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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168889
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】自動車の駆動システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/30 20160101AFI20231121BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20231121BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20231121BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20231121BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20231121BHJP
   B60W 20/13 20160101ALI20231121BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20231121BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20231121BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20231121BHJP
   B60L 58/13 20190101ALI20231121BHJP
【FI】
B60W20/30
B60W10/02 900
B60W10/26 900
B60W10/10 900
B60K6/48 ZHV
B60W20/13
B60L15/20 K
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080263
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】302071667
【氏名又は名称】松尾 典孝
(72)【発明者】
【氏名】松尾 典孝
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB19
3D202BB30
3D202BB31
3D202BB32
3D202BB37
3D202BB64
3D202BB65
3D202CC58
3D202CC59
3D202DD01
3D202DD05
3D202DD18
3D202DD20
3D202DD32
3D202DD44
3D202DD45
3D202FF05
3D202FF14
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BC05
5H125BC12
5H125BE05
5H125CA02
5H125CA08
5H125DD01
5H125DD05
5H125EE27
(57)【要約】      (修正有)
【課題】貨物車用に低いシステムコストで優れた燃費性能と走行性能を両立できるハイブリッドシステムを提供する。
【解決手段】遊星歯車機構をもつ動力合成装置でエンジンとモータ1基の動力経路の形態を切換えて得られる複数の動力制御モードを持ち、エンジンを常時燃費最良ポイントで運転する動力制御モードとエンジンとモータの動力を合わせて車両駆動に供する動力制御モードを走行局面に応じて使い分けることによりシリーズ・パラレルハイブリッドシステムと同等の優れた燃費性能と貨物車に要求される走行性能を両立できるパラレルハイブリッドシステムを実現する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとモータと、エンジンとモータの動力を制御する動力合成装置と、前記動力合成装置の出力を入力する変速機を備えた自動車の駆動システムであり
前記動力合成装置はサンギアと遊星ギアと遊星ギアを保持する遊星キャリアとリングギアから成る遊星歯車装置とモータの動力経路を切換える動力経路切換装置とサンギア軸を制動するサンギア制動装置を備え、
エンジン動力を遊星キャリア軸に入力し、モータ動力を前記動力経路切換装置によりサンギア軸またはリングギア軸に入力し、エンジンとモータの動力を合わせて前記リングギアから出力する構造をなし、
前記動力経路切換装置と前記サンギア制動装置の動作を制御することで異なる動力制御モードで動作することができ、
前記動力制御モードが前記エンジンが停止した状態で前記モータが前記動力経路切換装置により前記リングギア軸を駆動する1軸電動モードと
