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特開2023-169129藻類の培養方法、及び藻類の培養組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169129
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】藻類の培養方法、及び藻類の培養組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20231121BHJP
   C02F 3/00 20230101ALI20231121BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C02F3/00 G
C12N1/12 B
C12N1/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080616
(22)【出願日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2022080029
(32)【優先日】2022-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年3月9日に第57回日本水環境学会年会講演集にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 博己
(72)【発明者】
【氏名】有村 恒星
(72)【発明者】
【氏名】中井 智司
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA83X
4B065AC14
4B065BA30
4B065BB11
4B065BB12
4B065BC02
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】工業廃水の廃棄コスト及び工業廃水を利用した藻類培養のコストの増大を抑えることが可能な藻類培養方法を提供する。
【解決手段】藻類の培養方法は、リン成分が他の成分よりも多く含む工業廃液である第1廃液と、窒素成分が他の成分よりも多く含む工業廃液である第2廃液と混合して培養液を調製する混合工程と、該培養液を用いて藻類を培養する培養工程とを有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン成分が他の成分よりも多く含む工業廃液である第1廃液と、窒素成分が他の成分よりも多く含む工業廃液である第2廃液とを混合して培養液を調製する混合工程と、
該培養液を用いて藻類を培養する培養工程とを有する
ことを特徴とする藻類の培養方法。
【請求項2】
所定の条件に基づいて、前記混合工程で混合される前記第1廃液量と前記第2廃液量とが決定される
ことを特徴とする請求項1に記載の藻類の培養方法。
【請求項3】
前記所定の条件は、前記培養液中のリン濃度又は窒素濃度が所定の目標値となる条件である
ことを特徴とする請求項2に記載の藻類の培養方法。
【請求項4】
前記所定の条件は、藻類の産生する油脂量に基づく
ことを特徴とする請求項2に記載の藻類の培養方法。
【請求項5】
前記所定の条件は、藻類の種類に基づく
ことを特徴とする請求項2に記載の藻類の培養方法。
【請求項6】
回収した前記第1廃液及び前記第2廃液から藻類の生育を阻害し得る阻害物質を除去する除去工程をさらに含み、前記混合工程は、前記除去工程の後に行われる
ことを特徴とする請求項1に記載の藻類の培養方法。
【請求項7】
前記第2廃液は、加熱された処理剤により所定の部品を焼き入れする焼き入れ工程後の工業廃液であり、前記処理剤は、硝酸塩または亜硝酸塩を他の成分よりも多く含む
ことを特徴とする請求項1に記載の藻類の培養方法。
【請求項8】
回収した前記第1廃液から藻類の生育を阻害し得る阻害物質を除去する除去工程をさらに含み、前記混合工程は、前記第2廃液と前記除去工程後の前記第1廃液とを混合する工程である
ことを特徴とする請求項7に記載の藻類の培養方法。
【請求項9】
前記除去工程は、前記第1廃液中のフッ素イオン濃度を低減する処理を有する
ことを特徴とする請求項6または8のいずれか1つに記載の藻類の培養方法。
【請求項10】
前記第1廃液に水酸化カルシウムまたは塩化カルシウムを添加することで、該第1廃液のpHを5乃至7に調整する第1除去工程と、
前記第1除去工程後の前記第1廃液に水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムまたは炭酸ナトリウムのいずれかを添加することで、該第1廃液のpHを7乃至9に調整する第2除去工程とを含む
ことを特徴とする請求項9に記載の藻類の培養方法。
【請求項11】
前記混合工程は、前記第1廃液および前記第2廃液にさらに第3廃液を混合する希釈工程を更に含む
ことを特徴とする請求項1、6~8のいずれか1つに記載の藻類の培養方法。
【請求項12】
前記第3廃液は、リン成分または窒素成分を含み、前記第3廃液に含まれるリン成分は前記第1廃液に含まれるリン成分よりも濃度が低く、かつ、前記第3廃液に含まれる窒素成分は前記第2廃液に含まれる窒素成分よりも濃度が低い
ことを特徴とする請求項11に記載の藻類の培養方法。
【請求項13】
前記第1廃液は塗装工場から排出される廃液であり、かつ、前記第2廃液は鋳造工場または変速機工場から排出される廃液である
ことを特徴とする請求項1、6~7のいずれか1つに記載の藻類の培養方法。
【請求項14】
前記培養工程における培養後の前記培養液を、工業施設で再利用する回収工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項1、6~8のいずれか1つに記載の藻類の培養方法。
【請求項15】
リン成分が他の成分よりも多く含む工業廃液である第1廃液と、窒素成分が他の成分よりも多く含む工業廃液である第2廃液とが混合された混合液を含む
ことを特徴とする藻類の培養組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、藻類の培養方法、及び藻類の培養組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場などの工業施設から環境中に排出される工業廃水に大量に含まれるリンなどの無機塩は、土壌や水環境の汚染・汚濁の原因となる。そこで近年、工業廃水を利用して藻類を培養することで、工業廃水中のリン成分を減少させる技術開発が進められている。
【0003】
この技術により工業廃水を安全に環境中に排出できると共に、藻類から生産された有価物を産業に活用できる。この有価物は、例えばバイオ燃料であり、藻類からバイオ燃料を生産することで、化石燃料の消費の増大を抑えることができ、その結果、地球温暖化の原因である二酸化炭素の排出削減できる。このように工業廃水を再利用する技術は、環境への負荷を低減することができる。
