(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169415
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】肝炎ワクチンの適用のためのマイクロニードルシステム
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20231121BHJP
A61K 39/29 20060101ALI20231121BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20231121BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20231121BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231121BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231121BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231121BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231121BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
A61M37/00 510
A61K39/29
A61K9/00
A61K47/32
A61K47/26
A61K47/10
A61P37/04
A61P1/16
A61P31/20
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023169023
(22)【出願日】2023-09-29
(62)【分割の表示】P 2020524770の分割
【原出願日】2018-11-12
(31)【優先権主張番号】102017126501.5
(32)【優先日】2017-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】300005035
【氏名又は名称】エルテーエス ローマン テラピー-ジステーメ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ヘニング
(72)【発明者】
【氏名】ハイコ・シュピルギース
(57)【要約】 (修正有)
【課題】肝炎ワクチン、即ち抗原HBsAgの皮内適用のためのマイクロニードルシステム(MNS)を提供する。
【解決手段】本発明は、同様に、肝炎ワクチン接種の皮内適用における使用のための、皮内適用を実行する方法であって、a)本発明によるマイクロニードルシステムを皮膚に固定する工程、b)PVPとHBsAgとの製剤を含むマイクロニードルアレイを皮膚内に貫入させる工程を含む方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝炎ワクチン接種の皮内適用における使用のための、ポリビニルピロリドンとHBsAgとの製剤を含むマイクロニードルアレイ。
【請求項2】
HBsAgの含量は、0.1μg~100μg/マイクロニードルアレイである、請求項1に記載の使用のためのポリビニルピロリドンとHBsAgとの製剤を含むマイクロニードルアレイ。
【請求項3】
製剤は、二糖、非イオン性界面活性剤および多価アルコールを含む、請求項1または2に記載の使用のためのポリビニルピロリドンとHBsAgとの製剤を含むマイクロニードルアレイ。
【請求項4】
製剤は、トレハロースおよび/またはポリソルベートおよび/またはグリセロールを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のためのポリビニルピロリドンとHBsAgとの製剤を含むマイクロニードルアレイ。
【請求項5】
肝炎ワクチン接種の皮内適用における使用のための、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリビニルピロリドンとHBsAgとの製剤を含むマイクロニードルアレイを有する、製品、特に医薬製品。
【請求項6】
製剤は、95重量%までのポリビニルピロリドンならびにさらなる助剤および添加剤を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の肝炎ワクチン接種の皮内適用における使用のためのマイクロニードルアレイまたは薬剤。
【請求項7】
製剤は、95重量%までのポリビニルピロリドンおよび0.1重量%~50重量%のトレハロースを含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の肝炎ワクチン接種の皮内適用における使用のためのマイクロニードルアレイまたは製品。
【請求項8】
製剤は、95重量%までのポリビニルピロリドンおよび0.01重量%~10重量%のポリソルベートを含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の肝炎ワクチン接種の皮内適用における使用のためのマイクロニードルアレイまたは製品。
【請求項9】
製剤は、95重量%までのポリビニルピロリドンおよび0.1重量%~10重量%のグリセロールを含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の肝炎ワクチン接種の皮内適用における使用のためのマイクロニードルアレイまたは製品。
【請求項10】
アプリケーターが使用されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の肝炎ワクチン接種の皮内適用における使用のためのマイクロニードルアレイまたは製品。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載のポリビニルピロリドンとHBsAgとの製剤を含むマイクロニードルアレイを有する、HBsAg抗原のワクチン接種の皮内適用を実行する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝炎ワクチン、即ち抗原HBsAgの皮内適用のためのマイクロニードルシステム(略称はMNS)に関する。
【背景技術】
【0002】