前記エンジンが前記遊星キャリア軸を駆動し、前記モータが前記動力経路切換装置により前記サンギア軸を駆動する状態で前記エンジンと前記モータの速度比と動力比を連続可変に制御する2軸速度比可変モードと
前記サンギア制動装置により前記サンギア軸の回転を停止させ、前記エンジンと前記モータの速度比を固定とした上で前記エンジンが前記遊星キャリア軸を駆動し、前記モータが前記動力経路切換装置により前記リングギア軸を駆動する状態で前記エンジンと前記モータの動力比を制御する2軸速度比固定モードと
前記1軸電動モードで走行中に、前記サンギア制動装置により前記エンジンの逆転方向に空転している前記サンギア軸を制動し、制動トルクによって発生する遊星キャリア軸を前記エンジンの正転方向に回転させようとする反トルクにより、停止している前記エンジンを始動する走行中エンジン始動モードと
車両停車中に前記変速機の入力軸回転ロック機能または車両制動装置を動作させた上で、前記モータが前記動力経路切換装置により前記サンギア軸を駆動する状態で前記モータを前記エンジンの正転方向に回転させて停止している前記エンジンを始動する停車時エンジン始動モード
を含むことを特徴とする自動車の駆動システム
【請求項2】
請求項1において前記変速機が自動変速多段変速機もしくは無段変速機であり、
前記変速機が自動変速多段変速機の場合は前記2軸速度比可変モードにおいて前記モータに電力を供給するバッテリの残量に基づき前記自動変速多段変速機のシフトスケジュールを変更することができ
前記バッテリ残量が減少した場合は各変速段の変速点車速を低速側に、前記バッテリ残量が増加した場合は高速側に移行させることで前記バッテリの充放電電力量を制御し、
前記変速機が無段変速機の場合は前記2軸速度比可変モードにおいてバッテリ残量目標値を設定し、検知された前記バッテリの残量と前記バッテリ残量目標値との誤差に基づきバッテリ充放電電力目標値を決め
検知された前記バッテリの充放電電力と前記バッテリ充放電電力目標値の誤差に基づき前記無段変速機の変速比を修正することにより前記バッテリ充放電電力とバッテリ残量を制御するフィードバック制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の前記自動車の駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に貨物車用の走行燃費と加速性能の両方を向上されるためにエンジンとモータを用いるハイブリッド駆動システムであり、燃費重視の走行ではエンジンを常時最良燃費点で運転するようエンジンとモータの動力を制御し、貨物満載時など大きな駆動力を必要とする場合はエンジンとモータの最大動力を合わせて車両駆動に供することを可能とするものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド乗用車は既に世界中に普及しており自動車全体のCO2排出低減に貢献している. 一方貨物車においてはハイブリッド車の普及率は乗用車に比べると少ない. ハイブリッド車のイニシャルコスト増と定期的に発生するバッテリ交換によるコスト増の方が燃料コスト低減を上回るのが大きな理由であり、普及を図るためにはハイブリッド化による更に大幅な燃費向上が必要である。
【0003】
乗用車用ハイブリッドシステムとして実用化されているトヨタTHSやホンダi-MMDシステムはエンジンと2基のモータを用いるシリーズ・パラレル方式のハイブリッドシステムでありエンジンを燃費最良点Sweet-Spotで運転することにより優れた燃費性能が得られ、また1基のモータでエンジンをアシストしながら残りの1基のモータをエンジンで駆動される発電機として使用することでバッテリ残量を適正に保持することができるので使用バッテリの容量を小さくできる。 しかし動力源としてエンジンとモータ2基の合計3つの動力源を用いることからシステムコストが高いこと、また駆動系の機構上、3つの動力源のフルパワーを同時に車両駆動用動力として取り出すことが出来ず大きな駆動力を発生することができないなどの理由により走行時の車両総重量が大きい貨物車には適用例がない.
【0004】
貨物車にハイブリッドシステムを適用する場合、乗用車に比べシステムコストが安く、しかも良好な走行燃費と大きな駆動力を両立できるシステムが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-73158: ハイブリッド車のトランスアクスル
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】佐々木正一: ハイブリッド車における制御, 計測と制御 第45巻 第3号 2006年3月
【非特許文献2】奥井他: 小型配送用ハイブリッドトラックの燃費調査および燃費改善の検討,自動車技術会論文集,Vol.45,No.2
