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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169099
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】流入量予測システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20231121BHJP
   E03F 1/00 20060101ALI20231121BHJP
   G01W 1/00 20060101ALI20231121BHJP
   G01W 1/10 20060101ALI20231121BHJP
   G05B 23/02 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
G06Q50/06
E03F1/00 Z
G01W1/00 Z
G01W1/10 P
G05B23/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207871
(22)【出願日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2022079975
(32)【優先日】2022-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094226
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100087066
【弁理士】
【氏名又は名称】熊谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐喜
(72)【発明者】
【氏名】五枚橋 遼介
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 礼勇功
【テーマコード(参考)】
2D063
3C223
5L049
【Fターム(参考)】
2D063AA00
2D063AA09
3C223AA06
3C223BA01
3C223EB01
3C223FF05
3C223FF12
3C223FF22
3C223FF26
3C223GG01
3C223HH29
5L049AA04
5L049CC35
(57)【要約】
【課題】ポンプ場等における下水流入量の予測を精度よく行える流入量予測システムを提供すること。
【解決手段】ポンプ場10等の施設データPDを収集する施設データ収集部113と、気象データ185を収集する気象データ収集部110と、施設データPD及び気象データ185を蓄積するデータ蓄積部121と、施設データPD及び気象データ185に基づいて下水流入量を予測する学習済みモデルを作成する学習処理部150と、学習済みモデル及び施設データPD及び気象データ185に基づいて下水流入量を予測する予測部160と、下水流入量の予測値を受け取ってポンプ場10等の運転状態を制御する制御部170と、を有する流入量予測システム100である。気象データ185は、気象値、経度・緯度、時刻の情報を有する気象データであり且つポンプ場10等の処理区域183の領域と重なり合ったメッシュ部分の気象データ185Aである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場における下水流入量を予測する流入量予測システムにおいて、
前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場の施設データを収集する施設データ収集部と、
気象データを収集する気象データ収集部と、
前記施設データ及び気象データを蓄積するデータ蓄積部と、
前記データ蓄積部から受け取った前記施設データ及び気象データに基づいて、ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場への下水流入量を予測するモデルを学習して学習済みモデルを作成する学習処理部と、
前記学習処理部で作成した学習済みモデルを記憶する学習済みモデル記憶部と、
前記学習済みモデル及び前記施設データ及び前記気象データに基づいて未来の地点における下水流入量を予測する予測部と、
前記予測部より下水流入量の予測値を受け取って、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場の運転状態を制御する制御部と、
を有し、
前記予測部において下水流入量の予測に用いられる気象データは、気象値、経度・緯度、時刻の情報を有するメッシュ単位の気象データであり、且つ前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場の処理区域の領域と重なり合ったメッシュ部分の気象データであることを特徴とする流入量予測システム。
【請求項2】
前記気象値は、降水量、天候、気温、風速、風向、気圧の内、降水量を含む1つ以上のデータであることを特徴とする請求項1に記載の流入量予測システム。
【請求項3】
前記処理区域の領域と重なり合ったメッシュ部分の気象データは、地理情報システムが有する地理情報上の前記処理区域の領域と重なり合う領域のメッシュ部分の気象データであることを特徴とする請求項1に記載の流入量予測システム。
【請求項4】
前記学習処理部および前記予測部は、機械学習を用いたモデルにより学習し予測することを特徴とする請求項1に記載の流入量予測システム。
【請求項5】
前記機械学習の手法にRNNを用い、
当該RNNのハイパーパラメータの一つであるタイムステップとして、
前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場における下水流入量のピーク時刻と、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場の処理区域に対する前記気象値である降水量のピーク時刻との差、
および/または、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場における下水流入量の変動周期を用いることを特徴とする請求項1に記載の流入量予測システム。
【請求項6】
前記降水量は、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場の処理区域の領域と重なり合った部分の同時刻におけるメッシュ単位の各降水量データを合算した時刻毎の降水量であり、
当該降水量のピーク時刻と、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場における下水流入量のピーク時刻との差、および/または、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場における下水流入量の変動周期を算出して前記タイムステップを決定することを特徴とする請求項5記載の流入量予測システム。
【請求項7】
下水流入量を予測する対象が前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟の場合、
前記下水流入量は、
