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特開2023-168906分散安定剤、分散安定化方法、および固形物を含有する液状組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168906
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】分散安定剤、分散安定化方法、および固形物を含有する液状組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/244 20160101AFI20231121BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20231121BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20231121BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20231121BHJP
【FI】
A23L29/244
A23L29/269
A23L2/00 A
A23L29/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080289
(22)【出願日】2022-05-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 武彦
(72)【発明者】
【氏名】原山 智子
【テーマコード(参考)】
4B035
4B041
4B117
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE03
4B035LG24
4B035LG27
4B035LP01
4B041LC10
4B041LH08
4B041LH16
4B041LP01
4B117LE03
4B117LE04
4B117LE05
4B117LE08
4B117LG01
4B117LG02
4B117LG06
4B117LG07
4B117LG11
4B117LG24
4B117LK08
4B117LK13
4B117LK30
4B117LL09
4B117LP14
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】十分な分散安定効果が得られると共に、経時的安定性、耐熱性、耐酸性に優れて取扱性が良く、液状組成物に曵糸性および糊状感が抑えられて、良好な食感を有する飲食品が実現可能な分散安定剤、分散安定化方法、および固形物を含有する液状組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る分散安定剤は、固形物を含有する液状組成物における前記固形物の分散安定剤であって、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有することを特徴とする。本実施形態に係る分散安定化方法は、固形物を含有する液状組成物における前記固形物の分散安定化方法であって、前記固形物を含有する前記液状組成物に、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを配合することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形物を含有する液状組成物における前記固形物の分散安定剤であって、
25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有すること
を特徴とする分散安定剤。
【請求項2】
前記低粘性グルコマンナンは、アルカリ条件下で加熱されることでゲル化する性質を有していること
を特徴とする請求項1記載の分散安定剤。
【請求項3】
キサンタンガムをさらに含有すること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の分散安定剤。
【請求項4】
25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有すること
を特徴とする固形物を含有する液状組成物。
【請求項5】
前記低粘性グルコマンナンは、アルカリ条件下で加熱されることでゲル化する性質を有していること
を特徴とする請求項4記載の固形物を含有する液状組成物。
【請求項6】
前記低粘性グルコマンナンを0.01質量%~5.0質量%含有すること
を特徴とする請求項4記載の固形物を含有する液状組成物。
【請求項7】
キサンタンガムをさらに含有すること
を特徴とする請求項4~6のいずれか一項に記載の固形物を含有する液状組成物。
【請求項8】
固形物を含有する液状組成物における前記固形物の分散安定化方法であって、
前記固形物を含有する前記液状組成物に、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを配合すること
を特徴とする分散安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散安定剤、分散安定化方法、および固形物を含有する液状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
固形物を含有する液状組成物(これを、「固形物含有液状組成物」と表記する場合がある)として、柑橘類の果実等のさのう、さのう以外の果肉、野菜、ゼリーやナタデココ等のゲル、不溶性ミネラルその他の固形物を含有する飲食品や、各種の固形物を含有する医薬品、医薬部外品、化粧品、化粧品に含まれない洗剤、化粧品に含まれない芳香剤、塗料、農薬等が知られている。
【0003】
従来、固形物を含有する液状組成物において、固形物を液状組成物中に安定して均一に分散させるための分散安定剤として、特許文献1(特開2001-17129号公報)、特許文献2(特開平8-23893号公報)等に例示されるキサンタンガム、ジェランガム、ペクチン、カラギナン等の増粘多糖類等が検討されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-17129号公報
