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特開2023-169445ホスアプレピタント注射剤希釈液による細胞毒性抑制剤
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  • 特開-ホスアプレピタント注射剤希釈液による細胞毒性抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169445
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】ホスアプレピタント注射剤希釈液による細胞毒性抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/675 20060101AFI20231122BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231122BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231122BHJP
   A61P 1/08 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
A61K31/675
A61P43/00 123
A61K47/26
A61P1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170580
(22)【出願日】2020-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】393028036
【氏名又は名称】丸石製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神保 敬亮
(72)【発明者】
【氏名】舩井 達也
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC16
4C076CC42
4C076DD67D
4C076FF14
4C076FF67
4C076GG41
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA38
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA07
4C086NA15
4C086ZA71
(57)【要約】
【課題】ホスアプレピタント注射剤希釈液による細胞毒性の抑制に有効な剤を提供すること。
【解決手段】等張化に有効な量のグルコースを有効成分とする、ホスアプレピタント注射剤希釈液による細胞毒性抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等張化に有効な量のグルコースを有効成分とする、ホスアプレピタント注射剤希釈液による細胞毒性抑制剤。
【請求項2】
細胞毒性が静脈炎又は血管炎である、請求項1記載の細胞毒性抑制剤。
【請求項3】
ホスアプレピタント注射剤を等張化に有効な量のグルコースで希釈する、ホスアプレピタント注射剤希釈液による細胞毒性の抑制方法。
【請求項4】
細胞毒性が抑制されたホスアプレピタント注射用水溶液剤を調製するための、等張化に有効な量のグルコースの使用。
【請求項5】
細胞毒性を抑制するための、等張化に有効な量のグルコースで希釈されたホスアプレピタント注射用水溶液剤の使用。
【請求項6】
ホスアプレピタント注射剤を等張化に有効な量のグルコースで希釈する工程を含む、細胞毒性が抑制されたホスアプレピタント注射用水溶液剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスアプレピタント注射剤希釈液による細胞毒性抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスアプレピタントは、選択的ニューロキニン1(NK1)受容体拮抗型制吐薬であるアプレピタントのプロドラッグである。現在、ホスアプレピタントのジメグルミン塩を有効成分として含有する注射剤が凍結乾燥品として本邦において販売されており、ホスアプレピタントとして150mgを5mLの生理食塩液に溶解後、最終容量が100~250mL(最終濃度として0.6~1.5mg/mL)となるように注射剤希釈液として生理食塩液を用いて調製されたホスアプレピタント注射用水溶液剤を点滴静注し、抗悪性腫瘍剤の投与に伴う悪心・嘔吐の予防及び症状の軽減に用いられている。
【0003】
しかしながら、ホスアプレピタント注射用水溶液剤を静脈内投与したときに、注入部位において静脈炎や血管炎等の注入部位障害を誘発することが報告されており(非特許文献1)、その原因として当該注射用水溶液剤による血管の細胞への毒性が疑われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Adv Ther,2018,35,p.754-767