当該ポンプ場あるいはポンプ棟が有する1又は複数の水槽に保持している水量の単位時間当たりの変動量、および単位時間当たりのポンプ揚水量、および当該ポンプ場あるいはポンプ棟の上流側に接続されている施設外流入管内の下水貯留量の単位時間当たりの変動量、を合算して算出し、
一方、下水流入量を予測する対象が前記下水処理場の場合、
前記下水流入量は、
当該下水処理場が有する1又は複数の水槽に保持している水量の単位時間当たりの変動量、および当該下水処理場の上流側に接続されている施設外流入管内の下水貯留量の単位時間当たりの変動量、を合算して算出することを特徴とする請求項1に記載の流入量予測システム。
【請求項8】
前記各水槽に保持している水量の単位時間当たりの変動量は、当該各水槽における横断面積に水位の単位時間当たりの変動を掛けることで算出することを特徴とする請求項7に記載の流入量予測システム。
【請求項9】
前記施設外流入管内の貯留量の単位時間当たりの変動量は、
当該施設外流入管が接続されている水槽の水位、および当該施設外流入管の勾配および管径を参照して算出することを特徴とする請求項7に記載の流入量予測システム。
【請求項10】
前記処理区域に、当該処理区域の上流側に位置する上流側処理区域の下水を集めて流入させる上流側ポンプ場、あるいは当該処理区域の上流側に位置する上流側処理区域の流入量測定手段を有する管路施設、の少なくともいずれかが設置されており、
前記流入量予測システムによって求めた、前記上流側ポンプ場における下水流入量の予測値を用いて、当該上流側ポンプ場の揚水量の予測値を算出し、および/または、前記流入量予測システムによって、前記上流側処理区域の流入量測定手段を有する管路施設における下水流入量の予測値を算出し、
下流側にある前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場における前記予測部による下水流入量の予測に、前記学習済みモデル及び前記施設データ及び前記気象データの他に、前記上流側ポンプ場の揚水量の予測値、および/または、前記上流側処理区域の流入量測定手段を有する管路施設における下水流入量の予測値を用いることを特徴とする請求項1乃至9の内の何れか1項に記載の流入量予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ場、下水処理場内のポンプ棟、あるいはポンプ棟を有さない下水処理場等に流入してくる下水の流入量を予測する流入量予測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポンプ場、下水処理場内のポンプ棟、あるいはポンプ棟を有さない下水処理場等の施設に流入してくる下水の流入量を予測することは、当該施設の適切な運転方法による処理水質の安定化、雨天時における維持管理の適切な人員配置計画、施設内外における溢水の未然防止等において重要である。
【0003】
このため従来は、施設の管理を担当している熟練技術者が、当該施設の特性、気象状況等を元に下水の流入量の変動を予測して、降雨イベント発生以前に一時的に流下量あるいは処理量を増加して下水管路あるいはポンプ場あるいは下水処理場における下水保持量を予め減少させる、もしくは雨天時に増加した流入水の一部を管路内に貯留して降雨イベント終了後に流下・処理を行う等の対応を行っている。
【0004】
一方近年、熟練技術者によらなくても適切に下水流入量の予測ができる方法として、機械学習手法を用いて下水流入量を予測する方法が検討されている。
【0005】
特許文献1には、ポンプ井への下水流入量データから分離生成した雨水流入量データと汚水流入量データとを用いて汚水流入量予測モデル及び雨水流入量予測モデルを別個構築し、暦データを事例ベース推論による汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成し、気象データをニューラルネットワークによる雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成し、生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成する下水流入量予測装置が開示されている。
【0006】
特許文献2には、ユーザ入力部において、所定長さの時間区間を単位として、現在の時刻から下水流入量を予測しようとする未来の時刻までの時間長を示す予測ステップ幅を指定するユーザ入力を取得し、データ収集部において、時間区間ごとに下水流入量の測定値を収集し、短期データ記憶部において、予測ステップ幅の複数倍よりも長い時間期間にわたって、各時間区間における下水流入量の測定値を記憶し、予測値算出部において、あるステップの予測値及び測定値に基づいて次のステップの予測値を算出する予測アルゴリズムを反復的に用いて、予測ステップ幅ごとの下水流入量の測定値に基づいて、予測ステップ幅ごとの下水流入量の予測値を算出することにより、現在の時間区間から予測ステップ幅だけ進んだ未来の時間区間における下水流入量の予測値を算出する下水流入量予測装置が開示されている。
【0007】
特許文献3には、レーダ雨量計からの観測値をメッシュ形状の降雨強度に換算した積算雨量データを学習用入力データ、一方ポンプ施設に流入する雨水流入量を学習用出力データとして蓄え、学習用入力データである積算雨量データ、学習用出力データである雨水流入量を基に、バックプロパゲーション法によりニューラルネットワークの重み係数を学習して蓄え、この重み係数を用い、降雨当日の積算雨量データと判定値から、ニューラルネットワークにより雨水流入量を予測して出力するニューラルネットワーク応用雨水流入量予測装置が開示されている。
【0008】
非特許文献1には、機械学習(LSTMおよびCNN)を用いて、下水処理場における下水流入量を予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-002401号公報
【特許文献2】特開2016-211877号公報
【特許文献3】特開平5-134715号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「AIを活用した下水流量の予測/(株)ウォーターエージェンシー」(学会誌「EICA」、Vol.26、No.2/3、P.35-38、2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記特許文献1,2及び非特許文献1においては、下水流入量の予測における説明変数として用いる降雨量データを、高い精度で得る手段が開示されていなかった。
【0012】
また、特許文献3においては、精度の高い降雨量データを得る手段として、メッシュ形状の降雨量データを用い、当該降雨量データのメッシュのうちの所定のメッシュ範囲の降雨量データを積算雨量とすることが開示されてはいるが、当該メッシュ範囲にポンプ場等への流入量に寄与しないメッシュ範囲が含まれていた場合、下水流入量の予測精度が下がる可能性があった。