【特許文献2】特開平8-23893号公報
【特許文献3】特開平9-234004号公報
【特許文献4】特開平4-207174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1、2等に例示される増粘多糖類からなる従来の分散安定剤は、いずれも分散安定効果が十分ではなく、特に経時的な分散安定効果の低下が大きかった。また、例えば、特許文献2によれば、ジェランガムにより所定の分散安定効果を得るには、ジェランガムにカルシウムもしくはナトリウムを混合して形成させたゲルを破壊してゾル状にしたものを作製する必要があり、使用に際して手間がかかる。この他にも、増粘多糖類からなる分散安定剤には、加熱により粘性が変わったり、酸性下では分散安定効果が不安定になったりするものがあり、全体として取扱性が良くなかった。さらには、増粘多糖類によって液状組成物に曵糸性および糊状感が生じてしまうという課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、十分な分散安定効果が得られると共に、経時的安定性、耐熱性、耐酸性に優れて取扱性が良く、液状組成物に曵糸性および糊状感が抑えられて、良好な食感を有する飲食品が実現可能な分散安定剤、分散安定化方法、および固形物を含有する液状組成物を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0008】
本発明に係る分散安定剤は、固形物を含有する液状組成物における前記固形物の分散安定剤であって、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有することを特徴とする。
【0009】
これによれば、低粘性グルコマンナンの微細な膨潤体からなる緻密な骨格構造が固形物を取り込むことで、長期間に亘って、固形物を液状組成物中に安定して均一に分散させることができる。また、低粘性グルコマンナンによれば、通常のグルコマンナンよりも粘性が低くなることから、液状組成物に曵糸性および糊状感が抑えられて、良好な食感を有する飲食品が実現できる。さらに、低粘性グルコマンナンによれば、液状組成物に直接添加することができて使用に手間がかからず、耐酸性および耐熱性にも優れて、取扱性が良い。したがって、例えば、本発明に係る分散安定剤を、炭酸飲料、柑橘類や食酢が配合された飲料や調味料等に添加しても、十分な分散安定効果が発揮される。また、液状組成物の温度に関わらず本発明に係る分散安定剤を添加し、または当該分散安定剤を添加した液状組成物を加熱もしくは冷却しても、十分な分散安定効果が発揮される。
【0010】
また、上記の低粘性グルコマンナンは、キサンタンガムと併用されることによって分散安定効果がより向上する。したがって、本発明に係る分散安定剤は、キサンタンガムをさらに含有するとより好ましい。
【0011】
また、本発明に係る固形物を含有する液状組成物は、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有することを特徴とする。また、前記低粘性グルコマンナンを0.01質量%~5.0質量%含有することがより好ましい。また、キサンタンガムをさらに含有するとより好ましい。
【0012】
また、本発明に係る固形物を含有する液状組成物において、前記液状組成物としては、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、化粧品に含まれない洗剤(例えば、衣類用洗剤、食器用洗剤等の人体以外に使用される洗剤)、化粧品に含まれない芳香剤(例えば、設置型芳香剤等の人体以外に使用される芳香剤)、塗料(顔料、染料を含む)、農薬その他の化成品等が例示される。
【0013】
また、本発明に係る分散安定化方法は、固形物を含有する液状組成物における前記固形物の分散安定化方法であって、前記固形物を含有する前記液状組成物に、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを配合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、十分な分散安定効果が得られると共に、経時的安定性、耐熱性、耐酸性に優れて取扱性が良い分散安定剤が実現できる。また、液状組成物に曵糸性および糊状感を抑えることができ、良好な食感を有する飲食品が実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
先ず、本実施形態に係る分散安定剤は、固形物を含有する液状組成物における前記固形物の分散安定剤である。本願でいう「固形物を含有する液状組成物」とは、固形物が液状組成物中に分散している組成物をいう。したがって、ここでいう「固形物」は、基本的には液状組成物に不溶な固形物をいうが、一部が液状組成物中に固形物として残存するものであれば一部が溶解するものであってもよい。また、固形物の大きさおよび形状は限定されず、一例として、柑橘類の果実等のさのう等のように一個体の形状が視認できる程度の大きさのもの、ミル等によりペースト等に加工された果肉もしくは野菜等のように形状が視認できない程度に細かく小さく加工されたもの、その他、粒状、粉状のもの等を含む。固形物の例としては、食品を例示すると、柑橘類の果実等のさのう、さのう以外の果肉、野菜、ゼリーやナタデココ等のゲル、コーン、タピオカパール、不溶性ミネラル等が挙げられる。
【0017】
また、本願でいう「液状組成物」とは、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、化粧品に含まれない洗剤(例えば、衣類用洗剤、食器用洗剤等の人体以外に使用される洗剤)、化粧品に含まれない芳香剤(例えば、設置型芳香剤等の人体以外に使用される芳香剤)、塗料(顔料、染料を含む)、農薬その他の化成品等を含む。ここでいう「飲食品」とは、飲料および液状の食品をいい、液状の食品の例としては、スープ、汁物、調味料等が挙げられる。また、ここでいう「化成品」とは、化学的な組成または性質を特徴とする製品全般であって液状のものをいう。