【非特許文献3】工業所有権情報・研修会館: 平成17年度特許流通支援チャート ハイブリッド電気自動車の制御技術, 2006年3月
【非特許文献4】全日本トラック協会: カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会トラック運送業界における認識と課題, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
優れた燃費性能を実現できるとして乗用車で実用化されているシリーズ・パラレルハイブリッドシステムは動力源としてエンジンとモータ2基を備えるためシステムコストが高く、しかも3つの動力源の動力を同時に車両駆動のために供することができないため大きな駆動力を得ることができず、貨物車には適用できないという問題がある。 本発明はエンジンとモータ1基のみを備えながらエンジンとモータの2つの動力の最適制御によりシリーズ・パラレルシステムと同等の優れた燃費を得ることができ、さらに2つの動力を同時に車両駆動に供することで大きな駆動力を得ることができる低コストな貨物車用のパラレルハイブリッドシステムに関する発明である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
図7に本発明の自動車の駆動システムの動力経路図を示す。図7で1はエンジン、2はモータ、5はバッテリ、3は動力合成装置、4は変速機であり、動力合成装置3の出力が変速機4に入力されるようになっている。動力合成装置3は遊星キャリア32、サンギア33、リングギア31から成る遊星歯車機構30と、リングギア31にモータ2の動力を伝達する駆動ギア34、動力経路切換装置35、サンギア制動装置36を有している。 遊星歯車機構30においてはエンジン1の動力が遊星キャリア32に、モータ2の動力がサンギア33に各々入力され、リングギア31から動力が出力されるようになっている。動力経路切換装置35はモータ2の動力をサンギア33に伝達するか駆動ギア34に伝達するかを切り換えることができる。 サンギア制動装置36はサンギア33の回転速度を減速もしくは回転を止めることができる。 なお各動力経路内で動力は双方向に伝達可能である。
【0009】
動力合成装置3は動力経路切換装置35とサンギア制動装置36の動作を制御することによりいくつかの異なる動力制御モードを成すことができる。 図8から図12に動力合成装置3の主要な5つの動力制御モード毎の動力経路図と遊星歯車機構の共線図を示す。 共線図の縦軸Sはサンギア33の軸、Cは遊星キャリア32の軸、Rはリングギア31の軸を示しており、角速度は車両前進時にリングギア31が回転する方向を正としている。 また共線図の右には駆動ギア34対リングギア31の歯数比がサンギア33対リングギア31の内歯の歯数比αと同じ場合の駆動ギア34の軸Gが追加されている。 また白抜きまたは黒塗りの矢印は各軸に作用するトルクを表しており、白抜きはリングギア31に逆転トルクが作用している状態を、黒塗りはリングギア31に正転トルクが作用している状態を表しており、上向き矢印は正転方向のトルクを、下向き矢印は逆転方向のトルクを表している。 リングギア31に逆転トルクが作用するのは動力源から供給された動力が駆動輪を駆動する駆動運転時、正転トルクが作用するのは逆に駆動輪に入力された動力を動力源が吸収する制動運転時である。
【0010】
共線図上に表記されている変数名について説明する。 ωR、ω、ω、ωG、およびωは各々、R軸、S軸、C軸、G軸、およびモータ2の角速度、またTR、T、T、TG、Tは各軸に作用するトルクを表している。
【0011】
動力経路図に示された太い直線は動力が伝達されている動力ON状態を、細い直線は動力が伝達がされていない動力OFF状態を示しており、時計回りを示す矢印をもつ楕円は軸が正転していること、反時計回りを示す矢印をもつ楕円は軸が逆転していること、黒丸は軸が回転を停止していることを表している。
【0012】
図8はエンジン1が停止し、モータ2の動力のみを使用する1軸電動モードでの動力経路図と共線図を示す。 モータ2の動力伝達経路は動力経路切換装置35により駆動ギア34に繋がっている。 共線図においてはエンジンは停止しているのでω=0、T=0、サンギアは空転しているのでT=0であり。またωG=ω、TG=Tである。 またω=-α・ωRでありモータMとリングギア31の速度比は一定である。
【0013】
駆動運転時はTR<0、ωR>0、T<0、ω<0でありモータ2の回転方向とトルクの方向が同じ(TMとωMの符号が同じ)なのでモータ2は電力を供給されて動力を発生する力行運転状態にあり、制動運転時はTR>0、ωR>0、T>0、ω<0でありモータ2の回転方向とトルクの方向が逆なのでモータ2は動力を吸収して発電する発電運転状態にあり、エネルギ回生を行うことができる。