【0013】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものでありその目的は、ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは下水処理場等における下水流入量の予測を精度よく行うことができる流入量予測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場における下水流入量を予測する流入量予測システムにおいて、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場の施設データを収集する施設データ収集部と、気象データを収集する気象データ収集部と、前記施設データ及び気象データを蓄積するデータ蓄積部と、前記データ蓄積部から受け取った前記施設データ及び気象データに基づいて、ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場への下水流入量を予測するモデルを学習して学習済みモデルを作成する学習処理部と、前記学習処理部で作成した学習済みモデルを記憶する学習済みモデル記憶部と、前記学習済みモデル及び前記施設データ及び前記気象データに基づいて未来の地点における下水流入量を予測する予測部と、前記予測部より下水流入量の予測値を受け取って、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場の運転状態を制御する制御部と、を有し、前記予測部において下水流入量の予測に用いられる気象データは、気象値、経度・緯度、時刻の情報を有するメッシュ単位の気象データであり、且つ前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場の処理区域の領域と重なり合ったメッシュ部分の気象データであることを特徴としている。
下水処理場には、ポンプ棟を有する下水処理場の他に、ポンプ棟を有さない下水処理場もあるが、本発明にはこのような下水処理場も含まれる。
制御部によるポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場(以下「ポンプ場等」ともいう)の運転状態の具体的な制御内容としては、例えば、前記ポンプ場等におけるゲート開度の調整や、ポンプの稼働台数の調整や、ポンプの回転数の調整などがある。
管路施設の流入量測定手段としては、流量計の他、管路内を流れる下水の水位で流量を把握することもできることから、水位計を用いても良い。
本発明によれば、メッシュ単位の気象データの内、ポンプ場等の処理区域の領域と重なり合ったメッシュ部分の気象データ、即ちポンプ場等に流入する下水流入量に対して影響度の高い気象データだけを下水流入量の予測に用いる入力値として使用するので、下水流入量予測の精度を向上することができる。
【0015】
また本発明は、上記特徴に加え、前記気象値は、降水量、天候、気温、風速、風向、気圧の内、降水量を含む1つ以上のデータであることを特徴としている。
下水流入量の予測に最も影響する気象値は降水量であるが、それ以外の気象値も下水流入量の予測に影響を与える可能性がある。このため、降水量以外の気象値を、処理区域の地形や気象特性に応じて加えることで、下水流入量予測の精度をより向上させることが可能となる。
【0016】
また本発明は、上記特徴に加え、前記処理区域の領域と重なり合ったメッシュ部分の気象データは、地理情報システムが有する地理情報上の前記処理区域の領域と重なり合う領域のメッシュ部分の気象データであることを特徴としている。
ネットワーク上の地理情報システムが有する地理情報を用いることで、気象データの内の処理区域に重なるメッシュ部分(領域)のみの抜き出しを容易且つ精度よく行うことができ、下水流入量の予測精度を向上させることができる。
【0017】
また本発明は、上記特徴に加え、前記学習処理部および前記予測部は、機械学習を用いたモデルにより学習し予測することを特徴としている。
【0018】
また本発明は、上記特徴に加え、前記機械学習の手法にRNNを用い、当該RNNのハイパーパラメータの一つであるタイムステップとして、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場における下水流入量のピーク時刻と、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場の処理区域に対する前記気象値である降水量のピーク時刻との差、および/または、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場における下水流入量の変動周期を用いることを特徴としている。
RNN(Recurrent Neural Network、再帰型ニューラルネットワーク)は、時間の経過とともに値が変化していくような時系列データの予測に用いて好適なディープラーニングの手法であり、本発明のように、時系列データである所定時間毎の気象データを用いた予測に適している。
本発明によれば、タイムステップとして、下水流入量のピーク時刻と、処理区域に対する降水量のピーク時刻との差、および/または下水流入量の変動周期を用いることで、降雨が下水流入量に寄与する時間を考慮した学習および予測値の算出が行えるため、計算コストあるいは学習の試行回数の低減、および下水流入量予測の精度の向上を図ることができる。
【0019】
また本発明は、上記特徴に加え、前記降水量は、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場の処理区域の領域と重なり合った部分の同時刻におけるメッシュ単位の各降水量データを合算した時刻毎の降水量であり、当該降水量のピーク時刻と、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場における下水流入量のピーク時刻との差、および/または、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場における下水流入量の変動周期を用いて前記タイムステップを決定することを特徴としている。
本発明によれば、処理区域の領域と重なり合った部分の同時刻におけるメッシュ単位の各降水量データを合算することで、時刻毎の降水量を正確に算出できる。これによって降水量の正確なピーク時刻を算出でき、下水流入量予測の精度の向上を図ることができる。
【0020】
また本発明は、上記特徴に加え、下水流入量を予測する対象が前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟の場合、前記下水流入量は、当該ポンプ場あるいはポンプ棟が有する1又は複数の水槽に保持している水量の単位時間当たりの変動量、および単位時間当たりのポンプ揚水量、および当該ポンプ場あるいはポンプ棟の上流側に接続されている施設外流入管内の下水貯留量の単位時間当たりの変動量、を合算して算出し、一方、下水流入量を予測する対象が前記下水処理場の場合、前記下水流入量は、当該下水処理場が有する1又は複数の水槽に保持している水量の単位時間当たりの変動量、および当該下水処理場の上流側に接続されている施設外流入管内の下水貯留量の単位時間当たりの変動量、を合算して算出することを特徴としている。
ここで下水流入量の変動に応じて水位が変動する水槽としては、ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟の場合は、流入渠や沈砂池やポンプ井などを構成する水槽が該当し、ポンプ棟を有さない下水処理場の場合は、最初沈殿池や反応槽や最終沈殿池などを構成する水槽が該当する。
