(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168811
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H01Q 19/10 20060101AFI20231121BHJP
H04B 7/10 20170101ALI20231121BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20231121BHJP
H01Q 1/22 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
H01Q19/10
H04B7/10 A
H01Q21/06
H01Q1/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080143
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】本江 直樹
【テーマコード(参考)】
5J020
5J021
5J047
【Fターム(参考)】
5J020AA04
5J020BA06
5J020BA18
5J020BC04
5J020DA03
5J021AA09
5J021GA02
5J021GA04
5J047AA04
5J047AB03
5J047EF01
(57)【要約】
【課題】カバーエリアの拡大を実現しつつ、消費電力の抑制、無線機コストの削減、基地局敷設コストの低減を図ることが可能な無線通信システムを提供する。
【解決手段】無線通信システムは、複数のアンテナ素子を用いて固定の方向に指向性を持つビーム状の電波を発射するRU410を有する基地局と、受信した電波を散乱反射する電波散乱コンポーネント420とを備える。RU410は、建物の床側に設置されて、建物の天井方向に向けてビーム状の電波を発射する。電波散乱コンポーネント420は、建物の天井側で且つビーム状の電波が発射される方向の延長線上に設置される。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の屋内に配備される基地局を備えた無線通信システムにおいて、
複数のアンテナ素子を用いて固定の方向に指向性を持つビーム状の電波を発射する無線アンテナユニットを有する基地局と、
受信した電波を散乱反射する電波散乱コンポーネントとを備え、
前記無線アンテナユニットは、前記建物の床側に設置されて、前記建物の天井方向に向けて前記ビーム状の電波を発射し、
前記電波散乱コンポーネントは、前記建物の天井側で且つ前記ビーム状の電波が発射される方向の延長線上に設置されることを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記無線アンテナユニットは、前記建物の床側にあるオブジェクトの上面に設置されることを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記無線アンテナユニットは、前記建物の床面に設置されることを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記無線アンテナユニットは、前記ビーム状の電波を真上方向に発射するように設置されることを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記アンテナ素子と他の電気部品とを電気的に接続する配線の長さが、全てのアンテナ素子で同じであることを特徴とする無線通信システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の無線通信システムにおいて、
前記無線アンテナユニットおよび前記電波散乱コンポーネントを複数備えたことを特徴とする無線通信システム。
【請求項7】
請求項6に記載の無線通信システムにおいて、
複数のアンテナ素子を用いて任意の方向に指向性を持つビーム状の電波を発射する別の無線アンテナユニットを更に備え、
前記別の無線アンテナユニットは、前記建物の天井側に設置されて、前記建物の床方向に向けて前記ビーム状の電波を発射することを特徴とする無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋内に配備される基地局を備えた無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線アクセスシステムが普及し、豊かな生活を送るためには無くてはならないものとなっている。携帯電話の第1世代から第4世代までを振り返ると、主に無線通信の高速化のための技術が進化してきた。第5世代では、高速化に加えて超低遅延及び多数同時接続性が要求される。これらの実現のためには広帯域化が有効であること、また、周波数の利用状況がひっ迫していることから、第5世代以降では、ミリ波帯をはじめとする高周波帯の利用が効果的である。例えば、第5世代ではミリ波帯に近い28GHz帯が使用される。
【0003】
