(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168921
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】ブリルアン位相シフトの検出方法および検出装置と光ファイバ温度センシング方法
(51)【国際特許分類】
G01D 5/353 20060101AFI20231121BHJP
G01K 11/322 20210101ALI20231121BHJP
【FI】
G01D5/353 B
G01K11/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080308
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】今宿 亙
【テーマコード(参考)】
2F056
2F103
【Fターム(参考)】
2F056AE03
2F056AE05
2F103BA37
2F103CA06
2F103CA07
2F103EB02
2F103EB16
2F103EC09
2F103EC10
2F103EC16
2F103ED27
2F103ED36
2F103ED38
2F103ED39
2F103FA01
2F103FA02
(57)【要約】
【課題】コヒーレント光検波法を用いたブリルアン位相シフトの検出は、局発光の光強度を高くしつつ、局発光とプローブ光の光周波数を同期させることが容易ではなかった。
【解決手段】第1の光源からプローブ光、パイロット光、ポンプ光を生成し、プローブ光とパイロット光をセンサ用光ファイバの一端から入力し、ポンプ光を他端から入力し、他端から得た光を第2の光源から生成したローカル光で検波し、プローブ光に対応するプローブ光電気信号とパイロット光に対応するパイロット光電気信号を分けた後、パイロット光の共役信号をプローブ光に乗算しローカル光成分を除去し、さらにプローブ光とパイロット信号から生成したダウンコンバート信号をさらに乗算することで、直流成分にダウンコンバートしてブリルアン位相信号exp(jΔφ
b)を算出し、位相成分を取り出してブリルアン位相シフト量を求める。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光源からの光をプローブ光生成信号とパイロット光生成信号を用いてプローブ光とパイロット光を生成し、
前記プローブ光と前記パイロット光を合波しセンサ用光ファイバの一端から入力し、
前記第1の光源からの光をポンプ光として前記センサ用光ファイバの他端から入力する光入力工程と、
前記センサ用光ファイバの前記他端からの出力光を第2の光源から生成したローカル光を使って検波しビート電気信号を得る検波工程と、
前記ビート電気信号をプローブ光に対応するプローブ光電気信号と前記パイロット光に対応するパイロット光電気信号に分離する分離工程と、
前記パイロット光電気信号の位相共役信号を前記プローブ光電気信号に乗算し前記ローカル光の影響が除去されたプローブパイロット光電気信号を求めるローカル光成分除去工程と、
前記プローブパイロット光電気信号をベースバンド帯域に変換するためのダウンコンバート信号を生成し、
前記プローブパイロット光電気信号に乗算しブリルアン位相信号を求め、前記ブリルアン位相信号からブリルアン位相シフト量を求める位相成分算出工程を有するブリルアン位相シフトの検出方法。
【請求項2】
前記光入力工程は、
前記プローブ光と前記パイロット光をそれぞれ異なる偏波にして合波し前記センサ用光ファイバの前記一端から入力し、前記ポンプ光を前記センサ用光ファイバの前記他端から入力する工程であり、
前記分離工程は、
前記ビート電気信号の偏波毎に前記プローブ光電気信号と前記パイロット光電気信号に分離する工程である請求項1に記載されたブリルアン位相シフトの検出方法。
【請求項3】
前記光入力工程は、
前記プローブ光と前記パイロット光を同一偏波で合波し前記センサ用光ファイバの前記一端から入力し、前記ポンプ光を前記センサ用光ファイバの前記他端から入力する工程であり、
前記分離工程は、
前記ビート電気信号を周波数の違いで前記プローブ光電気信号と前記パイロット光電気信号に分離する工程である請求項1に記載されたブリルアン位相シフトの検出方法。
【請求項4】
前記位相成分算出工程は、
前記プローブパイロット光電気信号をベースバンド帯域に変換するためのダウンコンバート信号を前記プローブ光生成信号と前記パイロット光生成信号から生成し、前記プローブパイロット光電気信号に乗算し、ブリルアン位相信号を求め、前記ブリルアン位相信号からブリルアン位相シフト量を求める工程である請求項2または3に記載されたブリルアン位相シフトの検出方法。
【請求項5】
前記位相成分算出工程は、
前記プローブパイロット光電気信号をベースバンド帯域に変換するためのダウンコンバート信号を前記プローブ光生成信号と前記パイロット光生成信号以外から生成し、前記プローブパイロット光電気信号に乗算し、ブリルアン位相信号を求め、前記ブリルアン位相信号からブリルアン位相シフト量を求める工程である請求項2または3に記載されたブリルアン位相シフトの検出方法。
【請求項6】
第1の光源からの光をプローブ光生成信号とパイロット光生成信号を用いてプローブ光とパイロット光を生成し、
前記プローブ光と前記パイロット光を合波しセンサ用光ファイバの一端から入力し、
前記第1の光源からの光をポンプ光として前記センサ用光ファイバの他端から入力する光入力工程と、
前記センサ用光ファイバの前記他端からの出力光を第2の光源から生成したローカル光を使って検波しビート電気信号を得る検波工程と、
前記ビート電気信号をプローブ光に対応するプローブ光電気信号と前記パイロット光に対応するパイロット光電気信号に分離する分離工程と、
前記パイロット光電気信号の共役信号を前記プローブ光電気信号に乗算し前記ローカル光の影響が除去されたプローブパイロット光電気信号を求めるローカル光成分除去工程と、
前記プローブパイロット光電気信号をベースバンド帯域に変換するためのダウンコンバート信号を生成し、
前記プローブパイロット光電気信号に乗算しブリルアン位相信号を求め、前記ブリルアン位相信号からブリルアン位相シフト量を求める位相成分算出工程と、
前記プローブ光の光周波数を変化させながら前記光入力工程から前記位相成分算出工程を繰り返す繰り返し工程と、
前記ブリルアン位相シフト量がゼロになる、若しくは誘導ブリルアン利得が最大となるブリルアンシフト周波数を求めるブリルアンシフト周波数取得工程と、
予め用意された温度と前記ブリルアンシフト周波数の関係を表すルックアップテーブルと前記ブリルアンシフト周波数から温度を求める工程を有する光ファイバ温度センシング方法。
【請求項7】
前記光入力工程は、
前記プローブ光と前記パイロット光をそれぞれ異なる偏波にして合波し前記センサ用光ファイバの前記一端から入力し、前記ポンプ光を前記センサ用光ファイバの前記他端から入力する工程であり、
前記分離工程は、
前記ビート電気信号の偏波毎に前記プローブ光電気信号と前記パイロット光電気信号に分離する工程である請求項6に記載された光ファイバ温度センシング方法。
【請求項8】
前記光入力工程は、
前記プローブ光と前記パイロット光を同一偏波で合波し前記センサ用光ファイバの前記一端から入力し、前記ポンプ光を前記センサ用光ファイバの前記他端から入力する工程であり、
前記分離工程は、
前記ビート電気信号を周波数の違いで前記プローブ光電気信号と前記パイロット光電気信号に分離する工程である請求項7に記載された光ファイバ温度センシング方法。
【請求項9】
前記位相成分算出工程は、
前記プローブパイロット光電気信号をベースバンド帯域に変換するためのダウンコンバート信号を前記プローブ光生成信号と前記パイロット光生成信号から生成し、前記プローブパイロット光電気信号に乗算し、ブリルアン位相信号を求め、前記ブリルアン位相信号からブリルアン位相シフト量を求める工程である請求項7または8に記載された光ファイバ温度センシング方法。
【請求項10】
前記位相成分算出工程は、
前記プローブパイロット光電気信号をベースバンド帯域に変換するためのダウンコンバート信号を前記プローブ光生成信号と前記パイロット光生成信号以外から生成し、前記プローブパイロット光電気信号に乗算し、ブリルアン位相信号を求め、前記ブリルアン位相信号からブリルアン位相シフト量を求める工程である請求項7または8に記載された光ファイバ温度センシング方法。
【請求項11】
センサ用光ファイバのブリルアン位相シフトを検出するブリルアン位相シフトの検出装置であって、
第1の光源からの光をプローブ光生成信号とパイロット光生成信号を用いてプローブ光とパイロット光を生成し、前記プローブ光と前記パイロット光を合波しプローブパイロット光として前記センサ用光ファイバの一端から入力するプローブパイロット光生成部と、
前記第1の光源からポンプ光を生成し、前記センサ用光ファイバの他端から入力するポンプ光生成部を有する
光源モジュール部と、
前記センサ用光ファイバの前記他端からの出力光を第2の光源から生成したローカル光を使って検波しビート電気信号を得る検波部と、
前記ビート電気信号を前記プローブ光に対応するプローブ光電気信号と前記パイロット光に対応するパイロット光電気信号に分離する分離部と、
前記パイロット光電気信号の位相共役信号を前記プローブ光電気信号に乗算し前記ローカル光の影響が除去されたプローブパイロット光電気信号を求めるローカル光成分除去部と、
前記プローブパイロット光電気信号をベースバンド帯域に変換するためのダウンコンバート信号を生成し、前記プローブパイロット光電気信号に乗算しブリルアン位相信号を求めるブリルアン位相信号算出部と、
前記ブリルアン位相信号からブリルアン位相シフト量を求めるブリルアン位相シフト量算出部を有するブリルアン位相シフトの検出装置。
【請求項12】
センサ用光ファイバの温度を計測する光ファイバ温度センシング装置であって、
第1の光源からの光をプローブ光生成信号とパイロット光生成信号を用いてプローブ光とパイロット光を生成し、前記プローブ光と前記パイロット光を合波し前記センサ用光ファイバの一端から入力するプローブパイロット光生成部と、
前記第1の光源からポンプ光を生成し、前記センサ用光ファイバの他端から入力するポンプ光生成部を有する
光源モジュール部と、
前記センサ用光ファイバの前記他端からの出力光を第2の光源から生成したローカル光を使って検波しビート電気信号を得る検波部と、
前記ビート電気信号を前記プローブ光に対応するプローブ光電気信号と前記パイロット光に対応するパイロット光電気信号に分離する分離部と、
