(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168898
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】気泡安定剤、含気性組成物および含気性組成物の気泡安定化方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/244 20160101AFI20231121BHJP
A23L 9/20 20160101ALN20231121BHJP
A23G 9/34 20060101ALN20231121BHJP
A21D 2/18 20060101ALN20231121BHJP
A21D 13/043 20170101ALN20231121BHJP
A23L 27/60 20160101ALN20231121BHJP
A23G 3/34 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
A23L29/244
A23L9/20
A23G9/34
A21D2/18
A21D13/043
A23L27/60 A
A23G3/34
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080281
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 絢子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 暢宏
【テーマコード(参考)】
4B014
4B025
4B032
4B041
4B047
【Fターム(参考)】
4B014GB18
4B014GE05
4B014GK12
4B014GL11
4B014GP04
4B025LB21
4B025LG27
4B025LG29
4B025LP01
4B025LP11
4B032DB02
4B032DK14
4B032DK17
4B032DL02
4B041LC03
4B041LD01
4B041LD03
4B041LH07
4B041LH08
4B041LP22
4B047LB09
4B047LG26
4B047LG30
4B047LP02
(57)【要約】
【課題】手間がかからず、含気性組成物における、気泡のきめ細かさ、気泡の抜け防止、保形性の向上を実現でき、特に含気性食品および含気性飲料においては、ヌル付きのないさっぱりとした食感および優れた味立ちを得られるようになる気泡安定剤、含気性組成物および含気性組成物の気泡安定化方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る気泡安定剤は、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にあ
り、アルカリ条件下で加熱されることでゲル化する性質を有する低粘性グルコマンナンを含有することを特徴とする。本発明に係る含気性組成物の気泡安定化方法は、前記含気性組成物に、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にあ
り、アルカリ条件下で加熱されることでゲル化する性質を有する低粘性グルコマンナンを配合することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有すること
を特徴とする気泡安定剤。
【請求項2】
前記低粘性グルコマンナンは、アルカリ条件下で加熱されることでゲル化する性質を有していること
を特徴とする請求項1記載の気泡安定剤。
【請求項3】
タマリンドシードガムをさらに含有すること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の気泡安定剤。
【請求項4】
25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンが配合されていること
を特徴とする含気性組成物。
【請求項5】
前記低粘性グルコマンナンは、アルカリ条件下で加熱されることでゲル化する性質を有していること
を特徴とする請求項4記載の含気性組成物。
【請求項6】
前記低粘性グルコマンナンが、0.01質量%~5.0質量%配合されていること
を特徴とする請求項4または請求項5記載の含気性組成物。
【請求項7】
タマリンドシードガムがさらに配合されていること
を特徴とする請求項4または請求項5記載の含気性組成物。
【請求項8】
含気性組成物の気泡安定化方法であって、
前記含気性組成物に、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを配合すること
を特徴とする気泡安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡安定剤、含気性組成物および含気性組成物の気泡安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造に際して、または、飲食もしくは使用に際して、含気される含気性組成物(本願では、組成物に気泡を含ませることを「含気する」と表記する)として、ホイップクリーム、アイスクリーム、メレンゲ、泡状ドレッシング、ハンバーグ、パン、焼き菓子等の含気性食品、炭酸飲料等の含気性飲料、泡立てたり、さらに起泡させて泡状化したりして使用される所定の洗顔料等の含気性化粧品、等が知られている。
【0003】
従来、このような含気性組成物において、気泡をきめ細かくしたり、気泡の抜けを防止したり、保形性を付与または向上させたりする等の物性を改良するための気泡安定剤として、ゼラチン、寒天等のゲル化剤や、α化澱粉等の増粘剤等が検討されてきた。
【0004】
しかしながら、ゼラチンや寒天の場合、通常、これらを加熱溶解して製造した溶液を含気性組成物に混合しなければならないため手間がかかる。また、融点の低いゼラチンや凝固点40℃以下で固まってしまう寒天では、室温での起泡や気泡安定効果が不安定で、含気性組成物の保形性向上効果が十分でない。
【0005】
また、α化澱粉の場合、含気性組成物に直接混合することができるが、溶け残りが生じてヌル付きや糊状感が生じてしまい、味立ちも悪くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の背景から、ゼラチン、寒天、α化澱粉等以外の気泡安定剤として、特許文献1(特開昭58-28237号公報)に、グルコマンナンが記載されている。当該文献によれば、グルコマンナンを混合することによって、例えば、アイスクリームのメルトダウンが抑制される(すなわち、保形性が向上する)こと等の一定の気泡安定効果が得られたことが記載されている。しかしながら、コンニャク芋等から抽出、精製したそのままのグルコマンナンを混合すると、含気しにくくなり、重たい食感となってしまう。また、ヌル付きや曵糸性が生じてしまい、味立ちも悪くなってしまうという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、手間がかからず、含気性組成物における、気泡のきめ細かさ、気泡の抜け防止、保形性の向上を実現でき、特に含気性食品および含気性飲料においては、口どけがよくヌル付きのないさっぱりとした食感および優れた味立ちを得られるようになる気泡安定剤、含気性組成物および含気性組成物の気泡安定化方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0010】