本発明によれば、ポンプ場等に対する下水の流入量を測定する流量計が設置されていなくても、高い精度で下水流入量を算出することができる。
【0021】
また本発明は、上記特徴に加え、前記各水槽に保持している水量の単位時間当たりの変動量は、当該各水槽における横断面積に水位の単位時間当たりの変動を掛けることで算出することを特徴としている。
これによって、各水槽に保持している水量の単位時間当たりの変動量を、容易且つ正確に算出することができる。
【0022】
また本発明は、上記特徴に加え、前記施設外流入管内の貯留量の単位時間当たりの変動量は、当該施設外流入管が接続されている水槽の水位、および当該施設外流入管の勾配および管径を参照して算出することを特徴としている。
これによって、施設外流入管内の貯留量の単位時間当たりの変動量を、容易且つ正確に算出することができる。
【0023】
また本発明では、前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟以外にも、流量計や水位計などの流量測定手段を備えた管路施設の下水流入量も高い精度で予測することができる。
【0024】
また本発明は、上記特徴に加え、前記処理区域に、当該処理区域の上流側に位置する上流側処理区域の下水を集めて流入させる上流側ポンプ場あるいは当該処理区域の上流側に位置する上流側処理区域の流入量測定手段を有する管路施設が接続されており、前記流入量予測システムによって求めた、前記上流側ポンプ場における下水流入量の予測値を用いて、当該上流側ポンプ場の揚水量の予測値を算出、および/または前記流入量予測システムによって、前記上流側処理区域の流入量測定手段を有する管路施設における下水流入量の予測値を算出し、下流側にある前記ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場における前記予測部による下水流入量の予測に、前記学習済みモデル及び前記施設データ及び前記気象データの他に、前記上流側ポンプ場の揚水量の予測値および/または前記上流側処理区域の管路施設における下水流入量の予測値を用いることを特徴としている。
本発明によれば、上流側処理区域の下水を集めて上流側ポンプ場によって下流側の処理区域に流入させる場合には、上流側ポンプ場の揚水量の予測値を、また上流側処理区域の流入量測定手段を有する管路施設が設置されている場合には、当該上流側処理区域の管路施設における下水流入量の予測値を、下流側のポンプ場等への下水流入量の予測値算出用のデータとして用いることができるので、当該下流側のポンプ場等における下水流入量の予測を、簡便且つ高精度に行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ポンプ場あるいは下水処理場内のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場における下水流入量の予測を精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】ポンプ場10の一例を示す概略構成図である。
図2】流入量予測システム100の一例を示すシステム構成図である。
図3】下水の流入量予測方法の処理手順の概略を示す図である。
図4】気象データの算出手順を示す図である。
図5】ポンプ棟付き下水処理場200の一例を示す概略構成図である。
図6】ポンプ棟を有さない下水処理場300の一例を示す概略構成図である。
図7】下水処理場400の処理区域401の上流側に、上流側処理区域501の上流側ポンプ場500を接続した場合の概略平面図である。
図8】下水処理場400と上流側ポンプ場500の両者における下水の流入量予測方法の処理手順の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる流入量予測システム100によって制御されるポンプ場10の一例を示す概略構成図、図2は流入量予測システム100の一例を示すシステム構成図である。
【0028】
ポンプ場10は、家庭や工場などから排出された汚水を下水管路で集めて下水処理場まで送ったり、雨水を下水管路で集めて河川などに放流したりするために設置される。また合流式下水道の場合は、汚水と雨水を合流させた下水を下水処理場まで送るために設置される。
【0029】
ポンプ場10は、例えば図1に示すように、施設外流入管11から下水を流入させる水槽からなる流入渠13と、流入渠13から下水を導入してゴミや砂などの固形物を沈殿させる水槽からなる沈砂池15と、沈砂池15で固形物を取り除いた下水を導入してポンプPによって揚水しさらに下流側の配管(下水管)17Aに流すための水槽からなるポンプ井17と、ポンプ場10に流入する下水の流入量を予測してポンプ場10の運転状態を制御する流入量予測システム100とを有して構成されている。
【0030】
施設外流入管11の上流側には、このポンプ場10に下水を集める流域(処理区域)に張り巡らされた下水管路が接続され、当該処理区域の下水が施設外流入管11に集められる。集められる下水は上述のように、汚水だけの場合や、雨水だけの場合や、汚水と雨水を合流した場合がある。
【0031】
流入渠13と沈砂池15とポンプ井17には、それぞれ水位計19,21,23が設置され、各水槽の水位の変化を検出し、各検出値を流入量予測システム100に送信する。なお、沈砂池15には水位計21が設置されていないこともあるが、そのような場合は沈砂池15の水位をポンプ井17の水位と同一とみなして処理してもよい。
【0032】
流入渠13と沈砂池15の間には、ゲート25が設置されている。このゲート25は、流入量予測システム100からの制御信号によりその開度が制御される。
【0033】
ポンプPは、複数台並列に設置されている(図1では1台のみ示している)。各ポンプPは、流入量予測システム100からの制御信号によってポンプP毎に運転状態(運転/停止と、回転数)が制御される。ポンプ10は、ポンプ井17内の下水をポンプアップし、配管17Aによって次の段階に移送する。
【0034】
流入量予測システム100は、図2に示すように、施設データ収集部113と気象データ収集部115を有するデータ収集部110と、各種データを記憶する記憶部120と、学習済みモデルを作成する学習処理部150と、ポンプ場10への下水流入量を予測する予測部160と、前記下水流入量の予測値に基づいてポンプ場10の運転状態を制御する制御部170とを具備して構成されている。
【0035】
施設データ収集部113に収集される施設データPDは、施設であるポンプ場10の運転状態から得られるデータであり、前記各水位計19,21,23からの水位データや、下記する制御部170によって制御されるポンプPの運転状態(回転数や運転台数)から得られるポンプ揚水量データなどがある。なおポンプ揚水量は、ポンプPに別途流量計を設置するなどすることで求めても良い。
【0036】
