(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168788
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】レーザ処理支援装置及びレーザ処理方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/268 20060101AFI20231121BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
H01L21/268 T
H01L21/265 602C
H01L21/268 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080105
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】政岡 正記
(57)【要約】
【課題】処理対象物の表面で、実際にレーザビームが入射した領域の偏りを少なくすることが可能なレーザ処理支援装置を提供する。
【解決手段】処理対象物の表面の照射許容領域にパルスレーザビームを入射させ、照射許容領域を第1方向に走査する走査動作と、第1方向に直交する第2方向にパルスレーザビームのビームスポットを移動させるステップ動作とを交互に繰り返す。照射許容領域の第2方向の寸法、ビームスポットの第2方向の寸法、ステップ動作時におけるビームスポットのオーバラップ率を指定する情報を、処理装置が取得する。照射許容領域の第2方向の端部から照射許容領域のうち1回目の走査動作による走査領域までの第2方向の距離であるオフセット幅と、最後の走査動作による走査領域から照射許容領域の第2方向の端部までの距離である照射残り幅との差が、オフセット幅と照射残り幅との和の20%以下になるように、オフセット幅を決定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物の表面にパルスレーザビームを入射させ、前記処理対象物の周縁部に定義された照射禁止領域に前記パルスレーザビームを入射させない条件の下で、前記パルスレーザビームで前記処理対象物の表面を第1方向に走査する走査動作と、前記第1方向に直交する第2方向に前記パルスレーザビームのビームスポットを移動させるステップ動作とを交互に繰り返すレーザ処理を支援するレーザ処理支援装置であって、
前記ビームスポットの前記第2方向の寸法、前記ステップ動作における前記ビームスポットの前記第2方向への移動距離、前記照射禁止領域より内側の照射許容領域の前記第2方向の寸法に基づいて、
前記照射許容領域の前記第2方向の端部から前記照射許容領域のうち1回目の前記走査動作による走査領域までの前記第2方向の距離であるオフセット幅を決定するレーザ処理支援装置。
【請求項2】
処理対象物の表面にパルスレーザビームを入射させ、前記処理対象物の周縁部に定義された照射禁止領域に前記パルスレーザビームを入射させない条件の下で、前記パルスレーザビームで前記処理対象物の表面を第1方向に走査する走査動作と、前記第1方向に直交する第2方向に前記パルスレーザビームのビームスポットを移動させるステップ動作とを交互に繰り返すレーザ処理を支援するレーザ処理支援装置であって、
入出力装置と、
処理装置と
を備え、
前記処理装置は、
前記処理対象物の表面の、前記照射禁止領域より内側の照射許容領域の前記第2方向の寸法、前記ビームスポットの前記第2方向の寸法、前記ステップ動作時における前記ビームスポットのオーバラップ率を指定する情報を、前記入出力装置から取得し、
前記照射許容領域の前記第2方向の端部から前記照射許容領域のうち1回目の前記走査動作による走査領域までの前記第2方向の距離であるオフセット幅と、最後の前記走査動作による走査領域から前記照射許容領域の前記第2方向の端部までの距離である照射残り幅との差が、前記オフセット幅と前記照射残り幅との和の20%以下になるように、前記オフセット幅を決定し、前記オフセット幅を指定する情報を前記入出力装置に出力するレーザ処理支援装置。
【請求項3】
前記処理装置は、前記オフセット幅と前記照射残り幅とが等しくなるように、前記オフセット幅を決定する請求項2に記載のレーザ処理支援装置。
【請求項4】
前記処理対象物はノッチが設けられた円形のウエハであり、前記第2方向は、前記ウエハの中心と前記ノッチとを通過する直線に平行であり、
