(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168959
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】工作機械の振動抑制システム
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/12 20060101AFI20231121BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20231121BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B23Q15/12 A
G05B19/18 X
B23Q17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080369
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】浜口 顕秀
【テーマコード(参考)】
3C001
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA07
3C001TA06
3C001TB08
3C001TC05
3C029EE01
3C269AB01
3C269BB01
3C269BB03
3C269MN07
3C269MN08
3C269MN09
3C269MN50
3C269PP20
3C269QB03
(57)【要約】
【課題】加速度計等の特殊な振動測定機器を用いることなく、安定回転速度を正確に算出して、安価且つ汎用的にびびりを抑制可能とする。
【解決手段】振動抑制システム1は、加工中の加工音を測定する集音装置11と、集音装置11から加工音データが受信可能であると共に、加工条件と工具情報とを含む加工情報を入力可能で、且つ加工音データ及び加工情報を出力可能なエッジコンピュータ12と、エッジコンピュータ12との間でデータの送受信が可能なサーバコンピュータ13及びFEM解析用コンピュータ14と、を備え、FEM解析用コンピュータ14は、エッジコンピュータ12から受信した加工情報に基づいて工具の共振周波数を特定し、サーバコンピュータ13は、FEM解析用コンピュータ14で特定した共振周波数に基づいてびびり周波数を特定すると共に、びびり周波数と加工情報とに基づいてびびりが生じにくい安定回転速度を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具又はワークを回転させる回転軸を備えると共に、前記工具と前記ワークとを相対移動させて前記ワークの加工を行う工作機械において、加工中に発生する振動を抑制するための振動抑制システムであって、
加工中の加工音を測定する集音装置と、
前記集音装置から加工音データが受信可能であると共に、加工条件と工具情報とを含む加工情報を入力可能で、且つ前記加工音データ及び前記加工情報を出力可能な情報取得装置と、
前記情報取得装置との間でデータの送受信が可能な演算装置と、を備えてなり、
前記演算装置は、前記情報取得装置から受信した前記加工情報に基づいて前記工具の共振周波数を特定する共振周波数特定部と、前記共振周波数特定部で特定した前記共振周波数に基づいてびびり周波数を特定すると共に、前記びびり周波数と前記加工情報とに基づいてびびりが生じにくい安定回転速度を算出する安定回転速度演算部とを備えることを特徴とする工作機械の振動抑制システム。
【請求項2】
前記情報取得装置が前記演算装置に送信する前記加工条件には、加工時の前記回転軸の回転速度が含まれることを特徴とする請求項1に記載の工作機械の振動抑制システム。
【請求項3】
前記情報取得装置が前記演算装置に送信する前記工具情報には、少なくとも加工時に使用した工具の刃数が含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械の振動抑制システム。
【請求項4】
前記演算装置は、前記共振周波数特定部で特定された前記共振周波数を、前記加工音データと前記加工情報と、前記安定回転速度演算部で演算した前記安定回転速度と関連付けて記憶する記憶部を備えることを特徴とする請求項1に記載の工作機械の振動抑制システム。
【請求項5】
前記安定回転速度演算部は、前記記憶部に記憶された前記工具情報の中から、前記情報取得装置から送信された前記工具情報に対応するものを選択し、選択した前記工具情報と関連付けて記憶されている前記共振周波数を選択し、選択した前記共振周波数を含む一定の周波数範囲に限定してびびり周波数を特定して、特定した前記びびり周波数を用いて前記安定回転速度を算出することを特徴とする請求項4に記載の工作機械の振動抑制システム。
【請求項6】
前記共振周波数特定部は、前記工具情報から有限要素法により前記共振周波数を特定することを特徴とする請求項4又は5に記載の工作機械の振動抑制システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工具とワークとを相対移動させてワークの加工を行う工作機械において、加工中に発生する振動を抑制するための振動抑制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、回転可能な主軸に工具を支持させ、工具及びワークを送りながら相対移動させて、ワークに加工を施すといった工作機械において、中ぐり加工のように、工具を大きな突出量で使用した場合、工具剛性の低下により、大きな加工振動(以下、びびりと表す)が発生することがあり、工具の欠損や加工面品位の不良などの問題を引き起こす。そこで、このびびりを抑制するための従来技術として、特許文献1には、機械系の共振周波数を測定してびびりが生じにくい回転速度(以下、安定回転速度と表す)を選択することでびびりを抑制する発明が開示されている。また、特許文献2には、加工中のびびり周波数を測定して安定回転速度を選択することでびびりを抑制する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4177028号公報