【0018】
次に、本実施形態に係る分散安定剤は、コンニャク粉やそこから抽出、精製されたグルコマンナン等の通常のグルコマンナンを改質した改質グルコマンナンであって、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有することを特徴とする。「25℃における1%水溶液の粘度」は、グルコマンナン3.0gを310gの精製水に分散した後、95℃で3分間加熱して最終重量を300gに調整して取得したゾルの25℃における粘度(溶液温度25℃±1℃で1時間静置後に測定した粘度)をいう。粘度の測定には、B型回転粘度計を使用する。ローターの回転数を60rpmとし、回転し始めてから40秒後の測定値とする。使用ローターは、試料の粘度に応じて、粘度が1000mPa・s以上の試料にはNo.3、粘度が500mPa・s以上1000mPa・s未満の試料にはNo.2、粘度が500mPa・s未満の試料にはNo.1のローターを使用した。
【0019】
本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、グルコマンナンを低分子化することによって製造することができる。グルコマンナンとは、グルコースとマンノースとが所定の割合でβ-1,4-グリコシド結合した水溶性多糖類で、コンニャク芋等から抽出、精製される。本実施形態に係るグルコマンナンとしては、コンニャク粉、コンニャク粉のアルコール洗浄品、高純度の精製品等いずれの形態(段階)のものを用いてもよく、これらは市販品を用いればよい。当該グルコマンナンを低分子化する方法は限定されない。例えば、酸加水分解、熱加水分解、粉砕処理、酵素処理等の公知の方法を用いればよい。
【0020】
酸加水分解による方法では、グルコマンナンを酸性溶液中で加熱することにより加水分解し、アルカリにより中和した後に乾燥することによって、低分子化された低粘性グルコマンナンを得ることができる。使用する酸は、クエン酸、リンゴ酸、次亜塩素酸、リン酸、酢酸、塩酸、硫酸等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらのうちから複数種類を使用してもよい。また、使用するアルカリは、クエン酸ナトリウム、重曹、水酸化ナトリウム等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらのうちから複数種類を使用してもよい。さらに、乾燥方法は、熱風乾燥、ドラム乾燥、スプレー乾燥、フラッシュ乾燥、真空凍結乾燥等が挙げられるが、特に限定されるものではなく、スラリーから水分を蒸発させて乾燥物を分離できればよい。得られた乾燥物を、必要に応じて粉砕等により粉末化してもよい。また、乾燥方法は複数種類を使用してもよい。また、スラリーのpH、加熱温度、加熱時間を調整することによって粘度を調整できる。
【0021】
熱加水分解による方法では、乾燥状態のグルコマンナン粉末の状態、水もしくはアルコール水溶液にグルコマンナンを分散したスラリーの状態、または、水にグルコマンナンを溶解した水溶液の状態等で加熱することにより加水分解した後に乾燥することによって、低分子化された低粘性グルコマンナンを得ることができる。乾燥方法は、上記列挙した各方法により行うことができる。
【0022】
粉砕処理による方法では、グルコマンナンを粉砕することによって低分子化された低粘性グルコマンナンを得ることができる。粉砕方法は、ターボミル、カッターミル、ハンマーミル、スタンプミル、ロールミル、ボールミル、ピンミル、ジェットミル、石臼等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらのうちから複数種類を使用してもよい。粉砕処理は加水状態で行うこともでき、粉砕後は、通常の乾燥方法(例えば、スラリーの乾燥方法として上記列挙した各方法)により乾燥させることができる。
【0023】
酵素処理による方法では、グルコマンナンを酵素により分解することによって低分子化された低粘性グルコマンナンを得ることができる。使用する酵素は、マンナナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ペクチナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらのうちから複数種類を使用してもよい。酵素は、使用する酵素の至適条件で作用させることが好ましい。また、必要に応じて処理後のスラリーを前述の酸加水分解法と同様にして乾燥させ、得られた乾燥物を粉砕等により粉末化してもよい。
【0024】
なお、グルコマンナンを低分子化する前後において、グルコマンナン粒子(粉末等)を適宜所定のメッシュサイズの篩や風力によって分級してもよい。分級によればグルコマンナン粒子(粉末等)はその粒子サイズ(粒子径)によって分離されるが、当該分級は分子篩としての効果を所定程度発揮することから、例えば、所定のメッシュサイズの篩を使用して分級することで、グルコマンナンの粘度を微調整できる。したがって、グルコマンナンの低分子化における一工程として分級を実施してもよい。なお、分散安定剤としては、低粘性グルコマンナン粒子(粉末等)が液状組成物に溶解されて使用されることから、低粘性グルコマンナン粒子(粉末等)の粒子径自体は分散安定効果に影響しない。
【0025】
