(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169466
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】スラスト磁気軸受装置およびスラスト磁気軸受装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
F16C 32/04 20060101AFI20231122BHJP
H02K 7/09 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
F16C32/04 A
H02K7/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080576
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】石橋 達朗
(72)【発明者】
【氏名】小川 隆一
【テーマコード(参考)】
3J102
5H607
【Fターム(参考)】
3J102AA01
3J102BA03
3J102BA18
3J102CA27
3J102CA40
3J102DA02
3J102DA08
3J102DA10
3J102DA27
3J102DA28
3J102DB37
5H607BB07
5H607BB14
5H607CC01
5H607DD03
5H607DD16
5H607FF04
5H607GG02
5H607GG21
(57)【要約】
【課題】回転により回転軸方向に生じるスラスト推力を補って、回転軸を安定して支持することができるスラスト磁気軸受装置を提供する。
【解決手段】回転軸1の先端に設けられたインペラを有した回転電機の、回転軸方向を支持するスラスト磁気軸受装置において、回転軸の外周に固着された磁性材からなるスラストディスク2と、スラストディスク2のインペラ側に所定距離隔てて配設され、電磁石鉄心11、電磁石コイル12を有した電磁石10と、スラストディスク2の反インペラ側に所定距離隔てて配設され、電磁石鉄心21、電磁石コイル22を有した電磁石20と、電磁石20の電磁石鉄心21の内周端側に設けられ、回転軸1の回転時に生じるスラスト推力を補う永久磁石60と、を備えた。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の先端に設けられたインペラを有した回転電機の、回転軸方向を支持するスラスト磁気軸受装置において、
前記インペラから回転軸の軸方向に、設定した距離隔てた回転軸の外周に固着された磁性材からなるスラストディスクと、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向のインペラ側に設定距離隔てて配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含むインペラ側電磁石と、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向の反インペラ側に設定距離隔てて前記インペラ側電磁石に対向して配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含む反インペラ側電磁石と、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心における、電磁石コイルの巻回領域から内周側に設定距離隔てた領域に、前記スラストディスクに対向して配設された永久磁石と、を備えたことを特徴とするスラスト磁気軸受装置。
【請求項2】
回転軸の先端に設けられたインペラを有した回転電機の、回転軸方向を支持するスラスト磁気軸受装置において、
前記インペラから回転軸の軸方向に、設定した距離隔てた回転軸の外周に固着された磁性材からなるスラストディスクと、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向のインペラ側に設定距離隔てて配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含むインペラ側電磁石と、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向の反インペラ側に設定距離隔てて前記インペラ側電磁石に対向して配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含む反インペラ側電磁石と、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心における、電磁石コイルの巻回領域から外周側に設定距離隔てた領域に、前記スラストディスクに対向して配設された永久磁石と、を備えたことを特徴とするスラスト磁気軸受装置。
【請求項3】
回転軸の先端に設けられたインペラを有した回転電機の、回転軸方向を支持するスラスト磁気軸受装置において、
前記インペラから回転軸の軸方向に、設定した距離隔てた回転軸の外周に固着された磁性材からなるスラストディスクと、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向のインペラ側に設定距離隔てて配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含むインペラ側電磁石と、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向の反インペラ側に設定距離隔てて前記インペラ側電磁石に対向して配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含む反インペラ側電磁石と、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心における、電磁石コイルの巻回領域から内周側、外周側に各々設定距離隔てた領域に、前記スラストディスクに各々対向して配設された第1、第2の永久磁石と、を備えたことを特徴とするスラスト磁気軸受装置。
