(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168805
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】磁性コアおよび磁性部品
(51)【国際特許分類】
H01F 27/24 20060101AFI20231121BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20231121BHJP
H01F 30/10 20060101ALI20231121BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20231121BHJP
H01F 27/25 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
H01F27/24 H
H01F17/04 F
H01F30/10 A
H01F37/00 A
H01F27/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080135
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 暁太朗
(72)【発明者】
【氏名】中畑 功
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB03
5E070BA08
5E070BB02
(57)【要約】
【課題】コアの材料や構造を大きく変化させることなく容易にコアロスを低減させることができる磁性コアと磁性部品を提供すること。
【解決手段】第1対向面を有する第1コアと、第2対向面を有する第2コアと、を有する磁性コアである。第1対向面と第2対向面とが合わされることで、第1コアと第2コアとが閉磁路の少なくとも一部を形成し、第1対向面および/または第2対向面の算術平均粗さRaが7μm以上65μm未満である。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1対向面を有する第1コアと、第2対向面を有する第2コアと、を有する磁性コアであって、
前記第1対向面と前記第2対向面とが合わされることで、前記第1コアと第2コアとが閉磁路の少なくとも一部を形成し、
前記第1対向面および/または第2対向面の算術平均粗さRaが7μm以上65μm未満である磁性コア。
【請求項2】
前記第1コアおよび/または前記第2コアは、複数に積層してある軟磁性合金層を有する請求項1に記載の磁性コア。
【請求項3】
前記第1対向面と前記第2対向面との間には、ギャップが具備してある請求項1または2に記載の磁性コア。
【請求項4】
前記ギャップは、前記第1対向面および/または第2対向面の算術平均粗さRaよりも大きい請求項3に記載の磁性コア。
【請求項5】
前記第1コアと前記第2コアとは、前記ギャップ以外の部分で、それぞれ別対向面を有し、これらの別対向面同士は、前記ギャップよりも小さいギャップで接合してある請求項4に記載の磁性コア。
【請求項6】
請求項1または2のいずれかに記載の磁性コアを有する磁性部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばインダクタなどの磁性部品に用いられる磁性コアに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性コアとして、磁気飽和を防ぐためにコア同士を接合し、その対向面にギャップを設けて用いられる磁性コアがある。このようなコアでは、ギャップに生じた漏れ磁束がコイルを通過し、コイルに渦電流が発生する。このことによりコアは発熱してエネルギー損失が大きくなる。
【0003】
コアの対向面の損失を抑制する方法として、特許文献1のように材料を変更する方法が知られている。また、特許文献2のように、新たな構造を対向面に持たせることも知られている。しかしながら、これらの従来技術では、コアの作製を煩雑にさせ、また再現性を困難にする。また、特許文献3に示すように、対向面を斜めに配置させたり、特許文献4に示すように、ギャップの配置を変えることも提案されているが、これらはコア形状に制約を与え、その製造方法も限定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020―53463号公報
【特許文献2】特開2016―25273号公報
【特許文献3】特開2016―72569号公報
【特許文献4】特開2021―19003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、コアの材料や構造を大きく変化させることなく容易にコアロスを低減させることができる磁性コアと磁性部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る磁性コアは、
第1対向面を有する第1コアと、第2対向面を有する第2コアと、を有する磁性コアであって、
前記第1対向面と第2対向面とが合わされることで、前記第1コアと第2コアとが閉磁路の少なくとも一部を形成し、
前記第1対向面および/または第2対向面の算術平均粗さRaが7μm以上65μm未満である。
【0007】