【0014】
1軸電動モードは発進・低速走行など低騒音走行が必要な場合や車両減速時や下り勾配走行時等で走行エネルギの回生制動を行う場合に選択される。
【0015】
図9はエンジン1が遊星キャリア32を、モータ2がサンギア33を駆動する2軸速度比可変モードでの動力経路図と共線図を示す。 モータ2の動力伝達経路は動力経路切換装置35によりサンギア33に繋がり駆動ギア34との動力経路は断たれ駆動ギア34は空転している。 当該モードは基本的に駆動運転時に使用するのでTR<0、ωR>0、またエンジン1は動力を発生しているのでTC>0であり遊星歯車のトルクバランスを保つためにモータ2のトルクT(=T)<0である。 一方エンジン1とモータ2の速度比は可変となる。
【0016】
図13に2軸速度比可変モードでのエンジン1とモータ2の速度関係を示す。図中ωCmax、ωCminは各々エンジン1の最大回転速度と最低回転速度であり、ωSmax、ωSminは各々エンジン回転速度ωCmax、ωCminに対するモータ2の回転速度である。 モータ2の回転速度をωSmaxとωSminの間に制御すればエンジン1の回転速度をωCmaxとωCminの間で運転することができる。 またモータ2の回転速度がゼロになる時のエンジン回転速度をωC0とするとωC>ωC0の範囲ではωS>0となりトルクと回転速度の向きが逆なので発電運転状態となり、ωC<ωC0の範囲ではωS<0となりトルクと回転速度の向きが同じなので力行運転状態となる。 以上説明したとおり2軸速度比可変モードではエンジン1とモータ2の速度比を可変とし、またモータ2を発電運転または力行運転することができる。ただ当該モードでは遊星歯車のトルクバランスにより、リングギア31のトルクTRはTR=α/(1+α)・TCとなり、リングギア31から出力できるトルクは小さい。 したがって大きな駆動力を必要とする走行には適していない。
【0017】
2軸速度比可変モードは主に走行燃費向上のため、エンジン1の燃費率の良好な運転ポイントであるSweet-Spotで運転したり、走行しながらバッテリの充放電を制御する時に使用する。
【0018】
図10はエンジン1が遊星キャリア32を、モータ2が駆動ギア34を駆動する2軸速度比固定モードでの動力経路図と共線図を示す。 モータ2の動力伝達経路は動力経路切換装置35により駆動ギア34に繋がりサンギア33との動力経路は断たれており、またサンギア33はサンギア制動装置36により回転が止められている。 共線図に示すとおり当該モードではリングギア31、遊星キャリア32(エンジン1)、および駆動ギア34(モータ2)の回転速度比ωR:ω:ωは1:α/(1+α):-αでありエンジン1とモータ2の速度比は1:-(1+α)と固定である。 基本的に駆動運転時に使用するのでTR<0、ωR>0、またエンジン1は動力を発生しているのでTC>0であり遊星歯車のトルクバランスを保つためにモータ2のトルクT(=T)<0である。 リングギア31から出力されるトルクTR はTR=α/(1+α)・TC-α・T(T<0)であり動力合成装置3からエンジンとモータを合わせた大きなトルクを取り出すことができる。
【0019】
2軸速度比固定モードは主に急加速や急勾配を上る場合など大きな駆動力を必要とする時に使用する。
【0020】
図11は1軸電動モードで走行中に2軸速度比可変モードに切り換える途中にエンジン1を始動するための走行時エンジン始動モードでの動力経路図と共線図を示す。 モータ2は1軸電動モードと同じくリングギア31を駆動しているが1軸電動モードでは空転していたサンギア33にはサンギア制動装置36により制動トルクTが正転方向に作用し減速を始め、停止していた遊星キャリア32とエンジン1は正転しようとするがエンジン1には気筒の圧縮圧力やバルブ駆動系抗力その他の内部摩擦等により抵抗トルクTCが逆転方向に作用する。そこでTをTCより大きく制御するとエンジン1は正転を始め、始動することができる。
【0021】
図12は停車時にエンジン1を始動するための停車時エンジン始動モードでの動力経路図と共線図を示す。 モータ2は2軸速度比可変モードと同じくサンギア33を正転方向にトルクT(T>0)で駆動し、エンジン1の抗力トルクTC (TC>0)に打ち勝ってエンジン1を正転方向に回転させ始動する。 リングギア31には車両を後退方向に発進させようとするトルクが発生するので予めトランスミッション4をパーキングブレーキ状態にするか車両の制動装置を作動させるなどしてリングギア31が回転できないようにしておく。
【0022】
以上段落0012から0021で5つの主要な動力制御モードについて説明したがその他にも1軸電動モードの亜モードとして回生運転時にエンジンを停止せずにアイドル状態を保ちエンジン再始動回数を減らしたり、エンジン1に逆転防止機構を設けた上で2軸速度比可変モードの亜モードとしてエンジンを停止した状態でモータ2の動力のみで走行したり、停車時エンジン始動モードで始動後続けてモータを発電運転する停車時バッテリ充電モードなども可能である。
