(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016892
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】病的神経変性及び加齢性認知機能低下の特定及び処置のための方法及び系
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230126BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230126BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230126BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20230126BHJP
C07K 16/24 20060101ALI20230126BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230126BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230126BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20230126BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20230126BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20230126BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/28
C07K16/28 ZNA
C07K16/18
C07K16/24
C12N15/113 Z
C12N15/113 120Z
C12N15/113 140Z
C07K14/47
C12Q1/06
G01N33/68
C12P21/08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188683
(22)【出願日】2022-11-25
(62)【分割の表示】P 2020543613の分割
【原出願日】2019-02-13
(31)【優先権主張番号】62/630,129
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513268380
【氏名又は名称】シーダーズ―シナイ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ウィーラー、クリストファー
(57)【要約】
【課題】病的神経変性を含む加齢性認知機能低下の診断、予防、及び/又は治療のための組成物、並びにこの組成物を使用する診断法、予防法、及び/又は治療法の提供。
【解決手段】加齢性神経変性又は認知機能疾患の一方又は両方を診断、予防、及び治療するための方法及び系を提供する。リスクがある高齢の対象、軽度認知障害の対象、及び/又は病的神経変性を有する対象を認知機能低下から防護する、且つ/又はその認知機能低下の重症度を低下させる方法であって、CD8+常在性メモリーT細胞のエフェクター分子の阻害剤であるCD103阻害剤、及び/又は免疫寛容原性ワクチンを投与することを含む上記方法を提供する。加齢性神経変性になりやすい、又はなっている対象を特定するための方法であって、CD103+常在性メモリーT細胞のレベル上昇を検出することを含む上記方法を提供する。CD103+CD8+常在性メモリーT細胞を収集及び定量するためのキットを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本開示に実質的に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2018年2月13日に出願された米国仮特許出願第62/630129号に対する優先権をアメリカ合衆国特許法第119条(e)の下で主張するものであり、この仮特許出願の内容全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
発明の分野
本発明は、加齢性神経変性又は病的神経変性の診断、予防、及び治療に関する。
【背景技術】
【0003】
加齢は複数の疾患の発症及び/又は進行の一因であるが、加齢が個々の疾患の動態に影響する具体的な態様は大部分が謎のままである。慢性炎症は加齢性疾患の重要な寄与因子として認識されることが増えており、それらの疾患には癌、循環器疾患、癌、並びに卒中、外傷、及び神経変性などの神経症状が含まれる。
【0004】
T細胞は体全体における炎症の主な調節因子であり、それらの誤調節により慢性炎症が助長される。CD8+T細胞は、特に末梢T細胞プールが枯渇してこれらの細胞が恒常性増殖を起こした際に、自己破壊能を獲得する場合がある。そのような枯渇は、加齢中に新規T細胞を産生しながら胸腺の退縮により徐々に起こるか、又はストレス、外傷、若しくは感染症に起因してより急速に起こる。加齢性T細胞増殖は、ヒトでは中年期の後期まで続き、且つ、どこでも生じるため、自然の老化プロセスの代わりに病理学的な因子が異常T細胞増殖に関与するのかを研究することが難しくなっている。また、異常加齢性T細胞増殖は、げっ歯類実験動物では比較的に稀であり、あったとしてもその機能的な影響は加齢中のげっ歯類動物では持続的な胸腺活性によって相殺されることが多い。
【0005】
リンパ球が減少している宿主へT細胞を導入すると、それらの宿主では直ぐに恒常性増殖が起こり、げっ歯類実験動物ではそれにより生じた細胞により人為的自己免疫が亢進する場合がある。それにもかかわらず、このより急速な増殖と加齢性T細胞異常との関係性はあまり明確ではなく、認識可能な加齢性疾患がこの関係性により助長されることはほとんどの場合で知られていない。
【0006】
異常CD8+T細胞クローンは特に大半の加齢中のヒトにおいて増殖する一方、加齢中のマウスではこのプロセスは代償的プロセスによって相殺される。また、メモリーCD8+T細胞の変化はマウスモデルとヒトアルツハイマー病との間で観察される明白な生理学上の違いの中にも入っており、これらの細胞はマウスモデルでは減少し、ヒトアルツハイマー病では増加する。また、メモリーCD8+T細胞はアルツハイマー病患者の循環系及び/又は中枢神経系(CNS)において増加することが近年の研究により説得力を持って示されている。これらの増加は、他のT細胞の顕著な変化を伴うことが一般的であるが、これらの増加はタウオパチー及び/又は認知機能低下とより強力に相関する傾向がある。したがって、加齢性恒常性増殖とその増殖により生じる異常メモリーCD8+T細胞は、アルツハイマー病の全病態に対する抵抗性に影響し得るマウスの未知の生理学的因子である可能性がある。しかしながら、このことを検討することは、健康なヒトでは異常加齢性CD8+T細胞が広範に存在すること、マウスではこれらの細胞が希少であること、及び全ての種において他の加齢の特徴と共にこれらの細胞が生じることのために困難なままとなっている。
【0007】
したがって、本発明の目的の一つは、病的神経変性を含む加齢性認知機能低下の診断、予防、及び/又は治療のための組成物、並びにこの組成物を使用する診断法、予防法、及び/又は治療法を提供することである。
【0008】
また、インビトロ系又はげっ歯類動物モデルにおいてヒト認知機能低下の候補治療薬、予防薬、及び/又は診断薬をスクリーニングするための組成物、及びこの組成物を使用するスクリーニング方法を提供することも本発明の目的の一つである。
【0009】
本明細書内の全ての刊行物は、それぞれ個々の刊行物又は特許出願が参照により援用されると具体的及び個別に示された場合と同じ程度で参照により援用される。以下の記述には本発明の理解に有用であり得る情報が含まれている。このことは、本明細書において提供される情報のうちのいずれかが先行技術である、又は本出願で請求する発明に関連するということを認めるものでなければ、具体的又は明示的に参照される刊行物のいずれかが先行技術であることを認めるものでもない。
【発明の概要】
【0010】
以下の実施形態及びそれらの態様を組成物及び方法と併せて説明及び例示するが、それらは代表及び例示を意味し、発明の範囲を限定することを意味しない。
【0011】
リスクがある高齢の対象、軽度認知障害の対象、及び/又は病的神経変性を有する対象を認知機能低下から防護する且つ/又は認知機能低下の重症度を低下させるために、CD103阻害剤、CD8+TRM(CD8+常在性メモリーT細胞)のエフェクター分子阻害剤、及び/又は免疫寛容原性ワクチンを投与することを含む方法を提供する。様々な実施形態において、CD8+TRMはアミロイド前駆タンパク質(APP)又はAPPペプチドに対して反応性又は特異的であり得る。本方法の一態様によると、CD103阻害剤、パーフォリン1阻害剤、インターフェロンγ(IFNγ)阻害剤、及び/又はAPPペプチドを含むワクチンを投与することにより、上記1種類若しくは複数種類の阻害剤又は1種類のワクチンの投与前と比較して、又は上記1種類又は複数種類の阻害剤が投与されていない対照被検者と比較して、APP又はAPPペプチドへのCD8+TRMの結合又は反応を抑制することが可能である。
【0012】
これらの阻害剤には、抗体若しくは抗体の断片、小分子、又は核酸が含まれる。幾つかの実施形態では、阻害剤は、2G5.1、マウス抗ヒトIgG2aモノクローナル抗体、又は2G5.1のヒト化抗体などの抗CD103抗体であり得る。他の実施形態では、阻害剤は、パーフォリン1又はインターフェロンγを阻害し得る。幾つかの実施形態では、免疫寛容原性ワクチンはアミロイド前駆タンパク質又はそのペプチドを含み得る。
【0013】
アルツハイマー病を含む加齢性神経変性になりやすい、又はなっている対象を特定するための方法であって、血液中のCD103陽性常在性メモリーT細胞(TRM)のレベル上昇を検出することを含み得る上記方法が提供される。
【0014】
記憶障害の治療前、治療中、及び/又は治療と治療の間に、対象がCD103陽性CD8+TRMを収集し、定量するための試料収集装置と、所望により操作マニュアルと、を含むキットが提供される。
【0015】
ヒト認知機能低下又は加齢性神経変性の候補治療薬、予防薬、及び/又は診断薬を特定及び/又はスクリーニングするための系であって、げっ歯類動物(例えばマウス)から得られるCD44hiCD123+CD127hiKLRG1+CD103+常在性メモリーCD8+T細胞表現型を含み得る上記系が提供される。幾つかの実施形態では、このCD44hiCD123+CD127hiKLRG1+CD103+常在性メモリーCD8+T細胞表現型は、胸腺欠損マウスに常在性メモリーCD8+T細胞を投与することによって取得可能である。
【0016】
ヒトでの加齢性神経変性の治療又は予防のための候補薬剤を特定及び/又はスクリーニングする方法は、その候補薬剤をインビトロで上記CD44hiCD123+CD127hiKLRG1+CD103+常在性メモリーCD8+T細胞と接触させて、又は上記CD44hiCD123+CD127hiKLRG1+CD103+常在性メモリーCD8+T細胞を含むモデル動物にその候補薬剤を投与してCD103陽性常在性メモリーCD8+T細胞の減少レベル、それらの細胞のエフェクター分子の減少レベル、又は上記動物の末梢系から脳へのCD8+T細胞の移動量の減少を特定することを含み得る。
【0017】
本発明の実施形態の様々な特徴を例として示す添付図面と併せて以下の詳細な説明から本発明の他の特徴及び利点が明らかになる。
【0018】
参照図面に例となる実施形態を例示する。本明細書において開示される実施形態と図面は限定よりも例示としてみなされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】
図1A~
図1Gは、
hiT細胞が、加齢関連常在性メモリー表現型(
hiT
RM)を示すことを示している図である。
図1A~
図1Dは脾臓標本での結果であり、
図1E~
図1Gは脳の分析の結果である。若齢(10週間未満)及び高齢(12か月超)のC57BL/6(B6)、(それぞれ「若齢B6」及び「高齢B6」と表示される)、並びにCD8+T細胞の静脈内注入から3~5週間後の若齢(6週間)のB6.Foxn1レシピエント(「CD8→B6.Foxn1」と表示される)に由来する脾臓CD8+T細胞に対する加齢性マーカーの代表的なフローサイトメトリー分析を示す図(
図1A)。群当たり6匹以上のマウスから集められたフローサイトメトリーに由来するリンパ球のパーセンテージ(
図1B)と、平均蛍光強度(
図1C及び
図1D)を示す図。「多様な」TCRVβ鎖D→J遺伝子セグメント利用(脳当たり3を超えるセグメント)を有し、且つ、若齢(<10週間、「若齢B6」と表示される)、中齢(6か月、「中齢B6」と表示される)、及び高齢(12か月超、「高齢B6」と表示される)のB6マウスの脳内で特定のD→Jセグメントを有するマウスの割合は、進行的な多様性の減少と特定のD→Jセグメント利用の増加という年齢依存的パターンを表している(すなわち、クロナリティー;
図1E及び1F;各図の下の左から右へ定義されている順序でカラムが出現している)。D→J多様性とセグメント利用は高齢のB6の脳と若齢のCD8→B6.Foxn1の脳との間でのみ有意に相関した(
図1G)。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.005。フローサイトメトリーマーカーについては3回以上の独立した試験で群当たり5匹以上のマウスで両側t検定による。PCRコンピレーションについては群当たり10匹以上のマウスでピアソンの相関による。
【
図1H】
図1H~
図1Kは、アミロイド前駆タンパク質(APP)欠損B6.Foxn1マウスにおけるドナー細胞の増殖を示している図である。雌C57BL/6又は類遺伝子性ノックアウト宿主に由来する精製済みCD8+T細胞を8~10週齢の雌B6.Foxn1レシピエント、B6.Foxn1-AppKOレシピエント、又はB6.CD45.1類遺伝子性レシピエントに注入した(
図1H)。示されているような(
図1I)ゲート設定とT細胞マーカーに対する抗体を使用して3日後にフローサイトメトリーにより血液を分析し、ゲート内の細胞中のCD3ε
+CD8
+細胞の割合(%)を(
図1J)にまとめた。B6.Foxn1マウスをB6.App-ノックアウトマウスに交配し、ジャクソン・ラボラトリーズ(バーハーバー、メイン州)においてPCRと表現型によりホモ接合性二重変異体(B6.Foxn1-AppKO)を確認し、そしてB6.Foxn1雌レシピエント及びB6.Foxn1-AppKO雌レシピエントにおいてCFSE希釈によりCD8+T細胞増殖を評価した(
図1K;n=3匹のB6.Foxn1とn=5匹のB6.Foxn1-AppKO;3回の独立した試験での両側t検定により
*P<0.04、
***P<0.00001;全てのマーカーについての3回以上の独立した試験においてn≧5匹マウス/群)。
【
図2A】
図2A~
図2Eは、
hiT
RMが自己抗原に反応し、選択的に脳に侵入すること(すなわち、ヌードマウスへの移入後の脳CD8+T細胞表現型)を示している図である。B6.Foxn1レシピエントにおける脳リンパ球とCD8+T細胞のライトスキャッターとゲート設定を示す図(
