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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168843
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】多相LLC共振コンバータ回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
H02M3/28 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080186
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】高木 一斗
(72)【発明者】
【氏名】青柳 祐輝
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA02
5H730AS04
5H730BB27
5H730BB61
5H730BB82
5H730BB88
5H730DD04
5H730EE03
5H730EE07
5H730FG09
5H730FV02
(57)【要約】
【課題】入力電圧の昇圧動作時に共振電流の増加を抑制し、多相-単相動作切り換え時に共振周波数が変化しない多相LLC共振コンバータ回路。
【解決手段】多相LLC共振コンバータ回路10は、直流電源に並列に接続される第1スイッチと第2スイッチの直列回路S1-S3と、一次側巻線と二次側巻線を備えた高周波トランスT1-T3と、第1スイッチと第2スイッチの接続点と一次側巻線の一端の間に接続された共振リアクトルLr1-Lr3と一次側巻線の他端に一端が接続された共振コンデンサCr1-Cr3と一次側巻線と共振コンデンサの接続点に一端が接続された分割共振コンデンサCn1-Cn3を備えた共振回路とを備えた第1-第3のLLC共振コンバータと、共振コンデンサの他端を接続する第1中性線N1と、第1中性線と直流電源の電源ラインの間に接続された中性線リアクトルLnと、分割共振コンデンサの他端を接続する第2中性線N2を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源の第1の直流電圧を第2の直流電圧に変換して出力するための多相LLC共振コンバータ回路であって、
前記直流電源に並列に接続される、第1スイッチと第2スイッチが直列に接続された直列回路と、
一次側巻線と二次側巻線とを備えた高周波トランスと、
前記第1スイッチと前記第2スイッチとの接続点と前記一次側巻線の一端との間に接続された共振リアクトルと、前記一次側巻線の他端に一端が接続された共振コンデンサと、前記一次側巻線と前記共振コンデンサとの接続点に一端が接続された分割共振コンデンサとを備えた共振回路と、
前記二次側巻線の出力を整流するための整流回路と
をそれぞれ備えた第1-第N(Nは2以上の整数)のLLC共振コンバータと、
前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記共振コンデンサの他端を互いに接続した第1中性線と、
前記第1中性線と、前記直流電源の正極と負極のいずれか一方の電源ラインとの間に接続された中性線リアクトルと、
前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記分割共振コンデンサの他端を互いに接続した第2中性線と、
前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記整流回路の出力側に並列に接続されて、両端に第2の直流電圧を出力するための出力コンデンサと
を備える多相LLC共振コンバータ回路。
【請求項2】
前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記第1スイッチと前記第2スイッチのオン・オフを制御するための制御回路を更に備え、
前記制御回路は、
前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記第1スイッチと第2スイッチの各々のオン・オフを、前記共振回路による第1共振周波数に応じた第1の周波数で、かつ、前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記直列共振回路を流れる前記第1の周波数の共振電流が360°/Nの位相差となるように制御する多相動作モードと、
前記第1のLLC共振コンバータの前記第1スイッチと第2スイッチのオン・オフを前記共振回路と前記中性線リアクトルによる第2共振周波数に応じた第2の周波数で制御し、第2-第NのLLC共振コンバータの前記第1スイッチと第2スイッチをオフにする単相動作モードと
を備える
請求項1に記載の多相LLC共振コンバータ回路。
【請求項3】
前記共振コンデンサと前記分割共振コンデンサの静電容量の分割比と、前記共振リアクトルと前記中性線リアクトルのインダクタンス比とは、前記第1共振周波数と前記第2共振周波数が等しくなるように設定されている
請求項2に記載の多相LLC共振コンバータ回路。
【請求項4】
前記共振リアクトルは、前記高周波トランスの漏れインダクタンスである
請求項1から3のいずれか1項に記載の多相LLC共振コンバータ回路。
【請求項5】
前記中性線リアクトルは、直列に接続された等しいインダクタンス値を有するN個のリアクトルである第1-第Nの中性線リアクトルを備え、
前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記共振リアクトルと前記第1-第Nの中性線リアクトルとのN個の対が、それぞれ第1-第Nのコアにより磁気結合されている
請求項1から3のいずれか1項に記載の多相LLC共振コンバータ回路。
【請求項6】
前記中性線リアクトルは、直列に接続された等しいインダクタンス値を有するN個のリアクトルである第1-第Nの中性線リアクトルを備え、