前記照射禁止領域は、前記ウエハの縁を外周線とする円環状の領域と、前記ノッチの先端を通過し前記第1方向に平行な仮想直線を前記ウエハの中心に向かって前記円環状の領域の幅に等しい長さだけ移動させた直線より前記ノッチ側の領域との和集合で定義される請求項2または3に記載のレーザ処理支援装置。
【請求項5】
処理対象物の表面にパルスレーザビームを入射させ、前記処理対象物の周縁部に定義された照射禁止領域に前記パルスレーザビームを入射させない条件の下で、前記処理対象物の表面を前記パルスレーザビームで第1方向へ走査する走査動作と、前記第1方向に直交する第2方向に前記パルスレーザビームのビームスポットを移動させるステップ動作とを交互に繰り返すレーザ処理方法であって、
前記照射禁止領域よりも内側の照射許容領域の前記第2方向の一方の端部から内側にオフセット幅だけオフセットさせた位置から前記走査動作を開始し、
前記ステップ動作を行うと、前記ビームスポットが、前記第2方向に関して前記照射許容領域の端部からはみ出す場合には、前記走査動作を終了させ、
最後の前記ステップ動作を行った後の前記走査動作による走査領域から前記照射許容領域の前記第2方向の他方の端部までの距離である照射残り幅と、前記オフセット幅との差が、前記オフセット幅と前記照射残り幅との和の20%以下になるように、前記オフセット幅を設定しておくレーザ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ処理支援装置及びレーザ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハにドープしたドーパントの活性化を行うアニール方法として、ウエハにパルスレーザビームを入射させてビームスポットをウエハ面内で移動させるレーザアニールが知られている(例えば、特許文献1等)。レーザアニール時にビームスポットがウエハからはみ出すと、ウエハを吸着しているステージが損傷を受ける。また、ウエハが薄くなるとウエハのエッジ部分が脆くなり、この部分にレーザビームを入射させるとウエハが損傷してしまう場合がある。ステージやウエハの損傷を防止するために、ウエハの周縁部に照射禁止領域が画定される。この照射禁止領域に囲まれた円形の照射許容領域内をパルスレーザビームで走査する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザアニールを行う際には、照射許容領域内の一方の端から他方の端まで第1方向にビームスポットを移動させる走査動作と、第1方向と直交する第2方向にビームスポットを移動させるステップ動作とを繰り返す。走査動作においては、ビームスポットが、直前のショットのビームスポットと部分的に重なるようにビームスポットを移動させる。ステップ動作においては、ステップ動作後の走査動作による走査領域がステップ動作前の走査動作による走査領域と部分的に重なるようにビームスポットを移動させる。ビームスポットの重なり率をオーバラップ率という。
【0005】
ステップ動作における移動方向のビームスポットの寸法、及びステップ動作時のオーバラップ率は予め決められている。ステップ動作における移動方向の照射許容領域の寸法が、ステップ動作における移動量で割り切れない場合には、ステップ動作の移動方向に関して処理終了側の端に照射残りが生じてしまう。この場合、照射許容領域内で、実際にパルスレーザビームが照射された領域が、ステップ動作時の移動方向に関して照射開始側に偏ってしまう。
【0006】
本発明の目的は、処理対象物の表面で、実際にレーザビームが入射した領域の偏りを少なくすることが可能なレーザ処理支援装置及びレーザ処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
処理対象物の表面にパルスレーザビームを入射させ、前記処理対象物の周縁部に定義された照射禁止領域に前記パルスレーザビームを入射させない条件の下で、前記パルスレーザビームで前記処理対象物の表面を第1方向に走査する走査動作と、前記第1方向に直交する第2方向に前記パルスレーザビームのビームスポットを移動させるステップ動作とを交互に繰り返すレーザ処理を支援するレーザ処理支援装置であって、
前記ビームスポットの前記第2方向の寸法、前記ステップ動作における前記ビームスポットの前記第2方向への移動距離、前記照射禁止領域より内側の照射許容領域の前記第2方向の寸法に基づいて、
前記照射許容領域の前記第2方向の端部から前記照射許容領域のうち1回目の前記走査動作による走査領域までの前記第2方向の距離であるオフセット幅を決定するレーザ処理支援装置が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によると、