図2A)。注入から3日後(
図2B)と10週間後(
図2C)のB6.Foxn1レシピエントにおける脳リンパ球内のCFSE
+CD8+T細胞のパーセンテージと表現型を示す図。注入から10週間後のB6.Foxn1レシピエントの脳(
図2D及び
図2E)と脾臓(
図2E)のKLRG1
+CD8+T細胞上のTrp-2-DCT
(180-188)/H-2K
bエピトープとAPP
(470-478)/H-2D
bエピトープに対するpMHC Iマルチマー(バージニア州フェアファックスのImmudex USAにより合成されたカスタムデクストラマー)を用いた染色の増強を示す図(3回以上の独立した試験での両側t検定により
*P<0.05;全ての分析についてn>6匹であり、PBS群と比べて有意性を有した)。
【
図2F】
図2F~
図2Jは、
hiT
RMの誘導により脳においてCD8とアミロイド前駆タンパク質(APP)/Abが増加すること(すなわち、T細胞マーカーとアミロイドマーカーのPCRとウエスタン分析)を示している図である。TCRVβ鎖のD1→J1遺伝子セグメント(
図2F)とD2→J2遺伝子セグメント(
図2G)のPCRにより若齢及び高齢のC57BL/6(B6)では多様なT細胞レパートリーが示されたが10週間後のCD8+T細胞のB6.Foxn1レシピエント(CD8→B6.Foxn1)では限定的なTCRVβ鎖多様性が示された。B6.Foxn1マウスでは野生型CD8+T細胞が以前に注入されていない場合では脳に再構成された(すなわち、生殖系列「G」のみを含むことが視覚的に確認された)TCR産物が無かった(
図2F及び
図2G;注記:セグメントJ2.6は偽遺伝子である)。若齢(5か月未満)のC57BL6(B6)、及び若齢(6~8週間)のB6ドナーに由来するCD8+T細胞の養子移入を10週間にしたB6.Foxn1宿主と養子移入していないB6.Foxn1宿主の切り出された脳の海馬におけるCD8αのウエスタンブロット(抗体クローン2.43;
図2H)及びβ-アミロイドのウエスタンブロット(抗体クローン4G8;
図2I)を示す図。CD8タンパク質はB6では非常に低いレベルで検出可能であるが、B6.Foxn1では野生型CD8=T細胞を10週間前に注入していないと検出不可能である。「Ref」=同分析の対象とした6~10週齢の雌C57BL/6脾臓DNA又は細胞溶解物。
図2Jは試験のタイムラインを示している。
【
図3A】
図3A~
図3Jは、hiT細胞を有するヌードマウスにおけるAβ斑と神経原線維性疾患症状を示している図である。表示されているレシピエントでの対照注入又は細胞注入(→)から3週間後の切り出された皮質と海馬における界面活性剤可溶性APP切断産物(APP
Cl)のウエスタンを示す図(
図3A)。
図3B~
図3Jの細胞/対照レシピエントはもっぱらB6.Foxn1であり、別段の表示が無い限り注入から15か月後の時点のものである。トリトン可溶性画分Aβ1-40/42の前脳ELISAを示す図(
図3B)。表示されているマウス群におけるp-タウ又はクルクミン対比染色を含む実質中の斑とその対比染色を含まない実質中の斑を示す図(
図3C)、及び嗅内(Ent)皮質と帯状(Cng)皮質と海馬(Hippo)における4G8面積率のまとめ(
図3D)。界面活性剤可溶性ホスホ-タウ(p-タウ)及び対らせん状細線維(PHF)の前脳ウエスタンを示す図(
図3E)とシグナル定量のまとめ(
図3F)。連続p-タウ→ガリアス染色の挿入図を含む脳と18か月齢のADtg(Tg2576)マウスにおける銀染色細胞を示す図(
図3G)。ガリアス
+神経細胞の割合のまとめ(
図3H)、星状細胞(Gfap
+)を示す図、及びミクログリアを示す図(Iba-1
+;
図3I及び
図3J)。全ての分析について3回以上の独立した試験での両側t検定によりPBS群と比べて
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.005である。
【
図3K】
図3K及び
図3Lは、
hiT
RMにより6か月の時点で脳細胞内に原線維封入体が誘導されること(すなわち、hiT細胞を有するヌードマウスの歯状回におけるクルクミンとチオフラビンSの別々の染色)を示している図である。表示されている群(AD-Tg=Tg2576マウスを除いて全てがB6.Foxn1レシピエント)に由来する海馬切片は静脈内対照/細胞注入から6か月後、又はAD-Tgについては14か月齢の時点で4G8(Aβ)及びクルクミン染色したものである(
図3K)。右向きの矢はクルクミン共染色していないAβ沈着体を強調している。上向きの矢は共局在したAβ沈着体とクルクミン沈着体を示しており、成熟老人斑を意味する。下向きの矢はAβ共染色していないクルクミン
+構造体、すなわち、非アミロイド性原線維沈着体を強調している。これらの染色ではDAPIを使用しなかった。ブルーチャネルのバックグラウンドは解剖学上の事情で提示されているだけである。対照/細胞注入から6か月後のPBS群及び野生型CD8群のB6.Foxn1 hiTレシピエント、及び20か月齢のAD-遺伝子導入(Tg)ラット歯状回の追跡チオフラビンS染色を示す図(
図3L)。ラットAD-Tgの脳は明らかにタウPHFを含有する(Cohenら著、2013年)のでこれを使用したが、我々の技術ではチオフラビンSで染色できなかった。
【
図3M】
図3M及び
図3Nは、実験群における銀染色神経構造体を示している図である。野生型CD8群及びIFNγKO-CD8群のマウスにおける典型的な神経原線維濃縮体(NFT)形態(挿入図)を示している皮質脳領域及び海馬脳領域のガリアス銀染色を示す図。PrfKO-CD8群又はPBS群のマウスではバックグラウンド銀染色が時折見られたが、類似するNFT形態は示されなかった(挿入図)。個々の画像は各群の別々のマウスに由来した(
図3M)。hiT細胞を有するヌードマウス(野生型CD8)の海馬(左)と皮質(ctx、右)におけるガリアス
+構造体をヒト重度AD(ブラークステージVI)の皮質のものと比較する図(
図3N)。
図3M及び
図3Nの全ての画像と倍率とスケールは同一(20倍)であり、挿入図でも同一である。
【
図3O】
図3O~
図3Sは、
hiT
RMレシピエントB6.Foxn1マウスにおける脳CD8+T細胞を示している図である。野生型、IFNγKO、又はPrfKOのCD8+T細胞の注入、又はPBSの注入から15か月後のB6.Foxn1レシピエントに由来する海馬及び皮質の脳切片内で脳をCD8及びp-タウについて共染色し(挿入図)(
図3O)、且つ、定量した。CD8
+細胞は大部分が孤立しているが
図3O(挿入図)に見られるように時折p-タウ
+神経細胞と相互作用していることが見られた。群のデータが
図3Pにまとめられている。
図3A~
図3J又は
図3O~
図3Sにおいて有意に(
**P<0.01、
*P<0.05;PBS対照と比較する両側t検定)変化した星状細胞(GFAP、
図3Q)、ミクログリア細胞(Iba-1、
図3R)、又はCD8+T細胞(CD8、
図3S)の面積は各群の4G8
+斑面積率と相関した。線形回帰のP値とピアソンの相関(r)が示されている(
図3Q~
図3S)。
【
図4A】
図4A~
図4Nは、hiT細胞を有するヌードマウス(すなわち、
hiT
RMレシピエントB6.Foxn1マウス)における神経変性評価指数及び認知機能を示している図である。全てのパネルの細胞/対照レシピエントはもっぱらB6.Foxn1である。細胞/対照注入から15か月のNeuNとGFAPの染色(
図4A及び
図4B)、及び海馬における細胞数を示す図(
図4C)。PBS群及び野生型CD8群における経時的な脳の萎縮を示す図(各時点でPBS対照に対して正規化された量;
図4D)。代表的な前脳ウエスタンを示す図(
図4E)、並びにGAPDHに対して正規化されたNeuN、ドレブリン、及びシナプトフィシンのウエスタンシグナルを示す図(
図4F)。NeuNの脳量との相関を示す図(
図4G)。13か月の時点での代表的なオープンフィールド試験を示す図(
図4H)。恐怖条件づけ試験の経時的な成績を示す図(
図4I)、及び12か月の時点での自発的交替行動(SA)を示す図(
図4J)。14か月の時点でのバーンズ迷路学習(
図4K;両側ANOVAのP)、記憶保持期(
図4L)、及び逆転学習期(
図4M及び
図4N)を示す図(黒色のシンボル=それぞれPBS、野生型CD8と比べたP)。他の検定が表示されている場合を除いて両側t検定による
***P<0.005、
**P<0.01、
*P<0.05、
+P<0.1。
【
図5A】
図5A~
図5Dは、CD103欠損が主にCD8+T細胞及び脳局在に影響することを示している図である。CD103欠損(B6.CD103KO)マウス及び月齢が合致する野生型(B6)マウス(n=8匹)に由来するフローサイトメトリー(
図5A)、ウエスタンブロット(
図5B)、のウエスタンシグナルのまとめ(
図5C)、及びオープンフィールド試験の結果(
図5D;この図の右側で上から下へ定義されている順序でカラムが出現している)を示す図。CD103欠損は主にCD8+T細胞に影響し(
図5A)、脳内のCD8シグナルを特に減少させ(
図5B及び
図5C;欠損していない場合はCD8+T
RMが加齢中の脳で特に増加する)、加齢に伴って運動をわずかに遅くした(
図5D)。
【
図5E】
図5E~
図5Hは、CD103欠損により加齢性認知機能低下から防護されることを示している図である。若齢及び高齢のCD103欠損マウス及び野生型マウスのバーンズ迷路の成績、すなわち、トレーニング期間の潜時(
図5E)、記憶保持期の潜時(
図5F)、逆転学習期の潜時(
図5G)、及び各期間での侵入エラー(
図5H)を示す図。この試験でのこの系統の主要な加齢による障害は侵入エラーであることが報告されている。
【
図6A】
図6A~
図6Fは、ヒトのアルツハイマー病の脳におけるhiT細胞関連評価指数の上昇を示している図である。
図6AはADの対象の脳におけるものと比較したアルツハイマー病ではない対象の脳(AD無し)におけるGFAP発現ユニットを示している。
図6Bは前記対象の脳における該当するGFAP発現レベルと比較した遺伝子発現レベルの変化率(%)を示している。PRF1ウエスタン及び免疫蛍光を示す図(
図6C)、年齢が合致する正常(n=6人)、軽度(n=5人)、又は重度(n=12人)のアルツハイマー病の脳での定量を示す図(
図6D)。抗CD8(Serotec)及びAPP
(471-479)/HLA-A2マルチマー(Immudex USA、フェアファックス、バージニア州)で共染色したアルツハイマー病の脳を示す図(
図6E)、エピトープ反応性T細胞の定量(P=0.002、両側t検定)を示す図(
図6F)。CD8+T細胞の全体的レベルは変化しなかった(アルツハイマー病対正常加齢対照において1.63±0.29対2.29±0.55細胞/脈管;P=0.31、両側t検定)。
【
図7A】
図7A及び
図7Bは、全ての患者内(
図7A)及び具体的にHLA-A2
+の患者(潜在的にAPPエピトープ反応性)内(
図7B)で加齢又は疾患性認知機能低下の恐れがある患者(MoCA=26~30)及び加齢又は疾患性認知機能が低下している患者(MoCA<26)における異常、APP特異的CD8+T
RMレベルを示している図である。
【
図8】
図8は、CD8+T
RM介在性の脳への効果についての一般的モデルを示している図である。
【
図9A】
図9A~
図9Cは、ヒト患者血液におけるCD8+T
RM遺伝子発現(
図9A及び
図9B)及びヒト患者血液(フローサイトメトリーによる)における
hiT
RM染色評価指数を示している図である(
図9Cでは図の右上隅の上から下へ定義されている順序でカラムが出現している)。
【
図10A】
図10A~
図10Eは、正常な加齢中のヒト対象の血液及びアルツハイマー病のヒト患者の血液における異常加齢性T細胞遺伝子発現を示している図である(遺伝子発現オムニバスデータセットGSE85426)。
図10A~
図10Cはそれぞれ3種類の重要な遺伝子であるCD103、CD8A、CD44がアルツハイマー病で有意に上昇することを示している。一般的なT細胞遺伝子であるCD3Dの発現が平均より低い患者(
図10D)をバイオマーカー分析から除外することで予測力がT細胞依存的であることを確実にした。別の遺伝的原因を有する希少な早発型アルツハイマー病(AD)をふるい落とすために65歳よりも若い患者(
図10E)も除外した。0.05(
*)未満のP値は正常とAD患者との間の統計学的有意差を意味し、
****はP<0.0005を意味する。
【
図11A】
図11A及び
図11Bは、3遺伝子パネル(CD8、CD44、CD103)によるアルツハイマー病(AD)の真陽性と偽陽性の予測率を示している図である。(前の段落で説明した)除外を行った後に高T細胞群でのバイオマーカー分析には40の正常標本と49のAD標本が残され(
図11A)、低T細胞群でのバイオマーカー分析には40の標本と39のAD標本が残された(
図11B)。高T細胞標本における5%未満の偽陽性予測を含む少なくとも40%のAD患者の正確な予測から異常加齢性T細胞はADに関連があり、且つ、遅発型のこの疾患の有力な血液バイオマーカーとして機能することが確認される。受信者操作特性(ROC)分析にCD103と共にCD8AとCD44を含むことでCD103単独よりも特異的にCD8+T
RM亜集団が特定される。
図12A及び
図12Bに示されているCD103のみに基づくそれぞれのROC曲線と比較すると、
図11A又は
図11Bの各ROCカーブは実質的には(又は有意には)異なっておらず、これはCD103もこの亜集団に対しては非常に特異的であることを示しており、この3遺伝子パネルで偽陽性率がわずかに低いことはT
RM特定の特異度をさらに高めることでそのバイオマーカーとしての価値がさらに改善されることを示している。
【
図12A】
図12A及び
図12Bは、高T細胞群(
図12A)及び低T細胞群(
図12B)のプロットのために
図11D及び