本発明に係る気泡安定剤は、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有することを特徴とする。
【0011】
これによれば、含気性組成物において、低粘性グルコマンナンの微細な膨潤体からなる緻密な骨格構造が気泡を取り込むことで、きめ細かい気泡を安定的に含ませることができ、且つ気泡の抜けを防止して保形性の向上を実現できる。また、低粘性グルコマンナンによれば、通常のグルコマンナンよりも粘性が低くなることから、特に含気性食品および含気性飲料においては、口どけがよく糊状感やヌル付きのないさっぱりとした食感および優れた味立ちを得られるようになる。さらに、低粘性グルコマンナンであれば、含気性組成物に直接添加し混合できることから手間がかからず取扱い性が良く、さらに、温度に関わらず安定して気泡安定効果が得られる。
【0012】
また、前記低粘性グルコマンナンは、レーザー回折型粒度分布測定法により測定される粒度分布における体積平均粒子径(MV)が10μm~160μmの範囲にあることが好ましい。10μmより小さいと粉砕が困難であることと、粒子の2次凝集が生じ粉体の扱いが悪くなる傾向にある。160μmより大きいと含気性が低下する傾向にある。
【0013】
また、本発明に係る含気性組成物は、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンが配合されていることを特徴とする。前記低粘性グルコマンナンは、レーザー回折型粒度分布測定法により測定される粒度分布における体積平均粒子径(MV)が10μm~160μmの範囲にあることが好ましい。また、前記低粘性グルコマンナンが、0.01質量%~5.0質量%配合されていることが好ましい。本発明に係る含気性組成物として、含気性食品、含気性飲料、含気性医薬品、含気性医薬部外品、含気性化粧品、含気性化粧品に含まれない含気性洗剤(例えば、衣類用洗剤、食器用洗剤等の人体以外に使用される洗剤)、含気性塗料、含気性農薬その他の含気性化成品等が例示される。
【0014】
そして、本発明に係る含気性組成物の気泡安定化方法は、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを配合することを特徴とする。前記低粘性グルコマンナンは、レーザー回折型粒度分布測定法により測定される粒度分布における体積平均粒子径(MV)が10μm~160μmの範囲にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、手間がかからず、含気性組成物における、気泡のきめ細かさ、気泡の抜け防止、保形性の向上を実現でき、特に含気性食品および含気性飲料においては、口どけがよくヌル付きのないさっぱりとした食感および優れた味立ちを得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、ホイップクリームの写真である。
図1Aは、実施例1に係るホイップクリームの写真である。
図1Bは、比較例5に係るホイップクリームの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。本願でいう「含気」とは、組成物に気泡を含ませることである。方法としては、泡立て(ミキシング)、泡状化(方法としてのエスプーマ等による起泡)、ガス注入、撹拌、混練等の物理的方法、また、イースト、重曹、ベーキングパウダー等のような添加物によるガス発生等の生物学的もしくは化学的方法等、いずれの方法でもよい。このような方法に際しては、泡立て器、ハンドミキサー、機器としてのエスプーマ、混練機等、いずれの器具、機器または機械を使用してもよく、または、いずれの器具等も使用せずに、例えば、組成物を直接手で捏ねる(混錬する)ことでもよい。
【0018】
また、本願でいう「含気性組成物」とは、製造に際して、または、飲食もしくは使用に際して、含気される組成物であって、含気性食品、含気性飲料、含気性医薬品、含気性医薬部外品、含気性化粧品、含気性化粧品に含まれない含気性洗剤(例えば、衣類用洗剤、食器用洗剤等の人体以外に使用される洗剤)、含気性塗料、含気性農薬その他の含気性化成品等を含む。ここでいう化成品とは、化学的な組成または性質を特徴とする製品全般をいう。また、含気性食品および含気性飲料をまとめて「含気性飲食品」と表記する場合がある。以下、先ずは本実施形態に係る気泡安定剤について説明する。
【0019】
本実施形態に係る気泡安定剤は、コンニャク粉やそこから抽出、精製されたグルコマンナン等の通常のグルコマンナンを改質した改質グルコマンナンであって、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有することを特徴とする。「25℃における1%水溶液の粘度」は、グルコマンナン3.0gを310gの精製水に分散した後、95℃で3分間加熱して最終重量を300gに調整して取得したゾルの25℃における粘度(溶液温度25℃±1℃で1時間静置後に測定した粘度)をいう。粘度の測定には、B型回転粘度計を使用する。ローターの回転数を60rpmとし、回転し始めてから40秒後の測定値とする。使用ローターは、試料の粘度に応じて、粘度が1000mPa・s以上の試料にはNo.3、粘度が500mPa・s以上1000mPa・s未満の試料にはNo.2、粘度が500mPa・s未満の試料にはNo.1のローターを使用した。
【0020】
本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、グルコマンナンを低分子化することによって製造することができる。グルコマンナンとは、グルコースとマンノースとが所定の割合でβ-1,4-グリコシド結合した水溶性多糖類で、コンニャク芋等から抽出、精製される。本実施形態に係るグルコマンナンとしては、コンニャク粉、コンニャク粉のアルコール洗浄品、高純度の精製品等いずれの形態(段階)のものを用いてもよく、これらは市販品を用いればよい。当該グルコマンナンを低分子化する方法は限定されない。例えば、酸加水分解、熱加水分解、粉砕処理、酵素処理等の公知の方法を用いればよい。
【0021】