このように、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、通常のグルコマンナンよりも分子量が小さくなっていることが特徴である。低粘性グルコマンナンを水和させると通常のグルコマンナンと同様に膨潤体として水和するが、低粘性グルコマンナンによれば、膨潤体の分子を小さくして、結果的に膨潤体同士の結合は相対的に弱くなる。したがって、従来の増粘多糖類からなる分散安定剤や通常のグルコマンナンと違って、液状組成物に曵糸性や糊状感が生じなくなり、飲食品ではすっきりとした食感が得られるようになる。また、低粘性グルコマンナンによれば、膨潤粒子が微小であることに由来して、緻密な骨格構造を形成する。これが固形物を取り込むことで固形物は沈降したり浮上したりすることなく液状組成物中に安定して均一に分散する。その結果、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンによれば、長期間に亘って固形物を液状組成物中に安定して均一に分散させることができる。
【0026】
上記の作用効果は、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンにあって、発揮され得る。当該粘度が20mPa・sよりも低いと、グルコマンナン膨潤体同士の結合が弱すぎて固形物の分散性が不安定になって固形物は沈降もしくは浮上してしまう。また、当該粘度が800mPa・sよりも高いと、グルコマンナン膨潤体同士の結合が強すぎて曵糸性や糊状感が生じて取扱いにくい液性となり、飲食品では食感が悪くなる。このように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンでないと、十分な分散安定効果ならびに良好な液性および食感が得られない。
【0027】
また、低粘性グルコマンナンによれば、通常のグルコマンナンよりも当然に粘性が低くなることから、液状組成物に曵糸性および糊状感が生じなくなり、特に飲食品ではヌル付きがなくすっきりとして味立ちの良い食感が得られる。さらに、低粘性グルコマンナンによれば、液状組成物に直接添加することができて使用に手間がかからない。また、耐酸性および耐熱性に優れており、例えば、低粘性グルコマンナンを、炭酸飲料、柑橘類や食酢が配合された飲料や調味料等に添加しても、十分な分散安定効果が得られる。また、液状組成物の温度に関わらず低粘性グルコマンナンを添加し、または低粘性グルコマンナンを添加した液状組成物を加熱もしくは冷却しても、十分な分散安定効果が得られる。このように、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、取扱性においても優れている。
【0028】
本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、前述のように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にあるが、より好適には25mPa・s~500mPa・s、さらに好適には30mPa・s~300mPa・sがより好ましい。当該粘度がこの範囲よりも高くなると(800mPa・sを上回ると)、膨潤粒子が大きすぎて緻密な骨格構造を形成できなくなると共に、グルコマンナン膨潤体同士の結合が強すぎて粘性が出てしまって、例えば、飲食品では曵糸性や糊状感が生じてヌル付き重たい食感となって味立ちも悪くなってくる。一方、当該粘度がこの範囲よりも低くなると(20mPa・sを下回ると)、骨格構造を形成するグルコマンナン膨潤体同士の結合が弱すぎて、十分な分散安定効果が得られなくなる。
【0029】
また、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンにおいて、十分な分散安定効果を発揮し得る適度な緻密さと強度とを有する安定した骨格構造が形成可能な物性の有無を示す(粘度の下限値を評価する)一つの基準としては、低粘性グルコマンナンが単独でアルカリによるゲル形成能を有することである。25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンにあっては、アルカリ条件下で加熱されることでゲル化する(表2)。一方、当該粘度が20mPa・sを下回る過度に低粘性のグルコマンナンでは、形成される骨格構造の強度が弱すぎて単独でアルカリによるゲル形成能を有せず、例えば高分子の(高粘性の)通常のグルコマンナン等を所定量混合したりしなければゲル化しない。このような過度に低粘性のグルコマンナンは、分散安定効果を殆ど発揮しない。
【0030】
なお、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、適量のキサンタンガムが併用されることで、骨格構造が適度に補強される。これにより、分散安定効果をより向上させることができる。また、低粘性グルコマンナンによってキサンタンガムの粘性を緩和して、液状組成物の液性および食感も向上させることができる。本実施形態に係る低粘性グルコマンナンとキサンタンガムとの配合割合は、一例として、実施例によれば、低粘性グルコマンナン100質量部に対して、キサンタンガム1質量部~50質量部が好ましく、より好適にはキサンタンガム5質量部~30質量部がより好ましい。
【0031】
本実施形態に係る分散安定剤は、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンの粉末としているが、この形態に限定されない。例えば、低粘性グルコマンナンの粉末を、デキストリン等の賦形剤その他糖類等の結着剤と混合して造粒し、顆粒やペレット等に成形してもよい。また、低粘性グルコマンナンの粉末や成形物を、カプセル等に内包してもよい。また、低粘性グルコマンナンの粉末や成形物を、水等に溶解させたペーストにしたり、貧溶媒に分散させたりしてもよい。こうした形態にすることで、良溶媒の液状組成物に混合した際にダマになりにくくすることができる。また、本実施形態に係る分散安定剤は、本発明の目的を達し得る範囲で、低粘性グルコマンナンの他に、上記のキサンタンガムに例示される他の分散安定剤、上記の造粒に係る賦形剤や結着剤、その他、甘味料、着色料、香料等を含有していてよい。
【0032】
