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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168818
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】補強土壁の耐震補強構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/02 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
E02D29/02 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080154
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】久保 哲也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 修二
(72)【発明者】
【氏名】辻 慎一朗
(72)【発明者】
【氏名】南 和弘
(72)【発明者】
【氏名】服部 浩崇
【テーマコード(参考)】
2D048
【Fターム(参考)】
2D048AA13
(57)【要約】
【課題】簡易な手法により補強土壁の上層部を耐震補強して、地震時における壁面構造体の前倒れや崩落を抑制して補強土壁の耐震性を高めること。
【解決手段】場所打ち式の横架コンクリート50を壁面構造体30の最上段に列設した複数の壁面材31に跨って配置し、横架コンクリート50に天端控え材51の一部を接続し、横架コンクリート50および最上位に位置する壁面材31に作用する土圧と地震時の慣性力の作用に対する抵抗モーメントが大きくなるように、天端控え材51を盛土層21aに埋設した。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
盛土構造体と、該盛土構造体の前面側に複数の壁面材を段積みして覆った壁面構造体と、盛土構造体に反力を得て壁面材を支持する連結控え材とを具備する補強土壁の耐震補強構造であって、
場所打ち式の横架コンクリートを前記壁面構造体の最上段に列設した複数の壁面材に跨って配置し、
前記横架コンクリートに天端控え材の一部を接続し、
前記横架コンクリートおよび壁面構造体の最上位に位置する壁面材に作用する土圧と地震時の慣性力の作用に対する抵抗モーメントが大きくなるように、前記天端控え材を盛土構造体に埋設して支持させたことを特徴とする、
補強土壁の耐震補強構造。
【請求項2】
前記横架コンクリートの下部が前記壁面構造体の最上段に列設した複数の壁面材に一体化していることを特徴とする、請求項1に記載の補強土壁の耐震補強構造。
【請求項3】
前記横架コンクリートの躯体の一部に天端控え材の一部を係留して接続したことを特徴とする、請求項1に記載の補強土壁の耐震補強構造。
【請求項4】
前記横架コンクリートの躯体に中空構造の箱抜き模型を埋設し、前記箱抜き模型に天端控え材を挿通して天端控え材を横架コンクリートの躯体に係留して接続したことを特徴とする、請求項3に記載の補強土壁の耐震補強構造。
【請求項5】
前記壁面構造体の最上位に笠コンクリートが設置してあり、前記横架コンクリートが笠コンクリートを一体に内包していることを特徴とする、請求項1に記載の補強土壁の耐震補強構造。
【請求項6】
前記補強土壁が既設の補強土壁であることを徴とする、請求項5に記載の補強土壁の耐震補強構造。
【請求項7】
前記笠コンクリートの上面の前面側に捨て型枠が位置し、該捨て型枠の背面側に該捨て型枠と一体に形成した場所打ち式の横架コンクリートが位置することを特徴とする、請求項5に記載の補強土壁の耐震補強構造。
【請求項8】
前記壁面構造体の最上段に列設した複数の壁面材の上面の前面側に捨て型枠が位置し、該捨て型枠の背面側に該捨て型枠と一体の場所打ち式の横架コンクリートが位置することを特徴とする、請求項1に記載の補強土壁の耐震補強構造。
【請求項9】
