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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168785
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】電子部品への熱負荷の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20231121BHJP
   G01N 25/02 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
G01N25/72 Z
G01N25/02 Z
G01N25/72 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080101
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087985
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 宏司
(72)【発明者】
【氏名】星野 悠太
(72)【発明者】
【氏名】大島 知也
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕市
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 美希
(72)【発明者】
【氏名】時枝 康次郎
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB11
2G040BA18
2G040BA25
2G040CA12
2G040CA23
2G040EA02
2G040HA05
(57)【要約】
【課題】電子部品を破壊しないで、電子部品が受けた熱負荷を推定する。
【解決手段】電子部品への熱負荷の測定方法は、素体、及び素体の外表面を覆うガラス膜を備え、ガラス膜を構成する分子が水酸基を有している電子部品を対象とする。電子部品への熱負荷の測定方法は、予備工程S31と、取得工程S32と、推定工程S33と、を備えている。予備工程S31では、熱負荷の変化に対する、ガラス膜の光学的特性に関する特定パラメータの値の対応関係を取得する。取得工程S32では、ガラス膜に光を入射させ、そのときの特定パラメータの値を取得する。推定工程S33では、取得工程S32で取得した特定パラメータの値を予備工程S31で取得した対応関係に当てはめて熱負荷を推定する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素体、及び前記素体の外表面を覆うガラス膜を備え、前記ガラス膜を構成する分子が水酸基を有している電子部品を対象とし、当該電子部品が受けた熱負荷を推定する測定方法であって、
前記熱負荷の変化に対する、前記ガラス膜の光学的特性に関する特定パラメータの値の対応関係を取得する予備工程と、
前記ガラス膜に光を入射させ、そのときの前記特定パラメータの値を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得した前記特定パラメータの値を前記予備工程で取得した前記対応関係に当てはめて前記熱負荷を推定する推定工程と、
を備えている電子部品への熱負荷の測定方法。
【請求項2】
前記特定パラメータは、入射した光に対する前記ガラス膜の反射率である
請求項1に記載の電子部品への熱負荷の測定方法。
【請求項3】
前記特定パラメータは、前記ガラス膜の反射光のXY色度図における色度座標である
請求項1に記載の電子部品への熱負荷の測定方法。
【請求項4】
前記特定パラメータは、前記ガラス膜の屈折率である
請求項1に記載の電子部品への熱負荷の測定方法。
【請求項5】
前記取得工程では、前記電子部品が基板上に取り付けられた状態で、前記特定パラメータを取得する
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の電子部品への熱負荷の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品への熱負荷の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電子部品の接合部の劣化状態を評価する評価方法が記載されている。当該評価方法は、基板上に接合された電子部品の、基板に対する接合強度を評価する方法である。この評価方法では、電子部品と基板との接合部でのせん断強度を、熱衝撃を与える前の電子部品、熱衝撃を与える後の電子部品のそれぞれで測定する。