本発明者等は、コアロスを低減させることができる磁性コアについて鋭意検討した結果、コア同士が向き合う対向面の表面粗さが、コアロスの低減に寄与することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の磁性コアでは、コア同士が向き合う対向面の表面粗さを特定の範囲に設定することのみで、コアの材料や構造を大きく変化させることなく容易にコアロスを低減させることができる。
【0009】
また、対向面の算術平均粗さRaを特定の範囲とすることで、透磁率のバラツキも低減できる。さらに、コアロスの低減効果や透磁率のバラツキ低減は、特に高周波において顕著に表れる。
【0010】
好ましくは、前記第1コアおよび/または前記第2コアは、複数に積層してある軟磁性合金層を有する。フェライトで構成してある磁性コアに比べて、軟磁性合金で構成してある磁性コアの場合に、コアロスの低減効果が大きい。
【0011】
好ましくは、前記第1対向面と前記第2対向面との間には、ギャップが具備してある。対向面間にギャップがある場合に、特に、コアロスの低減効果が大きい。
【0012】
好ましくは、前記ギャップは、前記第1対向面および/または第2対向面の算術平均粗さRaよりも大きい。ギャップの大きさは、対向面の算術平均粗さRaよりも大きい場合に、特に、コアロスの低減効果が大きい。
【0013】
前記第1コアと前記第2コアとは、前記ギャップ以外の部分で、それぞれ別対向面を有してもよく、これらの別対向面同士は、前記ギャップよりも小さいギャップで接合してあってもよい。
【0014】
本発明の磁性部品は、上記のいずれかに記載の磁性コアを有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、本発明の一実施形態に係る磁性コアを有するコイル装置の概略断面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の他の実施形態に係る磁性コアを有するコイル装置の概略断面図である。
【
図2】
図2は、
図1Aに示すII-II線に沿う要部概略断面図であり、破断面のX軸に沿った両側を波線で省略した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0017】
第1実施形態
図1Aに示すように、本発明の一実施形態に係る磁性コア2を有するコイル装置1は、たとえばインダクタなどとして用いられる。コイル装置1は、磁性コア2と、コイル状に巻回してあるワイヤ3と、を有する。
【0018】
磁性コア2は、第1コア2aと第2コア2bとを有し、これらが組み合わされている。これらの各コア2a,2bは、それぞれ、断面がE字形状のE型コアと称される。なお、図面において、X軸とY軸とZ軸とは、相互に垂直である。
【0019】
各コア2a,2bを構成する磁性材料としては、フェライトあるいは金属磁性体などが例示される。フェライトとしては、Ni-Zn系フェライト、Mn-Zn系フェライトなどが例示される。金属磁性体としては、特に限定されないが、たとえば、Fe基合金であって、組成式(Fe(1-(α+β))X1αX2β)(1-(a+b+c+d))MaBbPcSidからなる主成分を有してもよく、X1はCoおよびNiからなる群から選択される1つ以上であり、X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Bi,S,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1つ以上であり、MはNb,Ta,W,Zr,Hf,Mo,CrおよびTiからなる群から選択される1つ以上であり、
0≦a≦0.150
0.010≦b≦0.200
0.0005≦c≦0.150
0.0005≦d≦0.180
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
を満たすFe基合金であってもよい。
また、上記の組成を有する合金はアモルファス状態であってもよく、アモルファス中にFe基ナノ結晶が析出した状態であってもよい。コア2aとコア2bとは、同じ磁性材料で構成してあることが好ましいが、別の磁性材料で構成してもよい。
【0020】
コア2a,2bのいずれかは、焼結体コアで構成してあってもよく、あるいは樹脂に分散された磁性体粒子の集合から成る圧粉コアであってもよく、あるいは磁性体層が積層してある積層磁性コアであってもよい。
【0021】
コア2aは、X軸およびY軸に略平行な平板状のベース部4aと、ベース部4aのX軸に沿って両側端部に一体的に成形してある外脚部6a,6aと、ベース部4aのX軸に沿って略中央に一体的に成形してある中脚部8aとを有する。中脚部8aと外脚部6a,6aとは、ベース部4aからZ軸に沿って同じ下側に突出している。ただし、中脚部8aのZ軸に沿うベース部4aからの飛び出し長さは、外脚部6a,6aのZ軸に沿うベース部4aからの飛び出し長さよりも短くなっている。
【0022】
同様に、コア2bは、X軸およびY軸に略平行な平板状のベース部4bと、ベース部4bのX軸に沿って両側端部に一体的に成形してある外脚部6b,6bと、ベース部4bのX軸に沿って略中央に一体的に成形してある中脚部8bとを有する。中脚部8bと外脚部6b,6bとは、ベース部4bからZ軸に沿って同じ下側に突出している。ただし、中脚部8bのZ軸に沿うベース部4bからの飛び出し長さは、外脚部6b,6bのZ軸に沿うベース部4bからの飛び出し長さよりも短くなっている。なお、ベース部4a,4bは、それぞれ平板状である必要はなく、X軸に沿って細長い棒状であってもよい。
【0023】