【0023】
次にモータ2に電力を供給するバッテリ5の充放電制御について説明する。 走行中、バッテリ5が過放電や過充電にならないようバッテリ残量は適正範囲に保たれなければならない。 1軸電動モードでは回生運転時以外はモータ2は力行運転となりバッテリ5は放電傾向となり、2軸速度比固定モードでは段落0019に記載のとおり大きな駆動力を要する場合に使用するので基本的にモータ2は力行運転となりバッテリ5は放電傾向となる。 一方2軸速度比可変モードでは段落0015から0016に記載のとおりエンジン1とモータ2の速度比制御によりバッテリ5の充放電を制御することができる。
【0024】
図14に2軸速度比可変モードでエンジン1のトルクTE一定の下、リングギア31の回転速度NRを変化させた時のエンジン回転速度NE、リングギア31のトルクTRと、モータ2のトルクTMと回転速度NM、および動力PMの変化を示す。 なお回転速度NEはエンジン制御ラインCL上のトルクTEに対応する回転速度である。 リングギア31の回転速度NRに対しモータ2の動力PMは直線的に変化し、モータ速度が0になるNRをNとした時NR<NではPM<0で発電運転、NR>NではPM>0で力行運転となることからリングギア回転速度NRを制御することでモータ動力PMを制御し、バッテリ充放電電力を制御できることがわかる。
【0025】
リングギア回転速度は車速と変速機4の変速比によって決まるので変速機4の変速比を制御すればバッテリ充放電電力を制御できる。 変速機4が無段変速機の場合変速比は連続量となるのでバッテリ残量Sやバッテリ充放電電力を制御量、変速比を操作量とするフィードバック制御が可能である。
【0026】
一方変速機4が多段変速機の場合、操作量である変速比は離散量となるのでフィードバック制御は不可であり、代わりに変速機のシフトスケジュールにおける変速点車速をバッテリ残量Sに基づき移行させ同一変速位置でのリングギアの回転速度範囲を変えることによりバッテリ充放電電力量を制御する。 つまり変速機の変速段数がnの時、変速位置M速における基準の変速点車速V(M)(M=1~n)を決めておき、Sが小さい時は変速点車速V(M)を低速側にシフトし、Sが大きい時はV(M)を高速側に移行させる。
【0027】
図15に基準の変速点車速を決める方法を説明する。 遊星歯車機構には遊星キャリア32にエンジン1の最大動力PEが入力され、サンギア33でモータ2の最大吸収動力PMが吸収されることによりリングギア31から動力(PE-PM)が出力される全力バランス動作点が存在する。 当該動作点ではエンジンは最大出力回転速度NEmax,モータ2は基底速度Nbで運転される。 また当該動作点におけるリングギア31の回転速度NをK点と呼ぶとリングギア31の回転速度NがK点より小さいと遊星歯車にエンジン1の最大動力を入力することが出来ず、K点より大きいとモータ2の吸収可能動力が減少し、発電可能量も減少する。 つまりK点は動力合成装置3における動力合成の基準点といえるものであり、リング回転数がK点に一致する時の車速を基準の変速点車速とする。 K点におけるリングギア回転速度Nは(数1)で求め、M速からM+1速への変速点車速V(M)は(数2)で求めることができる。 ただし(数2)でrwはタイヤ半径、Rfは最終減速比、Rt(M)は変速機のM速での変速比である。
【数1】
【数2】
【発明の効果】
【0028】
遊星歯車機構をもつ動力合成装置でエンジンとモータ1基の動力を複数の動力制御モードで制御し、エンジンを常時燃費最良ポイントで運転できる2軸速度比可変モードとエンジンとモータの全動力を合わせて車両駆動に供することができる2軸速度比固定モードを走行局面に応じて使い分けることで優れた燃費性能と走行性能を両立できるハイブリッドシステムになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は本発明による自動車の駆動システムの構造を示す図である。(実施例1)
図2図2動力合成装置の作動を示す説明図である。
図3図3は動力制御法に関する説明図である。(多段変速機使用時)
図4図4は多段変速機のシフトスケジュール補正演算に関する説明図である。
図5図5は本発明による自動車の駆動システムの構造を示す図である。(実施例2)
図6図6は動力制御法に関する説明図である。(無段変速機使用時)
図7図7は動力合成装置の構造に関する説明図である。
図8図8は動力合成装置の第1の動力制御モードに関する説明図である。(1軸電動モード)
図9図9は動力合成装置の第2の動力制御モードに関する説明図である。(2軸速度比可変モード)
