(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168780
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】液晶ポリマー微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/16 20060101AFI20231121BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20231121BHJP
C08L 67/03 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C08J3/16 CFD
C08L77/00
C08L67/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080091
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】石津 忍
(72)【発明者】
【氏名】木原 正博
(72)【発明者】
【氏名】北林 賢一
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA48
4F070AA54
4F070AB11
4F070AB15
4F070AC36
4F070AC37
4F070AC90
4F070AE14
4F070AE28
4F070DA33
4F070DA60
4F070DC07
4F070DC09
4F070DC13
4J002CF16X
4J002CL01W
4J002CL03W
4J002CL04W
4J002FA08X
4J002GH00
4J002GH01
4J002GM00
4J002HA08
(57)【要約】
【課題】本発明は、表面状態が滑らかで球状かつ粒径の小さい液晶ポリマー微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ポリアミド樹脂100質量部および液晶ポリマー0.1~150質量部を含む樹脂組成物を、溶媒と混合して該樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂を溶解させて、ポリアミド樹脂溶液中の液晶ポリマー微粒子分散液を得る工程、および該分散液からポリアミド樹脂溶液を除去する工程を含む、平均粒子径0.01~100μmの液晶ポリマー微粒子の製造方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂100質量部および液晶ポリマー0.1~150質量部を含む樹脂組成物を、溶媒と混合して該樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂を溶解させて、ポリアミド樹脂溶液中の液晶ポリマー微粒子分散液を得る工程、および
該分散液からポリアミド樹脂溶液を除去する工程、
を含む、平均粒子径0.01~100μmの液晶ポリマー微粒子の製造方法。
【請求項2】
ポリアミド樹脂は、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミド46、ポリアミドMXD6および重合脂肪酸ポリアミドからなる群から選択される一種以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液晶ポリマーは、式[I]および式[II]
【化1】
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
液晶ポリマーは、式[I]~式[IV]
【化2】
[式中、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、液晶ポリマー中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.5≦p/q、
5≦r≦35、および
5≦s≦35]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
式[III]および/または式[IV]は、Ar
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)
【化3】
からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリマーである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
液晶ポリマーの結晶融解温度は170~250℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
樹脂組成物はポリアミド樹脂と液晶ポリマーとを含む溶融混練物である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
溶媒は、p-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、フェノール、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびメチルエチルケトンからなる群から選択される一種以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
樹脂組成物と混合する溶媒の量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して100~5000質量部である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
平均粒子径が0.01~100μmであり、平均球形度が1.8以下である液晶ポリマー微粒子。
【請求項11】
平均粒子径が0.01~100μmであり、平均球形度が1.8以下である液晶ポリマー微粒子が溶媒中に分散してなる、液晶ポリマー微粒子分散液。
【請求項12】
ポリアミド樹脂100質量部および液晶ポリマー0.1~150質量部を含有し、ポリアミド樹脂が溶媒中に溶解し、かつ平均粒子径が0.01~100μmであり、平均球形度が1.8以下である液晶ポリマー微粒子がポリアミド樹脂溶液中に分散してなる、液晶ポリマー微粒子分散液。
【請求項13】
