(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169471
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】加熱調理器
(51)【国際特許分類】
H05B 6/12 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
H05B6/12 335
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080582
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】山下 慶子
(72)【発明者】
【氏名】野口 新太郎
【テーマコード(参考)】
3K151
【Fターム(参考)】
3K151AA09
3K151CA06
3K151CA56
(57)【要約】
【課題】本開示は、沸騰状態に到達する以前に、加熱出力を低下させる加熱調理器を提供する。
【解決手段】本開示における加熱調理器は、調理容器を加熱する加熱手段と、前記調理容器の温度を直接的または間接的に検知する温度検知手段と、前記温度検知手段により経時的に検知される温度を、所定の検知時間間隔ごとに差分し、温度勾配を算出する算出手段と、最大値として設定される温度勾配に対する、前記算出手段により算出された温度勾配の差が、第1の所定値以上になった後、前記最大値として設定される温度勾配に対する、沸騰状態の温度勾配の差である第2の所定値を越える以前に、加熱手段の加熱量を低下させる制御手段とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理容器を加熱する加熱手段と、
前記調理容器の温度を直接的または間接的に検知する温度検知手段と、
前記温度検知手段により経時的に検知される温度を、所定の検知時間間隔ごとに差分し、温度勾配を算出する温度勾配算出手段と、
最大値として設定される最大温度勾配に対する、前記温度勾配算出手段により算出された温度勾配の差が、第1の所定値以上になった後、前記最大温度勾配に対する、沸騰状態の温度勾配の差である第2の所定値を越える以前に、前記加熱手段の加熱量を低下させる制御手段と
を備える、ことを特徴とする加熱調理器。
【請求項2】
前記第1の所定値をb、前記第2の所定値をaとすると、bとaは下記式1を満たす、請求項1記載の加熱調理器。
b-(a/2)≦|0.5℃|・・・(式1)
【請求項3】
前記第1の所定値をb、前記第2の所定値をaとすると、bとaは下記式2を満たす、請求項1記載の加熱調理器。
0.15℃≦b-(a/2)≦0.5℃・・・(式2)
【請求項4】
前記第1の所定値をb、前記第2の所定値をaとすると、bとaは下記式3を満たす、請求項1記載の加熱調理器。
0.2℃≦(a-b)≦1.0℃・・・(式3)
【請求項5】
前記第1の所定値をb、前記第2の所定値をaとすると、bとaは下記式4を満たす、請求項1記載の加熱調理器。
(b/a)<0.72・・・(式4)
【請求項6】
前記第1の所定値をb、前記第2の所定値をaとすると、bとaは下記式5を満たす、請求項1記載の加熱調理器。
(b/a)>0.5・・・(式5)
【請求項7】
前記最大温度勾配は、2.0℃以上であって20℃以下であり、
前記第1の所定値は、0.5℃以上であって6.0℃以下であり、
前記第2の所定値は、0.5℃以上であって3.0℃以下であり、
前記検知時間間隔は、30秒以上であって50秒以下である、
請求項1記載の加熱調理器。
【請求項8】
前記最大温度勾配は、2.1℃以上であって3.5℃以下であり、
前記第1の所定値は、0.5℃以上であって2.0℃以下であり、
前記第2の所定値は、0.7℃以上であって3.0℃以下であり、
前記検知時間間隔は、40秒以上であって50秒以下である、
請求項1記載の加熱調理器。
【請求項9】
前記最大温度勾配は、前記温度勾配算出手段により算出された温度勾配における傾きが安定する領域の温度勾配である請求項1記載の加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱調理器で煮込み料理をする場合、従来の調理工程は、加熱開始から沸騰に至るまでの第一の工程と沸騰後に加熱出力を弱めて加熱する第二の工程に分かれており、第一工程から第二工程への移行条件として、沸騰状態を検知する沸騰検知方式が用いられている。