【0004】
特許文献1には、めっき廃液から回収しためっき廃液由来の亜リン酸または次亜リン酸を含有する藻類の培養組成物が開示されている。このようにめっき廃液を再利用することで、藻類を用いた自然エネルギー化の原料としてもめっき廃液を有効活用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-107112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、藻類の生育に必要な栄養素として窒素及びリンは重要である。特許文献1では、めっき廃液に主に含まれる亜リン酸および次亜リン酸を利用しているが、藻類の培養効率を高めるために窒素成分(アンモニア等)が不足している場合、別途窒素成分を添加剤として加える必要がある。
【0007】
このような工業廃水は一日に大量に排出されるため、藻類の培養に必要な添加剤も大量に必要になりコストが増大する。また、排出される工業廃水の一部のみを藻類の培養に使用することで添加剤の添加量を抑えたとしても、残りの工業廃水を環境中に放出するには、該工業廃水を希釈する必要があるため、依然コストを抑えることができない。このように、工業廃水を利用して藻類を培養する方法には改良の必要がある。
【0008】
本開示の目的は、工業廃水の廃棄コスト及び工業廃水を利用した藻類培養のコストの増大を抑えることが可能な藻類培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の一実施形態に係る藻類の培養方法は、リン成分が他の成分よりも多く含む工業廃液である第1廃液と、窒素成分が他の成分よりも多く含む工業廃液である第2廃液とを混合して培養液を調製する混合工程と、該培養液を用いて藻類を培養する培養工程とを有することを特徴とする。
【0010】
第1廃液と第2廃液とを混合することにより、リン成分と窒素成分とを含んだ藻類の培養液を調製できる。このことで、窒素成分またはリン成分を別途添加剤として添加する必要がなく、藻類の培養コストを抑えることができる。また、藻類の培養により培養液中のリン成分及び窒素成分が消費されるため、希釈することなく第1廃液と第2廃液とを含む廃液を環境中に安全に放出できる。その結果、工業廃液の放出に要するコストの増大を抑えることができると共に、環境負荷を低減できる。
【0011】
前記混合工程において、所定の条件に基づいて混合される前記第1廃液量と前記第2廃液量とが決定されることが好ましい。
【0012】
本構成によれば、例えば、リン成分及び窒素成分の濃度が所望の濃度となるように培養液を調製できる。
【0013】
前記所定の条件は、前記培養液中のリン成分及び窒素成分の少なくとも一方の濃度が所定の目標値となる条件であることが好ましい。
【0014】
本構成によれば、例えば、所定の目標値を藻類の培養に適したリン成分の濃度及び窒素成分の濃度とすることで、第1廃液のリン成分及び第2廃液の窒素成分の濃度に基づいて、混合する第1廃液量と第2廃液量とを簡便に求めることができる。
【0015】
前記所定の条件は、藻類の産生する油脂量に基づくことが好ましい。
【0016】
本構成によれば、藻類の油脂産生量を向上できる。また、藻類の油脂産生に適した培養液を提供できる。
【0017】
前記所定の条件は、藻類の種類に基づくことが好ましい。
【0018】
本構成によれば、各種の藻類に適した培養を行うことができる。また、各種の藻類の培養に適した培養液を提供できる。
【0019】
回収した前記第1廃液及び前記第2廃液から藻類の生育を阻害し得る阻害物質を除去する除去工程をさらに含み、前記混合工程は、前記除去工程の後に行われることが好ましい。
【0020】
本構成によれば、除去工程により、第1廃液および第2廃液の毒性を低減できる。このことで、培養工程における藻類の増殖低下を抑制、ひいては藻類の油脂産生量の低下を抑制できる。
【0021】
前記第2廃液は、加熱された処理剤により所定の部品を焼き入れする焼き入れ工程後の工業廃液である場合、前記処理剤は、硝酸塩または亜硝酸塩を他の成分よりも多く含む、とすることが好ましい。
【0022】
本構成によれば、処理剤に含まれる硝酸塩または亜硝酸塩により焼き入れ工程後の廃液は窒素を比較的多く含む。このような廃液を第2廃液として藻類の培養に使用することができる。
【0023】
回収した前記第1廃液から藻類の生育を阻害す得る阻害物質を除去する除去工程をさらに含み、前記混合工程は、前記第2廃液と前記除去工程後の前記第1廃液とを混合する工程であるとすることが好ましい。
【0024】
本構成によれば、第2廃液に含まれる阻害物質は比較的少量であるため、第2廃液に対して除去工程を実施する手間を省くことができる。
【0025】
前記第1廃液に水酸化カルシウムを添加することで、該第1廃液のpHを5乃至7に調整する第1除去工程と、前記第1除去工程後の第1廃液に水酸化ナトリウムを添加することで、該第1廃液のpHを7乃至9に調整する第2除去工程とを含むとすることが好ましい。
【0026】
本構成によれば、第1除去工程により第1廃液中のフッ素イオン濃度を低減でき、第2除去工程により第1廃液中の金属イオン濃度を低減できる。このように第1廃液中に含まれる阻害物質を低減できる。
【0027】
前記混合工程は、前記第1廃液および前記第2廃液にさらに第3廃液を混合する希釈工程を更に含むことが好ましい。
【0028】
本構成によれば、希釈工程により培養液中のリン成分濃度及び窒素成分濃度を所望の濃度に調整できる。
【0029】
前記第3廃液は、リン成分または窒素成分を含み、第3廃液に含まれるリン成分は第1廃液に含まれるリン成分よりも濃度が低く、かつ、第3廃液に含まれる窒素成分は第2廃液に含まれる窒素成分よりも濃度が低いことが好ましい。
【0030】
本構成によれば、リン成分または窒素成分が含まれる第3廃液を希釈用廃液として再利用できる。
【0031】
前記第1廃液は塗装工場から排出される廃液であり、かつ、前記第2廃液は鋳造工場から排出される廃液であることが好ましい。
【0032】
本構成によれば、塗装工場の廃液中のリン成分と、鋳造工場の廃液中の窒素成分を藻類の培養に有効利用できる。このように、塗装工場の廃液と鋳造工場の廃液とを有効に再利用できる。
【0033】
前記培養工程における培養後の前記培養液を、工業施設で再利用する回収工程をさらに含むことが好ましい。
【0034】
本構成によれば、環境中に放出される工業廃液の量が抑えられるため、環境負荷を低減できる。さらに廃液を再利用することで資源を有効利用でき、省資源化を実現できる。
【0035】