しかしながら、周波数が高くなる(すなわち、波長が短くなる)と、例えば1つの平面アンテナの受信面積が小さくなるため、マイクロ波帯と比較して伝搬損失が大きくなるという課題がある。また、伝搬損失が大きくなると、無線機あたりのカバーエリアが小さくなるため、コストの増大を招いてしまうという。
【0004】
この課題を解決するために、第5世代ではビームフォーミング(Beam Forming;BF)技術が採用される。BF技術は、複数のアンテナを配置(アレー)し、各アンテナ素子の送信信号の振幅と位相を制御することで、鋭いアンテナ指向性を得ることができる。また、アンテナ利得によって電波伝搬損失を補償することができる。
【0005】
送信BFでは、複数のアンテナから放射する送信信号の位相を制御して空間合成することで、或る場所では各アンテナから放射された電波の位相が同相に近くなって電力を強め合い、また或る場所では各アンテナから放射された電波が電力を打ち消し合う。その結果、電力を強め合う場所では合成利得を得ることができるため、電波伝搬損失を補償して、長距離伝送が可能となる。あるいは、受信機での所望信号電力対雑音電力比が大きくなるため、直交振幅変調の多値数を大きくすることで高速伝送が可能となる。
【0006】
図1を参照して、BFによって狭小ビームを形成する場合の指向性について説明する。ここでは、アンテナとして、マイクロ波帯やミリ波帯において多く採用されている平面アンテナを用いる場合を例とした。
図1(a)は1サブアレイ(または1素子)の場合の例であり、アンテナビームは平面アンテナの指向性を有する。
図1(b)は4サブアレイの場合の例であり、1サブアレイと比較してアンテナビームの指向性は鋭くなり、正面方向の合成電力は大きくなる。
図1(c)は16サブアレイの場合の例であり、アンテナビームの指向性は更に鋭くなり、正面方向の合成電力も更に大きくなる。
図1(d)は16サブアレイであるが、
図1(c)とは各アンテナ素子の送信信号の位相が異なる場合の例であり、正面よりも左側にアンテナビームの指向性が向くように制御されている。
【0007】
アンテナ指向性を鋭くすることによって、他の無線機に与える干渉を小さくすることができ、周波数の利用効率が良くなるという利点もある。BF技術の原理や指向性制御方法などは多くの文献で公知の技術となっているので、具体的な説明を省略する。また、特許文献1に示すように、アナログBFとデジタルBFを組み合わせたハイブリッドBFの開発も進められている。
【0008】
受信BFは、各アンテナの受信信号を合成する際に、所望波の到来方向のゲインを最大化する方法や、干渉波の到来方向のゲインを最小化する方法などがある。また、複数のアンテナを備えて空間ダイバーシティを行うことで、受信性能が良くなることも知られている。また、伝搬環境の変化に応じて上記受信技術の中から最適な方法を自動的に選択して実行するアルゴリズムについても、種々の研究や実用化が行われている。
【0009】
上記の課題を解決する別の技術として、第5世代移動通信システム(5Gシステム)の基地局(gNodeB)に適用できる分散アンテナシステム(Distributed Antenna System;DAS)がある。
図2には、基地局における分散アンテナシステムの構成例を示してある。コアネットワークと接続される基地局100は、CU(Central Unit)110と、CU110に接続された複数のDU(Distributed Unit)120と、各DU120にそれぞれ接続された複数のRU(Radio Unit)130とを備える。CU110は、データ処理やネットワーク制御を主に実行する集中制御装置である。DU120は、無線信号処理を主に実行するユニットである。RU130は、一般的な無線機の無線部に相当するユニットであり、RFユニットやアンテナなどで構成される。
【0010】
図2のような分散アンテナシステムは、1つのCU110で複数のDU120を集中的に制御することで、経済的なメリットを得ることができる。
図2では、1つのDU120に対して1つのRU130を接続してあるが、1つのDU120に対して複数のRU130が接続される場合もある。なお、
図2の分散アンテナシステムでは、DU120の配下の複数のRU130は、互い異なる移動局との無線通信に使用される。5Gシステムのアーキテクチャは、例えば、O-RAN(Open Radio Access Network)として規定されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0011】
図3には、基地局における分散アンテナシステムの別の構成例を示してある。コアネットワークと接続される基地局200は、CU210と、CU210に接続された複数のDU220とを備える。CU210は、データ処理やネットワーク制御を主に実行する集中制御装置である。DU220は、無線信号処理を主に実行するユニットであり、RFユニットやアンテナなどで構成される。
図3のDU220は、
図2のRU130を含む表現である(例えば、非特許文献2参照)。
【0012】
図4には、
図3の分散アンテナシステムにおけるDU220の構成例を示してある。また、
図5には、
図3の分散アンテナシステムにおけるDU220の配置例を示してある。