図11Eに関して説明したものと同じ除外を行った標本からのCD103のみによるアルツハイマー病(AD)の真陽性と偽陽性の予測率を示している図である。高T細胞標本における8%未満の偽陽性予測を含む50%を超えるAD患者の正確な予測からT細胞上のCD103はADに関連があり、且つ、遅発型のこの疾患の単一遺伝子血液バイオマーカーとして機能することが確認される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において引用される全ての参照文献は、完全に記載されているかのように全体が参照により援用される。別段の定義が無い限り、本明細書において使用される技術用語と科学用語は本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。Singletonら著、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology第3版、改定版、J. Wiley & Sons社(ニューヨーク、ニューヨーク州、2006年)、March著、Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure第7版、J. Wiley & Sons社(ニューヨーク、ニューヨーク州、2013年)、並びにSambrook及びRussel著、Molecular Cloning: A Laboratory Manual第4版、コールドスプリングハーバープレス(コールドスプリングハーバー、ニューヨーク州、2012年)は本出願で使用される用語の多くについての一般的な案内を当業者に与える。抗体調製法の参照文献についてはD. Lane著、Antibodies: A Laboratory Manual第2版(コールドスプリングハーバープレス、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク州、2013年)、Kohler及びMilstein著、(1976年)Eur. J. Immunol.誌、第6巻:511頁、Queenらの米国特許第5585089号明細書、及びRiechmannら著、Nature誌、第332巻:323頁(1988年)、米国特許第4946778号明細書、Bird著、Science誌、第242巻:423~42頁(1988年)、Huston ら著、Proc. Natl. Acad. Sci. USA誌、第85巻:5879~5883頁(1988年)、Wardら著、Nature誌、第334巻:544~54頁(1989年)、Tomlinson I.及びHolliger P.著、(2000年)Methods Enzymol誌、第326巻、461~479頁、Holliger P.著、(2005年)Nat. Biotechnol.誌、9月、第23巻(第9号):1126~36頁参照)を参照されたい。
【0021】
当業者は、本発明の実施において使用可能である本明細書に記載される方法及び材料と類似又は同等の多数の方法及び材料を理解することになる。実際には本発明は本記載の方法及び材料に決して限定されない。本発明の目的のために以下に次の用語を定義する。
【0022】
T細胞は、T細胞受容体(TCR)と呼ばれるT細胞の表面上の特別な受容体の存在によって、B細胞などの他のタイプのリンパ球から区別できる。幾つかの異なるT細胞亜集団が発見されており、Tヘルパー細胞(TH細胞)、細胞傷害性T細胞(TC細胞、又はCTL)、セントラルメモリーT細胞(TCM細胞)及びエフェクターメモリーT細胞(TEM細胞)を含むメモリーT細胞(TM細胞)、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)、ガンマ・デルタT細胞(γδT細胞)、及び調節性T細胞(Treg細胞)をはじめとしてそれぞれが異なる機能を有する。
【0023】
CD8+T細胞は、細胞表面にCD8糖タンパク質を発現する。大半のTC細胞(CD8+T細胞としても知られる)は、特定の抗原を認識するTCRを発現する。細胞内の抗原(たいていはタンパク質の細胞内分解により生じるペプチド)は、MHCクラスI分子と複合体を形成した後にこのMHCクラスI分子と共にその細胞の表面に運ばれ、その細胞表面でこれらはTC細胞によって認識可能になる。そのTC細胞のTCRがその抗原に対して特異的であれば、そのTC細胞はそのMHC分子とそのペプチドの複合体に結合し、そのTC細胞が前記細胞を破壊する。CD8とMHC分子との間の親和性によって、この抗原特異的活性化の間にTC細胞と標的細胞との密接な結合が維持される。CD8+T細胞が活性化されると、それらの相棒はTC細胞として認識され、一般的には免疫系内の定義済みの細胞傷害の役割を有するものと分類される。
【0024】
本明細書において使用される「APP」とは、アミロイド前駆タンパク質のことである。本明細書において使用される「APPペプチド」とは、APPアミノ酸配列の一部を含むペプチドのことである。これらのペプチドは、2~20アミノ酸長(例えば、2アミノ酸長、3アミノ酸長、4アミノ酸長、5アミノ酸長、6アミノ酸長、7アミノ酸長、8アミノ酸長、9アミノ酸長、10アミノ酸長、11アミノ酸長、12アミノ酸長、13アミノ酸長、14アミノ酸長、15アミノ酸長、16アミノ酸長、17アミノ酸長、18アミノ酸長、19アミノ酸長、又は20アミノ酸長)であってよい。その他の実施形態では、本明細書に記載される本発明の態様に関して使用するのに適切なAPPペプチドは、配列番号1に示される全長配列を有するヒトAPPに由来するものであってよい。実施形態の一例では、APPペプチドはALENYITAL(配列番号2)、KLVFFAEDV(配列番号3)、LMVGGVVIA(配列番号4)、GLMVGGVVI(配列番号5)、VIVITLVML(配列番号6)、RLALENYIT(配列番号7;APPのアミノ酸470~478)、又はLALENYITA(配列番号8;APPのアミノ酸471~479)という配列を含む。国際出願公開第2017/040594号ではAPP又はAPPペプチドについてさらに説明されており、この出願公開の内容を参照により本明細書に援用する。幾つかの実施形態では、配列番号2~6は容易に製造可能である、西洋において最も一般的なHLAアレル(HLA-A2)に安定的に結合し得るAPP由来ペプチドを表しており、当業者が理解するように患者コホートの人類学的特徴に応じてその他のペプチドとHLAの組合せを利用することも可能である。
【0025】
本明細書において使用される「アミノ酸」は、天然アミノ酸と合成アミノ酸の両方、及びD型アミノ酸とL型アミノ酸の両方を含むものとされる。「標準的アミノ酸」とは、天然のペプチドに一般的に見られる20種類のL型アミノ酸のうちのいずれかのアミノ酸を意味する。「非標準的アミノ酸」とは、合成されたか天然の起源に由来するものであるかに関係なく、標準的アミノ酸以外のあらゆるアミノ酸を意味する。本明細書において使用される場合、「合成アミノ酸」は塩、アミノ酸誘導体(アミド等)、及び置換体を含むがこれらに限定されない化学的に修飾されたアミノ酸も包含する。本明細書において開示されるペプチド内に含まれるアミノ酸、特にカルボキシ末端又はアミノ末端に含まれるアミノ酸は、それらのペプチドの生物活性に悪影響を与えずにそれらのペプチドの循環半減期を変えることができるメチル化、アミド化、アセチル化、又は他の化学基による置換よって修飾可能である。また、本明細書において開示されるペプチドにはジスルフィド結合が存在しても存在しなくてもよい。
【0026】
本明細書において「ペプチド」と「タンパク質」は互換的に使用され、ペプチド結合又は修飾型ペプチド結合により共有結合した少なくとも2アミノ酸残基から構成される化合物(例えば、ペプチドイソスター)のことを指す。タンパク質又はペプチドを構成し得るアミノ酸の最大数について制限はない。本明細書及び添付される特許請求の範囲に記載されるペプチド又はタンパク質を構成するアミノ酸は、D型アミノ酸又はL型アミノ酸のどちらかであることが理解され、L型アミノ酸が好ましい。本明細書に記載されるペプチド又はタンパク質を構成するアミノ酸は、翻訳後プロセッシングなどの自然の過程で修飾されても、当技術分野においてよく知られている化学修飾技術によって修飾されてもよい。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、及びアミノ末端又はカルボキシル末端をはじめとするペプチド中のどの場所にも生じてもよい。所与のペプチド中の幾つかの部位に同程度又は異なる程度で同じタイプの修飾が存在してもよいことが理解される。また、所与のペプチドは多種類の修飾を含んでもよい。修飾にはアセチル化、アシル化、ADPリボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチド誘導体又はヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質又は脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、γカルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解処理、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノ化、硫酸化、アルギニン付加などのトランスファーRNA介在性のタンパク質へのアミノ酸付加、及びユビキチン化が含まれる。例えば、Proteins--Structure and Molecular Properties第2版、T. E. Creighton著、W.H. Freeman and Company社、ニューヨーク、1993年、及びPosttranslational Covalent Modification of Proteins, B. C. Johnson編、Academic Press社、ニューヨーク、1983年内のWold F著、Posttranslational Protein Modifications: Perspectives and Prospects、1~12頁、Seifterら著、「Analysis for protein modifications and nonprotein cofactors」、Meth. Enzymol.誌、(1990年)第182巻: 626~646頁、及びRattanら著、(1992年)、「Protein Synthesis: Posttranslational Modifications and Aging」、Ann NY Acad Sci誌、第663巻: 48~62頁を参照されたい。
【0027】
本明細書において使用される「試料」又は「生体試料」とは、哺乳類動物(好ましくはヒト)から取り出された組織又は体液であって、CD8+T細胞を含むか又はCD8+T細胞を含むと考えられるものを指す。試料は、血液及び/又は血液分画物であってよく、試料には末梢血単核細胞(PBMC)試料又は血液(例えば、全血、血漿、血清)のような末梢血液試料、骨髄細胞試料、又は脳脊髄液(CSF)が含まれる。試料は脳組織の生検試料であってもよい。試料にはリンパ球、胸腺、膵臓、眼、心臓、肝臓、神経、腸、皮膚、筋肉、軟骨、靭帯、滑液、及び/又は関節を含むがこれらに限定されない目的のあらゆる特定の組織/器官が含まれてもよい。これらの試料は、健康な個体又は望ましくない免疫応答を引き起こしている細胞、組織、及び/若しくは器官を有する個体を含むあらゆる個体から獲得できる。そのような試料を獲得する方法は、免疫学及び医学の当業者によく知られている。それらの方法には日常的な手法を用いた血液及び血液成分の採取及び処理、又は標準的な医術を用いた骨髄又は他の組織若しくは器官からの生検試料の獲得が含まれる。
【0028】
T細胞は体全体における炎症の主な調節因子である。慢性炎症は様々なヒト疾患の重要な寄与因子として認識されることが増えており、T細胞の誤調節がこの慢性炎症を助長する。メモリーCD8サブセットは加齢と共に異常増殖し、脳を含む幾つかの組織で増加する。しかしながら、これらの増殖は加齢中の実験動物では稀にしか起こらず、その機能的な帰結は持続的な胸腺活性によっても相殺される。
【0029】
恒常性増殖は自己抗原及び/又はサイトカインの認識に依存することが一般的であり、したがって自己免疫を促進し得る。異常自己反応性CD8+T細胞は個々の加齢性炎症性疾患の発症又は進行に寄与すると考えられている。
【0030】
本明細書では、一般的な実験げっ歯類モデルの限界を乗り越えるため、加齢に関連したCD44hiCD123+CD127hiKLRG1+CD103+常在性メモリー表現型を得るための胸腺欠損マウスへの注入によりCD8+T細胞の恒常性増殖を誘導する。それにより生じた人為的恒常性増殖性(hiT)細胞は、シグネチャ加齢性表面マーカーの変化とTCRVβ鎖クロナリティーを示すだけでなく、アミロイド前駆タンパク質(APP)及びドーパクロムタウトメラーゼ/Trp-2を含む中枢神経系の自己抗原に対する反応性も示し、それによりhiT細胞レシピエントにおける神経病理学研究が可能になる。正常CD8+TRM細胞と同様に、これらの人為的恒常性増殖性常在性メモリー(hiTRM)細胞は脳に多く存在し、驚くべきことに脳ではそれらの細胞は、(i)APP切断産物の増加、(ii)脳内のびまん性βアミロイド(Aβ)斑、(iii)神経細胞中の原線維封入体、(iv)神経炎症、及び(v)加齢による認知障害を含む進行性の神経疾患症状の原因となる一方、神経細胞、シナプスマーカー、及び脳量の減少の原因となる。早期hiTは、ヌードマウスにおいて神経変性及び認知障害の原因となる炎症促進機能を示す。CD103欠損を介した脳でのCD8+T細胞の減少は、免疫正常マウスにおいて加齢性認知機能低下を抑制する。また、アルツハイマー病の脳、及び認知障害の患者の血液中の両方でhiTRMエピトープ特異性が変化したが、このことはヒトの疾患性の認知機能低下と加齢性の認知機能低下におけるこのエピトープの関与を示している。
【0031】
組成物
様々な実施形態において、本発明は、病的神経変性を含む加齢性神経変性の予防又は治療のための組成物を提供する。この組成物には、CD103阻害剤、CD8+TRMのエフェクター分子阻害剤、及び/又は免疫寛容原性ワクチンが含まれる。本明細書において使用される「予防」には、上記疾患又は症状を有する可能性を低下させること、又はその発症を遅らせることが含まれるがこれらに限定されない。
【0032】
CD103はインテグリンαEとしても知られ、ヒトではITGAE遺伝子によってコードされ、且つ、インテグリンαEβ7のαサブユニット(CD103としても知られる)であるインテグリンタンパク質である。CD103は、肺、腸、及び皮膚を含む末梢非リンパ系組織などの組織に安定して存在する組織常在性メモリーT(TRM)細胞と呼ばれるサブタイプのメモリーCD8+T細胞を限定し、それらの場所でそれらの細胞は持続性のウイルス感染症に対して非常に防御的な局所免疫応答を組織する。
【0033】
幾つかの実施形態では、CD103阻害剤は、抗CD103抗体又はその抗体の抗原結合断片である。神経変性の予防又は治療用の抗CD103抗体の例としては、(1)クローンBer-ACTBに由来するPE抗ヒトCD103抗体(BIOLEGEND[登録商標])、(2)クローン2G5.1に由来するマウス抗ヒトCD103モノクローナル抗体(mAb)(BIORAD[登録商標])又は2G5.1のヒト化抗体、(3)抗ラットCD103モノクローナル抗体(mAb)であるOX-62又はOX-62のヒト化抗体、及び(4)クローン2E7由来の抗マウスCD103モノクローナル抗体(EBIOSCIENCE[商標])又は2E7のヒト化抗体が含まれる。
【0034】
他の実施形態では、CD103阻害剤は、CD8+TRMに対するCD103の活性を阻害する小分子である。さらに別の実施形態では、CD103阻害剤は、CD103に対応するDNA又はmRNAをサイレンシング又は切断する核酸である。別の実施形態では、CD103阻害剤は、CD103の細胞質ドメインに少なくとも結合するタンパク質であるパキシリンである。
【0035】
幾つかの実施形態では、CD8+TRMのエフェクター分子阻害剤は、加齢性認知機能低下、病的神経変性、又はそれらの両方の治療、抑制、その重症度の低下、又はその予防の促進のために投与され、このエフェクター分子阻害剤は、APP特異的CD8+TRM変換エフェクターT細胞が放出するパーフォリン1、インターフェロンγ、又は他の炎症性サイトカインの活性を阻害する、又はその発現レベルを減少させる小分子、抗体若しくは抗体の断片、又は核酸である。一態様によると、パーフォリン1阻害剤が投与され、このパーフォリン1阻害剤にはジアリールチオフェン及びGSK2126458が含まれるが、これらに限定されない。別の態様によると、インターフェロンγ(IFNγ)阻害剤が投与され、このIFNγ阻害剤にはメソプラム及びロカグラミドが含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