本開示の一実施形態に係る藻類の培養組成物は、リン成分が他の成分よりも多く含む産業廃液である第1廃液と、窒素成分が他の成分よりも多く含む産業廃液である第2廃液とが混合された混合液を含むことを特徴とする。
【0036】
本構成によれば、このような第1廃液及び第2廃液を混合することにより、簡便に藻類の培養組成物を調製できる。第1廃液と第2廃液とを再利用することで廃液処分のコストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0037】
以上述べたように、本開示によると、第1廃液と第2廃液とを混合することで、リン成分と窒素成分とを含んだ培養液を調製できるため、藻類の藻類コストの増大を抑えることができると共に、第1廃液及び第2廃液の廃棄コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、実施形態1の藻類培養システムの全体構成を示す概略図である。
図2図2は、第1廃液及び第2廃液の水質を示す表である。
図3図3は、藻類コンソーシアムの顕微鏡写真である。
図4図4は、藻類の培養実験1の結果を示すグラフである。
図5図5は、藻類の培養実験2の結果を示すグラフである。
図6図6は、藻類の培養前後における培養液の組成の変化を示す表である。
図7図7は、実施形態2の藻類培養システムの全体構成を示す概略図である。
図8図8は、塗装工場から採取された第1廃液の組成の一部を示す表である。
図9図9は、実施形態2の培養実験に用いたCarefoot培地の組成を示す表である。
図10図10は、フッ素イオンによる藻類の増殖阻害の検討結果を示すグラフである。
図11図11は、第1除去工程の検討結果を示す表である。
図12図12は、第2除去工程の検討結果を示す表である。
図13図13は、藻類の培養実験の結果を示すグラフである。
図14図14は、各培地中の培養前後の窒素濃度及びリン濃度を示す表及びフラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本開示の実施形態について図面を基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0040】
1.実施形態1
(1)藻類培養システム1の概要
図1に示すように、本例の藻類培養システム1は、塗装工場10、鋳造工場20、混合タンク30、培養槽40、水資源再生場50、及び工業用水受水タンク60を有する。藻類培養システム1では、工業用水受水タンク60から搬送されて塗装工場10および鋳造工場20のそれぞれで使用された工業用水は、工業廃液として混合タンク30に搬送される。混合タンク30内では、各種の工場から搬送された複数種類の工業廃液が所定の条件に基づいて混合される。この混合液は培養液として培養槽40へ搬送される。培養槽40では藻類が培養され、培養後の培養液は水資源再生場50に搬送されて、工業用水として利用可能な程度にまで浄化される。水資源再生場50の工業用水は工業用入水タンクに搬送される。工業用水受水タンク60の工業用水は再び塗装工場10および鋳造工場20のそれぞれに搬送される。このように、藻類培養システム1はこれらの工業施設の間で水が循環するように構成される。
【0041】
(1-1)塗装工場
本例の塗装工場10は、自動車の車体のボディーを塗装する工場である。塗装工場10では、塗装工程(被膜化成)において廃液が排出される。この塗装工程で排出される工業廃液は、本開示の第1廃液の一例である。第1廃液は、例えば1日に0.2t排出される。
【0042】
第1廃液は、リン成分が他の成分よりも多く含む工業廃液である。具体的に、第1廃液中のリン成分の濃度は、100~2,000mg/Lである。また、第1廃液の水質の一例を濃度(mg/L)比で示すと、化学的酸素要求量(COD;Chemical Oxygen Demand):窒素(N):リン(P)=22:28:503である。リンは、リン酸鉄として存在している。
【0043】
塗装工場10からは第1廃液と異なる廃液が第3廃液として排出される。第3廃液は、リン成分及び窒素成分を含む工業廃液である。第3廃液中のリン成分の濃度は、第1廃液のリン成分の濃度よりも低く、第3廃液中の窒素成分の濃度は、後述の第2廃液の窒素成分の濃度よりも低い。第3廃液は、例えば、塗装工場10で塗装工程(被膜化成)以外の工程で排出される廃液である。
【0044】
(1-2)鋳造工場
本例の鋳造工場20は、自動車のボディーを鋳造する工場である。鋳造工場20では、砂型鋳造工程において廃液(アミン廃液)が排出される。この砂型鋳造工程で排出される工業廃液は、本開示の第2廃液の一例である。第2廃液は、例えば1日に0.2t排出される。
【0045】
第2廃液は、窒素成分が他の成分よりも多く含む工業廃液である。第2廃液中の窒素成分の濃度は10,000~60,000mg/Lである。また、第2廃液の水質の一例を濃度(mg/L)比で示すと、化学的酸素要求量(COD;Chemical Oxygen Demand):窒素(N):リン(P)=2952:4518:91である。窒素は、トリエチルアミンなど所定の化合物として含まれる。
【0046】
(1-3)混合タンク
混合タンク30では、第1廃液と第2廃液と第3廃液とが混合されることで調製された培養を貯留するタンクである。培養液は、藻類の培養液として利用される。詳細は後述するが、所定の条件に基づいて、混合する第1廃液量、第2廃液量、及び第3廃液量が決定された後、それらの廃液が混合されることで培養液が調製される。
【0047】
混合タンク30には、塗装工場10から第1廃液が搬送される。鋳造工場20から第2廃液が搬送される。また、混合タンク30には、塗装工場10から第3廃液が搬送される。このように、混合タンク30には、直接各種の工場から培養液を構成する各工業廃液が搬送される。
【0048】
(1-4)培養槽
培養槽40には、混合タンク30から培養液が搬送される第1搬送管31が接続される。培養槽40は、藻類を培養するプールである。培養槽40は、0.1m~120mの容積を有する。培養槽40は、屋外に設置され、培養中の藻類は日光により光合成を行う。培養槽40には、曝気装置(図示省略)が配置される。曝気装置は、培養槽40中の培養液に空気を搬送して藻類の活性化および増殖を促す装置である。曝気装置により藻類が産生する油脂等の有価物の生産効率が向上する。
【0049】
培養槽40には、1回の培養につき0.1m~120mの培養液が搬送される。培養槽40中に搬送された培養液中に藻類が投入される。
【0050】
(1-5)水資源再生場
水資源再生場50には、培養槽40から培養後の廃液が搬送される第2搬送管41が接続される。水資源再生場50において、培養槽40から搬送された培養後の廃液が浄化される。
【0051】
(1-6)工業用水受水タンク
