(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169161
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】インスリン及びC-ペプチドの定量の方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20231121BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20231121BHJP
G01N 33/92 20060101ALI20231121BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231121BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231121BHJP
G01N 33/70 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/68
G01N33/92 C
G01N33/53 D
G01N33/543 541A
G01N33/70
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023135156
(22)【出願日】2023-08-23
(62)【分割の表示】P 2019553817の分割
【原出願日】2018-03-30
(31)【優先権主張番号】62/480,029
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/644,378
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517308264
【氏名又は名称】クエスト ダイアグノスティックス インヴェストメンツ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】シフマン,ダヴ
(72)【発明者】
【氏名】トング,カルメン
(72)【発明者】
【氏名】デヴリン,ジェイムズ ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】マクファール,マイケル ジェイ.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】インスリン抵抗性を同定する信頼できる正確な方法を提供する。
【解決手段】糖尿病及び糖尿病前症患者におけるインスリン抵抗性を診断又は予後診断する方法であって、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を決定するステップを含む。タンデム質量分析又は高分解能/高精度質量分析技術に加えて濃縮及び/又は精製法を利用して生物学的試料中のインスリン及びC-ペプチドを検出し、定量するステップを含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病又は糖尿病前症患者におけるインスリン抵抗性を測定する方法であって、
(a)質量分析により検出できる1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンを発生させるのに適する条件下で、試料からのインスリン及びC-ペプチドをイオン化源にかけるステップと、
(b)質量分析により1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンの量を決定するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
クレアチニンレベルを測定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ボディマスインデックス(BMI)を測定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
トリグリセリド(TG)レベルを測定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
高密度リポタンパク質C(HDL-C)レベルを測定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
BMI、TG、及びHDL-Cレベルを測定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
インスリン抵抗性スコアをもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
インスリン抵抗性が発生する確率をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記生物学的試料が血漿又は血清試料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記イオン化源がエレクトロスプレー(ESI)イオン化源である、請求項1に記載の
方法。
【請求項11】
質量分析の前に前記試料を酸性条件下におく、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記試料を酸性条件下におくステップが前記試料をギ酸にさらすステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
質量分析の前に前記試料を塩基性条件下におく、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記試料を塩基性条件下におくステップが、前記試料をトリズマ及び/又はエタノールにさらすステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記1つ又は複数のイオンが、968.9±0.5の質量電荷比(m/z)を有するインスリン前駆イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記1つ又は複数のイオンが、136.0±0.5、226.1±0.5及び345.2±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のインスリンフラグメントイオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記1つ又は複数のイオンが、1007.7±0.5の質量電荷比(m/z)を有するC-ペプチド前駆イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記1つ又は複数のイオンが、533.3±0.5、646.4±0.5及び927.5±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のC-ペプチドフラグメントイオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
質量分析による定量の前に前記試料を脱脂する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
質量分析の前に前記試料を精製するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記精製するステップが、前記試料を液体クロマトグラフィーにかけるステップを含む
、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
液体クロマトグラフィーが高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又は高乱流液体クロマトグラフ(HTLC)を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記精製するステップが、試料を固相抽出(SPE)にかけるステップを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記質量分析がタンデム質量分析、高分解能質量分析又は高分解能/高精度質量分析である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
イオン化がエレクトロスプレーイオン化(ESI)である、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
イオン化がポジティブイオンモードである、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
インスリン及びC-ペプチド用の内部標準を前記試料に加える、請求項1に記載の方法
。
【請求項28】
インスリン用の内部標準がウシインスリンである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ウシインスリンが、956.8±0.5の質量電荷比(m/z)を有する前駆イオン並びに136.0±0.5、226.1±0.5及び315.2±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択されるフラグメントイオンを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
C-ペプチド用の内部標準がC-ペプチドヘビー内部標準である、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記C-ペプチドヘビー内部標準が、1009.5±0.5の質量電荷比(m/z)を有する前駆イオン並びに540.3±0.5、653.4±0.5及び934.5±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択されるフラグメントイオンを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
決定された前記1つ又は複数のイオンの量を用いて、前記試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を用いて、インスリン対C-ペプチドの比を決定する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
試料を濃縮工程にかけて、インスリン及びC-ペプチドが濃縮された画分を得るステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記濃縮工程が、インスリン及びC-ペプチドの免疫捕捉を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記免疫捕捉が、抗インスリン抗体及び抗C-ペプチド抗体を用いるステップを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記抗体がIgGである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記抗インスリン抗体及び抗C-ペプチド抗体が磁気ビーズ上に固定化されている、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
磁気ビーズ上の免疫捕捉されたインスリン及びC-ペプチドを洗浄し、溶出する、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
前記質量分析がタンデム質量分析、高分解能質量分析又は高分解能/高精度質量分析である、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
C-ペプチド値が2.4ng/mL以上であればインスリン抵抗性が診断される、請求項1に記載の方法。
【請求項43】
インスリン値が15μIU/mL以上であればインスリン抵抗性が診断される、請求項1に記載の方法。
【請求項44】
C-ペプチド値が2.4ng/mL以上かつインスリン値が15μIU/mL以上であればインスリン抵抗性が診断される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本出願は、その内容がその全体として参照により本開示に組み込まれる、2017年3月31日に出願の米国仮出願第62/480,029号及び2018年3月16日に出願の米国仮出願第62/644,378号に対する、35U.S.C.§119(e)のもとでの利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
インスリン抵抗性は、見たところ健康な集団において数倍の差があり、これらの個人のうちおよそ4分の1~3分の1の最もインスリン抵抗性が高い人は、代謝異常の一群及び関連する臨床症候群を発症するリスクが増大している。インスリン媒介性グルコース処理を直接推定するのは、臨床レベルでは現実的でない。しかし、血漿インスリン濃度がインスリン媒介性グルコース処理の直接の測定値と高度に相関しており、このことから、血漿インスリン及びグルコース濃度の測定に基づく、インスリン抵抗性の代用の推定がいくつか導入されるに至った。不幸なことに、標準化されたインスリンアッセイは存在しない。結果として、複数の有害な臨床転帰のリスクが高い、十分にインスリン抵抗性である見たところ健康な個人をそれによって同定するための、普遍的に適用可能な数値的カットポイントを確立することが不可能であった。
【0003】
このジレンマに応えて、通常測定される、IRに関連する代謝異常に基づく複数の代用マーカーが、明らかな疾患の発症前にインスリン抵抗性の個人を同定する一助とするため提案されている。例えば、代謝症候群(MetS)の診断はこの手法の一例である。MetSの診断はインスリン媒介性グルコース処理の直接の測定値と関連しているが、見たところ健康な人のうち3分の1の最もインスリン抵抗性が高い集団の中でも約50%のみしかMetS診断に適合しなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インスリン抵抗性を同定する信頼できる正確な方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において、本明細書で提供されるのは、糖尿病及び糖尿病前症患者におけるインスリン抵抗性を診断又は予後診断する方法であって、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を決定することによって患者におけるインスリン及びc-ペプチドレベルを測定するステップを含む、方法である。
【0006】
特定の実施形態において、本明細書で提供される方法は、質量分析により試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を同時に測定する多重アッセイを含む。いくつかの実施形態において、方法は、(a)質量分析により検出できる1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンを発生させるのに適する条件下で、試料からのインスリン及びC-ペプチドをイオン化源にかけるステップと、(b)質量分析により1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンの量を決定するステップとを含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるインスリン値が7μIU/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるインスリン値が8μIU/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるインスリン値が9μIU/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるインスリン値が10μIU/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるインスリン値が11μIU/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるインスリン値が12μIU/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるインスリン値が13μIU/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるインスリン値が14μIU/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるインスリン値が15μIU/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。
【0008】
好ましい実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるインスリン値が15μIU/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。
【0009】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるC-ペプチド値が1.4ng/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるC-ペプチド値が1.5ng/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるC-ペプチド値が1.6ng/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるC-ペプチド値が1.7ng/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるC-ペプチド値が1.8ng/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるC-ペプチド値が1.9ng/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるC-ペプチド値が2ng/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるC-ペプチド値が2.1ng/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるC-ペプチド値が2.2ng/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるC-ペプチド値が2.3ng/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるC-ペプチド値が2.4ng/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。
【0010】
好ましい実施形態において、本明細書に記載される質量分析法により決定されるC-ペプチド値が2.4ng/mL以上であれば、インスリン抵抗性が診断される。
【0011】
いくつかの実施形態において、インスリン抵抗性スコア(RS)及び/又はインスリン抵抗性が発生する確率P(IR)が、本明細書で提供される方法により測定されるインスリン及びC-ペプチドレベルに基づき本明細書で提供される。
【0012】
いくつかの実施形態において、インスリン抵抗性スコア(RS)及び/又はインスリン抵抗性が発生する確率P(IR)は、以下により決定される:
RS=(インスリン×0.0295)+(C-ペプチド×0.00372)
【0013】
【0014】
いくつかの実施形態において、インスリン抵抗性スコア(RS)及び/又はインスリン抵抗性が発生する確率P(IR)は、本明細書で提供される方法により測定されるインスリン及びC-ペプチド、並びに標準的な方法により測定されるクレアチンのレベルに基づき本明細書で提供される。
【0015】
