(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168903
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】クラフトリグニンの精製方法
(51)【国際特許分類】
C08H 7/00 20110101AFI20231121BHJP
C09K 23/50 20220101ALI20231121BHJP
C09K 23/28 20220101ALI20231121BHJP
C09K 23/04 20220101ALI20231121BHJP
C09K 23/18 20220101ALI20231121BHJP
D21C 11/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C08H7/00 ZAB
C09K23/50
C09K23/28
C09K23/04
C09K23/18
D21C11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080286
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】市村 健太
(72)【発明者】
【氏名】森 康雄
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA01
4L055AH29
4L055BE11
4L055EA30
(57)【要約】
【課題】容器等への付着が抑制され、且つろ過の短時間化が可能なクラフトリグニンの精製方法を提供すること。
【解決手段】本開示の一側面は、クラフトリグニンと、水と、界面活性剤とを含む混合物を60~100℃で攪拌する工程を備え、界面活性剤が、下記(A)群の界面活性剤及び下記(B)群の界面活性剤のうち少なくとも一種を含む、クラフトリグニンの精製方法である。
(A)群:重量平均分子量2,000~300,000の高分子型界面活性剤
(B)群:(A)群以外の硫酸塩型アニオン界面活性剤
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフトリグニンと、水と、界面活性剤とを含む混合物を60~100℃で攪拌する工程を備え、
前記界面活性剤が、下記(A)群の界面活性剤及び下記(B)群の界面活性剤のうち少なくとも一種を含む、クラフトリグニンの精製方法。
(A)群:重量平均分子量2,000~300,000の高分子型界面活性剤
(B)群:前記(A)群以外の硫酸塩型アニオン界面活性剤
【請求項2】
前記界面活性剤が、前記(A)群の界面活性剤を含み、
前記(A)群の界面活性剤が、下記(A-1)群の界面活性剤、又は下記(A-2)群の界面活性剤を含む、請求項1に記載のクラフトリグニンの精製方法。
(A-1)群:下記一般式(1)で表される構造を含む界面活性剤
(A-2)群:下記一般式(2)で表される構造を含む界面活性剤
【化1】
[式中、M
1、M
2及びM
3は、それぞれ独立に水素原子、アルカリ金属原子、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、又は第四級アンモニウムを表し、aは0~170、bは0~280の整数を表し、(a+b)は20~280であり、aが2以上の場合、複数存在するM
1及びM
2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、bが2以上の場合、複数存在するM
3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【化2】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~12のアルキル基を表し、Aは、ハロゲン原子を表し、hは0~1850、iは0~1850の整数を表し、(h+i)は60~1850であり、hが2以上の場合、複数存在するR
1及びR
2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、iが2以上の場合、複数存在するR
1及びR
2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項3】
前記界面活性剤が、前記(B)群の界面活性剤を含み、
前記(B)群の界面活性剤が、下記(B-1)群の界面活性剤、及び下記(B-2)群の界面活性剤のうち少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載のクラフトリグニンの精製方法。
(B-1)群:下記一般式(3)で表される界面活性剤
(B-2)群:下記一般式(4)で表される界面活性剤
【化3】
[式中、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、cは1~3、dは0~2、eは0~5の整数を表し、[(c×d+d)+e]は1~5であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し、fは1~100の整数を表し、M
4は水素原子、アルカリ金属原子、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、又は第四級アンモニウムを表す。]
【化4】
[式中、R
6及びR
7は、それぞれ独立に炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数6~10のアリール基、又は炭素数7~11のアラルキル基を表し、M