図4及び
図5に示すように、DU220は、BBU(Base Band Unit)230と、BBU230に接続された複数のRU(Radio Unit)240とを備えている。
図2の分散アンテナシステムでは、DU120の配下の複数のRU130は、互い異なる移動局との無線通信に使用されるのに対し、
図3の分散アンテナシステムでは、DU220の配下の複数のRU240は、後述するように、互いに同じ移動局との無線通信に使用される。
【0013】
BBU230は、分散アンテナシステムのベースバンド信号処理や制御などを集中的に行うユニットである。RU240は、一般的な無線機の無線部に相当するユニットであり、RFユニットやアンテナなどで構成される。本例では、複数のRU240が、各々のカバーエリア242を補い合うように互いに間隔を置いて配置される。CU210とBBU230、及び、BBU230とRU240は、光ファイバなどの接続ケーブル250で接続される。
【0014】
RU240は、送受信アンテナ、電力増幅部、LNA(Low Noise Amplifier)、周波数フィルタ、D/A(Digital to Analog)変換部、A/D(Analog to Digital)変換部、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調部、OFDM復調部、O/E(Optical to Electronic)変換部、E/O(Electronic to Optical)変換部などを有する。
【0015】
BBU230は、CU210から伝送された下りリンクの信号を複数のRU240に分配する。複数のRU240の各々は、BBU230から分配された同一の下りリンクの信号を送受信アンテナから送信する。また、BBU230は、複数のRU240の各々から伝送された上りリンクの信号を受信し、これらを合成する。複数のRU240から伝送された上りリンクの信号は、通信相手となる移動局とRU240との位置関係、電波環境、雑音等により、一般的に異なる。BBU230は、合成した上りリンクの信号をCU210へ送信する。
【0016】
BBU230に複数のRU240を接続して集中制御することで、基地局のカバーエリアを拡大することができる。また、カバーエリアの広さに対してBBU230の数を相対的に抑えることができるため、経済的である。分散アンテナシステムはカバーエリアの拡大を目的としているため、BBU230から各RU240に分配して各RU240のアンテナから送信する信号は、BBU230に接続された全てのRU240で同一である。一方、各RU240のアンテナで受信してBBU230に集約する信号は、RU240毎に異なっており、BBU230で合成してCU210へ送信される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】ウメシュ・アニール,外3名、「O-RANフロントホール仕様概要」、NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol.27 No.1、2019年4月、p.43~55
【非特許文献2】ウメシュ・アニール,外4名、「5G無線アクセスネットワーク標準化動向」、NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol.25 No.3、2017年10月、p.33~43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ミリ波帯は、屋外にある無線機から建物の中(すなわち、屋内)への透過損失がマイクロ波帯と比較して大きく、電波を受信できるエリアが小さくなる。このため、分散アンテナシステムなどを用いて屋内のカバーエリアを拡大する必要がある。しかしながら、BF機能を備えた無線機で分散アンテナシステムを構築する場合、鋭い指向性のアンテナビームを動的に制御するために、最大のエリア拡張効果および最大の無線通信性能を必ずしも得られないという問題がある。また、無線アンテナユニットの設置に制約があるという問題もある。
【0020】
図6を参照して、従来方式における第1の課題を説明する。同図には、建物の壁310にRU240を設置した例を示してある。RU240はBF機能を備えており、電波の伝搬距離が大きくなるが、アンテナビームの指向性が鋭くなる。そのため、遮蔽物(例えば、柱320)が存在する場合には、遮蔽物によって電波が阻害されてそこから先には電波が届かず、また、ミリ波では電波が回折しにくいので、予定されたカバーエリア330の範囲内に不感地帯340が発生してしまう。特に、屋内ではRU240を設置する高さが建物の壁や天井の高さによって制限されるので、遠方にビームを向けると床とビームのなす角が小さくなり、人などの比較的低い遮蔽物によっても電波が阻害されてしまう。
【0021】