コア2aの中脚部8aの突出先端面である第1対向面8a1と、コア2bの中脚部8bの突出先端面である第2対向面8b1とは、所定のギャップg1で向き合っている。また、コア2aの外脚部6a,6aの突出先端面である第3対向面6a1,6a1と、コア2bの外脚部6b,6bの突出先端面である第4対向面6b1,6b1とは、実質的なギャップを有することなく突き合わされて接合してある。第3対向面6a1,6a1と第4対向面6b1,6b1とは、それぞれ、たとえば接着剤などで接合してある。
【0024】
ワイヤ3は、たとえば予めコイル状に巻回してあり、そのコイル状ワイヤの中央貫通孔のZ軸方向の両側から中脚部8a,8bが挿入されることで、中脚部8a,8bの回りにワイヤ3がコイル状に巻回されることになる。
【0025】
ワイヤ3は、絶縁被覆された導電性ワイヤであってもよく、あるいは絶縁被覆されていない導電性ワイヤであってもよい。絶縁被覆されていない導電性ワイヤを用いる場合には、コア2a,2bが絶縁性であるか、あるいはコア2a,2bとワイヤ3との間に絶縁性ボビンなどが介在してあることが好ましい。ワイヤ3は、断面が円形のワイヤであってもよく、あるいは断面が平角状のワイヤであってもよい。
【0026】
中脚部8a,8bの横断面(X軸およびY軸に略平行な断面)の形状は特に限定されず、円形でも楕円形でも多角形でもよい。外脚部6a,6bの横断面形状も同様であり、その形状は特に限定されない。
【0027】
中脚部8a(8b)のZ軸に沿うベース部4a(4b)からの飛び出し長さと、外脚部6a,6a(6b,6b)のZ軸に沿うベース部4a(4b)からの飛び出し長さとの差が、ギャップg1となる。ギャップg1は、空気以外は何も存在しない空間(エアギャップ)であってもよく、あるいは、ギャップg1には樹脂充填材(たとえば接着剤)や樹脂フィルムなどの非磁性材料が介在してあってもよい。
【0028】
図2に示すように、本実施形態では、第1対向面8a1と第2対向面8b1との少なくともいずれか一方は、7μm以上65μm未満、好ましくは15~63μm、さらに好ましくは20~60μmの算術平均粗さRaを有する。第1対向面8a1と第2対向面8b1とのいずれか他方は、好ましくは、上記の範囲内の算術平均粗さRaを有するが、7μm以下であってもよい。なお、算術平均粗さRaは、JIS-B-0601:2001に準拠して測定される。
【0029】
図2に示すように、第1対向面8a1と第2対向面8b1との間のギャップg1は、たとえば第1対向面8a1の算術表面粗さRaの平均線L1と、第2対向面8b1の算術表面粗さRaの平均線L2との間の平均距離として定義することができる。ギャップg1は、第1対向面8a1および第2対向面8b1の内のいずれか大きい方の算術平均粗さRaよりも大きいことが好ましく、たとえば算術平均粗さRaの1~20倍程度が好ましい。ギャップg1は、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。
【0030】
一般的には、ギャップg1が大きくなるほど透磁率は小さくなるが、本実施形態では、いずれかの対向面8a1または8b1の表面粗さを所定範囲内とすることで、透磁率が同じで表面粗さが所定範囲外の従来例に比べて、コアロスの低減効果と透磁率のバラツキ低減効果が大きくなる。
【0031】
コア2aの外脚部6a,6a第3対向面6a1,6a1の算術平均表面粗さRaと、コア2bの外脚部6b,6bの第4対向面6b1,6b1の算術平均表面粗さRaとは、特に限定されない。コア2aの外脚部6a,6aの第3対向面6a1,6a1と、コア2bの外脚部6b,6bの第4対向面6b1,6b1とは、それぞれギャップg1よりも十分に薄い接合部材(たとえば接着剤)で接合してあり、実質的にはギャップを形成することなく接合してあると言える。
【0032】
第3対向面6a1,6a1の算術平均表面粗さRaと、第4対向面6b1,6b1の算術平均表面粗さRaとは、好ましくは15~63μmである。第3対向面6a1,6a1と第4対向面6b1,6b1との接合を良好にするためである。第3対向面6a1,6a1と第4対向面6b1,6b1との接合のための接着剤には、磁性粒子などが含まれていてもよい。
【0033】
ギャップg1が間に形成してある中脚部8aの第1対向面8a1と中脚部8bの第2対向面8b1との表面粗さを特定範囲に制御するための方法としては、メッシュサイズの異なる研磨紙による研磨、粒径が異なるブラスト材によるブラスト処理、刃物による切削処理、針状物による穿孔処理、薬剤含侵による腐食処理などが例示される。ギャップg1の調整は、中脚部8aのZ軸に沿った長さを、外脚部6a,6aのZ軸に沿った長さよりも小さくすることで調整することができる。あるいは、ギャップg1の調整は、中脚部8bのZ軸に沿った長さを、外脚部6b,6bのZ軸に沿った長さよりも小さくすることでも調整することができる。
【0034】
本実施形態の磁性コア2では、ギャップg1が間に形成してある中脚部8aの第1対向面8a1と中脚部8bの第2対向面8b1との表面粗さを特定範囲に制御することのみで、コアの材料や構造を大きく変化させることなく容易にコアロスを低減させることができる。その理由としては、必ずしも明確ではないが、
図2に示すように、コア同士が向き合う対向面8a1,8b1の相互間で、表面粗さに基づく対向面8a1,8b1の凹凸により、磁束が集中する箇所c1が点在することになり、漏れ磁束を低減できるからではないかと考えられる。なお、磁束が集中する箇所c1としては、表面の凸同士が近づく箇所、あるいは凸と平面とが近づく箇所などが例示される。
【0035】
