(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169113
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】ローエッジコグドVベルトおよびその使用方法ならびにベルト伝動機構
(51)【国際特許分類】
F16G 5/20 20060101AFI20231121BHJP
F16G 5/00 20060101ALI20231121BHJP
F16H 9/12 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
F16G5/20 B
F16G5/00 D
F16H9/12 B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073007
(22)【出願日】2023-04-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2022080410
(32)【優先日】2022-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】高野 啓二
【テーマコード(参考)】
3J050
【Fターム(参考)】
3J050AA04
3J050BA04
(57)【要約】
【課題】ベルトクラッチイン型無段変速機のブレーキシステムとして適用可能なローエッジコグドVベルトを提供する。
【解決手段】少なくとも内周面側にコグを有するローエッジコグドVベルト1において、内周面側に、圧縮ゴム層4の本体4aと、前記圧縮ゴム層の本体4aの内周側表面を被覆する内表面層4bとを有する圧縮ゴム層を配設する。前記内表面層表面4bの摩擦係数は、前記内表面層で被覆されていない圧縮ゴム層4aの本体表面の摩擦係数よりも高い。前記内表面層4b表面の摩擦係数は0.4~0.7であってもよい。前記内表面層4bの平均厚みは0.3~2mmであってもよい。前記内表面層4bのゴム硬度Hs(タイプA)が80°未満であり、かつ前記圧縮ゴム層4の本体4aのゴム硬度Hs(タイプA)が89°以上であってもよい。前記ローエッジコグドVベルト1は、ベルトクラッチイン型無段変速機に用いられる変速ベルトであってもよい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内周面側にコグを有するローエッジコグドVベルトであって、
内周面側に配設される圧縮ゴム層を含み、
前記圧縮ゴム層が、圧縮ゴム層の本体と、前記圧縮ゴム層の本体の内周側表面を被覆する内表面層とを有し、
前記内表面層表面の摩擦係数が、前記内表面層で被覆されていない圧縮ゴム層の本体表面の摩擦係数よりも高いローエッジコグドVベルト。
【請求項2】
前記内表面層表面の摩擦係数が0.4~0.7である請求項1記載のローエッジコグドVベルト。
【請求項3】
前記内表面層の平均厚みが0.3~2mmである請求項1または2記載のローエッジコグドVベルト。
【請求項4】
前記内表面層のゴム硬度Hs(タイプA)が82°以下であり、かつ前記圧縮ゴム層の本体のゴム硬度Hs(タイプA)が89°以上である請求項1~3のいずれか一項に記載のローエッジコグドVベルト。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のローエッジコグドVベルトと、プーリとを備えたベルト伝動機構であって、前記ローエッジコグドVベルトが、ベルトクラッチイン型無段変速機に用いられる変速ベルトであるベルト伝動機構。
【請求項6】
前記ベルトクラッチイン型無段変速機が、アイドリング時にベルト内周面がプーリシャフト部に接触する無段変速機である請求項5記載のベルト伝動機構。
【請求項7】
前記ベルトクラッチイン型無段変速機が、ベルト内周面とプーリシャフト部との摩擦力を利用したブレーキシステムを搭載した無段変速機である請求項5または6記載のベルト伝動機構。
【請求項8】
ベルトクラッチイン型無段変速機において、無段階変速、クラッチ、ブレーキのいずれにも関与させる請求項1~4のいずれか一項に記載のローエッジコグドVベルトの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機に用いるローエッジコグドVベルトおよびその使用方法ならびにベルト伝動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦伝動により動力を伝達するVベルトには、摩擦伝動面(V字状側面)が露出したゴム層であるローエッジ(Raw-Edge)タイプ(ローエッジVベルト)と、摩擦伝動面がカバー布で覆われたラップド(Wrapped)タイプ(ラップドVベルト)とがあり、摩擦伝動面の表面性状(ゴム層とカバー布との摩擦係数)の違いから用途に応じて使い分けられている。また、ローエッジタイプのVベルトには、コグを設けないローエッジVベルトの他、ベルトの下面(内周面)のみにコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルトや、ベルトの下面(内周面)および上面(外周面)の両方にコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルト(ローエッジダブルコグドVベルト)がある。
【0003】
ローエッジVベルトやローエッジコグドVベルトは、主として、一般産業機械、農業機械の駆動、自動車エンジンでの補機駆動などに用いられる。また、他の用途として自動二輪車(スクーター)、スノーモービル(小型雪上車)、四輪バギー(ATV)などのベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)に用いられる変速ベルトと呼ばれるローエッジコグドVベルトがある。
【0004】
図1に示すように、ベルト式CVT20は、駆動プーリ21と従動プーリ22にVベルト23を巻き掛けて、変速比を無段階で変化させる機構である。各プーリ21,22は、軸方向への移動が規制または固定された固定シーブ21a,22aと、軸方向に移動可能な可動シーブ21b,22bとを備えており、固定シーブ21a,22aの内周壁と可動シーブ21b,22bの内周壁とでV溝状の傾斜対向面を形成している。各プーリ21,22は、これらの固定シーブ21a,22aと可動シーブ21b,22bとで形成されるプーリ21,22のV溝の幅を連続的に変更できる構造を有している。前記Vベルト23の幅方向の両端面は、各プーリ21,22のV溝状の傾斜対向面に対応して傾斜が合致するテーパ面で形成され、変更されたV溝の幅に応じて、V溝の対向面における任意の上下方向の位置に嵌まり込む。例えば、駆動プーリ21のV溝の幅を狭く、従動プーリ22のV溝の幅を広くすることにより、
図1の(a)に示す状態から
図1の(b)に示す状態に変更すると、Vベルト23は、駆動プーリ21側ではV溝の上方へ、従動プーリ22側ではV溝の下方へ移動し、各プーリ21,22への巻き掛け径が連続的に変化して、変速比を無段階で変化できる。
【0005】
例えば、自動二輪車のCVTは、エンジンのクランク軸周りに固着される駆動プーリと、後輪の駆動軸にギヤ等を介して連結される従動プーリと、駆動プーリおよび従動プーリに巻き掛けられるVベルトとを備える。
【0006】
低速時には、駆動プーリの可動シーブが固定シーブから離れ、駆動プーリの巻き掛け径が小さくなるとともに、従動プーリの可動シーブが固定シーブに近寄り、従動プーリの巻き掛け径が大きくなる。そのため、後輪は大きいトルクでかつ低速で駆動される。一方、高速時には、駆動プーリの可動シーブが固定シーブに近寄り、駆動プーリの巻き掛け径が大きくなるとともに、従動プーリの可動シーブが固定シーブから離れ、従動プーリの巻き掛け径が小さくなる。そのため、後輪は小さいトルクでかつ高速で駆動される。
【0007】
一方で、自動二輪車と、スノーモービルや四輪バギーとでは、アイドリング時のクラッチ機構(動力の伝達を一次的に中断する機構)に違いがある。
【0008】
すなわち、自動二輪車では、後輪と従動プーリとの間には自動遠心クラッチが設けられる。このクラッチにより、従動プーリから後輪へのトルク伝達はアイドリング時に遮断される。そのため、アイドリング時に従動プーリが回転しても後輪は回転しない。
【0009】
一方、スノーモービルや四輪バギーのCVTの場合、自動遠心クラッチを備えない代わりに、アイドリング時には、Vベルトの側面が可動または固定シーブから完全に離れるまで可動シーブを移動させることにより、駆動プーリからVベルトへのトルク伝達を遮断している。すなわち、アイドリング時にVベルトがプーリの溝底(シャフト部)に落としこまれること、すなわちVベルトの下面(内周面)がシャフト部に接触することで動力の伝達を一次的に中断するベルトクラッチとして作用する(駆動プーリのシャフト部がアイドラープーリとして作用する)。このような変速機はベルトクラッチイン型CVTと呼ばれる。
【0010】
図2に、ベルトクラッチイン型CVTのアイドリング時の状態を概略図として示す。
図2に示されるように、このベルトクラッチイン型CVT30では、Vベルト33は、駆動プーリ31において、可動シーブ31bおよび固定シーブ31aのいずれのシーブとも接触せずに、駆動プーリ31のプーリシャフト部31cと接触している。すなわち、自動二輪車のCVTにおける自動遠心クラッチ方式では、アイドリング時においてもVベルトは、
図1のように、プーリのシーブと接触しているのに対して、スノーモービルや四輪バギーのCVTにおけるベルトクラッチ型CVTでは、Vベルトの内周面は、駆動プーリのプーリシャフト部(表面が平滑な外周面を有する一般的なプーリシャフト部)の外周面と接触している。
【0011】
ベルトクラッチイン型CVT、すなわち、エンジンアイドリング時などにベルト底面(内周面)がプーリシャフトと接触する用途に特化した変速ベルトとして、以下のベルトが知られている。
【0012】
特開2004-188776号公報(特許文献1)には、2輪車、バギー、スノーモービル等の変速機に用いられる変速ベルトとして、底面にゴム層を介して帆布を付着することにより、底面がゴムになることを防ぐことで、底面ゴムが軸に粘着するのを防止できるVベルトの製造方法が開示されている。
