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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168867
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】弾性ストッキング
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/12 20060101AFI20231121BHJP
   A41D 13/05 20060101ALI20231121BHJP
   A41B 11/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
A41D13/12 154
A41D13/05 143
A41D13/05 162
A41B11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080227
(22)【出願日】2022-05-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)試着会日 令和3年11月13日 試着会名 第10回福井県パーキンソン病患者さんとの懇談会 開催場所 福井県社会福祉協議会(福井県福井市光陽2丁目3番22号) (2)発行日 令和4年1月6日 刊行物名 福井新聞 令和4年1月6日付朝刊第2面 (3)ウェブサイトの掲載日 令和4年1月6日 ウェブサイトのアドレス https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1468575
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)試着会日 令和3年11月13日 試着会名 第10回福井県パーキンソン病患者さんとの懇談会 開催場所 福井県社会福祉協議会(福井県福井市光陽2丁目3番22号) (2)発行日 令和4年1月6日 刊行物名 福井新聞 令和4年1月6日付朝刊第2面 (3)ウェブサイトの掲載日 令和4年1月6日 ウェブサイトのアドレス https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1468575
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(71)【出願人】
【識別番号】510281209
【氏名又は名称】イーゲート株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596137151
【氏名又は名称】アサヒマカム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124718
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 建
(74)【代理人】
【識別番号】100136216
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 恵美
(72)【発明者】
【氏名】濱野 忠則
(72)【発明者】
【氏名】中本 安成
(72)【発明者】
【氏名】片岡 和加子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博之
【テーマコード(参考)】
3B011
3B018
3B211
【Fターム(参考)】
3B011AA12
3B011AB08
3B011AC17
3B011AC22
3B018AB02
3B018AC01
3B018AD02
3B211AA12
3B211AB08
3B211AC17
3B211AC22
(57)【要約】
【課題】本発明は、パーキンソン病患者や力の弱い女性や筋力が低下した老人等でも着脱しやすい弾性ストッキングを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る弾性ストッキングは、足部又は脚部に設けた始点から前記脚部の上端部側に設けた終点まで直線状に延伸し、開閉可能なスリットと、該スリットを開閉するための開閉手段と、前記スリットの裏面に、該スリットを跨いでスリットの開口度を規制する伸縮性又は弾性を有する部材と、着衣者の踵に対応する部分に開口させた穴部と、を備えた弾性ストッキングであって、前記穴部の縁に着衣者の踵を係止し、前記開閉手段を前記スリットの始点から終点まで直線状に引き上げることにより、開口した該スリットを閉口可能であることを特徴とする。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着衣者の指、甲、土踏まず、踵、踝を含む足において、少なくとも甲と土踏まずを覆う足部と、
着衣者の足首、下腿(脛、ふくらはぎ、膝)、大腿を含む脚において、少なくとも足首と脛とふくらはぎを覆う脚部と、
を有し、該足部の指先側端部から該脚部の上端部までが連続している弾性ストッキングにおいて、
前記足部又は脚部に設けた始点から前記脚部の上端部側に設けた終点まで直線状に延伸し、開閉可能なスリットと、
該スリットを開閉するための開閉手段と、
前記スリットの裏面に、該スリットを跨いでスリットの開口度を規制する伸縮性又は弾性を有する部材と、
着衣者の踵に対応する部分に開口させた穴部と、
を備えた弾性ストッキングであって、
前記穴部の縁に着衣者の踵を係止し、前記開閉手段を前記スリットの始点から終点まで直線状に引き上げることにより、該スリットを閉口可能な弾性ストッキング。
【請求項2】
着衣者の指、甲、土踏まず、踵、踝を含む足において、少なくとも甲と土踏まずを覆う足部と、
着衣者の足首、下腿(脛、ふくらはぎ、膝)、大腿を含む脚において、少なくとも足首と脛とふくらはぎを覆う脚部と、
を有し、該足部の指先側端部から該脚部の上端部までが連続している弾性ストッキングにおいて、
前記足部又は脚部に設けた始点から前記脚部の上端部側に設けた終点まで直線状に延伸し、開閉可能なスリットと、
該スリットを開閉するための開閉手段と、
前記スリットの裏面に、該スリットを跨いで該脚部の周方向に沿って、該スリットの開口度を規制する一又は複数の伸縮性又は弾性を有する帯状体と、
着衣者の踵に対応する部分に開口させた穴部と、
を備えた弾性ストッキングであって、
前記穴部の縁に着衣者の踵を係止し、前記開閉手段を前記スリットの始点から終点まで直線状に引き上げることにより、該スリットを閉口可能な弾性ストッキング。
【請求項3】
前記スリットの始点を、着衣者の踝を挟んで前記穴部の縁と対向するように配置した、請求項1又は2に記載の弾性ストッキング。
【請求項4】
前記脚部の上端部又は上端部近傍の内周面に周設された上端バンドを備え、
前記上端バンドは滑り止め部材からなる、請求項2に記載の弾性ストッキング。
【請求項5】
前記脚部の上端部又は上端部近傍に、前記スリットを跨いで脚部の周方向に沿って設けられ、該スリットの開口度を規制する上端の前記伸縮性又は弾性を有する帯状体と、
前記脚部の上端部又は上端部近傍の内周面に周設された前記上端バンドとが接続され、
脚部を周方向に包囲する、請求項3に記載の弾性ストッキング。
【請求項6】
さらに、前記脚部のふくらはぎを覆う領域に、前記スリットを跨いで脚部の周方向に沿って設けられ、該スリットの開口度を規制する前記伸縮性又は弾性を有する帯状体を備えた、請求項5に記載の弾性ストッキング。
【請求項7】
着衣状態において、前記スリットをその始点から終点まで直線状に延伸させた際に、
該スリットの該始点方向の延長線が、前記穴部を回避して前記足部まで直接延長するように該穴部を配置することにより、
前記開閉手段を該スリットの始点から終点まで直線状に円滑に引き上げ可能である、請求項1又は2に記載の弾性ストッキング。
【請求項8】
前記スリットの始点から終点までを一直線として、折れがないように載置した非着衣状態において、
該スリットの始点方向の延長線と、該延長線と平行となる前記穴部の接線との距離を、略1.4~2.4cmとした、請求項7に記載の弾性ストッキング。
【請求項9】
脚部の足首を覆う領域の伸び率を100~130%、足部の土踏まずを覆う領域の伸び率を140~170%、足部の土踏まずを覆う領域と脚部の足首を覆う領域を連結する開口された穴部を有する領域の伸び率を230~260%とした、請求項7に記載の弾性ストッキング。