また、対向面8a1,8b1の算術平均粗さRaを特定の範囲とすることで、磁性コア2の透磁率のバラツキも低減できる。さらに、コアロスの低減効果や透磁率のバラツキ低減は、特に、1MHz以上の高周波において顕著に表れる。
【0036】
本実施形態において、第1コア2aおよび/または第2コア2bを、複数に積層してある軟磁性合金層の積層体で構成することで、フェライトに比べて、コアロスの低減効果が大きい。
【0037】
第2実施形態
図1Bに示すように、本発明の他の実施形態に係る磁性コア12を有するコイル装置10は、前述した実施形態と同様に、たとえばインダクタなどとして用いられ、以下に示す以外は、前述した実施形態と同様な構成を有し、同様な作用効果を奏する。
【0038】
本実施形態のコイル装置10は、磁性コア12と、コイル状に巻回してあるワイヤ3と、を有する。磁性コア12は、第1コア12aと第2コア12bとを有し、これらが組み合わされている。コア12aは、断面がU字形状のU型コアと称される。また、コア12bは、断面がI字形状のI型コアと称される。本実施形態の磁性コア12は、E型コアとI型コアの組み合わせとなる。
【0039】
コア12aは、ベース部14aと、ベース部14aのX軸に沿って両側端部に一体的に成形してある外脚部16a,16aを有する。外脚部16a,16aとは、ベース部14aからZ軸に沿って同じ下側に突出している。
【0040】
本実施形態では、ワイヤ3は、ベース部14aの外周に予めコイル状に巻回してあり、その後に、コア12aとコア12bとが組み合わせられる。なお、コア12bは、平板状または棒状のベース部14bで構成してあり、脚部を有さない構成となっているが、コア部12aと同様なU型コアであってもよい。
【0041】
コア12aの外脚部16a,16aの突出先端面である第1対向面16a1,16a1と、コア12bの第2対向面14b1,14b1とは、それぞれ所定のギャップg1で向き合っている。本実施形態では、第1対向面16a1,16a1と第2対向面14b1,14b1との間に介在される絶縁フィルムなどの厚みにより、ギャップg1を調整することができる。第1対向面16a1,16a1と第2対向面14b1,14b1とは、絶縁フィルムの粘着面で接合してあってもよい。あるいは、コア12aとコア12bとをボビンなどの別部材により保持し、第1対向面16a1,16a1と第2対向面14b1,14b1とを所定ギャップg1で向き合わせてもよい。
【0042】
本実施形態では、第1対向面16a1と第2対向面14b1との少なくともいずれか一方が、7μm以上65μm未満、好ましくは15~63μm、さらに好ましくは20~60μmの算術平均粗さRaを有する。第1対向面16a1と第2対向面14b1とのいずれか他方は、好ましくは、上記の範囲内の算術平均粗さRaを有するが、7μm以下であってもよい。
【0043】
ギャップg1が間に形成してある外脚部16aの第1対向面16a1とベース部14aの第2対向面14b1との表面粗さを特定範囲に制御するための方法としては、前述した実施形態と同様な方法を用いることができる。ベース部14aの表面は、少なくとも第2対向面14b1が上記のような表面粗さを有すればよく、第2対向面14b1のベース部14aの表面は、第2対向面14b1とは異なる表面粗さを有していてもよく、あるいは同じ表面粗さであってもよい。
【0044】
本実施形態の磁性コア12でも、ギャップg1が間に形成してある第1対向面16a1と第2対向面14b1との表面粗さを特定範囲に制御することのみで、コアの材料や構造を大きく変化させることなく容易にコアロスを低減させることができる。
【0045】
また、対向面16a1,14b1の算術平均粗さRaを特定の範囲とすることで、磁性コア12の透磁率のバラツキも低減できる。さらに、コアロスの低減効果や透磁率のバラツキ低減は、特に、1MHz以上の高周波において顕著に表れる。
【0046】
本実施形態においても、第1コア12aおよび/または第2コア12bを、複数に積層してある軟磁性合金層の積層体で構成することで、フェライトに比べて、コアロスの低減効果が大きい。
【0047】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0048】
たとえば、上述した実施形態の磁性コアは、E型コアとE型コアの組み合わせ、あるいはE型コアとI型コアの組み合わせであるが、それに限定されず、たとえばE型コアとI型コアの組み合わせ、U型コアとU型コアの組み合わせ、ポット型コアと平板コアの組み合わせ、あるいはその他のタイプのコア同士の組み合わせであってもよい。さらに、上述した実施形態では、2つのコア同士の組み合わせで閉磁路を組み立てているが、3つ以上のコアの組み合わせで閉磁路を組み立ててもよい。
【0049】
なお、磁性コアに二つ以上のギャップg1が存在する場合には、幅が広い方のギャップg1の方が磁性コアの特性に大きく影響することから、幅が広い方のギャップg1を持って向き合っている対向面のいずれかの算術平均表面粗さが、上述した実施形態の所定の関係にあればよい。
【0050】
また、磁性部品としては、インダクタ、およびその特性から例えばノイズフィルタ、チョークコイル、電源用チョーク、また高周波トランスなどが例示される。
【実施例0051】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0052】
実施例1