【0013】
特開2006-2836号公報(特許文献2)には、シーブ軸に接触しながら滑るベルト底面が、糊ゴムが塗布されていない帆布面で構成されることにより、底面の摩擦係数が0.1以下であり、かつゴム落ち(ゴム粉の落下)がないことで、落下したゴムがシーブ軸周辺の隙間に侵入して不具合を起こすおそれがないローエッジベルトが開示されている。
【0014】
特開2006-226420号公報(特許文献3)には、帆布をプーリ凹部と当接する圧縮ゴム層の表面に露出させ、前記帆布において、プーリ凹部との当接部でゴムを付着させてないことにより、プーリ凹部と当接するベルト表面に付着するゴムをなくし、摩擦係数を低くするとともに、発音を防止できる動力伝達用ベルトが開示されている。
【0015】
特開2007-144714号公報(特許文献4)には、ベルト底面を、ベルト本体側のみコーチング処理した帆布で被覆することにより、ゴムが帆布表面に滲み出すことを防止し、異音や駆動力の発生を抑制したVベルトが開示されている。
【0016】
特開2009-51204号公報(特許文献5)には、モールドに帆布を巻き付けて仮固定する工程において、ベルト周長方向の糸として伸縮性を有する糸を用いた筒状帆布を用いることにより、帆布にゴムを付着させないで製造でき、ベルトクラッチイン型CVTでベルトを落とし込んでもゴム屑の飛散を抑制できるコグドVベルトが開示されている。
【0017】
特開2009-156289号公報(特許文献6)には、下帆布にテフロン(登録商標)を塗布し、下帆布を底ゴムに接着させるためのゴムを表面に浸透させないことにより、クランク軸との摩擦係数を低減させ、アイドリング時にクランク軸からVベルトに伝達されるトルクを低減できるVベルトが開示されている。
【0018】
一方で、自動遠心クラッチ方式に比べ、ベルトクラッチイン方式ではエンジンブレーキ性能が低いため、アイドリング時にアイドラープーリと変速ベルトの内周面とが接触することを利用し、その摩擦力で従動プーリ(後輪)を制動させるエンジンブレーキシステム(EBS:Engine Braking System)として作用させる機構が検討されている。
【0019】
WO2011/046740(特許文献7)およびWO2019/209739(特許文献8)には、Vベルトの内周面に設けた凹凸(コグ)に相応する凹凸を設けたアイドラープーリ(シャフト部)と噛み合わせる方式でブレーキ機能を付加した無段変速エンジンブレーキシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2004-188776号公報
【特許文献2】特開2006-2836号公報
【特許文献3】特開2006-226420号公報
【特許文献4】特開2007-144714号公報
【特許文献5】特開2009-51204号公報
【特許文献6】特開2009-156289号公報
【特許文献7】WO2011/046740
【特許文献8】WO2019/209739
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
特許文献1~6のVベルトでは、ベルト底面がプーリシャフトと擦れることによる不具合(異音や駆動力の発生、ゴムの飛散など)を防止するために、ベルト底面を滑りやすくする(摩擦係数を低くする)ことを目的としており、ベルトクラッチイン方式におけるエンジンブレーキ性能(制動機能)については記載されていない。さらに、特許文献1~6のVベルトでは、十分な制動機能を得るだけの摩擦力が得られず、ブレーキ機能を発現できない。そのため、制動距離・時間の短縮によるブレーキ機能の発現、およびブレーキ機能の維持が課題になっており、高度なブレーキ機能(高い摩擦力)を備えたVベルトの開発が求められている。
【0022】
一方、特許文献7および8の無段変速エンジンブレーキシステムでは、特殊な形状のプーリが必要となる。
【0023】
なお、ローエッジVベルトの中でも、CVT用途が最も高度な耐側圧性が求められ、それに適用するために他の用途よりも圧縮ゴム層には高剛性を要求される。そのため、CVT用途では、必然的に屈曲性が不足するため、コグが必須となる。すなわち、CVT用途では高剛性ゴムとコグ部とが必須の構成要素となる。一方で、ベルト内周面をプーリシャフト部に接触させてブレーキの作用(摩擦力)を発揮させるには、接触面積が大きくなる内周面が平坦(コグなし)のベルトが有利となる。しかし、CVT用途であるために、コグが必須になるため、ベルト内周面(底面)のプーリシャフト部(ベルトと嵌合するための凹凸が形成されておらず、表面が平滑な外周面を有する一般的なプーリのシャフト部)と接触する部位がコグの頂部のみとなり、摩擦力(ブレーキ機能)を向上させるのが困難である。すなわち、CVT用途に利用されるローエッジVベルトでは、耐側圧性とブレーキ機能の向上とは両立が困難なトレードオフの関係にある特性である。
【0024】
従って、本発明の目的は、ベルトクラッチイン型無段変速機のブレーキシステムとして適用可能なローエッジコグドVベルトおよびその使用方法ならびにベルト伝動機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者等は、前記課題を達成するため、ローエッジコグドVベルトの圧縮ゴム層を、圧縮ゴム層の本体と、前記圧縮ゴム層の本体の内周側表面を被覆し、かつ前記圧縮ゴム層の本体表面よりも摩擦係数の大きい表面を有する内表面層との組み合わせで構成することにより、ベルトクラッチイン型無段変速機のブレーキシステムとして適用できることを見出し、本発明を完成した。
【0026】
すなわち、本発明の態様[I]としてのローエッジコグドVベルトは、
少なくとも内周面側にコグを有するローエッジコグドVベルトであって、
内周面側に配設される圧縮ゴム層を含み、
前記圧縮ゴム層が、圧縮ゴム層の本体と、前記圧縮ゴム層の本体の内周側表面を被覆する内表面層とを有し、
前記内表面層表面の摩擦係数が、前記内表面層で被覆されていない圧縮ゴム層の本体表面の摩擦係数よりも高い。
【0027】
本発明の態様[II]は、前記態様[I]において、前記内表面層表面の摩擦係数が0.4~0.7である態様である。
【0028】
本発明の態様[III]は、前記態様[I]または[II]において、前記内表面層の平均厚みが0.3~2mmである態様である。
【0029】
本発明の態様[IV]は、前記態様[I]~[III]のいずれかの態様において、前記内表面層のゴム硬度Hs(タイプA)が82°以下であり、かつ前記圧縮ゴム層の本体のゴム硬度Hs(タイプA)が89°以上である態様である。
【0030】
本発明には、態様[V]として、前記態様[I]~[IV]のいずれかの態様のローエッジコグドVベルトと、プーリとを備えたベルト伝動機構であって、前記ローエッジコグドVベルトが、ベルトクラッチイン型無段変速機に用いられる変速ベルトである態様も含まれる。
【0031】
本発明の態様[VI]は、前記態様[V]において、前記ベルトクラッチイン型無段変速機が、アイドリング時にベルト内周面がプーリシャフト部に接触する無段変速機である態様である。
【0032】
本発明の態様[VII]は、前記態様[V]または[VI]において、前記ベルトクラッチイン型無段変速機が、ベルト内周面とプーリシャフト部との摩擦力を利用したブレーキシステムを搭載した無段変速機である態様である。
【0033】
本発明には、態様[VIII]として、ベルトクラッチイン型無段変速機において、無段階変速、クラッチ、ブレーキのいずれにも関与させる前記態様[I]~[IV]のいずれかの態様のローエッジコグドVベルトの使用方法も含まれる。
【発明の効果】
【0034】
本発明では、ローエッジコグドVベルトの圧縮ゴム層を、圧縮ゴム層の本体と、前記圧縮ゴム層の本体の内周側表面を被覆し、かつ前記圧縮ゴム層の本体表面よりも摩擦係数の大きい表面を有する内表面層との組み合わせで構成しているため、ベルト内周面にブレーキ機能(高い摩擦力)を付加でき、スノーモービルや四輪バギー等に搭載されるベルトクラッチイン型無段変速機のブレーキシステムとして適用できる。すなわち、本発明では、耐屈曲疲労性および耐側圧性を維持しながら、ベルト内周面の摩擦力を向上できるため、プーリシャフト部に対してもブレーキ機能(高い摩擦力)を発現できる。特に、特定の圧縮ゴム層本体の内周面を特定の表面層(高摩擦係数なゴム組成物)で被覆しているため、変速ベルトとしての耐熱性、耐側圧性および耐屈曲疲労性は維持したまま、ブレーキ機能を付加できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、ベルト式無段変速装置の変速機構を説明するための概略図である。
【
図2】
図2は、ベルトクラッチイン型無段変速機のアイドリング時の状態を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明のローエッジダブルコグドVベルトの一例を示す概略部分断面斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3のローエッジダブルコグドVベルトをベルト長手方向に切断した概略断面図である。
【
図5】
図5は、本発明のローエッジダブルコグドVベルトの他の例をベルト長手方向に切断した概略断面図である。
【
図6】
図6は、本願におけるローエッジダブルコグドVベルトの全体厚み、コグ部の高さ、谷部の厚みなどの定義を示すための概略断面図である。
【
図7】
図7は、実施例で得られたローエッジダブルコグドVベルト内周面の摩擦係数の測定方法を説明するための概略図である。
【
図8】
図8は、実施例で得られたローエッジダブルコグドVベルトの耐久走行試験(Top耐久試験)で用いた試験機のレイアウトを示す図である。
【
図9】
図9は、実施例で得られたローエッジダブルコグドVベルトの耐久走行試験(Low耐久試験)で用いた試験機のレイアウトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[ローエッジコグドVベルトの構造]