さらに他の実施形態では、免疫寛容原性ワクチンには、アミロイド前駆タンパク質又はそのペプチドの有効量を送達するワクチンが含まれ、このペプチドには配列番号2~8のペプチドが含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
医薬組成物
様々な実施形態において、本発明は、加齢性神経変性の予防又は治療のための医薬組成物を提供する。この医薬組成物には、CD103阻害剤、CD8+TRMのエフェクター分子阻害剤(例えば、パーフォリン1阻害剤及びIFNγの阻害剤など)、及び/又は免疫寛容原性ワクチンと、薬学的に許容可能な賦形剤と、が含まれる。一実施形態では、CD103阻害剤は抗CD103抗体である。別の実施形態では、エフェクター分子にはパーフォリン、インターフェロンγ、又は他の炎症性サイトカインが含まれる。さらに別の実施形態では、免疫寛容原性ワクチンにはAPP、又は配列番号2~8のペプチドなどのAPPペプチドが含まれる。
【0038】
本発明の医薬組成物は、あらゆる薬学的に許容可能な賦形剤を含むことができる。「薬学的に許容可能な賦形剤」とは、一般的に安全、無毒、且つ、望ましい医薬組成物の調製に有用である賦形剤を意味しており、ヒト向けの製薬で使用するのに許容され、同様に獣医学にも許容される賦形剤が含まれる。そのような賦形剤は固体、液体、半固体、又はエアロゾル組成物の場合では気体であってよい。賦形剤の例としては、デンプン、糖、ミクロクリスタリンセルロース、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、乳化剤、着色剤、剥離剤、被覆材、甘味剤、着香剤、芳香剤、保存剤、抗酸化剤、可塑剤、ゲル化剤、増粘剤、硬化剤、凝結硬化剤、懸濁化剤、界面活性剤、保水剤、担体、安定化剤、及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
様々な実施形態において、本発明の医薬組成物は、どの投与経路を介した送達向けに製剤されてもよい。「投与経路」とは、当技術分野において知られているいずれかの投与経路のことであってよく、これにはエアロゾル、経鼻、経口、経粘膜、経皮、非経口、又は腸内が含まれるが、これらに限定されない。「非経口」とは、一般的に注射に関連する投与経路のことであり、これには眼窩内、点滴、動脈内、嚢内、心臓内、皮内、筋肉内、腹膜内、肺内、脊髄内、胸骨内、髄腔内、子宮内、静脈内、クモ膜下、嚢下、皮下、経粘膜、又は経気管が含まれる。非経口経路を介する場合、組成物は、点滴又は注射用の溶液又は懸濁液の形態であってよく、凍結乾燥した粉剤であってもよい。非経口経路を介する場合、組成物は点滴又は注射用の溶液又は懸濁液の形態であってよい。腸内経路を介する場合、医薬組成物は、制御放出を可能にする錠剤、ゲルカプセル剤、糖衣錠剤、シロップ剤、懸濁液、溶液、粉剤、顆粒剤、乳剤、マイクロスフィア若しくはナノスフィエア、又は脂質ベシクル又は高分子ベシクルの形態であり得る。これらの組成物は注射によって投与されることが典型的である。これらの投与方法は当業者に知られている。
【0040】
本発明に係る医薬組成物は、あらゆる薬学的に許容可能な担体を含むことができる。本明細書において使用される「薬学的に許容可能な担体」とは、1つの組織、器官、又は体の部分から別の組織、器官、又は体の部分への目的化合物の運搬又は輸送に関与する薬学的に許容可能な材料、組成物、又はベヒクルのことである。例えば、この担体は、液体又は固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、又は封入材料、又はこれらの組合せであってよい。この担体の各成分は、上記製剤の他の成分と適合しなくてはならないという点で「薬学的に許容可能」でなくてはならない。この担体は、この担体が接触し得るあらゆる組織又は器官と接触した状態で使用することにも適切でなくてはならず、このことはこの担体が毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性、又はこの担体の治療上の利益よりも著しく勝る他のあらゆる合併症のリスクを持っていてはならないことを意味している。
【0041】
本発明に係る医薬組成物は、経口投与用のカプセル剤に、錠剤に、又は懸濁液若しくはシロップ剤にも製剤可能である。薬学的に許容可能な固体又は液体の担体は、上記組成物を増強又は安定化するために、又は上記組成物の調製を容易にするために添加される場合がある。液体担体としては、シロップ、ピーナッツ油、オリーブ油、グリセリン、生理食塩水、アルコール、及び水が挙げられる。固体担体としては、デンプン、ラクトース、硫酸カルシウム二水和物、白土、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸、タルク、ペクチン、アカシアガム、寒天、又はゼラチンが挙げられる。上記担体は、持続放出物質(例えば、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなど)を単体で、又はワックスと共に含んでもよい。
【0042】
医薬調製物は、錠剤剤形については、必要に応じて粉砕、混合、造粒、及び打錠を伴い、又は硬質ゼラチンカプセル剤形については粉砕、混合、及び充填を伴う従来の製薬技術に従って作製される。液体担体を使用する場合、上記製剤はシロップ剤、エリキシル剤、乳剤剤、又は水性若しくは非水性の懸濁液の剤形である。このような液体製剤は、そのまま経口投与されても、軟質ゼラチンカプセルに充填して投与されてもよい。
【0043】
本発明に係る医薬組成物は、治療有効量が送達される場合がある。この正確な治療有効量とは、所定の対象における治療効力に関して最も有効な結果を生じる組成物量である。この量は、治療化合物の特徴(活性、薬物動態学、薬力学、及び生物学的利用率を含む)、対象の生理的状態(年齢、性別、疾患の種類とステージ、一般健康状態、所与の投与量に対する応答性、及び薬品の種類を含む)、薬学的に許容可能な担体又は製剤中の担体の性質、及び投与経路を含む(がこれらに限定されない)様々な因子に応じて変わる。医療分野及び薬理学分野の当業者は日常の実験を通して、例えば、化合物の投与に対する対象の応答をチェックし、そしてそれに応じて投与量を調節することにより治療有効量を決定することができる。その他の指針についてはRemington著、The Science and Practice of Pharmacy(Gennaro編、第20版、Williams & Wilkins社、ペンシルバニア州、米国)(2000年)を参照されたい。
【0044】
循環半減期を増加させるための別の薬品送達系はリポソームである。リポソーム送達系の調製方法は、Gabizonら著、Cancer Research誌、(1982年)第42巻:4734頁、Cafiso著、Biochem Biophys Acta誌、(1981年)第649巻:129頁、及び Szoka著、Ann Rev Biophys Eng誌、(1980年)第9巻:467頁において考察されている。他の薬品送達系が当技術分野において知られており、例えばPoznanskyら著、DRUG DELIVERY SYSTEMS (R. L. Juliano編、オックスフォード、ニューヨーク、1980年)、253~315頁、M. L. Poznansky著、Pharm Revs誌、(1984年)第36巻:277頁に記載されている。
【0045】
液体医薬組成物の調製後に、この液体医薬組成物は、分解防止と無菌状態の維持のために凍結乾燥される場合がある。液体組成物の凍結乾燥方法は当業者に知られている。追加の成分を含んでいてもよい無菌希釈液(例えば、リンゲル液、蒸留水、又は無菌生理食塩水)でこの組成物を使用直前に再構成する場合がある。再構成して当業者に知られる方法を用いてこの組成物を対象に投与する。
【0046】
キット
一実施形態では、キットは、生体試料からCD103陽性CD8+TRM集団を特定、単離、及び/又は濃縮するために必要な構成要素を含む。本実施形態の別の態様では、キットは、陽性対照及び/又は陰性対照、及び/又は本キットの内容物を使用することによりCD103陽性CD8+T細胞を特定、単離、及び/又は濃縮するための指示書をさらに含んでいてもよい。本実施形態のさらに他の態様では、本キットは、培養容器(例えば、ディッシュ又はフラスコ)、培地、又は細胞の増殖の促進に有用なあらゆる必要な緩衝液、因子をさらに含んでいてもよい。
【0047】
別の実施形態では、キットは、生体試料からCD8A陽性、CD44陽性、及びCD103陽性のCD8+TRM集団を特定、単離、及び/又は濃縮するために必要な構成要素を含む。本実施形態の別の態様では、キットは、陽性対照及び/又は陰性対照、及び/又は本キットの内容物を使用することによりCD8A陽性、CD44陽性、及びCD103陽性のCD8+T細胞を特定、単離、及び/又は濃縮するための指示書をさらに含んでいてもよい。本実施形態のさらに他の態様では、本キットは、培養容器(例えば、ディッシュ又はフラスコ)、培地、又は細胞の増殖の促進に有用なあらゆる必要な緩衝液、因子をさらに含む場合がある。
【0048】
取扱説明書が本キットに含まれていてもよい。「取扱説明書」とは、対象の加齢性神経変性の治療、その重症度の低下、抑制、又は予防などの所望の帰結をもたらすために本キットの構成要素を使用する上で用いられる技法について説明する明確な表現を含んでいることが典型的である。所望により、本キットは、他の有用な構成要素、例えば測定装置、希釈剤、緩衝液、薬学的に許容可能な担体、注射筒、又は当業者が容易に理解するような他の有用な道具も含む。
【0049】
様々な実施形態により、CD8A陽性、CD44陽性、及びCD103陽性のCD8+TRMの検出又はCD8+TRM上でのその他のバイオマーカーの検出が、蛍光活性化細胞選別(FACS)技法に基づくフローサイトメトリー分析を用いて実施される。FACSフローサイトメトリー分析の詳細な標準操作手順は実施例2において提示されている。
【0050】
使用方法
病的神経変性になりやすい、又は病的神経変性になっている対象を特定する方法は、その対象の末梢血液中でのCD103陽性常在性メモリーCD8+T細胞(CD8+TRM)の存在の増加を検出することを含む。その他の態様によると、対象は少なくとも65歳の年齢のヒト対象であり、血液中のCD8A陽性、CD44陽性、及びCD103陽性のCD8+TRMのレベル上昇について検出される。
【0051】
記憶障害又は加齢性神経変性を有する対象におけるCD103陽性CD8+TRMを定量する方法であって、上記対象に由来する生体試料中のCD103陽性CD8+TRM細胞の量を検出することを含む方法も提供される。幾つかの実施形態では、この方法は、CD103陽性CD8+TRM細胞の量を基準値と比較することをさらに含む。
【0052】
生体試料中の様々な検出方法が利用可能であり、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッティング分析、酵素結合免疫吸着アッセイ、免疫沈殿、UV分光光度計、クロマトグラフィー、マススペクトロメトリー、免疫組織化学染色、及び画像撮影を含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
定量アッセイ又は定量方法の基準値は、1人の対照被検者(例えば、記憶障害又は神経変性のいかなる症状も無い健康な対象)から得られた値、又は複数のこのような対照被検者のプールから得られた値であり得る。他の実施形態では、基準値は、記憶障害の症状が全くないか、又は記憶障害の症状がほとんど見られない若齢の時の対象自身の数値であり、現在の値がその基準値を超える場合には、高リスク、その症状の治療の必要性、又は準最適な治療結果を判定するための基準として使用される。さらに別の実施形態では、基準値は、記憶障害又は神経変性の治療前の対象自身の数値であり、治療の効力を判定するための基準として使用される。
【0054】
必要とする対象において、加齢性認知機能低下、病的神経変性、又はそれらの両方を治療する、抑制する、その重症度を低下させる、又はその予防を促進するための方法が提供される。この方法は、CD103阻害剤、常在性メモリーCD8+T細胞(CD8+TRM)から生じるエフェクターT細胞阻害剤、及びCD8+TRMから生じる上記エフェクターT細胞から放出される分子の阻害剤のうちの1種類又は複数種類の治療有効量を、上記対象に投与することを含む。幾つかの実施形態では、この方法におけるCD103阻害剤は抗CD103抗体であり、常在性メモリーCD8+T細胞から生じるエフェクターT細胞の阻害剤にはパーフォリン1の阻害剤又はIFNγの阻害剤が含まれる。一態様によると、この投与によりAPPペプチド(例えば、配列番号8のペプチド)へのCD8+TRM又はそれに由来するエフェクターT細胞の反応又は結合が、1人の対照被検者(例えば、記憶障害又は神経変性のいかなる症状も無い1人の健康な対象)で得られたものと比較して、又は複数のこのような対照被検者のプールから得られたものと比較して減少する。別の態様によると、この投与により、APPペプチド(例えば、配列番号8のペプチド)へのCD8+TRM又はそれに由来するエフェクターT細胞の反応又は結合が、記憶障害の症状が全く見られないか、又は記憶障害の症状がほとんど見られない若齢の時の対象自身の数値と比較して減少する。
【0055】
必要とする対象における加齢性認知機能低下、病的神経変性、又はそれらの両方を治療する、抑制する、その重症度を低下させる、又はその予防を促進するための方法も提供される。この方法は、アミロイド前駆タンパク質又はそのペプチド断片(例えば、配列番号2~8のペプチドのうちのいずれか)を送達する免疫寛容原性ワクチンの治療有効量を上記対象に投与することを含む。
【0056】
加齢性認知機能低下又は病的神経変性になりやすい、又はなっているヒト対象を特定する方法であって、短期又は長期の記憶の喪失、集中力維持能力の低下、及び課題解決能力の低下のうちの1又は複数の症状を有するヒト対象から得られた得血液試料中のCD103+常在性メモリーCD8+T細胞(CD8+TRM)の存在の増加を検出することを含む上記方法が提供される。この方法の一態様によると、CD103+CD8+TRMの存在の増加は、上記1又は複数の症状のいずれも有しない1人の健康なヒト対象又は複数の健康なヒト対象のプールから得られた値と比較される。別の態様によると、このヒト対象は少なくとも65歳、又は少なくとも50歳、55歳、又は60歳である。
【0057】
様々な実施形態において、上記方法における対象はヒトである。幾つかの実施形態では、ヒト対象は、中年期かそれ以降、例えば30歳以降、35歳以降、40歳以降、45歳以降、50歳以降、55歳以降、60歳以降、65歳以降、70歳以降、75歳以降、80歳以降、85歳以降、90歳以降、又は95歳以降である。他の実施形態では、ヒト対象は、以前にもCD103陽性CD8+TRM細胞の記録を示したことがある。
【0058】
様々な実施形態において、上記の方法及び組成物のうちの1又は複数における加齢性認知機能欠損、病的神経変性、又は記憶障害などには、健忘症又は短期記憶若しくは長期記憶の喪失、集中力維持能力の低下、課題解決能力の低下、多発性硬化症、パーキンソン病、及びアルツハイマー病の症状が含まれる。