前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記共振リアクトルと前記第1-第Nの中性線リアクトルとが、それぞれ(N+2)脚コアの第2-第N+1の中脚により磁気結合されている
請求項1から3のいずれか1項に記載の多相LLC共振コンバータ回路。
【請求項7】
前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記共振リアクトルと前記第1-第Nの中性線リアクトルとが、重ね巻きされている
請求項5に記載の多相LLC共振コンバータ回路。
【請求項8】
前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記共振リアクトルと前記第1-第Nの中性線リアクトルとが、バイファイラ巻きされている
請求項5に記載の多相LLC共振コンバータ回路。
【請求項9】
前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記共振リアクトルと前記第1-第Nの中性線リアクトルとが、重ね巻きされている
請求項6に記載の多相LLC共振コンバータ回路。
【請求項10】
前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記共振リアクトルと前記第1-第Nの中性線リアクトルとが、バイファイラ巻きされている
請求項6に記載の多相LLC共振コンバータ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源の第1の直流電圧を第2の直流電圧に変換して出力するための多相LLC共振コンバータ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直流電源の第1の直流電圧を第2の直流電圧に変換して出力するためのコンバータ回路として、多相(N相)LLC共振コンバータ回路が知られている(特許文献1参照)。この回路は、直流電源に複数(N個)のLLC共振コンバータを並列に接続して、各々のLLC共振コンバータの高周波トランスの一次側巻線に接続された共振回路の共振電流が360°/Nの位相差をもつように各々のLLC共振コンバータのスイッチをオン・オフさせる。
【0003】
LLC共振コンバータは、直流電源の電圧値が定格(例えば、380V)の場合は、スイッチをオン・オフするスイッチング周波数が共振回路の共振周波数付近となるように設計するのが良い。一方、直流入力電圧の電圧値が低下(例えば、300Vに低下)した際に、スイッチのスイッチング周波数を下げることにより昇圧動作を行うと、回路損失が増加して効率が低下する。同じ出力電力で考えた場合、直流入力電圧の電圧値が低下すると、それに反比例して直流入力電流の値が増加するため、効率がある程度低下するのは自然なことである。しかし、実際は、直流入力電流の値の増加以上に共振回路に流れる共振電流のピーク値が増加している。共振電流を増加させている不要な電流の大部分は、スイッチング周波数の3倍の周波数を有する3次高調波電流である。
【0004】
図11に、従来例の多相LLC共振コンバータ回路13を示す。この回路は、直流電源Vinの電源ラインに接続された第1中性線N1とフローティングな第2中性線N2の両方を有する(特許文献1,2参照)。従来例の多相LLC共振コンバータ回路13は、多相動作モードでは、共振回路41,42,43に流れる共振電流ir1,ir2,ir3を自然平衡することができるとともに、多相動作モードから単相動作モードへ切り換えることが可能である。
【0005】
従来例の多相LLC共振コンバータ回路13は、直流電源30の直流入力電圧Vinが定格(例えば、380V)の場合は、図12(a)に示すように、直列共振回路41,42,43の各相に流れる共振電流ir(ir1,ir2,ir3)はほぼ正弦波状となり、図12(b)に示すように、中性線N1に流れる中性線電流inの値はほぼゼロとなる。しかし、直流電源30の直流入力電圧Vinが定格(例えば、380V)から低下(例えば、300Vに低下)した際に、スイッチのスイッチング周波数を下げることにより昇圧動作を行うと、図13(a)に示すように、共振電流ir(ir1,ir2,ir3)に3次高調波成分が生じることにより共振電流irの実効値が増加する。また、図13(b)に示すように、第1中性線N1には中性線電流inとして3次高調波電流が流れてしまう。
【0006】
更に、従来例の多相LLC共振コンバータ回路13では、多相動作モードから単相動作モードへ切り換えたときに、共振周波数が変化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許6696617号公報
【特許文献2】特開2021-153382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一態様は、多相動作モードでは、直流入力電圧が定格よりも低下した際の昇圧動作時に共振電流の増加と中性線に流れる3次高調波電流の発生を抑制できるとともに、多相動作モードから単相動作モードへの切り換えた際に共振周波数が変化しない多相LLC共振コンバータ回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る多相LLC共振コンバータ回路は、直流電源の第1の直流電圧を第2の直流電圧に変換して出力するための多相LLC共振コンバータ回路であって、前記直流電源に並列に接続される、第1スイッチと第2スイッチが直列に接続された直列回路と、一次側巻線と二次側巻線とを備えた高周波トランスと、前記第1スイッチと前記第2スイッチとの接続点と前記一次側巻線の一端との間に接続された共振リアクトルと、前記一次側巻線の他端に一端が接続された共振コンデンサと、前記一次側巻線と前記共振コンデンサとの接続点に一端が接続された分割共振コンデンサとを備えた共振回路と、前記二次側巻線の出力を整流するための整流回路とをそれぞれ備えた第1-第N(Nは2以上の整数)のLLC共振コンバータと、前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記共振コンデンサの他端を互いに接続した第1中性線と、前記第1中性線と、前記直流電源の正極と負極のいずれか一方の電源ラインとの間に接続された中性線リアクトルと、前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記分割共振コンデンサの他端を互いに接続した第2中性線と、前記第1-第NのLLC共振コンバータの前記整流回路の出力側に並列に接続されて、両端に第2の直流電圧を出力するための出力コンデンサとを備える。