5は、水素原子、アルカリ金属原子、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、又は第四級アンモニウムを表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クラフトリグニンの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題や廃棄物問題の両観点から、生物と太陽エネルギーがある限り持続的に再生可能な資源及びエネルギー源としてバイオマスが注目されている。そのような中、植物又は植物由来の加工品等のバイオマスを利用する技術や、石油由来の化学品、樹脂製品等をバイオマスに転換する技術の開発が求められている。例えば、林産資源として、間伐材、建築廃材及び製紙工場廃材等の木質系廃材などは、燃料として焼却される以外、その多くは廃棄処分されている。しかしながら、地球環境保護の観点から、それら廃材の有効活用、リサイクルが検討されている。
【0003】
一般的な木質の主要成分は、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンである。そのうち、リグニンは、木質の約30%の割合で含まれており、地球上でセルロースに次いで多量に存在する天然有機化合物といわれている。リグニンは、芳香環を豊富に含み、ヒドロキシル基などの反応可能な官能基も有しているため、石油製品の代替などの工業的な利用が期待されている。そして、その工業的な利用を目的としたリグニンの製造方法が広く検討されている。
【0004】
リグニンは、一般的に、製紙工場でのパルプ製造時、又はバイオマスからバイオ燃料やバイオマテリアルを取り出す際の脱リグニン処理時にその副産物として抽出分離される。リグニンの中でもクラフトリグニンは、クラフト法と呼ばれるパルプ製造での蒸解工程にて、木材チップから硫化ソーダ及び苛性ソーダ存在下、高温高圧条件下にて黒液として溶出されたのち、酸析等により抽出分離される。
【0005】
例えば、下記の特許文献1には、木材をクラフト蒸解する工程から排出される黒液からリグニンを分離する方法であって、特定の工程を含む方法が開示されている。また、下記の特許文献2には、黒液を酸性化し該酸性化黒液を濾過することにより該黒液からリグニンを除去する方法において、該黒液を酸性化前に酸化する、方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-041227号公報
【特許文献2】特表2013-527339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、クラフトリグニンには、蒸解工程で用いられる硫化ソーダに由来する硫黄系の不純物が残留し得る。そのため、クラフトリグニンを利用する上では不純物を低減することが望ましい。
【0008】
本発明者らは、不純物を低減するために、容器内でクラフトリグニンを水で洗浄することを検討した。すると、クラフトリグニンが撹拌羽根や容器に付着してしまうこと、クラフトリグニンを脱水するときにろ過に時間がかかることが本発明者らの検討で分かった。
【0009】
本開示の一側面は、容器等への付着が抑制され、且つろ過の短時間化が可能なクラフトリグニンの精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一側面は、クラフトリグニンと、水と、界面活性剤とを含む混合物(以下、「クラフトリグニン混合物」ともいう)を60~100℃で攪拌する工程を備え、界面活性剤が、下記(A)群の界面活性剤及び下記(B)群の界面活性剤のうち少なくとも一種を含む、クラフトリグニンの精製方法である。
(A)群:重量平均分子量2,000~300,000の高分子型界面活性剤
(B)群:(A)群以外の硫酸塩型アニオン界面活性剤
【0011】
本開示の一側面に係るクラフトリグニンの精製方法は、クラフトリグニンの容器等への付着を抑えつつ、脱水時のろ過性に優れる。このような効果が奏される理由を本発明者らは以下のように推察している。まず、水を用いてクラフトリグニンを容器内で精製すると、クラフトリグニンは、容器等と水との界面付近に浮遊する傾向があり、界面付近のクラフトリグニンが凝集して容器等に付着することが考えられる。本開示の一側面に係るクラフトリグニンの精製方法は、クラフトリグニン混合物が、水と上記特定の界面活性剤とを含むことにより、クラフトリグニンが、界面付近に浮遊しにくくなり、クラフトリグニンの容器等への付着が抑制されたと考えられる。また、ろ過性については、本開示の一側面に係るクラフトリグニンの精製方法は、クラフトリグニン混合物が上記特定の界面活性剤を含むことに加えて特定の温度で攪拌されることにより、クラフトリグニン混合物に含まれるクラフトリグニンの粒子の形状が揃うことで向上すると考えられる。
【0012】
一態様において、界面活性剤は、(A)群の界面活性剤を含み、(A)群の界面活性剤は、下記(A-1)群の界面活性剤、又は下記(A-2)群の界面活性剤を含む。
(A-1)群:下記一般式(1)で表される構造を含む界面活性剤
(A-2)群:下記一般式(2)で表される構造を含む界面活性剤
【0013】
【化1】
[式中、M
1、M
2及びM
3は、それぞれ独立に水素原子、アルカリ金属原子、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、又は第四級アンモニウムを表し、aは0~170、bは0~280の整数を表し、(a+b)は20~280であり、aが2以上の場合、複数存在するM
1及びM
2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、bが2以上の場合、複数存在するM
3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0014】