溶媒は、p-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、フェノール、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびメチルエチルケトンからなる群から選択される一種以上を含む、請求項11または12に記載の分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマー微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の微粒子や粉末は、コーティング用粉体材料、成形体製造用粉体材料、添加剤等の種々の用途に用いられている。液晶ポリマーは、高剛性及び高弾性を有するとともに、耐熱性、耐衝撃性、耐薬品性、及びガスバリア性等に優れているため、その微粒子や粉末は、耐熱性や機械強度等が求められる分野におけるコーティング材料、成形体製造用粉体材料、及び、添加剤等への応用が期待されている。
【0003】
液晶ポリマーの粒子は一般に、固体の液晶ポリマーを粉砕することによって製造される。例えば、特許文献1には、流動開始温度が200℃以上270℃以下の液晶ポリエステルを粉砕して得られ、平均粒径が0.5~50μmであることを特徴とするマイクロパウダーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液晶ポリマーは分子が長軸方向に沿って高度に分子配向する特徴を有しているため、粉砕機で機械的に粉砕した場合は、液晶ポリマーがフィブリル状または繊維状となりやすく、球状の粒子が得られなかった。
【0006】
本発明の目的は、表面状態が滑らかで球状かつ粒径の小さい液晶ポリマー微粒子の製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は生産性が向上した液晶ポリマー微粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂100質量部および液晶ポリマー0.1~150質量部を含有する樹脂組成物を、ポリアミド樹脂可溶性溶媒でポリアミド樹脂を溶解させることにより、球状かつ粒径の小さい液晶ポリマー微粒子を効率よく得ることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕ポリアミド樹脂100質量部および液晶ポリマー0.1~150質量部を含む樹脂組成物を、溶媒と混合して該樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂を溶解させて、ポリアミド樹脂溶液中の液晶ポリマー微粒子分散液を得る工程、および
該分散液からポリアミド樹脂溶液を除去する工程、
を含む、平均粒子径0.01~100μmの液晶ポリマー微粒子の製造方法。
〔2〕ポリアミド樹脂は、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミド46、ポリアミドMXD6および重合脂肪酸ポリアミドからなる群から選択される一種以上を含む、〔1〕に記載の方法。
〔3〕液晶ポリマーは、式[I]および式[II]
【化1】
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリマーである、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕液晶ポリマーは、式[I]~式[IV]
【化2】
[式中、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、液晶ポリマー中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.5≦p/q、
5≦r≦35、および
5≦s≦35]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリマーである、〔1〕~〔3〕の何れかに記載の方法。
〔5〕式[III]および/または式[IV]は、Ar
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)
【化3】
からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリマーである、〔4〕に記載の方法。
〔6〕液晶ポリマーの結晶融解温度は170~250℃である、〔1〕~〔5〕の何れかに記載の方法。
〔7〕樹脂組成物はポリアミド樹脂と液晶ポリマーとを含む溶融混練物である、〔1〕~〔6〕の何れかに記載の方法。
〔8〕溶媒は、p-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、フェノール、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびメチルエチルケトンからなる群から選択される一種以上を含む、〔1〕~〔7〕の何れかに記載の方法。
〔9〕樹脂組成物と混合する溶媒の量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して100~5000質量部である、〔1〕~〔8〕の何れかに記載の方法。
〔10〕平均粒子径が0.01~100μmであり、平均球形度が1.8以下である液晶ポリマー微粒子。
〔11〕平均粒子径が0.01~100μmであり、平均球形度が1.8以下である液晶ポリマー微粒子が溶媒中に分散してなる、液晶ポリマー微粒子分散液。
〔12〕ポリアミド樹脂100質量部および液晶ポリマー0.1~150質量部を含有し、ポリアミド樹脂が溶媒中に溶解し、かつ平均粒子径0.01~100μmであり、平均球形度が1.8以下である液晶ポリマー微粒子がポリアミド樹脂溶液中に分散してなる、液晶ポリマー微粒子分散液。
〔13〕溶媒は、p-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、フェノール、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびメチルエチルケトンからなる群から選択される一種以上を含む、〔11〕または〔12〕に記載の分散液。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、球状かつ粒径の小さい液晶ポリマー微粒子を効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られた液晶ポリマー微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図2】比較例2で粉砕させた液晶ポリマーペレット粉砕物のマイクロスコープ写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の液晶ポリマー微粒子の製造方法に使用する樹脂組成物は、ポリアミド樹脂および液晶ポリマーを含んでなる。