工業用水受水タンク60には、水資源再生場50から浄化された工業用水が搬送される。工業用水受水タンク60は、第3搬送管51を介して入水した浄化後の工業用水を貯留する。また、水資源再生場50から浄化された一部の工業用水は、環境中に放出される。
【0052】
工業用水受水タンク60には、塗装工場10に接続される第4搬送管61、及び鋳造工場20に接続される第5搬送管62が接続される。工業用水受水タンク60中の工業用水は、第4搬送管61を介して塗装工場10へ供給される。同様に、工業用水受水タンク60中の工業用水は、第5搬送管62を介して鋳造工場20へ供給される。
【0053】
(2)藻類の培養方法
次に藻類の培養方法について説明する。藻類の培養方法は、除去工程、混合工程、滅菌工程、培養工程及び回収工程を含む。本例の藻類の培養方法では、混合工程は更に希釈工程を含む。本例では、除去工程、混合工程、滅菌工程、培養工程及び回収工程の順で実施される。
【0054】
(2-1)除去工程
第1廃液の除去工程は、第1廃液から藻類の生育を阻害し得る阻害物質を減少させる工程である。これにより、第1廃液の毒性が低減する。第1廃液中の阻害物質は、例えば亜鉛や鉄イオンである。
【0055】
第1廃液の除去工程は、塗装工場10内で行われる。第1廃液の除去工程は、混合タンク30内で行われてもよい。第1廃液の除去工程では、第1廃液中に水酸化ナトリウムを添加すると共に、第1廃液中のpHを7.0に調整した後、メンブレンフィルタを通すことで上澄液と沈殿物とに分離される。具体的に、式1に示すように、第1廃液中において、リン成分はリン酸鉄として存在しているため、水酸化ナトリウムが添加されることで、可溶化リン酸塩として水に溶ける一方、鉄や亜鉛などの金属イオンは、水酸化ナトリウムにより析出し沈殿する。
FePO + NaOH → Fe(OH) + NaPO …(式1)
第1廃液中に含まれる沈殿した析出物は、メンブレンフィルタにより除去され、毒性が低減された上澄液が得られる。この上澄液が培養液の組成物として利用される。析出物は、所定の処理を行った後に環境中に放出されるか、再利用される。
【0056】
第2廃液の除去工程は、第2廃液から藻類の生育を阻害し得る阻害物質を減少させる工程である。これにより、第2廃液の毒性が低減する。具体的には、第2廃液中の阻害物質であるトリエチルアミンが分解される。トリエチルアミンの分解後の窒素成分が藻類で代謝される窒素化合物として利用される。
【0057】
第2廃液の除去工程は、鋳造工場20内で行われる。第2廃液の除去工程は、混合タンク30内で行われてもよい。第2廃液の除去工程では、ガラス繊維ろ紙で濾過した水を用いて第2廃液を希釈した後、活性汚泥処理を行う。活性汚泥処理は、例えば、曝気することにより活性および増殖した好気性細菌によって第2廃液中の汚濁物質を分解する処理である。汚濁物質濃度と曝気量とを管理することによって、細菌が増殖して沈降分離し、この過剰に増殖した活性汚泥を分離することで、毒性が低減した上澄液が得られる。この上澄液が培養液の組成物として利用される。沈殿物は、所定の処理を行った後に環境中に放出されるか、再利用される。
【0058】
(2-2)混合工程及び希釈工程
混合工程は、混合タンク30で行われる。混合工程では、第1廃液と第2廃液とが混合された培養液が調製される。混合する第1廃液と第2廃液の量は、所定の条件に基づいて決定される。決定された各廃液量に基づいて、塗装工場10から流入した第1廃液と鋳造工場20から流入した第2廃液とが混合される。
【0059】
本例の所定の条件は、培養液中のリン成分および窒素成分の濃度が所定の目標値となる条件である。目標値は、藻類の培養に適したリン濃度及び窒素濃度に設定される。ここで、リン濃度と窒素濃度との比は、レッドフィールド比に基づく。レッドフィールド比は、一般的に藻類の培養に適していると言われるN及びPのモル比率であり、N:P=16:1である。
【0060】
本例の混合工程は、希釈工程を含む。希釈工程は、培養液中のリン成分及び窒素成分の濃度が目標値となるように希釈する工程である。希釈工程では、第3廃液が希釈用廃液として用いられる。第3廃液は、第1廃液及び第2廃液よりもリン濃度及び窒素濃度が低いため、第3廃液を第1廃液及び第2廃液に混合することで、リン濃度及び窒素濃度が目標濃度となるように薄めることができる。なお、第3廃液にも、リン成分及び窒素成分が含まれるため、第1廃液及び第2廃液は、第3廃液に含まれるリン成分及び窒素成分の量を考慮して混合される。
【0061】
(2-3)滅菌工程
本例の滅菌工程は、混合工程の後に行われる。滅菌工程は、培養液中の微生物を死滅させる工程である。具体的に、滅菌工程では、混合工程において混合した培養液に水酸化ナトリウムを添加することによって、該培養液を強アルカリ性(例えばpH13)にする。水酸化ナトリウムを添加する工程は、混合タンク30内で行われる。
【0062】
水酸化ナトリウムを添加することで、培養液は上澄み液と沈殿物とに分離される。上澄み液は滅菌後の培養槽40に搬送される。沈殿物は水資源再生場50へ搬送される。培養槽40に搬送された培養液(上澄み液)は、所定期間(例えば40時間以上)放置される。これにより培養液中の微生物や細菌は死滅する(滅菌される)。所定期間経過後、培養液に硫酸などの酸性溶液を添加して中和(例えばpH7.2)する。これにより、藻類の培養に適した培養液が得られる。この滅菌後の培養液は、緩衝能が付与されている。
【0063】
このように本例では、上記(2-1)~(2-3)により藻類の培養組成物(培養液)が得られる。この培養組成物は次の培養工程に用いられる。
【0064】
(2-4)培養工程
培養工程は、培養液(培養組成物)を用いて藻類を培養する工程である。培養工程は、培養槽40にて行われる。本例の培養工程で用いられる藻類は、微細藻類である。藻類は、単離された単一の藻類であってもよいし、環境中から採取された藻類コンソーシアムであってもよい。藻類の種類に特に限定はない。
【0065】
本例の藻類の培養は、バッチ培養である。混合タンク30から1回の培養に必要な培養液が培養槽40へ間欠給水される。培養槽40で使用された培養液は水資源再生場50に搬送され、混合タンク30から藻類培養槽40に次の培養用の一定量の培養液が搬送される。具体的に、藻類培養槽40には混合タンク30から0.1m~120mの培養液が搬送される。すなわち、1回当たりの培養では、0.1m~120mの培養液が使用される。
【0066】
培養槽40の培養液には、藻類が投入される。培養槽40では、槽内に設けられた曝気装置により藻類が曝気される。これにより藻類は、増殖しつつ油脂等の有価物を産生する。1回の培養期間は、例えば14日間である。培養後の上澄液は、水資源処理場に搬送され、沈殿した藻類は次の培養に再利用される。
【0067】
(2-5)回収工程