【特許文献2】特許第4703315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の方法では、安定回転速度が算出できるものの、事前に機械の共振周波数を測定するための装置や作業が必要となる、機械停止中の状態と加工中とでは状態が異なるために計算に誤差が生じる、という問題がある。
特許文献2の方法では、加工状態の情報をもとにすることで安定回転速度をより正確に算出できるものの、加速度計による振動加速度の測定では事前に機内の適切な位置に加速度計や配線を組み込む必要がある。
【0005】
そこで、本開示は、上記問題に鑑みなされたものであって、加速度計等の特殊な振動測定機器を用いることなく、安定回転速度を正確に算出でき、安価且つ汎用的にびびりを抑制可能となる工作機械の振動抑制システムを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示は、工具又はワークを回転させる回転軸を備えると共に、前記工具と前記ワークとを相対移動させて前記ワークの加工を行う工作機械において、加工中に発生する振動を抑制するための振動抑制システムであって、
加工中の加工音を測定する集音装置と、
前記集音装置から加工音データが受信可能であると共に、加工条件と工具情報とを含む加工情報を入力可能で、且つ前記加工音データ及び前記加工情報を出力可能な情報取得装置と、
前記情報取得装置との間でデータの送受信が可能な演算装置と、を備えてなる。
そして、前記演算装置は、前記情報取得装置から受信した前記加工情報に基づいて前記工具の共振周波数を特定する共振周波数特定部と、前記共振周波数特定部で特定した前記共振周波数に基づいてびびり周波数を特定すると共に、前記びびり周波数と前記加工情報とに基づいてびびりが生じにくい安定回転速度を算出する安定回転速度演算部とを備えることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記情報取得装置が前記演算装置に送信する前記加工条件には、加工時の前記回転軸の回転速度が含まれることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記情報取得装置が前記演算装置に送信する前記工具情報には、少なくとも加工時に使用した工具の刃数が含まれることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記演算装置は、前記共振周波数特定部で特定された前記共振周波数を、前記加工音データと前記加工情報と、前記安定回転速度演算部で演算した前記安定回転速度と関連付けて記憶する記憶部を備えることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記安定回転速度演算部は、前記記憶部に記憶された前記工具情報の中から、前記情報取得装置から送信された前記工具情報に対応するものを選択し、選択した前記工具情報と関連付けて記憶されている前記共振周波数を選択し、選択した前記共振周波数を含む一定の周波数範囲に限定してびびり周波数を特定して、特定した前記びびり周波数を用いて前記安定回転速度を算出することを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記共振周波数特定部は、前記工具情報から有限要素法により前記共振周波数を特定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、集音装置で測定したノイズを含む加工音からでも、安定回転速度を正確に算出することが可能となる。また、加速度計のように機械ごとに特殊な振動測定機器を設置する必要がないため、例えば市販のパソコンやタブレットを用いた測定も可能となる。よって、従来に比べて安価且つ汎用的にびびりを抑制して安定した加工を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】工作機械の振動抑制システムのブロック構成を示した説明図である。
【
図2】振動抑制システムによるびびり抑制に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、振動抑制システムの一例を示すブロック構成図である。振動抑制システム1は、集音装置11と、エッジコンピュータ12と、サーバコンピュータ13と、FEM解析用コンピュータ14とからなる。
振動抑制の対象となる工作機械は、図示しない主軸に保持させた工具を回転させて下方のテーブル上に載置したワークを加工する周知の構成である。
集音装置11は、工作機械に設けられるマイクで形成され、加工中に発生した加工音を測定する。また、集音装置11は、エッジコンピュータ12と接続可能なインターフェースを備える。
エッジコンピュータ12とサーバコンピュータ13とFEM解析用コンピュータ14とは、工作機械とは別個に設けられる。但し、これらのコンピュータの一部又は全部は、工作機械のNC装置に設けられていてもよい。
【0010】
エッジコンピュータ12は、情報を入力するための情報入力部21と、情報を出力するための情報出力部22とを備える。エッジコンピュータ12は、ネットワークを介してサーバコンピュータ13と接続可能で、相互にデータの送受信を行うことができる。
エッジコンピュータ12は、本開示の情報取得装置の一例である。