【化2】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~12のアルキル基を表し、Aは、ハロゲン原子を表し、hは0~1850、iは0~1850の整数を表し、(h+i)は60~1850であり、hが2以上の場合、複数存在するR
1及びR
2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、iが2以上の場合、複数存在するR
1及びR
2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0015】
一態様において、界面活性剤は、(B)群の界面活性剤を含み、(B)群の界面活性剤は、下記(B-1)群の界面活性剤、及び下記(B-2)群の界面活性剤のうち少なくとも一種を含んでいてよい。
(B-1)群:下記一般式(3)で表される界面活性剤
(B-2)群:下記一般式(4)で表される界面活性剤
【0016】
【化3】
[式中、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、cは1~3、dは0~2、eは0~5の整数を表し、[(c×d+d)+e]は1~5であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し、fは1~100の整数を表し、M
4は水素原子、アルカリ金属原子、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、又は第四級アンモニウムを表す。]
【0017】
【化4】
[式中、R
6及びR
7は、それぞれ独立に炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数6~10のアリール基、又は炭素数7~11のアラルキル基を表し、M
5は、水素原子、アルカリ金属原子、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、又は第四級アンモニウムを表す。]
【発明の効果】
【0018】
本開示の一側面によれば、容器等への付着が抑制され、且つろ過の短時間化が可能なクラフトリグニンの精製方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本実施形態に係るクラフトリグニンの精製方法は、クラフトリグニンと、水と、界面活性剤とを含む混合物(以下、「クラフトリグニン混合物」ともいう)を60~100℃で攪拌する工程を備え、界面活性剤が、下記(A)群の界面活性剤及び下記(B)群の界面活性剤のうち少なくとも一種を含む。
(A)群:重量平均分子量2,000~300,000の高分子型界面活性剤
(B)群:(B)群以外の硫酸塩型アニオン界面活性剤
【0021】
[クラフトリグニン]
クラフトリグニンは、クラフト法と呼ばれるパルプ製造での蒸解工程から抽出分離されるリグニンであれば、特に限定されない。クラフト法は、水酸化ナトリウム(NaOH)及び硫化ナトリウム(Na2S)等によりリグニンを化学変性させる分離方法である。クラフトリグニンは、チオール基を有する。
【0022】
クラフトリグニンは、蒸解工程から抽出分離されたクラフトリグニンをそのまま用いてもよく、その乾燥物であってもよい。クラフトリグニンは、その製造工程で用いられる溶媒を含むものであってもよい。クラフトリグニンは、市販品を用いてもよい。市販品は、固形分が50質量%以上であるものであってよい。市販品であれば、ウェット品や湿品と呼ばれるものであってもよい。そのような溶媒としては、例えば、水及び有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-メトキシルエタノール、及びブタノールなどのアルコール類、1,4-ジオキサン、及びテトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、及びメチルエチルケトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、ピリジンなどのアミン類、ホルムアミドなどのアミド類、酢酸エチル、及び酢酸メチルなどのエステル類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、並びにベンゼン、及びトルエンなどの芳香族炭化水素が挙げられる。溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。本実施形態に係る精製方法は、クラフトリグニン混合物が水を含む。そのため、クラフトリグニンに含まれる溶媒は、水であることが好ましい。クラフトリグニンに含まれる水以外の溶媒の含有量は、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0023】
[水]
本実施形態に係る精製方法で用いられる水は、特に限定されないが、例えば、工業用水、イオン交換水、蒸留水及び精製水が挙げられる。
【0024】
クラフトリグニン混合物における水の含有量は、クラフトリグニンの全量に対して1~20質量倍であることが好ましく、2~10質量倍であることがより好ましく、3~7質量倍であることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、クラフトリグニン混合物を攪拌した際に十分な流動性が維持でき、クラフトリグニンを安定的に精製できる傾向にある。また、1回の精製における処理量も十分に確保できる傾向にある。
【0025】
本実施形態に係る精製方法の効果を阻害しない範囲で、クラフトリグニン混合物は水以外の溶媒として有機溶媒を更に含んでいてもよい。有機溶媒は、水と任意の割合で相溶することが好ましい。有機溶媒としては、例えば、エタノール及びメタノール等のアルコール類、酢酸エチル及び炭酸ジメチル等のケトン類、エチレングリコール及びポリプロピレングリコール等のグリコール類、並びにエチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類が挙げられる。
