(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168998
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20231121BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20231121BHJP
【FI】
A63B53/04 C
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080433
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】515185924
【氏名又は名称】株式会社プロギア
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】三枝 宏
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA02
2C002CH01
2C002MM02
2C002MM04
(57)【要約】
【課題】反発性能を確保しつつフェース部の耐久性の向上を図る上で有利なゴルフクラブヘッドを提供する。
【解決手段】フェース部14は、ヤング率30Gpa以上220Gpa以下の材料で構成され、金属材料または繊維強化樹脂材料で構成されている。樹脂層32は、フェース面14Aを覆うように形成されている。樹脂層32が形成されることにより、打球時に樹脂層32でエネルギーが吸収されることでフェース部14に生じる応力を低下させることができるため、フェース部14の耐久性を確保する上で有利となる。樹脂層32は、デュロメータ硬度A85以上デュロメータ硬度D80以下である。樹脂層32の硬度が上記範囲内にあると、ゴルフクラブヘッド10の反発性能を確保する上で有利となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤング率30Gpa以上220Gpa以下の材料で構成されたフェース部と、
前記フェース部のフェース面を覆う樹脂層とを備え、
前記樹脂層は、デュロメータ硬度A85以上デュロメータ硬度D80以下である、
ことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記樹脂層の厚さが0.3mm以上1.5mm以下である、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記樹脂層は、ポリウレタン、アイオノマー樹脂または超高分子ポリエチレンで形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記樹脂層は、前記フェース面に塗装、コーティング、接着、粘着、溶着、アンカー効果による接合のいずれかにより設けられている、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記フェース部の材料は繊維強化樹脂である、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記フェース部の材料は、金属材料である、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記フェース面の中央部に対応する前記樹脂層の中央部分の厚さは、前記フェース部の周縁部に対応する前記樹脂層の周縁部分の厚さよりも大きく、かつ、前記樹脂層の厚さは、前記中央部分から前記周縁部分に至るにつれて次第に小さくなるように形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
反発係数が0.822以上である、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
打球のスピン量を適切な範囲に制御するために、フェース部のフェース面に動摩擦係数が0.1以上0.4以下である樹脂層を形成したゴルフクラブヘッドが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、フェース面に形成された樹脂層は、スピン量を左右するだけではなく、反発性能やフェース部の耐久性に影響を与えると考えられるが、上記従来技術ではこれらの点については特に考慮されていない。