本実施形態に係る固形物を含有する液状組成物における前記固形物の分散安定化方法としては、固形物を含有する液状組成物に本実施形態に係る分散安定剤(すなわち、本実施形態に係る低粘性グルコマンナン)を配合すればよい。より詳しくは、当該分散安定剤を液状組成物に直接添加しこれに混合して溶解させればよい。これによって、液状組成物に含有する固形物の分散安定効果を簡易に得ることができる。液状組成物に分散安定剤および固形物を添加する順序は限定されず、どちらを先後に添加してもよく、同時に添加してもよい。また、固形物および分散安定剤を添加する(混合する)液状組成物は、既に製造されたものでもよく、製造工程における一部の配合成分であってもよい。一部の配合成分とは、例えば、液状組成物を「グラニュー糖が配合された飲料」とすると、配合成分であるグラニュー糖と分散安定剤とを混合し、さらに当該混合物と水その他残りの成分とを混合して、液状組成物である当該飲料を製造するようにしてもよい。このように、液状組成物の製造工程中に分散安定剤および固形物の添加、混合を組み込んでもよい。すなわち、ここでいう「液状組成物に分散安定剤を添加する(混合する)」ことは、液状組成物の製造工程において当該液状組成物の配合成分に分散安定剤を添加する(混合する)ことを含む。
【0033】
また、分散安定剤の添加時に、粉末や成形物の分散安定剤を水等に溶解させてペーストにしたり、貧溶媒に分散させたりしてから液状組成物に添加しこれに混合してもよい。液状組成物の温度調整は必要なく、無調整の液状組成物に添加してよく、逆に添加する前後において液状組成物を加熱したり、冷却したりしてもよい。また、分散安定剤を溶解させる方法も限定されず、手撹拌等による比較的弱い攪拌、ホモミキサー等の乳化機等による比較的強い攪拌等、適宜選択して行えばよい。
【0034】
続いて、本実施形態に係る固形物含有液状組成物は、本実施形態に係る分散安定剤(本実施形態に係る低粘性グルコマンナン)が、上記のようにして固形物含有液状組成物に配合されたものであり、当該分散安定剤(当該低粘性グルコマンナン)を含有することを特徴とする。固形物含有液状組成物における分散安定剤(低粘性グルコマンナン)の配合量(割合)は含有量(割合)にほぼ一致し、実施例によれば、本実施形態に係る固形物含有液状組成物は、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンを0.01質量%~5.0質量%含有することが好ましい。少なくともこの範囲においては、固形物の十分な散安定効果が確実に得られると共に、液状組成物の良好な物性、特に飲食品の良好な食感が得られる。また、当該低粘性グルコマンナンを、より好適には0.03質量%~5.0質量%、より好適には0.1質量%~3.0質量%、さらに好適には0.2質量%~3.0質量%含有することが好ましい。
【0035】
ここで、本実施形態に係る固形物含有液状組成物の一形態として、固形物を含有する飲食品であることが好ましい。固形物を含有する飲食品には、例えば、オレンジのさのうを含有する果肉(さのう)入りオレンジ飲料、さのう以外の果肉や野菜を含有する果肉入り飲料や野菜入り飲料、ゼリーを含有するゼリー入り飲料、ホールコーンを含有するコーンポタージュ、タピオカパールを含有するタピオカ入り飲料、不溶性カルシウムを含有するカルシウム入り飲料、ごまを含有するごまドレッシング等が含まれる。本実施形態に係る固形物含有飲食品によれば、低粘性グルコマンナンの作用より、これらの固形の食品を飲食品中に安定して均一に分散できると共に、曵糸性および糊状感がなく、ヌル付きがなくすっきりとして味立ちの良い食感が得られる。
【0036】
また、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは耐酸性に優れることから、液状組成物としての飲食品には、各種の炭酸飲料や、ビール、発泡酒等の各種の発泡性飲料のような、ガスの注入や微生物による発酵等によって含気される含気性飲料も好適に適用できる。本実施形態に係る固形物含有飲食品を、各種の固形の食品を含有する含気性飲料として、これらの固形の食品を含気性飲料中に安定して均一に分散できる。
【0037】
また、本実施形態に係る固形物含有液状組成物の一形態として、固形物を含有する化粧品であることが好ましい。固形物を含有する化粧品には、例えば、ビタミンカプセルや機能性成分含有カプセルを含有する液状化粧品等が含まれる。本実施形態に係る固形物含有化粧品によれば、低粘性グルコマンナンの作用により、これらのカプセル等を化粧品中に安定して均一に分散できると共に、曵糸性および糊状感がなく、ヌル付きがない液性が得られる。
【0038】
その他にも、本実施形態に係る固形物含有液状組成物の一形態として、固形物を含有する、医薬品、医薬部外品、化粧品に含まれない洗剤(例えば、衣類用洗剤、食器用洗剤等の人体以外に使用される洗剤)、化粧品に含まれない芳香剤(例えば、設置型芳香剤等の人体以外に使用される芳香剤)、塗料(顔料、染料を含む)、農薬等も好適に適用できる。
【実施例0039】
精製コンニャク粉である通常のグルコマンナン(伊那食品工業(株)製、「イナゲル マンナン100A」(イナゲルは、登録商標。以下、同じ))(マンナン1)、当該グルコマンナンをそれぞれ所定程度に低粘性化(低分子化)した低粘性グルコマンナン(マンナン2-18:粘度が比較的高いものも含まれているが、ここでは通常のグルコマンナンよりも低粘性化したという趣旨で、便宜的に「低粘性グルコマンナン」と総称する)、または公知の分散安定剤を配合して、固形物含有液状組成物を製造した。公知の分散安定剤としては、キサンタンガム(伊那食品工業(株)製、「イナゲル V-10」)、カラギナン(伊那食品工業(株)製、「イナゲル V-120」)、LAジェランガム(伊那食品工業(株)製、「イナゲル GP-10」)、LMペクチン(伊那食品工業(株)製、「イナゲル JM-15」)を用いた。
【0040】
(グルコマンナンの低粘性化(低分子化))
マンナン2-11は、マンナン1を酸加水分解により低分子化したものを分級して得た。すなわち、50%アルコール水溶液にマンナン1を分散させてスラリーを取得し、これにクエン酸を添加して酸性に調整し、加熱した後、クエン酸ナトリウムを添加して中和した。その後、スラリーを熱風乾燥させたものを、200メッシュ(目開き77μm)の篩により分級して、マンナン2-11を得た。