【請求項10】
前記足部の指先側端部を開口し、着衣者の指を露出させるようにした、請求項1又は2に記載の弾性ストッキング。
【請求項11】
前記開閉手段の始点を伸び率が100~130%の位置に備えた、請求項1又は2に記載の弾性ストッキング。
【請求項12】
(1)足部又は脚部に設けた始点から上端部側に設けた終点まで直線状に延伸して開閉可能なスリットと、
該スリットを開閉するための開閉手段と、
前記スリットの裏面に、該スリットを跨いで該脚部の周方向に沿って、該スリットの開口度を規制する一又は複数の伸縮性又は弾性を有する帯状体と、
前記脚部の上端部又は上端部近傍の内周面に周設された上端バンドと、
着衣者の踵に対応する部分に開口させた穴部と、
を備えた弾性ストッキングを準備するステップと、
(2)着衣者の足及び脚に、前記弾性ストッキングを通すステップと、
(3)着衣者の踵に前記穴部の縁を係止するステップと、
(4)前記弾性ストッキングの上端部を着衣者の脚の上方に引き上げて、着衣者の脚に装着すると共に、前記上端バンドを所定の高さの位置に配置するステップと
(5)前記スリットが始点から終点まで直線状となるように前記上端バンドを着衣者の脚周り方向にずらして調整するステップと、
(6)前記開閉手段を前記スリットの始点から終点まで直線状に引き上げるステップと、
を含む、弾性ストッキングの着用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着脱が容易な弾性ストッキングに関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢社会を迎えパーキンソン病患者数は著しく増加しており、パーキンソン病では振戦、無動、歩行障害といった運動症状以外に起立性低血圧、便秘、夜間頻尿等の自律神経症状が患者のADLを著しく損ねている。特に血圧低下による失神発作が問題となる場合が多い。血圧低下による失神発作の原因として、寝たきりの人が起き上がった際に起こる急激な血圧の低下が挙げられる。昇圧剤の服用も行われているが、臥位では高血圧となる場合もあり、昇圧剤の服用には注意を要する。弾性ストッキングを着用することにより座位血圧のみを上昇させることが可能になるが、パーキンソン病患者においては弾性ストッキングの弾性力によりストッキングの着脱が非常に困難である。
【0003】
一方で、パーキンソン病患者のみならず、外科手術後の患者の静脈血栓の予防にも弾性ストッキングは利用されている。この場合、看護師等の医療従事者が患者に弾性ストッキングを着用させることになるが、この場合も弾性ストッキングの弾性力により着脱を行うには力が必要となり、着脱させるのが難しいため時間がかかる等の問題点がある。
【0004】
また、飛行機等の乗り物に乗って長時間同じ体勢をとらないといけない時や、被災地等で車の中で宿泊を余儀なくされる時等、長時間座った状態で足を動かさないでいると、血行不良により血液が固まりやすくなって、血の固まり(血栓)が血管の中を流れ、肺に詰まって肺塞栓などを誘発する、いわゆるエコノミークラス症候群になる危険性がある。このエコノミークラス症候群を予防する方法として、弾性ストッキングを着用することが行われている。
【0005】
さらには看護師等の医療従事者、介護士等の介護従事者、販売員等が、むくみ予防の観点から弾性ストッキングを利用するケースも増えてきている。
【0006】
一般に弾性ストッキングは、足首に一番強い着圧をかけ、下腿、大腿へと着圧を弱める段階着圧の構造となっている。血液は心臓から動脈を通じて手足の先まで運ばれるが、末端まで行った血液は静脈を通じて心臓に戻ってくる。心臓に戻る際には重力に逆らいながら流れるために、血流の停滞が起こり易くなる。弾性ストッキングは足先から心臓への血液の流れを助けることでむくみや血栓の予防を図ることを目的とするものである。
【0007】
一方、上記のような段階着圧構造により、弾性ストッキングは着脱に力が必要であり、パーキンソン病患者や、腱鞘炎等の疾患を抱えている者、力の弱い女性や筋力が低下した老人等は弾性ストッキングの着脱に困難を要する。また、パーキンソン病患者や手術後に弾性ストッキングを血栓予防のため着用する患者の場合、患者が自ら弾性ストッキングを着脱することができないケースも多く、このような場合看護師等の医療従事者や介護士等の介護従事者が弾性ストッキングを着脱させることになるが、弾性ストッキングの弾性力により、看護師等の医療従事者や介護士等の介護従事者が患者や介護を受ける被介護者に弾性ストッキングを着用させるには力が必要となり、着用させるのが難しく時間も要する。特に老々介護が問題となっている現状において、着脱に力の要する弾性ストッキングは介護者にとって苦労の絶えないものとなっている。
【0008】
特許文献1には、「静脈血栓塞栓症発症予防のための医療用弾性ストッキングであって、膝部から下の脚部を圧して覆うように形成された圧縮性の覆い部を有し、前記覆い部の踵部とつま先部がカットされて露出されていることを特徴とする医療用弾性ストッキング。」が開示されている。特許文献1においては、つま先部と踵部がカットされ、該当部分で脚の裏側が、床面に接地できる様にする構成とすることで、着用時の滑りを防止することを目的としている。
【0009】
特許文献2には、「少なくとも脚挿入部の全長又はその一部に、縦方向に沿ってファスナーで開閉する開閉部を設けたことを特徴とするパンティーストッキング。」が開示されている。特許文献2においては、従来の脚挿入部に縦方向(使用状態における上下方向)へ開閉できる部分がなかったため履きにくい欠点があったパンティーストッキングに、縦方向に沿ってファスナーで開閉する開閉部を設けることにより、履き易いパンティーストッキングを提供すること目的としている。
【0010】
特許文献3には、「靴下の内股側より切れ目を入れ、上部まで開き、余裕布地を付け、最上部のマジックテープ(登録商標)雄雌で、足の状態に応じて、ゆるめたり閉じたり、自由に調節する構成としたソックス。」が開示されている。特許文献3においては、靴下上部の締めつけ感をなくし、血行不良解決、むくみ防止、下着の上にも履け、充分に拡げられるので、履き易く、脱ぎ易く、調節自由な健康靴下を提供すること目的としている。
【0011】
特許文献4には、「着用することで足から脚にかけての身体部分を覆うことが出来る足部と脚部を有すストッキングにおいて、脚部にはその上端から足部側へ延びるスリットを形成すると共に該スリットは開口することが出来、開口度を規制する為にスリットを跨いで縫い付けた伸縮生地を設け、さらに該スリットを閉じる為の閉塞手段を備えたことを特徴とするストッキング。」が開示されている。特許文献2のパンティーストッキングにおいては、スリットは大きく開口してストッキングとしての全体形状が崩れてしまって履きにくくなるが、特許文献4の発明ではスリットの両縁にスリットを跨いで伸縮生地が繋がれていることで着脱し易く、着脱する際には伸縮生地が伸びてスリットが開く為に、サイズ(脚部周長)が大きくなって履き易いストッキングとなる。そして、着用したならばファスナーなどの閉塞手段にてスリットを閉じることが出来て、脚を適度な圧縮力にて締付けることが可能となるストッキングを提供すること目的としている。
【0012】
【特許文献1】特開2014-188116公報
【特許文献2】実開平02-078504号公報
【特許文献3】特開2002-88513号公報
【特許文献4】特開2019-108631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に係る「医療用弾性ストッキング」においては、踵部とつま先部がカットされているが、その目的は着用時の滑りを防止するためである。また、この構成によるストッキングはストッキングの弾性力により、パーキンソン病患者が自分でストッキングを着脱することは難しく、また、看護師等の医療従事者、介護士等の介護従事者がストッキングを着脱させるにも着脱には力が必要で困難を要する。
【0014】
