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特開2023-169437ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびこれを含む制振材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169437
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびこれを含む制振材
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20231122BHJP
   C08K 5/375 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K5/375
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020133845
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】目代 晴紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義紀
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CN011
4J002CN012
4J002EV046
4J002EV056
4J002GM00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】70℃近傍における損失係数が高く、かつ広い温度範囲で高い損失係数を有するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、重量平均分子量が4000超であるポリフェニレンスルフィド樹脂(A)と、重量平均分子量が4000以下であり、かつフェニレンスルフィド構造を2つ以上含む、フェニレンスルフィド系化合物(B)と、を含み、ガラス転移温度が80℃以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が4000超であるポリフェニレンスルフィド樹脂(A)と、
重量平均分子量が4000以下であり、かつフェニレンスルフィド構造を2つ以上含む、フェニレンスルフィド系化合物(B)と、
を含み、ガラス転移温度が80℃以下である、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記フェニレンスルフィド系化合物(B)の重量平均分子量が2000以下である、
請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
70℃における損失係数が0.014以上であり、
損失係数の最大値に対して損失係数が80%以上となる領域の温度の幅が、26℃以上である、
請求項1または2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を含む、
制振材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびこれを含む制振材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車が多く開発されており、電気自動車では、従来の自動車と比較して、駆動時における車内空間の静粛性が求められている。そこで、車内の各部材の振動を抑え、静粛性を高めることが検討されている。
【0003】
ここで、ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」とも称する)は、耐熱性や耐薬品性に優れることから、自動車用部材の材料として多く利用されている。そこで、PPSを上記制振材として使用することが考えられる。しかしながら、PPSは、比較的高い温度(例えば100℃超)において、高い損失係数を示すものの、100℃以下では損失係数が低い。そのため、100℃以下の環境において、PPSを制振材とすることは難しい、という課題があった。
【0004】
一方、PPSの加工性や耐熱性、寸法安定性をさらに高めることを目的として、PPSに、熱可塑性樹脂やエラストマー樹脂を添加する方法が各種提案されている(例えば特許文献1および特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-147960号公報