【発明の効果】
【0010】
上記の態様によれば、多相動作モードでは、直流入力電圧が定格よりも低下した際の昇圧動作時に共振電流の増加と中性線に流れる3次高調波電流の発生を抑制できるとともに、多相動作モードから単相動作モードへの切り換えたときに周波数が変化しない多相LLC共振コンバータ回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態に係る多相LLC共振コンバータ回路の構成を示す回路図である。
図2図2(a)は、第1実施形態に係る多相LLC共振コンバータ回路において、直流電源の電圧(300V)を昇圧動作しているときの共振電流の波形を示すタイムチャートであり、図2(b)は、直流電源の電圧(300V)を昇圧動作しているときの中性線電流の波形を示すタイムチャートである。
図3図3は、第1実施形態(実線)と従来例(破線)の多相LLC共振コンバータ回路において直流入力電圧の昇圧動作をしているときの、直流入力電圧(定格:380V)の値に対する共振電流の実効値をプロットした図である。
図4図4は、静電容量の分割比α=0.5の場合の、インダクタンス比L/Lと単相動作時の共振周波数変化率fr2/fr1の関係をプロットした図である。
図5図5(a)は従来例の多相LLC共振コンバータ回路で三相動作から単相動作に切り替えた際の出力電圧と各相の共振電流の過渡波形であり、図5(b)は第1実施形態に係る多相LLC共振コンバータで三相動作から単相動作に切り替えた際の出力電圧と各相の共振電流の過渡波形である。
図6図6(a)は従来例の多相LLC共振コンバータ回路で単相動作から三相動作に切り替えた際の出力電圧と各相の共振電流の過渡波形であり、図6(b)は第1実施形態に係る多相LLC共振コンバータで単相動作から三相動作に切り替えた際の出力電圧と各相の共振電流の過渡波形である。
図7図7は、第2実施形態に係る多相LLC共振コンバータ回路の構成を示す回路図である。
図8図8は、第2実施形態に係る多相LLC共振コンバータ回路で用いられる共振リアクトルと中性線リアクトルを個別のコアにより磁気結合している構成を示す図である。
図9図9は、第2実施形態の変形例に係る多相LLC共振コンバータ回路で用いられる共振リアクトルと中性線リアクトルを5脚コアにより磁気結合している構成を示す図である。
図10図10は、第1実施形態の巻線増加率ρと第2実施形態の巻線増加率ρを静電容量の分割比αについてプロットした図である。
図11図11は、従来例の多相LLC共振コンバータ回路の構成を示す回路図である。
図12図12(a)は、従来例の多相LLC共振コンバータ回路において、直流電源の電圧が定格(380V)のときの共振電流の波形を示すタイムチャートであり、図12(b)は、直流電源の電圧が定格(380V)のときの中性線電流の波形を示すタイムチャートである。
図13図13(a)は、従来例の多相LLC共振コンバータ回路において、直流電源の電圧(300V)を昇圧動作しているときの共振電流の波形を示すタイムチャートであり、図13(b)は、直流電源の電圧(300V)を昇圧動作しているときの中性線電流の波形を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る多相LLC共振コンバータ回路について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る多相LLC共振コンバータ回路10の構成を示す回路図である。ここでは、多相LLC共振コンバータ回路10の相数N=3の場合(三相LLC共振コンバータ回路)の構成について説明する。
【0014】
多相LLC共振コンバータ回路10は、直流電圧値Vinを有する直流電源30に並列接続される、第1スイッチQ11と第2スイッチQ12が直列に接続された第1直列回路S1と、第1スイッチQ21と第2スイッチQ22が直列に接続された第2直列回路S2と、第1スイッチQ31と第2スイッチQ32が直列に接続された第3直列回路S3とを備える。
【0015】
第1実施形態では、各スイッチQ11,Q12,Q21,Q22,Q31,Q32には、Nチャネル型MOSFETを用いているが、他のスイッチング素子を用いてもよい。
【0016】
第1直列回路S1の第1スイッチQ11と第2スイッチQ12との接続点には、第1共振リアクトルLr1の一端が接続される。第2直列回路S2の第1スイッチQ21と第2スイッチQ22との接続点には、第2共振リアクトルLr2の一端が接続される。第3直列回路S3の第1スイッチQ31と第2スイッチQ32との接続点には、第3共振リアクトルLr3の一端が接続される。
【0017】
第1共振リアクトルLr1の他端には第1高周波トランスT1の一次側巻線Lp1の一端が接続され、第1高周波トランスT1の一次側巻線Lp1の他端には第1共振コンデンサCr1の一端が接続され、第1高周波トランスT1の一次側巻線Lp1と第1共振コンデンサCr1の接続点には第1分割共振コンデンサCn1の一端が接続されて、第1共振回路41を構成する。第1高周波トランスT1は、コアと一次側巻線Lp1と二次側巻線Ls1を備える。一次側巻線Lp1と二次側巻線Ls1は、互いに絶縁されている。
【0018】
第2共振リアクトルLr2の他端には第2高周波トランスT2の一次側巻線Lp2の一端が接続され、第2高周波トランスT2の一次側巻線Lp2の他端には第2共振コンデンサCr2の一端が接続され、第2高周波トランスT2の一次側巻線Lp2と第2共振コンデンサCr2の接続点には第2分割共振コンデンサCn2の一端が接続されて、第2共振回路42を構成する。第2高周波トランスT2は、コアと一次側巻線Lp2と二次側巻線Ls2を備える。一次側巻線Lp2と二次側巻線Ls2は、互いに絶縁されている。