いくつかの実施形態において、インスリン抵抗性スコア(RS)及び/又はインスリン抵抗性が発生する確率P(IR)は、以下により決定される:
RS=(インスリン×0.0265)+(C-ペプチド×0.00511)+(クレアチニン×-3.2641)
【0016】
【0017】
いくつかの実施形態において、インスリン抵抗性スコア(RS)及び/又はインスリン抵抗性が発生する確率P(IR)は、本明細書で提供される方法により測定されるインスリン及びC-ペプチド、並びに標準的な方法により測定されるクレアチン、トリグリセリド(TG)/HDL-C、及びBMIのレベルに基づき本明細書で提供される。
【0018】
いくつかの実施形態において、インスリン抵抗性スコア(RS)及び/又はインスリン抵抗性が発生する確率P(IR)は、以下により決定される:
RS=(インスリン×0.0227)+(C-ペプチド×0.0046)+(クレアチニン×-3.5553)+(TG/HDL-C×0.101)+(BMI×0.0711)
【0019】
【0020】
いくつかの実施形態において、定常状態の血漿グルコース(SSPG)濃度が所定の集団の上位三分位に入れば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、SSPG濃度が≧190mg/dLであれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、SSPG濃度が≧195mg/dLであれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、SSPG濃度が≧198mg/dLであれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、SSPG濃度が≧200mg/dLであれば、インスリン抵抗性が診断される。いくつかの実施形態において、SSPG濃度が≧205mg/dLであれば、インスリン抵抗性が診断される。
【0021】
いくつかの実施形態において、インスリン抵抗性は、本明細書に記載される質量分析法により決定されるインスリン及びC-ペプチド値の組合せにより診断される。いくつかの実施形態において、インスリン抵抗性は、本明細書に記載される質量分析法により決定されるインスリン及びC-ペプチド値の組合せにより診断される。いくつかの実施形態において、インスリン抵抗性は、本明細書に記載される質量分析法により決定されるインスリン及びC-ペプチド値、並びにSSPG濃度の組合せにより診断される。
【0022】
いくつかの実施形態において、決定された1つ又は複数のイオンの量を用いて、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を決定する。いくつかの実施形態において、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を患者におけるインスリンの量と関連付ける。
【0023】
いくつかの実施形態において、方法は、(a)試料を濃縮工程にかけて、インスリン及びC-ペプチドが濃縮された画分を得るステップと、(b)質量分析により検出できる1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンを発生させるのに適する条件下で、濃縮されたインスリン及びC-ペプチドをイオン化源にかけるステップと、(c)質量分析により1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンの量を決定するステップとを含む。いくつかの実施形態において、決定された1つ又は複数のイオンの量を用いて、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を決定する。いくつかの実施形態において、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を患者におけるインスリンの量に関連付ける。いくつかの実施形態において、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を用いて、患者におけるインスリン対C-ペプチドの比を決定する。
【0024】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される濃縮工程は、抗体を用いるインスリン及びC-ペプチドの免疫捕捉を含む。いくつかの実施形態において、方法は、(a)インスリン及びC-ペプチドを免疫捕捉するステップと、(b)質量分析により検出できる1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンを発生させるのに適する条件下で、免疫捕捉されたインスリン及びC-ペプチドをイオン化源にかけるステップと、(c)質量分析により1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンの量を決定するステップとを含む。
【0025】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される免疫捕捉するステップは、抗インスリン抗体及び抗C-ペプチド抗体を用いるステップを含む。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される抗体は、モノクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される抗体は、マウスモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される抗体は、モノクローナルIgG抗体である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される抗体は、ポリクローナル抗体である。
【0026】
いくつかの実施形態において、抗インスリン抗体及び抗C-ペプチド抗体は磁気ビーズ上に固定化されている。いくつかの実施形態において、磁気ビーズ上の免疫捕捉されたインスリン及びC-ペプチドを洗浄し、溶出する。
【0027】
いくつかの実施形態において、質量分析による定量の前に血清を脱脂する。いくつかの実施形態において、1つ又は複数の脱脂試薬を用いて、試料から脂質を除去する。いくつかの実施形態において、脱脂試薬は、CLEANASCITE(登録商標)である。
【0028】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、質量分析の前に試料を精製するステップを含む。いくつかの実施形態において、方法は、液体クロマトグラフィーを用いて試料を精製するステップを含む。いくつかの実施形態において、液体クロマトグラフィーは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又は高乱流液体クロマトグラフ(HTLC)を含む。いくつかの実施形態において、方法は、試料を固相抽出(SPE)にかけるステップを含む。
【0029】
いくつかの実施形態において、質量分析は、タンデム質量分析を含む。いくつかの実施形態において、質量分析は、高分解能質量分析である。いくつかの実施形態において、質量分析は、高分解能/高精度質量分析である。
【0030】
いくつかの実施形態において、イオン化は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)による。いくつかの実施形態において、イオン化は、大気圧化学イオン化(APCI)による。いくつかの実施形態において、前記イオン化は、ポジティブイオンモードである。
【0031】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、試料に内部標準を添加するステップを含む。いくつかの実施形態において、インスリン用の内部標準は、ウシインスリンである。いくつかの実施形態において、C-ペプチド用の内部標準は、C-ペプチドヘビー内部標準である。いくつかの実施形態において、内部標準は、標識されている。いくつかの実施形態において、内部標準は、重水素化されている又は同位体標識されている。
【0032】
いくつかの実施形態において、患者試料は、血清試料である。いくつかの実施形態において、患者試料は、血漿試料である。いくつかの実施形態において、患者試料は、血液、唾液又は尿試料である。
【0033】
いくつかの実施形態において、イオン化の前に試料を酸性条件下におく。いくつかの実施形態において、試料を酸性条件下におくステップは、濃縮インスリン及びC-ペプチドをギ酸にさらすステップを含む。
【0034】
いくつかの実施形態において、質量分析の前に試料を塩基性条件下におく。いくつかの実施形態において、試料を塩基性条件下におくステップは、試料をトリズマにさらすステップを含む。いくつかの実施形態において、試料を塩基性条件下におくステップは、試料をトリズマ及びエタノールにさらすステップを含む。
【0035】
いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、968.7±0.5の質量電荷比(m/z)を有するインスリン前駆イオンを含む。いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、136.0±0.5、226.1±0.5及び345.2±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のフラグメントイオンを含む。いくつかの実施形態において、226.1±0.5のm/zを有するインスリンフラグメントイオンは、クオンティファイアイオンである。いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、956.8±0.5の質量電荷比(m/z)を有するウシインスリン前駆イオンを含む。いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、136.0±0.5、226.1±0.5及び315.2±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のフラグメントイオンを含む。いくつかの実施形態において、136.0±0.5のm/zを有するウシインスリンフラグメントイオンは、クオンティファイアイオンである。
【0036】
いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、1007.7±0.5の質量電荷比(m/z)を有するC-ペプチド前駆イオンを含む。いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、533.3±0.5、646.4±0.5及び927.5±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のフラグメントイオンを含む。いくつかの実施形態において、533.3±0.5、646.4±0.5及び927.5±0.5のm/zを有するC-ペプチドフラグメントイオンのいずれか又はそれらの合計の強度を定量に用いることができる。いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、1009.5±0.5の質量電荷比(m/z)を有するC-ペプチドヘビー内部標準前駆イオンを含む。いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、540.3±0.5、653.4±0.5及び934.5±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のフラグメントイオンを含む。いくつかの実施形態において、540.3±0.5、653.4±0.5及び934.5±0.5のm/zを有するC-ペプチドヘビー内部標準フラグメントイオンのいずれか又はそれらの合計の強度を定量に用いることができる。
【0037】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるのは、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を決定するために質量分析を利用することであり、方法は、(a)抽出技術により試料中のインスリン及びC-ペプチドを濃縮するステップと、(b)ステップ(a)からの精製インスリン及びC-ペプチドを液体クロマトグラフィーにかけて、試料からインスリン及びC-ペプチドが濃縮された画分を得るステップと、(c)質量分析により検出できるインスリン前駆イオンを発生させるのに適する条件下で濃縮インスリンをイオン化源にかけるステップと、(d)質量分析により1つ又は複数のフラグメントイオンの量を決定するステップとを含む。いくつかの実施形態において、決定された1つ又は複数のイオンの量を用いて、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を決定する。いくつかの実施形態において、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を患者におけるインスリンの量と関連付ける。いくつかの実施形態において、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を用いて、患者におけるインスリン対C-ペプチドの比を決定する。
【0038】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される抽出技術は、抗体を用いるインスリン及びC-ペプチドの免疫捕捉を含む。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される抽出技術は、固相抽出(SPE)を含む。
【0039】
いくつかの実施形態において、衝突エネルギーは、約40~60Vの範囲内にある。いくつかの実施形態において、衝突エネルギーは、約40~50Vの範囲内にある。
【0040】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、質量分析により試料中のインスリン又はC-ペプチドの量を決定する方法であって、(a)インスリン又はC-ペプチドを免疫捕捉するステップと、(b)質量分析により検出できる1つ又は複数のインスリン又はC-ペプチドイオンを発生させるのに適する条件下で、免疫捕捉インスリン又はC-ペプチドをイオン化源にかけるステップと、(c)質量分析により1つ又は複数のインスリン又はC-ペプチドイオンの量を決定するステップとを含む方法である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるのは、質量分析により試料中のインスリンの量を決定する方法であって、(a)インスリンを免疫捕捉するステップと、(b)質量分析により検出できる1つ又は複数のインスリンイオンを発生させるのに適する条件下で、免疫捕捉インスリンをイオン化源にかけるステップと、(c)質量分析により1つ又は複数のインスリンイオンの量を決定するステップとを含む方法である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるのは、質量分析により試料中のC-ペプチドの量を決定する方法であって、(a)C-ペプチドを免疫捕捉するステップと、(b)質量分析により検出できる1つ又は複数のC-ペプチドイオンを発生させるのに適する条件下で、免疫捕捉C-ペプチドをイオン化源にかけるステップと、(c)質量分析により1つ又は複数のC-ペプチドイオンの量を決定するステップとを含む方法である。いくつかの実施形態において、免疫捕捉するステップは、抗インスリン抗体又は抗C-ペプチド抗体を用いるステップを含む。いくつかの実施形態において、抗インスリン抗体又は抗C-ペプチド抗体は磁気ビーズ上に固定化されている。いくつかの実施形態において、磁気ビーズ上の免疫捕捉されたインスリン又はC-ペプチドを洗浄し、溶出する。
【0041】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、糖尿病及び糖尿病前症患者におけるその他の血糖障害の診断の方法である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される内因性インスリン及びC-ペプチドの定量の方法を糖尿病を診断するために用いる。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される内因性インスリン及びC-ペプチドの定量の方法を、低血糖の原因としてのインスリン分泌腫瘍と外因性インスリン投与を区別するために用いる。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される内因性インスリン及びC-ペプチドの定量の方法を、1型糖尿病と2型糖尿病を区別するために用いる。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される内因性インスリン及びC-ペプチドの定量の方法を、糖尿病前症患者における糖尿病のリスクを評価するために用いる。
【0042】
いくつかの実施形態において、質量分析は、タンデム質量分析を含む。いくつかの実施形態において、質量分析は、高分解能質量分析である。いくつかの実施形態において、質量分析は、高分解能/高精度質量分析である。
【0043】
別の態様において、本明細書に示す特定の方法は、試料中のインスリンの量を決定するために高分解能/高精度質量分析を利用する。高精度/高分解能質量分析を利用するいくつかの実施形態において、方法は、(a)多価インスリンイオンを発生させるのに適する条件下で試料からのインスリンをイオン化源にかけるステップ(インスリンイオンは質量分析により検出できる)と、(b)高分解能/高精度質量分析により1つ又は複数の多価インスリンイオンの量を決定するステップとを含む。これらの実施形態において、ステップ(b)で決定される1つ又は複数のイオンの量を前記試料中のインスリンの量に関連付ける。いくつかの実施形態において、高分解能/高精度質量分析を10,000のFWHM及び50ppmの質量精度で行う。いくつかの実施形態において、高分解能/高精度質量分析を高分解能/高精度飛行時間(TOF)型質量分析計を用いて行う。いくつかの実施形態において、イオン化条件は、酸性条件下でのインスリンのイオン化を含む。いくつかの関連実施形態において、酸性条件は、イオン化の前のギ酸による前記試料の処理を含む。いくつかの実施形態において、多価インスリンイオンは、4+、5+及び6+価インスリンイオンからなる群から選択される。
【0044】
いくつかの実施形態において、6+荷電状態の1つ又は複数のインスリンイオンは、約968.8±1.5の範囲内のm/zを有する1つ又は複数のイオンを含む。いくつかの実施形態において、6+荷電状態の1つ又は複数のインスリンイオンは、968.28±0.1、968.45±0.1、968.62±0.1、968.79±0.1、968.95±0.1、969.12±0.1、969.28±0.1、969.45±0.1、969.61±0.1のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のイオン、例えば、968.95±0.1のm/zを有するイオンなどを含む。
【0045】
いくつかの実施形態において、5+荷電状態の1つ又は複数のインスリンイオンは、約1162.5±1.0の範囲内のm/zを有する1つ又は複数のイオンを含む。いくつかの実施形態において、5+荷電状態の1つ又は複数のインスリンイオンは、1161.72±0.1、1161.92±0.1、1162.12±0.1、1162.32±0.1、1162.52±0.1、1162.72±0.1、1162.92±0.1、1163.12±0.1、1163.32±0.1のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のイオン、例えば、1162.54±0.1のm/zを有するイオンなどを含む。
【0046】