処理対象物の表面にパルスレーザビームを入射させ、前記処理対象物の周縁部に定義された照射禁止領域に前記パルスレーザビームを入射させない条件の下で、前記パルスレーザビームで前記処理対象物の表面を第1方向に走査する走査動作と、前記第1方向に直交する第2方向に前記パルスレーザビームのビームスポットを移動させるステップ動作とを交互に繰り返すレーザ処理を支援するレーザ処理支援装置であって、
入出力装置と、
処理装置と
を備え、
前記処理装置は、
前記処理対象物の表面の、前記照射禁止領域より内側の照射許容領域の前記第2方向の寸法、前記ビームスポットの前記第2方向の寸法、前記ステップ動作時における前記ビームスポットのオーバラップ率を指定する情報を、前記入出力装置から取得し、
前記照射許容領域の前記第2方向の端部から前記照射許容領域のうち1回目の前記走査動作による走査領域までの前記第2方向の距離であるオフセット幅と、最後の前記走査動作による走査領域から前記照射許容領域の前記第2方向の端部までの距離である照射残り幅との差が、前記オフセット幅と前記照射残り幅との和の20%以下になるように、前記オフセット幅を決定し、前記オフセット幅を指定する情報を前記入出力装置に出力するレーザ処理支援装置が提供される。
【0009】
本発明のさらに他の観点によると、
処理対象物の表面にパルスレーザビームを入射させ、前記処理対象物の周縁部に定義された照射禁止領域に前記パルスレーザビームを入射させない条件の下で、前記処理対象物の表面を前記パルスレーザビームで第1方向へ走査する走査動作と、前記第1方向に直交する第2方向に前記パルスレーザビームのビームスポットを移動させるステップ動作とを交互に繰り返すレーザ処理方法であって、
前記照射禁止領域よりも内側の照射許容領域の前記第2方向の一方の端部から内側にオフセット幅だけオフセットさせた位置から前記走査動作を開始し、
前記ステップ動作を行うと、前記ビームスポットが、前記第2方向に関して前記照射許容領域の端部からはみ出す場合には、前記走査動作を終了させ、
最後の前記ステップ動作を行った後の前記走査動作による走査領域から前記照射許容領域の前記第2方向の他方の端部までの距離である照射残り幅と、前記オフセット幅との差が、前記オフセット幅と前記照射残り幅との和の20%以下になるように、前記オフセット幅を設定しておくレーザ処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上述のようにオフセット幅を指定すると、処理対象物の表面で、実際にレーザビームが入射した領域の偏りを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施例によるレーザ処理支援装置及びレーザ処理装置の概略図である。
【
図2】
図2は、処理対象物の表面にけるパルスレーザビームのビームスポットの移動の様子を示す模式図である。
【
図3】
図3は、処理対象物の表面のうちパルスレーザビームを入射させる目標領域を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、ビームスポットの移動の軌跡を示す模式図である。
【
図5】
図5は、ビームスポットを移動させる手順を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、オフセット幅OFFsを決定する手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、照射許容領域のy方向の寸法Ay、ビームスポットのy方向の寸法Ly、y方向のオーバラップ率R
OVL、及び走査動作の回数Nの関係を示す模式図である。
【
図8】
図8Aは、
図1~
図7に示した実施例による方法を適用した場合に、1回の走査動作でパルスレーザビームが入射する走査領域を示す模式図であり、
図8Bは、他の実施例による方法を適用して走査動作を行う場合に、1回の走査動作でパルスレーザビームが入射する走査領域を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1~
図7を参照して、一実施例によるレーザ処理支援装置及びレーザ処理方法について説明する。
【0013】
