの電気をバッテリー34から給電することができる。移動体3に搭載されるバッテリー34は、ガイド管2における移動体3の位置に関わらず、金属製のガイド管2を介してガイド管2の開口端部2bに接続される電極21を通じて給電される。そのため、バッテリー34には、給電用の電線を配線する必要がなく、移動体3の移動時における使い勝手を良好にできる。
【0057】
また、本実施形態による地盤傾斜計測装置1では、ガイド管2の内面2aには、管軸方向に沿って目盛りが表示されている。移動体3には、目盛りを撮影する撮影部38が設けられている。このような構成とすることにより、移動体3の移動とともに移動体3の撮影部38でガイド管2の内面2aの目盛りを撮影し、認識することで、移動体3、すなわち傾斜計4の自己位置および移動速度を把握することがきでる。これにより移動制御にフィードバックすることで傾斜計4の等速度運動を維持したり、補正することができ、傾斜計4の計測精度をより高めることができる。
【0058】
また、本実施形態による地盤傾斜計測装置1では、ガイド管2の内面2aの所定位置には、ガイド管2の位置情報を組み込んだICチップ22が設けられ、移動体3は、前記ICチップ22に組み込まれた位置情報を読み取る読取部37を備える。このような構成とすることにより、傾斜計4は等速度運動するように制御するが、繰返し計測に伴う自己位置のずれを補正することができる。
【0059】
さらにまた本実施形態では、地盤が山留壁10であり、ガイド管2が山留壁10の外壁面に沿って設けられている。そのため、地盤傾斜計測装置1を使用し、予め山留壁10の外壁面に沿ってガイド管2を設置し、適度な頻度でガイド管2の傾斜角度θを計測することで、山留壁10の変位状態を精度よく把握することができる。
【0060】
上述のように本実施形態による地盤傾斜計測装置1及び地盤傾斜計測方法では、山留壁10の真の変形計測を精度よく低コストかつ省スペースで実現できる。
【0061】
以上、本発明による地盤傾斜計測装置及び地盤傾斜計測方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0062】
例えば、上述した実施形態では、地盤傾斜計測装置1及び地盤傾斜計測方法の適用地盤として山留壁10を一例としているが、山留壁10であることに限定されることはない。例えば、盛土の地盤やトンネル施工時のトンネル天板部や側壁部の地盤等に本発明の地盤傾斜計測装置及び地盤傾斜計測方法を適用してもよい。
【0063】
また、地盤傾斜計測装置において、図4に示す変形例のように、ガイド管2の管内に例えば水などの液体6を充填してもよい。この場合には、ガイド管2内に液体6を充填し、傾斜計4を備えた移動体3の見かけの密度を液体6の密度より大きくすることができ、移動体3の急な落下を防止することができる。
【0064】
また、本実施形態では、金属製のガイド管2の内面2aに対して磁力で接触する磁石タイヤ32を回転走行部としているが、磁石タイヤ32であることに限定されることはない。要は、移動体3が一定速度でガイド管2内を移動できる機構、例えば上述した押さえ板33等によって移動体の落下を防止できる機構のみとし、磁力を有しないタイヤを回転走行部としてもよい。あるいは、回転による走行部に限定されることもない。
【0065】
また、本実施形態では、外側に向けて押圧してガイド管の内面から反力を得る押さえ板33を反力部として移動体3に設けた構成としているが、このような反力部を省略することも可能である。また、反力部として上述したように板バネからなる押さえ板33に限定されることはなく、例えばスプリングばねや弾性を有するゴム部材などの弾性部材を採用することも可能である。
【0066】
さらに、本実施形態では、傾斜計4がMEMS式のものを採用しているが、これに限定されることはない。要は、鋼管などの比較的小径なガイド管2内を移動可能な移動体3に搭載可能な大きさの傾斜計であればよいのである。
【0067】
さらにまた、本実施形態では、移動体3に備えバッテリー34に対して、ガイド管2の開口端部2bに接続される電極21に通電された電気がガイド管2を通じて給電される構成としているが、このようなバッテリー34に対する給電方法であることに限定されることはない。例えば、電極21は省略することも可能であり、ガイド管2の外部からバッテリー34に接続される電線によりバッテリー34に給電する方法であってもよいし、計測に十分な充電量を備えたバッテリーであれば、給電は不要である。
【0068】
また、上述した実施形態では、ガイド管2の内面に管軸方向に沿う目盛りが表示され、その目盛りを撮影する撮影部38が移動体3に設けられた構成であるが、これら目盛りや撮影部38を省略することも可能である。
【0069】
さらに、上述した実施形態では、ガイド管2の内面2aの所定位置にガイド管2の位置情報を組み込んだICチップ22を設け、ICチップ22に組み込まれた位置情報を読み取る読取部37を移動体3に備えた構成としているが、これらICチップ22や読取部37を省略することも可能である。
【0070】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 地盤傾斜計測装置
10 山留壁(地盤)
2 ガイド管
2a 内面
2b 開口端部
3 移動体
22 ICチップ
31 筐体
31a 収容部
32 磁石タイヤ(回転走行部)
33 押さえ板(反力部)
34 バッテリー
35 記憶部
36 走行駆動部
37 読取部
38 撮影部
4 傾斜計
5 回転数検出計(移動速度計)
6 液体
図1
図2
図3
図4