【0012】
本発明に使用するポリアミド樹脂は、分子中にアミド結合を有するポリマーであり、α-ピロリドン、α-ピペリドン、ε-カプロラクタム、6-アミノカプロン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、ω-ラウロラクタム等を重合して得られる重合体;ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどのジアミンと、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸とを縮重合して得られる重合体等が挙げられる。
【0013】
本発明に使用するポリアミド樹脂は、分子中のアミド結合の含有量が全モノマーユニット中50モル%超のものであり、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。分子中のアミド結合の含有量が全モノマーユニット中50モル%以下であると、得られる微粒子の形状が球状でない、いびつな形状のものが含まれやすくなる。
【0014】
本発明に使用するポリアミド樹脂の具体例としては、ε-カプロラクタムを重合して得られるポリアミド6、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とを縮重合して得られるポリアミド66、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸とを縮重合して得られるポリアミド610、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸とを縮重合して得られるポリアミド6T、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸とを縮重合して得られるポリアミド6I、ジアミノブタンとアジピン酸とを縮重合して得られるポリアミド46、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを縮重合して得られるポリアミドMXD6、ノナンジアミンとテレフタル酸とを縮重合して得られるポリアミド9T、11-アミノウンデカン酸を重合して得られるポリアミド11、12-アミノドデカン酸あるいはω-ラウロラクタムを重合して得られるポリアミド12等が挙げられる。
【0015】
また、3元系(6-66-610)共重合ポリアミド、4元系(6-66-610-12)共重合ポリアミド、N-アルコキシメチル化ポリアミド、重合脂肪酸ポリアミド、重合脂肪酸ポリアミドブロック共重合体等を使用してもよい。「重合脂肪酸ポリアミド」とは、重合脂肪酸(不飽和脂肪酸の重合体)とジアミンとの縮合体をいい、不飽和脂肪酸の例としては、リノール酸;オレイン酸;リシノール酸;ひまし油、大豆油、亜麻仁油等に含有される不飽和脂肪酸;等が挙げられる。
【0016】
これらのうち、本発明において使用されるポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミド46、ポリアミドMXD6および重合脂肪酸ポリアミドが好ましく、特に、吸湿による物性変化や寸法変化が少ないことから、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46およびポリアミドMXD6が好ましく、また、アルコールに対する溶解性が高いことから重合脂肪酸ポリアミドが好ましい。これらポリアミド樹脂は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
本発明に使用する液晶ポリマーとは、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれる、異方性溶融相を形成する液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミドである。
【0018】
液晶ポリマーの異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージに載せた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0019】
本発明に使用する液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位およびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0020】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸である、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸など、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では4-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が、得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0021】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸が、得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0022】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルが、重合時の反応性、得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0023】
芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位および芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体としては、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよび芳香族アミノカルボン酸などが挙げられる。
【0024】