酸加水分解による方法では、グルコマンナンを酸性溶液中で加熱することにより加水分解し、アルカリにより中和した後に乾燥することによって、低分子化された低粘性グルコマンナンを得ることができる。使用する酸は、クエン酸、リンゴ酸、次亜塩素酸、リン酸、酢酸、塩酸、硫酸等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらのうちから複数種類を使用してもよい。また、使用するアルカリは、クエン酸ナトリウム、重曹、水酸化ナトリウム等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらのうちから複数種類を使用してもよい。さらに、乾燥方法は、熱風乾燥、ドラム乾燥、スプレー乾燥、フラッシュ乾燥、真空凍結乾燥等が挙げられるが、特に限定されるものではなく、スラリーから水分を蒸発させて乾燥物を分離できればよい。得られた乾燥物を、必要に応じて粉砕等により粉末化してもよい。また、乾燥方法は複数種類を使用してもよい。また、スラリーのpH、加熱温度、加熱時間を調整することによって粘度を調整できる。
【0022】
熱加水分解による方法では、乾燥状態のグルコマンナン粉末の状態、水もしくはアルコール水溶液にグルコマンナンを分散したスラリーの状態、または、水にグルコマンナンを溶解した水溶液の状態等で加熱することにより加水分解した後に乾燥することによって、低分子化された低粘性グルコマンナンを得ることができる。乾燥方法は、上記列挙した各方法により行うことができる。
【0023】
粉砕処理による方法では、グルコマンナンを粉砕することによって低分子化された低粘性グルコマンナンを得ることができる。粉砕方法は、ターボミル、カッターミル、ハンマーミル、スタンプミル、ロールミル、ボールミル、ピンミル、ジェットミル、石臼等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらのうちから複数種類を使用してもよい。粉砕処理は加水状態で行うこともでき、粉砕後は、通常の乾燥方法(例えば、スラリーの乾燥方法として上記列挙した各方法)により乾燥させることができる。
【0024】
酵素処理による方法では、グルコマンナンを酵素により分解することによって低分子化された低粘性グルコマンナンを得ることができる。使用する酵素は、マンナナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ペクチナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらのうちから複数種類を使用してもよい。酵素は、使用する酵素の至適条件で作用させることが好ましい。また、必要に応じて処理後のスラリーを前述の酸加水分解法と同様にして乾燥させ、得られた乾燥物を粉砕等により粉末化してもよい。
【0025】
このように、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、通常のグルコマンナンよりも分子量が小さくなっていることが特徴である。低粘性グルコマンナンを水和させると一般的なマンナンと同様に膨潤体として水和するが、低粘性グルコマンナンによれば、膨潤体の分子を小さくして、結果的に膨潤体同士の結合は弱くなるため、通常のグルコマンナンを用いた場合よりも、口どけのよい含気性組成物(含気性飲食品)が得られるようになる。また、低粘性グルコマンナンによれば、膨潤粒子が微小であることに由来して、緻密な骨格構造を形成することができるため、気泡がつぶれたり、抜けたりすることを防止して、気泡自体や気泡を含む含気性組成物の保形性を向上させることができる。その結果、例えば生クリームを泡立てると、脂肪球同士の結合が弱くなり、気泡が取り込まれやすくなると共に、脂肪球とグルコマンナン膨潤粒子とが共働して骨格構造を形成することにより通常よりも多くの気泡を取り込むことができる。さらには、脂肪球の表面に緻密なグルコマンナン膨潤粒子が付着し脂肪球同士が結合して骨格構造を形成し、気泡を取り込んで安定化させることができる。
【0026】
上記の作用効果は、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンにあって、発揮され得る。当該粘度が20mPa・sよりも低いと脂肪球同士、グルコマンナン膨潤粒子同士の結合が弱すぎて気泡が安定せず、保形性が悪くなる。また、当該粘度が800mPa・sよりも高いと脂肪球同士、グルコマンナン膨潤粒子同士の結合が強すぎて含気しにくく、また、含気性飲食品に使用した場合、口どけが悪く、食感が悪くなる。さらに、グルコマンナン膨潤粒子が大きく、緻密な骨格構造を取れないために、気泡が抜けやすく、保形性も悪くなる。このように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンでないと、上記の作用効果が得られない。
【0027】
また、低粘性グルコマンナンによれば、通常のグルコマンナンよりも当然に粘性が低くなることから、特に含気性食品および含気性飲料においては、糊状感やヌル付きのないさっぱりとした食感および優れた味立ちを得られ、当該含気性食品を材料として製造される食品においても、同様の気泡安定効果が得られる。さらに、低粘性グルコマンナンであれば、含気性組成物に直接添加し混合できることから手間がかからず取扱い性が良く、さらに、含気性組成物の加熱、非加熱に関わらず使用でき、その温度に関わらず安定して気泡安定効果が得られる。
【0028】
本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、前述のように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にあるが、より好適には25mPa・s~500mPa・s、さらに好適には30mPa・s~300mPa・sがより好ましい。当該粘度がこの範囲よりも高くなると(800mPa・sを上回ると)、膨潤体の粒子径が大きくなり過ぎて緻密な骨格構造を形成できなくなると共に、グルコマンナン膨潤粒子同士の結合が強くなり、粘度が高くなる結果、含気しにくくなって、例えば、含気性飲食品では、重たい食感となり、また、食感にヌル付きや曵糸性が生じて、味立ちも悪くなる。一方、当該粘度がこの範囲よりも低くなると(20mPa・sを下回ると)、骨格構造を形成するグルコマンナン膨潤粒子同士の結合が弱くなり、気泡安定効果が得られなくなる。
【0029】
また、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンにおいて、十分な気泡安定効果を発揮し得る適度な緻密さと強度とを有する安定した骨格構造が形成可能な物性の有無を示す(粘度の下限値を評価する)一つの基準としては、低粘性グルコマンナンが単独でアルカリによるゲル形成能を有することである。25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンにあっては、アルカリ条件下で加熱されることでゲル化する(表3)。一方、当該粘度が20mPa・sを下回る過度に低粘性のグルコマンナンでは、形成される骨格構造の強度が弱すぎて単独でアルカリによるゲル形成能を有せず、例えば高分子の(高粘性の)通常のグルコマンナン等を所定量混合したりしなければゲル化しない。このような過度に低粘性のグルコマンナンは、気泡安定効果を殆ど発揮しない。