本発明のローエッジコグドVベルトは、圧縮ゴム層の本体と表面層(内表面層)との特定の二層構造を有する圧縮ゴム層を含むローエッジコグドVベルトであれば、特に限定されない。ローエッジコグドVベルトは、ローエッジVベルトの内周側のみにコグが形成されたローエッジコグドVベルトと、ローエッジVベルトの内周側および外周側の双方にコグが形成されたローエッジダブルコグドVベルトとに大別できる。これらのうち、より過酷な状況で利用され、耐側圧性と耐屈曲疲労性とを高度なレベルで両立することを要求される点から、ローエッジダブルコグドVベルトが特に好ましい。
【0037】
図3は、本発明のローエッジダブルコグドVベルトの一例を示す概略部分断面斜視図であり、
図4は、
図3のローエッジダブルコグドVベルトをベルト長手方向に切断した概略断面図である。
【0038】
この例では、ローエッジダブルコグドVベルト1は、圧縮ゴム層4の内周面にベルトの長手方向(図中のA方向)に沿って内周コグ山1aと内周コグ谷1bとが交互に並んで形成された内周コグ部を有しており、この内周コグ山1aの長手方向における断面形状は略半円状(湾曲状または波形状)であり、長手方向に対して直交する方向(幅方向または図中のB方向)における断面形状は台形状である。すなわち、各内周コグ山1aは、ベルト厚み方向において、内周コグ谷1bからA方向の断面において略半円状に突出している。
【0039】
さらに、外周面にもベルトの長手方向に沿って外周コグ山1cと外周コグ谷1dとが交互に並んで形成された外周コグ部を有しており、この外周コグ山1cの長手方向における断面形状は略台形状であり、長手方向に対して直交する方向(幅方向または図中のB方向)における断面形状は略長方形状である。すなわち、各外周コグ山1cは、ベルト厚み方向において、外周コグ谷1dからA方向の断面において略台形状に突出している。
【0040】
ローエッジダブルコグドVベルトは、積層構造を有しており、ベルト外周側から内周側に向かって、伸張ゴム層2、芯体層(接着ゴム層)3、圧縮ゴム層の本体4a、圧縮ゴム層の内表面層4bが順次積層されている。ベルト幅方向における断面形状は、ベルト外周側から内周側に向かってベルト幅が小さくなる略台形状である。さらに、芯体層3内には、芯体3aが埋設されており、前記内周コグ部および外周コグ部は、それぞれコグ付き成形型により圧縮ゴム層4および伸張ゴム層2に形成されている。
【0041】
図5は、本発明のローエッジダブルコグドVベルトの他の例をベルト長手方向に切断した概略断面図である。
図5のローエッジダブルコグドVベルトは伸張ゴム層12、芯体層(接着ゴム層)13、圧縮ゴム層14を含んでいる。この例では、本体14aを含む圧縮ゴム層14において、内表面層14bの厚みが、
図1のローエッジダブルコグドVベルトよりも厚肉に形成されている。この例では、
図1のローエッジダブルコグドVベルトに比べて、耐側圧性が若干低下する反面、ブレーキ性能の持続性が若干向上する特性を有している。
【0042】
図4に基づいて、本発明におけるローエッジコグドVベルトの全体厚み、コグ部の高さ、谷部の厚みなどの定義を
図6に示すが、本発明のローエッジコグドVベルトのベルト全体の厚みH1(平均厚み)は、例えば8~19mm、好ましくは10~19mm、さらに好ましくは13~19mm、より好ましくは14~16mmである。厚みが小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、厚みが大きすぎると、屈曲性が低下して伝動効率が低下するとともに、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
【0043】
なお、
図6に示すように、本願において、伸張ゴム層または/および圧縮ゴム層がコグ部を有する場合、ベルト全体の厚みは、コグ部の頂部における厚み(ベルトの最大厚み)を意味する。
【0044】
また、本願において、内周コグ部の内周コグ谷とは、内周コグ部を有する圧縮ゴム層の薄肉部を形成する部分を意味し、通常、ベルト内周側に突起した隣接する内周コグ山間にある曲面状または平面状の谷部または溝部(湾曲した溝部またはベルト面方向に平行な面状溝部)を意味する。
【0045】
内周面に形成される内周コグ部の高さH2(内周コグ高さ)は、例えば4~8mm、好ましくは5~7mmの範囲から選択してもよく、外周面に形成された外周コグ部の高さH5(外周コグ高さ)は、例えば2~5mm、好ましくは3~4mmの範囲から選択してもよい。
【0046】
また、芯体の中心部から外周面(コグ部の頂部)までの距離である外周ピッチ高さH4は、例えば4~8mm、好ましくは5~7mmで形成され、芯体の中心部から内周コグ谷の最深部までの距離である心-谷厚みH3は、例えば1~9mm、好ましくは2~8mmで形成される。
【0047】
[圧縮ゴム層]
圧縮ゴム層は、ゴム組成物(架橋ゴム組成物)で形成された圧縮ゴム層の本体(圧縮ゴム層本体)と、この本体のベルト内周側表面を被覆し、かつこの本体表面よりも摩擦係数が大きい表面を有する表面層(内表面層)とを有している。圧縮ゴム層は、圧縮ゴム層の本体と内表面層とを有していればよく、他の層(例えば、圧縮ゴム層の本体と内表面層との間に介在する他のゴム層など)を有していてもよいが、圧縮ゴム層の機械的特性や生産性などの点から、圧縮ゴム層の本体と内表面層との二層構造が好ましい。本発明では、圧縮ゴム層を本体と内表面層との二層構造に形成することにより、変速ベルトとして必要な耐熱性、耐側圧性および耐屈曲疲労性を維持したまま、ベルト内周面にブレーキ機能(高い摩擦力)が付加できる。
【0048】
圧縮ゴム層の平均厚み(本体と内表面層の合計)は、ベルトの種類に応じて適宜選択できるが、例えば7~13mm、好ましくは8~12mm、より好ましくは9~11mmである。なお、本願において、圧縮ゴム層の厚みは、内周コグ部の頂部における厚みを意味する。
【0049】
(圧縮ゴム層の本体)
本発明のローエッジコグドVベルトにおいて、圧縮ゴム層本体は、第1のゴム成分を含むゴム組成物(架橋ゴム組成物)で形成されている。
【0050】
(A1)第1のゴム成分
第1のゴム成分としては、加硫または架橋可能なゴムを用いてよく、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H-NBR)など]、エチレン-α-オレフィンエラストマー[エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)など]、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。これらのゴム成分は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0051】
これらのうち、エチレン-α-オレフィンエラストマー、クロロプレンゴムが好ましく、耐熱性、耐摩耗性、耐油性などのバランスに優れ、生産性も高い点から、クロロプレンゴムが特に好ましい。
【0052】
第1のゴム成分がクロロプレンゴムを含む場合、第1のゴム成分中のクロロプレンゴムの割合は、前記特性および生産性を向上できる点から、50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上(特に90~100質量%)であり、100質量%(クロロプレンゴムのみ)が最も好ましい。第1のゴム成分がエチレン-α-オレフィンエラストマーを含む場合の第1のゴム成分中のエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合も、前記クロロプレンゴムの割合と同様である。
【0053】
(A2)第1の短繊維
圧縮ゴム層本体を形成するゴム組成物は、第1の短繊維をさらに含んでいてもよい。第1の短繊維としては、ポリアミド短繊維(ポリアミド6短繊維、ポリアミド66短繊維、ポリアミド46短繊維などの脂肪族ポリアミド短繊維、アラミド短繊維など)、ポリアルキレンアリレート短繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維、ポリエチレンナフタレート短繊維など)、液晶ポリエステル短繊維、ポリアリレート短繊維(非晶質全芳香族ポリエステル短繊維など)、ビニロン短繊維、ポリビニルアルコール系短繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)短繊維などの合成短繊維;綿、麻、羊毛などの天然短繊維;カーボン短繊維などの無機短繊維などが挙げられる。これら第1の短繊維は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、アラミド短繊維、PBO短繊維が好ましく、アラミド短繊維が特に好ましい。
【0054】
第1の短繊維は、繊維状に延伸した繊維を所定の長さにカットした短繊維であってもよい。第1の短繊維は、プーリからの側圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため(耐側圧性を高めるため)、ベルト幅方向に配向して圧縮ゴム層本体中に埋設されることが好ましい。また、プーリと接触する表面の摩擦係数を低下させてノイズ(発音)を抑制したり、プーリとの擦れによる摩耗を低減できるため、圧縮ゴム層本体の表面より短繊維を突出させるのが好ましい。
【0055】
第1の短繊維の平均繊維長は、屈曲性を低下させることなく耐側圧性および耐摩耗性を向上できる点から、例えば0.1~20mm、好ましくは0.5~15mm(例えば、0.5~10mm)、さらに好ましくは1~6mm(特に2~4mm)である。第1の短繊維の繊維長が短すぎると、列理方向の力学特性を十分に高めることができずに耐側圧性および耐摩耗性が低下するおそれがあり、逆に長すぎると、ゴム組成物中の短繊維の配向性が低下することにより屈曲性が低下する虞がある。
【0056】
第1の短繊維の単糸繊度は、屈曲性を低下させることなく高い補強効果を付与できる点から、例えば、1~12dtex、好ましくは1.2~10dtex(例えば、1.5~8dtex)、さらに好ましくは2~5dtex(特に2~3dtex)である。単糸繊度が大きすぎると配合量当たりの耐側圧性や耐摩耗性が低下するおそれがあり、単糸繊度が小さすぎるとゴムへの分散性が低下することにより屈曲性が低下する虞がある。