そして、熱衝撃前後のせん断強度の低下率を、接合部の劣化状態として求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4443346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の評価方法では、電子部品と基板との接合部に作用するせん断強度を測定するために、実際に接合部をせん断させなければならない。つまり、特許文献1に記載の評価方法は、いわゆる破壊検査である。しかし、例えば、現に使用中の機器の電子部品の劣化状態を測定したい場合など、破壊を伴わずに電子部品の劣化状態を測定したいこともある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、素体、及び前記素体の外表面を覆うガラス膜を備え、前記ガラス膜を構成する分子が水酸基を有している電子部品を対象とし、当該電子部品が受けた熱負荷を推定する測定方法であって、前記熱負荷の変化に対する、前記ガラス膜の光学的特性に関する特定パラメータの値の対応関係を取得する予備工程と、前記ガラス膜に光を入射させ、そのときの前記特定パラメータの値を取得する取得工程と、前記取得工程で取得した前記特定パラメータの値を前記予備工程で取得した前記対応関係に当てはめて前記熱負荷を推定する推定工程と、を備えている電子部品への熱負荷の測定方法である。
【0006】
上記構成において、ガラス膜を構成する分子が水酸基を有していることから、ガラス膜の膜厚は、当該ガラス膜が受けた熱負荷が大きくなるほど薄くなる。このようにガラス膜の膜厚が薄くなると、ガラス膜の光学的特性に関する特定パラメータの値は変化する。つまり、ガラス膜の光学的特性は、ガラス膜が受けた熱負荷の大きさと対応している。したがって、上記構成によれば、電子部品が受けた熱負荷を相当の精度で推定できる。そして、ガラス膜の特定パラメータの値は、ガラス膜に光を入射させることにより取得できる。つまり、特定パラメータは電子部品を破壊しないで取得できるため、電子部品を破壊しないで熱負荷を推定できる。
【発明の効果】
【0007】
電子部品を破壊しないで、電子部品が受けた熱負荷を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電子部品の斜視図。
図2】電子部品の側面図。
図3図2の3-3線に沿う断面図。
図4】電子部品が基板に取り付けられた状態を示す側面図。
図5】電子部品の製造方法を説明する説明図。
図6】電子部品の製造方法を説明する説明図。
図7】電子部品の製造方法を説明する説明図。
図8】電子部品の製造方法を説明する説明図。
図9】電子部品の製造方法を説明する説明図。
図10】電子部品の製造方法を説明する説明図。
図11】電子部品への熱負荷の測定方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(電子部品への熱負荷の測定方法の一実施形態)
以下、電子部品への熱負荷の測定方法の一実施形態を、図面を参照して説明する。なお、図面は、理解を容易にするために構成要素を拡大して示している場合がある。構成要素の寸法比率は実際のものと、又は別の図面中のものと異なる場合がある。また、断面図ではハッチングを付しているが、理解を容易にするために一部の構成要素のハッチングを省略している場合がある。
【0010】
(電子部品)
まず、測定対象となる電子部品について説明する。
図1に示すように、電子部品10は、例えば、回路基板等に実装される表面実装型の負特性サーミスタ部品である。なお、負特性サーミスタ部品は、温度が上がると抵抗値が下がるという特性を有するものである。
【0011】
電子部品10は、素体20を備えている。素体20は、略四角柱状であり、中心軸線CAを有する。なお、以下では、中心軸線CAに沿って延びる軸を第1軸Xとする。また、第1軸Xに直交する軸の1つを第2軸Yとする。そして、第1軸X及び第2軸Yに直交する軸を第3軸Zとする。さらに、第1軸Xに沿う方向の一方を第1正方向X1とし、第1軸Xに沿う方向のうち第1正方向X1と反対方向を第1負方向X2とする。また、第2軸Yに沿う方向の一方を第2正方向Y1とし、第2軸Yに沿う方向のうち第2正方向Y1と反対方向を第2負方向Y2とする。さらに、第3軸Zに沿う方向の一方を第3正方向Z1とし、第3軸Zに沿う方向のうち第3正方向Z1と反対方向を第3負方向Z2とする。
【0012】
素体20の外表面21は、6個の平面22を有している。なお、ここでいう素体20の「面」とは、素体20全体を観察したときに面として観察できるものをいう。つまり、例えば素体20の一部を顕微鏡等で拡大して観察しなければわからないような微小な凹凸、段差が存在しても、平面又は曲面と表現する。6個の平面22は、互いに異なる向きに広がっている。6個の平面22は、第1正方向X1を向く第1端面22Aと、第1負方向X2を向く第2端面22Bと、4つの側面22Cに大別される。4つの側面22Cは、それぞれ、第3正方向Z1を向く面と、第3負方向Z2を向く面と、第2正方向Y1を向く面と、第2負方向Y2を向く面と、である。