【特許文献2】特開2018-35230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2のように、PPSと、熱可塑性樹脂やエラストマー樹脂と、を混合したとしても、樹脂組成物の70℃程度での損失係数を高めることは難しかった。また、様々な環境下で制振性を発揮するため、制振材には広い温度範囲において高い損失係数を有することが求められるが、従来のPPSでは、損失係数の高い温度範囲が狭い、という課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。すなわち、70℃近傍での損失係数が高く、かつ広い温度範囲で高い損失係数を有するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびこれを含む制振材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を提供する。
重量平均分子量が4000超であるポリフェニレンスルフィド樹脂(A)と、重量平均分子量が4000以下であり、かつフェニレンスルフィド構造を2つ以上含む、フェニレンスルフィド系化合物(B)と、を含み、ガラス転移温度が80℃以下である、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【0009】
本発明は、以下の制振材も提供する。
上記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を含む、制振材。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、70℃近傍における損失係数が高く、かつ広い温度範囲で高い損失係数を有する。したがって、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、様々な温度で使用される制振材に適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「~」で示す数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を含む数値範囲を意味する。
【0012】
本発明は、制振材等として使用可能なポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」とも称する)に関する。ただし、当該樹脂組成物の用途は、当該用途に限定されない。
【0013】
上述のように、ポリフェニレンスルフィドは、100℃以上で高い損失係数を有するものの、100℃以下では、損失係数が低い。そして、当該ポリフェニレンスルフィドと他の樹脂やエラストマー等とを混合したとしても、70℃近傍における損失係数を高めることは難しかった。なお、本明細書でいう損失係数とは、樹脂や樹脂組成物の貯蔵弾性率(E’)に対する損失弾性率(E’’)、すなわち損失弾性率(E’’)/貯蔵弾性率(E’)で表される値であり、樹脂や樹脂組成物が変形する際に、どの程度エネルギーを吸収できるかを表す値である。つまり、損失係数が高いほど、制振材としたときの制振性が高いといえる。
【0014】
また、樹脂や樹脂組成物の損失係数が特定の温度のみで高い場合、その温度から離れた温度において、十分な制振性を発現させることが難しい。そこで、広い範囲において、高い制振性(高い損失係数)を有する樹脂組成物の提供も望まれていた。
【0015】
これに対し、本発明者らの鋭意検討により、分子量が4000以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂(A)(以下、「PPS樹脂(A)」とも称する)と、分子量が4000以下であり、かつフェニレンスルフィド構造を2つ以上含むフェニレンスルフィド系化合物(以下、「化合物(B)」とも称する)とを混合し、かつガラス転移温度を80℃以下とすると、70℃における樹脂組成物の損失係数が高まり、さらには幅広い温度範囲(特に100℃以下の範囲)において、損失係数が高まること、が明らかとなった。その理由は、以下のように考えられる。
【0016】
PPS樹脂(A)は、比較的結晶性の高い構造を有する。そのため、耐熱性や成形性等に優れるが、柔軟性は低い。これに対し、PPS樹脂(A)と共通の構造、もしくは非常に近い構造を有し、かつ分子量の比較的低い化合物(B)を混合すると、化合物(B)が、PPS樹脂(A)の結晶間に容易に入り込む。またこのとき、樹脂組成物のガラス転移温度が80℃以下となるような比率でPPS樹脂(A)と化合物(B)とを混合すると、比較的低い温度、すなわち70℃程度における損失係数が高くなる。また、化合物(B)を混合すると、70℃近傍だけでなく、幅広い温度範囲で損失係数が高くなる。したがって、当該樹脂組成物を、幅広い温度で使用される制振材に適用できる。
【0017】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が含むPPS樹脂(A)および化合物(B)について、詳しく説明する。