【0057】
第1の短繊維は、第1のゴム成分との接着力を高めるために、汎用の接着処理を行ってもよい。このような接着処理としては、エポキシ化合物またはポリイソシアネート化合物を含む処理液に浸漬する方法、レゾルシンとホルムアルデヒドとラテックスとを含むRFL処理液に浸漬する方法、ゴム糊に浸漬する方法などが挙げられる。これらの処理は単独で適用してもよく、2種以上を組み合わせて適用してもよい。
【0058】
第1の短繊維の割合は、第1のゴム成分100質量部に対して、例えば5~50質量部、好ましくは5~40質量部(例えば8~35質量部)、さらに好ましくは10~30質量部、より好ましくは15~25質量部である。第1の短繊維が少なすぎると耐側圧性および耐摩耗性が低下する虞があり、多すぎると加工性が低下したり、ベルトの屈曲性が低下することで耐久性が低下する虞がある。
【0059】
(A3)他の成分
圧縮ゴム層本体を形成するゴム組成物は、慣用の添加剤を含んでいてもよく、添加剤としては、例えば、架橋剤または加硫剤(硫黄系架橋剤、有機過酸化物など)、共架橋剤(ビスマレイミド類など)、架橋助剤または架橋促進剤(チウラム系促進剤など)、架橋遅延剤、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、充填剤[カーボンブラック、酸化ケイ素(含水シリカなど)などの補強剤(補強性充填剤);クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなどの増量剤(非補強性充填剤または不活性充填剤)など]、可塑剤(または軟化剤)[オイル類(パラフィンオイルやナフテン系オイルなど)、脂肪族カルボン酸系可塑剤、芳香族カルボン酸エステル系可塑剤、オキシカルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エーテル系可塑剤、エーテルエステル系可塑剤など]、加工剤または加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、接着性改善剤、着色剤、粘着付与剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。
【0060】
カーボンブラックやシリカなどの充填剤(第1の充填剤)の割合は、第1のゴム成分100質量部に対して、例えば10~200質量部、好ましくは20~100質量部、さらに好ましくは30~80質量部、より好ましくは40~70質量部である。
【0061】
可塑剤(第1の可塑剤)の割合は、第1のゴム成分100質量部に対して10質量部以下であってもよく、例えば0.1~10質量部、好ましくは1~8質量部、さらに好ましくは3~7質量部である。可塑剤の割合が多すぎると、圧縮ゴム層が軟化しすぎて耐側圧性が低下する虞がある。
【0062】
他の成分(A3)の合計割合は、第1のゴム成分100質量部に対して、例えば5~300質量部、好ましくは10~200質量部、さらに好ましくは30~150質量部、より好ましくは50~100質量部である。
【0063】
(A4)圧縮ゴム層本体の特性
圧縮ゴム層本体は、耐側圧性を得るため高剛性(高弾性率)なゴム組成物を用いるため、高いゴム硬度を有する。ゴム硬度は89°以上であってもよく、例えば90~99°、好ましくは91~98°、さらに好ましくは92~97°、より好ましくは93~96°である。圧縮ゴム層本体のゴム硬度が小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、大きすぎると、耐屈曲性疲労性および耐久性が低下する虞がある。
【0064】
なお、本願において、各ゴム層のゴム硬度は、JIS K6253(2012)(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-硬さの求め方-)に規定されているスプリング式デュロメータ硬さ試験に準拠して、タイプAデュロメータを用いて測定された値Hs(タイプA)を示し、単にゴム硬度と記載する場合がある。詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0065】
圧縮ゴム層本体の引張強度は、ベルト幅方向において、例えば25~50MPa、好ましくは30~40MPa、さらに好ましくは30~35MPa程度である。引張強度が小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
【0066】
なお、本願において、各ゴム層の引張強度は、JIS K6251(2017)に準拠した方法で測定できる各ゴム層の引張強さTの値を引張強度の指標値として用いる。詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0067】
圧縮ゴム層本体表面の摩擦係数は0.40未満であればよく、例えば0.20以上0.40未満、好ましくは0.30~0.39、さらに好ましくは0.32~0.38である。圧縮ゴム層本体表面の摩擦係数が小さすぎると、伝達効率が低下する虞があり、逆に大きすぎると、異音やゴムの粘着・飛散などの不具合が生じる虞がある。
【0068】
なお、本願において、圧縮ゴム層の本体および内表面層の摩擦係数(平均摩擦係数)は、切断したベルトを平プーリに角度90°で巻き掛けて、平プーリの外周面にベルの内周面が接触して移動する際の摩擦力(荷重)を測定する方法から算出でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0069】
また、本願において、圧縮ゴム層本体表面の摩擦係数は、内表面層で被覆されていない圧縮ゴム層本体表面の摩擦係数を意味し、本発明のローエッジコグドVベルトにおいて、内表面層が被覆されていない形態の摩擦係数を意味する。
【0070】
圧縮ゴム層本体の平均厚みは、ベルトの種類に応じて適宜選択できるが、例えば4~13mm、好ましくは5~12mm、さらに好ましくは6~11mm、より好ましくは7~10mm、最も好ましくは7.5~9mmである。なお、本願において、圧縮ゴム層本体の厚みは、コグ部の頂部における厚みを意味する。
【0071】
(圧縮ゴム層の内表面層)
本発明では、圧縮ゴム層本体のベルト内周側表面は、表面層(内表面層)で被覆されている。本発明において、内表面層を形成する理由は以下の通りである。
【0072】
すなわち、通常、変速ベルトに限らず、ローエッジVベルトは、プーリに巻き掛ける際に、プーリと接触するのはV字状の両側面だけであり、内周面(底面、下面)はプーリと接触しないか、接触したとしても軽く接触する程度である。そのため、大半の用途では、ローエッジVベルトの内周面には摩擦力は必要とされない。これに対して、前述のように、ベルトクラッチイン型CVTの変速ベルトに関する用途では、ブレーキ機能として、ローエッジVベルトの内周面がプーリ(プーリシャフト部)と接触するだけでなくプーリ(プーリシャフト部)に対して押し付け力が作用した状態で使用されることが特異的であり、その性能にはローエッジVベルトの内周面の摩擦力が大きく影響する。そのため、ローエッジVベルトの内周面に摩擦力が要求されること自体が特殊な事情である。これに対して、前述の特許文献1~6では、ベルト内周面を滑り易くする(摩擦係数を低くする)という思想しか開示されておらず、その真逆のベルト内周面に摩擦力を求める(高摩擦係数化する)発想は、従来技術に対して特異性(意外性)を有している。すなわち、低摩擦係数化のために内周面を布で構成する(ゴムを配置しない)態様が好適とされる従来技術に対して、本発明では、内周面にゴム層(高摩擦係数なゴム組成物)を配置する態様を特徴とする。
【0073】
具体的には、本発明では、内表面層の表面の摩擦係数を、圧縮ゴム層の本体表面の摩擦係数よりも大きくする。このような内表面層の摩擦係数の調整方法としては、内表面層を形成するゴム組成物の組成を調整することにより調整してもよいが、前述のように、ローエッジコグドVベルトでは、耐側圧性とブレーキ性能の向上とは両立が困難な課題である。そのため、本発明では、ゴム組成物の調整については、ローエッジコグドVベルトの特性を考慮し、以下の観点で調整が行われる。
【0074】
すなわち、ローエッジVベルトは、耐側圧性や伝達力を向上する観点からはベルト全体の厚みを厚くする要求がある一方で、耐屈曲疲労性や伝達効率を向上する観点からはベルト全体の厚みを薄くするなどして、屈曲性を良好に保つ要求もある。ローエッジコグドVベルトでは、ローエッジVベルトにコグを設けることで、このような二律背反の要求に応えることができる。すなわち、ローエッジコグドVベルトでは、コグ山により摩擦伝動面を大きくして耐側圧性や伝達力を向上することができるとともに、コグ谷により屈曲性を良好に保つ工夫がなされており、ローエッジコグドVベルトがプーリに巻きかかる際には、コグ谷の屈曲がコグ山の屈曲よりも大きくなる。そのため、コグ谷において繰り返し屈曲される圧縮ゴム層の疲労が大きくなり、コグ山に比べてコグ谷の圧縮ゴム層に亀裂が発生し易くなる。
【0075】
ローエッジコグドVベルトの内周面は、コグ山とコグ谷とが交互に並んだコグ部で形成されるが、本用途において、プーリシャフト部と接触するのは内周コグ山の頂部のみである。高摩擦係数な内表面層は内周コグ山の頂部のみに配置すればよいが、生産性を考慮すると、内表面層は内周コグ山と内周コグ谷とを連続的に結ぶ連続層として配置するのが好ましい。連続層を形成すると、内表面層を形成するゴム組成物は、コグ谷の亀裂(耐屈曲疲労性)にも影響する。さらに、圧縮ゴム層における内表面層の厚みを大きくすると本体の割合が減るため、圧縮ゴム層全体の剛性(耐側圧性)にも影響する。すなわち、内表面層は、ベルト内周面にブレーキ性能(高い摩擦力)を向上させる機能を有する一方で、ベルトの耐側圧性および耐屈曲疲労性の低下にも影響する。そのため、内表面層を形成するゴム組成物には、耐側圧性および耐屈曲疲労性を確保したまま、内周コグ山のブレーキ機能(高摩擦係数化)を付加させることが必要となる。本発明では、このような観点から、ゴム組成物の調整においては、内表面層の表面の摩擦係数を、圧縮ゴム層の本体表面の摩擦係数よりも大きくした上で、さらに摩擦係数の大きさおよび/または内表面層の厚みを調整するのがより好ましい。