【0019】
第3共振リアクトルLr3の他端には第3高周波トランスT3の一次側巻線Lp3の一端が接続され、第3高周波トランスT3の一次側巻線Lp3の他端には第3共振コンデンサCr3の一端が接続され、第3高周波トランスT3の一次側巻線Lp3と第3共振コンデンサCr3の接続点には第3分割共振コンデンサCn3の一端が接続されて、第3共振回路43を構成する。第3高周波トランスT3は、コアと一次側巻線Lp3と二次側巻線Ls3を備える。一次側巻線Lp3と二次側巻線Ls3は、互いに絶縁されている。
【0020】
第1共振コンデンサCr1の他端と、第2共振コンデンサCr2の他端と、第3共振コンデンサCr3の他端は、第1中性線N1によって互いに接続されている。
【0021】
第1中性線N1は、中性線リアクトルLnを介して、直流電源30の負極側の電源ラインに接続される。なお、第1中性線N1は、中性線リアクトルLnを介して、直流電源30の正極側の電源ラインに接続されてもよい。
【0022】
第1分割共振コンデンサCn1の他端と、第2分割共振コンデンサCn2の他端と、第3分割共振コンデンサCn3の他端は、フローティングな第2中性線N2によって互いに接続されている。
【0023】
共振リアクトルLr1,Lr2,Lr3は、等しいインダクタンス値Lに設定されている。各々の共振リアクトルLr1,Lr2,Lr3は、後述の第2実施形態のように磁気結合を利用しない場合には、高周波トランスT1,T2,T3の漏れインダクタンスを利用することも可能である。共振コンデンサCr1,Cr2,Cr3は、等しい静電容量αCに設定されている。分割共振コンデンサCn1,Cn2,Cn3は、等しい静電容量(1-α)Cに設定されている。ここで、αは、共振コンデンサCr1,Cr2,Cr3と分割共振コンデンサCn1,Cn2,Cn3の静電容量の分割比であり、0<α<1の値を有するパラメータである。インダクタンス値Lと静電容量Cは、所望の共振周波数の値によって決定される。中性線リアクトルLnのインダクタンス値Lについては、後述する。
【0024】
高周波トランスT1,T2,T3は、同じ規格の高周波トランスを用いればよく、一次側巻線Lp1,Lp2,Lp3は、それぞれ等しい巻数Npを有するとともに等しいインダクタンス値Lに設定されており、二次側巻線Ls1,Ls2,Ls3は、それぞれ等しい巻数Nsと等しいインダクタンス値Lに設定されている。一次側巻線Lpの巻数Npと二次側巻線Lsの巻数Nsの比は、直流入力電圧Vinと直流出力電圧Voの比によって決定すればよい。
【0025】
第1高周波トランスT1の二次側巻線Ls1の負極側には第1整流ダイオードD1aのカソードが接続され、第1高周波トランスT1の二次側巻線Ls1の正極側には第2整流ダイオードD1bのカソードが接続される。第1整流ダイオードD1aと第2整流ダイオードD1bにより、第1整流回路51が構成されている。第1高周波トランスT1の二次側巻線Ls1の中性点が出力コンデンサCoの一端に接続され、第1整流ダイオードD1aと第2整流ダイオードD1bのアノードが出力コンデンサCoの他端に接続されることにより、二次側巻線Ls1の両端に出力される交流電圧が全波整流されるとともに平滑化される。
【0026】
第2高周波トランスT2の二次側巻線Ls2の負極側には第3整流ダイオードD2aのカソードが接続され、第2高周波トランスT2の二次側巻線Ls2の正極側には第4整流ダイオードD2bのカソードが接続される。第3整流ダイオードD2aと第4整流ダイオードD2bにより、第2整流回路52が構成されている。第2高周波トランスT2の二次側巻線Ls2の中性点が出力コンデンサCoの一端に接続され、第3整流ダイオードD2aと第4整流ダイオードD2bのアノードが出力コンデンサCoの他端に接続されることにより、二次側巻線Ls2の両端に出力される交流電圧が全波整流されるとともに平滑化される。
【0027】
第3高周波トランスT3の二次側巻線Ls3の負極側には第5整流ダイオードD3aのカソードが接続され、第3高周波トランスT3の二次側巻線Ls3の正極側には第6整流ダイオードD3bのカソードが接続される。第5整流ダイオードD3aと第6整流ダイオードD3bにより、第3整流回路53が構成されている。第3高周波トランスT3の二次側巻線Ls3の中性点が出力コンデンサCoの一端に接続され、第5整流ダイオードD3aと第6整流ダイオードD3bのアノードが出力コンデンサCoの他端に接続されることにより、二次側巻線Ls3の両端に出力される交流電圧が全波整流されるとともに平滑化される。
【0028】
なお、整流回路51,52,53として整流ダイオードを用いる形式を例示したが、二次側巻線Ls1,Ls2,Ls3の出力電圧を整流することができればよく、その構成は任意である。
【0029】
第1直列回路S1と第1共振回路41と第1高周波トランスT1と第1整流回路51により、第1のLLC共振コンバータが構成されている。同様に、第2直列回路S2と第2共振回路42と第2高周波トランスT2と第2整流回路52により、第2のLLC共振コンバータが構成され、第3直列回路S3と第3共振回路43と第3高周波トランスT3と第3整流回路53により、第3のLLC共振コンバータが構成されている。
【0030】
第1-第3のLLC共振コンバータの出力が、出力コンデンサCoの両端に並列に接続され、直流出力電圧Voが出力される。
【0031】
多相LLC共振コンバータ回路10は、スイッチQ11,Q12,Q21,Q22,Q31,Q32のゲートに接続され、スイッチQ11,Q12,Q21,Q22,Q31,Q32のオン・オフを制御するための制御回路60を備える。
【0032】
制御回路60は、第1直列回路S1の第1スイッチQ11と第2スイッチQ12を交互にオン・オフさせることにより、第1共振回路41を流れる第1共振電流ir1を生成する。制御回路60は、第2直列回路S2の第1スイッチQ21と第2スイッチQ22を交互にオン・オフさせることにより、第2共振回路42を流れる第2共振電流ir2を生成する。制御回路60は、第3直列回路S3の第1スイッチQ31と第2スイッチQ32を交互にオン・オフさせることにより、第3共振回路43を流れる第3共振電流ir3を生成する。