【0030】
また、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、レーザー回折型粒度分布測定法により測定される粒度分布における体積平均粒子径(MV:Mean Volume Diameter)が10μm~160μmの範囲にあることが好ましく、より好適には10μm~100μmにあることが好ましい。ここでいう体積平均粒子径(MV)は、レーザー回折型粒度分布測定法により測定される体積基準の粒度分布における算術平均径である。これによれば、低粘性グルコマンナンの粉末を小さくすることで溶解しやすくなって気泡安定効果をより安定して得やすくなり、また、低分子グルコマンナンとの相乗作用により微細な膨潤体からなる緻密な骨格構造がより形成されやすくなって気泡安定効果をより向上させることができる。その結果、特に保形性向上および溶け残り防止に、より優れた効果がみられるようになる(後述の試験4参照)。なお、粒子径範囲の下限を10μmとしているのは、これより微細な低粘性グルコマンナンの製造が困難であることや、2次凝集によりハンドリングが悪くなることによる。
【0031】
当該粒子径を10μm~160μmの範囲に調整するには、グルコマンナンを低分子化して得られた低粘性グルコマンナンを、メッシュサイズ100~500程度の篩により分級すればよく、10μm~100μmの範囲に調整するには、メッシュサイズ180~500程度の篩により分級すればよい。なお、本願では、メッシュサイズ100を目開き154μm、メッシュサイズ180を目開き91μm、メッシュサイズ500を目開き26μmとする。その他、風力分級等を使用して分級してもよい。一方、予めグルコマンナンの粒子径を10μm~160μmの範囲に調整した後に、低粘性化(低分子化)させてもよい。つまり、グルコマンナンの低粘性化(低分子化)工程と、粒子径調整工程との先後は限定されない。
【0032】
なお、本実施形態に係る気泡安定剤は、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンに加えてタマリンドシードガムが配合されることで、含気性組成物の保形性をさらに良くして、気泡安定効果をより向上させられることが分かっている(試験8参照)。
【0033】
本実施形態に係る気泡安定剤は粉末であるが、この形態に限定されない。したがって、例えば、粉末の低粘性グルコマンナンを、デキストリン等の賦形剤その他糖類等の結着剤と混合して造粒し、顆粒やペレットとしたり、固形物としたりしてもよい。また、低粘性グルコマンナンの粉末や顆粒をカプセル等に内包してもよい。さらに、粉末や固形の気泡安定剤を水に溶解させてペーストにしたものや、貧溶媒に分散させた状態のものであって良溶媒の含気性組成物に添加、混合した際にダマになりにくいようにしたものであってもよい。なお、本実施形態に係る気泡安定剤は、気泡安定効果が発揮し得る範囲で、低粘性グルコマンナン以外に、上記の賦形剤や結着剤の他にも甘味料、着色料、香料等を含有していてもよく、適宜これらの添加物を低粘性グルコマンナンに混合してよい。
【0034】
本実施形態に係る気泡安定剤は、室温で含気性組成物に直接混合することができ、当該含気性組成物を含気することで、簡易に気泡安定効果を得ることができる。ただし、粉末や固形の気泡安定剤を、使用に際して、上記のように、ペーストにしたり、貧溶媒に分散させたりしてから含気性組成物に添加、混合しても勿論よい。ここでいう「含気性組成物に気泡安定剤を混合する」ことには、既に製造された含気性組成物に対して気泡安定剤を混合することに加えて、含気性組成物の製造工程において、当該含気性組成物の配合成分に混合したり(例えば、含気性組成物がホイップクリームであれば、グラニュー糖および生クリームに対して気泡安定剤を混合すること)、当該製造段階の含気性組成物に混合したりすること(例えば、含気性組成物がハンバーグであれば、加熱前のミンチに対して気泡安定剤を混合することや、含気性組成物がどら焼きやパンであれば、加熱前の生地(もしくは生地材料)に対して気泡安定剤を混合すること)を含む。以下、続いて本実施形態に係る含気性組成物について説明する。
【0035】
本実施形態に係る含気性組成物は、上記のように、本実施形態に係る気泡安定剤が混合された、当該気泡安定剤を含有する含気性組成物であって、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンが配合されていることを特徴とする。そして、本実施形態に係る含気性組成物は、当該低粘性グルコマンナンが0.01質量%~5.0質量%配合されていることが好ましく、より好適には0.03質量%~3.0質量%配合されていることが好ましい。これによれば、低粘性グルコマンナンの気泡安定効果を十分に発揮させることができる。配合量がこれよりも少なくなると、十分な気泡安定効果を得にくくなる。一方、配合量がこれよりも多くなると、含気性組成物の粘性が相対的に高くなって、食感にヌル付きや曵糸性が生じやすくなったり、味立ちが悪くなりやすくなったりする。
【0036】
なお、上記の低粘性グルコマンナンの配合量(配合割合)は、当該配合時における含気性組成物(または含気性組成物の配合成分)の全質量中における低粘性グルコマンナンの割合のことをいう。仮に当該配合量(配合割合)を5.0質量%とする場合、例えば、含気性組成物がハンバーグであれば、低粘性グルコマンナンは、加熱前のミンチ100質量%中に5.0質量%配合されることになる。また、含気性組成物がグラニュー糖および生クリームからなるホイップクリームであれば、低粘性グルコマンナンが5.0質量%、グラニュー糖および生クリームが残部95.0質量%で配合されることになる。
【0037】
本実施形態に係る含気性組成物の一形態として、含気性食品であることが好ましい。含気性食品には、例えば、ホイップクリーム、アイスクリーム、メレンゲ、泡状ドレッシング等のような、泡立て、泡状化、撹拌等によって含気される食品が含まれ、また、ハンバーグ、ミートボール等のミート成形品や、どら焼き、フィナンシェ、浮島等の焼き菓子やパン等のような、加熱前のミンチや生地(もしくは生地材料)を攪拌または混練すること等によって含気される食品等が含まれる。また、上記の焼き菓子やパン等は生地(もしくは生地材料)の攪拌または混錬だけでなく、焼成前や焼成時に、イースト、重曹、ベーキングパウダー等によるガス発生によって含気される。含気性食品には、このような膨張剤の作用によって含気される食品等も含まれる。
【0038】