【0059】
動物モデルなど
ヒトの認知機能低下の候補治療薬、予防薬、及び/又は診断薬を特定及び/又はスクリーニングするための系であって、げっ歯類動物(例えばマウス)から得られるCD44hiCD123+CD127hiKLRG1+CD103+常在性メモリーCD8+T細胞表現型を含む上記系が提供される。幾つかの実施形態では、このCD44hiCD123+CD127hiKLRG1+CD103+常在性メモリーCD8+T細胞表現型は、胸腺欠損マウスに常在性メモリーCD8+T細胞を投与することによって得られる。
【0060】
ヒトでの加齢性神経変性の治療又は予防のための候補薬剤を特定及び/又はスクリーニングする方法は、候補薬剤をインビトロでCD44hiCD123+CD127hiKLRG1+CD103+常在性メモリーCD8+T細胞と接触させること、又はCD44hiCD123+CD127hiKLRG1+CD103+常在性メモリーCD8+T細胞を含むモデル動物に候補薬剤を投与することにより、CD103陽性常在性メモリーCD8+T細胞の減少レベル、これらの細胞のエフェクター分子の減少レベル、又は上記動物の末梢系から脳へのCD8+T細胞の移動量の減少を特定することを含む。
【実施例0061】
以下の実施例は本出願で請求される発明をより良好に例示するために提示されるものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。具体的な材料の言及について、それは単に例示を目的としたものであり、本発明を制限することを意図してはいない。当業者は発明力を発揮せずとも、且つ、本発明の範囲から逸脱せずに同等の方法又は反応物質を開発することができる。
【0062】
実施例1.異常常在性メモリーCD8+T細胞は病的神経変性及び加齢性認知機能低下をもたらす
CD8+T細胞恒常性増殖は少数のT細胞の関数(function)であり、加齢と共に徐々に起こるだけでなく、若齢のT細胞欠損宿主に注入されると急速に起こる(20、21)。この現象は、加齢性のCD8+T細胞の機能異常に関連することが立証されていることを前提として、この誘導可能な現象によりアルツハイマー病などの疾患における異常CD8+T細胞の役割の明快な検証が可能になった。ヌードマウスへの注入による自発的恒常性誘導により、疾患のある加齢マウスにおける異常と区別できない分子的な異常、表現型の異常、及び機能上の異常を示すCD8+T(「hiT」)細胞が均一に誘導されることが分かった。これらのhiT細胞は脳に局在し、脳においてそれらの細胞は最終的に、FAD変異遺伝子導入動物で失われている顕著な疾患特徴を含むアルツハイマー病様の神経変性症状を助長する。ヒトのアルツハイマー病の脳ではhiT細胞関連評価指数も上昇した。加齢及びリスク因子により誘導されるアルツハイマー病様症状に対するマウスの抵抗性を凌駕する加齢性免疫細胞プロセスが我々の研究により特定されている。これらの発見は、孤発性アルツハイマー病のモデル化、病因の追求、及び治療と同様にマウスにおける加齢性疾患のモデル化にも重要な意味を有している。
【0063】
材料及び方法
動物対象
12時間明期/12時間暗期サイクルでの標準的な条件下にある無病原体動物飼育施設内で、雌のC57BL/6、B6.Foxn1マウス並びに類遺伝子性及び/又は同一遺伝子性ノックアウト系統(ジャクソン・ラボラトリーズ)を自由に飲食させて飼育した。レシピエント動物は、8~10週齢の雌B6.Foxn1マウス(n>5匹)、B6.Foxn1-AppKOマウス(n>4匹)、又はB6.CD45.1類遺伝子性マウス(n>5匹)であり、ドナーは同じ系統の5~8週齢の雌であった。実験当たり5匹を超えるドナーのプール化により、細胞源を無作為にした。若齢(8~10週間)及び高齢(15か月)の雄及び雌のC57BL/6及びB6.CD103-ノックアウトマウス(若齢マウスはn=12匹、高齢マウスはn=7~8匹)を使用して加齢性認知機能低下を研究した。ドナー動物、レシピエント動物、及び未処理動物はシダースサイナイ・メディカルセンターの比較医学科の無病原体施設内で飼育され、全ての育種と遺伝的スクリーニングはジャクソン・ラボラトリーズ(バーハーバー、メイン州)で実施された。
【0064】
CD8+T細胞の養子移入
抗CD8イムノビーズ(ミルテニーバイオテク、サニーベール、カリフォルニア州)を使用して、雌C57BL/6Jマウス(5~7週齢)由来の脾臓CD8+T細胞を精製した。50μlのPBS中の3×106個のCD8+T細胞を雌のC57BL/6J宿主又はB6.Foxn1ヌードマウス宿主に静脈内注入した。注入から3週間後に脾臓リンパ球中にCD8+T細胞が5%を超える割合で定着していることによって、B6.Foxn1宿主への導入効率を検証した。個々のレシピエントの間で細胞注入と対照注入を交互に行うことで処理の順序を無作為にした。その後の全ての分析について、分析を実施する調査者から群の正体と予期される結果の両方を秘匿した。
【0065】
組織(脳、脾臓)の処理
PBS灌流マウスから脳と脾臓を採取した。大脳縦裂(正中線)の右側まで脳の1mmの切片を作製した。タンパク質の研究のために右半球を-80℃の条件で瞬間凍結し、続いて細胞溶解緩衝液(セルシグナリング・テクノロジーズ、マサチューセッツ州)中でホモジェナイズして、細胞核を遠心分離した。10%(重量/体積)塩ショ糖溶液及び1%(重量/体積)サルコシル塩ショ糖溶液の連続インキュベーションを用いて細胞溶解液をトリトン可溶性画分、サルコシル可溶性画分、及びサルコシル不溶性画分に分けた。左半球を4%パラホルムアルデヒド中で固定し、免疫組織化学染色のために保存した。脳重量の標準化:頭蓋から脳全体を取り出し、メトラー天秤で計量する前に小脳、脳幹、及び嗅球を取り除いた。
【0066】
ウエスタンブロット
トリトン可溶性画分細胞溶解液を12%Tris-HClプレキャストゲル(Bio-Rad)上で電気泳動により分離し、0.2μmニトロセルロースにブロットした。膜をBSAでブロック処理し、室温で1時間にわたって連続的に一次抗体及び二次抗体の希釈物の中でのインキュベーションと3回を超える回数の洗浄を行い、強化型化学発光基質(GEヘルスケアバイオサイエンス、ピッツバーグ、ペンシルバニア州)を使用して現像し、そしてアマーシャム・ハイパーフィルム(GEヘルスケアバイオサイエンス、ピッツバーグ、ペンシルバニア州)に対する露光に供した。
【0067】
ELISA
ホモジェナイズした脳組織の上清をトリトン可溶性画分Aβに使用した。トリトンを使用してホモジェナイズした脳に由来する不溶性ペレットを、10倍の体積の5Mグアニジン塩酸中で4時間にわたって再懸濁してグアニジン可溶性Aβを作製した。トリトン可溶性試料及びグアニジン可溶性試料を可溶性Aβ及び不溶性Aβ ELISA(Invitrogen、ライフテクノロジーズ;グランドアイランド、ニューヨーク州)による分析の対象とした。SPECTRAmax Plus384マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス、サニーベール、カリフォルニア州)で吸光度を読み、デルタをGraphpad PRISM(グラフパッド・ソフトウェア、サンディエゴ、カリフォルニア州)で分析した。
【0068】
フローサイトメトリー
それぞれの抗体で染色された精製済みのT細胞を、三色フローサイトメトリー(FACScan II;BDハイオサイエンス、サンノゼ、カリフォルニア州)により分析して純度を評価した。5%FBSを含むPBS中の全脾臓単一細胞懸濁液と抗体を氷上で30分間にわたってインキュベートし、続いて5%FBSを含むPBSで洗浄した。100,000~300,000回のフローイベントを取得した。
【0069】
組織染色及びウエスタン用の抗体
自由浮遊している脳切片(8~14μmの厚さ)をスライド上に乗せ、室温で1時間にわたってブロック処理した。切片を、ブロッキング溶液(Dako、カリフォルニア州)中の一次抗体と4℃で一晩にわたってインキュベートした。切片をPBS中で4回洗浄し、クルクミン(PBS中に0.01%)と共に、又はクルクミン無しでフルオロクローム結合又はビオチン結合二次抗体と90分間インキュベートするか、又はチオフラビンSだけ(PBS中に1%)と共にインキュベートした。切片を洗浄し、カバーグラスを掛け、そしてDAPI(Invitrogen)を含むProLongGold退色防止メディアを載せた。CCDカメラが付いたZeiss AxioImagerZ1(カールツァイス・マイクロイメージング)を使用して明視野像と蛍光像を得た。ImageJ(NIH)を使用して顕微鏡像の画像分析を実施した。抗Aβ/APP抗体(3週間の時点についてはAbcamのab14220;他の全てについてはChemiconのクローン4G8)を免疫組織化学(IHC)には1:500で、ウエスタンブロット(WB)には1:1000で使用した。抗p-タウpS199/202抗体(Invitrogen)をIHCには1:50で、WBには1:100で使用し、ホスホPHFタウpSer202+Thr205抗体(AT8)をWBに1:2000で使用してPHFを確認した。マーカーサイズのためにβ-アクチン(クローンAC-74、Sigma)のシグナルに対してp-タウのWBシグナルを正規化し、他の全てのマーカーの正規化にはGAPDHを使用した。抗GFAP(Dako)をIHCとWBに1:250で使用した。抗NeuN抗体(Chemicon)をIHCとWBに1:100で使用した。抗Iba1(Wako株式会社)をIHCに1:200で使用した。抗CD8(クローン53-6.72、BDファーミジェン)をIHCには1:100で、WBには1:1000で使用した。全ての二次抗体(HRP、AlexaFlour-488、-594、-647;Invitrogen)をIHCには1:200で、WBには1:2000で使用した。マルチマーの作成と使用:自己抗原/脳抗原について構築されたエピトープ(Trp-2-DCT(180-188)/H-2Kb)、及び/又は100nM未満の予測親和性を有する(NetMHCバージョン3.4)カスタムAPPエピトープのデクストラマーはImmudexにより作製された。
【0070】
ガリアス銀染色
ガリアス銀染色を用いて原線維凝集体を可視化した。自由浮遊脳切片を5%過ヨウ素酸中に3分間に入れ、2回洗浄し、ヨウ化銀溶液中に1分間入れた後、0.5%酢酸中で5分間インキュベートし(2回)、蒸留水で洗浄した。切片が薄い茶色/灰色になるまで、切片を現像液中で約10分間インキュベートし、0.5%酢酸中に5分間入れて発色を停止し、蒸留水で洗浄し、スライドグラスに載せた。染色した切片を顕微鏡観察により調査した。海馬のCA2から染色された神経細胞を数え、且つ、嗅内皮質と帯状皮質の全神経細胞中の染色された神経細胞の数を三回の実験で視覚的に定量した。
【0071】
神経細胞の計数
立体解析ソフトウェア(ステレオ・インベスティゲーター;MBFバイオサイエンス)と共に光学式分画方法を用いて、全神経細胞数の推定を行った。50μmの間隔の傍正中矢状連続切片をNeuNに関して染色した。Paxinos及びWatsonのマウス脳アトラスに基づいてCA1、CA2、CA3、及び目的の他の領域を限定した。ROI上にグリッドを無作為に配置し、100倍の対物レンズを使用して三次元光学ディセクタ(50μm×50μm×10μm)内の細胞の数を数えた。各ディセクタ内で切片の上面と底面の1μmのガードゾーンを除外した。ステレオ・インベスティゲーター・ソフトウェアを使用することで切片の厚さにより重みをつけた推定上の全数が得られ、0.10の誤差係数が得られた。
【0072】
行動試験
細胞又は対照の注入から3か月、6か月、及び13か月後に、他の全ての行動試験の前にオープンフィールド試験を実施した。細胞又は対照の注入から6か月及び11か月後に、フリンチジャンプ/恐怖条件づけすくみ行動回数を決定した。細胞又は対照の注入から12か月後に、一回だけマウスをSAについて試験した。細胞又は対照の注入から14か月後に、一回だけバーンズ迷路試験を実施した。対照群と処置群の動物での実験を交互に行うことで行動試験の順序を無作為にした。1日より多くの日数で行われる試験については試験を同時(±1.5時間)に開始し、群間でのランダム化のために早い時間の試験と遅い時間の試験を交互に行った。バーンズ迷路では群で一匹ずつの動物の間で、及び動物当たり毎日3回のトレーニング試験の各々の間で避難区画の位置を交互にする追加のランダム化を採用した。
【0073】
バーンズ迷路(BM)試験
バーンズ迷路は、対象がやや嫌悪的な環境から逃避する手段を突き止めるために空間的手掛かりを使用することを許す空間学習作業である(すなわち、これらのマウスは空間手掛かりを使用して避難所を見つけることが求められる)。エスケープボックスの位置を学習するマウスの能力について、それらのマウスをBM装置の中で9日間の期間にわたって評価した。エスケープホールは5日間のトレーニング期間にわたって各マウスに対して不変である。各マウスを4日間にわたって毎日3回試験し(3回の試行)、続いて2日間にわたって試験を行わず、7日目に再試験を行った。各試験は、35~60分間の試行間間隔により分けられている。各試験は、迷路の中央に位置する底の無い立方体のスタートボックスの中に1匹のマウスを入れることで始めた。30秒後にこのスタートボックスを持ち上げ、エスケープホールを見つけるようにマウスがスタートボックスから放たれた。天井又は室内高くに位置する2本の蛍光灯がこの試験室を照明する。各試験は最大で4分間、又はマウスがエスケープボックスに入るまで続けた。各トレーニング試験の後に、実験者は、4分間内にエスケープホールを見つけることができなかったマウスを正しいホールまで導いた。このマウスがエスケープボックスに入ると、このマウスをそのボックスの中に1分間居続けさせた。7日目の試験の後、かつ同日ではない日に、さらに2日間にわたってマウスを試験し、その試験では8日目にエスケープボックスを逆の位置に配置し、9日目には元の位置に配置しなおした。完全に同じ試験法を全ての群の全てのマウスに対して適用した。各試験の後、及び、毎日の試験の前に、あらゆる嗅覚による手掛かりを取り除くためにイソプロピルアルコールでこの迷路と全ての区画を徹底的に掃除した。
【0074】
Y迷路自発的交替行動(SA)試験
Y迷路交替行動試験は、作業記憶を評価するために用いられる。不透明な黒色のアクリルでできたY迷路(アーム部分:長さ40cm、幅4cm;ウォール部分:高さ30cm)の1本のアームに動物を個々に配置することで自発的交替行動を測定し、8分間の期間でのアームへの侵入の順序と合計の侵入回数を記録した。一回だけマウスをSAについて試験した。
【0075】
フリンチジャンプ/恐怖条件づけ試験