気象データ収集部115に収集される気象データは、ネットワーク上で配信されている気象データを所定時間間隔毎に入力したデータである。入力する気象データは、例えば下記する図4(b)に示す気象データ185のように、ポンプ場10の処理区域を含む地域の同一時刻における降水量などの実測値データ(短時間予報データを含む。以下同様)であり、具体的には、気象庁提供の解析雨量および降水短時間予報データ(1kmメッシュ形状データ)を用いる。当該実測値データは上述のように、メッシュ単位の気象データとなっており、メッシュ単位、即ち地域を小さく複数に分割したエリア単位(1kmメッシュ形状単位)に、気象値、経度・緯度、時刻の情報を紐付けたデータである。前記気象値は、降水量、天候、気温、風速、風向、気圧の内、降水量を含む1つ以上のデータである。下水流入量の予測に最も影響する気象値は降水量であるが、それ以外の気象値も下水流入量の予測に影響を与える。このため、降水量以外の気象値を、処理区域の地形や気象特性に応じて入力値に加えることで、下水流入量予測の精度をより向上させることが可能となる。
【0037】
記憶部120は、データ蓄積部121と、学習済みモデル記憶部123と、地理情報記憶部125とを有する。
【0038】
データ蓄積部121は、前記施設データ収集部113及び気象データ収集部115によって収集された施設データ及び気象データを経時的に記憶・蓄積する。学習済みモデル記憶部123は、下記する学習処理部150によって作成された学習済みモデルを記憶する。この学習済みモデルは、この流入量予測システム100が実運転されて新たな各種データが更新されることで更新されていく。地理情報記憶部125は、ネットワーク上で配信されている地理情報システムGISから入力される処理区域に関する地理情報を記憶するものである。
【0039】
学習処理部150は、前記データ蓄積部121から受け取った施設データ及び気象データに基づいて、ポンプ場10への下水流入量を予測するモデルを学習して学習済みモデルを作成する手段である。学習処理部150は、機械学習の手法を用いてモデルを作成する手段であり、この例では、当該機械学習の手法としてRNN(Recurrent Neural Network、再帰型ニューラルネットワーク)を用いている(さらに具体的にはRNNの発展形であるLSTM(Long short-Term Memory)を用いている)。RNNは、時間の経過とともに値が変化していくような時系列データの予測に用いて好適なディープラーニングの手法であり、本流入量予測システム100のように、時系列データである所定時間毎の施設データと気象データを用いた予測に適している。
【0040】
即ち、RNNにおいては、中間層に、ある時刻の中間層からの出力を次の時刻の中間層に伝えるためのパスを持ち、それによって時刻tの中間層は、同じ時刻tの入力層からのインプットに加えて、前の時刻t-1の中間層からのインプットも受け付ける。これによって時刻間の影響を考慮したニューラルネットワークを作成することが可能となっている。
【0041】
また本実施形態では、RNN(LSTM)のハイパーパラメータの一つのタイムステップとして、下水流入量のピーク時刻と、処理区域に対する降水量のピーク時刻との差、および/または、下水処理場における下水流入量の変動周期(この例では24時間程度であった)を用いている。下水処理場における下水流入量には、個々の下水処理場に特有の周期性(特に市街地の下水処理場で顕著)があるため、特に、変動周期を用いることによって、下水流入量の変動の周期性を考慮した学習および予測値の算出が行えるため、計算コストあるいは学習の試行回数の低減、および下水流入量予測の精度の向上を図ることができる。
【0042】
学習処理部150によって生成された学習済みモデルは、前記学習済みモデル記憶部123に記憶され、一定期間ごとに更新されていく。
【0043】
予測部160は、前記学習済みモデル記憶部123に記憶した学習済みモデル及び前記データ蓄積部121に記憶した施設データ及び気象データに基づいて未来の地点における下水流入量を予測する。ポンプ場10への流入量の実測値に対する予想値の精度は、相関係数が0.953、二乗平均平方根誤差(RMSE)が216であった。
【0044】
制御部170は、前記予測部160より下水流入量の予測値を受け取って、前記ポンプ場10におけるゲート25の開度調整や、ポンプPの稼働台数の調整や、稼働するポンプPの回転数の調整、即ちポンプ場10の運転状態を制御する。
【0045】
図3は、上記ポンプ場10において、流入量予測システム100の学習済みモデルを構築し、この学習済みモデルを用いてこのポンプ場10に流入してくる下水の流入量を予測し、当該予測に基づいてポンプ場10の運転状態を制御する一処理手順の概略を示す図である。この処理手順は、まず施設データなどの実測値を用いて下水流入量の予測を行う学習済みモデルを構築し、引き続き流入量予測システム100の実運転時は新たな実測値などを用いて前記学習済みモデルを再構築しながらポンプ場10の運転状態を制御していくものである。なお処理の順序は、この処理手順に限定されず、各種変更が可能である。
【0046】
同図に示すように、流入量予測システム100は、施設データ収集部113が、施設データPDとして、ポンプ場10の流入渠13と沈砂池15とポンプ井17の各水位データと、ポンプPのポンプ揚水量データとを収集する(ステップ1)。
【0047】
一方、気象データ収集部115が、気象データ185を収集する(ステップ2)。
【0048】
次に、予測部160において、前記収集した施設データPDを用いて、ポンプ場10への下水の過去および現在の流入量を算出する(ステップ3)。即ち、ポンプ場10の下水流入量の変動に応じて変動する各水槽、即ち流入渠13と沈砂池15とポンプ井17が保持している水量の単位時間当たりの変動量と、ポンプPの単位時間当たりのポンプ揚水量と、ポンプ場10の上流側に接続されている施設外流入管11内の貯留量の単位時間当たりの変動量と、を合算して下水流入量を算出する。
【0049】
各水槽13,15,17に保持している水量の単位時間当たりの変動量の算出は、具体的には、各水槽13,15,17における横断面積に水位の単位時間当たりの変動を掛けることで容易且つ正確に行うことができる。また施設外流入管11内の貯留量の単位時間当たりの変動量の算出は、当該施設外流入管11が接続されている水槽である流入渠13の水面および当該施設外流入管11に貯留されている下水の水面における動水勾配が一定であると仮定し、流入渠13の水位および当該施設外流入管11の勾配および管径を参照して算出することで容易且つ正確に行うことができる。このように水位の変動量から下水流入量を算出することとすれば、ポンプ場10に対する下水の流入量を測定する流量計が設置されていなくても、高い精度で下水流入量を算出することができる。
【0050】
次に、予測部160において、前記予め記憶しておいた地理情報を用いて、ポンプ場10へ下水が流入してくる処理区域の気象データを算出する(ステップ4)。気象データを算出する手順を、図4を用いて説明する。
【0051】