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ホスアプレピタント注射剤希釈液による細胞毒性の抑制に有効な剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ホスアプレピタント注射用水溶液剤を投与したときの細胞毒性を抑制すべく検討した結果、ホスアプレピタント注射用水溶液剤の調製に用いる注射剤希釈液が細胞毒性を増強するとの知見を得た。そして、本発明者らは、更に詳細に検討を進めたところ、ホスアプレピタント注射用水溶液剤を調製するときの注射剤希釈液として、等張化に有効な量のグルコースを用いることで、細胞毒性を抑制できることを見出した。ここで、本明細書において「細胞毒性」とは、静脈炎、血管炎及び溶血等を誘発する原因となり、薬剤による細胞死を意味する。また、「静脈炎」とは、注入部位における炎症性反応の他、細胞湿潤、細胞壊死、痂皮、血栓形成、紅斑、腫脹、浮腫、血栓、血管内皮の脱落・剥離等を包括する概念である。
【0007】
即ち、本発明は、次の〔1〕~〔6〕を提供するものである。
〔1〕等張化に有効な量のグルコースを有効成分とする、ホスアプレピタント注射剤希釈液による細胞毒性抑制剤。
〔2〕細胞毒性が静脈炎又は血管炎である、前記〔1〕記載の細胞毒性抑制剤。
〔3〕ホスアプレピタント注射剤を等張化に有効な量のグルコースで希釈する、ホスアプレピタント注射剤希釈液による細胞毒性の抑制方法。
〔4〕細胞毒性が抑制されたホスアプレピタント注射用水溶液剤を調製するための、等張化に有効な量のグルコースの使用。
〔5〕細胞毒性を抑制するための、等張化に有効な量のグルコースで希釈されたホスアプレピタント注射用水溶液剤の使用。
〔6〕ホスアプレピタント注射剤を等張化に有効な量のグルコースで希釈する工程を含む、細胞毒性が抑制されたホスアプレピタント注射用水溶液剤の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の細胞毒性抑制剤を用いれば、ホスアプレピタント注射用水溶液剤を投与したときの細胞毒性を抑制することができる。したがって、本発明の細胞毒性抑制剤を用いることで、ホスアプレピタント注射剤本来の効能を安全かつ十分に享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1及び比較例1の細胞毒性試験の結果を示す図である。
図2】実施例2及び比較例2の細胞毒性試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
先ず、本明細書で使用する用語について説明する。
本明細書において「注射用水溶液剤」とは、注射針を用いて直接投与される水溶液剤をいう。また、本明細書において「注射剤」とは、該水性液剤の調製に専ら使用される注射用水溶液剤前駆体をいう。更に、本明細書において「注射剤希釈液」とは、用時に注射剤の溶解又は希釈を目的に専ら使用される液剤をいう。
【0011】
〔細胞毒性抑制剤〕
本発明の細胞毒性抑制剤は、等張化に有効な量のグルコースを有効成分とするものである。ここで、本明細書において「等張化に有効な量のグルコース」とは、最終投与形態としてのホスアプレピタント注射用水溶液剤を等張化するのに必要な濃度を有するグルコースをいい、通常生理食塩液に対する浸透圧比が0.5~3.0の範囲となる量を意味する。なお、本明細書において「浸透圧」は、自動浸透圧分析装置を用いて測定するものとする。
等張化に必要な濃度を有するグルコースは、通常2~8w/v%水溶液であり、好ましくは3~7w/v%水溶液であり、更に好ましくは4~6w/v%水溶液である。
グルコースは、D-グルコース、L-グルコースのいずれでも構わないが、D-グルコースが好ましい。D-グルコースは、α体でも、β体でもよく、またこれらの混合物でも構わない。
水は、電解質が低減されたもの、あるいは電解質を含まないものが好ましく、例えば、蒸留水、精製水、イオン交換水、超純水、注射用水を挙げることができる。
本発明の細胞毒性抑制剤である等張化に有効な量のグルコースは、グルコースと水を用いて調製しても、市販品を使用してもよい。
【0012】
本発明に適用されるホスアプレピタント注射剤は、医薬成分としてホスアプレピタントを含有するものであれば特に限定されず、市販のホスアプレピタント注射剤でも構わない。また、ホスアプレピタント注射剤の剤形は、使用直前に希釈して投与される濃縮液体製剤でも、粉末製剤でもよい。なお、濃縮液体製剤は、生理食塩液等のグルコース以外の等張化剤で溶解されていてもよい。
【0013】
本明細書において「ホスアプレピタント」とは、ホスアプレピタント及びその薬理学的に許容される塩を包含する概念である。薬理学的に許容される塩は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に限定されないが、例えば、酸付加塩、塩基塩を挙げることができる。