【0003】
特許文献1は、沸騰検知時に電気的ノイズの影響を受けにくくした電磁調理器を開示する。
この電磁調理器は、調理物載置部の下に設けられた温度検知部と、所定時間ごとの前記温度検知部の検出温度を時間に関して微分演算し、かつ、連続する所定回数の微分演算値の移動平均値を求め、前記温度検知部が所定値を超える温度を検出した後、当該所定値を検出した時点での前記微分演算値の移動平均値を比較基準値とし、当該比較基準値に対してあらかじめ設定した比率だけ低下した微分演算値の移動平均値を得た時に調理物の沸騰を判定する加熱制御部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、沸騰状態に到達する以前に、加熱出力を低下させる加熱調理器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における加熱調理器は、調理容器を加熱する加熱手段と、前記調理容器の温度を直接的または間接的に検知する温度検知手段と、前記温度検知手段により経時的に検知される温度を、所定の検知時間間隔ごとに差分し、温度勾配を算出する温度勾配算出手段と、最大値として設定される最大温度勾配に対する、前記温度勾配算出手段により算出された温度勾配の差が、第1の所定値以上になった後、前記最大温度勾配に対する、沸騰状態の温度勾配の差である第2の所定値を越える以前に、前記加熱手段の加熱量を低下させる制御手段とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示における加熱調理器は、最大温度勾配に対する温度勾配の差が第1の所定値以上になった後、最大温度勾配に対する,沸騰状態の温度勾配の差である第2の所定値を越える以前に、加熱手段の加熱量を低下させる。このことにより、沸騰状態に到達する以前に加熱出力を確実に低下できる。そのため、沸騰検知方式よりも飛沫、吹きこぼれが発生する可能性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1における加熱調理器の全体構成図
【
図2】実施の形態1における加熱調理器の温度勾配算出値を示す図
【
図3】実施の形態1における加熱調理器の煮込み調理の制御を示すフローチャート
【
図4】実施の形態1における加熱調理器の煮込み調理の温度勾配と加熱出力値および時間の関係を示す特性図
【
図5】実施の形態2における加熱調理器の煮込み調理の温度勾配と加熱出力値および時間の関係を示す特性図
【
図6】実施の形態3における加熱調理器の煮込み調理の温度勾配と加熱出力値および時間の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0010】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
(実施の形態1)
以下、
図1~
図4を用いて、実施の形態1を説明する。
[1-1.構成]
図1において、加熱調理器としての誘導加熱調理器は、機器上面に設けられたトッププレート1と、高周波磁界を発生させることによって、トッププレート1の上に載置された調理容器2を誘導加熱する加熱手段を構成する加熱コイル3と、を備える。トッププレート1は、ガラスなどの電気絶縁物からなる。加熱コイル3は、トッププレート1の下方に設けられている。加熱コイル3は、同心円状に2分割されて外コイル3aと内コイル3bを形成している。外コイル3aと内コイル3bの間に、隙間が設けられている。調理容器2は、加熱コイル3の高周波磁界により発生した渦電流によって、発熱する。
【0011】
トッププレート1の使用者側には、加熱の開始/停止などを使用者が指示するための操作部13が設けられている。また、操作部13と調理容器2との間に表示部(図示せず)が設けられている。
【0012】
