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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168871
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】炭素固定装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/50 20170101AFI20231121BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20231121BHJP
   B01D 53/83 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C01B32/50
B01D53/62 ZAB
B01D53/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080234
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】506213382
【氏名又は名称】アンヴァール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 重利
【テーマコード(参考)】
4D002
4G146
【Fターム(参考)】
4D002AA02
4D002AA09
4D002AA12
4D002AC04
4D002AC10
4D002BA06
4D002BA07
4D002BA12
4D002DA06
4D002DA41
4D002EA02
4D002EA06
4D002EA11
4D002FA10
4D002GA01
4D002GA02
4D002GA05
4D002GB02
4D002GB03
4D002GB11
4D002HA01
4D002HA08
4G146JA02
4G146JB04
4G146JC39
(57)【要約】
【課題】新たな効率の良い炭素固定装置を提供する。
【解決手段】二酸化炭素をマグネシウムと反応させる反応室30と、反応を開始させる反応開始手段31と、水素化マグネシウムを投入する投入手段36と、加圧された二酸化炭素リッチな導入気体A3を反応室30に供給する供給手段20と、反応に応じて生じた気体を排出する排出手段90と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素をマグネシウムと反応させる反応室と、前記反応を開始させる反応開始手段と、水素化マグネシウムを投入する投入手段と、加圧された二酸化炭素リッチな導入気体を前記反応室に供給する供給手段と、前記反応に応じて生じた気体を排出する排出手段と、を備えることを特徴とする炭素固定装置。
【請求項2】
前記投入手段は、分離手段により水素化マグネシウムから分離させたマグネシウムを前記反応室に投入することを特徴とする請求項1に記載の炭素固定装置。
【請求項3】
前記分離手段は、分離室にて前記反応室の反応熱を利用して水素化マグネシウムをマグネシウムに熱分離することを特徴とする請求項2に記載の炭素固定装置。
【請求項4】
前記分離手段は、前記反応室に水素化マグネシウムを直接供給することで前記反応室の反応熱を利用して水素化マグネシウムからマグネシウムを熱分離することを特徴とする請求項2に記載の炭素固定装置。
【請求項5】
前記反応熱は温度が2000度~3000度であることを特徴とする請求項4に記載の炭素固定装置。
【請求項6】
二酸化炭素リッチな空気における酸素濃度を測定する酸素センサを有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の炭素固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火力発電、ガスフレアリング等で化石燃料の燃焼に伴って発生した二酸化炭素を低減するために、炭素固定を行う技術が知られている。このような技術には、化学反応を利用して二酸化炭素を捕集し、炭素固定を行うものがある。
【0003】
特許文献1には、石炭等の灰分を含む燃料、ごみ等を燃焼させる燃焼炉と、燃焼炉から排出される燃焼排ガス中の二酸化炭素により燃焼灰中の酸化カルシウムを炭酸化させる反応室と、を備える炭素固定装置が記載されている。反応室では、二酸化炭素を含む導入気体と、酸化カルシウムとが混在し、反応室内の温度は750度に調節されている。これにより、反応室内において、二酸化炭素と酸化カルシウムとの反応による炭酸塩化が促進され、炭素固定が行われる。また、この反応に伴って発生した反応熱を回収し、回収した熱を発電に利用している。