【0076】
このような観点から、内表面層は、第2のゴム成分を含むゴム組成物(架橋ゴム組成物)で形成してもよい。さらに、本発明では、摩擦係数の大きさおよび/または内表面層の厚みに加えて、圧縮ゴム層本体と内表面層との組み合わせを調整することによっても、変速ベルトとして必要な耐熱性、耐側圧性および耐屈曲疲労性を維持したまま、ベルト内周面のブレーキ性能(高い摩擦力)を向上できる。
【0077】
(B1)第2のゴム成分
第2のゴム成分としては、好ましい態様も含めて、第1のゴム成分として例示されたゴム成分から選択できる。第2のゴム成分は、第1のゴム成分と異なるゴム成分であってもよいが、通常、第1のゴム成分と同一である。
【0078】
(B2)他の成分および摩擦係数を高める成分
内表面層を形成するゴム組成物は、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、前記圧縮ゴム層本体における他の成分(A3)として例示された成分を利用できる。
【0079】
内表面層を形成するゴム組成物は、圧縮ゴム層本体を形成するゴム組成物よりも摩擦係数が大きければよいが、その摩擦係数を高める方法は、特に限定されるものではない。他の成分(A3)として例示された成分を摩擦係数調整剤として利用して、ゴム組成物の粘性を高めることにより摩擦係数を調整してもよい。摩擦係数調整剤としては、例えば、可塑剤、接着性改善剤、粘着付与剤などが挙げられる。
【0080】
可塑剤(第2の可塑剤)としては、例えば、オイル類(パラフィンオイルやナフテン系オイルなど)、脂肪族カルボン酸系可塑剤(アジピン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤など)、芳香族カルボン酸エステル系可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤など)、オキシカルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エーテル系可塑剤(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコールなど)、エーテルエステル系可塑剤[ポリエチレングリコールジブタン酸エステル、ポリエチレングリコールジイソブタン酸エステル、ポリエチレングリコールジ2-エチルブタン酸エステル、ポリエチレングリコールジ2-エチルヘキサン酸エステル、ポリエチレングリコールジデカン酸エステルなどのポリC2-4アルキレングリコールジC2-18脂肪酸エステル;アジピン酸ポリエチレンオキシド付加体などのC2-12脂肪族ジカルボン酸のポリC2-4アルキレンオキシド付加体;アジピン酸モノまたはジ(ブトキシエチル)エステル、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシロキシエチル)エステル、アジピン酸ジ(オクトキシエチル)エステルなどのC2-12脂肪族ジカルボン酸ジ(C1-12アルコキシC2-4アルキル)エステルなど]などが挙げられる。これらの可塑剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0081】
接着性改善剤としては、例えば、レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物(RF縮合物)、アミノ樹脂[窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、例えば、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサアルコキシメチルメラミン(ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミンなど)などのメラミン樹脂、メチロール尿素などの尿素樹脂、メチロールベンゾグアナミン樹脂などのベンゾグアナミン樹脂など]などが挙げられる。これらの接着性改善剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0082】
粘着付与剤としては、例えば、テルペン樹脂、天然ロジンや変性ロジンなどのロジン樹脂、石油樹脂、変性オレフィン重合体などが挙げられる。これらの粘着付与剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0083】
これらの摩擦係数調整剤のうち、エーテル系可塑剤やエーテルエステル系可塑剤などの可塑剤が好ましく、エーテルエステル系可塑剤が特に好ましい。エーテルエステル系可塑剤は、ポリエチレングリコールジ2-エチルヘキサン酸エステルなどのポリC2-4アルキレングリコールジC4-12脂肪酸エステルであってもよい。
【0084】
摩擦係数調整剤(特に、第2の可塑剤)の割合は、第2のゴム成分100質量部に対して、例えば1~30質量部、好ましくは3~20質量部、さらに好ましくは10~20質量部である。摩擦係数調整剤の割合が少なすぎると、摩擦係数を高める効果が小さく、多すぎると、圧縮ゴム層が軟化しすぎて耐側圧性が低下する虞がある。
【0085】
カーボンブラックなどの充填剤(第2の充填剤)の割合は、第1のゴム成分100質量部に対して、例えば10~200質量部、好ましくは20~100質量部、さらに好ましくは30~100質量部、より好ましくは40~70質量部である。
【0086】
他の成分(B2)の合計割合は、第2のゴム成分100質量部に対して、例えば5~300質量部、好ましくは10~200質量部、さらに好ましくは30~150質量部、より好ましくは50~100質量部である。
【0087】
なお、短繊維は摩擦係数を低下させる成分であるため、内表面層を形成するゴム組成物は短繊維を実質的に含まないのが好ましく、短繊維を含まないのが特に好ましい。
【0088】
(B3)内表面層の特性
圧縮ゴム層の内表面層表面の摩擦係数は0.35~0.75程度の範囲から選択でき、例えば0.40~0.70(特に0.45~0.58)、好ましくは0.50~0.60、さらに好ましくは0.53~0.60である。摩擦係数は0.40以上であってもよく、内表面層を形成するゴム組成物が短繊維を含まない組成物で形成することにより、摩擦係数を0.40以上、好ましくは0.45以上、さらに好ましくは0.50以上に調整してもよい。内表面層の摩擦係数が小さすぎるとブレーキ性能が不足し、摩擦係数が大きすぎると異音や、ゴムの粘着・飛散などの不具合が生じる虞がある。
【0089】
なお、本願において、前記摩擦係数は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0090】
圧縮ゴム層本体と内表面層との摩擦係数の差(内表面層表面の摩擦係数-本体表面の摩擦係数)は0.03以上であってもよく、例えば0.05~0.3、好ましくは0.1~0.27、さらに好ましくは0.12~0.25、より好ましくは0.13~0.22、最も好ましくは0.15~0.2である。内表面層と本体との摩擦係数の差が小さすぎると、ブレーキ性能が低下する虞があり、逆に大きすぎると、異音や、ゴムの粘着・飛散などの不具合が生じる虞がある。
【0091】
圧縮ゴム層の内表面層のゴム硬度は85°以下、好ましくは82°以下、さらに好ましくは80°以下であってもよく、例えば40~85°(特に50~80°)程度の範囲から選択でき、例えば51~80°(例えば51~70°)、好ましくは52~80°(例えば52~60°)、さらに好ましくは60~79°、より好ましくは70~78°、最も好ましくは73~77°である。内表面層のゴム硬度が小さすぎると、耐側圧性が不足する虞があり、大きすぎると、耐屈曲疲労性が不足する虞がある。
【0092】
圧縮ゴム層本体と内表面層とのゴム硬度の差(本体のゴム硬度-内表面層のゴム硬度)は、例えば10~50°、好ましくは12~45°、さらに好ましくは15~40°である。本体と内表面層とのゴム硬度の差が小さすぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、耐側圧性が低下する虞がある。
【0093】
圧縮ゴム層の内表面層の引張強度は、例えば10~25MPa、好ましくは11~20MPa、さらに好ましくは12~15MPaである。引張強度が小さすぎると、耐側圧性が不足する虞があり、大きすぎると、耐屈曲疲労性が不足する虞がある。
【0094】
圧縮ゴム層本体と内表面層との引張強度の差(本体の引張強度-内表面層の引張強度)は、例えば5~30MPa、好ましくは10~25MPa、さらに好ましくは15~20MPaである。本体と内表面層との引張強度の差が小さすぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、耐側圧性が低下する虞がある。
【0095】
内表面層の厚みは、耐側圧性、耐屈曲疲労性を維持しながら高いブレーキ性能が得られる適正な内表面層の厚みに調整するのが好ましい。具体的には、内表面層の平均厚みは0.2~2.5mmであり、好ましくは0.3~2mm(例えば0.5~2mm)、さらに好ましくは0.3~1.5mm、より好ましくは0.4~1.2mm、最も好ましくは0.5~1mmである。内表面層の厚みが小さすぎると、内表面層が早期に摩滅してブレーキ性能の持続性が不足する虞がある。内表面層の厚みが大きすぎると、圧縮ゴム層本体の割合が少なくなり、耐側圧性が不足する虞がある。すなわち、耐側圧性を維持しながら高いブレーキ性能(持続性)が得られる適正範囲である。なお、ローエッジコグドVベルトの構造上、内表面層の厚みは、心-谷厚みH3の範囲内である必要がある。
【0096】
なお、内表面層の平均厚みは、マイクロスコープを用いて測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0097】
内表面層の平均厚みは、ベルト全体の平均厚みに対して、例えば1~19%、好ましくは3~13%である。また、内表面層の平均厚みは、圧縮ゴム層の平均厚み(本体と内表面層の合計)に対して、例えば1~25%、好ましくは3~20%、より好ましくは4~15%、さらに好ましくは5~10%である。