本発明に使用する液晶ポリマーは本発明の目的を損なわない範囲で、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位やチオエステル結合を含むものであってもよい。チオエステル結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位および芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体などの合計量を含む全体に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0025】
これらの繰り返し単位を組み合わせた共重合体には、単量体の構成や組成比、共重合体中での各繰り返し単位のシークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用する液晶ポリマーは異方性溶融相を形成する共重合体に限られる。
【0026】
本発明に使用する液晶ポリマーは、2種以上の液晶ポリマーをブレンドしたものであってもよい。
【0027】
本発明に使用する液晶ポリマーの示差走査熱量計により測定される結晶融解温度は380℃以下であることが好ましく、より好ましくは350℃以下であり、さらに好ましくは150~300℃であり、特に好ましくは170~250℃である。
【0028】
液晶ポリマーの結晶融解温度が上記温度範囲であることによって、溶媒との混合に供する樹脂組成物中でマトリクスとして好適に存在するポリアミド樹脂に液晶ポリマーが均一に分散しやすくなり、得られる液晶ポリマー微粒子は粒径が小さくかつ均一なものとなる。
【0029】
本発明において、樹脂組成物中に含まれるポリアミド樹脂と液晶ポリマーの結晶融解温度は、その差が100℃以下であることが樹脂組成物中での液晶ポリマーの均一分散の点から好ましく、80℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることがさらに好ましい。
【0030】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「結晶融解温度」とは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解ピーク温度から求めたものである。より具体的には、液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度とする。測定用機器としては、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製Exstar6000等を使用することができる。
【0031】
本発明に使用する液晶ポリマーの溶融粘度(キャピラリーレオメーターで測定、結晶融解温度+40℃、1000s-1)は、1~1000Pa・sが好ましく、5~500Pa・sがより好ましい。
【0032】
溶融粘度が1Pa・s未満であると樹脂組成物中で液晶ポリマーが均一に分散しにくくなる傾向があり、1000Pa・sを超えるとやはり均一に分散しにくくなる傾向がある。
【0033】
本発明に使用する液晶ポリマーとしては、全芳香族液晶ポリマーが好適に使用され、式[I]および式[II]
【化4】
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリマーがより好適に使用される。
【0034】
本発明に使用する液晶ポリマーとしては、式[I]~式[IV]
【化5】
[式中、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、液晶ポリマー中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たすものである:
0.5≦p/q、
5≦r≦35、および
5≦s≦35]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリマーがさらに好適に使用される。
【0035】
本発明の一つの態様において、上記式[I]に係る組成比p(モル%)と式[II]に係る組成比q(モル%)のモル比(p/q)は、0.6~12がより好ましく、0.8~10がさらに好ましい。
【0036】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリマーについて、pとqの合計の組成比は、30~90モル%が好ましく、35~85モル%がより好ましく、40~80モル%がさらに好ましい。
【0037】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリマーについて、式[I]に係る組成比pと式[II]に係る組成比qは、それぞれ、2~60モル%が好ましく、5~55モル%がより好ましい。
【0038】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリマーにおいて、式[I]および式[II]で表される繰り返し単位を、少なくとも上記のモル比(p/q)、および場合により上記のpとqの合計の組成比および/またはpとqのそれぞれの組成比(モル%)で含むことにより、機械物性、耐熱性および成形加工性を適度なレベルに調整した全芳香族液晶ポリマーを好適に得ることができる。
【0039】
本発明の特に好ましい態様において、上記式[I]に係る組成比p(モル%)と式[II]に係る組成比q(モル%)のモル比(p/q)は、0.6~1.8がより好ましく、0.8~1.6がさらに好ましい。
【0040】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリマーについて、pとqの合計の組成比は、50~90モル%が好ましく、60~85モル%がより好ましく、70~82モル%がさらに好ましい。
【0041】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリマーについて、式[I]に係る組成比pと式[II]に係る組成比qは、それぞれ、20~60モル%が好ましく、30~55モル%がより好ましい。
【0042】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリマーにおいて、式[I]および式[II]で表される繰り返し単位を、少なくとも上記のモル比(p/q)、および場合により上記のpとqの合計の組成比および/またはpとqのそれぞれの組成比(モル%)で含むことにより、前記範囲の結晶融解温度を示す全芳香族液晶ポリマーを好適に得ることができる。