まず図4(a)に示す地理情報181と、図4(b)に示す気象データ185を読み出す。地理情報181には、ポンプ場10に流れ込んでくる下水管を敷設した処理区域183が記憶されている。処理区域183は、気象データ185のメッシュの大きさ(面積)と合致させた大きさ(面積)に合わせたメッシュ状の処理区域183としているが、本発明はこれに限られない。そして、図4(c)に示すように前記地理情報181と気象データ185を重ね合わせ、図4(d)に示すように処理区域183の部分のみの気象データ185Aを抜き出す。本データの抜き出しの加工には、例えばコンピュータ上で地理情報(マップデータ)181を可視化して他の情報である気象データ185と掛け合わせたデータの統合分析ができる地理情報システムGISにおけるクリップ機能を用いる。
【0052】
このように、メッシュ単位の気象データ185の内、ポンプ場10の処理区域183の領域と重なり合ったメッシュ部分の同時刻の気象データ185A、即ちポンプ場10に流入する下水流入量に対して影響のある気象データ185Aだけのメッシュ毎の降水量を下水流入量の予測に用いる入力値として使用する。また地理情報システムGISを用いることで、気象データ185の内の処理区域183に重なる気象データ185Aのみの抜き出しを容易且つ精度よく行うことができ、これらの点からメッシュ毎、時刻毎の降水量等の気象データを正確に算出でき、またメッシュ毎の降水量を合算した降水量の正確なピーク時刻を算出でき、下水流入量の予測精度を向上することができる。
【0053】
ステップ1からステップ4で得られた施設データ、気象データ、下水流入量を用いて、下水流入量を予測する学習済みモデルを構築するように学習処理部150に学習を行わせる(ステップ5)。
【0054】
予測部160は、前記構築した学習済みモデルに、説明変数として、前記算出したポンプ場10への現在の下水流入量と、前記算出した処理区域183内の現在の気象データ185Aを用いることで、未来の地点(例えば1時間後)においてポンプ場10に流入してくるであろう下水流入量を目的変数として予測する(ステップ6)。
【0055】
そしてステップ7に移行し、前記予測値に基づいて、現在のゲート25の開度や、ポンプPの稼働台数や、稼働している各ポンプPの回転数などを制御する(ステップ7)。制御の内容は、例えば、ポンプ場10に流入してくる下水流入量が増加するとの予測値から、予め一時的にポンプPの稼働台数を増加したり、ポンプ回転数を高めたりしてポンプ場10の流下量を増加して処理区域内の下水管路あるいはポンプ場10における下水保持量を予め減少させたりする。また図示はしないが、処理区域内の下水管路の何れかの場所に設置した別のゲートの開閉状態を制御したりしても良い。
【0056】
次に、所定時間(上記動作フローを行う間隔)が経過したら(ステップ8の「Y」)、ステップ1に戻って、上記と同様に、各種実測値を収集・算出して学習済みモデルの再構築を行って予測した下水流入量に基づくゲートやポンプの制御を行い、これを繰り返す過程で学習済みモデルの予測精度を高める。このとき、ステップ5においては、実測値のみではなく予測値も併せて用いることで学習済みモデルを再構築しても良いが、必ずしも予測値を用いないで学習済みモデルを再構築しても良い。
【0057】
ステップ8における所定時間は、上記下水流入量の予測に用いる施設データPDや気象データ185の取得間隔であり、例えば1時間間隔、より好ましくは30分間隔とするのが予測精度を向上させる上で好ましい。一方、取得間隔を例えば30分以下に短くすると、機械学習における学習あるいは予測値の出力にかかる計算コストあるいはメモリ使用量が多くなり、予測値の出力値のラグ発生などによる実運用上で支障をきたす可能性がある。一方、取得間隔を3時間以上に長くすると、予測精度が低くなる上、長すぎることによって予測値を算出することの意義が失われる。これらのことから、取得間隔は、30分~3時間が好ましく、さらには30分~1時間が好ましい。
【0058】
以上説明したように、上記流入量予測システム100を用いれば、メッシュ単位の気象データ185の内、ポンプ場10の処理区域183の領域と重なり合ったメッシュ部分の気象データ185A、即ちポンプ場10に流入する下水流入量に対して影響度の高い気象データ185Aだけを下水流入量の予測に用いる入力値として使用するので、下水流入量予測の精度を向上することができる。
【0059】
なお上記ポンプ場10は、流入渠13と沈砂池15とポンプ井17によって構成されているが、流入渠13や沈砂池15は場合によっては省略しても良い。また逆に、上記各水槽以外の水槽を設置しても良い(下記するポンプ棟10-2の場合も同様)。何れの場合も、下水流入量の変動に応じて変動する各水槽に保持している水量の単位時間当たりの変動量、および単位時間当たりのポンプ揚水量、およびポンプ場10の上流側に接続されている施設外流入管11内の貯留量の単位時間当たりの変動量を合算して下水流入量を算出する。
【0060】
また上記処理手順では、地理情報システムGISと気象データ185をそれぞれ別々に流入量予測システム100に入力して両方のデータを重ね合わせて処理領域における気象データを算出する場合について説明したが、地理情報システムGIS側において予め気象データ185を取り込んで重ね合わせるように加工した地理情報を流入量予測システム100に入力し、次に処理領域における気象データを算出するようにしても良い。
【0061】
図5は流入量予測システム100によって制御される他の実施形態にかかるポンプ棟付き下水処理場200の一例を示す概略構成図である。
【0062】
ポンプ棟付き下水処理場200はその上流側から、ポンプ棟10-2、最初沈殿池201、反応槽211、最終沈殿池221、消毒設備231を、それぞれ配管17A,201A、211A,221Aによって接続して構成されている。各水槽間は、配管を用いず、直接接合するように接続しても良い。
【0063】
ポンプ棟10-2は、前記図1に示すポンプ場10と同一構成なので、前記図1に示すポンプ場10と同一又は相当部分に同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0064】
このポンプ棟10-2において、上記ポンプ場10と相違する点は、流量予測システム100によって制御する設備を、ポンプ棟10-2に設置したゲート25とポンプPの他に、このポンプ棟付き下水処理場200で処理が終了した下水を河川などに放流する位置に設置したゲート241を加えた点である。
【0065】
この流入量予測システム100においても、図3に示すように、施設データPDとして、ポンプ棟10-2の流入渠13と沈砂池15とポンプ井17の各水位データと、ポンプPのポンプ揚水量データとを収集し(ステップ1)、同時に気象データ185を収集する(ステップ2)。
【0066】
次に、ポンプ棟10-2への下水の現在の流入量を上述した方法と同一の方法を用いて算出し(ステップ3)、次に、上述した方法と同一の方法を用いて、ポンプ棟10-2へ下水が流入してくる処理区域183の気象データ185Aを算出する(ステップ4)。
【0067】
次に、ステップ1からステップ4で得られた施設データ、気象データ、下水流入量を用いて、下水流入量を予測する学習済みモデルを構築する(ステップ5)。そして構築した学習済みモデルを用いて下水流入量の予測を行い(ステップ6)、前記予測値に基づいて、ゲート25の開閉状態とポンプPの運転状態の他、ゲート241の開閉状態も制御し(ステップ7)、所定時間間隔で上記データの取得、学習済みモデルの再学習、予測を繰り返し行っていく(ステップ8の「Y」)。制御の内容は、例えば、ポンプ棟10-2に流入してくる下水流入量が増加するとの予測値から、予めポンプPの運転台数や回転数を増加すると同時に、ゲート25,241の開度を大きくし、予めポンプ棟10-2内の各水槽(流入渠13と沈砂池15とポンプ井17)や最初沈殿池201や反応槽211や最終沈殿池221や消毒設備231の水位を下げておいたりする。これによって、このポンプ棟付き下水処理場200を、予め予測した下水流入量に対応して運転制御することができる。