【0004】
特許文献1のような炭素固定装置にあっては、石炭、ごみ等の燃焼により生じた高温700度の燃焼排ガスを反応室内に供給することで、酸化カルシウムが発熱を伴って炭酸化されるため、別途加熱にエネルギを用いることなく反応室内の温度を750度に保つことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-192416号公報(第4,5頁、第8図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような発電用の炭素固定装置にあっては、二酸化炭素を酸化カルシウムと反応させて炭酸塩化により炭素固定を行うために反応室内の温度を780度以下に保つ必要があるため、発電効率を高めることが困難であった。
【0007】
これに対して、発明者らは、燃焼時に生じる高熱を利用して発電効率を高めるとともに炭素固定をする方法として、マグネシウムと二酸化炭素を燃焼させる方法を見出し、研究を続けてきた。この炭素固定方法では、マグネシウムは反応性が高いことから、二酸化炭素と反応する前に一部が他の物質と反応してしまい炭素固定の効率が低下することがあった。この課題に対して研究者らはさらなる研究を重ねた末に、他の物質と反応する前にマグネシウムを二酸化炭素と反応させる方法を見出した。
【0008】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、新たな効率の良い炭素固定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の炭素固定装置は、
二酸化炭素をマグネシウムと反応させる反応室と、前記反応を開始させる反応開始手段と、水素化マグネシウムを投入する投入手段と、加圧された二酸化炭素リッチな導入気体を前記反応室に供給する供給手段と、前記反応に応じて生じた気体を排出する排出手段と、を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、炭素固定装置は水素化マグネシウムを用いていることから純マグネシウムを用いる場合に比べ他の物質と反応しにくく、マグネシウムが供給手段から供給された導入気体中の二酸化炭素と反応しやすいため、炭素固定の効率を高めることができる。
【0010】
前記投入手段は、分離手段により水素化マグネシウムから分離させたマグネシウムを前記反応室に投入することを特徴としている。
この特徴によれば、水素化マグネシウムからマグネシウムを分離して得ていることから、分離されたマグネシウムが供給手段から供給された導入気体中の二酸化炭素と反応しやすい。
【0011】
前記分離手段は、分離室にて前記反応室の反応熱を利用して水素化マグネシウムをマグネシウムに熱分離することを特徴としている。
この特徴によれば、熱分離されたマグネシウムは高温となっているため、二酸化炭素と反応しやすいとともに分離室にて水素を効率よく回収できる。
【0012】
前記分離手段は、前記反応室に水素化マグネシウムを直接供給することで前記反応室の反応熱を利用して水素化マグネシウムからマグネシウムを熱分離することを特徴としている。
この特徴によれば、水素化マグネシウムを反応室に直接供給することでマグネシウムに熱分離することができる。加えて、熱分離されたマグネシウムは高温となっているため、二酸化炭素と反応しやすい。
【0013】
前記反応熱は温度が2000度~3000度であることを特徴としている。
この特徴によれば、反応室は高温であるから水素化マグネシウムから熱分離された水素と二酸化炭素リッチな空気中に含まれる僅かな酸素との爆発反応が起きにくい。
【0014】
二酸化炭素リッチな空気における酸素濃度を測定する酸素センサを有することを特徴としている。
この特徴によれば、反応室で爆発反応が生じない所定の酸素濃度にある二酸化炭素リッチな空気を反応室に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1における炭素固定装置を示す模式図である。
図2】本発明の実施例2における炭素固定装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、他の物質と反応しにくい水素化マグネシウム(MgH)を活用することで、他の物質と反応する前に分離したマグネシウム(Mg)を二酸化炭素(CO)と反応させることができることを見出し、これを契機として全く新たな炭素の固定を図ったものである。
【0017】
本発明に係る炭素固定装置を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0018】