【0018】
(1)ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂(A))
本発明の樹脂組成物が含むPPS樹脂(A)は、例えば下記一般式(1)で表される構造単位、すなわちフェニレン基のパラ位にスルフィド結合を有する構造単位を含む樹脂であって、重量平均分子量が4000超である樹脂である。
【化1】
【0019】
PPS樹脂(A)は、本発明の目的および効果を損なわない範囲において、上記一般式(1)で表される構造単位以外の構造単位を、一部に含んでいてもよい。ただし、PPS樹脂(A)は、PPS樹脂(A)一分子の質量に対して、上記一般式(1)で表される構造単位を99質量%含むことが一般的である。
【0020】
また、PPS樹脂(A)の重量平均分子量が4000超であればよいが、10000以上100000以下が好ましく、15000以上90000以下がより好ましく、20000以上80000以下が好ましい。PPS樹脂(A)の重量平均分子量が4000以上であると、樹脂組成物から得られる成形体(例えば制振材)の強度が高くなる。上記PPS樹脂(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値であり、ポリスチレン換算値である。具体的には、以下の方法で測定される値である。上記PPS樹脂(A)10mgを、1-クロロナフタレン10gに230℃で溶解させ、メンブランフィルターで熱時ろ過し、室温まで冷却したものを2μL準備する。そして高温GPCにより、カラム温度:250℃、溶媒:1-クロロナフタレン、流速:0.7mL/minで重量平均分子量を測定する。
【0021】
なお、本発明の樹脂組成物について、上記GPC測定を行うと、分子量4000超の領域に最大値を有するピークと、分子量4000以下の領域に最大値を有するピークと、が観察される。上記PPS樹脂(A)の重量平均分子量は、分子量4000超の領域に最大値を有するピークから、特定可能である。
【0022】
また、上記PPS樹脂(A)のガラス転移温度は、70℃以上100℃以下が好ましく、80℃以上90℃以下がより好ましい。PPS樹脂(A)のガラス転移温度が上記範囲であると、得られる樹脂組成物の加工性や耐熱性が良好になりやすい。
【0023】
さらに、PPS樹脂(A)の融点は、260℃以上300℃以下が好ましく、270℃以上290℃以下がより好ましい。PPS樹脂(A)の融点が260℃以上であると、得られる樹脂組成物の耐熱性が良好になりやすい。一方、PPS樹脂(A)の融点が300℃以下であると、過度に温度を高めることなく、後述の化合物(B)と溶融混練できる。上記PPS樹脂(A)のガラス転移温度および融点は、示差走査熱量測定(DSC)等によって測定できる。具体的には、PPS樹脂(A)を5mgアルミパンに封入し、50℃から340℃まで10℃/分の昇温速度で昇温させ、その後、340℃から50℃まで10℃/分の降温速度で降温させて、示差走査熱量計(DSC)で測定する。
【0024】
上記PPS樹脂(A)の調製方法は特に制限されず、例えば、パラ位にハロゲンを2つ有するベンゼンと、アルカリ金属を含有する硫黄源とを、有機アミド溶媒中で重合させる、公知の方法等とすることができる。ただし、PPS樹脂(A)の調製方法は、当該方法に限定されない。
【0025】
(2)フェニレンスルフィド系化合物(化合物(B))
本発明の樹脂組成物が含む化合物(B)は、重量平均分子量が4000以下であって、フェニレンスルフィド構造、例えば、下記一般式(1)で表される構造を2つ以上有する化合物である。なお、下記一般式(1)で表される構造は、ベンゼン環にハロゲン原子等の置換基が結合していてもよい。また、化合物(B)は、フェニレンスルフィド構造を2つ以上含んでいればよく、例えば2量体(例えばジクロロジフェニルスルフィド等)であってもよく、3量体以上であってもよい。なお、本明細書においては、隣り合う2つのフェニレンスルフィド構造が、スルフィド結合(-S-)を共有していてもよい。すなわち、化合物(B)には、ジクロロフェニルスルフィド等のような化合物も含む。
【化2】
【0026】
また、化合物(B)は、本発明の目的および効果を損なわない範囲において、上記一般式(1)で表される以外の構造を、一部に含んでいてもよい。ただし、化合物(B)は、化合物一分子の質量に対して、フェニレンスルフィド構造を、98質量%以上含むことが好ましく、99質量%以上含むことがより好ましい。フェニレンスルフィド構造の数が98質量%以上となると、化合物(B)が上記PPS樹脂(A)の間に入り込みやすくなり、上記効果が得られやすくなる。
【0027】