【0013】
素体20の外表面21は、12個の境界面23を有している。境界面23は、隣り合う平面22同士の境界に存在する曲面を含んでいる。すなわち、境界面23は、例えば、隣り合う平面22を形成される角をR面取り加工することで形成される曲面を含んでいる。
【0014】
また、素体20の外表面21は、8個の球面状のコーナ面24を有している。コーナ面24は、隣り合う3つの平面22同士の境界部分である。換言すれば、コーナ面24は、3つの境界面23が交わる箇所の曲面を含んでいる。すなわち、コーナ面24は、例えば、隣り合う3つの平面22によって形成される角をR面取り加工することによって形成された曲面を含んでいる。
【0015】
なお、図1及び図2では、後述するガラス膜50の表面を素体20の外表面21と同一視して符号を付している。
図2に示すように、素体20は、第1軸Xに沿う方向の寸法が、第3軸Zに沿う方向の寸法よりも大きい。また、図1に示すように、素体20は、第1軸Xに沿う方向の寸法が、第2軸Yに沿う方向の寸法よりも大きい。また、素体20の材質は、Mn、Fe、Ni、Co、Ti、Ba、Al、及びZnの少なくとも1つを成分とする金属酸化物を焼成したセラミックスである。
【0016】
図3に示すように、電子部品10は、2つの第1内部電極41と、2つの第2内部電極42と、を備えている。第1内部電極41及び第2内部電極42は、素体20の内部に埋め込まれている。
【0017】
第1内部電極41の材質は、導電性の材料である。例えば、第1内部電極41の材質は、パラジウムである。また、第2内部電極42の材質は、第1内部電極41の材質と同一である。
【0018】
第1内部電極41の形状は、長方形板状である。第1内部電極41の主面は、第2軸Yに直交している。第2内部電極42の形状は、第1内部電極41と同じ長方形板状である。第2内部電極42の主面は、第1内部電極41と同様に、第2軸Yに直交している。
【0019】
第1内部電極41の第1軸Xに沿う方向の寸法は、素体20の第1軸Xに沿う方向の寸法より小さくなっている。また、図1に示すように、第1内部電極41の第3軸Zに沿う方向の寸法は、素体20の第3軸Zに沿う方向の寸法の略3分の2となっている。第2内部電極42の各方向の寸法は、第1内部電極41と同じ寸法となっている。
【0020】
図3に示すように、第1内部電極41と第2内部電極42とは、第2軸Yに沿う方向に互い違いに位置している。すなわち、第2正方向Y1を向く側面22Cから第2負方向Y2に、第1内部電極41、第2内部電極42、第1内部電極41、第2内部電極42の順に並んでいる。この実施形態では、各内部電極間の第2軸Yに沿う方向の距離は、等しくなっている。
【0021】
図1に示すように、2つの第1内部電極41及び2つの第2内部電極42は、いずれも、第3軸Zに沿う方向において、素体20の中央に位置している。その一方で、図3に示すように、第1内部電極41は、第1正方向X1に寄って位置している。第2内部電極42は、第1負方向X2に寄って位置している。
【0022】
具体的には、第1内部電極41の第1正方向X1側の端は、素体20の第1正方向X1側の端と一致している。第1内部電極41の第1負方向X2側の端は、素体20の内部に位置しており、素体20の第1負方向X2側の端にまで至っていない。一方で、第2内部電極42の第1負方向X2側の端は、素体20の第1負方向X2側の端と一致している。第2内部電極42の第1正方向X1側の端は、素体20の内部に位置しており、素体20の第1正方向X1側の端にまで至っていない。
【0023】
電子部品10は、ガラス膜50を備えている。ガラス膜50は、素体20の外表面21を覆っている。本実施形態では、ガラス膜50は、素体20の外表面21のすべての領域を覆っている。ガラス膜50の材質は、絶縁性の物質である。ガラス膜50の主な材質は、ガラスである。本実施形態では、ガラスは主として二酸化ケイ素からなっている。また、後述するガラス膜50の製造方法に起因して、ガラス膜を構成するケイ素原子の多くは水酸化されている。つまり、ガラス膜50を構成する分子は、水酸基を有している。
【0024】
図3に示すように、電子部品10は、第1外部電極61と、第2外部電極62と、を備えている。第1外部電極61は、第1下地電極61Aと、第1金属層61Bと、を有している。第1下地電極61Aは、素体20の外表面21のうち、第1端面22Aを含む一部分において、ガラス膜50の上から積層されている。具体的には、第1下地電極61Aは、素体20の第1端面22Aと、4つの側面22Cの第1正方向X1側の一部を覆う、5面電極である。この実施形態では、第1下地電極61Aの材質は、銀とガラスとである。