前記パイロット光電気信号の位相共役信号を前記プローブ光電気信号に乗算し前記ローカル光の影響が除去されたプローブパイロット光電気信号を求めるローカル光成分除去部と、
前記プローブパイロット光電気信号をベースバンド帯域に変換するためのダウンコンバート信号を生成し、前記プローブパイロット光電気信号に乗算しブリルアン位相信号を求めるブリルアン位相信号算出部と、
前記ブリルアン位相信号からブリルアン位相シフト量を求めるブリルアン位相シフト量算出部と、
前記プローブ光の周波数を変化させながら前記ブリルアン位相シフト量を求めブリルアン位相シフト量がゼロになる、若しくは誘導ブリルアン利得が最大となるブリルアンシフト周波数を求めるブリルアンシフト周波数算出部と、
前記ブリルアンシフト周波数と温度の対応関係を示すルックアップテーブルと、
前記ルックアップテーブルと前記ブリルアンシフト周波数から温度を算出する温度推定部を有する光ファイバ温度センシング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度、歪、振動の広域分布計測が可能なブリルアン光ファイバセンサに関するものである。本発明は、従来技術と比較して、十分な強度を有する局発光をコヒーレント光検波器に設置できるようにして、高い感度を有するブリルアン光ファイバセンサを実現する。
【0002】
本発明のディジタルプロセッシング方法やロジックを用いて、プローブ光と局発光の光位相差を安定的に補償することで、ブリルアン光ファイバセンサの受信感度を10dB以上(=10倍以上)改善させ、50~100km先の振動検知を可能とする高感度光ファイバセンサを実現する。
【背景技術】
【0003】
光ファイバセンサは、温度変化、張力(歪)変化、振動を検出可能で、建物や橋梁、災害危険個所の土壌モニタリング、航空機の振動センシングなど産業上の応用が進展している。
【0004】
その中でも、光ファイバで発生するブリルアン散乱光を検出するブリルアン光ファイバセンサは、光ファイバ母材に特殊な加工を施すことなく通信用光ファイバと同一仕様の光ファイバで、その線路上の温度変化、張力(歪)変化、振動を広域に検出できる経済的な遠隔センシング技術である(非特許文献1)。このブリルアン光ファイバセンサの特徴を最大限に生かすと、長さ数十~100km前後に渡る分布計測型地震計も実現できる。
【0005】
温度変化、張力(歪)変化、振動を検出するブリルアン光ファイバセンサの動作原理は以下の通りである。
【0006】
ポンプ光とブローブ光を光ファイバにおいて互いに逆伝搬させる。その際、プローブ光周波数をポンプ光周波数からブリルアンシフト周波数Δfb(石英ファイバの場合、約10.8GHz~11GHz前後)分だけ低周波数側にシフトさせると、誘導ブリルアン散乱現象が発生する。その際、プローブ光は、プローブ光振幅が増大する誘導ブリルアン利得が発生すると共に、ブリルアン位相シフトと呼ばれる光位相シフトも発生する。この誘導ブリルアン散乱現象が発生する周波数帯域は極めて細く、~50MHz程度であることが知られている。
【0007】
ブリルアン光ファイバセンサは、これら誘導ブリルアン利得とブリルアン位相シフトが発生し、鋭い周波数応答特性を示すブリルアンシフト周波数Δfbの変化を検出することで、温度変化、張力(歪)変化、ないし振動を検出することができる。特にブリルアン位相シフトの検出は、ポンプ光エネルギーの枯渇現象に対する安定性の確保、ブリルアン光位相シフトスペクトルの直線性の観点で、安定的な温度・歪・振動センシングの実現に有利とされている(非特許文献2)。
【0008】
分布計測型地震計のような条長の長いブリルアン光ファイバセンサを安定的に機能させるには、プローブ光品質の確保と光検波器の感度向上が極めて重要である。光検波器の感度向上の手段としては、コヒーレント光検波法が有利であることが知られており、強度検波と比較して受信感度が6dB以上改善する(非特許文献3)。
【0009】
また、ブリルアン光位相を検出し所望のセンシング動作を実現するには、コヒーレント光検波法の適用が必須である。これらの理由から、コヒーレント光検波法を応用したブリルアン光位相シフトの検出に関する研究が複数報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】T.Horiguchi and M.Tateda, “Optical-fiber-attenuation investigation using stimulated Brillouin scattering between a pluse and a continuous wave,” Opt. Lett.,vol. 14, no.8, pp. 408-410,April.1989.
【非特許文献2】A Minardo, R.Bernini, and L.Zeni, “A simple technique for reducing pump depletion in long-range distributed Brillouin fiber sensors,” IEEE Sensors J., vol.9, no.6, pp. 633-634,June 2009.
【非特許文献3】K.Kikuchi, “Fundamentals of coherent optical fiber communications,” J.Lightw. Technol., vol.34, no.1, pp.157-179, Aug. 2016.
【非特許文献4】A. Zornoza, M.Sagues, and A.Loayssa, “Self-heterodyne detection for SNR improvement and distributed phase-shift measurements in BOTDA,” J.Lightw. Technol., vol.30, no.8, pp.1066-1072, Apr. 2012.
【非特許文献5】L.Wang,N.Gou, C.Jin, K.Zhong, X.Zhou, J.Yuan, Z.Kang, B.Zhou, C.Yu, H.-Y. Tam, and C.Lu, “Coherent BOTDA using phase- and polarization-deversityheterodyne detection and embedded digital signal processing,” IEEE Sensors J., vol. 17, no.12, pp.3728-3734, June 2017.
【非特許文献6】Z.Li, Y.Zhou, B.Jiang, X.Gan, L.Yan, and J.Zhao, “Phase fluctuation cancellation for coherent-detection BOTDA fiber sensors based on optical subcarrier multiplexing,” Opt. Lett., vol.46, no.4,pp.757-760, Feb. 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
コヒーレント光検波法を用いたブリルアン位相シフトの検出は、主に下記の課題を有する。
(1)コヒーレント光検波器に設置される局発光とブリルアン位相シフト情報を有するプローブ光搬送成分の光周波数と光位相を同期させる必要がある。
(2)コヒーレント光検波器に設置させる局発光は十分な光強度を有する必要がある。
【0012】
これらの課題をクリアする技術として、自己ヘテロダイン光検波法を適用したブリルアン光ファイバセンサが提案されている(非特許文献4:再掲載)。この方法は、プローブ光と局発光を同一光源から生成させ、局発光の光周波数をプローブ光周波数と異なるように制御しつつも、両者の光位相は同期が保たれ、その状態が維持されるよう光ファイバセンサ部において両者を並行して伝搬させる。そのため、前述したコヒーレント光検波法の課題(1)は解決できるものの、光ファイバセンサ部の条長が長くなると、局発光の強度が失われ課題(2)の要求を満たすことが不可能になり、受信感度も-20dBm前後に留まっている。
【0013】
そこで本発明は、従来の自己ヘテロダイン法によるブリルアン位相シフトの検出ではなく、コヒーレント光検波法の一種であるイントラダイン光検波法を適用する。ブリルアン光ファイバセンサにイントラダイン光検波法を適用する提案は、(非特許文献5)で提案されているものの、プローブ光と局発光の光位相差を安定的に補償する技術については、示されていない状況である。
【0014】
また、ローカル光のわずかな光位相シフトを補償する電気的な手段も(非特許文献6)で提案されているものの、イントラダイン光検波法に適用するには機能不足である。
【0015】
本発明は、この課題を解決できるイントラダイン光検波法を適用したブリルアン光ファイバセンサの実現手段を提供する。本発明は、課題(1)の要求条件を満たすだけでなく、十分な強度を有する局発光をコヒーレント光検波器に設置できるようにして課題(2)の要求条件を満足し、プローブ光と局発光の光位相差を安定的に補償することで、ブリルアン光ファイバセンサの受信感度を10dB以上改善させる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、プローブ光とパイロット光を合波して光ファイバセンサ部に入力し、これらに対して逆伝搬させるポンプ光を用いてプローブ光のみに誘導ブリルアン散乱現象が発生するようにする。その上で、ブリルアン散乱光検波機能にこれらプローブ光とパイロット光を検波する。本発明では、ブリルアン散乱光検波機能は、イントラダイン光検波法が適用される。本発明では、ブリルアン位相シフトを検出する方法と、それを用いた光ファイバ温度センシング方法(および装置)を提供する。
【0017】
より具体的に本発明に係るブリルアン位相シフトの検出方法は、
第1の光源からの光をプローブ光生成信号とパイロット光生成信号を用いてプローブ光とパイロット光を生成し、
前記プローブ光と前記パイロット光を合波しセンサ用光ファイバの一端から入力し、
前記第1の光源からの光をポンプ光として前記センサ用光ファイバの他端から入力する光入力工程と、
前記センサ用光ファイバの前記他端からの出力光を第2の光源から生成したローカル光を使って検波しビート電気信号を得る検波工程と、