本発明は樹脂層の特性がフェース部の耐久性や反発性能に影響を与える点に着目してなされたものであり、その目的は、反発性能を確保しつつフェース部の耐久性の向上を図る上で有利なゴルフクラブヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一実施の形態は、ゴルフクラブヘッドであって、ヤング率30Gpa以上220Gpa以下の材料で構成されたフェース部と、前記フェース部のフェース面を覆う樹脂層とを備え、前記樹脂層は、デュロメータ硬度A85以上デュロメータ硬度D80以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一実施の形態によれば、樹脂層がフェース面を覆うように形成されることにより、打球時に樹脂層でエネルギーが吸収されることでフェース部に生じる応力を低下させることができ、フェース部の耐久性を確保する上で有利となる。また、樹脂層は、デュロメータ硬度A85以上デュロメータ硬度D80以下であるため、ゴルフクラブヘッドの反発性能を確保する上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態に係るゴルフクラブヘッドをフェース面の前方から見た正面図である。
【
図3】(A)はデュロメータ硬度Aを測定する際に用いるタイプAの押し針の形状を示す正面図、(B)はデュロメータ硬度Dを測定する際に用いるタイプDの押し針の形状を示す正面図である。
【
図4】デュロメータ硬度Aとデュロメータ硬度Dとの対応を説明する説明図である。
【
図5】実験例1(比較例)の加速度波形を示す図である。
【
図11】実験例2-6についてのデュロメータ硬度Dと実験例1に対するCORの差分との関係を示す線図である。
【
図16】実験例7-10についてのデュロメータ硬度Dと実験例1に対するCORの差分との関係を示す線図である。
【
図20】実験例11-13についてのデュロメータ硬度Dと実験例1に対するCORの差分との関係を示す図である。
【
図21】実験例1-13の耐久性の評価結果を示す図である。
【
図22】実験例1-13の耐久性(回数)と最大加速度との関係を示す図である。
【
図23】(A)は各実験例の耐久性の評価結果を示す図、(B)は各実験例の反発性能の評価結果を示す図、(C)は各実験例の総合の評価結果を示す図である。
【
図24】(A)は実験例1(比較例)における打球音の振幅波形を示す図、(B)は(A)を周波数解析した結果を示す図である。
【
図25】(A)は金属製のフェース部のフェース面に樹脂層を設けた実験例14における打球音の振幅波形を示す図、(B)は(A)を周波数解析した結果を示す図である。
【
図26】(A)はFRP製のフェース部のフェース面に樹脂層を設けた実験例15における打球音の振幅波形を示す図、(B)は(A)を周波数解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に本発明の実施の形態について説明する。
図1、
図2に示すように、本実施の形態において、ゴルフクラブヘッド10は、中空のウッド型ゴルフクラブヘッド(ドライバー)であり、ヘッド本体12と、樹脂層32とを含んで構成されている。
ヘッド本体12は、金属材料または繊維強化樹脂材料(FRP)で構成され、あるいは、金属材料と繊維強化樹脂材料とが組み合わされて構成される。
前記金属材料としては、例えばステンレス鋼、マルエージング鋼、純チタン、チタン合金又はアルミニウム合金等の1種又は2種以上が用いられる。
前記繊維強化樹脂材料としては、炭素繊維強化樹脂材料(CFRP)などが用いられる。
ヘッド本体12は、フェース部14と、クラウン部16と、ソール部18と、サイド部20とを備えている。
ヘッド本体12は、それらフェース部14とクラウン部16とソール部18とサイド部20とで囲まれた内部が中空部28とされた中空構造を呈している。
フェース部14は、上下の高さを有して左右に延在している。
本実施の形態では、フェース部14は、ヤング率30Gpa以上220Gpa以下の材料で構成され、前述した金属材料または繊維強化樹脂材料で構成されている。
フェース部14の材料を金属材料とすると、打球時に発生する打音の周波数を好ましいとされる高い周波数の範囲にする上で有利となる。
また、フェース部14の材料を繊維強化樹脂材料とすると、ゴルフクラブヘッド10の軽量化を図る上で有利となる。
【0009】
クラウン部16は、フェース部14よりも小さい肉厚でフェース部14の上部から後方に延在している。