前記補強土壁が、盛土補強材で補強した盛土構造体と、盛土構造体の前面側に設けた壁面構造体と、盛土構造体と壁面構造体との間に介装した中間層とを具備していることを徴とする、請求項1に記載の補強土壁の耐震補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強土壁上部の変位を効果的に抑制する、補強土壁の耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図8を参照して説明すると、従来の補強土壁は、盛土構造体aと、盛土構造体aの前面に設けた壁面構造体bを具備している。
壁面構造体bは複数の壁面材cからなり、盛土構造体aと各壁面材cの間を連結控え材dで連結した構造になっている(特許文献1~5)。
【0003】
壁面材cはコンクリート製のパネルまたはブロック等からなり、連結控え材dはジオテキスタイル製ベルト、帯鋼材等の素材からなる。
また壁面構造体bの最上には笠コンクリートeが設置してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭44-25174号公報
【特許文献2】特公昭48-11601号公報
【特許文献3】特開昭53-76501号公報
【特許文献4】特開昭53-76502号公報
【特許文献5】特開2005-155145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の補強土壁はつぎの課題を内包している。
<1>地震時において、壁面構造体bの天端の加速度が増幅されるだけでなく、壁面構造体eの転倒モーメントも上位ほど大きくなる。
そのため、壁面構造体bが全体的に前倒れしたり、上位に位置する壁面材cが変位したりして崩落し易い。
<2>従来は笠コンクリートeに対する耐震対策が特に講じられていない。
そのため、地震時において、笠コンクリートeが壁面材cと一緒に前倒れが生じ易い。
<3>壁面構造体bの縦断勾配が盛土法面勾配と同様になるような現場では、笠コンクリートeが局所的に高くなり、連結控え材dの抵抗モーメントが小さくなるため、笠コンクリートeの背面に土圧を受けると転倒に対する安定性が不足する。
そのため、地震時において、笠コンクリートeのみが変位し易い。
<4>前倒れした壁面構造体bの修復作業を行う際に、前倒れした壁面構造体bを基の正規位置に引き戻すための手掛かり要素がまったく存在しない。
そのため、前倒れした壁面構造体bを撤去した後に壁面構造体bを再度組立て直す必要があり、前倒れした壁面構造体bの修復作業に多くの時間と労力を要する。
<5>今後に大規模地震の発生が予測されるなか、既設の補強土壁に対する簡易な手法で耐震補強できる技術の提案が望まれている。
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは、つぎの補強土壁の耐震補強構造を提供することにある。
<1>簡易な手法により補強土壁の上層部を耐震補強して、地震時における壁面構造体の前倒れや崩落を抑制して補強土壁の耐震性を高めること。
<2>壁面構造体の最上位に笠コンクリートが設けてある場合は、笠コンクリートの変位と落下を抑制できること。
<3>前倒れした壁面構造体の修復作業を効率よく行えること。
<4>既設の補強土壁に対して簡単に耐震補強工事が行えること。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、盛土構造体と、該盛土構造体の前面側に複数の壁面材を段積みして覆った壁面構造体と、盛土構造体に反力を得て壁面材を支持する連結控え材とを具備する補強土壁の耐震補強構造であって、場所打ち式の横架コンクリートを前記壁面構造体の最上段に列設した複数の壁面材に跨って配置し、前記横架コンクリートに天端控え材の一部を接続し、前記横架コンクリートおよび壁面構造体の最上位に位置する壁面材に作用する土圧と地震時の慣性力の作用に対する抵抗モーメントが大きくなるように、前記天端控え材を盛土構造体に埋設して支持させたものである。
本発明の他の形態において、前記横架コンクリートの下部が前記壁面構造体の最上段に列設した複数の壁面材に一体化している。
本発明の他の形態において、前記横架コンクリートの躯体の一部に天端控え材の一部を係留して接続した。
本発明の他の形態において、前記横架コンクリートの躯体に中空構造の箱抜き模型を埋設し、前記箱抜き模型に天端控え材を挿通して天端控え材を横架コンクリートの躯体に係留して接続してもよい。
本発明の他の形態において、前記壁面構造体の最上位に笠コンクリートが設置してあり、前記横架コンクリートが笠コンクリートを一体に内包している。