【0068】
なお上記ポンプ棟付き下水処理場200を構成する各水槽は場合によっては省略しても良い。また逆に、上記各水槽以外の水槽を設置しても良い。
【0069】
図6は流入量予測システム100によって制御されるさらに他の実施形態にかかるポンプ棟を有さない下水処理場300の一例を示す概略構成図である。
【0070】
この下水処理場300はその上流側から、最初沈殿池301、反応槽311、最終沈殿池321、消毒設備331を、それぞれ配管301A、311A,321Aによって接続して構成されている。各水槽間は、配管を用いず、直接接合するように接続しても良い。
【0071】
この下水処理場300は、ポンプ棟を有していないので、最初沈殿池301、反応槽311、最終沈殿池321、消毒設備331のそれぞれに水位計303,313,323,333を設置し、これらの水位計303,313,323,333によって各水槽の水位の変化を検出して各検出値を流入量予測システム100に送信し、この下水処理場300への下水流入量を算出する構成となっている。
【0072】
またこの下水処理場300の最初沈殿池301には施設外流入管351が接続されている。施設外流入管351の上流側には、この下水処理場300に下水を集める流域(処理区域)に張り巡らされた下水管路が接続され、当該処理区域の下水が集められる。集められる下水は上述のように、汚水だけの場合や、雨水だけの場合や、汚水と雨水を合流した場合がある。
【0073】
最初沈殿池301の施設外流入管351を接続した部分にはゲート371が設置され、またこの下水処理場300で処理が終了した下水を河川などに放流する位置にゲート391が設置されている。各ゲート371,391は、流入量予測システム100によってそれらの開度が制御される。
【0074】
この流入量予測システム100においては、まず図3に示すように、施設データPDとして、下水処理場300の最初沈殿池301と反応槽311と最終沈殿池321と消毒設備331の各水位データを収集し(ステップ1)、同時に気象データ185を収集する(ステップ2)。
【0075】
次に、下水処理場300への下水の現在の流入量を、前記収集した施設データPDを用いて算出する(ステップ3)。具体的に言えば、下水処理場300の下水流入量の変動に応じて変動する各水槽、即ち最初沈殿池301と反応槽311と最終沈殿池321と消毒設備331に保持している水量の単位時間当たりの変動量と、下水処理場300の上流側に接続されている施設外流入管351内の貯留量の単位時間当たりの変動量と、場合によっては更に当該各水槽間を接続する配管301A、311A,321Aに保持している水量の単位時間当たりの変動量とを合算して下水流入量を算出する。
【0076】
各水槽301,311,321,331に保持している水量の単位時間当たりの変動量の算出は、具体的には、当該各水槽301,311,321,331における横断面積に水位の単位時間当たりの変動を掛けることで容易且つ正確に行うことができる。また施設外流入管351内の貯留量の単位時間当たりの変動量は、当該施設外流入管351が接続されている水槽301の水位、および当該施設外流入管351の勾配および管径を参照して算出することで容易且つ正確に求めることができる。
【0077】
次に、上述した方法と同一の方法を用いて、下水処理場300へ下水が流入してくる処理区域183の気象データ185Aを算出する(ステップ4)。次に、ステップ1からステップ4で得られた施設データ、気象データ、下水流入量を用いて、下水流入量を予測する学習済みモデルを構築する(ステップ5)。
【0078】
そして構築した学習済みモデルを用いて下水流入量の予測を行い(ステップ6)、前記予測値に基づいて、ゲート371とゲート391の開閉状態を制御し(ステップ7)、所定時間間隔で上記データの取得、学習済みモデルの再学習、予測を繰り返し行っていく(ステップ8の「Y」)。制御の内容は、例えば、下水処理場300に流入してくる下水流入量が増加するとの予測値から、予めゲート371,391の開度を大きくし、予め下水処理場300内の各水槽の水位を下げておいたりする。これによって、この下水処理場300を、予め予測した下水流入量に対応して運転制御することができる。
【0079】
なお上記下水処理場300は、最初沈殿池301、反応槽311、最終沈殿池321、消毒設備331によって構成されているが、これら水槽の内、何れかの水槽を省略してもよいし、逆に、上記各水槽以外の水槽を設置しても良い。
【0080】
図7は、下水処理場400の処理区域401中の下水管路の1つに、上流側処理区域501の下水を集める上流側ポンプ場500を接続した場合の概略平面図である。
【0081】
上流側ポンプ場500は中継ポンプ場であり、前記図1に示すポンプ場10と同様の構成を有している。下水処理場400は前記図5に示すポンプ棟付き下水処理場200または図6に示す下水処理場300と同様の構成を有している。また同図中のr1は上流側処理区域501に対する降雨のイメージを示し、r2は処理区域401に対する降雨のイメージを示している。このように下水処理場400の上流部にポンプ場500が位置するので、下水処理場400への下水流入量はポンプ場500における下水の揚水量の影響を受ける。
【0082】
なお上流側ポンプ場500がその代わりに前記図5に示すポンプ棟付き下水処理場200または図6に示す下水処理場300と同様の構成を有していてもよいし、下水処理場400がその代わりに前記図1に示すポンプ場10と同様の構成を有していてもよい。また上流側ポンプ場500がその代わりに流入量測定手段を有する管路施設であってもよい。
【0083】
図8は、上記下水処理場400と上流側ポンプ場500の両者において、流入量予測システム100の学習済みモデルを構築し、これらの学習済みモデルを用いて下水処理場400と上流側ポンプ場500に流入してくる下水の流入量を予測し、当該予測に基づいて下水処理場400と上流側ポンプ場500の運転状態を制御する一処理手順の概略を示す図である。なお動作の順序は、この処理手順に限定されず、各種変更が可能である。この例では、下水処理場400と上流側ポンプ場500の動作制御を同一の流入量予測システム100によって同時に行うこととするが、それぞれ別々の流入量予測システム100を設置して同時に別々に制御させても良い。この例で用いる流入量予測システム100も上記図2に示す流入量予測システム100と同様の構成である。
【0084】
図8において、流入量予測システム100は、まず上流側ポンプ場500と下水処理場400のそれぞれにおいて施設データPDと気象データ185を収集する(ステップ1,1A、2,2A)。
【0085】