本実施例の炭素固定装置10は、二酸化炭素(CO)をマグネシウム(Mg)と反応させて炭素固定を行うものであり、図1に示されるように、本実施例の炭素固定装置10は、火力発電所の燃焼炉1において化石燃料を燃焼させたことによって発生した二酸化炭素リッチな導入気体A1を用いて炭素固定及び発電が可能となっている。
【0019】
炭素固定装置10は、供給手段20と、反応室30と、反応開始手段31と、分離手段36と、発電手段40と、セパレータ60と、循環手段80と、排出手段90と、を備えている。尚、以降の説明において、燃焼炉1側を上流側、排出手段90の後述する第8連通路91側を下流側として説明する。
【0020】
まず、供給手段20について説明する。供給手段20は、COリッチな導入気体A1を圧縮して反応室30に供給するために構成されている。
【0021】
供給手段20は、上流側から順に、燃焼炉1の下流側に連結された第1連通路21と、第1連通路21内にパルスパワー波を照射するパルスパワー波照射器22と、第1連通路21の下流側に配設された冷却器23と、冷却器23の下流側に配設された第2連通路24と、第2連通路24の下流側に連結された軸流式の圧縮機25と、圧縮機25の下流側及び反応室30の上流側に連結された第3連通路26と、から主に構成されている。
【0022】
第1連通路21には、循環手段80も連結されており、逆止弁82から気体A7を導入可能となっている。
【0023】
パルスパワー波照射器22は、第1連通路21内かつ後述する逆止弁82との合流箇所よりも上流側に配置されたプラグ22aからパルスストリーマ放電を実行可能となっている。本実施例では、パルスパワー波照射器22は、半値幅80nsの高電圧を繰り返し動作で発生可能であり、充電電圧を20kV、放電電流を170Aとし、電源を5pps(Pulses Per Second)で運転させることで、パルスパワー波を照射し、パルスストリーマ放電を生じせしめる。このように、短パルス、高電圧小電流、短サイクルで運転させ、グロー放電やアーク放電とならないようにすることが肝要である。尚、導入気体A1において、NOx、SOx等のような、COとMgの反応の妨げとなるような不純物の含有量が少ない場合には、パルスパワー波照射器22は配設されなくてもよい。また、導入気体A1の温度によっては、冷却器23も配設されなくてもよい。
【0024】
第2連通路24には、冷却器23によって冷却され、第2連通路24を通過する気体A2におけるO濃度を測定するためのOセンサ27が設けられている。
【0025】
また、第2連通路24には、気体A2にCOを供給することでそのO濃度を調整するための二酸化炭素供給手段28が設けられている。尚、二酸化炭素供給手段28は配設されなくてもよい。
【0026】
反応室30では、COをMgと反応させ、下記反応式1,2により表される炭素の固定が行われる。反応室30における反応は、発熱反応である。詳しくは、CO濃度を大気よりも比較的高くした状態でCOをMgと反応させると、COはMgとは完全に反応せずCOが一部生じ、反応熱の温度が約1500度~約2000度となる(反応式1参照)。また、CO濃度が高濃度、例えば95%以上である場合には、COはMgと略完全に反応し、MgOとCとが生成されCOは生成されず、反応熱の温度が約3000度以上となる(反応式2参照)。COとMgの反応の観点からはCO濃度が100%であることが好ましい。本実施例においては、反応室30における反応熱の温度が約2000度~約3000度となるようにCO濃度が調整されることが好ましい。
Mg+CO→MgO+CO ・・・(反応式1)
2Mg+CO→2MgO+C・・・(反応式2)
【0027】
上記反応を想定して、反応室30は高耐熱かつ高耐圧に形成されている。反応室30内には、電気的に火花を発生させる点火プラグ31aと、アセチレン(C)が供給されるアセチレン供給口31bと、Oが供給される酸素供給口31cと、Mg粉末が投入されるマグネシウム供給口36aが配置されている。尚、投入するMgは粉末以外の形状例えばフレーク状、ペレット状、バー状、筒状であってもよい。また、その構造は細孔等を有し比表面積の大きなポーラス構造であるとCOと反応しやすく好ましい。
【0028】
反応開始手段31は、反応室30内でCをOで燃焼させ、反応が開始される前のCOとMgの反応を促すために構成されている。反応開始手段31は、点火プラグ31aと、アセチレン供給口31bと、酸素供給口31cと、アセチレン生成室34と、アセチレン生成室34とアセチレン供給口31bを接続するアセチレン流路31dと、酸素ボンベ35と、酸素ボンベ35と酸素供給口31cを接続する酸素流路31eと、酸素流路31eの途中に設けられた流量制御弁31fを備えている。
