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特開2023-168835フラッタ風試模型及びフラッタ風試模型の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168835
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】フラッタ風試模型及びフラッタ風試模型の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 9/08 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
G01M9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080175
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 一行
【テーマコード(参考)】
2G023
【Fターム(参考)】
2G023AC01
2G023AD01
(57)【要約】
【課題】フラッタ風試模型の製造コストを低減することである。
【解決手段】実施形態に係るフラッタ風試模型は、航空機部品のフラッタ風洞試験を行うために前記航空機部品の形状と振動特性を模擬したものである。このフラッタ風試模型の少なくとも一部は、分岐する隙間を内部に有する中実でない構造であって、単位体積当たりにおける前記隙間以外の部分における部分の体積が密度で定まる前記構造で構成される。また、実施形態に係るフラッタ風試模型の製造方法は、航空機部品のフラッタ風洞試験を行うために前記航空機部品の形状と振動特性を模擬した模型を製造する方法である。この方法では、分岐する隙間を内部に有する中実でない構造であって、単位体積当たりにおける前記隙間以外の部分における部分の体積が密度で定まる前記構造を3次元プリンタで造形し、前記構造で、前記フラッタ風試模型の少なくとも一部が構成される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機部品のフラッタ風洞試験を行うために前記航空機部品の形状と振動特性を模擬したフラッタ風試模型において、
分岐する隙間を内部に有する中実でない構造であって、単位体積当たりにおける前記隙間以外の部分における部分の体積が密度で定まる前記構造で、少なくとも一部を構成したフラッタ風試模型。
【請求項2】
前記構造を、ラティス構造及びポーラス構造の少なくとも一方とした請求項1記載のフラッタ風試模型。
【請求項3】
前記航空機部品のうち、少なくとも空気力を受ける表面を形成する部分を模擬する部分については前記フラッタ風洞試験で空気力がかかるように隙間の無い中実構造で構成した請求項1又は2記載のフラッタ風試模型。
【請求項4】
航空機部品のフラッタ風洞試験を行うために前記航空機部品の形状と振動特性を模擬したフラッタ風試模型の製造方法であって、
分岐する隙間を内部に有する中実でない構造であって、単位体積当たりにおける前記隙間以外の部分における部分の体積が密度で定まる前記構造を3次元プリンタで造形し、前記構造で、前記フラッタ風試模型の少なくとも一部を構成するフラッタ風試模型の製造方法。
【請求項5】
前記構造の密度の部分的な変更、重りの配置及び前記構造を有する部分の内部への剛性を増加させるための部材の配置の少なくとも1つを行うことによって、前記フラッタ風試模型の振動特性が前記航空機部品の振動特性に近づくように前記フラッタ風試模型の質量分布及び剛性分布の少なくとも一方を調整する請求項4記載のフラッタ風試模型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、フラッタ風試模型及びフラッタ風試模型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行中の航空機の翼や胴体には空気の流れによって周期的な自励振動が生じる。飛行中の航空機に気流によって振動が生じる現象はフラッタと呼ばれ、航空機の主翼等の各部位に生じるフラッタの様子を確認するために模型を用いた風洞試験が行われる。
【0003】
フラッタ風洞試験に用いられるフラッタ風試模型は、模擬対象となる主翼等の航空機部品と同様に、風洞内で生じるフラッタによって変形するように設計することが肝要である。従って、フラッタ風試模型は、固有振動数や振動モード等の振動特性が、模擬対象となる航空機部品の振動特性と等しくなるように、航空機部品の剛性と質量分布に基づいて設計される。そして、従来のフラッタ風試模型は、金型を用いて金属板に柔軟性のある樹脂で翼型を成形することによって製作される。