本発明の他の形態において、前記補強土壁は既設の補強土壁であってもよいし、新設の補強土壁であってもよい。
本発明の他の形態において、前記補強土壁が、盛土補強材で補強した盛土構造体と、盛土構造体の前面側に設けた壁面構造体と、盛土構造体と壁面構造体との間に介装した中間層とを具備した補強土壁でもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>壁面構造体の最上段に列設した複数の壁面材に跨って場所打ち式の横架コンクリートを配置すると共に、横架コンクリートに接続した天端控え材を盛土構造体に埋設するだけの簡易な手法により、補強土壁の上層部を耐震補強することができる。
<2>地震時における壁面構造体の前倒れや崩落を抑制できるので、補強土壁の耐震性を格段に高めることが可能となって補強土壁の強化復旧ができる。
<3>壁面構造体の最上位に笠コンクリートが設けてある場合は、笠コンクリートの変位と落下を効果的に抑制できる。
<4>補強土壁に対して、場所打ち式の横架コンクリートの構築作業と、横架コンクリートに接続した天端控え材を盛土構造体に埋設する作業を行うだけであるので、既設の補強土壁に対しても簡単かつ経済的に耐震補強工事が行える。
<5>横架コンクリートの重量が多段的に設けた壁面材の上下間の連結力を高めることに役立つため、地震時における壁面構造体の上位に位置する複数段に亘る壁面材の前倒れや崩落の抑制効果が格段に向上する。
<6>横架コンクリートと天端控え材の接続手段として金属製の連結金具を使用せずに、横架コンクリートに天端控え材の一部を直接接続するようにした。
そのため、横架コンクリートと天端控え材間の接続を長期間に亘って維持することができる。
<7>仮に巨大地震等の影響により、上位の壁面構造体が前倒れしても、横架コンクリートに接続した天端控え材を手掛かりとして前倒れした壁面構造体を基の正規位置に引き戻すことが可能となる。
そのため、前倒れした壁面構造体の修復作業を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一部を破断した補強土壁の天端付近の斜視図
図2】本発明が前提とする補強土壁の説明図であって、(A)は補強土壁の縦断面図、(B)は壁面材の斜視図
図3】補強土壁の耐震補強補強工の説明図であって、壁面構造体の上部に型枠を設置するまでの説明図
図4】補強土壁の耐震補強補強工の説明図であって、(A)は図3の平面図、(B)は箱抜模型の斜視図
図5】補強土壁の耐震補強補強工の説明図であって、(A)は型枠内にコンクリートを打設するまでの説明図、(B)は横架コンクリートに天端控え材を接続するまでの説明図
図6】耐震補強補強を終えた補強土壁の縦断面図
図7】捨て型枠を使用した実施例3の説明図であって、(A)は既設の補強土壁に適用した形態の説明図、(B)は新設の補強土壁に適用した形態の説明図
図8】従来の補強土壁のモデル図
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施例1]
<1>補強土壁
図2(A)は本発明が前提とする補強土壁10を示している。
本例では補強土壁10が既設の補強土壁である場合について説明する。
【0011】
補強土壁10は、盛土構造体20と、盛土構造体20の前面側に設けた壁面構造体30とを少なくとも備える。
必要に応じて盛土構造体20と壁面構造体30との間に単粒度砕石等からなる中間層25を介装する場合もある。
【0012】
<2>盛土構造体
盛土構造体20は層状に捲き出した土砂を転圧しながら構築した土塊構造物である。
本例では、壁面構造体30の背面側に階層的に形成した盛土層21間にシート状の盛土補強材22を介装し、盛土層21の前面を盛土補強材22で巻いた形態を示すが、盛土層21の前面を、帯網をL字形に屈曲したエキスパンドメタル製の型枠で支持する形態でもよいし、盛土補強材22を使用せずに壁面構造体30の背面側に盛土材を締め固めて構築した土塊構造物でもよい。
盛土補強材22はジオグリッドやジオテキスタイル等を含む。
【0013】
<3>壁面構造体
壁面構造体30は複数の壁面材31からなる。
本例では最上段の壁面材31の上部に笠コンクリート35が載置してある形態について説明するが、笠コンクリート35が載置されていない形態にも適用が可能である。
【0014】
<3.1>壁面材
壁面材31は、コンクリート製のパネルまたはブロックからなる。