前記ビート電気信号をプローブ光に対応するプローブ光電気信号と前記パイロット光に対応するパイロット光電気信号に分離する分離工程と、
前記パイロット光電気信号の位相共役信号を前記プローブ光電気信号に乗算し前記ローカル光の影響が除去されたプローブパイロット光電気信号を求めるローカル光成分除去工程と、
前記プローブパイロット光電気信号をベースバンド帯域に変換するためのダウンコンバート信号を生成し、
前記プローブパイロット光電気信号に乗算しブリルアン位相信号を求め、前記ブリルアン位相信号からブリルアン位相シフト量を求める位相成分算出工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、光ファイバセンサにおいてブリルアン位相シフトを検出する際に、コヒーレント光検波器に設置される局発光とブリルアン位相シフト情報を有するプローブ光搬送成分の光周波数と光位相を同期させる必要がなくなる。また、コヒーレント光検波器に設置させる局発光はプローブ光等と独立して設けることができるので、十分な光強度で駆動することができる。
【0019】
その結果、ブリルアン光ファイバセンサの受信感度を大幅に改善させることが可能になる。その効果により、ブリルアン光ファイバセンサの条長を長くし100kmを超える分布計測型地震計の開発が可能になるとともに、ブリルアン光ファイバセンサの条長が短い場合でも温度・歪・振動計測のサンプリング速度を10倍以上に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るブリルアン位相シフトの検出方法および光ファイバ温度センシング方法を実施する全体構成を示す図である。
【
図2】第2の実施形態における光源モジュール部の詳細な構成を示す図である。
【
図4】ポンプ光、プローブ光、パイロット光、ローカル光の周波数アロケーションを示す図である。
【
図5】第2の実施形態におけるブリルアン散乱光検波部の構成を示す図である。
【
図6】ポンプ光とプローブ光の周波数差と誘導ブリルアン利得およびブリルアン位相シフトとの関係を例示するグラフである。
【
図7】第2の実施形態でプローブ光の周波数を変化させたときのブリルアン位相シフトの変化を例示するグラフである。
【
図8】プローブ光の周波数の変化とセンサ用ファイバの温度の関係を示すグラフである。
【
図9】プローブ光の利得の変化とセンサ用ファイバの温度の関係を示すグラフである。
【
図10】ブリルアンシフト周波数と温度の関係をプロットしたもので、ルックアップテーブルである。(a)位相検波方式の場合を示し、(b)強度検波方式の場合を示す。
【
図11】プローブ光の受信電力と複合化可能なSN比を表すグラフである。
【
図12】センサ用光ファイバの任意の点のブリルアン位相シフト量若しくは誘導ブリルアン利得を測定する原理を示す図である。
【
図14】ポンプ光、プローブ光、パイロット光、ローカル光の他の周波数アロケーションを示す図である。
【
図15】ポンプ光、プローブ光、パイロット光、ローカル光の他の周波数アロケーションを示す図である。
【
図16】ポンプ光、プローブ光、パイロット光、ローカル光の他の周波数アロケーションを示す図である。
【
図17】第3の実施形態における光源モジュール部の構成を示す図である。
【
図18】第3の実施形態におけるブリルアン散乱光検波部の構成を示す図である。
【
図19】第4の実施形態におけるブリルアン散乱光検波部の構成を示す図である。
【
図20】第5の実施形態の光ファイバ温度センシング方法を実施するハード的な構成を示す図である。
【
図21】第5の実施形態における光源モジュール部の構成を示す図である。
【
図22】第5の実施形態におけるブリルアン散乱光検波部の構成を示す図である。
【
図23】第6の実施形態における光源モジュール部の構成を示す図である。
【
図24】第6の実施形態で使用するプローブ光の波形を示す図である。
【
図25】第6の実施形態におけるブリルアン散乱光検波部の構成を示す図である。
【
図26】第7の実施形態にブリルアン散乱光検波部の構成を示す図である。
【
図27】第7の実施形態に複素乗算回路の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係るブリルアン位相シフトの検出方法と、それを用いた光ファイバ(温度)センシング方法およびそれらを実現する装置について図面を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0022】
(第1の実施形態)
本発明に係るブリルアン位相シフトの検出方法を、
図1を用いて説明する。なお、ブリルアン位相シフトの検出法を実現する光ファイバ(温度)センシング装置1は、光源モジュール部11、光ファイバセンサ部21、ブリルアン散乱光検波部31、制御部50を有する。また、光ファイバ(温度)センシング装置1は温度の検出を行うので、光ファイバ温度センシング方法を実施していると言える。
【0023】
光源モジュール部11は、ポンプ光L1、プローブ光L3、パイロット光L4を同一の光源(第1の光源)から生成する。これは電気信号発生器(
図1には図示せず)によって、安定的に生成される。また、光源モジュール部11は、プローブ光L3とパイロット光L4の周波数差に対応する周波数オフセット信号S5を生成し出力する。
【0024】
光ファイバセンサ部21は、センサ用光ファイバ215を含んでいる。プローブ光L3とパイロット光L4は、光ファイバセンサ部21の一端212から入力され、ポンプ光L1は他端211から入力される。なお、一端212および他端211は入力ポート212、入力ポート211とも呼ぶ。
【0025】
ブリルアン散乱光検波部31は、光ファイバセンサ部21の他端211から出力してきた探査済光L5を受ける光ポート311と光源モジュール部11が出力した周波数オフセット信号S5を受ける電気信号ポート312を有する。また、ブリルアン散乱光検波部31は、内部に光源モジュール部11の光源とは別の光源(第2の光源)で形成されたローカル光LOを生成する局発光部322を有している。そして、ローカル光LOで光ポート311からブリルアン散乱光検波部31に入力された探査済光L5を検波する。
【0026】
探査済光L5は、ブリルアン散乱光検波部31に内蔵されている局発光部322からのローカル光LO(ELOexp(j(ωLOt+φLO)))と干渉され、同じくブリルアン散乱光検波部31に内蔵する位相ダイバーシティー差動二乗検波器で検波される。結果、(1)式のビート電気信号S1(複素振幅電気信号)に変換される。
【0027】
【0028】
(1)式においてBGは誘導ブリルアン利得BG
2の二乗根であり、誘導ブリルアン利得BG
2は(2)式で表される。また、(1)式におけるブリルアン位相シフトΔφbは(3)式、(4)式で表される。
【0029】
【0030】
(2)式、(3)式および(4)式において、zはセンサ用光ファイバ215上の検出位置、g0は利得係数、Δωsbsが誘導ブリルアン散乱スペクトル幅(角周波数換算)、ωb(z)は検出位置zにおけるブリルアンピーク周波数(角周波数換算)、ωppはポンプ光角周波数である。また、(2)式から見て取れるように誘導ブリルアン利得BG
2はセンサ用光ファイバ215上の検出位置「z」に依存する。以下の説明において、センサ用光ファイバ215上のある位置の誘導ブリルアン利得BG
2に関する記述は特に説明をしなくても、検出したビート電気信号S1の検出タイミングより検出位置情報が算出できるものとする。
【0031】
なお、(2)式、(3)式は、光ファイバ中の誘導ブリルアン利得BG
2およびブリルアン位相シフトΔφbの現象を数式モデルとして表したものであり、(2)式、(3)式から誘導ブリルアン利得BG
2およびブリルアン位相シフトΔφbを算出することはできない。1つのビート電気信号S1に対する誘導ブリルアン利得BG
2およびブリルアン位相シフトΔφbは以下の様に求める。
【0032】
まず、誘導ブリルアン利得BG
2は、ポンプ光L1がある場合のビート電気信号S1とポンプ光L1がない場合のビート電気信号S1との比較で得ることができる。ブリルアン位相シフトについては、以下のようにローカル光LOの影響を除去する方法を使うことで求めることができる。
【0033】
(1)式の第一項がプローブ光L3に対する複素振幅電気信号成分であり、第二項がパイロット光L4に対する複素振幅電気信号成分である。これら電気信号の角周波数は、それぞれローカル光LOとの光周波数と光位相の差が反映されている。これらの周波数差と位相差が、それぞれの複素振幅電気信号の周波数(正確には角周波数)(ωpr-ωLO)、(ωpi-ωLO)と位相(Δφb+φpr-φLO)、(φpi-φLO)になっている。なお、ブリルアン位相シフト量Δφbは、プローブ光L3とパイロット光L4との間の位相シフト量として現れる。
【0034】
次に(1)式のビート電気信号S1の第一項と第二項を分離する。分離する方法は特に限定されるものではない。具体的な例はとしては、プローブ光L3とパイロット光L4の偏波面を直交させておく方法や、周波数フィルタで周波数分離する方法を後述する実施形態で示す。分離された第一項と第二項をプローブ光電気信号S2、パイロット光電気信号S3と呼び、それぞれ(5)式および(6)式のように表される。
【0035】
【0036】
次に(6)式のパイロット光電気信号S3の位相共役信号を(5)式のプローブ光電気信号S2に乗ずることでプローブパイロット光電気信号S4を得る。プローブパイロット光電気信号S4は、あらわに記載すると(7)式のようになる。
【0037】
【0038】
なお、(5)式中E*
piはEpiの位相共役信号である。
【0039】
この(7)式から分かるように、探査済光L5に対応する電気信号(複素振幅電気信号)は、ローカル光LOの電力|ELO|2分だけ増幅されている一方、イントラダイン光検波直後の(1)式、(5)式、(6)式に表れていたローカル光LOとの周波数差と位相差に相当する成分が完全に除去される。具体的にはωLOやφLOの項が除去されている。
【0040】
尚、本実施形態では、パイロット光電気信号S3の位相共役信号が、(5)式のプローブ光電気信号S2に乗ずることでプローブパイロット光電気信号S4を得ているが、パイロット光電気信号S3と(5)式のプローブ光電気信号S2の位相共役信号を乗算することで、プローブパイロット光電気信号S4を得る構成でも、前述の動作を実現できる。
【0041】