特許文献2に係る「パンティーストッキング」においては、少なくとも脚挿入部の全長又はその一部に縦方向に沿ってファスナーで開閉する開閉部を設けているが、ファスナーを開けるとストッキングは大きく開口してストッキングとしての全体形状が崩れてしまって履きにくくなる。また、ファスナーを上げる時に開口されたストッキングをしっかり持ち、閉じながらファスナーを引き上げなければならないため、パーキンソン病患者、力の弱い女性や筋力が低下した老人には着用が難しく、ファスナーを引き上げる時に下腿や太腿等の肉を噛んでしまい怪我を引き起こしてしまうこともある。
【0015】
特許文献3に係る「ソックス」は、靴下に切れ目を入れ、余裕布地を付けることで余裕布地の分だけ開口に余裕を持たせていることで、靴下上部の締めつけ感をなくし、血行不良解決、むくみ防止、下着の上にも履け、充分に拡げられるので、履き易く、脱ぎ易く、調節自由な健康靴下を提供すること目的としており、スリットの開口度を規制するという目的については開示されていない。
【0016】
特許文献4に係る「ストッキング及びソックス」は、脚部にはその上端から足部側へ延びるスリットを形成すると共に伸縮生地が設けられることで着脱し易く、着脱する際には伸縮生地が伸びてスリットが開く為に、サイズ(脚部周長)が大きくなって履き易いストッキングとなっている。そして、着用したならばファスナーなどの閉塞手段にてスリットを閉じることができる。しかしながら、特許文献4に係る「ストッキング及びソックス」においてはファスナーなどの閉塞手段を引き上げる時に弾性ストッキングも一緒に引き上げてしまうことから、ファスナーを引き上げてスリットを閉じる時に一方の手で弾性ストッキングのスリットを押さえながらもう一方の手で力を入れてファスナーを引き上げる必要があり、特にパーキンソン病患者、力の弱い女性や筋力が低下した老人等は弾性ストッキングのスリットを閉じるのが容易ではないという問題点を有している。
【0017】
本発明は、このような事情に鑑み開発されたもので、パーキンソン病患者、力の弱い女性や筋力が低下した老人等でも着脱しやすい弾性ストッキングを提供することを目的とする。また、看護師等の医療従事者や介護士等の介護従事者が患者や介護を受ける被介護者に弾性ストッキングを着脱させる場合や、高齢化する介護者が介護を受ける被介護者に弾性ストッキングを着脱させる場合に、容易に着脱できる弾性ストッキングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る弾性ストッキングは、着衣者の指、甲、土踏まず、踵、踝を含む足において、少なくとも甲と土踏まずを覆う足部と、着衣者の足首、下腿(脛、ふくらはぎ、膝)、大腿を含む脚において、少なくとも足首と脛とふくらはぎを覆う脚部と、を有し、該足部の指先側端部から該脚部の上端部までが連続している弾性ストッキングにおいて、
前記足部又は脚部に設けた始点から前記脚部の上端部側に設けた終点まで直線状に延伸し、開閉可能なスリットと、該スリットを開閉するための開閉手段と、
前記スリットの裏面に、該スリットを跨いでスリットの開口度を規制する伸縮性又は弾性を有する部材と、着衣者の踵に対応する部分に開口させた穴部と、を備えた弾性ストッキングであって、
前記穴部の縁に着衣者の踵を係止し、前記開閉手段を前記スリットの始点から終点まで直線状に引き上げることにより、該スリットを閉口可能である。
【0019】
本発明に係る弾性ストッキングは、着衣者の指、甲、土踏まず、踵、踝を含む足において、少なくとも甲と土踏まずを覆う足部と、着衣者の足首、下腿(脛、ふくらはぎ、膝)、大腿を含む脚において、少なくとも足首と脛とふくらはぎを覆う脚部と、を有し、該足部の指先側端部から該脚部の上端部までが連続している弾性ストッキングにおいて、
前記足部又は脚部に設けた始点から前記脚部の上端部側に設けた終点まで直線状に延伸し、開閉可能なスリットと、該スリットを開閉するための開閉手段と、
前記スリットの裏面に、該スリットを跨いで該脚部の周方向に沿って、該スリットの開口度を規制する一又は複数の伸縮性又は弾性を有する帯状体と、着衣者の踵に対応する部分に開口させた穴部と、を備えた弾性ストッキングであって、
前記穴部の縁に着衣者の踵を係止し、前記開閉手段を前記スリットの始点から終点まで直線状に引き上げることにより、該スリットを閉口可能であってもよい。
【0020】
本発明に係る弾性ストッキングは、前記スリットの始点を、着衣者の踝を挟んで前記穴部の縁と対向するように配置するのが好ましい。
【0021】
本発明に係る弾性ストッキングは、前記脚部の上端部又は上端部近傍の内周面に周設された上端バンドを備え、前記上端バンドは滑り止め部材からなるのが好適である。
【0022】
本発明に係る弾性ストッキングは、前記脚部の上端部又は上端部近傍に、前記スリットを跨いで脚部の周方向に沿って設けられ、該スリットの開口度を規制する上端の前記伸縮性又は弾性を有する帯状体と、前記脚部の上端部又は上端部近傍の内周面に周設された前記上端バンドとが接続され、脚部を周方向に包囲してもよい。
【0023】
本発明に係る弾性ストッキングは、さらに、前記脚部のふくらはぎを覆う領域に、前記スリットを跨いで脚部の周方向に沿って設けられ、該スリットの開口度を規制する前記伸縮性又は弾性を有する帯状体を備えるのが好ましい。
【0024】
本発明に係る弾性ストッキングは、着衣状態において、前記スリットをその始点から終点まで直線状に延伸させた際に、該スリットの該始点方向の延長線が、前記穴部を回避して前記足部まで直接延長するように該穴部を配置することにより、前記開閉手段を該スリットの始点から終点まで直線状に円滑に引き上げ可能とすることができる。
【0025】
本発明に係る弾性ストッキングは、前記スリットの始点から終点までを一直線として、折れがないように載置した非着衣状態において、該スリットの始点方向の延長線と、該延長線と平行となる前記穴部の接線との距離を、略1.4~2.4cmとするのがよい。
【0026】
本発明に係る弾性ストッキングは、脚部の足首を覆う領域の伸び率を100~130%、足部の土踏まずを覆う領域の伸び率を140~170%、足部の土踏まずを覆う領域と脚部の足首を覆う領域を連結する開口された穴部を有する領域の伸び率を230~260%とするのが好適である。
【0027】
本発明に係る弾性ストッキングは、前記足部の指先側端部を開口し、着衣者の指を露出させるようにするのがよい。
【0028】
本発明に係る弾性ストッキングは、前記開閉手段の始点を伸び率が100~130%の位置に備えるのが好ましい。
【0029】
本発明に係る弾性ストッキングの着用方法は、
(1)足部又は脚部に設けた始点から上端部側に設けた終点まで直線状に延伸して開閉可能なスリットと、
該スリットを開閉するための開閉手段と、
前記スリットの裏面に、該スリットを跨いで該脚部の周方向に沿って、該スリットの開口度を規制する一又は複数の伸縮性又は弾性を有する帯状体と、
前記脚部の上端部又は上端部近傍の内周面に周設された上端バンドと、
着衣者の踵に対応する部分に開口させた穴部と、
を備えた弾性ストッキングを準備するステップと、
(2)着衣者の足及び脚に、前記弾性ストッキングを通すステップと、
(3)着衣者の踵に前記穴部の縁を係止するステップと、
(4)前記弾性ストッキングの上端部を着衣者の脚の上方に引き上げて、着衣者の脚に装着すると共に、前記上端バンドを所定の高さの位置に配置するステップと
(5)前記スリットが始点から終点まで直線状となるように前記上端バンドを着衣者の脚周り方向にずらして調整するステップと、
(6)前記開閉手段を前記スリットの始点から終点まで直線状に引き上げるステップと、
を含むのが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る弾性ストッキングは、足部又は脚部に設けた始点から前記脚部の上端部側に設けた終点まで直線状に延伸し、開閉可能なスリットと、スリットを開閉するための開閉手段を備えると共に、スリットの裏面にスリットを跨いでスリットの開口度を規制する伸縮性又は弾性を有する部材を備えている。このような部材が備えられていないと、スリットを閉口する際にスリットは大きく開口して弾性ストッキングの全体形状が崩れてしまって履きにくくなるが、スリットの裏面にスリットを跨いで伸縮性又は弾性を有する部材を備えることで、スリットの開口度を規制して、弾性ストッキングを履き易くすることができる。
【0031】