【0004】
尚、航空機部品を模擬した模型を用いた風洞試験としては、他に主翼等の表面における圧力分布を測定するための風洞試験や主翼等への着氷の挙動を調べるための着氷風洞試験などが知られている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-146363号公報
【特許文献2】特開2002-206987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フラッタ風試模型の製造コストを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係るフラッタ風試模型は、航空機部品のフラッタ風洞試験を行うために前記航空機部品の形状と振動特性を模擬したものである。このフラッタ風試模型の少なくとも一部は、分岐する隙間を内部に有する中実でない構造であって、単位体積当たりにおける前記隙間以外の部分における部分の体積が密度で定まる前記構造で構成される。
【0008】
また、本発明の実施形態に係るフラッタ風試模型の製造方法は、航空機部品のフラッタ風洞試験を行うために前記航空機部品の形状と振動特性を模擬した模型を製造する方法である。この方法では、分岐する隙間を内部に有する中実でない構造であって、単位体積当たりにおける前記隙間以外の部分における部分の体積が密度で定まる前記構造を3次元プリンタで造形し、前記構造で、前記フラッタ風試模型の少なくとも一部が構成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るフラッタ風試模型の構造例を説明する分解斜視図。
図2図1に示すフラッタ風試模型の部位B付近における部分拡大斜視図。
図3図1に示すフラッタ風試模型が模擬する航空機部品の一例としての航空機の主翼を示す概略斜視図。
図4図1に示すフラッタ風試模型の製造方法の一例を説明する図。
図5図4に示す3Dプリンタに出力される3D形状データの作成方法の一例を示すフローチャート。
図6】非中実構造の密度を部分的に変化させたフラッタ風試模型の例を示す図。
図7】内部に円柱状の重りを配置したフラッタ風試模型の例を示す図。
図8図7に示す重りの拡大縦断面図。
図9】プレートを非中実構造の内部に配置したフラッタ風試模型の例を示す図。
図10図9に示すフラッタ風試模型の位置C-Cにおける拡大断面図。
図11】ロッドを非中実構造の内部に配置したフラッタ風試模型の例を示す図。
図12図11に示すフラッタ風試模型の位置D-Dにおける拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係るフラッタ風試模型及びフラッタ風試模型の製造方法について添付図面を参照して説明する。
【0011】
(フラッタ風試模型の構成及び機能)
図1は本発明の実施形態に係るフラッタ風試模型1の構造例を説明する分解斜視図、図2図1に示すフラッタ風試模型1の部位B付近における部分拡大斜視図、図3図1に示すフラッタ風試模型1が模擬する航空機部品Pの一例としての航空機Aの主翼MWを示す概略斜視図である。
【0012】
図1に示すフラッタ風試模型1は、航空機部品Pのフラッタ風洞試験を行うための模型である。すなわち、フラッタ風試模型1は、フラッタ試験用の風洞内に配置して使用され、風洞内における空気の流れによってフラッタ風試模型1にフラッタが生じた場合におけるフラッタ風試模型1の変形が観測される。
【0013】
このため、フラッタ風試模型1は、航空機部品Pの形状に加えて航空機部品Pの振動特性も模擬している。図1は、フラッタ風試模型1が図3に示すような航空機Aの主翼MWを模擬する場合の例を示している。もちろん、主翼MWに限らず、尾翼や胴体等の航空機部品Pをフラッタ風試模型1で模擬しても良い。
【0014】
図1に示すフラッタ風試模型1は、主翼MWの外板を模擬する板状の部材2を取付ける前の状態を示している。板状の部材2は主翼MWと同様に風洞内において空気力がかかるように中実構造3を有している。すなわち、板状の部材2の表面は、主翼MWの外板と同様に穴の無い曲面となっている。このため、板状の部材2は、風洞内において空気力を受けて変形する。
【0015】
一方、板状の部材2で覆われる内部の部分4は、中実でない構造5を有している。より具体的には、フラッタ風試模型1の内部の部分4は、一様に分岐する隙間を内部に有する非中実構造5を有している。一様に分岐する隙間を内部に有する非中実構造5の典型的な例としては、ラティス構造及び多孔質(ポーラス)構造が挙げられる。ラティス構造は、枝状に分岐した格子が周期的に並んだ構造である。一方、ポーラス構造は、内部に多数の空孔を有するスポンジ状の構造である。