【0026】
溶媒における水の含有量は、溶媒の全量を基準として、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、又は100質量%であってもよい。
【0027】
[界面活性剤]
<(A)群の界面活性剤>
以下、(A)群の界面活性剤について詳述する。高分子型界面活性剤とは、繰り返し単位を有する界面活性剤を意味する。繰り返し単位は、1種の構成単位からなるものであってよく、2種以上の構成単位からなるものであってもよい。(A)群の界面活性剤の重量平均分子量は、2,000~300,000であり、クラフトリグニンの容器等への付着及び固着を一層抑制できる傾向にあることから、5,000~200,000であることが好ましく、8,000~120,000であることがより好ましい。本明細書において、重量平均分子量は、検出器:RI/HLC-8320GPC(TOSOH製)、カラム:Asahipak GF-510HQ(昭和電工)、粒径5μm、7.5×300mm(内径×長さ(mm))を用い、移動相に溶離液:0.05M-NaNO3水溶液/アセトニトリル=1/1を用いて、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムを標準物質として測定される値を意味する。
【0028】
(A)群の界面活性剤としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸塩、下記(A-1)群の界面活性剤及び下記(A-2)群の界面活性剤が挙げられ、(A)群の界面活性剤は、濾過性、及び、付着防止性の観点から、下記(A-1)群の界面活性剤、又は下記(A-2)群の界面活性剤が好ましい。(A)群の界面活性剤が下記(A-1)群の界面活性剤、又は下記(A-2)群の界面活性剤を含む場合、(A)群の界面活性剤は、下記(A-1)群の界面活性剤及び下記(A-2)群の界面活性剤のうち一方のみを含むものであってよい。
(A-1)群:下記一般式(1)で表される構造を含む界面活性剤
(A-2)群:下記一般式(2)で表される構造を含む界面活性剤
【0029】
【化5】
[式中、M
1、M
2及びM
3は、それぞれ独立に水素原子、アルカリ金属原子、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、又は第四級アンモニウムを表し、aは0~170、bは0~280の整数を表し、(a+b)は20~280であり、aが2以上の場合、複数存在するM
1及びM
2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、bが2以上の場合、複数存在するM
3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0030】
【化6】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~12のアルキル基を表し、Aは、ハロゲン原子を表し、hは0~1850、iは0~1850の整数を表し、(h+i)は60~1850であり、hが2以上の場合、複数存在するR
1及びR
2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、iが2以上の場合、複数存在するR
1及びR
2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0031】
((A-1)群の界面活性剤)
(A-1)群の界面活性剤の重量平均分子量は、クラフトリグニンの容器等への付着及び固着を一層抑制できる傾向にあることから、2,000~20,000であることが好ましく、5,000~15,000であることがより好ましく、8,000~12,000であることがさらに好ましい。
【0032】
上記一般式(1)中、aは、濾過性、及び、付着防止性の観点から、0~60であることが好ましく、20~40であることがより好ましい。
【0033】
上記一般式(1)中、bは、濾過性、及び、付着防止性の観点から、1~110であることが好ましく、40~65であることがより好ましい。
【0034】
上記一般式(1)中、M1、M2及びM3は、濾過性、及び、付着防止性の観点から、アルカリ金属原子であることが好ましく、ナトリウム原子であることがより好ましい。
【0035】
上記一般式(1)中、(a+b)は、濾過性、及び、付着防止性の観点から、20~220であることが好ましく、50~130であることがより好ましい。
【0036】
(A-1)群の界面活性剤の市販品としては、例えば、アロンA-6330(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)、アロンT-50(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)が挙げられる。(A-1)群の界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
((A-2)群の界面活性剤)
(A-2)群の界面活性剤の重量平均分子量は、クラフトリグニンの容器等への付着及び固着を一層抑制できる傾向にあることから、10,000~300,000が好ましく、30,000~200,000がより好ましく、50,000~120,000が更に好ましい。
【0038】
上記一般式(2)中、R1及びR2は、濾過性、及び、付着防止性の観点から、水素原子及び炭素数1~3のアルキル基であることが好ましく、水素原子及びメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