【0043】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリマーについて、式[III]に係る組成比rと式[IV]に係る組成比sは、それぞれ、5~35モル%が好ましく、7~33モル%がより好ましく、10~30モル%がさらに好ましい。rとsは、等モル量であるのが好ましい。
【0044】
上記の繰返し単位において、例えばAr1(またはAr2)が2種以上の2価の芳香族基を表すとは、式[III](または[IV])で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリマー中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。この場合、式[III]に係る組成比r(または式[IV]に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0045】
式[I]で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸およびこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0046】
式[II]で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸およびこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0047】
式[III]で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテル、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0048】
式[IV]で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0049】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリマーのなかでも、式[III]および式[IV]で表される繰返し単位に係るAr
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)
【化6】
で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリマーが、さらに好適に使用される。
【0050】
これらの中でも、式[III]で表される繰返し単位としては、式(1)および式(3)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体として、ハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルならびにこれらのエステル形成性誘導体を用いることが、重合時の反応性および得られる全芳香族液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0051】
また、式[IV]で表される繰返し単位としては、式(1)、式(2)および式(4)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体として、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸ならびにこれらのエステル形成性誘導体を用いることが、得られる全芳香族液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0052】
上記の繰返し単位において、例えばAr1(またはAr2)が2種以上の芳香族基を含むとは、式[III](または[IV])で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリマー中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。すなわち、式[III]および/または式[IV]は、Ar1およびAr2が、互いに独立して、式(1)~(4)からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリマーが好ましい。この場合、式[III]に係る組成比r(または式[IV]に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0053】
一つの好ましい態様において、p/qは0.5~2.0であり、sおよびrはそれぞれ5~15であり、式[III]および式[IV]で表される繰返し単位は、式[III]中のAr1および式[IV]中のAr2が、式(1)で表される芳香族基である。
【0054】
また、別の好ましい態様において、p/qは0.5~2.0であり、sおよびrはそれぞれ5~15であり、式[III]および式[IV]で表される繰返し単位は、式[III]中のAr1が式(3)で表される芳香族基であり、[IV]中のAr2が式(2)および式(4)で表される芳香族基である。
【0055】
さらに、別の好ましい態様において、p/qは6~10であり、sおよびrはそれぞれ25~35であり、式[III]および式[IV]で表される繰返し単位は、式[III]中のAr1が式(1)および式(3)で表される芳香族基であり、式[IV]中のAr2が式(1)で表される芳香族基である。
【0056】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリマーにおいて繰返し単位の組成比の合計[p+q+r+s]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0057】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリマーを構成する他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0058】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、例えば、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0059】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の組成比の合計は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0060】
以下、本発明に使用する液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0061】