化合物(B)の重量平均分子量は、4000以下であればよいが、200以上2000以下が好ましく250以上1700以下がより好ましく、255以上800以下が好ましい。化合物(B)の重量平均分子量が4000以下であると、上記PPS樹脂(A)の結晶内に入り込みやすく、広い温度範囲にわたって損失係数が高まりやすい。上記化合物(B)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値であり、ポリスチレン換算値である。具体的な測定方法は、上述のPPS樹脂(A)の重量平均分子量の測定方法と同様である。
【0028】
なお、上記PPS樹脂(A)の重量平均分子量と、化合物(B)の重量平均分子量は、6000以上離れていることが好ましく、8000以上離れていることがより好ましい。化合物(B)の重量平均分子量が離れているほど、比較的低い温度における損失係数の向上効果が得られやすい。
【0029】
上記化合物(B)のガラス転移温度は、化合物(B)の重量平均分子量によって異なる。例えば重量平均分子量が4000程度である場合には、49℃程度である。また、分子量が例えば1700程度である場合には、室温以下となる。
【0030】
さらに、化合物(B)の融点は、90℃以上275℃以下が好ましく、95℃以上248℃以下がより好ましい。化合物(B)の融点が90℃以上であると、得られる樹脂組成物の強度等が高まりやすい。一方、化合物(B)の融点が275℃以下であると、過度に温度を高めることなく、上述のPPS樹脂(A)と溶融混練できる。上記化合物(B)のガラス転移温度および融点は、PPS樹脂(A)のガラス転移温度および融点と同様に測定できる。
【0031】
上記化合物(B)の調製方法は特に制限されず、例えば、ハロゲンを2つ有するベンゼンと、アルカリ金属を含有する硫黄源とを、有機アミド溶媒中で重合させる、公知の方法等とすることができる。またこのとき、重合系に、末端封止剤を添加することで、化合物(B)の重量平均分子量を調整できる。ただし、化合物(B)の調製方法は、当該方法に限定されない。
【0032】
(3)樹脂組成物の物性について
本発明の樹脂組成物は、上述のPPS樹脂(A)および化合物(B)を含み、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば、他の成分を含んでいてもよい。ただし、PPS樹脂(A)および化合物(B)の合計量は、樹脂組成物の全質量に対して20質量%以上が好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。
【0033】
上記PPS樹脂(A)および化合物(B)の含有比率(質量比)は、99:1~60:40が好ましく、97:3~70:30がより好ましく、95:5~80:20がさらに好ましい。当該範囲であるとガラス転移温度を満たしやすくなる。なお、化合物(B)の含有割合が増加すると、後述の70℃における損失係数が高まったり、広い温度範囲において、損失係数が高くなる傾向がある。ただし、得られる樹脂組成物の強度や成形性等を鑑みると、PPS樹脂(A)を一定量以上含むことが好ましい。PPS樹脂(A)および化合物(B)の含有比率(質量比)は、仕込み量から特定してもよい。一方で、例えば上述のGPC測定による分子量分布、例えば、分子量4000超の領域のピーク面積と分子量4000以下の領域のピーク面積との比等から、PPS樹脂(A)および化合物(B)の含有比率(質量比)を特定してもよい。
【0034】
樹脂組成物のガラス転移温度は、80℃以下であればよく、25℃以上80℃以下が好ましく、29℃以上77℃以下がより好ましい。なお、樹脂組成物のガラス転移温度が70℃以上であると、得られる樹脂組成物、ひいては制振材の強度が高くなる。一方、ガラス転移温度が69℃以下であると、後述の80%値幅が広くなりやすい。
【0035】
ここで、樹脂組成物の70℃における損失係数、すなわち(損失弾性率(E’’)/貯蔵弾性率(E’))は、0.014以上が好ましい。70℃における損失係数が0.014以上であると、樹脂組成物が70℃程度において、十分な制振性を有する。したがって、樹脂組成物を、70℃近傍で使用される制振材にも適用可能となる。
【0036】
上記損失係数は以下のように算出できる。まず、樹脂組成物を厚み1mmのシート状に圧縮成形する。成形は320℃で1分間、5MPaで圧縮した後、150℃で3分間、10MPaで圧縮して行う。当該圧縮成形によって得られたシートを10mm×5mm×1mmの短冊状に切り出す。そして、短冊状に切り出した試料を150℃で1時間アニール処理する。その後、動的粘弾性測定装置により、引張モードで、20℃~240℃まで昇温速度2℃/分で温度変化させながら、周波数10Hzで10℃毎に貯蔵弾性率(E’)および損失弾性率(E’’)を特定する。そして、70℃における貯蔵弾性率(E’)および損失弾性率(E’’)を特定し、70℃における損失係数を求める。