肝炎ワクチンは、HBsAgを含む場合がある。HBsAgは、B型肝炎ウイルス(HBV、226AA、25.4kDa、データベースUniProt:Q773S4を参照)のウイルスエンベロープの表面タンパク質である。加えて、HBsAgは、承認済みB型肝炎ワクチン(例えば、Engerix-B、Fendrix、HBVAXPROおよび他多数)において最も有効な成分である。HBsAGは、5回の膜通過、および膜の外側に3つのジスルフィド架橋を有する膜貫通タンパク質である。同時に、HBsAGは、肝炎感染中に、または肝炎ワクチン接種後に、それ自身に対して中和抗体が形成される抗原である。HBsAGはまた、ウイルス様粒子(VLP)の形態でも使用され、核酸を含まない(非特許文献1)。
【0003】
皮膚はいくつかの層からなる。最外部の皮膚層である角質層は、既知のバリア性を有し、異物が身体に入るのを防ぎ、固有の物質が身体から出て行くのを防いでいる。角質層は、厚さがおよそ10~30マイクロメートルの、密に詰まった角化細胞残渣の複合体構造であり、身体を保護するための耐水性の膜を形成する。角質層の天然の不透過性は、ほとんどの医薬剤および他の物質が皮内適用により皮膚を介して適用されることを妨げる。ランゲルハンス細胞は、上皮の基底顆粒層の至る所に発見されており、侵入生物に対する免疫系の初期防御において重要な役割を果たしている。皮膚のこの層が、肝炎抗原HBsAgのようなある種のワクチンにとって好適な標的ゾーンとなる。
【0004】
マイクロニードルシステム(MNS)は、マイクロニードルアレイ(MNA)および場合によりさらなる構成要素からなり、圧縮力を使用して、アレイ(MNA)のマイクロニードル(皮膚貫入要素とも呼ぶ)を皮膚の適用部位に対して押しつけて角質層に貫入させ、このようにして流体チャネルを作製することができ、それにより、肝炎ワクチンを皮内に適用することができる。マイクロニードルシステム(MNS)中のこのようなマイクロニードルアレイ(MNA)およびその製造は、従来技術に記載されており、マイクロ(ニードル)アレイパッチ(MAP、または「マイクロアレイパッチ(Micro Array Patch)」)とも呼ばれる。
【0005】
マイクロニードルによって肝炎ワクチンを投与することができることも公知である(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】DE60131688T2
【特許文献2】WO200189622A1
【特許文献3】WO200219985A2
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】E.V.GrgacicおよびD.A.Anderson:Virus-like particles:passport to immune recognition.In Methods.2006年9月;40(1):60-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、好適な製剤を主剤とするMNAを含むMNSによるワクチン接種の皮内適用を可能にすることである。
【0009】
驚くべきことに、ポリビニルピロリドン(略称はPVP)は、肝炎ワクチン接種のためのMNA用製剤の製造に特に好適である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、本発明によれば、肝炎ワクチン接種の皮内適用における使用のための、ポリビニルピロリドンとHBsAgとの製剤を含む、請求項1に記載のマイクロニードルアレイ(MNA)によって実現される。
【0011】
したがって、本発明はまた、肝炎ワクチン接種の皮内適用における使用のための、ポリビニルピロリドンとHBsAgとの製剤を含むMNAを含む、マイクロニードルシステムにも関する。
【0012】
したがって、本発明は、実質的にポリビニルピロリドンとHBsAgとの製剤を含む、または当該製剤からなるマイクロニードルアレイを有する製品を含む。
【0013】
そのような製品は、例えば、肝炎ワクチン接種の皮内適用における使用のための、突出したマイクロニードルアレイ(MNA)を含む医薬製品、特にワクチンである。
【0014】
B型肝炎に対する免疫化を成功させるための基本的要件は、ワクチン接種をした人々の身体中または血液(血漿)中の抗体濃度(力価)を十分に高くすることである。血清学的な目標値として、抗HBsAg力価が>10[mLU/mL]であることが、WHOにより、臨床的に防御する値として認識されている(
図1を参照)。
【0015】
特に好ましいのは、HBsAgの含量が0.1μg~100μg/マイクロニードルアレイである、本発明によるマイクロニードルアレイである。
【0016】
「皮内適用(intradermal application)」という用語(同義語:「皮内適用(intracutaneous application)」)は、ワクチン、本明細書では:HBsAgの、MNAから皮膚内への投与を表し、マイクロニードルの皮膚内への挿入を必要とする。
【0017】
本発明は、同様に、肝炎ワクチン接種の皮内適用における使用のための、皮内適用を実行する方法であって、
a)本発明によるマイクロニードルシステムを皮膚に固定する工程、
b)PVPとHBsAgとの製剤を含むマイクロニードルアレイを皮膚内に貫入させる工程
を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】全てのMNA群および注射群において、ワクチン接種の成功の評価に対して血清学的に適切な、十分に強力な(>赤線)抗HBsAg抗体の形成が実現したことを示している図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の内容において、マイクロニードルシステムは、ワクチンを投与するためのマイ
クロニードルアレイを皮膚にあてがい、皮内に適用させるデバイスを含むシステムである。
【0020】
マイクロニードルシステムは、トリガーデバイスのようなアプリケーターを含んでいてもよく、好ましい実施形態では、アプリケーターは、電気的にまたは機械的に制御される。例えば、アプリケーターは、マイクロニードルアレイを皮膚に/へ置き、または適用し、その結果、マイクロニードルを皮膚に貫入させるピストンを有していてもよい。
【0021】