本発明に使用する液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組合せからなるエステル結合やアミド結合などを形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法を使用することができる。
【0062】
溶融アシドリシス法とは、本発明で使用する液晶ポリマーの製造方法に使用するのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0063】
溶融アシドリシス法において、液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に使用する方法が挙げられる。
【0064】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0065】
また、反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0066】
触媒の具体例としては、例えば、有機スズ化合物(ジブチルスズオキシドなどのジアルキルスズオキシド、ジアリールスズオキシドなど)、二酸化チタン、三酸化アンチモン、有機チタン化合物(アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなど)、カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなど)、ルイス酸(BF3など)、ハロゲン化水素などの気体状酸触媒(HClなど)などが挙げられる。
【0067】
触媒の使用割合は、単量体全量に対して通常1~1000ppm、好ましくは2~100ppmである。
【0068】
このようにして重縮合反応されて得られた液晶ポリマーは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0069】
本発明に使用する樹脂組成物における、液晶ポリマーの含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.1~150質量部であり、好ましくは1~100質量部、より好ましくは5~90質量部、さらに好ましくは10~85質量部、特に好ましくは20~80質量部、最も好ましくは25~75質量部である。
【0070】
液晶ポリマーの含有量が0.1質量部未満であると、得られる液晶ポリマー微粒子の量が少なくなり、150質量部を超えると液晶ポリマー微粒子が得られない。
【0071】
ポリアミド樹脂および液晶ポリマーの相溶性を向上させ、最終的に得られる液晶ポリマー粉末の粒径を制御する目的で、相溶化剤を添加してもよい。相溶化剤を添加する場合、その添加量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0072】
本発明に使用する樹脂組成物は、無機および/または有機充填材、相溶化剤以外の他の添加剤、他の樹脂成分等は含有しないことが好ましい。
【0073】
本発明に使用する樹脂組成物は、ポリアミド樹脂および液晶ポリマー、場合によっては、相溶化剤を混合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶ポリマーの結晶融解温度近傍から結晶融解温度+40℃の温度条件で溶融混練して得ることができる。
【0074】
本発明の液晶ポリマー微粒子の製造方法は、まず溶解工程において、上述したポリアミド樹脂100質量部および液晶ポリマー0.1~150質量部を含む樹脂組成物を、溶媒と混合して樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂を溶解させる(溶解工程)。樹脂組成物の中でポリアミド樹脂を溶媒に溶解させることによって、ポリアミド樹脂溶液を分散媒とする液晶ポリマー微粒子の分散液が得られる。
【0075】
溶解工程で用いる溶媒としては、ポリアミド樹脂を溶解し、かつ、液晶ポリマーを溶解しない溶媒であればよく、例えば、p-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、フェノール、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサノンおよびメチルエチルケトンからなる群から選択される一種以上が挙げられる。これらの中でもポリアミド樹脂への溶解性が高いことからp-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、フェノール、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびメチルエチルケトンからなる群から選択される一種以上を含有するのが好ましく、p-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、トルエン、キシレンおよびメタノールからなる群から選択される一種以上を含有するのがより好ましい。
【0076】
溶媒の使用量は、用いる溶媒の種類によって異なるため特に限定されないが、ポリアミド樹脂が溶解する溶媒量を適宜選択すればよく、例えば、ポリアミド樹脂100質量部に対して溶媒100~5000質量部である。
【0077】
溶解工程における温度は、用いる溶媒の種類および溶媒量によって異なるため特に限定されないが、ポリアミド樹脂が溶解する温度で実施すればよく、例えば20~200℃である。
【0078】
本発明において、ポリアミド樹脂溶液中の液晶ポリマー微粒子分散液は、ついで分散媒の除去工程に供され、ポリアミド樹脂が溶媒中に溶解した溶液を除去する。
【0079】
除去工程は、好適には、液晶ポリマー微粒子の分散液をろ過又は遠心分離等により固液分離することによって行われる。固液分離に際し、適宜溶媒を注いで液晶ポリマー微粒子を洗浄するのが好ましい。固液分離の際に用いる溶媒としては、ポリアミド樹脂の溶解に用いた溶媒と同様のものが好ましい。
【0080】
固液分離によって回収された液晶ポリマー微粒子は、例えば、常圧下において溶媒の沸点以上で加熱乾燥するか、減圧下で乾燥し、溶媒を留去することによって、高純度の液晶ポリマー微粒子を得ることができる。
【0081】
本発明において、液晶ポリマー微粒子とは、液晶ポリマーが平均粒子径0.01~100μmの状態で存在することを意味し、0.05~50μmであることが好ましく、0.1~10μmであることがより好ましく、0.1~5μmであることがさらに好ましい。液晶ポリマーの平均粒子径が上記範囲にあることでコーティング材料、成形体用粉体材料、添加剤等の種々の用途に好適に用いることができる。