回収工程は、培養工程における培養後の培養液を、塗装工場10及び鋳造工場20を含む工業施設で再利用する工程である。具体的に、回収工程では培養後の培養槽40から培養液を回収して浄化し、再び工業用水として再利用する工程である。培養槽40から第2搬送管41を介して培養後の培養液が水資源再生場に搬送される。培養後の培養液は水資源再生場において所定の処理により浄化された後、第3搬送管51を介して工業用水受水タンク60に搬送される。
【0068】
(3)実験例
次に各実験例について説明する。
【0069】
(3-1)第1廃液、第2廃液及び第3廃液
図2は、ある日の第1廃液及び第2廃液の水質を表す。具体的に、この日の第1廃液(pH2.7)のリン濃度は、1772mg/L、第2廃液(pH3.5)の窒素濃度は、19,380mg/Lであった。第2廃液は、鋳造工場20における脱臭槽に溜まったものを間欠的に回収された廃液である。
【0070】
水質は、日によって異なる値を示す。本実験例で用いた第1廃液のリン濃度は、471mg/L(pH3.0)であり、第2廃液の窒素濃度は、58,900mg/Lであり、第3廃液のリン濃度及び窒素濃度はそれぞれ0.33mg/L、8.14mg/Lである。
【0071】
(3-2)塗装工程廃水(第1廃液)の金属イオン除去処理
本実験例では、第1廃液に希NaOHを添加して、第1廃液をpH7.0に調整した。これにより、リン酸塩は可溶化され、白色の水酸化鉄を含む沈殿物が得られた。
【0072】
その後、第1廃液を孔径0.45μmのメンブレンフィルタにより沈殿物を除去して、上澄液を培養液に用いた。
【0073】
(3-3)鋳造工程廃液(第2廃液)のトリエチルアミンの分解処理について
本実験例では、0.44mmガラス繊維ろ紙でろ過した所定の工業用水を用いて、第2廃液を10倍希釈した。これに東広島市内の下水処理場から採取した活性汚泥を植種して活性汚泥処理を実施した。活性汚泥処理は上述した通りである。培養後、第2廃液を孔径0.44mmメンブレンフィルタにより沈殿物を除去して、上澄液を培養液に用いた。
【0074】
(3-4)培養液の調製
所定の条件に基づいて、第1廃液、第2廃液及び第3廃液を混合することで滅菌前の培養液を調製した。所定の条件は、培養液中のリン濃度と窒素濃度とが目標濃度となる条件である。本実施形態のリン濃度の目標値及び窒素濃度の目標値は、レッドフィールド比を満たす。
【0075】
具体的に、第3廃液(リン濃度:0.33mg/L、窒素濃度:8.14mg/L)に、リン濃度が1.5mg/L(0.05mM)となるように第1廃液を加え、さらに窒素濃度が11.2mg/L(0.8mM)となるように第2廃液を加えた。
【0076】
(3-5)滅菌処理
滅菌前の培養液(pH6.7)に水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH13の培養液を得た。この培養液を44時間放置した後、塩酸でpH7.2に中和した。この培養液では滅菌処理を行わなかった培養液と比べて死んだ微生物が多く確認できた(図示省略)。以下ではこの滅菌後の培養液を検討培地と呼ぶ場合がある。
【0077】
(3-6)藻類の培養
(3-6-1)培養実験1
図3は、広島県安芸郡府中町新地3-1マツダ株式会社 東水資源再生センターの東処理場の曝気槽から採取した藻類コンソーシアムの顕微鏡写真である。本実験例ではこの藻類コンソーシアムを用いた。藻類の培養では、25℃の培養液(検討培地)に、藻類コンソーシアムを投入し、8日間振とう培養を行った。培養開始から2日おきに藻類の増殖量の一般的な評価指標である培養液の濁度を測定した。この濁度の測定には、吸光光度計を用いた。濁度が高いほど培養液中の藻類濃度が高いことがわかる。
【0078】
本実験では、上記検討培地と、第3廃液のみの溶液(比較培地1)、及び第3廃液と阻害物質除去後の第1廃液とを混合した溶液(比較培地2)とを用いて、藻類増殖の比較検討を行った。
【0079】
図4に示すように検討培地で培養した藻類の増殖は、比較培地1及び比較培地2と概ね同じ高さであった。この結果から、本実施形態の検討培地に毒性が概ねないことがわかった。すなわち、上記除去処理及び分解処理により、第1廃液及び第2廃液から藻類の増殖を阻害し得る阻害物質が低減されたことがわかった。
【0080】
また、本例の培養液を用いて藻類の増殖を確認できたことから、リン成分を含む塗装工程廃液(第1廃液)と窒素成分を含む鋳造工程廃液(第2廃液)を用いて藻類を培養できることを確認できた。
【0081】
(3-6-2)培養実験2
培養実験2では、培養実験1とは異なる日時に採取された第1廃液、第2廃液および第3廃液を用いて培養液(検討培地)を調製した。培養実験2では、検討培地及び比較培地1を用いた。本実験の培養条件は、特に断りのない限り上記培養実験1と同じ条件である。
【0082】
図5に示すように検討培地で培養した藻類の増殖は、比較培地1に比べて高いことを示した。これにより、培養実験1と同様に、検討培地中の阻害物質は藻類の生育を阻害しない程度まで低減されており、検討培地に毒性が概ねないことがわかった。
【0083】
また、検討培地の方が比較培地1よりも藻類の増殖が高いのは、検討培地に含まれるリン及び窒素の濃度が比較培地1よりも高いからであると考えられる。次に藻類の培養前後において検討培地中の窒素及びリンの消費量について検討した。
【0084】
(3-7)培養前後における培養液中のリン濃度及び窒素濃度の変化
本検討では、上記(3-6-2)の培養実験2の検討培地及び比較培地1について、窒素濃度及びリン濃度の変化を検討した。図6に示すように、検討培地において窒素濃度及びリン濃度共に培養前後において減少していることがわかった。特に、窒素濃度の減少が顕著であった。
【0085】
このように、窒素およびリンを含む工業廃水から調製した培養液を藻類の培養に用いることで、培養液から窒素濃度およびリン濃度を減少させることができる。また、除去工程により阻害物質の量を藻類の生育に影響がない程度まで低減させており、窒素濃度及びリン濃度を所定の基準以下にまで低減できれば、培養後の廃液(培養液)をそのまま自然環境に放出したり、再び工業用水として使用したりすることもできるため、排水処理を簡便に行うことができ排水処理コストを抑えることができる。
【0086】
(4)特徴
(4-1)特徴1
本実施形態の藻類の培養方法は、リン成分が他の成分よりも多い第1廃液と、窒素成分が他の成分よりも多い第2廃液とを混合して培養液を調製する混合工程と、該培養液を用いて藻類を培養する培養工程とを有する。
【0087】
本実施形態によると、第1廃液と第2廃液とを利用して、藻類の培養に適した量のリン成分と窒素成分とを含んだ培養液を調製できる。このことで、窒素成分またはリン成分を別途添加剤として添加する必要がなく、藻類の培養コストを抑えることができる。
【0088】
加えて、藻類が培養液中のリン成分および窒素成分を消費することで、培養液中のリン成分および窒素成分の濃度が減少するため、培養後の培養液を再び工場で再利用するための浄化処理にかかるコストを低減できる。