図1は、本実施例によるレーザ処理支援装置及びレーザ処理装置の概略図である。レーザ発振器10がパルスレーザビームを出力する。レーザ発振器10から出力されたパルスレーザビームがビームエキスパンダ11、ビーム整形光学素子12、及び折り返しミラー13を経由して処理対象物60に入射する。なお、必要に応じてアパーチャ、レンズ等を配置してもよい。処理対象物60は、例えばドーパントがイオン注入された半導体ウエハであり、パルスレーザビームの入射によってドーパントの活性化アニールを行う。
【0014】
処理対象物60は、駆動機構17に支持されたチャック機構18に保持されている。駆動機構17は、水平面内の二方向にチャック機構18を移動させる。チャック機構18の移動により、処理対象物60が移動する。駆動機構17として、例えばXYステージが用いられる。
【0015】
レーザ発振器10として、例えばファイバレーザ発振器、レーザダイオード、固体レーザ発振器等を用いることができる。ビームエキスパンダ11は、ビーム整形光学素子12へのレーザビームの入射位置におけるビームサイズを調整する。ビーム整形光学素子12は、処理対象物60の表面におけるビームスポットを整形するとともに、強度分布を均一化する。ビーム整形光学素子12として、例えば回折光学素子が用いられる。
【0016】
制御装置40が、駆動機構17及びレーザ発振器10を制御する。例えば、制御装置40は、パルスレーザビームが処理対象物60の表面の目標位置に入射するように、駆動機構17を制御する。さらに、レーザ発振器10からのパルスレーザビームの出力タイミングを制御する。
【0017】
レーザ処理支援装置20が、処理装置21及び入出力装置22を含む。入出力装置22は、ユーザが操作することによって種々の情報を入力するキーボードやポインティングデバイス、リムーバブルメディアからのデータ読み取り及びリムーバブルメディアへのデータ書き込みを行うリーダライタ、種々の情報の送受信を行う通信装置、画像を表示するディスプレイ等を含む。処理装置21は、入出力装置22に入力された種々の情報を取得し、制御装置40による制御を支援する情報を求める。処理装置21が実行する詳細な処理については、後に説明する。
【0018】
図2は、処理対象物60(
図1)の表面にけるパルスレーザビームのビームスポット30の移動の様子を示す模式図である。本実施例では、パルスレーザビームの経路を固定し、処理対象物60を移動させることにより、処理対象物60に対してビームスポット30を移動させている。
【0019】
処理対象物60の表面をxy面とするxyz直交座標系を定義する。ビームスポット30の形状は、y方向に長い角丸長方形である。ビームスポット30のy方向の寸法(長さ)をLyと標記し、x方向の寸法(幅)をLxと標記することとする。
【0020】
アニールは、処理対象物60の表面をパルスレーザビームでx方向に走査する走査処理と、ビームスポット30をy方向に移動させるステップ動作とを交互に繰り返すことにより行われる。走査動作において、パルスレーザビームのパルスの繰返しの一周期の間にビームスポット30がx方向に移動する距離をWxと標記する。移動距離Wxはビームスポット30の幅Lxよりも短い。このため、あるショットのビームスポット30は、直前のショットのビームスポット30とx方向に関して部分的に重なる。重なり部分のx方向の寸法、すなわちLx-Wxの、ビームスポット30の幅Lxに対する比を走査動作におけるオーバラップ率という。
【0021】
1回のステップ動作におけるビームスポット30のy方向への移動距離をWyと標記する。移動距離Wyはビームスポット30の長さLyより短い。このため、ある走査動作で走査される領域は、直前の走査動作で走査された領域とy方向に関して部分的に重なる。重なり部分のy方向の寸法、すなわちLy-Wyの、ビームスポット30の長さLyに対する比をステップ動作におけるオーバラップ率という。
【0022】
図3は、処理対象物60の表面のうちパルスレーザビームを入射させる目標領域を説明するための模式図である。処理対象物60は、例えば円形の半導体ウエハであり、外周部の1か所にノッチ61が設けられている。ノッチ61と処理対象物60の中心Oとを通過する直線がy軸と平行になるように、xyz直交座標系を定義する。処理対象物60の表面の周縁部に円環状の照射禁止領域62Aが画定されている。円環状の照射禁止領域62Aの外周線は処理対象物60の縁に一致する。円環状の照射禁止領域62Aの幅をECと標記する。
【0023】