【0082】
平均粒子径とは、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置を使用し、粒度分布図から求めたメジアン径(D50)をいう。
【0083】
本発明の液晶ポリマー微粒子の平均球形度(粒子の最長軸と最短軸の比率)は1.8以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましく、1.2以下であることが特に好ましく、1~1.1であることが最も好ましい。
【0084】
好適な実施形態において、本発明は、平均粒子径が0.01~100μmであり、平均球形度が1.8以下である液晶ポリマー微粒子にも関する。
【0085】
本発明の液晶ポリマー微粒子は、平均球形度が1.8以下のものを90%以上含有するのが好ましく、95%以上含有するのがより好ましく、98%以上含有するのがさらに好ましい。
【0086】
平均球形度は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した液晶ポリマー微粒子のSEM画像を観察し、任意に選択した100個以上の液晶ポリマー微粒子の最長軸/最短軸の値の平均値を用いて算出される。
【0087】
本発明において、得られた液晶ポリマー微粒子を再び溶媒に分散させて液晶ポリマー微粒子分散液(溶媒を分散媒とする分散液)としてもよい。すなわち、好適な実施形態において、本発明は、平均粒子径が0.01~100μmであり、平均球形度が1.8以下である液晶ポリマー微粒子が溶媒中に分散してなる、液晶ポリマー微粒子分散液にも関する。
【0088】
また、本発明の別の好適な実施形態において、溶解工程において得られた液晶ポリマー微粒子分散液(ポリアミド樹脂溶液を分散媒とする分散液)をそのまま用いてもよい。すなわち、本発明は、ポリアミド樹脂100質量部および液晶ポリマー0.1~150質量部を含有し、ポリアミド樹脂が溶媒中に溶解し、かつ平均粒子径が0.01~100μmであり、平均球形度が1.8以下である液晶ポリマー微粒子がポリアミド樹脂溶液中に分散してなる、液晶ポリマー微粒子分散液にも関する。
【0089】
上述したような製造方法によって得られた液晶ポリエステル微粒子または液晶ポリマー微粒子分散液は、種々の用途に適用することができる。例えば、静電塗装用の粉体塗料、コーティング材料、絶縁用有機フィラー、摺動材の原料、成形体用粉体材料、添加剤等が挙げられる。
【0090】
液晶ポリマー微粒子分散液の溶媒としては、ポリアミド樹脂を溶解し、かつ、液晶ポリマーを溶解しない溶媒であればよく、例えば、p-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、フェノール、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサノンおよびメチルエチルケトンからなる群から選択される一種以上が挙げられる。これらの中でもポリアミド樹脂への溶解性が高いことからp-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、フェノール、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびメチルエチルケトンからなる群から選択される一種以上を含有するのが好ましく、p-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、トルエン、キシレンおよびメタノールからなる群から選択される一種以上を含有するのがより好ましい。
【0091】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例0092】
実施例における各物性値は以下の方法によって測定した。
【0093】
〈結晶融解温度〉
セイコーインスツルメンツ(株)製の示差走査熱量計(DSC)Exstar6000を用いて測定を行った。液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件下で測定し、吸熱ピーク温度(Tm1)を観測した後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持する。次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度とする。
【0094】
〈平均粒子径〉
マイクロトラック・ベル(株)製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置マイクロトラックMT3000を用いて、メジアン径(D50)を測定した。
【0095】
〈IR〉
日本分光(株)製のフーリエ変換赤外分光光度計FT/IR-4600を用いて確認した。
【0096】
〈SEM〉
(株)日立ハイテク製の走査電子顕微鏡S-4300を用いてSEM画像を撮影した。
【0097】
〈平均球形度〉
液晶ポリマー微粒子のSEM画像を観察し、任意に選択した100個以上の液晶ポリマー微粒子の最長軸/最短軸の値の平均値を用いて算出した。
【0098】
実施例において、下記の略号は以下の化合物を表す。
LCP:液晶ポリマー
POB:4-ヒドロキシ安息香酸
BON6:6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
HQ:ハイドロキノン
BP:4,4-ジヒドロキシビフェニル
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
NDA:2,5-ナフタレンジカルボン酸
【0099】
(ポリアミド樹脂)
ポリアミド樹脂として以下のものを使用した。
ポリアミド6(PA1):ユニチカ株式会社製ユニチカナイロン6「A1030BRL」(結晶融解温度220℃)
ポリアミド66(PA2):ユニチカ株式会社製ユニチカナイロン66「E2000」(結晶融解温度260℃)
重合脂肪酸ポリアミド(PA3):株式会社T&K TOKA製「PA-100A-S」(結晶融解温度136℃)
【0100】
(液晶ポリマー1の合成)