【0025】
第1金属層61Bは、第1下地電極61Aを外部から覆っている。そのため、第1金属層61Bは、第1下地電極61Aに積層されている。具体的には、第1金属層61Bは、ニッケルめっきと、錫めっきと、の2層構造となっている。
【0026】
第2外部電極62は、第2下地電極62Aと、第2金属層62Bと、を有している。第2下地電極62Aは、素体20の外表面21のうち、第2端面22Bを含む一部分において、ガラス膜50の上から積層されている。具体的には、第2下地電極62Aは、素体20の第2端面22Bと、4つの側面22Cの第1負方向X2側の一部を覆う、5面電極である。この実施形態では、第2下地電極62Aの材質は、第1外部電極61の材質と同一で、銀とガラスとである。
【0027】
第2金属層62Bは、第2下地電極62Aを外部から覆っている。そのため、第2金属層62Bは、第2下地電極62Aに積層されている。具体的には、第2金属層62Bは、第1金属層61Bと同様に、ニッケルめっきと、錫めっきと、の2層構造となっている。
【0028】
第2外部電極62は、側面22C上において、第1外部電極61にまでは至っておらず、第1外部電極61に対して第1軸Xに沿う方向に離れて配置されている。そして、素体20の側面22C上において、第1軸Xに沿う方向の中央部分は、第1外部電極61及び第2外部電極62が積層されておらず、ガラス膜50が露出している。なお、図1図3では、第1外部電極61及び第2外部電極62は、二点鎖線で図示している。
【0029】
図3に示すように、第1外部電極61と第1内部電極41における第1正方向X1側の端とは、ガラス膜50を貫通する第1貫通部71を介して接続している。なお、詳細は後述するが、第1貫通部71は、電子部品10の製造過程において、第1内部電極41を構成するパラジウムが第1外部電極61側へと延びることによって形成される。
【0030】
また、第2外部電極62と第2内部電極42における第1負方向X2側の端とは、ガラス膜50を貫通する第2貫通部72を介して接続している。第2貫通部72も、第1貫通部71と同様に、電子部品10の製造過程において、第1内部電極41を構成するパラジウムが第2外部電極62側へと延びることによって形成される。なお、図3では、第1内部電極41と第1貫通部71とを境界のある別の部材として図示しているが、実際には両者の間に明確な境界は存在しない。この点、第2貫通部72についても同様である。また、図1及び図2においては、第1貫通部71及び第2貫通部72の図示を省略する。
【0031】
図4に示すように、電子部品10は、基板90上に取り付けられる。具体的には、基板90は、印刷されたパターン91を有している。パターン91の材質は、導電性の金属である。つまり、パターン91は、基板90上の配線、端子などである。また、パターン91は、基板90上に取り付けられる電子部品10の第1外部電極61及び第2外部電極62の寸法に対応している。電子部品10の第1外部電極61及び第2外部電極62は、はんだ92によって、パターン91に接合されている。また、複数の電子部品10が、基板90上に取り付けられている。さらに、図示は省略するが、電子部品10とは異なる別種の電子部品も、基板90上に取り付けられている。
【0032】
<電子部品の製造方法>
次に、電子部品10の製造方法について説明する。
図5に示すように、電子部品10の製造方法は、積層体準備工程S11と、R面取り加工工程S12と、溶媒投入工程S13と、触媒投入工程S14と、素体投入工程S15と、ポリマー投入工程S16と、金属アルコキシド投入工程S17と、を備えている。また、電子部品10の製造方法は、成膜工程S18と、乾燥工程S19と、導電体塗布工程S20と、硬化工程S21と、めっき工程S22と、をさらに備えている。
【0033】
先ず、素体20を形成するにあたって、積層体準備工程S11では、境界面23及びコーナ面24を備えない素体20である積層体を準備する。すなわち、積層体は、R面取りする前の状態であり、6つの平面22を有する直方体状である。例えば、先ず、素体20となる複数のセラミックスのシートを準備する。当該シートは、薄い板状である。当該シート上に、第1内部電極41となる導電性ペーストを積層する。当該積層ペースト上に、素体20となるセラミックスのシートを積層する。当該シート上に、第2内部電極42となる導電性ペーストを積層する。このように、セラミックスのシートと導電性ペーストとを積層する。そして、所定のサイズにカットすることで、未焼成の積層体を形成する。その後、未焼成の積層体を高温で焼成することで、積層体を準備する。
【0034】