【0039】
上記一般式(2)中、Aは、濾過性、及び、付着防止性の観点から、塩素原子及び臭素原子であることが好ましく、塩素原子であることがより好ましい。
【0040】
上記一般式(2)中、hは、濾過性、及び、付着防止性の観点から、60~1850であることが好ましく、300~750であることがより好ましい。
【0041】
上記一般式(2)中、iは、濾過性、及び、付着防止性の観点から、60~1850であることが好ましく、300~750であることがより好ましい。
【0042】
(A-2)群の界面活性剤は、下記一般式(2a)で表されるモノマーを重合して得られたものであってよい。
【化7】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~12のアルキル基を表し、Aは、ハロゲン原子を表す。]
【0043】
(A-2)群の界面活性剤の市販品としては、例えば、ネオフイックスR-800(商品名、日華化学株式会社製、固形分:20質量%)が挙げられる。(A-2)群の界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
<(B)群の界面活性剤>
以下、(B)群の界面活性剤について詳述する。硫酸塩型アニオン界面活性剤とは、親水基としてスルホン酸基または硫酸エステル基を持つ界面活性剤を意味する。(B)群の界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルアルコール硫酸エステル塩、アルキルアルコールエチレンオキサイド付加物硫酸エステル塩、下記(B-1)群の界面活性剤及び下記(B-2)群の界面活性剤が挙げられ、(B)群の界面活性剤は、濾過性、及び、付着防止性の観点から、下記(B-1)群の界面活性剤、及び下記(B-2)群の界面活性剤のうち少なくとも一種を含んでいることが好ましい。(B)群の界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(B-1)群:下記一般式(3)で表される界面活性剤
(B-2)群:下記一般式(4)で表される界面活性剤
【0045】
【化8】
[式中、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、cは1~3、dは0~2、eは0~5の整数を表し、[(c×d+d)+e]は1~5であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し、fは1~100の整数を表し、M
4は水素原子、アルカリ金属原子、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、又は第四級アンモニウムを表す。]
【0046】
【化9】
[式中、R
6及びR
7は、それぞれ独立に炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数6~10のアリール基、又は炭素数7~11のアラルキル基を表し、M
5は、水素原子、アルカリ金属原子、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、又は第四級アンモニウムを表す。]
【0047】
((B-1)群の界面活性剤)
上記一般式(3)中、R3、R4及びR5は、クラフトリグニンの容器等への付着及び固着を一層抑制できる傾向にあることから、水素原子であることが好ましい。
【0048】
上記一般式(3)中、[(c×d+d)+e]は、クラフトリグニンの容器等への付着及び固着を一層抑制できる傾向にあることから、2~4であることが好ましく、3であることがより好ましい。
【0049】
上記一般式(3)中、AOは、クラフトリグニンの容器等への付着及び固着を一層抑制できる傾向にあることから、エチレンオキシ基であることが好ましい。
【0050】
上記一般式(3)中、fは、クラフトリグニンの容器等への付着及び固着を一層抑制できる傾向にあることから、3~20であることが好ましく、5~15であることがより好ましく、8~12であることがさらにより好ましい。
【0051】
上記一般式(3)中、M4は、濾過性、及び、付着防止性の観点から、アンモニアであることが好ましい。
【0052】
((B-2)群の界面活性剤)
上記一般式(4)、R6及びR7は、クラフトリグニンの容器等への付着及び固着を一層抑制できる傾向にあることから、炭素数1~12のアルキル基及び炭素数2~12のアルケニル基であることが好ましい。アルキル基及びアルケニル基の炭素数は、同様の観点から、2~12であることが好ましく、4~12であることがより好ましく、6~10であることが更に好ましい。
【0053】
上記一般式(4)中、M5は、濾過性、及び、付着防止性の観点から、アルカリ金属原子であることが好ましく、ナトリウム原子であることがより好ましい。
【0054】
(B-2)群の界面活性剤の市販品としては、例えば、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(商品名、キシダ化学株式会社製、固形分:95質量%)及びエーロゾルOT(商品名、富士フイルム和光純薬株式会社製、固形分:75質量%)が挙げられる。
【0055】
クラフトリグニン混合物における界面活性剤の含有量は、クラフトリグニン混合物の全量を基準として、0.1~5質量%であることが好ましく、0.2~3質量%であることがより好ましく、0.3~1質量%であることがさらに好ましい。
【0056】
クラフトリグニン混合物を攪拌する温度は、クラフトリグニンの容器等への付着を一層抑制でき、また、脱水時のろ過性を一層向上できる傾向にあることから、70℃超であることが好ましく、80℃超であることがより好ましく、85℃以上であることが更に好ましい。