【0014】
酸付加塩は、無機酸の塩でも、有機酸の塩でもよい。具体的には、例えば、塩酸塩、リン酸塩、重硫酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、過硫酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、アジピン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、メタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、蓚酸塩、パモ酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、トシレート塩、ウンデカン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
塩基塩としては、例えば、アンモニウム塩;ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;N-メチル-D-グルカミン(メグルミン)、ジシクロヘキシルアミン塩等の有機アミンとの塩、アルギニン、リシン,オルニチン等のアミノ酸との塩を挙げることができる。
中でも、ホスアプレピタントとしては、ホスアプレピタントのジメグルミン塩(ホスアプレピタントメグルミン)が好ましい。
【0015】
本発明に適用されるホスアプレピタント注射剤中のホスアプレピタントの含有量は、治療上有効な量であれば特に限定されない。
【0016】
また、等張化に有効な量のグルコースは、最終投与形態としてのホスアプレピタント注射用水溶液剤の調製に使用されるが、その使用量は、水溶液剤中のホスアプレピタント濃度が、好ましくは0.15~20mg/mL、より好ましくは0.3~5mg/mL、更に好ましくは0.5~2mg/mLの範囲内になる量である。なお、ホスアプレピタントが塩の形態である場合、ホスアプレピタントの含有量は、ホスアプレピタント量に換算した値とする。以下の量比の説明においても、ホスアプレピタントが塩の形態である場合には同様に換算するものとする。
【0017】
等張化に有効な量のグルコースを用いてホスアプレピタント注射剤を希釈する際の希釈倍率は、水溶液剤中のホスアプレピタント濃度が上記範囲内となれば特に限定されないが、通常3~100倍であり、好ましくは10~100倍であり、更に好ましくは20~100倍である。
【0018】
最終投与形態としてのホスアプレピタント注射用水溶液剤は、生理食塩液に対する浸透圧比が通常0.5~3.0の範囲内であるが、好ましくは0.7~2.5、更に好ましくは0.9~2.0である。
【0019】
本発明に適用されるホスアプレピタント注射剤には、他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、キレート剤、賦形剤、安定化剤、等張化剤、緩衝剤、保存剤を挙げることができる。他の成分は、1又は2以上含有することができる。
【0020】
界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン界面活性剤を挙げることができる。界面活性剤は、1又は2以上含有することができる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンひまし油、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルが挙げられ、また陰イオン性界面活性剤としては、例えば、デスオキシコール酸ナトリウム、ウルソデスオキシコール酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムが挙げられ、更に陽イオン界面活性剤としては、例えば、塩化ベンゼトニウムが挙げられ、更にレシチンも用いることができる。
中でも、界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が好ましく、ポリソルベート80、ポリソルベート20がより好ましく、ポリソルベート80が更に好ましい。
【0021】
界面活性剤の含有量は、ホスアプレピタント1質量部に対して、通常0.1~70質量部、好ましくは0.2~50質量部、より好ましくは0.3~27質量部、更に好ましくは0.4~18質量部である。
【0022】
pH調整剤としては、例えば、酸剤、アルカリ剤が挙げられる。pH調整剤は、1又は2以上含有することができる。