次に、R面取り加工工程S12を行う。R面取り加工工程S12では、積層体準備工程S11で準備した積層体に対して境界面23及びコーナ面24を形成する。例えば、バレル研磨により、積層体の角がR面取り加工されることによって、曲面を有する境界面23及び曲面を有するコーナ面24が形成される。これにより、素体20が形成される。
【0035】
次に、溶媒投入工程S13を行う。図6に示すように、溶媒投入工程S13では、反応容器81内に、溶媒82として、2-プロパノールを投入する。
次に、図5に示すように、触媒投入工程S14を行う。図7に示すように、触媒投入工程S14では、先ず、反応容器81内の溶媒82の撹拌を開始する。そして、反応容器81内に、触媒を含む水溶液83として、アンモニア水を投入する。この実施形態における触媒は、水酸化物イオンであり、後述する金属アルコキシド85の加水分解を促進する触媒として機能する。
【0036】
次に、図5に示すように、素体投入工程S15を行う。図8に示すように、素体投入工程S15では、反応容器81内に、上述したようにR面取り加工工程S12において予め形成した複数の素体20を投入する。
【0037】
次に、図5に示すように、ポリマー投入工程S16を行う。図9に示すように、ポリマー投入工程S16では、反応容器81内に、ポリマー84として、ポリビニルピロリドンを投入する。これにより、反応容器81内に投入されたポリマー84は、素体20の外表面21に吸着する。
【0038】
次に、図5に示すように、金属アルコキシド投入工程S17を行う。図10に示すように、金属アルコキシド投入工程S17では、反応容器81内に、金属アルコキシド85として、液状のオルトケイ酸テトラエチルを投入する。なお、オルトテトラケイ酸テトラエチルは、テトラエトキシシランと呼称されることもある。本実施形態において、金属アルコキシド投入工程S17において投入する金属アルコキシド85の量は、素体投入工程S15において投入した素体20の外表面21の面積を基に算出している。具体的には、素体20の外表面21を覆うガラス膜50を形成するために必要な素体20の1個当たりの金属アルコキシド85の量に、素体20の数を乗算して算出する。
【0039】
次に、図5に示すように、成膜工程S18を行う。成膜工程S18では、上述した溶媒投入工程S13で開始した溶媒82の撹拌を、金属アルコキシド投入工程S17によって金属アルコキシド85が反応容器81内に投入されてから、所定時間だけ続ける。
【0040】
成膜工程S18では、反応容器81内における液相反応によって、ガラス膜50が成膜される。このとき、触媒として機能する水酸化物イオンが、オルトケイ酸エチルのケイ素に求核攻撃する。一般的にオルトケイ酸エチルのようにアルコキシル基が負に帯電している場合、水酸化物イオンに対する反応性は低い。しかし、成膜工程S18では、多量の水酸化物イオンがオルトケイ酸エチルの周囲を取り囲むことで確率論的に反応が開始しやすくなる。反応が開始すると、一時的にSi(OH)(OCとなるが、この分子状態は不安定な状態のため、アルコキシル基が脱離する。これにより、立体障害が軽減されるため水酸化物イオンの攻撃を受けやすくなることで、反応速度が急激に上昇する。その結果、加水分解が促進されることで、アルコキシル基がすべて水酸基に置換される。したがって、ガラス膜50を構成する分子は、水酸基を有する。
【0041】
次に、乾燥工程S19を行う。乾燥工程S19では、成膜工程S18において所定時間だけ撹拌を続けた後に、素体20を反応容器81から取り出して、乾燥させる。これにより、溶媒82、及び水の大部分が揮発する。
【0042】
次に、導電体塗布工程S20を行う。導電体塗布工程S20では、ガラス膜50の表面のうち、素体20の第1端面22Aを覆う部分を含む一部分と、素体20の第2端面22Bを覆う部分を含む一部分と、の2箇所に導電体ペーストを塗布する。具体的には、導電体ペーストを、第1端面22Aの全域と4つの側面22C上の一部とのガラス膜50を覆うように塗布する。また、導電体ペーストを、第2端面22Bの全域と4つの側面22C上の一部とのガラス膜50を覆うように塗布する。
【0043】
次に、硬化工程S21を行う。具体的には、硬化工程S21は、ガラス膜50及び導電体ペーストが塗布された素体20を加熱する。これにより、ゲル状のガラス膜50から水及びポリマー84が気化することで、ガラス膜50に細孔が発生すると同時に水酸基同士が脱水縮合をする。そのため、ガラス膜50では、シロキサン結合が形成されることで、緻密化が進行する。しかしながら、ガラス膜50に多量に存在する水酸基をすべて脱水縮合させるには至らない。よって、脱水縮合されなかった水酸基の一部は、ガラス膜50にそのまま残存する。したがって、硬化工程S21を経た後でも、ガラス膜50を構成する分子は水酸基を有する。また、硬化工程S21では、導電体塗布工程S20において塗布された導電体ペーストが焼成されることによって、第1下地電極61A及び第2下地電極62Aが形成される。