図7を参照して、従来方式における第2の課題を説明する。同図には、建物の天井350にRU240を設置した例を示してある。遮蔽物は床に接している場合が多く、天井設置のRU240からは略見通し環境となるため、第1の課題は解決される。しかしながら、BFによって遠方まで電波を伝搬させる能力があるにも関わらず、屋内では天井の高さによって設置高さが制限されるため、カバーエリア330が小さくなってしまう。例えば、平面アンテナの指向性半値幅を一般的な90°として計算すると、カバーエリア330は設置高さ(h)を半径とする円に留まってしまう。このように、BF機能付きのRU240を天井に設置する構成は、コストに対してのパフォーマンスが著しく低い。
【0022】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、カバーエリアの拡大を実現しつつ、消費電力の抑制、無線機コストの削減、基地局敷設コストの低減を図ることが可能な無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の目的を達成するために、本発明に係る無線通信システムは、以下のように構成される。
すなわち、建物の屋内に配備される基地局を備えた無線通信システムにおいて、複数のアンテナ素子を用いて固定の方向に指向性を持つビーム状の電波を発射する無線アンテナユニットを有する基地局と、受信した電波を散乱反射する電波散乱コンポーネントとを備え、無線アンテナユニットは、建物の床側に設置されて、建物の天井方向に向けてビーム状の電波を発射し、電波散乱コンポーネントは、建物の天井側で且つビーム状の電波が発射される方向の延長線上に設置される。
【0024】
一例として、無線アンテナユニットは、建物の床側にあるオブジェクトの上面に設置される。別の例として、無線アンテナユニットは、建物の床面に設置される。また、無線アンテナユニットは、例えば、ビーム状の電波を真上方向に発射するように設置され得る。また、アンテナ素子と他の電気部品とを電気的に接続する配線の長さは、例えば、全てのアンテナ素子で同じであり得る。
【0025】
また、無線通信システムは、無線アンテナユニットおよび電波散乱コンポーネントを複数備えてもよい。この場合、無線通信システムは、複数のアンテナ素子を用いて任意の方向に指向性を持つビーム状の電波を発射する別の無線アンテナユニットを更に備え、この別の無線アンテナユニットは、建物の天井側に設置されて、建物の床方向に向けてビーム状の電波を発射してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、カバーエリアの拡大を実現しつつ、消費電力の抑制、無線機コストの削減、基地局敷設コストの低減を図ることが可能な無線通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】平面アンテナとビームフォーミングの指向性の例を示す図である。
【
図2】分散アンテナシステムの構成例を示す図である。
【
図3】分散アンテナシステムの別の構成例を示す図である。
【
図4】
図3の分散アンテナシステムにおけるDUの構成例を示す図である。
【
図5】
図3の分散アンテナシステムにおけるDUの配置例を示す図である。
【
図6】従来方式における第1の課題の例を示す図である。
【
図7】従来方式における第2の課題の例を示す図である。
【
図8】本発明の第1実施例に係る無線通信システムの構成例を示す図である。
【
図9】
図8の無線通信システムにおけるRUの構成例を示す図である。
【
図10】
図8の無線通信システムにおけるRUが有するアンテナの構成例を示す図である。
【
図11】本発明の第2実施例に係る無線通信システムの構成例を示す図である。
【
図12】
図11に示す無線通信システムにおける基地局の機能分割の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施形態に係る無線通信システムについて、図面を参照して説明する。
(第1実施例)
図8には、本発明の第1実施例に係る無線通信システムの構成例を示してある。第1実施例に係る無線通信システムにおける基地局は、
図2に示す基地局の構成をベースにしており、建物の屋内に配備される。本発明が主題とするエリア拡大は主にRUが担うこと、および、本発明が解決しようとする課題がRUに関するものであることから、
図8では、DU120より先でのエリア拡大の部分に焦点を当てている。本例の無線通信システムは、RU410を有する基地局と、電波散乱コンポーネント420とを備える。
図8では、1つのRU410と、1つの電波散乱コンポーネント420とを示しているが、RU410および電波散乱コンポーネント420のセットを複数備えてもよい。
【0029】
RU410は、複数のアンテナ素子を用いて固定の方向に指向性を持つビーム状の電波を発射するアンテナを有するユニットであり、BF機能は備えていない。RU410は、建物の床側に設置され、建物の天井の方向へビーム状の電波を発射し、また、天井側からの電波を受信することが可能である。
図8では、床面に置かれたオブジェクト360にRU410を配置し、ビーム状の電波を真上方向に発射するようにしてある。オブジェクト360は、例えば、設置台、デスク、テーブル等であり、その上面にRU410が設置される。RU410と電波散乱コンポーネント420が見通し環境となるように、その間に遮蔽物を配置しないことが望ましい。RU410は、接続ケーブル250を通じて、