【0098】
[伸張ゴム層]
本発明のローエッジコグドVベルトは、第3のゴム成分を含むゴム組成物(架橋ゴム組成物)で形成された伸張ゴム層をさらに含んでいてもよい。
【0099】
第3のゴム成分としては、好ましい態様も含めて、第1のゴム成分として例示されたゴム成分から選択できる。第3のゴム成分は、第1のゴム成分と異なるゴム成分であってもよいが、通常、第1のゴム成分と同一である。
【0100】
伸張ゴム層を形成するゴム組成物も、耐側圧性および耐摩耗性をより向上できる点から、第2の短繊維を含むのが好ましい。圧縮ゴム層本体だけでなく、伸張ゴム層も短繊維として第2の短繊維を含むと、耐側圧性および耐摩耗性がさらに向上する。第2の短繊維としては、好ましい態様も含めて、第1の短繊維で例示された短繊維から選択できる。第2の短繊維は、第1の短繊維と異なる短繊維であってもよいが、通常、第1の短繊維と同一である。第2の短繊維の割合は、好ましい割合も含めて、第1の短繊維の割合から選択できる。
【0101】
伸張ゴム層を形成するゴム組成物も、圧縮ゴム層本体を形成するゴム組成物で例示された他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0102】
伸張ゴム層の特性は、好ましい範囲も含めて、前述の圧縮ゴム層本体の特性(硬度、引張強度、摩擦係数など)から選択できる。
【0103】
[芯体層]
芯体層は、芯体を含んでいればよく、芯体のみで形成された芯体層であってもよいが、層間の剥離を抑制し、ベルト耐久性を向上できる点から、芯体が埋設された架橋ゴム組成物で形成された芯体層(接着ゴム層)であるのが好ましい。接着ゴム層は、伸張ゴム層と圧縮ゴム層本体との間に介在して伸張ゴム層と圧縮ゴム層本体とを接着するとともに、接着ゴム層には芯体が埋設されている。
【0104】
(接着ゴム層)
本発明のローエッジコグドVベルトは、第4のゴム成分を含むゴム組成物の硬化物(架橋ゴム組成物)で形成された接着ゴム層をさらに含んでいてもよい。
【0105】
第4のゴム成分としては、好ましい態様も含めて、第1のゴム成分として例示されたゴム成分から選択できる。第4のゴム成分は、第1のゴム成分と異なるゴム成分であってもよいが、通常、第1のゴム成分と同一である。
【0106】
接着ゴム層を形成するゴム組成物も、圧縮ゴム層本体を形成するゴム組成物で例示された短繊維や他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0107】
接着ゴム層は、圧縮ゴム層本体のゴム硬度よりも低い硬度が好ましい。接着ゴム層のゴム硬度は、例えば60~85°、好ましくは65~84°、さらに好ましくは70~83°、より好ましくは75~82°である。ゴム硬度が小さすぎると、耐側圧性が不足する虞があり、大きすぎると、接着性が低下する虞がある。接着ゴム層を、このような低硬度に調整することにより、せん断応力が作用した場合に大きく変形することが可能となり、芯体と圧縮ゴム層本体および伸張ゴム層との間の剥離を抑制できる。
【0108】
接着ゴム層の平均厚みは、例えば0.8~3mm、好ましくは1.2~2.8mm、さらに好ましくは1.5~2mmである。
【0109】
(芯体)
芯体としては、特に限定されないが、通常、ベルト幅方向に所定間隔で配列した心線(撚りコード)を使用できる。心線は、ベルト長手方向に延びて配設され、ベルト長手方向に平行な複数本の心線が配設されていてもよいが、生産性の点から、通常、ローエッジコグドVベルトの略ベルト長手方向に平行に、所定のピッチで並列的に延びて螺旋状に配設されている。螺旋状に配設する場合、ベルト長手方向に対する心線18の角度は、例えば5°以下であってもよく、ベルト走行性の点から、0°に近いほど好ましい。また、心線のピッチは、1.5~2.5mmの範囲に設定されることが好ましく、1.8~2.2mmの範囲に設定されることがより好ましい。
【0110】
心線は、少なくともその一部が接着ゴム層と接していればよく、接着ゴム層が心線を埋設する形態、接着ゴム層と伸張ゴム層との間に心線を埋設する形態、接着ゴム層と圧縮ゴム層との間に心線を埋設する形態のいずれの形態であってもよい。これらのうち、耐久性を向上できる点から、接着ゴム層が心線を埋設する形態が好ましい。
【0111】
心線を構成する繊維としては、前記短繊維と同様の繊維が例示できる。前記繊維のうち、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレートなどのC2-4アルキレン-C6-12アリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などがよく利用され、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維など)、アラミド繊維が好ましい。繊維はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸は、例えば、100~5000本であってもよく、好ましくは500~4000本、さらに好ましくは1000~3000本程度のモノフィラメント糸を含んでいてもよい。
【0112】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの直径)は、例えば0.5~3mmであってもよく、好ましくは0.6~2mm、さらに好ましくは0.7~1.5mm程度であってもよい。心線(撚りコード)の総繊度は、例えば、2000~17000dtexであってもよく、好ましくは4000~15000dtex、さらに好ましくは5000~13000dtex(特に6000~8000dtex程度)であってもよい。
【0113】
心線は、ゴム成分との接着性を改善するため、短繊維と同様の方法で接着処理(又は表面処理)されていてもよい。心線は、少なくともRFL液で接着処理するのが好ましい。
【0114】
[補強布]
本発明のローエッジコグドVベルトは、補強布を含んでもよい。補強布の形態としては、例えば、伸張ゴム層の外周面に積層する形態、圧縮ゴム層本体および/または伸張ゴム層に埋設する形態、圧縮ゴム層本体と内表面層との間に埋設する形態などが挙げられる。
【0115】
補強布は、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(特に、織布)などで形成でき、必要であれば、接着処理、例えば、RFL液で処理(浸漬処理など)したり、接着ゴムを前記布材にすり込むフリクション処理や、前記接着ゴムと前記布材とを積層した後、前記の形態で圧縮ゴム層および/または伸張ゴム層に積層または埋設してもよい。
【0116】
[ローエッジコグドVベルトの製造方法]
本発明のローエッジコグドVベルトの製造方法は、特に限定されず、各層の積層工程(ベルトスリーブの製造方法)に関しては、ベルトの種類に応じて、慣用の方法を利用できる。
【0117】
例えば、以下にローエッジコグドVベルトの代表的な製造方法について説明する。まず、圧縮ゴム層の内表面層用シート(未架橋ゴムシート)と圧縮ゴム層本体用シート(未架橋ゴムシート)との積層体を、前記内表面層用シートを、内周コグ部に対応する歯部と溝部とが交互に配された平坦なコグ付き型に接触させて設置し、温度60~120℃(特に80~100℃)でプレス加圧することによりコグ部を型付けしたコグパッド(完全には架橋しておらず、半架橋状態にあるパッド)を作製する。そして、このコグパッドの両端を適所(特にコグ山部の頂部)から垂直に切断して必要な長さを得る。次に、円筒状金型の外周に歯部と溝部とを交互に配した内母型を被せ、内母型の歯部と溝部に係合させてコグパッドを巻き付けて両端(特にコグ山部の頂部)で接合し、このコグパッドの外周に第2の接着ゴム層用シート(下接着ゴム:未架橋ゴムシート)を積層した後、芯体を形成する心線(撚りコード)を螺旋状にスピニングし、その外周に第1の接着ゴム層用シート(上接着ゴム:未架橋ゴムシート)、伸張ゴム層用シート(未架橋ゴムシート)を順次に巻き付けて未架橋成形体を作製する。
【0118】
その後、未架橋成形体にジャケットを被せた状態で、公知の架橋装置(加硫缶など)に配置し、温度120~200℃(特に150~180℃)で架橋成形を行い、架橋ベルトスリーブを作製する。そして、カッターなどを用いて、V状に切断加工して無端状のローエッジコグドVベルトを得る。
【0119】
ローエッジダブルコグドVベルトの場合は、前記未架橋成形体の外周に、外周コグ部に対応した歯部と溝部とを交互に配した外母型を被せた状態で、ジャケットを被せて架橋成形を行うことで、外周面にもコグ部が形成された架橋ベルトスリーブが得られ、V状に切断加工してローエッジダブルコグドVベルトが得られる。
【0120】
なお、接着ゴム層は、複数の接着ゴム層用シートで形成でき、芯体を形成する心線(撚りコード)は、接着ゴム層への埋設位置に応じて、複数の接着ゴム層用シートの積層順序と関連付けてスピニングしてもよい。
【実施例0121】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例で使用した使用材料の詳細、未架橋ゴムシートの作製方法、各物性の測定方法または評価方法を以下に示す。
【0122】
[使用材料]
クロロプレンゴム:DENKA(株)製「PM-40」
酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製「キョーワマグ30」
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD-3」
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
シリカ:エボニックジャパン(株)製、「ULTRASIL(登録商標)VN3」、BET比表面積175m2/g
可塑剤1:ナフテン系オイル、出光興産(株)製「NS-900」
可塑剤2:ADEKA(株)製「RS-700」
架橋促進剤:テトラメチルチウラムジスルフィド(大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」)