次に上記それぞれの施設データPDと気象データ185からそれぞれにおいて下水流入量と処理区域401,501における気象データ185Aを算出する(ステップ3,3A、4,4A)。次に、ステップ1,1Aからステップ4,4Aで得られた施設データ、気象データ、下水流入量を用いて、下水流入量を予測する学習済みモデルを構築する(ステップ5,5A)。なお、下水処理場400に用いる学習済みモデルの構築には、上流側ポンプ場500におけるポンプの揚水量の実測値をさらに用いることが好ましい。
【0086】
次に、上流側ポンプ場500においては、構築した学習済みモデルを用いて下水流入量の予測を行い(ステップ6A)、さらに当該下水流入量の予測値を用いて当該上流側ポンプ場500のポンプによる揚水量の予測値を算出する(ステップ6B)。この上流側ポンプ場500の揚水量の予測値を算出するステップ6Bを、上流側揚水量予測手段という。
【0087】
一方、下水処理場400においては、構築した学習済みモデルを用いて下水流入量の予測を行うが(ステップ6)、その際、前記算出した下水処理場400への現在の下水流入量と、前記算出した処理区域401内の現在の気象データ185Aに加え、ステップ6Bにおいて求めた上流側ポンプ場500の揚水量の予測値(さらには上流側ポンプ場500の現在の揚水量)を、当該下水処理場400用の学習済みモデルに入力することで、未来の地点において下水処理場400に流入してくる下水流入量の予測を行う(ステップ6)。
【0088】
このように構成すれば、上流側処理区域501の下水を集めて下流側の処理区域401に流入させる上流側ポンプ場500がある場合でも、上流側ポンプ場500の揚水量の予測値を算出して下水処理場400用の学習済みモデルに入力することで、下流側に位置する下水処理場400における下水流入量の予測を、高精度且つ簡便に行うことが可能になる。即ち、上流側ポンプ場500の揚水量の予測値を下水処理場400用の学習済みモデルに入力することで、現在の上流側ポンプ場500の揚水量から未来の揚水量までのデータを下水処理場400における下水流入量の予測用のデータとして活用できるので、より高精度な予測を行うことができる。
【0089】
そして上記それぞれの予測値に基づいて、上流側ポンプ場500と下水処理場400それぞれのゲートやポンプを制御し(ステップ7,7A)、所定時間間隔で上記学習済みモデルの再学習および予測を繰り返し行っていく(ステップ8,8Aの「Y」)。
【0090】
なお図7に示す実施例は、下水処理場400の処理区域401中の下水管路に、上流側処理区域501の下水を集める上流側ポンプ場500を接続した場合を示したが、さらに上流側ポンプ場500の処理区域501中の下水管路に、そのさらに上流側の上流側処理区域の下水を集める上流側ポンプ場を接続する、または流入量測定手段を有する管路施設を接続するなど、3段階以上の多段階の処理区域が接続されている場合にも本発明を同様に適用できる。
【0091】
本発明により下水処理場400への流入量を予測するにあたって、上流側ポンプ場500の揚水量の予測値を説明変数として利用しなかった場合、1時間後の流入量の予測値の実測値に対する精度は、相関係数が0.914、二乗平均平方根誤差(RMSE)が687であった。また、10時間後の流入量の予測値の実測値に対する精度は、相関係数が0.719、二乗平均平方根誤差(RMSE)が1186であった。一方、上流側ポンプ場500に代わり、流入量測定手段を有する管路施設の流入量および、その予測値を説明変数として利用した場合、1時間後の流入量の予測値の実測値に対する精度は、相関係数が0.934、二乗平均平方根誤差(RMSE)が615であった。また、10時間後の流入量の予測値の実測値に対する精度は、相関係数が0.798、二乗平均平方根誤差(RMSE)が1051であった。このように、上流側ポンプ場500の揚水量あるいは流入量測定手段を有する管路施設の流入量の予測値を、下水処理場400用の学習済みモデルに入力することで、下水処理場400への流入量予測の精度の向上を図ることができる。
【0092】
以上のように、本発明では、メッシュ単位の気象データを用いて下水流入量を予測する学習済みモデルを構築するのであるが、各メッシュにおける気象データの下水流入量に対する影響度を算出することができる。気象データが降水量を含むデータで、予測の対象が分流式下水道である場合には、当該影響度の高い箇所を不明水の発生の確率および影響の高い箇所として同定することも可能である。そして、ポンプ場あるいは下水処理場のポンプ棟あるいは流入量測定手段を有する管路施設あるいは下水処理場の処理区域の領域と重なり合った各メッシュ部分の気象データを用いることで、より正確な上記同定が可能となる。
【0093】
また本発明では、一定期間ごと、例えば半年~5年ごと、好ましくは半年~2年ごとに学習済みモデルを構築しなおしても良い。一定期間ごとに構築した学習済みモデルを用いて各メッシュに対する降水量の下水流入量に対する影響度および各期間における影響度の変化を算出することで、当該影響度の変化が大きい箇所では当該期間中に該当メッシュにおける管路の老朽化が進行したとして、警告を発したり、当該管路の修繕を優先的に行ったり等の対策を行うことが可能となる。即ち、期間を半年以上とすることで情報の確度を向上することができ、期間を5年以下とすることでタイムリーに修繕対応が可能になる。
【0094】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載がない何れの構成であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。また、上記記載及び各図で示した実施形態は、その目的及び構成等に矛盾がない限り、互いの記載内容を組み合わせることが可能である。また、上記記載及び各図の記載内容は、その一部であっても、それぞれ独立した実施形態になり得るものであり、本発明の実施形態は上記記載及び各図を組み合わせた一つの実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0095】
10…ポンプ場、11…施設外流入管、13…流入渠(水槽)、15…沈砂池(水槽)、17…ポンプ井(水槽)、19,21,23…水位計、25…ゲート、P…ポンプ、100…流入量予測システム、110…データ収集部、113…施設データ収集部、115…気象データ収集部、120…記憶部、121…データ蓄積部、123…学習済みモデル記憶部、125…地理情報記憶部、150…学習処理部、160…予測部、170…制御部、PD…施設データ、GIS…地理情報システム、181…地理情報、183…処理区域、185,185A…気象データ、200…ポンプ棟付き下水処理場、10-2…ポンプ棟、201…最初沈殿池(水槽)、211…反応槽(水槽)、221…最終沈殿池(水槽)、231…消毒設備(水槽)、241…ゲート、300…ポンプ棟を有さない下水処理場、301…最初沈殿池(水槽)、311…反応槽(水槽)、321…最終沈殿池(水槽)、331…消毒設備(水槽)、303,313,323,333…水位計、351…施設外流入管、371,391…ゲート、400…下水処理場、401…処理区域、500…上流側ポンプ場、501…上流側処理区域。
図1
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図8