フェース部14の外側に露出する表面がボールを打撃するフェース面14Aである。
クラウン部16には、フェース面14A側でかつヒール24寄りの位置にシャフトSに接続するホーゼル30が設けられ、ホーゼル30にシャフトSが接続されることでゴルフクラブ100が構成される。
ソール部18は、フェース部14の下部から後方に延在している。
図1、
図2に示すように、サイド部20は、クラウン部16とソール部18の間でフェース部14のトウ22側縁とヒール24側縁との間をフェースバックを通って延在している。
【0010】
樹脂層32は、フェース面14Aを覆うようにフェース面14Aに対して隙間なく形成されている。
フェース面14Aを覆うように樹脂層32が形成されることにより、打球時に樹脂層32でエネルギーが吸収されることでフェース部14に生じる応力を低下させることができるため、フェース部14の耐久性を確保する上で有利となる。
樹脂層32は、デュロメータ硬度A85以上デュロメータ硬度D80以下である。
樹脂層32の硬度が上記範囲内にあると、ゴルフクラブヘッド10の反発性能を確保する上で有利となる。
樹脂層32の硬度が上記範囲を下回ると、樹脂層32の硬度が低すぎて樹脂層32で吸収されるエネルギーが過剰となりゴルフクラブヘッド10の反発性能を確保する上で不利となる。また、打球時に発生する打音の周波数が好ましいとされる高い周波数の範囲よりも低下する傾向となる。
樹脂層32の硬度が上記範囲を上回ると、樹脂層32の硬度が硬すぎて樹脂層32で吸収されるエネルギーが過小となりゴルフクラブヘッド10の耐久性を確保する上で不利となる。
なお、樹脂層32の硬度は、デュロメータ硬度A90以上デュロメータ硬度D60以下であることが上記効果を発揮する上でより好ましい。
【0011】
ここで、デュロメータ硬度について説明する。
デュロメータは、決められた形の押し針をスプリングの力で試料の表面に押しつけて変形を与え、試料の抵抗力とスプリングの力がバランスした状態での押し針の試料への押込み深さをもとに、硬さを測定する硬度計である。
デュロメータ硬度Aは、
図3(A)に示すタイプAの押し針50を用いて測定した硬度であり、デュロメータ硬度Dは、
図3(B)に示すタイプDの押し針52を用いて測定した硬度である。
一般的には、比較的硬度が低い試料の場合には、タイプAの押し針50を用いて測定し、デュロメータ硬度Aの上限は100である。一方、デュロメータ硬度Aが概ね90を超える比較的硬度が高い試料では、タイプDの押し針52を用いてデュロメータ硬度Dを測定する。
なお、
図4は、デュロメータ硬度Aとデュロメータ硬度Dとの対応関係を示す図であり、この
図4を用いてデュロメータ硬度Aとデュロメータ硬度Dとを相互に換算することができる。
【0012】
本実施の形態において、樹脂層32の硬度とは、樹脂層32単体を計測した硬度ではなく、樹脂層32がフェース面14A上に形成された状態で、樹脂層32がフェース面14Aと反対側に位置する樹脂層32の表面に対してタイプAの押し針50またはタイプDの押し針52を押し込むことで測定した硬度をいうものとする。
また、樹脂層32の硬度の測定に際しては、まず、デュロメータ硬度Aで測定しデュロメータ硬度Aが98を超える樹脂層32では、タイプDの押し針52を用いてデュロメータ硬度Dを測定するものとする。
【0013】
また、樹脂層32の厚さは0.3mm以上1.5mm以下である。
樹脂層32の厚さが上記範囲内にあると、ゴルフクラブヘッド10の反発性能を確保しつつフェース部14の耐久性の向上を図る上で有利となる。
樹脂層32の厚さが上記範囲を下回ると、樹脂層32が薄すぎて打球時のエネルギーが樹脂層32で十分に吸収されないため、フェース部14の応力を樹脂層32で緩和する効果が低下し、ゴルフクラブヘッド10の耐久性を確保する効果が低下する。
樹脂層32の硬度が上記範囲を上回ると、樹脂層32が厚すぎて打球時のエネルギーが樹脂層32で過剰に吸収されるため、ゴルフクラブヘッド10の反発性能を確保する効果が低下する。
また、打球時に発生する打音の周波数が、ゴルファーが打音を聴いたときに心地よいと感じる高い周波数の範囲(概ね4000Hz近傍)に比較して低下する傾向となる。
なお、樹脂層32の厚さは、0.3mm以上0.5mm以下であることが上記効果を発揮する上でより好ましい。
【0014】
また、樹脂層32を構成する材料としては、ポリウレタン、アイオノマー樹脂または超高分子ポリエチレンが加工性に優れている点で好適である。