これにより、本発明が解決しようとする課題の(1)および(2)を解決することができる。すなわち、探査済光L5とローカル光LOとの光位相を同期させる必要はなく、またローカル光LOは受信器の内部の独立した光源から出力させることができるため、探査済光L5に関わらず光強度を自由に設定することができる。
【0042】
(7)式においてパイロット光L4とプローブ光L3の周波数差成分となる(8)式は、光源モジュール部11の電気信号発生器(
図2以降で説明する。)で生成されており、きわめて安定的である。この周波数成分の信号が周波数オフセット信号S5である。この成分を直流成分に下方変換するには、この成分の複素共役である(9)式を(7)式と乗算させればよい。よって、(9)式をダウンコンバート信号S6と呼ぶ。
【0043】
プローブパイロット光電気信号S4とダウンコンバート信号S6を乗算する結果、(10)式のように、ブリルアン位相シフト情報のみを安定的に抽出できる。(10)式をブリルアン位相信号S7と呼ぶ。
【0044】
【0045】
この(10)式のブリルアン位相信号S7は、ブリルアン散乱光検波部31から出力され、制御部50に入力される。制御部50は、CPU、メモリ、入出装置および表示装置で構成することができる。制御部50は、(10)式のブリルアン位相信号S7が入力されたら、その実部と虚部から(11)式のようにして(10)式の位相情報(ブリルアン位相シフト量Δφb)を得ることができる。
【0046】
【0047】
以上のように、本発明は、検出しようとするブリルアン位相シフトΔφbが、誘導ブリルアン散乱スペクトルの狭帯域性からプローブ光L3成分のみに重畳される点に着目した。そして、プローブ光L3から周波数の離れたパイロット光L4をプローブ光L3と一緒に光ファイバセンサ部21に流す。ブリルアン位相シフトの影響を受けないパイロット光L4がプローブ光L3と共存していることで、ローカル光LOを用いた検波信号からローカル光LOの影響だけを除去することができ、安定的にブリルアン位相シフトΔφbを検出する。ブリルアン位相シフトΔφbを検出するハードウェアはブリルアン位相シフト検出装置を構成する。
【0048】
(第2の実施形態)
本実施の形態では、第1の実施形態で示したブリルアン位相シフトの検出方法を用いた光ファイバ温度センシング装置1について説明する。また、以下の実施形態を含め第1の実施形態で説明した(1)式から(11)式の関係は、説明なく使用できるものとする。光ファイバ温度センシング装置1の大まかな構成は、
図1に示したものと同様である。第1の実施の形態で説明した各ブロックのより詳細な構成を以下に示す。なお、光ファイバ温度センシング装置1は、ブリルアン位相シフト検出装置(ブリルアン位相シフト検出方法)を内包する。また、光ファイバ温度センシング装置1は、光ファイバ温度センシング方法を実行する。
【0049】
光源モジュール部11の内部構成を
図2に示す。この光源モジュール部11は、光源111(第1の光源)で光ファイバセンサ部21に入力するポンプ光L1、プローブ光L3、パイロット光L4を発光させる。ここで光源111は、半導体レーザーダイオードもしくはファイバリングレーザーなどの固体レーザーで構成することができる。この光源111から出力されたレーザー光は、光反射の悪影響を防止する光アイソレータ112を通過したのち、光分波器113において二分岐される。一方は、ポンプ光L1、もう一方は、プローブ光L3およびパイロット光L4の種光L2として用いられる。
【0050】
まずポンプ光L1は、光強度変調器114に入力されパルス化される。この光強度変調器114は、電気パルス発生器115で生成された電気信号により駆動される。ここで光強度変調器114は、ニオブ酸リチウム光導波路を用いたものやKTN(タンタル酸カリウム)結晶などを用いたものが用いられる。
【0051】
光強度変調器114から出力されたパルス化されたポンプ光L1は、偏波スクランブラ116に入力される。ここで偏波スクランブラ116は、光ファイバセンサ部21の光ファイバにおけるブリルアン散乱光強度が励起光偏波状態によって変化することから、スクランブリングを実施し、平均値として安定的なブリルアン散乱光強度を確保することを目的とする。
【0052】
続いて、偏波スクランブラ116から出力されたポンプ光L1は、光ファイバ増幅器117で増幅され100mW以上のピーク電力を有する光パルスとなり、光ファイバ増幅器117の自然放出光を除去する光フィルタ118を通じて光ファイバセンサ部21の入力ポート211(
図1参照)に入力される。なお、ポンプ光L1の入力ポート211への入力は制御部50によって制御される。光源111からポンプ光L1の入力ポート211は、ポンプ光生成部502である。
【0053】
一方、光分波器113で分岐されたプローブ光L3およびパイロット光L4の元となる種光L2は、ベクトル光変調器121に入力される。このベクトル光変調器光121は、通信用途で開発された2つの光IQ変調器121aと121bが集積実装されたもので、入力側で種光L2が2分岐される。第一の光IQ変調器121aでは、電気信号発生器124aで生成された周波数Δfprの電気信号(プローブ光生成信号)を入力して、入力された種光L2の光周波数をΔfprシフトさせプローブ光L3を生成する。
【0054】
なお、電気信号発生器124aで生成された電気信号は、さらに二分され一方の信号はヒルベルト変換器142に入力され、位相がπ/2ズレた信号となって光IQ変調器121aに入力される。
【0055】
一方、第二の光IQ変調器121bでは、電気信号発生器124bで生成された周波数Δfpiの電気信号(パイロット光生成信号)を入力して、種光L2の光周波数をシフトさせパイロット光L4を生成する。電気信号発生器124bで生成された電気信号は、さらに二分され一方の信号はヒルベルト変換器142に入力され、位相がπ/2ズレた信号となって光IQ変調器121bに入力される。
【0056】
電気信号発生器124aおよび124bで生成される周波数Δfprと、周波数Δfpiの電気信号は、光源111からそれぞれの光周波数が異なるプローブ光L3およびパイロット光L4を生成するための生成信号である。電気信号発生器124の発振周波数は制御部50によって制御される。電気信号発生器124aが発振する周波数Δfprの電気信号はプローブ光生成信号、電気信号発生器124bが発振する周波数Δfpiの電気信号はパイロット光生成信号と呼ぶ。
【0057】
光IQ変調器121aと121bの出力がベクトル光変調器121の出力側で互いに直交する偏波成分として合波され、ベクトル光変調器121から出力される。この出力光は、光ファイバ増幅器122で1mW~100mW程度の光電力に増幅されたのち、光ファイバ増幅器122の自然放出光を除去する光フィルタ123を通じて光ファイバセンサ部21の入力ポート212に入力される。ベクトル光変調器121からの出力光をプローブパイロット光と呼ぶ。光源111から入力ポート212までをプローブパイロット光生成部500と呼ぶ。
【0058】
上記の構成にて生成されたポンプ光L1とプローブ光L3の光周波数差は、センサ用光ファイバ215(
図1参照)で発生するブリルアンシフト周波数(石英ファイバの場合、約10.8GHz~11GHz前後)を探索するために制御される。一方、ポンプ光L1とパイロット光L4の光周波数差は、固定的に設定され且つプローブ光L3とパイロット光L4の光周波数差との光周波数差は、数十MHzから1000MHz程度の値に設定される。
【0059】
なお、第一の光IQ変調器121aと第二の光IQ変調器121bで実施する光周波数シフトは、電気信号発生器124aと124bから出力される周波数ΔfprとΔfpiの電気信号を用いて行われる。ここで、これら電気信号の一部は、それぞれディバイダ125aと125bで分岐され、分岐信号はIQコヒーレント検波器126に入力される。IQコヒーレント検波器126からは、2チャネル分の電気信号が出力される。
【0060】
これらは、周波数Δfpr-Δfpiの複素振幅電気信号となっており、第一チャネルが複素振幅電気信号の実部相当、第二チャネルが複素振幅電気信号の虚部相当になっており第一チャネルから位相がπ/2(rad)ずれている。これを周波数オフセット信号S5((5)式)としてブリルアン散乱光検波部31の入力ポート312aと312bに入力させる。この周波数オフセット信号S5は、その複素共役信号をダウンコンバート信号S6と呼ぶ。
【0061】
光ファイバセンサ部21(
図1参照)の構成図を
図3に示す。入力ポート211と入力ポート212は、それぞれ光サーキュレータ213と214を介して一条のセンサ用光ファイバ215に接続されている。センサ用光ファイバ215は、石英ガラスシングルモード光ファイバないしはコア径を圧縮させることで非線形係数を増強させた石英ガラス高非線形光ファイバが用いられる。ここで、センサ用光ファイバ215の条長は用途に応じて数mから100km前後まで選択することができる。
【0062】
本実施形態では、広域分布計測型地震計に利用するものなのでセンサ用光ファイバ215の条長は100kmを選択した。光ファイバ心線は半分の距離の地点で折り返してくるので光ファイバセンサ部21の条長は50kmである。
【0063】
光ファイバセンサ部21の入力ポート211から入力されたポンプ光L1は、光サーキュレータ213を介してセンサ用光ファイバ215に入力され、光サーキュレータ214に到達する。ここで、光サーキュレータ214の出力ポートから光終端部217に出力される。
【0064】
一方、入力ポート212から入力されたプローブ光L3とパイロット光L4のペアは、光サーキュレータ214を介してセンサ用光ファイバ215に入力され、光サーキュレータ213に到達する。センサ用光ファイバ215を伝搬してきたプローブ光L3とパイロット光L4は、ブリルアン散乱の影響を受けて探査済光L5となっている。
【0065】
探査済光L5は、光サーキュレータ213の出力ポートから出力され、光フィルタ216を通過したのち、ブリルアン散乱光検波部31(
図1参照)の光ポート311に入力される。
【0066】
従って、光源モジュール部11(
図1参照)から出力され入力ポート211に入力されたポンプ光L1と入力ポート212に入力されたプローブ光L3とパイロット光L4のペアは互いに逆伝搬することになる。これらの光がセンサ用光ファイバ215を伝搬する際に、ポンプ光L1とプローブ光L3の間で誘導ブリルアン散乱現象を発生させる。つまり、光サーキュレータ213に到達したプローブ光L3とパイロット光L4である探査済光L5はブリルアン散乱の影響を受けている。
【0067】