酸剤としては、例えば、塩酸、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸、アスコルビン酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸等を挙げることができる。また、アルカリ剤としては、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン又はその塩、トリエチルアミン等の無機塩基又は有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物の他、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。なお、酸剤及びアルカリ剤は、併用してもよい。
【0023】
pH調整剤の含有量は、pH調整剤の種類に応じて所望のpHとなるように適宜設定することができる。例えば、所定の用法により最終投与形態としての注射用水溶液剤を調製したときに、注射用水溶液剤のpHが、好ましくは7.5~10、より好ましくは8.0~9.5、更に好ましくは8.5~9.4、より更に好ましくは8.7~9.3の範囲内となればよい。なお、pHは、pHメーターを用いて測定するものとする。
【0024】
キレート剤としては、エデト酸又はその塩、グリシン、ジエチレントリアミン五酢酸が好ましい。エデト酸又はその塩としては、エデト酸、エデト酸一ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム等が挙げられる。中でも、エデト酸二ナトリウム、エデト酸二ナトリウム二水和物(エデト酸ナトリウム水和物)、ジエチレントリアミン五酢酸が好ましく、エデト酸二ナトリウム二水和物(エデト酸ナトリウム水和物)、ジエチレントリアミン五酢酸が更に好ましく、ジエチレントリアミン五酢酸がより更に好ましい。
【0025】
キレート剤の含有量は、ホスアプレピタント1質量部に対して、通常0.001~2質量部、好ましくは0.003~1質量部、更に好ましくは0.005~0.5質量部である。
【0026】
賦形剤としては、例えば、塩化ナトリウム、乳糖、スクロース、イノシトール、フルクトース、グルコース、マンニトール、ソルビトール、トレハロース、グリシン、グリセリン、グルコン酸又はその塩、シクロデキストリン、酒石酸又はその塩、クエン酸又はその塩、マクロゴールを挙げることができる。
【0027】
安定化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、乳糖、スクロース、イノシトール、フルクトース、グルコース、グリシン、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、マルトース、キシリトール、ニコチン酸アミド、マクロゴール、プロピレングリコール、ピロリン酸又はその塩を挙げることができる。
【0028】
緩衝剤としては、例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、グリシルグリシン緩衝剤、トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝剤、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩、イプシロン-アミノカプロン酸が挙げられる。中でも、本発明の効果を享受しやすい点で、炭酸緩衝剤が好ましい。
保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾールを挙げることができる。
【0029】
賦形剤、安定化剤、等張化剤、緩衝剤及び保存剤の各含有量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜設定することができる。
【0030】
〔ホスアプレピタント注射用水溶液剤の調製、細胞毒性の抑制等〕
ホスアプレピタント注射用水溶液剤は、ホスアプレピタント注射剤を等張化に有効な量のグルコースで希釈する工程を含む方法により製造される。希釈方法としては特に限定されず、ホスアプレピタント注射剤と等張化に有効な量のグルコースを同時に添加しても、他方を一方に添加してもよい。
【0031】
また、ホスアプレピタント注射剤希釈液による細胞毒性の抑制方法は、ホスアプレピタント注射剤を等張化に有効な量のグルコースで希釈するものである。
これにより、市販のホスアプレピタント注射剤を用いたとしても、それを本発明の細胞毒性抑制剤である等張化に有効な量のグルコースで希釈すれば、希釈後の水溶液剤を投与したときの細胞毒性、例えば、静脈炎や血管炎といった注入部位障害を抑制することができる。
なお、ホスアプレピタント注射剤及び等張化に有効な量のグルコースの具体的態様は、上記において説明したとおりである。
【0032】
このように、本発明の細胞毒性抑制剤である等張化に有効な量のグルコースは、細胞毒性が抑制されたホスアプレピタント注射用水溶液剤を調製するために使用される。また、細胞毒性を抑制するために、等張化に有効な量のグルコースで希釈されたホスアプレピタント注射用水溶液剤が使用される。
【0033】