図1Bに示すように、ワイヤ3が巻線された第1コア12aと、第2コア12bとを準備した。第1コア12aおよび12bは、Mn-Zn系フェライトから成る磁性体で構成した。各コア12aおよび12bは、フェライト粒子を金型内で所定形状に成型した成形体を焼結することにより得られる。各コア12a,12bの対向面16a1,14b1は、面方向に均一な幅のギャップを得るために、それぞれ研磨装置(Struers社製S5629)により算術平均表面粗さRaが4μm以下となるように研磨した。
【0053】
その後に、第1対向面16a1を#80の研磨紙によって表面処理して表面を意図的に荒らした。第2対向面14b1は、研磨装置により研磨した研磨面を維持させた。第1対向面16a1の算術平均粗さRaは7μmで、第2対向面14b1の算術平均粗さRaは4μmであった。Raは、JIS-B-0601:2001に準拠した方法で、小坂研究所製表面形状測定器サーフコーダETA4000Aを使用して測定した。
【0054】
次に、第1コア12aのベース部14aに絶縁被覆の銅線ワイヤ3を5ターンで巻き付け、第1対向面16a1と第2対向面14b1との間に所定の厚みのPETフィルムを挟むことでギャップg1を形成して、第1コア12aと第2コア12bとを組み合わせた。このように作製されて無作為に抽出された10個のコイル装置12のサンプルについて、平均透磁率が400(±20以内)となるように、一定厚みのPETフィルムを選択してギャップg1を調整した。透磁率は、LCRメータを用いて1MHzにおける値を測定した。また、このときの透磁率のバラツキ(標準偏差)σを求めた。結果を表1に示す。
【0055】
なお、ギャップg1は、第1対向面16a1の算術平均粗さの半分と、第1対向面14b1の算術平均粗さの半分と、PETフィルムの厚みを合算することにより求めた。
【0056】
また、得られたコイル装置10のサンプルについて、B-Hアナライザを用いて周波数1MHz、磁束密度10mTでコアロスの測定を行った。結果を表1に示す。なお、後述する比較例1のコアロスを100%とした場合の実施例1におけるコアロスがどの程度低減されたかをロス低減率として計算した。結果を表1に示す。
【0057】
比較例1
第1対向面16a1および第2対向面14b1の双方共に、研磨装置による研磨面の状態を維持させ、これらの面の算術平均粗さRaを4μmとしたことと、平均透磁率を実施例1と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例1と同様にしてコイル装置のサンプルを作製した。得られた10個のサンプルについて実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。なお、PETフィルムとしては、実施例1に比べて厚いフィルムを用いた。
【0058】
比較例2
表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面16a1の算術平均粗さRaを6μmとしたことと、平均透磁率を実施例1と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、比較例1と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。なお、PETフィルムとしては、比較例1に比べて薄いフィルムを用いた。
【0059】
実施例2
表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さRaを15μmとしたことと、平均透磁率を実施例1と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例1と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。なお、PETフィルムとしては、実施例1に比べて薄いフィルムを用いた。
【0060】
実施例3
表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さRaを34μmとしたことと、平均透磁率を実施例1と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例1と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。なお、PETフィルムとしては、実施例2に比べて薄いフィルムを用いた。
【0061】
実施例4
表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さRaを54μmとしたことと、平均透磁率を実施例1と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例1と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。なお、PETフィルムとしては、実施例3に比べて薄いフィルムを用いた。
【0062】
実施例5
表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さRaを63μmとしたことと、平均透磁率を実施例1と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例1と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。なお、PETフィルムとしては、実施例4に比べて薄いフィルムを用いた。
【0063】
比較例3