いくつかの実施形態において、4+荷電状態の1つ又は複数のインスリンイオンは、約1452.9±0.8の範囲内のm/zを有する1つ又は複数のイオンを含む。
【0047】
本明細書で述べる方法のいずれかにおいて、試料は、生物学的試料を含み得る。いくつかの実施形態において、生物学的試料は、尿、血漿又は血清などの生体液を含み得る。いくつかの実施形態において、生物学的試料は、ヒト、例えば、成人男性若しくは女性、又は若年男性若しくは女性からの試料を含み得る。ここで、若年は、18歳未満、15歳未満、12歳未満又は10歳未満である。ヒト試料は、病状若しくは状態を診断若しくはモニターするために、又は病状若しくは状態の治療効力をモニターするために分析することができる。いくつかの関連実施形態において、本明細書で述べる方法は、ヒトから採取した場合の生物学的試料中のインスリンの量を決定するために用いることができる。
【0048】
タンデム質量分析を利用する実施形態において、タンデム質量分析は、例えば、多重反応モニタリング、前駆イオンスキャニング又はプロダクトイオンスキャニングを含む、当技術分野で公知の方法により実施することができる。
【0049】
いくつかの実施形態において、タンデム質量分析は、前駆イオンを1つ又は複数のフラグメントイオンにフラグメント化するステップを含む。2つ以上のフラグメントイオンの量を決定する実施形態において、測定されたイオン量を試料中のインスリンの量に関連付けるために、該量を当技術分野で公知の数学的操作にかけることができる。例えば、試料中のインスリンの量を決定するステップの一部として、2つ以上のフラグメントイオンの量を合計することができる。
【0050】
本明細書で述べる方法のいずれかにおいて、対象の被分析物(例えば、インスリン、又は化学修飾若しくは非修飾インスリン)は、イオン化の前に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により試料から精製することができる。本明細書で述べる方法のいずれかにおいて、対象の被分析物は、例えば、試料を固相抽出(SPE)カラムに加えることなどの抽出技術により試料から精製することができる。いくつかの実施形態において、抽出技術は、免疫精製技術でない。具体的には、いくつかの実施形態において、SPEカラムは、免疫アフィニティーカラムでない。いくつかの実施形態において、免疫精製は、方法のいずれの段階においても用いない。いくつかの実施形態において、抽出技術及びHPLCは、自動化された試料の処理及び分析を可能にするためにオンライン式で実施することができる。
【0051】
いくつかの実施形態において、高分解能/高精度質量分析は、約10,000以上、例えば、約15,000以上など、例えば、約20,000以上など、例えば、約25,000以上などの分解能(FWHM)で実施する。いくつかの実施形態において、高分解能/高精度質量分析は、約50ppm以下、例えば、約20ppm以下など、約10ppm以下など、約5ppm以下など、約3ppm以下などの精度で実施する。いくつかの実施形態において、高分解能/高精度質量分析は、約10,000以上の分解能(FWHM)及び約50ppm以下の精度で実施する。いくつかの実施形態において、分解能は、約15,000以上であり、精度は、約20ppm以下である。いくつかの実施形態において、分解能は、約20,000以上であり、精度は、約10ppm以下であり、好ましくは、分解能は、約20,000以上であり、精度は、約5ppm以下、例えば、約3ppm以下などである。
【0052】
いくつかの実施形態において、高分解能/高精度質量分析は、オービトラップ型質量分析計、飛行時間(TOF)型質量分析計又はフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析計(時としてフーリエ変換質量分析計として公知である)を用いて実施することができる。
【0053】
いくつかの実施形態において、高分解能/高精度質量分析により検出できる1つ又は複数のインスリンイオンは、約1452.9±0.8、1162.5±1及び968.8±1.5の範囲内のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のイオンである。これらの範囲内のイオンは、それぞれ4+、5+及び6+の電荷を有するインスリンイオンに相当する。これらの電荷を有する単一同位体イオンは、列挙した範囲内のm/zに主としておさまる。しかし、より低い存在度の天然に存在する同位元素変異体がこの範囲外に存在し得る。1162.5±1の範囲内のインスリンイオンは、好ましくは約1161.72±0.1、1161.92±0.1、1162.12±0.1、1162.32±0.1、1162.52±0.1、1162.72±0.1、1162.92±0.1、1163.12±0.1、1163.32±0.1のm/zを有するインスリンイオン、例えば、1162.54±0.1のm/zを有するイオンなどを含む。968.8±1.5の範囲内のインスリンイオンは、好ましくは約968.28±0.1、968.45±0.1、968.62±0.1、968.79±0.1、968.95±0.1、969.12±0.1、969.28±0.1、969.45±0.1、969.61±0.1のm/zを有するインスリンイオン、例えば、968.95±0.1のm/zを有するイオンなどを含む。いくつかの実施形態において、質量分析により検出される1つ又は複数のインスリンイオンの量を試料中のインスリンタンパク質の量に関連付けるステップは、ヒト又は非ヒトインスリンタンパク質などの内部標準との比較を含む。内部標準は、場合によって同位体標識することができる。
【0054】
本明細書で述べる方法のいずれかにおいて、試料は、生物学的試料、好ましくは、例えば、血漿又は血清を含む体液試料を含み得る。
【0055】
質量分析(タンデム又は高分解能/高精度)は、ポジティブイオンモードで実施することができる。或いは、質量分析は、ネガティブイオンモードで実施することができる。例えば、大気圧化学イオン化(APCI)又はエレクトロスプレーイオン化(ESI)を含む、様々なイオン化源を用いてインスリンをイオン化することができる。いくつかの実施形態において、インスリン及び/又は化学修飾若しくは非修飾インスリンB鎖は、ESIによりポジティブイオンモードでイオン化する。
【0056】
本明細書で述べる方法のいずれかにおいて、単独で検出できる内部標準を試料に加えることができ、その量も試料中で決定される。単独で検出できる内部標準を利用する実施形態において、試料中に存在する対象の被分析物及び内部標準の両方のすべて又は一部がイオン化されて、質量分析計で検出できる複数のイオンを生成し、それぞれから生成した1つ又は複数のイオンが質量分析により検出される。これらの実施形態において、対象の被分析物から生成したイオンの存在又は量は、検出された内部標準イオンの量との比較により試料中の対象の被分析物の量の存在に関連付けることができる。
【0057】
或いは、試料中のインスリンの量は、1つ又は複数の外部参照標準との比較により決定することができる。具体例としての外部参照標準は、ヒト若しくは非ヒトインスリン、合成インスリン類似体又はその同位体標識変異体を添加したブランク血漿又は血清などである。
【0058】
いくつかの実施形態において、方法は、約10μIU/mL~500μIU/mLの範囲内のレベルの試料中のインスリンの量を決定することができる。
【0059】
上述の本発明の概要は、非限定的なものであり、本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1A】インスリン又はC-ペプチドレベルの上位四分位に入った人対上位四分位に入らなかった人についてのオッズ比を示すグラフである。オッズ比は、年齢、性別、空腹時血漿グルコース、インスリン、C-ペプチド、HDL-C、LDL-C、トリグリセリド、クレアチニン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ボディマスインデックス、収縮期及び拡張期血圧について調整されたモデルに由来する。
【
図1B】インスリン又はC-ペプチドレベルの上位四分位に入った人対上位四分位に入らなかった人についてのオッズ比を示すグラフである。オッズ比は、年齢、性別、空腹時血漿グルコース、インスリン、C-ペプチド、HDL-C、LDL-C、トリグリセリド、クレアチニン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ボディマスインデックス、収縮期及び拡張期血圧について調整されたモデルに由来する。
【
図1C】インスリン又はC-ペプチドレベルの上位四分位に入った人対上位四分位に入らなかった人についてのオッズ比を示すグラフである。オッズ比は、年齢、性別、空腹時血漿グルコース、インスリン、C-ペプチド、HDL-C、LDL-C、トリグリセリド、クレアチニン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ボディマスインデックス、収縮期及び拡張期血圧について調整されたモデルに由来する。
【
図2】空腹時グルコース<90mg/dL(左)、90~<100mg/dL(中央)及び100~125mg/dL(右)を有する患者における空腹時インスリンレベルを示す箱ひげ図を示す。カテゴリー間のインスリンレベルの差を、パラメトリックな(ANOVA)及びノンパラメトリックな(Kruksal-Wallis)方法により評価した。
【
図3】正常血糖の参加者(空腹時グルコース<100mg/dL)の空腹時インスリンレベルを示す箱ひげ図を示す。左:BMI<26;右:BMI≧26。カテゴリー間のインスリンレベルの差を、t検定により評価した。
【
図4】空腹時血中グルコース測定値と空腹時インスリンレベルとの間の関係を示すグラフである。
【
図5】空腹時血中グルコース測定値と空腹時C-ペプチドレベルとの間の関係を示すグラフである。
【
図6】BMIカテゴリー、性別、及び空腹時グルコースによるインスリンレベルを示すグラフである。
【
図7】本明細書で示される方法の概要を示す図である。
【
図8】インタクトなインスリンのフラグメント化、及び測定されたイオンの質量電荷比を示す図である。
【
図9】C-ペプチドのフラグメント化、及び測定されたイオンの質量電荷比を示す図である。
【
図10-1】インスリン及びC-ペプチドのクロマトグラフィーを示すグラフである。
【
図11-1】インスリン及びC-ペプチドの標準曲線を示すグラフである。
【
図12】ペプチド含量について調整された対照対キャリブレーターの正確度を示す図である。
【
図13】本明細書で示される方法対Beckmanアッセイのインスリン相関(n=117)を示すグラフである。
【
図14】本明細書で示される方法対Centaur ICMAアッセイのC-ペプチド相関(n=121)を示すグラフである。
【
図15】Centaur ICMAにおけるC-ペプチドキャリブレーターを示すグラフである。
【
図16】インスリンについての検証結果の概要を示す図である。
【
図17】C-ペプチドについての検証結果の概要を示す図である。
【
図18】クレアチニンとC-ペプチドとの間の関係を示すグラフである。
【
図19】インスリン及びC-ペプチドレベルに基づく試料のインスリン抵抗性スコアを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本明細書で用いる場合、特に示さない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「a protein」への言及は、複数のタンパク質分子を含む。
【0062】
本明細書で用いる場合、「精製」、「精製する」及び「濃縮する」という用語は、対象の被分析物(単数又は複数)以外のすべての物質を試料から除去することを意味しない。
それよりも、これらの用語は、対象の被分析物の検出を妨害する可能性がある試料中の他の成分と比較して対象の1つ又は複数の被分析物の量を高くする手順を意味する。様々な手段による試料の精製は、1つ又は複数の妨害物質、例えば、質量分析による選択される親又は娘イオンの検出を妨害する可能性がある又は妨害しない可能性がある1つ又は複数の物質の相対的な減少を可能にする。この用語を用いるときの相対的な減少は、精製すべき材料中に対象の被分析物とともに存在する物質が精製により完全に除去されることを必要としない。
【0063】
本明細書で用いる場合、「免疫精製」又は「免疫精製する」という用語は、対象の1つ又は複数の被分析物を濃縮するためにポリクローナル又はモノクローナル抗体を含む抗体を利用する精製手順を意味する。免疫精製は、当技術分野で周知の免疫精製法のいずれかを用いて実施することができる。しばしば免疫精製手順は、固体担体、例えば、カラム、ウエル、チューブ、ゲル、カプセル、粒子又は同類のものに結合した、コンジュゲートした又は別の状態で結合した抗体を利用するものである。免疫精製は、本明細書で用いる場合、当技術分野でしばしば免疫沈降と呼ばれる手順、並びに当技術分野でしばしばアフィニティークロマトグラフィー又は免疫アフィニティークロマトグラフィーと呼ばれる手順を制限なしに含む。
【0064】
本明細書で用いる場合、「免疫粒子」という用語は、その表面(粒子上及び/又は内)に結合した、コンジュゲートした又は別の状態で結合した抗体を有するカプセル、ビーズ、ゲル粒子又は同類のものを意味する。特定の好ましい実施形態において、免疫粒子は、セファロース又はアガロースビーズである。好ましい代替実施形態において、免疫粒子は、ガラス、プラスチック若しくはシリカビーズ又はシリカゲルを含む。
【0065】
本明細書で用いる場合、「抗インスリン抗体」という用語は、インスリンに対する親和性を有するポリクローナル又はモノクローナル抗体を意味する。種々の実施形態において、インスリン以外の化学種に対するインスリン抗体の特異性は、異なる可能性があり、例えば、特定の好ましい実施形態において、抗インスリン抗体は、インスリンに対して特異的であり、したがって、インスリン以外の化学種に対する親和性をほとんど又は全く有さないが、他の好ましい実施形態において、抗インスリン抗体は、非特異的であり、インスリン以外の特定の化学種に結合する。
【0066】
本明細書で用いる場合、「試料」という用語は、対象の被分析物を含み得る試料を意味する。本明細書で用いる場合、「体液」という用語は、個人の身体から分離することができる流体を意味する。例えば、「体液」は、血液、血漿、血清、胆汁、唾液、尿、涙液、汗及び同類のものを含み得る。好ましい実施形態において、試料は、ヒトからの体液試料、好ましくは血漿又は血清を含む。
【0067】
本明細書で用いる場合、「固相抽出」又は「SPE」という用語は、溶液が通過又は周りに流れる固体(すなわち、固相)に対する溶液(すなわち、移動相)中に溶解又は懸濁した成分の親和性の結果として化学物質の混合物を成分に分離する方法を意味する。場合によっては、移動相が固相を通過又はその周りに流れるとき、移動相の望ましくない成分が固相により保持されて、移動相中の被分析物の精製がもたらされる可能性がある。他の場合には、被分析物が固相により保持されて、移動相の望ましくない成分が固相を通過又はその周りに流れることが可能になり得る。これらの場合、さらなる処理又は分析のために次に第2の移動相を用いて、保持された被分析物を固相から溶出する。TFLCを含むSPEは、単一又は混合モード機構により機能し得る。混合モード機構は、同じカラムにおいてイオン交換と疎水性保持を利用するものであり、例えば、混合モードSPEカラムの固相は、強い陰イオン交換及び疎水性保持を示し得る、又は強い陽イオン交換及び疎水性保持を示し得る。
【0068】
一般的に、被分析物に対するSPEカラム充填物質の親和性は、1つ又は複数の化学的相互作用又は免疫親和性相互作用などの様々な機構のいずれかに起因し得る。いくつかの実施形態において、インスリンのSPEは、免疫親和性カラム充填物質を用いずに行われる。すなわち、いくつかの実施形態において、インスリンは、免疫親和性カラムでないSPEカラムにより試料から精製される。
【0069】
本明細書で用いる場合、「クロマトグラフィー」という用語は、液体又は気体により運ばれる化学物質の混合物が、静止液体又は固相の周り又は上に流れるときに化学物質の差別的分配の結果として成分に分離される方法を意味する。
【0070】
本明細書で用いる場合、「液体クロマトグラフィー」又は「LC」という用語は、流体が微細な物質のカラム又は毛細管通路に均一に浸透するときに流体溶液の1つ又は複数の成分が選択的に遅延する方法を意味する。遅延は、1つ又は複数の固定相とバルク流体(すなわち、移動相)との間のこの流体が固定相(単数又は複数)に対して移動するときの混合物の成分の分配に起因する。「液体クロマトグラフィー」の例としては、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び乱流液体クロマトグラフィー(TFLC)(時に高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)又は高処理液体クロマトグラフィーとして公知である)などがある。
【0071】
本明細書で用いる場合、「高速液体クロマトグラフィー」又は「HPLC」(時に「高圧液体クロマトグラフィー」として公知である)という用語は、移動相を加圧下で固定相、一般的に密に充填されたカラムに強制的に通すことによって分離の程度を増大させる液体クロマトグラフィーを意味する。
【0072】
本明細書で用いる場合、「乱流液体クロマトグラフィー」又は「TFLC」(時に高乱流液体クロマトグラフィー又は高処理液体クロマトグラフィーとして公知である)という用語は、カラム充填剤に通すアッセイされる物質の乱流を分離を行う基盤として利用するクロマトグラフィーの形態を意味する。TFLCは、質量分析による分析の前に2つの無名の薬物を含む試料の調製に適用された。例えば、Zimmerら、J Chromatogr、A854巻、23~35頁(1999年)を参照のこと。TFLCをさらに説明している、米国特許第5,968,367号、第5,919,368号、第5,795,469号及び第5,772,874号も参照のこと。当業者は、「乱流」を理解している。流体がゆっくりと滑らかに流れている場合、その流れは、「層流」と呼ばれる。例えば、HPLCカラム中を低流速で移動している流体は、層流である。層流において、流体の粒子の運動は規則的であり、粒子が一般的に実質的に直線的に移動する。より速い速度では、水の慣性が流体の摩擦力に打ち勝ち、乱流が生ずる。不規則な境界と接触していない流体は、それを「追い越し」、摩擦により遅くなるか、又は平坦でない表面により偏向させられる。流体が乱れて流れている場合、それは、流れが層流である場合より大きい「抵抗」により渦状に旋回して(又は渦巻き状で)流れる。流体の流れが層流又は乱流である場合を判断するうえで助けとするための多くの参考文献が入手可能である(例えば、Turbulent Flow Analysis:Measurement and Prediction、P.S.Bernard & J.M.Wallace、John Wiley & Sons,Inc.(2000年)、An Introduction to Turbulent Flow、Jean Mathieu & Julian Scott、Cambridge University Press(2001年))。
【0073】
本明細書で用いる場合、「ガスクロマトグラフィー」又は「GC」という用語は、試料混合物を蒸発させ、液体又は粒子状固体からなる固定相を含むカラム中を移動するキャリヤーガス(窒素又はヘリウムとしての)の流れに注入し、固定相に対する化合物の親和性に従ってその成分化合物に分離するクロマトグラフィーを意味する。
【0074】
本明細書で用いる場合、「大粒子カラム」又は「抽出カラム」という用語は、約50μmより大きい平均粒子直径を含むクロマトグラフィーカラムを意味する。この文脈において用いる場合、「約」という用語は、±10%を意味する。
【0075】