図2に示したDU120と接続される。
【0030】
電波散乱コンポーネント420は、受信した電波を散乱反射する効果のあるコンポーネントである。電波散乱コンポーネント420は、建物の天井側で、且つ、RU410から発射されるビーム状の電波が発射される方向の延長線上に設置される。
図8では、RU410がビーム状の電波を真上方向に発射するので、RU410の真上の天井位置に電波散乱コンポーネント420を設置してある。床側のRU410から天井方向に発射されるビーム状の電波を、天井側の電波散乱コンポーネント420によって床側に散乱反射させることで、RU410のカバーエリアを拡大する効果が得られる。
【0031】
第1実施例に係る無線通信システムの動作について説明する。まず、基地局から移動局(例えば、スマートフォンなど)へ無線信号を送信する下りリンクについて説明する。下りリンクにおいて、基地局のRU410には、移動局に対する信号が、DU120から接続ケーブル250を通じて入力される。RU410は、入力された信号を無線信号に変換し、天井方向へ向けて発射されるビーム状の電波により送信する。RU410からの電波は、電波散乱コンポーネント420によって床側へ反射される。電波散乱コンポーネント420は、電波を反射する際に電波を散乱させる作用がある。この電波散乱の作用の効果として、RU410からの電波が到達するエリアを拡大することが可能である。
【0032】
次に、移動局から基地局へ無線信号を送信する上りリンクについて説明する。上りリンクにおいて、移動局は、基地局に対する無線信号を、下りリンクの無線信号の到来方向、すなわち、電波散乱コンポーネント420の方向へ向けて送信する。移動局からの電波は、電波散乱コンポーネント402によって床側へ反射される。電波散乱コンポーネント420は、前述の通り、電波を反射する際に電波を散乱させる作用がある。このため、移動局からの電波の一部がRU410へと到達し、RU410によって受信される。RU410は、受信した無線信号をデジタル信号、光信号等に変換し、接続ケーブル250を通じてDU120へ出力する。
【0033】
下りリンクおよび上りリンク共に、電波散乱コンポーネント420によって電波を散乱するため、従来のBFと同じ電力で送信しても受信電力が小さくなる。そこで、本例では、電力を補完するために、RU410のアンテナの素子数を増やしてアンテナ利得を大きくする。パッシブなアンテナ素子を使用できるので、コストの増加は軽微である。また、アンテナ素子の増加に伴って、電波の指向性が強くなる。言い換えれば、電波が狭小になる(すなわち、狭小ビーム化する)。このため、BFでは移動局の追従が困難になるが、本例の電波散乱コンポーネント420は固定設置されているので、特に問題とならない。また、電力増幅器やLNAを増やすことと比較して有利である。更に、低消費電力化も可能となる。
【0034】
図9には、本例の無線通信システムの基地局におけるRU410の構成例を示してある。RU410は、
図9に示すように、構成要素として、O/E変換器501と、D/A変換器502と、周波数変換部503と、電力増幅器(Power Amplifier;PA)504と、TDD(Time Division Duplex)用スイッチ505と、アンテナ506と、LNA(Low Noise Amplifier)507と、周波数変換部508と、A/D変換器509と、E/O変換器510とを有する。
【0035】
DU120からの信号は、O/E変換器501で光信号から電気信号に変換される。D/A変換器502は、O/E変換によって得られたデジタル信号をアナログ信号に変換する。周波数変換部503は、D/A変換によって得られたIF信号をRF信号に周波数変換する。電力増幅器504は、周波数変換後のRF信号の電力を増幅する。TDD用スイッチ505は、下りリンク(送信)又は上りリンク(受信)で経路を切り替える。下りリンクでは、アンテナ506からRF信号が送信される。
【0036】
上りリンクでは、アンテナ506により移動局からのRF信号を受信する。LNA507は、アンテナ506によって受信されたRF信号を増幅する。周波数変換部508は、増幅後のRF信号をIF信号に周波数変換する。A/D変換器509は、周波数変換後のIF信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。E/O変換器510は、A/D変換によって得られた電気信号を光信号に変換する。
【0037】
図9では、説明を簡潔にするために必要な機能ブロックのみを示したが、当業者には周知である、バンドパスフィルタ、AGC(Automatic Gain Control)、AFC(Automatic Frequency Control)などの種々の要素が、図示した各構成要素の間に挿入されてもよい。
【0038】
図10には、
図8の無線通信システムの基地局におけるRU410が有するアンテナ506の構成例を示してある。アンテナ506は、