サーミスタなどにより構成される温度検知手段としての第1の温度検知手段4は、外コイル3aと内コイル3bの同心円の中央に設けられ、第2の温度検知手段17は、外コイル3aと内コイル3bの間に設けられている。なお、第1の温度検知手段4および第2の温度検知手段17の設置場所は、被加熱物の温度を検出できれば位置は特には限定されない。第1の温度検知手段4および第2の温度検知手段17は、トッププレート1を介して温度を検出する。なお、第1の温度検知手段4および第2の温度検知手段17は、フォトダイオードやサーモパイルなど対象物から放射される赤外線を検知するセンサであってもよい。
【0013】
加熱コイル3の下方には、商用電源5から供給される交流電圧を直流電圧に変換する整流平滑部6と、整流平滑部6から直流電圧を供給されて高周波電流を生成し、生成した高周波電流を加熱コイル3に出力するインバータ回路7とが設けられている。また、商用電源5と整流平滑部6との間に、商用電源5から整流平滑部6に流れる入力電流を検出するための入力電流検出部8が設けられている。
【0014】
整流平滑部6は、ブリッジ接続されたダイオードで構成される全波整流器9と、全波整流器9の出力端子間に接続された、チョークコイル15及び平滑コンデンサ16で構成されるローパスフィルタと、を有する。インバータ回路7は、スイッチング素子10(本実施の形態ではIGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)と、スイッチング素子10と逆並列に接続されたダイオード11と、加熱コイル3に並列に接続された共振コンデンサ12と、を有する。インバータ回路7のスイッチ
ング素子10がオン/オフすることによって、高周波電流が発生する。インバータ回路7と加熱コイル3は、高周波インバータを構成する。
【0015】
本実施の形態の誘導加熱調理器は、さらに、インバータ回路7のスイッチング素子10のオン/オフを制御することによって、インバータ回路7から加熱コイル3に供給される高周波電流を制御する制御部14を有する。制御部14は、操作部13から送信される信号および第1の温度検知手段4が検出した温度に基づいて、スイッチング素子10のオン/オフを制御する。
【0016】
制御部14は、第1の温度検知手段4の出力に基づいて加熱コイル3の高周波電流を制御して調理容器2に対する加熱電力量を制御する温度制御手段14a、第1の温度検知手段4で検知した温度の検出値の時間変化量を算出する温度勾配算出手段14bと、を含む。また、これらの制御動作はマイクロコンピュータ(図示せず)によって行われる。
【0017】
操作部13は、表示部の手前側(使用者側)に設けられる。操作部13は、タクト式のスイッチ13a~13dを含む。スイッチ13a~13dは、調理に関する指示を入力するためのスイッチであって、加熱部に対応させて設けられている。各スイッチ13a~13dには、それぞれ特定の機能が割り当てられている。例えば、スイッチ13aは、調理の開始及び終了を制御する機能が割り当てられた切/入スイッチである。なお、スイッチは、タクト式に限定するものではなく、静電容量検知式のようなタッチ式でもよい。
【0018】
上記のように構成される本実施形態の誘導加熱調理器の動作について、以下に説明する。
[1-2.動作]
以上のように構成された加熱調理器について、その動作を説明する。以下、まず、
図2を用いて基本的な動作原理を説明し、次に、
図3、
図4を用いて具体的な動作を説明する。
【0019】
図2は、本発明の第1の実施の形態における誘導加熱調理器の温度勾配算出値と時間の関係を示す図であり、たとえば調理容器2に水を収容して加熱したときの温度勾配△θをプロットしたものである。
図2に実線で示す温度勾配曲線は、たとえば第1の温度検知手段4で得られた検知温度(摂氏温度)の40秒間の温度差を1秒ごとに出力して求められる。
【0020】
そして、得られた温度勾配Δθの最大値を検知した後(時間T1)、この最大温度勾配との温度勾配の差が、沸騰状態における温度勾配差である所定値aよりも小さな値である所定値bとなったとき(時間T2)に加熱出力を低下させる。このことにより、調理容器内の水が沸騰状態に到達する以前に、加熱出力を確実に低下できる。ここで、所定値bは第1の所定値に対応し、所定値aは第2の所定値に対応する。なお、加熱出力を低下させるタイミングとしては、最大温度勾配に対する温度勾配の差が、所定値bとなる時点に限定されず、所定値b以上かつ所定値a未満である時間範囲内であれば良い。