【0033】
制御回路60は、所定の周波数fでスイッチQ11,Q12,Q21,Q22,Q31,Q32のオン・オフするゲート信号を制御することにより、所定の周波数fを有する共振電流ir1,ir2,ir3を生成する。
【0034】
制御回路60は、多相LLC共振コンバータ回路10の第1、第2、第3のLLC共振コンバータの全てを動作させる多相動作モードと、多相LLC共振コンバータ回路10の第1、第2、第3のLLC共振コンバータのうちのいずれか1つのLLC共振コンバータを動作させ、その他のLLC共振コンバータの動作を停止する単相動作モードを有する。
【0035】
制御回路60は、多相動作モードのときには、共振回路41,42,43に流れる共振電流ir1,ir2,ir3が互いに360°/3=120°の位相差となるように、直列回路S1,S2,S3の全てのスイッチQ11,Q12,Q21,Q22,Q31,Q32のオン・オフを制御する。
【0036】
多相動作モードのときの共振周波数fr1は、共振回路41,42,43による共振周波数として式1のように表される。
【数1】
…(式1)
【0037】
式1のように、多相動作モードのときの共振周波数fr1は、分割比αおよび中性線リアクトルLnには依存しない。多相動作モードのときには、スイッチをオン・オフするスイッチング周波数としての所定の周波数fは、式1の共振周波数fr1に応じて設定すればよい。
これにより、直列共振回路41,42,43に流れる共振電流ir1,ir2,ir3が生成される。
【0038】
多相動作モードのときで直流電源30の直流入力電圧Vinが定格値(例えば、380V)である場合、互いに120°の位相差を持つ共振電流ir1,ir2,ir3が成分を打ち消しあうため、電流ir1+ir2+ir3は、通常はほぼゼロとなる。このときに、1つの共振回路に流れる共振電流irは、従来例で示した図12(a)と同様になり、第1中性線N1に流れる中性線電流inは、従来例で示した図12(b)と同様になる。
【0039】
多相動作モードのときで直流電源30の直流入力電圧Vinが定格値未満(例えば、300V)であるときに、スイッチング周波数fをfr1よりも小さくして昇圧動作を行うと、例えば、従来例の場合では第1中性線N1に図13(b)に示したような3次高調波成分を有する中性線電流inが発生してしまう。これに対し、第1実施形態のように、第1中性線N1と直流電源50の負極側(または正極側)の電源ラインの間に中性線リアクトルLnを接続することにより、3次高調波成分を有する中性線電流inの発生を抑制することができる。この様子を示したのが、図2であり、図2(a)は、昇圧動作時に1つの共振回路に流れる共振電流irであり、図2(b)は、昇圧動作時に第1中性線N1に流れる中性線電流inである。
【0040】
このように、図2(b)に示す第1実施形態で昇圧動作時に第1中性線N1に流れる中性線電流inは、図13(b)に示す従来例で昇圧動作時に第1中性線N1に流れる中性線電流inと比べてその大きさを抑制することができる。また、図2(a)に示す第1実施形態で昇圧動作時に1つの共振回路に流れる共振電流irは、図13(a)に示す従来例で昇圧動作時に1つの共振回路に流れる共振電流irと比べて、高調波成分の大きさを抑制することができる。
【0041】
図3は、直流入力電圧Vinの値が定格(380V)以下のときに、図11に示す従来例の構成(破線)と図1に示す第1実施形態の構成(実線)において共振回路41,42,43のいずれかに流れる共振電流ir(ir1,ir2,ir3)の実効値を比較したものである(インダクタンス値は、L=L/3に設定)。図3より、第1実施形態では従来例に対して共振電流の実効値の増加を抑制できていることがわかる。
【0042】
制御回路60は、単相動作モードのときには、第1、第2、第3のLLC共振コンバータのいずれか1つの直列回路の第1スイッチと第2スイッチのオン・オフを制御するとともに、その他2つのLLC共振コンバータの第1スイッチと第2スイッチはオフとするように制御する。ここでは、制御回路60は、単相動作モードのときには、第1のLLC共振コンバータの直列回路S1の第1スイッチQ11と第2スイッチQ12のオン・オフを制御するとともに、第2、第3のLLC共振コンバータの直列回路S2,S3の第1スイッチQ21,Q31と第2スイッチQ22,Q32はオフとするように制御する場合を考える。
【0043】
単相動作モードのときの共振周波数fr2は、共振回路41と共振コンデンサCr2,Cr3と分割共振コンデンサCn2,Cn3と中性線リアクトルLnによる共振周波数として式2のように表される。
【数2】
…(式2)
【0044】
単相動作モードのときには、第1直列回路S1のスイッチQ11,Q12をオン・オフするスイッチング周波数fは、式2の共振周波数fr2に応じて設定すればよい。
【0045】
ここで、三相動作モードから単相動作モードに切り替えた際に、共振周波数が増加しない条件(fr2≦fr1)を考えると、式1と式2より式3が求まる。
【数3】
…(式3)
【0046】
特に、式4の条件(fr2=fr1)にすることにより、三相動作モードと単相動作モードの切り替え時に、共振周波数が変化しなくなるため、切り替え時の過渡特性を向上させることができる。
【数4】
…(式4)
【0047】
中性線リアクトルLnと共振リアクトルLrのインダクタンス比をL/L=λとすると、式4は式5のように表される。
【数5】
…(式5)
【0048】
式5を分割比αについての形に変形すると式6のように表される。
【数6】
…(式6)
【0049】
中性線リアクトルLnと共振リアクトルLrのインダクタンス比L/L=λと、分割比αを式5または式6のような条件に設定することにより、三相動作モードと単相動作モードの切り替え時に、共振周波数が変化しなくなる(fr2=fr1)。
【0050】