また、このような伸縮性又は弾性を有する部材に代えて、一又は複数の伸縮性又は弾性有する帯状体を、スリットを跨いで脚部の周方向に沿って設け、スリットの開口度を規制してもよい。このような帯状体を設けることにより、スリットの始点と当該帯状体と終点の間でスリット間に開口部分ができるため、伸縮性又は弾性を有する部材によりスリット間が一様に伸縮する場合に比して、さらに弾性ストッキングの着脱が容易になる。
【0032】
また、このような一又は複数の伸縮性又は弾性を有する帯状体は、スリットが始点から終点まで直線状となるように設定するためのサポート機能を果たすと共に、開閉手段によりスリットを閉口する際の目的位置の役割を果たすため、スライドファスナー等の開閉手段を引き上げてより簡単にスリットを閉口することができる。
【0033】
また、上記帯状体に弾性を付与することにより、着衣者が弾性ストッキングを足部の指先から脚部の上端部側に引き上げて装着する際には、この弾性を有する帯状体は十分に伸びて着衣者の脚に弾性ストッキングをフィットさせることができる。また、開閉手段をスリットの始点から終点まで直線状に引き上げる際には、弾性を有する帯状体は素早く復元するため、スリットをスムーズに閉口することができる。
【0034】
さらに、本発明に係る弾性ストッキングは踵に対応する部分に開口させた穴部を備えている。この穴部の縁に着衣者の踵を係止することで、穴部の縁により踵への引っ掛かりを得ることができるため、開閉手段を引き上げる時に弾性ストッキングも一緒に引き上げてしまうことを抑制することができる。従って、スライドファスナー等の開閉手段をスリットの始点から終点まで直線状に引き上げてスリットを閉じる時に、弾性ストッキングに手を添える必要もなく、特段の力を入れる必要もなく、また着衣者の肉を噛んでしまうこともなく、開閉手段をスリットの始点から終点まで直線状に引き上げることでスリットを片手で簡単に閉口することができる。
【0035】
さらに本発明の弾性ストッキングは、脚部の上端部又は上端部近傍の内周面に周設された上端バンドを備えることで、この上端バンドを着衣者の脚周り方向にずらして調整することにより、スリットを始点から終点まで直線状に設定することができる。このように、スリットが着衣者の脚に沿って直線状となるため、スライドファスナー等の開閉手段をスリットの始点から終点まで容易に引き上げることができる。また、この上端バンドを滑り止め部材とすることにより、弾性ストッキングがずり下がらないよう脚部に固定することができる。このため、着衣者の踵部と脚部とが弾性ストッキングでしっかり固定され、開閉手段をより容易に引き上げることが可能となる。
【0036】
本発明に係る弾性ストッキングは、着衣状態において、スリットをその始点から終点まで直線状に延伸させた際に、スリットの始点方向の延長線が、穴部を回避して足部まで直接延長するように穴部を配置することにより、開閉手段をスリットの始点から終点まで直線状に円滑に引き上げることができる。開閉手段を引き上げる時にかかる荷重が、スリットの始点方向の延長線に沿ってかかる荷重とともに、足部の甲方向からかかる荷重と穴部の縁方向からかかる荷重が分散するためであると考えられる。
【0037】
本発明に係る弾性ストッキングは、足部の指先側端部を開口することで、着衣者の指を露出させることができる。指先側端部を開口することで、弾性ストッキングを着用しても、足の長さによってつま先がきつかったり、だぶついたりすることがなく、露出させた指先と踵により、床上で滑るのを防ぐこともできる。また、看護師等の医療従事者や介護士等の介護従事者が患者や介護を受ける被介護者に弾性ストッキングを着用させる場合、つま先部分を着用させるのに手間取ることが多いことから、足部の指先側端部を開口することで着用にかかる手間を軽減させることができる。
【0038】
さらに、本発明に係る弾性ストッキングは、脚部の足首を覆う領域の着圧が脚部のふくらはぎを覆う領域の着圧より強くなるように設定するとともに、足部の土踏まずを覆う領域の着圧が強くなるように設定した。脚部の足首を覆う領域の着圧を強くし、脚部のふくらはぎを覆う領域の着圧を脚部の足首を覆う領域の着圧より弱くすることで、寝たきりの人が起き上がった際に起こる急激な血圧の低下による転倒を防止し、リンパや血液の流れを促進してむくみの防止、血栓を予防することができる。また、足部の土踏まずを覆う領域の着圧を強くすることで足裏を持ち上げて疲れを軽減させることができるとともに、着衣者の土踏まずと足首に着圧がかかることにより、安定して歩行しやすくなる。一方、足部全体の着圧を強くすると履きにくくなるため、足部の土踏まずを覆う領域と脚部の足首を覆う領域を連結する開口された穴部を有する領域の着圧は弱くすることで、履き易い弾性ストッキングとすることができる。
【0039】
以上のように、本発明に係る弾性ストッキングは、パーキンソン病患者や、腱鞘炎等の疾患を抱えている者、力の弱い女性や筋力が低下した老人等にとって着脱し易いと共に、患者に弾性ストッキングを着脱させる必要のある看護師等の医療従事者や介護士等の介護従事者にとっても、着脱させやすい特性を有する弾性ストッキングである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明に係る弾性ストッキングの(a)表面の側面図、(b)裏面の側面図。
図2】本発明に係る弾性ストッキングを着衣者が着用した場合におけるスリットを開口した状態の斜視図。
図3】本発明に係る弾性ストッキングを着衣者が着用した場合におけるスリットを閉口した状態の斜視図。
図4】本発明に係る他の実施形態の弾性ストッキングの(a)表面の側面図、(b)裏面の側面図。
図5】本発明に係る他の実施形態の弾性ストッキングを着衣者が着用した場合におけるスリットを開口した状態の斜視図。
図6】本発明に係る他の実施形態の弾性ストッキングを着衣者が着用した場合におけるスリットを閉口した状態の斜視図。
図7】本発明に係る弾性ストッキングの穴部の位置を示す(a)表面の背面図、(b)表面の側面図。
図8】本発明に係る弾性ストッキングにおいて、スリットの始点方向の延長線を示す(a)表面の側面図、(b)着衣者が弾性ストッキングを着用した場合における斜視図。
図9】本発明に係る弾性ストッキングの生地の伸び率及び着圧の位置を示す(a)表面の背面図、(b)着衣者が弾性ストッキングを着用した場合における斜視図。
図10】本発明に係るさらに他の実施形態の弾性ストッキングの(a)表面の側面図、(b)裏面の側面図。
図11】本発明に係るさらに他の実施形態の弾性ストッキングを着衣者が着用した場合におけるスリットを閉口した状態の斜視図。
図12】本発明に係る弾性ストッキングを着用する方法を示す図。
図13】弾性ストッキングにおいて、(a)ハイソックス型、(b)太腿までのストッキング型、(c)お腹を覆うパンティストッキング型のタイプを示す図。
図14】着衣者の足及び脚を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照しながら本発明に係る弾性ストッキングの実施形態及び実施例について説明する。なお、以下各図面を通して同一の構成要素には同一の符号を使用するものとする。
【0042】
(1)弾性ストッキング
(弾性ストッキング)
弾性ストッキング100は、図13(a)~(c)に示すように、ひざ下までのハイソックス型(図13(a))、太腿までのストッキング型(図13(b))、お腹を覆うパンティストッキング型(図13(c))があるが、本発明の弾性ストッキング1については、着衣者の足と脚を覆い、着圧により足先から心臓への血液の流れを助けることでむくみや血栓の予防を図ることを目的とするものであれば、ハイソックス型、ストッキング型、パンティストッキング型のどのタイプであってもよい。なお、看護師等の医療従事者や介護士等の介護従事者が患者や介護を受ける被介護者に本発明の弾性ストッキングを着脱させることを考えるとひざ下までのハイソックス型が好ましい。
【0043】
図1から図3及び図14に示すように、本発明に係る弾性ストッキング1は、着衣者の指、甲、土踏まず、踵、踝を含む足において、少なくとも甲と土踏まずを覆う足部3と、着衣者の足首、下腿(脛、ふくらはぎ、膝)、大腿を含む脚において、少なくとも足首と脛とふくらはぎを覆う脚部2と、を有し、足部3の指先側端部3eから脚部2の上端部2eまでが連続している弾性ストッキング1である。
【0044】