【0016】
非中実構造5としては、複数の構造を組合わせても良い。従って、非中実構造5をラティス構造及びポーラス構造の少なくとも一方としても良いし、更に他の構造と組合わせても良い。図1は、図3の拡大図に示すように、非中実構造5をラティス構造のみで構成した例を示している。
【0017】
ラティス構造及びポーラス構造に代表される一様な非中実構造5では、単位体積当たりにおける隙間以外の部分における部分の体積が密度で定まる。従って、非中実構造5を有する内部の部分4における密度分布を適切に決定することにより、フラッタ風試模型1の質量分布及び剛性分布の少なくとも一方を自由自在に調整することが可能となる。
【0018】
具体例として、非中実構造5がラティス構造であれば、格子の密度や格子を構成する棒状部材の太さをパラメータとして位置ごとに変更することにより、非中実構造5を有する内部の部分4における密度分布を調整することができる。一方、非中実構造5がポーラス構造である場合においても同様に、空孔の大きさや密度等をパラメータとして変更することにより、非中実構造5を有する内部の部分4における密度分布を調整することができる。
【0019】
また、非中実構造5を有する内部の部分4における密度の調整に加えて非中実構造5を有する内部の部分4における素材を適切に選択することによっても、フラッタ風試模型1の質量分布及び剛性分布の少なくとも一方を調整することができる。非中実構造5を有する部分4の素材としては、金属及び樹脂の少なくとも一方を用いることができる。もちろん、位置ごとに異なる複数の素材を用いて非中実構造5を有する部分4を構成しても良い。
【0020】
尚、航空機部品Pの主たる素材は樹脂よりも比重が大きい金属や繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)である場合が殆どであるが、典型的な主翼MWはリブ、スパー及びストリンガ等の補強部材で補強された中空の燃料タンクとなっており、胴体等の他の部分も中空構造であることから、非中実構造5の密度を十分に大きくすれば、非中実構造5を樹脂のみで構成しても、航空機部品Pの質量分布と剛性分布を非中実構造5で模擬することができる。
【0021】
同様に、中実構造3を有する板状の部材2についても、金属及び樹脂の少なくとも一方で構成することができる。従って、板状の部材2の素材と、内部の部分4における素材を同じにすれば、フラッタ風試模型1の製造コストを低減できる。逆に、フラッタ風試模型1の質量分布及び剛性分布を好適化するために、板状の部材2と内部の部分4を異なる素材で構成するようにしても良い。
【0022】
また、フラッタ風試模型1の質量分布及び剛性分布を調整するために、図1に示すように内部の部分4全体を非中実構造5とせずに、一部を非中実構造5とし、残りの部分については中実構造としても良い。その場合には、板状の部材2と内部の中実構造を有する部分を一体にしても良い。
【0023】
換言すれば、フラッタ風試模型1の少なくとも一部を非中実構造5で構成する一方、主翼MWの上面、前縁、後縁及び下面等のように、航空機部品Pのうち、少なくとも空気力を受ける表面を形成する部分を模擬するフラッタ風試模型1の部分については、フラッタ風洞試験で空気力がかかるように隙間の無い中実構造3で構成することができる。
【0024】
その場合においても、中実構造3と非中実構造5の双方を樹脂又は金属で構成しても良いし、樹脂製又は金属製の中実構造3の内部に金属製又は樹脂製の非中実構造5を配置しても良い。或いは、中実構造3の一部を樹脂で構成し、残りの部分を金属で構成しても良いし、非中実構造5の一部を樹脂で構成し、残りの部分を金属で構成しても良い。
【0025】
中実構造3と非中実構造5を異なる素材で構成する場合はもちろん、同一の素材で構成する場合においても、複数の部品を組立ててフラッタ風試模型1を製作する場合には、接着剤、嵌合或いはねじ止めなど、任意の連結方法で部品間を連結することができる。
【0026】
(フラッタ風試模型の製造方法)
次にフラッタ風試模型1の製造方法及び製造されるフラッタ風試模型1のより詳細な構造例について説明する。
【0027】
図4図1に示すフラッタ風試模型1の製造方法の一例を説明する図である。
【0028】
図4に示すようにフラッタ風試模型1のうちラティス構造やポーラス構造等の非中実構造5を有する内部の部分4については、3次元(3D:three-dimensional)プリンタ(積層造形装置)10で造形することができる。また、3Dプリンタ10に出力すべき3D形状データは、コンピュータ11で作成することができる。