【0029】
尚、点火プラグは、電気的に火花を発生させるもの以外の赤熱させる方式のものであってもよい。また、C及びOを効率よく混在させることが可能であれば、例えば一つの酸素供給口31cの周りに複数のアセチレン供給口31bが等配されている等、アセチレン供給口31b及び酸素供給口31cの数、配置は適宜変更されてもよい。
【0030】
アセチレン生成室34は、反応室30の外側に設けられており、炭化カルシウム(CaC)と、水(HO)を供給可能に構成されている。これらが混合されることにより、Cを発生させることができる(反応式3参照)。これにより、Cそのものを長期に亘って貯留せずとも適量のCを供給可能でありかつCaCを貯留すればよいため安全である。
CaC+2HO→C+Ca(OH)・・・(反応式3)
【0031】
分離手段36は、マグネシウム供給口36aと、MgHペレットがMgと水素(H)に分離される分離室36bと、MgHペレットが貯留される水素化マグネシウムタンク36cと、分離室36bで発生したHが回収される水素タンク36dと、マグネシウム供給口36aを分離室36bに接続するマグネシウム流路36eと、から主に構成されている。本実施例では、MgHをペレット化することにより、例えばナノ粒子状のMgHと比較して意図しない爆発反応等が生じにくくなるため、安全かつ容易に保管することができる。尚、保管体制等が適切であれば、MgHはペレット以外の状態例えば微粒子で保管してもよい。また、分離手段36は本発明における炭素固定装置10の投入手段ということもできる。
【0032】
分離室36bには、点線矢印で示すように、反応室30においてMgとCOの燃焼反応によって生じる熱が供給されるようになっている。これにより、水素化マグネシウムタンク36cより分離室36b内にMgHペレットが投入されることで、MgHが熱分離する(反応式4参照)。一方、この反応で生じたHは、水素タンク36dに回収される。水素タンク36dは、反応室30及び分離室36bよりも上方に設けられているため、反応室30にHが流入しにくくなっており、かつ水素タンク36d内に容易に回収することができる。
MgH→Mg+H・・・(反応式4)
【0033】
反応室30内の下流側には、ガスタービン発電装置41のタービン42が配置されている。
【0034】
発電手段40は、反応室30内でCOとMgとが反応することで発生した高温高圧の気体A4を用いて発電可能なガスタービン発電装置41を有している。ガスタービン発電装置41は、高温高圧の気体A4の圧力により回転されるタービン42と、タービン42の回転に応じて発電可能な発電装置43と、から主に構成されている。
【0035】
セパレータ60は、タービン42の下流側に連結された第4連通路50の下流側に配設されており、気体A5に含まれるCOを分離させるためのものである。また、セパレータ60の下流側には、気体A5からCOが回収された残りの気体A6が流入する第5連通路70と、気体A5より回収されたCOを含む気体A9が流入する第7連通路71がそれぞれ連結されている。また、第7連通路71の下流側には、COを貯留する一酸化炭素タンク72が連結されている。
【0036】
循環手段80は、CO濃度が高いと判定された気体A7を供給手段20に供給するために構成されている。循環手段80は、上述した第5連通路70と、第5連通路70の下流側に連結された三方向弁Vと、三方向弁Vの一方の下流側に連結された第6連通路81と、第6連通路81の下流側に連結された逆止弁82と、から主に構成されている。
【0037】
排出手段90は、CO濃度が低いと判定された気体A8を排出するために構成されている。上述した第5連通路70と、三方向弁Vと、三方向弁Vの他方の下流側に連結され、炭素固定装置10の外部に連通する第8連通路91と、から主に構成されている。尚、図2では、三方向弁Vの第8連通路91が連結されている弁が閉弁状態となっている。
【0038】
次に、動作について説明する。燃焼炉1で得られたCOリッチな導入気体A1は、第1連通路21に流入される。導入気体A1は、CO濃度が約70%程度であり、CO以外にも、窒素(N)、水素(H)、酸素(O)、水蒸気(HO)等が含まれている。また、導入気体A1の温度は、300度程度であり、単位時間当たりの流量は、0.1×10-4/sである。
【0039】
矢印で示されるように、第1連通路21内に導入された導入気体A1は、パルスパワー波照射器22のプラグ22aから連続的に照射され続けているパルスストリーマ放電により発生している非熱平衡プラズマにより、導入気体A1に含まれるH、O、HO等の反応が促進され不純物がさらに少なくなる。