本明細書で用いる場合、「分析カラム」という用語は、被分析物の存在又は量の決定を可能にするのに十分なカラムから溶出する試料中の物質の分離を達成するのに十分なクロマトグラフ段を有するクロマトグラフィーカラムを意味する。そのようなカラムは、さらなる分析のための精製試料を得るために保持されない物質から保持される物質を分離又は抽出するという一般的な目的を有する「抽出カラム」としばしば区別される。この文脈において用いる場合、「約」という用語は、±10%を意味する。好ましい実施形態において、分析カラムは、直径が約5μmの粒子を含む。
【0076】
本明細書で用いる場合、「オンライン」及び「インライン」という用語は、例えば、「オンライン自動式(on-line automated fashion)」又は「オンライン抽出」に用いられているように、操作者の介入の必要なしに実施される手順を意味する。対照的に、「オフライン」という用語は、本明細書で用いる場合、操作者の手作業による介入を必要とする手順を意味する。したがって、試料を沈殿に供し、次いで、上清を手作業でオートサンプラーに装填する場合、沈殿及び装填ステップは、その後のステップからオフラインである。方法の様々な実施形態において、1つ又は複数のステップをオンライン自動式で実施することができる。
【0077】
本明細書で用いる場合、「質量分析」又は「MS」という用語は、化合物をそれらの質量により同定するための分析技術を意味する。MSは、イオンの質量電荷比又は「m/z」に基づいてイオンをフィルタリングし、検出し、測定する方法を意味する。MS技術は、一般的に(1)化合物をイオン化して、荷電化合物を生成するステップと、(2)荷電化合物の分子量を検出し、質量電荷比を計算するステップとを含む。化合物は、適切な手段によりイオン化し、検出することができる。「質量分析計」は、一般的にイオン化装置、質量分析計及びイオン検出器を含む。一般的に、対象の1つ又は複数の分子がイオン化され、その後イオンが質量分析装置に導入され、そこでは、磁界と電界の組み合わせにより、イオンが質量(「m」)及び電荷(「z」)に依存する空間内の経路をたどる。例えば、「表面からの質量分析(Mass Spectrometry From Surfaces)」と題する米国特許第6,204,500号、「タンデム質量分析の方法及び装置(Methods and Apparatus for Tandem Mass Spectrometry)」と題する第6,107,623号、「質量分析に基づくDNA診断(DNA Diagnostics Based On Mass Spectrometry)」と題する第6,268,144号、「被分析物の脱離及び検出のための表面増強光感受性結合及び放出(Surface-Enhanced Photolabile Attachment And Release For Desoption And Detection Of Analytes)」と題する第6,124,137号、Wrightら、Prostate Cancer and Prostatic Diseases、1999年、2巻、264~76頁並びにMerchant及びWeinberger、Electrophoresis、2000年、21巻、1164~67頁を参照のこと。
【0078】
本明細書で用いる場合、「高分解能/高精度質量分析」は、固有の化学イオン(unique chemical ion)を確認するのに十分な精度及び正確度で荷電種の質量電荷比を測定することができる質量分析計を用いて実施される質量分析を意味する。固有の化学イオンの確認は、当該イオンの個々の同位体ピークが容易に識別できる場合のイオンについて可能である。固有の化学イオンを確認するために必要な特定の分解能及び質量正確度は、イオンの質量及び電荷状態によって異なる。
【0079】
本明細書で用いる場合、「分解能」又は「分解能(FWHM)」(当技術分野で「m/Δm50%」としても公知である)は、最大高さの50%における質量ピークの幅(半値全幅、「FWHM」)で割った観測質量電荷比を意味する。
【0080】
本明細書で用いる場合、質量分析に関する「固有の化学物質イオン」は、単一原子構成を有する単一イオンを意味する。単一イオンは、1価又は多価であり得る。
【0081】
本明細書で用いる場合、質量分析に関する「正確度」(又は「質量正確度」)は、検討されるイオンの真のm/zからの機器の応答の生じ得る偏りを意味する。正確度は、一般的に百万分の1(ppm)で表される。
【0082】
本発明の高分解能/高精度質量分析法は、10,000、15,000、20,000、25,000、50,000、100,000又はさらにより大きい値より大きいFWHMで質量分析を行うことができる機器で実施することができる。同様に、本発明の方法は、50ppm、20ppm、15ppm、10ppm、5ppm、3ppm未満又はさらにより小さい値の正確度で質量分析を行うことができる機器で実施することができる。これらの性能特性の能力がある機器は、特定のオービトラップ質量分析計、飛行時間(「TOF」)型質量分析計又はフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計を組み込み得る。好ましい実施形態において、方法は、オービトラップ質量分析計又はTOF型質量分析計を含む機器により実施される。
【0083】
「オービトラップ」という用語は、たる様の外側電極と同軸の内側電極からなるイオントラップを記述する。イオンは、電極間の電界に接線方向に注入され、イオンと電極との間の静電相互作用がイオンが同軸内側電極を周回するときの遠心力と釣り合うためにトラップされる。イオンが同軸内側電極を周回するとき、トラップされたイオンの軌道がイオンの質量電荷比に応じた調和振動数で中心電極の軸に沿って振動する。軌道振動数の検出により、オービトラップを高精度(1~2ppmと低い)及び高分解能(FWHM)(最大約200,000)を有する質量分析計として用いることが可能になる。オービトラップに基づく質量分析計は、参照によりその全体として本明細書に組み込まれる、米国特許第6,995,364号に詳細に記載されている。
【0084】
本明細書で用いる場合、「ネガティブイオンモードで動作する」という用語は、負イオンを発生させ、検出する質量分析法を意味する。「ポジティブイオンモードで動作する」という用語は、本明細書で用いる場合、正イオンを発生させ、検出する質量分析法を意味する。好ましい実施形態において、質量分析をポジティブイオンモードで行う。
【0085】
本明細書で用いる場合、「イオン化」又は「イオン化する」という用語は、1以上の電子単位に等しい正味の電荷を有する被分析物イオンを発生させる方法を意味する。負イオンは、1以上の電子単位の正味の負電荷を有するものであり、一方、正イオンは、1以上の電子単位の正味の正電荷を有するものである。
【0086】
本明細書で用いる場合、「電子イオン化」又は「EI」という用語は、気相又は蒸気相中の対象の被分析物が電子の流れと相互作用する方法を意味する。電子と被分析物との衝突が、次に質量分析技術にかけることができる被分析物イオンを生成する。
【0087】
本明細書で用いる場合、「化学イオン化」又は「CI」という用語は、試薬ガス(例えば、アンモニア)が電子衝撃にかけられ、試薬ガスイオンと被分析物分子との相互作用により被分析物イオンが生じる方法を意味する。
【0088】
本明細書で用いる場合、「高速原子衝撃」又は「FAB」という用語は、高エネルギー原子(しばしばXe又はAr)のビームが不揮発性試料に衝突し、試料に含まれている分子を脱離させ、イオン化する方法を意味する。試験試料をグリセロール、チオグリセロール、m-ニトロベンジルアルコール、18-クラウン-6クラウンエーテル、2-ニトロフェニルオクチルエーテル、スルホラン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンなどの粘性液体マトリックスに溶解する。化合物又は試料に対する適切なマトリックスの選択は、経験的プロセスである。
【0089】
本明細書で用いる場合、「マトリックス支援レーザー脱離イオン化」又は「MALDI」という用語は、不揮発性試料を、光イオン化、プロトン化、脱プロトン化及びクラスタ崩壊を含む様々なイオン化経路により試料中の被分析物を脱離させ、イオン化するレーザー照射にさらす方法を意味する。MALDIのために、試料を、被分析物分子の脱離を促進するエネルギー吸収マトリックスと混合する。
【0090】
本明細書で用いる場合、「表面エンハンス型レーザー脱離イオン化」又は「SELDI」という用語は、不揮発性試料を、光イオン化、プロトン化、脱プロトン化及びクラスタ崩壊を含む様々なイオン化経路により試料中の被分析物を脱離させ、イオン化するレーザー照射にさらす他の方法を意味する。SELDIのために、試料を一般的に、対象の1つ又は複数の被分析物を優先的に保持する表面に結合させる。MALDIと同様に、この方法は、イオン化を促進するエネルギー吸収物質も用いることができる。
【0091】
本明細書で用いる場合、「エレクトロスプレーイオン化」又は「ESI」という用語は、末端に高い正又は負電位を印加した短い毛細管に溶液を通す方法を意味する。管の末端に到達した溶液は、蒸発して(霧化)、溶媒蒸気中溶液の非常に小さな液滴のジェット又は噴霧体になる。この液滴の噴霧体は、蒸発チャンバー中を流れる。液滴がより小さくなるとき、同符号電荷の間の自然反発力によってイオン並びに中性分子が放出されるような時点まで表面電荷密度が増加する。
【0092】
本明細書で用いる場合、「大気圧化学イオン化」又は「APCI」という用語は、ESIと同様な質量分析法を意味するが、APCIは、大気圧のプラズマ内で起こるイオン-分子反応によりイオンを生成する。プラズマは、噴霧毛細管と対極との間の放電により維持される。次いで、イオンは、一般的に一組の差動排気スキマーステージを用いることにより質量分析計内に抽出される。向流の乾燥し、予熱されたN2ガスを用いて、溶媒の除去を改善することができる。APCIにおける気相イオン化は、極性がより低い種を分析するのにESIより有効であり得る。
【0093】
「大気圧光イオン化」又は「APPI」という用語は、本明細書で用いる場合、分子Mのイオン化の機構が分子イオンM+を生成する光子の吸収及び電子の放出である質量分析の形態を意味する。光子エネルギーが一般的にイオン化電位の直上であるため、分子イオンは解離を受けにくい。多くの場合に、クロマトグラフィーの必要なしに試料を分析することが可能であり、それによりかなりの時間と費用の節約となり得る。水蒸気又はプロトン性溶媒の存在下では、分子イオンは、Hを引き抜いてMH+を形成し得る。Mが高いプロトン親和性を有する場合、これが起こる傾向がある。M+とMH+の合計が一定であるため、これは、定量の正確度に影響を与えない。プロトン性溶媒中の薬物化合物は、通常MH+として観測されるが、ナフタレン又はテストステロンなどの非極性化合物は、通常M+を形成する。例えば、Robbら、Anal.Chem.、2000年、72巻(15号)、3653~3659頁を参照のこと。
【0094】
本明細書で用いる場合、「誘導結合プラズマ」又は「ICP」という用語は、大部分の元素が原子化され、イオン化されるような十分に高い温度で試料が部分的にイオン化されたガスと相互作用する方法を意味する。
【0095】
本明細書で用いる場合、「電界脱離」という用語は、不揮発性試験試料をイオン化表面上にのせ、強い電界を用いて被分析物イオンを発生させる方法を意味する。
【0096】
本明細書で用いる場合、「脱離」という用語は、表面からの被分析物の除去及び/又は被分析物の気相への侵入を意味する。レーザー脱離熱脱離は、被分析物を含む試料をレーザーパルスにより気相中に熱的に脱離させる技術である。レーザーは、金属基部を備えた特製の96ウエルプレートの裏面を照射する。レーザーパルスが底部を加熱し、熱が試料を気相に移行させる。気相試料が次に質量分析計に引き込まれる。
【0097】
本明細書で用いる場合、「選択イオンモニタリング」という用語は、比較的狭い質量範囲内、一般的に約1質量単位の範囲内のイオンのみが検出される質量分析機器の検出モードである。
【0098】
本明細書で用いる場合、「選択反応モニタリング」として時として公知である「多重反応モード」は、前駆イオン及び1つ又は複数のフラグメントイオンが選択的に検出される質量分析機器の検出モードである。
【0099】
本明細書で用いる場合、「定量化下限」、「定量下限」又は「LLOQ」という用語は、測定が定量的に意味があるようになるポイントを意味する。このLOQにおける被分析物の応答は、特定可能であり、個別的であり、20%未満の相対標準偏差(RSD%)及び85%~115%の正確度で再現性がある。
【0100】
本明細書で用いる場合、「検出限界」又は「LOD」という用語は、測定値がそれに関連する不確実さより大きいポイントである。LODは、値がその測定に関連する不確実さを超えるポイントであり、ゼロ濃度における平均値のRSDの3倍と定義される。
【0101】
本明細書で用いる場合、体液試料中の被分析物の「量」は、一般的に試料の体積において検出できる被分析物の質量を反映する絶対値を意味する。しかし、量は、他の被分析物の量と比較した相対量も意図する。例えば、試料中の被分析物の量は、試料中に通常存在する被分析物の対照又は正常レベルより大きい量であり得る。
【0102】
「約」という用語は、イオンの質量の測定を含まない定量的測定に関して本明細書で用いる場合、表示値プラス又はマイナス10%を意味する。質量分析機器は、所定の被分析物の質量を決定することについてわずかに異なり得る。イオンの質量又は質量/電荷比に関する「約」という用語は、+/-0.50原子質量単位を意味する。
【0103】
血清中のインスリンの定量は、インスリン抵抗性症候群の評価における糖尿病及び糖尿病前症患者における血糖障害の診断に主として用いられる。C-ペプチドは、インスリンの2つのペプチド鎖を連結するペプチドであり、プロセシング中にプロインスリンから放出され、その後、膵ベータ細胞から共分泌される。半減期及び肝クレアランスが異なるため、C-ペプチド及びインスリンの末梢血レベルは、もはや当モルではないが、依然として高度に相関している。本実施形態において、本明細書で提供される方法は、(1)低血糖の原因としてのインスリン分泌腫瘍を外因性インスリン投与と、(2)1型糖尿病と2型糖尿病を区別するために内因性インスリン及びC-ペプチドを測定するものである。
【0104】
一態様において、本明細書で提供されるのは、質量分析を用いて試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を決定することによって患者におけるインスリンレベルを測定する方法である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、質量分析により試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を同時に測定する多重アッセイを含む。いくつかの実施形態において、方法は、(a)質量分析により検出できる1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンを発生させるのに適する条件下で、試料からのインスリン及びC-ペプチドをイオン化源にかけるステップと、(b)質量分析により1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンの量を決定するステップとを含む。いくつかの実施形態において、決定された1つ又は複数のイオンの量を用いて、試料中のインスリン及びペプチドの量を決定する。いくつかの実施形態において、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を患者におけるインスリンの量と関連付ける。いくつかの実施形態において、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を用いて、患者におけるインスリン対C-ペプチドの比を決定する。
【0105】
いくつかの実施形態において、方法は、(a)試料を濃縮工程にかけて、インスリン及びC-ペプチドが濃縮された画分を得るステップと、(b)質量分析により検出できる1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンを発生させるのに適する条件下で、濃縮されたインスリン及びC-ペプチドをイオン化源にかけるステップと、(c)質量分析により1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンの量を決定するステップとを含む。いくつかの実施形態において、決定された1つ又は複数のイオンの量を用いて、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を決定する。いくつかの実施形態において、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を患者におけるインスリンの量と関連付ける。いくつかの実施形態において、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を用いて、患者におけるインスリン対C-ペプチドの比を決定する。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される濃縮工程は、抗体を用いるインスリン及びC-ペプチドの免疫捕捉を含む。いくつかの実施形態において、方法は、(a)インスリン及びC-ペプチドを免疫捕捉するステップと、(b)質量分析により検出できる1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンを発生させるのに適する条件下で、免疫捕捉されたインスリン及びC-ペプチドをイオン化源にかけるステップと、(c)質量分析により1つ又は複数のインスリン及びC-ペプチドイオンの量を決定するステップとを含む。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される免疫捕捉するステップは、抗インスリン抗体及び抗C-ペプチド抗体を用いるステップを含む。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される抗体は、モノクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される抗体は、マウスモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される抗体は、モノクローナルIgG抗体である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される抗体は、ポリクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、抗インスリン抗体及び抗C-ペプチド抗体は磁気ビーズ上に固定化されている。いくつかの実施形態において、磁気ビーズ上の免疫捕捉されたインスリン及びC-ペプチドを洗浄し、溶出する。
【0106】
いくつかの実施形態において、質量分析による定量の前に血清を脱脂する。いくつかの実施形態において、1つ又は複数の脱脂試薬を用いて、試料から脂質を除去する。いくつかの実施形態において、脱脂試薬は、CLEANASCITE(登録商標)である。
【0107】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、質量分析の前に試料を精製するステップを含む。いくつかの実施形態において、方法は、液体クロマトグラフィーを用いて試料を精製するステップを含む。いくつかの実施形態において、液体クロマトグラフィーは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又は高乱流液体クロマトグラフ(HTLC)を含む。いくつかの実施形態において、方法は、試料を固相抽出(SPE)にかけるステップを含む。
【0108】