図10図10は動力合成装置の第3の動力制御モードに関する説明図である。(2軸速度比固定モード)
図11図11は動力合成装置の第4の動力制御モードに関する説明図である。(走行中エンジン始動モード)
図12図12は動力合成装置の第5の動力制御モードに関する説明図である。(停車時エンジン始動モード)
図13図13は動力合成装置の2軸速度比可変モードでのモータ運転に関する説明図である。
図14図14はエンジンとモータの動力相間関係に関する説明図である。
図15図15は多段変速機の基準変速点を決める方法に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
遊星歯車機構をもつ動力合成装置内でエンジンとモータの動力経路の形態を切換えることで得られる複数の動力制御モードを走行局面に応じて使い分けることを可能とし、エンジンとモータの速度比を可変とする動力制御モードではエンジンを常時燃費最良ポイントで運転することで優れた燃費性能を得、さらに変速機の制御とも合わせてバッテリ残量を適正範囲に保つよう制御を行い、エンジンとモータの速度比を固定とする動力制御モードではエンジンとモータの全動力を同時に出力することで大きな駆動力を得ることを可能とするパラレルハイブリッドシステムとする。
【実施例0031】
図1に本発明の第1の実施例の自動車駆動系構成を示す。 実施例1は主にエンジンが縦置き配置で、変速機が自動変速多段変速機である貨物車等の自動車に適用される。 図1で1はエンジン、2はモータ、3は動力合成装置、4は変速機、5はバッテリ、6はデファレンシャル、7は駆動輪、8はパワーコントロールユニット、9はインバータ、10はアクセルであり、動力合成装置3の出力が変速機4に入力されるようになっている。変速機4からの出力はディファレンシャル6により車両の左右の駆動輪7に分割・伝達され車両を駆動する。モータ2は永久磁石同期モータでありバッテリ5からの直流電圧をインバータ9で3相交流に変換した電力が供給される。 パワーコントロールユニット8はドライバによるアクセル10の操作量を始め駆動系に設けたセンサで検知された情報に応じてエンジン1やモータ2の動力を制御する。
【0032】
動力合成装置3は遊星キャリア32、サンギア33、リングギア31から成る遊星歯車機構30と、リングギア31と噛み合う駆動ギア34、モータ2からサンギア33への動力伝達経路を形成するためのリードギア37、カウンタギア38、副ギア39、動力経路切換装置としてドッグクラッチ35、サンギア制動装置としてブレーキディスク36から構成されている。 遊星歯車機構30においてはエンジン1の動力が遊星キャリア32に、モータ2の動力がサンギア33に各々入力され、リングギア31から動力が出力されるようになっている。 駆動ギア34とリードギア37はモータ2の軸に回転自由に取り付けられており、また駆動ギア34はリングギア31の外歯と常時噛み合っており、リードギア37はカウンタギア38、およびサンギア33と一体で回転する副ギア39を介してサンギア33と常時噛み合い状態にある。 ドッグクラッチ35はスプライン加工されたモータ軸と嵌め合っておりモータ軸に対し回転方向には固定されているものの軸方向にはフォークまたはロッドにより図1の左右方向にスライドしクラッチの突起部が駆動ギア34またはリードギア37に設けた孔に突入することによりギアと噛み合い、モータ2の動力を駆動ギア34に伝達するかリードギア37、カウンタギア38、副ギア39を介してサンギア33に伝達するかを切り換えることができる。 なお本実施例では動力経路切換装置として噛み合いクラッチの1方式であるドッグクラッチを用いているが、当該方式のクラッチに限定するものではなく他方式の噛み合いクラッチや摩擦クラッチを使用することもできる。 ブレーキディスク36は摩擦ディスクを副ギア39の側面にプレスすることにより発生する摩擦力により回転速度を減速もしくは回転を止めることができプレス力の調整により減速度の制御が可能である。
【0033】
ドッグクラッチ35が駆動ギア34やリードギア37と噛み合う際、相対回転速度差が大きいと噛み合いが失敗することがあるので回転速度差を小さくする必要がある。 そのためリングギア31の外歯と駆動ギア34の歯数比はリングギア31の内歯とサンギア33の歯数比に等しいか近い値になるように、またサンギア33とリードギア37の回転速度が等しいか近い値になるようリードギア37と副ギア39の歯数を決める。
【0034】
動力合成装置3は本明細書の段落0012から0021に記載のとおり、1軸電動モード、2軸速度比可変モード、2軸速度比固定モード、走行中エンジン始動モード、停車時エンジン始動モードの各動力制御モードを選択できる。図2に各モードでのドッグクラッチ35の動作位置とブレーキディスク36の動作位置を、(表1)に各モードでの動作を示す。 また(表2)に各モードの使用条件を示す。