図2(B)に例示したブロックタイプの壁面材31について説明すると、壁面材31は、板状のパネル部32と、パネル部32の背面から後方へ突出した単数または複数の突出部33と、を一体に形成してある。
突出部33には挿通孔33aを有していて、挿通孔33aに連結控え材40が挿通可能である。
【0015】
<3.2>笠コンクリート
既設の笠コンクリート35は場所打ちコンクリート製またはブレキャストコンクリート製からなる。
既設の笠コンクリート35は最上段に並列した複数の壁面材31の上面に跨って載置してあり、控え材等は連結されていない。
【0016】
<4>連結控え材
連結控え材40は、盛土構造体20と壁面材31の背面との間を接続するベルト状、紐状または棒状の引張連結材である。
【0017】
本例では連結控え材40が繊維製のベルトである場合について説明するが、連結控え材40はスキンプレートと呼ばれる帯鋼材や鋼棒等を含む。
連結控え材40は、壁面材31の突出部33の挿通孔33aに挿通して折り返し、折り返した両端部を盛土層21の内部に埋設してある。
【0018】
<5>中間層
中間層25は盛土構造体20と壁面構造体30との間に充填した単粒度砕石等の粒状物である。中間層25は排水層および緩衝層として機能する。中間層25は必須ではない。
以上は既設の補強土壁10の構成要素であり、以下の要素が補強土壁10を耐震補強する資材である。
【0019】
<6>横架コンクリート
横架コンクリート50は壁面構造体30の頂部に、壁面構造体30の長手方向に沿って連続して一体に打ち増した場所打ち式のコンクリート製の横架材である(図1)。
横架コンクリート50は最上段に列設した隣り合う各壁面材31の間を一体に連結する部材として機能する。
【0020】
<7>天端控え材
天端控え材51は、横架コンクリート50の背面50a側の盛土層21aから反力を得て横架コンクリート50の変位を拘束する引張連結材である。
天端控え材51はその一部を横架コンクリート50の躯体に接続し、控え材の大半を背面側の盛土層21aに埋設して使用する。
天端控え材51の全長は、横架コンクリート50の支持力等を考慮して適宜選択が可能である。
【0021】
天端控え材51としては、例えば可撓性を有する帯状または紐状の引張材を使用できる。
【0022】
横架コンクリート50に対する天端控え材51の接続方法は、本例のように横架コンクリート50の躯体に埋設した箱抜模型45を使用して天端控え材51を係留して接続することの他に、天端控え材51の一端を横架コンクリート50の躯体に直接埋設して接続することも可能である。
【0023】
錘控え材51の他の接続手段として金属製の連結金具(例えばインサートとアイボルトの組合せ)を使用する方法が考えられる。
金属製の連結金具を使用して横架コンクリート50に天端控え材51を接続した場合には、連結金具が腐食すると天端控え材51の支持機能を喪失する。
本発明では、このような連結金具の腐食の問題を回避するために、天端控え材51の一部を横架コンクリート50に直接接続するようにした。
【0024】
<8>箱抜模型
本例では埋殺し式の箱抜模型45を使用する形態について説明する。
図4(B)を参照して説明する。箱抜模型45は横架コンクリート50の躯体に天端控え材51の挿通空間を形成するための模型である。
本例では箱抜模型45が、U字形またはコの字形に屈曲した中空構造の湾曲体46と、湾曲体46の両端の開口部47を封鎖可能なキャップ48とを具備した樹脂製の成型品である形態について説明する。
【0025】
湾曲体51の屈曲形状はU字形またはコの字形に限定されず、他の形状に屈曲してもよい。
湾曲体51の両端部の開口部の間隔は、天端控え材51の引き出し間隔に合わせて適宜選択が可能である。
【0026】
他の箱抜模型45としては、横架コンクリート50の成型後に消失可能な素材で形成した模型でもよい。
【0027】
[補強土壁の耐震補強方法]
既設の補強土壁10を対象とした耐震補強方法について説明する。
【0028】
<1>準備工(図3
最上段の笠コンクリート35の背面が露出するように盛土の一部を撤去する。
この際、最上段の壁面材31の上部が露出するまで盛土を掘削しておくとよい。
【0029】
<2>型枠の組立て(図3
つぎに既設の笠コンクリート35の周囲に横架コンクリート用の型枠41a,41bを組み立てる。
型枠41a,41bは既設の笠コンクリート35の笠幅Lと高さHを上回る間隔と高さに組み立てる。