【0044】
本実施形態においては、硬化工程S21における加熱の際に、第1内部電極41と第1下地電極61Aとの拡散速度の違いから生じるカーケンドール効果により、銀を含む第1下地電極61A側に、第1内部電極41側に含まれるパラジウムが引き寄せられる。これにより、第1内部電極41から第1下地電極61Aに向かって第1貫通部71がガラス膜50を貫通して延びることで、第1内部電極41と第1下地電極61Aとが接続する。この点、第2内部電極42と第2下地電極62Aとを接続する第2貫通部72においても同様である。
【0045】
次に、めっき工程S22を行う。第1下地電極61A及び第2下地電極62Aの部分に、電気めっきを行う。これにより、第1下地電極61Aの表面に、第1金属層61Bが形成される。また、第2下地電極62Aの表面に、第2金属層62Bが形成される。図示は省略するが、第1金属層61B及び第2金属層62Bは、ニッケル、錫の2種類で電気めっきされることで、2層構造となる。このようにして、電子部品10が形成される。
【0046】
<熱負荷の測定に用いる熱負荷データの作成方法>
次に、後述する電子部品10への熱負荷の測定方法に用いる熱負荷データの作成方法について説明する。熱負荷データは、熱負荷の変化に対する、ガラス膜50の光学的特性に関する特定パラメータの値の対応関係を示すデータである。
【0047】
熱負荷データの作成方法は、素体20及びガラス膜50を備え、ガラス膜50を構成する分子が水酸基を有している電子部品10を対象とする。熱負荷データの作成方法は、第1工程と、第2工程と、第3工程と、を備えている。
【0048】
第1工程では、熱負荷の大きさが異なる複数の電子部品10を用意する。具体的には、複数の電子部品10に対して、予め定められた大きさの異なる熱負荷を加える。これにより、熱負荷の大きさが異なる複数の電子部品10を用意する。その後、第2工程を行う。
【0049】
第2工程では、第1工程で用意した複数の電子部品10のそれぞれのガラス膜50に光を入射させる。そして、光を入射させたときの各々のガラス膜50の光学的特性に関する特定パラメータの値を取得する。本実施形態では、特定パラメータは、入射した光に対するガラス膜50の反射率である。具体的には、第2工程では、反射分光式膜厚計を用いて、特定パラメータの値を取得する。その後、第3工程を行う。
【0050】
第3工程では、第2工程で取得した特定パラメータの値、及び特定パラメータの値が得られた電子部品10の熱負荷の大きさを、互いに関連付けて記憶媒体に記憶する。また、第3工程では、第2工程で取得した特定パラメータの値に基づき、特定パラメータの値と電子部品10の熱負荷の大きさとの関係式を演算する。例えば、1次関数、2次関数、指数関数、対数関数、シグモイド関数などの予め定められたモデル関数の中から、第2工程で取得した特定パラメータの値との誤差が最も小さい近似式を、上記関係式として演算する。近似式の演算の仕方としては、例えば最小二乗法を採用できる。このようにして得られた特定パラメータ毎の関係式を、熱負荷データとして、コンピュータが有する記憶媒体、又はコンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶させる。
【0051】
<電子部品への熱負荷の測定方法>
次に、電子部品10への熱負荷の測定方法について説明する。電子部品10への熱負荷の測定方法は、素体20及びガラス膜50を備え、ガラス膜50を構成する分子が水酸基を有している電子部品10を対象とする。
【0052】
図11に示すように、電子部品10への熱負荷の測定方法は、予備工程S31と、取得工程S32と、推定工程S33と、を備えている。
電子部品10への熱負荷の測定に際しては、先ず予備工程S31を行う。予備工程S31では、熱負荷の変化に対する、ガラス膜50の光学的特性に関する特定パラメータの値の対応関係を取得する。具体的には、予備工程S31では、上述した熱負荷データの作成方法によって作成した熱負荷データをコンピュータが記憶媒体から読み取ることにより、取得する。その後、取得工程S32へ進む。
【0053】
取得工程S32では、まず、測定対象の電子部品10を用意する。具体的には、熱負荷の大きさを測定する電子部品10を用意する。このとき、電子部品10は基板90上に取り付けられた状態のままとする。換言すれば、基板90から電子部品10を取り外さなくてもよい。また、基板90から測定対象でない他の電子部品を取り除く必要もない。
【0054】