【表1】
【表2】
【0035】
実施例1におけるパワーコントロールユニット8による動力制御と変速制御について説明する。 1軸電動モードではモータ2の動力のみで走行するのでエンジンとモータの動力比率に関する指令は不要で、また変速機4のシフトスケジュールはブレーキ回生時以外はモータ2の効率の良い運転ポイントで運転できるよう決め、ブレーキ回生時は回生開始直前の動力制御モードのシフトスケジュールに従う。
【0036】
2軸速度比固定モードでは変速機4の変速位置によりエンジン1とモータ2の回転速度は決まるエンジン1とモータ2の各々の回転数対トルクの特性に合わせて車速対変速位置のシフトスケジュールとエンジン1とモータ2の動力比を決める。
【0037】
図3で2軸速度比可変モードにおけるパワーコントロールユニット8での動力制御について説明する。 ドライバはセンサ83で検知された車速Vと自らが意図する目標車速88のVtgtの差に基づきアクセル10を操作する。 アクセル開度は演算部84でエンジントルクTEに変換される。 演算部85ではTEに対し予め数学関数またはテーブルデータで定義された図14に示すエンジン制御ラインC.L.(T,N)を参照しTEに対応するエンジン回転速度NEを求める。 一方変速位置演算部86ではバッテリ残量センサ82で検知されたバッテリ5の残量Sと車速センサ83による車速Vのデータに基づき変速機の変速位置を決める。 したがって2軸速度比可変モードのシフトスケジュールは1軸電動モードや2軸速度比固定モードのシフトスケジュールとは異なるものとなる。
【0038】
変速位置演算部86での演算処理を図4に示す。 演算部861でバッテリ残量Sと目標残量Stgtの差に基づき変速点におけるリングギア回転速度の基準速度NKからの偏差ΔNを求める。 Cは正符号の比例定数であり、したがって例えばSがStgtより大きい場合はΔNは正となりNKより高いリングギア回転速度で変速することになる。 演算部862では各変速段における変速点(シフトアップ)の車速を求め補正されたシフトスケジュールを作成する。 演算部863では補正されたシフトスケジュールと検知された車速Vとを照合し変速位置TPを決定する。 決定された変速位置TPが現変速位置と異なる場合は変速機4の変速操作部87に変速操作を指令する。
【0039】
TE,NEおよびTPの指令値に基づきエンジン1と変速機4を制御すると動力合成装置3の遊星歯車機構のバランスによりモータ2のトルクと回転速度は各々TMとNMに達する。
【0040】
以上2軸速度比可変モードでは段落0037から0038に記載した操作や制御によりバッテリ残量を適正範囲内に保持しつつエンジンを予め作成したエンジン制御ラインC.L.(T,N)、例えば燃費率最良点を結ぶSweet-Spotで運転し走行燃費を向上させることができる。
【実施例0041】
図5に本発明の第2の実施例を示す。 実施例2は主にエンジンが横置き配置で無段変速機を用いる乗用車等の自動車に適用される。実施例2が実施例1と異なる特徴は、実施例1ではエンジン1とモータ2が動力合成装置3に対し同じ側に配置されているのに対し実施例2では動力合成装置を挟んで反対側に配置されていること、実施例1では動力合成装置3のリングギア31の軸から動力を取り出すのに対し実施例2ではリングギア31の外歯に噛み合う出力ギア310から動力を取り出すこと、また実施例1では変速機4が自動変速多段変速機であるのに対し実施例2では無段変速機であることである。 図5に示す動力合成装置3と変速機4の構成以外は実施例1と同じである。
【0042】
動力合成装置3は遊星歯車機構を成す遊星キャリア32、サンギア33、リングギア31、およびリングギア31と噛み合う駆動ギア34、モータ2から駆動ギア34への動力伝達経路を形成するためのリードギア37、カウンタギア38、モータ2からサンギア33に動力を伝達するためサンギア33と一体で回転する副ギア39、動力経路切換装置としてドッグクラッチ35、サンギア制動装置としてブレーキディスク36から構成されている。 遊星歯車機構においてはエンジン1の動力が遊星キャリア32に、モータ2の動力がサンギア33に各々入力され、リングギア31の外歯に噛み合う出力ギア310から動力を取り出すようになっている。 リードギア37と副ギア39はモータ2の軸に回転自由に取り付けられており、また駆動ギア34はリングギア31の内歯と常時噛み合っており、リングギア31と同じ方向に回転する。 リードギア37はカウンタギア38を介して駆動ギア34と常時噛み合い状態にある。 ドッグクラッチ35がリードギア37と噛み合っている時はモータ2の動力は駆動ギア34に伝達され、副ギア39と噛み合っている時はサンギア33に伝達される。 ブレーキディスク36は摩擦ディスクを副ギア39の側面にプレスすることにより発生する摩擦力により回転速度を減速もしくは回転を止めることができプレス力の調整により減速度の制御が可能である。