ノッチ61の先端を通過するx方向に平行な仮想直線を処理対象物60の中心Oに向かって幅ECに等しい長さだけ移動させた直線よりノッチ61側に照射禁止領域62Bが画定されている。円環状の照射禁止領域62Aとノッチ近傍の照射禁止領域62Bとの和集合を照射禁止領域62ということといする。照射禁止領域62より内側の領域を照射許容領域63ということとする。
【0024】
アニールは、照射禁止領域62にパルスレーザビームを入射させず、照射許容領域63のなるべく広い範囲にパルスレーザビームを入射させる条件で行われる。次に、照射禁止領域62を設ける理由について説明する。
【0025】
処理対象物60がチャック機構18(
図1)の上に保持された状態で、アニールを行う。ビームスポット30が処理対象物60からはみ出ると、チャック機構18がレーザエネルギによって損傷する場合がある。照射禁止領域62を設けることにより、ビームスポット30が処理対象物60からはみ出てしまう状態が発生しにくくなり、チャック機構18が損傷しにくくなる。また、処理対象物60が薄くなると、処理対象物60の周縁部が損傷を受けやすくなる。照射禁止領域62を設けることにより、レーザ照射による処理対象物60の周縁部の損傷が生じにくくなる。
【0026】
次に、
図4及び
図5を参照して、照射許容領域63内におけるビームスポット30の移動の手順及び軌跡について説明する。
図4は、ビームスポット30の移動の軌跡を示す模式図であり、
図5は、ビームスポット30を移動させる手順を示すフローチャートである。
【0027】
図4に示すように、ビームスポット30の走査動作においては、ビームスポット30をx方向に、照射許容領域63の一方の端から他方の端まで移動させる。例えば、奇数回目の走査動作では、ビームスポット30をx軸の正の向きに移動させ、偶数回目の走査動作では、ビームスポット30をx軸の負の向きに移動させる。ステップ動作においては、ビームスポット30をy軸の負の方向に距離Wy(
図2)だけ移動させる。処理対象物60の中心Oからy軸の正の向きに延びる直線と照射許容領域63の外周線との交点を照射開始側の端部Psといい、処理対象物60の中心Oからy軸の負の向きに延びる直線と照射許容領域63の外周線との交点を照射終了側の端部Pfということとする。
【0028】
まず、y方向の照射開始側の端部Psから照射許容領域63の内側に向かってオフセット幅OFFsだけオフセットさせた位置を、y方向の走査開始位置とする(ステップSA1)。より具体的には、最初の走査動作でビームスポット30が移動する走査領域のy軸の正の側の縁から、照射開始側の端部Psまでのy方向の距離がオフセット幅OFFsに等しい。
【0029】
走査領域のy方向の位置が決まると、照射許容領域63に対してアニール処理を行うときのステップ動作の回数を算出する(ステップSA2)。具体的には、1回の走査動作が終了した後、ステップ動作時のビームスポット30の移動距離Wy(
図2)だけビームスポット30を移動させると、ビームスポット30が照射終了側の端部Pfからはみ出てしまう場合、ステップ動作を行わず、その直前のステップ動作を最後のステップ動作とする。
【0030】
ステップ動作の回数は、照射許容領域63のy方向の寸法、ステップ動作時の移動距離Wy、及びビームスポット30の長さLyから算出することができる。
【0031】
次に、現在のビームスポット30のy方向の位置における照射許容領域63のx方向の寸法から、走査動作におけるショット数を算出する(ステップSA3)。このショット数は、ビームスポット30が照射許容領域63からはみ出ない条件の下で照射許容領域63内を走査するときの最大のショット数である。例えば、ビームスポット30のy軸の正の側の縁及び負の側の縁の位置のそれぞれにおけるx軸に平行な直線が、照射許容領域63の外周線によって切り取られる部分の長さのうち短い方の長さ、ビームスポットのx方向への移動距離Wx(
図2)、及びビームスポット30の幅Lxから求めることができる。
【0032】
走査動作におけるショット数が求まると、照射許容領域63のx方向の一方の端から他方の端に向かってビームスポット30を移動させる走査動作を実行する(ステップSA4)。1つの走査動作の1ショット目のビームスポット30の位置は、ビームスポット30の1つの角が照射許容領域63の外周線の位置に一致するように設定する。決められたショット数の最後のショットにおけるビームスポット30の位置からさらにビームスポット30を移動距離Wx(
図2)だけ移動させると、ビームスポット30が照射許容領域63からはみ出る。
【0033】