図4は、α=0.5のときの、中性線リアクトルLnと共振リアクトルLrのインダクタンス比L/Lと、三相動作モードから単相動作モードに切り替えた際の共振周波数の変化率fr2/fr1との関係を示す図である。図4より、α=0.5のときでは、L/L=1/3のときに、共振周波数の変化率fr2/fr1=1、すなわち、共振周波数が変化せず、L/L>1/3のときに、fr2/fr1<1となり、共振周波数の増加が抑制されていることがわかる。
【0051】
図5(a)は、図11に示す従来例の多相LLC共振コンバータ回路13で三相動作モードから単相動作モードに切り替えを固定周波数で行った際の、直流出力電圧Voと各相の共振電流ir1,ir2,ir3の過渡波形を示す。図5(b)は、第1実施形態に係る多相LLC共振コンバータ回路10(α=0.5、L=L/3)で三相動作モードから単相動作モードに切り替えを固定周波数で行った際の、直流出力電圧Voと各相の共振電流ir1,ir2,ir3の過渡波形を示す。三相動作から単相動作への切り換え時の条件は、動作周波数f=69.4kHz固定、出力コンデンサCoの静電容量C=1000μF、等価直列抵抗=18mΩ、出力電流Io=12.5A(出力電圧Vo=48.0Vで出力電力Po=600W)を用いた。
【0052】
図5(a)に示す従来例の場合、三相から単相に切り替えた直後に、出力電圧Vo、共振電流ir1ともに大きなオーバーシュートが生じ、整定後の出力電圧Voの平均値は51.5Vに上昇してしまう。図5(b)に示す第1実施形態の場合、三相から単相に切り替えた直後の出力電圧Vo、共振電流ir1のオーバーシュートは小さく、整定後の出力電圧Vo平均値は48.0Vのままである。
【0053】
図6(a)は、図11に示す従来例の多相LLC共振コンバータ回路13で単相動作モードから三相動作モードに切り替えを固定周波数で行った際の、直流出力電圧Voと各相の共振電流ir1,ir2,ir3の過渡波形を示す。図6(b)は、第1実施形態に係る多相LLC共振コンバータ回路10(α=0.5、L=L/3)で単相動作モードから三相動作モードに切り替えを固定周波数で行った際の、直流出力電圧Voと各相の共振電流ir1,ir2,ir3の過渡波形を示す。単相動作から三相動作へ切り替え時の条件は、従来例の動作周波数f=79.8kHz固定、第1実施形態の動作周波数f=69.4kHz固定、出力コンデンサCoの静電容量C=1000μF、等価直列抵抗=18mΩ、出力電流Io=12.5A(出力電圧Vo=48.0Vで出力電力Po=600W)を用いた。
【0054】
図6(a)に示す従来例の場合、整定後の出力電圧平均値は45.3Vに下降してしまう。図6(b)に示す第1実施形態の場合、整定後の出力電圧平均値は48.0Vのままである。
このため、図11に示す従来例のLLC共振コンバータ回路13では、相数を切り替えるときにフィードバック制御による動作周波数fの操作を必要としていたが、図1に示す実施形態に係るLLC共振コンバータ回路10では、相数を切り替えるときのフィードバック制御による動作周波数fの操作を不要とすることができる。このため、実施形態に係るLLC共振コンバータ回路10は、例えば、柱上変圧器等の商用周波数変圧器の代替が期待される直流変圧器(DCX)への応用に適する。
【0055】
ここで、共振リアクトルLr1、Lr2、Lr3と中性線リアクトルLnが同じ規格のコアに巻かれている場合を考える。共振リアクトルLr1、Lr2、Lr3の巻数をN、中性線リアクトルLnの巻数をN、巻数比をN/N=n(=√λ)とすると、式2は式7のように書き換えることができる。
【数7】
…(式7)
【0056】
したがって、以下のような式8の条件の下でfr2=fr1となる。
【数8】
…(式8)
【0057】
また、式8を分割比αに関する式に変形すると、式9のようになる。
【数9】
…(式9)
【0058】
ここで、例えば、α=0.5を採用した場合、n=1/√3=0.577とすればよい。
なお、コアとしては、例えば、3脚コアを用いることができ、それぞれのリアクトルLr1、Lr2、Lr3、Lnは3脚コアの真ん中の脚に巻けばよいが、それ以外の形態を用いてもよい。
【0059】
第1実施形態に係る多相LLC共振コンバータ回路10では、第1中性線N1が中性線リアクトルLnを介して直流電源30の負極(または、正極)に接続されているため、多相動作モードと単相動作モードを切り替えての動作が可能である。更に、中性線リアクトルLnが高周波数成分の交流電流に対して高いインピーダンス値を示すため、多相動作モードにおける昇圧動作時には、共振回路41,42,43に流れる共振電流ir1,ir2,ir3に含まれる3次高調波などの高調波成分を抑制して実効値の増加を抑制するとともに、第1中性線N1から中性線リアクトルLnを介して直流電源30の負極(または、正極)に流れる中性線電流inに含まれる3次高調波などの高調波成分を抑制することができる。
【0060】
第1実施形態では、相数N=3の三相LLC共振コンバータ回路について説明したが、N=2またはN>3としてN個のLLC共振コンバータを備える多相LLC共振コンバータ回路のような構成にしてもよい。この場合、多相動作モードのときには、それぞれのLLC共振コンバータの共振電流irの位相差が360°/Nになるように制御回路60によって動作させればよい。さらに、N個のうちのN1(N1<N)個のLLC共振コンバータを動作させて、N-N1個のLLC共振コンバータの動作を停止するように制御回路60によって動作させることも可能である。本明細書でいう「第1のLLC共振コンバータの第1スイッチと第2スイッチのオン・オフを共振回路と中性線リアクトルによる第2共振周波数に応じた第2の周波数で制御し、第2-第NのLLC共振コンバータの第1スイッチと第2スイッチをオフにする」は、「第1のLLC共振コンバータ」が複数個のLLC共振コンバータであってもよい。例えば、4個のLLC共振コンバータのうちの2個のスイッチを第2の周波数で制御し、残りの2個のスイッチをオフにしてもよい。代替的に、6個のLLC共振コンバータのうちの2個又は3個のスイッチを第2の周波数で制御し、残りの4個又は3個のスイッチをオフにしてもよい。