このときのポンプ光L1、プローブ光L3、パイロット光L4の光周波数配置を
図4に示す。ローカル光LO、パイロット光L4、プローブ光L3、ポンプ光L1の各光周波数は、f
LO、f
pi、f
pr、f
pumpである。また、ポンプ光L1とプローブ光L3との差分周波数はΔf
pr、ポンプ光L1とパイロット光L4との差分周波数はΔf
piである。ブリルアンシフト周波数はポンプ光L1との差分周波数であり、Δf
Bで表される。
【0068】
ポンプ光L1の光周波数fpumpとプローブ光L3の光周波数fprの差分周波数Δfprは、センサ用光ファイバ215の石英ガラスファイバのブリルアンシフト周波数(石英ファイバの場合、約10.8GHz~11GHz前後)に近い周波数に設定されている。これにより、ポンプ光L1とプローブ光L3の間でブリルアン相互作用が発生し、Δfprとブリルアンシフト周波数ΔfBが等しくなる場合にはポンプ光L1からプローブ光L3へのエネルギー転移効率が最大となりプローブ光L3の利得(誘導ブリルアン利得BG
2)が最大化される。また、後述するようにセンサ用光ファイバを伝搬した後のプローブ光L3とパイロット光L4との間に生じる位相差Δφbがゼロとなる。
【0069】
上記の構成にて生成されたポンプ光L1とプローブ光L3の光周波数差Δf
prは、センサ用光ファイバ215(
図3参照)で発生するブリルアンシフト周波数(石英ファイバの場合、約10.8GHz~11GHz前後)を探索するために制御される。一方、ポンプ光L1とパイロット光L4の光周波数差Δf
piは、固定的に設定され、且つプローブ光L3とパイロット光L4の光周波数差f
pr-f
pi(「Δf
pi-Δf
pr」でも同じ)は、数十MHzから1000MHz程度の値になるように設定される。
【0070】
そうすることにより、プローブ光L3は誘導ブリルアン散乱の影響を受けるのに対し、パイロット光L4はその影響を受けない。これによりプローブ光L3とパイロット光L4の光位相は、ブリルアン位相シフトΔφbだけ差分位相が発生する。つまり、プローブ光L3とパイロット光L4の光位相差からブリルアン位相シフトΔφbを検出することができる。
【0071】
図5にブリルアン散乱光検波部31(
図1参照)の構成を示す。ブリルアン散乱光検波部31の光ポート311には前述のプローブ光L3とパイロット光L4が、入力される。また、電気信号ポート312には光源モジュール部11のIQコヒーレント検波器126(
図2参照)からの出力である周波数オフセット信号S5が入力される。
【0072】
プローブ光L3とパイロット光L4は、光ポート311を介して偏波・位相ダイバーシティー光検波器321に入力される。この偏波・位相ダイバーシティー光検波器321は、二つの光入力ポートを有しており、もう一方の光入力ポートには、局発光源であるレーザーダイオード322から出力されたローカル光LOが入力される。ここでレーザーダイオード322は局発光部322である。
【0073】
偏波・位相ダイバーシティー光検波器321は、この検波器の動作原理(非特許文献3)に従い、入力された光(プローブ光L3とパイロット光L4:探査済光L5)の偏波面成分毎にローカル光LOの光周波数と光位相を基準にしたビート電気信号S1((1)式参照。)を出力する。偏波・位相ダイバーシティー光検波器321は(探査済光L5)を局発光部322(第2の光源)から生成したローカル光LOを使って検波し、ビート電気信号S1を得ているので検波部506である。
【0074】
偏波・位相ダイバーシティー光検波器321の出力ポートは322a、322b、322c、322dの4つが存在する。ポート322aと322bはプローブ光L3とパイロット光L4のX偏波成分、322cと322dはプローブ光L3とパイロット光L4のY偏波成分に対応するビート電気信号が出力する。それぞれX偏波ビート電気信号S1X、Y偏波ビート電気信号S1Yと呼ぶ。
【0075】
また、出力ポート322aと322bからのビート電気信号(X偏波ビート電気信号S1X)のペアにおいて、信号位相は90度シフトしている。そのため、これら2つの信号の組み合わせにより、プローブ光L3とパイロット光L4の複素振幅が再現される。つまり、偏波・位相ダイバーシティー光検波器321は、ビート電気信号S1をプローブ光L3に対応するプローブ光電気信号S2とパイロット光L4に対応するパイロット光電気信号S3に分離するので、分離部508でもある。
【0076】
X偏波ビート電気信号S1Xは、ローカル光LOの光周波数と光位相を基準にしたプローブ光L3またはパイロット光L4との周波数差若しくは光位相差を反映した複素振幅電気信号となる。すなわち、第一のチャネル(出力ポート322a)からの電気信号は、複素振幅電気信号の実部相当であり、第二のチャネル(出力ポート322b)からの電気信号は虚部相当で第一チャネルの電気信号に対して位相がπ/2(rad)シフトしている。
【0077】
出力ポート322cと322dからのY偏波ビート電気信号S1Yのペアにおいても同様の議論が成立する。すなわち、第一のチャンネル(出力ポート322c)からの電気信号は、複素振幅電気信号の実部相当であり、第二のチャネル(出力ポート322d)からの電気信号は虚部相当で第一チャネルの電気信号に対して位相がπ/2(rad)シフトしている。
【0078】
これらの4つの出力ポートから出力されたビート電気信号S1は、アナログディジタル変換器(ADC)323に入力されてアナログ信号からディジタル信号に変換された後、ディジタル偏波回転補償フィルタ324に入力される。ディジタル偏波回転補償フィルタ324は、プローブ光L3とパイロット光L4の光ファイバセンサ部21(
図1参照)で発生した偏波回転をディジタル信号処理により補償する。ディジタル偏波回転補償フィルタ324からは、プローブ光L3およびパイロット光L4に対応するプローブ光電気信号S2とパイロット光電気信号S3を出力する。
【0079】
本実施形態では、パイロット光L4とプローブ光L3の偏波が直交しているため、プローブ光電気信号S2とパイロット光電気信号S3を空間的に分離させることができる。プローブ光電気信号S2は、上述した(5)式で表され、パイロット光電気信号S3は(6)式で表される。(5)式、(6)式を再掲する。したがって、分離部508は偏波・位相ダイバーシティー光検波器321からディジタル偏波回転補償フィルタ324までと考えてもよい。
【0080】
【0081】
それぞれのビート電気信号は、ディジタル偏波回転補償フィルタ324から出力されるが、そのうち、パイロット光電気信号S3はディジタル位相共役演算器325に入力され位相共役電気信号に変換される。ここで、ディジタル位相共役演算器325に入力され位相共役電気信号に変換されるのは、プローブ光電気信号S2でも構わない。
【0082】
その上で、プローブ光電気信号S2と位相共役電気信号となったパイロット光電気信号S3が、次段のディジタル複素乗算器326に入力される。これらの信号は、それぞれローカル光LOとの光周波数と光位相の差に対応した電気信号周波数と位相を有しているが、このディジタル複素乗算器326は、これらの信号からローカル光LOとの光周波数と光位相の差を安定的に消去する。具体的には(5)式と(6)式の共役信号の乗算によりωLOおよびφLOが消去される。このディジタル複素乗算器326は、ローカル光成分除去部510である。
【0083】
その結果、ディジタル複素乗算器326の出力は、パイロット光L4とプローブ光L3の光周波数差に相当する周波数fpr-fpi(角周波数では「ωpr-ωpi」)の電気信号となり、且つその位相はブリルアン位相シフトΔφbの影響を受けたプローブ光L3と、パイロット光L4の光位相差(Δφb+φpr-φpi)となる。ディジタル複素乗算器326の出力はプローブパイロット光電気信号S4となる。これは(7)式で表される。(7)式を再掲する。
【0084】
【0085】
なお、BGは誘導ブリルアン利得BG
2の二乗根である。
【0086】
前述のようにディジタル複素乗算器326は、ローカル光LOとの光位相差成分を除去するものの、出力される複素振幅のプローブパイロット光電気信号S4の周波数はfpr-fpi(角周波数では「ωpr-ωpi」:(7)式参照。「Δfpr-Δfpi」と等しい。)である。そのため、ブリルアン位相シフトΔφbの検出のためには、直流成分を含むベースバンド帯域に変換する必要がある。
【0087】
そこで、ブリルアン散乱光検波部31の入力ポート312aと312bに入力されている複素振幅の周波数オフセット信号S5を用いる。この信号の周波数もΔfpr-Δfpiである。入力ポート312aと312bに接続されたアナログディジタル変換器(ADC)327により、複素振幅の周波数オフセット信号S5はディジタル化される。その上で、ディジタル位相共役演算器328に入力し、周波数オフセット信号S5に対する位相共役信号であるダウンコンバート信号S6を得る。周波数オフセット信号S5は(8)式で、位相共役信号であるダウンコンバート信号S6は(9)式で表される。(8)式、(9)式を再掲する。
【0088】
【0089】
その上で、複素振幅のプローブパイロット光電気信号S4と前述のダウンコンバート信号S6をディジタル複素乗算器329に入力し、周波数Δfpr-Δfpiである複素振幅のプローブパイロット光電気信号S4をベースバンド帯に下方変換する。結果ブリルアン位相信号S7((10)式)を得ることができる。
【0090】
【0091】
なお、
図2のIQコヒーレント検波器126からディジタル複素乗算器329までをブリルアン位相信号算出部512とみなすことができる。
【0092】
ディジタル複素乗算器329の出力であるブリルアン位相信号S7は、制御部50に送られ、(11)式よりブリルアン位相シフトΔφ
bが算出される。なお、誘導ブリルアン利得B
G
2は、ポンプ光L1がある場合のビート電気信号S1とポンプ光L1がない場合のビート電気信号S1との比較で得ることができる。よって、制御部50はブリルアン位相シフト量算出部514と言える(
図1参照)。
【0093】
【0094】
尚、本実施形態では、前述のアナログディジタル変換器(ADC)323とアナログディジタル変換器(ADC)327より下流側で行われるディジタル信号処理は、Field Programmable GateArray(FPGA)素子などの集積回路上に実装されて動作している。
【0095】
本発明の第1の実施形態を用いてブリルアンシフト周波数Δf
Bを検出するには、電気信号発生器124a(
図2参照)から出力されるプローブ光生成信号の周波数Δf