本発明に係る弾性ストッキング1において、脚部2は、足部3又は脚部2側に設けた始点sから上端部2e側に設けた終点tまで直線状に延伸し、開閉可能なスリット10と、スリット10を開閉するための開閉手段14を備える。開閉可能なスリット10と、スリット10を開閉するための開閉手段14を備えることにより、着衣者が本発明に係る弾性ストッキング1を着用する際には、開閉手段14を開口することで、スリット10が開口するため弾性ストッキング1を着衣者の足及び脚に通すのが容易となる。そして、開閉手段14を引き上げてスリット10を閉口することにより本発明に係る弾性ストッキング1を着用することができる。
【0045】
本発明に係る弾性ストッキング1において、開閉手段14の始点s’は開閉可能なスリット10の始点sと略同一の位置に備えられているのが好ましい。また、開閉手段14の終点t’は、開閉可能なスリット10の終点tと略同一の位置に備えられているのが好ましい。開閉可能なスリット10の始点s及び終点tと開閉手段14の始点s’及び終点t’を略同一の位置に設けることで、開閉可能なスリット10を始点sから終点tまで閉口することができる。
【0046】
(開閉手段)
本発明に係る弾性ストッキング1において、開閉手段14は引上げ部と開閉部を含むものである。引上げ部にスリット10の始点sから終点t方向に力を加えることで、開閉部が閉まることにより、スリット10が始点sから終点t方向に直線状に閉口するように構成されている。本発明に係る弾性ストッキング1においては、開閉手段14としてはスライドファスナーが好適である。スライドファスナーにおいて、スライダー14cが引上げ部にエレメント14aが開閉部に対応している図2及び図3に示すように、開口したスリット10を閉口するためには、開閉手段14のスライダー14cをスリット10の始点sから終点tまで直線状に引き上げることにより、スリット10の両側に備えたエレメント14aが閉じられ、その結果、開口したスリット10を閉口することができる。
【0047】
また、本発明に係る弾性ストッキングにおいては、開閉手段14は引手14bを備えた開閉手段14であるのが好ましい。引手14bを備えた開閉手段14では、スライダー14cと接続された引手14bを手で摘んで、スリット10の始点sから終点tまで直線状に引き上げることで、より容易にスリット10を閉口することができる。引手14bは開閉手段14の引き上げ機能を発揮できるものであれば特に制限はなく、例えば鈴、リング状のもの等であってもよい。
【0048】
また、本発明に係る弾性ストッキング1において、開閉手段14は脚部2の左右のいずれかの位置に備えられるのが好ましいが、左右両方に備えてもよい。脚部2の後側に開閉手段14を設けた場合は、ふくらはぎの膨らんだ部分により、開閉手段14をスリット10の始点sから終点tまで直線状に引き上げるのが難しくなるとともに、介護者等が寝たきりの患者や手術を受けた患者に弾性ストッキング1を着用させる場合、スリット10が脚部2の後側にあると開閉手段14を上方に引き上げるのが難くなる。また、脚部2の前側に開閉手段14を設けた場合は、開閉手段14が目立つため見た目が好ましくない。
【0049】
本発明に係る弾性ストッキング1においては、図4から図6に示すように開閉手段14には下止め14dを設けてもよい。下止め14dを設けることにより、スライダー14cが開閉手段14の始点s’に接触しないため、生地が傷むのを防ぐことができる。また、開閉手段14からスライダー14cが抜けてしまわないように上止め14eを設けるのが好ましい。
【0050】
(伸縮性又は弾性を有する部材)
また、本発明の弾性ストッキング1は、図1から図3に示すように、スリット10の裏面に、スリット10を跨いでスリット10の開口度を規制する伸縮性又は弾性を有する部材12を備える。スリット10の裏面にスリット10を跨いで伸縮性又は弾性を有する部材12を備えることで、スリット10の開口度が規制される。スリット10を跨いで伸縮性又は弾性を有する部材12が備えられていないと、スリット10を閉口する際にスリット10は大きく開口して弾性ストッキングとしての全体形状が崩れてしまって履きにくくなるが、スリット10の裏面にスリット10を跨いで伸縮性又は弾性を有する部材12を備えることで、着用する際には伸縮性又は弾性を有する部材12が伸びてスリット10が開く為に、サイズ(脚部周長)が大きくなって履き易い弾性ストッキング1となる。そして、弾性ストッキング1の上端部2eを上方に引き上げて、開閉手段14にてスリット10を閉じることで弾性ストッキングの着用が容易となる。また、弾性ストッキング1を脱ぐときには、開閉手段14を下方に引き下げて、開閉手段14を開口することで伸縮性又は弾性を有する部材12が伸びてスリット10が開く為、脱ぎやすい弾性ストッング1となる。
【0051】
本発明に係る弾性ストッキング1において、伸縮性又は弾性を有する部材12としては、特に制限はなく、従来公知の伸縮性又は弾性を有する部材12を用いることができる。例えば、伸縮性又は弾性を有する生地等を用いることができる。また、伸縮性又は弾性を有する部材12の形状は例えば、長方形、正方形等の矩形状、円状、楕円状等の他、伸縮性又は弾性を有する部材12の上辺部及び/又は下辺部が直線状、円弧状、波線状に形成されているもの等本発明の目的を達成できる限り制限はない。さらに、伸縮性又は弾性を有する部材の数も少なくとも1以上であれば特に制限はないが、伸縮性又は弾性を有する部材12がスリット10の全面に備えられていると、パーキンソン病患者や力の弱い女性、筋力が低下した老人などは着脱がし難くなるため、スリット10の始点sと伸縮性又は弾性を有する部材12と終点tの間、若しくは伸縮性又は弾性を有する部材12と伸縮性又は弾性を有する部材12との間に開口部分ができることが好ましい。
【0052】
(帯状体)
また、伸縮性又は弾性を有する部材12は、図4から図6に示すように、スリット10の裏面にスリット10を跨いで脚部2の周方向に沿って、スリット10の開口度を規制する一又は複数の伸縮性又は弾性を有する帯状体22とすることが好ましい。伸縮性又は弾性を有する部材12がスリット10の全面に備えられていると、パーキンソン病患者や力の弱い女性、筋力が低下した老人などは着脱がし難くなるが、スリット10の始点sと帯状体22と終点tの間、若しくは帯状体22と帯状体22との間に開口部分ができることで、スリット10全体に伸縮性又は弾性を有する部材12が備えられている場合に比して容易に弾性ストッキングの着脱がしやすくなる。
【0053】
また、一又は複数の伸縮性又は弾性を有する帯状体22は、スリット10が始点sから終点tまで直線状となるように設定するためのサポート機能を果たすと共に、開閉手段14によりスリット10を閉口する際の目的位置の役割を果たすため、開閉手段14によりスリット10を閉口する際にはより容易にスリット10を閉口することができる。
【0054】
また、伸縮性又は弾性を有する帯状体22の数は少なくとも1以上であればよく、開閉手段14によりスリット10を閉口する際の目的位置の役割を果たすためには、約5cm~20cmの間隔で複数本の帯状体22を設けるのが好ましい。
【0055】
伸縮性又は弾性を有する帯状体22は脚部2の上端部2e又は上端部2e近傍に、スリット10を跨いで脚部2の周方向に沿って備えられるのが好ましい。さらに、開閉手段14を円滑に引き上げ可能とするためには、脚部2のふくらはぎを覆う領域8にも伸縮性又は弾性を有する帯状体22を備えるのが好ましい。より好ましくは、脚部2のふくらはぎを覆う領域8において、ふくらはぎの膨らみ始める境目が好適である。
【0056】
伸縮性又は弾性を有する帯状体22としては、好ましくは弾性を有する帯状体22とするのがよい。弾性を有する帯状体22とすることで、着衣者が弾性ストッキング1のスリット10を開口して、弾性ストッキング1を脚部2の上端部2e側に引き上げて着衣者の脚に装着する際には、弾性を有する帯状体22は十分に伸びて着衣者の脚にフィットするとともに、開閉手段14をスリット10の始点sから終点tまで直線状に引き上げるときには素早く元に戻ることができるため、帯状体22が元に戻らずに開閉手段14によりスリット10が閉まらないといった不具合を起こすことなく、開閉手段14によりスリット10を簡単に閉口することができる。
【0057】
弾性を有する帯状体22としては、例えば平ゴム等が好ましい。また、帯状体22の肌側面は綿素材で形成されていることが好ましい。帯状体22により肌がかぶれたり、痒くなったりすることを防ぐために、肌に優しい綿素材を用いることで肌のかぶれや痒みを抑えることができる。