いくつかの実施形態において、質量分析は、タンデム質量分析を含む。いくつかの実施形態において、質量分析は、高分解能質量分析である。いくつかの実施形態において、質量分析は、高分解能/高精度質量分析である。いくつかの実施形態において、イオン化は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)による。いくつかの実施形態において、イオン化は、大気圧化学イオン化(APCI)による。いくつかの実施形態において、前記イオン化は、ポジティブイオンモードである。
【0109】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される方法は、試料に内部標準を添加するステップを含む。いくつかの実施形態において、インスリン用の内部標準は、ウシインスリンである。いくつかの実施形態において、C-ペプチド用の内部標準は、C-ペプチドヘビー内部標準である。いくつかの実施形態において、内部標準は、標識されている。いくつかの実施形態において、内部標準は、重水素化されている又は同位体標識されている。
【0110】
いくつかの実施形態において、患者試料は、血清試料である。いくつかの実施形態において、患者試料は、血漿試料である。いくつかの実施形態において、患者試料は、血液、唾液又は尿試料である。
【0111】
いくつかの実施形態において、イオン化の前に試料を酸性条件下におく。いくつかの実施形態において、試料を酸性条件下におくステップは、濃縮インスリン及びC-ペプチドをギ酸にさらすステップを含む。いくつかの実施形態において、の前に試料を塩基性条件下におく。いくつかの実施形態において、試料を塩基性条件下におくステップは、試料をトリズマにさらすステップを含む。いくつかの実施形態において、試料を塩基性条件下におくステップは、試料をトリズマ及びエタノールにさらすステップを含む。
【0112】
いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、968.7±0.5の質量電荷比(m/z)を有するインスリン前駆イオンを含む。いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、136.0±0.5、226.1±0.5及び345.2±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のフラグメントイオンを含む。いくつかの実施形態において、226.1±0.5のm/zを有するインスリンフラグメントイオンは、クオンティファイアイオンである。いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、956.8±0.5の質量電荷比(m/z)を有するウシインスリン前駆イオンを含む。いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、136.0±0.5、226.1±0.5及び315.2±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のフラグメントイオンを含む。いくつかの実施形態において、136.0±0.5のm/zを有するウシインスリンフラグメントイオンは、クオンティファイアイオンである。いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、1007.7±0.5の質量電荷比(m/z)を有するC-ペプチド前駆イオンを含む。いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、533.3±0.5、646.4±0.5及び927.5±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のフラグメントイオンを含む。いくつかの実施形態において、533.3±0.5、646.4±0.5及び927.5±0.5のm/zを有するC-ペプチドフラグメントイオンのいずれかをクオンティファイアイオンとして用いることができる。いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、1009.5±0.5の質量電荷比(m/z)を有するC-ペプチドヘビー内部標準前駆イオンを含む。いくつかの実施形態において、1つ又は複数のイオンは、540.3±0.5、653.4±0.5及び934.5±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のフラグメントイオンを含む。いくつかの実施形態において、540.3±0.5、653.4±0.5及び934.5±0.5のm/zを有するC-ペプチドヘビー内部標準フラグメントイオンのいずれかをクオンティファイアイオンとして用いることができる。
【0113】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるのは、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を決定するために質量分析を利用することであり、方法は、(a)抽出技術により試料中のインスリン及びC-ペプチドを濃縮するステップと、(b)ステップ(a)からの精製インスリン及びC-ペプチドを液体クロマトグラフィーにかけて、試料からインスリン及びC-ペプチドが濃縮された画分を得るステップと、(c)質量分析により検出できるインスリン前駆イオンを発生させるのに適する条件下で濃縮インスリンをイオン化源にかけるステップと、(d)質量分析により1つ又は複数のフラグメントイオンの量を決定するステップとを含む。いくつかの実施形態において、決定された1つ又は複数のイオンの量を用いて、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を決定する。いくつかの実施形態において、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を患者におけるインスリンの量と関連付ける。いくつかの実施形態において、試料中のインスリン及びC-ペプチドの量を用いて、患者におけるインスリン対C-ペプチドの比を決定する。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される抽出技術は、抗体を用いるインスリン及びC-ペプチドの免疫捕捉を含む。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される抽出技術は、固相抽出(SPE)を含む。
【0114】
いくつかの実施形態において、衝突エネルギーは、約40~60eVの範囲内にある。いくつかの実施形態において、衝突エネルギーは、約40~50eVの範囲内にある。
【0115】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、質量分析により試料中のインスリン又はC-ペプチドの量を決定する方法であって、(a)インスリン又はC-ペプチドを免疫捕捉するステップと、(b)質量分析により検出できる1つ又は複数のインスリン又はC-ペプチドイオンを発生させるのに適する条件下で、免疫捕捉インスリン又はC-ペプチドをイオン化源にかけるステップと、(c)質量分析により1つ又は複数のインスリン又はC-ペプチドイオンの量を決定するステップとを含む方法である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるのは、質量分析により試料中のインスリンの量を決定する方法であって、(a)インスリンを免疫捕捉するステップと、(b)質量分析により検出できる1つ又は複数のインスリンイオンを発生させるのに適する条件下で、免疫捕捉インスリンをイオン化源にかけるステップと、(c)質量分析により1つ又は複数のインスリンイオンの量を決定するステップとを含む方法である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるのは、質量分析により試料中のC-ペプチドの量を決定する方法であって、(a)C-ペプチドを免疫捕捉するステップと、(b)質量分析により検出できる1つ又は複数のC-ペプチドイオンを発生させるのに適する条件下で、免疫捕捉C-ペプチドをイオン化源にかけるステップと、(c)質量分析により1つ又は複数のC-ペプチドイオンの量を決定するステップとを含む方法である。いくつかの実施形態において、免疫捕捉するステップは、抗インスリン抗体又は抗C-ペプチド抗体を用いるステップを含む。いくつかの実施形態において、抗インスリン抗体又は抗C-ペプチド抗体は磁気ビーズ上に固定化されている。いくつかの実施形態において、磁気ビーズ上の免疫捕捉されたインスリン又はC-ペプチドを洗浄し、溶出する。
【0116】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、糖尿病及び糖尿病前症患者における血糖障害又はインスリン抵抗性症候群の診断の方法である。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される内因性インスリン及びC-ペプチドの定量の方法を糖尿病を診断するために用いる。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される内因性インスリン及びC-ペプチドの定量の方法を、低血糖の原因としてのインスリン分泌腫瘍と外因性インスリン投与を区別するために用いる。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される内因性インスリン及びC-ペプチドの定量の方法を、1型糖尿病と2型糖尿病を区別するために用いる。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される内因性インスリン及びC-ペプチドの定量の方法を、糖尿病前症患者における糖尿病のリスクを評価するために用いる。
【0117】
本発明の方法に用いる適切な試験試料は、対象の被分析物を含み得る試験試料である。いくつかの好ましい実施形態において、試料は、生物学的試料、すなわち、動物、細胞培養、器官培養等などの生物学的源から得られる試料である。特定の好ましい実施形態において、試料は、イヌ、ネコ、ウマ等などの哺乳動物から得られる。特に好ましい哺乳動物は、霊長類、最も好ましくは男性又は女性ヒトである。好ましい試料は、血液、血漿、血清、唾液、脳脊髄液などの体液又は組織試料、好ましくは血漿及び血清を含む。そのような試料は、例えば、患者、すなわち、疾患又は状態の診断、予後診断又は治療のために臨床施設に出頭する男性又は女性の生者から得ることができる。試料が生物学的試料を含む実施形態において、方法は、試料が生物学的源から得られた場合の試料中のインスリンの量を決定するために用いることができる。
【0118】
本発明はまた、インスリンの定量アッセイ用のキットを企図する。インスリンの定量アッセイ用のキットは、本明細書で提供する組成物を含むキットを含み得る。例えば、キットは、包装材料及び少なくとも1回のアッセイに十分な量の一定量の同位体標識内部標準を含み得る。一般的に、インスリンの定量アッセイ用の包装済み試薬の使用についての有形の形式で記録された(例えば、紙又は電子媒体上に含まれた)取扱説明書も含む。
【0119】
本発明の実施形態に用いる較正及びQCプールは、好ましくは、インスリンが本質的に存在しないという条件で、対象とする試料マトリックスと同様なマトリックスを用いて調製する。
【0120】
質量分析用の試料の調製
質量分析のための調製において、例えば、免疫捕捉、液体クロマトグラフィー、ろ過、遠心分離、薄層クロマトグラフィー(TLC)、毛細管電気泳動を含む電気泳動、免疫アフィニティー分離を含むアフィニティー分離、酢酸エチル若しくはメタノール抽出を含む抽出法及びカオトロピック剤の使用又は上記のもの若しくは同類のもののいずれかの組み合わせを含む当技術分野で公知の様々な方法により、インスリンを試料中の1つ又は複数の他の成分と比べて濃縮することができる。
【0121】
質量分析の前に用いることができる試料の精製の1つの方法は、対象の被分析物はカラム充填剤に可逆的に保持されるが、1つ又は複数の他の物質は保持されない条件下で試料を固相抽出(SPE)カラムに加えることである。この技術において、対象の被分析物がカラムにより保持される場合に、第1の移動相条件を用いることができ、保持されない物質が洗い流されたならば、保持された物質をカラムから除去するためにその後に第2の移動相条件を用いることができる。
【0122】
いくつかの実施形態において、試料中のインスリンは、アルキル結合表面を含む充填剤を含むSPEカラムに可逆的に保持させることができる。例えば、いくつかの実施形態において、C-8オンラインSPEカラム(Phenomenex,Inc.製のOasis HLBオンラインSPEカラム/カートリッジ(2.1mmx20mm)又は同等物など)は、質量分析の前にインスリンを濃縮するために用いることができる。いくつかの実施形態において、SPEカラムの使用は、洗浄溶液としてのHPLC用0.2%水性ギ酸及び溶出溶液としてのアセトニトリル中0.2%ギ酸を用いて行われる。
【0123】
他の実施形態において、方法は、質量分析の前のインスリンを免疫精製するステップを含む。免疫精製ステップは、当技術分野で周知の免疫精製法のいずれかを用いて実施することができる。しばしば免疫精製手順は、固体担体、例えば、カラム、ウエル、チューブ、カプセル、粒子又は同類のものに結合した、コンジュゲートした、固定化された又は別の状態で結合した抗体を利用するものである。一般的に、免疫精製法は、(1)被分析物が抗体に結合するように対象の被分析物を含む試料を抗体とともにインキュベートするステップと、(2)1又は複数回の洗浄ステップを実施するステップと、(3)抗体から被分析物を溶出するステップとを含む。
【0124】
特定の実施形態において、免疫精製のインキュベーションステップは、溶液中の遊離の抗体を用いて実施し、抗体は、その後、洗浄ステップの前に固体表面に結合又は付着させる。特定の実施形態において、これは、抗インスリン抗体である一次抗体及び一次抗インスリン抗体に対する親和性を有する固体表面に結合させた二次抗体を用いて達成することができる。代替実施形態において、インキュベーションステップの前に一次抗体を固体表面に結合させる。
【0125】
適切な固体担体は、制限なしに、チューブ、スライド、カラム、ビーズ、カプセル、粒子、ゲル及び同類のものを含む。いくつかの好ましい実施形態において、固体担体は、例えば、96ウエルプレート、384ウエルプレート及び同類のものなどの多ウエルプレートである。いくつかの実施形態において、固体担体は、セファロース若しくはアガロースビーズ又はゲルである。抗体(例えば、インスリン抗体又は二次抗体)を固体担体に結合、付着、固定化又は連結することができる当技術分野で周知の多くの方法、例えば、共有結合又は非共有結合吸着、親和性結合、イオン結合などがある。いくつかの実施形態において、抗体は、CNBrを用いて連結させる。例えば、抗体は、CNBr活性化セファロースに連結させることができる。他の実施形態において、抗体は、プロテインA、プロテインG、プロテインA/G又はプロテインLなどの抗体結合タンパク質を介して固体担体に付着させる。
【0126】
免疫精製法の洗浄ステップは、一般的に、インスリンが固体担体上の抗インスリン抗体に結合したままであるように固体担体を洗浄することを必要とする。免疫精製法の溶出ステップは、一般的に、抗インスリン抗体へのインスリンの結合を破壊する溶液の添加を必要とする。具体例としての溶出溶液は、有機溶液、塩溶液及び高もしくは低pH溶液を含む。
【0127】
質量分析の前に用いることができる試料の精製の他の方法は、液体クロマトグラフィー(LC)である。液体クロマトグラフィー技術において、対象の被分析物が1つ又は複数の他の物質と比べて異なる速度で溶出する移動相条件下で試料をクロマトグラフ分析カラムに加えることによって、被分析物を精製することができる。そのような手順は、試料の1つ又は複数の他の成分と比べて対象の1つ又は複数の被分析物の量を高め得る。
【0128】
HPLCを含む液体クロマトグラフィーの特定の方法は、比較的に遅い層流技術に依拠している。伝統的なHPLC分析は、カラム中を通る試料の層流が試料からの対象の被分析物の分離の基礎であるカラム充填に依拠している。当業者は、そのようなカラムにおける分離が分配過程であることを理解し、C-ペプチドとともに用いるのに適切であるHPLCを含むLC、機器及びカラムを選択することができる。クロマトグラフ分析カラムは、一般的に化合物構成成分の分離(すなわち、分別)を促進するための媒体(すなわち、充填剤)を含む。媒体は、微細な粒子を含み得る。粒子は、一般的に、様々な化合物構成成分と相互作用して化合物構成成分の分離を促進する結合表面を含む。1つの適切な結合表面は、アルキル結合又はシアノ結合表面などの疎水性結合表面である。アルキル結合表面は、C-4、C-8、C-12又はC-18結合アルキル基を含み得る。いくつかの実施形態において、クロマトグラフ分析カラムは、モノリスC-18カラムである。クロマトグラフ分析カラムは、試料を受け入れる入口部及び分別試料を含む溶出物を排出するための出口部を含む。試料は、入口部に直接、又はオンラインSPEカラムなどのSPEカラム若しくはTFLCカラムから供給することができる。いくつかの実施形態において、試料がSPE及び/又はTFLC及び/又はHPLCカラムに達する前に試料中の粒子及びリン脂質を除去するために、オンラインフィルターをSPEカラム及び又はHPLCカラムの前に用いることができる。
【0129】
1つの実施形態において、試料は、入口部においてLCカラムに加え、溶媒又は溶媒混合物により溶出し、出口部において排出することができる。対象の被分析物(単数又は複数)を溶出するための各種溶媒モードを選択することができる。例えば、液体クロマトグラフィーは、勾配モード、無勾配モード又は多型的(すなわち、混合)モードを用いて実施することができる。クロマトグラフィー中、物質の分離は、溶出液(「移動相」としても公知)、溶出モード、勾配条件、温度の選択等などの変数による影響を受ける。
【0130】
いくつかの実施形態において、試料中のインスリンをHPLCにより濃縮する。このHPLCは、モノリスC-18カラムクロマトグラフシステム、例えば、Phenomenex Inc.製のOnyxモノリスC-18カラム(50x2.0mm)又は同等物を用いて実施することができる。特定の実施形態において、HPLCは、溶媒AとしてのHPLC用0.2%水性ギ酸及び溶媒Bとしてのアセトニトリル中0.2%ギ酸を用いて実施する。
【0131】
弁及び継手配管の注意深い選択により、手作業によるステップの必要なく1つのクロマトグラフィーカラムから次のカラムに物質が通るように2つ以上のクロマトグラフィーカラムを必要に応じて接続することができる。好ましい実施形態において、弁及び配管の選択は、必要なステップを実施するようにあらかじめプログラムされたコンピュータにより制御される。最も好ましくは、クロマトグラフィーシステムは、そのようなオンライン式で検出システム、例えば、MSシステムにも接続されている。したがって、操作者が試料のトレーをオートサンプラーに取り付けることができ、残りの操作は、コンピュータ制御のもとに実施されて、選択されるすべての試料の精製及び分析が行われる結果となる。
【0132】
いくつかの実施形態において、質量分析の前のインスリンの精製のためにTFLCを用いることができる。そのような実施形態において、被分析物を捕捉するTFLCカラムを用いて試料を抽出することができる。次いで、被分析物を溶出し、オンラインで分析HPLCカラムに移す。例えば、試料の抽出は、大粒子径(50μm)充填剤を含むTFLC抽出カートリッジを用いて達成することができる。このカラムから溶出した試料は、質量分析の前のさらなる精製のためにオンラインで分析HPLCカラムに移すことができる。これらのクロマトグラフィー手順に含まれるステップを自動式で連結することができるので、被分析物の精製中の操作者の関与の必要性を最小限にすることができる。この特徴により、時間と費用の節約がもたらされ、操作者の誤りの機会が排除される可能性がある。