prを1MHzステップなどの設定値で順々に変化させ、ブリルアン位相信号S7(exp(jΔφ
b))を求める。そして、(11)式に基づいてブリルアン位相シフトΔφ
bを算出する。また、別途誘導ブリルアン利得B
G
2を算出する。そして、ブリルアン位相シフトΔφ
bがゼロになる若しくは誘導ブリルアン利得B
G
2が最大になるプローブ光L3の周波数f
prをブリルアンシフト周波数Δf
Bとして求める。
【0096】
図6は、ポンプ光L1とプローブ光L3の周波数差Δf
prに対するブリルアン位相シフトΔφ
bと誘導ブリルアン利得B
G
2をプロットした一例である。
図6を参照して、横軸はポンプ光L1とプローブ光L3との周波数差Δf
prであり、右縦軸は誘導ブリルアン利得B
G
2(dB)、左縦軸は(11)式で求められるブリルアン位相シフトΔφ
b(rad)である。
【0097】
図6に示すように、ポンプ光L1とプローブ光L3との周波数差Δf
prを所定のステップ毎に算出することで、プローブ光L3の誘導ブリルアン利得B
G
2とブリルアン位相シフトΔφ
bを計測でき、誘導ブリルアン利得B
G
2およびブリルアン位相シフトΔφ
bのスペクトルを測定できる。その上で、誘導ブリルアン利得B
G
2が最大となる、ないしはブリルアン位相シフトΔφ
bが0近傍となる周波数をブリルアンシフト周波数Δf
B(Δω
B)として算出する。
【0098】
図7は、第2の実施形態の出力より得られる出力の例である。
図7(a)、
図7(b)共に、横軸は時間(sec)であり、縦軸はブリルアン位相シフト量Δφ
b(rad)である。ポンプ光L1を10MHz繰り返しで光ファイバセンサ部21(
図1参照)に入力するのに合わせて、ブリルアン位相シフト量がプラスからマイナスに変化している。
【0099】
また、電気信号発生器124aから出力されるプローブ光生成信号の周波数Δf
pr(Δω
pr)をブリルアンシフト周波数Δf
B(Δω
B)よりも低周波数とした場合に表れるブリルアン位相シフト量Δφ
b(
図7(a))と、高周波数とした場合に表れるブリルアン位相シフト量Δφ
b(
図7(b))は互いに位相が反転していることがわかる。
【0100】
具体的には
図7の同時刻T1およびT2で
図7(a)ではブリルアン位相シフト量Δφ
bがマイナスで絶対値最大になっているのに対して、
図7(b)では、プラスで絶対値最大になっている。ブリルアンシフト周波数Δf
Bをブリルアン位相シフト量Δφ
bから求める方法を位相検波方式と呼び、誘導ブリルアン利得B
G
2から求める方法を強度検波方式と呼ぶ。
【0101】
図8は、ブリルアン位相シフト量Δφ
bを縦軸に、またプローブ光生成信号の周波数Δf
prを横軸にしてグラフ化したものである。また併せて
図9に、誘導ブリルアン利得B
G
2を縦軸に、プローブ光生成信号の周波数Δf
prを横軸にしてグラフ化したものも示す。センサ用ファイバ215の一端211(
図1参照)から3kmの部分の長さ3mを恒温槽に入れ、恒温槽の温度を変化させながら測定したものである。これらの図からわかるように、ブリルアン位相シフトが0(rad)の電気信号周波数Δf
prで誘導ブリルアン利得が最大化されていることがわかる。また、
図8において、0(rad)となる電気信号周波数Δf
prは、光ファイバセンサ部21の環境温度に従ってシフトしていることがわかる。
【0102】
図10は、光ファイバセンサ部21の環境温度に対するブリルアンシフト周波数Δf
Bの変化を示している。
図10(a)はブリルアン位相シフト量Δφ
bから推定したブリルアンシフト周波数、
図10(b)は誘導ブリルアン利得B
G
2のピークから推定したブリルアンシフト周波数である。いずれの図も横軸は温度(℃)であり、縦軸はブリルアンシフト周波数Δf
B(GHz)である。
【0103】
最小二乗法による回帰直線からの分散は、それぞれ4.9×10-6と6.9×10-6であり、ブリルアン位相シフト量Δφbを用いた位相検波方式の方が安定に検知できた。しかし、いずれの方式においても、光ファイバセンサ部21の環境温度変化に併せて線形に変化しており安定的な温度センシングが達成されていることが分かる。
【0104】
図10は、ブリルアンシフト周波数と温度の関係を示しており、この対応関係を持っておくことで、ブリルアンシフト周波数が求まれば、温度を測定することができる。ブリルアンシフト周波数と温度の関係はルックアップテーブル518として、制御部50内に保持される。
【0105】
図11はパイロット光L4とプローブ光L3全体の受信電力と、検出したプローブ光電気信号S2の信号対雑音比の関係を示したグラフである。
図11を参照して、横軸はプローブ光L3の受信電力(dBm)であり、縦軸はプローブ光電気信号S2のSN比である。
図11中黒四角印および白三角印はそれぞれ、ローカル光LOの励起電力が800mWの場合と200mWの場合の結果である。
【0106】
ディジタル復調できるSN比を18dB以上と仮定すると、本発明に係るブリルアン位相シフト検出方法では、ローカル光LOの励起電力を大きくすることができるので、プローブ光L3の受信電力が-40dBmであってもプローブ光電気信号S2のSN比を18dB以上に復調させることができる。
【0107】
従来技術として、ローカル光をプローブ光と一緒にセンサ用光ファイバに入力し、そのローカル光を用いてブリルアン位相シフト量を求める場合は、プローブ光の受信電力が-22dBmでSN比が18dBとなってしまう。したがって、本発明に係るブリルアン位相シフト量の検出方法を利用すれば、従来よりも18dBほどの改善が可能である。
【0108】
このように、センサ用光ファイバ215は、温度が変わるとブリルアンシフト周波数Δf
Bが変化する。したがって、予め
図10のようなルックアップテーブル518を持っていればブリルアンシフト周波数Δf
Bを求めることで、センサ用光ファイバ215の温度を知ることができる。なお、ルックアップテーブル518は、温度とブリルアンシフト周波数Δf
Bの関係を示すデータ列であってもよいし、それらの関係を示す数式であってもよい。ルックアップテーブル518とブリルアンシフト周波数Δf
Bから温度を求めるのは温度推定部520であり、制御部50で実施される(
図1参照)
さらに、パルス状に出力できるポンプ光L1をセンサ用光ファイバ215に入力した時刻から所定時間経過後の探査済光L5は、ポンプ光L1が所定時間センサ用光ファイバ215中を移動した地点のブリルアン散乱現象の影響を受けている。したがって、ポンプ光L1を入力した時刻から探査済光L5の取得時刻を順次変えていくことで、センサ用光ファイバ215の任意の地点の温度を計測することができる。
【0109】
図12にこのような温度測定方法の概念図を示す。センサ用光ファイバ215の他端211からはポンプ光L1が入力され、一端212からはプローブ光L3およびパイロット光L4が入力される。時刻T=0でセンサ用光ファイバ215に入力されたポンプ光L1は、t
b秒後に距離D(t
b)だけセンサ用光ファイバ215中を進む。その地点Aでプローブ光L3に対してブリルアン散乱の影響を与え、プローブ光L3とパイロット光L4は探査済光L5となる。
図11では、k番目のプローブ光L3による探査済光L5であることを「L5(k)」と示した。
【0110】
探査済光L5は、時間tbで他端211側に到達する。したがって、ポンプ光L1を入力してから、2tb秒後の探査済光L5を検波することで、一端212から距離D(tb)の地点のブリルアン位相シフト量Δφb若しくは誘導ブリルアン利得BG
2を得ることができる。次にプローブ光L3の周波数を変化させ(k+1番目のプローブ光L3)、ポンプ光L1を入力してから、2tb秒後の探査済光L5を検波すれば、同一地点のブリルアン位相シフトΔφb若しくは誘導ブリルアン利得BG
2を得ることができる。
【0111】
プローブ光L3の周波数を次々に変化させることで、
図6のグラフを得ることができ、ブリルアン位相シフト量Δφ
bがゼロになる、若しくは誘導ブリルアン利得B
G
2が最大になる周波数をブリルアンシフト周波数Δf
Bとして求めることができる。ブリルアンシフト周波数Δf
Bが求まれば、予め保持しているルックアップテーブル518より距離D(t
b)の地点の温度を推定することができる。
【0112】
また、ポンプ光L1をセンサ用光ファイバ215に入力してから2tb+1秒後の探査済光L5を検波することで、他端211から距離D(tb+1)のB点での温度を推定することができる。
【0113】
このようにプローブ光L3の周波数を変化させながら、ブリルアン位相シフト量Δφ
bを次々に求め、ブリルアン位相シフト量Δφ
bがゼロになる点からブリルアンシフト周波数Δf
Bを求めるのは、ブリルアンシフト周波数算出部516、制御部50がこれにあたる(
図1参照)。
【0114】
図13は、光ファイバ温度センシング装置1が
図12で示した動作によって、センサ用光ファイバ215の全領域に渡って、温度を測定する場合の制御部50が行う処理のフローを例示したものである。
【0115】
処理がスタートすると(ステップS100)、前処理が行われる(ステップS102)。前処理としては、各変数の初期化(=1)が挙げられる。
【0116】
次にプローブ光L3とパイロット光L4をセンサ用光ファイバ215に入力する(ステップS104)。この時プローブ光L3の周波数はΔfpr(k)である。「k」はパラメータでkがインクリメントすることで、上記の例ではΔfprが1MHzずつ変化する。
【0117】
そして、ポンプ光L1をセンサ用光ファイバ215に入力し、時間T(m)待機する(ステップS106)。「m」はパラメータで、mがインクリメントされると、待機時間が長くなる。この時間はポンプ光L1が進む速度がわかっているので、センサ用光ファイバ215の他端211からの距離に換算することができる。
【0118】
時間T(m)経過後の探査済光L5をブリルアン散乱光検波部31で検波し(ステップS108)、(10)式で表されるブリルアン位相信号S7を得る。得られたブリルアン位相信号S7からは、(11)式によってブリルアン位相シフト量Δφbとが算出される。また、別途ポンプ光L1がある場合のビート電気信号S1とポンプ光L1がない場合のビート電気信号S1との比較で誘導ブリルアン利得BG
2が求められる(ステップS110)。
【0119】
次にプローブ光L3の掃引が終了したかを判断し(ステップS112)、終了してなければ(ステップS112のN分岐)、周波数をインクリメントし(ステップS114)、ステップ(S104)からの処理を繰り返す。