1回の走査動作で、x方向に長い長方形の領域(走査領域)にパルスレーザビームが入射する。走査領域のうちx方向の両端の近傍以外の領域には、オーバラップ率に応じた所定の回数だけパルスレーザビームが入射する。走査領域のx方向の両端近傍には、所定の回数未満のショット数しか入射しない領域が存在する。
【0034】
ステップSA2で算出されたステップ動作の回数だけステップ動作を行ったら、アニール処理を終了する(ステップSA5)。ステップ動作の回数が、算出された回数に満たない場合は、ステップ動作を実行し(ステップSA6)、ステップSA3からステップSA5までの手順を再度実行する。
【0035】
最後の走査動作で走査された領域から、照射許容領域63の照射終了側の端部Pfとの間に、パルスレーザビームが入射していない領域が残る。この領域のy方向の寸法を、照射残り幅OFFfということとする。
【0036】
最後の走査動作が終了した時点で、照射許容領域63内の大部分の領域に、走査動作のオーバラップ率及びステップ動作のオーバラップ率に応じた所定の回数だけ、パルスレーザビームが入射する。パルスレーザビームが少なくとも1回入射した領域のうち、y方向の両端の近傍に、所定回数未満のショット数しか入射していない領域が残る。
【0037】
図4において、走査動作時及びステップ動作時のオーバラップ率がともに50%である場合を示している。この場合、パルスレーザビームが入射した領域のうち大部分には、パルスレーザビームが合計で4回入射する。パルスレーザビームが4ショット入射する領域を有効照射領域64ということとする。なお、有効照射領域64に入射するショット数は、走査動作及びステップ動作のオーバラップ率に依存する。例えば、走査動作及びステップ動作のオーバラップ率によって、重ね照射回数が決定される。走査動作時及びステップ動作時のオーバラップ率がともに50%である場合、重ね照射回数は4回になる。走査動作時及びステップ動作時のオーバラップ率がともに2/3の場合、重ね照射回数は9回になる。有効照射領域64は、重ね照射回数と等しい回数だけレーザパルスが入射する領域と定義することができる。
【0038】
図4において、有効照射領域64にハッチングを付している。有効照射領域64の縁は、階段状の形状になる。なお、
図4においては、照射開始側の端部Ps及び照射終了側の端部Pfの近傍の一部分について表示しており、中央部分においては具体的な表示を省略している。有効照射領域64が、実際に半導体素子として利用可能な領域である。
【0039】
有効照射領域64から照射開始側の端部Psまでの距離をWsと標記し、有効照射領域64から照射終了側の端部Pfまでの距離をWfと標記する。有効照射領域64をなるべく広くするために、距離Wsと距離Wfとの和(Ws+Wf)を小さくすることが好ましい。さらに、有効照射領域64が照射許容領域63内で偏在しないようにすることが好ましい。すなわち、距離Wsと距離Wfとの差|Ws-Wf|を小さくすることが好ましく、両者を等しくすることがより好ましい。
【0040】
距離Wsとオフセット幅OFFsとの差、及び距離WfとオフセットOFFfとの差は、ビームスポット30の長さLyとステップ動作のオーバラップ率とによって決まる。ビームスポット30の大きさ及びオーバラップ率は、パルスレーザビームの照射レシピによって決められている。このため、(OFFs-Ws)と(OFFf-Wf)とは等しく、照射レシピによって決まる固定値である。したがって、(Ws+Wf)を小さくし、かつ|Ws-Wf|を小さくするためには、オフセット幅OFFsと照射残り幅OFFfとの和(OFFs+OFFf)を小さくし、かつ両者の差|OFFs-OFFf|を小さくすればよい。
【0041】
(OFFs+OFFf)が、ステップ移動におけるビームスポット30の移動距離Wy(
図2)以上であれば、オフセット幅OFFsを狭くすることにより、ステップ移動の回数を増やすことができる。(OFFs+OFFf)が移動距離Wy未満であれば、ステップ移動の回数を増やすことはできない。したがって、(OFFs+OFFf)をなるべく小さくするためには、(OFFs+OFFf)が移動距離Wy未満になるようにオフセット幅OFFsを設定すればよい。
【0042】
次に、
図6を参照して|OFFs―OFFf|を小さくするためのオフセット幅OFFsの決定方法について説明する。
図6は、オフセット幅OFFsを決定する手順を示すフローチャートである。
【0043】
まず、ユーザが、レーザ処理支援装置20(
図1)の入出力装置22を操作して、照射許容領域63(
図3)のy方向の寸法、ビームスポット30の第2方向の寸法Ly(