なお、樹脂層32の硬度が前述した範囲内であれば、樹脂層32を構成する材料は限定されるものではない。
【0015】
また、樹脂層32は、フェース面14Aに塗装、コーティング、接着、粘着、溶着、アンカー効果を用いた接合のいずれかにより設けられている。
なお、アンカー効果を用いた接合とは、フェース面14Aに形成された微細な凹凸形状に、溶融された樹脂層32が入り込んで固まることで樹脂層32がフェース面14Aに接合することをいう。
【0016】
また、
図2に示すように、フェース面14Aの中央部に対応する樹脂層32の中央部分3202の厚さは、フェース面14Aの周縁部に対応する樹脂層32の周縁部分3204の厚さよりも大きく、かつ、樹脂層32の厚さは、中央部分3202から周縁部分3204に至るにつれて次第に小さくなるように形成されていることが好ましい。
これは、打点分布が高い部分、言い換えると打球する頻度が高いフェース面14Aの中央部に対応する樹脂層32の中央部分3202に対してより高い耐久性が要求される一方、打点分布が低い部分、言い換えるとボールを打球する頻度が低いフェース面14Aの周縁部に対応する樹脂層32の周縁部分3204に対してはそれほど高い耐久性が要求されないためである。
言い換えると、フェース部14の中央部は、フェース部14の周辺部に比べて打球時の変形量が大きく耐久強度を確保する面で不利となることから、フェース部14の中央部の耐久強度をより大きく確保する必要があるためである。
このように樹脂層32の厚さを設定することにより、ゴルフクラブヘッド10の耐久性を確保しつつ軽量化を図る上で有利となる。
【0017】
また、本実施の形態のゴルフクラブヘッド10は、反発係数(COR)が0.822以上であることが好ましい。
すなわち、反発係数が0.822以上のいわゆる高反発ヘッドを呼ばれるゴルフクラブヘッド10では、打球時のフェース部14のたわみ量を確保するためにフェース部14の肉厚が薄くなるため、フェース部14の耐久性が低下しやすい。したがって、フェース面14Aに樹脂層32を形成することで反発係数が0.822以上のゴルフクラブヘッド10の耐久性を確保する上で有利となる。
【0018】
次に、ゴルフクラブヘッド10の実験結果について説明する。
以下では、試料となるゴルフクラブヘッド10を各実験例毎に作成し、以下に示す条件を変えて反発性能および耐久性について評価した。
【0019】
実験例1は、比較例であり、フェース面14Aに樹脂層32を設けないゴルフクラブヘッド10であり、本発明の請求項1の規定を満たさないものである。
実験例1の各部の仕様は以下の通りである。
ヘッド本体12の材料:チタン合金 Ti-8Al-1Mo-1V
フェース部14の材料:Ti-6Al-4V
ロフト角 10.5°
ライ角 59°
ヘッド体積 460cc
【0020】
なお、実験例1(比較例)を除く以下の各実験例は樹脂層32を設けた点以外は実験例1と同じ仕様である。
また、実験例1(比較例)を除く以下の各実験例において樹脂層32の厚さは均一厚さとしており、したがって、樹脂層32の中央部分3202の厚さも樹脂層32の周縁部分3204の厚さも均一としている。
【0021】
以下では、各実験例のゴルフクラブヘッド10に対してペンデュラム試験機を用い、ゴルフクラブヘッド10にシャフトが取り付けられた状態でシャフトを治具で固定し、振り子によりフェース部14に一定の衝突力を与え、振り子に取り付けた加速度センサで加速度(加速度波形)を測定した。
加速度波形の測定結果は、
図5-
図10に示す通りであり、横軸が時間(μs)、縦軸が加速度(m/s
2)を示している。また、図中、左側に記載されたμs単位の数値は加速度波形から算出したCT値を示し、右側に記載されたm/s
2単位の数値は最大加速度(加速度のピーク値)を示す。
【0022】
(条件1)樹脂層32の硬度を変化
条件1では、各実験例2-6において樹脂層32の厚さを1.0mmとし、樹脂層32の硬度のみを変化させた。
図5:実験例1(比較例)樹脂層32無し
図6:実験例2:デュロメータ硬度D90
図7:実験例3:デュロメータ硬度D80
図8:実験例4:デュロメータ硬度A98
図9:実験例5:デュロメータ硬度A85
図10:実験例6:デュロメータ硬度A70
【0023】
図5と、
図6-