図1を参照して説明したような平面アンテナ構造である。従来の方法ではBFを行うため、送信時は各アンテナ素子に振幅や位相が異なる送信信号を供給する必要があり、受信時は各アンテナ素子の信号を独立して個別にBF部に供給する必要があった。また、BF用の振幅制御や位相制御が必要であり、例えば、アナログBFを行う場合には、増幅器や電力減衰器や移相器を備える必要があった。あるいは、デジタルBFを行う場合には、アンテナ素子数と同数のD/A変換器やA/D変換器が必要であり、無線機の小型化やコスト低減の妨げとなっていた。
【0039】
これに対し、本例ではBFを行わないので、BF用の振幅制御および位相制御が不要となる。また、電力増幅器やLNAは一つでもよい。
図10に示すように、増幅器やLNAなどの他の電気部品と各アンテナ素子(図中の黒い四角形)は、マイクロストリップラインなどにより、互いに同じ長さの配線で電気的に接続される。このように、各アンテナ素子と他の電気部品とを接続する配線の長さを全てのアンテナ素子で同じ(等長配線)とした場合には、各アンテナ素子の送信信号の位相が互いに一致するので、電波の指向性は正面方向となる(
図1(c)参照)。
図8に示すRU410と電波散乱コンポーネント420は、RU410からの電波の指向性の方向と電波散乱コンポーネント420の正面方向とが一致する位置関係になるように配置される。つまり、RU410と電波散乱コンポーネント420は、互いに正対するように配置される。
【0040】
次に、電波散乱コンポーネント420の具体例について説明する。一例として、電波散乱コンポーネント420は、電波を反射する材質で形成され、反射面が凸面の形状を有する。電波を反射する凸面鏡は、電波を散乱することが知られている。一方、通常の平面鏡は、入射角と反射角が物理法則によって定まり、鏡面に対して垂直に入射した電波は同じ方向に反射する。別の例として、電波散乱コンポーネント420は、電波を反射する材質で形成された平板などに、凹凸のエンボス加工を施すことで、積極的に電波を散乱させるものである。電波の波長によって凹凸の密度を調整することで、目的とする周波数の電波を散乱できることが知られている。
【0041】
(第2実施例)
図11には、本発明の第2実施例に係る無線通信システムの構成例を示してある。第2実施例は、
図3~
図5の分散アンテナシステムに本発明を適用した例である。
図11では、建物の同じ部屋内に、RU410および電波散乱コンポーネント420のセットが3つ配置されている。これらRU410は、接続ケーブル250を通じて、
図4に示したBBU230と接続される。なお、RU410および電波散乱コンポーネント420のセット数は任意である。
【0042】
RU410はBF機能を備えておらず、天井の方向への電波の送信、および、天井側からの電波の受信を行えるように、建物の床側にあるオブジェクト360上に設置される。また、天井には、電波を散乱する効果のある電波散乱コンポーネント420が設置される。電波散乱コンポーネント420は、RU410と同数(本例では3つ)が設置される。床側のRU410から天井方向に発射されるビーム状の電波を、天井側の電波散乱コンポーネント420によって床側に散乱反射させることで、RU410のカバーエリアを拡大する効果が得られる。
【0043】
RU410および電波散乱コンポーネント420のセットは、各々の電波散乱コンポーネント420により散乱反射された電波の到達エリアが互いに補い合って部屋全体をカバーできるように、ある程度の間隔を置いて設置される。RU410および電波散乱コンポーネント420のセットの間隔は、電波散乱コンポーネント420が電波を反射する際に電波を散乱する範囲に応じて決定すればよい。
【0044】
BBU230は、複数のRU410の中から移動局との無線通信に用いるものを選択するRU選択機能を備えている。RU選択機能は、BFの制御に使用されるBF制御情報を利用することで、実現することが可能である。BF制御情報は本来、複数のBFパタンの中から1つを選択するための制御に使用されるが、ここでは、移動局との無線通信に用いるRU410の選択に使用する。つまり、BF制御情報に従ってBFパタンを選択する動作に代えて、RU410を選択する動作を行うようにする。なお、BBU230とRU410の間にHUB(例えば、スイッチングハブ)を介在させる場合には、HUBにRU選択機能を設けてもよい。
【0045】
以下、RU選択機能について説明する。まず、DUとRUとのインタフェースについて説明しておく。例えば第4世代までのRRH(Remote Radio Head)では、CUとDU間の信号の伝送は、RoF(Radio over Fiber)にて行うことが主流であった。しかしながら、5Gでは信号帯域幅が数百MHzと広帯域であり、光ファイバの伝送容量が膨大になって現実的でない。そのため、送信時はOFDM変調前のデジタル信号を光伝送し、受信時はOFDM復調後のデジタル信号を光伝送することで、伝送容量を抑える方法が採用されている。また、5Gの無線周波数にはミリ波などの高周波帯が使用されるため、多素子アンテナを用いてBFを行うことが考慮されており、光伝送するデジタル信号の中に、BFに関する信号が制御信号として含まれる。