【0133】
いくつかの実施形態において、1つ又は複数の上述の精製技術は、複数の試料の同時処理を可能にするために、インスリンの精製のために並行して用いることができる。いくつかの実施形態において、用いられる精製技術は、免疫アフィニティークロマトグラフィーなどの免疫精製技術を除く。
【0134】
質量分析によるインスリンの検出及び定量
質量分析は、分別試料をイオン化し、さらなる分析のために荷電分子を生成するためのイオン源を含む質量分析計を用いて実施される。様々な実施形態において、インスリンは、当業者に公知の方法によりイオン化することができる。例えば、インスリンのイオン化は、電子イオン化、化学イオン化、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、光子イオン化、大気圧化学イオン化(APCI)、光イオン化、大気圧光イオン化(APPI)、レーザーダイオード熱脱離(LDTD)、高速原子衝撃(FAB)、液体二次イオン化(LSI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、電界イオン化、電界脱離、サーモスプレー/プラズマスプレーイオン化、表面エンハンス型レーザー脱離イオン化(SELDI)、誘導結合プラズマ(ICP)及び粒子ビームイオン化により行うことができる。当業者は、イオン化法の選択は、測定される被分析物、試料の種類、検出器の種類、ポジティブ対ネガティブモードの選択等に基づいて決定することができることを理解し、インスリンはポジティブモードでイオン化されても、ネガティブモードでイオン化されてもよい。好ましい実施形態において、インスリンは、ESIによりポジティブイオンモードでイオン化される。
【0135】
質量分析技術において、一般的に、試料をイオン化した後、それにより生成した正又は負に荷電したイオンを分析して、質量電荷比(m/z)を決定することができる。m/zを決定するための種々の分析計は、四重極型分析計、イオントラップ型分析計、飛行時間型分析計、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計及びオービトラップ型分析計を含む。いくつかの具体例としてのイオントラップ方法は、Bartolucciら、Rapid Commun.Mass Spectrom.、2000年、14巻、967~73頁に記載されている。
【0136】
イオンは、数種の検出モードを用いて検出することができる。例えば、選択されるイオンは、すなわち、選択イオンモニタリングモード(SIM)を用いて検出することができ、又は代わりになるべきものとして、衝突誘起解離若しくはニュートラルロスに起因する質量遷移を例えば、多重反応モニタリング(MRM)若しくは選択反応モニタリング(SRM)によりモニターすることができる。いくつかの実施形態において、質量電荷比を四重極型分析計を用いて決定する。「四重極」又は「四重極型イオントラップ」機器において、振動高周波電界におけるイオンは、電極間に印加されたDC電位、RFシグナルの振幅及び質量/電荷比に比例する力を受ける。電圧及び振幅は、特定の質量/電荷比を有するイオンのみが四重極を縦断するが、他のすべてのイオンは偏向させられるように選択できる。したがって、四重極機器は、機器に注入されるイオンの「マスフィルター」及び「質量検出器」の両方として機能し得る。
【0137】
イオンが検出器に衝突するとき、それらは、デジタル信号に変換される電子のパルスを生じる。取得されたデータは、コンピュータに転送され、コンピュータは、収集されたイオンの計数を時間に対してプロットする。得られる質量クロマトグラムは、伝統的なHPLC-MS法で得られるクロマトグラムに類似している。特定のイオンに対応するピーク下面積又はそのようなピークの振幅を測定し、対象の被分析物の量と関連させることができる。特定の実施形態において、フラグメントイオン(単数又は複数)及び/又は前駆イオンのピークの曲線下面積又は振幅を測定して、インスリンの量を決定する。所定のイオンの相対存在量は、内部又は外部分子標準の1つ又は複数のイオンのピークに基づく較正標準曲線を用いて最初の被分析物の絶対量に変換することができる。
【0138】
特定の質量分析計を用いるMS技術の分解能を「タンデム質量分析」又は「MS/MS」により向上させることができる。この技術において、対象の分子から得られる前駆イオン(親イオンとも呼ばれる)は、MS機器によりフィルターすることができ、前駆イオンは、その後フラグメント化されて、第2のMS手順で分析される1つ又は複数のフラグメントイオン(娘イオン又はプロダクトイオンとも呼ばれる)を生じる。前駆イオンの注意深い選択により、特定の被分析物により生成するイオンのみがフラグメント化チャンバーに通され、そこでの不活性ガスの原子との衝突により、フラグメントイオンが生成する。前駆及びフラグメントイオンの両方が一連の所定のイオン化/フラグメント化条件下で再現性よく生成するので、MS/MS技術は、極めて強力な分析ツールとなり得る。例えば、フィルトレーション/フラグメンテーションの組み合わせは、妨害物質を除去するために用いることができ、生物学的試料のような複雑な試料に特に有用であり得る。特定の実施形態において、マルチプル四重極型分析計を含む質量分析機器(トリプル四重極型機器など)を用いてタンデム質量分析を行う。
【0139】
MS/MS技術を用いる特定の実施形態において、前駆イオンをさらなるフラグメント化のために単離し、衝突活性化解離(CAD)を用いて、後続の検出のために前駆イオンからフラグメントイオンを生成する。CADにおいて、前駆イオンは、不活性ガスとの衝突によりエネルギーを獲得し、その後「単分子分解」と呼ばれる過程によりフラグメントになる。振動エネルギーの増加によりイオン内の特定の結合を切断できるように、十分なエネルギーが前駆イオンに蓄積されなければならない。
【0140】
いくつかの実施形態において、試料中のインスリンは、次のようにMS/MSを用いて検出され、及び/又は定量される。最初に試料をSPEに、次いで、液体クロマトグラフィー、好ましくはHPLCにかけることにより、試料中のインスリンが濃縮され、クロマトグラフ分析カラムからの液体溶媒の流れがMS/MS分析計の加熱ネブライザーインターフェースに入り、溶媒/被分析物混合物がインターフェースの加熱荷電チューブ中で蒸気に変換される。これらの過程において、被分析物(すなわち、インスリン)がイオン化される。イオン、例えば、前駆イオンは、機器の開口部を通過し、第1の四重極に入る。四重極1及び3(Q1及びQ3)は、イオンの質量電荷比(m/z)に基づいてイオンの選択(すなわち、Q1及びQ3におけるそれぞれ「前駆」及び「フラグメント」イオンの選択)を可能にするマスフィルターである。四重極2(Q2)は、イオンがフラグメント化されるコリジョンセルである。質量分析計の第1の四重極(Q1)は、インスリンイオンのm/zを有する分子を選択する。正しいm/zを有する前駆イオンは、コリジョンチャンバー(Q2)内に通されるが、他のm/zを有する不要なイオンは、四重極の側面に衝突し、除去される。Q2に入った前駆イオンは、中性ガス分子(アルゴン分子など)と衝突し、フラグメントになる。生成したフラグメントイオンは、四重極3(Q3)に通され、ここでフラグメントイオンが検出のために選択される。
【0141】
インスリンのイオン化は、多価前駆イオン(4+、5+、6+等の前駆イオンのような)をもたらし得る。イオン化条件、特にエレクトロスプレー技術に用いられる緩衝液のpHは、生成したインスリン前駆イオンの同一性及び量に著しい影響を与える。例えば、酸性条件下では、ポジティブエレクトロスプレーイオン化は、主として、それぞれ1162.5±0.5及び968.5±0.5のm/zを有する5+及び6+価インスリン前駆イオンを発生させ得る。しかし、塩基性条件下では、ポジティブエレクトロスプレーイオン化は、主として、それぞれ1453.75±0.5及び1162.94±0.5のm/zを有する4+及び5+価インスリン前駆イオンを発生させ得る。本方法は、酸性又は塩基性条件、好ましくは酸性条件を利用し得る。
【0142】
本方法は、ポジティブ又はネガティブイオンモード、好ましくはポジティブイオンモードで実施されるMS/MSを含み得る。特定の実施形態において、エレクトロスプレー緩衝液は、酸性であり、Q1は、約1162.5±0.5又は968.5±0.5のm/zを有するインスリン前駆イオンを選択する。これらのインスリン前駆イオンのいずれかのフラグメント化により、約226.21±0.5及び/又は135.6±0.5のm/zを有するフラグメントイオンが生成する。したがって、Q1が、約1162.5±0.5及び968.5±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のインスリン前駆イオンを選択する実施形態において、Q3は、約226.21±0.5及び135.6±0.5のm/zを有するイオンの群から選択される1つ又は複数のフラグメントイオンを選択し得る。特定の実施形態において、単一前駆イオンからの単一フラグメントイオンの相対存在量を測定することができる。或いは、単一前駆イオンからの2つ以上のフラグメントイオンの相対存在量を測定することができる。これらの実施形態において、各フラグメントイオンの相対存在量を公知の数学的処理にかけて、試料中の最初のインスリンを定量的に評価することができる。他の実施形態において、2つ以上の前駆イオンからの1つ又は複数のフラグメントイオンを測定し、上述のように利用して試料中の最初のインスリンを定性的に評価することができる。
【0143】
特定の実施形態において用いることができるタンデム質量分析機器を操作する代替モードは、プロダクトイオンスキャン法及び前駆イオンスキャン法を含む。これらの操作モードの説明については、例えば、E.Michael Thurmanら、Chromatographic-Mass Spectrometric Food Analysis for Trace Determination of Pesticide Residues、Chapter 8(Amadeo R.Fernandez-Alba編、Elsevier 2005)(387)を参照のこと。
【0144】
他の実施形態において、高分解能/高精度質量分析計は、本発明の方法によるインスリンの定量的分析に用いることができる。定量的結果の容認できる精度を達成するために、質量分析計は、対象のイオンについて約50ppm又はそれ以下の正確度で10,000又はそれ以上の分解能(FWHM)を示すことができなければならない。好ましくは質量分析計は、約5ppm又はそれ以下の正確度で18,000又はそれ以上の分解能(FWHM)、例えば、20,000又はそれ以上の分解能(FWHM)と約3ppm又はそれ以下の正確度など、例えば、25,000又はそれ以上の分解能(FWHM)と約3ppm又はそれ以下の正確度などを示す。インスリンイオンについて必要なレベルの性能を示すことができる3つの具体例としての分析計は、オービトラップ質量分析計、特定のTOF質量分析計及びフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計である。
【0145】
炭素、酸素及び窒素などの生物学的活性分子に見いだされる元素は、多種の同位体で天然に存在する。例えば、ほとんどの炭素は、12Cとして存在するが、すべての天然に存在する炭素の約1%は、13Cとして存在する。したがって、少なくとも1つの炭素原子を含有する天然に存在する分子の一部分は、少なくとも1つの13C原子を含有することになる。天然に存在する元素同位体が分子に含まれることにより、複数の分子同位体が生じる。分子同位体の質量の差は、少なくとも1原子質量単位(amu)である。これは、元素同位体が少なくとも1つの中性子異なるからである(1つの中性子の質量≒1amu)。分子同位体が多荷電状態にイオン化される場合、質量分析での検出が質量電荷比(m/z)に基づいているため、同位体の間の質量の差異は、識別することが困難になり得る。例えば、両方が5+状態にイオン化される、質量が1amu異なる2つの同位体は、わずか0.2のそれらのm/zの差を示す。高分解能/高精度質量分析は、高度に多荷電イオン(±2、±3、±4、±5又はより高度の電荷を有するイオンなど)の同位体を識別することができる。
【0146】
天然に存在する元素同位体のため、すべての分子イオン(十分に感度の高い質量分析機器により分析した場合、それぞれが個別に検出できるスペクトルピークを生じ得る)について複数の同位体が一般的に存在する。複数の同位体のm/z比及び相対存在量は、分子イオンの同位体シグニチャを集合的に含む。いくつかの実施形態において、2つ以上の分子同位体のm/z比及び相対存在量は、検討中の分子イオンの同一性を確認するために利用することができる。いくつかの実施形態において、1つ又は複数の同位体の質量分析ピークを用いて分子イオンを定量する。いくつかの関連実施形態において、1つの同位体の単一質量分析ピークを用いて分子イオンを定量する。他の関連実施形態において、複数の同位体ピークを用いて分子イオンを定量する。これらの後者の実施形態において、複数の同位体ピークは、適切な数学的処理にかけることができる。いくつかの数学的処理は、当技術分野で公知であり、多重ピーク下面積の合計又は多重ピークによる応答の平均を含むが、これらに限定されない。
【0147】
いくつかの実施形態において、試料中のインスリンの量を定性的に評価するために1つ又は複数のイオンの相対存在量を高分解能/高精度質量分析計により測定する。いくつかの実施形態において、高分解能/高精度質量分析により測定される1つ又は複数のイオンは多価インスリンイオンである。これらの多価イオンは、約1453±0.8(すなわち、4+イオンの1つ又は複数の単一同位体ピーク)及び/又は1162±1(すなわち、5+イオンの1つ又は複数の単一同位体ピーク)及び/又は968.8±1.5(すなわち、6+イオンの1つ又は複数の単一同位体ピーク)の範囲内のm/zを有する1つ又は複数のイオンを含み得る。
【0148】
被分析物アッセイの結果は、当技術分野で公知の多くの方法により最初の試料中の被分析物の量に関連付けることができる。例えば、サンプリング及び分析パラメーターが注意深く管理されているならば、所定のイオンの相対存在量は、当該相対存在量を最初の分子の絶対量に換算する表と比較することができる。或いは、外部標準を試料とともに実施することができ、標準曲線をそれらの標準から得たイオンに基づいて作成する。そのような標準曲線を用いて、所定のイオンの相対存在量を最初の分子の絶対量に換算することができる。特定の好ましい実施形態において、内部標準を用いてインスリンの量を計算するための標準曲線を作成する。そのような標準曲線を作成し、用いる方法は、当技術分野で周知であり、当業者は適切な内部標準を選択することができる。例えば、好ましい実施形態において、1つ又は複数の形の同位体標識インスリンを内部標準として用いることができる。イオンの量を最初の分子の量に関連させる多くの他の方法は、当業者に周知である。
【0149】
本明細書で用いる場合、「同位体標識」は、質量分析技術により分析するとき、非標識分子と比べて標識分子の質量シフトをもたらす。適切な標識の例としては、重水素(2H)、13C及び15Nなどがある。1つ又は複数の同位体標識を分子における1つ又は複数の位置に組み込むことができ、1つ又は複数の種類の同位体標識を同じ同位体標識分子に用いることができる。
【0150】
他の実施形態において、質量分析の前にインスリンの成分鎖を得るために、インスリンを化学処理にかけることができる。インスリンのB鎖は、ジスルフィド還元を引き起こすことが当技術分野で公知である化学処理により分離することができる。例えば、インスリンをTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)で処理して、インスリンのジスルフィド架橋を還元し、A鎖とB鎖を分離することができる。
【0151】
以下の実施例は、本発明を説明する役割を果たす。これらの実施例は、本方法の範囲を制限するものではない。
【実施例0152】
実施例1:ヒトインスリン抵抗性研究
ヒト対象は、見たところ健康な、心血管疾患の病歴を有しない自称非ヒスパニックの白人であった。すべての個人が、研究に参加するための書面によるインフォームドコンセントを提出した。
【0153】
空腹時グルコース≧126mg/dLを有する対象、又は血糖降下薬を服用している若しくは糖尿病の診断を有する対象は分析から除外した。
【0154】
人種及び民族を病歴の間に決定した。個人が薄着で靴を着用していない時に体重及び身長を測定した。キログラムでの体重を、二乗したメートルでの身長で割ることによりボディマスインデックスを計算した。自動血圧記録計を用いて血圧を測定した。これらの測定の前に、両足を床に付けて腕を心臓レベルに支持した状態で、対象を静かに5分間椅子に着席させた。適切なサイズにしたカフを用いて、血圧測定値を1分間隔で3回取り、平均した。以下の特性のうち3つが存在すれば代謝症候群が存在した:BMI>30kg/m2;FG>100mg/dL;高血圧(SBP≧130mmHg又はDBP≧85mmHg)、低HDL-C(<50mg/dL、女性;<40mg/dL、男性)、TG≧150mg/dL。
【0155】
インスリン抑制試験(IST)を用いることにより、インスリン媒介性グルコース処理を定量した。インスリン抑制試験により、インスリン媒介性グルコース処理を評価するためのオクトレオチドの評価。一方のカテーテルを用いて血液試料を引き込み、他方のカテーテルを用いて、オクトレオチド(0.27μg/m2/分)、インスリン(32mU/m2/分)及びグルコース(267mg/m2/分)の180分注入を投与した。注入の150~180分に10分間隔で血液をサンプリングし、定常状態の血漿グルコース(SSPG)及び定常状態の血漿インスリン(SSPI)濃度を決定した。ISTの間すべての個人でSSPI濃度が同様であることから、SSPG濃度によって、インスリンの、注入されたグルコース負荷の処理を媒介する能力の直接の測定値がもたらされる。したがって、SSPG濃度が高ければ高いほど、その個人はインスリン抵抗性が高い。ISTにより決定されるインスリン媒介性グルコース処理は、正常血糖高インスリンクランプ技術で得られるインスリン媒介性グルコース処理と高度に相関している。本研究においては、IRを、測定されたインスリン抵抗性の上位三分位(SSPG≧198mg/dL)に入ることと定義した。インスリン及びC-ペプチドの測定に用いた血清試料は、ISTプロトコール開始前に得られた空腹時ベースライン試料由来であった。
【0156】
分析は、完全な一連の生化学的及び人体計測的測定値を有する対象335名(39%が男性)を含んでいた。
【0157】
この集団では、対象335名のうち118名が代謝症候群を有していた。
【0158】
分類された供試患者集団の臨床的特性を表1に示し、ここで対象はインスリン抵抗性の状態に従って分類されている。インスリン抵抗性を有する人は、男性の割合がより高く、空腹時血漿グルコース(FPG)、インスリン、C-ペプチド、トリグリセリド、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ボディマスインデックス(BMI)、及び収縮期血圧がより大きかった。HDL-C及びLDL-Cは、インスリン抵抗性を有する人においてより小さかった。
【0159】
【0160】
実施例2:インスリン及びC-ペプチド測定
我々はSSPGを用いて、非糖尿病(FG<125mg/dLで糖尿病の診断なし)の非ヒスパニックの白人参加者632名においてIRを評価した。IRは、この集団におけるSSPGの上位三分位(≧201mg/dL)と定義した。
【0161】
インスリン及びC-ペプチドを、多重タンデム質量分析アッセイにより評価した。
【0162】