まず、フリンチジャンプ試験を用いて、処置群の間で侵害受容閾値(痛覚感度)に顕著な差が無いことを判定した。その後、パブロフ型恐怖条件づけを用いて嫌悪的事象に関する学習と記憶を評価した。装置(Freeze Monitor(商標)、サンディエゴインツルメンツ、サンディエゴ、カリフォルニア州)は、ステンレス鋼のグリッド床を有するプレキシガラスの箱(25.4×25.4×31.75cm高)から構成されていた。この箱の上部に音声刺激ユニットが配置されており、この箱の周囲に光束と光学センサが配置されていた。これらの光学センサを入力マトリックスによりコンピューターに接続し、光束の遮断を自動的に記録した。試験のために、1日目に個々のマウスをこのテストボックスの中に入れ、3分間慣れさせた。3分目に、30秒間にわたって音を与えた。この音の停止から30秒後に、0.5秒の足への刺激(強度=フリンチジャンプ試験により決定されたその処置群の平均ジャンプ閾値)を与えた。その後、このマウスを箱から取り出し、2分間にわたってマウスのホームケージに戻した。このチャンバーを清掃し、この動物をチャンバーに戻し、この手順を反復した。すくみ行動監視装置により、この手順の間におけるすくみ行動(5秒異常の動作が無く、光束の遮断が生じない)回数を記録した。2日目に、以前に音刺激と足への刺激を受けた場所である同じテストボックスの中にマウスを配置することにより、その時の状況を思い出すか判定するが、このときは音刺激と足への刺激を与えなかった。10分間にわたってすくみ行動回数を測定した。3日目に、テストボックス中に三角形のプレキシガラスの箱を入れた後に、手掛かり条件付けを測定した。マウスが以前に音声又は足への刺激を受けたことがないこの三角形のチャンバーの中にこのマウスを入れ、1分後に30秒間にわたって音を与え、10分間にわたってすくみ行動回数を測定した。フリンチジャンプ及び恐怖条件づけ試験の全てのデータを、初めに各群内で1日目の最初の2回のトレーニング試験の平均に対して正規化し、次に全ての実験群内でPBS対照の文脈的学習性すくみ行動の値又は手掛かり学習性すくみ行動の値に対して正規化し、対照に対するパーセントとして表し、ANOVAにより分析し、続いて適切な場合はニューマン・コイルス検定により分析して処置群間の差異を検出した。
【0076】
オープンフィールド試験
16”×16”×15”高の寸法の上部が開いている透明なプレキシガラスの箱からできているオープンフィールド装置内で、この試験を実施した。2本のリング状の光束と光学センサがこの箱の周囲に配置されていた。これらの光学センサを入力マトリックスによりコンピューターに接続した。各マウスをこの箱の中に入れ、光束の遮断を自動的に記録し、これを歩行運動活動の尺度として使用した。30分間の期間にわたってこの箱の中で各マウスを試験した。
【0077】
統計分析
900~1200μmの海馬及び皮質を含む領域について150μm間隔(別段の指示が無い限り)で、各個体に由来する6~8枚の冠状切片におけるβアミロイド斑、GFAP+、Iba1+、又はPerforin1+の細胞の細胞数又は面積(μm2)の定量及び立体解析計数法を分析した。各画像について同じ露光時間で特定の蛍光シグナルを捕捉し、標本の各視野の光学切片をNIH ImageJに入力し、上記のように分析した。ANOVA及びウェルチ補正付きt検定(等分散を仮定しない)を使用するデータ分析のために、GraphPad Prism(バージョン5.0b;サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)を使用した。全てのヒストグラムで平均+SEMを示している。
【0078】
PrfKO-CD8群及びIfnγKO-CD8群の試料サイズは、0.05のαと95を超える信頼性を用い、予期される効果サイズに対してPBS群及び野生型CD8群の平均値と標準偏差を用いて各評価指数について先験的に算出された。その後、計算されたnに1を超える数を足したものをPrfKO-CD8群とIfnγKO-CD8群に使用した。
【0079】
認識できるバックグランドシグナルを含まない切片又は試料、及び各群内で各群の中央値から標準偏差の2倍よりも上、又は下の範囲にある値が、前もって除外すると決めたものに含まれる。対象の数と試薬の検証方法は表S1に記載されている。
【0080】
研究の承認
全ての動物実験手順は、実行する前にシダースサイナイ・メディカルセンターの動物実験委員会により承認された。シダースサイナイ・メディカルセンター治験審査委員会により、カリフォルニア大学デイビス校由来の匿名化されたヒト脳標本の分析は委員会の審査から免除される、と指定された。脳標本はカリフォルニア大学デイビス校メディカルセンターの治験審査委員会による以前の承認により収集、保存、及び頒布された。
【0081】
結果
ヌードマウスにおける「hiT」細胞の作製
若齢(9週間未満)のC57BL/B6(B6)ドナーに由来するCD8+T細胞をB6.Foxn1レシピエントに注入し、表現型分析の対象とした(
図1A、
図1H、及び
図1I)。ドナーCD8+T細胞は、3日以内に若齢のB6.Foxn1レシピエントの血液中で急速に増殖し、その血液中でこれらの細胞は長期にわたって残留した(
図1J及び
図1K)。ヌードマウス宿主から野生型B6宿主又はB6.CD45.2類遺伝子性[B6
(Cg)]宿主に連続的に移入されたCD8+T細胞は、さらに増殖することはなかった(
図1I及び
図1K)。B6.Foxn1宿主内の人為的恒常性増殖性ドナーCD8+T細胞(「hiT」細胞)の分析から、高齢マウスにおいてクローン性増殖を行ったCD8+T細胞と同一の表面マーカープロファイルが示された(CD122
hi、CD127
hi、CD44
hi、KLRG1
hi、PNA
hi、CD8
lo、CD103
+;
図1A~
図1D)。加齢中のヒトにおけるCD8+T細胞のクローン性増殖にも同様の表現型が見られる。したがって、CFSE標識CD8+T細胞は、恒常性増殖に典型的なラダー状の色素希釈物と集団の拡大を示した(
図1K)。しかしながら、アミロイド前駆タンパク質(APP)遺伝子を欠失しているヌードマウス(B6.Foxn1xAppKOマウス)ではこれは生じず、急速な恒常性増殖はAPPに対する反応性に依存し得ることを示している。
【0082】
hiT細胞のクロナリティーを検討するため、本発明者らは、PCRによりT細胞受容体β遺伝子セグメント中の可変領域D→Jの再構成体を分析した。以前の報告と一致して、12か月齢の野生型マウス中の末梢T細胞はTCRVβ鎖に何のクローン性スキューイングの証拠も示さなかったが、ヌードマウスレシピエントに注入された末梢T細胞はちょうど10週間後にD1→J1とD2→J2というクローン性スキューイングを示した(
図2F及び
図2G)。若齢の野生型マウスに見られる多様なD→J利用と対照的に、D1→J1とD2→J2というクローン性スキューイングは、CD8+T細胞を注入した若齢のヌードマウスの脳でも明らかであった(
図1E及び
図1F)ことが重要である。このパターン高齢マウスの脳でのD→J利用に最もよく似ていた。
【0083】
CFSE標識ドナーCD8+T細胞は、B6.Foxn1では静脈内注入から3日後に脳実質で増加しており、これによりhiT細胞が短時間で脳へ回帰することが直接的に実証された(
図2A及び
図2B)。フローサイトメトリーでは、野生型B6と比べて、全CD8+T細胞はB6.Foxn1における注入から10週間後にほんのわずかに増加しているだけであったが(
図2C)、ウエスタンでは、この時点でのCD8タンパク質の増加は明白であり、生存細胞の増加を伴わない細胞流入が増加したことが示唆された(
図2H)。実際、フローサイトメトリーによると、CD103発現を保持していたIFNγ
+のCD8+T細胞及びKLRG1
+のCD8+T細胞は両方とも、この時点でヌードマウスレシピエントの脳内で有意に増加しており、脳内においてCD8+T細胞の量的ではなく質的な変化があったことが示された(
図2C)。末梢血液中のKLRG1
+CD8+T細胞は、チロシナーゼ関連タンパク質-2/ドーパクロムタウトメラーゼ(Trp-2/DCT)及びAPPを含むMHCクラスI制限抗原に対して反応するが、後者だけが脳内で有意に増加した(
図2D及び
図2E)。このように、APPエピトープに対して反応性を有するhiT細胞が、選択的にヌードマウスの脳に蓄積したので、発明者らはAPP関連症状を分析することにした(
図3K)。
【0084】
Aβ及び神経原線維沈着
ウエスタンブロットによると、静脈内CD8+T細胞注入から3週間後及び10週間後に、B6.Foxn1宿主の切り出された皮質及び海馬で界面活性剤可溶性APP及び派生切断産物(APP
Cl)が増加した(
図3A及び
図2I)。Aβ1-40は、ELISAによると2.5か月後に増加しており、15か月後も残り(
図3B)、血管系で増加したAβは6か月の時点で観察された(
図3L及び
図3M)。びまん斑及びAβ1-40の増加が、野生型CD8+T細胞を注入したB6.Foxn1レシピエント(野生型CD8群のマウス)の15か月後の海馬、嗅内皮質、及び帯状皮質で検出された(
図3C及び
図3N)。しかしながら、ヒトアルツハイマー病に見られる家族性の遺伝子変異を発現するマウスとは異なり、hiT担持ヌードマウスでは、Aβ1-42はあまり変化せず、アミロイド斑は主に拡散しており、クルクミン又はチオフラビンSとほとんど共染色しなかった(
図3C及び
図3O)。したがって、hiT担持ヌードマウスにおけるアミロイドパチーはADtgマウスモデルで見られるアミロイドパチーとは異なった。
【0085】
クルクミン及びチオフラビンSにより、T細胞注入から6か月後の野生型CD8群のマウスの歯状回内の細胞が染色された(
図3K)。類似の構造体は高齢のADtgマウス(
図3K)又はタウ対らせん状細線維を示すADtgラット(
図3L)では観察されなかった。hiT担持ヌードマウスは、神経細胞中に高リン酸化タウタンパク質からなる線維状封入体を有する可能性があることがこれにより示された。したがって、注入から10週間後の野生型CD8担持マウスの脳では、トリトン可溶性画分のp-タウが約30%増加しており、且つ、より大きなタウPHFは5倍近く増加した(
図3E、
図3F)。p-タウの増加は持続しなかったが、注入から15か月後でのタウPHFは対照よりも2.5倍高いままだった(
図3F)。最も興味深いことに、銀染色細胞もこの時点で野生型CD8群のマウスの海馬、嗅内皮質、及び帯状皮質で増加した(
図3G、
図3H)。連続銀/免疫蛍光染色により、これらは有核のp-タウ
+神経細胞から生じたものであることが示されたが、無核の「ゴーストタングル」は見られなかった(
図3G、
図3M、及び
図3N)。同時に染色されたADtgマウスの脳は銀染色斑のみを示し(Tg2576マウス;
図3G)、これによりhiT担持マウスにのみ銀染色細胞が確認された。これらのデータから、hiT細胞は、実質中Aβ40の組織的沈着、びまん斑、及び生神経細胞中の原線維封入体を助長することが示された。
【0086】
免疫及び神経炎症性浸潤
前脳のフローサイトメトリーからは明らかではないが、CD8+T細胞の数は、注入から15か月後の野生型CD8群のマウスの海馬切片において有意に増加しており、それらは偶々p-タウ
+神経細胞と相互作用した(
図3O及び
図3P)。CD8+T細胞数は海馬の外側では増加しなかった。皮質及び海馬のIba1
+ミクログリアと活性型GFAP
+星状細胞も、対照と比べて野生型CD8群のマウスにおいて有意に増加した(
図3I、
図3J)。Aβ斑面積率は、皮質又は海馬のアストログリア増殖よりも海馬のCD8+T細胞数とより強力に相関し、アミロイドパチーに対するT細胞の強い影響と一致した(
図3Q、
図3R、及び
図3S)。
【0087】
神経細胞の喪失及び脳萎縮
T細胞注入から15か月後に、対照と比べて、野生型CD8群のマウスにおけるCA2内のNeuN
+細胞数が減少した(
図4A~
図4C)。また、T細胞注入から6か月後に野生型CD8群では脳量が5%減少し、15か月の時点で10%の減少まで進行した(
図4D)。野生型CD8群における顕著な神経細胞及びシナプスの喪失は、ウエスタンブロットでのNeuNシグナル、ドレブリンシグナル、及びシナプトフィシンシグナルの減少により確認され、それぞれ注入から15か月後の時点で約10%のシグナル減少を示した(
図4E及び
図4F)。NeuNのウエスタンシグナルは、処置群間で脳量と有意に相関し、これにより脳の萎縮が神経細胞の喪失を反映することが示された(
図4G)。
【0088】
重度認知障害
全体的運動及び立ち上がり活動(overall motor and rearing activity)は、T細胞注入から3か月後、6か月後、又は13か月後での処置群と対照群のヌードマウスレシピエントの間で有意には異なっていなかった(
図4H)。対照的に、T細胞注入から6か月後の野生型CD8では、文脈的学習に対する恐怖条件づけ応答が特異的に低下し、11か月の時点では文脈的学習及び手掛かり学習の両方に対する応答が減少した(
図4I)。これらの結果は、野生型CD8群における認知障害は早期では(文脈的FCに必要な)海馬機能に限定されていたが、進行した後期では(手掛かりFCに必要な)海馬機能及び扁桃体機能の両方を損なうことを示唆している。同様のパターンの進行性認知機能欠損がヒトアルツハイマー病でも起こる。6か月の時点での文脈的学習成績も脳量と相関し、これによりその神経変性に対する関係性が示された。
【0089】
認知欠損を独立して確認するために、注入から12か月後に自発的交替行動を測定した。この試験は、2本の小路を交互に探索したいというマウスの嗜好に基づいており、以前に侵入した小路を記憶していることを必要とする。あり得る最低スコアである50%は、小路の無作為な選択を意味しており、短期記憶が無いこと、又は嗜好性が無いことのどちらかを反映している。対照PBS群のSAは、55~56%であり、公開されている野生型の値(27)と同等であるが、野生型CD8群のSAは50%であった(
図4J)。これが記憶又は嗜好性の欠損を反映しているのかどうかを試験するために、発明者らは海馬依存性の記憶及び学習の決定的評価法であるバーンズ迷路試験を14か月の時点で実施した。野生型CD8群ヌードマウスは、最初の4日のトレーニング期間にわたってこの迷路の学習に何の改善も示さなかった一方、他の全ての群はかなりの改善を示した(
図4K)。この初期の欠損を考慮すると、野生型CD8マウスはこの迷路の記憶保持期及び逆転学習期にも障害を有すると予期された(
図4L~
図4N)。恐怖条件づけと同様に、バーンズ迷路の成績と脳量との間にも有意な相関が存在した。したがって、野生型CD8群ヌードマウスは、明白な運動機能の欠損はないが、進行性であり、重篤かつ継続的な学習及び記憶の障害を示した。
【0090】
バーンズ迷路の成績がタウ及び/又はAβの評価指数の上昇と関連するかどうかをさらに調査した。バーンズ迷路での低成績(中央値よりも下の合計待ち時間=BMlo)は可溶性p-タウの増加とは有意な関連を示さず、ウエスタンでのタウPHFの増加と有意な関連を示した。対照的に、迷路の低成績は、ELISAによるとトリトン可溶性のAβ40/Aβ42又はグアニジン塩酸可溶性のAβ40/Aβ42のどちらとも有意に関連することがなかった。このように、ヒトアルツハイマー病で報告されているように、野生型CD8群ヌードマウスではアミロイドパチーよりもタウオパチーが認知障害を反映した。
【0091】
hiT細胞介在性神経変性症状の細胞機序
hiT細胞介在性神経変性症状に関与する機序を決定するため、それぞれT細胞溶解活性及び炎症促進活性の重要なエフェクターであるパーフォリン1又はIFNγを欠損したノックアウトドナーに由来するCD8+T細胞を、B6.Foxn1マウスに注入した。どちらかの遺伝子(それぞれPrf1とIfnγ)を欠損するCD8+T細胞は、B6.Foxn1レシピエントにおいて野生型と同等に増殖し(
図1J)、以前の研究と一致した。それにもかかわらず、パーフォリン1欠損及びIfnγ欠損のどちらのCD8+T細胞レシピエント(それぞれPrfKO-CD8群とIfnγKO-CD8群)も、可溶性Aβ又はp-タウ/PHFの増加をどの時点でも示さなかった(