図10とを比較してわかるように、実験例1に比較して樹脂層32が設けられた実験例2-6では、打球時に樹脂層32が変形することでエネルギーが吸収されるので最大加速度が低下しており、また、加速度波形の高周波成分、言い換えると、手に響く振動が樹脂層32で吸収されることで、ゴルファーが感じる打感が柔らかく良化されることがわかる。
また、
図6-
図10からわかるように樹脂層32の硬度が低くなるほど、打球時に樹脂層32が変形しやすくエネルギーが吸収されやすくなることから、最大加速度が低下する一方、CT値(ボールが樹脂層32を介してフェース面14Aに接触している時間)が長くなっている。
【0024】
図11は、横軸にデュロメータD硬度、縦軸に実験例1のCORに対する各実験例のCORの低下量(すなわち、「実験例1のCOR」から「実験例のCOR」を差し引いた差分)を示し、実験例2-6の値をそれぞれプロットしている。
なお、デュロメータA硬度の数値は、
図4を用いてデュロメータD硬度の数値に換算している。
図11を見ると、概ねデュロメータD硬度で35未満(デュロメータ硬度Aで85未満)の実験例6(デュロメータ硬度A70)の反発性能が、他の実験例2-5の反発性能に比較して急激に低下していることがわかる。
したがって、反発性能を確保する上で、樹脂層32の硬度は、デュロメータ硬度A85以上であることが必要であることがわかる。
【0025】
(条件2)樹脂層32の厚さを変化
条件2では、樹脂層32の硬度をデュロメータ硬度A85で一定とし、樹脂層32の厚さのみを変化させて、条件1と同様の加速度波形を測定した。
図12:実験例7:樹脂層32の厚さ0.3mm
図13:実験例8:樹脂層32の厚さ0.5mm
図14:実験例9:樹脂層32の厚さ1.0mm
図15:実験例10:樹脂層32の厚さ2.0mm
なお、実験例7-10の樹脂層32はポリウレタン(PU)である。
【0026】
図12-
図15からわかるように樹脂層32の厚さが厚くなるほど、打球時に樹脂層32が変形しやすくなることから、最大加速度が低下する一方、CT値(ボールが樹脂層32を介してフェース面14Aに接触している時間)が長くなっている。
【0027】
図16は、横軸に樹脂層32の厚さ、縦軸に実験例1のCORに対する各実験例のCORの低下量を示し、実験例7-10の値をそれぞれプロットしている。
図16を見ると、樹脂層32の硬度がデュロメータ硬度A85と低い硬度の場合については、厚さ1.5mmを超える実験例10(厚さ2.0mm)の反発性能が、他の実験例7-9の反発性能に比較して急激に低下していることがわかる。
したがって、反発性能を確保する上で、樹脂層32の厚さは、薄いほど有利であり、また、概ね1.5mm以下であることが有利であるといえる。
【0028】
(条件3)樹脂層32の厚さを変化
条件3では、樹脂層32の硬度をデュロメータ硬度D80で一定とし、樹脂層32の厚さのみを変化させて、条件1と同様の加速度波形を測定した。
図17:実験例11:樹脂層32の厚さ0.5mm
図18:実験例12:樹脂層32の厚さ1.0mm
図19:実験例13:樹脂層32の厚さ2.0mm
なお、実験例17-19の樹脂層32はポリカーボネート(PC)である。
【0029】
図17-
図19からわかるように樹脂層32の厚さが厚くなるほど、打球時に樹脂層32が変形しやすくなることから、最大加速度が低下する一方、CT値(ボールが樹脂層32に接触している時間)が長くなっている。
【0030】
図20は、横軸に樹脂層32の厚さ、縦軸に実験例1のCORに対する各実験例のCORの低下量を示し、実験例11-13の値をそれぞれプロットしている。
なお、
図20においては、樹脂層32の厚さ1.5mmの実験例を追加しており、この実験例については、加速度波形の図面を省略している。
図20を見ると、樹脂層32の硬度がデュロメータ硬度D80と高い硬度の場合については、厚さ2.0mmの実験例13(厚さ2.0mm)の反発性能は、他の実験例11、12および樹脂層32の厚さ1.5mmの実験例の反発性能に比較して急激ではないものの低下していることがわかる。
したがって、反発性能を確保する上で、樹脂層32の厚さは、薄いほど有利であり、少なくとも1.5mm以下であることが有利であるといえる。
【0031】
(条件4)耐久性
条件4は、上述した実験例1-13について耐久性を評価した。
耐久性の評価は、シャフトに固定したゴルフクラブヘッド10のフェース面14A(樹脂層32)にエアキャノンにてゴルフボールを繰り返して当て、樹脂層32を含むフェース部14の変形や割れ、破損が生じるまでに要した打撃回数を計測し、