酸化亜鉛:正同化学工業(株)製「酸化亜鉛3種」
硫黄:美源化学社製「硫黄」
N,N’-m-フェニレンジマレイミド:大内新興化学工業(株)製「バルノックPM」
レゾルシン・ホルマリン共重合物(レゾルシノール樹脂):レゾルシノール20質量%未満、ホルマリン0.1質量%未満のレゾルシン・ホルマリン共重合物
ヘキサメトキシメチロールメラミン:Singh Plasticisers & Resins Pvt. Ltd.社製「POWERPLAST PP-1890S」
アラミド短繊維:帝人(株)製「コーネックス短繊維」、平均繊維長3mm、平均繊維径14μm、RFL液(レゾルシン2.6質量部、37%ホルマリン1.4質量部、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(日本ゼオン(株)製)17.2質量部、水78.8質量部)で接着処理した固形分の付着率6質量%の短繊維
心線:繊度1100dtexのアラミド繊維を2×3の撚り構成で、上撚り係数3.0、下撚り係数3.0で諸撚りした総繊度6600dtexの撚りコードに接着処理を施した処理コード(心線径1.28mm)
補強布:RFL液にて接着処理をした2/2綾織りのナイロン帆布(厚み0.30~0.50mm)。
【0123】
[ゴム層用未架橋ゴムシートの作製]
圧縮ゴム層(本体、内表面層)、伸張ゴム層および接着ゴム層を形成するためのゴム組成物は、それぞれ、下記表1および2記載の配合比で調製した。各層を形成するゴム組成物は、それぞれ、バンバリーミキサーを用いて混練りを行い、得られた混練ゴムをカレンダーロールに通して圧延ゴムシート(未架橋ゴムシート)を作製した。本明細書では、各ゴム組成物をR1~R7で表記する。
【0124】
【0125】
【0126】
[架橋ゴムのゴム硬度Hs]
各ゴム層用未架橋ゴムシートを温度160℃、時間30分でプレス加熱し、架橋ゴムシート(100mm×100mm×2mm厚み)を作製した。架橋ゴムシートを3枚重ね合わせた積層物を試料とし、JIS K6253(2012)に規定されているスプリング式デュロメータ硬さ試験に準拠して、タイプAデュロメータを用いて架橋ゴムシートの硬度を測定した。
【0127】
[架橋ゴムの引張強度]
架橋ゴムのゴム硬度Hs測定のために作製した架橋ゴムシートを試料とし、JIS K6251(2017)に準じ、ダンベル状(5号形)に打ち抜いた試験片を作製した。短繊維を含む試料においては、短繊維の配列方向(列理方向)が引張方向となるようにダンベル状試験片を採取した。そして、試験片の両端をチャック(掴み具)で掴み、試験片を500mm/minの速度で切断するまで引っ張ったときに記録される最大引張力を試験片の初期断面積で除した値(引張強さT)を引張強度とした。
【0128】
[ローエッジダブルコグドVベルトの作製]
前記実施形態に記載の方法で、ローエッジダブルコグドVベルト(サイズ:上幅38.5mm、V角度26度、厚み(H1)15.5mm、コグ高さ(内周側:H2)6.8mm、コグ高さ(外周側:H5)3.8mm、ピッチ高さ(H4)5.3mm、心-谷厚み(H3)3.4mm、ベルト外周長さ1109mm)を作製した。
【0129】
[内表面層の厚みの測定]
ローエッジダブルコグドVベルトをコグ頂部においてベルト幅方向と平行に切断し、その断面をマイクロスコープで20倍に拡大して観察し、内表面層の厚みを測定した。厚みの測定は、ベルト長さ方向に約5等分となるように5箇所で測定し、その算術平均を当該ベルトの内表面層の厚みとした。
【0130】
[Vベルトの評価]
(1)ベルト内周面の摩擦係数
図7に示すように、切断により有端化したベルト試験片40の一方の端部をロードセル41に固定し、他方の端部に3kgf(試験荷重Ts)の荷重42を垂下させ、巻き掛け角度θが90°になるようにベルト試験片の内周面を平プーリ43(直径47.6mm、材質SUS304、JIS B 0601に準拠した表面粗さRa 1.6μm)に接触させて配置した。そして、ロードセル41側のベルト試験片40を42mm/秒の速度で15秒程度引張ったときにロードセルから検出される荷重(測定荷重Tt)を読み取り、下記の式(1)により静止摩擦係数μを算出した。そして、3回の測定結果から求めた静止摩擦係数の平均値を、ベルト内周面の摩擦係数(平均摩擦係数)とした。なお、測定に際して、平プーリは回転しないように固定した。
【0131】
μ=ln(Tt/Ts)/θ (1)
(式中、μ:静止摩擦係数
Tt[N]:測定荷重
Ts[N]:試験荷重
θ[rad]:巻き掛け角度(接触角度)である)。
【0132】
(2)耐久走行試験(Top耐久試験)
耐コグ谷亀裂性(耐屈曲疲労性)を確認するための試験として、
図8に示すように、直径(ピッチ径)178mmの駆動(DR)プーリと、直径(ピッチ径)140mmの従動(DN)プーリとを備える2軸走行試験機を用いて行った。各プーリにローエッジダブルコグドVベルトを掛架し、駆動プーリの回転数6,000rpm、軸荷重(デッドウェイト)を1.2kNとし、負荷装置(動力発生装置)で負荷60Nmを作用させて、雰囲気温度115℃にてベルトを走行させ、コグ谷に発生した亀裂が心線に達して寿命となるまでの走行時間を走行寿命として測定した。
【0133】
(耐久走行試験(Top耐久試験)の判定基準)
a:走行寿命が130時間以上(合格)
b:走行寿命が110時間以上、130時間未満(合格)
c:走行寿命が110時間未満(不合格)。
【0134】
(3)耐久走行試験(Low耐久試験)
耐心線剥離性(耐側圧性)を確認するための試験として、
図9に示すように、直径(ピッチ径)92mmの駆動(DR)プーリと、直径(ピッチ径)208mmの従動(DN)プーリとを備える2軸走行試験機を用いて行った。各プーリにローエッジダブルコグドVベルトを掛架し、駆動プーリの回転数5,000rpm、軸荷重(デッドウェイト)を2.2kNとし、負荷装置(動力発生装置)で負荷50Nmを作用させて、雰囲気温度60℃にてベルトを走行させ、心線剥離が生じるまでの走行時間を走行寿命として測定した。
【0135】
(耐久走行試験(Low耐久試験)の判定基準)
a:走行寿命が30時間以上(合格)
b:走行寿命が10時間以上、30時間未満(合格)
c:走行寿命が10時間未満(不合格)。
【0136】
(4)ブレーキ性能試験(実車でのエンジンブレーキ性能)
1,000ccの四輪バギー車両(オフロードビークル)のCVTにローエッジダブルコグドVベルトを装着して実車試験を行い、車両走行中に最高速よりスロットルを戻し、ブレーキを掛けずに従動プーリの回転数が478rpmから0rpmになるまでの時間を測定した。
【0137】
(ブレーキ性能試験の判定基準)
a:回転数が0rpmになるまでの時間が7秒以下(合格)
b:回転数が0rpmになるまでの時間が7秒超え8秒以下(合格)
c:回転数が0rpmになるまでの時間が8秒超え(不合格)。
【0138】
(5)ブレーキ持続性試験(実車でのエンジンブレーキ持続性)
前記ブレーキ性能試験を行った車両にて、500マイルの悪路(オフロード)走行を行った後、前記ブレーキ性能試験に記載の方法でブレーキ性能を確認した。500マイル走行後のブレーキ性能が、初期(500マイル走行前)のブレーキ性能を高水準で維持しているか、水準が低下したかという観点で、以下の判定基準でブレーキ持続性を判定した。なお、前記ブレーキ性能試験において、不合格(c判定)であった場合には、ブレーキ持続性試験は行わなかった。
【0139】
(ブレーキ持続性試験の判定基準)
a:500マイル走行前後でのブレーキ性能が高水準(a判定のまま維持)
b:500マイル走行後のブレーキ性能がb判定(a判定からb判定に低下、b判定のまま維持)
c:500マイル走行後のブレーキ性能がc判定(aまたはb判定からc判定に低下)。
【0140】
(6)総合判定
耐久走行試験(Top耐久試験、Low耐久試験)、ブレーキ性能試験、ブレーキ持続性試験における結果から、変速ベルトに必要な水準の耐屈曲疲労性(耐コグ谷亀裂性)、耐側圧性(耐心線剥離性)を確保しつつ、ブレーキ性能が発揮されるという観点で、以下の判定基準で総合的な優劣を判定(ランク付け)した。そして、製品の実用性の観点で、A、B、Cランクを合格とし、Dランクを不合格とした。
【0141】
【0142】
[実施例1]
伸張ゴム層としてR1、接着ゴム層としてR2を使用し、かつ圧縮ゴム層本体としてR1、圧縮ゴム層の内表面層としてR4を使用して、圧縮ゴム層が二層構造であるローエッジダブルコグドVベルトを作製した。得られたベルトにおいて、圧縮ゴム層の本体の厚みは9.3mm、内表面層の厚みは0.2mmであった。
【0143】
[実施例2]
得られたベルトにおける圧縮ゴム層の本体の厚みを9.2mm、内表面層の厚みを0.3mmに変更する以外は実施例1と同様の方法でローエッジダブルコグドVベルトを作製した。
【0144】
[実施例3]
得られたベルトにおける圧縮ゴム層の本体の厚みを9.0mm、内表面層の厚みを0.5mmに変更する以外は実施例1と同様の方法でローエッジダブルコグドVベルトを作製した。
【0145】
[実施例4]
得られたベルトにおける圧縮ゴム層の本体の厚みを8.5mm、内表面層の厚みを1.0mmに変更する以外は実施例1と同様の方法でローエッジダブルコグドVベルトを作製した。
【0146】
[実施例5]
得られたベルトにおける圧縮ゴム層の本体の厚みを7.5mm、内表面層の厚みを2.0mmに変更する以外は実施例1と同様の方法でローエッジダブルコグドVベルトを作製した。
【0147】
[実施例6]
得られたベルトにおける圧縮ゴム層の本体の厚みを7.0mm、内表面層の厚みを2.5mmに変更する以外は実施例1と同様の方法でローエッジダブルコグドVベルトを作製した。
【0148】
[実施例7~12]
実施例7~12は、圧縮ゴム層の内表面層としてR4に代えてR5を使用すること以外は、それぞれ実施例1~6と同様の方法でローエッジダブルコグドVベルトを作製した。
【0149】
[比較例1]
伸張ゴム層としてR1、接着ゴム層としてR2を使用し、かつ圧縮ゴム層としてR1のみを使用して、圧縮ゴム層が単層構造であるローエッジダブルコグドVベルトを作製した。得られたベルトにおいて、圧縮ゴム層の厚みは9.5mmであった。すなわち、実施例1~12の圧縮ゴム層本体の内周側表面が内表面層で被覆されず、ベルト内周面がR1で形成される態様である。