サーバコンピュータ13は、通信部31と、FFT演算部32と、回転速度演算部33と、記憶部34とを備える。通信部31は、エッジコンピュータ12やFEM解析用コンピュータ14とデータの送受信を行う。FFT演算部32は、FEM解析用コンピュータ14のデータをもとに加工音のFFT分析を行う。回転速度演算部33は、FFT演算部32の結果とエッジコンピュータ12から送られてきた情報とから安定回転速度を計算する。記憶部34は、エッジコンピュータ12とFEM解析用コンピュータ14とから送られてきた情報と、FFT演算部32と回転速度演算部33とで演算した結果情報とを関連付けて記憶する。
【0011】
FEM解析用コンピュータ14は、サーバコンピュータ13と接続可能で、相互にデータの送受信を行うことができ、サーバコンピュータ13から送られてきた情報をもとに周知の有限要素法によりFEM解析を行う。
サーバコンピュータ13及びFEM解析用コンピュータ14は、本開示の演算装置の一例である。FEM解析用コンピュータ14は、本開示の共振周波数特定部の一例でもある。また、FFT演算部32及び回転速度演算部33は、本開示の安定回転速度演算部の一例でもある。
【0012】
次に、振動抑制システム1によるびびり抑制方法の一例について、
図2のフローチャートに基づいて説明する。
ステップ(以下「S」と表記する)1で、集音装置11が対象の工作機械の加工音を測定する。
S2で、集音装置11に接続されたエッジコンピュータ12が、測定した加工音をデータとして保存する
S3で、情報入力部21によりエッジコンピュータ12に加工条件と工具情報とを入力する。加工条件としては、主軸の回転速度が含まれる。工具情報としては、工具の刃数と工具径と工具突出長との一部又は全部が含まれる。
S4で、エッジコンピュータ12が、通信部31を介して加工条件、工具情報、加工音データをサーバコンピュータ13に送信する。
S5で、サーバコンピュータ13が、通信部31を介して工具情報をFEM解析用コンピュータ14に送信する。
【0013】
S6で、FEM解析用コンピュータ14が、送信された工具情報をもとに共振周波数を計算し、計算結果をサーバコンピュータ13に送信する。
S7で、サーバコンピュータ13のFFT演算部32が、送信された共振周波数を含む一定の周波数範囲のみを抽出してFFTを行い、びびり周波数を特定する。
S8で、回転速度演算部33が、FFT演算部32で特定されたびびり周波数と、エッジコンピュータ12から送られてきた加工条件の中の主軸の回転速度と、工具情報の中の工具刃数とから、特許文献2で用いられている公知の計算方法にて安定回転速度を算出する。
S9で、記憶部34が加工条件、工具情報、加工音データ、びびり周波数、安定回転速度を関連付けて記憶する。
S10で、サーバコンピュータ13が安定回転速度をエッジコンピュータ12に送信する。
S11で、情報出力部22によりエッジコンピュータ12に安定回転速度を表示する。
S12で、作業者もしくはエッジコンピュータ12が加工中の回転速度を安定回転速度に変更する。これによりびびりを抑制することができる。
【0014】
このように、上記振動抑制システム1は、加工中の加工音を測定する集音装置11と、集音装置11から加工音データが受信可能であると共に、加工条件と工具情報とを含む加工情報を入力可能で、且つ加工音データ及び加工情報を出力可能なエッジコンピュータ12と、エッジコンピュータ12との間でデータの送受信が可能なサーバコンピュータ13及びFEM解析用コンピュータ14と、を備えてなる。
そして、FEM解析用コンピュータ14は、エッジコンピュータ12から受信した加工情報に基づいて工具の共振周波数を特定し、サーバコンピュータ13は、FEM解析用コンピュータ14で特定した共振周波数に基づいてびびり周波数を特定すると共に、びびり周波数と加工情報とに基づいてびびりが生じにくい安定回転速度を算出する。
この構成によれば、集音装置11で測定したノイズを含む加工音からでも、安定回転速度を正確に算出することが可能となる。また、加速度計のように機械ごとに特殊な振動測定機器を設置する必要がないため、例えば市販のパソコンやタブレットを用いた測定も可能となる。よって、従来に比べて安価且つ汎用的にびびりを抑制して安定した加工を実現することができる。
【0015】
なお、本開示の振動抑制システムに係る構成は、上記実施の形態に記載した態様に何ら限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で必要に応じて適宜変更することができる。
たとえば、共振周波数特定部について、上記実施形態では、FEM解析用コンピュータを用いてFEM解析によって工具の共振周波数を推定しているが、事前の実測結果に基づいて作成したデータベースから共振周波数を特定する構成としてもよい。また、収集した加工条件と工具情報と加工音とを蓄積して作成したデータベースから機械学習などを活用して共振周波数を特定する構成としてもよい。
さらに、上記実施形態では、工具情報をもとに工具の共振周波数を推定しているが、入力作業が複雑になるものの、ワーク情報も収集してワークの共振周波数も推定してもよい。
加えて、工具系のびびりに比べて頻度は低いものの、機械系の共振によるびびりも対象としたい場合には、工作機械の構成部品や軸位置などの情報も入手して、同様に機械系の共振周波数を推定してもよい。
【0016】
上記形態では、演算装置としてサーバコンピュータとFEM解析用コンピュータとを例示しているが、1つのコンピュータで共振周波数特定部と安定回転速度演算部とを備える演算装置を構成してもよい。この場合、演算装置にエッジコンピュータの機能を含めて情報取得装置と兼用させてもよい。
振動抑制システムは、使用承認システムをさらに備え、使用者登録や使用料支払いを行った後に、本システムの使用が可能となるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0017】
1・・振動抑制システム、11・・集音装置、12・・エッジコンピュータ、13・・サーバコンピュータ、14・・FEM解析用コンピュータ、21・・情報入力部、22・・情報出力部、31・・通信部、32・・FFT演算部、33・・回転速度演算部、34・・記憶部。