トリガーデバイスは、十分なエネルギーを伴うプランジャーの衝撃が実行されるように、例えば、ポンプ、シリンジまたはばねを含んでいてもよい。プランジャーは、いずれの形状および性質のものでもよく、皮膚でのワクチンの投与のために、マイクロニードルアレイを第1の位置から第2の位置へもたらすことを主に目的としている。アプリケーターはまた、押しボタンまたは糸を含んでいてもよい。
【0022】
マイクロニードルアレイは、患者の皮膚を通してまたは患者の皮膚内にワクチンを送達するための複数のマイクロニードルを有していてもよく、マイクロニードルアレイは、患者の皮膚に適用される。マイクロニードルアレイのマイクロニードルの各々は、好ましくは2つの端部を備える細長い軸を有し、軸の一方の端部はマイクロニードルのベースであり、それによってマイクロニードルは平坦な担体に取り付けられているか、またはそれによってマイクロニードルは平坦な担体に組み込まれている。軸のベースと反対側の端部は、マイクロニードルが可能な限り容易に皮膚に貫入することができるように、好ましくは先細りになっている。各中空のマイクロニードルは、少なくとも1つの通路もしくはチャネルまたは少なくとも1つの空洞を有し、それらは、マイクロニードルのベースから、マイクロニードルの先端部まで、またはマイクロニードルのほぼ先端部まで延びている。通路は、好ましくは円形の径を有する。
【0023】
マイクロニードルは、円形の断面または非円形の断面、例えば、三角形、四角形もしくは多角形の断面をもつ軸を有していてもよい。軸は、ニードルのベースからニードルの先端部まで、またはニードルのほぼ先端部まで通じる1つまたはそれ以上の通路を有していてもよい。マイクロニードルは、(逆とげ(barb))鉤として設計してもよく、1つまたはそれ以上のこれらのマイクロニードルは、1つまたはそれ以上のそのような鉤を有する。さらに、マイクロニードルは、らせん状の形状にして回転可能に配置してもよく、それにより、回転運動が加えられたとき、皮膚内への貫入が促進され、特に表皮の所望の貫入深さで、皮膚内に固定される(DE10353629A1)。
【0024】
マイクロニードルの直径は、通常、1μm~1000μm、好ましくは10μm~100μmである。通路の直径は、通常、3μm~80μmであり、好ましくは液体物質、溶液および物質調剤の通路に適している。マイクロニードルの長さは、通常、5μm~6,000μm、特に100μm~700μmである。
【0025】
マイクロニードルは、そのベースを利用して、平坦な担体に取り付けられているか、または平坦な担体に組み込まれている。マイクロニードルは、好ましくは、担体の表面に対して略垂直に配置される。マイクロニードルは、規則的なパターンでも不規則なパターンでも配置することができる。複数のマイクロニードルの配置は、様々な断面形状、様々な直径および/または様々な長さのマイクロニードルを含むことができる。例えば、複数のマイクロニードルの配置は、中空のマイクロニードルのみを含んでいてもよい。
【0026】
マイクロニードルアレイは、平坦な担体を有することができ、その担体は、実質的に円盤様、板様またはフイルム様の基本形状を有する。担体は、円形、卵円形、三角形、四角形または多角形のベース領域を有していてもよい。担体は、金属、セラミック材料、半導
体、有機材料、ポリマーまたは複合材のような様々な材料で作られてもよい。
【0027】
別の好ましい実施形態では、マイクロニードルの製造のための製剤中のPVPに加えて、以下からなる、またはこれらを含む以下の物質:二糖、好ましくはトレハロース、非イオン性界面活性剤、好ましくはポリソルベート(Tweenのようなエトキシ化ソルビタン脂肪酸エステル)、多価アルコール、特にグリセロール(グリセリン)glycerol(glycerin))が好ましい。
【0028】
【0029】
液体製剤を乾燥した後に、例えば1~20%(m/m)の残留含水量でマイクロニードルアレイ(MNA)を形成すると、MNAの組成は、水損失により、それに応じて変化する。
【0030】
したがって、本発明は、肝炎ワクチン接種の皮内適用における使用のためのマイクロニードルアレイまたは製品、特に医薬製品に関し、製剤は、95重量%までのポリビニルピロリドン、特に0.1重量%~50重量%のトレハロース、特に0.01重量%~10重量%のポリソルベート、特に0.1重量%~10重量%のグリセロールを含む。
【0031】
さらに、本発明によるMNAは、アジュバントなしで済ませることができることが特に有利である(
図1を参照)。
【実施例0032】
実施例および図面:
本発明によるマイクロニードルの製造については、McCrudden MT、Alkilani AZ、McCrudden CM、McAlister E、McCarthy HO、Woolfson ADら、Design and physicochemical characterisation of novel dissolving polymeric microneedle arrays for transdermal delivery of high dose,low molecular weight drugs.J Control Release.2014年;180巻:71~80頁のような既知の方法を適用することができる。
【0033】
前臨床in-vivo試験(モルモット)において、上記の製剤は、マイクロ(ニード
ル)アレイパッチ(MAP)の適用後に、ワクチン接種をした動物の血液中に得られた抗体力価について優れた結果を示した;
図1を参照。
【0034】
この試験デザインには、4群×12匹の動物におけるプライム/ブースト/ブースト(0/1/3カ月)が含まれ、このうち3群はMAP群(20/40/60μg HBsAg/MNA)であり、1群は筋肉内注射(i.m.)(20μg HBsAg/i.m.)の参照群であった。主要評価項目は、4カ月、ならびに6カ月後および12カ月後の追跡調査の力価とした。
【0035】
試験の結果は、全てのMNA群および注射群において、ワクチン接種の成功の評価に対して血清学的に適切な、十分に強力な(>赤線)抗HBsAg抗体の形成が実現したことを示している。
【0036】
さらに、実験群には、アジュバント製剤(
図1を参照、線影部)と非アジュバント製剤(
図1を参照、非線影部)との間に、およびマイクロアレイによる抗原の皮内投与と注射針による従来の適用との間に、関連性のある差違は何ら見られなかった。