【0046】
次に、基地局機能のCUおよびDUへの機能分割について説明する。5Gシステムのアーキテクチャの一例として、非特許文献1に示すようにO-RAN(Open Radio Access Network)があり、O-RAN仕様で規定されたSplit7にて制御信号(C-plane)のフォーマットが規定されている。以下では、基地局機能のCUおよびDUへの機能分割について、広く用いられているO-RAN仕様のインタフェース「split7」を例にして説明するが、これに限定するものではない。
【0047】
図12には、
図11に示した無線通信システムにおける基地局の機能分割の例を示してある。基地局の機能としては、RRC(Radio Resource Control)601、PDCP(Packet Data Convergence Protocol)602、RLC(Radio Link Control)603、MAC(Medium Access Control)604、PHY(PHYsical layer)605、RF(Radio Frequency)606の各機能がある。
【0048】
O-RAN「split7」では、PHY605の機能が分割される。分割されたPHY605の機能のうち、CU側をPHY-high605H、DU側をPHY-low605Lと定義する。PHY-high605Hの機能には、[下りリンク/上りリンク]表現で、[符号化/復号]、[スクランブリング/デスクランブリング]、[変調/復調]、[レイヤマッピング/等価処理,IDFT]、[プリコーディング/チャネル推定]、[リソースエレメントマッピング/リソースエレメントデマッピング]がある。PHY-Low605Lの機能には、[送信デジタルBF/受信デジタルBF]、[IFFT/FFT]がある。RF606の機能には、[D/A変換/A/D変換]、[送信アナログBF/受信アナログBF]がある。
【0049】
PHY-high605HとPHY-low605Lは、接続ケーブル250により接続される。接続ケーブル250のインタフェース中のU-plane(User-plane)には、マッピングされた送信データ、及び、FFT(Fast Fourier Transform)された受信データが含まれる。接続ケーブル250のインタフェース中のC-plane(Control-plane)には、BF制御情報の一例であるBeamIDが含まれる。BeamIDは、RUにプリセットされた複数のBFパタンの中から1つを選択するための情報である。
【0050】
本例では、BeamIDを、BFパタンの選択に使用するのではなく、RU410の選択に使用する。つまり、BeamIDを、複数のRU410をそれぞれ識別する識別情報であるRUIDに予め対応付けておく。そして、制御信号にて指定されたBeamIDに対応するRUIDを持つRU410を、移動局との無線通信を行うRUとして選択する。選択されたRU410は、BeamIDに応じてBFパタンを切り替えるのではなく、固定の方向に指向性を持つビーム状の電波を発射する。
【0051】
したがって、選択されたRU410から発射される電波は、BeamIDにかかわらずに
図8のような指向性となるので、広いエリアをカバーすることができる。また、Beamサーチの処理において、移動局は最も良好な無線環境のBeamIDを選択してRU410への送信を行うが、実際には全てのBeamIDに対して略同じような無線環境となり、いずれが選択されても問題がない。このため、従来の無線インタフェースを変更する必要がない。
【0052】
以上のように、第1実施例や第2実施例に係る無線通信システムは、複数のアンテナ素子を用いて固定の方向に指向性を持つビーム状の電波を発射するRU410を有する基地局と、受信した電波を散乱反射する電波散乱コンポーネント420とを備え、RU410は、建物の床側に設置されて、建物の天井方向に向けてビーム状の電波を発射し、電波散乱コンポーネント420は、建物の天井側で且つビーム状の電波が発射される方向の延長線上に設置される。RU410は、本発明に係る無線アンテナユニットに対応し、電波散乱コンポーネント420は、本発明に係る電波散乱コンポーネントに対応する。
【0053】
このような構成の無線通信システムによれば、建物の屋内における人流・モノなどの遮蔽物を回避して、基地局のカバーエリアを拡大することができる。すなわち、遮蔽物によって電波が阻害されるという課題の解決策の一つとなる。また、BF用の振幅制御および位相制御が不要なため、エリア拡大のコストを低減できる。また、電力増幅器やLNAは1つでも足りる。また、無線アンテナユニット(RU410)のアンテナの素子数を増やすことで、アンテナ利得を増加させて電力を大きくすることができ、これは、電力増幅器やLNAを増やすことと比較して有利である。
【0054】
また、従来の無線アンテナユニットを天井や壁面に設置する場合は、光ファイバをはじめとする接続ケーブルや電源などを天井裏や壁の奥に配線する必要があり、敷設コストが高価となっていたが、本構成の場合は、無線アンテナユニットを床側に設置すればよく、天井側の電波散乱コンポーネントは電源を必要としないため、敷設コストを低減することができる。しかも、現代のPC用LANケーブルやハブのように設置できるので、5Gをはじめとする高周波を使った無線通信の普及やエリア拡大に貢献する。