【0029】
航空機Aが超音速機の場合には、典型的な主翼MW等の航空機部品Pを模擬するフラッタ風試模型1のサイズは30cmから60cm程度となり、航空機Aが亜音速機である場合には、1mから2m程度となる。このため、製作目的とするサイズのフラッタ風試模型1を造形することが可能な3Dプリンタ10を用いて、少なくとも非中実構造5を有する内部の部分4を製作することができる。
【0030】
3Dプリンタ10では中実構造も造形できるため、非中実構造5を有する内部の部分4と、中実構造3を有する板状の部材2を同一の素材で構成すれば、非中実構造5のみならず中実構造3についても3Dプリンタ10で一体造形することができる。これは、内部の部分4の一部を中実構造とする場合においても同様である。
【0031】
3Dプリンタ10には、樹脂を材料とする装置の他、金属を材料とする装置も市販されている。具体的には、熱溶解積層(FDM:Fused Deposition Modeling)方式、光造形方式或いはインクジェット方式に代表される3Dプリンタ10を用いることによって、ABS樹脂、PLA樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂或いはポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性樹脂、エポキシ系樹脂やアクリレート系樹脂等の熱硬化性樹脂又は鉄系金属やアルミニウム等の金属を材料として複雑な形状を有する立体を造形することができる。
【0032】
フラッタ風試模型1のサイズが大き過ぎて3Dプリンタ10で一度に造形できない場合には、分割造形することができる。すなわち、共通又は複数の3Dプリンタ10でフラッタ風試模型1を部分ごとに造形することができる。また、異なる材料を組合せてフラッタ風試模型1の非中実構造5を造形する場合においても、複数の3Dプリンタ10で分割造形することができる。すなわち、材料ごとの複数の3Dプリンタ10で部分ごとに非中実構造5を造形することができる。
【0033】
非中実構造5を分割造形する場合や中実構造3の少なくとも一部を3Dプリンタ10で造形しない場合には、複数の非中実構造5を有する造形部品同士の組立や、単一又は複数の非中実構造5を有する造形部品と中実構造3を有する非造形部品の組立によって、フラッタ風試模型1を製作することができる。造形部品間、造形部品と非造形部品との間及び非造形部品間における連結方法は、接着剤、嵌合或いはねじ止めなど任意の方法を採用することができる。
【0034】
典型的な具体例として、図1に例示されるように板状の部材2で非中実構造5をカバーした構造を有するフラッタ風試模型1を製作する場合であれば、図4に例示されるように、樹脂製の非中実構造5を3Dプリンタ10で造形し、中実構造3を有する金属製の板状の部材2と接着剤で接着することによってフラッタ風試模型1を製作することができる。
【0035】
図5図4に示す3Dプリンタ10に出力される3D形状データの作成方法の一例を示すフローチャートである。
【0036】
3Dプリンタ10に出力される3D形状データ、すなわち少なくとも非中実構造5を有する内部の部分4の輪郭を特定するための情報は、上述したようにコンピュータ11で作成することができる。尚、振動解析等の複雑な計算以外の簡易な計算や判定については、作業者がコンピュータ11を操作して、或いはコンピュータ11を利用せずに行っても良い。
【0037】
まず、ステップS1において、実機、すなわちフラッタ風試模型1で模擬される主翼MW等の航空機部品Pの固有振動数や振動モード形状等の振動特性が目標値として求められる。実機の振動特性は、専用の振動解析ソフトウェアを用いた振動解析シミュレーションによって算出することができる。尚、実際に実機を用いた振動試験を併用しても良い。
【0038】
一方、ステップS2において、非中実構造5を初期状態に設定したフラッタ風試模型1の有限要素法(FEM:Finite Element Method)解析モデルが作成される。
【0039】
次に、ステップS3において、FEMによってフラッタ風試模型1のFEM解析モデルを対象とする振動解析が実行される。これにより、FEM解析モデルの振動特性が求められる。
【0040】
次に、ステップS4において、実機の振動特性と、FEM解析モデルの振動特性が比較される。具体的には、FEM解析モデルの固有振動数及び振動モード形状が、実機の固有振動数及び振動モードと一致していると見做せるか否かが判定される。換言すれば、FEM解析モデルの固有振動数及び振動モード形状と、実機の固有振動数及び振動モードとの間における差や比等の乖離量が許容範囲内であるか否かが判定される。