【0058】
(穴部)
本発明に係る弾性ストッキング1においては、図1から図6に示すように、着衣者の踵に対応する部分に開口させた穴部20を備え、この穴部の縁20aに着衣者の踵を係止し、開閉手段14をスリット10の始点sから終点tまで直線状に引き上げることにより、開口したスリット10を閉口することができる。本発明に係る弾性ストッキング1においては、穴部の縁20aに着衣者の踵を係止することで、穴部の縁20aが開閉手段14を引き上げる時の引っ掛かりとなることから、開閉手段14を円滑に引き上げることができる。
【0059】
着衣者の踵に対応する部分に開口させた穴部20を備えていない従来の弾性ストッキングの場合は、開閉手段14をスリット10の始点sから終点tまで直線状に引き上げる時に、弾性ストッキング1も一緒に引き上げてしまうことから開閉手段14を片手で引き上げることができず、スリットを閉口する時は一方の手で弾性ストッキングのスリット10の始点sの辺りを押さえながらもう一方の手で力を入れて開閉手段14を引き上げる必要があった。本発明に係る弾性ストッキング1においては、着衣者の踵に対応する部分に開口させた穴部20を備え、この穴部の縁20aに着衣者の踵を係止することで、穴部の縁20aにより着衣者の踵への引っ掛かりを得ることができることから、開閉手段14を引き上げる時に弾性ストッキング1も一緒に引き上げてしまうことを抑制することができるため、開閉手段14をスリットの始点sから終点tまで直線状に引き上げてスリットを閉じる時に、弾性ストッキングに手を添える必要もなく、特段の力を入れる必要もなく、また着衣者の肉を噛んでしまうこともなく、開閉手段14をスリットの始点sから終点tまで直線状に引き上げることでスリット10を片手で簡単に閉口することができる。
【0060】
本発明に係る弾性ストッキング1において、図1から図6に示すように、スリット10の始点s及び開閉手段14の始点s’は着衣者の踝を挟んで穴部の縁20aと対向するように配置することが好ましい。スリット10の始点s及び開閉手段14の始点s’を着衣者の踝を挟んで着衣者の踵への引っ掛かりを得ることができる穴部の縁20aと対向するように配置することで、穴部の縁20aは踝にも引っ掛かりを得ることができる。また、開閉手段14を引き上げる時の引っ掛かりとなる穴部の縁20aがスリット10の始点s及び開閉手段14の始点s’と近づくことになり、より円滑に開閉手段14を引き上げることが可能となる。
【0061】
本発明に係る弾性ストッキング1において、図7に示すように穴部20は円形状又は楕円形状が好ましく、より好ましくは楕円形状が好適である。穴部20の大きさは、スリット10の始点から終点までを一直線として、折れがないように載置した非着衣状態において、仕上がり寸法で幅方向の長さA-A’は約3.5~8.0cm、上下方向の長さB-B’は約2.0~6.8cmが好ましい。穴部20の幅方向の長さA-A’及び上下方向の長さB-B’が大きすぎると捲くれあがったり、ズレ上がったりする恐れがあり、幅方向の長さA-A’及び上下方向の長さB-B’が小さすぎると開閉手段14を引き上げる時に引っ掛かりとならないためである。
【0062】
また、本発明に係る弾性ストッキング1において、穴部20の穴部の縁20aにはほつれ補強のためのオーバーロック等を行うのが好ましい。穴部の縁20aが切りっぱなしの状態ではほつれが生じるとともに、穴部20が伸びやすくなるためである。また、穴部の縁20aが伸びやすくなると、開閉手段14を引き上げる時に荷重の分散が均一にならないが、穴部の縁20aにほつれ補強のためのオーバーロック等を行うことにより、穴部20が伸びにくくなるため、均等に荷重がかかることで開閉手段14を円滑に引き上げることが可能となる。
【0063】
本発明に係る弾性ストッキング1は、図8に示すように、着衣状態において、スリット10をその始点sから終点tまで直線状に延伸させた際に、スリット10の始点s方向の延長線が、穴部を回避して足部3まで直接延長するように穴部20を配置することにより、開閉手段14をスリット10の始点sから終点tまで直線状に円滑に引き上げることができる。開閉手段14を引き上げる時にかかる荷重が、スリット10の始点s方向の延長線に沿ってかかる荷重Aとともに、足部3の甲方向からかかる荷重Bと及び穴部の縁20a方向からかかる荷重Cとが分散するためであると考えられる。
【0064】
また、足部3の土踏まずを覆う領域5の着圧を強くすることで、土踏まずを覆う領域5の甲の着圧も強くなるため、足部3の甲方向からかかる荷重をより効果的に開閉手段14に伝えることができ、穴部の縁20aにほつれ補強のためのオーバーロック等を行うことにより、穴の縁部20aに均等に荷重がかかることでより効果的に開閉手段14を引き上げやすくなると考えられる。
【0065】
本発明に係る弾性ストッキング1は、図7に示すように、スリット10の始点sから終点tまでを一直線として、折れがないように載置した非着衣状態において、スリット10の始点s方向の延長線と、該延長線と平行となる穴部20の接線との距離Xを、仕上がり寸法で好ましくは略1.0~2.8cm、より好ましくは略1.4~2.4cmとするのがよい。スリット10の始点s方向の延長線と、該延長線と平行となる穴部20の接線との距離Xを、仕上がり寸法で好ましくは略1.0~2.8cm、より好ましくは略1.4~2.4cmとすることにより、開閉手段14を引き上げる時に穴部の縁20aの引っかかりの機能を効果的に発揮することができるとともに、穴部の縁20aで荷重の分散を均一に受け止めることができる。
【0066】
また、本発明に係る弾性ストッキングは、図7に示すように、スリット10の始点sから終点tまでを一直線として、折れがないように載置した非着衣状態において、スリットの始点s方向の延長線と、スリット10の始点sと穴部20の最下点とを結んだ直線との角度Yを、仕上がり寸法で好ましくは略30°~63°の角度、より好ましくは略38°~55°の角度とするのがよい。スリットの始点s方向の延長線と、スリット10の始点sと穴部20の最下点とを結んだ直線との角度Yを、仕上がり寸法で好ましくは略30°~63°の角度、より好ましくは略38°~55°の角度とすることにより、開閉手段14を引き上げる時に穴部の縁20aの引っかかりの機能を効果的に発揮することができるとともに、穴部の縁20aで荷重の分散を均一に受け止めることができる。
【0067】
(上端バンド)
また、本発明に係る弾性ストッキング1においては、図4から図6に示すように、脚部2の上端部2e又は上端部2e近傍の内周面に周設された上端バンド24を備えることができる。上端バンド24を備えることにより弾性ストッキング1がずり下がるのを防止することができる。また、上端バンド24は、着衣者の脚に装着された弾性ストッキング1を着衣者の脚周り方向にずらして調整ことで、スリット10が始点sから終点tまで直線状になるように設定することができる。そして、着衣者の踵が開口させた穴部の縁20aに係止され、脚部2の上端部2e又は上端部2e近傍が上端バンドで固定され、スリット10が始点sから終点tまで直線状になるように設定することで、開閉手段14によってより容易にスリット10を閉口することが可能となる。本発明において用いることのできる上端バンド24としては、伸縮性又は弾性を有するすべり止め部材からなるものが好ましく、例えば、ナノテープ等が挙げられる。
【0068】
また、本発明に係る弾性ストッキング1においては、弾性ストッキング1を装着中にずり下がるのを防止するために、上端バンドの代わりに脚部2の上端部2eの生地を折り返したり、上端部2e又は上端部2e近傍を二重編みにしたり、着圧を変更する等の弾性ストッキング1がずり下がるのを防止するとともに、着衣者の脚に装着された弾性ストッキング1を着衣者の脚周り方向にずらして調整する手段を設けてもよい。
【0069】
(指先側端部の開口)