【0089】
加えて、藻類の培養により培養液中のリン成分及び窒素成分が低減するため、希釈することなく培養後の第1廃液と第2廃液とを含む廃液を環境中に放出できる。このことで、工業廃液の放出に要するコストの増大を抑えることができると共に、環境負荷を低減できる。
【0090】
(4-2)特徴2
本実施形態の藻類の培養方法は、所定の条件に基づいて、混合工程において混合する第1廃液量と第2廃液量とを決定する。
【0091】
本実施形態によると、例えば、各種の藻類の生育に適したリン濃度及び窒素濃度となるように培養液を調製できる。
【0092】
(4-3)特徴3
本実施形態の藻類の培養方法では、所定の条件は、培養液中のリン成分及び窒素成分の濃度が所定の目標値となる条件である。
【0093】
本実施形態によると、所定の目標値は藻類の増殖または油脂の産生量に最適な濃度値である。また、所定の目標値は、レッドフィールド比を満たすように決定される。このことで、藻類の増殖性及び油脂の生産性を向上できる。
【0094】
(4-4)特徴4
本実施形態の藻類の培養法は、回収した第1廃液及び第2廃液から藻類の生育を阻害し得る阻害物質を除去する除去工程をさらに含む。
【0095】
本実施形態によると、除去工程により第1廃液及び第2廃液の毒性を低減できる。これにより、培養中の藻類の増殖の低下が抑制されるため、藻類による培養液中のリン及び窒素の取りこみの低下を抑制できる。その結果、培養液中のリン濃度及び窒素濃度を低下を促進でき、培養後の培養液をそのまま環境中に放出したり工業用水として再利用したりすることができる。また、藻類の増殖の低下が抑制される結果、藻類による油脂の産生量の低下を抑制できる。
【0096】
(4-5)特徴5
本実施形態の藻類の培養方法において、混合工程は、第1廃液及び第2廃液にさらに第3廃液を混合する希釈工程を更に含む。
【0097】
本実施形態によると、希釈工程により培養液中のリン成分濃度及び窒素成分濃度を所望の濃度に調整できる。第1廃液、第2廃液及び第3廃液のみで藻類の培養液を構成できる。
【0098】
(4-6)特徴6
本実施形態の藻類の培養方法において、第3廃液は、リン成分または窒素成分を含み、第3廃液に含まれるリン成分は第1廃液に含まれるリン成分よりも濃度が低く、かつ、第3廃液に含まれる窒素成分は第2廃液に含まれる窒素成分よりも濃度が低い。
【0099】
本実施形態によると、リン成分または窒素成分が含まれる第3廃液を希釈用廃液として利用できる。
【0100】
(4-7)特徴7
本実施形態の藻類の培養方法において、第1廃液は塗装廃液であり、かつ、第2廃液は鋳造廃液である。
【0101】
本実施形態によると、塗装廃液中のリン成分と鋳造廃液中の窒素成分を藻類の培養に有効利用できる。このように塗装廃液と鋳造廃液とを有効に再利用できる。
【0102】
(4-8)特徴8
本実施形態の藻類の培養方法において、培養後の培養液を、工業施設で再利用する回収工程をさらに含む。
【0103】
本実施形態によると、環境中に放出される廃液量が抑えられるため、環境負荷を低減できる。さらに廃液を再利用することで資源を有効利用でき、省資源化を実現できる。
【0104】
(4-9)特徴9
本実施形態の藻類の培養組成物は、リン成分が他の成分よりも多く含む廃液である第1廃液と、窒素成分が他の成分よりも多く含む産業廃液である第2廃液とが混合された混合廃液を含む。
【0105】
本実施形態によると、このような第1廃液及び第2廃液を混合することにより、簡便に藻類の培養組成物を調製できる。第1廃液と第2廃液とを再利用することで廃液処分のコストを抑えることができる。
【0106】
2.実施形態2
実施形態2について説明する。以下では、上記実施形態1と異なる点についてのみ説明する。
【0107】
(5)変速機工場
図7に示すように実施形態2の藻類培養システム1は、変速機工場70を有する。変速機工場70では、焼き入れ工程および洗浄工程が行われる。焼き入れ工程は、加熱された処理剤により所定の部品を焼き入れする。所定の部品は、自動車の金属部品である。金属部品は、例えばギヤ部品である。処理剤は、硝酸塩または亜硝酸塩を他の成分より多く含む。本例の処理剤には、硝酸カリウムおよび亜硝酸ナトリウムが使用される。焼き入れ工程では、高温(140℃以上)に加熱することで溶融した処理剤にギヤ部品が含浸される。洗浄工程は、焼き入れ工程後のギヤ部品を洗浄する。
【0108】
本例の第2廃液は、変速機工場70で排出される焼き入れ工程後の工業廃液である。第2廃液は、焼き入れ工程後の洗浄工程から処理剤に由来する窒素を比較的高濃度に含む。
【0109】
(6)除去工程
実施形態2の藻類培養システム1は、第1廃液処理装置80を備える。第1廃液処理装置80では除去工程が行われる。第1廃液処理装置80は、塗装工場10と混合タンク30をつなぐ送液ラインに接続される。第1廃液処理装置80は、塗装工場10から排出された第1廃液から藻類の生育を阻害し得る阻害物質を減少させた後、第1廃液を混合タンク30に送液する。第1廃液処理装置80は、塗装工場10に設けられてもよい。
【0110】
変速機工場70から排出された第2廃液は阻害物質を含まないか、または藻類の生育に影響が生じる程の量の阻害物質を含まない。従って、本例では第1廃液について除去工程が実施され、第2廃液については除去工程が実施されない。これにより、本例の混合工程では、混合タンク30において除去工程が実施されない第2廃液と除去工程後の第1廃液とが混合される。
【0111】
実施形態2の除去工程は、第1廃液中のフッ素イオン濃度を減少させる処理を含む。具体的に、除去工程は、第1廃液に水酸化カルシウムを添加することで、該第1廃液のpHを5乃至7に調整する第1除去工程と、第1除去工程後の第1廃液に水酸化ナトリウムを添加することで、該第1廃液のpHを7乃至9に調整する第2除去工程とを含む。
【0112】
第1除去工程は、第1廃液中のフッ素イオン濃度を低下させる工程である。第1除去工程は、中性域で沈殿物を生じさせる。第1除去工程は、第1廃液中に水酸化カルシウムを添加することで、フッ化カルシウムを沈殿させる。
【0113】
ここで、水酸化カルシウムの添加量が多いほど、フッ化カルシウムの生成量も多くなり第1廃液中のフッ素量をより減少させることができる。しかし、水酸化カルシウムの添加量が多いほど、リン酸カルシウムの生成量も多くなり、第1廃液中のリン濃度が低下してしまう。そこで、本例の第1除去工程では、第1廃液中のリン濃度の低下を抑えつつ、フッ素をできるだけ多く除去できる量の水酸化カルシウムが添加される。
【0114】
具体的に、第1除去工程において第1廃液がpH5~7になるまで水酸化カルシウムを添加される。好ましくは、第1廃液がpH5.5~6.5になるまで水酸化カルシウムを添加され、より好ましくは、第1廃液がpH5.8~6.2になるまで水酸化カルシウムを添加され、最も好ましくは第1廃液がpH6.0になるまで水酸化カルシウムを添加される。