本実施形態に係る含気性食品によれば、低粘性グルコマンナンにより、適度に含気されてふわっとした食感が得られ、きめ細かい気泡で味立ちが良く、また、気泡や気泡を含んだ泡の保形性を向上させることができる。また、口どけがよくて溶け残りがなく、糊状感やヌル付きのないさっぱりとした食感を得られるようになる。なお、本実施形態に係る含気性食品を材料として製造される食品においても、同様の気泡安定効果を得ることができる。含気性食品を材料として製造される食品には、例えば、メレンゲ、ホイップクリーム等を材料とするマシュマロ、ムース、淡雪羹や、泡状ミルク等を材料とするラテ等が含まれる。
【0039】
また、本実施形態に係る含気性組成物の一形態として、含気性飲料であることが好ましい。含気性飲料には、例えば、炭酸飲料や、ビール等の発泡性アルコール飲料等のような、ガスの注入や、微生物による発酵等によって含気される飲料が含まれる。本実施形態に係る含気性飲料によれば、低粘性グルコマンナンにより、きめ細かい気泡でヌル付きがなく味立ちや飲み口が良く、炭酸ガスの抜けを防止でき、また、ビールや発泡酒等の泡の保形性を向上させることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る含気性組成物の一形態として、含気化粧品であることが好ましい。含気性化粧品には、例えば、泡立てたり泡状化したりして使用される所定の洗顔料、泡パック、入浴剤、シャンプー、ボディソープ等が含まれる。本実施形態に係る含気性化粧品によれば、低粘性グルコマンナンにより、ヌル付きのない、きめ細かい気泡を適度に含気でき、また、泡の保形性を向上させることができる。
【0041】
その他にも、本実施形態に係る含気性組成物の一形態として、含気性化粧品に含まれない含気性洗剤や、含気性医薬品、含気性医薬部外品、含気性塗料、含気性農薬その他の含気性化成品等として好適に適用し得る。
【実施例0042】
表1に示す糊料を配合した含気性組成物およびこれらを配合しない含気性組成物を含気して、状態を測定・評価した。表1中のマンナン1は、精製コンニャク粉である通常のグルコマンナンであり、マンナン2-18は、マンナン1をそれぞれ所定程度に低粘性化(低分子化)した低粘性グルコマンナン(粘度が比較的高いものも含まれているが、ここでは通常のグルコマンナンよりも低粘性化したという趣旨で、便宜的に「低粘性グルコマンナン」と総称する)である。
【0043】
【0044】
(マンナン2-18の製造方法)
マンナン2-11は、マンナン1を酸加水分解により低分子化したものを分級して得た。すなわち、50%アルコール水溶液にマンナン1を分散させてスラリーを取得し、これにクエン酸を添加して酸性に調整し、加熱した後、クエン酸ナトリウムを添加して中和した。その後、スラリーを熱風乾燥させたものを、200メッシュ(目開き77μm)の篩により分級して、マンナン2-11を得た。
マンナン2-11は、酸加水分解処理におけるpH条件(スラリーを酸性に調整する際のpH)および加熱条件(加熱温度および加熱時間)を変更することにより、それぞれ物性の異なる低粘性グルコマンナンに製造した。
それぞれに設定した具体的条件は、以下の通りである。
マンナン2 pH:4.5 加熱条件:90℃で2時間
マンナン3 pH:5.5 加熱条件:80℃で2時間
マンナン4 pH:5.0 加熱条件:75℃で3時間
マンナン5 pH:5.0 加熱条件:80℃で3時間
マンナン6 pH:4.5 加熱条件:85℃で2時間
マンナン7 pH:4.0 加熱条件:80℃で2時間
マンナン8 pH:4.0 加熱条件:70℃で4時間
マンナン9 pH:3.5 加熱条件:65℃で1時間
マンナン10 pH:2.5 加熱条件:55℃で1時間
マンナン11 pH:2.5 加熱条件:55℃で2時間
【0045】
マンナン12は、マンナン1を石臼により粉砕し、200メッシュの篩により分級して得た。
【0046】
マンナン13は、マンナン1を酵素処理により低分子化したものを分級して得た。すなわち、50%アルコール水溶液にマンナン1を分散させてスラリーを取得し、これにマンナナーゼを添加して40℃で1時間加熱した。スラリーを熱風乾燥させたものを、200メッシュの篩により分級して、マンナン13を得た。
【0047】
マンナン14-18は、マンナン1を酸加水分解により低分子化したものを分級して得た。すなわち、50%アルコール水溶液にマンナン1を分散させてスラリーを取得し、これにクエン酸を添加してpH4.5に調整し、90℃で2時間加熱した後、クエン酸ナトリウムを添加して中和した。その後、スラリーを熱風乾燥させたものを、ジェットミルにより粉砕した後、篩により分級して、マンナン14-18を得た。
マンナン14-18は、酸加水分解処理におけるpH条件および加熱条件については上記の設定に合わせ、一方、篩のメッシュサイズを変更することにより、それぞれ物性の異なる低粘性グルコマンナンに製造した。
それぞれに使用した篩は、以下の通りである。
マンナン14 メッシュサイズ 80(目開き178μm)
マンナン15 メッシュサイズ100(目開き154μm)
マンナン16 メッシュサイズ180(目開き 91μm)
マンナン17 メッシュサイズ300(目開き 45μm)
マンナン18 メッシュサイズ400(目開き 34μm)
【0048】
(グルコマンナンおよび低粘性グルコマンナンの粘度)
マンナン1およびマンナン2-18の物性を表2に示す。表中の「1%粘度」は、本実施形態の説明において説明した「25℃における1%水溶液の粘度」を示す。また、表中の「粒子径」は、本実施形態の説明において説明した「体積平均粒子径(MV)」を示す。
【0049】
【0050】
(低粘性グルコマンナンのゲル化能)
表2に示す低粘性グルコマンナンのうち、最も粘度の低いマンナン8-11について、アルカリ条件下でのゲル化能の有無を確認した。確認方法は、先ず、マンナンを水に分散させた後、水に溶かした水酸化カルシウムを混合して、最終的に、マンナン:5質量%、水酸化カルシウム:0.25質量%、水:残部(合計:100質量%)に調整した。当該調整液を容器に流し込み、容器ごと90℃で1時間加熱を行い、冷却後にゲル化したか否か確認した。
【0051】
なお、参考として、マンナン8-11について、25℃における2%水溶液の粘度(グルコマンナン6.0gを310gの精製水に分散した後、95℃で3分間加熱して最終重量を300gに調整して取得したゾルの25℃における粘度)、および25℃における3%水溶液の粘度(グルコマンナン9.0gを310gの精製水に分散した後、95℃で3分間加熱して最終重量を300gに調整して取得したゾルの25℃における粘度)も測定した。測定方法は、本実施形態の説明において説明した「25℃における1%水溶液の粘度」の測定方法と同じ方法で行った。表3に、結果を1%水溶液の粘度と共に示す。
【0052】
【0053】