本発明に係る弾性ストッキング1においては、図4から6に示すように、足部3の指先側端部3eを開口し、着衣者の指を露出させるようにすることが好適である。弾性ストッキングは足の長さによってつま先がきつかったり、だぶついたりすることがあり、また、指先部分が上手く着用できず、着衣者の足の指先と弾性ストッキングがズレてしまうことも多い。特に看護師等の医療従事者や介護士等の介護従事者が患者や介護を受ける被介護者に弾性ストッキングを装着する場合、上手に装着させることができなかったり、時間がかかったりする。そこで、足部3の指先側端部3eを開口することで、ズレを気にすることなく装着させることができる。また、足部3の指先側端部3eを開口することで、ひざ下までのハイソックス型(図13(a))や太腿までのストッキング型(図13(b))の場合、左右兼用で使用することができるため、左右を確認する作業を省略することができる。
【0070】
(伸び率)
本発明に係る弾性ストッキング1において用いることのできる生地としては、特に制限されず、従来公知の生地を使用することができる。図9に示すように、本発明に係る弾性ストッキング1に使用される生地において伸び率は、脚部2の足首を覆う領域7は約100~130%、足部3の土踏まずを覆う領域5は約140~170%、足部3の土踏まずを覆う領域5と脚部2の足首を覆う領域7を連結する開口された穴部を有する領域6は約230~260%であることが好ましい。脚部2の足首を覆う領域7の伸び率を小さくすることで生地が伸びにくくなり、着圧を強く設定することができる。また、足部3の土踏まずを覆う領域5の伸び率を小さくして土踏まずを覆う領域5の着圧を強く設定することで、足裏を持ち上げて疲れを軽減させることができるとともに、着衣者の土踏まずと足首に着圧がかかることにより、歩行しやすくなる。一方、足部3全体において生地の伸び率を小さくすると生地の伸びにくさにより履きにくくなるため、足部3の土踏まずを覆う領域5と脚部2の足首を覆う領域7を連結する開口された穴部を有する領域6の伸び率を大きくして生地を伸びやすくすることで、履き易い弾性ストッキング1とすることができる。なお、生地の伸び率は「JIS L 1096 織物及び編物の生地試験方法」の伸び率(8.16.1)のD法(編物の定荷重法)に準じて14.7Nの荷重で測定した。
【0071】
本発明に係る弾性ストッキング1において、開閉手段14の始点s’は、生地の伸び率が約100~130%の位置に備えるのが好適である。開閉手段14の始点s’の伸び率を小さくすることで、弾性ストッキング1の生地が伸びにくくなり、開閉手段14を円滑に引き上げることができる。伸び率が大きく、よく伸びる生地の位置に開閉手段14の始点s’を備えると、生地が伸びることで開閉手段14の引き上げが難くなる。
【0072】
また、本発明に係る弾性ストッキング1において、開閉手段14の始点s’の位置は、脚部2の足首を覆う領域7であるのが好ましい。開閉手段14の始点s’の位置を脚部2の足首を覆う領域7に備えることにより、開閉手段14が着衣者の踝や靴に当たることで、着衣者が痛みを感じるのを防ぐことができる。また、開閉手段14の始点s’は、脚部2の足首を覆う領域7の最下部に備えるのが好適である。開閉手段14の始点s’を脚部2の足首を覆う領域7の最下部に備えることで、スリット10を開口できる長さが長くなるため、より容易に弾性ストッキング1を着用することができる。
【0073】
本発明に係る弾性ストッキングにおいて、生地の伸び率と着衣者の踵に対応する部分に開口させた穴部20とは、仕上がり寸法で以下の関係を有するように設計するのが好ましい。穴部20の幅方向の長さA-A’(cm)と生地の伸び率(%)との関係は、幅方向の長さA-A’(cm)×生地の伸び率(%/100)=約8.0~20.8の数値に設計することが好ましい。また、仕上がり寸法で上下方向の長さB-B’(cm)と生地の伸び率(%)との関係は、上下方向の長さB-B’(cm)×生地の伸び率(%/100)=約4.6~17.7の数値に設計することが好ましい。なお、生地の伸び率は「JIS L 1096 織物及び編物の生地試験方法」の伸び率(8.16.1)のD法(編物の定荷重法)に準じて14.7Nの荷重で測定したものを用いることとする。
【0074】
(着圧)
本発明に係る弾性ストッキング1において、脚部2の足首を覆う領域7の着圧が、脚部2のふくらはぎを覆う領域8の着圧より大きくなるように設定することが好ましい。脚部2の足首を覆う領域7の着圧を強くし、脚部2のふくらはぎを覆う領域8の着圧を脚部2の足首を覆う領域7より弱くすることで、寝たきりの人が起き上がった際に起こる急激な血圧の低下による転倒を防止し、リンパや血液の流れを促進してむくみの防止、血栓を予防することができる。
【0075】
また、本発明に係る弾性ストッキングにおいては、足部3の土踏まずを覆う領域5の着圧が大きくなるように設定することが好ましい。足部3の土踏まずを覆う領域5の着圧を強くすることで足裏を持ち上げて疲れを軽減させることができるとともに、着衣者の土踏まずと足首に着圧がかかることにより、歩行しやすくなる。一方、足部3全体の着圧を強くすると履きにくくなるため、足部3の土踏まずを覆う領域5と脚部2の足首を覆う領域7を連結する開口された穴部20を有する領域6の着圧は弱くすることで、履き易い弾性ストッキング1とすることができる。
【0076】
本発明に係る弾性ストッキング1においては、足部3の土踏まずを覆う領域5の着圧は約25hpa~31hpa、脚部2の足首を覆う領域7の着圧は約25hpa~31hpa、脚部2のふくらはぎを覆う領域8の着圧は約16~23hpaであるのが好ましい。また、好ましくは、足部3の土踏まずを覆う領域5の着圧と脚部2の足首を覆う領域7の着圧とが同程度であるのがよい。
【0077】
(2)弾性ストッキングの着用方法
本発明に係る弾性ストッキング1の着用方法は、以下の(ステップ1)~(ステップ6)を含む。
(ステップ1)足部3又は脚部2に設けた始点sから上端部2e側に設けた終点tまで直線状に延伸して開閉可能なスリット10と、
スリット10を開閉するための開閉手段14と、
スリット10の裏面に、スリット10を跨いで脚部2の周方向に沿って、スリット10の開口度を規制する一又は複数の伸縮性又は弾性を有する帯状体22と、
前記脚部2の上端部又は上端部近傍の内周面に周設された上端バンド24と、
着衣者の踵に対応する部分に設けた穴部20と、
を備えた弾性ストッキング1を準備するステップと、
(ステップ2)着衣者の足及び脚に、弾性ストッキング1を通すステップと、
(ステップ3)着衣者の踵に穴部の縁20aを係止するステップと、
(ステップ4)弾性ストッキング1の上端部2eを着衣者の脚の上方に引き上げて、着衣者の脚に装着すると共に、上端バンド24を所定の高さの位置に配置するステップと
(ステップ5)スリット10が始点sから終点tまで直線状となるように上端バンド24を着衣者の脚周り方向にずらして調整するステップと、
(ステップ6)開閉手段14をスリット10の始点sから終点tまで直線状に引き上げるステップ。
【0078】
具体的には、図12に示すように、(ステップ1)で準備した本発明に係る弾性ストッキング1の開閉手段14を下げてスリット10を開口し、足先まで手の親指がでるようにたくしあげ、(ステップ2)で靴下を履くように着衣者の足のつま先から足及び脚に弾性ストキング1を通し、(ステップ3)で弾性ストキング1の穴部20を着衣者の踵に合わせ、着衣者の踵に穴部の縁20aを係止する。そして、(ステップ4)で靴下を履くように弾性ストッキング1の上端部2eを着衣者の脚の上方に引き上げて、(ステップ5)でスリット10が始点sから終点tまで直線状となるように調整し、(ステップ6)で開閉手段14をスリット10の始点sから終点tまで引き上げることにより、本発明に係る弾性ストッキング1を着用することができる。
【0079】
上記のような(ステップ1)~(ステップ6)の着用方法で本発明に係る弾性ストッキング1を着衣者が装着することで、パーキンソン病患者や力の弱い女性、筋力の低下した老人であっても本発明に係る弾性ストッキング1を容易に着用することができる。
【0080】
また、看護師等の医療従事者又は介護士等の介護従事者等が、患者、介護を受ける被介護者等の着衣者に本発明に係る弾性ストッキング1を着用させる方法は、以下の(ステップ1’)~(ステップ6’)を含む。
(ステップ1’)足部3又は脚部2に設けた始点sから上端部2e側に設けた終点tまで直線状に延伸して開閉可能なスリット10と、
スリット10を開閉するための開閉手段14と、
スリット10の裏面に、スリット10を跨いで脚部2の周方向に沿って、スリット10の開口度を規制する一又は複数の伸縮性又は弾性を有する帯状体22と、