【0055】
また、従来は、天井敷設の無線アンテナユニットのメンテナンス作業を高所で行う必要であったが、本構成の場合は、地上(床など)でメンテナンス作業を行えるようになる。また、無線アンテナユニットが発射するビーム状の電波の調整や、基地局のカバーエリアの確認なども、地上側だけで行えるようになる。
以上のように、第1実施例や第2実施例に係る無線通信システムによれば、カバーエリアの拡大を実現しつつ、消費電力の抑制、無線機コストの削減、基地局敷設コストの低減を図ることが可能である。
【0056】
ここで、上記の実施例では、床面に置かれたオブジェクトに無線アンテナユニットを設置しているが、無線アンテナユニットは床側の任意の位置に設置することが可能であり、例えば、無線アンテナユニットを床面に設置してもよい。ただし、無線アンテナユニットを床面に設置する場合には、人の往来によって電波の伝搬に影響が生じる可能性があるため、人の往来が無い場所(または少ない場所)に設置した方がよい。また、床面に置かれたオブジェクトに無線アンテナユニットを設置する場合には、アンテナ部品などの一部の部品のみをオブジェクトの上面に配置し、残りの部品はオブジェクトの下面や脚部などに配置する分離構成としてもよい。
【0057】
なお、無線アンテナユニット(またはその設置位置)を視認し易い態様にしてもよい。これにより、移動局のユーザは、スポットエリアの約中心を把握できるので、その近傍で無線通信を試みることで、効率の良い無線通信を行えるようになる。また、無線アンテナユニットに移動局をかざした場合には、無線アンテナユニットを専用的に使用することができ、高速の無線通信を行えるようになる。
【0058】
また、上記の実施例では、床側に配置した無線アンテナユニットから真上方向にビーム状の電波を発射しているが、ビーム状の電波の指向性を真上方向に対して傾けてもよい。この場合には、ビーム状の電波が発射される方向の延長線上に、電波散乱コンポーネントを設置すればよい。ただし、真上方向にビーム状の電波を発射する無線アンテナユニットを用いる方が、電波散乱コンポーネントと無線アンテナユニットの位置関係の調整が容易である。
【0059】
また、上記の実施例では、固定の方向に指向性を持つビーム状の電波を発射する無線アンテナユニット(RU410)を使用しているが、複数のアンテナ素子を用いて任意の方向に指向性を持つビーム状の電波を発射する従来型の無線アンテナユニットを追加してもよい。つまり、従来型の無線アンテナユニットを建物の天井側に設置し、その無線アンテナユニットから建物の床方向に向けてビーム状の電波を発射するようにしてもよい。
【0060】
なお、上記の実施例は、無線通信システムにおける基地局が複数の無線アンテナユニットを備えた分散アンテナシステムに本発明を適用したものであるが、本発明は、基地局が有する無線アンテナユニットが1つの場合にも適用することができる。この場合にも、カバーエリアの拡大を実現しつつ、消費電力の抑制、無線機コストの削減、基地局敷設コストの低減を図ることが可能である。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明は、その他の様々な実施形態をとることが可能であると共に、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等の種々の変形を行うことができる。これら実施形態及びその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0062】
また、本発明は、上記の説明で挙げたような装置や、これら装置で構成されたシステムとして提供することが可能なだけでなく、これら装置により実行される方法、これら装置の機能をプロセッサにより実現させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、建物の屋内に配備される基地局を備えた無線通信システムに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
100:基地局、 110:CU、 120:DU、 130:RU、 200:基地局、 210:CU、 220:DU、 230:BBU、 240:RU、 242:カバーエリア、 250:接続ケーブル、 310:壁、 320:柱、 330:カバーエリア、 340:不感地帯、 350:天井、 360:オブジェクト、 410:RU、 420:電波散乱コンポーネント、 501:O/E変換器、 502:D/A変換器、 503:周波数変換部、 504:電力増幅器、 505:TDD-SW、 506:アンテナ、 507:LNA、 508:周波数変換部、 509:A/D変換器、 510:E/O変換器、 601:RRC、 602:PDCP、 603:RLC、 604:MAC、 605H:PHY-high、 605L:PHY-Low、 606:RF