【0041】
そして、FEM解析モデルの振動特性の、実機の振動特性に対する一致度が不十分であると判定される場合には、ステップS5において、FEM解析モデルにおいて定義される非中実構造5の質量分布及び剛性分布の少なくとも一方が変更される。
【0042】
非中実構造5の質量分布は、非中実構造5の構造パターンの種類や密度等を表すFEM解析モデルのパラメータを変更する他、様々な位置に重りを配置することによっても変化させることができる。一方、非中実構造5の剛性分布は、非中実構造5の材質を表すFEM解析モデルのパラメータを変更する他、非中実構造5の材料よりも剛性が高い部材を様々な位置に配置することによっても変化させることができる。
【0043】
図6は非中実構造5の密度を部分的に変化させたフラッタ風試模型1の例を示す図である。
【0044】
図6は、航空機Aの主翼MWを模擬したフラッタ風試模型1から主翼MWの外板を模擬する板状の部材2を取り除いた状態を示している。すなわち、図6は、フラッタ風試模型1の非中実構造5を露出させた状態を示している。また、図6においてメッシュの粗密は非中実構造5の密度の大きさを表している。
【0045】
図6に例示されるように、実際の主翼MWの質量分布に合わせて、主翼MWの内部を模擬する非中実構造5の密度を、胴体から離れるにつれて徐々に減少させることができる。図6に示す例では、密度が異なる3つの部分5A、5B、5C、より具体的には、密度が最大となる部分5A、密度が中程度の部分5B及び密度が最小となる部分5Cで非中実構造5が構成されている。もちろん、非中実構造5を、互いに密度が異なる4つ以上の部分に分割しても良い。
【0046】
このように非中実構造5の密度を部分的に変化させることによって非中実構造5の密度を不均一にすると、同一の材料を用いて非中実構造5を造形する場合であっても、位置ごとに異なる質量分布と剛性分布をフラッタ風試模型1に付与することができる。具体的には、密度が相対的に大きい部分5Aでは剛性及び質量も相対的に大きくなり、密度が相対的に小さい部分5Cでは剛性及び質量も相対的に小さくなる。
【0047】
尚、密度が異なる非中実構造5の各部分5A、5B、5C間において異なる材料を用いても良い。すなわち、密度が異なる非中実構造5の各部分5A、5B、5Cに用いられる材料をパラメータとして変更するようにしても良い。
【0048】
図7は内部に円柱状の重り20を配置したフラッタ風試模型1の例を示す図であり、図8図7に示す重り20の拡大縦断面図である。
【0049】
図7は、航空機Aの主翼MWを模擬したフラッタ風試模型1から主翼MWの外板を模擬する板状の部材2を取り除いた状態を示している。すなわち、図7は、フラッタ風試模型1の非中実構造5を露出させた状態を示している。また、図7においてメッシュの粗密は非中実構造5の密度の大きさを表している。
【0050】
図7に例示されるように、フラッタ風試模型1の内部に質量分布を調整するための重り20を配置しても良い。重り20を配置すれば実際の主翼MWの質量分布に合わせて局所的にフラッタ風試模型1の質量を増加させることも可能となる。重り20の形状、サイズ及び材質は、必要な質量が得られれば任意である。
【0051】
図7及び図8に示す例では、円柱状の重り20が3箇所に配置されている。このため、円柱状の重り20を圧入又は接着剤を用いた接着等によってフラッタ風試模型1の内部に固定できるように、非中実構造5の一部に内面に穴が開いていない貫通孔が設けられている。重り20を配置するための貫通孔についても、3D造形によって形成することができる。尚、重り20を挿入するための円筒状のソケットを非中実構造5の外側に接着剤で取付けたり、重り20を接着剤で非中実構造5の端部に直接接着したりするようにしても良い。
【0052】
図9はプレート21を非中実構造5の内部に配置したフラッタ風試模型1の例を示す図であり、図10図9に示すフラッタ風試模型1の位置C-Cにおける拡大断面図である。
【0053】
図9及び図10は、航空機Aの主翼MWを模擬したフラッタ風試模型1から主翼MWの外板を模擬する板状の部材2を取り除いた状態を示している。すなわち、図9及び図10は、フラッタ風試模型1の非中実構造5を露出させた状態を示している。また、図9及び図10においてメッシュは密度が一定の非中実構造5を表している。
【0054】