【請求項4】
請求項1又は2又は3に記載のスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心、電磁石コイル、永久磁石およびスラストディスクにより形成される反インペラ側の磁気吸引力Fnを(21)式とし、
【数21】
(Q
6は、反インペラ側電磁石における電磁石コイルの内周側に位置する電磁石鉄心の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、Q
7は、反インペラ側電磁石における電磁石コイルの外周側に位置する電磁石鉄心の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、Q
8は、反インペラ側電磁石に設けた永久磁石の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ、U
6,U
7,U
8は、磁気抵抗Q
6,Q
7,Q
8とQ
6,Q
7,Q
8の磁束Φ
6,Φ
7,Φ
8を用いて、U=ΦQの関係から計算した空隙部分の磁気ポテンシャル差)
前記回転電機の回転停止時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流を零とし、インペラ側電磁石の電磁石コイルには、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力F
n0と釣り合う吸引力となる第1の電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、前記インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を減少させ、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流を流して、インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Iiと反インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Inを同一又は略同一とし、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側の磁気吸引力Fnと、インペラ側電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=Fn-Fiの関係となるように制御することを特徴とするスラスト磁気軸受装置の制御方法。
【請求項5】
請求項1又は2又は3に記載のスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心、電磁石コイル、永久磁石およびスラストディスクにより形成される反インペラ側の磁気吸引力Fnを(21)式とし、
【数21】
(Q
6は、反インペラ側電磁石における電磁石コイルの内周側に位置する電磁石鉄心の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、Q
7は、反インペラ側電磁石における電磁石コイルの外周側に位置する電磁石鉄心の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、Q
8は、反インペラ側電磁石に設けた永久磁石の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ、U
6,U
7,U
8は、磁気抵抗Q
6,Q
7,Q
8とQ
6,Q
7,Q
8の磁束Φ
6,Φ
7,Φ
8を用いて、U=ΦQの関係から計算した空隙部分の磁気ポテンシャル差)
前記回転電機の回転停止時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流InをIn<0とし、インペラ側電磁石の電磁石コイルには、反インペラ側電磁石による磁気吸引力と釣り合う吸引力となる、前記第1の電流よりも小さい第2の電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流InをIn>0となるように増大させ、インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を、前記第2の電流よりも小さい電流に減少させ、インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Iiと反インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Inを同一又は略同一とし、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側の磁気吸引力Fnと、インペラ側電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=Fn-Fiの関係となるように制御することを特徴とするスラスト磁気軸受装置の制御方法。
【請求項6】
請求項1又は2又は3に記載のスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心、電磁石コイル、永久磁石およびスラストディスクにより形成される反インペラ側の磁気吸引力Fnを(21)式とし、
【数21】
(Q
6は、反インペラ側電磁石における電磁石コイルの内周側に位置する電磁石鉄心の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、Q
7は、反インペラ側電磁石における電磁石コイルの外周側に位置する電磁石鉄心の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、Q
8は、反インペラ側電磁石に設けた永久磁石の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ、U
6,U
7,U
8は、磁気抵抗Q
6,Q
7,Q
8とQ
6,Q
7,Q
8の磁束Φ
6,Φ