表3に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s以上のマンナン8、9はゲル化したが、当該粘度が15mPa・sのマンナン10および当該粘度が4mPa・sのマンナン11はゲル化しなかった。なお、マンナン8、9よりも粘性の高い(分子量の大きい)マンナン1-7、12-18は当然にアルカリ条件下でのゲル化能を有すると考えられる。
【0054】
(含気した含気性組成物の状態の測定・評価方法)
含気した含気性組成物は、比重、保形性、味立ち、食感(ヌル付き、口どけ、溶け残り)、触感(ヌル付き)の各項目のうち、含気性組成物の種類に応じて適切な項目を測定、評価した。なお、保形性は、保形性そのものの評価に加えて、気泡の抜けやすさ(抜けにくさ)、すなわち気泡安定性も評価できる。
【0055】
(1)比重
比重:製造直後の含気性組成物を、容積100cm3の容器に摺り切り充填して重量を測定し、容器重量を差引いて当該容器に充填された含気性組成物の重量(A)を算出した。そして、比重を下記の式(1)により算出した。
式(1) 比重=A÷100
【0056】
比重は、含気の状態を表し、含気されている程小さく、含気されていない程大きくなる。このことから、含気されやすさ(含気されにくさ)および気泡の抜けにくさ(抜けやすさ)を評価できる。含気性食品の場合、比重が好適な範囲にあるとふわっとした好適な食感が得られるが、比重が大きすぎると食感が重すぎてくどく感じられるようになってしまい、比重が小さすぎると食感が軽すぎて濃厚感が感じられなくなってしまう。
なお、ホイップクリームについては、比重が0.40~0.60の範囲にあることが好ましく、より好適には0.45~0.55の範囲にあることが好ましい。
【0057】
(2)保形性
保形性:含気性組成物を所定温度で所定時間静置したときの気泡の様子を、静置前の気泡の様子との対比で評価した。
ホイップクリームでは、
図1のように巻き型に搾り出し、20℃の恒温槽で静置し、静置直後の底部から先端までの高さおよび上記24時間静置後の底部から先端までの高さをそれぞれ測定し、保形性を下記の式(2)により算出した。
式(2) 保形性=(24時間静置後の高さ÷静置直後の高さ)×100
そして、算出した保形性(ここでの保形性は、単位:%)を以下の基準で評価した。
◎:95%以上
〇:95%未満90%以上
△:90%未満85%以上
×:85%未満
アイスクリームでは、型から出したアイスクリームをステンレス製の網の上に載せ、25℃の環境下で静置し、静置直後の底部から先端までの高さおよび上記1時間静置後の底部から先端までの高さをそれぞれ測定し、保形性を下記の式(3)により算出した。
式(3) 保形性=(1時間静置後の高さ÷静置直後の高さ)×100
そして、算出した保形性(ここでの保形性は、単位:%)を以下の基準で評価した。
◎:70%以上
〇:70%未満55%以上
△:55%未満40%以上
×:40%未満
【0058】
ホイップクリームおよびアイスクリーム以外の含気性組成物では、製造直後の含気性組成物を20℃の恒温槽で24時間静置したときの気泡の様子と、製造直後の気泡の様子とを対比した。ただし、含気性飲料では、製造直後の含気性飲料を容器(試験10:透明コップ)に充填したときの気泡の様子と、容器に充填してから20℃の恒温槽で30分静置したときの気泡の様子とを対比した。これらは、下記の基準で目視により評価した。評価は10名のパネラーが独立して行い、最も多い評価を評価結果とした。
◎:製造直後の気泡の様子と全く変わらない。
○:◎よりは劣るが、製造直後の気泡の様子とほとんど変わらない。
△:×よりは優れるが、気泡がかなりつぶれてしまっている。
×:気泡が完全につぶれてしまっている。
【0059】
また、パンでは、製造後(焼成後)の食パンの高さ寸法(底面から最も高い部位までの高さ)を測定し、生地の膨らみ具合を下記の基準で評価することによって、保形性および気泡安定性を評価した。すなわち、保形性が低い生地では、焼成時にだれてしまい、パンのボリュームが十分に出ない。また、気泡安定性が低い生地では、発酵時に発生したガスが焼成時に抜けてしまって、パンのボリュームが十分に出ない。そこで、焼成後のパンの高さ寸法を測定することで、生地の保形性および気泡安定性を総合的に評価した。
【0060】
食パンの製造方法は後述するが、低粘性グルコマンナンを添加した生地を内寸が190mm×90mm×(高さ)90mmの直方体型の食パン型に入れて成形し、型に蓋をせずにオーブンで焼成し、得られたパンの高さ寸法[cm]を測定し、以下の基準で評価した。
◎:13.0cm以上
○:12.5cm以上13.0cm未満
△:12.0cm以上12.5cm未満
×:12.0cm未満
【0061】
さらにパンでは、製造後(焼成後)の食パンの硬さを測定し、パンの硬さ(柔らかさ)を下記の基準で評価することによって、保形性および気泡安定性を評価した。すなわち、保形性および気泡安定性が高い生地では、発酵時に発生したガスが焼成時に抜けにくく、生地の内部に多くのガスを含んだまま焼き上がるため、ふわっとした柔らかいパンに仕上がる。そこで、焼成後のパンの硬さを測定することで、生地の保形性および気泡安定性を総合的に評価した。
【0062】
具体的には、焼成後の食パンの内部から、30mm×30mm×30mmの立方体に試料を切り出した。この試料に対して、テクスチャ―アナライザ(Stable Micro Systems社製)を用いて、断面積2cm2のプランジャを下降させ、接触面から10mmまで下降したときの応力[g]を測定し、以下の基準で評価した。
◎:300g未満
○:300g以上350g未満
△:350g以上400g未満
×:400g以上
【0063】
(3)味立ち
味立ち:製造直後の含気性食品または含気性飲料を試食または試飲し、下記の基準で評価した。評価は10名のパネラーが独立して行い、最も多い評価を評価結果とした。
◎:含気性組成物本来の風味を非常に強く感じる。
○:◎よりは劣るが、含気性組成物本来の風味を強く感じる。
△:×よりは優れるが、含気性組成物本来の風味が損なわれてしまっている。
×:含気性組成物本来の風味が完全に損なわれてしまっている。
【0064】
(4)食感
ヌル付き:製造直後の含気性食品または含気性飲料を試食または試飲し、下記の基準で評価した。評価は10名のパネラーが独立して行い、最も多い評価を評価結果とした。
◎:さっぱりとした食感で全くヌル付きを感じない。
○:◎よりは劣るが、ほとんどヌル付きを感じない。
△:×よりは優れるが、ヌル付きを感じる。
×:ヌル付きを強く感じる。
ただし、パンでは、製造後(焼成後)の食パンを試食し、下記の基準で口どけを評価した。評価は10名のパネラーが独立して行い、最も多い評価を評価結果とした。
◎:非常に柔らかく、滑らかで口どけのよい食感である。
○:◎よりは劣るが、柔らかく、口どけもよい。
△:×よりは優れるが、口腔内で若干団子状になる。
×:口腔内で団子状になってしまい、べたべたした食感である。
なお、口どけがよくなることでヌル付きを感じなくなり、ヌル付きを感じなくなることで口どけのよい食感を感じるようになることから、ヌル付きを評価することで口どけも評価でき、口どけを評価することでヌル付きも評価できる。