図9及び図10に例示されるように中実構造を有するプレート21を非中実構造5の内部に挿入することもできる。この場合、プレート21の板厚や大きさを変化させることによって非中実構造5を含むフラッタ風試模型1の質量分布を調整することができる。すなわち、プレート21が占める領域に対応する大きさだけ非中実構造5を有する領域が狭くなるため、プレート21が挿入されない場合と比較して質量を増加させることができる。
【0055】
尚、図9に示す例では、非中実構造5の内部に挿入されるプレート21の端部が非中実構造5から突出し、非中実構造5から突出したプレート21の端部がフラッタ風試模型1の連結部材を兼ねている。
【0056】
もちろん、プレート21の材質を変化させても良い。例えば、非中実構造5が樹脂の造形によって製作される場合においてプレート21の材質を金属にすれば、質量及び剛性を増加させることができる。また、プレート21の材質を炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)等のFRPとすれば、質量の変化を大きくせずに剛性を向上させることができる。すなわち、プレート21の材質を変更することによって、プレート21を重りとして機能させたり、剛性を向上させるための部材として機能させたりすることができる。
【0057】
図11はロッド22を非中実構造5の内部に配置したフラッタ風試模型1の例を示す図であり、図12図11に示すフラッタ風試模型1の位置D-Dにおける拡大断面図である。
【0058】
図11及び図12は、航空機Aの主翼MWを模擬したフラッタ風試模型1から主翼MWの外板を模擬する板状の部材2を取り除いた状態を示している。すなわち、図11及び図12は、フラッタ風試模型1の非中実構造5を露出させた状態を示している。また、図11及び図12においてメッシュは密度が一定の非中実構造5を表している。
【0059】
図11及び図12に例示されるようにプレート21に代えて、或いはプレート21に加えてロッド22を非中実構造5の内部に挿入することもできる。ロッド22についても、長さ、形状、太さ及び材質を自由に変更することができる。特に、ロッド22の場合には横断面形状を円形や多角形に限らずI型やH型など様々な形状に変化させることによって、質量を変えずに剛性のみを調整することが可能となる。
【0060】
もちろん、図9及び図10に例示されるようなプレート21についても、ビード加工を施したり、コルゲート型に成形したりすることによって実質的に質量を変えずに剛性を向上させることができる。
【0061】
このように、FEM解析モデルにおいて定義される非中実構造5の密度の全体的又は部分的な変更に加えて、必要に応じて重り20、プレート21及びロッド22の少なくとも1つを配置したフラッタ風試模型1のFEM解析モデルを作成することによって、モデル化されたフラッタ風試模型1の質量分布及び剛性分布の少なくとも一方を調整することができる。フラッタ風試模型1の質量分布及び剛性分布の少なくとも一方が変化すると、フラッタ風試模型1の振動特性も質量分布及び剛性分布に応じて変化する。
【0062】
そこで、再びステップS3において、質量分布及び剛性分布の少なくとも一方が変化したフラッタ風試模型1のFEM解析モデルを対象として、振動解析が実行される。これにより、質量分布及び剛性分布の少なくとも一方が変化したFEM解析モデルの振動特性が得られる。続いて、再びステップS4において、FEM解析モデルの振動特性が、目標とする実機の振動特性と比較される。
【0063】
そして、このようなステップS5におけるFEM解析モデルの変更と、ステップS3におけるFEM解析モデルの振動解析は、ステップS4の判定においてYESと判定されるまで、すなわちFEM解析モデルの振動特性が実機の振動特性と一致すると見做せる程度まで十分に近づいたと判定されるまで繰り返される。
【0064】
つまり、フラッタ風試模型1の設計時において、非中実構造5の密度の全体的又は部分的な変更、重り21の配置及び非中実構造5を有する部分の内部への剛性を増加させるための部材の配置の少なくとも1つを行うことによって、フラッタ風試模型1の振動特性が航空機部品Pの振動特性に近づくようにフラッタ風試模型1の質量分布及び剛性分布の少なくとも一方を調整することができる。
【0065】
特に、非中実構造5が樹脂製である場合において金属製又はFRP製のプレート21やロッド22等の中実部材をフラッタ風試模型1の内部に追加配置すれば、非中実構造5の密度の変更のみでは困難な程度までフラッタ風試模型1の剛性を増加させることができる。
【0066】