7,Φ
8を用いて、U=ΦQの関係から計算した空隙部分の磁気ポテンシャル差)
前記回転電機の回転停止時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流を零とし、インペラ側電磁石の電磁石コイルには、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力F
n0と釣り合う吸引力となる電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、前記インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を減少させて、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力F
n0と、インペラ側電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=F
n0-Fiの関係となるように制御することを特徴とするスラスト磁気軸受装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト磁気軸受装置およびその制御方法に係り、回転体の軸方向を支持する電磁石と永久磁石を併用した磁気軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、従来のスラスト磁気軸受装置の構成を示す。
図1(a)はスラスト磁気軸受装置を回転軸と直交する方向から見た図、
図1(b)は、
図1(a)における回転軸に垂直なA-A線断面図である。
【0003】
図1において、回転体の回転軸1の外周には磁性材からなる円板形状のスラストディスク2が固着されている。このスラストディスク2を軸方向両側から各々所定距離隔てて挟むように、一対の電磁石10、20が対向配設されている。
【0004】
電磁石10、20はともに中心部分をくり抜いた円筒形状に形成され、その中心部分に回転軸1が挿入された配置となっている。
【0005】
電磁石10は、電磁石鉄心11と電磁石鉄心11のスラストディスク2に対向する側に巻回された電磁石コイル12とを備え、電磁石20は、電磁石鉄心21と電磁石鉄心21のスラストディスク2に対向する側に巻回された電磁石コイル22とを備えている。
【0006】
電磁石コイル12、22に電流を流すと、磁束が発生してスラストディスク2に対する磁気吸引力が発生するため、スラストディスク2に作用するスラスト荷重を支持することができる。
図1中、磁路は電磁石20が発生する磁束の磁気回路である。
【0007】
以下、スラスト荷重の支持について説明する。ここでは例として曝気ブロワに用いられるインペラを有するスラスト磁気軸受装置を備えた回転電機の構成を
図2に示す。
図2において
図1と同一部分は同一符号をもって示しており、30は回転軸1の先端に設けられたインペラ(羽根車など)である。
【0008】
インペラ30から軸方向に所定距離隔てた回転軸1の外周には円板形状のスラストディスク2が固着されている。10はスラストディスク2のインペラ側に
図1と同様に配設された電磁石、20はスラストディスク2の反インペラ側に
図1と同様に配設された電磁石である。
【0009】
インペラ30とスラストディスク2の間に位置する回転軸1の外周には、回転軸1を半径方向に非接触で支持するラジアル軸受31が設けられている。
【0010】
32はラジアル軸受31のインペラ30側の回転軸1の外周に配設された保護軸受である。
【0011】
スラストディスク2から軸方向の反インペラ側に所定距離隔てた回転軸1の外周には永久磁石ロータ33が固着され、永久磁石ロータ33から回転軸1の径方向外周にギャップを隔ててステータコア34が配設されている。
【0012】
35aはステータコア34のインペラ側端に設けられた固定子巻線、35bはステータコア34の反インペラ側端に設けられた固定子巻線である。
【0013】
固定子巻線35bから軸方向の反インペラ側に所定距離隔てた回転軸1の外周には、回転軸1を半径方向に非接触で支持するラジアル軸受36が設けられている。
【0014】
37はラジアル軸受36の反インペラ側の回転軸1の外周に配設された保護軸受である。
【0015】
図2中のFpは、回転軸1の回転時(曝気ブロワの回転時)に、インペラ30の吸い込み口付近が低圧、背面側が高圧になって圧力差が生じることで、軸方向に発生するスラスト推力を表している。
【0016】
次に、
図2の装置における対向配置された2つの電磁石コイル12、22に流れる電流と磁気吸引力の関係および曝気ブロワの回転による電磁石コイル12,22に流れる電流の変化と回転時における電流制御方法を
図3とともに説明する。
図3において磁気吸引力は磁束密度とギャップ等から計算され、電磁石コイルに流れる電流と磁気吸引力の関係はおよそ電流の二乗に比例するが、磁気飽和や磁束漏れを考えるとより小さな値となる。
【0017】
図3において、Iiはインペラ側の電磁石コイル12に流れる電流、Inは反インペラ側の電磁石コイル22に流れる電流、F
0は剛性の維持・支持に望ましい力、Fiはインペラ側の磁気吸引力、Fnは反インペラ側の磁気吸引力である。
図3中の実線の曲線は従来技術の制御方法による電磁石コイルの電流と磁気吸引力の関係を示し、
図3中の破線の矢印は従来技術の制御方法における停止時→定常回転時での動作点の変遷を示している。
【0018】
図3における回転電機の停止から定常回転時までの電流制御方法は以下のとおりである。まず停止(非回転)時の場合はスラスト磁気軸受のインペラ側と反インペラ側の2つの電磁石コイル12,22に流れる電流Ii,Inを動作点A1i、A1nのように同じにして、等価な磁気吸引力Fi=Fn=F0を回転軸1に加えて支持する。しかし、インペラ30が付与された回転機械では回転させると吸い込み口付近が低圧になり、インペラ30の背面側が高圧になり、圧力差が生じ、軸方向にスラスト推力Fpが発生する(
図2)。
【0019】