血清を脱脂し、次いで、磁気ビーズ上に固定化された抗体を用いてインスリン及びC-ペプチドを免疫捕捉した。ビーズを洗浄し、水中酸性化アセトニトリルを用いてペプチドをビーズから溶出した。トリズマ塩基を加えて、ペプチドの安定性を増大させた。キャリブレーターの調製、内部標準の添加、脱脂、ビーズ堆積(bead deposition)、免疫捕捉、ビーズからのペプチドの洗浄及び溶出の工程は、Hamilton STAR(登録商標)ロボット液体ハンドラーを用いて自動化した。
【0163】
溶出プレートをThermoFisher TurboFlow Aria TX4 HTLCシステムに移した。試料を親水性/親油性バランス(HLB)捕捉カラム上に注入し、インスリン及びC-ペプチドをバックグラウンド混入物からさらに濃縮した。移動溶媒を用いて、抽出カートリッジからペプチドを放出させ、それらを逆相分析カラムに移した。アセトニトリル勾配クロマトグラフィーにより、インスリン及びC-ペプチドを残りのバックグラウンド混入物及び互いから分離した。
【0164】
HPLCカラムからの溶媒の流れをAgilent 6490質量分析計の加熱エレクトロスプレー源に向けた。質量分析計において、所望の質量電荷比を有するイオンのみを四重極1(Q1)領域を通過させて、衝突チャンバー(Q2)内に流入させた。次いで、加速イオンが中性アルゴンガス分子と衝突して、小フラグメントになる。最後に、Q3において、選択されるイオンのみが選択されて、検出器に到達した。検出器におけるシグナルの強度は、質量分析計に入った分子の数に比例していた。次いでピーク面積比を一連の既知のキャリブレーターについて計算し、較正曲線を確立する。次いで、較正式を用いて、患者試料中のインスリン及びC-ペプチドの濃度を決定することができる。
【0165】
968.7(前駆体)並びに136.0、226.1、及び345.2(フラグメント)のインスリンm/zを用いた。1007.7(前駆体)並びに533.3、646.4、及び927.5(フラグメント)のC-ペプチドm/zを用いた。
【0166】
実施例3:アッセイ内及びアッセイ間精度
アッセイ内精度は、アッセイ内の測定の再現性と定義され、QCL、QCM及びQCHからの5つの複製物をアッセイすることにより得られた。試料の5つの複製物の変動係数(CV)を用いて、再現性が許容できる(≦15%)かどうかを判断した。分析の結果について実施した統計処理により、QCについての再現性(CV)がインスリンについて6.2~11.5%の範囲にあり、C-ペプチドについて5.1~6.3%の範囲にあったことが確認された(表2)。アッセイ内精度もすべてのアッセイにわたって計算することができる(930TP5319:Assay Validation Calculator参照)。インスリンについてはラン内CVは、4.7~9.6%の範囲にあり、C-ペプチドについてはラン内CVは、4.7~7.0%の範囲にあった。
【0167】
アッセイ間変動は、アッセイの間の測定の再現性と定義される。QCL、QCM及びQCHを5日にわたって評価した。プールのアッセイ間変動(%CV)は、インスリンについては7.3~11.3%、C-ペプチドについては6.2~9.0%の範囲にあった。インスリン及びC-ペプチドのすべてのQCプールは、≦15%CVの許容できる再現性の要件を満たしていた(表3)。
【0168】
実施例4:分析感度(検出限界)
ブランク限界(LOB): LOBは、測定値がそれに随伴する不確かさよりも大きい点であり、ゼロ濃度から2標準偏差(SD)として任意に定義される。選択性は、試料中の他の成分の存在下で被分析物を識別し、定量する分析方法の能力である。選択性については、適切な生物学的マトリックス(ストリップ血清)のブランク試料の分析が得られ、妨害及び定量下限において保証される選択性について試験した。ブランクを20回測定し、得られる面積比を逆算した。
【0169】
LOBは、インスリンについて0.9μIU/mL、C-ペプチドについて0.06ng/mLと決定された。
【0170】
検出限界(LOD): LODは、測定値がそれに随伴する不確かさよりも大きい点であり、ゼロ濃度から4標準偏差(SD)として任意に定義される。選択性は、試料中の他の成分の存在下で被分析物を識別し、定量する分析方法の能力である。選択性については、適切な生物学的マトリックス(ストリップ血清)のブランク試料の分析が得られ、妨害及び定量下限において保証される選択性について試験した。ブランクを20回測定し、得られる面積比を逆算した。
【0171】
LODは、インスリンについて1.5μIU/mL、C-ペプチドについて0.10ng/mLと決定された。
【0172】
定量限界(LOQ): LOQは、測定が定量的に意味を持つようになる点である。インスリン及びC-ペプチドは、このLOQにおいて応答し、識別でき、分離しており、20%の精度及び80%~120%の正確度で再現性がある。LOQは、予測されるLOQに近い濃度の5種の試料(インスリンについて1.25、2.5、5、10及び20μIU/mL、C-ペプチドについて0.11、0.22、0.44、0.85、0.17ng/mL)をアッセイし、次いで7ランにおけるアッセイ内再現性及びさらなる8ランにおけるアッセイ間再現性を評価することによって決定した(表5)。それぞれインスリン及びC-ペプチドの2.5μIU/mL及び0.11ng/mLが、CVの95%信頼区間が20%未満に留まっている、許容できる性能をもたらす最低濃度である。
【0173】
LOQは、インスリンについて2.5又は3μIU/mL、C-ペプチドについて0.11ng/mLと設定した。
【0174】
実施例5:被分析物測定範囲(AMR)
較正検証: 10個のスパイクしたストリップ血清試料プール(キャリブレーターの濃度は、インスリンについて1.25、2.5、5、10、20、40、80、160、240及び320μIU/mLであり、0.11、0.21、0.43、0.85、1.70、3.40、6.80、13.60、20.40及び27.20ng/mLである)を調製し、別個の13日に18回分析した。
【0175】
18の曲線からの重み付け(1/X)二次回帰(原点無視)により、±20%の正確度を有する、インスリンについて0.989又はそれ以上、C-ペプチドについて0.992又はそれ以上の相関係数が得られ、インスリンについて5~320μIU/mL、C-ペプチドについて0.11~27.20ng/mLの直線範囲を示した(表6)。直線0.11~27.20ng/mL。
【0176】
実施例6:インスリン抵抗性の診断
参加者のうち335名について、人体計測的(anthropomorphic)測定値(年齢、性別、SBP、DBP及びBMI)及びバイオマーカー(FG、インスリン、C-ペプチド、HDL-C、LDL-C、TG、クレアチニン、及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT))すべてが入手できた。これらの335名の参加者の中で、我々は、FG、インスリン、C-ペプチド、HDL-C、TG、及びBMI(すべてP<0.0001)、ALT(P=0.002、及びSBP(P=0.008)が、年齢及び性別について調整されたモデルにおいてIRと関連していることを見いだした。ステップワイズモデル選択を用いて、我々は、インスリン、C-ペプチド、及びBMIのみを含むIRモデルがAUC0.89を有することを見いだした。モデル選択をバイオマーカーに限定すると、インスリン及びc-ペプチドのみを含むモデルがAUC0.88を有していた。結論として、非糖尿病の非ヒスパニックの白人についての本研究では、空腹時血清インスリン及びC-ペプチド濃度がともにIRの測定値と関連しており、組み合わせると、IRの有病率についての高度に正確な情報をもたらした。
【0177】
IRを有する人と有しない人との間の伝統的なリスク因子の差を、離散変数についてはWilcoxon順位和検定、連続変数についてはカイ二乗検定により評価した。インスリン及びC-ペプチドとIRとの間の関連を、年齢、性別、SBP、DBP、BMI、FG、HDL-C、LDL-C、TG、クレアチニン、及びALTについて調整されたロジスティック回帰モデルを用いて評価した。リスクスコア1はインスリン、C-ペプチド、及びBMIを含んでいた。リスクスコア2はインスリン及びC-ペプチドを含んでいた。確率値はすべて両側であり、95%信頼区間(CI)が示される。分析はすべてSASバージョン9.2を用いて実施した。
【0178】
インスリン抵抗性と、生化学的及び人体計測的測定値との間の関連について表2に示す。年齢、性別、及び民族について調整後、クレアチニンを除くすべてがインスリン抵抗性と関連していた(P≦0.05)。しかし、生化学的及び人体計測的測定値すべてをモデルに含めると、インスリン、C-ペプチド、クレアチニン及びBMIのみがインスリン抵抗性と関連していた。
【0179】
【0180】
【0181】
インスリン、C-ペプチド、クレアチニン、及びBMIが我々のモデリングにおいて最も重要な変数ということになったため、我々はこれらを単一のリスクスコアに組み合わせた(モデル1)。この分析により、この手法を用いると、年齢、性別、民族、空腹時血漿グルコース、LDL-C、HDL-C、トリグリセリド、アラニンアミノトランスフェラーゼ、並びに収縮期及び拡張期血圧について調整されたモデルにおいて、このリスクスコアの上位四分位に入った個人が、上位四分位に入らなかった個人よりもインスリン抵抗性を有する可能性が>15倍高いことが実証された(OR=15.1、95%CI 8.7~26.3)(表3)。
【0182】
臨床変数を検査診断に組み込むのは実用上の困難を呈しうることを認識して、我々は、インスリン、C-ペプチド、及びクレアチニンのみ(モデル2)、又はインスリン及びC-ペプチドのみ(モデル3)を含むリスクスコアの性能も試験した。インスリン、C-ペプチド、及びクレアチニンを組み込むリスクスコア(モデル2)では、このスコアの上位四分位に入る人についての、IRであるオッズが、このリスクスコアの上位四分位に入る人対入らない人について13.6にわずかに低下した(95%CI 7.9~23.6)。最後に、インスリン及びC-ペプチドの結果のみを用いると(モデル3)、このリスクスコアの上位四分位に入った人は、入らなかった人よりもインスリン抵抗性であるオッズが9倍高かった(OR=9.9、95%CI 5.8~17.0)。
【0183】
代謝症候群は長らく、インスリン抵抗性及び将来的な2型糖尿病の発症リスクと強く関連していると認識されてきた。本研究集団において、我々は、年齢、性別、民族、LDL-C、クレアチニン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、収縮期及び拡張期血圧について調整されたモデルでも、代謝症候群がインスリン抵抗性と関連していることを見いだした(OR=3.7、95%CI 2.4~5.8)。対照的に、インスリン及びC-ペプチドについてのさらなる調整後には、代謝症候群はインスリン抵抗性と関連していなかった(OR=1.1、95%CI 0.6~1.9)(表1)。注目すべきことに、代謝症候群が存在するか否かに関わらず、3つのリスクスコアはすべてインスリン抵抗性と関連していた(表4)。
【0184】
【0185】
これらのモデルからの情報を用いて、個人がインスリン抵抗性である確率を定義することができる。表5は、1)C-ペプチド及びインスリン、2)C-ペプチド、インスリン、及びクレアチニン、BMI、並びに3)C-ペプチド、インスリン、クレアチニン、及びBMIのいずれかを含む3つの異なるリスクスコアの、様々な百分位数での、個人がインスリン抵抗性である確率を示す。モデル間でわずかな差が存在するものの、情報の大部分が、C-ペプチド及びインスリンを組み込むモデル内に含まれることが明白である。
【0186】
【0187】
図1は、代謝症候群を有する個人及び有しない個人において、インスリン及びC-ペプチドがインスリン抵抗性(IR)と関連していることを示している。
【0188】
我々は、12年の期間にわたってGCRC環境で研究が行われた多民族コホートにおけるSSPGを用いてのインスリン抵抗性の正式な測定値に由来するインスリン抵抗性レベルを予測する、臨床パラメーター及び検査結果の能力を試験した。事前研究(REFS)と一致して、年齢、性別、及び民族についての調整後でも、FPG、インスリン、C-ペプチド、HDL-C、LDL-C、トリグリセリド、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ボディマスインデックス(BMI)、及び血圧を含む広範な臨床パラメーターが、インスリン抵抗性の正式な測定値と関連することが観測された。注目すべきは、これらの関連の大部分が、インスリン及びC-ペプチドの結果について調整されると有意のままでなくなり、これら自体が根底にあるインスリン抵抗性の状態の反映であり、このことがインスリン及びC-ペプチドレベルを含めることによるモデルの調整をほぼ完全に説明することが示唆された。モデルがインスリン及びC-ペプチドの測定値を含んでいると、BMI及びクレアチニンのみがわずかに有意なままとなった。
【0189】
本研究による驚くべき発見は、インスリン及びC-ペプチド両方の測定が、SSPGを用いて測定されるインスリン抵抗性レベルを正確に予測する能力に大きく寄与するという観測であった。
【0190】
本研究において、我々は、多重アッセイを用いて、高処理液体クロマトグラフィータンデム質量分析を用いてインタクトなインスリン及びC-ペプチドを測定した。この手法により、長期にわたって持続する特定の閾値の定義が可能となる。
【0191】
推測されるインスリン抵抗性レベルに関する情報を伝えることが可能な多くの方法が存在するが、我々は、このデータを表す最も有用な方法のうち1つが、個人がインスリン抵抗性の特定の閾値を有する確率を提示することであると期待している。この目的のため、我々はこれを、ここではSSPG≧198mg%(上位三分位)と定義されるインスリン抵抗性確率として表した。クレアチニン及びBMIによりこの予測ツールは測定可能なほどに改変されるが、インスリン及びC-ペプチドが情報の大部分を占める。
【0192】
要約すれば、我々は、空腹時及びC-ペプチド測定値を組み込むモデルが、SSPGを用いるインスリン抵抗性レベルの正式な測定値を良好な正確度で予測することができることを実証した。このモデルが単純であること、及び臨床パラメーター又はその他の検査値が入手可能であるか否かに関わらず有効であることが、本研究の強みである。我々の発見は、このようなリスクスコアが、臨床徴候が存在するか否かに関わらず、個人のインスリン抵抗性レベルの評価において有用であることを示唆した。これらの発見は、このような測定値が、インスリン抵抗性を低下させるためのライフスタイルへの介入又は薬理学的介入を受けている対象の長期的な評価、研究環境外では現在困難な評価にも有益となりうることも示唆している。
【0193】
インスリン及びC-ペプチドは、互いに、かつ空腹時グルコースを含む伝統的なリスク因子とは独立にインスリン抵抗性と関連している。
【0194】
インスリン及びC-ペプチドを用いて、代謝症候群を有する人及び有しない人において、SSPG法を用いて正式に評価されるインスリン抵抗性の確率を評価することができる。
【0195】
C-ペプチド及びインスリン(標準化された、追跡可能なC-ペプチド及びインスリン測定値を使用)を組み合わせるリスクスコアは、患者に、彼らのインスリン抵抗性を有する確率を提供するため導き出され、使用されうる。
【0196】
インタクトなインスリン及びC-ペプチド濃度を同時に定量する高処理質量分析アッセイの本技法は、インスリン及びC-ペプチド測定の標準化における基準点、並びに最終的に、インスリン抵抗性の同定のための普遍的に許容される定量的手法の創出として機能しうる。現在の研究では、この方法を用いてインタクトなインスリン及びC-ペプチドを測定し、かつ、非糖尿病の見たところ健康な個人においてインスリン媒介性グルコース処理により測定されるインスリン抵抗性を評価するための、これらの標準化された測定の有用性を評価している。現在の分析では、すべての測定値が揃っている初期コホート(自認するところの非ヒスパニックの白人個人)に対しこの手法を適用している。
【0197】
実施例6:多重質量分析により測定されるインタクトなインスリン及びC-ペプチドレベル
インスリンレベルの上昇は、糖尿病発症のリスク増大と関連することが示されている。インスリン及びC-ペプチドについての臨床試験が数十年前から利用可能であったものの、少なくともある程度は、利用可能な免疫測定法が広範囲にわたること、及び1つのアッセイプラットフォームから得られる結果をその他のプラットフォームから得られる結果と関連させることが困難であることから、インスリン測定値は臨床での実践では広範に用いられてこなかった。この欠点はインスリン及びC-ペプチド両方についての文献で注記されてきた。したがって、我々はインタクトなインスリン及びC-ペプチド両方を測定する多重質量分析ベースのアッセイを開発した。我々は、見たところ健康なボランティアのコホート由来の空腹時血清試料におけるインスリンとC-ペプチドとグルコースレベルとの間の関係について検討した。
【0198】
見たところ健康な対象がインフォームドコンセントを提出し(WIRB#20121940)、空腹時静脈血試料が得られた。グルコースレベルはOlympus AU2700(商標)化学-免疫分析計(Melville、NY)を用いて決定し、インスリン及びC-ペプチドレベルは多重質量分析アッセイにより決定した。人体計測的(anthropomorphic)測定値は血液採取時に得た。
【0199】
本研究は、見たところ健康なボランティア103名(46.7%が男性、年齢中央値=35、BMI中央値=26.1)を含んでいた。この集団におけるインスリンレベル中央値は8.07μIU/ml(IQR5.38~12.55)であり、対象の19.4%でインスリンが上昇していた(≧15μIU/ml)。空腹時血糖異常又は空腹時グルコース90~<100mg/dLのいずれかを有する人ではそれぞれ50%及び40%でインスリンレベルが上昇しており、対照的に、空腹時グルコース<90mg/dLを有する人では9.6%のみがインスリンレベルの上昇を有していた。インスリンレベル中央値は、空腹時血糖異常を有する対象10名では14.78μIU/ml(IQR6.44~42.29)、空腹時グルコース90~<100mg/dLを有する対象20名では9.79μIU/ml(8.43~17.70)、空腹時グルコース<90mg/dLを有する対象73名では7.26μIU/ml(4.49~9.47)であった(中央値間の差についてP=0.0004)。BMI>26を有する人におけるインスリンレベル(中央値=9.17μIU/ml、IQR6.96~17.33)は、BMI≦26を有する人より大きかった(中央値=6.92μIU/ml、IQR4.08~9.09;P=0.0003)。インスリン及びC-ペプチドレベルは高度に相関していた(r=0.88)。
【0200】
臨床での試料採取及び試料調製
見たところ健康な成人ボランティアから血液を得た(WIRBプロトコール#1085473)。サンプリング時に人体計測的(anthropomorphic)の測定値を得た。バリア不含血清調製チューブ(レッドトップ)を用いて血液を得、凝固させた。得られた血清を直ちに処理し、次いで分析まで-80℃で保存した。磁気ビーズ上に固定化された2種のモノクローナル抗体により、患者血清(150μL)からのインスリン及びC-ペプチドの濃縮を実施した。試料をロボット液体ハンドラー(Microlab STAR、Hamilton、Reno、NV)で処理した。
【0201】
アッセイ
TurboFlow Aria TLX-4(Thermo-Fisher、San Jose、CA)、完全自動オンライン二次元液体クロマトグラフィーシステムを用いて、MSの前に、残りのマトリックス成分からのインタクトなインスリン及びC-ペプチドの分析的分離を達成した。iFunnelを備える6490 Triple Quadrupole Mass Spectrometer(Agilent、Santa Clara、CA)はMS/MS検出器として機能した。LC及びMS条件についての詳細な説明は以前に記載された9。グルコースレベルはOlympus AU2700(商標)化学-免疫分析計(Melville、NY)を用いて決定した。