【0115】
第2除去工程は、第1除去工程後の第1廃液に含まれる金属イオンを低下させる工程である。金属イオンは、亜鉛、アルミニウム、鉄、ニッケルのイオンを含む。これらの金属イオンは、藻類の生育を阻害する。これらの金属イオンのうちニッケルイオンが特に藻類の生育に影響を及ぼす。第2除去工程では、第1廃液がpH7~10になるまで水酸化ナトリウムを添加する。好ましくは、第1廃液がpH8.0~9.5になるまで水酸化ナトリウムを添加し、より好ましくは、第1廃液がpH8.5~9.5になるまで水酸化ナトリウムを添加し、最も好ましくは第1廃液がpH9になるまで水酸化ナトリウムを添加する。
【0116】
(7)実験例
次に第2実施形態の各実験例について説明する。
【0117】
(7-1)フッ素イオンが藻類の生育に与える影響検討
図8に示すように、塗装工場10から採取された第1廃液中には比較的高濃度のフッ素イオンを含む。そこで、第1廃液中のフッ素イオンが藻類の生育に与える影響を検討した。
【0118】
本検討では、フッ素イオンを含まない培地をコントロール培地として、該コントロール培地にNaFを添加したフッ素を含有する3種類の培地を調製した。この3種類の培地は、フッ素イオン濃度がそれぞれ異なる(0.0045mg/L、0.45mg/L、4.5mg/L)ように調製された。コントロール培地は、図9に示す組成を有するCarefoot培地(CULTURE AND HETEROTROPHY OF THE FRESHWATER DINOFLAGELLATE, PERIDINIUM CINCTUM FA. OVOPLANUM LINDEMAN J. Russel Carefoot June 1968参照)とした。
【0119】
上記(3-6)と同じ方法で藻類を培養しこれらの4つの培地について藻類の増殖を比較した。藻類の増殖を藻体濃度として培養液の濁度で評価でした。なお、NaFの培養液中の濃度1.0~10mg/Lは、フッ素イオン換算で0.45~4.5mg/Lである。
【0120】
図10に示すように、いずれの培地でも藻類の増殖が見られた。特に、コントロール培地は約330の濁度を示し、フッ素イオン濃度が0.0045mg/L及び0.45mg/Lの培地は、コントロール培地と同程度の藻類の増殖の高さを示した。一方で、フッ素イオン濃度が4.5mg/Lの培地は約74の濁度を示し、他の培地に比べると藻類の増殖に影響が見られた。
【0121】
この結果より、培養液中のフッ素イオン濃度が1.0mg/L程度であれば藻類の増殖に影響は概ねないと考えられる。また、フッ素及びその化合物の排水基準濃度が8.0mg/L以下であるところ、フッ素イオン濃度1.0mg/Lであるため、培養後の培養液を環境中に放出することは可能である。
【0122】
(7-2)第1除去工程の検討
第1廃液中のフッ素イオンを除去するために第1廃液に添加する水酸化カルシウム量を検討した。図11に示すように、第1廃液がpH6になるまで水酸化カルシウムを加えたところ、フッ素イオンは約80%除去され、一方でリンイオンは約50%残存し、窒素イオンは90%以上残存することが分かった。また、第1廃液がpH7になるまで水酸化カルシウムを加えたところ、フッ素イオンは約99%まで除去されるが、リンイオンは約9%しか残存しなかった。この結果により、第1廃液中のフッ素イオンをできる限り除去しつつ、リンイオンをできる限り残存するように、第1除去工程における水酸化カルシウムの添加量は第1廃液がpH6になるまでとした。
【0123】
(7-3)第2除去工程の検討
第1廃液中の金属イオンを除去するために第1除去工程後の第1廃液に添加する水酸化ナトリウム量を検討した。水酸化カルシウムを添加してpH6にした第1廃液にpH7になるまで水酸化ナトリウムを添加した場合と、pH8になるまで水酸化ナトリウムを添加した場合と、pH9になるまで水酸化ナトリウムを添加した場合との3つの条件について第1廃液中の各金属イオンの濃度を所定の方法で確認した。
【0124】
図12に示すように、いずれの条件においても各種の金属イオン濃度は比較的少ないことがわかった。特にpH8およびpH9の条件ではニッケルイオンの濃度がpH7の条件よりも低いことがわかった。この結果により、第2除去工程における水酸化ナトリウムの添加量は、第1廃液がpH8またはpH9になるまでとした。
【0125】
(7-4)藻類の培養
本例では、検討培地及び3種類の比較培地を用いて藻類の増殖を比較した。本例では、各培地について滅菌工程は行わず、培養開始前にpH7に調整した。
【0126】
比較培地1として、Carefoot培地を用いた。比較培地2として、塗装工場10から採取した第3廃液を用いた。比較培地3として、第3廃液と、除去工程後の第1廃液とを混合した溶液を用いた。具体的に、第1廃液のリン濃度に基づいて、比較培地3中の溶存態リン濃度がCarefoot培地の溶存態リン濃度と概ね同じになるように、混合する第1廃液量及び第3廃液量を算出した。算出した各量に基づいて第1廃液及び第3廃液を混合し、比較培地3を調製した。
【0127】
検討培地は、除去工程済みの第1廃液、第3廃液、及び変速機工場70から採取した第2廃液を混合して調製した。具体的に、第1廃液及び第2廃液のリン濃度及び窒素濃度に基づいて、培養液中の溶存態リン濃度および溶存態窒素濃度がCarefoot培地の溶存態リン濃度および溶存態窒素濃度と概ね同じになるように、混合する第1廃液、第2廃液及び第3廃液を算出いた。算出された各量に基づいて第1~第3廃液を混合し、検討培地を調製した。このように、本実施形態の培養液(検討培地)中のリン成分および窒素成分の濃度の所定の目標値は、Carefoot培地の溶存態リン濃度および溶存態窒素濃度に基づく。
【0128】
図13に示すように、検討培地および比較培地1は概ね同じくらいの高さの藻類の増殖を示し、4種類の培地のうち藻類の増殖が最も高かった。次に藻類の増殖の高さを示したのは比較培地3であり、最も藻類の増殖が低かったのは比較培地2であった。実施形態2の検討培地は、藻類の培養についてCarefoot培地と同等の性能を有することがわかった。Carefoot培地は藻類の培養に適した培地であるため、実施形態2の検討培地も藻類の培養に適していると言える。
【0129】
(7-5)培養前後における培養液中の窒素濃度およびリン濃度の変化
上記(7-4)で用いた比較培地2、比較培地3、及び検討培地について、培養前後の窒素濃度及びリン濃度を確認した。
【0130】
図14に示すように、比較培地3を用いた場合、培養前後で溶存態窒素濃度及び溶存態リン濃度ともに80~85%除去されていることが確認された。また検討培地を用いた場合、培養前後で溶存態窒素濃度は99%、溶存態リン濃度は87%除去されていることが確認された。