一定の回転数で定常回転させた状態であると、スラスト推力Fpと釣り合うように反インペラ側の磁気吸引力Fnを増加させ、反インペラ側の電磁石コイル22に動作点A1n→A2nのように大きな電流Inを流し、インペラ側の磁気吸引力Fiを減少させ、インペラ側の電磁石コイル12に動作点A1i→A2iのように小さな電流Iiを流す必要がある。
【0020】
また、インペラ側と反インペラ側の電磁石コイル12、22に流れる電流のアンバランスを低減するために、例えば
図4の参考例に示すように永久磁石を付与してスラスト磁気軸受装置を構成することが考えられる。
【0021】
図4の装置は、例えば
図2の回転電機のスラスト磁気軸受装置として適用されるものであり、
図1(a)と同一部分は同一符号をもって示している。
【0022】
図4において
図1(a)と異なる点は、反インペラ側の電磁石20の、電磁石コイル22の反インペラ側に隣接した電磁石鉄心21に円筒形の永久磁石50を設けた点にあり、その他の部分は
図1(a)と同一に構成されている。δは、スラストディスク2と電磁石20の間の空隙を示している。
【0023】
永久磁石50は、インペラ30の回転により発生するスラスト推力Fpを補う磁気吸引力を生じさせる起磁力Upを発生させる、中央をくり抜いた円筒形の永久磁石である。このとき、
図4中の磁路の磁気等価回路は
図5のとおりである。
【0024】
図5において、起磁力は電磁石コイル22によるNInと永久磁石50によるUpとを直列したものとなり、磁気抵抗は
図4中に示す磁路(1)~(7)に対応してQ
1…Q
7の7つの成分からなる。ここで、Nはコイルの巻き数、Inが反インペラ側の電磁石コイル22に流す電流となる。永久磁石50の保持力をHcとすると、起磁力Up=Hclpである。各磁気抵抗は、電磁石20の電磁石鉄心21の磁気抵抗Q
1,Q
2,Q
4,スラストディスク2の鉄心の磁気抵抗Q
5、空隙δの磁気抵抗Q
6,Q
7、永久磁石50の磁気抵抗Q
3であり、下記(1)式~(7)式の通りである。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
ここで、r1は回転軸1の中心から電磁石鉄心11、21の内周端までの距離(半径)、r2は回転軸1の中心から永久磁石50の内周端までの距離(半径)、r3は回転軸1の中心から電磁石コイル12、22の外周端までの距離(半径)、r4は回転軸1の中心から電磁石鉄心11、21の外周端までの距離(半径)、h1はスラストディスク2の軸方向長さ、h2は電磁石コイル12,22の軸方向長さ、h3は永久磁石50の軸方向長さ、lpは永久磁石50の半径方向の長さである。
【0033】
δはスラストディスク2と電磁石の空隙、μ0は真空の透磁率、μr、μpはそれぞれ電磁石鉄心21および永久磁石50の比透磁率である。μrは4000~5000程度であり、μpは1.05程度である。また、本来Q2,Q3,Q5では径方向位置によって磁束密度は変化せず、透磁率は一様なものとならないが、ここでは平均的な透磁率で一様なものとして扱う。
【0034】
図5の磁気等価回路の磁束をΦとすると、下記(8)式の関係式が成り立つのでこれより、
【0035】
【0036】
Φを求め、空隙部分の磁気ポテンシャル差U6,U7をU=ΦQの関係から計算して、反インペラ側の磁気吸引力Fnは下記(9)式のように求められる。
【0037】
【0038】
電磁石コイル22に流す電流In=0とすると、電流が流れていないときの起磁力は永久磁石のUpとなる。インペラ側の永久磁石を付与していないスラスト磁気軸受(
図1)の磁路に対する等価回路は
図5の等価回路でlp=0とすることに対応する。
【0039】
尚、従来、制御型磁気軸受を用いた誘導モータの動特性評価として、非特許文献1に記載のものが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0040】
【非特許文献1】「制御型磁気軸受を用いた誘導モータの動特性評価」IHI 技報 Vol.59No.1、p53-58(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0041】
図3で説明した従来の制御方法では、電磁石コイルに流す電流にアンバランスが生じることで電流の制御性にアンバランスが生じること、およびインペラ側について、剛性や支持の維持に望ましい力(F
0)より小さな力による吸引力とせざるを得なくなることで、力の変動に対する磁気軸受の支持の安定性が悪くなる、といった問題点があった。
【0042】
また
図4の参考例の構成では、永久磁石50が電磁石20の磁路に入っているので、磁気抵抗が大きくなるため、電磁石でスラスト推力Fpを制御するのに大きな電流が必要となる。
【0043】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、回転により回転軸方向に生じるスラスト推力を補って、回転軸を安定して支持することができるスラスト磁気軸受装置およびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0044】
上記課題を解決するための請求項1に記載のスラスト磁気軸受装置は、
回転軸の先端に設けられたインペラを有した回転電機の、回転軸方向を支持するスラスト磁気軸受装置において、
前記インペラから回転軸の軸方向に、設定した距離隔てた回転軸の外周に固着された磁性材からなるスラストディスクと、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向のインペラ側に設定距離隔てて配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含むインペラ側電磁石と、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向の反インペラ側に設定距離隔てて前記インペラ側電磁石に対向して配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含む反インペラ側電磁石と、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心における、電磁石コイルの巻回領域から内周側に設定距離隔てた領域に、前記スラストディスクに対向して配設された永久磁石と、を備えたことを特徴とする。