図3B、
図3F)。しかしながら、IfnγKO-CD8群のマウスは、海馬及び嗅内皮質において野生型CD8群と比べてわずかにだけ減少したアミロイド斑及び銀染色細胞の蓄積を示したが、それらは帯状皮質まで広がっていなかった(
図3D、
図3H)。IfnγKO-CD8群のマウスはアストログリア増殖及びミクログリア増殖の減少も示したが(
図3I、
図3J)、PrfKO-CD8群とは違って、CD8+T細胞はこれらの細胞の注入から15か月後では有意な数で脳に存在した(
図3O、
図3P)。IfnγKO-CD8群も注入から15か月後の時点で、脳量とNeuN
+細胞の両方の有意な増加を示したことが予期せぬことであった。最後に、PrfKO-CD8群とIfnγKO-CD8群のどちらのマウスも11~15か月の時点で著しく低下した認知機能を示した。したがって、PrfKO-CD8群のマウスは、脳におけるCD8+T細胞の増加を含むどの基準でも病態生理学の証拠を示さなかった一方、IfnγKO-CD8群のマウスは、神経変性又は認知機能低下の証拠は示さなかったものの、幾らかの分子病態生理学を維持していた。
【0092】
加齢性認知機能低下におけるCD8+T
RM
CD8+T
RMはヌードマウスにおいて認知神経症状を引き起こしたが、免疫応答性マウスにおいてもこれらの細胞が加齢関連神経欠損を媒介するかどうかは不明であった。CD103は高齢マウスの脳で増加するCD8+T
RMの特徴であり、その発現は脳へのT
RMの回帰にとって重要である。CD103の遺伝子欠損は主にCD8+T細胞に影響し(
図5A)、脳のCD8含量を減少させた(
図5B、
図5C)ことを実証する。若齢及び高齢のCD103欠損マウスは、加齢と共に歩行活動が低下するにもかかわらず、バーンズ迷路のトレーニング期間において野生型の相対物と同様の成績を示した(
図5D、
図5E)。対照的に、高齢のCD103欠損マウスは記憶保持期及び逆転学習期においてわずかにより良好な成績を示し(
図5F、
図5G)、バーンズ迷路では著しくエラーの回数が減り、この系統のマウスにおける記録にある加齢による差異と逆になった(
図5H)。このように、CD103欠損により、高齢マウスは加齢性認知機能低下から防護された。CD103欠損は主にCD8+T細胞に影響し、且つ、CD103
+細胞だけが脳内又は脳の外側で加齢と共に増加するので、これにより加齢時の認知機能低下へのCD103
+CD8+T
RMの関与が確証される。加齢性認知機能低下は、将来の神経変性症状の強力な予測因子であるので、これによりCD8+T
RMは疾患性認知症(ADなど)にさらに関連付けられる。
【0093】
ヒトのアルツハイマー病の脳におけるhiT細胞表現型、エフェクタータンパク質、及び特異性
hiT細胞のヒトアルツハイマー病へのあり得る関連性を検討するため、IFNγが疾患リスクと関連することが既に知られているので、この疾患の脳内のパーフォリン1とCD8に注目した。ウエスタン分析により予期される抗体特異性(68~75kDaのPrf1、33~35kDaのCD8α)が提示され、予期された点状パターンの抗Prf1染色リンパ球核が提示された(
図6C)。パーフォリン1とCD8のウエスタンシグナルは相関し(n=6人;r=0.8155、P=0.048)、これらの両方が、重度ではなく軽度のアルツハイマー病の患者の皮質で増加し、パーフォリン1は統計有意性に達した(
図6C)。パーフォリン1:CD8シグナル比も重度アルツハイマー病の脳で著しく増加し、hiT細胞担持マウスで観察されるリンパ球溶解組成物の長期定性的変化と一致した(
図6B)。これをさらに検討するため、hiT細胞担持マウスで増加するT細胞エピトープである[APP
(471-479)]に類似のヒトT細胞エピトープに対して、pHLA-A2マルチマーを作製した。抗CD8とこのマルチマー又は対照マルチマーを含む重度アルツハイマー病患者及び正常加齢患者に由来する海馬切片を染色して、エピトープ反応性CD8+T細胞の割合を定量した。陰性対照の染色を差し引くと、APP
(471-479)に対するCD8+T細胞反応性が疾患で有意に上昇した(
図6E、
図6F;P=0.002)。hiT細胞担持マウスのように全CD8+T細胞レベルはこの疾患の脳において有意に上昇してはいないが、わずかに上昇した(n=10人;1.6±0.29対2.3±0.55、P=0.31)。このように、APP反応性CD8+T細胞は、hiT細胞担持ヌードマウスの脳と同様に、重度アルツハイマー病の脳で増加した。
【0094】
以下の表は、群の数及び検証実験を記載している。検証:WB=ウエスタンブロット、形態=予期される形態が組織染色で得られた、WB(吸着)=陰性抗原吸着対照を使用するウエスタンブロットによる予期された陽性シグナル、huAD=追加の予期される形態がヒトAD患者から得られた脳組織で得られた、共染色=第2の細胞種特異的試薬(抗CD8抗体)での染色。
【表1】
【0095】
hiT細胞を有するヌードマウスはヒト神経変性障害、特にアルツハイマー病との幾つかの類似性を示した。具体的には、神経炎症、銀染色(原線維)神経封入体、脳萎縮を伴うシナプスと神経細胞の喪失、及び進行性認知障害と同じく早期のAβの蓄積と後期のアミロイド斑の蓄積が、これらのマウスで明らかであった。これらの特徴のうちには、家族性アルツハイマー病遺伝子変異を発現するだけのマウスでは見られないものもある。これらに脳萎縮を伴う神経細胞の喪失と神経原線維封入体が含まれることが最も特筆すべきことである。しかしながら、アルツハイマー病又はFAD系のマウスモデルの神経症状とhiT細胞を有するヌードマウスの神経症状との間には違いがあり、明白にAβ42を含まずにAβ40だけが増加し、且つ、アミロイド斑は圧倒的に成熟斑というよりもびまん斑であった。ヌードマウスはヒトアルツハイマー病に典型的に見られる無細胞性「ゴーストタングル」も示さなかった。
【0096】
アイオワ型APP変異を有する患者は、主にAβ40が増加するパターンを示すが、この特徴はhiT細胞担持ヌードマウスを、大半のヒトアルツハイマー病からと同様に、大半の遺伝子導入モデルからも区別するものであった。これはhiT細胞担持ヌードマウスが顕著な血管アミロイドを示しており、その血管アミロイドが主として有するAβ40組成が他のAβ種を覆い隠している可能性があることに部分的に起因する可能性がある。マウスAβ40は、ヒトAβペプチドと反対のパターンであるが、Aβ42と比べて低下した流出速度も有しており、これによってより多くのAβ40が保持されることが助長されると予期される。げっ歯類動物の脳内でAβ42線維集合を特異的に阻害する因子がAβ40の優位性をさらに助長している可能性がある。一方、ゴーストタングルは成体のマウスには実質的に存在しない3Rタウから主に構成されているという点で他の神経原線維構造体と異なる。したがって、hiT担持ヌードマウスとヒトアルツハイマー病との間の食い違いは、技術的な要因と種特異的な要因の組合せから説明可能である。それにもかかわらず、これらのマウスの独特の症状からヒトの疾患に対するその他の類似点が明らかになった。例えば、海馬依存性作業から扁桃体依存性作業へと進行したhiT細胞担持ヌードマウスの認知障害は、Aβレベルよりもp-タウ/PHFレベルと良く相関し、且つ、複数の行動試験では脳萎縮と相関した。この背景から、早期アルツハイマー病の脳でCD8とパーフォリン1の両方の増加が観察されたことは驚くべきことではなく、それはhiT担持ヌードマウスにおけるエフェクター活性を有するCD8+T細胞の増加と同様であった。また、重症の疾患におけるApp[471-479]に対するCD8+T細胞反応性の上昇はhiT担持ヌードマウスにおけるほぼ同一のエピトープ(App[470-478])に反応するCD8+T細胞の増殖と正比例した。
【0097】
溶解性及び炎症促進性のT細胞エフェクター機能は、hiT細胞担持マウスの神経病理学的特徴に別々の影響を与えた。パーフォリン1欠損は全ての神経病理学的、且つ、徴候的特徴と同様に脳におけるCD8+T細胞の残留も抑制した。対照的にIfnγ欠損は、早期前臨床段階のアルツハイマー病を思い起こさせる限定的な分布ではあるが、アミロイド構造体と神経原線維構造体の蓄積を許した。このことは、以前の報告に見られるようにIFNγが疾患の病状を促進することを示している。IfnγKO-CD8群のマウスにおけるアストログリア増殖とミクログリア増殖の欠損も別個のアルツハイマー病モデルでIFNγが神経炎症を促進することを示している初期の研究と一致する。しかしながら、IfnγKO-CD8群のマウスにおけるNeuN、ドレブリン、及び脳量の予期せぬ増加は、IFNγが神経炎症と無関係に神経変性を制御する可能性もあることを示している。これらの異なる効果を考慮するとパーフォリン1+又はIFNγ+のCD8+T細胞がそれぞれ、アルツハイマー病の発症及び進行のバイオマーカーになるかどうかを確定することが興味深くなる。
【0098】
アルツハイマー病及びパーキンソン病にもHLA-DRリスクアレルが存在することから、T細胞が神経変性の病因に大いに関わる可能性があることが示されている。また、最近の脳内のリンパ管系の発見は、脳の病態生理学におけるT細胞の全般的な関与に対する構造的基礎の可能性を示している。全ての研究ではないが、これまでの研究の中には、アルツハイマー病におけるCD8+T細胞の増加又は一般的な自己免疫疾患の特徴の増加を報告しているものもあるが、T細胞関与の本質はあまり分かっていない。溶解性自己反応性がhiT細胞誘導性神経症状に寄与する可能性があると推測することは妥当であるが、この神経症状は多発性硬化症又は実験的自己免疫性脳脊髄炎に特徴的な古典的自己免疫性神経変性とは幾つかの点で異なった。例えば、この神経症状はCD4+T細胞よりもむしろCD8+T細胞に依存的であり、IFNγ欠損によって悪化するよりもむしろ改善され、且つ、高密度の免疫浸潤を伴わなかった。さらに、hiT担持マウスはMS及びEAEの明確な運動障害も欠いていた。アルツハイマー病様の神経症状と併せてこのことからhiT細胞担持ヌードマウスはMS様自己免疫神経変性を示さないことが強く示されている。
【0099】
hiT細胞介在性神経症状は、FAD変異と協働して真に完全なアルツハイマー病様の病理学的、且つ、徴候的プロファイルを生じる可能性があり得る。hiT細胞担持マウスにおける完全なこの疾患様の特徴が、ヒトのAβ(App)遺伝子及び/又はタウ(Mapt)遺伝子のノックイン系統で獲得可能であるかということ、及び神経症状の調節における系統のバックグラウンドの全般的な役割を問うことも同様に重要になる。最も重要なことに、孤発性アルツハイマー病、その疾患の前駆状態、及びリスク因子に類似するhiT細胞の関連性を確証することがそれらの細胞のバイオマーカーとしての能力と病因学的な意味を考慮すると重要である。とりあえず、加齢に伴うアルツハイマー病様神経変性の発症と神経原線維封入体の発生に対するマウスの通常の抵抗性にhiT細胞が打ち勝つことが発明者らの発見から示されている。これは、加齢に伴ってアルツハイマー病様神経変性を直接的に促進する初めての孤立性の生理学的因子、且つ、初めての加齢の免疫細胞特徴である。本明細書における発見は、異常CD8+T細胞が加齢性疾患状態で組織変性を促進することの初めての証拠である。異なる組織抗原に反応するhiT細胞が、脳又は体の他の領域に損傷を与える可能性があると考えられる。したがって、このhiTモデル及び加齢性CD8+T細胞機能異常は概して他の加齢性障害、おそらくは加齢自体の間に認められる広範囲の組織変性にも関連する可能性がある。
【0100】
実施例2:フローサイトメトリー用のHLA-ペプチド抗原マルチマー染色の標準操作手順
原理
この手順は、MHCクラスI腫瘍抗原テトラマーで陽性に染色されるCD8+T細胞、Tハイブリドーマ細胞、又は培養T細胞のパーセンテージを決定するために使用される方法を説明する。ヒト対象に由来する全血若しくはPBMC、Tハイブリドーマ細胞、又は培養T細胞をアリコットに分割して、U字底96ウェルマイクロタイタープレートに入れ、続いてモノクローナル抗体(mAb)で染色する。これらのmAbである抗CD8及び抗KLRG1又は抗CD103は、高齢T細胞の亜集団の細胞表面マーカーを認識する。その後、T細胞上の抗原特異的受容体を認識するpHLAマルチマーで細胞を染色する。インキュベートした後に、これらの細胞を洗浄して未結合の試薬を除去し、フローサイトメトリーを用いてこれらの細胞を分析する。対照株によって定義されている電子的ゲート内に入る細胞のパーセンテージを用いて、腫瘍抗原テトラマーを結合しているPBMCのパーセンテージを決定する。
【0101】
特定の要求事項
全ての試薬と器具を使用前に滅菌する。手技中の滅菌性の維持は必要ではないが、推奨される。滅菌された器具は、ラベルが付いた製造業者による包装状態で持ち込まれた後、無菌フードの中でのみ開封及び使用される。器具はオートクレーバブル滅菌ポーチ(示唆される供給業者としてのFisherのカタログ番号91015)の中で滅菌されてもよい。全ての処理は、ヒト細胞の処理用に承認されたラミナーフローフード内で行われなくてはならない。ヒト組織の操作に対する普遍的な予防策が必要である。
【0102】
材料/試薬
ピペット(滅菌済み):P20エッペンドルフ(VWRピペット、Calibrite INCサービス)及びP200エッペンドルフ(VWRピペット、Calibrite INCサービス)
ピペットチップ(滅菌済み、フィルター付き):ART20μlヌクレアーゼ/パイロジェンフリーチップ(Fisher、2149P)及びART200μlヌクレアーゼ/パイロジェンフリーチップ(Fisher、2069)
滅菌済みダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Invitrogen、14040-133)
滅菌済みFBS(Gemini Bio. Products、100-106)
滅菌済み2%FBSと98%PBSの溶液
ヒト抗CD8(ファーミジェン、番号不明、T-Neuro社供給)
ヒト抗KLRG1(ファーミジェン、番号不明、T-Neuro社供給)
ヒト抗CD103(ファーミジェン、番号不明、T-Neuro社供給)
ヒトHLA腫瘍抗原テトラマー、ペンタマー、又はデクストラマー(Her-2、Mart-1、gp100) T-Neuro社供給
Coulter、ProImmune、Immudex、様々な番号
4%パラホルムアルデヒド(Sigma、55F-0730)
70%エタノールと30%蒸留水の溶液
滅菌済みU字底96ウェルマイクロタイタープレート(Costar、3595)
滅菌済みFACSチューブ
クラッシュアイス用の蓋つき容器
ブリーチ用の清潔な1リットル容器
ブリーチ
【0103】
器具
少なくとも2個のマイクロタイタープレートアダプターを有し、1400gで回転可能な冷却遠心機
FACScan II又は他のフローサイトメーター(最低3色)(Becton Dickinson、Cytomation、その他)注記:CROと連絡を取っていない場合は施設のオペレーターと事前にFACS操作のスケジュールを組むこと。
品質管理(内部):適切な検査日誌及びノートに結果を記録すること。観察結果、及びGLPを守る場合は手技を行っていない証人による署名を含むこと。
手続き書のフォームとチェックリストを完全に埋め、同日に研究室の責任者(品質保証責任者)による署名を受けなければならない。