【0040】
導入気体A1は、矢印で示されるように、冷却器23に導出されて冷却され、約30度程度の気体A2となる。Oセンサ27により測定した気体A2におけるO濃度がHと爆発反応が生じない所定のO濃度以下であれば、気体A2は、矢印で示されるように、第2連通路24を通過した後、圧縮機25により圧縮される。一方、気体A2におけるO濃度が所定のO濃度を越えていれば、二酸化炭素供給手段28によって気体A2のO濃度が所定のO濃度以下となるように調整された後、圧縮機25により圧縮される。尚、所定のO濃度は、反応室30内の温度変化に応じてその値が更新される。
【0041】
ここで、本実施例においては、パルスパワー波照射器22によるストリーマ放電により水素が活性化し導入気体A1に含まれるHが低減されること、MgH分離時に生じるHが水素タンク36dに回収されることにより、反応室30内におけるH濃度が非常に低くなっている。そのため、本実施例における所定のO濃度も比較的高い値に設定することができる。尚、気体A1,A2中のO濃度の低減が可能であれば、CO以外の物質を気体A1,A2に追加的に供給してもよく、また、パルスストリーマ放電とは別に、周知の方法で気体A1,A2中のOを他の物質と反応させることで低減してもよい。
【0042】
矢印で示されるように、圧力約2.0MPa、単位時間当たり流量5.0×10-5/sの圧縮・加圧された気体A3が第3連通路26を通過してMg粉末が投入されている反応室30に流入する。
【0043】
反応室30内では反応開始手段31によりCをOで燃焼させた熱(約2000度~約3500度)をトリガーとしてCOとMgの反応が促進される。これにより、気体A3に含まれるCOとMgが直接反応し、MgO、C、CO等が生成されることを確認した。すなわち、COの炭素固定がなされ、気体A3のCO濃度が低減された。
【0044】
また、Mg粉末は、CとOとの燃焼炎に向かってマグネシウム供給口36aよりCOガスと共に圧送される。これは、Mgが他の物質と反応することを防止するためである。すなわち、COガスを不活性ガスとして利用している。尚、COガスとして、圧縮機25より圧送された気体A3を利用してもよい。また、不活性ガスであれば適宜変更されてもよい。さらに、分離室36bで粉末よりも大きな(例えば代表長数mm以上)ペレットや筒体のバルク形状のMgHを分離させる場合も、同様に水素が分離されたMgバルク材にCOガスを吹き付けた状態で反応室30内に投入することが好ましい。
【0045】
このように、CとOの混合ガスにMg粉末が混入された状態で混合ガスを燃焼させることができるため、Mg粉末を効率よく加熱することができる。また、反応室30に供給されるMg粉末は、分離室36b内においてMgHから熱分離された直後であり、高温である。これによっても、Mg粉末はCOと反応しやすくなっている。
【0046】
COによるMgの燃焼が開始され、反応熱が発生した以降は、反応室30内に気体A3が流入するとともに、マグネシウム供給口36aよりMg粉末が供給されることで、COとMgとが連続的に反応することが観察された。このとき、反応室30内の温度は約2000度~約3000度であった。
【0047】
尚、CをOで燃焼させた反応熱によりCOによるMgの燃焼が開始されなかった場合には、COによるMgの燃焼が開始されるまで、所定間隔置きにCをOで燃焼させることを繰り返し行う。また、COによるMgの燃焼が開始された後は、流量制御弁31fの弁開度を絞るまたは閉弁されるため、混合ガスの燃焼は停止される。
【0048】
このように、MgとCOとがまだ燃焼反応していない状態では、反応開始手段31によるCとOとの燃焼をトリガーとしてMgとCOとを反応させることが可能であり、MgとCOとの反応が開始して以降の反応については、発生する高温の反応熱により連続的に反応させ続けることができる。
【0049】
COとMgとの反応により、気体A3の温度が急激に上昇することに伴って、気体A3が急激に膨張するため、高温高圧の気体A4となり、下流側に噴出される。
【0050】
気体A4は、矢印で示されるように、反応室30の下流側から第4連通路50に流入しようとする。このとき、気体A4は、反応室30と第4連通路50との間に配設されているガスタービン発電装置41のタービン42を回転させる。この気体A4の通過に伴いタービン42が回転されることにより、ガスタービン発電装置41の発電装置43による発電が行われる。
【0051】