【0057】
クラフトリグニン混合物を攪拌する時間は、クラフトリグニンが粒子状となる時間であれば特に制限されないが、例えば、6~24時間であってよい。
【0058】
クラフトリグニン混合物のpHは、例えば、2~7であってよい。
【0059】
クラフトリグニン混合物を攪拌する際に用いる容器としては、例えば、ガラス製の容器及びSUS製の容器が挙げられる。
【0060】
本実施形態に係るクラフトリグニンの精製方法は、クラフトリグニン混合物を60~100℃で攪拌する工程後に、クラフトリグニン混合物をろ過してろ物としてクラフトリグニンを得る工程を更に備えていてもよい。
【0061】
本実施形態に係る精製方法により精製されたクラフトリグニンは、例えば、感熱記録材料の顕色剤、熱硬化性樹脂、分散剤、接着剤、フェノール樹脂原料及びエポキシ樹脂原料として用いることができる。
【0062】
本発明者らの検討によれば、容器内でクラフトリグニンを水で洗浄すると、クラフトリグニンが撹拌羽根や容器に付着してしまうこと、クラフトリグニンを脱水するときにろ過に時間がかかることが分かった。クラフトリグニンが容器等に付着すると、クラフトリグニンの収量が低下してしまう。また、容器等に付着したクラフトリグニンを水などの溶媒を用いて回収する場合には、ろ過に供される処理物の量が洗浄に用いる溶媒の分だけ増加してしまう。それに対して、本実施形態に係るクラフトリグニンの精製方法は、容器等への付着が抑制され、且つろ過の短時間化が可能である。
【実施例0063】
以下、実施例に基づいて本開示をより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
<界面活性剤の合成>
(合成例1)
耐圧反応容器(オートクレーブ)にトリスチレン化フェノール(三光株式会社製、TSP)を900g、水酸化カリウムを3.76g仕込んだ。オートクレーブを窒素置換した後、エチレンオキサイド970gをオートクレーブに120~130℃で吹き込み、内圧が低下して一定になるまで付加反応を進行させた。その後、オートクレーブ内の温度を室温まで低下させて、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物を得た。
【0065】
得られたトリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物400gを反応容器に仕込んだ。反応容器内をホモミキサーで撹拌しながら、窒素気流下、105~115℃でスルファミン酸59.6g、及び尿素8.8gを20分毎に4分割して加えた。その後、105~115℃で4時間反応させた。反応物468gに対し、水374.4g、イソプロピルアルコール93.6g加え、アンモニア水にてpH8に中和することによりトリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物の硫酸エステル化物(以下、「化合物(1)」ともいう)を合成した。固形分は50質量%であった。
【0066】
1H-NMR及び13C-NMR[商品名:JMN-ECZ500R、日本電子(株)製]で分析することにより、化合物(1)は、上記一般式(3)で表され、式中、R5は水素原子を表し、cは0、dは0、eは3の整数を表し、[(c×d+d)+e]は3であり、AOは炭素数2のアルキレンオキシ基を表し、fは10の整数を表し、M4はアンモニアである化合物であった。
【0067】
(合成例2)
エチレンオキサイドを吹き込む量を970gに換えて1746gとしたこと以外は、合成例1と同様の操作によりトリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物の硫酸エステル化物(以下、「化合物(2)」ともいう)を合成した。固形分は50質量%であった。
【0068】
1H-NMR及び13C-NMR[商品名:JMN-ECZ500R、日本電子(株)製]で分析することにより、化合物(2)は、上記一般式(3)で表され、式中、R5は水素原子を表し、cは0、dは0、eは3の整数を表し、[(c×d+d)+e]は3であり、AOは炭素数2のアルキレンオキシ基を表し、fは18の整数を表し、M4はアンモニアである化合物であった。
【0069】
(合成例3)
耐圧反応容器(オートクレーブ)にトリスチレン化フェノールを900g、水酸化カリウムを3.76g仕込んだ。オートクレーブを窒素置換した後、120~130℃でエチレンオキサイド970gをオートクレーブに吹き込み、内圧が低下して一定になるまで付加反応を進行させた。その後、オートクレーブ内の温度を室温まで低下させることによりトリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物(以下、「化合物(3)」ともいう)を合成した。固形分は100質量%であった。
【0070】
1H-NMR及び13C-NMR[商品名:JMN-ECZ500R、日本電子(株)製]で分析することにより、トリスチレン化フェノールに対するエチレンオキサイドの付加モル数は、10であった。化合物(3)は下記式(11)で表される。
【0071】
【0072】
<クラフトリグニンの精製>
(実施例1)
クラフトリグニン(メドウエストバコ社製、インジュリンAT)175g、蒸留水525g、及びアロンA-6330(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)3.3gを冷却管を備えた1Lセパラブルフラスコ(材質:ガラス)に投入して処理液を得た。処理液を撹拌して混合しながら88℃まで加熱した。処理液を88℃で6時間撹拌して混合し、その後、40℃まで空冷した。冷却した処理液を加圧ろ過機(ADVANTEC製、内径76mm)及び定量濾紙(ADVANTEC製、φ90mm、No.5A)を用いて加圧(窒素圧:0.2MPa)濾過して定量濾紙上に濾物(湿品)を得た。濾物を乾燥することでクラフトリグニン175gを得た。乾燥は、パーフェクトオーブンPHH-200(エスペック株式会社製)により60℃で18時間かけて濾物の固形分が95質量%となるまで行った。