【0061】
また、単相動作モードのときには、N=2またはN>3のN個のLLC共振コンバータのうちの任意の1個のLLC共振コンバータのみを動作させるようにすればよい。この場合でも、第1実施形態に係る多相LLC共振コンバータ回路10の単相動作モードと同様に動作することができる。
【0062】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る多相LLC共振コンバータ回路10Aの構成を示す回路図である。
【0063】
多相LLC共振コンバータ回路10Aは、図1に示す第1実施形態に対して、第1中性線リアクトルLn1、第2中性線リアクトルLn2、第3中性線リアクトルLn3の直列に接続された3個の中性線リアクトルを備えるという点が相違している。ここでは、相違点のみを説明し、共通点についての説明は省略する。
【0064】
図7,8に示すように、第1中性線リアクトルLn1が第1共振リアクトルLr1と第1のコアTn1により磁気結合されており、第2中性線リアクトルLn2が第2共振リアクトルLr2と第2のコアTn2により磁気結合されており、第3中性線リアクトルLn3が第3共振リアクトルLr3と第3のコアTn3により磁気結合されている。
【0065】
図8では、コアとして3脚コアを用いており、各リアクトルは3脚コアTn1,Tn2,Tn3の真ん中の脚に巻かれている。3脚コアTn1,Tn2,Tn3の真ん中の脚には、中心近傍にエアギャップが設けられている。
【0066】
図8の変形例として、図9では、コアとして5脚コアTnを用いて、中心側の3脚に各リアクトルが巻かれている状態を示している。5脚コアTnの中心側の3脚には、各々の脚の中心近傍にエアギャップが設けられている。相数Nが3以外の場合でも、(N+2)脚のコアを用いれば、類似の構成とすることができる。その他、目的とする使用状態によって、コアとしては、図8,9で示したもの以外のものでも任意のものを採用することができる。
【0067】
図8,9では、便宜上、第1中性線リアクトルLn1と第1共振リアクトルLr1、第2中性線リアクトルLn2と第2共振リアクトルLr2、第3中性線リアクトルLn3と第3共振リアクトルLr3をそれぞれ分けて示している。実際には、互いの結合度を高めるために、第1中性線リアクトルLn1と第1共振リアクトルLr1、第2中性線リアクトルLn2と第2共振リアクトルLr2、第3中性線リアクトルLn3と第3共振リアクトルLr3は、それぞれ重ね巻きまたはバイファイラ巻きとして、密結合な状態にしている。
【0068】
図8,9のような構成とすることで、第1実施形態のように各々の共振リアクトルLr1,Lr2,Lr3、中性線リアクトルLnに個別のコアを用いる場合と比較して、コアの数を少なくすることができる。
【0069】
第2実施形態では、三相動作モードの共振周波数fr3は、共振電流ir1,ir2,ir3の基本波が120°の位相差を持っており、中性線N1に流れる電流inに含まれる基本波成分は零である。中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3の自己インダクタンス及び共振リアクトルLr1,Lr2,Lr3と中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3の相互インダクタンスは無視できるため、第1実施形態と同様に式10のように表される。
【数10】
…(式10)
【0070】
これに対して、共振電流ir1,ir2,ir3に重畳されている3次高調波電流は、各相で同じ位相となり、中性線N1および中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3には、各相の3次高調波電流が重ね合わされたものが流れる。このため、3次高調波電流に対しては、中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3の自己インダクタンス及び共振リアクトルLr1,Lr2,Lr3と中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3の相互インダクタンスの成分が発生する。
【0071】
ここで、共振リアクトルLr1、Lr2、Lr3の巻数をN、また、第1実施形態と比較するため、中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3の全巻数をN、即ち、各々の中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3の巻数をN/3であるとすると、各々の共振リアクトルLr1、Lr2、Lr3と中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3の巻数比は(N/3)/N=n/3となる。各々の中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3の自己インダクタンス値をlとすると、3次高調波電流に対する各共振リアクトルの共振インダクタンス値Lrtは、自己インダクタンスと相互インダクタンスを考慮することにより、式11のように表される。
【数11】
…(式11)
ここで、kは共振リアクトル巻線と中性線リアクトル巻線の結合係数である。このように、3次高調波に対しては、共振リアクトルLrのインダクタンス値を大きくすることができる。
【0072】
三相動作モードのときの3次高調波電流に対する中性線リアクトル3直列分の全中性線インダクタンス値Lntは、式12のように表される。
【数12】
…(式12)
【0073】
3次高調波電流に対する全インダクタンス値Lは、共振リアクトルが並列接続とみなされることに注意して、式13のように表される。
【数13】
…(式13)
【0074】
一方、第1実施形態における3次高調波電流に対する全インダクタンス値Lは式14のように表される。
【数14】
…(式14)
【0075】
3次高調波電流に対する第2実施形態の全インダクタンス値Ltが第1実施形態よりも大きくなる条件は、式13と式14を比較することにより、式15のように得られる。