【0045】
請求項2に記載のスラスト磁気軸受装置は、
回転軸の先端に設けられたインペラを有した回転電機の、回転軸方向を支持するスラスト磁気軸受装置において、
前記インペラから回転軸の軸方向に、設定した距離隔てた回転軸の外周に固着された磁性材からなるスラストディスクと、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向のインペラ側に設定距離隔てて配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含むインペラ側電磁石と、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向の反インペラ側に設定距離隔てて前記インペラ側電磁石に対向して配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含む反インペラ側電磁石と、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心における、電磁石コイルの巻回領域から外周側に設定距離隔てた領域に、前記スラストディスクに対向して配設された永久磁石と、を備えたことを特徴とする。
【0046】
請求項3に記載のスラスト磁気軸受装置は、
回転軸の先端に設けられたインペラを有した回転電機の、回転軸方向を支持するスラスト磁気軸受装置において、
前記インペラから回転軸の軸方向に、設定した距離隔てた回転軸の外周に固着された磁性材からなるスラストディスクと、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向のインペラ側に設定距離隔てて配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含むインペラ側電磁石と、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向の反インペラ側に設定距離隔てて前記インペラ側電磁石に対向して配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含む反インペラ側電磁石と、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心における、電磁石コイルの巻回領域から内周側、外周側に各々設定距離隔てた領域に、前記スラストディスクに各々対向して配設された第1、第2の永久磁石と、を備えたことを特徴とする。
【0047】
請求項4に記載のスラスト磁気軸受装置の制御方法は、
請求項1又は2又は3に記載のスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心、電磁石コイル、永久磁石およびスラストディスクにより形成される反インペラ側の磁気吸引力Fnを(21)式とし、
【0048】
【0049】
(Q6は、反インペラ側電磁石における電磁石コイルの内周側に位置する電磁石鉄心の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、Q7は、反インペラ側電磁石における電磁石コイルの外周側に位置する電磁石鉄心の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、Q8は、反インペラ側電磁石に設けた永久磁石の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ、U6,U7,U8は、磁気抵抗Q6,Q7,Q8とQ6,Q7,Q8の磁束Φ6,Φ7,Φ8を用いて、U=ΦQの関係から計算した空隙部分の磁気ポテンシャル差)
前記回転電機の回転停止時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流を零とし、インペラ側電磁石の電磁石コイルには、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力Fn0と釣り合う吸引力となる第1の電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、前記インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を減少させ、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流を流して、インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Iiと反インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Inを同一又は略同一とし、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側の磁気吸引力Fnと、インペラ側電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=Fn-Fiの関係となるように制御することを特徴とする。
【0050】
請求項5に記載のスラスト磁気軸受装置の制御方法は、
請求項1又は2又は3に記載のスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心、電磁石コイル、永久磁石およびスラストディスクにより形成される反インペラ側の磁気吸引力Fnを(21)式とし、
【0051】
【0052】