【0073】
アロンA-6330は、上記一般式(1)で表される構造を含み、上記一般式(1)中、M1、M2及びM3は、ナトリウム原子、又は、水素原子であり、aは29~34、bは48~59、(a+b)は77~93である界面活性剤を固形分として含む。
【0074】
(実施例2)
アロンA-6330(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)3.3gに代えて、アロンT-50(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)3.3gを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは172gであった。
【0075】
アロンT-50は、上記一般式(1)で表される構造を含み、上記一般式(1)中、M1、M2及びM3は、ナトリウム原子、又は、水素原子であり、aは0、bは59~69、(a+b)は59~69である界面活性剤を固形分として含む。
【0076】
(実施例3)
アロンA-6330(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)3.3gに代えて、合成例1で得られた化合物(1)であるトリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物の硫酸エステル化物2.6gを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは172gであった。
【0077】
(実施例4)
アロンA-6330(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)3.3gに代えて、合成例2で得られたトリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物の硫酸エステル化物2.6gを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは170gであった。
【0078】
(実施例5)
アロンA-6330(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)3.3gに代えて、エーロゾルOT(商品名、富士フイルム和光純薬株式会社製、固形分:75質量%)1.8gを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは173gであった。
【0079】
エーロゾルOTは、上記一般式(4)で表される構造を含み、上記一般式(4)中、R6及びR7は、炭素数8のアルキル基(2-エチルヘキシル基)、M5は、ナトリウム原子である界面活性剤を固形分として含む。
【0080】
(実施例6)
アロンA-6330(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)3.3gに代えて、ネオフイックスR-800(商品名、日華化学株式会社製、固形分:20質量%)6.6gを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは171gであった。
【0081】
ネオフイックスR-800は、上記一般式(2)で表される構造を含み、上記一般式(2)中、R1及びR2は、メチル基、Aは、塩素原子、hは0~515、iは0~515の整数を表し、(h+i)は503~515である界面活性剤を固形分として含む。
【0082】
(実施例7)
アロンA-6330(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)の配合量を3.3gに代えて、2.0gとしたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは173gであった。
【0083】
(実施例8)
アロンA-6330(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)の配合量を3.3gに代えて、1.3gとしたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは173gであった。
【0084】
(実施例9)
処理液の加熱温度を88℃に代えて70℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは173gであった。
【0085】
(実施例10)
蒸留水525gに代えて、蒸留水472.5g及びエタノール52.5gを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。
【0086】
(比較例1)
処理液の加熱温度を88℃に代えて50℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは175gであった。
【0087】
(比較例2)
アロンA-6330(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)3.3gに代えて、ベルクリン200(商品名、BASF社製、マレイン酸重合物、重量平均分子量800~1000、固形分:50質量%)2.6gを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは168gであった。
【0088】
(比較例3)