等張化に有効な量のグルコースで希釈されたホスアプレピタント注射用水溶液剤の投与経路としては、例えば、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与を挙げることができる。中でも、静脈内投与が好ましい。静脈内投与としては、例えば、静脈内注射、静脈内点滴を挙げることができる。静脈内注射は、単回注射でも、複数回注射でもよい。静脈内点滴は、重力滴下点滴、点滴チューブポンプを介するポンプ注入、点滴シリンジドライバーの形態での投与が可能である。
【実施例0034】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
調製濃度が表1に示す濃度となるように、ジエチレントリアミン五酢酸、ポリソルベート80及び炭酸水素ナトリウムを生理食塩液で溶解し、水酸化ナトリウムでpHを9.0に調整した後、生理食塩液でメスアップして、注射剤調製用の溶媒とした。次いで、最終濃度が表1に示す濃度となるように、ホスアプレピタントメグルミンを、注射剤調製用の溶媒で溶解し、水酸化ナトリウムでpHを9.0に調整した後、注射剤調製用の溶媒でメスアップして、表1に示すホスアプレピタント注射剤を製造した。次いで、このホスアプレピタント注射剤を5%グルコースで20倍に希釈し、ホスアプレピタント注射用水溶液剤Aを製造した。ホスアプレピタント注射用水溶液剤Aは、生理食塩液に対する浸透圧比が1.11、pHが8.96であった。そして、ホスアプレピタント注射用水溶液剤Aを用いて、下記の細胞毒性試験を行った。
【0036】
比較例1
5%グルコースに代えて生理食塩液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作によりホスアプレピタント注射用水溶液剤Bを製造した。ホスアプレピタント注射用水溶液剤Bは、生理食塩液に対する浸透圧比が1.04、pHが8.95であった。そして、ホスアプレピタント注射用水溶液剤Bを用いて、下記の細胞毒性試験を行った。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例2
ジエチレントリアミン五酢酸を、エデト酸ナトリウム水和物に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりホスアプレピタント注射剤を製造した(表2)。次いで、ホスアプレピタント注射剤を5%グルコースで20倍に希釈してホスアプレピタント注射用水溶液剤Cを製造した。ホスアプレピタント注射用水溶液剤Cは、生理食塩液に対する浸透圧比が1.10、pHが9.01であった。そして、ホスアプレピタント注射用水溶液剤Cを用いて、下記の細胞毒性試験を行った。
【0039】
比較例2
5%グルコースに代えて生理食塩液を用いたこと以外は、実施例2と同様の操作によりホスアプレピタント注射用水溶液剤Dを製造した。ホスアプレピタント注射用水溶液剤Dは、生理食塩液に対する浸透圧比が1.05、pHが8.95であった。そして、ホスアプレピタント注射用水溶液剤Dを用いて、下記の細胞毒性試験を行った。
【0040】
【表2】
【0041】
次に、細胞毒性の有無を確認するため、次の手順で実験を行った。その結果を図1、2に示す。なお、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-K1細胞)を用いた実施例を示す。
【0042】
(1) 96穴のマイクロプレートに2×105cells/mLの細胞懸濁液を100μL播種した。
(2) 37℃にて約24時間培養した。
(3) 培地を除去し、PBS(Phosphate buffered Saline)100μLで2回洗浄した。
(4) 培地(陰性対照)又は被験液100μLを室温で3分、10分又は30分間暴露させた。
(5) 培地(陰性対照)又は被験液を除去し、PBS100μLで2回洗浄後、培地を加えた。
(6) 培地にcell counting kit溶液((株)同仁化学研究所)10μLを添加し、37℃で約2時間、呈色反応させた。
(7) 波長450nmで吸光度を測定した。
(8) 培地(陰性対照)を暴露させた際の吸光度を100%とし、被験液暴露後の吸光度に基づいて生細胞率を算出した。
【0043】
図1、2に示されるように、暴露時間3分、10分及び30分のいずれにおいても、注射剤希釈液として生理食塩液を用いたホスアプレピタント注射用水溶液剤B(比較例1)及びホスアプレピタント注射用水溶液剤D(比較例2)において、生細胞率が低下することがわかる。一方で、注射剤希釈液として5%グルコースを用いたホスアプレピタント注射用水溶液剤A(実施例1)及びホスアプレピタント注射用水溶液剤C(実施例2)において、高い生細胞率が得られたことから、5%グルコースが細胞毒性を抑制していることがわかる。
【0044】
以上から、ホスアプレピタント注射剤を等張化に有効な量のグルコースで希釈することで、ホスアプレピタント注射剤希釈液による細胞毒性が抑制されることがわかる。
図1
図2