【0065】
さらに、ホイップクリームでは、上記の評価に加えて、製造直後のホイップクリームを試食し、下記の基準で糊料(低粘性グルコマンナン)の溶け残りを評価した。評価は10名のパネラーが独立して行い、最も多い評価を評価結果とした。
◎:全く溶け残りがなく非常に滑らかな食感である。
○:ほとんど溶け残りがなく滑らかな食感である。
△:若干の溶け残りがあり、多少ざらざらした食感である。
×:溶け残りが多く、ざらざらした食感である。
【0066】
(6)触感
含気直後の含気性化粧品を手で触れた触感を、下記の基準で評価した。評価は10名のパネラーが独立して行い、最も多い評価を評価結果とした。
◎:さっぱりとした触感で全くヌル付きを感じない。
○:◎よりは劣るが、ほとんどヌル付きを感じない。
△:×よりは優れるが、ヌル付きを感じる。
×:ヌル付きを強く感じる。
【0067】
(試験1)
表4に示す配合にて、ホイップクリームを製造した(製造量500g)。実施例1および比較例1、4では、グラニュー糖と各糊料(マンナン1、マンナン2またはα化澱粉)とを粉体混合し、生クリームに投入した後、九分立て(泡立てたクリームの角がピンとしてしっかりと立ち、崩れない状態)になるまで含気した。比較例2では、グラニュー糖とゼラチンとを粉体混合し、水に沸騰溶解した後30℃まで冷却し、2%ゼラチン溶液を取得した後、これを生クリームに投入し、九分立てになるまで含気した。比較例3では、グラニュー糖と寒天とを粉体混合し、水に沸騰溶解した後冷却し、2%濃度の寒天ペーストを取得した後、これを生クリームに投入し、九分立てになるまで含気した。比較例5では、グラニュー糖を生クリームに投入した後、九分立てになるまで含気した。
なお、前記表1に示した糊料を配合しない含気性組成物の製造方法は、単にこれらを混合する手順を有しないだけであるため、以下、記載を省略する。
【0068】
【0069】
表4に配合および結果を示す(配合の単位は[質量%]。以下同じ)。また、
図1Aに実施例1に係るホイップクリームの写真、
図1Bに比較例5に係るホイップクリームの写真を示す。
【0070】
表4に示すように、低粘性グルコマンナンを配合した実施例1だけが、比重、保形性、味立ち、およびヌル付きの全ての項目で優れた効果が認められた。すなわち、適度に含気し(比重0.48)、ヌル付きが全くなく(評価:◎)、味立ちが良かった(評価:◎)。また、
図1に示すように、低粘性グルコマンナンを配合していない比較例5に係るホイップクリーム(
図1B)と比較して、実施例1に係るホイップクリーム(
図1A)では明らかに保形性が高く、24時間後もホイップクリームの形態(気泡の様子)にほぼ変わりなかった(評価:◎)。
一方、コンニャク芋から精製したそのままのグルコマンナン(比較例1)では、強くヌル付き、味立ちが悪く、また、含気しにくく比重が大きくなった。α化澱粉(比較例4)では、逆に比重が小さくなった。また、グルコマンナン(比較例1)と同様にヌル付き、味立ちが悪かった。
ゼラチンおよび寒天(比較例2、3)では、保形性向上効果が十分でなかった。
【0071】
(試験2)
表5に示す配合にて、試験1と同様の方法でホイップクリームを製造した(製造量500g)。配合および結果を表5に示す。
【0072】
【0073】
表5に示すように、粘度の高い比較例6(2150mPa・s)では、強くヌル付き、味立ちが悪く、また、粘度の低い比較例7(15mPa・s)および比較例8(4mPa・s)では、保形性向上効果が得られなかった。これに対して、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある実施例2-8では、適度に含気して、ヌル付きが全くないか殆どなく、味立ちが良く、保形性が向上した。このうち、粘度が25mPa・s~500mPa・sの範囲にある実施例3-7で、より優れた気泡安定効果がみられた(比重:0.45~0.54の範囲、評価:いずれも○以上)。このうち、粘度が30mPa・s~300mPa・sの範囲にある実施例4-6で、さらに優れた気泡安定効果がみられた(評価:いずれも◎)。
【0074】
(試験3)
表6に示す配合にて、試験1と同様の方法でホイップクリームを製造した(製造量500g)。配合および結果を表6に示す。
【0075】
【0076】
表6に示すように、実施例9、10、11では、いずれも適度に含気して(比重:0.45~0.55の範囲)、味立ちが良くヌル付きのない保形性の高いホイップクリームを製造することができた(評価:いずれも◎)。このことから、低分子化の方法すなわち低粘度化の方法に関わらず、グルコマンナンが所定範囲の低粘性に調整されることで優れた気泡安定効果が得られることが示された。
【0077】
(試験4)
表7に示す配合にて、試験1と同様の方法でホイップクリームを製造した(製造量500g)。配合および結果を表7に示す。
【0078】
【0079】
表7に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの低粘性グルコマンナンを配合した実施例12-17では、適度に含気して(比重:0.45~0.55の範囲)、味立ちが良くヌル付きのないホイップクリームを製造することができ、保形性向上および溶け残り防止についても一定の効果がみられた。このうち、粒子径が10μm~160μmの範囲にある実施例13-17では、保形性向上および溶け残り防止について、より優れた効果がみられた(評価:○以上)。このうち、粒子径が10μm~100μmの範囲にある実施例14-17では、保形性向上および溶け残り防止について、さらに優れた効果がみられた(評価:◎)。
【0080】
(試験5)
表8に示す配合にて、試験1と同様の方法でホイップクリームを製造した(製造量500g)。配合および結果を表8に示す。
【0081】
【0082】
表8に示すように、低粘性グルコマンナンの配合量(配合割合)が0.01質量%~5.0質量%の範囲にある実施例18-24では、いずれも味立ちが良くヌル付きのない保形性が高いホイップクリームを製造することができた(比重:0.45~0.55の範囲、評価:いずれも○以上)。このうち、配合量(配合割合)が0.03質量%~3.0質量%の範囲にある実施例19-23では、より優れた気泡安定効果がみられた(評価:いずれも◎)。
【0083】
(試験6)
表9に示す配合にて、メレンゲを製造した(製造量500g)。実施例では、グラニュー糖と低粘性グルコマンナンとを粉体混合し、卵白に投入した後、泡立て器で撹拌し含気した。配合および結果を表9に示す。
【0084】
【0085】
表9に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの低粘性グルコマンナンを配合した実施例25、26、27では、いずれも比重が安定して(比重:0.22~0.25)適度に含気し、味立ちが良くヌル付きのない保形性が高いメレンゲを製造することができた(評価:いずれも◎)。