【0021】
上記の通り、本開示では、最大温度勾配に対する温度勾配差に基づいて加熱手段の加熱出力を低下させる点に特徴を有している。
以下、この特徴を想到するに至った技術的な経緯、検討事項を説明する。
まず、加熱手段の加熱出力を低下させる条件として、温度検知手段による検知温度を用いると仮定する。この場合、検知温度が事前に設定された所定値に到達した際、室温、鍋の種類、加熱開始時の調理物の温度等に起因し、鍋に対する加熱量の総和に過不足が発生していることがある。このため、温度検出手段による検知温度自体に基づいて加熱手段の加熱出力を低下させると、加熱量の総和が大きい場合には飛沫、吹きこぼれが発生し、加熱
量の総和が少ない場合には調理品質が低下するおそれがある。
【0022】
そのような外乱の影響を少なくするため、本開示では、検知温度の相対的な差である温度勾配に着眼するのである。そして、加熱手段の加熱出力を低下させる条件として温度勾配を用いることにより、検知温度自体ではなく検知温度の差を用いるので、室温、鍋の種類、加熱開始時の調理物の温度等に起因する鍋加熱量の総和を過不足が生じないように制御し易くなる。その結果、飛沫、吹きこぼれの発生を低減でき、調理品質を維持し易くなる。
【0023】
さらに、本開示では、所定の温度勾配は、最大温度勾配に対する差である点に特徴を有する。この場合、温度勾配は最大温度勾配に対する差であるので、加熱手段の加熱出力を低下させるための所定の温度勾配値として、可及的に広い数値範囲の中で設定でき、また、可及的に大きな値に設定できる。このため、沸騰状態に到達する以前の沸騰前状態を検知し易くなるのである。
そして、本開示では、所定の温度勾配(第1の所定値、所定値b)を、沸騰状態における最大温度勾配との差(第2の所定値、所定値a)よりも小さな値とすることにより、沸騰状態に到達する以前の沸騰前状態において、加熱手段の加熱量を確実に低下できる。
【0024】
以上の検討を積み重ねることにより、本発明者らは本開示の技術的特徴を得るに至ったのである。なお、上記の動作原理の説明では、調理容器内に収容した水を加熱するケースを説明したが、調理容器内の複数の食材を煮込む煮込み料理も同様な傾向を示すと考えられ、引き続き、実際に煮込み料理に適用した形態について説明する。
【0025】
以下、本実施形態の誘導加熱調理器の具体的な煮込み動作を、加熱調理器の煮込み調理の制御を示すフローチャート(
図3)、および、煮込み調理の温度勾配と加熱出力値および時間の関係を示す特性図(
図4)に基づいて説明する。
【0026】
まず調理容器2内に煮込み材料を収容し、操作部13の煮込み調理開始スイッチを押して加熱を開始する。ステップ1(S1)で第1の温度検知手段4による温度検知が開始した後、ステップ2(S2)へ進み、S1にて検知した温度を所定の検知時間間隔(40秒)ごとに差分し、温度勾配Δθを算出する。続いてステップ3(S3)でΔθの値が最大値に達し、最大値が更新しないことを判定する。Δθの最大値が上昇し続けていると判定した場合(N)、S2に戻り、温度勾配Δθの算出を行い、上記ステップを繰り返す。S3において、
図4に示すように温度検知開始から時間T1が経過し、最大値の更新が停止したと判定した場合(Y)、ステップ4(S4)に進み、温度勾配差Δθにおける最大値に対する温度勾配の差が、第1の所定値としての所定値b以上となるかを判定する。S4において、
図4に示すように温度検知開始から時間T2が経過し、最温度勾配の差が所定値bに到達したと判定された場合(Y)、ステップ5(S5)に進む。
【0027】
S5では、選択したメニューに応じて加熱出力を低下させるとともに計時を開始し、ステップ6(S6)に移行してから所定時間c以上になるまで加熱を継続し、所定時間c以上になれば(Y)加熱を継続するかを確認するステップ7(S7)に移行し、必要ない場合(Y)、加熱を停止する。
以下、具体的な実施例として、ステンレスの1層で底面厚さ1.2mmの調理鍋2を用いて、肉じゃがを調理する場合の例を示す。調理鍋2に、じゃがいも600g、人参150g、肉300g、玉ねぎ300g、糸こんにゃく300gの順に重ねて入れ、落し蓋と鍋蓋をした後に加熱を開始する。第一工程の加熱出力は1000Wで、40秒間における温度差Δθを計測する。