【数15】
…(式15)
【0076】
すなわち、密結合で結合係数がk~1で巻数比n<1(n/3<1/3=0.333)の場合、3次高調波電流に対しては、第2実施形態の全インダクタンス値の方が、第1実施形態の全インダクタンス値よりも大きくなる。換言すると、巻数比n<1(n/3<1/3=0.333)の場合、3次高調波電流に対しては、第2実施形態の中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3の全巻数を第1実施形態の中性線リアクトルLnの巻数Nより小さくしても、第2実施形態の全インダクタンス値を第1実施形態の全インダクタンス値とほぼ等しい値とすることができる。
【0077】
次に、単相動作モードのときの全共振インダクタンス値Lrt1を考える。単相動作時の全共振インダクタンス値Lrt1は、Lr1の自己インダクタンスと相互インダクタンスを考慮することにより、式16のように表される。
【数16】
…(式16)
【0078】
同様に、単相動作モードのときの全中性線インダクタンス値Lnt1を考える。単相動作時の全中性線インダクタンス値Lnt1は、Ln1については自己インダクタンスと相互インダクタンスを考慮し、Ln2,Ln3については自己インダクタンスのみを考慮すればよいので、式17のように表される。
【数17】
…(式17)
【0079】
したがって、単相動作モードのときの共振周波数fr4は、共振リアクトルLrについても相互インダクタンスを含んだ全インダクタンス値Lrt1を用いることにより、式18のように表される。
【数18】
…(式18)
【0080】
単相動作モードのときには、第1直列回路S1のスイッチQ11,Q12をオン・オフするスイッチング周波数fは、式18の共振周波数fr4に応じて設定すればよい。
15式より、三相動作モードから単相動作モードに切り替えた際に、共振周波数が変化しない条件(fr4=fr3)として式19が求まる。
【数19】
…(式19)
【0081】
式19をn/3について解くと、式20が求まる。ただし、結合係数をk=1(密結合)とした。
【数20】
…(式20)
【0082】
したがって、巻数比を、採用した分割比αを用いて式20から求まる値n/3に設定することにより、三相動作モードのときの共振周波数fr3と単相動作モードのときの共振周波数fr4が等しくなる(fr4=fr3)。例えば、分割比α=0.5を採用した場合、巻数比n/3=0.138に設定することにより、三相動作モードと単相動作モードの切り替え時に、共振周波数が変化しなくなる(fr4=fr3)。
式20を分割比αに関する式に変形すると、式21のようになる。
【数21】
…(式21)
【0083】
分割比αを、採用した巻数比n/3またはnを用いて式21から求まる値に設定することにより、三相動作モードのときの共振周波数fr3と単相動作モードのときの共振周波数fr4が等しくなる(fr4=fr3)。
【0084】
ここで、第2実施形態における中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3の全巻数Nと共振リアクトルLr1,Lr2,Lr3の全巻数3Nとの比を巻線増加率ρとすると、巻線増加率ρは式20より式22のように表される。
【数22】
…(式22)
【0085】
これに対して、第1実施形態のように磁気結合を用いない場合の中性線リアクトルLnの巻数Nと共振リアクトルLr1,Lr2,Lr3の全巻数3Nとの比を巻線増加率ρとすると、巻線増加率ρは式8より式23のように表される。
【数23】
…(式23)
【0086】
式22の第2実施形態での巻線増加率ρと式23の第1実施形態での巻線増加率ρを分割比αについてプロットしたものが図10である。したがって、分割比α>0.25の範囲では、第2実施形態での巻線増加率ρの方が第1実施形態での巻線増加率ρよりも小さくなる(ρ<ρ)、すなわち、第2実施形態のように磁気結合を用いた方が第1実施形態のように磁気結合を用いない方よりも中性線リアクトルの巻数が少なくなる。
【0087】
第2実施形態に係る多相LLC共振コンバータ回路10Aでも、第1実施形態と同様、中性線N1が中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3を介して直流電源30の負極側(または、正極側)の電源ラインに接続されているため、多相動作モードと単相動作モードを切り替えての動作が可能である。中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3が高調波成分の交流電流に対して高いインピーダンス値を示すため、多相動作モードにおける昇圧動作時には、共振回路41,42,43に流れる共振電流ir1,ir2,ir3に含まれる3次高調波などの高調波成分を抑制して実効値の増加を抑制する。更に、中性線N1から中性線リアクトルLn1,Ln2,Ln3を介して直流電源30の負極側(または、正極側)の電源ラインに流れる中性線電流inに含まれる3次高調波などの高調波成分を抑制することができる。
【符号の説明】
【0088】
10,10A 多相LLC共振コンバータ回路
30 直流電源
41,42,43 共振回路
51,52,53 整流回路
Cn1,Cn2,Cn3 分割共振コンデンサ
Co 出力コンデンサ
Cr1,Cr2,Cr3 共振コンデンサ
f スイッチング周波数
r1、fr2、fr3、fr4 共振周波数
in 中性線電流
ir,ir1,ir2,ir3 共振電流
Ln 中性線リアクトル
Lr1,Lr2,Lr3 共振リアクトル
N1 第1中性線
N2 第2中性線
Q11,Q21,Q31 第1スイッチ
Q21,Q22,Q32 第2スイッチ
S1,S2,S3 直列回路
T1,T2,T3 高周波トランス
Vin 直流入力電圧
Vo 直流出力電圧
α 共振コンデンサと分割共振コンデンサの静電容量の分割比
λ 中性線リアクトルと共振リアクトルのインダクタンス比
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13