タービン42を通過した気体A5は、矢印で示されるように、第4連通路50を通じてセパレータ60に導出される。セパレータ60では、気体A5に含まれるCOが分離されるため、高濃度のCOが含まれる気体A9と、COが分離された残りの気体である気体A6に分離される。高濃度のCOが含まれる気体A9は、矢印で示されるように、第7連通路71を通じて一酸化炭素タンク72に封入される。
【0052】
一方、COが分離された残りの気体である気体A6は、矢印で示されるように、第5連通路70に導出される。第5連通路70には、気体A6に含まれるCO濃度を測定可能な図示しないCOセンサが設けられており、CO濃度が一定(本実施例では、10vol%)以上である気体A7の場合には、三方向弁Vの第8連通路91側が閉弁状態となり、第5連通路70及び第6連通路81側が開弁状態となる。これにより、気体A7は、矢印で示されるように、三方向弁V、第6連通路81及び逆止弁82を通じて、第1連通路21に導出され、導入気体A1と共に上述したサイクルが繰り返し行われることとなる。
【0053】
また、CO濃度が一定(本実施例では、10vol%)未満である気体A8の場合には、三方向弁Vの第6連通路81側が閉弁状態となり、第5連通路70及び第8連通路91側が開弁状態となる。これにより、気体A8は、点線矢印で示されるように、三方向弁V及び第8連通路91を通じて外部に排出される。
【0054】
以上説明したように、本実施例の炭素固定装置10では、加圧された二酸化炭素(CO)リッチな導入気体A3に、反応開始手段31によるアセチレン(C)と酸素(O)との燃焼にて生じた反応熱を供給することで、COをマグネシウム(Mg)と反応させることができた。これにより、少なくとも酸化マグネシウム(MgO)と炭素(C)とが生成されることで炭素固定がなされるとともに、この反応は約2000度~約3000度の高温となることから、高温高圧の気体A4が発生するため、発電手段40による発電効率が高い。
【0055】
また、炭素固定装置10は水素化マグネシウム(MgH)を用いていることから純マグネシウム(Mg)を用いる場合に比べ他の物質と反応しにくく、またMgHからMgを分離して得ていることから、分離されたMgが他の物質と反応する前に、供給手段20から供給された気体A3中のCOと反応しやすく、炭素固定の効率を高めることができる。例えば、反応性が高い純Mgを反応室30に供給する装置では、反応室30に投入する前に気体中のOと燃焼反応する虞がある。すなわち、MgHを分離手段36内に直接供給することにより安全性を高めることができる。
【0056】
尚、反応室30内で生じたMgOを回収して、図示しないプラズマ分離装置を用いて、MgOをプラズマ化させることにより、Mgに還元することが可能である。これにより、MgOから還元されたMgを水素化させて分離室36bに供給し、Mgをリサイクルしてもよい。また、プラズマ装置として、非平衡プラズマを用いる際は、MgOの表面部分をMgに還元し、その表面部分が還元されたものを水素化させて分離室36bに供給するものであってもよい。これらのように還元する前のMgOは、微粒子状、ペレット状等いずれの状態であってもよいが、いずれの状態であったとしても還元や水素化における効率の観点から、ポーラス構造を成していることが好ましい。尚、非平衡プラズマを用いるプラズマ分離装置を分離装置の例として例示したが、これに限られず、MgOをMgに還元可能な分離装置であれば高熱、マイクロ波等を利用した分離装置であればよく、適宜変更されてもよい。
【0057】
また、分離室36bは反応室30の外部に設けられている構成として説明したが、これに限らず、反応室30内に独立して、反応室30の壁に分離室が設けられていてもよい。このような構成であれば、反応室30内で発生した熱を分離室に供給するための手段を簡素にすることばかりでなく、分離されたMgが他の物質と反応することを確実に低減することができる。
【実施例0058】
実施例2に係る炭素固定装置につき、図3を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する説明については省略する。本実施例の炭素固定装置110は、反応室130内にパルスパワー波を照射する反応開始用のパルスパワー波照射器131(反応開始手段)と、反応室130内に水素化マグネシウム(MgH)ペレットを供給するための水素化マグネシウム供給手段136と、第4連通路50より水素(H)を回収するための水素タンク136dを備えている。
【0059】
反応開始用のパルスパワー波照射器131は、半値幅40nsの高電圧を繰り返し動作で発生可能であり、充電電圧を100kV、放電電流を170Aとし、電源を10ppsで運転させることで、反応開始用のパルスパワー波を照射し、反応開始用のパルスストリーマ放電を生じせしめる。このように、短パルス、高電圧小電流、短サイクルで運転させ、グロー放電やアーク放電とならないようにすることが肝要である。