【0028】
本実施例の場合、事前に計測した結果、最大温度勾配が3.5℃、沸騰状態に到達する
際の所定値a(第2の所定値)が3.0℃であった。この点を考慮し、所定値b(第1の所定値)を2.0℃に予め設定することにより、沸騰状態に到達する以前に確実に加熱出力を370Wに低下させ、第二工程に移行できる。第二工程では、加熱出力370Wで所定時間cとして15分が経過するまで加熱を継続する。
【0029】
上記実施例について実験を行い、本条件を満たすことにより、吹きこぼれなく調理が終了し、肉じゃが料理が完成したことを確認した。
[1-3.効果]
以上のように、本実施の形態において、加熱調理器は、調理容器を加熱する加熱手段と、前記調理容器の温度を直接的または間接的に検知する温度検知手段と、前記温度検知手段により経時的に検知される温度を、所定の検知時間間隔ごとに差分し、温度勾配を算出する温度勾配算出手段と、最大値として設定される最大温度勾配に対する、前記温度勾配算出手段により算出された温度勾配の差が、第1の所定値以上になった後、前記最大温度勾配に対する、沸騰状態の温度勾配の差である第2の所定値を越える以前に、前記加熱手段の加熱量を低下させる制御手段と、を備える。
これにより、沸騰状態に到達する以前に加熱出力を確実に低下できる。このため、沸騰を検知して加熱出力を低下させる沸騰検知方式に比べて、飛沫や吹きこぼれが発生する可能性を低くできる。また、加熱出力を2段階で制御するだけで済み、簡単に調理できる。
(実施の形態2)
[2-1.構成、動作]
まず、実施形態1と実施形態2との特徴的な相違点を説明する。実施形態1では、第一工程に続く第二工程は単一の加熱工程から構成されるのに対し、実施形態2では、第二工程は複数の加熱工程を備える点である。
【0030】
引き続き、実施の形態2を具体的に説明する。
図5は本発明の第2の実施の形態における誘導加熱調理器の温度勾配算出値と時間の関係を示す図であり、たとえば調理容器2に水を収容して加熱したときの温度勾配△θをプロットしたものである。温度勾配は、たとえば第1の温度検知手段4で得られた検知温度(摂氏温度)の50秒間の温度差を1秒ごとに出力して求められる。
【0031】
本実施例として、ステンレスの1層で底面厚さ1.2mmの調理鍋2を用いて、黒豆を調理する場合の例を示す。調理鍋2に黒豆140gと砂糖100g、醤油27g、水800g、食塩1gおよび重曹1gを入れて混ぜ合わせて18時間室温で置いた後、落し蓋と蓋をして加熱を開始する。第一工程の加熱出力は1450Wで、50秒間における温度差Δθを計測する。
【0032】
本実施例の場合、事前に計測した結果、最大温度勾配が2.1℃、沸騰状態である所定値a(第2の所定値)が0.7℃であった。この点を考慮し、所定値b(第1の所定値)を0.5℃に予め設定することにより、沸騰状態に到達する以前に確実に加熱出力を260Wに低下させ、第二工程に移行できる。第二工程では、加熱出力が260Wで所定時間cとして90分を経過するまで加熱を継続する。その後、加熱出力を75Wに低下させ、所定時間dとして90分を経過するまで加熱を継続する。
上記実施例について実験を行い、本条件を満たすことにより、吹きこぼれなく調理が終了し、黒豆の煮込み料理が完成したことを確認した。
[2-2.効果]
本実施形態によれば、第一工程から第二工程に移行させた後、第二工程において加熱出力および加熱時間を多段階に制御することにより、メニューに応じた加熱出力、調理時間が設定し易くなる。そのため、長時間かけて調理物に味をしみ込ませる煮込み調理に好適である。
(実施の形態3)
[3-1.構成、動作]
図6は本発明の第3の実施の形態における誘導加熱調理器の温度勾配算出値と時間の関係を示す図であり、第1の工程を2段階の加熱出力(W1、W2)に分けて加熱した際の温度勾配算出手段によって得られる温度勾配△θをプロットしたものである。
【0033】
1段階目において高い加熱出力W1で加熱した場合、調理物の温度上昇が早まって調理時間の短縮が可能になる。しかし、温度勾配Δθの傾きが急になるため、過渡的な上昇状態にある急激な大きな傾きを検知し、所望の閾値を想定よりも早く越えることになり、沸騰前検知精度が下がる可能性がある。