【0086】
また、実施例25、26、27および比較例9に係るメレンゲを材料としてマシュマロを製造した。配合は、メレンゲを15質量%、ゼラチンを4質量%、グラニュー糖を40質量%、および残部を水とした。その結果、実施例25、26、27に係るメレンゲを用いた場合、いずれも気泡がきめ細かく、ふわふわの食感のマシュマロを製造することができた。一方、比較例9に係るメレンゲを用いた場合、気泡が荒く、固い食感のマシュマロになってしまった。
【0087】
(試験7)
表10に示す配合にて、泡状ドレッシングを製造した(製造量500g)。実施例では、グラニュー糖、ゼラチンおよび低粘性グルコマンナンを粉体混合し、サラダ油、醤油、食酢および水と混合した後、エスプーマを用いて含気した。
【0088】
【0089】
表10に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの低粘性グルコマンナンを配合した実施例28、29、30では、いずれも比重が安定して(比重:0.26~0.29)適度に含気し、味立ちが良くヌル付きのない保形性が高い泡状ドレッシングを製造することができた(評価:いずれも◎)。
【0090】
(試験8)
表11に示す配合にて、アイスクリームを製造した(製造量500g)。実施例31、32、33では、グラニュー糖と低粘性グルコマンナンとを粉体混合し、溶いた卵黄、生クリームおよび牛乳と混合した後、50℃まで加温し、ゴーリン式ホモジナイザーで均質化した。その後、80℃で20秒間殺菌し、0℃まで冷却した後、0℃で6時間エージングを行った。その後、-5℃で7分間フリージングを行った。当該フリージングの際、冷却しながら材料混合物を撹拌し、含気された半流動体アイスクリームを得た。φ70mmの半球状のシリコン製の型に半流動体アイスクリームを充填し、-30℃まで急速冷凍し、アイスクリームを得た。また、実施例34では、グラニュー糖に、低粘性グルコマンナン(マンナン6)と共にタマリンドシードガムを粉体混合し、あとは上記の実施例31、32、33と同様の方法によりアイスクリームを製造した。
【0091】
【0092】
表11に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの低粘性グルコマンナンを配合した実施例31、32、33、34では、いずれも比重が安定して(比重:0.51~0.55)適度に含気し、味立ちが良くヌル付きのない保形性が高いアイスクリームを製造することができた(評価:保形性は〇以上、味立ちおよびヌル付きは◎)。特に、当該低粘性グルコマンナンに加えてタマリンドシードガムを配合した実施例34は、より高い保形性を示した(評価:◎)。
【0093】
(試験9)
表12に示す配合にて、ハンバーグを製造した(製造量500g)。実施例では、低粘性グルコマンナンを合いびき肉に添加し、サラダ油、パン粉、食塩およびコショウと混合した後、含気しながら手で捏ねた。当該ミンチがまとまった後、フライパンで焼成し、ハンバーグを得た。
【0094】
【0095】
表12に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの低粘性グルコマンナンを配合した実施例35、36、37では、いずれも適度に含気し、味立ちが良くヌル付きのない保形性の高いハンバーグを製造することができた(評価:いずれも◎)。
【0096】
(試験10)
表13に示す配合にて、炭酸飲料を製造した(製造量500g)。実施例では、低粘性グルコマンナンとグラニュー糖とを粉体混合し、水に分散した後、高圧力条件下で二酸化炭素ガスを注入し、当該液体をガラス瓶に封入し、打栓して炭酸飲料を得た。4℃で保管後、開栓してガラス製の透明コップに注いで、気泡の状態を評価した。
【0097】
【0098】
表13に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの低粘性グルコマンナンを配合した実施例38、39、40では、いずれも味立ちが良くヌル付きのない炭酸飲料であって、且つ、泡の保形性の高いものを製造することができた(評価:いずれも◎)。
【0099】
(試験11)
表14に示す配合にて、泡状洗顔料を製造した(製造量500g)。実施例では、洗顔料に低粘性グルコマンナンを混合し、泡立てて含気した。
【0100】
【0101】
表14に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの低粘性グルコマンナンを配合した実施例41、42、43では、いずれも比重が安定して(比重:0.45~0.49)適度に含気し、ヌル付きのない保形性の高い泡にすることができた(評価:いずれも◎)。
【0102】
(試験12)
表15に示す配合にて、どら焼きを製造した(生地製造量500g)。実施例では、低粘性グルコマンナンを水に添加し、全卵、ハチミツおよびサラダ油と混合し、さらに小麦粉および重曹と混合した後、ホイッパーで含気しながら撹拌してどら焼き生地を得た。その後、180℃で生地を焼成し、どら焼き(皮)を得た。なお、どら焼きは、当該焼成時、重曹によるガス発生によっても含気された。
【0103】
【0104】
表15に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの低粘性グルコマンナンを配合した実施例44、45、46では、いずれも適度に含気し、ヌル付きのない保形性の高いどら焼きを製造することができた(評価:いずれも◎)。
【0105】
(試験13)
表16に示す配合にて、食パンを製造した(生地製造量500g)。実施例では、低粘性グルコマンナン、強力粉、グラニュー糖、脱脂粉乳、ドライイースト、食塩、および水を混合してドウミキサーで捏ねた後、さらにショートニングを加えて捏ね上げた(捏ね上げ温度は、26℃)。その後、温度30℃、湿度75%の条件で80分間発酵させ、ガス抜きをした後、さらに40分間発酵させて食パン生地を得た。得られた生地をほぼ均等に二分割し、30分間のベンチタイムを経て、内寸が190mm×90mm×(高さ)90mmの直方体型の食パン型に入れて成形した。その後、温度38℃、湿度85%の条件で45分間ホイロさせ(最終発酵させ)、型に蓋をせずに200℃で30分間生地を焼成し、食パンを得た。なお、パン生地は、発酵時におけるイースト(酵母)からのガス発生によって含気された。
【0106】
【0107】
表16に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの低粘性グルコマンナンを配合した実施例47、48、49では、いずれも適度に含気し、ふわっとして柔らかく且つボリュームのある、保形性および気泡安定性の高いパンであって、食すると非常に柔らかく滑らかで口どけのよい食感のパンを製造することができた(評価:いずれも◎)。