【0131】
このように、本実施形態の検討培地で培養すると窒素及びリンが85%以上減少することから、第1廃液及び第2廃液由来の窒素およびリンが藻類の培養に有効に消費されたことがわかった。これにより、藻類の培養を利用することで、塗装工場10及び変速機工場70から排出される廃液に含まれる有害物質を環境中に放出可能な程度にまで低減させることができる。また、比較的高価な脱窒装置や脱リン装置を設ける必要がないため、このような工業廃水を放出するコストを抑えることができると共に、藻類を培養するだけでよいので簡便に工業廃水を環境中に放出できる。
【0132】
(8)その他の実施形態
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0133】
上記混合工程における所定の条件は、培養液中のリン成分の濃度のみが目標値となる条件であってもよいし、窒素成分の濃度のみが目標値となる条件であってもよい。
【0134】
上記混合工程における所定の条件は、レッドフィールド比またはCarefoot培地の組成に基づかなくてもよい。採取された藻類コンソーシアムの藻類の増殖性や油脂産生量に基づいてもよい。
【0135】
上記混合工程における所定の条件であるリン濃度及び窒素濃度の目標値は、所定の培地成分に基づいてもよい。所定の培地成分は、例えばf/2培地(国立環境研究所、
https://mcc.nies.go.jp/02medium.html)の組成に基づく。このf/2培地は、N.oceaniaなどの培養に用いられる培地である。この場合、目標濃度は、リン成分が1.2mg/L、窒素成分が12.4mg/Lに設定される。
【0136】
上記混合工程における所定の条件は、培養中の藻類が生産する油脂量に基づいてもよい。産生された油脂量が多くなるように、混合する第1廃液、第2廃液及び第3廃液の分量を決定してもよい。
【0137】
上記混合工程における所定の条件は、藻類の種類に基づいてもよい。上記実施形態では、藻類コンソーシアムを用いたが、単離された(単一の)藻類の種類に基づいて第1廃液、第2廃液及び第3廃液の混合比を決定してもよい。このことで、各種の藻類に最適な培養液を調製できる。
【0138】
上記混合工程において、培養液中のリン成分及び窒素成分の濃度が目標値となればよく、第1廃液、第2廃液及び第3廃液を混合する順に限定はない。
【0139】
上記希釈工程に用いる第3廃液は、塗装工場10及び鋳造工場20以外の工場からの廃液であってもよい。また、第3廃液は、リン成分または窒素成分の少なくとも一方を含まない廃液であってもよい。また、第3廃液が阻害物質を含み得る場合、第1廃液または第2廃液について行う除去工程を実施してもよい。
【0140】
第1廃液及び第2廃液は、所定の配管で塗装工場10から混合タンク30へ搬送されてもよい。すなわち、塗装工場10と混合タンク30、および鋳造工場20と混合タンク30はそれぞれ排水管で接続されてもよい。このことで、各廃水の搬送コストを削減できる。第3廃液も同様に所定の配管により混合タンク30に搬送されてもよい。
【0141】
混合タンク30、培養槽40、水資源再生場50及び工業用水受水タンク60の間の送液は、搬送管によらず運搬により送液してもよい。工業用水受水タンク60から塗装工場10及び鋳造工場20へも運搬により送液してもよい。
【0142】
上記混合工程は、希釈工程を含まなくてもよい。すなわち、第3廃液を第1廃液と第2廃液とに混合しなくてもよい。
【0143】
上記培養液には、必要に応じて所定の添加物を添加してもよい。所定の添加物は、例えば、重金属成分が挙げられる。
【0144】
上記藻類培養システム1は、複数の培養槽40を有してもよい。これにより藻類の培養スケールをアップできる。また各培養槽40ごとに培養開始時期をずらすことができるため、混合タンク30から順次空いている培養槽40へ培養液を搬送でき、その結果混合タンク内30の培養液が満水になることを抑制できる。
【0145】
上記藻類培養システム1は、第1廃液を貯留する第1貯留タンクと第2廃液を貯留する第2貯留タンクを有してもよい。第1貯留タンクは、塗装工場10と混合タンク30との間に配置され、かつ、所定の配管により塗装工場10と混合タンク30とに接続される。第2貯留タンクは、鋳造工場20と混合タンク30との間に配置され、かつ、所定の配管により鋳造工場20と混合タンク30とに接続される。塗装工場10から排出される第1廃液は、一時的に第1貯留タンクに貯留される。必要に応じて第1貯留タンクから混合タンク30へ第1廃液が搬送される。第1廃液の除去工程は、第1貯留タンクで行われてもよい。同様に、鋳造工場20から排出される第2廃液は、一時的に第2貯留タンクに貯留される。必要に応じて第2貯留タンクから混合タンク30へ第2廃液が搬送される。第2廃液の除去工程は、第1貯留タンクで行われてもよい。さらに、上記藻類培養システム1は、第3廃液を貯留する第3貯留タンクを備えてもよい。第3貯留タンクは、塗装工場10と混合タンク30との間に配置される。
【0146】
実施形態2において、第2廃液に藻類の生育や環境中に有害な物質が混入した場合は、それらを除去する除去工程が実施されてもよい。
【0147】
実施形態2において、第1除去工程では水酸化カルシウムに替えて、塩化カルシウムを使用してもよい。
【0148】
実施形態2において、第2除去工程では水酸化ナトリウムに替えて、水酸化カルシウムまたは炭酸ナトリウムを添加してもよい。
【0149】
実施形態2において、第1除去工程および第2除去工程で水酸化カルシウムを用いる場合、第1除去工程と第2除去工程とを分けずに1つの除去工程として実行されてもよい。
【0150】
実施形態2において、第2除去工程で調整する第1廃液のpHは7乃至9であればよい。
【0151】
上記各種の廃液及び培養液中の窒素濃度、リン濃度、フッ素濃度、及び各種の金属イオン濃度等は所定の一般的な方法で検出される。例えば、窒素については生物学硝化脱窒法が用いられ、リンについては凝集沈殿法が用いられ、フッ素についてフッ化カルシウム法が用いられ、金属イオンについては水酸化物沈殿法が用いられる。
【0152】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。以上に述べた「第1」、「第2」及び「第3」という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0153】
以上説明したように、本開示は、藻類の培養方法、及び藻類の培養組成物について有用である。
【符号の説明】
【0154】
1 培養システム
10 塗装工場
20 鋳造工場
70 変速機工場
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