【0120】
プローブ光L3の掃引が終了している場合(ステップS112のY分岐)は、その距離におけるブリルアン位相シフト量Δφ
bと誘導ブリルアン利得B
G
2が得られ、
図6のグラフが得られる。したがって、
図11で説明したように、
図6のグラフよりブリルアンシフト周波数Δφ
bを求め、
図10のルックアップテーブルから温度を算出する(ステップS116)。
【0121】
次に時間パラメータmが最終になっているかを判断する(ステップS118)。この判断は、センサ用光ファイバ215の全長に渡っての温度測定が終わったか否かの判断と等しい。mが最終でなければ(ステップS118のN分岐)、mをインクリメントし、kを初期化する(ステップS120)。そして、ステップS104からの処理を繰り返す。
【0122】
mが最終であった場合(ステップS118のY分岐)は、センサ用光ファイバ215の全長に渡っての温度測定が終了しているので、停止する(ステップS122)。以上のように本発明に係る光ファイバ温度センシング装置1は、センサ用光ファイバ215の全長に渡り、所望の位置での温度測定をすることができる。
【0123】
本実施の形態では、ポンプ光L1、プローブ光L3、パイロット光L4を
図4のように配置したが、他の配置で行うこともできる。まず、プローブ光L3とパイロット光L4の大小関係は入れ替えてもよい。ただし、いずれかの光が光ファイバセンサ部21のセンサ用光ファイバ215のブリルアンシフト周波数(f
pump-Δf
B)に相当する周波数に近いことが必要である。
【0124】
ローカル光LOはブリルアンシフト周波数(f
pump-Δf
B)、プローブ光L3およびパイロット光L4の近傍でなければ、自由に設定することができる。周波数配置の例を
図14乃至
図16に示す。
【0125】
図14は
図4と比較してプローブ光L3とパイロット光L4の大小を入れ替え、ローカル光LOをポンプ光L1とブリルアンシフト周波数(f
pump-Δf
B)の間に配置した場合である。ブリルアンシフト周波数(f
pump-Δf
B)の近傍にはパイロット光L4を配置している。この場合ブリルアン位相シフトはパイロット光L4が影響される。
【0126】
図15は、プローブ光L3とパイロット光L4の大小は
図13のままで、ローカル光LOをプローブ光L3の光周波数f
prより小さくしている。ブリルアンシフト周波数(f
pump-Δf
B)の近傍にはプローブ光L3が配置される。ブリルアン位相シフトはプローブ光L3が影響される。
【0127】
図16は、プローブ光L3とパイロット光L4の大小関係は
図4と同じで、ローカル光LOをポンプ光L1とブリルアンシフト周波数(f
pump-Δf
B)の間に配置した場合である。ブリルアン位相シフトはプローブ光L3が影響される。これらの周波数配置であっても、同様の操作でブリルアンシフト周波数を得ることができる。
【0128】
(第3の実施形態)
本実施の形態における光ファイバ温度センシング装置1の構成は、
図1に示したものと同様であるが、光源モジュール部11とブリルアン散乱光検波部31の構成に違いがある。
【0129】
光源モジュール部11の構成を
図17、同じくブリルアン散乱光検波部31の構成を
図18示す。光源モジュール部11における第一の実施形態との違いは、プローブ光L3とパイロット光L4の偏波が互いに直交関係ではなく同一となっている点にある。
【0130】
光源モジュール部11の内部に具備されているベクトル光変調器121は、第2の実施形態と異なり、一つの光IQ変調器121だけが実装されているものを利用している。その代わり、光IQ変調器121に入力される電気信号入力ポートの手前に、電気信号発生器124で生成された周波数Δfprと周波数Δfpiの二つの生成信号を周波数分割多重する周波数分割多重回路141が具備されている。この信号のうち、光IQ変調器121のQチャネル側に入力される複素振幅電気信号は、ヒルベルト変換器142においてヒルベルト変換されている。
【0131】
ヒルベルト変換器142は、入力信号をヒルベルト変換し、周波数Δfprと周波数Δfpiの二つの電気信号に対応する光周波数シフトスペクトル成分を一括して生成させる役割を果たす。より具体的には位相をπ/2(rad)ずらす。
【0132】
一方、
図18を参照して、ブリルアン散乱光検波部31における第2の実施形態の違いは、ディジタル偏波回転補償フィルタ324の後段にある。第2の実施形態では、プローブ光L3とパイロット光L4の偏波が直交していたため、ディジタル偏波回転補償フィルタ324の出力では、両者に対応する電気信号が空間的に分離されていた。しかしながら、本実施形態においては両光が同一偏波であるため、ディジタル偏波回転補償フィルタ324の出力でも、両者に対応する電気信号は空間的に分離されない。したがって、ディジタル偏波回転補償フィルタ324の出力は、1偏波分の出力しかない。
【0133】
そこで、本実施形態では、ディジタル偏波回転補償フィルタ324の出力を二分岐させる。一方は、高域通過ディジタルフィルタ341に接続され、その出力はプローブ光L3に対応する電気信号(プローブ光電気信号S2)が得られる。他方は低域通過ディジタルフィルタ342に接続され、その出力はパイロット光L4に対応する電気信号(パイロット光電気信号S3)が得られる。本実施の形態では、高域通過ディジタルフィルタ341および低域通過ディジタルフィルタ342が分離部508となる。
【0134】
後段につづくディジタル信号処理については、第2の実施形態と同じである。なお、本実施形態で用いられているディジタル偏波回転補償フィルタ324の機能は、偏波・位相ダイバーシティー光検波器321の前段に具備する光学的偏波コントローラ320で代替することができる。光学的偏波コントローラ320は、複数の波長板で構成することができる。
【0135】
本実施形態は、ベクトル光変調器121(
図17)の構成が単純になる分、第2の実施形態と比較して低コスト化を図ることができる点でメリットがある。
【0136】
(第4の実施形態)
図19は本発明の第4の実施形態で、光源モジュール部11およびブリルアン散乱光検波部31の構成は第2の実施形態の場合と同じである。ただし、ブリルアン散乱光検波部31におけるディジタル信号処理をソフトウェアにより実現した場合のものである。第3の実施形態では、ブリルアン散乱光検波部31に内蔵されたアナログディジタル変換器(ADC)323は、X偏波ビート電気信号S1XとY偏波ビート電気信号S1Yをディジタル信号に変換する。
【0137】
もう一つのアナログディジタル変換器(ADC)327は、光源モジュール部11中のIQコヒーレント検波器126(
図1参照)から出力された生成信号をディジタル信号に変換する。そして、これらのアナログディジタル変換器の下流側でディジタル信号処理を実施し、直流成分を含むベースバンド帯のブリルアン位相シフトΔφ
b信号を検出している。
【0138】
これに対して、本発明の構成は、第2の実施形態で説明したディジタル信号処理をソフトウェア処理で実現する。本構成では、アナログディジタル変換器(ADC)323とアナログディジタル変換器(ADC)327を組み込んだパーソナルコンピュータ301を用いている。このパーソナルコンピュータ301上で動作するソフトウェアにより、第3の実施形態で説明したディジタル信号処理が行われ、ブリルアン位相シフト量Δφbが検出される。第一の実施形態と比較して経済的にシステムを構築できる点で優位性がある。ソフトウェア実装される機能部は、
図18の破線部で示されている。
【0139】
本実施形態は、ディジタル信号処理機能部がソフトウェア実装となる分、第3の実施形態と比較して大幅な低コスト化を図ることができる点でメリットがある。なお、パーソナルコンピュータ301は、制御部50に組み込まれてもよい。
【0140】
(第5の実施形態)
図20に本実施の形態の光ファイバ温度センシング装置1の構成を示す。本実施の形態では、第1~4の実施形態の場合と比較して、光源モジュール部11からの周波数オフセット信号S5が供給されない。
図1との比較で削除された周波数オフセット信号S5を一点鎖線で表した。
【0141】
図21には、光源モジュール部11の内部を示す。光源モジュール部11からIQコヒーレント検波器126および電気信号発生器124a、124bから電気信号を分割させるディバイダ125a、125bが省略される。省略された部分を一点鎖線で表した。
【0142】
図22にはブリルアン散乱光検波部31の構成を示す。光源モジュール部11から周波数オフセット信号S5を受信しないので、ブリルアン散乱光検波部31はディジタル複素振幅電気信号発生器351とディジタル複素自己遅延検波回路352が備えられている。また、アナログディジタル変換器(ADC)327(一点鎖線で表した)が省略されている。
【0143】
ディジタル複素振幅電気信号発生器351は、Δfpr-Δfpiの正確な周波数を発信することができるが、ブリルアン位相シフトの基準位相が不明確となる。そこで、その補償をディジタル複素自己遅延検波回路352で実施させる。
【0144】
ディジタル複素自己遅延検波回路352の出力は、入力信号との相対的な位相差信号に比例したものになる。したがって、位相基準がθ(rad)存在したとしても、相対位相差は0となり、ブリルアン位相シフト量Δφbに伴う位相変動分のみを出力させることが可能となる。なお、本実施形態では、ディジタル複素振幅電気信号発生器351からディジタル複素自己遅延検波回路352までをブリルアン位相信号算出部512とみなせる。
【0145】
本実施形態は、第2の実施形態における光源モジュール部11におけるIQコヒーレント検波器126(
図2参照)とアナログディジタル変換器(ADC)327(
図5参照)を利用しておらず、ディジタル偏波回転補償フィルタ324(
図5参照)も光学的偏波回転補償器371に代替されている。これにより、回路の製造コストを削減できる。
【0146】
(第6の実施形態)
図23は、本発明の第6の実施形態の光源モジュール部11である。本実施の形態は、第5の実施形態の変形であり、第5の実施形態同様に光源モジュール部11側にIQコヒーレント検波器126は省略されている。本実施形態は、電気信号発生器124aから出力される周波数Δf
prのプローブ光生成信号を、乗算器162に入力する。ここで、本実施形態で新たに追加するディジタルSinc関数パルス発生器161から発生したSinc関数状波形パルス信号(
図24(a))と乗算させることで、