【0030】
壁面材31に笠コンクリート35が載置されていない形態では、最上段の壁面材31の周囲に横架コンクリート用の型枠41a,41bを組み立てる。
【0031】
<3>箱抜模型のセット(図3
天端控え材51の設置位置に合わせて、背面側の型枠41bの内面に箱抜模型45をセットする。
この際、湾曲体46を横向きにし、キャップ48を背面側の型枠41bの内面に接面させる。
【0032】
<4>コンクリートの打設(図5(A))
つぎに箱抜模型45を配置した型枠41a,41bの内部にコンクリート50bを打設して横架コンクリート50を形成する。
横架コンクリート50は既設の笠コンクリート35と最上段の壁面材31を抱持して一体化する。
【0033】
なお、両コンクリート35,40の一体性を高めるため、既設の笠コンクリート35の表面にジベルやスタッド等の接続筋を設けておくとよい。
【0034】
<5>天端控え材の接続(図5(B))
コンクリート50aが硬化したら型枠41a,41bを脱型する。
横架コンクリート50の背面50aに露出した箱抜模型45のキャップ48を取り外し横架コンクリート50の躯体内に湾曲体46を残置する。
図1に示すように、横架コンクリート50の背面50aに露出した湾曲体46の開口部内に天端控え材51の一端を挿通して係留する。
【0035】
<6>覆土(図1,6)
横架コンクリート50に縦向きで接続した天端控え材51を90度回転して背面側の盛土層21の上面に敷設する。
横架コンクリート50の背面50a側に土砂を捲き出した後に転圧して天端控え材51を新たに構築した上位の盛土層21aに埋設する。
天端控え材51の支持力等を考慮して盛土層21aの層厚は適宜選択する。
【0036】
[補強土壁の耐震性について]
図6を参照して横架コンクリート50を設けた補強土壁10の耐震性について説明する。
【0037】
<1>補強土壁の耐震構造
既述したように本発明では、壁面構造体30の最上段に位置する壁面材31と一体構造の横架コンクリート50を構築すると共に、横架コンクリート50に接続した天端控え材51を上位の盛土層21aに埋設することで、最上段の壁面材31に作用する土圧と地震時の慣性力の作用に対する抵抗モーメントを大きくするようにした。
【0038】
<2>笠コンクリートの変位抑制作用
本発明では、既存の笠コンクリート35と横架コンクリート50とが一体構造を呈すると共に、盛土層21aに埋設した天端控え材51が横架コンクリート50に接続した構造になっている。
そのため、既存の笠コンクリート35を含む横架コンクリート50に対して、地震慣性力や背面土圧が作用するしても、天端控え材51を通じた背面の盛土層21aの抵抗によって支持される。
【0039】
そのため、最上位に位置する笠コンクリート35および横架コンクリート50の変位やズレ動きを確実に抑制することができる。
したがって、地震時における笠コンクリート35および横架コンクリート50の落下防止性能が高くなる。
【0040】
<3>上位の壁面材の変位抑制作用
地震時、または背面土圧の作用時において、壁面構造体30に対し前後方向へ向けた変位力が作用する。
本発明では、既存の笠コンクリート35と横架コンクリート50とが一体構造を呈すると共に、横架コンクリート50が最上段の壁面材31とも一体化している。
【0041】
そのため、盛土層21aに支持された横架コンクリート50および天端控え材51を通じて最上段の壁面材31の前後方向へ向けた変位(転倒)を確実に抑制することができる。
換言すると、本発明では、最上段の壁面材31に一体化した横架コンクリート50を天端控え材51を通じて支持することで、壁面材31の転倒に対する抵抗モーメントが増えるため、最上段だけでなく、複数段に亘る壁面材31の変位(転倒)の抑制効果が格段に高くなる。
したがって、地震時における壁面構造体30の上位に位置する複数段に亘る壁面材31の前倒れや崩落を効果的に抑制できて、補強土壁10の耐震性能を格段に向上できる。
【0042】
<4>耐腐食性
横架コンクリート50と天端控え材51の接続手段として金属製の連結金具を使用せずに、横架コンクリート50に天端控え材51の一部を直接接続するようにした。
そのため、横架コンクリート50と天端控え材51間の接続を長期間に亘って維持することができる。
【0043】
[実施例2]