【0037】
また、上記動的粘弾性測定装置により測定される損失係数において、損失係数の最大値に対して、損失係数が80%以上となる領域の温度の幅(以下、「80%値幅」とも称する)は、26℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、35℃以上がさらに好ましい。上記80%値幅が、26℃以上であると、樹脂組成物が広い温度範囲にわたって、高い損失係数を示す、といえる。したがって、樹脂組成物を様々な温度で使用される制振材に適用可能となる。上記80%値幅は、例えば損失係数と温度との関係をグラフ化することで、容易に求めることができる。
【0038】
また当該樹脂組成物の損失係数が最大になる温度は、85℃以上135℃以下が好ましく、95℃以上125℃以下がより好ましい。さらに、損失係数の最大値は、0.06以上0.12以下が好ましく、0.07以上0.09以下がより好ましい。損失係数が最大になる温度や、損失係数の最大値が上記範囲であると、樹脂組成物を制振材として使用しやすくなる。
【0039】
(4)樹脂組成物の調製方法
樹脂組成物の調製方法は特に制限されず、上記PPS樹脂(A)および化合物(B)を所望の比率で混合可能であればよく、特に制限されないが、溶融混練等によって十分に混合することが好ましい。
【0040】
混合方法は特に制限されず、PPS樹脂(A)および化合物(B)をヘンシェルミキサーやタンブラー等の混合機により予備混合してから、1軸または2軸の押出機を使用して混練し、押し出して所望の形状(例えばペレット状やシート状等)に成形してもよい。また、PPS樹脂(A)または化合物(B)の一部をマスターバッチとしてから残りの成分と混合し、混練してもよい。さらに、PPS樹脂(A)および化合物(B)の分散性を高めるため、PPS樹脂(A)および化合物(B)を調製後、これらを粉砕して所望の粒径としてから、混合したり溶融混練したりしてもよい。
【0041】
上記溶融混練を行う際の温度は、280℃以上330℃以下が好ましく、290℃以上320℃以下がより好ましい。溶融混練時の温度が280℃以上であると、PPS樹脂(A)および化合物(B)をそれぞれ十分に溶融させることが可能となり、均一に混合することが可能となる。一方、溶融混練時の温度が330℃以下であると、PPS樹脂(A)および化合物(B)を分解させたりすることなく、混練することができる。
【0042】
(5)樹脂組成物の用途
上述のように、本発明の樹脂組成物は、制振材に好適に用いることができる。制振材は、上記樹脂組成物を含んでいればよい。ただし、制振材の強度を高めたり、成形性を高めたりするために、上記樹脂組成物およびフィラーを混合し、当該混合物を制振材としてもよい。また、制振材は、必要に応じて各種添加剤等を含んでいてもよい。
【0043】
上記樹脂組成物と混合するフィラーの例には、公知の成分を用いることができる。フィラーの例には、繊維状充填材料(ガラス、炭素質、炭化ケイ素、シリカ、アルミナ、ジルコニア、アラミドなどの繊維や、チタン酸カリ、ウオラストナイト、硫酸カルシウム、炭素、硼素、などのウィスカー等)、無機充填剤(タルク、マイカ、カオリン、クレイ、ガラス、炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉄(含フェライト)、酸化銅、ジシルコニア、酸化亜鉛、炭化ケイ素、炭素、黒鉛、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、ケイ素などの粉末)等が含まれる。制振材は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0044】
上記フィラーの形状は特に制限されず、球状であってもよく、扁平状であってもよく、繊維状等であってもよい。またその粒径等は、制振材の用途や、必要とされる強度等に応じて適宜選択される。
【0045】
フィラーを上記樹脂組成物と混合する場合、フィラーの量は、上記樹脂組成物の量100質量部に対して0.1質量部以上400質量部以下が好ましく、1質量部以上300質量部以下がより好ましい。フィラーの量が0.1質量部以上であると、制振材の強度や成形性を高めることができる。一方で、フィラーの量が400質量部以下であると、上記樹脂組成物由来の性能(例えば制振性等)が失われ難い。
【0046】
フィラーと樹脂組成物とを混合する制振材は、例えば上記樹脂組成物と、フィラーとを溶融混練等によって混練して調製できる。
【実施例0047】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0048】
1.材料の準備
(1)PPS樹脂(A)の準備
PPS樹脂(A)として、クレハ社製、W-214A、重量平均分子量:48500、ガラス転移温度:79℃を使用した。