【0034】
そこで1段階目よりも加熱出力の低い2段階目(W2)において沸騰前検知を行うが、1段階目において計測した温度勾配Δθのオーバーシュートが終了し、そのあとの温度勾配Δθの傾きが安定した時点から最大温度勾配値の取得を開始して最大温度勾配を設定し、実施形態1,2同様に、最大温度勾配との温度勾配の差が所定値bに到達した時点で加熱出力を低下させる。このことにより、沸騰前検知の精度を維持した上で、沸騰状態に到達する以前に加熱出力を確実に低下できる。
【0035】
ここで、温度勾配Δθの傾きが安定するとは、高い加熱出力から低い加熱出力に切り替わった後の最大温度勾配が低下し始めるところから数秒経過した時点から安定状態となったことを意味する。
[3-3.効果]
本実施形態によれば、第一の工程として、各々が異なる加熱出力を有する複数の加熱工程を適用でき、1段階の加熱出力から構成される単一の加熱工程を使用する形態に較べて、第一工程全体の調理時間を短縮しつつ、沸騰前検知に要する時間も短縮できる。
(他の実施の形態)
本開示における最大温度勾配は、実施形態1,2に記載の通りに温度勾配における最大値である以外に、この最大値の近傍を含むピーク領域から選択されても良く、さらには、実施形態3のように、温度勾配の最大値付近におけるばらつきが減少し勾配が安定する勾配安定領域から選択される場合も含まれる。このように、最大温度勾配は、数値上での最大値の他に、技術的意義における実質的な最大値も含まれる
そして、最大温度勾配の数値範囲は、調理メニュー、調理鍋の種類等を考慮し、1℃より大きく50℃以下の範囲で設定されるのが好ましく、2℃以上20℃以下の範囲で設定することがより好ましい。さらに好ましくは、最大温度勾配は、実施の形態1,2に記載した実施例に基づき、2.1℃以上であって3.5℃以下である。
【0036】
このことにより、実用的な調理に適用できる範囲において、最大温度勾配を可及的に大きく設定でき、これに伴って所定値bの数値設定の自由度が増し、また、所定値bを可及的に大きく設定できる。このため、沸騰状態に到達する以前の沸騰前状態を検知し易くなり、沸騰状態に到達する以前に加熱量を確実に低下できる。
【0037】
なお、最大温度勾配が2℃より小さい場合、温度検知手段の検知精度が低いケースでは、沸騰状態に到達する以前の沸騰前状態を検知しづらく、沸騰状態に到達する以前に加熱出力を確実に低下させることが困難になるおそれがある。一方、最大温度勾配が20℃よりも大きい場合、単位時間当たりの温度変化量が過度に大きくなって実用的な調理に適用しづらい。
【0038】
本開示における第1の所定値である所定値bは、事前に計測して求めた最大温度勾配および所定値aに基づいて予め設定する形態(実施の形態1,2)に限定されず、たとえば、煮込み調理を開始した後、温度勾配の実測中に最大温度勾配が求められたことに応じて、そのタイミングで設定する形態でも良い。
【0039】
この所定値bは、第2の所定値である所定値aよりも小さい値であって、かつ、調理メニュー、調理鍋の種類等を考慮し、0℃より大きく9℃以下の範囲で設定することが好ましく、0.5℃以上6.0℃以下の範囲で設定することがより好ましい。さらに好ましくは、所定値bは、実施の形態1,2に記載した実施例に基づき、0.5℃以上であって2.0℃以下である。このことにより、沸騰状態に到達する以前の沸騰前状態を検知し易くなり、沸騰状態に到達する以前に加熱量を確実に低下できる。
【0040】
本開示における第2の所定値である所定値aは、調理メニュー、調理用鍋の種類等を考慮し、0℃より大きく9℃以下の範囲で設定することが好ましく、0.5℃以上6.0℃以下の範囲で設定することがより好ましい。さらに好ましくは、所定値aは、実施の形態1,2に記載した実施例に基づき、0.7℃以上であって3.0℃以下である。
【0041】
上記の最大温度勾配、所定値bおよび所定値aの関係性を説明する。所定値bに到達したことを確実に検知する点で、所定値bは温度検知手段の検知精度を考慮した所要の大きな値に設定される必要がある。一方、沸騰状態に到達する以前の沸騰前状態を確実に検知するためには、所定値bは所定値aよりも小さな値である必要があり、検知手段の検知精度、外乱の影響も加味し、所定値bは所定値aに対して所定差を有する値に設定されることが望ましい。