表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さRaを68μmとしたことと、平均透磁率を実施例1と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例1と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。なお、PETフィルムとしては、実施例5に比べて薄いフィルムを用いた。
【0064】
<評価1>
第1対向面16a1の算術平均粗さRaが所定の範囲内である実施例1~5においては、比較例1および比較例2に対してコアロスが低減されている。また、特に比較例3に対して、実施例1~5は透磁率のバラつきも少なくなっている。
【0065】
実施例11
第1コア12aおよび第2コア12bを、Fe-Si-Nb-B-Cu合金積層体からなる磁性体で構成した以外は実施例1と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。なお、実施例11以降では、後述する比較例11のコアロスを100%とした場合の実施例11におけるコアロスがどの程度低減されたかをロス低減率として計算した。
【0066】
比較例11
表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さRaを5μmとしたことと、平均透磁率を実施例11と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例11と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例11と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0067】
比較例12
表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さを6μmとしたことと、平均透磁率を実施例11と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例11と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例11と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0068】
実施例12
表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さRaを21μmとしたことと、平均透磁率を実施例11と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例11と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例11と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0069】
実施例13
表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さRaを35μmとしたことと、平均透磁率を実施例11と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例11と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例11と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0070】
実施例14
表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さRaを53μmとしたことと、平均透磁率を実施例11と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例11と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例11と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0071】
実施例15
表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さRaを64μmとしたことと、平均透磁率を実施例11と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例11と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例11と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0072】
比較例13
表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さRaを69μmとしたことと、平均透磁率を実施例11と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例11と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例11と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0073】
<評価2>
算術平均粗さRaが所定の範囲内である実施例11~15においては、比較例11および12に対してコアロスが低減されている。また、特に比較例13に対して、実施例11~15では透磁率のバラつきも少なくなっている。