図2)、及びステップ動作時のオーバラップ率を指定する情報を入力する(ステップSB1)。入出力装置22に入力されたこれらの情報を処理装置21が取得する(ステップSB2)。
【0044】
処理装置21は、取得したこれらの情報に基づいて、|OFFs―OFFf|を小さくするためのオフセット幅OFFsの値を決定する(ステップSB3)。その後、決定したオフセット幅OFFsの値を入出力装置22に出力する(ステップSB4)。
【0045】
ユーザは、入出力装置22に出力されたオフセット幅OFFsを確認して、レーザ処理装置の制御装置40に、オフセット幅OFFsを指令する。制御装置40は、ユーザに指令されたオフセット幅OFFsに基づいて、駆動機構17及びレーザ発振器10(
図1)を制御する。
【0046】
次に、ステップSB3の処理について、
図7を参照して説明する。
図7は、照射許容領域63(
図3)のy方向の寸法Ay、ビームスポット30のy方向の寸法Ly(
図2)、y方向のオーバラップ率R
OVL、及び走査動作の回数Nの関係を示す模式図である。
【0047】
ステップ動作によってビームスポット30がy方向に移動する。1回のステップ動作でのy方向への移動距離Wyは、以下の式により計算することができる。
Wy=Ly(1-ROVL)・・・(1)
【0048】
図7においてビームスポット30内に付された数字は、走査動作に順番に付した通し番号を表す。例えば、i番目の走査動作におけるビームスポット30のy方向の位置は、i-1番目の走査動作におけるビームスポット30のy方向の位置からy軸の正の向きに移動距離Wyだけずれる。N回目の走査処理におけるビームスポット30のy方向の位置は、1回目の走査処理におけるビームスポット30の位置からy軸の正の向きにWy(N-1)だけずれる。
【0049】
N回の走査動作でパルスレーザビームが少なくとも1回入射する領域のy方向の寸法Byは、以下の式で与えられる。
By=Wy(N-1)+Ly・・・(2)
オフセット幅OFFs、パルスレーザビームが少なくとも1回入射する領域のy方向の寸法By、及び照射残り幅OFFfの合計が、照射許容領域63のy方向の寸法Ayと等しいため、以下の式が成立する。
Wy(N-1)+Ly+OFFs+OFFf=Ay・・・(3)
【0050】
また、オフセット幅OFFsと照射残り幅OFFfとの和が移動距離Wy以上であれば、オフセット幅OFFsを調整することによって、走査動作の回数を増やすことができる。オフセット幅OFFsと照射残り幅OFFfとの和が移動距離Wy未満のとき、走査動作の回数を増やすことはできない。すなわち、走査動作の回数Nが最大のとき、以下の式が満たされる。
0≦OFFs+OFFf<Wy・・・(4)
【0051】
式(3)及び式(4)から、以下の式が導出される。
(Ay-Ly)/Wy<N≦(Ay-Ly)/Wy+1・・・(5)
式(5)を満たす整数Nを、走査動作の回数として採用する。走査動作の回数Nが求まると、式(3)からOFFs+OFFfの値が決まる。オフセット幅OFFsとして、以下の式を満たすように決めるとよい。
OFFs=(OFFs+OFFf)/2・・・(6)
【0052】
式(5)を満たすように走査動作の回数Nを決定することにより、有効照射領域64(
図4)のy方向の寸法を最大化することができる。決定された走査動作の回数Nを用いて、式(3)、及び式(6)を満たすようにオフセット幅OFFsを決めることにより、有効照射領域64(
図4)を、y方向に関して照射許容領域63のほぼ中央に配置することができる。
【0053】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
上記実施例では、オフセット幅OFFsと照射残り幅OFFf(
図4)との差が小さくなるようにオフセット幅OFFsが設定される。このため、照射許容領域63内における有効照射領域64の偏りを抑制することができる。十分な効果を得るために、|OFFs-OFFf|が、(OFFs+OFFf)の20%以下になるようにオフセット幅OFFsを決定することが好ましい。さらに、オフセット幅OFFsと照射残り幅OFFfとが等しくなるように、オフセット幅OFFsを設定することがより好ましい。
【0054】
さらに、有効照射領域64を広くすることが可能になり、半導体ウエハ等の処理対象物60の利用効率を高めることができる。
【0055】
次に、有効照射領域64(