次に、取得工程S32では、測定対象の電子部品10のガラス膜50に光を入射させる。このとき、上述した熱負荷データ生成方法の第2工程で入射させた光と同波長の光を入射させる。そして、そのときの特定パラメータの値として、入射した光に対するガラス膜50の反射率の値を取得する。具体的には、上述した熱負荷データ生成方法の第2工程と同様に、反射分光式膜厚計を用いて、入射した光に対するガラス膜50の反射率の値を取得する。その後、推定工程S33へ進む。
【0055】
推定工程S33では、取得工程S32で取得した特定パラメータの値を、予備工程S31で取得した対応関係に当てはめて熱負荷を推定する。具体的には、コンピュータに特定パラメータの値を入力する。そして、コンピュータは、予備工程S31で取得した熱負荷データのうち、反射率と熱負荷との関係を示す関係式に、取得工程S32で取得したガラス膜50の反射率を代入する。これにより、コンピュータは、当該反射率に対応する熱負荷の値を算出する。そして、この熱負荷の値を、測定対象の電子部品10が受けた熱負荷として算出する。これにより、電子部品10への熱負荷の測定方法を終了する。
【0056】
(実施形態の作用)
上記実施形態によれば、電子部品10のガラス膜50を構成する分子は水酸基を有している。そのため、ガラス膜50が熱負荷を受けることで、当該水酸基が脱水縮合をする。これにより、ガラス膜50の膜厚が薄くなる。
【0057】
そして、ガラス膜50が受ける熱負荷が大きくなるほど、水酸基の脱水縮合は進む。そのため、ガラス膜50が受ける熱負荷が大きくなるほど、ガラス膜50の膜厚は薄くなる。その一方で、ガラス膜50の質量は、熱負荷の大小に拘わらずそれほど変わらない。そのため、ガラス膜50の膜厚が薄くなるほど、ガラス膜50が緻密になる。すなわち、ガラス膜50の膜厚が薄くなるほど、ガラス膜50の密度が大きくなる。
【0058】
このように、ガラス膜50の膜厚、分子的な緻密さが変化すると、ガラス膜50の光学的特性に関するパラメータは変化する。つまり、ガラス膜50の光学的特性は、電子部品10のガラス膜50が受けた熱負荷の大きさと対応している。
【0059】
(実施形態の効果)
(1)上記実施形態によれば、ガラス膜50の光学的特性に関する特定パラメータの値に基づいて、熱負荷を相当の精度で推定できる。そして、ガラス膜50の特定パラメータの値は、ガラス膜50に光を入射させることにより取得できる。つまり、特定パラメータは電子部品10を破壊しないで取得できるため、電子部品10を破壊しないで熱負荷を推定できる。
【0060】
(2)上記実施形態によれば、特定パラメータは、入射した光に対するガラス膜50の反射率である。反射率は、入射光の放射束と反射光の放射束とを測定することで取得できる。そのため、反射率は、比較的に取得しやすい特定パラメータである。よって、特別な機器を使用しなくても、特定パラメータを取得できる。
【0061】
(3)上記実施形態によれば、取得工程S32では、電子部品10が基板90上に取り付けられた状態で、特定パラメータを取得する。つまり、上記実施形態では、電子部品10を基板90に取り付けられた状態であっても、特定パラメータを取得できる。そのため、電子部品10を基板90から取り外すことを必要としない。よって、例えば、使用途中の電子部品10への熱負荷を測定することができる。
【0062】
(その他の実施形態)
上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0063】
・熱負荷の測定方法の測定対象である電子部品10は、素体20及びガラス膜50を備えており、ガラス膜50を構成する分子が水酸基を有していればよい。例えば、素体20の形状は適宜変更されればよい。また、ガラス膜50は、さらに他の添加物を有していてもよい。
【0064】
・熱負荷の測定方法の測定対象である電子部品10は、上記実施形態の製造方法で製造されたものに限られない。例えば、電子部品10は、素体20の外表面21に、ガラス膜50を塗布して製造されていてもよい。なお、ガラス膜50の製造過程において、塩基性の溶液を用いれば、ガラス膜50を構成する分子が水酸基を有する可能性は高い。
【0065】
・上記実施形態の熱負荷の測定方法において、予備工程S31で取得する対応関係のデータは、関係式に限らない。例えば、特定の熱負荷の大きさとそれに対応する特定パラメータの値とが対応付けられたデータ、いわゆるマップデータであってもよい。このようなマップデータを用いる場合、推定工程S33では、以下のように処理すればよい。すなわち、マップデータのなかから、各取得工程で取得した特定パラメータに最も近い特定パラメータを選択する。そして、その選択した特定パラメータに対応付けられた熱負荷の大きさを、推定工程S33における推定結果とすればよい。
【0066】
・予備工程S31で取得する対応関係のデータは、上記実施形態の熱負荷データの作成方法によって作成されたものに限られない。例えば、シミュレーションによって算出された熱負荷データであってもよいし、記憶媒体に予めプリセットされているデータであってもよい。