【0074】
実施例21
第2対向面に対しても表面処理を行い、表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第2対向面の算術平均粗さRaを7μmとしたことと、平均透磁率を実施例1と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例1と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例1と同様の測定を行った。結果を表2に示す。
【0075】
実施例22
第2対向面に対しても表面処理を行い、表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第2対向面の算術平均粗さRaを7μmとしたことと、平均透磁率を実施例11と同等にするためにPETフィルムの厚みを調整した以外は、実施例11と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例11と同様の測定を行った。結果を表2に示す。
【0076】
実施例23
第2対向面に対しても表面処理を行い、表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第2対向面の算術平均粗さRaを35μmとした以外は、実施例13と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例13と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0077】
実施例24
第2対向面に対しても表面処理を行い、表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第2対向面の算術平均粗さRaを64μmとした以外は、実施例15と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例15と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0078】
実施例25
第2対向面に対しても表面処理を行い、表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第2対向面の算術平均粗さRaを34μmとした以外は、実施例15と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて実施例15と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0079】
<評価3>
実施例21においては実施例1に対してコアロスが、さらに低減されている。また、実施例22においては実施例11に対してコアロスが、さらに低減されている。また、実施例23においては実施例13に対してコアロスが同等であり、実施例24および25においては実施例15に対してコアロスが同等以下であった。すなわち、特に第1対向面および第2対向面の算術平均粗さRaが小さい場合、第1対向面のみでなく第2対向面に関しても、算術平均表面粗さRaを所定の範囲内とすることで、コアロスが同等なことが確認できた。
【0080】
<評価4>
実施例1~5、実施例11~15、比較例1~3および比較例11~13のサンプルに関して、周波数を1MHzから3MHzに替えて、コアロスの低下率を、上記と同様にして測定した結果を表3に示す。表3に示すように、特に高周波領域において、実施例では、比較例に比較して、コアロスの低下率が向上することが確認できた。
【0081】
実施例31~33および比較例31
第1対向面および第2対向面に対して表面処理を行い、表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さRa、第2対向面の算術平均粗さおよびギャップg1を表4に示す値となるようにPETフィルムの厚みを調整し、平均透磁率を相互間で調整しなかった以外は、実施例1と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて、実施例1と同様に透磁率のバラつきを求めた。結果を表4に示す。
【0082】
実施例41~44および比較例41
第1対向面および第2対向面に対して表面処理を行い、表面処理の際の研磨紙の粒度ならびに処理時間を調整し、第1対向面の算術平均粗さRa、第2対向面の算術平均粗さおよびギャップg1を表4に示す値となるようにPETフィルムの厚みを調整し、平均透磁率を相互間で調整しなかった以外は、実施例11と同様にサンプルを作製した。得られたサンプルについて、実施例11と同様に透磁率のバラつきを求めた。結果を表4に示す。
【0083】
<評価5>
表4に示すように、コア材質によらず、特にギャップが小さい領域では、ギャップが大きくなるにつれて、透磁率のバラつきが小さくなる傾向が確認できた。なお、実施例31~33および比較例31については、ギャップが小さく、これらの間で透磁率を揃えることが困難であったため、コアロスの比較は行わなかった。また、実施例41~44および比較例41についても、ギャップが小さく、これらの間で透磁率を揃えることが困難であったため、コアロスの比較は行わなかった。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】