(Q6は、反インペラ側電磁石における電磁石コイルの内周側に位置する電磁石鉄心の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、Q7は、反インペラ側電磁石における電磁石コイルの外周側に位置する電磁石鉄心の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、Q8は、反インペラ側電磁石に設けた永久磁石の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ、U6,U7,U8は、磁気抵抗Q6,Q7,Q8とQ6,Q7,Q8の磁束Φ6,Φ7,Φ8を用いて、U=ΦQの関係から計算した空隙部分の磁気ポテンシャル差)
前記回転電機の回転停止時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流InをIn<0とし、インペラ側電磁石の電磁石コイルには、反インペラ側電磁石による磁気吸引力と釣り合う吸引力となる、前記第1の電流よりも小さい第2の電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流InをIn>0となるように増大させ、インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を、前記第2の電流よりも小さい電流に減少させ、インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Iiと反インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Inを同一又は略同一とし、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側の磁気吸引力Fnと、インペラ側電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=Fn-Fiの関係となるように制御することを特徴とする。
【0053】
請求項6に記載のスラスト磁気軸受装置の制御方法は、
請求項1又は2又は3に記載のスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心、電磁石コイル、永久磁石およびスラストディスクにより形成される反インペラ側の磁気吸引力Fnを(21)式とし、
【0054】
【0055】
(Q6は、反インペラ側電磁石における電磁石コイルの内周側に位置する電磁石鉄心の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、Q7は、反インペラ側電磁石における電磁石コイルの外周側に位置する電磁石鉄心の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、Q8は、反インペラ側電磁石に設けた永久磁石の、スラストディスクに対向する面とスラストディスクとの間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ、U6,U7,U8は、磁気抵抗Q6,Q7,Q8とQ6,Q7,Q8の磁束Φ6,Φ7,Φ8を用いて、U=ΦQの関係から計算した空隙部分の磁気ポテンシャル差)
前記回転電機の回転停止時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流を零とし、インペラ側電磁石の電磁石コイルには、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力Fn0と釣り合う吸引力となる電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、前記インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を減少させて、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力Fn0と、インペラ側電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=Fn0-Fiの関係となるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0056】
(1)請求項1~6に記載の発明によれば、永久磁石を反インペラ側の電磁石に設けているので、反インペラ側の磁気吸引力が大きくなって回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力を補うことができる。これによって回転軸を安定して支持することができる。
【0057】
また、反インペラ側の電磁石コイルによる磁路と永久磁石による磁路とを分離できるため、磁気抵抗を小さくし、制御電流を小さくすることができる。
(2)請求項4に記載の発明によれば、定常回転時に反インペラ側の電磁石コイルに過大な電流が流れることを防ぐとともにインペラ側の吸引力をある一定以上にし、インペラ側と反インペラ側の両側の電磁石コイルに流れる電流のアンバランスを低減することができ、これによって電流の制御性も同程度となることで、回転軸方向の力の変動に対して安定して動作することが可能である。
(3)請求項5に記載の発明によれば、永久磁石を設けた反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流れる電流の極性を反転させることで請求項1の発明と比べて停止時(駆動始動時等)にインペラ側電磁石の電磁石コイルに流れる電流を低減できる。これによって機器の電流定格を下げることができ、また電流の絶対値を小さく取れる分、発熱も小さくなる。
(4)請求項6に記載の発明によれば、インペラ側の電磁石コイルの電流のみで制御することで、反インペラ側の電流を制御する必要がなくなり、電源が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】従来のスラスト磁気軸受装置の一例を示す構成図。
【
図2】スラスト磁気軸受装置を備えた回転電機の一例を示す構成図。
【
図3】従来技術のスラスト磁気軸受の電磁石電流制御方法の説明図。
【
図4】参考例としてのスラスト磁気軸受装置の構成図。
【
図6】本発明の第1の実施形態例によるスラスト磁気軸受装置の構成図。