FACS操作日のFACScanフローサイトメーターの設定の印刷物をFACSオペレーターからもらうこと。あるいは、責任者による処理と分析についての.fcsファイルを得ること。
【0104】
方法
細胞表面マーカーのFACS染色
1.70%エタノールで拭き掃除したP200ピペットを使用し、分析するテトラマーにつき最大でU字底96ウェルマイクロタイタープレートの4ウェルの各々に、PBS/2%FBS中に2.5×105細胞(最大で1×106細胞;全てのウェルに等価の細胞数)のPBMC又は全血を移す(例えば2テトラマー=4ウェル。抗KLRG1抗体染色だけを計画している場合、試料当たりちょうど2ウェルになる)。
注記:以下の手技は臨床検査室又はラミナーフローフードの内部で行われる必要はない。
2.臨床検査室D2095の中に位置する遠心分離機を使用して、上記プレートを1400rpmで5分間にわたって遠心分離する。
3.約250~500mlのブリーチを含む清潔なプラスチック製廃棄物コンテナ容器の中に中身をはじき飛ばして上清を捨てる。その後、清潔なペーパータオルの上にプレートを置いて乾かす。
4.氷が詰められたアイスコンテナに、細胞及び抗体を含む上記96ウェルプレートを移す。
5.70%エタノールで拭き掃除した清潔なP200と滅菌済みピペットチップとを使用して、ウェル中の細胞を50μlの以下の抗体カクテルと再懸濁する。
a)5μlの抗CD8APC+5μlの抗CD8103FITC+35μlのPBS/2%FBS;又は他のマーカーの抗体で置き換える
b)5μlの抗CD8APC+5μlの抗KLRG1FITC+35μlのPBS/2%FBS
分析対象である各HLA腫瘍抗原テトラマーに対して、同じ2種類のカクテルを含むこと(例えば、2テトラマー+最大で2系統=合計で最大4ウェル)。細胞を暗所において30分間にわたって氷上でインキュベートする(U字底マイクロタイタープレートに蓋をし、誰もそれをひっくり返さないようにラベルをすること)。
注記:異なる抗体カクテル投与毎に清潔なピペットチップを使用すること。
6.70%エタノールで拭き掃除した清潔なP200と滅菌済みピペットチップとを使用して、各ウェルに200μlのPBS/2%FBSを添加する。汚染混入がないようにウェル毎に清潔なチップを使用すること。
7.ブレーキを高にしてプレートを1400rpmで5分間にわたって遠心分離する。
8.約250~500mlのブリーチを含む清潔なプラスチック製廃棄物コンテナ容器の中に中身をはじき飛ばして上清を捨てる。その後、清潔なペーパータオルの上にプレートを置いて乾かす。
9.70%エタノールで拭き掃除した清潔なP200と滅菌済みピペットチップとを使用し、予めインキュベートされたウェルを上記3種類の抗体カクテルの各々と各HLA腫瘍抗原テトラマー溶液(分析するテトラマーにつき1ウェル;2テトラマー=合計2ウェル)で以下のように再懸濁する。
c)5μlのHLA-APP-PE+35μlのPBS/2%FBS=1ウェル
d)5μlのHLA-エンプティー-PE+35μlのPBS/2%FBS=1ウェル
10.上記細胞を暗所において30分間にわたって室温(ちょうど25℃)でインキュベートする(プレートに蓋をし、誰もそれをひっくり返さないようにラベルをすること)。
11.70%エタノールで拭き掃除した清潔なP200と滅菌済みチップとを使用して、各ウェルに200μlの氷冷PBS/2%FBSを添加する。汚染混入がないようにウェル毎に清潔なチップを使用すること。
12.臨床検査室(D2095)の中に位置する遠心分離機を使用してブレーキを高にして、96ウェルプレートを1400rpmで5分間にわたって遠心分離する。
13.約250~500mlのブリーチを含む清潔なプラスチック製廃棄物コンテナ容器の中に中身をはじき飛ばして上清を捨てる。その後、清潔なペーパータオルの上にプレートを置いて乾かす。
14.70%エタノールで拭き掃除した清潔なP200と滅菌済みピペットチップとを使用して、各ウェル中の細胞を150μlの氷冷PBS/2%FBSと再懸濁する。研和することにより再懸濁する。汚染混入がないようにウェル毎に清潔なチップを使用すること。
15.70%エタノールで拭き掃除した清潔なP200と滅菌済みピペットチップとを使用して、上記細胞を分析用FACSチューブに移す。
16.細胞の分析遅延のための選択過程(注記:全血ではなく、染色済みPBMCだけに向けた過程)
16.1.70%エタノールで拭き掃除した清潔なP200と滅菌済みピペットチップとを使用して、96ウェルプレート中の細胞を50μlの4%パラホルムアルデヒドで固定する。試料毎に異なるチップを使用し、前記チューブ内で上下するピペット操作により、上記細胞とホルムアルデヒドがよく混合されることを確実に行うこと。
17.FACS分析のリクエストフォームと共にチューブを4階のD4029まで持っていく。
18.結果を取得し、FACS分析用に割り当てられた実験室のノートブックに結果を保存し、後続の分析のためにraw.fcsファイルをダウンロードする。
結果の報告
1.オペレーターからFACSの結果を得てから24時間以内に、このアッセイの実行に責任のある同僚と主席研究員により全てのデータが検討され、承認を受けることになる。
2.分析されたデータは最小で50,000の収集イベント(250,000超が好ましい)に由来するものであり、フォワードライトスキャッターとサイドライトスキャッターにより決定される生存リンパ球ゲート内の細胞の割合として提示されている。
3.後続の分析に適格であるように、pHLA-エンプティー(リンパ球ゲート内の0.7%超の細胞)及び抗CD8(リンパ球ゲート内の3.0%超の細胞)の両方について最小限の染色が達成されていなければならない。
4.手続き書のフォームを完全に埋め(器具使用記録の登録のためのチェックを含む)同日に研究室の責任者による署名を受けなければならない。
技術注記
1.滅菌済みの試薬と備品のみを使用すること。
2.特定のフード内でのみ作業すること。使用する10分間前にフードのスイッチを入れること。
3.使用前に70%エタノールでフードを拭き掃除すること。
4.フラスコ内で使用したピペットを試薬の中に戻さないこと。
5.フードから手を出すたびにグローブを交換すること。
6.いかなる血液成分を使用して作業する場合も必ずラボコート、グローブ、及び保護スリーブを着用すること。
7.細胞はフローサイトメトリーによる分析の前に最大で1週間にわたって4℃で貯蔵可能である。
【0105】
発明を実施するための形態の中で、本発明の様々な実施形態をこれまで説明してきた。これらの説明は、上記実施形態を直接的に説明しており、当業者は本明細書において提示及び記載されるこれらの特定の実施形態に対する改変及び/又は変形を思いつけることが理解される。この説明の範囲内に入るあらゆるこのような改変又は変形が、これらの実施形態の中に同様に含まれるものとする。特記されない限り、本発明者らは本明細書及び特許請求の範囲の中の言葉と言い回しは当該技術分野の当業者に対して通常、且つ、一般通りの意味で使用されることを意図している。
【0106】
本願書を出願した時点で出願者が知っていた本発明の様々な実施形態についての前述の説明をこれまで提示してきたが、それは例示と説明を目的としたものである。この説明は網羅的であることを意図したものでもなければ、本発明をまさに開示された形のものに限定することを意図したものでもなく、上記の教示に鑑みて多数の改変と変形が可能である。説明された実施形態は本発明の原理とその実際の適用を説明するのに役立ち、他の当業者が様々な実施形態で、且つ、考えられる特定の使用法に合うような様々な改変を加えて本発明を利用することを可能にするのにも役立つ。したがって、本発明は本発明を実施するために開示された特定の実施形態に限定されないものとする。
【0107】
本発明の特定の実施形態が提示及び記載されてきたが、本明細書内の教示に基づいて本発明と本発明のより広範囲の態様から逸脱せずに変更と改変を行うことができ、したがって、添付される特許請求の範囲がそれらの範囲内に包含され、全てのそのような変更と改変が本発明の真の主旨と範囲内にあることが当業者に明らかになる。概して、本明細書において使用される用語は概ね「開放系」の用語を意味する(例えば、「含む(including)」という用語は「含むが限定されない」と解釈されるべきであり、「有する(having)」という用語は「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む(includes)」という用語は「含むが限定されない」と解釈されるべきである等)ことが当業者によって理解されることになる。
【0108】
本明細書において使用される場合、「含む(comprising)」又は「含む(comprises)」という用語は実施形態にとって有用である組成物、方法、及びそれらの個々の成分に言及するときに使用され、それでいて規定されていない要素を有用であるにしても有用ではないにしても包含することにも開かれている。概して、本明細書において使用される用語は概ね「開放系」の用語を意味する(例えば、「含む(including)」という用語は「含むが限定されない」と解釈されるべきであり、「有する(having)」という用語は「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む(includes)」という用語は「含むが限定されない」と解釈されるべきである等)ことが当業者によって理解されることになる。含む(including)、含有する(containing)、又は有する(having)などの用語の類義語としての「含む(comprising)」という開放型の用語が本発明を説明し、且つ、請求するために本明細書において使用されているが、本発明又は本発明の実施形態は「からなる(consisting of)」又は「から基本的になる(consisting essentially of)」などの代替的な用語を使用して代替的に記載されることも可能である。
<付記>
本発明の態様は以下を含む。
<項1>
必要とする対象における加齢性認知機能低下、軽度認知障害、病的神経変性、又はこれらの組合せを治療する、抑制する、重症度を低下させる、又は予防を促進するための方法であって、
分化抗原群(CD103)阻害剤、パーフォリン1阻害剤、及びインターフェロンγ(IFNγ)阻害剤のうちの1種又は複数種の治療有効量を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
<項2>
前記CD103阻害剤が投与され、
前記CD103阻害剤が抗CD103抗体であり、且つ、クローンBer-ACTBに由来するPE抗ヒトCD103抗体、クローン2G5.1に由来するマウス抗ヒトCD103モノクローナル抗体(mAb)、2G5.1のヒト化抗体、OX-62、OX-62のヒト化抗体、クローン2E7由来の抗マウスCD103モノクローナル抗体、2E7のヒト化抗体、又はパキシリンを含む、項1に記載の方法。
<項3>
前記パーフォリン1阻害剤が投与され、
前記パーフォリン1阻害剤が、ジアリールチオフェン又はGSK2126458を含む、項1に記載の方法。
<項4>
前記IFNγ阻害剤が投与され、
前記IFNγの阻害剤が、メソプラム又はロカグラミドを含む、項1に記載の方法。
<項5>
前記パーフォリン1阻害剤及び前記IFNγ阻害剤が投与される、項1に記載の方法。
<項6>
前記CD103阻害剤、前記パーフォリン1阻害剤、及び前記IFNγ阻害剤が投与される、項1に記載の方法。
<項7>
前記1種又は複数種の阻害剤が、CD8+常在性メモリーT細胞(TRM)又は前記細胞に由来するエフェクターCD8+T細胞を調節し、且つ、前記CD8+TRM又は前記エフェクターCD8+T細胞のアミロイド前駆タンパク質(APP)ペプチドへの結合又は反応を抑制する、項1に記載の方法。
<項8>
APPペプチドへの結合又は反応の抑制が、脳における配列番号8のAPPペプチドへの結合又は反応の抑制を含む、項7に記載の方法。
<項9>
前記対象が、50歳以上、55歳以上、60歳以上、65歳以上、又は70歳以上の年齢のヒトである、項1に記載の方法。
<項10>
前記1種又は複数種の阻害剤の投与前と比較して、又は前記1種若しくは複数種の阻害剤が投与されていない対照被検者と比較して、前記エフェクターCD8+T細胞の活性が低下しており、且つ/又は前記CD8+TRMが末梢系から脳への移動が減少している、項7に記載の方法。
<項11>
前記CD103阻害剤、前記パーフォリン1阻害剤、及び前記インターフェロンγ(IFNγ)阻害剤が独立して、抗体、抗体の抗原結合断片、小分子、又は核酸を含む、項1に記載の方法。
<項12>
前記病的神経変性が、多発性硬化症、パーキンソン病、及びアルツハイマー病のうちの1又は複数を含む、項1に記載の方法。
<項13>
前記加齢性認知機能低下又は前記軽度認知障害が、短期記憶又は長期記憶の喪失、集中力維持能力の低下、及び課題解決能力の低下のうちの1又は複数の症状を有する、項1に記載の方法。
<項14>
前記対象がヒト対象であり、
病的神経変性になりやすい、又は前記投与前に病的神経変性になっている前記ヒト対象を特定することをさらに含み、
ヒト対象の血液中のCD103+常在性メモリーCD8+T細胞(CD8+TRM)の存在が、加齢性認知機能低下の症状の無い、より若齢の時の同じヒト対象から得られた値と比較して、又は加齢性認知機能低下の症状の無い1人の健康なヒト対象又は複数の健康なヒト対象のプールから得られた値と比較して、増加していることを検出することを含み、
前記病的神経変性が、パーキンソン病、多発性硬化症、又はアルツハイマー病を含み、
前記加齢性認知機能低下が、短期記憶又は長期記憶の喪失、集中力維持能力の低下、及び課題解決能力の低下のうちの1又は複数の症状を有する、項1に記載の方法。
<項15>
前記検出する工程が、CD103+CD8+TRMにおけるCD8Aレベル及びCD44レベルの上昇を検出することをさらに含む、項14に記載の方法。
<項16>
前記ヒト対象が65歳以上である、項14に記載の方法。
<項17>
必要とする対象における加齢性認知機能低下、又は多発性硬化症、パーキンソン病、若しくはアルツハイマー病を含む病的神経変性を治療する、抑制する、重症度を低下させる、又は予防を促進する方法であって、
治療有効量のワクチンを前記対象に投与することを含み、
前記ワクチンが、配列番号8、配列番号7、配列番号6、配列番号5、配列番号4、配列番号3、配列番号2、及びこれらの組合せからなる群より選択されるアミロイド前駆タンパク質(APP)ペプチド、又はAPPを含む、
前記方法。
<項18>
前記対象が、40歳以上、50歳以上、60歳以上、又は70歳以上の年齢のヒトである、項17に記載の方法。
<項19>
加齢性認知機能低下若しくは病的神経変性になりやすいか、又は加齢性認知機能低下若しくは病的神経変性になっているヒト対象を特定する方法であって、
短期記憶又は長期記憶の喪失、集中力維持能力の低下、及び課題解決能力の低下のうちの1又は複数の症状を有するヒト対象から得られた血液試料中のCD103+常在性メモリーCD8+T細胞(CD8+TRM)の存在の増加を検出することを含む、
前記方法。
<項20>
前記CD103+CD8+TRMの存在の増加が、前記1又は複数の症状のいずれも有しない1人の健康なヒト対象又は複数の健康なヒト対象のプールから得られた値と比較したものである、項19に記載の方法。