前記脚部2の上端部又は上端部近傍の内周面に周設された上端バンド24と、
着衣者の踵に対応する部分に設けた穴部20と、
を備えた弾性ストッキング1を看護師等の医療従事者又は介護士等の介護従事者等が準備するステップと、
(ステップ2’)看護師等の医療従事者又は介護士等の介護従事者等が、患者、被介護者等の着衣者の足及び脚に、弾性ストッキング1を通すステップと、
(ステップ3’)看護師等の医療従事者又は介護士等の介護従事者等が、患者、被介護者等の着衣者の踵に穴部の縁20aを係止するステップと、
(ステップ4’)看護師等の医療従事者又は介護士等の介護従事者等が、弾性ストッキング1の上端部2eを患者、被介護者等の着衣者の脚の上方に引き上げて、着衣者の脚に装着すると共に、上端バンド24を所定の高さの位置に配置するステップと
(ステップ5’)看護師等の医療従事者又は介護士等の介護従事者等が、スリット10が始点sから終点tまで直線状となるように上端バンド24を患者、被介護者等の着衣者の脚周り方向にずらして調整するステップと、
(ステップ6’)看護師等の医療従事者又は介護士等の介護従事者等が、開閉手段14をスリット10の始点sから終点tまで直線状に引き上げるステップ。
【0081】
上記のような、(ステップ1’)~(ステップ6’)の着用方法で、看護師等の医療従事者又は介護士等の介護従事者等等が患者、介護を受ける被介護者等の着衣者に本発明に係る弾性ストッキング1を着用させることで、弾性ストッキングを着用させる看護師等の医療従事者又は介護士等の介護従事者等の負担を少なくすることができる。
【実施例0082】
本発明に係る弾性ストッキング1は、図10及び図11に示すように、脚部2の上端部2e又は上端部2e近傍に、スリット10を跨いで脚部2の周方向に沿って設けられ、スリット10の開口度を規制する伸縮性又は弾性を有する上端の帯状体22と、脚部2の上端部2e又は上端部2e近傍の内周面に周設された上端バンド24とが接続され、脚部を周方向に包囲してもよい。帯状体22を上端部2e又は上端部2e近傍に備えることで、スリット10を開閉手段14により始点sから終点tまで閉口することが容易になるとともに、上端バンド24により弾性ストッキング1がずり下がるのを防止するとともに脚部2の周方向に沿って固定することができるため、より容易に開閉手段14を閉口することが可能となる。帯状体22と上端バンド24との接続方法は特に制限されず、ミシンによる縫製、接着等を用いることができる。
【0083】
また、開閉手段14を円滑に引き上げ可能とするためには、脚部2のふくらはぎを覆う領域8に伸縮性又は弾性を有する帯状体22を備えることが好ましい。帯状体22は、開閉手段14によりスリット10を閉口する際の目的位置の役割を果たすため、開閉手段14によりスリット10を閉口する際に円滑にスリット10を閉口することができる。
【実施例0084】
本発明に係る弾性ストッキング1は、図10及び図11に示すように、開閉手段14の引手14bには、手の指を通すための指通し部16を備えているのが好ましい。引手14bに指通し部16を備えることで、指通し部16に手の指を通して、スライダー14cに接続された引手14bをスリット10の始点sから終点tまで引き上げることで、スリット10を閉口することができる。
【実施例0085】
本発明に係る弾性ストッキング1について、51人(男性23人、女性28人)に履き易さについてアンケートを取ることにより着用試験を行った。本発明に係る基準となる弾性ストッキングと通常タイプの弾性ストッキングの構成は表1の通りとした。
【表1】
【0086】
着用試験1は「本発明に係る基準となる弾性ストッキング」と「通常タイプの弾性ストッキング」とにおいて履きやすさの比較を行った。健常者51人(男性23人、女性28人)に「履き易さ」についてアンケート調査を行った。
【0087】
着用試験2の「スリットを跨いで帯状体を備えた弾性ストッキング」に関する着用試験では、「本発明に係る基準となる弾性ストッキング」と「本発明に係る基準となる弾性ストッキングにおいて帯状体を設けないもの」を準備し、健常者51名(男性23人、女性28人)に「履き易さ」についてアンケート調査を行った。
【0088】
着用試験3の「踵に対応する部分に穴部を設けた弾性ストッキング」に関する着用試験では、「本発明に係る基準となる弾性ストッキング」と「本発明に係る基準となる弾性ストッキングにおいて踵に対応する部分に穴部を設けないもの」を準備し、健常者51人(男性23人、女性28人)に「履き易さ」についてアンケート調査を行った。
【0089】
アンケート結果を表2に示す。
【表2】
弾性ストッキングに関する着用試験1の「本発明に係る基準となる弾性ストッキング」と「通常タイプの弾性ストッキング」の着用試験においては、全員が「本発明に係る基準となる弾性ストッキング」の方が履き易いという回答となった。また、着用試験2の「帯状体があるものとないもの」の着用試験においても、全員が「スリットを跨いで帯状体を備えた弾性ストッキング」の方が履き易いという回答となった。さらに、着用試験3の「踝に対応する部分に穴部があるものとないもの」の着用試験においても、全員が「踝に対応する部分に穴部を設けた弾性ストッキング」の方が履き易いという回答となった。
【実施例0090】
実施例3に示す「本発明に係る基準となる弾性ストッキング」(図9及び図10参照)について、「寝たきりの人が起き上がった際に起こる急激な血圧の低下」に関する血圧試験及び着用感に関する試験を行った。
【0091】
試験結果を表3に示す。患者はパーキンソン病の患者である。
【表3】
血圧に関しては、本発明に係る弾性ストッキング着用前と比較して、弾性ストッキング着用後は仰向け状態から起立状態に対する血圧の低下が緩和される効果が認められた。これは、弾性ストッキングの着用により寝たきりの人が起き上がった際に起こる急激な血圧の低下による転倒の防止に有用であることを示している。また、パーキンソン病の患者の着用感の感想として、歩きやすいという感想が得られた。これは、脚部の足首を覆う領域と足部の土踏まずを覆う領域の着圧を強くすることで、足が締め付けられている感覚が脳に伝わり歩き易く感じたものと推測される。また、高齢のパーキンソン病患者においても、弾性ストッキングを自分で履くことが可能であった。
【0092】
以上、本発明に係る弾性ストッキングについて説明したが、本発明は上記実施形態や実施例に限定されるものではない。本発明に係る弾性ストッキングを構成する形状、素材、材質、種類等は特に限定されず、その寸法、厚さも適宜変更可能である。また、開閉手段としてスライドファスナーを例に説明したが、他に靴やコルセットに用いられている紐の編み上げ機構(編み上げた上端側の紐が引上げ部、紐を通す編み上げ用穴が開閉部に対応する)などを挙げることができ、及びそれらの組み合わせも挙げることができる。
【0093】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る弾性ストッキングは、パーキンソン病患者や自力で歩行や日常生活が困難な方、介護が必要な方が着脱しやすい弾性ストッキングとして利用することができる。また、医療従事者や介護従事者が患者や介護を受ける被介護者に弾性ストッキングを着脱させる場合や、高齢化する介護者が介護を受ける被介護者に弾性ストッキングを着脱させる場合に、容易に着脱できる弾性ストッキングとして利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
1:本発明に係る弾性ストッキング
2:脚部
2e:上端部
3:足部
3e:指先側端部
5:足部の土踏まずを覆う領域
6:足部の土踏まずを覆う領域と脚部の足首を覆う領域を連結する開口された穴部を有する領域
7:脚部の足首を覆う領域
8:脚部のふくらはぎを覆う領域
10:スリット
s:スリットの始点
t:スリットの終点
12:伸縮性又は弾性を有する部材
14:開閉手段
14a:エレメント
14b:引手
14c:スライダー
14d:下止め
14e:上止め
s’:開閉手段の始点
t’:開閉手段の終点
16:指通し部
20:穴部
20a:穴部の縁
22:(伸縮性又は弾性を有する)帯状体
24:上端バンド
100:弾性ストッキング
110:スリット
114:開閉手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14