図24(b)のような周波数スペクトルを有するディジタルコム信号を生成する。
【0147】
この電気信号は、ベクトル光変調器121の光IQ変調器121a、121bのIQ両チャネルに入力されるが、Qチャネル側はヒルベルト変換器142aでヒルベルト変換された後、光IQ変調器121a、121bそれぞれに入力される。これにより、
図24(b)のような櫛(コム)状のプローブ光スペクトルを得ることができる。
【0148】
第2の実施例では、ブリルアンシフト周波数ΔfBを検出するために、プローブ光周波数fprを順次移動させながら誘導ブリルアン利得BG
2ないしブリルアン位相シフト量Δφbを検出していた。それに対し、本実施例では、プローブ光L3が常時コム状のスペクトルを有するため、プローブ光周波数fprの変更は不要となり、プローブ光周波数fprを順次移動なしにブリルアンシフト周波数Δφbを検出することが可能になる。
【0149】
送信側の機能追加に対応できるブリルアン散乱光検波部31を
図25に示す。この図に示すように、第5の実施形態(
図22参照)で追加されたディジタル複素自己遅延検波回路352の後段に、新たにフーリエ変換器353を具備する。
【0150】
この出力から得られる、
図24(b)のコム状スペクトル成分に対応する振幅と位相変化を検出し、誘導ブリルアン利得B
G
2スペクトルとブリルアン位相シフトΔφ
bスペクトルの両者を一括処理で測定させる。
【0151】
このように、本実施形態は、プローブ光L3の周波数fprを逐次変更することなしに、一括して誘導ブリルアン利得BG
2スペクトルとブリルアン位相シフト量Δφbスペクトル、ひいてはブリルアンシフト周波数ΔfBを検出できるようになる。これにより、光ファイバ温度センシング装置1の計測時間が劇的に向上する。例えば、光周波数幅100MHzの区間において1MHzステップで計測する場合、第2から第5の実施例と比較して100倍速の計測が可能となる。
【0152】
(第7の実施形態)
図26は、第7の実施形態のブリルアン散乱光検波部31の構成を示す図である。光ファイバ温度センシング装置1としての全体構成は
図1と同じであり、光源モジュール部11は
図17と同じである。本実施の形態では、ブリルアン散乱光検波部31におけるディジタル信号処理をアナログ的な電気回路で実現した構成である。但し、本実施形態では、アナログディジタル変換器を利用しておらず、ディジタル偏波回転補償フィルタも光学的偏波回転補償器371に代替されている。
【0153】
本実施形態の光源モジュール部11は、第3の実施形態の
図17の構成で実現される。すなわち、プローブ光L3とパイロット光L4は周波数分割多重され、同一偏波で送信される。
図26を参照して、ブリルアン散乱光検波部31の光ポート311には前述のプローブ光L3とパイロット光L4が、電気信号ポート312には光源モジュール部11のIQコヒーレント検波器126からの出力である周波数オフセット信号S5が入力される。
【0154】
プローブ光L3とパイロット光L4は、光ポート311を介して光ファイバセンサ部21で発生した偏波回転を光学的偏波回転補償器371で補償された後、位相ダイバーシティー光検波器331に入力される。本実施形態では、プローブ光L3とパイロット光L4の偏波回転が補償されているため、第3の実施例と異なり光検波器には偏波ダイバーシティー構成を採用しておらず、その分経済化が図られている。
【0155】
この位相ダイバーシティー光検波器331は、二つの光入力ポートを有しており、もう一方の光入力ポートには、局発光源であるレーザーダイオード322から出力されたローカル光LOが入力される。この位相ダイバーシティー光検波器331は、ローカル光LOの光周波数と光位相を基準にしたビート電気信号S1を出力する。
【0156】
ここで、位相ダイバーシティー光検波器331の出力ポートは332a,332bの2つが存在する。332aと332bのペアにおいて、信号位相は90度シフトしている。そのため、これら2つの信号の組み合わせにより、プローブ光L3とパイロット光L4の複素振幅が再現され、ビート電気信号S1は、ローカル光LOの光周波数と光位相を基準にしたプローブ光L3ないしパイロット光L4との周波数差ないし光位相差を反映した電気信号となる。
【0157】
これらの2つの出力ポートから出力されたビート電気信号S1は、プローブ光L3に対応するプローブ光電気信号S2とパイロット光L4に対応するパイロット光電気信号S3を周波数フィルタによって分離させる。本実施例では、高域通過フィルタ343の出力からプローブ光電気信号S2、低域通過フィルタ344の出力からパイロット光電気信号S3が得られる構成になっておる。
【0158】
そのうち、パイロット光電気信号S3は、2つの出力のうちの複素振幅電気信号の虚部に相当する回路側で、極性反転回路345に入力され、位相共役電気信号が得られる。ここで、極性反転回路345に入力され位相共役電気信号に変換されるのは、プローブ光電気信号S2でも構わない。
【0159】
その上で、プローブ光電気信号S2と位相共役電気信号となったパイロット光電気信号S3が、次段の複素乗算回路386に入力される。これらの信号は、それぞれローカル光LOとの光周波数と光位相の差に対応した電気信号周波数と位相を有している。しかし、この複素乗算回路386は、これらの信号からローカル光LOとの光周波数と光位相の差を安定的に消去する。その結果、複素乗算回路386の出力は、パイロット光L4とプローブ光L3の光周波数差に相当する周波数Δfpr-Δfpiの電気信号となり、且つその位相はプローブ光L3とパイロット光L4の光位相差になり、その値は、ブリルアン位相シフトΔφbの値となる。
【0160】
ここで、複素乗算回路386の構成例を
図27に示す。この回路は、複素振幅電気信号の複素乗算を実現するものである。すなわち、X×Y(a+jb)×(c+jd)=(ac-bd)+j(bc+ad)の演算をアナログ乗算回路361、362、363、364、減算回路365、加算回路366で実現する。
【0161】
前述のように複素乗算回路386は、ローカル光LOとの光位相差成分を除去するものの、出力される複素振幅のプローブパイロット光電気信号S4の周波数はΔfpr-Δfpiである。そのため、ブリルアン位相シフトの検出のためには、直流成分を含むベースバンド帯域に変換する必要がある。
【0162】
そこで、ブリルアン散乱光検波部31の入力ポート312aと312bに入力されている複素振幅の周波数オフセット信号S5を用いる。この信号の周波数もΔfpr-Δfpiである。入力ポート312aと312bに接続された極性反転回路387に入力し、周波数オフセット信号S5に対する位相共役であるダウンコンバート信号S6を得る。
【0163】
その上で、複素振幅のプローブパイロット光電気信号S4と前述のダウンコンバート信号S6を複素乗算回路388に入力し、周波数Δfpr-Δfpiである複素振幅のプローブパイロット光電気信号S4をベースバンド帯に下方変換する。これにより、ブリルアン位相信号S7が得られ、そこからブリルアン位相シフトΔφbを算出することができる。
【0164】
本実施形態は、アナログディジタル変換器を利用しておらず、ディジタル偏波回転補償フィルタも光学的偏波回転補償器371に代替されている。これにより、回路の製造コストを削減できる。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明は、建物や橋梁、災害危険個所の土壌モニタリング、航空機の振動センシングなど産業上の応用に加え、広域分布計測型地震計などの社会インフラに適用できる。
【符号の説明】
【0166】
1 光ファイバ(温度)センシング装置
1 光ファイバ温度センシング装置
11 光源モジュール部
111 光源
112 光アイソレータ
113 光分波器
114 光強度変調器
115 電気パルス発生器
116 偏波スクランブラ
117 光ファイバ増幅器
122 光ファイバ増幅器
118 光フィルタ
123 光フィルタ
121 ベクトル光変調器
121a 光IQ変調器
121b 光IQ変調器
124a 電気信号発生器
124b 電気信号発生器
125a 125b ディバイダ
126 IQコヒーレント検波器
141 周波数分割多重回路
142 ヒルベルト変換器
161 ディジタルSinc関数パルス発生器
162 乗算器
21 光ファイバセンサ部
212 一端
211 他端
211 入力ポート
212 入力ポート
213 214 光サーキュレータ
214 光サーキュレータ
215 センサ用光ファイバ
216 光フィルタ
217 光終端部
31 ブリルアン散乱光検波部
301 パーソナルコンピュータ
311 光ポート
312 電気信号ポート
312a 312b 入力ポート
320 光学的偏波コントローラ
321 偏波・位相ダイバーシティー光検波器
322a、322b、322c、322d、332a、332b 出力ポート
322 局発光部
322 レーザーダイオード
323 アナログディジタル変換器(ADC)
324 ディジタル偏波回転補償フィルタ
325 ディジタル位相共役演算器
326 ディジタル複素乗算器
327 アナログディジタル変換器(ADC)
328 ディジタル位相共役演算器
329 ディジタル複素乗算器
331 位相ダイバーシティー光検波器
341 高域通過ディジタルフィルタ
342 低域通過ディジタルフィルタ
343 高域通過フィルタ
344 低域通過フィルタ
345 極性反転回路
351 ディジタル複素振幅電気信号発生器
352 ディジタル複素自己遅延検波回路
353 フーリエ変換器
361、362、363、364 アナログ乗算回路
365 減算回路
366 加算回路
371 光学的偏波回転補償器
386 複素乗算回路
387 極性反転回路
388 複素乗算回路
50 制御部
500 プローブパイロット光生成部
502 ポンプ光生成部
508 分離部
506 検波部
510 ローカル光成分除去部
512 ブリルアン位相信号算出部
514 ブリルアン位相シフト量算出部
516 ブリルアンシフト周波数算出部
518 ルックアップテーブル
520 温度推定部
L1 ポンプ光
L2 種光
L3 プローブ光
L4 パイロット光
L5 探査済光
LO ローカル光
S1 ビート電気信号
S1X X偏波ビート電気信号
S1Y Y偏波ビート電気信号
S2 プローブ光電気信号
S3 パイロット光電気信号
S4 プローブパイロット光電気信号
S5 周波数オフセット信号
S6 ダウンコンバート信号
S7 ブリルアン位相信号