【
図7】本発明の第2の実施形態例によるスラスト磁気軸受装置の構成図。
【
図8】本発明の第3の実施形態例によるスラスト磁気軸受装置の構成図。
【
図10】本発明の実施例1による電磁石電流制御方法の説明図。
【
図11】本発明の実施例2による電磁石電流制御方法の説明図。
【
図12】本発明の実施例3による電磁石電流制御方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本実施形態例では、スラスト磁気軸受装置における、反インペラ側の片側の電磁石にインペラの回転により発生するスラスト推力Fpを補う磁気吸引力を発生させる起磁力Upを発生させる円筒形の永久磁石を電磁石に付与する。
【0060】
図4の参考例とは異なり、スラストディスク2に対向する部位であって、電磁石コイルの内周側(
図6)もしくは外周側(
図7)および内周側と外周側の両方(
図8)に円筒形の永久磁石を付与することで、永久磁石の磁路が電磁石の磁路と分離した構成にし、
図4の構成より少ない反インペラ側の電磁石コイル電流|In|で吸引できるようにした。
【0061】
第1の実施形態例によるスラスト磁気軸受装置の構成を示す
図6において、
図4と同一部分は同一符号をもって示している。
【0062】
図6において
図4と異なる点は、反インペラ側の電磁石20を次のように構成し、これに永久磁石60を付与したことにある。
【0063】
電磁石20の電磁石鉄心21の内周端側には、所定径を有した円筒形の永久磁石60が配設されている。
【0064】
永久磁石60の外周側には、電磁石鉄心21を所定径で切り欠いて円筒形の第1の空洞部20aが形成されている。この第1の空洞部20aは電磁石20のスラストディスク2に対向する電磁石鉄心21の面から軸方向に、電磁石鉄心21のスラストディスク2と反対側の面に到達しない距離を切り欠いて形成されている。
【0065】
第1の空洞部20aの、電磁石コイル22側の電磁石鉄心の領域(電磁石鉄心21における、電磁石コイル22の巻回領域を含む領域)を第1の領域21aとし、永久磁石60側の電磁石鉄心の領域を第2の領域21bとしている。
【0066】
第1の領域21aと第2の領域21bの間は、第1の空洞部20aの反スラストディスク側端から、電磁石鉄心21のスラストディスク2と反対側の面までの間に形成される電磁石鉄心21により連設されている。
【0067】
第2の実施形態例によるスラスト磁気軸受装置の構成を示す
図7において、
図4と同一部分は同一符号をもって示している。
【0068】
図7において
図4と異なる点は、反インペラ側の電磁石20を次のように構成し、これに永久磁石70を付与したことにある。
【0069】
電磁石20の電磁石鉄心21の外周端側には、所定径を有した円筒形の永久磁石70が配設されている。
【0070】
永久磁石70の内周側には、電磁石鉄心21を所定径で切り欠いて円筒形の第2の空洞部20bが形成されている。この第2の空洞部20bは電磁石20のスラストディスク2に対向する電磁石鉄心21の面から軸方向に、電磁石鉄心21のスラストディスク2と反対側の面に到達しない距離を切り欠いて形成されている。
【0071】
第2の空洞部20bの、電磁石コイル22側の電磁石鉄心の領域(電磁石鉄心21における、電磁石コイル22の巻回領域を含む領域)を第1の領域21aとし、永久磁石70側の電磁石鉄心の領域を第3の領域21cとしている。
【0072】
第1の領域21aと第3の領域21cの間は、第2の空洞部20bの反スラストディスク側端から、電磁石鉄心21のスラストディスク2と反対側の面までの間に形成される電磁石鉄心21により連設されている。
【0073】
第3の実施形態例によるスラスト磁気軸受装置の構成を示す
図8では、反インペラ側電磁石20の電磁石鉄心21を、
図6で述べた第1の領域21a,第2の領域21bおよび
図7で述べた第3の領域21cで構成し、
図6で述べた第1の空洞部20aと
図7で述べた第2の空洞部20bを形成し、
図6で述べた永久磁石60と
図7で述べた永久磁石70を配設しており、
図6、
図7と同一部分は同一符号をもって示している。
【0074】
次に、例として電磁石コイルの内周側に円筒形の永久磁石(60)を付与したスラスト磁気軸受装置(
図6)の磁路の磁気等価回路を
図9に示す。
図9の磁気等価回路において、起磁力は電磁石20による起磁力NInと永久磁石60による起磁力Up、磁気抵抗は
図6中に示す磁路(1)~(11)に対応してQ
1,…,Q
11の11の成分からなる。ここで、Nはコイルの巻き数、Inが電磁石コイル22に流す電流となる。永久磁石60の保持力をHcとすると、起磁力Up=Hchpである。各磁気抵抗は、電磁石20の電磁石鉄心21の磁気抵抗Q
1,Q
2,Q
4,Q
10,Q
11、スラストディスク2の鉄心の磁気抵抗Q
5,Q
9、空隙δの磁気抵抗Q
6,Q
7,Q
8、永久磁石60の磁気抵抗Q
3であり、下記(10)式~(20)式の通りである。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
ここで、r1は回転軸1の中心から第1の空洞部20aの外周縁までの距離(半径)、r2は回転軸1の中心から電磁石20の電磁石コイル22の内周端までの距離(半径)、r3は回転軸1の中心から電磁石コイル22の外周端までの距離(半径)、r4は回転軸1の中心から電磁石鉄心21の最外周端までの距離(半径)、rpiは回転軸1の中心から永久磁石60の内周端までの距離(半径)、rpoは回転軸1の中心から永久磁石60の外周端までの距離(半径)である。
【0087】
h1はスラストディスク2の軸方向長さ、h2は電磁石コイル12,22の軸方向長さ、h3は、電磁石コイル22の反インペラ側端から電磁石鉄心21の反インペラ側端までの距離(軸方向長さ)、hpは永久磁石60の軸方向長さであり、δはスラストディスク2と電磁石20の空隙、μ0は真空の透磁率、μr、μpはそれぞれ電磁石鉄心21および永久磁石60の比透磁率である。
【0088】