【0067】
・特定パラメータの値と熱負荷の大きさとが、関係式及びマップデータ等において直接的に対応付けられていなくてもよい。例えば、関係式及びマップデータ等において、特定パラメータの値とガラス膜50の膜厚とが対応付けられていてもよい。上述したとおり、ガラス膜50の膜厚と熱負荷の大きさとは相関関係があるので、膜厚の値又は膜厚の減少量に基づいて熱負荷を推定することもできる。
【0068】
・特定パラメータは、反射率に限られない。例えば、特定パラメータは、ガラス膜50の反射光のXY色度図における色度座標であってもよい。色度座標は、例えば、反射分光式膜厚計を用いて測定した反射率スペクトルに基づいて算出されてもよいし、分光測色計によって測定すればよい。反射光の色度座標は、反射光の色を示す値である。反射光の色は、視認可能である。そのため、反射光の色度座標は、直感的に熱負荷の程度を把握しやすい特定パラメータである。よって、測定者などのユーザが電子部品10への熱負荷の程度を直感的に把握しやすくなる。
【0069】
なお、XY色度図は、反射光の色を、(x,y)の平面座標で表したものである。そして、色度座標は、XY色度図における(x,y)の座標である。そのため、XY色度図における色度座標は、xとyとの組の値として取得される。
【0070】
・また例えば、特定パラメータは、入射した光に対するガラス膜50の屈折率であってもよい。屈折率は、例えば反射分光式膜厚計を用いて測定した反射率スペクトルと、エリプソメータを用いて予め測定した素体20の屈折率及び減衰係数と、を用いて算出される。そのため、屈折率は、比較的に取得しやすい特定パラメータである。よって、特別な機器を使用しなくても、特定パラメータを取得できる。
【0071】
・特定パラメータは、複数であってもよい。例えば、特定パラメータとして、反射率と、色度座標と、屈折率と、を取得してもよい。また、複数の特定パラメータを取得して、各特定パラメータに基づいて熱負荷を推定した後、これらの熱負荷の値の平均値を、測定対象の電子部品10が受けた熱負荷として算出してもよい。この変更例の場合、複数の特定パラメータは、それぞれ別種の装置で測定された特定パラメータであることが好ましい。このように別種の装置によって測定された特定パラメータを根拠として熱負荷の値を算出することで、測定装置の種類毎の癖などを緩和できる。すなわち、1つの特定パラメータに基づいて熱負荷の値を推定する場合と比べて、熱負荷の値を信頼性高く推定できる。なお、複数の特定パラメータを取得する場合には、熱負荷データとして、特定パラメータ毎に関係式を有していればよい。
【0072】
・また、複数の特定パラメータを用いる場合、特定パラメータごとに熱負荷の大きさを示す演算式を用意する必要はない。例えば、熱負荷の大きさを示す関係式が、複数の特定パラメータを変数とする関係式であってもよい。この場合、複数の特定パラメータを関係式に代入することで、1つの熱負荷の大きさが算出される。この点、特定パラメータの値と熱負荷の大きさとがマップデータで示されている場合も同様である。つまり、熱負荷の大きさが多次元のマップデータで示されていてもよい。
【0073】
・上記実施形態の熱負荷の測定方法において、取得工程S32では、電子部品10を基板90から取り外した状態で、特定パラメータを取得してもよい。
・電子部品10が受ける熱負荷は、予め定められた熱衝撃や、熱負荷のみならず、例えば、実使用環境における熱負荷であってもよい。つまり、上記実施形態によれば、所定の負荷を与える実験のみならず、実使用環境での未知の熱負荷を測定できる。さらに、電子部品10が基板90に取り付けられた状態で測定できるため、測定後に、再度負荷を与えることもできる。
【0074】
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に追記する。
素体、及び前記素体の外表面を覆うガラス膜を備え、前記ガラス膜を構成する分子が水酸基を有している電子部品を対象とし、
熱負荷の大きさが異なる複数の前記電子部品を用意する第1工程と、
複数の前記電子部品それぞれに前記ガラス膜に光を入射させ、各々の前記ガラス膜の光学的特性に関する特定パラメータの値を取得する第2工程と、
前記第2工程で取得した前記特定パラメータの値、及び前記特定パラメータの値が得られた前記電子部品の熱負荷の大きさを、互いに関連付けて記憶媒体に記憶する第3工程と、
を有する
熱負荷データの作成方法。
【符号の説明】
【0075】
10…電子部品
20…素体
21…外表面
50…ガラス膜
90…基板
S31…予備工程
S32…取得工程
S33…推定工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11