【0150】
[比較例2]
圧縮ゴム層としてR4のみを使用すること以外は、比較例1と同様の方法で圧縮ゴム層が単層構造であるローエッジダブルコグドVベルトを作製した。すなわち、実施例1~6において内表面層だけでなく圧縮ゴム層本体の部分もR4で形成された態様であり、圧縮ゴム層全体がR4で形成されている。
【0151】
[比較例3]
圧縮ゴム層の内表面層の代わりに補強布を使用すること以外は実施例1と同様の方法で、圧縮ゴム層本体の内周側表面を補強布で被覆したローエッジダブルコグドVベルトを作製した。すなわち、ベルト内周面が補強布で形成される態様である。この態様では、補強布層の厚みは0.3mmであった。
【0152】
[参考例1]
比較例3で用いた補強布にゴム組成物(R4)をフリクション処理したゴム付き補強布を作製した。このゴム付き補強布を、圧縮ゴム層の内表面層の代わりに使用すること以外は実施例1と同様の方法で、圧縮ゴム層本体の内周側表面をゴム付き補強布で被覆したローエッジダブルコグドVベルトを作製した。すなわち、実施例のベルトの内表面層の部分が、ゴム付き補強布層(ゴム組成物に補強布が埋設)として配置される態様である。この態様では、ゴム付き補強布層の厚みは0.5mmであり、ゴム付き補強布層の最外面(ベルト内周面)は厚み0.2mmのR4の薄膜で形成されていた。
【0153】
実施例1~12、比較例1~3および参考例1で得られたローエッジダブルコグドVベルトの評価結果を表4に示す。
【0154】
【0155】
比較例1は、圧縮ゴム層本体がR1で形成され、圧縮ゴム層本体の内周側表面が内表面層で被覆されない態様であるが、R1で形成されるベルト内周面の摩擦係数が0.36と低い値であった。耐久走行試験ではLow耐久(耐側圧性;耐心線剥離性)ではa判定、Top耐久(耐屈曲疲労性;耐コグ谷亀裂性)ではb判定で合格レベルであったが、充分な摩擦力が得られずエンジンブレーキ性能はc判定(不合格)となり、総合判定でDランクであった。
【0156】
比較例2は、内表面層だけでなく圧縮ゴム層本体の部分もR4で形成された態様である。R4で形成されるベルト内周面の摩擦係数が0.57と高い値であるため、充分な摩擦力が得られてエンジンブレーキ性能はa判定(合格)であった。一方、圧縮ゴム層全体が剛性の小さいR4で形成されているため、耐久走行試験ではLow耐久試験(耐側圧性;耐心線剥離性)、Top耐久試験(耐屈曲疲労性;耐コグ谷亀裂性)のいずれにおいても、剛性不足から早期に寿命に達してc判定(不合格)となり、総合判定でDランクであった。
【0157】
比較例3は、圧縮ゴム層本体の内周側表面を補強布で被覆した態様であるが、補強布で形成されるベルト内周面の摩擦係数が0.34と低い値であった。耐久走行試験ではLow耐久試験(耐側圧性;耐心線剥離性)、Top耐久試験(耐屈曲疲労性;耐コグ谷亀裂性)のいずれにおいてもa判定であったが、充分な摩擦力が得られず、エンジンブレーキ性能はc判定(不合格)となり、総合判定でDランクであった。
【0158】
実施例1~6は、圧縮ゴム層本体としてR1、圧縮ゴム層の内表面層としてR4を使用して、圧縮ゴム層を二層構造とした態様である。いずれの場合も、R4で形成されるベルト内周面の摩擦係数が0.53~0.58と高い値であった。そのため、充分な摩擦力が得られてエンジンブレーキ性能はa判定(合格)であった。
【0159】
特に、内表面層の厚みが0.5mm(実施例3)および1.0mm(実施例4)の場合には、全ての試験項目(Low耐久試験、Top耐久試験、エンジンブレーキ性能、エンジンブレーキ持続性)でa判定(合格)となり、総合判定でAランクであった。
【0160】
内表面層の厚みを2.0mm(実施例5)まで大きくすると、耐側圧性が低下してLow耐久試験でb判定となり、総合判定でBランクであった。内表面層の厚みを2.5mm(実施例6)まで大きくすると、さらにLow耐久試験(耐側圧性)での寿命が短くなる(b判定)とともに、Top耐久試験(耐屈曲疲労性;耐コグ谷亀裂性)での寿命も短くなり(b判定)、総合判定でCランクであった。
【0161】
内表面層の厚みを0.3mm(実施例2)まで小さくすると、Low耐久試験、Top耐久試験、エンジンブレーキ性能は、初期は実施例3および4と同等な水準でa判定であったが、内表面層が走行中に摩滅して圧縮ゴム層本体が露出するとブレーキ性能が効かなくなるため、走行後はb判定となり、ブレーキ性能の持続性が低下してb判定となり、総合判定でBランクであった。
【0162】
内表面層の厚みを0.2mm(実施例1)まで小さくすると、Low耐久試験、Top耐久試験、エンジンブレーキ性能は、実施例3および4と同等な水準でa判定であったが、内表面層が早期に摩滅して圧縮ゴム層本体が露出するとブレーキ性能が効かなくなるため、走行後はc判定となり、ブレーキ性能の持続性が得られずc判定となり、総合判定でCランクであった。
【0163】
実施例7~12は、実施例1~6における圧縮ゴム層の内表面層をR4からR5に替えて、圧縮ゴム層を二層構造とした態様である。これらの例でも、R5で形成されるベルト内周面の摩擦係数は0.50~0.53と高い値であった。そのため、充分な摩擦力が得られてエンジンブレーキ性能はa判定(合格)であった。
【0164】
内表面層の厚みを0.2mm(実施例7)、0.3mm(実施例8)、0.5mm(実施例9)、1.0mm(実施例10)、2.0mm(実施例11)、2.5mm(実施例12)と変量した場合においても、実施例1~6と同等の水準で、同等の傾向が見られた。
【0165】
参考例1は、圧縮ゴム層本体の内周側表面をゴム付き補強布で被覆した態様、すなわち、実施例のベルトの内表面層の部分が、ゴム付き補強布層(ゴム組成物に補強布が埋設)として配置される態様である。この態様では、ゴム付き補強布層の最外面(ベルト内周面)は厚み0.2mmのR4の薄膜で形成されているので、R4で形成されるベルト内周面の摩擦係数は0.55と高い値であった。そのため、充分な摩擦力が得られてエンジンブレーキ性能はa判定(合格)であった。しかし、R4の薄膜(厚み0.2mm)が早期に摩滅して補強布が露出するとブレーキ性能が効かなくなるため、ブレーキ性能の持続性が得られずc判定となり、総合判定でCランクであった。
【0166】
以上のように、耐久走行試験(Top耐久試験、Low耐久試験)、ブレーキ性能試験、ブレーキ持続性試験における結果から、変速ベルトに必要な水準の耐屈曲疲労性(耐コグ谷亀裂性)、耐側圧性(耐心線剥離性)を確保しつつ、ブレーキ性能が発揮されるという観点で、総合的な優劣を判定(ランク付け)すると、圧縮ゴム層本体の内周側表面に、摩擦係数の高い内表面層を設けて、二層構造に形成することが有効であると云える。圧縮ゴム層の内表面層の摩擦係数は、0.50~0.58程度でブレーキ機能(高い摩擦力)が発揮されることが確認できた。
【0167】
内表面層の平均厚みは0.2~2.5mmの範囲でブレーキ機能(高い摩擦力)が発揮されることが確認できたが、ブレーキ性能の持続性、および耐側圧性とのバランスの観点で、特に0.5~2.0mmが好適な範囲と云える。
【0168】
[実施例13]
実施例13は、圧縮ゴム層の内表面層としてR4に代えてR6を使用すること以外は、実施例3と同様の方法でローエッジダブルコグドVベルトを作製した。
【0169】
[実施例14]
実施例14は、圧縮ゴム層の内表面層としてR4に代えてR3を使用すること以外は、実施例3と同様の方法でローエッジダブルコグドVベルトを作製した。
【0170】
[実施例15]
実施例15は、圧縮ゴム層の内表面層としてR4に代えてR7を使用すること以外は、実施例3と同様の方法でローエッジダブルコグドVベルトを作製した。
【0171】
実施例13~15で得られたローエッジダブルコグドVベルトの評価結果を、実施例3および9の結果とともに表5に示す。
【0172】
【0173】
実施例13は、実施例3における内表面層のゴム組成物をR4からR6に変更した態様である。すなわち、実施例3と比べて高摩擦係数のゴム組成物を用いた態様である。耐久走行性とエンジンブレーキ性能は高水準(a判定)であったものの、内表面層が機械的強度(ゴム硬度、引張強度)の小さいゴム組成物で形成されるため、摩耗による消滅が比較的早期に生じ、エンジンブレーキ持続性はb判定であり、総合判定はBランクであった。
【0174】
実施例14および15は、実施例3における内表面層のゴム組成物をR4からそれぞれR3、R7に変更した態様である。すなわち、実施例3と比べて低摩擦係数のゴム組成物を用いた態様である。耐久走行性はa判定であったものの、エンジンブレーキ性能はやや水準が低下(b判定)した。ベルト内周面の摩擦係数が0.42の実施例14では、エンジンブレーキ性能が500マイル走行前後で持続され(持続性b判定)、総合判定はBランクであった。ベルト内周面の摩擦係数が0.39の実施例15では、500マイル走行後のエンジンブレーキ性能が低下し(持続性c判定)、総合判定はCランクであった。
【0175】
以上の結果から、エンジンブレーキ性能の水準から、ベルト内周面の摩擦係数は0.40以上が好適で、0.50以上でさらに好適になることが判明した。
【0176】
また、表5において、実施例13(摩擦係数0.60)、実施例3(摩擦係数0.56)、実施例9(摩擦係数0.51)、実施例14(摩擦係数0.42)、実施例15(摩擦係数0.39)の順に摩擦係数が低下し、0.40以上の例で総合判定がAまたはBランク、0.39の実施例15でCランクであった。他の例が短繊維を含まないの対して、実施例15は短繊維を含み、摩擦係数が0.40未満になるため、ベルト内周面に短繊維などの繊維材を配置しない方が好ましいと云える。
本発明のローエッジコグドVベルトは、内周面に高い摩擦力を必要とする伝動機構に用いられる伝動用Vベルトとして好適である。特に、スノーモービル(小型雪上車)や四輪バギー(ATV)などのベルトクラッチイン型CVTに用いられる変速ベルトとして利用でき、アイドリング時にベルト内周面がプーリシャフト部に接触するベルトクラッチイン型CVTに用いられる変速ベルトとして好適である。