具体例を挙げて説明したように、質量分布及び剛性分布の少なくとも一方を変化させるためのFEM解析モデルのパラメータは多数あり、かつパラメータのとり得る値も多数ある。特に、非中実構造5の密度を部分的に変える場合における領域の分割数や領域の形状の候補は無数に存在する。従って、FEM解析モデルの振動特性と実機の振動特性との間において目標とする一致度が高い場合には、ステップS3からステップS5までのループ計算が、一致度をできるだけ増加させることを目的とする複雑な最適化計算となる場合が多い。
【0067】
このため、最適化計算を行うためのソフトウェアを用いて、非中実構造5の分割方法、密度分布及び材質等の必ず決定すべきパラメータの値や、必要に応じてオプションとして追加され得る重り20、プレート21及びロッド22等の有無及び配置等のパラメータの値を自動計算するようにしても良い。もちろん、一部のパラメータの値を設計者が指定したり、逆に全てのパラメータの値を設計者が指定したりするようにしても良い。
【0068】
設計者によるパラメータの変更や最適化計算等によってステップS4の判定においてYESと判定されると、ステップS3からステップS5までのループ計算は終了する。これにより、理想的なFEM解析モデルが確定する。FEM解析モデルのうち、少なくとも非中実構造5を含む部分は、3Dプリンタ10による造形対象となる部分である。従って、FEM解析モデルのうち、少なくとも非中実構造5を含む部分の輪郭を特定するための情報が3Dプリンタ10に出力すべき3D形状データとなる。
【0069】
重り20、プレート21及びロッド22等の造形に適さない構成要素は、3Dプリンタ10では製作されない。このため、重り20、プレート21或いはロッド22等の構成要素を配置するための空隙や構造を有する非中実構造5を造形するための情報が3Dプリンタ10に出力すべき3D形状データとなる。また、非中実構造5を分割造形する場合には、3Dプリンタ10に出力すべき3D形状データも分割される。
【0070】
3Dプリンタ10に出力すべき3D形状データが特定されると、ステップS7において、3D形状データが3Dプリンタ10に出力される。これにより、FEM解析モデルの形状に対応する非中実構造5を有する部分を3Dプリンタ10で造形することができる。その後、図4を参照して説明したように、組立工程によって最終的なフラッタ風試模型1が組立てられる。重り20、プレート21或いはロッド22等の構成要素がある場合には、組立工程において取付けることができる。
【0071】
尚、図5を参照してFEM解析モデルと実機の振動特性を比較する場合について説明したが、質量分布及び剛性分布が同じであれば振動特性も同様となると見做せる場合には、振動特性に代えて、質量分布及び剛性分布を比較するようにしても良い。すなわち、実機の質量分布及び剛性分布を目標値として、FEM解析モデルの質量分布及び剛性分布を目標値に近付けるようにしても良い。
【0072】
その場合には、典型的な質量及び剛性を有する単位体積のラティス構造やポーラス構造を予め質量及び剛性の高さごとに求めておき、単位体積のラティス構造やポーラス構造を、目的とする質量分布及び剛性分布となるように配列することによって、目的とする質量分布及び剛性分布を有するFEM解析モデルを求めるようにしても良い。
【0073】
(効果)
以上のようなフラッタ風試模型1及びフラッタ風試模型1の製造方法は、内部構造をラティス構造等の非中実構造5とし、密度を調整できるようにしたものである。
【0074】
このため、フラッタ風試模型1及びフラッタ風試模型1の製造方法によれば、中実構造を有する従来のフラッタ風試模型を製作する場合と比べて、製作期間と製作コストを大幅に削減することができる。すなわち、非中実構造5の密度分布及び材質等をコンピュータ11で適切に計算及び決定すれば、3Dプリンタ10を用いて容易かつ安価にフラッタ風試模型1を製作することができる。
【0075】
また、中実構造を有する従来のフラッタ風試模型と比べて、フラッタによって実機と同様な変形をフラッタ風試模型1に生じさせられるように、より適切な質量分布及び剛性分布を容易にフラッタ風試模型1に付与することができる。
【0076】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0077】
1 フラッタ風試模型
2 板状の部材
3 中実構造
4 内部の部分
5 非中実構造
5A、5B、5C 密度が異なる部分
10 3Dプリンタ
11 コンピュータ
20 重り
21 プレート
22 ロッド
A 航空機
MW 主翼
P 航空機部品
図1
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図3
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