前記(10)式~(20)式で表される磁気抵抗Q1~Q11各々の定義は次のとおりである。
【0089】
Q1は、反インペラ側電磁石20における電磁石コイル22の外周側に位置する電磁石鉄心21の磁気抵抗、Q2は前記電磁石コイル22の反インペラ側に位置する電磁石鉄心21の磁気抵抗、Q3は永久磁石60の磁気抵抗、Q4は前記電磁石コイル22の内周側に位置する電磁石鉄心21の磁気抵抗、Q5は、スラストディスク2の鉄心の、電磁石コイル22の起磁力による磁気抵抗、Q6は、前記電磁石コイル22の内周側に位置する電磁石鉄心21のスラストディスク2に対向する面と、スラストディスク2との間の空隙の磁気抵抗、Q7は、前記電磁石コイル22の外周側に位置する電磁石鉄心21のスラストディスク2に対向する面と、スラストディスク2との間の空隙の磁気抵抗、Q8は、永久磁石60のスラストディスク2に対向する面と、スラストディスク2との間の空隙の磁気抵抗、Q9は、スラストディスク2の鉄心の、永久磁石60の起磁力による磁気抵抗、Q10は永久磁石60の反インペラ側に位置する電磁石鉄心21の磁気抵抗、Q11は、前記電磁石鉄心21の、第1の領域21aと第2の領域21bの間に位置する部位の磁気抵抗である。
【0090】
図9の磁気等価回路の空隙の磁気抵抗Q
6,Q
7,Q
8の磁束をΦ
6、Φ
7、Φ
8として回路方程式を解き、これより、磁束Φを求め、空隙部分の磁気ポテンシャル差U
6,U
7,U
8をU=ΦQの関係から計算して、反インペラ側の磁気吸引力Fnは下記(21)式のように求められる。
【0091】
【0092】
この反インペラ側の磁気吸引力Fnは永久磁石の起磁力による定常成分γUp
2を引くと、Fn-γUp
2∝|In+βUp|
2と変形することができる。Q
6,Q
7,Q
8およびQ
3は同じオーダーの値になるので、βおよびγは正の係数である。
図7および
図8の構成の場合も反インペラ側の磁気吸引力Fnは同じ形式に変形できる。
【0093】
以上のように、
図6~
図8に示すスラスト磁気軸受装置によれば、反インペラ側の電磁石コイル21の磁路と永久磁石60、70の磁路とを分離して構成することができる。
【実施例0094】
図10は、例えば
図6に示すスラスト磁気軸受装置を用いて、実施例1による制御方法を実施した場合の、2つの電磁石コイル12,22に流れる電流と磁気吸引力の関係を示している。尚、
図7、
図8のスラスト磁気軸受装置を用いた場合も同様である。
【0095】
図10において、Iiはインペラ側の電磁石コイル12に流れる電流、Inは反インペラ側の電磁石コイル22に流れる電流、F
0は剛性の維持・支持に望ましい力、Fiはインペラ側の磁気吸引力、Fnは反インペラ側の磁気吸引力である。
図10中の実線の曲線は実施例1の制御方法による電磁石コイルの電流と磁気吸引力の関係を示し、
図10中の破線の矢印は実施例1の制御方法における停止時→定常回転時での動作点の変遷を示している。
【0096】
反インペラ側の電磁石20において、磁気吸引力は永久磁石60のために反インペラ側の磁気吸引力FnはFn-γUp2∝|In+βUp|2となり、インペラ側の磁気吸引力Fiと電磁石のコイルの電流Iiの関係に対する比である係数αを乗じて補正し、反インペラ側の横軸を|In+βUp|×α、縦軸をFn-γUp2とした。
【0097】
以下、回転電機の停止から定常回転時における電流制御方法について説明する。停止(非回転)時は反インペラ側の電磁石コイル22の電流Inを動作点A11nのように電流In=0とし、インペラ側の電磁石コイル12の電流Iiが、反インペラ側の永久磁石60による磁気吸引力Fn0と釣り合う吸引力となる、動作点A11iに示す電流Ii(第1の電流)を流す。
【0098】
定常回転時は、インペラ側の電磁石コイル12の電流Iiを動作点A12iまで減少させ、および反インペラ側の電磁石コイル22に電流Inを動作点A12nまで流してIi=In=Is(または略同一)となるようにして、回転により生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側の磁気吸引力Fnとインペラ側の磁気吸引力FiがFp=Fn-Fiのように釣り合うようにする。このようにして、従来法に比べてインペラ側に流れる電流Iiをより小さな値(動作点A12i)にして、かつ両側の電磁石10,20のコイルに流れる電流Ii,Inの差がない状態で、回転軸1を安定して支持するのに十分な磁気吸引力を生じさせることが可能である。
【0099】
また、参考例である
図5の等価回路から計算されるαよりも
図9の等価回路から計算されるαのほうが大きくなるので、より小さな反インペラ側に流れる電流Inで制御することが可能である。
【0100】
以上のように本実施例1によれば、定常回転時に反インペラ側の電磁石コイルに過大な電流が流れることを防ぐとともにインペラ側の吸引力をある一定以上にし、インペラ側と反インペラ側の両側の電磁石コイルに流れる電流のアンバランスを低減することができ、これによって電流の制御性も同程度となることで、回転軸方向の力の変動に対して安定して動作することが可能である。
定常回転時には反インペラ側の電磁石コイル22の電流Inの極性を反転させてIn>0(動作点A22n)となるまで増大させ、また、インペラ側の電磁石コイル12の電流Iiを動作点A22iまで減少させ(Ii=In=Is(または略同一))となるようにして、回転により生じるスラスト推力Fpと両側の電磁石10,20により生じる力がFp=Fn-Fiのように、釣り合うようにする。このようにすることで、実施例1に比べて停止時にインペラ側の電流Iiを小さくし、かつバランスがとれた状態となる。このことにより、機器の電流定格を下げられる。また、電流の絶対値を小さく取れる分、発熱も小さくなる。
以上のように本実施例2によれば、永久磁石を設けた反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流れる電流の極性を反転させることで実施例1の発明と比べて停止時(駆動始動時等)にインペラ側電磁石の電磁石コイルに流れる電流を低減できる。