【0042】
以上より、所定値bは、所定値aに対応する温度勾配と最大温度勾配との中央値(具体的にはa/2)を含む数値範囲に設定されることが望ましいと考えられる。ここで、実施の形態1では、最大温度勾配は3.5℃、所定値bは2.0℃、所定値aは3.0℃であり、所定値bは、所定値aに対応する温度勾配と最大温度勾配との中央値(具体的にはa/2)である1.5℃に対し0.5℃大きい値に設定されている。また、実施の形態2では、最大温度勾配2.1℃、所定値bは0.5℃、所定値aは0.7℃であり、所定値bは、所定値aに対応する温度勾配と最大温度勾配との中央値(具体的にはa/2)である0.35℃に対し0.15℃大きい値に設定されている。
【0043】
このことより、所定値bと所定値aとは、下記の式1を満たす場合、実施の形態1,2の両方を満足する。これとは別に、所定値bと所定値aとは、下記の式2のように、実施の形態1,2から求められる数値をそれぞれ上限値、下限値としても良い。
b-(a/2)≦|0.5℃|・・・(式1)
0.15℃≦b-(a/2)≦0.5℃・・・(式2)
さらに、所定値aと所定値bとの差(a-b)は、下記の式3のように、実施の形態1,2から求められる数値をそれぞれ上限値(3.0℃-2.0℃=1.0℃)、下限値(0.7℃-0.5℃=0.2℃)としても良い。
0.2℃≦(a-b)≦1.0℃・・・(式3)
さらに別に、所定値bと所定値aとの比(b/a)は、実施の形態1、2より、夫々、2.0℃/3.0℃、0.5℃/0.7℃で求められ、0.67、0.71となり、下記の式4を満たす場合、実施の形態1,2の両方を満足する。
(b/a)<0.72・・・(式4)
なお、調理容器内の食材温度をなるべく早く上昇させておきたい調理メニュー、または、調理時間の短縮化に対応する場合などでは、加熱出力を低下させるタイミングを遅くすることが考えられる。この場合、所定値bと所定値aとの差は、所定値bに対応する温度勾配と最大温度勾配との差(具体的には所定値b)よりも、小さいことが望ましい。つまり、(a-b)<bとなり、下記の式5を満たしても良い。
(b/a)>0.5・・・(式5)
なお、飛沫、吹きこぼれが発生しやすい場合は、調理メニューに合わせて適宜,設定することが望ましい。
【0044】
さらに、一定時間における温度差を1秒ごとに出力して求められる温度勾配Δθで設定する検知時間間隔は、たとえば、10秒より大きく100秒以下であることが好ましく、30秒以上50秒以下の範囲で設定することがより好ましい。さらに好ましくは、検知時間間隔は、実施の形態1,2に記載した実施例に基づき、40秒以上であって50秒以下である。このことにより、実用的な調理に供しつつ、最大温度勾配を可及的に大きく設定できることに伴って所定値bの設定の自由度が増し、また所定値bを可及的に大きく設定できる。このため、沸騰状態に到達する以前の沸騰前状態を検知し易くなる。
【0045】
さらにまた、加熱手段の加熱出力を低下させるタイミングについて、実施の形態1~3では、最大温度勾配に対する温度勾配の差が、所定値bに到達した時点に設定していたが、これに限らず、最大温度勾配に対する温度勾配の差が、所定値bに到達後であって所定値aに到達する以前であれば良い。
【0046】
なお、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本開示は、調理容器内の液体を煮立てた後に加熱出力を下げる煮込み調理が行われる一般家庭などで使用される電磁誘導調理器など加熱調理器全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 トッププレート
2 調理容器
3 加熱コイル
4 第1の温度検知手段
5 商用電源
6 整流平滑部
7 インバータ回路
8 入力電流検出部
9 全波整流器
10 スイッチング素子
11 ダイオード
12 共振コンデンサ
13 操作部
14 制御部
14a 温度制御手段
14b 温度勾配算出手段
15 チョークコイル
16 平滑コンデンサ
17 第2の温度検知手段