【0049】
(2)化合物(B1)~(B4)の調製および準備
攪拌機付の1Lオートクレーブに、硫化ナトリウム(NaS)、水酸化ナトリウム(NaOH)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、イオン交換水、1,4-ジクロロベンゼン(p-DCB)、およびナトリウムチオフェノラートを、それぞれ下記表1に示す通り仕込んだ。そして、オートクレーブを窒素ガス下に密封し、攪拌しながら240℃まで約30分かけて徐々に加熱し、240℃で2時間保持した。その後、室温近くまで冷却した内容物を取り出した。そして、3%純水含有のアセトン1Lを加え、室温で30分攪拌し、固形物をろ別する操作を3回行った。続いて、更に純水を1L加え室温で30分攪拌し、ろ別する操作を1回行った。さらに、0.18質量%酢酸水溶液を1L加え、室温で30分攪拌後にろ別する操作を1回、純水を1L加え、室温で20分間攪拌後にろ別する操作を4回行った。得られた固形物を120℃で4時間熱風乾燥し化合物(B1)~(B3)を得た。なお、化合物(B4)としては、市販のジクロロジフェニルスルフィド(B)を用いた。表1に、化合物(B1)~(B4)の重量平均分子量、およびガラス転移温度(Tg)を示す。
【0050】
上記化合物(B1)~(B4)の重量平均分子量(スチレン換算値)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。具体的には、上記各化合物 10mgを、1-クロロナフタレン10gに230℃で溶解させ、メンブランフィルターで熱時ろ過し、室温まで冷却したものを2μL準備した。そして、装置は、センシュー科学社製の高温GPCにより、カラム温度:250℃、溶媒:1-クロロナフタレン、流速:0.7mL/minで重量平均分子量を測定した。
【0051】
一方、ガラス転移温度(Tg)は、各化合物を5mgアルミパンに封入し、25℃から340℃まで10℃/分の昇温速度で昇温させ、その後、340℃から25℃まで10℃/分の降温速度で降温させて、示差走査熱量計(DSC)で測定した。なお、表中、n.d.との記載は、25℃以上でTgが観察されなかったことを意味する。
【0052】
【表1】
【0053】
[実施例1~4]
表2に示す割合で、上記PPS樹脂(A)と、上記化合物(B1)~(B4)のいずれかと、をドライブレンドした。その後、R60(容量60ml)のバレル、およびフルフライトのスクリューを備えたラボプラストミル(東洋精機製作所)を使用して溶融混練した。当該ラボプラストミルの温度は320℃、時間は5分、回転数は100rpmに設定した。得られた樹脂組成物を、320℃で1分間、5MPaで圧縮し、さらに150℃で3分間、10MPaで圧縮して55mm×55mm×1mmのシートを作製した。
【0054】
[比較例1]
PPS樹脂(A)のみを用いて、実施例1等と同様にシートを作製した。
【0055】
[評価]
得られた樹脂組成物の、70℃における損失係数、損失係数の80%値幅、およびガラス転移温度(Tg)を、以下の方法で特定した。結果を表2に示す。
【0056】
(1)70℃における損失係数
上記シート状の樹脂組成物を、カッターナイフで10mm×5mm×1mmの短冊状に切削した。そして、短冊状に切り出した試料を150℃で1時間アニール処理した。当該試料について、引張モード、20℃~240℃まで昇温速度2℃/分で昇温しながら、周波数10Hzで10℃毎に貯蔵弾性率(E’)および損失弾性率(E’’)を特定した。そして、70℃における貯蔵弾性率(E’)および損失弾性率(E’’)から、70℃における損失係数を求めた。
【0057】
(2)損失係数のピークにおける80%値幅
上記方法で損失係数を測定したときの、損失係数の最大値に対して損失係数が80%以上となる領域の温度の幅を特定し、これを80%値幅とした。
【0058】
(3)ガラス転移温度(Tg)
化合物(B1)~(B4)のガラス転移温度(Tg)と同様の方法で測定した。
【0059】
【表2】
【0060】
上記表2に示されるように、PPS樹脂(A)とフェニレンスルフィド系化合物(B)~(B4)とを含み、かつTgが80℃以下である樹脂組成物(実施例1~4)では、PPS樹脂(A)単独の場合(比較例1)と比較して、70℃における損失係数が向上した。また、PPS樹脂(A)とフェニレンスルフィド系化合物(B1)~(B4)とを含む樹脂組成物(実施例1~4)では特に、80%値幅が大幅に向上した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、70℃近傍において高い損失係数を示し、さらに広い範囲で高い損失係数を示す。したがって、例えば自動車部材や、各種機械の制振材として、非常に有用である。