アロンA-6330(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)3.3gに代えて、合成例3で得られたトリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物1.3gを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは166gであった。
【0089】
(比較例4)
アロンA-6330(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)3.3gに代えて、ニッカノン50(商品名、日華化学株式会社製、塩化ベンザルコニウム、固形分:50質量%)2.6gを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは167gであった。
【0090】
(比較例5)
アロンA-6330(商品名、東亜合成株式会社製、固形分:40質量%)3.3gを投入しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは165gであった。
【0091】
(比較例6)
処理液の加熱温度を88℃に代えて70℃としたこと以外は、比較例5と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは169gであった。
【0092】
(比較例7)
処理液の加熱温度を88℃に代えて50℃としたこと以外は、比較例5と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは175gであった。
【0093】
(比較例8)
蒸留水525gに代えてエタノール525gを用い、処理液の加熱温度を88℃に代えて50℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてクラフトリグニンを精製した。得られたクラフトリグニンは42gであった。
【0094】
表1~3には、クラフトリグニンに対する界面活性剤の固形分の配合量を示した。
【0095】
[評価]
<精製ロス>
(実施例1~10及び比較例1~8)
(付着低減率)
各実施例及び比較例において、温度計、撹拌羽根及びフラスコ壁面に付着したクラフトリグニンを回収した。回収したクラフトリグニンを乾燥して乾燥物を得た。乾燥は、パーフェクトオーブンPHH-200(商品名、エスペック株式会社製)により60℃で18時間かけて固形分が95質量%となるまで行った。乾燥物の質量を付着量とした。付着量を下記式(a)に代入することで付着低減率を算出した。付着低減率は、比較例5のクラフトリグニンの付着量を基準とした値である。また付着低減率を下記の判定基準に基づき判定した。結果を表1~3に示した。
【0096】
付着低減率(%)=[1-各実施例及び比較例の付着量/比較例5の付着量]×100・・・式(a)
(付着性の判定基準)
A:付着低減率が80%以上
B:付着低減率が60%以上80%未満
C:付着低減率が40%以上60%未満
D:付着低減率が20%以上40%未満
E:付着低減率が20%未満
【0097】
<ろ過性>
(実施例1~10及び比較例1~8)
各実施例及び比較例について、ろ過時間及びろ過固形分に基づきろ過性を判定した。ろ過時間の測定方法、ろ過固形分の算出方法、及びろ過性の判定基準は下記のとおりである。結果を表1~3に示した。
【0098】
(ろ過時間)
各実施例及び比較例において、加圧ろ過機(ADVANTEC製、内径76mm)及び定量濾紙(ADVANTEC製、φ90mm、No.5A)を用いて加圧(窒素圧0.2MPa)ろ過した際の処理液全量がろ過し終わるまでに要した時間をろ過時間(秒)とした。
【0099】
(ろ過固形分)
各実施例及び比較例にて得られた湿品に関して、下記式(b)によりろ過固形分を算出した。ろ過固形分が少ない方が湿品を乾燥するために要する時間を短く出来る。
ろ過固形分(質量%)=(湿品乾燥後の質量/湿品の質量)×100・・・式(b)
【0100】
(ろ過性の判定基準)
A:ろ過時間が10秒未満、かつ、ろ過固形分が60質量%以上
B:ろ過時間が10秒未満、かつ、ろ過固形分が60質量%未満
C:ろ過時間が10秒以上30秒未満
D:ろ過時間が30秒以上50秒未満
E:ろ過時間が50秒以上
【0101】
<精製の評価>
(実施例1~10)
各実施例で得られたクラフトリグニンが、クラフトリグニン(メドウエストバコ社製、インジュリンAT)と比較して精製されていることを確認した。具体的には、クラフトリグニンを鼻から約10cmの距離まで近づけ、臭気を以下の基準に従って官能評価を実施した。評価者6名の各判定結果の数値の平均値を総合判定結果とした。その結果、実施例1~10で得られたクラフトリグニンは、クラフトリグニン(メドウエストバコ社製、インジュリンAT)と比較して、臭気が抑えられていることがわかった。
【0102】
(判定基準)
5:無臭又はほとんど臭いを感じない。
4:わずかに臭いを感じるが、不快臭とは感じない。
3:わずかに不快臭を感じる。
2:不快臭を感じる。
1:かなり強い不快臭を感じる。
【0103】
<界面活性剤の重量平均分子量の測定>
(実施例1~10及び比較例1~8)
各実施例及び比較例の界面活性剤について重量平均分子量をGPC装置で測定した。具体的には、検出器:RI/HLC-8320GPC(TOSOH製)、カラム:Asahipak GF-510HQ(昭和電工)、粒径5μm、7.5×300mm(内径×長さ(mm))を用い、移動相に溶離液:0.05M-NaNO3水溶液/アセトニトリル=1/1を用いて、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムを標準物質として測定した。
【0104】
【0105】
【0106】