マンナン2-11は、酸加水分解処理におけるpH条件(スラリーを酸性に調整する際のpH)および加熱条件(加熱温度および加熱時間)を変更することにより、それぞれ粘度の異なる低粘性グルコマンナンに製造した。
それぞれに設定した具体的条件は、以下の通りである。
マンナン2 pH:4.5 加熱条件:90℃で2時間
マンナン3 pH:5.5 加熱条件:80℃で2時間
マンナン4 pH:5.0 加熱条件:75℃で3時間
マンナン5 pH:5.0 加熱条件:80℃で3時間
マンナン6 pH:4.5 加熱条件:85℃で2時間
マンナン7 pH:4.0 加熱条件:80℃で2時間
マンナン8 pH:4.0 加熱条件:70℃で4時間
マンナン9 pH:3.5 加熱条件:65℃で1時間
マンナン10 pH:2.5 加熱条件:55℃で1時間
マンナン11 pH:2.5 加熱条件:55℃で2時間
【0041】
マンナン12は、マンナン1を石臼により粉砕し、200メッシュの篩により分級して得た。
【0042】
マンナン13は、マンナン1を酵素処理により低分子化したものを分級して得た。すなわち、50%アルコール水溶液にマンナン1を分散させてスラリーを取得し、これにマンナナーゼを添加して40℃で1時間加熱した。スラリーを熱風乾燥させたものを、200メッシュの篩により分級して、マンナン13を得た。
【0043】
マンナン14-18は、マンナン1を酸加水分解により低分子化したものを分級して得た。すなわち、50%アルコール水溶液にマンナン1を分散させてスラリーを取得し、これにクエン酸を添加してpH4.5に調整し、90℃で2時間加熱した後、クエン酸ナトリウムを添加して中和した。その後、スラリーを熱風乾燥させたものを、ジェットミルにより粉砕した後、篩により分級して、マンナン14-18を得た。
マンナン14-18は、酸加水分解処理におけるpH条件および加熱条件については上記の設定に合わせ、一方、篩のメッシュサイズを変更することにより、それぞれ粘度の異なる低粘性グルコマンナンに製造した。
それぞれに使用した篩は、以下の通りである。
マンナン14 メッシュサイズ 80(目開き178μm)
マンナン15 メッシュサイズ100(目開き154μm)
マンナン16 メッシュサイズ180(目開き 91μm)
マンナン17 メッシュサイズ300(目開き 45μm)
マンナン18 メッシュサイズ400(目開き 34μm)
【0044】
(グルコマンナンおよび低粘性グルコマンナンの粘度)
表1に、マンナン1およびマンナン2-18の粘度を、粒子径と共に示す。表中の「1%粘度」は、本実施形態の説明において説明した「25℃における1%水溶液の粘度」を表す。また、表中の「粒子径」は、レーザー回折型粒度分布測定法により測定される粒度分布における体積平均粒子径(MV:Mean Volume Diameter)、すなわちレーザー回折型粒度分布測定法により測定される体積基準の粒度分布における算術平均径を表す。
【0045】
【表1】
【0046】
(低粘性グルコマンナンのゲル化能)
表1に示す低粘性グルコマンナンのうち、最も粘度の低いマンナン8-11について、アルカリ条件下でのゲル化能の有無を確認した。確認方法は、先ず、マンナンを水に分散させた後、水に溶かした水酸化カルシウムを混合して、最終的に、マンナン:5質量%、水酸化カルシウム:0.25質量%、水:残部(合計:100質量%)に調整した。当該調整液を容器に流し込み、容器ごと90℃で1時間加熱を行い、冷却後にゲル化したか否か確認した。
【0047】
なお、参考として、マンナン8-11について、25℃における2%水溶液の粘度(グルコマンナン6.0gを310gの精製水に分散した後、95℃で3分間加熱して最終重量を300gに調整して取得したゾルの25℃における粘度)、および25℃における3%水溶液の粘度(グルコマンナン9.0gを310gの精製水に分散した後、95℃で3分間加熱して最終重量を300gに調整して取得したゾルの25℃における粘度)も測定した。測定方法は、本実施形態の説明において説明した「25℃における1%水溶液の粘度」の測定方法と同じ方法で行った。表2に、結果を1%水溶液の粘度と共に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s以上のマンナン8、9はゲル化したが、当該粘度が15mPa・sのマンナン10および当該粘度が4mPa・sのマンナン11はゲル化しなかった。なお、マンナン8、9よりも粘性の高い(分子量の大きい)マンナン1-7、12-18は当然にアルカリ条件下でのゲル化能を有すると考えられる。
【0050】
(固形物含有液状組成物の評価方法)
製造した固形物含有液状組成物の評価方法は、以下の通りである。
【0051】
分散安定効果:固形物含有液状組成物の分散安定効果を、目視により下記の基準で評価した。
A:固形物は液状組成物中に均一に分散して安定している。
(沈殿物の量が固形物全体の5%以下である。)
B:固形物はAに比べて若干の沈降があるが製品品質上問題ない程度である。
(沈殿物の量が固形物全体の5%を超えて20%以下ある。)
C:固形物はBに比べて沈降があるが製品品質上問題ない下限程度である。
(沈殿物の量が固形物全体の20%を超えて35%以下である。)
D:固形物は沈降している。
(沈殿物の量が固形物全体の35%を超えて65%以下である。)
E:固形物の沈殿が激しい。
(沈殿物の量が固形物全体の65%を超えている。)
【0052】
食感:固形物含有液状組成物が固形物含有飲食品である場合、これを飲食して、下記の基準で食感を評価した。評価は10名のパネラーが独立して行った。最も多かった評価を評価結果とした。
A:曵糸性や糊状感がなく飲食しやすい。
B:若干の曵糸性や糊状感があるが製品品質上問題ない程度である。
C:Bよりも曵糸性や糊状感があるが製品品質上問題ない下限程度である。
D:曵糸性や糊状感があり好ましくない。
【0053】