図21に示すように、打撃回数に応じて3段階(×:耐久性に劣る、△:耐久性は問題なし、○:耐久性が良好)の評価とした。
ボールスピードは50m/sとした。打点位置はフェース面14Aの幾何学的中心である中心点とした。
【0032】
図22は、横軸に打撃回数、縦軸に最大加速度を取り、実験例1-13をプロットした図であり、上記の3段階の評価基準の範囲を記入したものである。
ゴルフクラブヘッド10の最大加速度が低いほど耐久性が向上し、最大加速度が高いほど耐久性が低下している。
これは、樹脂層32の硬度が低く、また、樹脂層32が厚いほど最大加速度が低くなり、打球時に生じるエネルギーが樹脂層32で吸収され、フェース部14に生じる応力が低下することによる。
言い換えると、樹脂層32の硬度が高く、また、樹脂層32が薄いほど最大加速度が高くなり、打球時に生じるエネルギーが樹脂層32で吸収されにくく、フェース部14に生じる応力が高くなることによる。
【0033】
図23は、樹脂層32の硬度および樹脂層32の厚さを異ならせた複数の実験例(前述した実験例2-13を含む)について、耐久性(
図23(A))、反発性能(
図23(B))、総合(
図23(C))についてそれぞれ3段階(×:評価が劣る、△:評価は合格:○:評価が良好)で評価したものである。
図23(C)の総合は、
図23(A)、(B)の2つの評価を総合したものであり、以下のように評価を決定している。
2つの評価が×、×ならば総合は×。
2つの評価が×、△ならば総合は×。
2つの評価が△、△ならば総合は△。
2つの評価が△、○ならば総合は△。
2つの評価が○、×ならば総合は×。
2つの評価が○、○ならば総合は○。
図23(C)に示すように、樹脂層32の硬度はデュロメータA硬度85以上デュロメータD硬度80以下の範囲であり、かつ、樹脂層32の厚さが0.3mm以上1.5mm以下の範囲を満たしていると、総合の評価が△または○となっている。
【0034】
(条件5)
条件5は、スイングロボットを使用してフェース面14Aの中心点(フェースセンターで)ボールを打撃したときの音(打音)の音圧および音の周波数分布を評価した。
図24-
図26は、それぞれ実験例1、14,15の測定結果を示しており、(A)は横軸に時間、縦軸に振幅を示した音波信号を示し、(B)は横軸に周波数、縦軸に音圧を示した周波数分析結果を示す。
図24の実験例1(比較例)は、前述したようにフェース面14Aに樹脂層32が形成されていないものである。
図25の実験例14は、ヘッド本体12(フェース部14)がチタン合金で構成され、フェース面14Aに樹脂層32が形成されているものである。
図26の実験例15は、ヘッド本体12(フェース部14)がCFRPで構成され、フェース面14Aに樹脂層32が形成されているものである。
実験例14,15において、樹脂層32の硬度はデュロメータA90、樹脂層32の厚さは0.5mmとした。
【0035】
図24-
図26から明らかなように、実験例1は、打音がもっとも大きく、かつゴルファーが打音を聴いたときに心地よいと感じる周波数帯に明確なピークが存在している。
また、実験例14は、打音の大きさは実験例1よりも低下しているものの、ゴルファーが打音を聴いたときに心地よいと感じる周波数帯に明確なピークが存在している。
また、実験例15は、実験例14よりも打音がさらに小さく、また、ゴルファーが打音を聴いたときに心地よいと感じる周波数帯に明確なピークがない。
したがって、打音の評価としては、ヘッド本体12(フェース部14)が金属製の実験例14の方が、ヘッド本体12(フェース部14)がCFRP製の実験例15よりも有利となっている。
【0036】
なお、本実施の形態では、ゴルフクラブヘッド10が、中空のウッド型ゴルフクラブヘッド(ドライバー)である場合について説明したが、本発明は、中空のユーティリティやフェアウェイウッド、あるいは、キャビティーアイアンなど、中空部を備えないゴルフクラブヘッドにも無論適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
10 ゴルフクラブヘッド
12 ヘッド本体
14 フェース部
14A フェース面
16 クラウン部
18 ソール部
20 サイド部
22 トウ
24 ヒール
28 中空部
30 ホーゼル
32 樹脂層
3202 中央部分
3204 周縁部分
50 タイプAの押し針
52 タイプDの押し針
100 ゴルフクラブ
S シャフト