【0202】
統計解析
低(<90mg/dL)、中(90~<100mg/dL)及び高(100~125mg/dL)空腹時グルコースレベルを有する参加者間のインスリンレベルの差を、パラメトリックな(ANOVA)、ノンパラメトリックな(Kruksal-Wallis)検定により評価した。低(<26)及び高(≧26)BMIを有する患者におけるインスリンレベルの差を、対応のないt検定により評価した。BMIとインスリンとの関連を、年齢、性別、及び空腹時グルコースレベルについて調整された多変量回帰モデルにおいて評価した。
【0203】
インスリンレベル中央値は、空腹時グルコース<90mg/dLを有する対象73名では7.26μIU/ml(4.49~9.47)、空腹時グルコース90~<100mg/dLを有する対象20名では9.79μIU/ml(8.43~17.70)、空腹時血糖異常を有する対象10名では14.78μIU/ml(IQR6.44~42.29)であった(
図2)。
【0204】
BMI>26を有する人におけるインスリンレベル(中央値=9.17μIU/ml、IQR6.96~17.33)は、BMI≦26を有する人より大きかった(中央値=6.92μIU/ml、IQR4.08~9.09;P=0.0003)(
図3)。
【0205】
インスリン及びC-ペプチドレベルは、空腹時グルコースに応じて増大することが見いだされた(
図4及び5)。
【0206】
多変量回帰モデルにおいて、年齢、性別、及び空腹時グルコースについて調整後、BMIは空腹時インスリンと関連していた(P=0.00002)。BMI増大の各単位において、空腹時インスリンは0.59μIUの増大と関連していた(95%CI 0.33~0.85)(
図6)。
【0207】
考察
本研究は、WHOインスリン参照物質83/500に対する較正により標準化されたSI追跡可能なアッセイである、インタクトなインスリン及びC-ペプチドを測定するための多重質量分析ベースのアッセイの適用について実証している。C-ペプチドの測定値は、定量アミノ酸分析によってあてがわれるキャリブレーターにより注意深く定量した。我々の発見は、(1)正常範囲内の空腹時血中グルコースを示す相当数の個人においてインスリンの上昇が観測されること、及び(2)正常範囲内のより高いグルコースレベルではインスリンの上昇を示す割合が次第に増大することを示している。
【0208】
結論
我々は、多重のインタクトなインスリン及びC-ペプチドアッセイを用いて、両分析物について標準的な範囲を定義した。
【0209】
正常空腹時グルコース、正常ヘモグロビンA1C、及びBMI<26を有する個人を用いるためこれらの正常範囲の定義に注目すると、インスリンでは<16マイクロIU/mL、C-ペプチドでは0.68~2.16ng/mlの正常範囲が生じる。
【0210】
インスリン及びC-ペプチドの空腹時レベルは、空腹時グルコースが増大するにつれて次第に増大した。
【0211】
空腹時インスリンレベルはBMIの影響を強く受けていた。
【0212】
十分に特徴が分かっているインスリン抵抗性の評価を用いて、個人における空腹時インスリン及びC-ペプチドと、空腹時グルコース及び人体計測的(anthropomorphic)測定値との関係を定義することで、インスリン感度レベルの容易な評価を可能とするためのツールを定義することができる。
【0213】
実施例7:質量分析によりインスリン及びC-ペプチドレベルを測定することによる、見たところ健康な個人におけるインスリン抵抗性の同定
我々は、インスリン、C-ペプチド、TG/HDL比、クレアチニン、及びBMIを含むリスクスコアが、代謝症候群を有する個人及び有しない個人の両方で、インスリン抵抗性を有する個人を同定する一助となりうることを決定した。
【0214】
研究参加者はすべて、見たところ健康であり、心血管疾患の病歴を有しなかった。空腹時グルコース≧126mg/dLを有する個人、又はベースラインで血糖降下薬を服用している個人は分析から除外した。
【0215】
人種及び民族を病歴の間に決定した。個人が薄着で靴を着用していない時に体重及び身長を測定した。キログラムでの体重を、二乗したメートルでの身長で割ることによりボディマスインデックスを計算した。自動血圧記録計を用いて血圧を測定した。これらの測定の前に、両足を床に付けて腕を心臓レベルに支持した状態で、対象を静かに5分間椅子に着席させた。適切なサイズにしたカフを用いて、血圧測定値を1分間隔で3回取り、平均した。以下の特性のうち3つが存在すれば代謝症候群が存在した:BMI>30kg/m2;FG>100mg/dL;高血圧(SBP≧130mmHg又はDBP≧85mmHg)、低HDL-C(<50mg/dL、女性;<40mg/dL、男性)、TG≧150mg/dL。
【0216】
一晩の絶食後、静脈内カテーテルを各腕に入れた。一方のカテーテルを用いて血液試料を引き込み、他方のカテーテルを用いて、オクトレオチド(0.27μg/m2/分)、インスリン(32mU/m2/分)及びグルコース(267mg/m2/分)の180分注入を投与した。注入の150~180分に10分間隔で血液をサンプリングし、定常状態の血漿グルコース(SSPG)及び定常状態の血漿インスリン(SSPI)濃度を決定した。ISTの間すべての個人でSSPI濃度が同様であることから、SSPG濃度によって、インスリンの、注入されたグルコース負荷の処理を媒介する能力の直接の測定値がもたらされる。したがって、SSPG濃度が高ければ高いほど、その個人はインスリン抵抗性が高い。ISTにより決定されるインスリン媒介性グルコース処理は、正常血糖高インスリンクランプ技術で得られるグルコース処理と高度に相関している。本研究においては、IRを、測定されたインスリン抵抗性の上位三分位(SSPG≧198mg/dL)に入ることと定義した。インスリン及びC-ペプチドの測定に用いた血清試料は、ISTプロトコール開始前に得られた空腹時ベースライン試料由来であった。インスリン及びC-ペプチドの測定は、本明細書で記載されるように実施した。
【0217】
【0218】
IRを有する人と有しない人との間の生化学的及び人体計測的測定値の差を、連続変数についてはWilcoxon順位和検定又はt検定、離散変数についてはカイ二乗検定により評価した。研究変数とIRとの関連を、表に示す共変量について調整されたロジスティック回帰モデルにおいて評価した。SSPG分布ヒストグラムが非ヒスパニックの白人(n=335)、ヒスパニック(n=42)、及びその他(n=158)で異なるように見えたため、民族をこれらの3群についてのカテゴリー変数としてコードした。リスクスコア成分をステップワイズ回帰において選択した。利用可能な変数はすべて、モデルに組み入れるのに適当であった。最適にフィットさせた後、指定される有意性選択カットオフを満たす変数のうち利用可能な変数をモデルに追加し、モデルにおける候補変数をすべて評価し、その有意性が指定される除外レベルを超えて増大していれば除去する。この工程を、本文で示される選択及び除外カットオフについて変数が追加も除去もされなくなるまで繰り返す。リスクスコア係数を、年齢、性別、民族、インスリン、C-ペプチド、クレアチニン、BMI、TG/HDLC、FG、SBP、DBP、LDL-C、及びアラニンアミノトランスフェラーゼについて、ただしリスクスコアの一部である変数を除いて、調整されたモデルにおいて決定した。p値はすべて両側であり、95%信頼区間が示される。分析はすべてSASバージョン9.2を用いて実施した。
【0219】
研究参加者の生化学的及び人体計測的測定値を、インスリン抵抗性の状態に従って表1に示す。インスリン抵抗性の参加者は、より高いレベルのFG、インスリン、C-ペプチド、HDL-C、TG、TG/HDL、AAT、BMI、及びSBPを有していた。インスリン抵抗性の参加者は、より低いレベルのHDL-C及びLDL-Cを有していた。
【0220】
我々は、年齢、性別、民族、FG、インスリン、C-ペプチド、LDL-C、TG/HDL、クレアチニン、AAT、BMI、並びにSBP及びDBPについて調整しつつ、研究変数とインスリン抵抗性との間の関連について検討した(表2)。この完全に調整された分析では、インスリン、C-ペプチド、クレアチニン、BMI、及びTG/HDLがインスリン抵抗性と関連していた。C-ペプチド及びその他の研究変数のレベルに関わらず、インスリンが10pmol/L増大するごとに、インスリン抵抗性(SSPG≧198mg/dL)であるオッズは1.2倍高くなった(95%CI 1.1~1.4)。同様に、C-ペプチドが100pmol/L増大するごとに、インスリン抵抗性であるオッズは1.6倍高くなった(95%CI 1.3~2.0)。
【0221】
インスリン及びC-ペプチドが高度に相関している(r=0.85)ことから、我々は、インスリン及びC-ペプチドの三分位ごとのIR有病率を試験した(
図18)。各インスリン三分位では、IR個人の画分が、C-ペプチド三分位レベルに従って増大した。反対に、各C-ペプチド三分位では、IR個人の画分がインスリン三分位レベルに従って増大した。
【0222】
【0223】
【0224】
我々はステップワイズモデル選択手順を用いて、表2の変数並びに年齢及び性別の中から、IRリスクモデルのための変数を同定した。我々が、変数を組み入れ、かつモデルから除去されない基準としてP<0.001を用いたところ、インスリン、C-ペプチド、及びクレアチニンが含まれた(この順序で)。これらの変数を含むリスクスコアの上位四分位に入る個人では(上位四分位に入らない個人に対して)、IRについての未調整のオッズ比が18.7であった(95%CI 11.4~30.7、表3)。リスクスコアに含まれなかった変数についての調整後は、オッズ比が10.8であった(95%CI 6.2~19.0)。インスリン及びC-ペプチドは単一の多重試験で測定可能であるため、我々はインスリン及びC-ペプチドのみを含むモデルも試験し、IRについての未調整のオッズ比が12.8である(95%CI 8.0~20.4)ことを見いだした。変数を組み入れ、かつ除去されないためのより緩い選択基準(P<0.05)を用いると、5つの変数が最終モデルに含まれた:インスリン、C-ペプチド、クレアチニン、BMI、及びTG/HDL(この順序で)。これらの変数を含むリスクスコアの上位四分位に入る個人では、IRについての未調整のオッズ比が20.0であった(95%CI 12.1~33.0)。リスクスコアに含まれなかった変数についての調整後は、オッズ比が16.1であった(95%CI 9.5~27.3)。
【0225】
我々は、インスリン抵抗性を推定するのに通常用いられる方法であるHOMA-IRも試験し、HOMA-IRの上位四分位に入る人では(上位四分位に入らない人に対して)、IRについての未調整のオッズ比が10.3である(95%CI 6.6~16.1)ことを見いだした。リスクスコアに含まれなかった変数についての調整後は、オッズ比が1.5であった(95%CI 0.8~2.7)。
【0226】
代謝症候群を有する人に研究集団を限定しても、これらのリスクスコアはIRと関連したままであった:そのスコアに含まれなかった変数について各スコアを調整後、インスリン及びC-ペプチドスコアではOR=9.1(95%CI 4.2~19.5)、インスリン、C-ペプチド、及びクレアチニンスコアではOR=13.3(95%CI 5.9~30.1)、インスリン、C-ペプチド、クレアチニン、BMI、及びTG/HDLスコアではOR=13.7(95%CI 6.3~29.9)。
【0227】
分類された供試患者集団の臨床的特性を表1に示し、ここで対象はインスリン抵抗性の状態に従って分類されている。インスリン抵抗性を有する人は、男性の割合がより高く、空腹時血漿グルコース(FPG)、インスリン、C-ペプチド、トリグリセリド、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ボディマスインデックス(BMI)、及び収縮期血圧がより大きかった。HDL-C及びLDL-Cは、インスリン抵抗性を有する人においてより小さかった。
【0228】
我々はこれらのリスクスコアを用いて、個人がIRを有する確率も推定した(表4)。したがって、単一のカットポイント(例えば、患者がリスクスコアの上位四分位に入るかどうか)に基づいてIRである尤度をあてがうのではなく、リスクの各百分位数について、IRを有する確率を計算することができる。表3及び4における3つのリスクスコアのそれぞれについて、我々は、リスクスコア成分の測定値からIRである確率を計算するのに用いることができる式を提供した。
【0229】
インスリン抵抗性と、生化学的及び人体計測的測定値との間の関連について表2に示す。年齢、性別、及び民族について調整後、クレアチニンを除くすべてがインスリン抵抗性と関連していた(P≦0.05)。しかし、生化学的及び人体計測的測定値すべてをモデルに含めると、インスリン、C-ペプチド、クレアチニン及びBMIのみがインスリン抵抗性と関連していた。
【0230】
インスリン、C-ペプチド、クレアチニン、及びBMIが我々のモデリングにおいて最も重要な変数ということになったため、我々はこれらを単一のリスクスコアに組み合わせた(モデル1)。この分析により、この手法を用いると、年齢、性別、民族、空腹時血漿グルコース、LDL-C、HDL-C、トリグリセリド、アラニンアミノトランスフェラーゼ、並びに収縮期及び拡張期血圧について調整されたモデルにおいて、このリスクスコアの上位四分位に入った個人が、上位四分位に入らなかった個人よりもインスリン抵抗性を有する可能性が>15倍高いことが実証された(OR=15.1、95%CI 8.7~26.3)(表3)。
【0231】
臨床変数を検査診断に組み込むのは実用上の困難を呈しうることを認識して、我々は、インスリン、C-ペプチド、及びクレアチニンのみ(モデル2)、又はインスリン及びC-ペプチドのみ(モデル3)を含むリスクスコアの性能も試験した。インスリン、C-ペプチド、及びクレアチニンを組み込むリスクスコア(モデル2)では、このスコアの上位四分位に入る人についての、IRであるオッズが、このリスクスコアの上位四分位に入る人対入らない人について13.6にわずかに低下した(95%CI 7.9~23.6)。最後に、インスリン及びC-ペプチドの結果のみを用いると(モデル3)、このリスクスコアの上位四分位に入った人は、入らなかった人よりもインスリン抵抗性であるオッズが9倍高かった(OR=9.9、95%CI 5.8~17.0)。
【0232】
本研究集団において、我々は、年齢、性別、民族、LDL-C、クレアチニン、アラニンアミノトランスフェラーゼ、収縮期及び拡張期血圧について調整されたモデルでも、代謝症候群がインスリン抵抗性と関連していることを見いだした(OR=3.7、95%CI 2.4~5.8)。対照的に、インスリン及びC-ペプチドについてのさらなる調整後には、代謝症候群はインスリン抵抗性と関連していなかった(OR=1.1、95%CI 0.6~1.9)(表1)。注目すべきことに、代謝症候群が存在するか否かに関わらず、3つのリスクスコアはすべてインスリン抵抗性と関連していた(表4)。表4は、様々な百分位数での、個人がインスリン抵抗性である確率を示す。
【0233】
【0234】
リスクスコア計算及びIRの確率
リスクスコア1:インスリン(pmol/L)、C-ペプチド(pmol/L)、クレアチニン(mg/dL)
(1.1)RS=(インスリン×0.0265)+(C-ペプチド×0.00511)+(クレアチニン×-3.2641)
【0235】
【数4】
リスクスコア2:インスリン(pmol/L)、C-ペプチド(pmol/L)、クレアチニン(mg/dL)、TG/HDL-C、及びBMI(kg/m
2)
(3.1)RS=(インスリン×0.0227)+(C-ペプチド×0.0046)+(クレアチニン×-3.5553)+(TG/HDL-C×0.101)+(BMI×0.0711)
【0236】
【数5】
リスクスコア3:インスリン(pmol/L)及びC-ペプチド(pmol/L)
(3.1)RS=(インスリン×0.0295)+(C-ペプチド×0.00372)
【0237】
【0238】
驚くべきことに、本研究による発見は、インスリン及びC-ペプチドの両方の測定が、SSPGを用いて測定されるインスリン抵抗性レベルを正確に予測する能力に大きく寄与するという観測であった。
【0239】
我々は、空腹時及びC-ペプチド測定値を組み込むモデルが、SSPGを用いるインスリン抵抗性レベルの正式な測定値を良好な正確度で予測することができることを実証した。
【0240】
インスリン、C-ペプチド、クレアチニン、及びBMIを含むリスクスコアの上位四分位に入った人は、上位四分位に入らなかった人と比較してIRである可能性が高かった(OR=15.1、95%CI 8.7~26.3)。また、この関連は、代謝症候群を有する人(OR=17.7、95%CI 7.8~40.5)及び代謝症候群を有しない人(OR=16.9 95%CI 7.3~39.2)の両方で観測された。
【0241】
本明細書で言及又は引用した論文、特許及び特許出願、並びにその他の全文献及び電子的に入手できる情報の内容は、各個別の刊行物が参照により具体的及び個別に組み入れられるように示される場合と同程度に参照により本明細書に全体として組み入れられる。出願人らは、任意のこのような論文、特許、特許出願又はその他の物理的及び電子的文献からのありとあらゆる材料及び情報を本出願に物理的に組み入れる権利を保持する。
【0242】
本明細書で例示的に記載した方法は、本明細書に具体的に開示していない任意の要素又は要素(複数)、限定又は限定(複数)の非存在下で適切に実施することができる。したがって、例えば、用語「comprising(含む)」、「including(含む)」、「containing(含有する)」などは、広範に、限定されることなく読み取られるべきである。さらに、本明細書で使用した用語及び表現は、限定ではなく説明のために使用されており、このような用語及び表現の使用において、示された、及び説明された特徴の任意の同等物又はその一部を排除するものではない。請求した本発明の範囲内において様々な変更が可能であることは認識されている。したがって、本発明を好ましい実施形態及び任意選択の特徴によって具体的に開示してきたが、本明細書で開示しその中で実施される本発明の変更及び変形は当業者であれば用いることができ、このような変更及び変形は本発明の範囲内であると見なされることを理解されたい。
【0243】
本発明は、本明細書において広範及び一般的に記載してきた。一般的な開示に含まれるより狭い種及び亜種のそれぞれも本方法の一部を形成する。これには、部類から任意の対象物を削除する条件又は消極的限定を有する方法の一般的説明が、削除された材料が本明細書に具体的に記載されているか否かに関わらず、含まれる。
【0244】
その他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に含まれる。さらに、方法の特徴又は態様がマーカッシュ群によって記載されている場合は、当業者であれば、本発明はまた、マーカッシュ群の任意の個々の構成要素又は構成要素の亜群によって記載されることを理解するであろう。
クレアチニンレベル、ボディマスインデックス(BMI)、トリグリセリド(TG)レベル、高密度リポタンパク質C(HDL-C)レベル、BMI、TG、又はHDL-Cレベルを測定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
前記1つ又は複数のイオンが、136.0±0.5、226.1±0.5及び345.2±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のインスリンフラグメントイオンを含む、請求項1に記載の方法。
前記1つ又は複数のイオンが、533.3±0.5、646.4±0.5及び927.5±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される1つ又は複数のC-ペプチドフラグメントイオンを含む、請求項1に記載の方法。