図4)の縁の形状が階段状であることの影響について説明する。有効照射領域64を広くするためには、階段状の縁の頂点のうち有効照射領域64の内側に向かう頂点から照射許容領域63の外周線までの距離Wa(
図4)を短くすることが好ましい。オフセット幅OFFsを変化させて有効照射領域64を決定し、そのときの距離Waを計算した。その結果、オフセット幅OFFsを変化させても、距離Waはほとんど変化しないことがわかった。このため、オフセット幅OFFsの最適値を求める際に、距離Waの変化を考慮する必要はない。
【0056】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、パルスレーザビームの経路を静止させ、処理対象物60をx方向及びy方向に移動させているが、処理対象物60を静止させ、パルスレーザビームをx方向及びy方向に走査してもよい。また、パルスレーザビームをx方向に走査し、処理対象物60をy方向に移動させてもよい。
【0057】
上記実施例では、走査動作において、ノッチ61と処理対象物60の中心Oとを通過する直線に対して垂直な方向にビームスポット30を移動させているが、ノッチ61と処理対象物60の中心Oとを通過する直線と、走査方向との関係を変えてもよい。例えば、走査方向を、ノッチ61と処理対象物60の中心Oとを通過する直線に対して平行にしてもよいし、斜めにしてもよい。
【0058】
上記実施例では、処理対象物60の形状が円形にされているが、その他の形状の処理対象物をレーザ処理することも可能である。例えば、正方形または長方形のガラス基板に形成されたアモルファスシリコン膜を結晶化させるレーザ処理において、上記実施例を適用してもよい。
【0059】
次に、上記実施例の他の変形例について説明する。
本変形例では、有効照射領域64(
図4)の面積が最大になるように、オフセット幅OFFsを決定する。オフセット幅OFFsは、ビームスポット30のy方向の寸法Ly、ステップ動作におけるビームスポット30のy方向への移動距離Wy、及び照射許容領域63のy方向の寸法に基づいて決定することができる。なお、走査動作においては、それぞれの走査動作でのショット数が最大になるように、x方向の入射位置を決定する。なお、必ずしも面積が最大になるようにオフセット幅OFFsを決定する必要はなく、目標とする面積よりも大きくなるようにオフセット幅OFFsを決定するとよい。
【0060】
次に、
図8A及び
図8Bを参照して、他の実施例によるレーザ処理支援装置及びレーザ処理方法について説明する。以下、
図1~
図7を参照して説明した実施例と共通の構成については説明を省略する。
【0061】
図8Aは、
図1~
図7を参照して説明した実施例による方法を適用した場合に、1回の走査動作でパルスレーザビームが入射する走査領域65を示す模式図である。走査開始時のビームスポット30は、その1つの頂点が照射許容領域63の外周線上に位置する。この位置からビームスポット30を所定のオーバラップ率でx方向に移動させる。走査領域65の終了側の端部から照射許容領域63の外周線までx方向の最短距離を、照射残り幅OFFfxということとする。通常、照射残り幅OFFfxはゼロにはならない。このため、走査領域65は、照射許容領域63内で走査開始側に偏る。
【0062】
図8Bは、本実施例による方法を適用して走査動作を行う場合に、1回の走査動作でパルスレーザビームが入射する走査領域65を示す模式図である。本実施例では、走査開始時のビームスポット30を、その1つの頂点が照射許容領域63の外周線からx方向にオフセット幅OFFsxだけオフセットさせる。オフセット幅OFFsxは、照射残り幅OFFfxと等しくなるように設定する。
【0063】
次に、
図8Bに示した実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、照射許容領域63内における有効照射領域64(
図4)のy方向の偏りのみならず、x方向の偏りも少なくすることができる。
【0064】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0065】
10 レーザ発振器
11 ビームエキスパンダ
12 ビーム整形光学素子
13 折り返しミラー
17 移動機構
18 チャック機構
20 レーザ処理支援装置
21 処理装置
22 入出力装置
30 ビームスポット
40 制御装置
60 処理対象物
61 ノッチ
62 照射禁止領域
62A 円環状の照射禁止領域
62B ノッチ近傍の照射禁止領域
63 照射許容領域
64 有効照射領域
65 走査領域