液性:固形物含有液状組成物が飲食できない固形物含有化成品である場合、これに手で触れて、下記の基準で液性を評価した。評価は10名のパネラーが独立して行った。最も多かった評価を評価結果とした。
A:曵糸性や糊状感がない。
B:若干の曵糸性や糊状感があるが製品品質上問題ない程度である。
C:Bよりも曵糸性や糊状感があるが製品品質上問題ない下限程度である。
D:曵糸性や糊状感があり好ましくない。
【0054】
(試験1)
分散安定剤を表4に示すグルコマンナン、低粘性グルコマンナン、または公知の分散安定剤として、表3に示す配合(以下の全表で、配合の単位は[質量%])にて固形物含有液状組成物として果肉入り飲料を作製した。水に結晶クエン酸、クエン酸ナトリウム、グラニュー糖、および表4に示す各分散安定剤を溶解後、一辺約3mmの立方体にカットした白桃を添加して、果肉入り飲料を作製した。作製した果肉入り飲料を必要数のスタンドパックにそれぞれ充填して密封し、85℃で30分間の加熱殺菌を行った。その後、10日間室内にて保存した。作製直後、加熱殺菌後、および10日後の果肉の分散安定効果(以下の全表で、単に「分散」と表記する)を評価すると共に、果肉入り飲料の食感を評価した。結果を表4に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
表4に示すように、公知の分散安定剤であるキサンタンガム(比較例1)、カラギナン(比較例2)、LAジェランガム(比較例3)、LMペクチン(比較例4)を配合したものでは、製造直後は果肉を飲料中に均一に分散させることができたものの、当該分散安定効果は、加熱殺菌後にやや低下し、10日後には殆ど消失した。また、これらいずれも食感が悪かった。
【0058】
これに対して、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを配合したものでは(実施例1-14)、果肉を飲料中に均一に分散させることができ、食感も問題なかった。また、これらの分散安定効果および食感は10日後も低下することなく維持された。このうち、粘度が25mPa・s~500mPa・sの範囲では(実施例1、3-6、8-14)、より高い分散安定効果および良好な食感が得られた。また、粘度が30mPa・s~300mPa・sの範囲では(実施例1、4、5、8-14)、さらに高い分散安定効果および良好な食感が得られた。一方、粘度が800mPa・sを超えるものでは(比較例5、6)、食感が悪くなり、粘度が20mPa・sを下回るものでは(比較例7、8)、分散安定効果が得られなかった。
【0059】
(試験2)
表5に示す配合にて固形物含有液状組成物としてゲル入り飲料を試験1に準じた方法で作製した。水に、固形物であるゲル以外の残り全ての配合成分を溶解後、ゲルとしてゲル1を添加して、ゲル入り飲料を作製した。なお、ゲル1は、特許文献3(特開平9-234004号公報)に記載された方法によって製造した同文献の実施例に係る乾物を水で戻したゲル小片である。作製したゲル入り飲料を必要数のスタンドパックにそれぞれ充填して密封し、85℃で30分間の加熱殺菌を行った。その後、10日間室内にて保存した。作製直後、加熱殺菌後、および10日後のゲルの分散安定効果を評価すると共に、ゲル入り飲料の食感を評価した。結果を表6に示す。
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
試験1では、粘度の異なる複数の低粘性グルコマンナンをそれぞれ一定の配合量(割合)で配合したのに対して、試験2では、25℃における1%水溶液の粘度が107mPa・sである低粘性グルコマンナン(マンナン2)をそれぞれ異なる配合量(割合)で配合した。表6に示すように、当該低粘性グルコマンナンを固形物含有液状組成物であるゲル入り飲料に0.01質量%~5.0質量%配合したもの(含有させたもの)では(実施例15-20)、いずれもゲルを飲料中に均一に分散させることができ、食感も問題なかった。また、これらの分散安定効果および食感は10日後も殆ど低下することなく維持された。このうち、配合量が0.03質量%~5.0質量%の範囲では(実施例16-20)、より高い分散安定効果および良好な食感が得られた。また、配合量が0.2質量%~3.0質量%の範囲では(実施例17-20)、さらに高い分散安定効果および良好な食感が得られた。
【0063】
(試験3)
液状組成物を表8に示す各液状組成物として、表7に示す配合にて固形物含有液状組成物として各種のゲル入り液状組成物を作製した。表8に示す各液状組成物にマンナン7を溶解後、ゲルとしてゲル3を添加して、各種のゲル入り液状組成物を作製した。なお、ゲル3は、寒天粉末(伊那食品工業製、「かんてんクック」(登録商標))を1.0質量%濃度で水に溶解して常法で作製した寒天ゼリーを一辺約3mmの立方体にカットしたものである。
【0064】
作製したゲル入り液状組成物のうち、非発泡性の液状組成物については、必要数のスタンドパックにそれぞれ充填して密封し、62℃で30分間の加熱殺菌を行った後、10日間冷蔵保存した。一方、発泡性の液状組成物については、必要数の缶にそれぞれ充填して密封した後、10日間冷蔵保存した。作製直後、加熱殺菌後、および10日後のゲルの分散安定効果を評価すると共に、ゲル入り液状組成物の食感または液性を評価した(なお、加熱殺菌を行わない発泡性の液状組成物については、非発泡性の液状組成物の加熱殺菌後のタイミングに合わせて評価した)。結果を表8に示す。
【0065】
【表7】
【0066】
【表8】
【0067】
表8に示すように、いずれの液状組成物においてもゲルを均一に分散させることができ、食感および液性も良好であった。また、これらの分散安定効果、食感および液性は10日後も低下することなく維持された。
【0068】
(試験4)
固形物を表10に示す各固形物として、表9に示す配合にて固形物含有液状組成物として各種の固形物入り飲料を作製した。水に、固形物以外の残り全ての配合成分を溶解後、表10に示す各固形物を添加して、各種の固形物入り飲料を作製した。
【0069】