【0043】
ドッグクラッチ35がリードギア37や副ギア39と噛み合う際、回転速度差を小さくするためサンギア33の歯数と(駆動ギア34の歯数)×(リードギア37の歯数)/(カウンタギア38の歯数)が等しいか近い値になるように駆動ギア34、リードギア37、およびカウンタギア38の歯数を決める。
【0044】
動力合成装置3の動力制御モードと各動力モードにおけるドッグクラッチ35やブレーキディスク36の動作および各モードの使用条件や使用局面は実施例1と同じである。
【0045】
実施例2におけるパワーコントロールユニット8による動力制御と変速制御について説明する。 1軸電動モードでは、無段変速機4の変速比はモータ2の効率の良い運転ポイントで運転できるよう決める。
【0046】
2軸速度比固定モードではエンジン1とモータ2の回転速度比は決まっているのでエンジン1とモータ2の各々の回転数対トルクの特性に合わせて車速に対する変速比とエンジン1とモータ2の動力比を決める。
【0047】
図6で実施例2の2軸速度比可変モードにおけるパワーコントロールユニット8での動力制御について説明する。 ドライバはセンサ83で検知された車速Vと自らが意図する目標車速88のVtgtの差に基づきアクセル10を操作する。 アクセル開度は演算部84でエンジントルクTEに変換される。 演算部85ではTEに対し予め数学関数またはテーブルデータで定義された図4に示すエンジン制御ラインC.L.(T,N)を参照しTEに対応するエンジン回転速度NEを求める。 一方センサ82で検知されたバッテリ5の残量Sと予め設定したSの目標値821のデータStgtに基づき演算部822で目標バッテリ充放電電力ETを求める。(S>Stgtの場合ET<0、S<Stgtの場合ET>0) また演算部89では電力センサ823で検知された電力EをETと比較し変速機4の変速比の修正量ΔRTを(数3)および(数4)により求め変速機4の変速操作部87ではΔRT指令に基づき変速比を修正操作する。 但し、(数3)でCは比例定数、(数4)でVは車速(km/h)である。
【数3】
【数4】
【産業上の利用可能性】
【0048】
宅配など配送用の商用貨物車のCO2削減策としてEVや代替燃料車などの新エネルギ車への転換には充電や燃料ステーションなどの大規模なインフラ整備が必要であり、現時点ではディーゼル車やガソリン車のハイブリッド化が最も費用対効果の大きい解決策といえる。 本発明のハイブリッドシステムはエンジン車にモータ1基のみを追加した形態でありながらモータ2基を必要とするシリーズ・パラレルシステムと同等の燃費と、貨物車に必要な大きな駆動力を兼ね備えるので貨物車のCO2削減に大きく貢献できる。また本発明のハイブリッドシステムを縦置きエンジンと多段変速機を備えるFR駆動のエンジン貨物車に適用する場合、エンジンと変速機の間に動力合成装置を追加するだけの改造レベルで対応できるため非常に低コストなハイブリッド車が製作できる。
【符号の説明】
【0049】
1 エンジン
2 モータ
3 動力合成装置
4 変速機
5 バッテリ
6 ディファレンシャル
7 駆動輪
8 パワーコントロールユニット
9 インバータ
10 アクセル
30 遊星歯車機構
31 リングギア
32 遊星キャリア
33 サンギア
34 駆動ギア
35 動力経路切換装置
36 サンギア制動装置
37 リードギア
38 カウンタギア
39 副ギア
310 出力ギア
81 アクセル開度センサ
82 バッテリ残量センサ
821 バッテリ残量目標値参照
822 目標バッテリ充放電電力演算部
823 電力センサ
83 車速センサ
84 エンジントルク換算部
85 エンジン回転速度演算部
86 変速位置演算部
87 変速操作部
88 ドライバ意図による目標車速
89 変速比修正演算部
α 遊星歯車のリングギア内歯の歯数とサンギアの歯数の比
a 1軸電動モードのNo.
b 2軸速度比可変モードのNo.
c 2軸速度比固定モードのNo.
d 走行中エンジン始動モードのNo.
e 停車時エンジン始動モードのNo.
T トルク
N、ω 回転速度
P 動力
E 電力
C 比例定数
V 車速
R 変速機
R 最終減速比
rw タイヤ半径
n 多段変速機の変速段数
M、TP 多段変速機の変速位置
VS 多段変速機の変速点車速
下付き添え字
リング
E エンジン
M モータ
C 遊星キャリア
S サンギア
tgt 目標値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
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