先の実施例1では、既設の補強土壁10に対して耐震補強を行った場合について説明したが、本発明は新設の補強土壁10に対しても適用が可能である。
新設の補強土壁10に適用する場合は、笠コンクリート35を省略し、壁面構造体30の最上位に横架コンクリート50を直接構築する。
【0044】
本例にあっては、既述した実施例1と同様の耐震効果を得ることができる。
【0045】
[実施例3]
実施例3の説明に際し、前記した実施例1と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0046】
図7を参照して、型枠41aに代えてプレキャストコンクリート製の捨て型枠41cを用いて壁面構造体30の頂部に場所打ち式の横架コンクリート50を構築した形態について説明する。
【0047】
<1>既設の補強土壁に適用した形態
図7(A)は既設の補強土壁10に適用した形態を示していて、笠コンクリート35の上面の前面側に捨て型枠41cを立設し、捨て型枠41cの背面側にコンクリート打設して捨て型枠41cと一体に横架コンクリート50を形成した形態を示している。
捨て型枠41cの前面は笠コンクリート35の前面と面一に揃えることが望ましいが、笠コンクリート35の前面より後退した位置に立設してもよい。
【0048】
図7(A)に示した横架コンクリート50は、笠コンクリート35の笠幅Lより厚く、横架コンクリート50の背面側の下部が笠コンクリート35の背面に掛止可能に形成してある。
横架コンクリート50は笠コンクリート35を介して最上段に位置する複数の壁面材31と一体化している。
【0049】
<2>新設の補強土壁に適用した形態
図7(B)に示した横架コンクリート50は、新設の補強土壁10に適用した形態を示していて、壁面構造体30の最上段に列設した複数の壁面材3の上面の前面側に捨て型枠41cを設置し、捨て型枠41cの背面側にコンクリート打設して捨て型枠41cと一体に横架コンクリート50を形成した形態を示している。
【0050】
図7(B)に示した横架コンクリート50は、最上段に位置する複数の壁面材31と一体化している。
横架コンクリート50と最上段の壁面材31とを一体化するにあたり、壁面材31の背面に形成した突出部33の挿通孔33aに通し筋52を配筋しつつ、通し筋52の下位までコンクリートを打設すると、横架コンクリート50を最上段の壁面材31に強固に一体化することができる。
【0051】
<3>本例の効果
図5に示したように、最上段の壁面材31の前面側に型枠41aを組み立てるには、壁面材31の前面側に別途の作業足場を組み立てる必要である。
【0052】
本例では笠コンクリート35の上面または最上段の壁面材31の上面に、捨て型枠41cを載置することで、壁面材31の前面側に別途の作業足場の設置および撤去が不要となり、さらにコンクリートの硬化後に捨て型枠41cを撤去せずに埋め殺しにできるので、場所打ち式の横架コンクリート50の構築作業を大幅に簡略化することができる。
【0053】
<4>補強土壁の耐震補強後の修復作業について
例えば図6に示した耐震補強を終えた補強土壁において、巨大地震等の影響により、壁面構造体30が前倒れした場合の修復作業について検討する。
【0054】
本発明では壁面構造体30が前倒れした場合でも、横架コンクリート50に接続した天端控え材51を手掛かりとして前倒れした壁面構造体30を元の正規位置に引き戻すことができる。
この際、壁面構造体30の背面側の盛土層21を必要な深さまで掘り下げることで、壁面構造体30の引き戻しが可能となる。
壁面構造体30の引き戻しを終えたら、壁面構造体30の背面側に土砂を埋め戻して盛土層21を構築する。
以上説明したように、横架コンクリート50に接続した天端控え材51を手掛かりとして前倒れした壁面構造体30の修復作業を効率よく行うことができる。
【符号の説明】
【0055】
10・・・・補強土壁
20・・・・盛土構造体
21・・・・盛土層
22・・・・盛土補強材
30・・・・壁面構造体
31・・・・壁面材
32・・・・壁面材のパネル部
33・・・・壁面材の突出部
40・・・・連結控え材
41a,41b・・・型枠
45・・・・箱抜模型
46・・・・箱抜模型の湾曲体
48・・・・箱抜模型のキャップ
50・・・・横架コンクリート
51・・・・天端控え材
52・・・・通し筋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8