なお、表10に示す固形物のうち、白桃は試験1の白桃である。さのうは温州みかんのさのうである。人参は一辺約2mmの立方体にカットした人参である。ゲル1は試験2のゲル1であって、前述の通り特許文献3(特開平9-234004号公報)に記載された方法によって製造した同文献の実施例に係る乾物を水で戻したゲル小片である。ゲル2は、特許文献4(特開平4-207174号公報)に記載された方法によって製造した同文献の実施例1に係る乾物を水で戻したゲル小片である。ゲル1は、ゲル化剤である寒天に複数の多糖類が配合された弾力性を有するゲルである。一方、ゲル2は、高融点寒天からなり高温でも溶けにくく型崩れしにくいゲルである。ゲル3は試験3のゲル3であって、前述の通り市販の調理用寒天粉末を用いて常法で作製した寒天ゼリーである。タピオカパールは市販の小サイズのものである。不溶性カルシウムはリン酸一水素カルシウムである。コーンは市販のホールコーンである。ごまは市販の煎りごまである。
【0070】
作製した固形物入り飲料を必要数のスタンドパックにそれぞれ充填して密封し、85℃で30分間の加熱殺菌を行った。その後、10日間室内にて保存した。作製直後、加熱殺菌後、および10日後の固形物の分散安定効果を評価すると共に、固形物入り飲料の食感を評価した。結果を表10に示す。
【0071】
【表9】
【0072】
【表10】
【0073】
表10に示すように、いずれの固形物も飲料中に均一に分散させることができ、食感および液性も良好であった。また、これらの分散安定効果、食感および液性は10日後も低下することなく維持された。
【0074】
(試験5)
表11に示す配合にて固形物含有液状組成物としてコーン入り飲食品を試験1に準じた方法で作製した。水に、固形物であるコーン以外の残り全ての配合成分を溶解後、コーンとして市販のホールコーンを添加して、コーン入り飲食品を作製した。作製したコーン入り飲食品を必要数のスタンドパックにそれぞれ充填して密封し、85℃で30分間の加熱殺菌を行った。その後、10日間室内にて保存した。作製直後、加熱殺菌後、および10日後のコーンの分散安定効果を評価すると共に、コーン入り飲食品の食感を評価した。結果を表12に示す。
【0075】
【表11】
【0076】
【表12】
【0077】
表12に示すように、分散安定剤として、25℃における1%水溶液の粘度が21mPa・sである低粘性グルコマンナン(マンナン9)100質量部に対して、キサンタンガム1質量部~50質量部を併用して含有させることで、コーンの分散安定効果は、当該低粘性グルコマンナン単独の場合(実施例45)と比較して向上した(実施例46-49)。分散安定効果および食感をみると、表12の結果から、低粘性グルコマンナン100質量部に対して、キサンタンガム5質量部~30質量部を併用して含有させるとより好ましいと言える(実施例47、48)。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形物含有液状組成物における固形物の均一な分散状態を維持して沈降および浮上を防止する分散安定剤であって、
25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有すること
を特徴とする分散安定剤。
【請求項2】
前記低粘性グルコマンナンは、アルカリ条件下で加熱されることでゲル化する性質を有していること
を特徴とする請求項1記載の分散安定剤。
【請求項3】
キサンタンガムをさらに含有すること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の分散安定剤。
【請求項4】
請求項1記載の25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有する分散安定剤を含有すること
を特徴とする固形物含有液状組成物。
【請求項5】
前記低粘性グルコマンナンは、アルカリ条件下で加熱されることでゲル化する性質を有していること
を特徴とする請求項4記載の固形物含有液状組成物。
【請求項6】
前記低粘性グルコマンナンを0.01質量%~5.0質量%含有すること
を特徴とする請求項4記載の固形物含有液状組成物。
【請求項7】
キサンタンガムをさらに含有すること
を特徴とする請求項4~6のいずれか一項に記載の固形物含有液状組成物。
【請求項8】
固形物を含有する液状組成物における前記固形物の均一な分散状態を維持して沈降および浮上を防止する分散安定化方法であって、
前記固形物を含有する前記液状組成物に、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを配合すること
を特徴とする分散安定化方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明に係る分散安定剤は、固形物含有液状組成物における固形物の均一な分散状態を維持して沈降および浮上を防止する分散安定剤であって、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有することを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
また、本発明に係る固形物含有液状組成物は、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有する本発明に係る分散安定剤を含有することを特徴とする。また、前記低粘性グルコマンナンを0.01質量%~5.0質量%含有することがより好ましい。また、キサンタンガムをさらに含有するとより好ましい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
また、本発明に係る分散安定化方法は、固形物を含有する液状組成物における前記固形物の均一な分散状態を維持して沈降および浮上を防止する分散安定化方法であって、前記固形物を含有する前記液状組成物に、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを配合することを特徴とする。