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB、BON6、HQおよびTPAを総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.025倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。窒素ガス雰囲気下に室温から150℃まで1時間かけて昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ210℃まで速やかに昇温し、同温度にて30分間保持した。その後、3時間かけて335℃まで昇温した後、30分かけて20mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリマー1のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られた液晶ポリマー1(LCP1)の結晶融解温度は218℃であった。
POB :276.2g(40モル部)
BON6:376.4g(40モル部)
HQ :55.1g(10モル部)
TPA :83.1g(10モル部)
【0101】
(液晶ポリマー2の合成)
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB、BON6、BP、NDAおよびIPAを下記に示す組成比にて、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。窒素ガス雰囲気下に室温から150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ210℃まで速やかに昇温し、同温度にて30分間保持した。その後、340℃まで4時間かけて昇温した後、80分かけて10mmHgまで減圧を行なった。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリマー2のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られた液晶ポリマー2(LCP2)の結晶融解温度は183℃であった。
POB :386.0g(43モル部)
BON6:403.6g(33モル部)
BP :145.2g(12モル部)
NDA :126.0g(9モル部)
IPA :32.4g(3モル部)
【0102】
(液晶ポリマー3の合成)
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB、BON6、BP、HQおよびTPAを下記に示す組成比にて、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。窒素ガス雰囲気下に室温から150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ350℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて5mmHgまで減圧を行なった。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリマー3のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られた液晶ポリマー3(LCP3)の結晶融解温度は335℃であった。
POB :314.2g(35モル部)
BON6:61.2g(5モル部)
HQ:114.5g(16モル部)
BP :169.4g(14モル部)
TPA :323.9g(30モル部)
【0103】
(樹脂組成物の調製)
ポリアミド樹脂およびLCPを、表1に示す含有量となるように配合して、2軸押出機(日本製鋼(株)製TEX-30)を用いて、表1に示すシリンダー温度で溶融混練して、樹脂組成物のペレットを得た。
【0104】
【0105】
[実施例1]
樹脂組成物1のペレット5.0g、p-クレゾール100.0gを500mLの四ツ口フラスコに加え、攪拌しながら約200℃まで加熱、還流し、白色懸濁液(液晶ポリマー微粒子分散液)を得た。白色懸濁液を遠沈管に入れ、25℃、20000Gで1時間遠心分離を行った。上澄みはほぼ透明になったため、デカンテーションにて上澄みを取り除き、沈殿物を70℃で6時間真空乾燥を行い、液晶ポリマー微粒子1.3gを得た。得られた液晶ポリマー微粒子はIR(赤外分光法)によって液晶ポリマーであることを確認した。得られた液晶ポリマー微粒子の平均粒子径を粒度分布測定装置によって測定した。また、SEM画像から、その平均球形度を測定した。結果を表2に、SEM写真を
図1に示す。
【0106】
[実施例2]
樹脂組成物1を樹脂組成物2に変更した以外は実施例1と同様に実施し、液晶ポリマー微粒子0.6gを得た。得られた液晶ポリマー微粒子の平均粒子径および平均球形度を測定した。結果を表2に示す。
【0107】
[実施例3]
樹脂組成物1を樹脂組成物3に変更した以外は実施例1と同様に実施し、液晶ポリマー微粒子0.8gを得た。得られた液晶ポリマー微粒子の平均粒子径および平均球形度を測定した。結果を表2に示す。
【0108】
[実施例4]
樹脂組成物1を樹脂組成物4に変更した以外は実施例1と同様に実施し、液晶ポリマー微粒子0.8gを得た。得られた液晶ポリマー微粒子の平均粒子径および平均球形度を測定した。結果を表2に示す。
【0109】
[実施例5]
樹脂組成物5のペレット5.0g、メタノール22.5g、トルエン22.5gを300mLの四ツ口フラスコに加え、攪拌しながら約65℃まで加熱、還流し、白色懸濁液(液晶ポリマー微粒子分散液)を得た。白色懸濁液を遠沈管に入れ、25℃、20000Gで1時間遠心分離を行った。上澄みはほぼ透明になったため、デカンテーションにて上澄みを取り除き、沈殿物を70℃で6時間真空乾燥を行い、液晶ポリマー微粒子1.1gを得た。得られた液晶ポリマー微粒子はIR(赤外分光法)によって液晶ポリマーであることを確認した。得られた液晶ポリマー微粒子の平均粒子径を粒度分布測定装置によって測定した。また、SEM画像から、その平均球形度を測定した。
【0110】
[比較例1]
樹脂組成物6のペレット5.0gおよびp-クレゾール100.0gを500mLの四ツ口フラスコに加え、攪拌しながら約200℃まで加熱、1時間還流したが、ペレット形状のままであり、球状の微粒子は得られなかった。
【0111】
[比較例2]
液晶ポリマー1のペレット10.0gを(株)スギノマシン製ドライバーストDB-180Wを用いて回転数8000×8000min
-1で粉砕させたが、繊維状の粉砕物となり、球状の微粒子は得られなかった。マイクロスコープ写真を
図2に示す。
【0112】
【0113】
表2から明らかなように、実施例1~5で得られた液晶ポリマー微粒子は、いずれも球形度が1.8以下であり、球状の微粒子であることが理解される。