【0060】
水素化マグネシウム供給手段136は、水素化マグネシウム供給口136aと、水素化マグネシウムタンク36cと、水素化マグネシウム供給口136aを水素化マグネシウムタンク36cに接続する水素化マグネシウム流路136eとから主に構成されている。
【0061】
尚、投入するMgHはペレット以外の形状例えば粉末、フレーク状、バー状、筒状であってもよい。また、その構造は細孔等を有し比表面積の大きなポーラス構造であるとCOと反応しやすく好ましい。
【0062】
これにより、反応室130内で反応開始用のパルスパワー波照射器131のプラグ131aから短時間の反応開始用のパルスストリーマ放電により発生した非熱平衡プラズマにより、反応開始用のMgと気体A3に含まれるCOとが直接反応し、MgO、C、CO等が生成されることを確認した。すなわち、COの炭素固定がなされ、気体A3のCO濃度が低減された。
【0063】
尚、COとMgとの反応開始時に用いられるMgは、前記実施例1のようにMgHから分離されたものであってもよく、前回の炭素固定後に残ったものであってもよく、適宜変更されてもよい。
【0064】
MgとCOとの反応が開始すると、水素化マグネシウム供給手段136は、水素化マグネシウム供給口136aより反応室130内にMgHを供給する。そして、COとMgとの反応により発生する高温の反応熱によりMgとHとに熱分離されるとともに、このMgと気体A3に含まれるCOとを連続的に反応させ続けることができる。すなわち、反応室130は分離手段としても機能する。また、熱分離されたMgは高温となっているため、COと反応しやすい。加えて、MgHを反応室130内に供給するタイミングや温度を調整することで、確実に反応室130内でMgHを分離させることができる。これに対して反応性が高い純Mgを反応室130内に供給する装置では、反応室130に投入する前に気体中のOと燃焼反応する虞がある。すなわち、MgHを反応室130内に直接供給することにより安全性を高めることができる。
【0065】
尚、COとMgとの反応により発生する高温の反応熱によりMgとHとに熱分離される例について説明したが、反応熱や圧力等を調整することで、水素化マグネシウム供給口136aより反応室130内に供給されたMgHがCOと直接反応するようにしてもよい。
【0066】
また、本実施例においても、前記実施例1と同様に、反応室130内の温度は約2000度~約3000度となる。ここで、水(HO)は、その温度が2000度以上になると水素分子(H)と酸素分子(O)に分離し、2500度以上になると水素原子(H)と酸素原子(O)に分離するため、MgHの熱分離により反応室130内に水素が生じても気体A3中に含まれる僅かな酸素との爆発反応が起きにくくなっている。
【0067】
加えて、反応室130内に流入したOは、Mgと反応する。このことからも、爆発反応が起きにくくなっている。
【0068】
また、前記実施例1と同様に、反応室130内の温度が2000度未満の場合においても、Oセンサ27と二酸化炭素供給手段28により気体A3の酸素濃度が調整されるため、爆発反応が起きにくくなっている。
【0069】
また、第4連通路50に設けられている水素タンク136dにHが回収されるため、反応室130よりも外側でHとOとの爆発反応が発生することが防止されている。尚、水素タンク136dにHを回収する方法は周知の方法である。
【0070】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0071】
例えば、前記実施例では、炭素固定装置10は、発電手段40を備えている構成として説明したが、これに限られず、発電手段40を備えていなくてもよく、ボイラとして使用されてもよく、単に炭素固定のみに使用されてもよく、適宜変更されてもよい。
【0072】
また、前記実施例では、MgHは熱分離される構成として説明したが、これに限られず、例えば水(HO)と反応させてMgOとした後、上述したプラズマ分離装置を用いてMgに還元してもよく、Mgを得る方法は適宜変更されてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 炭素固定装置
20 供給手段
27 Oセンサ
30 反応室
31 反応開始手段
36 分離手段(投入手段)
36b 分離室
90 排出手段
110 炭素固定装置
130 反応室(分離手段)
131 パルスパワー波照射器(反応開始手段)
136 水素化マグネシウム供給手段
A1 導入気体
A3 加圧された二酸化炭素リッチな導入気体
図1
図2